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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両の車体構造及び車体製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 27/04 20060101AFI20231031BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20231031BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20231031BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B62D27/04
B62D25/20 F
B62D25/04 Z
F16F15/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020021210
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021126931
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】三好 雄二
(72)【発明者】
【氏名】中川 興也
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一
(72)【発明者】
【氏名】鍵元 皇樹
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6508273(JP,B2)
【文献】特開2013-49377(JP,A)
【文献】特開平8-60105(JP,A)
【文献】特開平8-269415(JP,A)
【文献】山本研一,中川興也,氷室雄也,渡邊重昭,小橋正信,吉田智也,三好雄二,伊藤司,鍵元皇樹,八巻悟,片岡伸介,“構造接着を用いた車体振動減衰技術の開発”,マツダ技報,日本,株式会社マツダ,2019年11月,第36号,pp.283-288,DOI: 10.34338/mazdagihou.36.0_283,ISSN 2186-3490(online),0288-0601(print)
【文献】加藤泰栄,榎本弘之,“粘着テープの基礎と自動車分野への展開”,自動車技術,日本,自動車技術会,2019年11月01日,73巻11号,pp.81-87,ISSN 0385-7298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20,25/04,27/04,65/00,
F16F 15/04,
C09J 7/21,
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合面を有する縦壁部を備えた第1車体部材と、
前記第1接合面と対向する第2接合面を有する第2車体部材と、
前記第1接合面と前記第2接合面とを接着するように、両接合面間に介在される振動減衰部材と、
前記振動減衰部材の保形のため当該振動減衰部材の内部に配置されるシート部材と、を備え、
前記シート部材は、前記第1接合面と前記振動減衰部材の一部を介して対向する第1対向面と、前記第2接合面と前記振動減衰部材の他の一部を介して対向する第2対向面と、を備え
前記振動減衰部材は、硬化処理前は流動性を有する部材であって、
前記シート部材の前記第1対向面及び前記第2対向面は、前記振動減衰部材の垂下流動に対して摩擦力を発生する面構造を有する、車両の車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の車体構造において、
前記第1対向面及び前記第2対向面の面構造は、表面に凹凸を有する面構造である、車両の車体構造。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の車体構造において、
前記第1対向面及び前記第2対向面の面構造は、細孔を有する面構造である、車両の車体構造。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の車体構造において、
前記シート部材は、不織布シートからなるシート部材である、車両の車体構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の車両の車体構造において、
前記第1車体部材は閉断面を形成する部材であり、
前記第2車体部材は、前記閉断面内に配置される補強メンバである、車両の車体構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両の車体構造を製造する方法であって、
前記第1車体部材の前記第1接合面又は前記第2車体部材の前記第2接合面のいずれかに、前記振動減衰部材の一部を塗布する第1塗布工程と、
前記塗布された振動減衰部材の一部の上に、前記シート部材の前記第1対向面を貼り付ける貼り付け工程と、
前記シート部材の前記第2対向面の上に、前記振動減衰部材の他の一部を塗布する第2塗布工程と、
前記第2接合面又は前記第1接合面のいずれかを、前記塗布された振動減衰部材の他の一部の上に接着させる接着工程と、
を備えることを特徴とする車両の車体製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両の車体構造を製造する方法であって、
硬化処理前の流動性を有する振動減衰部材を準備する工程と、
前記シート部材を、前記流動性を有する振動減衰部材に浸漬し、前記第1対向面上に前記振動減衰部材の一部を付着させると共に、前記第2対向面上に前記振動減衰部材の他の一部を付着させる付着工程と、
前記付着工程で得られた積層体を、前記第1車体部材の前記第1接合面と前記第2車体部材の前記第2接合面との間に挟み込み、前記第1接合面と前記第2接合面とを接着させる接着工程と、
を備えることを特徴とする車両の車体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体部材間に振動減衰部材を介在させて接合する車両の車体構造及び車体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の車体は、複数の車体部材の接合によって形成される部分を含んでいる。例えば、閉断面構造を備えるサイドシルやルーフレールは、閉断面を形成する一対の車体部材と、前記閉断面を補強する節部材(補強メンバ)との接合によって構成される。また、前記接合の部分に、振動を減衰させる振動減衰部材を介在させる技術が知られている。一般に、振動減衰部材としては熱硬化性の減衰接着材が用いられる。閉断面構造体は、前記接合の部分に前記減衰接着材を塗布し、車体部材同士を接合した後に、前記減衰接着材を熱硬化させて製造される。
【0003】
前記減衰接着材は、硬化前は流動性を有する。このため、前記接合の部分が車体の完成状態で縦壁となる場合には、前記減衰接着材の垂下が問題となる。特許文献1には、振動減衰部材を介して接合する車体部材の接合面に、ビード部のような凹凸形状を設ける技術が開示されている。前記凹凸形状によって流動性を有する減衰接着材が係止されることで、当該減衰接着材の垂れ落ちが抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-55669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の車体構造では、ビード部の形成によって車体部材の剛性が変化する。一般に、ビード部は車体部材の剛性を向上させる。この場合、車体部材間に介在された減衰接着材の歪みエネルギー分担率が低下してしまい、振動減衰効果を低減させてしまうことがある。
【0006】
本発明の目的は、振動減衰部材の垂下を抑止すると共に、優れた振動減衰効果を発揮させることができる車両の車体構造及び車体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る車両の車体構造は、第1接合面を有する縦壁部を備えた第1車体部材と、前記第1接合面と対向する第2接合面を有する第2車体部材と、前記第1接合面と前記第2接合面とを接着するように、両接合面間に介在される振動減衰部材と、前記振動減衰部材の保形のため当該振動減衰部材の内部に配置されるシート部材と、を備え、前記シート部材は、前記第1接合面と前記振動減衰部材の一部を介して対向する第1対向面と、前記第2接合面と前記振動減衰部材の他の一部を介して対向する第2対向面と、を備え、前記振動減衰部材は、硬化処理前は流動性を有する部材であって、前記シート部材の前記第1対向面及び前記第2対向面は、前記振動減衰部材の垂下流動に対して摩擦力を発生する面構造を有する。
【0008】
この車体構造によれば、シート部材が振動減衰部材の内部に配置されているので、縦壁部に振動減衰部材が配置されても、シート部材の保形作用によって当該振動減衰部材は垂下せず、その形状が維持される。また、前記シート部材の第1、第2対向面と、第1、第2接合面との間には振動減衰部材の一部が介在されている。つまり、前記第1、第2接合面と前記振動減衰部材との界面には、シート部材は存在していない。このため、シート部材の配置は、前記第1接合面と前記第2接合面との相対的な変位に伴う前記振動減衰部材への歪み蓄積作用に大きな影響を与えず、振動減衰効果を低減させることはない。従って、振動減衰部材の垂下を抑止し、且つ優れた振動減衰効果を発揮させ得る車両の車体構造を提供することができる。
【0009】
上記の車両の車体構造において、前記振動減衰部材は、硬化処理前は流動性を有する部材であって、前記シート部材の前記第1対向面及び前記第2対向面は、前記振動減衰部材の垂下流動に対して摩擦力を発生する面構造を有することが望ましい。
【0010】
この車体構造によれば、流動性を有する状態で縦壁部に振動減衰部材が塗布されたような場合でも、シート部材の第1及び第2対向面が発生する摩擦力によって、重力による前記振動減衰部材の垂れ落ちを防止することができる。
【0011】
上記の車両の車体構造において、前記第1対向面及び前記第2対向面の面構造は、表面に凹凸を有する面構造、或いは、細孔を有する面構造とすることができる。
【0012】
これらの車体構造によれば、前記凹凸の形状による振動減衰部材の係止効果、或いは、前記細孔への振動減衰部材の入り込みによる係止効果によって、前記第1及び第2対向面が前記振動減衰部材に対して摩擦力を発揮するようになる。従って、前記振動減衰部材の垂下を防止することができる。
【0013】
上記の車両の車体構造において、前記シート部材は、不織布シートからなるシート部材とすることができる。
【0014】
一般に不織布シートは、表面が粗面であって、軽量且つ柔軟である。このため、振動減衰部材に対して摩擦力を発揮でき、質量をさほど増加させず、当該振動減衰部材の剛性を変化させない。従って、前記振動減衰部材の垂下を防止し、且つ、目標とする振動減衰効果を発現させることができる車体構造を提供できる。
【0015】
上記の車両の車体構造において、前記第1車体部材は閉断面を形成する部材であり、前記第2車体部材は、前記閉断面内に配置される補強メンバであることが望ましい。
【0016】
この車体構造によれば、作業者が容易に目視できず且つ容易に振動減衰部材の垂下変形等を修復出来ない閉断面内に、前記第1、第2車体部材の接合部が配置されることになる。かかる配置において、振動減衰部材の垂下が確実に防止されることで、車体の振動減衰性能及び車体の製造効率を一層高めることができる。
【0017】
本発明の他の局面に係る車両の車体製造方法は、上記の車体構造を製造する方法であって、前記第1車体部材の前記第1接合面又は前記第2車体部材の前記第2接合面のいずれかに、前記振動減衰部材の一部を塗布する第1塗布工程と、前記塗布された振動減衰部材の一部の上に、前記シート部材の前記第1対向面を貼り付ける貼り付け工程と、前記シート部材の前記第2対向面の上に、前記振動減衰部材の他の一部を塗布する第2塗布工程と、前記第2接合面又は前記第1接合面のいずれかを、前記塗布された振動減衰部材の他の一部の上に接着させる接着工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
この車体製造方法によれば、第1車体部材、第2車体部材、振動減衰部材及びシート部材からなる積層構造体を、これら構成部材を順次積層してゆく形で製造することができる。このため、通常の車体の製造工程の中で、簡易に前記積層構造体を製造することができる。
【0019】
本発明のさらに他の局面に係る車両の車体製造方法は、上記の車両の車体構造を製造する方法であって、硬化処理前の流動性を有する振動減衰部材を準備する工程と、前記シート部材を、前記流動性を有する振動減衰部材に浸漬し、前記第1対向面上に前記振動減衰部材の一部を付着させると共に、前記第2対向面上に前記振動減衰部材の他の一部を付着させる付着工程と、前記付着工程で得られた積層体を、前記第1車体部材の前記第1接合面と前記第2車体部材の前記第2接合面との間に挟み込み、前記第1接合面と前記第2接合面とを接着させる接着工程と、を備えることを特徴とする。
【0020】
この車体製造方法によれば、前記付着工程によって、シート部材の第1及び第2対向面へ一気に振動減衰部材を付着させ、得られた積層体に対して前記接着工程を施すことで車体が製造される。すなわち、少ない工程で、第1車体部材、第2車体部材、振動減衰部材及びシート部材からなる積層構造体を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、振動減衰部材の垂下を抑止すると共に、優れた振動減衰効果を発揮させることができる車両の車体構造及び車体製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明が適用される車体の概略的な側面図である。
図2図2は、本発明が適用される車体の概略的な底面図である。
図3図3(A)は、閉断面構造の一例を示す断面図、図3(B)は、図3(A)のIIIB-IIIB線断面図である。
図4図4は、図3(B)の要部拡大図である。
図5図5(A)及び(B)は、保形用のシート部材の具体例を示す、拡大断面図付の側面図である。
図6図6は、製法例1に係る車体製造方法の手順を示す工程チャートである。
図7図7(A)~(D)は、製法例1の各工程を説明するための模式図である。
図8図8は、製法例2に係る車体製造方法の手順を示す工程チャートである。
図9図9(A)~(D)は、製法例2の各工程を説明するための模式図である。
図10図10は、閉断面を有するサイドシルの断面図である。
図11図11は、サイドシルの閉断面内に配置される補強メンバの斜視図である。
図12図12(A)及び(B)は、サイドシルの製造方法を示す図である。
図13図13は、閉断面を有するルーフレールの断面図である。
図14図14は、ルーフレールの閉断面内に配置されるルーフガゼット(補強メンバ)を、車室内側からの側面図である。
図15図15は、前記ルーフガゼットの斜視図である。
図16図16(A)~(C)は、ルーフレールの製造方法を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[車体構造]
以下、図面を参照して、本発明に係る車両の車体構造及び車体製造方法について詳細に説明する。まず、図1及び図2を参照して、本発明が適用される車両の全体的な車体構造について説明する。図1は、前記車両の車体1の概略的な側面図、図2は、その底面図である。図1及び図2で例示している車両の車体1は、ハッチバック型の四輪自動車のものである。本発明が適用される車両はここでの例示に限定されるものではなく、他のタイプの四輪自動車、トラック、バス、各種の作業用車両等であっても良い。
【0024】
車体1は、車両の左右側面を構成するサイドフレーム10を含む。図1に示すように、サイドフレーム10は、ルーフレール11、フロントピラー12、センターピラー13、リアピラー14、及びサイドシル15を備える。これらサイドフレーム10の構成部材は、閉断面を有する高剛性のフレーム部材によって構成されている。ルーフレール11は車両の上部において、サイドシル15は車両の下部において、それぞれ車両の前後方向に延びている。ルーフレール11とサイドシル15は、車両の左右一対で配置されている。ルーフレール11とサイドシル15との間は、前側においてはフロントピラー12で、後側においてはリアピラー14で、そして前後方向の中央付近においてはセンターピラー13で、各々上下方向に連結されている。
【0025】
図2に示すように、一対のサイドシル15の間における車幅方向の中央領域には、トンネルレイン16が前後方向に延びている。トンネルレイン16を横切るようにして、複数のクロスメンバ17が配設されている。これらクロスメンバ17の両端部は、左右のサイドシル15に各々連結されている。このクロスメンバ17も、閉断面を有する高剛性のフレーム部材からなる。一対のサイドシル15の間であってクロスメンバ17の下方には、平板状のフロアパネル18が配設されている。これらフロアパネル18、サイドシル15、トンネルレイン16及びクロスメンバ17は相互に連結され、車両下部の構造体を形成している。なお、一対のルーフレール11の間には、図略のルーフレインが架設される。
【0026】
[閉断面を有する車体構造体]
続いて、本発明に係る車体構造の一実施形態について説明する。図3(A)は、車体1において閉断面Cを有する車体構造体1Aの断面図(車両前後方向に沿った断面図)である。図3(B)は、図3(A)のIIIB-IIIB線断面図(車幅方向に沿った断面図)、図4は、図3(B)の要部拡大図である。車体構造体1Aは、第1車体部材2、第2車体部材3、減衰接着材4(振動減衰部材)、第3車体部材5及びシート部材6を含む。例えば、第1車体部材2と第3車体部材5とは、閉断面Cを形成する車体部材であり、第2車体部材3は閉断面C内に配置される剛性補強体(補強メンバ)である。ここで例示している車体構造体1Aは、上掲の閉断面部を有するルーフレール11、フロントピラー12、センターピラー13、リアピラー14、サイドシル15及びクロスメンバ17の構造を簡略的に示したものでもある。
【0027】
第1車体部材2は、車外側に開口した断面ハット型の形状を有するフレームであり、上下方向に延びる縦壁部21と、上下一対のフランジ部22とを含む。縦壁部21は、その車外側の側面に、第2車体部材3に対する接合面となる第1接合面2Aを有する。一対のフランジ部22は、第1車体部材2の上端側及び下端側に配置されている。
【0028】
第2車体部材3は、上下方向に延びる縦壁部31、車幅方向に延びる一対の側板32、及び一対のフランジ部33を含む。縦壁部31は、その車内側の側面に、第1接合面2Aに対する接合面となる第2接合面3Aを有する。第2接合面3Aは、所定間隔(例えば5mm~25mm程度)を置いて第1接合面2Aに対向している。一対の側板32は、縦壁部31の前後端から各々車外側に延びている。フランジ部33は、側板32の車外側の端部から延出している。
【0029】
第3車体部材5は、車内側に開口した断面ハット型の形状を有するフレームであり、上下方向に延びる縦壁部51と、上下一対のフランジ部52とを含む。第3車体部材5は、第1車体部材2及び第2車体部材3とスポット溶接により接合される。第3車体部材5の例えば縦壁部51に対し、第2車体部材3のフランジ部33が直接重ね合わされ、溶接処理が行われることで、図3(A)に示すようにスポット接合部SWが形成される。また、図3(B)に示すように、第1車体部材2のフランジ部22に対して第3車体部材5のフランジ部52が重ね合わされ、スポット接合部SWが形成される。
【0030】
図3(B)では、縦壁部21、31、51は鉛直方向へ延在する例が示されている。本発明において「縦壁部」とは、必ずしも鉛直方向に延びる壁部に限定されない。例えば、鉛直方向に対して30°程度傾斜している壁部であっても、前記「縦壁部」の範疇である。また、鉛直方向に対して45°程度傾斜している壁であっても、硬化前の流動性を有する減衰接着材4の垂下が想定される壁部は、前記「縦壁部」の範疇である。
【0031】
減衰接着材4は、第1接合面2Aと第2接合面3Aとを接着するように、両接合面2A、3A間に介在される接着材である。減衰接着材4としては、硬化処理前は流動性を有し、加熱や光照射等の処理で硬化する材料であって、接着性及び所定の粘弾性を有する部材であれば特に限定はない。例えば、シリコーン系材料又はアクリル系材料からなる粘弾性部材を使用することができる。硬化後の減衰接着材4の物性としては、温度が20℃、かつ加振力の周波数が200Hzである条件下において、貯蔵弾性率が200MPa~3000MPaの範囲内で、かつ、損失係数が0.2以上の特性を有するものが好ましい。このような減衰接着材4は、振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収し、これを熱エネルギーに変換して散逸することにより、振動を減衰する。
【0032】
シート部材6は、一対の縦壁部21、31間に配置される減衰接着材4の保形のため、当該減衰接着材4の内部に配置される部材である。本実施形態では、減衰接着材4の厚さ方向(車幅方向)の中央において、上下方向へ直線状に延びるように配置されたシート部材6を例示している。前後方向並びに上下方向において、シート部材6は減衰接着材4の全長に亘る長さを有している。シート部材6の介在によって減衰接着材4は、車内側の内側部41(振動減衰部材の一部)と車外側の外側部42(振動減衰部材の他の一部)とに分断されている。このようなシート部材6の配置態様は一例であり、前後方向並びに上下方向において減衰接着材4の全長に満たない長さのシート部材6を用いても良いし、厚さ方向において縦壁部21、31のいずれかの側に偏在した位置にシート部材6を埋設するようにしても良い。
【0033】
図4を参照して、シート部材6は、車内側の側面として第1対向面61を車外側の側面としての第2対向面62とを備える。第1対向面61は、第1接合面2Aと減衰接着材4の内側部41を介して対向する面である。第2対向面62は、減衰接着材4の外側部42を介して対向する面である。このように、シート部材6が減衰接着材4の内部に配置されるので、縦壁部21、31に減衰接着材4が配置されても、シート部材6に係止されることで当該減衰接着材4の形状が維持される。とりわけ、減衰接着材4が流動性を有する状態で縦壁部21、31に配置されても、シート部材6が流動を規制する保形作用を発揮し、当該減衰接着材4の垂下が防止される。
【0034】
上記の保形作用を発現させる好ましい態様は、シート部材6の第1対向面61及び第2対向面62を、加熱等の硬化処理前の減衰接着材4の垂下流動に対して摩擦力Fを発生する面構造とすることである。減衰接着材4が流動性を持つ状態では、重力Wによって減衰接着材4は下方へ垂下しようとする。しかし、第1対向面61及び第2対向面62が摩擦力Fを有していれば、減衰接着材4は第1対向面61及び第2対向面62の面上に留まるようになり、垂下を抑制することができる。従って、流動性を有する状態で縦壁部21、31に減衰接着材4が塗布されたような場合でも、前記摩擦力Fによって、重力による減衰接着材4の垂れ落ちを防止することができる。
【0035】
また、シート部材6の第1対向面61と第1接合面2Aとの間には、減衰接着材4の一部(内側部41)が介在され、第2対向面62と第2接合面3Aとの間には、減衰接着材4の他の一部(外側部42)が介在されている。つまり、第1接合面2Aと内側部41との接合界面、並びに、第2接合面3Aと外側部42との接合界面には、シート部材6は存在していない。このため、シート部材6の減衰接着材4内への配置は、第1接合面2Aと第2接合面3Aとの相対的な変位に伴う減衰接着材4への歪み蓄積作用に大きな影響を与えない。従って、縦壁部21、31間に介在される減衰接着材4の振動減衰効果を低減させることはない。
【0036】
図5(A)及び(B)は、保形作用を備えたシート部材の具体例を示す、拡大断面図付の側面図である。図5(A)は、表面に凹凸を有する面構造を備えたシート部材6Aを示している。シート部材6Aの第1対向面61及び第2対向面62には、それぞれ凹凸部63が形成されている。凹凸部63は、第1、第2対向面61、62に、例えば直線状の細溝を規則的なピッチで多数設ける溝付け加工、前記細溝を互いに交差するように設けた交差溝加工、表面を粗面化する加工、波付け加工等によって形成される。また、加工されるシートとしては、樹脂やゴム等からなる薄肉で柔軟性を有するシートを好適に用いることができる。このようなシート部材6Aを用いれば、凹凸部63の凹形状部分に材料の一部が入り込むことによる係止効果によって、第1、第2対向面61、62が減衰接着材4に対して摩擦力を発揮するようになる。従って、減衰接着材4の垂下を防止することができる。
【0037】
図5(B)は、表面に細孔を有する面構造を備えたシート部材6Bを示している。シート部材6Bには、第1対向面61から第2対向面62に貫通する多数の細孔64が設けられている。多数の細孔64は、規則的な縦列配列、円周配列でも良いし、ランダムに配置されていても良い。また、細孔64のサイズは、減衰接着材4が容易に入り込むことができる一方、過度に大径とならないサイズが選ばれる。細孔64は、例えば金型を用いたパンチング加工によって形成することができる。このようなシート部材6Bを用いれば、細孔64内に材料の一部が入り込むことによる係止効果によって、第1、第2対向面61、62が減衰接着材4に対して摩擦力を発揮するようになる。従って、減衰接着材4の垂下を防止することができる。
【0038】
減衰接着材4に対して摩擦力を発揮する他の好ましいシート部材6は、不織布シートからなるシート部材である。不織布シートとしては、綿、麻、パルプなどの天然繊維や、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル繊維、アラミド繊維等の化学繊維を、接着樹脂で結合させる、機械的に絡ませる等の製法で得られたシートを用いることができる。好ましいシート厚さは、0.1mm~5mm程度である。一般に不織布シートは、表面が粗面であって、軽量且つ柔軟である。このため、不織布シートからなるシート部材6であれば、第1、第2対向面61、62は自ずと減衰接着材4に対して摩擦力を発揮できると共に、質量をさほど増加させず、当該減衰接着材4の剛性を変化させない。従って、減衰接着材4の垂下を防止し、且つ、目標とする振動減衰効果を発現させることができる。
【0039】
[車体構造の製法例]
続いて、上述の車体構造体1Aの製法例について説明する。図6は、製法例1に係る車体製造方法の手順を示す工程チャート、図7(A)~(D)は、上記製法例1の各工程を説明するための模式図である。まず、第1車体部材2の第1接合面2A又は第2車体部材3の第2接合面3Aのいずれかに、減衰接着材4の一部を塗布する第1塗布工程M11が行なわれる。第1塗布工程M11の実行時、減衰接着材4は流動性を有する状態である。図7(A)では、第1車体部材2の第1接合面2Aに、減衰接着材4の内側部41が塗布されている例を示している。内側部41の塗布厚さは、所要の減衰接着材4の厚さの半分程度の厚さとされる。
【0040】
次に、塗布された減衰接着材4の一部の上に、シート部材6を貼り付ける貼り付け工程M12が実行される。具体的には、図7(B)に示すように、シート部材6の第1対向面61が、第1塗布工程M11で塗布された内側部41の上に貼り付けられる。このシート部材6の貼り付けは、減衰接着材4が有する接着性を利用することができるので、他の接着材等は不要である。必要に応じて、接着性を高めるコーティング処理等をシート部材6に施しても良い。
【0041】
続いて、シート部材6の第2対向面62の上に、減衰接着材4の他の一部を塗布する第2塗布工程M13が実行される。図7(C)は、第2塗布工程M13の実行状況を示す図である。ここでは、第2対向面62に、減衰接着材4の外側部42が塗布された状態を示している。
【0042】
その後、第2車体部材3の第2接合面3Aを減衰接着材4に接着させる接着工程M14が実行される。図7(D)は、接着工程M14の実行状況を示す図である。第2接合面3Aが、第2塗布工程M13にて塗布された外側部42の上に接着されている。なお、第1塗布工程M11が第2車体部材3を対象として行われる場合、先ず第2接合面3Aに減衰接着材4の外側部42が塗布され、シート部材6の貼り付け及び内側部41の塗布が順次行われ、その上に第1車体部材2の第1接合面2Aが接着されることになる。
【0043】
接着工程M14の後には、車体構造体1Aの洗浄工程M15及び防錆剤の電着塗装工程M16が順次行われる。洗浄工程M15は、防錆剤が塗装される車体構造体1Aの表面を洗浄する工程である。所定の洗浄液が、車体構造体1Aを含む車体1の表面に吹き付けられる。電着塗装工程M16は、防錆剤を含む電着液に車体構造体1Aを浸漬する工程である。具体的には、前記電着液が満たされたタンク内に車体構造体1Aと電極とが入れられ、両者間に電位差を発生させることで、車体構造体1Aの表面に防錆剤層を析出させる。
【0044】
しかる後、塗装乾燥工程M17が実行される。塗装乾燥工程M17は、本来は工程M16で塗装された防錆剤層を有する車体構造体1Aを、所定温度で一定期間加熱して乾燥させる工程である。本実施形態では、この塗装乾燥工程M17が、減衰接着材4を硬化させる工程を兼ねるものとなる。つまり、防錆剤層の乾燥のために車体構造体1Aに加えられる熱を、減衰接着材4を硬化させる熱として活用する。これにより、車体製造における熱処理工程の数を減らすことができ、製造の効率化を図ることができる。
【0045】
以上の製法例1に係る車体製造方法によれば、車体構造体1Aを構成する積層構造体を、第1車体部材2、減衰接着材4の内側部41、シート部材6及び減衰接着材4の外側部42を順次積層してゆく形で製造することができる。このため、通常の車体の製造工程の中で、簡易に車体構造体1Aを製造することができる。
【0046】
図8は、製法例2に係る車体製造方法の手順を示す工程チャート、図9(A)~(D)は、上記製法例2の各工程を説明するための模式図である。まず、硬化処理前の流動性を有する減衰接着材4を準備する準備工程M21が行われる。図9(A)は、準備工程M21の一例を示す図であって、シート部材6を出し入れ可能なサイズを有する浸漬槽44に、液状の減衰接着材40が収容されている例を示している。
【0047】
次に、シート部材6を液状の減衰接着材40に浸漬し、シート部材6の第1対向面61及び第2対向面62に減衰接着材4を付着させる付着工程M22が実行される。図9(B)は、シート部材6が浸漬槽44内の減衰接着材40に浸漬されつつある状態を示している。シート部材6は、その全長に亘って、減衰接着材40に浸漬される。
【0048】
図9(C)は、減衰接着材40に浸漬されたシート部材6が、浸漬槽44内から引き上げられた状態を示している。引き上げられたシート部材6は、その第1対向面61上に減衰接着材4の一部(内側部41)が付着し、第2対向面62上に減衰接着材4の他の一部(外側部42)が付着した積層体4Mとなっている。すなわち、第1、第2対向面61、62が有する係止力によって、各対向面に減衰接着材4が層状に付着する。
【0049】
続いて、積層体4Mを介して第1車体部材2と第2車体部材3とを接着する接着工程M23が行われる。図9(D)は、接着工程M23の実行状況を示す図である。図9(C)で得られた積層体4Mが、第1車体部材2の第1接合面2Aと第2車体部材3の第2接合面3Aとの間に挟み込まれている。そして、第1接合面2Aが積層体4Mの内側部41に接着され、第2接合面3Aが外側部42に接着される。以降、製法例1の工程M15~M17と同様にして、洗浄工程M24、電着塗装工程M25及び乾燥工程M26が順次行われる。
【0050】
以上の製法例2に係る車体製造方法によれば、付着工程M22によって、シート部材6の第1、第2対向面61、62へ一気に減衰接着材4を付着させ、得られた積層体4Mに対して接着工程23を施すことで車体構造体1Aが製造される。すなわち、少ない工程で、第1車体部材2、第2車体部材3、減衰接着材4及びシート部材6からなる車体構造体1Aを製造することができる。
【0051】
[サイドシルへの適用例]
続いて、本発明の車体構造及び車体製造方法を、図1及び図2に示したサイドシル15の製造に適用する例を示す。図10は、閉断面構造を有するサイドシル15の断面図、図11は、サイドシル15の閉断面内に配置される補強メンバ70の斜視図である。なお、図10及び図11に示すサイドシル15及び補強メンバ70の姿勢は、車両完成後の組付け姿勢と一致している。
【0052】
サイドシル15は、車内側フレームであるサイドシルインナ151(第1車体部材)と、車外側フレームであるサイドシルアウタ152と、サイドシルインナ151とサイドシルアウタ152との間に配設されるサイドシルレイン153と、サイドシル15の剛性を補強する補強メンバ70(第2車体部材)とを備えている。
【0053】
サイドシルインナ151は、閉断面を形成する部材であって、車内側に膨出するように断面略ハット状に形成されている。サイドシルインナ151の車内側に最も膨出した部分は、上下方向に延びる縦壁部154である。一方、サイドシルレイン153及びサイドシルアウタ152は、車外側に膨出するように断面ハット状に形成されている。サイドシルインナ151、サイドシルレイン153及びサイドシルアウタ152は、車体上下方向における両端部においてそれぞれ重ね合わせて接合されている。
【0054】
この接合により、サイドシル15は、サイドシルインナ151とサイドシルレイン153とによって形成された内側閉断面C1と、サイドシルアウタ152とサイドシルレイン153とによって形成された外側閉断面C2とを備えている。補強メンバ70は、内側閉断面C1内に配置されている。補強メンバ70の配置により、内側閉断面C1及び外側閉断面C2の型崩れが防止される。
【0055】
補強メンバ70は、内側閉断面C1を仕切る隔壁となる第1仕切面部71及び第2仕切面部72と、これら仕切面部71、72の車外側の端部を車体前後方向に連結する連結部73とを有する。第1仕切面部71には、車内側の側辺部に第1フランジ部74が、上辺部に第2フランジ部75が、下辺部には第3フランジ部76が、各々付設されている。第2仕切面部72にも同様に、第1フランジ部74、第2フランジ部75及び第3フランジ部76が付設されている。第1フランジ部74には、後述する減衰接着材4を配置するために、車外側に凹没した接合面74Aが設けられている。
【0056】
第1フランジ部74には、サイドシルインナ151の縦壁部154に接合するスポット接合部SWが形成される。ハット型のサイドシルレイン153は、縦壁部153A、上横壁153B及び下横壁153Cを有している。補強メンバ70の連結部73は縦壁部153Aに、第2フランジ部75は上横壁153Bに、第3フランジ部76は下横壁153Cに、各々接合するスポット接合部SWが形成される。さらに、第1フランジ部74の接合面74A(第2接合面)と縦壁部154の接合面154A(第1接合面)とは、両者間に介在する減衰接着材4にて接着されている。減衰接着材4の介在により、サイドシル15に加わる振動が減衰される。
【0057】
減衰接着材4の内部には、当該減衰接着材4の保形のためにシート部材6が埋設されている。減衰接着材4が配置されているのは、上下方向に延びる縦壁部154と第1フランジ部74との間である。このため、両者間に流動性を有する状態で減衰接着材4が配置されると、重力によって当該減衰接着材4が垂下する虞がある。しかし、減衰接着材4の内部にはシート部材6が配置されているので、当該シート部材6の保形作用によって減衰接着材4の形状が維持される。従って、減衰接着材4の垂下が防止される。
【0058】
図11に加え、図12(A)及び(B)を参照して、サイドシル15の製造方法を説明する。ここでは、図6及び図7に示した製法例1に基づいた製造方法を示す。図11は、サイドシル15の製造工程における、第1塗布工程M11及びシート部材6の貼り付け工程M12の実行状況を示す図でもある。第1塗布工程M11では、補強メンバ70の一対の第1フランジ部74が各々有する接合面74Aに、減衰接着材4の外側部42に相当する厚さの減衰接着材4が塗布される。そして、貼り付け工程M12では、塗布された外側部42の上に、シート部材6が貼り付けられる。
【0059】
次に、シート部材6の上に減衰接着材4の内側部41を塗布する第2塗布工程M13が行われる。図12(A)は、第2塗布工程M13の実行状況を示す図である。シート部材6の第2対向面62は、先の貼り付け工程M12により、減衰接着材4の外側部42に接着している。一方、シート部材6の第1対向面61の上には、この第2塗布工程M13で塗布された減衰接着材4の内側部41が担持されている。
【0060】
続いて、減衰接着材4を介してサイドシル15へ補強メンバ70を接着する接着工程M14が実行される。図12(B)は、接着工程M14の実行状況を示す図である。減衰接着材4の内側部41に、サイドシルインナ151の縦壁部154の内側面である接合面154Aが接着されている。内側部41及び外側部42からなる減衰接着材4の層は、上下に延びる層となるが、シート部材6が保形作用を発揮するので、減衰接着材4が流動性を有する状態でも垂下することはない。
【0061】
その後、サイドシルインナ151と補強メンバ70との接合体が、サイドシルレイン153に接合される。この接合は、補強メンバ70の連結部73を縦壁部153Aに、第2フランジ部75を上横壁153Bに、第3フランジ部76を下横壁153Cに、各々スポット溶接することで達成される。実際には、サイドシルアウタ152も前記接合体に接合される。
【0062】
[ルーフレールへの適用例]
次に、本発明の車体構造及び車体製造方法を、図1及び図2に示したルーフレール11の製造に適用する例を示す。図13は、閉断面C3を有するルーフレール11の断面図、図14は、ルーフレール11の閉断面C1内に配置されるルーフガゼット80(第2車体部材/補強メンバ)を、車室内側からの側面図である。図15は、ルーフガゼット80単体の斜視図である。なお、図13及び図14に示すルーフレール11及びルーフガゼット80の姿勢は、車両完成後の組付け姿勢である。
【0063】
ルーフレール11は、車両前後方向に延びる閉断面C1を有する車体剛性部材であって、車内側フレームであるルーフレールインナ111(第1車体部材)と、車外側フレームであるルーフレールアウタ112と、ルーフレールインナ111とルーフレールアウタ112との間に配設されるルーフレールレイン113と、ルーフレール11とセンターピラー13との連結部における閉断面C3の剛性を補強するルーフガゼット80(第2車体部材)とを備えている。
【0064】
ルーフレールインナ111は、上下方向に延び、ルーフガゼット80と対向する縦壁部114を有している。ルーフレールアウタ112及びルーフレールレイン113は、車外斜め上方向に膨出する断面ハット状に形成されている。ルーフレールアウタ112は、その上部の車内側端部に、フランジ部112Aを有している。フランジ部112Aは、ルーフレールレイン113の車内側端部113Aに、ルーフパネル191の端部と共にスポット溶接で接合されている。ルーフレールインナ111の縦壁部114には、ルーフコーナーガゼット192の端部がスポット溶接で接合されている。
【0065】
センターピラー13は、車内側フレームであるセンターピラーインナ131と、車外側フレームであるセンターピラーアウタ132と、センターピラーインナ131とセンターピラーレイン133との間に配設されるセンターピラーレイン133とを含む。ルーフレールインナ111の下端部111Aは、センターピラーインナ131の上端部131Aにスポット溶接で接合されている。図14では、そのスポット接合部SWが×印で示されている。ルーフレールアウタ112とセンターピラーアウタ132とは、一体化されたアウタパネルで構成されている。ルーフレールレイン113の車外側膨出部には、センターピラーレイン133の上端部133Aが接合されている。
【0066】
ルーフガゼット80は、基部81、一対の接合壁部82、一対の連結部83、上フランジ部84、下フランジ部85及び一対の横フランジ部86を備えている。基部81は、前後方向および上下方向に延びる平板からなる。一対の接合壁部82は、基部81の前・後に各々連設されている。接合壁部82は、基部81に対して車幅方向内側へオフセットした位置に配置された平板部である。連結部83は、接合壁部82の側端縁から車外方向に延出した、略三角形状の平板部である。上フランジ部84は、基部81の上端から車内側に延出するフランジ部である。下フランジ部85は、基部81の下端から車外側に延出するフランジ部である。横フランジ部86は、連結部83の端縁から延出するフランジ部である。
【0067】
ルーフガゼット80の上フランジ部84、下フランジ部85及び一対の横フランジ部86は、それぞれルーフレールレイン113にスポット溶接により接合される。また、一対の接合壁部82は、減衰接着材4を介してルーフレールインナ111の縦壁部114に接合される。詳しくは、接合壁部82の車内側の側面である接合面82A(第2接合面)と、縦壁部114の車外側の側面である接合面114A(第1接合面)とが車幅方向に隙間を置いて対峙している。そして、2つの接合面82A、114Aは、両者間に介在する減衰接着材4にて接着されている。減衰接着材4の介在により、ルーフレール11乃至はセンターピラー13に加わる振動が減衰される。
【0068】
減衰接着材4の内部には、当該減衰接着材4の保形のためにシート部材6が埋設されている。減衰接着材4が配置されているのは、上下方向に延びる縦壁部114と接合壁部82との間である。このため、両者間に流動性を有する状態で減衰接着材4が配置されると、重力によって当該減衰接着材4が垂下する虞がある。しかし、減衰接着材4の内部にはシート部材6が配置されているので、当該シート部材6の保形作用によって減衰接着材4の形状が維持される。従って、減衰接着材4の垂下が防止される。
【0069】
図16(A)~(C)は、ルーフレール11の製造方法を説明するための側面図である。ここでも、図6及び図7に示した製法例1に基づいた製造方法を示す。図16(A)は、ルーフレール11の製造工程における、第1塗布工程M11及びシート部材6の貼り付け工程M12の実行状況を示す図である。第1塗布工程M11では、ルーフガゼット80の一対の接合壁部82が各々有する接合面82Aに、減衰接着材4の外側部42に相当する厚さの減衰接着材4が塗布される。そして、貼り付け工程M12では、塗布された外側部42の上に、シート部材6が貼り付けられる。
【0070】
次に、シート部材6の上に減衰接着材4の内側部41を塗布する第2塗布工程M13が行われる。図16(B)は、第2塗布工程M13の実行状況を示す図である。シート部材6の第2対向面62は、先の貼り付け工程M12により、減衰接着材4の外側部42に接着している。一方、シート部材6の第1対向面61の上には、この第2塗布工程M13で塗布された減衰接着材4の内側部41が担持されている。
【0071】
続いて、減衰接着材4を介してルーフレールインナ111へルーフガゼット80を接着する接着工程M14が実行される。図16(C)は、接着工程M14の実行状況を示す図である。減衰接着材4の内側部41に、ルーフレールインナ111の縦壁部114が有する接合面114Aが接着されている。内側部41及び外側部42からなる減衰接着材4の層は、図13に示すように上下に延びる層となるが、シート部材6が保形作用を発揮するので、減衰接着材4が流動性を有する状態でも垂下することはない。
【0072】
その後、ルーフレールインナ111とルーフガゼット80との接合体が、ルーフレールレイン113に接合される。この接合は、上述の通り、ルーフガゼット80の上フランジ部84、下フランジ部85及び一対の横フランジ部86が、それぞれルーフレールレイン113にスポット溶接されることで達成される(第2接合部の形成)。実際には、ルーフレールアウタ112も前記接合体に接合される。
【0073】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明に車体製造方法の具体的適用例として、ルーフレール11及びサイドシル15の製造例を示したが、フロントピラー12、センターピラー13、クロスメンバ17等の閉断面構造を有する他の車体構造体に適用しても良い。また、閉断面構造を具備しない車体部材同士の組み立て、例えば、3つの平板部材を接合する車体構造体の製造に本発明を適用しても良い。
【0074】
上記実施形態では、減衰接着材4を硬化させる工程として、防錆剤の乾燥工程M17、M26を利用する態様を例示した。これに代えて、減衰接着材4の硬化のための加熱工程を、別途実行するようにしても良い。例えば、洗浄工程M5の前に、減衰接着材4の硬化工程を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0075】
1 車体
1A 車体構造体
11 ルーフレール
111 ルーフレールインナ(第1車体部材)
114 縦壁部
114A 接合面(第1接合面)
15 サイドシル
151 サイドシルインナ(第1車体部材)
154 縦壁部
154A 接合面(第1接合面)
2 第1車体部材
2A 第1接合面
3 第2車体部材3
3A 第2接合面
4 減衰接着材(振動減衰部材)
41 内側部(振動減衰部材の一部)
42 外側部(振動減衰部材の他の一部)
4M 積層体4M
5 第3車体部材5
6、6A、6B シート部材
61 第1対向面
62 第2対向面
63 凹凸部
64 細孔
70 補強メンバ(第2車体部材)
74 第1フランジ部
74A 接合面(第2接合面)
80 ルーフガゼット(第2車体部材/補強メンバ)
82 接合壁部
82A 接合面(第2接合面)
C 閉断面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16