(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両用ステアリングジョイントカバー構造
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20231031BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20231031BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B62D1/20
F16J3/04 C
F16J15/52 Z
(21)【出願番号】P 2020033291
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】宮井 貴之
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126155(JP,A)
【文献】特開2019-018730(JP,A)
【文献】実開平02-143518(JP,U)
【文献】特開2007-153246(JP,A)
【文献】特開2015-174508(JP,A)
【文献】特開平11-132328(JP,A)
【文献】特開2014-141183(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0123162(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のダッシュパネルの前方に設けられるステアリングギアボックスと、
前記ステアリングギアボックスと前記ダッシュパネルを貫通して延びるステアリングシャフトとをつなぐステアリングジョイントと、
前記ステアリングジョイントを覆うカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、
円筒状の基部と該基部の上に位置し前記ダッシュパネルに接続される頭部とを含む上側接続部と、
前記ステアリングギアボックスに接続される円筒状の下側接続部と、
前記上側接続部と前記下側接続部との間に位置し前記上側接続部の基部および該下側接続部よりも小径な円筒状の中間円筒部とを有し、
前記上側接続部の基部の中心軸は、前記中間円筒部の中心軸よりも前方に位置
し、
前記上側接続部の基部の底のうち少なくとも前記中間円筒部の前方の範囲は、外周側から該中間円筒部に近付くほど次第に板厚が薄くなっていることを特徴とする車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項2】
車両のダッシュパネルの前方に設けられるステアリングギアボックスと、
前記ステアリングギアボックスと前記ダッシュパネルを貫通して延びるステアリングシャフトとをつなぐステアリングジョイントと、
前記ステアリングジョイントを覆うカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、
円筒状の基部と該基部の上に位置し前記ダッシュパネルに接続される頭部とを含む上側接続部と、
前記ステアリングギアボックスに接続される円筒状の下側接続部と、
前記上側接続部と前記下側接続部との間に位置し前記上側接続部の基部および該下側接続部よりも小径な円筒状の中間円筒部とを有し、
前記上側接続部の基部の中心軸は、前記中間円筒部の中心軸よりも前方に位置し、
前記カバー部材の中間円筒部の前側の板厚は、下方から前記上側接続部に近付くほど次第に薄くなっていることを特徴
とする車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項3】
車両のダッシュパネルの前方に設けられるステアリングギアボックスと、
前記ステアリングギアボックスと前記ダッシュパネルを貫通して延びるステアリングシャフトとをつなぐステアリングジョイントと、
前記ステアリングジョイントを覆うカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、
円筒状の基部と該基部の上に位置し前記ダッシュパネルに接続される頭部とを含む上側接続部と、
前記ステアリングギアボックスに接続される円筒状の下側接続部と、
前記上側接続部と前記下側接続部との間に位置し前記上側接続部の基部および該下側接続部よりも小径な円筒状の中間円筒部とを有し、
前記上側接続部の基部の中心軸は、前記中間円筒部の中心軸よりも前方に位置し、
前記カバー部材の中間円筒部は、前記上側接続部の基部の底よりも上方まで延びてい
て、
前記中間円筒部のうち、前記上側接続部の基部の底よりも上方の部分の板厚は、該底の直下の部分の板厚に比べて厚いことを特徴
とする車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項4】
車両のダッシュパネルの前方に設けられるステアリングギアボックスと、
前記ステアリングギアボックスと前記ダッシュパネルを貫通して延びるステアリングシャフトとをつなぐステアリングジョイントと、
前記ステアリングジョイントを覆うカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、
円筒状の基部と該基部の上に位置し前記ダッシュパネルに接続される頭部とを含む上側接続部と、
前記ステアリングギアボックスに接続される円筒状の下側接続部と、
前記上側接続部と前記下側接続部との間に位置し前記上側接続部の基部および該下側接続部よりも小径な円筒状の中間円筒部とを有し、
前記上側接続部の基部の中心軸は、前記中間円筒部の中心軸よりも前方に位置し、
前記ダッシュパネルは、前記ステアリングシャフトが貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、2つの長辺および2つの円弧を有する楕円状に形成されていて、
前記カバー部材の上側接続部はさらに、
前記頭部に設けられ前記貫通孔の長辺と円弧との境界それぞれに挿し込まれて該貫通孔の縁を把持する複数のツメと、
前記複数のツメの間に設けられて前記貫通孔の縁に沿って挿し込まれる複数の壁部とを含むことを特徴
とする車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項5】
前記上側接続部の基部の底のうち前記中間円筒部と接合している箇所の板厚は、該中間円筒部の後側よりも前側のほうが薄いことを特徴とする請求項
1に記載の車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項6】
前記上側接続部はさらに、
前記頭部の前側に設けられ左右方向に延びる複数の横リブと、
前記頭部の前側の内面に設けられ上下方向に延びる複数の縦リブとを含むことを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項7】
前記ツメは、
前記貫通孔の縁に沿って設けられる平板状の脚部と、
前記脚部の先端から前記貫通孔の外側に円弧状に突出するかえし部とを有することを特徴とする請求項
4に記載の車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【請求項8】
前記複数の壁部は、前記貫通孔の前記円弧の箇所に挿し込まれる円弧状壁を含み、
前記円弧状壁は、前記貫通孔の円弧に沿って設けられ、先端が該貫通孔の内側に屈曲していることを特徴とする請求項
4に記載の車両用ステアリングジョイントカバー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ステアリングジョイントカバー構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングホイールの操舵力を伝えるステアリングシャフトは、車室側からダッシュパネルを貫通してパワーユニット搭載ルームに延び、継手となるステアリングジョイントを介してステアリングギアボックスに接続されている。一般に、ステアリングギアボックスとダッシュパネルとの間には、ステアリングジョイントの周辺を雨水や粉塵等から保護するカバー部材が設置されている。例えば、特許文献1には、ゴム材料からなるカバー部材18が開示されている。カバー部材18は、蛇腹部22のたわみによってダッシュパネルとの位置ずれを吸収しつつ、姿勢保持部32を併用して姿勢の保持を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記カバー部材18の蛇腹部22は、カバー部材18をたわみやすくさせる点において有効な部位である。仮にカバー部材18がまったくたわめない構成であると、ダッシュパネルに対する位置の差分を吸収できず、ダッシュパネルとの間における密封性が低下し、浸水等を防ぎきれなくなってしまう。しかしながら、上記の特許文献1の構成では、カバー部材18に別体の姿勢保持部32を取り付ける必要があるため、作業手順が増えると共に、製造コストも増えかねない。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、簡潔な構成で車両に精度よく組付可能な車両用ステアリングジョイントカバー構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用ステアリングジョイントカバー構造の代表的な構成は、車両のダッシュパネルの前方に設けられるステアリングギアボックスと、ステアリングギアボックスとダッシュパネルを貫通して延びるステアリングシャフトとをつなぐステアリングジョイントと、ステアリングジョイントを覆うカバー部材とを備え、カバー部材は、円筒状の基部と基部の上に位置しダッシュパネルに接続される頭部とを含む上側接続部と、ステアリングギアボックスに接続される円筒状の下側接続部と、上側接続部と下側接続部との間に位置し上側接続部の基部および下側接続部よりも小径な円筒状の中間円筒部とを有し、上側接続部の基部の中心軸は、中間円筒部の中心軸よりも前方に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡潔な構成で車両に精度よく組付可能な車両用ステアリングジョイントカバー構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例に係る車両用ステアリングジョイントカバー構造の概略を示す図である。
【
図2】
図1(b)のカバー部材を各方向から示した図である。
【
図4】
図3(a)のカバー部材の各部の拡大図である。
【
図5】
図2(b)のカバー部材に取り付ける嵌合部材の概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両用ステアリングジョイントカバー構造は、車両のダッシュパネルの前方に設けられるステアリングギアボックスと、ステアリングギアボックスとダッシュパネルを貫通して延びるステアリングシャフトとをつなぐステアリングジョイントと、ステアリングジョイントを覆うカバー部材とを備え、カバー部材は、円筒状の基部と基部の上に位置しダッシュパネルに接続される頭部とを含む上側接続部と、ステアリングギアボックスに接続される円筒状の下側接続部と、上側接続部と下側接続部との間に位置し上側接続部の基部および下側接続部よりも小径な円筒状の中間円筒部とを有し、上側接続部の基部の中心軸は、中間円筒部の中心軸よりも前方に位置することを特徴とする。
【0010】
上記カバー部材は、上側接続部の基部および中間円筒部の中心軸が不揃いになっていて、剛性に偏りが生じている。特に、上側接続部の基部の中心軸は、中間円筒部の中心軸に対して、前方に形成されている。そのため、上記カバー部材は、前側において上側接続部の外面が中間円筒部の外面からより離れていて、相対的に前側の剛性が低く、上側接続部が中間円筒部から前方に倒れるように変形しやすくなっている。したがって、上記カバー部材であれば、ダッシュパネルへの組付時において、上側接続部と中間円筒部との間で適度なたわみを生むことでダッシュパネルとの位置の差分を吸収し、ダッシュパネルに対する組付不良を抑えることが可能である。また、上記構成のカバー部材であれば、上側接続部を前方に倒す変形のみ生じさせやすくし、後方や車幅方向に対しては十全な剛性を確保することができるため、別体の保護具等は不要であり、作業の簡略化およびコスト低減を図ることが可能である。
【0011】
上記の上側接続部の基部の底のうち少なくとも中間円筒部の前方の範囲は、外周側から中間円筒部に近付くほど次第に板厚が薄くなっている。この構成によれば、上側接続部の底は中間円筒部に近くほど剛性が低くなるため、上側接続部と中間円筒部との間を変形させやすくすることができる。
【0012】
上記の上側接続部の基部の底のうち中間円筒部と接合している箇所の板厚は、中間円筒部の後側よりも前側のほうが薄くなっている。この構成によれば、上側接続部の底は前側のほうが後側よりも剛性が低くなるため、上側接続部を中間円筒部から前方に向かって変形させやすくすることができる。また、上記構成では、上側接続部の底のうち、前側以外の領域を相対的に厚く設定することも可能であり、これによってカバー部材の後方や車幅方向に対する剛性を確保し、これら方向への自重による変形等を抑えることができる。
【0013】
上記のカバー部材の中間円筒部の前側の板厚は、下方から上側接続部に近付くほど次第に薄くなっている。この構成によれば、中間円筒部の前側の領域は、上側接続部に近づくほど剛性が低くなる。したがって、この構成によっても、上側接続部と中間円筒部との間を変形させやすくすることができる。
【0014】
上記のカバー部材の中間円筒部は、上側接続部の基部の底よりも上方まで延びている。この構成によって、中間円筒部の剛性を向上させることができる。中間円筒部の剛性が向上すれば、当該カバー部材は上側接続部をたわませつつも自立することが可能になるため、ダッシュパネルに精度よく組み付けることが可能になる。
【0015】
上記の中間円筒部のうち、上側接続部の基部の底よりも上方の部分の板厚は、底の直下の部分の板厚に比べて厚い。この構成によって、中間円筒部の剛性を効率よく確保することが可能である。
【0016】
上記の上側接続部はさらに、頭部の前側に設けられ左右方向に延びる複数の横リブと、頭部の前側の内面に設けられ上下方向に延びる複数の縦リブとを含む。これらリブによって上側接続部の頭部の剛性が確保できるため、ダッシュパネルへの組付作業が行いやすくなり、またダッシュパネルとの組付後において隙間を生じ難くして浸水を効率よく防ぐことができる。さらに、各リブによって上側接続部の頭部の剛性を向上させることで、上側接続部の基部の底に変形を誘発させ、前述した上側接続部の中間円筒部から前方に向かう変形を起こしやすくすることができる。
【0017】
上記のダッシュパネルは、ステアリングシャフトが貫通する貫通孔を有し、貫通孔は、2つの長辺および2つの円弧を有する楕円状に形成されていて、カバー部材の上側接続部はさらに、頭部に設けられ貫通孔の長辺と円弧との境界それぞれに挿し込まれて貫通孔の縁を把持する複数のツメと、複数のツメの間に設けられて貫通孔の縁に沿って挿し込まれる複数の壁部とを含む。これらツメおよび壁部によって、上側接続部をダッシュパネルに容易かつ精度よく接続することが可能になる。
【0018】
上記のツメは、貫通孔の縁に沿って設けられる平板状の脚部と、脚部の先端から貫通孔の外側に円弧状に突出するかえし部とを有する。
【0019】
上記のツメの脚部は、平板状であるため適度にたわむことができ、貫通孔に挿し込みやすくなっている。また、ツメのかえし部は、円弧状に突出することで、挿し込むときに貫通孔の縁に引っ掛かり難く、また、挿込み終えたときには貫通孔の縁を十全に把持することができる。
【0020】
上記の複数の壁部は、貫通孔の円弧の箇所に挿し込まれる円弧状壁を含み、円弧状壁は、貫通孔の円弧に沿って設けられ、先端が貫通孔の内側に屈曲している。
【0021】
上記の円弧状壁は、先端がフランジ状に屈曲していて、作業員が把持することができる。この構成の円弧状壁であれば、例えばダッシュパネルの後方からダッシュパネルの貫通孔に指を入れて掴むことができ、カバー部材を引っ張り上げることを可能にする等、作業性の向上に役立つ。
【実施例】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施例に係る車両用ステアリングジョイントカバー構造(以下、カバー構造100)の概略を示す図である。以下、
図1その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(upward)、D(downward)で例示する。
【0024】
図1(a)は、当該カバー構造100を車両の前方右上から見た斜視図である。当該カバー構造100は、破線で示すダッシュパネル102の前方のパワーユニット搭載ルームにて、ステアリングジョイント108(
図6(b)参照)を覆うステアリングジョイントロアカバー(以下、カバー部材114)を中心として構成されている。
【0025】
ダッシュパネル102は、エンジンやモータ等のパワーユニットが搭載されるパワーユニット搭載ルームとその後方の車室とを区画する壁状の部材である。ステアリングシャフト104は、ステアリング106の操舵力をステアリングギアボックス110に伝える軸部材であり、車室側のステアリング106から前方に延びてダッシュパネル102を貫通している。
【0026】
ステアリングギアボックス110は、ステアリング106の操舵力を各種のギアで変換および増幅してホイールに伝える機構であり、ダッシュパネル102の前方にてサスペンションフレーム112に設けられている。ステアリングシャフト104は、継手となるステアリングジョイント108(
図6(b)参照)を介してステアリングギアボックス110に接続される。
【0027】
上述したカバー部材114は、やや軟質な樹脂製の筒状の部材であり、ステアリングジョイント108の周囲を雨水や粉塵から保護する。カバー部材114は、上側がダッシュパネル102に接続され、下側がステアリングギアボックス110に接続されて設置される。
【0028】
図1(b)は、
図1(a)のカバー部材114の周辺を拡大し前方左上から見た斜視図である。カバー部材114は、ステアリングギアボックス110に取り付けられた状態で、ステアリングギアボックス110と共にサスペンションフレーム112を主体とするフロントサスペンションフレームアッシィを構成する。フロントサスペンションフレームアッシィは車体に対して下方から組み付けられ、各部位が車体に接続されると共に、カバー部材114もダッシュパネル102に接続される。
【0029】
ダッシュパネル102には、ステアリングシャフト104が貫通する貫通孔116が形成されている。カバー部材114は、後述するツメ140a等(
図5(b)等参照)を利用して貫通孔116に嵌め込まれる。
【0030】
図2は、
図1(b)のカバー部材114を各方向から示した図である。
図2(a)は、カバー部材114を前方から示している。カバー部材114は、大きく分けて、上側接続部118、下側接続部120および中間円筒部122を含んで構成されている。
【0031】
上側接続部118は、ダッシュパネル102に接続される部位であり、当該カバー部材114の主要な部分を占めている。上側接続部118は、下側の円筒状の基部124と、基部124の上に位置しダッシュパネル102に接続される頭部126とを含んで構成されている。
【0032】
頭部126の前側の外面には、左右方向すなわち当該上側接続部118の周方向に延びる3つの横リブ128a~128cが形成されている。横リブ128a~128cは、上側接続部118の頭部126の剛性を向上させる。
【0033】
図2(b)は、カバー部材114を後方から示している。上側接続部118は、後側の上部に、大きく開口した上部開口130を有している。カバー部材114は、上部開口130に後述する嵌合部材138(
図5(a)参照)を取り付け、嵌合部材138のツメ140a等を利用してダッシュパネル102の貫通孔116に接続される。
【0034】
上側接続部118の頭部126の前側の内面には、上下方向に延びる2つの縦リブ132a、132bが形成されている。縦リブ132a、132bは、前述した横リブ128a~128c(
図3(a)参照)と共に、頭部126の剛性を向上させる。各リブを設けることで、上側接続部118は頭部126の形状が維持でき、カバー部材114はダッシュパネル102への組付作業が行いやすくなっている。また、カバー部材114は、各リブによって頭部126を補強することで、例えば走行時の風圧に対しても頭部126の変形を抑え、ダッシュパネル102との間に隙間を生じ難くして浸水を効率よく防ぐことが可能になる。
【0035】
下側接続部120は、ステアリングギアボックス110(
図1(b)参照)に接続される部位であり、一部が切り欠かれた円筒状の形状になっている。
【0036】
中間円筒部122は、下側接続部120と上側接続部118との間に位置する部位である。中間円筒部122もまた円筒状に形成されていて、中間円筒部122は下側接続部120および上側接続部118の基部124よりも小径に形成されている。
【0037】
図3は、
図2(b)のカバー部材114の各断面図である。
図3(a)は、
図2(b)のカバー部材114のA-A断面図である。上側接続部118は、基部124から上方に向かって頭部126が広がった形状になっていて、基部124の底134は、内側の中間円筒部122に向かって屈曲して延びている。
【0038】
当該カバー部材114は、ダッシュパネル102に対する組付作業の容易化および組付不良の抑制のために、上側接続部118が中間円筒部122に対して前方に適度にたわめるようになっている。まず、カバー部材114は、上側接続部118の基部124および中間円筒部122の中心が不揃いになっていて、剛性に偏りをもたらせている。
【0039】
図3(a)には、上側接続部118の基部124の中心軸C1、および中間円筒部122の中心軸C2を例示している。当該カバー部材114では、上側接続部118と中間円筒部122との間で適度にたわめるよう、上側接続部118の基部124の中心軸C1が、中間円筒部122の中心軸C2よりも距離D1ほど前方に位置する構成となっている。
【0040】
図3(b)は、
図2(b)のカバー部材114のB-B断面図である。
図3(b)も、上側接続部118の基部124の中心軸C1および中間円筒部122の中心軸C2を例示している。上述したように、上側接続部118の基部124の中心軸C1は、中間円筒部122の中心軸C2よりも距離D1ほど前方に位置する構成となっている。このとき、上側接続部118の基部124の中心軸C1は、中間円筒部122の中心軸C2と、車幅方向においては重なる位置に形成されている。
【0041】
上記構成によって、上記カバー部材114は、前側において上側接続部118の基部124の外面が中間円筒部122の外面からより離れていて、相対的に前側の剛性が低く、上側接続部118が中間円筒部122から前方に倒れるように変形しやすくなっている。したがって、上記カバー部材114であれば、ダッシュパネル102への組付時において、上側接続部118と中間円筒部122との間で適度なたわみを生むことでダッシュパネル102との差分を吸収し、ダッシュパネル102に対する組付不良を抑えることができる。
【0042】
また、
図3(b)に示したように、上側接続部118の基部124の中心軸C1を中間円筒部122の中心軸C2の前方に位置させる構成であれば、カバー部材114は、上側接続部118を前方に倒す変形のみ生じやすくなり、後方や車幅方向に対しては十全な剛性を確保することができる。そのため、当該カバー部材114は、別体の保護具等が不要であり、保護具等が必要な場合に比べて作業の簡略化およびコスト低減を図ることができる。
【0043】
図3(a)等に示した横リブ128a~128cおよび縦リブ132a、132b(
図2(b)参照)を設けることによっても、上側接続部118の頭部126の剛性を向上させて相対的に基部124の底134に変形を誘発させることができるため、上側接続部118の中間円筒部122から前方に向かう変形が生じやすくなっている。
【0044】
図4は、
図3(a)のカバー部材114の各部の拡大図である。
図4(a)は、中間円筒部122の前側付近を拡大して示している。カバー部材114の前側、すなわち中間円筒部122の前方の範囲において、上側接続部118の基部124の底134の板厚は、外周側から中間円筒部122に近付くほど次第に薄くなっている。特に、底134のうち中間円筒部122と接合している箇所は、板厚が最も薄く設定されている(板厚T1)。この構成によって、上側接続部118の底134は、中間円筒部122に近くほど剛性が低くなっている。この構成によっても、上側接続部118は、中間円筒部122との間にて変形を生じさせやすくなっている。
【0045】
図4(b)は、中間円筒部122の後側付近を拡大して示している。カバー部材の114の後側において、上側接続部118の基部124の底134のうち中間円筒部122と接合している箇所の厚さは板厚T2に設定されていて、前述した板厚T1(
図4(a)参照)よりも厚くなっている(T2>T1)。すなわち、上側接続部118の基部124の底134の板厚は、
図4(b)に示す中間円筒部122の後側よりも、
図4(a)に示した中間円筒部122の前側のほうが薄くなっている。
【0046】
上記構成によれば、上側接続部118の底134は、前側のほうが後側よりも剛性が低くなる。この構成によっても、上側接続部118は、中間円筒部122から前方に向かって変形させやすくなっている。また、この構成では、上側接続部118の底134のうち、前側以外の領域を相対的に厚く設定することも可能であり、これによってカバー部材114の後方や車幅方向に対する剛性を確保し、これら方向への自重による変形等を抑えることができる。
【0047】
再び
図4(a)を参照する。中間円筒部122の前側の外壁は、下方から上側接続部118の底134に近付くほど、次第に中心側に漸近的に傾斜して板厚が薄くなっている(最も薄い箇所の板厚T3)。この構成によって、中間円筒部122の前側の領域は、上側接続部118に近づくほど剛性が低くなっている。したがって、この構成によっても、上側接続部118と中間円筒部122との間を変形させやすくすることができる。
【0048】
なお、当該カバー部材114では、
図4(b)に示す中間円筒部122の後側においても、中間円筒部122は上側接続部118の底134に近付くほど板厚が薄くなっている。この構成によっても、上側接続部118は中間円筒部122に対して前方に変形しやすくなっている。
【0049】
図4(a)に示す中間円筒部122の上部136は、上側接続部118の基部124の底134よりも上方まで延びている。この上部136は、上側接続部118の底134に形成された円形の開口の周りを囲む周壁を形成している。この構成によって、上側接続部118の底134の剛性と中間円筒部122の剛性とを共に向上させることができる。中間円筒部122の剛性が向上すれば、当該カバー部材114は上側接続部118をたわませつつも自立することが可能になるため、ダッシュパネル102に精度よく組み付けることが可能になる。
【0050】
中間円筒部122の上部136は、厚さが板厚T4に設定されていて、中間円筒部122のうち上側接続部118の底134の直下の部分の板厚T3に比べて厚くなっている(T4>T3)。この構成によって、当該カバー部材114は、上側接続部118を中間円筒部122に対してたわませやすくしつつも、中間円筒部122の剛性を効率よく確保することが可能になっている。
【0051】
図5は、
図2(b)のカバー部材114に取り付ける嵌合部材138の概要を示した図である。
図5(a)は、嵌合部材138の全体を示した斜視図である。嵌合部材138は、カバー部材114よりも硬質な樹脂で形成されていて、カバー部材114の上部開口130に合せた楕円形状になっている。嵌合部材138は、複数のツメ140a~140dおよび複数の壁部(壁部142a、142bおよび円弧状壁144a、144b)を有している。
【0052】
4つのツメ140a~140dは、ダッシュパネル102(
図5(b)参照)の貫通孔116の縁を把持する部位である。壁部142a、142bおよび円弧状壁144a、144bは、ツメ140a~140dの間の領域に設けられ、各ツメを貫通孔116に挿し込むときにガイドの役目をする。各ツメと各壁部との間には切欠きが形成され、各ツメおよび各壁部はそれぞれ独立してたわむことが可能になっている。
【0053】
嵌合部材138は、楕円状に形成された挿込部146をカバー部材114(
図2(b)参照)の上部開口130の内側に嵌め込むことで、カバー部材114の上側接続部118に取り付けられる。嵌合部材138は、各ツメおよび各壁部によって、カバー部材114の上側接続部118をダッシュパネル102に容易かつ精度よく接続可能にする。
【0054】
図5(b)は、カバー部材114が嵌合部材138を介してダッシュパネル102に組み付いた状態を示した図である。ダッシュパネル102の貫通孔116は、2つの長辺L1、L2および2つの円弧R1、R2を有する楕円状に形成されている。嵌合部材138の計4つのツメ140a~140dは、貫通孔116の長辺L1、L2と円弧R1、R2との境界の4箇所それぞれに挿し込まれて貫通孔116の縁を把持する。このとき、壁部142aは貫通孔116の長辺L1、L2に沿って挿し込まれ、円弧状壁144aは貫通孔116の円弧R1、R2に沿って挿し込まれる。
【0055】
図6は、
図5(b)の嵌合部材138の各断面図である。
図6(a)は、
図5(b)の嵌合部材138のC-C断面に対応する図であり、カバー部材114をダッシュパネル102に組み付ける過程を示している。
【0056】
カバー部材114の円弧状壁144aは、先端が貫通孔116の内側にフランジ状に屈曲していて、作業員が把持することが可能になっている。例えば、円弧状壁144aは、作業員がダッシュパネル102の後方(
図6(a)中右側)から貫通孔116に指を入れたとき、指で引っ掛けて引き上げることを可能にする。このように、円弧上壁部144aは、カバー部材114のダッシュパネル102への組付時における作業性の向上に役立っている。
【0057】
図6(b)は、
図5(b)の嵌合部材138のD-D断面である。嵌合部材138のツメ140aは、ダッシュパネル102の貫通孔116(
図5(b)参照)の縁に沿って設けられる平板状の脚部148と、脚部148の先端側から貫通孔116の外側に突出するかえし部150とを有している。ツメ140aの脚部148は、平板状であるため適度にたわむことができ、貫通孔116に挿し込みやすくなっている。
【0058】
図5(b)に示したように、貫通孔116に対向して見たとき、ツメ140aのかえし部150は、ダッシュパネル102の貫通孔116の外側に向かって円弧状に突出している。この構成によって、ツメ140aを貫通孔116に挿し込むとき、かえし部150は貫通孔116の縁に引っ掛かり難くなっている。また、かえし部150は、円弧上に突出することで、貫通孔116の縁との接触面積を確保し、貫通孔116の縁を十全に把持することが可能になっている。
【0059】
図6(b)に示すように、カバー部材114の上側接続部118の上部開口130(
図2(b)参照)の周囲には、シールリップ152が設けられている。シールリップ152は、ツメ140aがダッシュパネル102の貫通孔116(
図6(a)参照)の縁を把持したときにダッシュパネル102に密着し、ダッシュパネル102と上側接続部118との間を封止する。
【0060】
図1(b)を参照して説明したように、カバー部材114はステアリングギアボックス110に接続されてフロントサスペンションフレームアッシィを構成した後に、車体に組み付けられる。このフロントサスペンションフレームアッシィを車体に組み付ける過程において、カバー部材114が不用意にダッシュパネル102に接触していると、シールリップ152(
図6(b)参照)が歪んだ状態のままカバー部材114のダッシュパネル102への接続が行われるおそれがある。シールリップ152が内側に巻き込まれる等して歪んだ状態となると、浸水を招きかねない。
【0061】
そこで、当該カバー部材114では、前述した上側接続部118の中間円筒部122に対する前方へのたわみが、上側接続部118の自重によって適度に生じるよう設定されている。この現象によって、フロントサスペンションフレームアッシィを車体へ組み付けるとき、カバー部材114の上側接続部118がわずかに前方にたわんだ状態となり、上側接続部118とダッシュパネル102との間に隙間が確保され、シールリップ152がダッシュパネル102に引っ掛かることが避けられる。
【0062】
図6(a)を参照して説明したように、フロントサスペンションフレームアッシィを車体へ組み付けた後は、ダッシュパネル102の後方から貫通孔116に指を入れ、嵌合部材138の円弧状壁144aに指をかけて引き上げることで、ツメ140a~140dを利用してカバー部材114をダッシュパネル102の貫通孔116に接続させることができる。
【0063】
上記のように、当該カバー構造100であれば、意図的にたわみを生じることが可能なカバー部材114を利用して、簡潔な構成ながらカバー部材114を車両のダッシュパネル102に精度よく組み付けることが可能になっている。なお、カバー部材114における上側接続部118の自重による前方へのたわみは、横リブ128等(
図3(a)参照)および縦リブ132a等(
図3(b)参照)の各リブの板厚や寸法を変えるなど、頭部126の重量を変更することで適宜調節することが可能である。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、車両用ステアリングジョイントカバー構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
100…カバー構造、102…ダッシュパネル、104…ステアリングシャフト、106…ステアリング、108…ステアリングジョイント、110…ステアリングギアボックス、112…サスペンションフレーム、114…カバー部材、116…貫通孔、118…上側接続部、120…下側接続部、122…中間円筒部、124…基部、126…頭部、128a~128c…横リブ、130…上部開口、132a、132b…縦リブ、134…基部の底、136…中間円筒部の上部、138…嵌合部材、140a~140d…ツメ、142a、142b…壁部、144a、144b…円弧状壁、146…挿込部、148…脚部、150…かえし部、152…シールリップ、C1…上側接続部の基部の中心軸、C2…中間円筒部の中心軸、L1、L2…貫通孔の長辺、R1、R2…貫通孔の円弧、T1…基部の底の前側の板厚、T2…基部の底の後側の板厚、T3…中間円筒部のうち上側接続部の直下の部分の板厚、T4…中間円筒部の上部の板厚