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特許7375701双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020128815
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025755
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 隼
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-251998(JP,A)
【文献】特開2020-108246(JP,A)
【文献】特開2014-087134(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直流電源に接続された第1インバータと、
第2直流電源に接続された第2インバータと、
前記第1インバータの交流側に1次巻線が接続され、前記第2インバータの交流側に2次巻線が接続されたトランスと、を備えた双方向絶縁型DC/DCコンバータであって、
位相差指令としてφ*と零を切り替えて出力し、装置停止時は前記位相差指令として零を出力する位相差指令切替部と、
前記位相差指令が零からφ*に切り替わった時、零からφ*に徐々に増加させて補正後位相差指令として出力するランプアップ部と、
前記補正後位相差指令と矩形波に基づいて被比較波を生成する被比較波生成部と、
キャリア信号と前記被比較波との比較に基づいて、ゲート信号を生成するPWM制御部と、
装置停止時はゲートイネーブル信号を零とし、装置が初期駆動を開始し、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記ゲートイネーブル信号を1レベルにして保持するゲートイネーブル信号生成部と、
前記ゲートイネーブル信号が1レベルの時は前記ゲート信号を前記第1,第2インバータに出力し、前記ゲートイネーブル信号が0レベルの時は前記ゲート信号を前記第1,第2インバータに出力しないゲート信号出力部と、
を備えたことを特徴とする双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項2】
前記位相差指令切替部は、
前記ゲートイネーブル信号が1レベルの時は前記位相差指令としてφ*を出力し、前記ゲートイネーブル信号が0レベルの時は前記位相差指令として零を出力することを特徴とする請求項1記載の双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項3】
前記位相差指令切替部は、
前記ゲートイネーブル信号が1レベルで、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記位相差指令をφ*にして保持し、
前記ゲートイネーブル信号が0レベルで、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記位相差指令を零にして保持することを特徴とする請求項1記載の双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項4】
第1直流電源に接続された第1インバータと、
第2直流電源に接続された第2インバータと、
前記第1インバータの交流側に1次巻線が接続され、前記第2インバータの交流側に2次巻線が接続されたトランスと、を備えた双方向絶縁型DC/DCコンバータの制御方法であって、
位相差指令切替部が、位相差指令としてφ*と零を切り替えて出力し、装置停止時は前記位相差指令として零を出力し、
ランプアップ部が、前記位相差指令が零からφ*に切り替わった時、零からφ*に徐々に増加させて補正後位相差指令として出力し、
被比較波生成部が、前記補正後位相差指令と矩形波に基づいて被比較波を生成し、
PWM制御部が、キャリア信号と前記被比較波との比較に基づいて、ゲート信号を生成し、
ゲートイネーブル信号生成部が、装置停止時はゲートイネーブル信号を零とし、装置が初期駆動を開始し、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記ゲートイネーブル信号を1レベルにして保持し、
ゲート信号出力部が、前記ゲートイネーブル信号が1レベルの時は前記ゲート信号を前記第1,第2インバータに出力し、前記ゲートイネーブル信号が0レベルの時は前記ゲート信号を前記第1,第2インバータに出力しない
ことを特徴とする双方向絶縁型DC/DCコンバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入出力を絶縁しながら双方向に電力伝送を行う直流電源装置(双方向絶縁型DC/DCコンバータ)に係り、特に、初期駆動時のトランス電流の直流成分を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
双方向絶縁型DC/DCコンバータの一方式であるDual Active Bridge方式は非特許文献1,2に開示されている。Dual Active Bridge方式は、2台のフルブリッジインバータ(ハーフブリッジでもよい)、高周波トランスおよびインダクタ(もしくはトランスの漏れインダクタンスのみでもよい)で構成されている。各インバータ出力は方形波電圧であり、その位相差により伝送電力を制御する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】山岸達也,赤木泰文,木ノ内伸一,宮崎裕二,小山正人「SiC-MOSFET/SBDモジュールを用いた750V,100kW,20kHz双方向絶縁形DC/DCコンバータ」,電気学会論文誌D,Vol.134,No.5,pp.544-553(2014)
【文献】高木一斗,藤田英明「Dual Active Bridgeを用いた絶縁形DC-DCコンバータの過渡特性の改善」電気学会論文誌D、Vol.136,No.9,p.622-628(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Dual Active Bridge方式において、高周波トランスやインダクタに流れる電流は理想的には交流成分のみである。しかし、初期駆動において、位相差の初期値やゲートイネーブルのタイミングにより高周波トランスやインダクタに流れる電流が完全な交流にならず、直流成分が重畳する。それらの直流成分の発生により効率の低下もしくは高周波トランスが磁気飽和を起こし突入電流が流れ、機器の破損を招く場合がある。
【0005】
それらの対策として、トランス電流の正負をそれぞれサンプリングし、その和を零にすることで直流重畳を抑制する手法がある。この手法は定常的に発生する直流重畳の低減には有効である。しかし、この手法で過渡的に発生する直流重畳を抑制するためには高周波を正確に測定する高価なハードウェアが必要となる。
【0006】
また、非特許文献2では急峻な位相差指令値変化時に発生する過渡的な直流重畳を抑制する方法が開示されている。これは各アームの位相差指令値の更新タイミングを分割する方式である。しかし、初期駆動における直流重畳の低減方法について検討されていない。
【0007】
以上示したようなことから、双方向絶縁型DC/DCコンバータにおいて、追加のハードウェアを必要とすることなく、初期駆動時における直流成分を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、第1直流電源に接続された第1インバータと、第2直流電源に接続された第2インバータと、前記第1インバータの交流側に1次巻線が接続され、前記第2インバータの交流側に2次巻線が接続されたトランスと、を備えた双方向絶縁型DC/DCコンバータであって、位相差指令としてφ*と零を切り替えて出力し、装置停止時は前記位相差指令として零を出力する位相差指令切替部と、前記位相差指令が零からφ*に切り替わった時、零からφ*に徐々に増加させて補正後位相差指令として出力するランプアップ部と、前記補正後位相差指令と矩形波に基づいて被比較波を生成する被比較波生成部と、キャリア信号と前記被比較波との比較に基づいて、ゲート信号を生成するPWM制御部と、装置停止時はゲートイネーブル信号を零とし、装置が初期駆動を開始し、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記ゲートイネーブル信号を1レベルにして保持するゲートイネーブル信号生成部と、前記ゲートイネーブル信号が1レベルの時は前記ゲート信号を前記第1,第2インバータに出力し、前記ゲートイネーブル信号が0レベルの時は前記ゲート信号を前記第1,第2インバータに出力しないゲート信号出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、その一態様として、前記位相差指令切替部は、前記ゲートイネーブル信号が1レベルの時は前記位相差指令としてφ*を出力し、前記ゲートイネーブル信号が0レベルの時は前記位相差指令として零を出力することを特徴とする。
【0010】
また、その一態様として、前記位相差指令切替部は、前記ゲートイネーブル信号が1レベルで、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記位相差指令をφ*にして保持し、前記ゲートイネーブル信号が0レベルで、かつ、前記キャリア信号が山頂点または谷頂点となった時点で前記位相差指令を零にして保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、双方向絶縁型DC/DCコンバータにおいて、追加のハードウェアを必要とすることなく、初期駆動時における直流成分を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1~3における双方向絶縁型DC/DCコンバータの回路構成図。
図2】従来技術における制御部を示すブロック図。
図3】実施形態1における制御部を示すブロック図。
図4】実施形態1における各波形を示すタイムチャート。
図5】実施形態2における制御部を示すブロック図。
図6】実施形態2における各波形を示すタイムチャート。
図7】実施形態3における制御部を示すブロック図。
図8】実施形態3における各波形を示すタイムチャート。
図9】従来技術における動作波形を示すタイムチャート。
図10】実施形態1における動作波形を示すタイムチャート。
図11】実施形態2における動作波形を示すタイムチャート。
図12】実施形態2における動作波形を示すタイムチャート。
図13】実施形態3における動作波形を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明における双方向絶縁型DC/DCコンバータの実施形態1~3を図1図13に基づいて詳述する。
【0014】
[実施形態1]
図1に本実施形態1の制御方法を適用するDual Active Bridge方式の双方向絶縁型DC/DCコンバータの主回路構成を示す。
【0015】
図1に示すように、第1直流電圧DC1の正極端と負極端との間には第1,第2半導体スイッチング素子1a,1bが直列接続される。また、第1直流電圧DC1の正極端と負極端との間には第3,第4半導体スイッチング素子1c,1dが直列接続される。第1~第4半導体スイッチング素子1a~1dが第1インバータを構成する。
【0016】
第1,第2半導体スイッチング素子1a,1bの接続点は、第1インダクタL1を介してトランスTrの1次巻線の一端に接続される。第3,第4半導体スイッチング素子1c,1dの接続点は、トランスTrの1次巻線の他端に接続される。すなわち、第1インバータの交流側にトランスTrの1次巻線が接続される。
【0017】
第2直流電圧DC2の正極端と負極端との間には第5,第6半導体スイッチング素子2a,2bが直列接続される。また、第2直流電圧DC2の正極端と負極端との間には第7,第8半導体スイッチング素子2c,2dが直列接続される。第5~第8半導体スイッチング素子2a~2dが第2インバータを構成する。
【0018】
第5,第6半導体スイッチング素子2a,2bの接続点は、第2インダクタL2を介してトランスTrの2次巻線の一端に接続される。第7,第8半導体スイッチング素子2c,2dの接続点は、トランスTrの2次巻線の他端に接続される。すなわち、第2インバータの交流側にトランスTrの2次巻線が接続される。
【0019】
なお、第1,第2インダクタL1,L2は省略し、トランスTrの漏れインダクタンスのみとしても良い。また、第1,第2インバータは、フルブリッジインバータの他、ハーフブリッジインバータでもよい。
【0020】
図2に従来法の制御ブロック図を示す。位相差指令φ*は、電力制御、電圧制御や電流制御から出力される値である。キャリア生成部3はアップダウンカウントによりキャリア信号と矩形波を生成する。
【0021】
被比較波生成部20は、ゲイン乗算部1と、リミッタ2と、乗算器4a,4bと、乗算器5と、を備える。被比較波生成部20は、位相差指令φ*と矩形波に基づいて被比較波を生成する。
【0022】
ゲイン乗算部1は、位相差指令φ*にゲインを乗算し、出力αを計算する。ここでは、ゲインを1/πとしている。リミッタ2は、出力αを-0.5から0.5の範囲に制限する。
【0023】
乗算器4a,4bは、リミッタ2の出力に矩形波を乗算し、被比較波を生成する。なお、各インバータの被比較波は180°の位相差を持たせるために片側の乗算器4bの入力を乗算器5で-1倍している。乗算器4aの出力を被比較波βとし、乗算器4bの出力を被比較波γとする。
【0024】
PWM制御部21は、比較器6a~6dと、NOT素子7a~7dと、デッドタイム生成部8a~8hと、を備える。PWM制御部21は、キャリア信号と被比較波との比較に基づいてゲート信号を生成する。
【0025】
具体的には、比較器6a~6dは、キャリア信号と被比較波β,γを比較する。NOT素子7a~7dは、上下アームで反転した信号を生成するため、比較器6a~6dの出力を反転させる。デッドタイム生成部8a~8hは、比較器6a~6dおよびNOT素子7a~7dの出力にデッドタイムを付加する。
【0026】
AND素子(ゲート信号出力部)9a~9hは、デッドタイム生成部8a~8hの出力と駆動開始信号との論理積を求める。AND素子9a~9hの出力がゲート信号として第1~第8半導体スイッチング素子1a~1d,2a~2dに出力される。駆動開始信号が0の場合はすべての半導体スイッチング素子はOFF状態になる。
【0027】
図3に本実施形態1における制御部のブロックを示す。本実施形態1は初期駆動時の位相差指令の設定およびゲート信号出力タイミングの同期方法に特徴がある。本実施形態1の制御部は従来技術の制御部に以下の構成を追加している。
【0028】
セレクタ(位相差指令切替部)10は、位相差指令としてφ*と零とを切り替えて出力する。セレクタ10は、装置停止時は零、初期駆動信号が入力されたら位相差指令φ*を出力する。
【0029】
移動平均部(ランプアップ部)11は、入力した位相差指令が零からφ*に切り替わった時、位相差指令をあらかじめ設定した時間で移動平均処理を行い、出力を零からφ*に徐々に増加させて補正後位相差指令として出力する。
【0030】
キャリア生成部3は、キャリア信号と矩形波とトリガ信号を出力する。矩形波は、キャリア信号のアップカウント時に-1、ダウンカウント時に1となる信号である。トリガ信号は、キャリア信号の山頂点と谷頂点のタイミングでHighとなる信号である。本実施形態1の被比較波生成部20は、補正後位相差指令と矩形波に基づいて被比較波を生成する。
【0031】
Dフリップフロップ(ゲートイネーブル信号生成部)12は、初期駆動信号とトリガ信号を入力し、ゲートイネーブル信号flgを出力する。装置停止時はゲートイネーブル信号を0レベルとし、装置が初期駆動を開始し、かつ、キャリア信号の山頂点または谷頂点となった時点でゲートイネーブル信号を1レベルにして保持する。すなわち、ゲートイネーブル信号flgのレベル変化のタイミングを、キャリア信号の山頂点もしくは谷頂点のタイミングと同期させる。
【0032】
本実施形態1は初期駆動信号と同じタイミングで位相差指令φ*の出力が開始される。また、初期駆動信号が1レベルとなり、キャリア信号が山頂点、または、谷頂点となった時点でゲート信号の出力が開始される。駆動中は所望の位相差を常に達成するようにDual Active Bridgeを駆動する。
【0033】
位相差指令φ*は一般的な電圧制御や電流制御の他に、非特許文献1で示されている伝送電力の以下の(1)式により求めてもよい。
【0034】
【数1】
【0035】
ただし、Pは伝送電力、E1は第1直流電圧、E2は第2直流電圧、Nはトランス巻数比、ωはスイッチング角周波数、φは各インバータ出力電圧の位相差(位相差範囲は-π/2≦φ≦π/2)、Lは1次側に等価換算したインダクタとトランスの漏れインダンクタンスの和である。
【0036】
その後、被比較波β,γがキャリア信号の振幅となるように移動平均部11の出力に対して1/πを乗算する。なお、その値を矩形波と乗算することで矩形波の振幅が位相指令値となる。
【0037】
本実施形態1ではDフリップフロップ12を用いてゲートイネーブル信号のタイミングをキャリア信号の山頂点もしくは谷頂点と同期させる。励磁電流の直流重畳を抑制するために励磁電流がゼロとなるタイミングとゲートイネーブル信号を同期させる。
【0038】
Dual Active Bridge方式において、各インバータの出力電圧は方形波であるため、励磁電流は三角波となる。したがって、方形波の立ち上がりのタイミングをθ=0radとした場合、励磁電流iLmは以下の(2)式で計算できる。
【0039】
【数2】
【0040】
ただし、fswはスイッチング周波数、Lmは励磁インダクタンスである。(2)式から励磁電流iLmがゼロとなる位相はθ=π/2,3π/2となる。これは方形波電圧の正もしくは負電圧期間の中間点である。また、方形波電圧の正期間の中間点がキャリア信号の谷頂点に負期間の中間点がキャリア信号の山頂点と同期している。したがって、本実施形態1では図4に示すように、ゲートイネーブル信号flgをキャリア信号の山頂点もしくは谷頂点に同期させる。
【0041】
また、位相差指令φ*が急峻に変化するとトランスおよびインダクタ電流に直流重畳が発生する。そのため、図4に示すように、位相差指令を零から所望のφ*にランプアップさせることで、位相差指令φ*(補正後位相差指令)の急峻な変化を抑制し、インダクタ電流の直流重畳を低減できる。
【0042】
以上示したように、本実施形態1によれば、Dual Active Bridge駆動時の高周波トランスに流れる励磁電流の直流成分を抑制することが可能となる。また、トランスの磁気飽和を防ぐことができ、トランス鉄心断面積の低減・小型化を図ることが可能となり、突入電流発生・機器破損を抑制できる。
【0043】
[実施形態2]
図5に本実施形態2における制御部のブロック図を示す。本実施形態2では、セレクタ(位相差指令切替部)10の出力信号変更を初期駆動信号ではなくゲートイネーブル信号flgで行う。
【0044】
実施形態1では、スイッチング周波数が低くなると、図4に示すように初期駆動信号とゲートイネーブル信号flgのずれが大きくなるため、初期駆動直後に位相差指令値がゼロとならず、初期駆動時にインダクタ電流に直流成分が重畳する。
【0045】
本実施形態2では、位相差指令を0からφ*に変更するタイミングをゲートイネーブル信号flgに同期させる。すなわち、ゲートイネーブル信号が1レベルの時は位相差指令としてφ*を出力し、ゲートイネーブル信号が0レベルの時は位相差指令として0を出力する。
【0046】
これにより、ゲート信号出力と位相差指令φ*のランプアップ開始が同期し、Dual Active Bridgeの駆動時における励磁電流とインダクタ電流の直流重畳を抑制できる。
【0047】
本実施形態2によれば、位相差指令φ*の変更をゲート信号出力のタイミングと同期させることでインダクタ電流の直流成分を抑制できる。トランスやインダクタの銅損、Dual Active Bridge方式の導通損を低減できる。特にスイッチング周波数が低い場合に直流成分の抑制効果が大きい。
【0048】
[実施形態3]
図7に本実施形態3における制御部のブロック図を示す。本実施形態3では、実施形態2における制御部に対して、セレクタ10と移動平均部11の間にDフリップフロップ13を追加したものである。Dフリップフロップ13は、位相差指令がφ*(ゲートイネーブル信号が1レベル)で、かつ、キャリア信号が山頂点、または、谷頂点となった時点で位相差指令をφ*として出力し保持する。また、Dフリップフロップ13は、位相差指令が0(ゲートイネーブル信号が0レベル)で、かつ、キャリア信号が山頂点、または、谷頂点となった時点で位相差指令を0として出力し保持する。本実施形態3では、セレクタ10とDフリップフロップ13とで位相差指令切替部を構成する。
【0049】
実施形態2の図6に示すように、移動平均部11の周期が短い場合は位相差指令の更新直後にキャリア信号と被比較波の大小関係(位相差指令値)が変化するため、半導体スイッチング素子のオン期間とオフ期間の差(図6中Toff_2とTon_2の差)が大きくなる可能性がある。この差はインバータ出力電圧の直流分の原因となり、高周波トランスおよびインダクタ電流の直流成分増加を招く。
【0050】
本実施形態3では、Dフリップフロップ13により、位相差指令を更新するタイミングをキャリア信号の山頂点と谷頂点に同期させる。
【0051】
本実施形態3により、図8に示すように位相差指令の更新直後(被比較波の最大値はキャリア信号のピーク値に対して半分の値である)はキャリア信号の現在値が被比較波よりも大きく、オン期間の変化量が小さくなる。したがって、インダクタ電流の直流成分を抑制できる。
【0052】
本実施形態3によれば、移動平均の周期がスイッチング周期より短い条件であっても位相差指令変更時に発生する直流成分も抑制することができる。また、Dual Active Bridgeの応答速度を高め、性能を向上させることができる。
【0053】
図9に初期駆動時における従来法の動作波形を示す。インバータ出力電圧が発生するタイミングと位相差指令の更新タイミングとゲート信号を出力するタイミングがキャリア信号の山頂点もしくは谷頂点に同期しておらず、励磁電流におよびインダクタ電流に直流成分が重畳している。
【0054】
図10に駆動時における実施形態1の動作波形を示す。位相差指令φ*をランプアップさせ、かつ、ゲート信号を出力するタイミングがキャリア信号の山頂点もしくは谷頂点に同期しており、励磁電流の直流成分を抑制している。しかし、ゲートイネーブル信号と位相差指令の変更タイミングが非同期であるため、インダクタ電流の平均値がゼロになっておらず、インダクタ電流に直流成分が重畳している。
【0055】
図11および図12に駆動中における実施形態2の動作波形を示す。図11は移動平均部11の周期がスイッチング周期の2倍、図12は移動平均部11の周期がスイッチング周期の0.5倍の波形である。図11ではインダクタ電流の直流重畳が図10と比較して低減している。しかし、図12のように、移動平均部11の周期が短くなると(具体的にはスイッチング周期の1倍以下)インダクタ電流の直流成分が増加する。
【0056】
図13に駆動中における実施形態3の動作波形を示す。位相差指令φ*の更新タイミングをキャリア信号の山頂点もしくは谷頂点と同期することで移動平均部11の周期が短い条件であってもインダクタ電流の直流成分を抑制している。
【0057】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0058】
1…ゲイン乗算部
2…リミッタ
3…キャリア生成部
4a,4b,5…乗算器
6a~6d…比較器
7a~7d…NOT素子
8a~8h…デッドタイム生成部
9a~9h…AND素子(ゲート信号出力部)
10…セレクタ(位相差指令切替部)
11…移動平均部(ランプアップ部)
12…Dフリップフロップ(ゲートイネーブル信号生成部)
13…Dフリップフロップ
20…被比較波生成部
21…PWM制御部
DC1,DC2…第1,第2直流電圧
1a~1d,2a~2d…第1~第8半導体スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13