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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】セパレータ及びセパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20231031BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20231031BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20231031BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20231031BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/021
H01M8/0247
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020174915
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022066020
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 崇
(72)【発明者】
【氏名】谷野 仁
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-286457(JP,A)
【文献】特開平05-222516(JP,A)
【文献】特開2019-125483(JP,A)
【文献】特開2014-025129(JP,A)
【文献】特開2013-096011(JP,A)
【文献】特開2007-165275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0228
H01M 8/0206
H01M 8/021
H01M 8/0247
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている燃料電池用セパレータであって、
以下の式で表されるセパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面の割合
{((100)面のピーク強度/(100)面の相対強度)/[((100)面のピーク強度/(100)面の相対強度)+((002)面のピーク強度/(002)面の相対強度)+((101)面のピーク強度/(101)面の相対強度)]}×100
が、16.9%以上である、
前記燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
以下の式で表されるセパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(002)面の割合
{((002)面のピーク強度/(002)面の相対強度)/[((100)面のピーク強度/(100)面の相対強度)+((002)面のピーク強度/(002)面の相対強度)+((101)面のピーク強度/(101)面の相対強度)]}×100
が、61.0%以下である、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
金属基材がステンレスである、請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ、及びセパレータの製造方法、具体的には燃料電池用セパレータ、及び燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(酸素)との反応により起電力を生じる単セルを所定数だけ積層したスタック構造を有する。単セルは、電解質膜の両面にアノード及びカソードの電極層(触媒層及びガス拡散層)を備える膜電極接合体と、当該膜電極接合体の両面にそれぞれ配置されるセパレータを有する。
【0003】
セパレータは、単セルを電気的に直列接続する機能並びに燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水を互いに遮断する隔壁としての機能を有する。
【0004】
このようなセパレータについて、様々な研究が行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、金属基材層と、前記金属基材層の少なくとも一方の主表面に位置する、導電性炭素を含む導電性炭素層と、を有する導電部材であって、前記導電性炭素層のラマン散乱分光分析により測定されたDバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)が1.3以上である、導電部材が開示されており、さらに、当該導電部材には、前記金属基材層と前記導電性炭素層との間に、柱状構造中間層が介在することが開示されている。
【0006】
特許文献2には、金属基材層と、前記金属基材層上に形成される緻密バリア層と、前記緻密バリア層上に形成される中間層と、前記中間層上に形成される導電性薄膜層と、を有する、導電部材が開示されており、さらに、当該導電部材における中間層は、結晶配向性が高い柱状構造を呈することが開示されている。
【0007】
特許文献3には、燃料電池用セパレータの材料としての、純チタンからなる母材と、前記母材の上に形成されたチタン酸化物皮膜と、前記チタン酸化物皮膜の上に形成された炭素材層とを備えるチタン材であって、当該チタン材の表層について入射角0.3°の薄膜X線回折分析で、I(002)/I(101)が0.8以上であり、c/aが1.598以上であり、前記チタン酸化物皮膜は、C及びNの1種以上を含む、チタン材(ただし、I(101):α-Ti相の(101)面によるピーク強度、I(002):α-Ti相の(002)面によるピーク強度、a:α-Ti相のa軸方向の格子定数、c:α-Ti相のc軸方向の格子定数である)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-153353号公報
【文献】特開2010-129303号公報
【文献】特開2019-214781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
燃料電池用のセパレータは、発生した電流を隣のセルに流す役割も担っている。したがって、セパレータを構成する基材には、高い導電性が要求される。さらに、その高い導電性が燃料電池のセル内部の高温・酸性雰囲気の中においても長期間維持されるように、高い耐食性もまた要求される。
【0010】
そのため、セパレータを構成する基材としては、純チタンやチタン合金を使用することが多く、これは、セパレータ製造におけるコストアップの大きな要因の一つになっている。
【0011】
そこで、高導電性及び高耐食性を有する安価な燃料電池用セパレータを製造するためには、金属基材として安価な材料を使用し、当該金属基材の表面上に、耐食性を担保するためのチタン層(中間層)、さらに中間層の表面上に導電性を担保するための導電層(表面層)をそれぞれ成膜することが考えられる。
【0012】
しかしながら、このようなチタン層及び導電層が成膜された燃料電池用セパレータには、耐食性改善の余地があった。
【0013】
したがって、本発明は、耐食性が高く、安価な燃料電池用セパレータ及び当該セパレータを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている燃料電池用セパレータにおいて、セパレータ表面のX線回折分析(XRD)により得られるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のそれぞれのピーク強度を、それぞれの結晶格子面(「格子面」、「回折面」ともいう)の相対強度(「理論回折強度」ともいう)で除することによってそれぞれのピークの(ピーク強度/相対強度)を得たところ、(100)面、(002)面、及び(101)面の(ピーク強度/相対強度)の合計に対する(100)面の(ピーク強度/相対強度)の割合(配向比率)が一定の値以上になったときに、燃料電池用セパレータの耐食性が高くなることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている燃料電池用セパレータであって、
セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面の割合が、16.9%以上である、
前記燃料電池用セパレータ。
(2)セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(002)面の割合が、61.0%以下である、(1)に記載の燃料電池用セパレータ。
(3)金属基材がステンレスである、(1)又は(2)に記載の燃料電池用セパレータ。
(4)金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている燃料電池用セパレータの製造方法であって、
チタン層が、スパッタリング法を用いて、以下:
(a)UBMコイル電流値が6.5A~10Aであるか、又は、
(b)金属基材へのバイアス電圧値が-700V超-150V以下である
条件下で金属基材上に成膜される、
前記方法。
(5)金属基材が凹凸形状を有する、(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐食性が高く、安価な燃料電池用セパレータ及び当該セパレータを製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】流路形状を有するセパレータ表面のX線回折分析の測定方法における、A)適切な例、及びB)不適切な例を示す模式図である。
図2】チタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のミラー指数面と形成される形状及び断面形状の模式図である。
図3】実施例1におけるA)OK品及びB)NG品の鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の溶出量を示すグラフである。
図4】実施例1におけるA)OK品及びB)NG品のSEM画像である。
図5】実施例1における、A)OK品のSEM画像、B)OK品のチタン層のXRD回折パターンである。
図6】実施例1における、A)NG品のSEM画像、B)NG品のチタン層のXRD回折パターンである。
図7】実施例2における、燃料電池用セパレータのチタンに由来する(100)面の配向比率と鉄(Fe)溶出量の関係を示すグラフである。
図8】実施例3における、燃料電池用セパレータのチタンに由来する(002)面の配向比率と鉄(Fe)溶出量の関係を示すグラフである。
図9】実施例4における、成膜粒子であるチタン粒子を、スパッタリング法を使用して、凹凸形状を有する金属基材上に成膜する様子を模式的に示す図である。
図10】実施例4の燃料電池用セパレータの、凸部分(4)、凸部分と凹部分の間の斜め部分(5)、及び凹部分(6)のSEM画像である。
図11】実施例5における、成膜粒子であるチタン粒子を、スパッタリング法を使用して、金属基材へのバイアス電圧値を様々に変更した条件下で、凹凸形状を有する金属基材上に成膜する様子を模式的に示す図である。
図12】実施例5の燃料電池用セパレータについて、各金属基材へのバイアス電圧値における各部分のSEM画像である。
図13】実施例5における、金属基材(3)へのバイアス電圧(単位:-V)と、図12のSEM画像の結果から測定した斜め部分の厚さの関係を示すグラフである。
図14】実施例6における、成膜粒子であるチタン粒子を、スパッタリング法を使用して、UBMコイル電流値及び金属基材へのバイアス電圧値を様々に変更した条件下で、凹凸形状を有する金属基材上に成膜する様子を模式的に示す。
図15】実施例6における、UBMコイル電流値と鉄(Fe)溶出量の関係を示すグラフである。
図16】実施例6における、金属基材へのバイアス電圧値(単位:-V)と鉄(Fe)溶出量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明のセパレータ及びセパレータの製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者がおこない得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0019】
本発明は、金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている燃料電池用セパレータであって、セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面の割合(配向比率)が、一定の値以上である、前記燃料電池用セパレータ、及びその製造方法に関する。
【0020】
本発明における燃料電池用セパレータは、金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている。
【0021】
ここで、金属基材は、チタンよりも安価な材料からなる金属基材である。金属基材としては、ステンレス[SUS(鉄、クロム、ニッケル)]製、鉄製などの板状の基材が挙げられる。金属基材としてはステンレスが好ましい。
【0022】
ステンレスとしては、耐食性の高いSUS316、SUS316Lよりも安価なSUS447、SUS304などが挙げられる。
【0023】
金属基材が安価な材料であることで、金属基材として純チタン及びチタン合金を使用するよりもチタン使用量を減らすことができ、コストを下げることができる。
【0024】
金属基材の厚さは、限定されないが、通常0.01mm~1.0mm、好ましくは0.05mm~0.5mmである。
【0025】
金属基材の厚さが前記範囲であることで、原料コストを抑え、物理的な耐久性を担保することができる。
【0026】
金属基材は、通常、反応ガスであるH、Oや、冷却媒体である冷却水などの流体を送達するための凹凸形状を有する。金属基材の凹凸形状における凹凸の差は、金属基材の厚さを除いて、通常10μm~500μmである。なお、本発明の燃料電池用セパレータにおいて、金属基材に成膜されているチタン層及び導電層の厚さは、金属基材の厚さと比較して薄いため、燃料電池用セパレータの形状は、金属基材の凹凸形状に依存する。
【0027】
金属基材の表面上に成膜されているチタンを含むチタン層において、セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面の割合(配向比率)は、16.9%以上、好ましくは20.0%以上である。
【0028】
ここで、セパレータ表面のX線回折分析の測定方法としては、従来の測定方法を使用することができる。したがって、セパレータ表面のX線回折分析の測定方法では、測定対象となるセパレータ表面は、X線回折分析の測定に適した部分(曲率を有さない部分、例えば平面部分、あるいは、曲率を有さない方向)である。
【0029】
例えば、測定対象となるセパレータが流路形状を有する場合、入射X線は、回折X線がセパレータ流路の曲率に関する情報を含まないように、セパレータに入射される。一例として、図1に、流路形状を有するセパレータ表面のX線回折分析の測定方法における、A)適切な例、及びB)不適切な例を示す。なお、図1において、Sは、セパレータ流路形状断面を示す。図1のA)では、X線はy軸方向(流路方向と垂直の方向)でセパレータの凸部分(トップ部分)に入射され、入射されたX線は、セパレータにおいてy軸方向へと回折される。図1のA)の場合、入射X線は、セパレータの凸部分において流路方向と垂直の方向に入射されているので、得られる回折X線はセパレータの流路形状に基づく曲率の影響を含まない。一方で、図1のB)では、X線はx軸方向(流路方向と平行の方向)でセパレータの凸部分(トップ部分)に入射され、入射されたX線は、セパレータにおいてx軸方向へと回折される。図1のB)の場合、入射X線は、セパレータの凸部分において流路方向と平行の方向に入射されているので、得られる回折X線はセパレータの流路形状に基づく曲率の影響を含み得る。したがって、本発明におけるセパレータ表面のX線回折分析の測定方法では、セパレータが流路形状を有する場合、図1のA)による測定方法を使用する。
【0030】
チタンに由来する各格子面の相対強度は、理論回折強度(回折強度の理論値)を意味し、チタンの結晶構造から計算可能である一般的な理論値である。つまり、チタンに由来する(100)面の相対強度は、X線を(100)面に照射したときに理論的に得られる回折強度であり、チタンに由来する(200)面の相対強度は、X線を(200)面に照射したときに理論的に得られる回折強度であり、チタンに由来する(101)面の相対強度は、X線を(101)面に照射したときに理論的に得られる回折強度である。ここで、各格子面に照射するX線は、同じX線である。したがって、チタンに由来する各格子面の相対強度は、同じX線を各格子面に照射したときに得られる、各格子面の理論回折強度の比(すなわち、(100)面の理論回折強度:(002)面の理論回折強度:(101)面の理論回折強度)として表現することもできる。なお、チタンに由来する各格子面の相対強度は、同じX線を照射したときの理論回折強度であるため、XRDが同じX線を使用して測定される限り、使用するXRD装置、X線の種類には基本的に依存しない固有値である。
【0031】
したがって、例えばチタンに由来する(101)面の相対強度を100としたとき、チタンに由来する(100)面の相対強度は25と計算することができ、チタンに由来する(002)面の相対強度は30と計算することができる(すなわち、(100)面の理論回折強度:(002)面の理論回折強度:(101)面の理論回折強度=25:30:100)。
【0032】
以上により、チタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面の割合(配向比率)は、以下の式で表される。
(100)面の割合(配向比率)(%)
={((100)面のピーク強度/(100)面の相対強度)/[((100)面のピーク強度/(100)面の相対強度)+((002)面のピーク強度/(002)面の相対強度)+((101)面のピーク強度/(101)面の相対強度)]}×100
【0033】
さらに、金属基材の表面上に成膜されているチタンを含むチタン層において、セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対するチタンに由来する(002)面の割合(配向比率)は、通常61.0%以下、好ましくは40.0%以下である。
【0034】
チタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対するチタンに由来する(002)面の割合(配向比率)は、前記同様、以下の式で表される。
(002)面の割合(配向比率)(%)
={((002)面のピーク強度/(002)面の相対強度)/[((100)面のピーク強度/(100)面の相対強度)+((002)面のピーク強度/(002)面の相対強度)+((101)面のピーク強度/(101)面の相対強度)]}×100
【0035】
金属基材の表面上に成膜されているチタンを含むチタン層において、セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面及び/又は(002)面の割合(配向比率)が、前記範囲の値を有することによって、高耐食性である燃料電池用セパレータになる。なお、耐食性については、燃料電池用セパレータの溶出性試験における鉄(Fe)溶出量により確認することができる。
【0036】
図2に、チタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のミラー指数面と形成される形状及び断面形状の模式図を示す。図2より、チタンに由来する(100)面の割合が増加することは、チタン層において平坦構造を有するチタンの割合が増加することを意味し、チタンに由来する(002)面の割合が減少することは、チタン層において柱状構造を有するチタンの割合が減少することを意味する。
【0037】
金属基材の表面上に成膜されているチタンを含むチタン層は、セパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面の配向比率が前記範囲である限り、他の成分、例えばC、N、H、O、Ar、Ag、Mo、Rh、Pd、Pt、Pb、Ru、Al、Ni、Coを含んでもよい。チタンを含むチタン層は、チタンからなるチタン層であることが好ましい。
【0038】
金属基材の表面上に成膜されているチタンを含むチタン層によって、耐食性が担保される。
【0039】
チタン層の厚さは、燃料電池用セパレータにおける各部分、例えば導電部分、シール部材配設部分などに求められる性能に依存するため、限定されないが、導電部分などの耐食性が求められる部分では、平均厚さで、30nm~800nm、好ましくは50nm~300nmである。チタン層の平均厚さは、例えば断面の走査電子顕微鏡(SEM)観察による平均値により算出することができる。
【0040】
チタン層の厚さを前記範囲にすることで、チタン使用量の削減効果を得るとともに、所望の耐食性を得ることができる。
【0041】
なお、本発明の燃料電池用セパレータは、通常、チタン層の表面上に導電性を担保するための導電層を有する。
【0042】
導電層は、当該技術分野において公知のものでよく、例えばカーボン層でよい。
【0043】
本発明における燃料電池用セパレータは、燃料電池セル(単セル)の構成要素であり、膜電極接合体(電解質膜、該電解質膜の両面に配置されるアノード及びカソードの電極層)の両面に配置される。
【0044】
本発明により製造されたセパレータを含む燃料電池セルは、固体高分子形燃料電池などの各種電気化学デバイスにおいて使用することができる。
【0045】
本発明の金属基材上にチタンを含むチタン層が成膜されている燃料電池用セパレータは、チタン層を、スパッタリング法を用いて、(a)UBMコイル電流値、又は(b)金属基材へのバイアス電圧値を一定範囲に制御した条件下で金属基材上に成膜することによって製造することができる。
【0046】
ここで、金属基材としては、前記で説明したものを使用することができる。
【0047】
金属基材としては、予め最終的な燃料電池用セパレータの形状にプレスされた凹凸形状を有する金属基材を使用することが好ましい。
【0048】
金属基材として予めプレスされた凹凸形状を有する金属基材を使用することにより、チタン層及び導電層成膜後に、さらなるプレスをすることなく、燃料電池用セパレータを得ることができる。
【0049】
スパッタリング法とは、物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)法の一種であり、スパッタリング法として、アンバランスドマグネトロンスパッタ法(UBMS)が挙げられる。
【0050】
アンバランスドマグネトロンスパッタ(UBMS)法は、スパッタカソードの磁場を意図的に非平衡にすることで、基材へのプラズマ照射を強化したスパッタリング方式で、緻密な薄膜の形成が可能となる。
【0051】
スパッタリング法については、以下で説明する条件以外の条件、例えば、装置チャンバー内の初期真空度、金属基材表面のクリーニング条件(例えば、アルゴンボンバードメント処理の条件)、プラズマ生成用ガスの条件、成膜時間、成膜温度などは、当該技術分野で知られている条件(例えば、国際公開第2015/068776号を参照)を使用することができる。なお、成膜時間が長いほど膜厚が厚くなるため、成膜時間を調整することで、所望の膜厚を得ることができる。
【0052】
スパッタリング法において、(a)プラズマの強度を制御するUBMコイル電流値は、6.5A~10Aであり、好ましくは7.0A~9.0Aである。
【0053】
スパッタリング法におけるUBMコイル電流値を前記範囲にすることによって、成膜粒子であるチタン粒子を高エネルギー状態で金属基材上に到達させることができるため、たとえ金属基材として凹凸形状を有する金属基材を使用したとしても、金属基材の凸部分(トップ部分)、凹部分(ボトム部分)、及び凸部分と凹部分の間の斜め部分すべてにおいて、緻密化されたチタン層を有する高耐食性である燃料電池用セパレータ、特には、前記で説明したセパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面及び/又は(002)面の割合(配向比率)が前記範囲の値を有する高耐食性である燃料電池用セパレータを安定して得ることができる。
【0054】
さらに/あるいは、スパッタリング法において、(b)金属基材へのバイアス電圧は、-700V超-150V以下である。なお、アンバランスドマグネトロンスパッタ法では、カソード(陰極)としてのターゲット(すなわち、チタン)と、アノード(陽極)としての金属基材との間でグロー放電を発生させて、不活性ガスのプラズマ、例えばArプラズマを形成し、Arプラズマ中のプラスにイオン化したArイオンがターゲット原子を弾き飛ばし、ターゲット原子を加速させて金属基材表面上に成膜するため、金属基材にはバイアス電圧としてマイナス(負)の電圧を印加する。また、本明細書では、負のバイアス電圧の高低を表現する場合に、0Vにより近い方のバイアス電圧を「バイアス電圧が高い」と表現する。
【0055】
金属基材として凹凸形状を有する金属基材を使用する場合、スパッタリング法における金属基材へのバイアス電圧が低いほど、凸部分と凹部分の間の斜め部分において形成されるチタン層の厚さが薄くなる傾向がある。したがって、スパッタリング法における金属基材へのバイアス電圧を前記範囲にすることによって、成膜粒子であるチタン粒子を高エネルギー状態で金属基材上に到達させることができるため、たとえ金属基材として凹凸形状を有する金属基材を使用したとしても、金属基材の凸部分(トップ部分)、凹部分(ボトム部分)及び凸部分と凹部分の間の斜め部分すべてにおいて、緻密化されたチタン層を有する高耐食性である燃料電池用セパレータ、特には、前記で説明したセパレータ表面のX線回折分析におけるチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面のピーク強度をそれぞれ相対強度で除した値の合計に対する(100)面及び/又は(002)面の割合(配向比率)が前記範囲の値を有する高耐食性である燃料電池用セパレータを安定して得ることができる。
【0056】
スパッタリング法において、チタン原料であるチタンターゲットと金属基材、特に金属基材の凸部分(トップ部分)との距離は、通常10cm±1cmである。
【0057】
なお、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、通常チタン層の表面上に導電性を担保するための導電層を成膜するための工程をさらに含む。
【0058】
導電層、例えばカーボン層を成膜するための工程は、当該技術分野において公知の工程、例えばアークイオンプレーティング(AIP)法を使用することができる。
【実施例
【0059】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0060】
実施例1:耐食性OK品と耐食性NG品の比較実験
金属基材として燃料電池用セパレータの形状に予めプレスしたステンレス(SUS304)を使用した。SUS表面上の不動態をArエッチングで除去した後、チタン層を、スパッタリング法を使用してSUS上に成膜し、その後導電層としてのカーボン層を、AIP法を使用してチタン層上に成膜することで、燃料電池用セパレータを製造した。得られた燃料電池用セパレータについて、耐食性の評価としての金属溶出量試験を実施し、金属の溶出量が少ないセパレータ(OK品)と鉄(Fe)の溶出量が多いセパレータ(NG品)を選定した。その後、OK品及びNG品のそれぞれについて、チタン層の結晶構造をSEM及びXRDで評価した。
【0061】
ここで、耐食性の評価としての金属溶出量試験では、日本工業規格の金属材料の電気化学的高温腐食試験方法(JIS Z2294)に準じた定電位腐食試験を実施した。具体的には、温度80℃に調整された硫酸水溶液の中に、各サンプルを浸漬させた状態で、0.9V vs SHEの電位を一定に保持させ、当該定電位腐食試験後に、当該試験前後の溶液中の金属量の差から、当該硫酸水溶液中に溶出したセパレータの金属基材成分の金属溶出量をICP分析装置により測定した。なお、硫酸水溶液にはフッ化物イオン濃度が3ppmとなるようにNaFを溶解させたものを用いた。また、定電位腐食試験の時間は60時間とした。
【0062】
XRDは、前記で説明したように、図1のA)に記載の方法により、セパレータの凸部分(トップ部分)において、y軸の方向で、測定した。なお、XRDとしては、株式会社リガク製のSmartLab(X線:CuKα)を使用した。
【0063】
結果を図3~6に示す。図3では、A)は、OK品の鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の溶出量を示し、B)は、NG品の鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の溶出量を示す。図4では、A)は、OK品のSEM画像を示し、B)は、NG品のSEM画像を示す。図5では、A)は、OK品のSEM画像を示し、B)は、OK品のチタン層のXRD回折パターンを示す。図6では、A)は、NG品のSEM画像を示し、B)は、NG品のチタン層のXRD回折パターンを示す。なお、図4~6において、1はカーボン層を示し、2はチタン層(平坦構造が観測された層、以下平坦構造と示す)を示し、2’はチタン層(平坦構造が観測されなかった、又は観測されたがピークが小さかった層、以下柱状構造と示す)を示し、3は金属基材を示す。
【0064】
図3~6より、金属の溶出量が少ないOK品は、XRD回折パターンにおいて(100)面が観測されるチタン層(平坦構造)(2)を有し、鉄(Fe)の溶出量が多いNG品は、XRDにおいて(100)面が観測されない、又は観測されたがピークが小さかったチタン層(柱状構造)(2’)を有することがわかった。
【0065】
したがって、チタン層(2、2’)において、平坦構造を有するチタンが増加し、柱状構造を有するチタンが減少することにより、高耐食性である、金属の溶出量が少ない燃料電池用セパレータが得られることがわかった。
【0066】
実施例2:(100)面の配向比率と鉄(Fe)溶出量の関係
金属基材として燃料電池用セパレータの形状に予めプレスしたステンレス(SUS304)を使用した。SUS表面上の不動態をArエッチングで除去した後、チタン層を、スパッタリング法を使用してSUS上に成膜し、その後導電層としてのカーボン層を、AIP法を使用してチタン層上に成膜することで、燃料電池用セパレータを製造した。得られた燃料電池用セパレータについて、前記の金属溶出量試験を実施し、さらにチタン層の結晶構造をXRDで評価した。
【0067】
XRD回折パターンの結果より、各燃料電池用セパレータのチタンに由来する(100)面、(002)面、及び(101)面の配向比率を、前記の通り算出した。一例として、1つのある燃料電池用セパレータのチタンに由来する各格子面の配向比率の算出方法を下記に示す。
【0068】
(1)X線回折分析(XRD)装置(SmartLab(株式会社リガク製)、X線:CuKα)にて、図1のA)に記載の方法により、燃料電池用セパレータの流路の凸部分(トップ部分)を分析した。
(2)検出されたチタンのメイン回折ピークである(100)面、(002)面、及び(101)面の各ピークを、分析装置内でフィッティングし、各ピークの信号強度を算出した。
(3)各格子面によってピーク強度は異なり、相対強度が存在するため、各格子面のピーク強度を相対強度(理論回折強度)で除した。なお、各格子面の相対強度として各格子面の理論回折強度を使用するための事前測定として、高純度Siの粉末結晶のXRDを、当該測定において使用したXRD装置(SmartLab(株式会社リガク製)、X線:CuKα)を用いて測定し、Siの各格子面の実測されたピーク強度の比と理論回折強度の比がほぼ同一になることを確認した。
(4)(3)で得られた各格子面の(ピーク強度/相対強度)を、各格子面の(ピーク強度/相対強度)の合計で除することによって、各格子面の配向比率を算出した。
【0069】
【表1】
【0070】
図7に、燃料電池用セパレータのチタンに由来する(100)面の配向比率と鉄(Fe)溶出量の関係を示す。なお、図7では、2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ同一の(100)面の配向比率及び鉄(Fe)溶出量を示した場合には、平均溶出量のみを記載し、2つ以上の燃料電池用セパレータが、同一の(100)面の配向比率を有するものの、それぞれ異なる鉄(Fe)溶出量を示した場合には、平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量を記載した。
【0071】
図7より、燃料電池用セパレータのチタンに由来する(100)面の配向比率が16.9%以上になると、燃料電池用セパレータの鉄溶出量が平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量すべてにおいて安定して低くなることがわかった。
【0072】
実施例3:(002)面の配向比率と鉄(Fe)溶出量の関係
実施例2において得られた燃料電池用セパレータについて、XRD回折パターンの結果より、各燃料電池用セパレータのチタンに由来する(002)面の配向比率を、前記の通り算出した。一例としての1つのある燃料電池用セパレータのチタンに由来する(002)面の配向比率の算出方法は、前記表1を参照されたい。
【0073】
図8に、燃料電池用セパレータのチタンに由来する(002)面の配向比率と鉄(Fe)溶出量の関係を示す。なお、図8では、2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ同一の(002)面の配向比率及び鉄(Fe)溶出量を示した場合には、平均溶出量のみを記載し、2つ以上の燃料電池用セパレータが、同一の(002)面の配向比率を有するものの、それぞれ異なる鉄(Fe)溶出量を示した場合には、平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量を記載した。
【0074】
図8より、燃料電池用セパレータのチタンに由来する(002)面の配向比率が61.0%以下になると、燃料電池用セパレータの鉄溶出量が平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量すべてにおいて安定して低くなることがわかった。
【0075】
実施例4:凹凸形状を有する金属基材へのチタン層の成膜実験1
金属基材として燃料電池用セパレータの形状に予めプレスした凹凸形状を有するステンレス(SUS304)を使用した。SUS表面上の不動態をArエッチングで除去した後、チタン層を、スパッタリング法を使用して、UBMコイル電流値を4.0Aとし、金属基材へのバイアス電圧を-75Vとした条件下でSUS上に成膜し、その後導電層としてのカーボン層を、AIP法を使用してチタン層上に成膜することで、燃料電池用セパレータを製造した。
【0076】
図9に、成膜粒子であるチタン粒子を、スパッタリング法を使用して、凹凸形状を有する金属基材上に成膜する様子を模式的に示す。なお、図9において、4は凸部分(トップ部分)を示し、5は凸部分と凹部分の間の斜め部分を示し、6は凹部分(ボトム部分)を示し、Sはセパレータ流路形状断面を示し、7は成膜粒子(チタン粒子)を示す。
【0077】
得られた燃料電池用セパレータについて、凸部分(4)、凸部分と凹部分の間の斜め部分(5)、及び凹部分(6)のSEM画像を測定した。図10に各部分のSEM画像の結果を示す。なお、図10において、1はカーボン層を示し、2はチタン層(平坦構造)を示し、2’はチタン層(柱状構造)を示し、3は金属基材を示す。
【0078】
図10より、凸部分(4)及び凸部分と凹部分の間の斜め部分(5)は、チタン層(柱状構造)(2’)を示し、凹部分(6)はチタン層(平坦構造)(2)を示すこと、すなわち、金属基材(3)が凹凸形状を有する場合、金属基材(3)の部分によって、形成されるチタン層(2、2’)が異なることがわかった。
【0079】
つまり、スパッタリング法のような高結晶金属膜を成膜する方法では、溶出起点となり得るチタン層(柱状構造)(2’)が形成されやすく、さらに、セパレータ流路形状のような凹凸を有する複雑な構造では、図9のように斜め部分(5)のような粒子(7)のエネルギーが届きにくい部位において、チタン層(柱状構造)(2’)の形成が促進されることがわかった。
【0080】
実施例5:凹凸形状を有する金属基材へのチタン層の成膜実験2
金属基材として燃料電池用セパレータの形状に予めプレスした凹凸形状を有するステンレス(SUS304)を使用した。SUS表面上の不動態をArエッチングで除去した後、チタン層を、スパッタリング法を使用して、UBMコイル電流値を6.5Aとし、金属基材へのバイアス電圧を0V、-50V又は-250Vとした条件下でSUS上に成膜し、その後導電層としてのカーボン層を、AIP法を使用してチタン層上に成膜することで、燃料電池用セパレータを製造した。
【0081】
図11に、成膜粒子であるチタン粒子を、スパッタリング法を使用して、金属基材へのバイアス電圧値を様々に変更した条件下で、凹凸形状を有する金属基材上に成膜する様子を模式的に示す。なお、図11において、4は凸部分(トップ部分)を示し、5は凸部分と凹部分の間の斜め部分を示し、6は凹部分(ボトム部分)を示し、Sはセパレータ流路形状断面を示し、7は成膜粒子(チタン粒子)を示し、8は金属基材にバイアス電圧を印加するための電源を示す。
【0082】
得られた燃料電池用セパレータについて、凸部分(4)、凸部分と凹部分の間の斜め部分(5)、及び凹部分(6)のSEM画像を測定した。図12に各金属基材へのバイアス電圧値における各部分のSEM画像の結果を示す。なお、図12において、1はカーボン層を示し、2はチタン層(平坦構造)を示し、2’はチタン層(柱状構造)を示し、3は金属基材を示す。
【0083】
さらに、図13に、金属基材(3)へのバイアス電圧(単位:-V)と、図12のSEM画像の結果から測定した斜め部分の厚さの関係を示す。
【0084】
図12より、金属基材(3)が凹凸形状を有する場合には、チタン層(2、2’)の成膜において、金属基材(3)へのバイアス電圧が、チタン層(2、2’)の結晶構造に影響を与えることがわかった。また、金属基材(3)へのバイアス電圧を低下することで、チタン層(平坦構造)(2)を形成しやすくなることがわかった。
【0085】
また、図13より、金属基材(3)へのバイアス電圧を低下することで、Arエッチングの効果により凸部分と凹部分の間の斜め部分(5)の膜厚もまた低下することがわかった。したがって、当該斜め部分(5)にチタン層(平坦構造)(2)を形成させるためには、金属基材(3)へのバイアス電圧は、-700V超必要であることがわかった。
【0086】
実施例6:凹凸形状を有する金属基材へのチタン層の成膜実験3
金属基材として燃料電池用セパレータの形状に予めプレスした凹凸形状を有するステンレス(SUS304)を使用した。SUS表面上の不動態をArエッチングで除去した後、チタン層を、スパッタリング法を使用して、UBMコイル電流値及び金属基材へのバイアス電圧値を様々に変更した条件下でSUS上に成膜し、その後導電層としてのカーボン層を、AIP法を使用してチタン層上に成膜することで、燃料電池用セパレータを製造した。
【0087】
図14に、成膜粒子であるチタン粒子を、スパッタリング法を使用して、UBMコイル電流値及び金属基材へのバイアス電圧値を様々に変更した条件下で、凹凸形状を有する金属基材上に成膜する様子を模式的に示す。なお、図14において、4は凸部分(トップ部分)を示し、5は凸部分と凹部分の間の斜め部分を示し、6は凹部分(ボトム部分)を示し、Sはセパレータ流路形状断面を示し、7は成膜粒子(チタン粒子)を示し、8は金属基材にバイアス電圧を印加するための電源を示し、9はUBMコイル電流により強度を制御されたプラズマを示す。
【0088】
得られた燃料電池用セパレータについて、前記の金属溶出量試験を実施した。
【0089】
図15に、UBMコイル電流値と鉄(Fe)溶出量の関係を示し、図16に、金属基材へのバイアス電圧値(単位:-V)と鉄(Fe)溶出量の関係を示す。なお、図15及び16では、UBMコイル電流値及び金属基材へのバイアス電圧値を同一にして製造した2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ同じ鉄溶出量を示した場合には、平均溶出量のみを記載し、UBMコイル電流値及び金属基材へのバイアス電圧値を同一にして製造した2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ異なる鉄溶出量を示した場合には、平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量を記載した。例えば、図15において、UBMコイル電流値が4Aの場合に、平均溶出量が4点存在し、最大溶出量及び最小溶出量がそれぞれ3点存在するのは、UBMコイル電流値を4Aに固定して、4つの異なる金属基材へのバイアス電圧値により成膜したそれぞれ燃料電池用セパレータ(つまり、4つの条件により製造した燃料電池用セパレータ)において、1つの条件では、2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ同じ鉄溶出量を示したために、平均溶出量のみを記載した一方で、3つの条件では、2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ異なる鉄溶出量を示したために、3つの条件それぞれの平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量を記載したためである。例えば、図16において、金属基材へのバイアス電圧値が-75Vの場合に、平均溶出量が4点存在し、最大溶出量及び最小溶出量がそれぞれ2点存在するのは、金属基材へのバイアス電圧値を-75Vに固定して、4つの異なるUBMコイル電流値により成膜した燃料電池用セパレータ(つまり、4つの条件により製造した燃料電池用セパレータ)において、2つの条件では、2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ同じ鉄溶出量を示したために、2つの条件それぞれの平均溶出量のみを記載した一方で、2つの条件では、2つ以上の燃料電池用セパレータが、それぞれ異なる鉄溶出量を示したために、2つの条件それぞれの平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量を記載したためである。
【0090】
図15より、UBMコイル電流値が6.5A~10Aになると、燃料電池用セパレータの鉄溶出量が平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量すべてにおいて安定して低くなることがわかった。
【0091】
図16より、金属基材へのバイアス電圧値が-150V以下になると、燃料電池用セパレータの鉄溶出量が平均溶出量、最大溶出量、及び最小溶出量すべてにおいて安定して低くなることがわかった。したがって、実施例5の結果を考慮すると、金属基材へのバイアス電圧値は-700V超-150V以下が好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0092】
S:セパレータ流路形状断面、1:カーボン層、2:チタン層(平坦構造)、2’:チタン層(柱状構造)、3:金属基材、4:凸部分(トップ部分)、5:凸部分と凹部分の間の斜め部分、6:凹部分(ボトム部分)、7:成膜粒子(チタン粒子)、8:金属基材にバイアス電圧を印加するための電源、9:UBMコイル電流により強度を制御されたプラズマ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
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