(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20231031BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231031BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/22
C08K9/04
(21)【出願番号】P 2020207267
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020023055
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
(72)【発明者】
【氏名】本白水 崇光
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-179627(JP,A)
【文献】特開2009-237098(JP,A)
【文献】特開2005-286160(JP,A)
【文献】特開2000-248263(JP,A)
【文献】特開平01-247450(JP,A)
【文献】特開平05-117508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系ポリマーまたはポリアミドでコーティングされている酸化セリウムを含む粒子を
10ppm以上1000ppm以下(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)含有し、重量減量率(除湿大気流通下(200ml/min)、290℃、3時間)が16wt%以下であるポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
マンガン元素(原子)を含有する請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
酸化セリウムを含む粒子の粒径が1nm以上200nm以下である請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
酸化セリウムを含む粒子をコーティングするビニル系ポリマーまたはポリアミドが、ピペラジン、ピリジン、イミダゾール、カルバゾールより選ばれる
化合物由来の基を有する請求項
1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、表面を
ビニル系ポリマーまたはポリアミドでコーティングした酸化セリウムを含む粒子を
10ppm以上1000ppm以下(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)添加する
ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
粒径が1nm以上200nm以下である酸化セリウムを含む粒子を添加する請求項
5記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
ピペラジン、ピリジン、イミダゾール、カルバゾールより選ばれる
化合物由来の基を有するビニル系ポリマーまたはポリアミドでコーティングされた酸化セリウムを含む粒子を添加する請求項
5記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、透明性や加工性に優れていることから、光学用フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。しかしながら、ポリエステルの耐熱性や耐酸化分解性が不十分な場合、溶融成形時にポリエステルが熱劣化・酸化劣化することでゲル組成物が発生し、口金汚れなどの工程汚染が問題となる。フィルム用途などでは、このゲル組成物がフィルム中にて欠点となり、品質が低下する。さらに、熱劣化・酸化劣化することで、成型品の機械強度も低下する。
【0003】
特許文献1には、金属量とリン量のモル比率を高い範囲に制御し、ゲル組成物を抑制する技術が開示されている。
【0004】
また、引用文献2においては、銅化合物を用いることでゲル組成物を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-96280号公報
【文献】特開2015-67661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術のように、ゲル組成物の発生抑制のために金属量とリン量のモル比を高めると、耐熱性や耐加水分解性が低下してしまう課題があった。また、銅化合物を添加するとゲル組成物の発生は抑制できるものの、ポリエステル樹脂の色調は低下し、さらに長期保管時には銅の価数が変化し、成型品の色味が変化してしまうため、光学フィルムなどに供するには不適であった。
本発明の課題は、上記した従来の課題を解決し、耐熱性および耐酸化分解性に優れたポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有するものである。
(1)ビニル系ポリマーまたはポリアミドでコーティングされている酸化セリウムを含む粒子を10ppm以上1000ppm以下(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)含有し、重量減量率(除湿大気流通下(200ml/min)、290℃、3時間)が16wt%以下であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(2)ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステ
ル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応してポリエステルを製造するに際
して、表面をビニル系ポリマーまたはポリアミドでコーティングした酸化セリウム粒子10ppm以上1000ppm以下(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)を添加することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性および耐酸化分解性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とジオール成分を重縮合して得られるポリエステル樹脂を指す。
本発明におけるジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸など種々のジカルボン酸成分を用いることができる。その中でも、ポリエステル組成物の機械的特性、耐熱性、耐加水分解性の観点から、芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。特には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が重合性、機械的特性から好ましい。
【0010】
本発明におけるジオール成分としては、各種ジオールを用いることができる。例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、2,6-ジヒドロキシ-9-オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンジオールなどの各種脂環式ジオールや、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にもトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。
【0011】
この中で、反応系外に留出させやすいことから、沸点230℃以下のジオールであることが好ましく、低コストであり反応性が高いことから、脂肪族ジオールがより好ましい。さらに、機械的特性の観点からエチレングリコールが特に好ましい。
なお、本発明の効果の範囲を損なわない程度に、他のジカルボン酸やヒドロキシカルボン酸誘導体、ジオールが共重合されていてもよい。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、酸化セリウムを含む粒子を含有することが必要である。酸化セリウムは抗酸化作用を有するため、ポリエステル樹脂組成物に耐酸化分解性能を付与することが可能となる。
【0013】
酸化セリウムを含む粒子は、その表面をコーティングしていることが好ましい。コーティングを施すことで、ポリエステル中での凝集を抑制することができる。粒子表面にて耐酸化分解性を発揮することから、凝集を抑制することで、比表面積を大きくすることで耐酸化分解性を最大限に発現でき、耐酸化分解性が良好となる。
本発明においては、酸化セリウムを含む粒子が、ビニル系ポリマーまたはポリアミドでコーティングされていることが好ましい。
ビニル系ポリマーまたはポリアミドのコーティング剤としては、ピペラジン、ピリジン、イミダゾール、カルバゾールより選ばれるいずれかの骨格を有する窒素含有化合物であることが好ましい。ポリマーの定義は分子量が3000以上のものとし、特に上限は設けない。分子量が高いポリマーにて被覆することで、ポリエステル樹脂組成物の重合時や成型時に高温に曝されても、粒子の凝集を抑制できる。また、複数のポリマーをコーティング剤として用いることも可能である。
コーティングに用いるビニル系ポリマーは、側鎖にピペラジン、ピリジン、イミダゾール、カルバゾールより選ばれるいずれかの骨格を有していることが好ましく、ビニル系モノマーの重合反応によって得られる。
ビニル系モノマーの具体例としては、1-ビニルピペラジン、(4-ビニルピペラジン-1-イル)メタンアミン、2-(4-ビニルピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン、2-ビニルピペラジン、(3-ビニルピペラジン-1-イル)メタンアミン、2-(3-ビニルピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン、(2-ビニルピペラジン-1-イル)メタンアミン、2-(2-ビニルピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、2-ビニルイミダゾール、4-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾールなどが挙げられる。また、上記ビニル系モノマーは、ビニル基以外の任意の位置に、置換基を有していてもよく、ビニル基には、メチル基やシアノ基を置換基として有していてもよい。
【0014】
本発明でコーティングに用いるビニル系ポリマーは、ホモポリマーであってもよいし、2種類以上のビニル系モノマーを原料としたコポリマーであってもよい。
【0015】
本発明でコーティングに用いるビニル系ポリマーの好ましい具体例は、ポリ(1-ビニルピペラジン)、ポリ((4-ビニルピペラジン-1-イル)メタンアミン)、ポリ(2-(4-ビニルピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン)、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(3-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(1-ビニルイミダゾール)、ポリ(2-ビニルイミダゾール)、ポリ(4-ビニルイミダゾール)、ポリ(9-ビニルカルバゾール)である。
本発明でコーティングに用いるポリアミドは、ピペラジン骨格を主鎖または側鎖に有するポリマーが好ましく、ピペラジン骨格を主鎖に有するポリマーがより好ましい。本発明で用いる主鎖にピペラジン骨格を有するポリアミドは、ピペラジン骨格を有するアミンと、ジカルボン酸との重縮合反応によって得られる。
【0016】
ピペラジン骨格を有するアミンの好ましい例としては、ピペラジン、アミノメチルピペラジン、アミノエチルピペラジン、アミノプロピルピペラジン、アミノブチルピペラジン、1,4-ビス(アミノメチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ビス(4-アミノブチル)ピペラジンなどが挙げられる。これらの中でも、アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジンがより好ましい。また、これらのアミンは、アミド結合を形成し得る窒素以外の任意の位置に、置換基を有していてもよい。
【0017】
ジカルボン酸の好ましい例としては、1H-イミダゾール-2,4-ジカルボン酸、1H-イミダゾール-2,5-ジカルボン酸、1H-イミダゾール-4,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,3-ジカルボン酸、ピリジン-2,4-ジカルボン酸、ピリジン-2,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、ピリジン-3,4-ジカルボン酸、ピリジン-3,5-ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。また、これらのジカルボン酸は、アミド結合を形成し得るカルボキシル基以外の任意の位置に、置換基を有していてもよい。
【0018】
本発明で用いるポリアミドは、上記のアミンとジカルボン酸の組み合わせで得られるポリアミドであれば好ましく用いることができ、アミノエチルピペラジンとアジピン酸の組み合わせで得られるポリアミドが特に好ましい。
【0019】
また、本発明でコーティングに用いるポリアミドは、主鎖にポリアルキレングリコールの構造を有していてもよい。具体的には、アミノエチルピペラジン、アジピン酸、およびビスアミノプロピルポリエチレングリコールの骨格を有するポリアミドが挙げられる。また、ポリアミドは、ピペラジン、ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾールの骨格を有するポリアミドと、その他のポリマーとの混合物や、共重合体であってもよい。この場合、その他のポリマーの具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)などが挙げられる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂組成物が含有する酸化セリウムを含む粒子の粒径は、1nm以上200nm以下であることが好ましい。より好ましくは10nm以上100nm以下である。上記下限範囲以上とすることで、凝集による透明性の低下を抑制できる。さらに上記上限以下とすることで、比表面積が十分に高いことから、粗大粒子による透明性低下を起こすことなく、効果的に耐酸化分解性を付与できる。
【0021】
本発明における酸化セリウムを含む粒子の粒径は、酸化セリウムを含有する粒子の流体力学直径である。これは、酸化セリウムを含有する粒子を、水、エタノール、ピリジンなどの任意の溶媒に溶解し、動的光散乱を測定して自己相関関数を導き、マルカート法(Marquadt法)によって解析し、個数変換ヒストグラムから平均粒子径として算出したものである。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂組成物が含有する酸化セリウムを含む粒子の含有量は、ポリエステル樹脂組成物の重量に対し10ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは50ppm以上500ppm以下である。上記下限範囲以上とすることで、光学フィルム等に供しても問題のない耐酸化分解性が得られる。また、上記上限以下とすることで、光学フィルム等に好ましい透明性を維持することができる。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、マンガン元素を含有していることが好ましい。マンガン元素を含有することで、溶融成型時に発生するゲル組成物を抑制することができる。マンガン元素の含有量は、ポリエステル樹脂組成物の重量に対し10ppm以上200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以上100ppm以下、15ppm以上60ppm以下がさらに好ましい。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、マンガン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、から選ばれる金属元素含有量M(mol/t)とリン元素含有量P(mol/t)の比であるM/Pが0.5以上3.0以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.8以上1.5以下である。上記範囲を満たすことで、溶融成型時における熱分解を抑制することができる。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、重量減量率が16wt%以下であることが必要である。本重量減量率は、除湿大気流通下(200ml/min)、290℃で3時間保持した際の重量減量率である。好ましくは15wt%以下、さらに好ましくは13wt%以下である。本試験は、除湿大気下で行い、290℃とポリエステル樹脂組成物が溶融している状態での試験であるため、ポリエステル樹脂組成物の耐熱性と耐酸化分解性を評価した指標である。上記範囲を満たすことで、光学フィルム等に供しても問題のない耐熱性と耐酸化分解性を有したポリエステル樹脂組成物となる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、除湿大気下、200℃で24時間保持した際のカルボキシル末端基増加量ΔCOOHが90eq/ton以下であることが好ましい。より好ましくは60eq/ton以下、30eq/tonがより好ましい。本試験は、大気下にて、ポリエステル樹脂組成物の融点未満である200℃にて実施しているため、耐酸化分解性を評価した指標である。上記範囲を満たすことで、光学フィルム等に供しても問題のない耐酸化分解性を有したポリエステル樹脂組成物となる。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、溶液ヘイズが10%以下であることが好ましい。より好ましくは8%以下であり、5%以下がさらに好ましい。上記範囲とすることで、高透明性も求められる光学フィルム等に供することが可能となる。
【0026】
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物は、酸素濃度1%の窒素雰囲気下、300℃で6時間加熱処理した際のゲル化率が10.0wt%以下であることが好ましい。より好ましくは8.0wt%以下であり、さらに好ましくは5.0wt%以下である。上記範囲とすることで、溶融成形時に発生するゲル組成物を抑制できるためフィルムなどの成形体の欠点を抑制できる。
【0027】
次に、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について記載する。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、表面をコーティングした酸化セリウムを含む粒子を添加することで得ることができる。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応し、ポリエステルを製造するに際して、表面をコーティングした酸化セリウムを含む粒子を添加することが必要である。酸化セリウムを含む粒子を添加することにより耐酸化分解性を付与することが可能となり、コーティングを施すことによりポリエステル中での凝集を抑制し、比表面積を最大限に発現できることから、耐酸化分解性が良好となる。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、上記酸化セリウムを含む粒子は、エステル交換反応またはエステル化反応が終了してから、重縮合反応が終了するまでの間に添加することが好ましい。エステル交換反応中やエステル化反応中に添加すると、長時間反応系内に存在するため、酸化セリウム粒子のコーティング剤が剥げ酸化セリウムが露出してしまう可能性がある。さらに重合反応終了後に混錬などの方法にて酸化セリウム粒子を添加しても構わないが、再溶融し練りこむ工程を追加するため、ポリエステル樹脂組成物は熱劣化してしまうため、重合反応終了前に添加しておくことが好ましい。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、添加する酸化セリウムを含む粒子の粒径は、1nm以上200nm以下であることが好ましい。より好ましくは5nm以上100nm以下である。上記下限範囲以上とすることで、凝集による透明性の低下を抑制できる。さらに上記上限以下とすることで、比表面積が十分に高いことから、粗大粒子による透明性低下を起こすことなく、効果的に耐酸化分解性を付与できる。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、酸化セリウムを含む粒子の添加量は、ポリエステル樹脂組成物の重量に対し10ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは50ppm以上500ppm以下である。上記下限範囲以上とすることで、光学フィルム等に好ましい耐酸化分解性が得られる。また、上記上限以下とすることで、光学フィルム等に好ましい透明性を維持することができる。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、マンガン化合物を添加することが好ましい。マンガン化合物として、特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガンなどが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。マンガン化合物を含有することで、溶融成型時に発生するゲル組成物を抑制することができる。マンガン化合物の添加量は、マンガン元素(原子)として、ポリエステル樹脂組成物の重量に対し10ppm以上200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以上100ppm以下、15ppm以上60ppm以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、マンガン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、から選ばれる金属元素(原子)含有量M(mol/t)とリン元素(原子)含有量P(mol/t)の比であるM/Pが0.5以上3.0以下とするように金属元素含有化合物とリン化合物を添加することが好ましい。さらに好ましくは0.8以上1.5以下である。またリン化合物においては重合反応中に減圧とすることで系外に飛散してしまうため、ポリエステル樹脂組成物中の含有量が上記範囲を満たすよう、添加量を調整することが好ましい。上記M/Pの範囲を満たすことで、溶融成型時における熱分解を抑制することができる。
【0035】
本発明のポリエステル組成物の製造に用いられる触媒は公知のエステル交換触媒、重縮合触媒、助触媒を用いることができる。例えば、重合触媒としてはアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、エステル交換触媒及び助触媒としては、マンガン化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、コバルト化合物、亜鉛化合物、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、末端封鎖剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤またはその他の添加剤等を必要に応じて配合しても良い。
【0037】
以下、酸化セリウムを含む粒子の調製方法の具体例を挙げるがこれに制限されない。
【0038】
酸化セリウムを含む粒子は、工程a:ピペラジン、ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾールの骨格を有する窒素化合物の溶液と、セリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、混合溶液を得る工程、および工程b:工程aで得られた混合溶液に酸化剤を添加する工程、を含む製造方法によって製造することができる。以下、本発明の酸化セリウムを含む粒子の製造方法を工程別に説明する。
【0039】
工程aは、ピペラジン、ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾールの骨格を有するポリマーの溶液と、セリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、混合溶液を得る工程である。工程aで用いるポリマーの溶液は、上記のポリマーを任意の溶媒に溶解して調製することができる。溶媒は、水または水と相溶性のある溶媒が好ましい。水と相溶性のある溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、グリセロール、エチレングリコール、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トリエチルアミン、ピリジンなどが挙げられる。ポリアミドやポリビニルイミダゾールであれば水に溶解することが好ましく、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(2-ビニルピリジン)であれば80%エタノール水溶液に溶解することが好ましく、ポリビニルカルバゾールであればピリジンに溶解することが好ましい。ポリマーが溶解しにくい場合、加温や超音波処理をして溶解してもよい。
【0040】
ポリマーの溶液の濃度は重量濃度で、0.01%以上5%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。
【0041】
ポリマーの溶液と、セリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩との混合方法は、ポリマーの溶液と、セリウム(III)イオンを含む溶液をそれぞれ調製して混合してもよいし、ポリマーの溶液の溶媒が水または、水と相溶性のある溶媒である場合には、ポリマーの溶液にセリウム(III)塩を添加して混合してもよい。セリウム(III)イオンを含む溶液は、セリウム(III)塩を任意の溶媒に溶解して調製すればよい。セリウム(III)塩には、例えば硝酸セリウム(III)・六水和物を用いればよい。
【0042】
セリウム(III)塩として、硝酸セリウム(III)・六水和物を用いる場合には、ポリマーに対する硝酸セリウム(III)・六水和物の重量比が、0.1以上5.0以下になるように混合することが好ましい。混合溶液は、溶液が均一になるまで5分以上混合することが好ましい。
【0043】
工程bは、工程aで得られた混合溶液に酸化剤を添加する工程である。工程bで用いる酸化剤は、硝酸、硝酸カリウム、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ハロゲン、ハロゲン化水素、過マンガン酸塩、クロム酸、ニクロム酸、シュウ酸、硫化水素、二酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫酸、過酸化水素などが挙げられる。これらの中でも特に過酸化水素が好ましい。添加量は、セリウム(III)イオンに対してモル等量として、0.1等量以上10等量以下であればよく、好ましくは1等量以上2等量以下である。
【0044】
工程aで得られた混合溶液に酸化剤を添加すると、セリウム(III)イオンがセリウム(IV)に酸化され、Ce2O3とCeO2の混合物で構成される酸化セリウム粒子を中心として、その表面が上記のポリマーで被覆された粒子の形成反応が開始される。ポリマーとセリウム(III)イオンの混合溶液に酸化剤を添加すると、本発明の酸化セリウムのナノ粒子の形成反応が始まる。また、その反応の際には、溶液が黄色、橙色、赤色、褐色などに着色する。これは、セリウム(III)イオンが、セリウム(IV)に変化することによる呈色であり、着色度合いは、酸化セリウムのナノ粒子の表面に存在するセリウム(III)とセリウム(IV)の比で決定する。反応終了は色の変化がなくなった点で判断することができる。通常30分~1時間程度で反応は終了する。
【0045】
例えば、0.1重量%のポリビニルイミダゾール水溶液5mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液を100μl添加して混合し、その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液を100μl添加して40℃に加温すると、溶液が最初は黄色に変化し、その後徐々に黄色が濃くなり、最終的に橙色に変化して反応が終了する。
【0046】
酸化セリウムを含む粒子の粒径は、ポリマーの溶液の濃度によって調整することができる。高い濃度のポリマーの溶液を用いれば、大きな粒径の粒子が得られ、低い濃度のポリマーの溶液を用いれば、小さな粒径の粒子が得られる。
【0047】
また、酸化セリウムを含む粒子は、反応終了後の溶液中で保存してもよいし、本発明の酸化セリウムのナノ粒子を反応終了後の溶液から取り出して、乾燥させた状態で保存してもよい。溶液中で保存する場合、冷蔵保存が好ましい。
【0048】
以下、本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されない。
【0049】
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレートが仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーをスネークポンプにて徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0050】
こうして得られた255℃のエステル化反応物を重合装置に移送し、マンガン、マグネシウム、カルシウムから選ばれる金属化合物、重縮合触媒、リン化合物を添加する。次いで、表面をコーティングした酸化セリウムを含む粒子の溶液(水溶液もしくはエチレングリコール溶液が好ましい)を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0051】
その後、重合装置内の温度を290℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリマーを冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得る。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐熱性および耐酸化分解性に優れたポリエステル樹脂組成物である。したがって、フィルム、繊維、成形体など各種用途に好適に用いることができ、特に本発明のポリエステルフィルムは高透明性や酸化劣化・熱劣化による異物レス化の求められる光学フィルムなどの高品位フィルムに用いることが可能である。
【実施例】
【0053】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0054】
(1)ポリエステル組成物の固有粘度(単位:dl/g)
ポリエステル組成物0.1gを0.001g以内の精度で秤量し、10mlのo-クロロフェノールを用いて100℃×30分間加熱して溶解した。溶液を室温まで冷却し、25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計に該溶液を8ml仕込み、標線を通過する秒数を計測した(A秒)。
また、o-クロロフェノールのみ8ml用いて前記と同様に25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計で標線を通過する秒数を計測した(B秒)。
【0055】
固有粘度は次の計算式で計算した。
【0056】
IV=-1+[1+4×K×{(A/B)-1}]^0.5/(2×K×C)
ここでKは0.343,Cは試料溶液の濃度(g/100ml)である。
【0057】
(2)ポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量
Mauliceの方法によって測定した。(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960))。
すなわち、ポリエステル組成物0.5gを0.001g以内の精度で秤量する。該試料にo-クレゾール/クロロホルムを7/3の質量比で混合した溶媒50mlを加え、加熱して内温が90℃になってから20分間加熱攪拌して溶解する。また混合溶媒のみもブランク液として同様に別途加熱する。溶液を室温に冷却し、1/50Nの水酸化カリウムのメタノール溶液で電位差滴定装置を用いて滴定をおこなう。また、混合溶媒のみのブランク液についても同様に滴定を実施する。
ポリエステル組成物のCOOH末端基量は、以下の式により計算した。
COOH末端基量(当量/トン)={(V1-V0)×N×f}×1000/S
ここでV1は試料溶液での滴定液量(mL)、V0はブランク液での滴定液量(mL)、Nは滴定液の規定度(N)、fは滴定液のファクター、Sはポリエステル組成物の質量(g)である。
【0058】
(3)ポリエステル樹脂組成物の金属元素量M及びリン含有量P(単位:ポリエステル組成物に対する質量比 ppm)
ポリエステル樹脂組成物またはポリエステルフィルム7gを溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定、予め含有量既知のサンプルで作成した検量線を用い、算出した。
【0059】
(4)ポリエステル樹脂組成物の溶液ヘイズ(%)
ポリエステル樹脂組成物2gを20mlのフェノール/1,1,2,2,テトラクロロエタンの3/2(容積比)混合溶液に溶解し、光路長20mmのセルを用い、ヘイズメーター(スガ試験機(株)製 HZ-1)によって積分球式光電光度法にて分析を行った。
【0060】
(5)ポリエステル樹脂組成物のゲル化率(単位:ポリエステル樹脂組成物に対する質量比 wt%)
ポリステル樹脂組成物またはポリエステルフィルムを凍結粉砕機(Sprex CertiPerp社製)にて粉砕し、ステンレスビーカーに0.5g秤量した。真空乾燥機を用いて、50℃で2時間真空乾燥した後、酸素/窒素濃度1%流通下(流量0.5L/分)、300℃で6時間加熱処理を行った。これを、20mlのo-クロロフェノールで、160℃で1時間溶解し、放冷した。この溶液を、ガラスフィルター(柴田科学(株)製、3GP40)を使用してろ過し、ジクロロメタンにてガラスフィルターを洗浄した。ガラスフィルターを130℃で2時間乾燥し、ろ過前後のろ過器の重量の増加分より、ポリエステル重量(0.5g)に対する重量分率を求め、ゲル化率(%)とした。
【0061】
(6)ポリエステル樹脂組成物の重量減量率(ポリエステル樹脂組成物に対する質量比 wt%)
ポリエステル樹脂組成物を試験管に入れ真空乾燥機を用いて、150℃で12時間乾燥した後、アルミニウムパンに秤量に10mg秤量した。除湿大気流通下(200ml/min)、室温から290℃まで昇温(20℃/分)し、290℃を3時間維持した時の重量減量率をTG-DTAを用いて測定した。なお、装置は以下のものを用い、除湿大気は大気圧露点-30度以下のものを用いた。
【0062】
HITACHI製:STA7200RV
(7)ポリエステル樹脂組成物の耐酸化分解性評価(ΔCOOH)
ポリエステル樹脂組成物を試験管に2g秤量し、真空乾燥機を用いて150℃で12時間乾燥した。その後、除湿大気下、220℃で24時間加熱処理を行い、処理前後のCOOH末端基量を測定することで、COOH末端基増加量(ΔCOOH)を算出した。なお、除湿大気は大気圧露点-30度以下のものを用いた。
【0063】
(8)酸化セリウムを含有する粒子の含有量(単位:ポリエステル組成物に対する質量比 ppm)
原子吸光法((株)日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度型180-80、フレーム:アセチレン空気)にて定量を行った。
【0064】
(9)酸化セリウムを含有する粒子の平均粒子径(単位:nm)
酸化セリウムを含有する粒子の流体力学直径は、酸化セリウムを含有する粒子を、水、エタノール、ピリジンなどの任意の溶媒に溶解し、動的光散乱を測定して自己相関関数を導き、マルカート法(Marquadt法)によって解析し、個数変換ヒストグラムから平均粒子径として算出した。測定時の溶媒は、化合物がポリアミド(1)、ポリアミド(2およびポリ(1-ビニルイミダゾール)、ベンゾイミダゾール、ピペラジンの場合は水、ポリ(4-ビニルピリジン)またはポリ(2-ビニルピリジン)の場合はエタノールを用いた。なお、装置は以下のものを使用した。
【0065】
大塚電子株式会社製:ELS-Z
(参考例1)ポリマーAでコーティングした酸化セリウム粒子の調整
特開平11-166121を参考にアミノエチルピペラジンとアジピン酸を構造単位とするポリアミド(1)を調整した(分子量10000~30000)。このポリアミド(1)の0.5重量%水溶液10mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液200μl添加し、室温で5分間撹拌した。その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液200μlを添加し、室温で1時間反応させた。当該水溶液を30kDの限界ろ過膜で精製することで、ピペラジン骨格を有するポリマーであるポリアミド(1)でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0066】
(参考例2)ポリマーBでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
アミノエチルピペラジンとビスアミノプロピルエチレングリコール及びアジピン酸を使用し、特開平11-166121を参考にポリアミド(2)を調整し、使用した以外は参考例1と同様に調整した。
(参考例3)ポリマーCでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
ポリ(1-ビニルイミダゾール)の0.5重量%水溶液10mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液200μl添加し、室温で5分間撹拌した。その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液200μlを添加し、室温で1時間反応させた。当該水溶液を30kDの限界ろ過膜で精製することで、イミダゾール骨格を有するポリマーであるポリ(1-ビニルイミダゾール)でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0067】
(参考例4)ポリマーDでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
0.5重量%のポリ(4-ビニルピリジン)の80%エタノール水溶液10mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液200μl添加し、室温で5分間撹拌した。その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液200μlを添加し、室温で1時間反応させた。当該水溶液にエタノールを添加して70容量%に希釈し、30kD限界ろ過膜で精製し、エバポレーターで溶媒を除去した。ジメチルスルホキシドに再溶解することで、ピリジン骨格を有するポリマーであるポリ(4-ビニルピリジン)でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0068】
(参考例5)ポリマーEでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
0.5重量%のポリ(9-ビニルカルバゾール)のピリジン溶液10mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液200μl添加し、室温で5分間撹拌した。その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液200μlを添加し、室温で1時間反応させた。当該水溶液を10000Gで1時間遠心して上澄みを除き、ジメチルスルホキシドに再溶解することで、カルバゾール骨格を有するポリマーであるポリ(9-ビニルカルバゾール)でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0069】
(参考例6)ポリマーFでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
0.5重量%のポリアクリル酸ナトリウム(分子量5000)水溶液10mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液200μl添加し、室温で5分間撹拌した。その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液200μlを添加し、室温で1時間反応させ、10kDの限界ろ過膜で精製することで、ポリアクリル酸でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0070】
(参考例7)ベンゾイミダゾールでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
0.9g/100mlのベンゾイミダゾール溶液(50vol%EG水溶液)10mlに対し、50重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液100μl添加し、室温で5分間反応させた。その後、0.6重量%の過酸化水素水溶液1mlを徐々に滴下し、室温で1時間反応させ、10kDの限界ろ過膜で精製することで、ベンゾイミダゾールでコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0071】
(参考例8)ピペラジンでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
ベンゾイミダゾールに変えピペラジンを用いた以外は、参考例7と同様にし、ピペラジンでコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0072】
(参考例9)ポリマーB、Fでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
1質量%のポリアクリル酸ナトリウム水溶液5mlと1質量%のポリアミド(2)(参考例2で使用したもの)水溶液5mlを混合し、10質量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液を200μl添加して15分間攪拌した。その後、1.2質量%の過酸化水素水溶液を200μl添加し、室温で1時間反応させた。反応溶液を30kDの限外ろ過膜で精製することで、ポリアクリル酸とポリアミド(2)でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。 (参考例10)ポリマーGでコーティングされた酸化セリウム粒子の調整
0.5重量%のポリアクリル酸ナトリウム(分子量25000)水溶液10mlに対し、10重量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液200μl添加し、室温で5分間撹拌した。その後、1.2重量%の過酸化水素水溶液200μlを添加し、室温で1時間反応させ、30kDの限界ろ過膜で精製することで、ポリアクリル酸でコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を得た。
【0073】
(実施例1)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0074】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、リン酸0.01重量部(リン元素として32ppm)を添加し、次いで三酸化二アンチモン0.01重量部(アンチモン元素として84ppm)、酢酸マンガン4水和物0.02重量部(マンガン元素として45ppm)を添加した。次いで、参考例1にて調整したポリマーAでコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を酸化セリウムとして100ppmとなるよう添加した。
【0075】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.6相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0076】
実施例1で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、さらにゲル化率および溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに好適な物性を有していた。
【0077】
(実施例2~7、比較例1)
酸化セリウム粒子の添加量を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す
実施例2にて得られたポリエステル樹脂組成物は、ゲル化率および溶液ヘイズが低く、重量減量率およびΔCOOHも低いことから、光学フィルムに供することができる特性を有していた。
【0078】
実施例3~6で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、さらにゲル化率および溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに好適な物性を有していた。
実施例7にて得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、ゲル化率が低いことから、光学フィルムに供することができる特性を有していた。
比較例1で得られたポリエステル樹脂組成物は、酸化セリウムを含む粒子を含有していないため、重量減量率・ΔCOOHが増加した。
【0079】
【0080】
(実施例8~14)
添加する酸化セリウム粒子を表2の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す。
実施例8~11で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、さらにゲル化率および溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに好適な物性を有していた。
実施例12で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れていた。
実施例13、14で得られたポリエステル樹脂組成物は、ゲル化率および溶液ヘイズが低く、重量減量率およびΔCOOHも低いことから、光学フィルムに供することができる特性を有していた。
【0081】
(比較例2)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0082】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、リン酸0.01重量部(リン元素として32ppm)を添加し、次いで三酸化二アンチモン0.01重量部(アンチモン元素として84ppm)、酢酸マンガン4水和物0.02重量部(マンガン元素として45ppm)を添加した。次いで、市販の酸化セリウム粒子水溶液(Shiguma―Aldrich製10重量%酸化セリウム(IV)水溶液)を酸化セリウムとして100ppmとなるよう添加した。
【0083】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.6相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0084】
得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す。
比較例2で得られたポリエステル樹脂組成物は、酸化セリウム粒子にコーティングを施していないため、重量減量率およびΔCOOHが増加した。
【0085】
【0086】
(実施例15~19)
酸化セリウム粒子の粒径を表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表3に示す。
実施例15~18で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、さらにゲル化率および溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに好適な物性を有していた。
実施例19で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、ゲル化率が低く、光学フィルムに供することができる特性を有していた。
【0087】
(実施例20)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0088】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、リン酸0.01重量部(リン元素として32ppm)を添加し、次いで三酸化二アンチモン0.01重量部(アンチモン元素として84ppm)、酢酸マグネシウム4水和物0.018重量部(マグネシウム元素として20ppm)を添加した。次いで、参考例1にて調整したポリマーAでコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を酸化セリウムとして100ppmとなるよう添加した。
【0089】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.6相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0090】
得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表3に示す。
【0091】
実施例20で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに供すことができる物性を有していた。
【0092】
(実施例21)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0093】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、リン酸0.01重量部(リン元素として32ppm)を添加し、次いで三酸化二アンチモン0.01重量部(アンチモン元素として84ppm)、酢酸カルシウム1水和物0.015重量部(カルシウム元素として33ppm)を添加した。次いで、参考例1にて調整したポリマーAでコーティングされた酸化セリウム粒子溶液を酸化セリウムとして100ppmとなるよう添加した。
【0094】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.6相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0095】
得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表3に示す。
【0096】
実施例21で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れており、溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに供すことができる物性を有していた。
【0097】
(実施例22~23)
酢酸マンガン4水和物の添加量を表3の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。
実施例22で得られたポリエステル樹脂組成物は、ゲル化率および溶液ヘイズが低く、重量減量率およびΔCOOHも低いことから、光学フィルムに供することができる特性を有していた。
実施例23で得られたポリエステル樹脂組成は、ΔCOOHが低く、優れた耐酸化分解性を有しており、溶液ヘイズが低いことから、光学フィルムに供すことができる物性を有していた。
【0098】
【0099】
(実施例24、25)
添加する酸化セリウム粒子を表4の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表4に示す。
実施例24、25で得られたポリエステル樹脂組成物は、重量減量率およびΔCOOHが低いことから、耐熱性および耐酸化分解性に優れていた。
【0100】