(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法と製造装置
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20231031BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231031BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C21D8/12 D
C21D9/46 501A
H01F41/02 B
(21)【出願番号】P 2020179113
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 重宏
(72)【発明者】
【氏名】大村 健
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-083012(JP,A)
【文献】特開昭58-181820(JP,A)
【文献】米国特許第04744838(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12
C21D 9/46
H01F 41/00-41/04、41/08、41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.30mm以下の軟磁性材料から、鉄心部材を切り出して積鉄心形変圧器の鉄心部材を製造する方法において、
上記切り出した鉄心部材に700℃以上1000℃以下の温度に1秒以上1000秒以下保持する歪取焼鈍を施した後、該鉄心部材が冷却される際の
250℃から50℃までの間に、該鉄心部材の圧延方向を横切る方向に、かつ、圧延方向に1~30mmの間隔を開けて繰り返しレーザービームを照射し、磁区細分化処理を施すことを特徴とする積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法。
【請求項2】
上記の鉄心部材の切り出しを、剪断加工で行うことを特徴とする請求項1に記載の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法。
【請求項3】
上記歪取焼鈍を、窒素ガス、水素ガスおよびArガスのいずれかの単体ガス、上記1以上の混合ガスの雰囲気、あるいは、DXガスまたはRXガスの雰囲気、上記いずれかのガスの真空度が10
4Pa以下である減圧雰囲気、および、真空度が10
3Pa以下である減圧大気雰囲気のいずれかの雰囲気下で施すことを特徴とする請求項1または2に記載の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法。
【請求項4】
上記歪取焼鈍後の鉄心部材にレーザービームを照射して磁区細分化処理をする際、鉄心部材の部位に応じて、レーザービームの出力、走査速度、圧延方向の繰り返し間隔および圧延方向とレーザービームの走査方向とがなす角のうちの少なくとも1つを変化させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法。
【請求項5】
上記軟磁性材料は、耐熱型磁区細分化処理が施された方向性電磁鋼板であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法。
【請求項6】
厚さが0.30mm以下の軟磁性材料から積鉄心形変圧器の鉄心となる部材を切り出すための加工設備と、
上記切り出した鉄心部材を、整列し、搬送するコンベヤーと、
700℃以上1000℃以下の温度に1秒以上1000秒以下保持する歪取焼鈍を施すトンネル型の焼鈍炉と、
必要に応じて、上記
歪取焼鈍後の鉄心部材を強制冷却する冷却設備と、
上記コンベヤーの搬送速度に同期して各鉄心部材の圧延方向を横切る方向に、かつ、圧延方向に1~30mmの間隔を開けてレーザービームを繰り返して照射するレーザービーム照射装置とを具備する積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積鉄心形変圧器の鉄心に用いられる鉄心部材の製造方法と、その製造方法に用いる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器は、電気エネルギと磁気エネルギの変換を通じて、供給電源の電圧を変化させる、日常生活に不可欠な電力機器である。この変圧器の動作時には、鉄損や銅損といったエネルギロスが生じるが、このうちの鉄損は、変圧器の鉄心に使用される軟磁性材料の磁気特性の向上によって、年々、低下する傾向にある。
【0003】
例えば、方向性電磁鋼板を使用する場合、鉄心の鉄損は、結晶方位制御や比抵抗の増大、磁区細分化、板厚低減などの技術により低減されてきた。具体的には、結晶方位制御技術では、鋼の成分や製造プロセスを適正化し、結晶方位をGoss方位{110}<001>に高度に揃えることによって、高い磁束密度と低鉄損を達成してきた。また、比抵抗の増大技術では、鋼中により多くのSiやAlを含有させ、鋼の電気抵抗を増大させることによって、鉄損の一部である渦電流損を低減してきた。しかし、鋼中にSiを過度に含有させると、圧延して製造することが困難となるという問題がある。また、磁区制御による低鉄損化技術では、絶縁被膜を利用して鋼板に引張応力を付与することに加えて、エッチング等で鋼板表面に溝を形成したり、レーザービームや電子ビームなどを鋼板表面に照射して線状または点列状の歪領域を形成したりする表面加工を施すことで磁区細分化を図る技術が開発され、実用化されている。また、板厚の低減技術は、板厚が減少するほど渦電流損が低減する理論に基づくものである。しかし、過度の板厚低減は、二次再結晶の発現を不安定化するだけでなく、鋼板自体の生産性の低下や、変圧器鉄心の積み作業の工数が増大するなどの問題がある。
【0004】
ところで、積鉄心形変圧器の鉄損特性は、主に鉄心の材料となる軟磁性材料の磁気特性に大きく依存するため、積鉄心形変圧器の鉄損特性改善は、軟磁性材料の磁気特性の改善に頼っていた。上記軟磁性材料としては、主として方向性電磁鋼板が用いられている。この方向性電磁鋼板の製造方法としては、所定の成分組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造等で鋼素材(スラブ)とした後、該鋼素材を熱間圧延して熱延板とし、必要に応じて熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延して最終板厚の冷延板とし、該冷延板に一次再結晶焼鈍または脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施し、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施し、さらに、絶縁被膜を被成し、必要に応じて、上記冷延以降の工程あるいは最終工程で磁区細分化処理を施すという一連の工程からなる製造プロセスが確立され、また、それぞれの製造工程における最適条件もほぼ見出されている。そのため、上記製造プロセスの枠組みの中では、積鉄心形変圧器の鉄損低減はかなり難しくなってきている。一方、新しい技術開発によって、より大きな低鉄損化を図ることも提案されているが、製造性や製造コスト面での課題が多く、実用化には至っていない。
【0005】
そこで、上記従来技術に囚われない鉄心の鉄損低減技術として、特許文献1には、変圧器のCI型またはEI型の鉄心部材を切り出し、歪取焼鈍した後、パルスレーザーを照射することによって、変圧器の鉄損を改善する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、高い生産効率と被膜損傷抑止の観点からは好ましくないパルスレーザーを用いた方法である他、低鉄損化に重要な条件である歪取焼鈍条件が開示されていない。また、比較的小型であるCI型またはEI型の変圧器を対象としており、大型の変圧器にはそのまま適用することは難しいという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、従来の方向性電磁鋼板の製造技術に囚われることなく、積鉄心形変圧器のより一層に鉄損低減を可能とする鉄心部材の製造方法を提案するとともに、その製造方法に用いる製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、従来技術が抱える上記の問題点に鑑み、上記した既存の確立された方向性電磁鋼板の製造プロセスの改善、すなわち、方向性電磁鋼板の鉄損特性の改善による積鉄心形変圧器の低鉄損化から目を転じて、方向性電磁鋼板から変圧器の鉄心部材を製造する方法を見直すことで積鉄心形変圧器の鉄損低減を図ることを検討した。
【0010】
発明者らは、まず、方向性電磁鋼板を製造してから、変圧器を組み立てるまでの工程を整理した。たとえば、積鉄心形の変圧器の場合、鉄心は、コイル状に巻き取られた方向性電磁鋼板(素材コイル)を所望の幅にスリットしてスリットコイルとし、さらに、上記スリットコイルから、脚やヨークといった鉄心用の部材(鉄心部材)を斜角切断などの剪断加工によって切り出し、該切り出した鉄心部材を1枚1枚積み重ねて、鉄心を組み立て、変圧器に組み込むのが一般的である。しかし、この剪断加工を用いる方法は、鉄心部材を切り出す際、加工歪が導入され、変圧器の鉄損が増大するという問題がある。
【0011】
一方、巻鉄心形の変圧器の場合、上記したスリットコイルをコイル状の巻鉄心に組み立てた後、歪取焼鈍を施すことが行われている。これは、巻鉄心組立時に、素材(方向性電磁鋼板)に曲げ加工が施されて大きな歪みが導入され、素材自体の鉄損が著しく大きくなるため、この歪を歪取焼鈍によって取り除くためである。しかし、この歪取焼鈍は、加工歪みが取り除かれる利点があるが、素材の方向性電磁鋼板に施された、レーザービーム照射などによる非耐熱型磁区細分化処理の効果を消失させてしまうという欠点がある。
【0012】
そこで、発明者らは、仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板から上記変圧器の鉄心を製造する工程を見直し、積鉄心形変圧器における鉄心部材切り出し時の加工歪みを除去し、かつ、レーザービームなどによる磁区細分化処理による鉄損低減効果をより高めることができる技術を検討した。
【0013】
まず、発明者らは、下記表1に示した3つの積鉄心形変圧器の製造フローについて検討した。
製造フロー1は、従来の、仕上焼鈍後に絶縁被膜を被成した方向性電磁鋼板を用いて積鉄心形変圧器を製造する製造フローである。この場合、前述したように、鉄心部材切り出し時の加工歪によって変圧器の鉄損が悪化するという問題がある。
また、製造フロー2は、上記製造フロー1の絶縁被膜の被成を鉄心部材切り出し後に行うもので、鉄心部材切り出し時の加工歪は、絶縁被膜被成時の熱処理により除去できるが、この段階での絶縁被膜の被成は、大型コイルの状態で絶縁被膜を被成する従来の製造フロー1に比べて生産性が劣るという問題がある。
一方、製造フロー3は、従来の製造フロー1の鉄心部材切出しと鉄心・変圧器の組立の間に、歪取焼鈍の工程を付加した製造フローである。この製造フローは、加工歪の除去の効果を享受できる点で好ましいが、上記段階での歪取焼鈍の付加、さらには、磁区細分化処理の付加は、生産性や製造コスト面で従来の製造フロー1よりも不利となる。
【0014】
【0015】
しかしながら、発明者らは、さらに検討を重ねた結果、製造フロー3での歪取焼鈍は適切な温度領域を選択すれば短時間で実施が可能であり、製造コストの過度の増大が押さえられる可能性があること、さらに、上記歪取焼鈍では、単に加工歪みが取り除かれるだけではなく、絶縁被膜が鋼板に付与する引張応力が増大すること、さらに、上記歪取焼鈍後の鉄心部材が冷却し終えるまでの高温時にレーザービームを照射して磁区細分化処理を施すことで、効率よく磁区細分化処理を施すことができるだけでなく、高出力のレーザービーム照射でも被膜損傷を起こすことなく磁区細分化処理が可能となり、より優れた鉄損低減効果を得ることができることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0016】
上記知見に基づく本発明は、厚さが0.30mm以下の軟磁性材料から、鉄心部材を切り出して積鉄心形変圧器の鉄心部材を製造する方法において、上記切り出した鉄心部材に700℃以上1000℃以下の温度に1秒以上1000秒以下保持する歪取焼鈍を施した後、該鉄心部材が冷却される際の600℃から50℃までの間に、該鉄心部材の圧延方向を横切る方向に、かつ、圧延方向に1~30mmの間隔を開けて繰り返しレーザービームを照射し、磁区細分化処理を施すことを特徴とする積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法を提案する。
【0017】
本発明の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法は、上記の鉄心部材の切り出しを、剪断加工で行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法は、上記歪取焼鈍を、窒素ガス、水素ガスおよびArガスのいずれかの単体ガス、上記1以上の混合ガスの雰囲気、あるいは、DXガスまたはRXガスの雰囲気、上記いずれかのガスの真空度が104Pa以下である減圧雰囲気、および、真空度が103Pa以下である減圧大気雰囲気のいずれかの雰囲気下で施すことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法は、上記歪取焼鈍後の鉄心部材にレーザービームを照射して磁区細分化処理をする際、鉄心部材の部位に応じて、レーザービームの出力、走査速度、圧延方向の繰り返し間隔および圧延方向とレーザービームの走査方向とがなす角のうちの少なくとも1つを変化させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造方法に用いる上記軟磁性材料は、耐熱型磁区細分化処理が施された方向性電磁鋼板であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、厚さが0.30mm以下の軟磁性材料から積鉄心形変圧器の鉄心となる部材を切り出すための加工設備と、上記切り出した鉄心部材を、整列し、搬送するコンベヤーと、700℃以上1000℃以下の温度に1秒以上1000秒以下保持する歪取焼鈍を施すトンネル型の焼鈍炉と、必要に応じて、上記熱処理後の鉄心部材を強制冷却する冷却設備と、上記コンベヤーの搬送速度に同期して各鉄心部材の圧延方向を横切る方向に、かつ、圧延方向に1~30mmの間隔を開けてレーザービームを繰り返して照射するレーザービーム照射装置とを具備する積鉄心形変圧器用鉄心部材の製造装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、積鉄心形変圧器の鉄損を従来以上に低減することができ、変圧器のエネルギ使用効率を高め、使用環境を拡大することが可能となるので、産業上、奏する効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】三相三脚の積鉄心形変圧器用鉄心部材の一例を説明する図である。
【
図2】鉄心部材に施す磁区細分化の処理パターンの変更例を説明する図である。
【
図3】鋼板の反り量を測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明を開発する契機となった実験について説明する。
<実験1>
プラズマ炎によって非耐熱型の磁区細分化処理が施され、表面にリン酸塩系の張力付与型絶縁被膜が被成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(素材A)と、磁区細分化処理が施されておらず、表面にリン酸塩系の張力付与型絶縁被膜が被成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(素材B)を用意した。上記素材AとBは、磁区細分化処理以外の製造条件は同じであり、圧延方向の磁束密度B8(磁場の強さ:800A/mにおける磁束密度)は、磁区細分化処理材が1.939T、磁区細分化非処理材が1.941Tとほぼ同等の値であった。両素材から、圧延方向を長さ方向とする長さ300mm×幅100mmのSST試験片を、剪断加工により、1セット30枚として5セット分を切り出した後、表2に示した処理を施した後、各試験片の鉄損W17/50をSST試験により測定し、30枚の平均値を求めた。なお、上記剪断加工した試験片の端面は、すべて剪断加工面のままとした。また、表中の歪取焼鈍は、Ar雰囲気下において800℃の温度に2hr均熱保持する条件で行った。また、歪取焼鈍後の磁区細分化処理は、上記素材Aに施したプラズマ炎を用いた方法・条件で行った。
【0025】
【0026】
表2に上記鉄損W17/50の測定値を併記した。上記表から、剪断加工した後、歪取焼鈍を施し、その後、磁区細分化処理を施したNo.5の条件では、著しく低い鉄損値が得られていることがわかる。また、No.2(剪断加工ままの条件)とNo.3(剪断加工後に歪取焼鈍をした条件)を比較すると、剪断加工後の磁束密度に顕著な変化は認められないことから、鉄損値の低減は、単純な加工歪み除去による磁束密度の増大によるものではないと考えられる。
【0027】
そこで、上記原因を調査するため、No.2とNo.3の条件の鋼板について、張力付与型絶縁被膜をアルカリで除去したときの鋼板の曲率半径を測定し、下記のStoneyの式を用いて絶縁被膜により鋼板に付与された張力を見積った。
σ=Ed/3(1-ν)R
ここで、E:圧延方向のヤング率、d:板厚(mm)、ν:ポアソン比、R:片面の被膜を除去したときの曲率半径(mm)であり、上記計算では、E:125GPa、ν=0.38とした。
また、上記計算に用いる鋼板の曲率半径Rは、圧延方向を長さ方向としたとき、幅:30mm×長さ:320mmの試験片を、
図3に示したように、幅方向が水平面に垂直(鉛直)となるように固定して、鋼板の自由長さLおよび反り量δを測定し、これらの値から下記式を用いて求めた。
R≒L
2/2δ
【0028】
上記測定の結果、No.2の条件の鋼板の被膜張力σは13MPaであったのに対し、歪取焼鈍を施したNo.3の条件の鋼板の被膜張力は15MPaであった。この結果から、歪取焼鈍には、まだ原因は十分に明らかとなっていないが、何らかのメカニズムで、絶縁被膜により付与される被膜張力を増大する効果があると推察された。
【0029】
<実験2>
次いで、発明者らは、上記と同一の素材AおよびBを用意し、
図1に示した積鉄心形変圧器の鉄心を構成するすべての鉄心部材を、鉄心部材の長さ方向が圧延方向となるようにして斜角切断機で切り出し、表3に示した処理を施した後、
図1に示す積鉄心形変圧器の鉄心を組み立て、変圧器の鉄損W
17/50を測定した。なお、上記斜角切断した鉄心部材の端面は、すべて剪断加工面のままとした。また、歪取焼鈍は、Ar雰囲気下において800℃の温度で2hr均熱保持する条件で行った。また、磁区細分化処理は、前述した<実験1>で素材Aに施したプラズマ炎を用いた方法・条件で行った。また、変圧器の鉄心は、外形500mm角で、幅100mmの鋼板で構成し、積み厚約15mm、鉄心重量約20kgとなるように、鋼板70枚を積層して作製した。この際の積層方法は、2枚重ねの5段ステップラップ積みとした。
【0030】
【0031】
上記変圧器の鉄損値の測定結果を表3中に併記したが、上記表2の単板試験の場合と同様、斜角切断した後、歪取焼鈍を施し、その後、磁区細分化処理を施した場合(No.4)に、著しい鉄損の低減が認められた。
【0032】
<実験3>
次に、発明者らは、適正な歪取焼鈍の条件を調査する実験を行った。
磁区細分化処理が施されていない、表面にリン酸塩系の張力付与型絶縁被膜が被成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(B8=1.940T)から、剪断加工によって、圧延方向の長さ300mm、圧延直角方向の長さ100mmのSST試験片を、1セット30枚として数セット分切り出し、表4に示す種々の異なる条件で歪取焼鈍を模擬した熱処理を施した後、レーザービームを照射して磁区細分化処理を施し、その後、SST試験で鉄損W17/50を測定した。なお、上記剪断加工したSST試験片の端面は、すべて剪断加工面のままとした。また、レーザービームの照射は、ビーム径0.3mm、出力100W、圧延方向の繰り返し間隔5mmで実施し、レーザービームを照射した後、照射部分を目視観察した結果、いずれの試験片にも被膜損傷は確認されなかった。また、熱処理は、均熱時間が120sまでは、トンネル炉型の連続焼鈍炉を用い、均熱時間が1200sおよび7200sは、バッチ焼鈍炉を用いて行った。なお、上記熱処理は、いずれもAr雰囲気下で行った。また、歪取焼鈍後の磁区細分化処理は、前述した<実験1>で素材Aに施したプラズマ炎を用いた方法・条件で行った。
【0033】
【0034】
表4中に、熱処理条件とともに、30枚のSST試験片の鉄損平均値を示した。この結果から、熱処理温度に関しては、鉄損改善効果は、650℃では認められず、700℃以上の温度で認められた。しかし、熱処理温度を1000℃まで高めても鉄損改善効果はほぼ飽和してしまう。よって、本発明では歪取焼鈍の均熱温度は700℃以上1000℃の範囲とする。また、熱処理時間に関しては、700℃以上の温度では、均熱時間が1s以上で鉄損改善効果が認められた。ただし、熱処理時間が1200秒以上は、連続焼鈍には不向きで、バッチ焼鈍が必要になり、焼鈍後、速やかに磁区細分化処理を施すことが難しくなる。また、連続焼鈍に比べて格段の低鉄損化効果が得られるものではない。よって、本発明では、歪取焼鈍の均熱時間は、連続焼鈍に適した、1~1000sの範囲とする。
【0035】
<実験4>
次に、発明者らは、歪取焼鈍における雰囲気が、鉄損に及ぼす影響を調査する実験を行った。
歪取焼鈍時の雰囲気を表5のように種々に変更したこと以外は、上記<実験3>と同様の条件で実験を行った。表5中に、雰囲気を含めた熱処理条件と、磁区細分化処理後の鉄損W17/50の測定結果を示した。
【0036】
【0037】
表5からわかるように、歪取焼鈍は、窒素ガス、Arガス、減圧大気(30Pa)、減圧窒素(200Pa)および水素ガスの雰囲気下で行ったが、いずれも高い鉄損低減効果を示した。ただし、より詳細に比較すると、窒素雰囲気は、他の雰囲気と比較して若干、鉄損低減効果が劣っている。したがって、鉄損低減効果をより高めるためには、窒素以外の雰囲気とすることが好ましく、特に安定的に供給可能なAr雰囲気で行うことがより好ましい。また、上記表には示していないが、窒素ガスやArガス、水素ガス、DXガスあるいは、RXガスの単独または混合ガスの減圧雰囲気でも、同様の鉄損低減効果が認められた。なお、本発明における上記「減圧雰囲気」とは、104Pa以下の雰囲気をいう。ただし、減圧大気雰囲気の場合は、残留する酸素が絶縁張力被膜と反応し、被膜の張力付与効果を減じることから、103Pa以下とするのが好ましい。
【0038】
<実験5>
次に、発明者らは、レーザービーム照射で磁区細分化処理を施す際の部材温度の影響を調査するため、レーザービーム照射時の部材温度を種々に変化させて、被膜損傷の有無と鉄損W17/50に及ぼす影響を調査し、その結果を表6に示した。ここで、表6中に示したレーザービーム径とは、最大強度の1/e2幅のことをいう。また、被膜損傷の有無は、目視判定で評価し、損傷が認められた場合は×、認められない場合は〇で示した。また、鉄損W17/50は、圧延方向の長さが300mm、圧延直角方向の長さが100mmの試験片30枚をSST試験したときの平均値である。
【0039】
【0040】
表6の結果から、レーザービーム出力が小さいと、鉄損低減効果が十分に得られないこと、一方、レーザービーム出力を大きくし過ぎると、鉄損低減効果は増大するが、被膜損傷を起こすようになること、しかし、レーザービームを照射する鉄心部材の温度を高めると、高いレーザー出力までレーザービーム照射による被膜損傷が生じない傾向があることがわかる。したがって、レーザービーム照射で磁区細分化処理する場合は、前工程の歪取焼鈍が完了し、鉄心部材の温度が完全に下がり切るまでの間に行えば、被膜損傷を起こすことなく、高出力でレーザービームを照射することができ、ひいては、磁区細分化処理の効果をより高め、より低い鉄損レベルに到達することが可能となる。具体的には、レーザービームの照射は、部材温度が50℃以上のときに行うのが好ましい。しかし、部材温度が過度に高い場合には、歪みが十分に導入されず、磁区細分化効果が得られないため、レーザービームの照射は、部材温度が600℃以下のときに行う必要がある。
本発明は、上記の新規な知見に基づき開発したものである。
【0041】
次に、本発明の積鉄心形変圧器の鉄心部材の製造方法について、具体的に説明する。
<鉄心部材の素材>:厚さ0.30mm以下の軟磁性材料
本発明の積鉄心形変圧器の鉄心に用いる素材は、変圧器の鉄心に一般に用いられている軟磁性材料であればよく、例えば、方向性電磁鋼板、純鉄系軟磁性材料を含めた無方向性電磁鋼板、アモルファス合金薄帯などを用いることができる。素材の形態は、コイル状であっても、予めシート状に剪断されたものであってもよい。ただし、厚さは、低鉄損を達成するため、0.30mm以下とする。好ましくは0.27mm以下である。
【0042】
なお、上記軟磁性材料が方向性電磁鋼板である場合、磁区細分化処理による鉄損改善効果をより高めるため、磁束密度が高い鋼板であることが望ましく、例えば、B8で1.90T以上であることが好ましい。また、鉄損特性を特に重視する場合には、鋼板表面に溝や地鉄溶融部などを形成した、耐熱型の磁区細分化処理を施した鋼板を用いることが好ましい。
【0043】
また、素材の形態がコイル状のものを用いる場合は、剪断加工の前にスリット加工などの前工程が必要になり、プロセス全体としての素材歩留まりが低下する。また、コイルを払い出し、スリットしてからコイルに巻き取るスリット加工においては、素材の耳波などの形状不良は、蛇行や板破断を助長するため、好ましくない。したがって、素材コイルの形状は良好であることが好ましく、特に、コイル幅端部の平坦度は、幅中央部に比較して同等以上であることが好ましい。
【0044】
なお、スリットコイルから払い出した素材を、そのまま後述する斜角切断により鉄心部材を切り出す場合には、スリット前の素材コイルが耳波などの形状不良を有していても、形状不良が無い場合と同等に加工することが可能である。ただし、より高い精度で斜角切断を行う場合には、斜角切断前にコイル端部をトリミングするのが好ましい。
【0045】
鉄心部材の切出し:剪断加工
上記素材である方向性電磁鋼板から、積鉄心形変圧器用の鉄心部材を切り出す方法は、剪断加工とすることが好ましい。剪断加工としては、先述した実験において採用した、現時点で最も一般的な方法である斜角切断(剪断機やライン内のスイングシャーを利用)や、金型を用いたプレス加工(打抜加工)等が挙げられる。ただし、レーザービームを用いたレーザー切断、ワイヤーカット切断などの方法を用いてもよい。また、積鉄心部材を積層する際に各部材を位置決めするため、鉄心部材内部に穴開け加工を施すことも、歪取焼鈍前の本工程において実施するのが望ましい。本発明の積鉄心形変圧器用の鉄心部材の製造装置には、これらの加工を行う加工設備が設けられる。
【0046】
なお、本発明の技術を適用する積鉄心形変圧器の鉄心には、特段の制限はないが、切り出し時の生産性を考慮すると、鉄心を構成する各部材の長さが100mm以上のものであることが好ましい。
【0047】
歪取焼鈍:700℃以上1000℃以下×1s以上1000s以下
次いで、上記切り出した鉄心部材は、切り出し時に導入された加工歪を除去するために歪取焼鈍を施す。この歪取焼鈍は、前述した<実験3>の結果から、700℃以上1000℃以下の温度に1s以上1000s以下の時間均熱保持する条件とするのが好ましい。上記温度が700℃未満または保持時間が1s未満では、鉄損低減効果が十分に得られず、一方、1000℃超えまたは1000s超えでは、上記効果が飽和するだけでなく、生産性やエネルギーコストの面で不利となる。好ましい均熱温度は750℃以上900℃以下の範囲であり、好ましい均熱時間は2s以上120s以下の範囲である。
【0048】
また、歪取焼鈍の雰囲気は、窒素ガス、水素ガスおよびArガスのいずれかの単体ガス、上記1以上の混合ガスの雰囲気、あるいは、DXガスまたはRXガスの雰囲気、上記いずれかのガスの真空度が104Pa以下である減圧雰囲気、および、真空度が103Pa以下である減圧大気雰囲気のいずれかの雰囲気下で施すことが好ましい。なお、本発明における上記「減圧雰囲気」とは、104Pa以下の雰囲気をいう。ただし、減圧大気雰囲気の場合は、残留する酸素が絶縁張力被膜と反応し、被膜の張力付与効果を減じることから、103Pa以下とするのが好ましい。
【0049】
ここで、上記歪取焼鈍を施す熱処理炉は、切り出した鉄心部材をコンベヤー(搬送ベルト)上に乗せて搬送しながら連続的に熱処理を施すことができるトンネル型の炉を用いるのが好ましい。また、熱処理炉の加熱帯には、生産性や設備の小型化を考慮し、誘導加熱装置を設置してもよい。
【0050】
また、上記熱処理後の冷却方法は、炉冷または空冷としてもよいが、設備の長大化を防止する観点から、ガス冷却設備やミスト冷却設備等を設置して強制冷却を行ってもよい。この際、鉄心部材内や鉄心部材と搬送ベルト間の温度差が大きくならないようにすることが重要である。温度差があると、鉄心部材に熱歪が発生し、鉄損を増大させる原因となるからである。因みに、上記の温度差やメンテナンス性の観点からは、ミスト冷却より、ガス冷却の方が好ましい。
【0051】
磁区細分化処理
次いで、上記歪取焼鈍後の鉄心部材には、レーザービームを照射して非耐熱型の磁区細分化処理を施す。非耐熱型の磁区細分化処理の方法としては、レーザービームを照射する方法の他に、電子ビームを照射する方法、プラズマ炎を用いる方法、微小突起ロールを用いる方法などが知られているが、鉄損低減効果が大きく、かつ、設備的にも手軽な、レーザービームを照射する方法が最も有利である。
【0052】
ここで、レーザービーム照射で磁区細分化処理を施す場合は、鉄心部材をコンベヤー上で整列させる必要がある。例えば、歪取焼鈍炉から排出された鉄心部材をコンベヤー上でレーザービーム照射する場合、歪取焼鈍の前あるいは後において、サイドガイド等を用いて、鉄心部材の長さ方向(素材鋼板の圧延方向)とコンベヤーの搬送方向とが一致するように整列させる、その上で、整列させた鉄心部材の位置情報に基づいて、レーザービーム照射を施すことが重要である。
【0053】
また、レーザービーム照射で磁区細分化処理を施すときは、鉄心部材が冷却を完了するまでの間に行えばよいが、前述した<実験5>の結果が示すように、鉄心部材の温度が高いほど、レーザービーム照射による被膜損傷を抑制することができ、高出力でのレーザービーム照射が可能となるので、十分な鉄損低減効果を得ることが可能となる。したがって、レーザービーム照射による磁区細分化処理は、鉄心部材の温度が50℃以上のときに行う。ただし、部材温度が高過ぎると、レーザービーム照射による熱歪が回復等で消失し、歪を十分に導入することができなくなるので、上限温度は600℃程度とする。レーザービームの照射温度は60℃以上が好ましく、300℃以下が好ましい。
【0054】
また、磁区細分化処理に用いるレーザーの種類としては、YAGやCO2、ファイバーレーザー等、公知のものを用いることができる。しかし、軟磁性材料として方向性電磁鋼板を用いる場合、レーザービームのビーム径が大きいと、熱影響部が大きくなって、鉄損低減効果が小さくなるため、ビーム径は小さいほど有利である。具体的には、ビーム径は、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。斯かる観点から、軟磁性材料として方向性電磁鋼板の場合には、小径化が容易なファイバーレーザーを用いることが好ましい。ここで、上記ビーム径とは、本発明では、レーザービームの走査方向に直交する方向(走査方向が圧延直角方向の場合、圧延方向)の径のことをいい、ビーム断面が楕円状のときは、レーザービームの走査方向と平行な方向(走査方向が圧延直角方向の場合、圧延直角方向)の径は、上記値より大きくてもよい。
【0055】
また、磁区細分化処理を施すには、レーザービームをコンベヤーの搬送方向を横切る方向に、かつ、繰り返し走査して照射し、これによって、長さ方向(圧延方向)に1~30mmの間隔(RD間隔)を開けて熱歪領域を形成することが必要である。上記熱歪領域の圧延方向の間隔が1mmを下回ると、レーザービーム照射による熱歪が過度に導入され、鉄損低減効果が小さくなるばかりでなく、生産性が低下する原因ともなる。一方、30mmを超えると、十分な鉄損低減効果が得られなくなる。好ましくは3~15mmの範囲である。レーザービームの走査方向とコンベヤーの搬送方向のなす角度(0~90°を取り得る)は、十分な磁区細分化効果を得るためには45~90°の範囲とすることが好ましい。
【0056】
また、レーザービームの照射は、鉄心部材の表面上を全幅に亘って途切れることなく走査するのが好ましい。レーザービームの未照射部があると、その部分は磁区細分化効果が得られないからである。
【0057】
方向性電磁鋼板の製品コイル(素材鋼板)に対して磁区細分化処理を施していた従来の方法では、1m程度の幅を複数に分割し、複数のレーザービーム照射装置で磁区細分化処理を施していたため、素材の幅方向でビーム照射の欠落部が存在し、鉄損を低減する観点からは好ましくない状態であった。しかし、本発明では、レーザービームの照射対象が、切り出した鉄心部材であるため、ビーム照射間欠部が生じることなく処理することができる。
【0058】
なお、レーザービームをコンベヤーの搬送方向に直交する方向に走査する手段としては、ポリゴンミラースキャナーやガルバノスキャナー等、公知の方法が利用できる。また、所望の圧延方向の処理間隔を得るためには、鉄心部材の搬送速度に同期させて、上記のスキャナーを駆動する必要がある。その他の照射条件であるレーザービームの出力や、走査速度、ビームフォーカス等は、所望の鉄損あるいは表面状態が得られるよう、事前に実験を行い、最適条件を決定しておくことが好ましい。
【0059】
また、磁区細分化処理を施す鉄心部材は、鉄心を構成する各部材それぞれの形状・寸法が異なるため、事前に鉄心部材の形状・寸法を認識(把握)し、その結果をレーザー加工システムにフィードフォワードし、鉄心部材の形状・寸法に応じてレーザービーム照射を施すようにすることが好ましい。
【0060】
さらに、本発明においては、より鉄損低減効果を得るため、上記機能を活用し、1つの鉄心部材内の部位に応じてレーザービームの照射条件を変更することが好ましい。例えば、
図2は、鉄心部材の部位に応じて、圧延方向(搬送方向)のレーザービームの走査間隔を変更しない例(
図2(a))と変更した例(
図2(b))を示したものである。変更する照射条件としては、上記した圧延方向の走査間隔の他に、レーザービームの出力や走査速度、圧延方向とビームの走査方向とがなす角のうちの少なくも1つ以上の条件を挙げることができる。このような1つの鉄心部材内での処理条件の変更は、鉄心部材を切り出した後に磁区細分化処理を施す本発明においてのみ実現可能である。
【0061】
鉄心の組立
磁区細分化処理を施した鉄心部材は、通常公知の方法で、変圧器の鉄心に組み立てればよい。ただし、磁区細分化処理を施した鉄心部材は、鉄心組立までの間において、剪断加工等による加工歪が導入されることがないようにするのが望ましい。
【実施例】
【0062】
板厚が0.23mmで、耐熱型の磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板A(B
8:1.902T)と、磁区細分化処理が施されていない方向性電磁鋼板B(B
8:1.935T)の方向性電磁鋼板から、
図1に示した形状・寸法を有する三相三脚の積鉄心形変圧器用の鉄心部材を、表7に示したように、剪断加工(斜角切断)とワイヤーカット切断の2つの方法により採取した。なお、一部の条件では、形状Cの部材の中心部に、金型を使った穴抜加工法で、直径3mmの穴開け加工を行った。
次いで、上記切り出した鉄心部材を、金属メッシュベルトからなる搬送ベルト上に、部材同士が重ならないよう、かつ、部材の圧延方向が搬送方向に一致するようにサイドガイトで整列させた後、トンネル型の熱処理炉内に搬送し、歪取焼鈍を施した。上記熱処理炉の加熱帯では、700℃までを誘導加熱装置で加熱し、均熱帯では、表7に記載した雰囲気下で、表7に示した温度と時間の均熱処理を施した後、600℃までの冷却は、上記と同じ雰囲気下で炉冷し、600℃以下の温度域の冷却は、表7に示した雰囲気下で放冷した。この際、上記冷却時の部材温度が表7に示した温度になった時点において、各鉄心部材の表面に、表7に記載した条件でレーザービームを照射し、磁区細分化処理を施した。上記レーザービームには、ファイバービームを用い、ガルバノスキャナーを用いて鉄心部材の幅方向(素材鋼板の圧延方向と直角方向)の全幅に亘って照射した。この際、一部の部材に対しては、部材位置に応じてレーザービームの照射パターンを変更した。なお、上記磁区細分化処理後の部材表面を目視観察した結果、いずれの条件においてもレーザービーム照射による被膜損傷は認められなかった。
次いで、上記磁区細分化を施した鉄心部材を用いて、前述した
図1に示した三相三脚の積鉄心形変圧器用の鉄心を組み立てた。この鉄心の組み立ては、2枚重ねの5段ステップラップ積みとし、70枚の鉄心部材を、積み厚が約15mm、鉄心重量が約20kgとなるよう積層した。
次いで、上記組み立てた変圧器の鉄心に、120°位相をずらした三相で励磁し、磁束密度1.7Tにおける変圧器の鉄損W
17/50を測定し、その結果を表7中に併記した。
【0063】
【0064】
上記表の結果から、本発明の条件を満たした鉄心部材から組み立てられた変圧器の鉄心は、鉄損特性に優れていることがわかる。特に、鉄心部材内で、位置により磁区細分化の処理パターンを変更した部材から組み立てた変圧器の鉄心は、より優れた鉄損特性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の技術は、三相三脚の積鉄心形変圧器用の鉄心部材のみならず、単相の積鉄心形変圧器用の鉄心部材やリアクトルの積鉄心部材など、積み重ねて使用される鉄心部材にも適用することができる。