IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソニー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁気記録媒体 図1
  • 特許-磁気記録媒体 図2
  • 特許-磁気記録媒体 図3
  • 特許-磁気記録媒体 図4
  • 特許-磁気記録媒体 図5
  • 特許-磁気記録媒体 図6
  • 特許-磁気記録媒体 図7
  • 特許-磁気記録媒体 図8
  • 特許-磁気記録媒体 図9
  • 特許-磁気記録媒体 図10
  • 特許-磁気記録媒体 図11
  • 特許-磁気記録媒体 図12
  • 特許-磁気記録媒体 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20231031BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20231031BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20231031BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20231031BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20231031BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20231031BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20231031BHJP
   G11B 23/30 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/714
G11B5/78
G11B5/706
G11B5/73
G11B5/738
G11B5/735
G11B23/30 E
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020130422
(22)【出願日】2020-07-31
(62)【分割の表示】P 2020006553の分割
【原出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021114352
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】潟口 嵩
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 奈津貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-170604(JP,A)
【文献】特許第6610828(JP,B1)
【文献】特許第6635224(JP,B1)
【文献】特許第6645613(JP,B1)
【文献】特許第6635220(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/714
G11B 5/78
G11B 5/706
G11B 5/73
G11B 5/738
G11B 5/735
G11B 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に設けられ、磁性粉を含む磁性層と
を備えており、
前記磁性粉は六方晶フェライト粒子を含み、
前記磁性粉の平均粒子体積Vが1500nm 3 以下であり
気記録媒体の熱安定性Ku act /kBTが60以上であり、
パルス磁界を用いて測定した前記磁気記録媒体の残留保磁力Hrpと前記磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が、2.10以下である、
テープ状の磁気記録媒体。
【請求項2】
前記基体はポリエステルを含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
磁気記録媒体の平均厚みt は5.3μm以下である、請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
磁気記録媒体の平均厚みt は5.0μm以下である、請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記熱安定性Kuact/kBTが63以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記熱安定性Kuact/kBTが65以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記比Hrp/Hc1が、2.05以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記比Hrp/Hc1が、2.00以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記六方晶フェライトが、Ba、Sr、およびCaのうちの少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記六方晶フェライトがストロンチウムフェライトを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記磁性粉のアスペクト比が1.0以上3.0以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDが、-0.30dB≦SDである、請求項1~11のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
前記磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDが、-0.25dB≦SDである、請求項1~11のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
前記磁性層の平均厚みtが、30nm≦t≦90nmである、請求項1~13のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
前記保磁力Hc1が500Oe以上である、請求項1~14のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
前記基体の平均厚みが4.2μm以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
前記磁性層と前記基体との間に下地層が設けられており、
前記下地層の平均厚みが2.0μm以下である、
請求項1~16のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項18】
前記基体の2つの面のうち、前記磁性層が設けられている側の面と反対側の面に、バック層が設けられており、
前記バック層の平均厚みが0.6μm以下である、
請求項1~17のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項19】
前記磁性粉の平均粒子サイズが50nm以下である、請求項1~18のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載のテープ状の磁気記録媒体と、
記録再生装置と通信を行う通信部と、
記憶部と、
通信部を介して記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、記録再生装置の要求に応じて、記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備え、
前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含む
テープカートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばIoT、ビッグデータ、及び人工知能などの発展に伴い、収集及び保存されるデータの量が大幅に増加している。大量のデータを記録するための媒体として、しばしば磁気記録媒体が用いられる。
【0003】
磁気記録媒体に関して、これまでに種々の技術が提案されている。例えば磁気記録媒体に含まれる磁性粉に関する技術として、下記特許文献1には、少なくとも、非磁性支持体上に、強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性塗料を塗布することによって形成された磁性層を有する磁気記録媒体であって、上記磁性層中に、カルボキシル基と、少なくとも1以上のヒドロキシル基とを分子中に有し、芳香環が2個以上の場合には縮合環である芳香族化合物を、上記強磁性粉末100〔重量部〕に対し、0.4〔重量部〕~10〔重量部〕含有してなることを特徴とする磁気記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-373413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録媒体の記録密度を高めるために、磁気記録媒体に含まれる磁性粉の粒子体積をより小さくすることが考えられる。しかしながら、磁性粉の粒子体積がより小さくなるにつれて、磁気記録媒体の保存安定性が低下し、当該保存安定性の低下は、特には長期間にわたって磁気記録媒体が保存される場合に問題となりうる。
そこで、本開示は、磁性粉の粒子体積が小さい場合であっても保存安定性に優れている磁気記録媒体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、基体と、
前記基体上に設けられ、磁性粉を含む磁性層と
を備えており、
前記磁性粉は六方晶フェライト粒子を含み、
前記磁性粉の平均粒子体積Vが1500nm 3 以下であり
気記録媒体の熱安定性Kuact/kBTが60以上であり、
パルス磁界を用いて測定した前記磁気記録媒体の残留保磁力Hrpと前記磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が、2.10以下である、
テープ状の磁気記録媒体を提供する。
前記基体はポリエステルを含みうる。
磁気記録媒体の平均厚みt は5.3μm以下でありうる。
磁気記録媒体の平均厚みt は5.0μm以下でありうる。
前記熱安定性Kuact/kBTが63以上でありうる。
前記熱安定性Kuact/kBTが65以上でありうる。
前記比Hrp/Hc1は、2.05以下でありうる。
前記比Hrp/Hc1は、2.00以下でありうる。
前記磁性粉は六方晶フェライトを含みうる。
前記六方晶フェライトが、BaおよびSrのうちの少なくとも1種を含みうる。
前記六方晶フェライトがストロンチウムフェライトを含みうる。
前記磁性粉のアスペクト比が1.0以上3.0以下でありうる。
前記磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDは、-0.30dB≦SDでありうる。
前記磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDは、-0.25dB≦SDでありうる。
前記磁性層の厚みtは、30nm≦t≦90nmでありうる。
前記保磁力Hc1は500Oe以上でありうる。
前記基体の平均厚みは4.2μm以下でありうる。
前記磁性層と前記基体との間に下地層が設けられていてよく、
前記下地層の平均厚みが2.0μm以下でありうる。
前記基体の2つの面のうち、前記磁性層が設けられている側の面と反対側の面に、バック層が設けられていてよく、
前記バック層の平均厚みが0.6μm以下でありうる。
前記磁性粉の平均粒子サイズが50nm以下でありうる。
本開示は、前記磁気記録媒体と、
記録再生装置と通信を行う通信部と、
記憶部と、
通信部を介して記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、記録再生装置の要求に応じて、記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備え、
前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含む
テープカートリッジも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】磁化曲線及び残留磁化曲線の例を示す図である。
図2】本開示の一実施形態に係る磁気記録媒体の断面図である。
図3図3Aは、データバンドおよびサーボバンドのレイアウトの概略図である。図3Bは、データバンドの拡大図である。
図4】磁性層のTEM写真の例である。
図5】磁性粒子の構成を示す断面図である。
図6】変形例における磁性粒子の構成を示す断面図である。
図7】M-Hループの一例を示すグラフである。
図8】残留磁化曲線の一例である。
図9】記録再生装置の概略図である。
図10】カートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
図11】カートリッジメモリの構成の一例を示すブロック図である。
図12】変形例の磁気記録媒体の断面の模式図である。
図13図13Aは、波長λでデータ信号を記録した場合のMFM像を示す。図13Bは、最短記録波長L’でデータ信号を記録した場合のMFM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態を示したものであり、本開示の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0009】
本開示について、以下の順序で説明を行う。
1.本開示の説明
2.実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)
(1)磁気記録媒体の構成
(2)磁気記録媒体の製造方法
(3)記録再生装置
(4)カートリッジ
(5)効果
(6)変形例
3.実施例
【0010】
1.本開示の説明
【0011】
本開示の磁気記録媒体は、特定の粒子体積を有する磁性粉を含む磁性層を有し、平均厚み及び熱安定性Kuact/kBTが特定の数値範囲内にあり、且つ、パルス磁界を用いて測定した前記磁気記録媒体の残留保磁力Hrpと前記磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が特定の数値範囲内にある。これによって、本開示の磁気記録媒体は、磁性粉の粒子体積が小さいにも関わらず、保存安定性に優れている。さらに、本開示の磁気記録媒体は電磁変換特性にも優れている。熱安定性Kuact/kBT及び残留保磁力Hrpについて、以下でより詳細に説明する。
【0012】
磁気記録媒体に含まれる磁性粉の粒子体積がより小さくなるにつれて、記録密度がより高くなり、さらには、電磁変換特性も向上しうる。しかしながら、前記粒子体積がより小さくなることによって、磁気記録媒体(具体的には磁性層)に記録された磁化が、熱エネルギーによって失われやすくなり、これは、データ信号の減衰をもたらしうる。このように、磁気記録媒体に含まれる磁性粉の粒子体積がより小さくなるにつれて、磁気記録媒体の熱に対する安定性(熱安定性ともいう)が低下し、磁気記録媒体の保存安定性が低下しうる。また、熱安定性を維持しようとすると、情報の容易な書き直しが困難になる。このように、磁性粉の粒子体積の低下は、記録密度の向上及び電磁変化特性の向上をもたらす一方で、保存安定性の低下をもたらし、さらには情報の書き直しを困難にすることもある。
【0013】
磁気記録媒体の熱安定性と保磁力との関係は、以下に示されるBean’s方程式により表すことができる。
【数1】
この方程式において、Vact=磁気記録媒体に含まれる磁性粉の活性化体積、Hc=保磁力、Ku=結晶磁気異方性、M=磁化量、kB=ボルツマン定数、且つ、T=温度である。
この方程式に含まれるパラメータから構成されるKuact/kBTが熱安定性の指標値として知られており、この値が高いほど熱安定性が高い。熱安定性Kuact/kBTから分かるとおり、磁性粉を微細化すること、すなわち磁性粉の粒子体積を小さくすることは、熱安定性の低下をもたらす。熱安定性の低下は磁気記録媒体の保存安定性の低下をもたらし、これは、磁気記録媒体が長期間にわたって保存される場合に特に問題となる。
【0014】
本開示の磁気記録媒体は、熱安定性Kuact/kBTが60以上であり、好ましくは63以上、より好ましくは65以上であり、更に好ましくは70以上である。本開示の磁気記録媒体は、その熱安定性Kuact/kBTが上記数値範囲内にあることによって、熱安定性に優れており、これにより保存安定性に優れており、長期保存における安定性にも優れている。さらに、当該磁気記録媒体は、出力信号の観点からも優れている。
【0015】
また、前記残留保磁力Hrp、特には前記残留保磁力Hrpと磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1も、磁性粉の平均粒子体積が小さい磁気記録媒体の保存安定性の向上に貢献する。
【0016】
残留保磁力Hrpについて、図1を参照しながら以下に説明する。
垂直方向における保磁力Hc1は、従来から用いられている指標であり、これを測定するために、例えば磁力計による測定結果に基づきM-Hループ(磁化曲線)が作成される。M-Hループの例が図1に示されている。図1に示されるとおり、当該M-HループがX軸(磁界)を横切る位置での磁界が前記保磁力Hc1である。当該測定のために用いられる磁界掃引速度は遅い。
残留保磁力Hrpは、前記保磁力Hc1の測定と異なり、パルス状の磁界を用いて測定される。すなわち、当該測定は、速い磁界掃引速度を用いて行われる。当該測定では、当該パルス状の磁界を用いて得られた磁化量に基づき磁化曲線を作成する。当該磁化曲線を残留磁化曲線と呼ぶ。残留磁化曲線の例も、図1に示されている。この残留磁化曲線がX軸(磁界)を横切る位置での磁界が、図1において「Hrp」で示されており、当該磁界が残留保磁力である。
本発明者らは、前記保磁力Hc1と残留保磁力Hrpとの差が小さいことによって、より具体的には残留保磁力Hrpと前記保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が特定の数値範囲内にあることによって、磁気記録媒体の熱安定性が向上されることを見出した。
なお、残留保磁力Hrpの測定は、上記のとおり速い磁界掃引速度を用いて行われる。この速い磁界掃引速度は、前記保持力Hc1の測定において用いられる遅い磁界掃引速度と比べて、磁気記録媒体の記録において印可される磁界により近い。この観点からも、残留保磁力Hrpは有用な指標であると考えられる。
【0017】
本開示の磁気記録媒体の、前記残留保磁力Hrpと前記保磁力Hc1との比率Hrp/Hc1は、2.10以下であり、好ましくは2.05以下であり、より好ましくは2.00以下であり、さらにより好ましくは1.95以下、1.90以下、又は1.85以下であってもよい。前記比率Hrp/Hc1が上記数値範囲内にあることによって、本開示の磁気記録媒体は優れた保存安定性を有し、これにより例えば長期保存時の信号減衰を防ぐことができる。さらに、前記比率Hrp/Hc1が上記数値範囲内にあることによって、磁気記録媒体に含まれる磁性粉の平均粒子体積が小さい場合であっても、安定して記録再生を行うことができる。
【0018】
さらに、本開示の磁気記録媒体に含まれる磁性粉の平均粒子体積Vは2000nm3以下であり、好ましくは1900nm3以下であり、より好ましくは1800nm3以下であり、さらにより好ましくは1700nm3以下、1600nm3以下、又は1500nm3以下であってもよい。当該平均粒子体積が上記数値範囲内にあることによって、電磁変換特性が向上される。本開示の磁気記録媒体に含まれる磁性粉の平均粒子体積はこのように非常に小さいにもかかわらず、本開示の磁気記録媒体は上記のとおり保存安定性に優れている。電磁変換特性及び保存安定性の両立は難しいところ、本開示によって電磁変換特性及び保存安定性の両方を向上させることができる。
【0019】
本開示の磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDは、好ましくは-0.30dB≦SDであり、より好ましくは-0.25dB≦SDであり、さらにより好ましくは-0.20dB≦SD、-0.15dB≦SD、又は-0.10dB≦SDであってもよい。本開示の磁気記録媒体のデータ記録後100秒経過時における信号減衰量SDは、上記のとおり小さいものでありうる。そのため、本開示の磁気記録媒体は、データ保存安定性に優れており、長期間にわたるデータ保存安定性にも優れている。当該信号減衰量SDの測定方法は、本明細書内以下で説明されている。信号減衰量SDが長期保存安定性の指標となることは、当該説明において記載されるとおり、信号減衰量算出時に対数プロットにして外挿されていることから分かる。
本開示の磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDは、例えばSD≦0であってよい。
【0020】
本開示の磁気記録媒体の平均厚みtは、好ましくは5.3μm以下であり、より好ましくは5.2μm以下であり、さらにより好ましくは5.1μm以下、5.0μm以下、4.8μm以下、又は4.6μm以下でありうる。本開示の磁気記録媒体はこのように全厚が薄いものであってよい。本開示の磁気記録媒体の全厚をこのように薄くすることによって、例えば1つの磁気記録カートリッジ中に巻き取られるテープ長をより長くすることができ、これにより1つの磁気記録カートリッジ当たりの記録容量を高めることができる。すなわち、本開示によって、電磁変換特性及び保存安定性の向上に加えて、記録容量も向上することができる。
本開示に従う磁気記録媒体の幅は、例えば5mm~30mmであり、特には7mm~25mmであり、より特には10mm~20mm、さらにより特には11mm~19mmでありうる。本開示に従うテープ状磁気記録媒体の長さは、例えば500m~1500mでありうる。例えばLTO8規格に従うテープ幅は12.65mmであり、長さは960mである。
【0021】
本開示に従う磁気記録媒体はテープ状であり、例えば長尺状の磁気記録テープでありうる。本開示に従うテープ状磁気記録媒体は、例えば磁気記録カートリッジ内に収容されていてよい。より具体的には、当該磁気記録カートリッジ内のリールに巻き付けられた状態で、当該カートリッジ内に収容されていてよい。
【0022】
本開示の一つの好ましい実施態様において、本開示の磁気記録媒体は、磁性層、下地層、基体(ベース層ともいう)、及びバック層を備えていてよい。これら4層は、この順に積層されていてよい。本開示に従う磁気記録媒体は、これらの層に加えて、他の層を含んでいてもよい。当該他の層は、磁気記録媒体の種類に応じて適宜選択されてよい。本開示に従う磁気記録媒体は、例えば塗布型の磁気記録媒体でありうる。前記塗布型の磁気記録媒体について、以下2.においてより詳細に説明する。
【0023】
2.実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)
【0024】
(1)磁気記録媒体の構成
【0025】
まず、図2を参照して、一実施形態に係る磁気記録媒体10の構成について説明する。磁気記録媒体10は、長尺状の基体11と、基体11の一方の主面上に設けられた下地層12と、下地層12上に設けられた磁性層13と、基体11の他方の主面上に設けられたバック層14とを備える。なお、下地層12およびバック層14は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。
【0026】
磁気記録媒体10は長尺のテープ状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。なお、磁性層13の表面が、磁気ヘッドが走行される表面となる。磁気記録媒体10は、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置で用いられることが好ましい。なお、本明細書において、“垂直方向”とは、磁気記録媒体10の表面に対して垂直な方向(磁気記録媒体10の厚み方向)を意味し、“長手方向”とは、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)を意味する。
【0027】
(基体)
基体11は、下地層12および磁性層13を支持する非磁性支持体である。基体11は、長尺のフィルム状を有する。基体11の平均厚みは、好ましくは4.2μm以下、より好ましくは3.8μm以下、さらにより好ましくは3.4μm以下である。基体11の平均厚みが4.2μm以下であると、一つのデータカートリッジに記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。基体11の平均厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上である。基体11の平均厚みが3μm以上であると、基体11の強度低下を抑制することができる。
【0028】
基体11の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの基体11以外の層(すなわち下地層12、磁性層13及びバック層14)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプル(基体11)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体11の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0029】
基体11は、例えば、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含む。基体11が上記材料のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。
【0030】
ポリエステル類は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。
【0031】
ポリオレフィン類は、例えば、PE(ポリエチレン)およびPP(ポリプロピレン)のうちの少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)およびCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)およびPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0032】
その他の高分子樹脂は、例えば、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)およびPU(ポリウレタン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0033】
基体11は、例えば、ポリエステルを主たる成分として含む。前記ポリエステルは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)、及びポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。本明細書内において、「主たる成分」とは、基体を構成する成分のうち最も含有割合が高い成分であることを意味する。例えば基体11の主たる成分がポリエステルであることは、基体11中のポリエステルの含有割合が例えばベース層11の質量に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、若しくは98質量%以上であることを意味してよく、又は、ベース層11がポリエステルのみから構成されることを意味してもよい。
この実施態様において、基体11は、ポリエステルに加えて、以下で述べるポリエステル以外の樹脂を含んでもよい。
本技術の好ましい実施態様に従い、基体11は、PET又はPENから形成されてよい。
【0034】
(磁性層)
磁性層13は、信号を記録するための記録層である。磁性層13は、例えば、磁性粉および結着剤を含む。磁性層13が、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、研磨剤、硬化剤、防錆剤および非磁性補強粒子等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0035】
磁性層13は、図3Aに示すように、複数のサーボバンドSBと複数のデータバンドDBとを予め有していることが好ましい。複数のサーボバンドSBは、磁気記録媒体10の幅方向に等間隔で設けられている。隣り合うサーボバンドSBの間には、データバンドDBが設けられている。サーボバンドSBには、磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が予め書き込まれている。データバンドDBには、ユーザデータが記録される。
【0036】
磁性層13の表面の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの割合RS(=(SSB/S)×100)は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらにより好ましくは2.0%以下である。一方、磁性層13の表面の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの割合RSは、5以上のサーボトラックを確保する観点から、好ましくは0.8%以上である。
【0037】
磁性層13の表面全体の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの比率RSは、以下のようにして求められる。例えば、磁気記録媒体10を、フェリコロイド現像液(株式会社シグマハイケミカル製、シグマーカーQ)を用いて現像し、その後、現像した磁気記録媒体10を光学顕微鏡で観察し、サーボバンド幅WSBおよびサーボバンドSBの本数を測定する。次に、以下の式から割合RSを求める。
割合RS[%]=(((サーボバンド幅WSB)×(サーボバンド本数))/(磁気記録媒体10の幅))×100
【0038】
サーボバンドSBの数は、好ましくは5以上、より好ましくは5+4n(但し、nは正の整数である。)以上、さらにより好ましくは9+4n以上である。サーボバンドSBの数が5以上であると、磁気記録媒体10の幅方向の寸法変化によるサーボ信号への影響を抑制し、よりオフトラックが少ない安定した記録再生特性を確保できる。サーボバンドSBの数は、特に限定されるものではないが、例えば33以下である。
【0039】
サーボバンドSBの数は以下のようにして確認可能である。まず、磁性層13の表面を磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察し、MFM像を取得する。次に、MFM像を用いてサーボバンドSBの数をカウントする。
【0040】
サーボバンド幅WSBは、高記録容量を確保する観点から、好ましくは95μm以下、より好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは30μm以下である。サーボバンド幅WSBは、好ましくは10μm以上である。10μm未満のサーボバンド幅WSBのサーボ信号を読み取り可能な記録ヘッドの製造は、困難を伴いうる。
【0041】
サーボバンド幅WSBの幅は以下のようにして求められる。まず、磁性層13の表面を、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察し、MFM像を取得する。次に、MFM像を用いてサーボバンド幅WSBの幅を測定する。
【0042】
磁性層13は、図3Bに示すように、データバンドDBに複数のデータトラックTkを形成可能に構成されている。データトラック幅Wは、高記録容量を確保する観点から、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらにより好ましくは1.0μm以下である。データトラック幅Wは、好ましくは0.02μm以上である。
【0043】
データトラック幅Wは以下のようにして求められる。例えば、データが全面に記録された磁性層13のデータバンド部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は10μm×10μmとし、当該10μm×10μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの10μm×10μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られた3つのMFM像から、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて、トラック幅を10ヶ所測定し平均値(単純平均である)をとる。当該平均値が、データトラック幅Wである。なお、前記MFMの測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0044】
磁性層13は、磁化反転間距離の最小値Lとデータトラック幅Wが好ましくはW/L≦200、より好ましくはW/L≦60、さらにより好ましくはW/L≦45、特に好ましくはW/L≦30となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lが一定値であり、磁化反転間距離の最小値Lとトラック幅WがW/L>200であると(すなわちトラック幅Wが大きいと)、トラック記録密度が上がらないため、記録容量を十分に確保できなくなる虞がある。また、トラック幅Wが一定値であり、磁化反転間距離の最小値Lとトラック幅WがW/L>200であると(すなわち磁化反転間距離の最小値Lが小さいと)、ビット長さが小さくなり、線記録密度が上がるが、スペーシングロスの影響により、SNRが著しく悪化してしまう虞がある。したがって、記録容量を確保しながら、SNRの悪化を抑えるためには、上記のようにW/LがW/L≦60の範囲にあることが好ましい。但し、W/Lは上記範囲に限定されるものではなく、W/L≦23またはW/L≦13であってもよい。W/Lの下限値は特に限定されるものではないが、例えば1≦W/Lである。
【0045】
磁性層13は、高記録容量を確保する観点から、磁化反転間距離の最小値Lが好ましくは55nm以下、より好ましくは53nm以下、さらにより好ましくは52nm以下、50nm以下、48nm以下、又は44nm以下、特に好ましくは40nm以下となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。磁化反転間距離の最小値Lは、磁性粒子サイズによって考慮される。
【0046】
磁化反転間距離の最小値Lは以下のようにして求められる。例えば、データが全面に記録された磁性層13のデータバンド部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離の最小値Lとする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0047】
磁性層13の平均厚みtは、好ましくは90nm以下、特に好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下、さらにより好ましくは50nm以下である。磁性層13の平均厚みが90nm以下であると、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層13の厚み方向に均一に磁化を記録できるため、電磁変換特性(例えばSNR(Signal-to-Noise Ratio))を向上することができる。
磁性層13の平均厚みtは、好ましくは30nm以上、より好ましくは35nm以上である。磁性層13の平均厚みが30nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、電磁変換特性(例えばSNR)を向上することができる。
磁性層13の平均厚みの数値範囲は、上記上限値のいずれかと上記下限値のいずれかとにより規定されてよく、好ましくは30nm≦t≦90nmであり、35nm≦t≦80nmであり、又は35nm≦t≦70nmであってよい。
【0048】
磁性層13の平均厚みは、例えば、以下のようにして求められる。
磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片化サンプルの前記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率及び加速電圧は適宜調整されてよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向の少なくとも10点以上の位置で磁性層13の厚みを測定する。得られた測定値を単純に平均(算術平均)して得られた平均値を磁性層13の平均厚み[nm]とする。なお、前記測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0049】
(磁性粉)
【0050】
磁性層13に含まれる磁性粉をなす磁性粒子として、例えば六方晶フェライト、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)、Co含有スピネルフェライト、ガンマヘマタイト、マグネタイト、二酸化クロム、コバルト被着酸化鉄、及びメタル(金属)などを挙げることができるが、これらに限定されない。前記磁性粉は、これらのうちの1種であってよく、又は、2種以上の組合せであってもよい。好ましくは、前記磁性粉は、六方晶フェライト、ε酸化鉄、又はCo含有スピネルフェライトを含みうる。特に好ましくは、前記磁性粉は、六方晶フェライトである。前記六方晶フェライトは、特に好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種を含みうる。前記ε酸化鉄は、特に好ましくはAl及びGaのうちの少なくとも1種を含みうる。これらの磁性粒子については、例えば磁性層13の製造方法、テープの規格、及びテープの機能などの要因に基づいて当業者により適宜選択されてよい。
【0051】
磁性粒子の形状は、磁性粒子の結晶構造に依拠している。例えば、バリウムフェライト(BaFe)及びストロンチウムフェライトは六角板状でありうる。ε酸化鉄は球状でありうる。コバルトフェライトは立方状でありうる。メタルは紡錘状でありうる。磁気記録媒体10の製造工程においてこれらの磁性粒子が配向される。
磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらにより好ましくは30nm以下、25nm以下、22nm以下、21nm以下、又は20nm以下でありうる。前記平均粒子サイズは、例えば10nm以上、好ましくは12nm以上でありうる。
磁性粉の平均アスペクト比は、例えば1.0以上3.0以下であってよく、1.0以上2.9以下であってもよい。
【0052】
(磁性粉が六方晶フェライトを含む実施態様)
【0053】
本開示の好ましい実施態様に従い、磁性粉は六方晶フェライトを含み、より特には六方晶フェライトを含有するナノ粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)の粉末を含みうる。六方晶フェライトは、好ましくはM型構造を有する六方晶フェライトである。六方晶フェライトは、例えば、六角板状又はほぼ六角板状を有する。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種、より好ましくはBa、Sr、およびCaのうちの少なくとも1種を含みうる。六方晶フェライトは、具体的には例えばバリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、及びカルシウムフェライトから選ばれる1つ又は2以上の組合せであってよく、特に好ましくはバリウムフェライト又はストロンチウムフェライトである。バリウムフェライトは、Ba以外に、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外に、Ba、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0054】
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe1219で表される平均組成を有しうる。ここで、Mは、例えばBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種の金属、好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種の金属である。Mが、Baと、Sr、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。また、Mが、Srと、Ba、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
【0055】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらにより好ましくは30nm以下、25nm以下、22nm以下、21nm以下、又は20nm以下でありうる。前記平均粒子サイズは、例えば10nm以上、好ましくは12nm以上、より好ましくは15nm以上でありうる。例えば、前記磁性粉の平均粒子サイズは、10nm以上50nm以下、10nm以上40nm以下、12nm以上30nm以下、12nm以上25nm以下、又は15nm以上22nm以下でありうる。磁性粉の平均粒子サイズが上記上限値以下である場合(例えば50nm以下、特には30nm以下である場合)、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子サイズが上記下限値以上である場合(例えば10nm以上、好ましくは12nm以上である場合)、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0056】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比は、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.9以下、さらにより好ましくは2.0以上2.9以下でありうる。磁性粉の平均アスペクト比が上記数値範囲内にあることによって、磁性粉の凝集を抑制することができ、さらに、磁性層13の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。これは、磁性粉の垂直配向性の向上をもたらしうる。
【0057】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は以下のようにして求められる。
まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルの前記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。
次に、撮影したTEM写真から、観察面の方向に側面を向けており且つ粒子の厚みが明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、図4にTEM写真の例を示す。図4において、例えばa及びdで示される粒子が、その厚みを明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの最大板厚DAを測定する。このようにして求めた最大板厚DAを単純に平均(算術平均)して平均最大板厚DAaveを求める。
続いて、各磁性粉の板径DBを測定する。粒子の板径DBを測定するために、撮影したTEM写真から、粒子の板径が明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、図4において、例えばb及びcで示される粒子が、その板径を明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの板径DBを測定する。このようにして求めた板径DBを単純平均(算術平均)して平均板径DBaveを求める。平均板径DBaveが、平均粒子サイズである。
そして、平均最大板厚DAave及び平均板径DBaveから粒子の平均アスペクト比(DBave/DAave)を求める。
【0058】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは2000nm3以下であり、好ましくは1900nm3以下であり、より好ましくは1800nm3以下であり、さらにより好ましくは1700nm3以下、1600nm3以下、又は1500nm3以下であってもよい。磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上、より好ましくは700nm3以上でありうる。
磁性粉の平均粒子体積が上記上限値以下である場合(例えば2000nm3以下である場合)、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子体積が上記下限値以上である場合(例えば500nm3以上である場合)、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0059】
磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法に関して述べたとおり、平均最大板厚DAaveおよび平均板径DBaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均粒子体積Vを求める。
【0060】
【数2】
【0061】
本開示の特に好ましい実施態様に従い、前記磁性粉は、バリウムフェライト磁性粉又はストロンチウムフェライト磁性粉であり、より好ましくはバリウムフェライト磁性粉でありうる。バリウムフェライト磁性粉は、バリウムフェライトを主相とする鉄酸化物の磁性粒子(以下「バリウムフェライト粒子」という。)を含む。バリウムフェライト磁性粉は、例えば高温多湿環境でも抗磁力が落ちないなど、データ記録の信頼性が高い。このような観点から、バリウムフェライト磁性粉は、前記磁性粉として好ましい。
【0062】
バリウムフェライト磁性粉の平均粒子サイズは、50nm以下、より好ましくは10nm以上40nm以下、さらにより好ましくは12nm以上25nm以下である。
【0063】
磁性層13が磁性粉としてバリウムフェライト磁性粉を含む場合、磁性層13の平均厚みt[nm]が、好ましくは90nm以下であり、より好ましくは80nm以下である。例えば磁性層13の平均厚みtは、35nm≦t≦90nmであってよい。
また、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に測定した保磁力Hc1が、好ましくは2010[Oe]以上3520[Oe]以下、より好ましくは2070[Oe]以上3460[Oe]以下、更により好ましくは2140[Oe]以上3390[Oe]以下である。
【0064】
(磁性粉がε酸化鉄を含む実施態様)
【0065】
本開示の他の好ましい実施態様に従い、前記磁性粉は、好ましくはε酸化鉄を含むナノ粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)の粉末を含みうる。ε酸化鉄粒子は微粒子でも高保磁力を得ることができる。ε酸化鉄粒子に含まれるε酸化鉄は、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
【0066】
ε酸化鉄粒子は、球状若しくはほぼ球状を有しているか、又は、立方体状若しくはほぼ立方体状を有している。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、媒体の厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制できる。したがって、磁性粉の分散性を高め、より良好なSNR(Signal-to-Noise Ratio)を得ることができる。
【0067】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有していてもよい。具体的には、ε酸化鉄粒子は、図5に示すように、コア部21と、このコア部21の周囲に設けられた2層構造のシェル部22とを備える。2層構造のシェル部22は、コア部21上に設けられた第1シェル部22aと、第1シェル部22a上に設けられた第2シェル部22bとを備える。
【0068】
コア部21は、ε酸化鉄を含む。コア部21に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Feからなるものがより好ましい。
【0069】
第1シェル部22aは、コア部21の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部22aは、コア部21の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部21の周囲全体を覆っていてもよい。コア部21と第1シェル部22aの交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部21の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0070】
第1シェル部22aは、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金又はFe-Si-Al合金などの軟磁性体を含みうる。α-Feは、コア部21に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0071】
第2シェル部22bは、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部22bは、α酸化鉄、酸化アルミニウム、又は酸化ケイ素を含みうる。α酸化鉄は、例えばFe、Fe、及びFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含みうる。第1シェル部22aがα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部22aに含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0072】
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部22aを有することで、熱安定性を確保することができ、これによりコア部21単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ且つ/又はε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部22bを有することで、磁気記録媒体10の製造工程及びその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆びなどが発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、磁気記録媒体10の特性劣化を抑制することができる。
【0073】
ε酸化鉄粒子は、図6に示されるとおり、単層構造のシェル部23を有していてもよい。この場合、シェル部23は、第1シェル部22aと同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制する観点からすると、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部22を有していることがより好ましい。
【0074】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル構造に代えて添加剤を含んでいてもよく、又は、コアシェル構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。これらの場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体の保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、及びインジウム(In)からなる群より選ばれる1種以上である。
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-x結晶(ここで、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくは、Al、Ga、及びInからなる群より選ばれる1種以上である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0075】
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、好ましくは22nm以下、より好ましくは8nm以上22nm以下、さらにより好ましくは12nm以上22nm以下である。磁気記録媒体10では、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、良好なSNRを得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子サイズが22nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10(例えば44nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気記録媒体10)において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0076】
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.9以下、さらにより好ましくは1.0以上2.5以下である。磁性粉の平均アスペクト比が上記数値範囲にあると、磁性粉の凝集を抑制することができると共に、磁性層13の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
【0077】
磁性粉がε酸化鉄粒子を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。
まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルの前記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。
次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。
続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粉の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0078】
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは2000nm3以下であり、好ましくは1900nm3以下であり、より好ましくは1800nm3以下であり、さらにより好ましくは1700nm3以下、1600nm3以下、又は1500nm3以下であってもよい。磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上、より好ましくは700nm3以上でありうる。
磁性粉の平均粒子体積が上記上限値以下である場合(例えば2000nm3以下である場合)、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子体積が上記下限値以上である場合(例えば500nm3以上である場合)、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0079】
ε酸化鉄粒子が球状またはほぼ球状を有している場合には、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均粒子体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave 3
【0080】
ε酸化鉄粒子が立方体状の形状を有している場合、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。
磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率及び加速電圧は適宜調整されてよい。
次に、撮影したTEM写真から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粉の平均粒子体積Vave(粒子体積)を求める。
ave=DCave 3
ε酸化鉄粒子の保磁力Hcは、好ましくは2500Oe以上、より好ましくは2800Oe以上4200e以下である。
【0081】
(磁性粉がCo含有スピネルフェライトを含む実施態様)
【0082】
本開示のさらに他の好ましい実施態様に従い、磁性粉は、Co含有スピネルフェライトを含有するナノ粒子(以下「コバルトフェライト粒子」ともいう)の粉末を含みうる。すなわち、当該磁性粉は、コバルトフェライト磁性粉でありうる。コバルトフェライト粒子は、一軸結晶異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト磁性粒子は、例えば、立方体状又はほぼ立方体状を有している。Co含有スピネルフェライトは、Co以外にNi、Mn、Al、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0083】
コバルトフェライトは、例えば以下の式(1)で表される平均組成を有する。
CoFe・・・(1)
(但し、式(1)中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x及びyは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
【0084】
コバルトフェライト磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは23nm以下である。コバルトフェライト磁性粉の保磁力Hcは、好ましくは2500Oe以上、より好ましくは2600Oe以上3500Oe以下である。
【0085】
磁性粉がコバルトフェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは10nm以上23nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズが25nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが10nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉がコバルトフェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比及び平均粒子サイズは、磁性粉がε酸化鉄粒子を含む場合と同じ方法で求められる。
【0086】
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは2000nm3以下であり、好ましくは1900nm3以下であり、より好ましくは1800nm3以下であり、さらにより好ましくは1700nm3以下、1600nm3以下、又は1500nm3以下であってもよい。磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上、より好ましくは700nm3以上でありうる。
磁性粉の平均粒子体積が上記上限値以下である場合(例えば2000nm3以下である場合)、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子体積が上記下限値以上である場合(例えば500nm3以上である場合)、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0087】
(結着剤)
【0088】
結着剤としては、ポリウレタン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂などに架橋反応が行われた構造を有する樹脂が好ましい。しかしながら結着剤はこれらに限定されるものではなく、磁気記録媒体10に対して要求される物性などに応じて、その他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体10において一般的に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0089】
前記結着剤として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、及び合成ゴムから選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせが用いられうる。
【0090】
また、前記結着剤として、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂が用いられてもよい。熱硬化性樹脂又は反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、及び尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0091】
また、上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SOM、-OSOM、-COOM、P=O(OM)などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、又は、例えばリチウム、カリウム、及びナトリウムなどのアルカリ金属である。
【0092】
更に、極性官能基としては、-NR1R2、-NR1R2R3の末端基を有する側鎖型のもの、及び、>NR1R2の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、及びR3は、互いに独立に水素原子又は炭化水素基であり、Xは、例えば弗素、塩素、臭素、若しくはヨウ素などのハロゲン元素イオン、又は、無機若しくは有機イオンである。また、極性官能基としては、-OH、-SH、-CN、及びエポキシ基なども挙げられる。これら極性官能基の結着剤への導入量は、10-1~10-8モル/gであるのが好ましく、10-2~10-6モル/gであるのがより好ましい。
【0093】
(潤滑剤)
【0094】
前記磁性層は、潤滑剤を含みうる。前記潤滑剤は、例えば脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2以上であってよく、好ましくは脂肪酸及び脂肪酸エステルの両方を含みうる。前記脂肪酸は、好ましくは下記の一般式(1)又は(2)により示される化合物であってよい。例えば、前記脂肪酸として下記の一般式(1)により示される化合物及び一般式(2)により示される化合物の一方が含まれていてよく又は両方が含まれていてもよい。
また、前記脂肪酸エステルは、好ましくは下記一般式(3)又は(4)により示される化合物であってよい。例えば、前記脂肪酸エステルとして下記の一般式(3)により示される化合物及び一般式(4)により示される化合物の一方が含まれていてよく又は両方が含まれていてもよい。
前記潤滑剤が、一般式(1)に示される化合物及び一般式(2)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、一般式(3)に示される化合物及び一般式(4)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、を含むことによって、磁気記録媒体を繰り返しの記録又は再生による動摩擦係数の増加を抑制することができる。
CH3(CH2kCOOH ・・・(1)
(但し、一般式(1)において、kは14以上22以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2nCH=CH(CH2mCOOH ・・・(2)
(但し、前記一般式(2)において、nとmとの和は12以上20以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2pCOO(CH2qCH3 ・・・(3)
(但し、一般式(3)において、pは14以上22以下、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数であり、且つ、qは2以上5以下の範囲、より好ましくは2以上4以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2rCOO-(CH2sCH(CH32・・・(4)
(但し、前記一般式(4)において、rは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、sは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0095】
前記潤滑剤として、例えば、炭素数10~24の一塩基性脂肪酸と、炭素数2~12の1価~6価アルコールのいずれかとのエステル、これらの混合エステル、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステル等が挙げられる。前記潤滑剤の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル等が挙げられる。
【0096】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、例えば、カーボンブラック、天然界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0097】
(研磨剤)
研磨剤としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデン、磁性酸化鉄の原料を脱水、アニール処理した針状α酸化鉄、必要によりそれらをアルミおよび/またはシリカで表面処理したもの等が挙げられる。
【0098】
(硬化剤)
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)と活性水素化合物との付加体等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と活性水素化合物との付加体等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートの重量平均分子量は、100~4500の範囲であることが望ましい。
【0099】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
【0100】
(非磁性補強粒子)
非磁性補強粒子として、例えば、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等が挙げられる。
【0101】
(下地層)
下地層12は、非磁性粉および結着剤を含む非磁性層である。下地層12が、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0102】
下地層12の平均厚みは、好ましくは0.6μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.6μm以上1.4μm以下である。なお、下地層12の平均厚みは、磁性層13の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層12の厚みに応じて適宜調整される。
本開示の好ましい実施態様において、磁性層13と基体11との間に下地層12が設けられており、下地層12の平均厚みが2.0μm以下であってよい。
【0103】
(非磁性粉)
非磁性粉は、例えば無機粒子粉または有機粒子粉の少なくとも1種を含む。また、非磁性粉は、カーボンブラック等の炭素粉を含んでいてもよい。なお、1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。
【0104】
(結着剤)
上述の磁性層13に含まれる結着剤に関する説明が、下地層に含まれる結着剤についても当てはまる。
【0105】
(添加剤)
上述の磁性層13に含まれる潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤に関する説明が、下地層に含まれる潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤についても当てはまる。
【0106】
(バック層)
バック層14は、結着剤および非磁性粉を含みうる。バック層14が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。上述の下地層12に含まれる結着剤および非磁性粉に関する説明が、バック層に含まれる結着剤および非磁性粉についても当てはまる。
【0107】
非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有する非磁性粉を含んでいてもよい。
【0108】
バック層14の平均厚み(本明細書内において「平均厚みt」又は「t」ともいう)は0.6μm以下であることが好ましい。バック層14の平均厚みtが上記範囲内にあることで、磁気記録媒体10の平均厚みが5.3μm以下であっても、下地層12及び基体11の厚みを厚く保つことが出来、これにより磁気記録媒体10の記録再生装置内での走行安定性を保つことが出来る。バック層14の平均厚みtの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.2μm以上である。
本開示の好ましい実施態様において、基体11の2つの面のうち、磁性層13が設けられている側の面と反対側の面に、バック層14が設けられており、バック層14の平均厚みが0.6μm以下であってよい。
【0109】
バック層14の平均厚みtは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10の平均厚みtを測定する。平均厚みtの測定方法は本明細書内以下に記載されているとおりである。続いて、サンプルのバック層14をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、Mitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層14の平均厚みt[μm]を求める。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。t[μm]=t[μm]-t[μm]
【0110】
(磁気記録媒体の平均厚みt
【0111】
磁気記録媒体10の平均厚み(本明細書内において「平均厚みt」又は「t」ともいうは、好ましくは5.3μm以下であり、より好ましくは5.2μm以下であり、さらにより好ましくは5.1μm以下、5.0μm以下、4.8μm以下、又は4.6μm以下でありうる。磁気記録媒体10の平均厚みtが上記数値範囲内にあることによって(例えばt≦5.6μmであることによって)、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を従来よりも高めることができる。磁気記録媒体10の平均厚みtの下限値は特に限定されるものではないが、例えば、3.5μm≦tである。
【0112】
磁気記録媒体10の平均厚みtは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0113】
(垂直方向における保磁力Hc1)
【0114】
垂直方向における保磁力Hc1は、4500Oe以下であり、より好ましくは3500Oe以下であり、さらにより好ましくは3000Oe以下、2900Oe以下、又は2850Oe以下であってもよい。保磁力Hc1が大きいことは、熱擾乱および反磁界の影響を受けにくくなり好ましいが、保磁力Hc1が4500Oeを超えると、記録ヘッドでの飽和記録が困難となる虞があり、それによって記録できない部分が存在しノイズが増加し、結果として電磁変換特性(例えばSNR)が悪化してしまう。
【0115】
垂直方向における保磁力Hc1は、好ましくは500Oe以上であり、より好ましくは1000Oe以上であり、さらに好ましくは1500Oe以上、2000Oe以上、2100Oe以上、2200Oe以上、2300Oe以上、又は2400Oe以上でありうる。保磁力Hc1が上記下限値以上であると、熱擾乱の影響および反磁界の影響による、高温環境下における電磁変換特性(例えばSNR)の低下を抑制することができる。
【0116】
垂直方向の保磁力Hc1は以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気記録媒体の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気記録媒体10の垂直方向((磁気記録媒体10の厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトンまたはエタノール等が用いられて塗膜(下地層12、磁性層13およびバック層14等)が払拭され、基体11のみが残される。そして、得られた基体11が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に補正用サンプル)とされる。その後、VSMが用いられて基体11の垂直方向(磁気記録媒体10の厚み方向)に対応する補正用サンプル(基体11)のM-Hループが測定される。
【0117】
測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体11)のM-Hループの測定においては、東英工業製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0118】
2つのM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体11)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSMP7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0119】
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから垂直方向の保磁力Hc1が求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の垂直方向に測定する際の"反磁界補正"は行わないものとする。
【0120】
(長手方向における保磁力Hc2)
【0121】
長手方向における保磁力Hc2は、好ましくは2000Oe以下、より好ましくは1900Oe以下、さらにより好ましくは1800Oe以下である。長手方向における保磁力Hc2が2000Oe以下であると、記録ヘッドからの垂直方向の磁界により感度良く磁化が反応するため、良好な記録パターンを形成することができる。
【0122】
長手方向における保磁力Hc2は、好ましくは1000Oe以上である。長手方向における保磁力Hc2が1000Oe以上であると、記録ヘッドからの漏れ磁束による減磁を抑制することができる。
【0123】
上記の保磁力Hc2は以下のようにして求められる。
まず、磁気記録媒体10が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトン又はエタノールなどが用いられて塗膜(下地層12、磁性層13及びバック層14など)が払拭され、基体11のみが残される。そして、得られた基体11が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体11の長手方向(磁気記録媒体10の長手方向)に対応する補正用サンプル(基体11)のM-Hループが測定される。
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体11)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ及び補正用サンプル(基体11)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体11)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから保磁力Hc2が求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の長手方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0124】
(Hc2/Hc1)
長手方向における保磁力Hc2と垂直方向における保磁力Hc1との比Hc2/Hc1が、例えばHc2/Hc1≦0.8、好ましくはHc2/Hc1≦0.75、より好ましくはHc2/Hc1≦0.7、さらにより好ましくはHc2/Hc1≦0.65、特に好ましくはHc2/Hc1≦0.6の関係を満たす。保磁力Hc1及びHc2が上記関係を満たすことで、磁性粉の垂直配向度を高めることができる。したがって、磁化遷移幅を低減し、かつ信号再生時に高出力の信号を得ることができるので、電磁変換特性(例えばC/N)を向上することができる。なお、上述したように、Hc2が小さいと、記録ヘッドからの垂直方向の磁界により感度良く磁化が反応するため、良好な記録パターンを形成することができる。
【0125】
比Hc2/Hc1がHc2/Hc1≦0.8である場合、磁性層13の平均厚みが90nm以下であることが特に有効である。磁性層13の平均厚みが90nmを超えると、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層13の下部領域(下地層12側の領域)が長手方向に磁化されてしまい、磁性層13を厚み方向に均一に磁化することができなくなる虞がある。したがって、比Hc2/Hc1をHc2/Hc1≦0.8としても(すなわち、磁性粉の垂直配向度を高めても)、電磁変換特性(例えばC/N)を向上することができなくなる虞がある。
【0126】
Hc2/Hc1の下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.5≦Hc2/Hc1である。
【0127】
なお、Hc2/Hc1は磁性粉の垂直配向度を表しており、Hc2/Hc1が小さいほど磁性粉の垂直配向度が高くなる。以下に、本実施形態において、磁性粉の垂直配向度を示す指標としてHc2/Hc1を用いる理由について説明する。
【0128】
従来、一般的には磁性粉の垂直配向度を示す指標(パラメータ)としては、角形比SQ(=(Mr/Ms)×100、但し、Mr(emu):残留磁化、Ms(emu):飽和磁化)が用いられてきた。しかしながら、角形比SQという指標は、以下の理由により磁性粉の垂直配向度を示す指標としては、Hc2/Hc1よりも適当でない。
(1)角形比SQは、磁性粉の保磁力Hcの値により変動してしまう。例えば、図7に示すように、磁性粉の保磁力Hcが大きくなると、見かけ上、角形比SQも大きい値となる。
(2)角形比SQは、過分散によるM-Hループの歪みの影響を受ける。
【0129】
そこで、本実施形態においては、より適切に磁性粉の配向度を示す指標として、Hc2/Hc1を用いられうる。保磁力Hc1、Hc2は磁性粉の配向方向によって単純に変化するため、Hc2/Hc1が磁性粉の配向度を示す指標としてより適切である。
【0130】
(残留保磁力Hrp及び比Hrp/Hc1)
【0131】
本開示の磁気記録媒体において、パルス磁界を用いて測定した前記磁気記録媒体の残留保磁力Hrpと前記磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が2.10以下であり、好ましくは2.05以下であり、より好ましくは2.00以下であり、さらにより好ましくは1.95以下、1.90以下、又は1.85以下であってもよい。本開示の磁気記録媒体は、上記数値範囲内の比Hrp/Hc1を有することによって、磁性粉の平均粒子体積が小さいにもかかわらず、保存安定性に優れている。
前記比Hrp/Hc1は、例えば0以上、0.50以上、又は1.00以上であってよい。
【0132】
前記比Hrp/Hc1の算出のために用いられるHc1は、上記で述べたとおりに測定される。
前記比Hrp/Hc1の算出のために用いられるHrpは以下のように求められる。
測定サンプルとして、前記保磁力Hc1の算出に使用したサンプルと同様のサンプルを準備し、ハヤマ社製高速応答特性評価装置HR-PVSM20を用いて膜面に対して垂直方向に残留磁化曲線を、以下のようにして得る。
まず、測定サンプルに約-3980kA/m(-50kOe)の垂直方向の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に約40.2kA/m(約505Oe)の磁界を印加し再びゼロに戻し残留磁化量を測定する。この際の印加磁界はパルス幅が10-8sec台のパルス磁界である。その後も同様に、先ほどの印加磁界よりもさらに約40.2kA/m大きい磁界を印加しゼロに戻す測定を繰り返し行い、印加磁界に対して残留磁化量をプロットしDCD曲線を作成する。測定磁界は約20kOeまでとする。なお、バックグラウンド補正及び反磁界補正は行わない。
測定条件を以下に示す。
初期着磁電圧:220V(-3980kA/mに相当)
測定開始電圧:0V(0Oeに相当)
ステップ電圧:17.5V(約505Oeに相当)
最大電圧:350V(20kOeに相当)
ロックインアンプの待ち時間:10秒
以上のとおりの測定によって得られるデータから、例えば図8に示されるような残留磁化曲線が得られる。当該データから当該残留磁化曲線を得るために、必要に応じて位相補正が行われる。当該位相補正については後述する。得られた残留磁化曲線を形成する点のうち、X軸を挟む2点(X軸に最も近い2点)を直線で結び、当該直線がX軸と交わる点をHrpとして算出する。
【0133】
前記位相補正に関して、以下でより詳細に説明する。
磁化量の単位は本来はemuであるが、前記高速応答特性評価装置に関しては、各印可磁界での磁化量は電圧Vとして出力され、且つ、当該各印可磁界での磁化量(電圧V)は、正又は負のいずれの値も正の値として出力される。そのため、各印可磁界での位相に応じた補正が必要である。当該補正のために、前記高速応答特性評価装置による出力結果に含まれる位相情報データが用いられる。位相情報データも、各印可磁界での磁化量(電圧V)と一緒に、各印可磁界について出力される。
或る磁界について測定された磁化量(電圧V)の位相情報データが負の値である場合は、当該測定された磁化量(電圧V)に「-1」を乗じる必要があり、当該測定された磁化量(電圧V)に「-1」を乗じて得られた値が、前記残留磁化曲線を得るために用いられる。当該「-1」を乗じる処理が、前記位相補正である。
他方で、或る磁界について測定された磁化量(電圧V)の位相情報データが正の値である場合は、当該測定された磁化量(電圧V)に「-1」を乗じる必要はなく、測定された磁化量(電圧V)がそのまま、前記残留磁化曲線を得るために用いられる。
以上の通りにして得られた位相補正後の磁化量(「-1」が乗じられたもの)及び測定された磁化量(「-1」が乗じられていないもの)を、磁界に対してプロットすることによって、図8に示されるような残留磁化曲線が得られる。
【0134】
(熱安定性)
【0135】
本開示の磁気記録媒体の熱安定性Kuact/kBTは、例えば60以上であり、好ましくは63以上であり、より好ましくは65以上であり、さらにより好ましくは67以上、70以上、73以上、又は75以上でありうる。本開示の磁気記録媒体は、平均粒子体積が小さい磁性粉を含むにもかかわらず、このような高い熱安定性を有し、これにより保存安定性に優れている。
本開示の磁気記録媒体の熱安定性Kuact/kBTは、例えば150以下、又は100以下であってよい。
【0136】
磁気記録媒体の熱安定性Kuact/kBTは、例えば磁性粉の合成工程時において、ガラス溶解後の材料状態を安定化させることにより達成することができる。例えばガラス溶解時に溶解温度を任意に設定するが、この時の溶解温度を高温にすることによってガラス溶解後の材料のアモルファス状態をより均一化させ、これにより材料状態を安定化することができる。また、熱安定性Kuact/kBTは、垂直配向度を向上させることによっても、調整することができる。
【0137】
磁気記録媒体の熱安定性Kuact/kBT(Ku:磁性粉の結晶磁気異方性定数、Vact:磁性粉の活性化体積、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度)は、以下に示すシャーロックの式を用いて算出される(参考文献:IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 50, NO.11, NOVEMBER 2014、及び、J. Flanders and M. P.Sharrock: J. Appl. Phys., 62, 2918 (1987))。
r(t’)=H0[1-{kBT/(Kuact)ln(f0t’/0.693)n}]
(但し、Hr:残留磁場、t’:磁化減衰量、H0:磁場変化量、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度、Ku:結晶磁気異方性定数、Vact:磁性粉の活性化体積、f0:周波数因子、n:係数)
【0138】
なお、(a)残留磁場Hr、(b)磁化減衰量t’および(c)磁場変化量H0は以下のようにして求められる。また、(d)周波数因子f0および(e)係数nは以下の数値が用いられる。また、絶対温度Tは25℃である。
(a)残留磁場Hrは、Hayama製パルスVSM「HR-PVSM20」により測定できる。測定には上述の保磁力Hc1の測定方法と同様の作製方法により得られたサンプルを用いる。測定を開始する前にサンプルに6358[Oe]の磁場を印加しサンプルを一方向に磁気的に配向させる。その後、0~20230[Oe]まで505.75[Oe]ごとに磁場を断続的に印加し、その際の磁化量を測定し印加磁場をX軸、磁化量をY軸とし値をプロットする。得られたグラフでY=0となる際のXが残留磁場Hrである。
(b)磁化減衰量t’は次のようにして求められる。すなわち、測定する磁気記録媒体の保磁力Hcの近傍の外部磁場を3条件で印加し、上述の保磁力Hc1の測定方法と同様の作製方法により得られたサンプルを用い、上述の保磁力Hc1の測定方法と同様のVSMにより磁化減衰量を測定する。そして、その磁化減衰量から下記参考文献に記載のフランダースの式を用いて磁化減衰量t’を算出する(参考文献:I. P. J. Flanders and M. P. Sharrock, “An analysis of time-dependent magnetization and coercivity and of their relationship to print-through in recording tapes,” J. Appl. Phys., vol. 62, pp. 2918-2928, 1987.)。
ここで、「保磁力Hc」とは、磁性粉の配向方向における保磁力Hcを意味する。すなわち、磁性粉が垂直方向に配向されている場合、「保磁力Hc」とは、垂直方向における保磁力Hc1を意味する。一方、磁性粉が長手方向に配向されている場合、「保磁力Hc」とは、長手方向における保磁力Hc2を意味する。磁性粉が配向されていない場合つまり無配向の場合、垂直方向における保磁力Hc1として用いる。
また、「3条件の外部磁場」とは、保磁力Hc以上の磁場(正の磁化が得られる磁場)、保磁力Hc近傍の磁場(0に近い磁化が得られる磁場)、および保磁力Hc未満の磁場(負の磁化が得られる磁場)を意味する。具体例を挙げると、垂直配向テープHc=2600[Oe]の場合「3条件の外部磁場」は正の磁化が得られる磁場=2400[Oe]、保磁力Hc近傍の磁場=2600[Oe]、負の磁化が得られる磁場=2800[Oe]として算出する。ただし、この具体例として挙げた数値は実際の測定に際し数値範囲を限定するものではない。
(c)磁場変化量H0は、(b)で測定した際の測定磁場と磁化減衰量をシャーロックの式に代入し算出した定数である。
(d)周波数因子f0は一定値であり、f0=5.0×109Hzとする。
(e)係数nは、磁性粉の結晶磁気異方性に応じた値に設定される。磁性粉が一軸結晶磁気異方性を有し、且つ磁気テープを垂直配向した場合、n=0.5に設定される。一方、磁性粉が多軸結晶磁気異方性(3軸結晶磁気異方性)を有する場合、もしくは磁性粉が一軸結晶磁気異方性だが磁気テープが無配向の場合、n=0.77に設定される。
【0139】
(2)磁気記録媒体の製造方法
【0140】
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体10の製造方法について説明する。まず、非磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0141】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0142】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0143】
次に、下地層形成用塗料を基体11の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層12を形成する。続いて、この下地層12上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層13を下地層12上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体11の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このような磁場配向処理をすることで、比Hc2/Hc1を低くすることができる。したがって、磁性粉の垂直配向度を向上することができる。磁性層13の形成後、基体11の他方の主面にバック層14を形成する。これにより、磁気記録媒体10が得られる。
【0144】
比Hc2/Hc1は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度、磁性層形成用塗料中における固形分の濃度、磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより所望の値に設定される。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粉の保磁力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。比Hc2/Hc1をさらに高めるためには、磁性層形成用塗料中における磁性粉の分散状態を向上させることが好ましい。また、比Hc2/Hc1をさらに高めるためには、磁性粉を磁場配向させるための配向装置に磁性層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粉を磁化させておくことも有効である。なお、上記の比Hc2/Hc1の調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合わされて使用されてもよい。
【0145】
比Hrp/Hc1は、例えば前記磁場配向処理における配向条件を調整すること及び/又は磁性粉の保持力を調整することによって制御することができる。また、磁性粉の種類又は磁性粉の平均粒子体積、平均アスペクト比、若しくは平均粒子サイズの変更によって、比Hrp/Hc1を調整することもできる。
【0146】
その後、得られた磁気記録媒体10を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う。最後に、磁気記録媒体10に対してカレンダー処理を行った後、所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上により、目的とする細長い長尺状の磁気記録媒体10が得られる。
【0147】
(3)記録再生装置
【0148】
[記録再生装置の構成]
【0149】
次に、図9を参照して、上述の構成を有する磁気記録媒体10の記録及び再生を行う記録再生装置30の構成の一例について説明する。
【0150】
記録再生装置30は、磁気記録媒体10の長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有している。また、記録再生装置30は、磁気記録カートリッジ10Aを装填可能な構成を有している。ここでは、説明を容易とするために、記録再生装置30が、1つの磁気記録カートリッジ10Aを装填可能な構成を有している場合について説明するが、記録再生装置30が、複数の磁気記録カートリッジ10Aを装填可能な構成を有していてもよい。
【0151】
記録再生装置30は、ネットワーク43を介してサーバ41及びパーソナルコンピュータ(以下「PC」という。)42等の情報処理装置に接続されており、これらの情報処理装置から供給されたデータを磁気記録カートリッジ10Aに記録可能に構成されている。記録再生装置30の最短記録波長は、好ましくは100nm以下、より好ましくは75nm以下、更により好ましくは60nm以下、特に好ましくは50nm以下である。
【0152】
記録再生装置30は、図9に示すように、スピンドル31と、記録再生装置側のリール32と、スピンドル駆動装置33と、リール駆動装置34と、複数のガイドローラ35と、ヘッドユニット36と、通信インターフェース(以下、I/F)37と、制御装置38とを備えている。
【0153】
スピンドル31は、磁気記録カートリッジ10Aを装着可能に構成されている。磁気記録カートリッジ10Aは、LTO(Linear Tape Open)規格に準拠しており、カートリッジケース10Bに磁気記録10を巻装した単一のリール10Cを回転可能に収容している。磁気記録媒体10には、サーボ信号としてハの字状のサーボパターンが予め記録されている。リール32は、磁気記録カートリッジ10Aから引き出された磁気記録媒体10の先端を固定可能に構成されている。
【0154】
スピンドル駆動装置33は、スピンドル31を回転駆動させる装置である。リール駆動装置34は、リール32を回転駆動させる装置である。磁気記録媒体10に対してデータの記録又は再生を行う際には、スピンドル駆動装置33とリール駆動装置34とが、スピンドル31とリール32とを回転駆動させることによって、磁気記録媒体10を走行させる。ガイドローラ35は、磁気記録媒体10の走行をガイドするためのローラである。
【0155】
ヘッドユニット36は、磁気記録媒体10にデータ信号を記録するための複数の記録ヘッドと、磁気記録媒体10に記録されているデータ信号を再生するための複数の再生ヘッドと、磁気記録媒体10に記録されているサーボ信号を再生するための複数のサーボヘッドとを備える。記録ヘッドとしては例えばリング型ヘッドを用いることができるが、記録ヘッドの種類はこれに限定されるものではない。
【0156】
通信I/F37は、サーバ41及びPC42等の情報処理装置と通信するためのものであり、ネットワーク43に対して接続される。
【0157】
制御装置38は、記録再生装置30の全体を制御する。例えば、制御装置38は、サーバ41及びPC42等の情報処理装置の要求に応じて、情報処理装置から供給されるデータ信号をヘッドユニット36により磁気記録媒体10に記録する。また、制御装置38は、サーバ41及びPC42等の情報処理装置の要求に応じて、ヘッドユニット36により、磁気記録媒体10に記録されたデータ信号を再生し、情報処理装置に供給する。
【0158】
[記録再生装置の動作]
【0159】
次に、上記構成を有する記録再生装置30の動作について説明する。
【0160】
まず、磁気記録カートリッジ10Aを記録再生装置30に装着し、磁気記録媒体10の先端を引き出して、複数のガイドローラ35及びヘッドユニット36を介してリール32まで移送し、磁気記録媒体10の先端をリール32に取り付ける。
【0161】
次に、図示しない操作部を操作すると、スピンドル駆動装置33とリール駆動装置34とが制御装置38の制御により駆動され、リール10Cからリール32へ向けて磁気記録媒体10が走行されるように、スピンドル31とリール32とが同方向に回転される。これにより、磁気記録媒体10がリール32に巻き取られつつ、ヘッドユニット36によって、磁気記録媒体10への情報の記録または磁気記録媒体10に記録された情報の再生が行われる。
【0162】
また、リール10Cに磁気記録媒体10を巻き戻す場合は、上記とは逆方向に、スピンドル31とリール32とが回転駆動されることにより、磁気記録媒体10がリール32からリール10Cに走行される。この巻き戻しの際にも、ヘッドユニット36による、磁気記録媒体10への情報の記録または磁気記録媒体10に記録された情報の再生が行われる。
【0163】
(4)カートリッジ
【0164】
[カートリッジの構成]
【0165】
本開示は、本開示に従う磁気記録媒体を含む磁気記録カートリッジ(テープカートリッジともいう)も提供する。当該磁気記録カートリッジ内において、前記磁気記録媒体は、例えばリールに巻き付けられていてよい。当該磁気記録カートリッジは、例えば 記録再生装置と通信を行う通信部と、記憶部と、前記通信部を介して前記記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、前記記録再生装置の要求に応じて、前記記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備えていてよい。前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含みうる。前記調整情報は、例えば、前記磁気記録媒体の長手方向の複数位置での幅方向の寸法情報を含みうる。当該幅方向の寸法情報は、以下[カートリッジメモリの構成]において述べる磁気記録媒体の製造時(製造後の初期)の寸法情報、及び/又は、当該磁気記録媒体の記録及び/又は再生処理において取得される寸法情報であってよい。
【0166】
図10を参照して、上述の構成を有する磁気記録媒体10を備えるカートリッジ10Aの構成の一例について説明する。
【0167】
図10は、カートリッジ10Aの構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ10Aは、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気記録媒体カートリッジであり、下シェル212Aと上シェル212Bとで構成されるカートリッジケース10Bの内部に、磁気テープ(テープ状の磁気記録媒体)10が巻かれたリール10Cと、リール10Cの回転をロックするためのリールロック214およびリールスプリング215と、リール10Cのロック状態を解除するためのスパイダ216と、下シェル212Aと上シェル212Bに跨ってカートリッジケース10Bに設けられたテープ引出口212Cを開閉するスライドドア217と、スライドドア217をテープ引出口212Cの閉位置に付勢するドアスプリング218と、誤消去を防止するためのライトプロテクト219と、カートリッジメモリ211とを備える。リール10Cは、中心部に開口を有する略円盤状であって、プラスチック等の硬質の材料からなるリールハブ213Aとフランジ213Bとにより構成される。磁気テープ10の一端部には、リーダーピン220が設けられている。
【0168】
カートリッジメモリ211は、カートリッジ10Aの1つの角部の近傍に設けられている。カートリッジ10Aが記録再生装置30にロードされた状態において、カートリッジメモリ211は、記録再生装置30のリーダライタ(図示せず)と対向するようになっている。カートリッジメモリ211は、LTO規格に準拠した無線通信規格で記録再生装置30、具体的にはリーダライタ(図示せず)と通信を行う。
【0169】
[カートリッジメモリの構成]
【0170】
図11を参照して、カートリッジメモリ211の構成の一例について説明する。
【0171】
図11は、カートリッジメモリ211の構成の一例を示すブロック図である。カートリッジメモリ211は、規定の通信規格でリーダライタ(図示せず)と通信を行うアンテナコイル(通信部)331と、アンテナコイル331により受信した電波から、誘導起電力を用いて発電、整流して電源を生成する整流・電源回路332と、アンテナコイル331により受信した電波から、同じく誘導起電力を用いてクロックを生成するクロック回路333と、アンテナコイル331により受信した電波の検波およびアンテナコイル331により送信する信号の変調を行う検波・変調回路334と、検波・変調回路334から抽出されるデジタル信号から、コマンドおよびデータを判別し、これを処理するための論理回路等で構成されるコントローラ(制御部)335と、情報を記憶するメモリ(記憶部)336とを備える。また、カートリッジメモリ211は、アンテナコイル331に対して並列に接続されたキャパシタ337を備え、アンテナコイル331とキャパシタ337により共振回路が構成される。
【0172】
メモリ336は、カートリッジ10Aに関連する情報等を記憶する。メモリ336は、不揮発性メモリ(Non Volatile Memory:NVM)である。メモリ336の記憶容量は、好ましくは約32KB以上である。例えば、カートリッジ10AがLTO-9規格またはLTO-10規格に準拠したものである場合には、メモリ336は、約32KBの記憶容量を有する。
【0173】
メモリ336は、第1の記憶領域336Aと第2の記憶領域336Bとを有する。第1の記憶領域336Aは、LTO8以前のLTO規格のカートリッジメモリ(以下「従来のカートリッジメモリ」という。)の記憶領域に対応しており、LTO8以前のLTO規格に準拠した情報を記憶するための領域である。LTO8以前のLTO規格に準拠した情報は、例えば製造情報(例えばカートリッジ10Aの固有番号等)、使用履歴(例えばテープ引出回数(Thread Count)等)等である。
【0174】
第2の記憶領域336Bは、従来のカートリッジメモリの記憶領域に対する拡張記憶領域に相当する。第2の記憶領域336Bは、付加情報を記憶するための領域である。ここで、付加情報とは、LTO8以前のLTO規格で規定されていない、カートリッジ10Aに関連する情報を意味する。付加情報の例としては、テンション調整情報、管理台帳データ、Index情報、または磁気テープ10に記憶された動画のサムネイル情報等が挙げられるが、これらのデータに限定されるものではない。テンション調整情報は、磁気テープ10に対するデータ記録時における、隣接するサーボバンド間の距離(隣接するサーボバンドに記録されたサーボパターン間の距離)を含む。隣接するサーボバンド間の距離は、磁気テープ10の幅に関連する幅関連情報の一例である。サーボバンド間の距離の詳細については後述する。以下の説明において、第1の記憶領域336Aに記憶される情報を「第1の情報」といい、第2の記憶領域336Bに記憶される情報を「第2の情報」ということがある。
【0175】
メモリ336は、複数のバンクを有していてもよい。この場合、複数のバンクのうちの一部のバンクにより第1の記憶領域336Aが構成され、残りのバンクにより第2の記憶領域336Bが構成されてもよい。具体的には、例えば、カートリッジ10AがLTO-9規格またはLTO-10規格に準拠したものである場合には、メモリ336は約16KBの記憶容量を有する2つのバンクを有し、2つのバンクのうちの一方のバンクにより第1の記憶領域336Aが構成され、他のバンクにより第2の記憶領域336Bが構成されてもよい。
【0176】
アンテナコイル331は、電磁誘導により誘起電圧を誘起する。コントローラ335は、アンテナコイル331を介して、規定の通信規格で記録再生装置30と通信を行う。具体的には、例えば、相互認証、コマンドの送受信またはデータのやり取り等を行う。
【0177】
コントローラ335は、アンテナコイル331を介して記録再生装置30から受信した情報をメモリ336に記憶する。コントローラ335は、記録再生装置30の要求に応じて、メモリ336から情報を読み出し、アンテナコイル331を介して記録再生装置30に送信する。
【0178】
(5)効果
【0179】
磁気記録媒体10は、磁性層13に含まれる磁性粉の平均粒子体積Vが2000nm3以下であり、磁気記録媒体10の平均厚みtが5.3μm以下であり、磁気記録媒体10の熱安定性Kuact/kBTが60以上であり、且つ、パルス磁界を用いて測定した磁気記録媒体10の残留保磁力Hrpと磁気記録媒体10の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が、2.10以下である。これにより、磁気記録媒体10は、記録密度が高く、且つ、保存安定性に優れている。さらに、磁気記録媒体10は、電磁変換特性にも優れている。
【0180】
(6)変形例
【0181】
(変形例1)
【0182】
磁気記録媒体10が、図12に示すように、基体11の少なくとも一方の表面に設けられたバリア層15をさらに備えるようにしてもよい。バリア層15は、基体11が有する環境に応じた寸法変化を抑制するための層である。例えば、その寸法変化を及ぼす原因の一例として、基体11の吸湿性があるが、バリア層15を設けることにより基体11への水分の侵入速度を低減することができる。バリア層15は、例えば、金属または金属酸化物を含む。金属としては、例えば、Al、Cu、Co、Mg、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Mo、Ru、Pd、Ag、Ba、Pt、AuおよびTaのうちの少なくとも1種を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、上記金属を1種または2種以上含む金属酸化物を用いることができる。より具体的には例えば、Al2O3、CuO、CoO、SiO2、Cr23、TiO2、Ta25およびZrO2のうちの少なくとも1種を用いることができる。また、バリア層15が、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)またはダイヤモンド等を含むようにしてもよい。
【0183】
バリア層15の平均厚みは、好ましくは20nm以上1000nm以下、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。バリア層15の平均厚みは、磁性層13の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、バリア層15の厚みに応じて適宜調整される。
【0184】
(変形例2)
【0185】
磁気記録媒体10は、ライブラリ装置に組み込まれてもよい。すなわち、本開示は、少なくとも一つの磁気記録媒体10を備えているライブラリ装置も提供する。当該ライブラリ装置は、磁気記録媒体10の長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有しており、上記で述べた記録再生装置30を複数備えるものであってもよい。
【0186】
3.実施例
【0187】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0188】
本実施例において、ベースフィルム(基体)の平均厚み、磁性層の平均厚み、下地層の平均厚み、バック層の平均厚み、磁気テープ(磁気記録媒体)の平均厚み、磁性粉の平均アスペクト比、磁性粉の平均粒子サイズ、磁性粉の平均粒子体積、垂直方向におけるテープ状磁気記録媒体(「磁気テープ」ともいう)の保磁力Hc1、残留保磁力Hrp、及び熱安定性Kuact/kBT(測定温度は25℃)は、上述の一実施形態にて説明した測定方法により求められたものである。
【0189】
[実施例1]
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0190】
(第1組成物)
磁性粉(M型構造を有する六方晶フェライト、組成:Ba-Ferrite、平均粒子体積:1600nm):100質量部
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):60質量部
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al23、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
【0191】
(第2組成物)
塩化ビニル系樹脂:1.1質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0192】
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):2質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0193】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0194】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe23、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0195】
(第4組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0196】
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):2質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0197】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):10質量部
【0198】
(成膜工程)
上述のようにして作製した塗料を用いて、下記表1に示されるとおりの媒体構成の磁気テープを以下に説明するとおりにして作製した。
【0199】
【表1】
【0200】
まず、支持体として、長尺状を有する、平均厚み4.0μmのPENフィルム(ベースフィルム)を準備した。次に、PENフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、PENフィルムの一方の主面上に平均厚み0.9μmの下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、下地層上に平均厚み80nmの磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をPENフィルムの厚み方向に磁場配向させた。具体的には、ソレノイドコイルにより、磁性粉をPENフィルムの走行方向(長手方向)に一旦磁場配向させたのちに、PENフィルムの厚み方向に磁場配向させた。また、磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、垂直方向における保磁力Hc1を、表2に示されるとおりに設定した。
【0201】
続いて、下地層及び磁性層が形成されたPENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、平均厚み0.3μmのバック層を形成した。そして、下地層、磁性層、およびバック層が形成されたPENフィルムに対して硬化処理を行った。その後、カレンダー処理を行い、磁性層表面を平滑化した。
【0202】
(裁断の工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、長尺状を有する、平均厚み5.3μmの磁気テープが得られた。表2に示されるとおり、得られた磁気テープに関して、熱安定性Kuact/kBTは77であり、且つ、残留保磁力Hrpと磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が1.78であった。
【0203】
(サーボ信号およびデータ信号の書き込み)
上述のようにして得られた長尺状の磁気テープにサーボ信号およびデータ信号を以下のようにして書き込んだ。まず、サーボライタを用いて、磁気テープにサーボ信号を書き込むことにより、サーボバンド幅WSBが96μmである5本のサーボバンドを形成した。なお、サーボ信号の書き込みにより、各サーボバンドには、ハの字の磁気パターンの列が形成された。
【0204】
次に、記録再生装置を用いて、サーボバンド間のデータバンドにデータ信号を書き込んだ。この際、記録トラック幅Wが2.9μm、記録波長λが0.208μmの単一記録波長となるように記録再生装置を制御した。なお、データ信号の記録波長λ[nm]は、最短記録波長で記録された際の磁化反転間距離の最小値L[nm](=0.052μm)の4倍(すなわち、最短記録波長L’=2×Lであり、記録波長λ=(L’の2倍長))とした。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用いた。
【0205】
ここで、記録波長λを最短記録波長L’の2倍にしているのは、以下の理由による。すなわち、短波長を用いた記録再生系では、SNRとしては一般的に最短記録波長の2倍の記録波長で記録再生した際の出力/ノイズの比を用いることが多い。また、2倍の記録波長でのSNRは、最短記録波長でのSNRよりもエラーレートとの相関性が高い。更に、最短記録波長でSNR計測を行った場合、記録再生系の波長特性によっては、テープノイズが記録再生系のシステムノイズに隠れてしまい、メディアのノイズ特性が正しく反映されない場合もある。特に高線記録密度記録の場合、メディアのノイズ特性が正しく反映されない場合が多い。
【0206】
磁化反転間距離の最小値Lとデータトラック幅Wは、以下のようにして求められた。まず、磁性層13の表面を磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察し、MFM像を取得した。図13中のA及びBに、MFM像の一例を示す。次に、取得したMFM像から、磁気テープの幅方向における磁化パターン列の寸法を測定し、トラック幅W[nm]とした。また、磁気テープの長手方向における明部と明部の距離または暗部と暗部の距離をλ[nm]とした。その後、λ[nm]の半分の値をL’[nm]とし、更にL’[nm]の半分をL[nm]とした。
【0207】
[実施例2]
無配向で磁気テープを製造したこと(すなわち、上記ソレノイドコイルによる磁場配向を行わなかったこと。以下同様。)以外は、実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。得られた磁気テープは、表2に示されるとおりの保磁力Hc1、残留保磁力Hrp、及び熱安定性Kuact/kBTを有した。
【0208】
[実施例3]
磁性粉の平均粒子体積を1200nmへとさらに微粒子化したこと及び無配向で磁気テープを製造したこと以外は、実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。得られた磁気テープは、表2に示されるとおりの保磁力Hc1、残留保磁力Hrp、及び熱安定性Kuact/kBTを有した。
【0209】
[実施例4]
実施例3で用いた磁性粉を使用したこと以外は、実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。得られた磁気テープは、表2に示されるとおりの保磁力Hc1、残留保磁力Hrp、及び熱安定性Kuact/kBTを有した。
【0210】
[比較例1]
平均粒子体積が2500nmである磁性粉を用いたこと及び無配向で磁気テープを製造したこと以外は、実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。得られた磁気テープは、表2に示されるとおりの保磁力Hc1、残留保磁力Hrp、及び熱安定性Kuact/kBTを有した。
【0211】
[比較例2]
Hc1がより低い磁性粉を使用したこと及び無配向で磁気テープを製造したこと以外は、実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。得られた磁気テープは、表2に示されるとおりの保磁力Hc1、残留保磁力Hrp、及び熱安定性Kuact/kBTを有した。
【0212】
以上のとおりにして得られた実施例1~4及び比較例1~2の磁気テープについて、信号減衰量SD及び電磁変換特性(SNR)を評価した。これらの評価方法を以下に記載する。
【0213】
(100s経過後の信号減衰量SD)
【0214】
各実施例および各比較例のサンプルについて、以下のようにして100s経過後の信号減衰量SDを求めた。具体的には、Micro Physics社製「Tape Head Tester (以下THTとする)」を用いた。記録再生ヘッドにはIBM社製テープドライブ「TS1140」に搭載されているものをそのまま使用した。測定に際して磁気記録媒体としての磁気テープを90cmの長さに切り取り、磁気テープの記録層が裏になるようにリング状にした後、磁気テープ両端同士を磁気テープ裏面において粘着テープにより接合した。また、その接合部に隣接して、テープ周回位置を検出するための銀テープを貼った。リング状の磁気テープはTHTに取り付けた後、2m/secの速度で周回させた。
【0215】
次に、Tektronix社製信号発生機「ARBITRARY WAVEFORM GENERATOR AWG2021」を用いて発生させた10MHzの信号を、磁気テープに最適記録電流を用いて、テープ全長一周分だけ記録した。記録に続いて、次の周回からは、テープに記録された信号を連続して再生させ、再生出力を Hewlett Packard社製スペクトラムアナライザ「8591E」にて計測した。尚、この際のスペクトラムアナライザの設定はRBW:1MHz、VBW:1MHz、SWP:500msec、point : 400、ゼロスパンモードとした。計測は、十分な記録が行われていない「テープ接合部近傍」を除いた「記録部」のみの間の0.4sec間だけ行い、この間の再生出力の平均値Yを計算した。計測はテープ一周毎に行い、其々の周回における再生出力の平均値Yを、信号記録終了時(t=0)からの経過時間における再生出力平均値Y(t)とした。計測は、t=100secまで行い、接続したパソコンへと適時送信し、記録させた。
上述の測定フローを、同一の磁気テープを用いて4度行い、各測定により得られたY(t)値を、同じ経過時間t毎に平均化してYave(t)の数列とした。得られたYave(t)をY軸、経過時間tをX軸にとりグラフにプロットし、このグラフから対数近似を用いて近似曲線を作成した。得られた近似曲線を用いて100s後の信号減衰量SDを算出した。算出結果が、以下表2に示されている。
【0216】
(25℃環境におけるSNR)
記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのSNR(電磁変換特性)を測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHzとした。
また、SNRは、下記の文献に記載の方法(スペクトラムアナライザを使用する測定方法)に基づき算出した。その結果を、比較例1のSNRを0dBとする相対値で以下表2に示した。
Y.Okazaki: ”An Error Rate Emulation System.”,IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
【0217】
以下表2に、実施例1~4及び比較例1~2の磁気テープの評価結果が示されている。
【0218】
【表2】
【0219】
表2から、以下のことが分かる。
【0220】
実施例1~4の磁気テープはいずれも、磁性粉の平均粒子体積が2000nm以下であるにもかかわらず、100秒経過後の信号減衰量SDが-0.30dBよりも小さかった。そのため、実施例1~4の磁気テープはいずれも、磁性粉の平均粒子体積が小さいにもかかわらず、保存安定性に優れていた。さらに、実施例1~4の磁気テープはいずれも、SNRが0.5dB以上であり、電磁変換特性に優れていた。これらの結果より、本開示の磁気記録媒体は、磁性粉の平均粒子体積が小さいにもかかわらず、保存安定性に優れており、さらには電磁変換特性にも優れていることが分かる。
【0221】
実施例3及び4の磁気テープは、実施例1及び2の磁気テープよりも平均粒子体積が小さい磁性粉を含むにもかかわらず、保存安定性に優れており且つ電磁変換特性にも優れている。さらに、実施例4の磁気テープは、実施例3の磁気テープよりもさらに保存安定性に優れており且つ電磁変換特性に優れている。そのため、本開示による効果は、実施例3及び4におけるような小さい平均粒子体積(例えば1500nm以下)の磁性粉を含む場合においても奏されることが分かる。従って、本開示によって、保存安定性及び電磁変換特性の向上に加え、記録密度の向上も可能となる。
【0222】
比較例1及び2の対比から、磁性粉の平均粒子体積が小さくなることに伴い、信号減衰量SDが大きくなることが分かる。そして、比較例2と実施例1及び2との対比から、磁性粉の平均粒子体積が同様に小さい場合であっても、Hrp/Hc1を例えば2.10以下、特には2.05以下、より特には2.00以下とすることによって、信号減衰量SDを小さくすることができることが分かる。さらに、熱安定性Kuact/kBTが60以上であることも、信号減衰量SDを小さくすることに貢献していると考えられる。
【0223】
また、比較例2と実施例1及び2との対比から、Hrp/Hc1を例えば2.10以下、特には2.05以下、より特には2.00以下とすることによって、SNRが改善されることも分かる。また、熱安定性Kuact/kBTが60以上であることも、SNRの改善に貢献していると考えられる。この改善は、実施例3及び4の結果から分かるとおり、磁性粉の平均粒子体積より小さい値(例えば1500nm以下)とした場合においても確認できる。
【0224】
実施例1~4から、磁性粉の平均粒子体積をより小さい値(例えば1500nm以下)とした場合であっても、Hrp/Hc1を例えば2.10以下、特には2.05以下、より特には2.00以下とすることによって、信号減衰量SDを小さくすることができることが分かる。さらに、熱安定性Kuact/kBTが60以上であることも、信号減衰量SDを小さくすることに貢献していると考えられる。
【0225】
以上、本開示の実施形態及び実施例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0226】
例えば、上述の実施形態及び実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等を用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0227】
また、上述の実施形態及び実施例の構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0228】
また、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0229】
なお、本開示は、以下のような構成をとることもできる。
〔1〕
基体と、
前記基体上に設けられ、磁性粉を含む磁性層と
を備えており、
前記磁性粉の平均粒子体積Vが2000nm3以下であり、
磁気記録媒体の平均厚みtが5.3μm以下である、
前記磁気記録媒体の熱安定性Kuact/kBTが60以上であり、
パルス磁界を用いて測定した前記磁気記録媒体の残留保磁力Hrpと前記磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hc1との比Hrp/Hc1が、2.10以下である、
テープ状の磁気記録媒体。
〔2〕
前記磁性粉の平均粒子体積Vが1800nm3以下である、〔1〕に記載の磁気記録媒体。
〔3〕
前記磁性粉の平均粒子体積Vが1600nm3以下である、〔1〕に記載の磁気記録媒体。
〔4〕
前記熱安定性Kuact/kBTが63以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔5〕
前記熱安定性Kuact/kBTが65以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔6〕
前記比Hrp/Hc1が、2.05以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔7〕
前記比Hrp/Hc1が、2.00以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔8〕
前記磁性粉が六方晶フェライトを含む、〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔9〕
前記六方晶フェライトが、Ba、Sr、およびCaのうちの少なくとも1種を含む、〔8〕に記載の磁気記録媒体。
〔10〕
前記磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDが、-0.30dB≦SDである、〔1〕~〔9〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔11〕
前記磁気記録媒体の記録後100秒経過時における信号減衰量SDが、-0.25dB≦SDである、〔1〕~〔9〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔12〕
前記磁性層の厚みtが、30nm≦t≦90nmである、〔1〕~〔11〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔13〕
前記保磁力Hc1が500Oe以上である、〔1〕~〔12〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔14〕
前記基体の平均厚みが4.2μm以下である、〔1〕~〔13〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔15〕
前記磁性層と前記基体との間に下地層が設けられており、
前記下地層の平均厚みが2.0μm以下である、
〔1〕~〔14〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔16〕
前記基体の2つの面のうち、前記磁性層が設けられている側の面と反対側の面に、バック層が設けられており、
前記バック層の平均厚みが0.6μm以下である、
〔1〕~〔15〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔17〕
前記磁性粉の平均粒子サイズが50nm以下である、〔1〕~〔16〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔18〕
〔1〕~〔17〕のいずれか一つに記載のテープ状の磁気記録媒体と、
記録再生装置と通信を行う通信部と、
記憶部と、
通信部を介して記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、記録再生装置の要求に応じて、記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備え、
前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含む
テープカートリッジ。
【符号の説明】
【0230】
10 磁気記録媒体
11 基体(ベース層)
12 下地層
13 磁性層
14 バック層



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13