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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】金属箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
H01F1/153 141
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020142063
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2021118349
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020010086
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 修
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-534942(JP,A)
【文献】特開2017-141508(JP,A)
【文献】特開昭61-125104(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009310(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009309(WO,A1)
【文献】特開昭61-258404(JP,A)
【文献】特開昭54-083622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔を製造する製造方法であって、
前記製造方法は、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を準備する工程と、
準備した前記金属箔が金属製のベースの設置面に倣うように、前記金属箔を前記ベースに密着させながら、前記金属箔を加熱することにより、前記金属箔のアモルファス系軟磁性材料を前記ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する工程と、を含み、
前記結晶化する工程において、前記ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する結晶化開始温度以上の加熱温度であり、かつ、結晶化する際に自己発熱により昇温される前記金属箔の温度よりも前記設置面の温度が低くなる加熱温度で、前記金属箔を加熱することにより、前記アモルファス系軟磁性材料を結晶化しつつ、前記結晶化する際の前記自己発熱の熱を前記ベースに吸熱させるものであり、
前記金属箔を準備する工程において、前記金属箔の素材を溶融した溶融金属を、回転しているロール上に吹き付けて、溶融金属を前記ロール上で冷却して凝固させることにより、前記ロールと接触していた側の表面が平坦な表面となるように、前記アモルファス系軟磁性材料からなる前記金属箔を製造し、
前記結晶化する工程において、前記金属箔を前記ベースに密着させる際に、前記ベースに形成された吸引口から前記金属箔を吸引することにより、前記金属箔の表面のうち、前記ロールと接触していた側の表面を、前記設置面に密着させることを特徴とする金属箔の製造方法。
【請求項2】
前記結晶化する工程において、前記ベースに内蔵したヒータにより、前記金属箔を加熱することを特徴とする請求項1に記載の金属箔の製造方法。
【請求項3】
金属箔を準備する工程において、前記金属箔として、鉄系のアモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を準備し、
前記結晶化する工程は、支持部材の上に、前記金属箔を配置し、前記ベースと前記支持部材とが接近する方向に、前記ベースと前記支持部材との少なくとも一方を移動させることにより、前記金属箔を、前記ベースと前記支持部材との間に挟み込んで、前記金属箔を前記ベースに密着させつつ、前記ベースに内蔵されたヒータにより、前記金属箔を加熱するものであり、
前記結晶化する工程において、以下の(i)または(ii)の条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の金属箔の製造方法。
(i)前記支持部材を構成する材料の熱伝導率は、0.2W/mK以下である。
(ii)前記支持部材の温度を、300℃以上かつ前記結晶化開始温度未満にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータや変圧器などには、コアとして、金属箔を積層した積層体が利用されている。例えば、特許文献1には、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を積層した状態で加熱することにより、金属箔のアモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する金属箔の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-141508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、一般的に、アモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する際には、その材料が自己発熱することが知られており、この自己発熱したときの自己発熱温度は、材料の結晶化が開始する温度よりも高いことが知られている。したがって、例えば、特許文献1に示すように、金属箔を積層した状態で加熱すると、金属箔同士の間に、自己発熱した熱がこもり、金属箔が過度に加熱されるおそれがある。さらに、積層した金属箔のうち、内部の金属箔と、外側に位置する金属箔との加熱温度にも、バラツキが生じてしまう。このような結果、金属箔の結晶の大きさにバラツキが生じてしまう。
【0005】
このような点を鑑みると、金属箔を積層せずに、加熱されたベースの上で金属箔を1枚ずつ加熱することも考えられる。しかしながら、例えば、金属箔が反っている場合には、ベースに接触していない金属箔の部分の占める割合が多くなることがあり、結晶化時に金属箔の温度にバラツキが生じてしまう。特に、ベースに接触してない金属箔の部分と、ベースとの間に形成された空隙に熱が籠りやすく、この部分が過昇温となり、結晶粒が粗大化してしまう。このような結果、金属箔の結晶の大きさにバラツキが生じてしまい、金属箔の磁気特性が低下することがある。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔に対して、金属箔を均一に加熱することにより、均一な大きさの結晶のナノ結晶系軟磁性材料に結晶化することができる金属箔の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属箔の製造方法は、ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔を製造する製造方法であって、前記製造方法は、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を準備する工程と、準備した前記金属箔が金属製のベースの設置面に倣うように、前記金属箔を前記ベースに密着させながら、前記金属箔を加熱することにより、前記金属箔のアモルファス系軟磁性材料を前記ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する工程と、を含み、前記結晶化する工程において、前記ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する結晶化開始温度以上の加熱温度であり、かつ、結晶化する際に自己発熱により昇温される前記金属箔の温度よりも前記設置面の温度が低くなる加熱温度で、前記金属箔を加熱することにより、前記アモルファス系軟磁性材料を結晶化しつつ、前記結晶化する際の前記自己発熱の熱を前記ベースに吸熱させることを特徴とする。
【0008】
本発明では、まず、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を準備する。次に、この金属箔が金属製のベースの設置面に倣うように、金属箔をベースに密着させながら、設置面に密着させた状態の金属箔を加熱することにより、金属箔のアモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する。この際に、ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する結晶化開始温度以上の加熱温度であり、かつ、結晶化する際に自己発熱により昇温される前記金属箔の温度よりも設置面の温度が低くなる加熱温度で、金属箔を加熱する。これにより、金属箔のアモルファス系軟磁性材料が結晶化するとともに、ベースの設置面の温度が自己発熱した金属箔の温度よりも低いため、自己発熱した熱をベースの設置面からベースに吸熱させることができる。ここで、金属箔は、ベースに密着しているので、金属箔の熱は均一にベースに吸熱され、結晶化の際に、金属箔の温度は均一となる。したがって、金属箔の結晶を、均一な大きさの結晶に結晶化することができる。このような結果、結晶粒の大きさのバラツキ(具体的には結晶粒の粗大化)に起因した、金属箔の磁気特性の低下を抑えることができる。
【0009】
前記結晶化する工程において、金属箔を加熱する際には、例えば、金属箔を挟んで、ベースに対向する位置から、ヒータによる熱または熱風による熱で、金属箔を加熱してもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記結晶化する工程において、前記ベースに内蔵したヒータにより、前記金属箔を加熱する。
【0010】
この態様によれば、ベースに内蔵したヒータにより、ベースの設置面を均一に加熱しつつ、この加熱された熱で、金属箔を均一に加熱することができる。さらに、結晶化する際に自己発熱した金属箔の温度よりも、設置面の温度が低く、設置面の温度は均一であるため、金属箔の自己発熱した熱を、設置面からベースに均一に吸熱させることができる。
【0011】
なお、金属箔を反りなくベースに密着させることができるのであれば、例えばベースに磁石または電磁石等を設け、磁力により金属箔をベースに密着させてもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記結晶化する工程において、前記金属箔を前記ベースに密着させる際に、前記ベースに形成された吸引口から前記金属箔を吸引することにより、前記金属箔を前記ベースに密着させる。
【0012】
この態様によれば、金属箔をベースに形成された吸引口から吸引することにより、金属箔の反りを矯正し、ベースの表面に隙間なく密着させることができる。また、ベースの表面に、例えば異物等が存在したとしても、この異物を吸引口から吸引することも可能であり、金属箔とベースとの間に異物が噛み込むことを防止することができる。
【0013】
さらに好ましい態様としては、前記金属箔を準備する工程において、前記金属箔の素材を溶融した溶融金属を、回転しているロール上に吹き付けて、溶融金属を前記ロール上で冷却して凝固させることにより、前記アモルファス系軟磁性材料からなる前記金属箔を製造し、前記金属箔を前記ベースに密着させる際に、前記金属箔の表面のうち、前記ロールと接触していた側の表面を、前記設置面に密着させる。
【0014】
この態様によれば、金属箔の素材を溶融した溶融金属を、回転しているロール上に吹き付けて、溶融金属をロール上で冷却して凝固させる方法、いわゆる単ロール法により、アモルファス系軟磁性材料からなる前記金属箔を製造する。このようにして、得られた金属箔の表面のうち、ロールと接触していた側の表面には、その反対側の表面に比べて、凹凸が少ないため、金属箔の表面をベースの設置面により均一に密着させることができ、この均一な密着状態で、金属箔を均一に加熱することができる。これにより、金属箔の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴う不均一な塑性変形を抑えることができるので、結晶化した金属箔をより緻密に積層することができる。
【0015】
さらに、好ましい態様としては、金属箔を準備する工程において、前記金属箔として、鉄系のアモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を準備し、前記結晶化する工程は、支持部材の上に、前記金属箔を配置し、前記ベースと前記支持部材とが接近する方向に、前記ベースと前記支持部材との少なくとも一方を移動させることにより、前記金属箔を、前記ベースと前記支持部材との間に挟み込んで、前記金属箔を前記ベースに密着させつつ、前記ベースに内蔵されたヒータにより、前記金属箔を加熱するものであり、前記結晶化する工程において、以下の(i)または(ii)の条件を満たす。(i)前記支持部材を構成する材料の熱伝導率は、0.2W/mK以下である。(ii)前記支持部材の温度を、300℃以上かつ前記結晶化開始温度未満にする。
【0016】
この態様によれば、金属箔が配置された支持部材を、ベースに相対的に接近させることができるので、金属箔を、ベースと支持部材との間に挟み込んで、金属箔をベースにより均一に密着させることができる。
【0017】
この際に、金属箔は、ベースに内蔵されたヒータにより加熱されて、金属箔は結晶化するが、(i)支持部材を構成する材料の熱伝導率を、0.2W/mK以下とすることにより、支持部材で熱が奪われ難い。具体的には、金属箔のひずみ、反りの形状に起因して、金属箔に密着した際にベースの設置面の温度分布に偏り等が生じたとしても、金属箔の熱が支持部材に奪われ難くなり、金属箔の温度分布の均一化が図られる。これにより、金属箔がベースに密着した状態で、ベースの設置面の局所的な温度低下を抑えることができる。このような結果、金属箔の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴う不均一な塑性変形を抑えることができるので、結晶化した金属箔をより緻密に積層することができる。
【0018】
ここで、支持部材を構成する材料の熱伝導率が、0.2W/mKを超えた場合には、ベースの設置面の熱が、金属箔を介して支持部材に逃げやすい。したがって、金属箔とベースが密着した際にベースの設置面の温度分布に偏り等が生じたとしても、この偏りが均一にはなり難く、金属箔の結晶化が、高温の部位から優先的に開始されるため、結晶化に伴う収縮のタイミングが部位によって異なってしまう。この結果、金属箔に不均一な塑性変形が生じ、結晶化した金属箔を緻密に積層することができないことがある。
【0019】
一方、ベースに内蔵されたヒータにより加熱されて、金属箔を結晶化する際に、(ii)前記支持部材の温度を、300℃以上かつ金属箔の結晶化開始温度未満にしても、ベースと支持部材との温度差が小さいため、ベースの熱が支持部材に奪われ難い。具体的には、金属箔のうねり等の形状に起因して、金属箔とベースが密着した際にベースの設置面の温度分布に偏り等が生じたとしても、金属箔の熱が支持部材に奪われ難く、金属箔の温度分布の均一化が図られる。これにより、金属箔がベースに密着した状態で、ベースの設置面の局所的な温度低下を抑えることができる。このような結果、金属箔の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴う不均一な塑性変形を抑えることができるので、結晶化した金属箔をより緻密に積層することができる。
【0020】
ここで、支持部材の温度が300℃未満の場合には、ベースの設置面の熱が、金属箔を介して支持部材に逃げやすい。したがって、設置面の温度にバラツキがある場合には、この温度のバラツキに応じて、金属箔の結晶化の進み具合が部位によって異なるため、結晶化に伴う収縮のタイミングが部位によって異なってしまう。この結果、金属箔に不均一な塑性変形が生じ、結晶化した金属箔を緻密に積層することができないことがある。一方、支持部材の温度が金属箔の結晶化開始温度以上の場合には、支持部材に金属箔を配置した際に(すなわち、ベースと支持部材で金属箔を挟み込む前に)、金属箔が結晶化することがあり、ベースの熱による金属箔の結晶化の効果が得られない。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るに金属箔の製造方法によれば、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔に対して、金属箔を過昇温させることなく、均一に加熱することにより、均一な大きさの結晶のナノ結晶系軟磁性材料に結晶化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る金属箔の製造方法を実施する加熱装置を示した模式的斜視図である。
図2図1に加熱装置のA-A線における矢視方向の断面図である。
図3図1に示す加熱装置に金属箔を密着させた状態を示した模式的斜視図である。
図4図3に示す金属箔の温度プロフィールを示した図である。
図5A】変形例に係る金属箔の製造方法における準備工程を説明するための模式的斜視図である。
図5B図5Aにより製造された金属箔の模式的断面図である。
図6A図1に示す加熱装置を利用した金属箔の結晶化工程を説明するための模式的断面図である。
図6B】金属箔をベースの設置面に吸着させながら加熱する状態を説明するための模式的断面図である。
図6C図6Bの変形例に係る模式的断面図である。
図7図6Bの比較となる模式的断面図である。
図8A】ロータコアの製造工程を説明するための模式的斜視図である。
図8B】モータの製造工程を説明するための模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明に係る金属箔の製造方法について説明する。なお、図1図4において、用いられる金属箔を説明した後に、各実施形態における製造方法を説明する。
【0024】
1.金属箔10について
本実施形態において製造される金属箔は、ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔である。以下に示す製造方法では、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔を準備し、これを熱処理することにより、アモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化することで、金属箔を製造する。
【0025】
ここで、金属箔を構成するアモルファス系軟磁性材料およびナノ結晶系軟磁性材料について説明する。アモルファス系軟磁性材料およびナノ結晶系軟磁性材料としては、例えば、Fe、Co及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の磁性金属と、B、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWからなる群から選択される少なくとも1種の非磁性金属とから構成されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
アモルファス系軟磁性材料またはナノ結晶系軟磁性材料の代表的な材料として、例えば、FeCo系合金(例えばFeCo、FeCoVなど)、FeNi系合金(例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)、FeAl系合金又はFeSi系合金(例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど)、FeTa系合金(例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど)またはFeZr系合金(例えばFeZrNなど)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。Fe系合金の場合にはFeは80at%以上含まれることが好ましい。
【0027】
また、アモルファス系軟磁性材料又はナノ結晶系軟磁性材料の他の材料として、例えば、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、Ti及びYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることができる。Co合金中Coは80at%以上含まれることが好ましい。このようなCo合金は、製膜した場合にアモルファスとなり易く、結晶磁気異方性、結晶欠陥及び粒界が少ないため、非常に優れた軟磁性を示す。好適なアモルファス系軟磁性材料としては、例えばCoZr、CoZrNb、及びCoZrTa系合金などを挙げることができる。
【0028】
本明細書でいうアモルファス系軟磁性材料は、主構造としてアモルファス構造を有する軟磁性材料である。アモルファス構造の場合には、X線回折パターンには明瞭なピークは見られず、ブロードなハローパターンのみが観測される。一方、アモルファス構造に熱処理を加えることでナノ結晶構造を形成することができるが、ナノ結晶構造を有するナノ結晶系軟磁性材料では、結晶面の格子間隔に対応する位置に回折ピークが観測される。その回折ピークの幅からScherrerの式を用いて結晶子径を算出することができる。
【0029】
本明細書でいうナノ結晶系軟磁性材料では、ナノ結晶とは、X線回折の回折ピークの半値全幅からScherrerの式で算出される結晶子径が1μm未満のものをいう。本実施形態において、ナノ結晶の結晶子径(X線回折の回折ピークの半値全幅からScherrerの式で算出される結晶子径)は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。また、ナノ結晶の結晶子径は、好ましくは5nm以上である。ナノ結晶の結晶子径がこのような大きさであることで、磁気特性の向上が見られる。なお、従来の電磁鋼板の結晶子径は、μmオーダーであり、一般的には、50μm以上である。
【0030】
アモルファス系軟磁性材料は、例えば、上に示した組成となるように配合された金属原料を高周波溶解炉などにより高温で溶融して均一な溶湯とし、これを急冷して得ることができる。急冷速度は、材料にもよるが、例えば約10℃/secであり、結晶化する前に、アモルファス構造を得ることができれば、その急冷速度は特に限定されない。本実施形態では、後述する金属箔は、回転する冷却ロールに金属原料の溶湯を吹きつけることでアモルファス系軟磁性材料からなる金属箔帯を製造し、これを、所望の形状に打ち抜き成形等により成形することにより得ることができる。このように、溶湯を急冷することにより、材料が結晶化する前に、アモルファス構造の軟磁性材料を得ることができる。金属箔の厚みは、例えば、10μm以上100μm以下の範囲内であり、中でも20μm以上50μm以下の範囲内が好ましい。
【0031】
なお、後述する図面では、矩形状の金属箔10であるが、この形状に限定されるものではない。例えば、金属箔は、モータのロータコアの形状に応じた扇形の金属箔であってもよい。金属箔10は、アモルファス系軟磁性材料の帯体から、打ち抜き成形等の成形で得られたものであり、このような成形により、図1に示すように、金属箔10に反りが発生することがある。このように反りが発生した金属箔10に対して、図1に示す加熱装置1で、ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔10を好適に製造することができる。
【0032】
2.金属箔10の加熱装置1について
加熱装置1は、金属箔10を加熱する装置であり、金属箔10を設置するベース(基台)2と、ベース2に設置された金属箔10を吸引する吸引装置3と、ベース2を介して金属箔10を加熱する複数のヒータ5、5、…と、を備えている。
【0033】
ベース2は、加熱される金属箔10よりも熱伝導性の高い材料であることが好ましく、金属箔10がFe系アモルファス合金である場合には、アルミニウム合金、銅合金などの金属材料が好ましい。ベース2には、金属箔10を設置する設置面21が形成されている。本実施形態では、設置面21は平面であるが、加熱される金属箔10の形状に応じた形状であれば、設置面21の形状は特に限定されるものではない。
【0034】
本実施形態では、設置面21には、複数の吸引口22、22、…が形成されており、これらの吸引口22、22、…は、ベース2の内部に形成された吸引通路23により連通している。吸引口22、22、22、…に対して吸引通路23の他方には、配管8を介して吸引装置3が接続されている。吸引装置3は、例えば、吸引ポンプなどであってもよいが、例えば、アスピーレータ(図示せず)により配管8内および吸引通路23を減圧し、金属箔10を吸引するものであってもよい。
【0035】
図2に示すように、ベース2には、各ヒータ5を収容する収容部25が形成されている。本実施形態では、収容部25は、吸引通路23を挟んで設置面21と反対側に設けられている。本実施形態では、ヒータ5は、棒状のヒータ5であることから、収容部25は、一方向に延在した空洞であり、その一端が開口している。ヒータ5は、この開口した部分からベース2の収容部25に挿入されている。
【0036】
本実施形態では、ヒータ5は、電気抵抗加熱式の棒状のヒータであり、配線51を介して、電源(図示せず)に接続されている。ヒータ5は、ベース2に内蔵されている。具体的には、ヒータ5は、ベース2の収容部25に収容されている。本実施形態では、ヒータ5は、棒状のヒータであるが、ベース2の設置面21を均一に加熱することができるのであれば、ヒータ5の形状は特に限定されず、面状のヒータであってもよい。
【0037】
さらに、本実施形態では、ヒータ5の電気抵抗により、ベース2および金属箔10を加熱しているが、例えば誘導加熱または熱媒体による加熱により、ベース2および金属箔10を加熱してもよい。この他にも、ヒータ5をベース2の外部に設けて、外部からベース2を加熱してもよい。
【0038】
3.金属箔10の製造方法
図1および図2に示す加熱装置1を用いて金属箔10を加熱する。まず、本実施形態では、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔10を金属製のベース2の設置面21に設置する。この際、設置面21に形成された吸引口22、22、…を覆うように金属箔10を設置する。
【0039】
次に、アモルファス系軟磁性材料からなる金属箔10をベース2の設置面21に倣うように密着させる。具体的には、金属箔10の設置後、吸引装置3を稼働する。これにより、配管8内および吸引通路23は減圧状態になり、複数の吸引口22、22、…から金属箔10を吸引することができる。本実施形態では、金属箔10を複数の吸引口22、22…から吸引することにより、図3に示すように、例えば反った形状の金属箔10を平面状の設置面21に倣わせて、その形状を矯正し、金属箔10をベース2の設置面21に密着させることができる。また、ベース2の設置面21に、例えば異物等が存在したとしても、この異物を吸引口22から吸引することも可能であり、金属箔10とベース2との間に異物が噛み込むことを防止することができる。
【0040】
次に、ベース2に密着させた状態の金属箔10を加熱することにより、金属箔10のアモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する。具体的には、ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する結晶化開始温度以上の加熱温度であり、かつ、結晶化する際に自己発熱により昇温される金属箔10の表面温度よりも設置面21の温度が低くなる加熱温度で、金属箔10を加熱する。これにより、金属箔10のアモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化しつつ、結晶化する際に、金属箔10の自己発熱の熱を、ベース2に吸熱させる。
【0041】
ここで、金属箔10の熱処理の条件は、その材料を結晶化でき、自己発熱時に金属箔10の熱をベース2に吸熱させることができるのであれば、その熱処理条件は特に制限されるものではなく、金属原料の組成や発現させたい磁気特性などを考慮して適宜選択される。熱処理は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0042】
ここで、金属箔10を加熱する加熱温度の下限値は、アモルファス系軟磁性材料からナノ結晶系軟磁性材料に結晶化が開始する結晶化開始温度である。「結晶化開始温度」は、アモルファス系軟磁性材料に対して結晶化が生じる温度である。
【0043】
結晶化の際には発熱反応が起きるため、結晶化開始温度は、金属箔10の結晶化に伴って発熱する温度を測定することで決定することができる。例えば、示差走査熱量測定(DSC)を用い、所定の加熱速度(例えば0.67Ks-1)の条件下で結晶化温度を測定することができる。アモルファス系軟磁性材料の結晶化開始温度は、その材質等によって異なるものであるが、材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、400℃以上450℃以下の範囲内となる。
【0044】
ここで、金属箔10が、設置面21からの伝達される熱により、室温から結晶化開始温度未満の温度まで昇温される際には、mcΔTの熱量が、顕熱として金属箔10に保持される。ここで、mは、金属箔10の質量であり、cは、金属箔10の材料の比熱であり、ΔTは昇温幅である。さらに、金属箔10の露出した表面から、入熱された熱のうち一部の熱量ΔQoutが放熱される。なお、本明細書で表記する「Δ」は、単位時間あたりを意味する。
【0045】
ここで、図4に示すように、金属箔10が結晶化開始温度Ts以上に加熱されると、金属箔10は、結晶化により自己発熱する。この際、金属箔10に自己発熱による熱量ΔQselfが発生する。
【0046】
例えば、ベース2の加熱温度(具体的には設置面21の温度)Ttを結晶化開始温度Tsと同じ温度に設定したとき、金属箔10は自己発熱する。このため、金属箔10の自己発熱による熱量ΔQselfが発生し、金属箔10は、結晶化開始温度Tsよりも高い温度に昇温され、金属箔10の昇温速度が増加する。
【0047】
この場合には、金属箔10の温度Taが、ベース2の設置面21の温度(加熱温度Tt)よりも高くなる。したがって、ベース2はヒータ5により加熱されているにもかかわらず、自己発熱した金属箔10が熱源となって、自己発熱による発生した熱が、設置面21からベース2に吸熱される。
【0048】
さらに、ベース2の設置面21の温度(具体的には加熱温度Tt)を結晶化開始温度Tsよりも、高い温度に設定した場合も、金属箔10は結晶化開始温度Ts以上になった時点から自己発熱するため、金属箔10の自己発熱による熱量ΔQselfが発生する。
【0049】
ここで、金属箔10の温度が結晶化開始温度Ts以上となったタイミングから、自己発熱による熱量ΔQselfに応じて、金属箔10の温度がさらに昇温されるが、加熱温度Ttが、自己発熱時の金属箔10の温度Taよりも高い場合には、設置面21から金属箔10に熱が入熱され続ける。したがって、このような場合には、金属箔10の自己発熱の熱を、設置面21からベース2に吸熱することができない。
【0050】
このような観点から、金属箔10を加熱する加熱温度Tt(設置面21の温度)の上限値は、ベース2に金属箔10を設置した状態で、結晶化する際に自己発熱により昇温される金属箔10の温度Taよりも低い温度に設定される。加熱温度Ttの上限値は、その材質等によって異なるものであるが、材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、上述した結晶化開始温度Tsよりも30℃~100℃高い温度であることが好ましい。
【0051】
このような範囲に加熱温度Ttを設定することにより、自己発熱時の金属箔10の温度Taは、結晶化開始温度Tsよりも高い温度となり、結晶化温度Ts以上の加熱温度Ttで金属箔10を加熱する期間L1のうち期間L2において、加熱温度Ttよりも高い温度になる。すなわち、金属箔10の温度Taが結晶化開始温度Tsに到達した時点A1から、金属箔10の結晶化が完了する時点A2までの期間L1のうち、金属箔10の温度Taが加熱温度Ttを超えた時点A3から金属箔10の結晶化が完了する時点A2までの期間L2が、金属箔10の自己発熱した熱をベース2に吸熱する期間となる。なお、金属箔10の結晶化が完了する時点A2は、金属箔10のナノ結晶が所定の結晶粒径の範囲となる時点である。
【0052】
自己発熱により昇温される金属箔10の温度は、金属箔10に入熱される熱量、金属箔10に保持される顕熱の熱量、金属箔10の表面から放熱される熱量、金属箔10の自己発熱による熱量、金属箔10から設置面21に吸熱される熱量、および金属箔10と設置面21の熱の接触抵抗等から一般的な熱計算により算出することができる。この他にも、自己発熱により昇温される金属箔10の温度を、実際に設置面21の加熱温度Ttを変化させることで実験的に求めてもよい。
【0053】
このように、結晶化温度Ts以上の加熱温度Ttで金属箔10を加熱する期間L1内で、自己発熱時の金属箔10の温度Taが、加熱温度Ttよりも高い温度になる期間L2が存在すればよい。これにより、金属箔10から設置面21に吸熱される熱量が、金属箔10の自己発熱による熱量より大きくなる期間L2が存在するため、この期間L2において、金属箔10が発熱した熱を、ベース2に吸熱させることができる。
【0054】
以上、本実施形態によれば、ベース2の設置面21に密着させた状態の金属箔10を加熱することにより、金属箔10のアモルファス系軟磁性材料をナノ結晶系軟磁性材料に結晶化する。この際には、上述した温度の加熱温度Ttとすることにより、金属箔10のアモルファス系軟磁性材料が結晶化するとともに、自己発熱した金属箔10の熱をベース2の設置面21からベース2に吸熱させることができる。
【0055】
金属箔10は、ベース2に密着しているので、金属箔10の熱は均一にベース2に吸熱され、結晶化の際に、金属箔10の温度は均一となる。したがって、金属箔10の結晶を、均一な大きさの結晶に結晶化することができる。このような結果、結晶粒の大きさのバラツキ(具体的には結晶粒の粗大化)に起因した、金属箔10の磁気特性の低下を抑えることができる。
【0056】
特に、本実施形態では、ベース2に内蔵したヒータ5により、金属箔10を加熱するので、ベース2に内蔵したヒータ5により、ベース2の設置面21を均一に加熱しつつ、この加熱された熱で、金属箔10を均一に加熱することができる。さらに、結晶化する際に自己発熱した金属箔10の温度よりも、設置面21の温度が低く、設置面21の温度は均一であるため、金属箔10の自己発熱した熱を、設置面21からベース2に均一に吸熱させることができる。
【0057】
ここで、金属箔10を、図5Aに示す成形装置20を用いて、予め準備してもよく、この点に関しては上述したが、その詳細を図5Aを参照しながら、以下に簡単に説明する。本実施形態では、成形装置20は、坩堝50と円柱状の冷却ロール60とを備えており、液体急冷法により、金属箔10が成形される。液体急冷法としては、単ロール法、双ロール法、または遠心法等が挙げられるが、本実施形態では、生産性及びメンテナンス性の観点から、高速で回転する一つの冷却ロール60上に金属溶湯Mを供給して、急冷凝固させて帯状の金属箔10Aを得る単ロール法が採用される。
【0058】
図5Aに示す坩堝50には、高周波加熱ヒータ(図示せず)が設けられており、高周波加熱ヒータにより、金属箔10の出発材料である金属が加熱されて、溶融金属Mとなる。溶融金属Mの組成は上述したとおりである。ここで、坩堝50は、上述した高周波溶解炉に相当する。
【0059】
坩堝50の下方には、坩堝50内の溶融金属Mを噴出する噴射口51が形成されている。噴射口51は、スリット状の形状をしており、冷却ロール60の軸方向に延在するように、冷却ロール60の周面に対向して配置している。冷却ロール60は、銅製のロールであり、モータ(図示せず)に接続され、回転駆動する。冷却ロール60の内部には、冷却液が流れる冷却機構が設けられている。なお、坩堝50の上流側には、噴射口からの溶融金属Mの吹き付け量(噴出量)を調整する圧力調整装置(図示せず)が設けられている。
【0060】
金属箔10を製造する際には、金属箔10の素材を溶融した溶融金属Mを、回転している冷却ロール60の周面上に吹き付けて、溶融金属Mを冷却ロール60の周面上で冷却して凝固させる。冷却ロール60で溶融金属Mを急冷することにより、溶融金属Mが結晶化せず、アモルファス系軟磁性材料からなる帯状の金属箔10を得ることができる。得られた帯状の金属箔10Aは、切断加工、打ち抜き加工等を経て、所望の形状に成形され、得られた金属箔10を、例えば、図1に示す加熱装置1等で加熱する。
【0061】
ここで、図5A図5Bに示すように、得られた金属箔10A(10)の表面のうち、冷却ロール60に接触した表面10aは、円柱状の冷却ロール60の表面の形状に応じて、平坦な表面となる。その一方、得られた金属箔10の表面のうち、冷却ロール60に接触した表面10aとは反対の表面10bは、冷却ロール60の溶融金属Mの付着量のバラツキにより、凹凸が形成されている。そこで、本実施形態では、図6A図6Bに示すように、加熱装置1Aを用いて、金属箔10を加熱する。
【0062】
図6A図6Bに示す加熱装置1Aは、図1および2に示す加熱機構と同じであるが、図6A図6Bに示す加熱装置1Aでは、ベース2の設置面21が下方を向くように、上下反転して配置されている。加熱装置1Aは、ベース2の設置面21に対向する位置に、支持部材30を、さらに備えている。ベース2と支持部材30には、ベース2と支持部材30とが相対的に接近および離間するように、これらの少なくとも一方を移動させる移動装置(図示せず)が、取り付けられている。
【0063】
本実施形態では、図6A図6Bに示すように、金属箔10をベース2に密着させる際に、金属箔10の表面のうち、冷却ロール60と接触していた側の表面10aを、設置面21に密着させる。具体的には、図6Aに示すように、本実施形態では、金属箔10の表面10aを、ベース2に対向するように、金属箔10を支持部材30に配置する。すなわち、金属箔10の表面10aとは、反対側の表面10bが支持部材30に接触するように、金属箔10を支持部材30に配置する。
【0064】
次に、図6Bに示すように、ベース2と支持部材30とが接近するように、ベース2および支持部材30の少なくともいずれか一方を、複数の吸引口22、22、…から金属箔10を吸引することができる位置まで移動させる。すなわち、本実施形態では、ベース2と支持部材30とにより、金属箔10を挟み込まない。したがって、金属箔10の形状は、ベース2と支持部材30とにより矯正されず、複数の吸引口22、22、…の吸引により矯正され、金属箔10は、ベース2と支持部材30とにより加圧されず、金属箔10の反対側の表面10bは、大気に露出している。これにより、金属箔10の加圧される圧力分布のバラツキ等により、金属箔10が不均一に加熱されることを抑えることができる。
【0065】
ところで、例えば、図7に示すように、金属箔10の反対側の表面10bをベース2の設置面21に対して密着させる場合、その過程で、表面10bの凹凸の程度にもよるが、均一に密着しない(その一部が浮き上がる)ことがある。ベース2の熱により、密着した部分10cから結晶化が進むとともに、その部分10cが収縮し、隙間Cにより部分的に密着していない部分10dが遅れて結晶化して収縮する。このような結晶化による不均一な収縮により、金属箔が不均一に塑性変形することがある。なお、部分的に密着していない部分10dは、密着した部分10cに比べて、ベース2に遅れて密着する。
【0066】
しかしながら、金属箔10の表面のうち、冷却ロール60と接触していた側の表面10aは平坦であり、図6Bに示すように、この表面10aをベース2の設置面21に密着させることにより、金属箔10を設置面21に均一に密着させることができる。このため、図7の場合と比べて、金属箔10を均一に加熱して結晶化させることができる。このような結果、金属箔10の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴うひずみにより、不均一な塑性変形が発生することを抑えることができるので、結晶化した金属箔10をより緻密に積層することができる。なお、図1に示す加熱装置1を用いる場合には、金属箔10の表面10aを、ベース2の設置面21に配置すればよい。
【0067】
さらに、結晶化する工程において、図6Cに示す加熱装置1Bを用いてもよい。この加熱装置1Bのベース2には、吸引口は設けられておらず、図6Aと同様に、ベース2には、ヒータ5が内蔵されている。さらに、ベース2と支持部材30との少なくとも一方には、金属箔10を、ベース2と支持部材30との間に挟み込むことができる位置まで、ベース2と支持部材30とが接近する方向に移動させる移動装置(図示せず)が接続されている。
【0068】
本実施形態では、支持部材30の上に、金属箔10を配置し、ベース2と支持部材30とを相対的に接近する方向に移動させることにより、金属箔10を、ベース2と支持部材30との間に挟み込む。金属箔10は、この挟み込みにより、金属箔10をベース2に密着させつつ、ベース2に内蔵されたヒータ5により、金属箔10を加熱する。
【0069】
ここで、金属箔10を均一に加熱することができるのであれば、金属箔10のうち、ベース2に接触させる表面は、いずれの表面であってもよい。しかしながら、上述した単ロール法により、金属箔10を製造する場合には、上述した理由と同じ理由により、冷却ロール60と接触していた側の金属箔10の表面10aを、設置面21に密着させることが好ましい。
【0070】
さらに、図1に示す加熱装置1では、ベース2に吸引口を設けたが、例えば、図6Cに示す、加熱装置1Bにおいて、ベース2および支持部材30のいずれか一方に、図1に示す吸引口を設け、金属箔10を吸引してもよい。支持部材30に吸引口を設けた場合には、支持部材30に金属箔10を載置した段階で、吸引口の吸引により、金属箔10の反り等の変形を強制することができる。一方、ベース2に吸引口を設けた場合には、金属箔10を配置した支持部材30をベース2に接近させると、金属箔10がベース2の設置面21に吸着され、吸着された金属箔10が、支持部材30に挟み込まれて、加圧される。
【0071】
ここで、金属箔10のうち、ベース2に接触させる表面は、いずれの表面であっても、金属箔10の形状が僅かに反った形状、うねった形状である場合、図6Cに示す加熱装置1Bで金属箔10を加熱すると、金属箔10が不均一に加熱されるおそれがある。このような点を鑑みて、発明者らは、後述する実験からも明らかなように、以下の点を見出した。
【0072】
具体的には、結晶化する工程において、図6Cに示す加熱装置1Bを用いる場合には、以下の(i)または(ii)の条件を満たすことが好ましい。
(i)支持部材30を構成する材料の熱伝導率は、0.2W/mK以下である。
(ii)支持部材30の温度を、300℃以上かつ結晶化開始温度未満にする。
【0073】
金属箔10は、ベース2と支持部材30に挟み込まれた状態で、ベース2に内蔵されたヒータ5により加熱されて、金属箔10は結晶化するが、(i)支持部材30を構成する材料の熱伝導率を、0.2W/mK以下とすることにより、支持部材30で熱が奪われ難い。
【0074】
具体的には、打ち抜き加工、切断加工などにより発生する、金属箔10のうねった形状(波状)、反った形状に起因して、金属箔10に密着した際にベース2の設置面21の温度分布に偏り等が生じたとしても、金属箔10の熱が支持部材30に奪われ難くなる。これにより、金属箔10と支持部材30との間において、熱が保持され易いため、金属箔10の温度分布の均一化が図られる。
【0075】
これにより、金属箔10がベース2に密着した状態で、ベース2の設置面21の局所的な温度低下を抑えることができる。このような結果、金属箔10の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴うひずみにより、不均一な塑性変形が発生することを抑えることができるので、結晶化した金属箔10をより緻密に積層することができる。
【0076】
ここで、後述する実施例からも明らかなように、支持部材30を構成する材料の熱伝導率が、0.2W/mKを超えた場合には、ベース2の設置面21の熱が、金属箔を介して支持部材に逃げやすい。したがって、金属箔10に密着した際にベース2の設置面21の温度分布に偏り等が生じたとしても、この偏りが均一にはなり難く、金属箔10の結晶化が、高温の部位から開始されるため、結晶化に伴う収縮のタイミングが部位によって異なってしまう。この結果、金属箔10の不均一な塑性変形が生じ、結晶化した金属箔10を緻密に積層することができないことがある。
【0077】
ここで、支持部材30を構成する材料として、熱伝導率が、0.2W/mK以下の条件を満たす材料としては、ケイ酸カルシウム、石膏、または、PVC、アクリルなどの樹脂、などを挙げることができる。
【0078】
一方、ベース2に内蔵されたヒータ5により加熱されて、金属箔10を結晶化する際に、(ii)支持部材30の温度を、300℃以上かつ金属箔の結晶化開始温度未満にしても、ベース2と支持部材30との温度差が小さいため、ベースの熱が支持部材に奪われ難い。
【0079】
具体的には、金属箔10の反り等の形状に起因して、金属箔10に密着した際にベース2の設置面21の温度分布に偏り等が生じたとしても、金属箔10の熱が支持部材30に奪われ難く、金属箔10の温度分布の均一化が図られる。
【0080】
これにより、金属箔10がベース2に密着した状態で、ベース2の設置面21の局所的な温度低下を抑えることができる。このような結果、金属箔10の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴うひずみにより、不均一な塑性変形が発生することを抑えることができるので、結晶化した金属箔10をより緻密に積層することができる。
【0081】
ここで、後述する実施例からも明らかなように、支持部材30の温度が300℃未満の場合には、ベース2の設置面21の熱が、金属箔10を介して支持部材30に逃げやすい。したがって、設置面21の温度にバラツキがある場合には、この温度のバラツキに応じて、金属箔10の結晶化の進み具合が部位によって異なるため、結晶化に伴う収縮のタイミングが部位によって異なってしまう。この結果、金属箔10に不均一な塑性変形が生じ、結晶化した金属箔10を緻密に積層することができないことがある。一方、支持部材30の温度が金属箔10の結晶化開始温度以上の場合には、支持部材30に金属箔10を配置した際に(すなわち、ベース2と支持部材30で金属箔を挟み込む前に)、金属箔10が結晶化することがあり、ベース2の熱による金属箔10の結晶化の効果が得られない。
【0082】
結晶化する工程において、図6Cに示す加熱装置1Bを用いる場合には、さらに、以下の条件を満たすことがより好ましい。具体的には、結晶化する工程において、ベース2と支持部材30とが接近する方向に、移動速度が125mm/秒以上で、ベース2と支持部材30の少なくとも一方を移動させて、金属箔10を、ベース2と支持部材30との間に挟み込む。これにより、金属箔10がベース2の設置面21に瞬時に接触させることができ、金属箔10の各部位において、ベース2の設置面21に加熱されるタイミングを近づけることができる。この結果、金属箔10をより均一に加熱することができるため、金属箔10の均一な結晶化が促進され、結晶化時の収縮に伴う不均一な塑性変形を抑えることができる。そのため、結晶化した金属箔10をより緻密に積層することができる。
【0083】
ここで、ベース2と支持部材30との移動速度が125mm/秒未満である場合には、他の部位に比べて、ベース2に接触して、局所的に加熱が開始される部位が存在することがあり、結晶化に伴う収縮のタイミングが部位によって異なってしまうことがある。この結果、金属箔10に不均一な塑性変形が生じ、結晶化した金属箔10を緻密に積層することができないことがある。
【0084】
本実施形態では、矩形状の金属箔10を製造したが、例えば、モータのステータを製造する場合には、ステータコアをモータの回転軸を中心として周方向に分割した扇形状の金属箔を準備し、これを加熱することにより、ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔を製造する。次に、金属箔10を、所定の圧力で互いに密着させて、積層体10Aを成形する。この際、各金属箔10同士を接着剤などの樹脂等により拘束してもよい。
【0085】
さらに、図8Aに示すように、積層体10Aをステータコアの状態に積み重ね、積層体10Aを固定することにより、ステータコア80Aを作製する。なお、図8Aおよび8Bでは、ステータコアのティース等の詳細な形状は省略している。
【0086】
最後に、図8Bに示すように、組み付け工程を行う。この工程では、ステータコアのティース(図示せず)にコイル(図示せず)を配置してステータ80とし、ステータ80と、ロータ70とをケース(図示せず)に配置することで、モータ100が製造される。
【実施例
【0087】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本実施形態に係る金属箔の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0088】
[実施例1]
まず、一般的な方法で作製された、厚さ25μmのアモルファス系軟磁性材料(Fe系アモルファス合金)からなる金属箔(株式会社東北マグネットインスティテュート製NANOMET)を準備した。この金属箔の結晶化開始温度は419.19℃である。この金属箔を、500℃に加熱したホットプレートの表面に1秒間密着させた。すなわち、金属箔の加熱温度は、500℃である。得られた金属箔は、ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化しており、飽和磁束密度が1.76~1.73Tの範囲にあり、保磁力が8~10A/mの範囲にあった。
【0089】
[比較例1]
実施例1と同じようにして金属箔を製造した。実施例1と相違する点は、金属箔を吸引せずに、金属箔の一部がホットプレートに接触していない状態で、金属箔を加熱した点である。得られた金属箔は、ナノ結晶系軟磁性材料に結晶化していたが、ホットプレートに接触していない金属箔の部分は過昇温されており、結晶の粗大化が確認された。飽和磁束密度が1.74Tであり、保磁力が3751A/mであった。この特性の金属箔をモータした場合には、トルクの損失が大きくなると言える。
【0090】
このように、比較例1の場合には、ホットプレートに接触していない金属箔の部分は、金属箔の自己発熱により800℃程度まで昇温されたと考えられる。これにより、実施例1の金属箔の如く微細な結晶が得られず、実施例1よりも保磁力が高くなったと考えられる。
【0091】
[実施例2-1]
実施例1と同様に、金属箔を加熱した。具体的には、まず、厚さ25μmのアモルファス系軟磁性材料(Fe系アモルファス合金、具体的にはFe-Ni-B系のアモルファス合金)を、図5Aに示す成形装置20を用いて、帯状の金属箔10Aを製造した。得られた帯状の金属箔10Aから、外径50.4mm、内径30mmのリング状の金属箔10を、複数枚打ち抜き成形した。次に、図6Bに示すように、500℃に加熱したベース2の設置面21に、冷却ロール60と接触した側の金属箔10の表面10aを密着させながら、金属箔10を加熱した、ナノ軟磁性材料からなる複数枚の金属箔10を製造した。この金属箔10を400枚積層した積層体を作製した。積層体の層厚さ方向の寸法を積層体の厚さとして測定し、その測定した積層体の厚さを、密度100%としたときの積層体の厚さで除算し、100を乗じた値を、積層体の占積率として算出した。この結果を表1に示す。
【0092】
[実施例2-2]
実施例2-1と同じようにして、積層体を作製した。実施例2-1と相違する点は、図6Cに示すようにして、加熱装置1Bにより、金属箔10を加熱した点である。なお、実施例2-2では、鋼製の支持部材30に複数の吸引口を設けて、金属箔10を吸引することで、その形状を矯正した状態で、金属箔10を支持部材30とベース2との間に挟み込んだ。得られた積層体の占積率を、実施例2-1と同じように算出した。この結果を表1に示す。なお、実施例2-2では、ベース2の設置面21に、冷却ロール60と接触した側の金属箔10の表面10aを密着させながら、金属箔10を加熱した。
【0093】
[実施例2-3]
実施例2-1と同じようにして、積層体を作製した。実施例2-1と相違する点は、図7に示すようにして、ベース2の設置面21に、冷却ロール60と接触していない側の金属箔10の表面10bを密着させながら、金属箔10を加熱した点である。得られた積層体の占積率を、実施例2-1と同じように算出した。この結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2-4]
実施例2-2と同じようにして、積層体を作製した。実施例2-2と相違する点は、ベース2の設置面21に、冷却ロール60と接触していない側の金属箔10の表面10bを密着させながら、図6Cに示す加熱装置1Bにより、金属箔10を加熱した点である。得られた積層体の占積率を、実施例2-1と同じように算出した。この結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例2-1~実施例2-4の順で、積層体の占積率は、低くなった。実施例2-1の積層体の占積率が最も高かったのは、冷却ロール60と接触した側の表面10aは平坦であり、この表面10aを熱源であるベース2に均一に密着させたからであるとか考えられる。これに加えて、実施例2-1では、冷却ロール60と接触していない側の表面10bが、支持部材など、大気より熱伝導性の高い材料に接触せず、大気中に晒されているため、金属箔10に、均一にベース2からの熱が伝達したと考えられる。
【0097】
実施例2-2の積層体の占積率が、実施例2-1のものよりも低いのは、金属箔10がベース2と支持部材30により挟み込まれることにより、ベース2からの熱が金属箔10を介して支持部材30に局所的に逃げてしまい、金属箔10への熱伝達が不均一になったものと考えられる。
【0098】
さらに、実施例2-3、2-4の場合には、熱源であるベース2に、冷却ロール60と接触していない側の金属箔10の表面(凹凸を有した表面)10bが接触するため、金属箔10への熱伝達が不均一になったものと考えられる。この熱伝達の不均一により、金属箔10が、結晶化時にひずんで塑性変形し、積層体の占積率が低下したと考えられる。
【0099】
[実施例3-1]
実施例2-1と同じようにして、積層体を作製した。実施例3-1では、図6Cに示す加熱装置1Bにより、金属箔10を加熱した。具体的には、図6Cに示す加熱装置1Bのベース2と支持部材30との相対的な移動速度が125mm/秒となるように、ベース2を支持部材30に接近させ、これらで金属箔10を挟み込んだ。支持部材30の温度を室温(20℃~50℃の範囲内)とし、支持部材30に、ケイ酸カルシウムからなる熱伝導率0.2W/mKの材料を用いた。加熱により得られた金属箔10の外観を確認するとともに、得られた積層体の占積率を、実施例2-1と同じように算出した。この結果を表2に示す。
【0100】
[実施例3-2]
実施例3-1と同じようにして、積層体を作製した。実施例3-1と相違する点は、図6Cに示す加熱装置1Bのベース2と支持部材30との相対的な移動速度が128mm/秒となるように、ベース2を支持部材30に接近させ、これらで金属箔10を挟み込んだ点である。さらに、相違する点は、支持部材30に、ガラス繊維とセメントからなる熱伝導率0.4W/mKの材料を用いた点である。加熱により得られた金属箔10の外観を確認するとともに、得られた積層体の占積率を、実施例2-1と同じように算出した。この結果を表2に示す。
【0101】
[実施例3-3]
実施例3-1と同じようにして、積層体を作製した。実施例3-1と相違する点は、図6Cに示す加熱装置1Bのベース2と支持部材30との相対的な移動速度が128mm/秒となるように、ベース2を支持部材30に接近させ、これらで金属箔10を挟み込んだ点である。さらに、相違する点は、支持部材30に、一般構造用圧延鋼材(JIS規格:SS400)からなる熱伝導率51.6W/mKの材料を用いた点である。加熱により得られた金属箔10の外観を確認した。この結果を表2に示す。
【0102】
[実施例3-4~実施例3-7]
実施例3-3と同じようにして、積層体を作製した。実施例3-4~実施例3-7が、実施例3-3と相違する点は、図6Cに示す加熱装置1Bのベース2と支持部材30との相対的な移動速度が136mm/秒、131mm/秒、129mm/秒、136mm/秒となるように、ベース2を支持部材30に接近させ、これらで金属箔10を挟み込んだ点である。さらに、相違する点は、金属箔10が配置される支持部材30の温度を、100℃、200℃、300℃、400℃に設定した点である。加熱により得られた金属箔10の外観を確認した。この結果を表2に示す。実施例3-5、実施例3-6の積層体の占積率を、実施例2-1と同じように算出し、表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2からも明らかなように、実施例3-1~実施例3-3を比較すると、実施例3-1の金属箔10には、シワがなく、実施例3-1の積層体の占積率は、実施例3-2のものに比べて高かった。これは、実施例3-1~実施例3-3では、支持部材30の熱伝導率が大きく相違する。実施例3-1の如く、熱伝導率が低い材料(0.2W/mK以下)で構成される支持部材30を用いれば、支持部材30に金属箔10の熱が局所的に逃げ難く、金属箔10を均一に加熱することができ、金属箔10の結晶化時に塑性変形が発生し難いと考えられる。
【0105】
表2からも明らかなように、実施例3-3~実施例3-7を比較すると、実施例3-6、実施例3-7の金属箔10には、シワがなく、実施例3-6の積層体の占積率は、実施例3-5のものに比べて高かった。これは、実施例3-3~実施例3-7では、支持部材30の温度が大きく相違する。実施例3-6、実施例3-7の如く、支持部材30を300℃以上にすれば、支持部材30の温度をベース2の温度に近づけ、支持部材30に金属箔10の熱が局所的に逃げ難く、金属箔10を均一に加熱することができ、金属箔10の結晶化時に塑性変形が発生し難いと考えられる。
【0106】
[実施例4-1~実施例4-4]
実施例3-1と同じようにして、積層体を作製した。実施例4-1~実施例4-4が、実施例3-1と相違する点は、図6Cに示す加熱装置1Bのベース2と支持部材30との相対的な移動速度を、順次、21mm/秒、86mm/秒、125mm/秒、531mm/秒となるように、ベース2を支持部材30に接近させ、これらで金属箔10を挟み込んだ点である。なお、実施例4-3は、実施例3-1と同じである。加熱により得られた金属箔10の外観を確認した。この結果を表3に示す。なお、表3には、実施例4-2、4-3の積層体の占積率も示した。
【表3】
【0107】
表3からも明らかなように、実施例4-1~実施例4-4を比較すると、実施例4-3、4-4の金属箔10には、シワがなく、実施例4-3の積層体の占積率は、実施例4-2のものに比べて高かった。これは、実施例4-1~実施例4-4では、支持部材30の移動速度が、大きく相違する。実施例4-3および実施例4-4の如く、移動速度を125mm/秒以上とすることにより、ベース2と支持部材30の間に、金属箔10を瞬時に挟み込み、金属箔10を均一に加熱することができ、金属箔10の結晶化時に塑性変形が発生し難いと考えられる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0109】
本実施形態では、ナノ結晶系軟磁性材料からなる金属箔を積層することにより、モータのステータコアを作製したが、金属箔を積層することにより、モータのロータコアを作製してもよい。
【0110】
本実施形態では、ベースの設置面を上方に向けたが、例えばベースの設置面を下方に向けて、金属箔の上方から金属箔に設置面を接近させ、金属箔を吸着し、ベースとともに搬送しながら、金属箔を加熱してもよい。
【0111】
本実施形態では、ベースの設置面の温度(加熱温度)を一定としたが、例えば、金属箔が自己発熱した時点で、ヒータの加熱を停止することで、設置面の温度を降下させてもよい。
【符号の説明】
【0112】
10:金属箔、2:ベース、21:設置面、:22:吸引口、5:ヒータ、Ta:金属箔の温度、Ts:結晶化開始温度、Tt:加熱温度

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B