(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01G 11/18 20130101AFI20231031BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20231031BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231031BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20231031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231031BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20231031BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231031BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231031BHJP
H01G 11/52 20130101ALN20231031BHJP
【FI】
H01G11/18
H01G11/62
H01G11/06
H01G11/38
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0566
H01M10/0568
H01G11/52
(21)【出願番号】P 2020504985
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2019008091
(87)【国際公開番号】W WO2019172119
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018038645
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三尾 巧美
(72)【発明者】
【氏名】大参 直輝
(72)【発明者】
【氏名】木元 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】小松原 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】西 幸二
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-181093(JP,A)
【文献】特開2007-317481(JP,A)
【文献】特開2017-017299(JP,A)
【文献】特開2014-235863(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134703(WO,A1)
【文献】特許第6431147(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/18
H01G 11/62
H01G 11/06
H01G 11/38
H01M 10/052
H01M 10/054
H01M 10/0566
H01M 10/0568
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を備える正極と、
負極活物質を備える負極と、
前記正極および前記負極に接触するとともにアルカリ金属イオンを含む電解液と、
内側で前記電解液に接触するとともに前記電解液を密封する密封体と、を有し、
前記正極活物質および前記負極活物質の少なくともいずれか一方が、前記アルカリ金属イオンを吸蔵可能および放出可能な蓄電デバイスであって、
前記電解液は、有機溶媒およびイミド系リチウム塩を含み、
前記密封体の内部空間に、難燃化機能を発揮する消火剤を備え、
前記消火剤は、前記電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きく、
前記密封体の内側
で交互に積層された前記正極および前記負極に前記電解液が接触していると共に、交互に積層された前記正極および前記負極に直に包囲体が巻かれることで、前記包囲体は、前記正極および前記負極を囲うように設けられ
ており、
前記包囲体は、交互に積層された前記正極および前記負極を臨む片面又は両面に前記消火剤を有し、
前記消火剤は燃料成分Aと酸化剤成分Bと有機塩成分Cとを含み、
前記消火剤は、前記燃料成分Aと前記酸化剤成分Bの合計100質量部に対して、前記燃料成分Aを15~50質量部、前記酸化剤成分Bを85~50質量部、前記有機塩成分Cを7~1000質量部含有し、
前記消火剤は、前記燃料成分A及び前記酸化剤成分Bが燃焼する温度に達すると、前記燃料成分A及び前記酸化剤成分Bが燃焼することで前記有機塩成分Cからカリウムラジカルを含むエアロゾルを生成する、蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスであって、
前記正極は、集電箔を有し、
前記正極活物質は、前記電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいポリマーを含むバインダを介して前記集電箔に保持されている、蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイスであって、
リチウムイオンキャパシタである、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属イオンを吸蔵可能および放出可能な活物質を備える蓄電デバイスは、動作電圧が高いことや、エネルギー密度に優れることなど、優れた特性を示すため広く普及している。そして、蓄電デバイスの安全性を向上させるために、検討が重ねられており、多数の安全性試験が行われている。安全性試験としては、蓄電デバイスの内部短絡を模擬した釘刺し試験や圧壊試験、蓄電デバイスが外部から加熱されることを模擬した加熱試験が挙げられる。
【0003】
蓄電デバイスが内部短絡を起こした場合や、加熱された場合において、蓄電デバイスが発火することを防止するための技術が提案されている。例えば、特表2013-541131号公報は、蓄電デバイスの周囲に消火剤を配置することで、発火した蓄電デバイスを消火する技術を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特表2013-541131号公報に記載の技術を用いても、発火した蓄電デバイスを容易に消火できないおそれがあった。例えば、高温の蓄電デバイスが発火して蓄電デバイスの温度がさらに高まる。そのため、蓄電デバイスの有する有機溶媒が気化して周囲に拡散する。この気化した有機溶媒に引火した場合、複数の蓄電デバイスが連鎖的に発火しうる。この様に連鎖的に蓄電デバイスが発火すると、特表2013-541131号公報に記載の技術では容易に消火できない恐れがある。そのため難燃性の高い蓄電デバイスに対する需要が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの特徴は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極と、電解液と、密封体と、消火剤とを有する蓄電デバイスである。電解液は、正極および負極に接触するとともにアルカリ金属イオンを含む。密封体は、内側で電解液に接触するとともに電解液を密封する。正極活物質および負極活物質の少なくともいずれか一方は、アルカリ金属イオンを吸蔵可能および放出可能である。電解液は、有機溶媒およびイミド系リチウム塩を含む。また消火剤は、密封体の内部空間に配置されており、難燃化機能を発揮する。消火剤は、電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きい。密封体の内側で交互に積層された正極および負極に電解液が接触していると共に、交互に積層された正極および負極に直に包囲体が巻かれることで、包囲体は、正極および負極を囲うように設けられている。包囲体は、交互に積層された正極および負極を臨む片面又は両面に消火剤を有する。消火剤は燃料成分Aと酸化剤成分Bと有機塩成分Cとを含む。消火剤は、燃料成分Aと酸化剤成分Bの合計100質量部に対して、燃料成分Aを15~50質量部、酸化剤成分Bを85~50質量部、有機塩成分Cを7~1000質量部含有する。消火剤は、燃料成分A及び酸化剤成分Bが燃焼する温度に達すると、燃料成分A及び酸化剤成分Bが燃焼することで有機塩成分Cからカリウムラジカルを含むエアロゾルを生成する。
【0006】
上記特徴によると、蓄電デバイスは、消火剤が密封体の内部空間に設けられている。従って、消火剤が蓄電デバイスを難燃化する難燃化機能は、密封体の外部からではなく、内部から発揮できるため、消火剤が蓄電デバイスの難燃性を確実に高めることができる。
【0007】
また消火剤は、電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいため、消火剤の電解液への溶解量は無視できるほど小さい。そのため消火剤は、蓄電デバイス内で安定している。従って消火剤は、蓄電デバイスの難燃性を経時的に安定して高め、かつ、蓄電デバイスの充放電の過程へ大きな影響を及ぼさない。また、密封体の内側に、正極および負極を囲うように設けられた包囲体が設けられており、消火剤は包囲体上に設けられているため、消火剤が蓄電デバイスの難燃性を効果的に高めることができる。
【0008】
本開示の他の特徴は、電解液は、有機溶媒およびイミド系リチウム塩を含む。正極は、集電箔を有する。正極活物質は、電解液に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいポリマーを含むバインダを介して集電箔に保持されている。したがって、バインダが高温環境においても電解液に対して安定している。そのため蓄電デバイスは、自動車の車室内に設置するために要求される85℃の環境においても容量を維持することができ、且つ内部抵抗の増加が小さい。
【0010】
本開示の他の特徴は、リチウムイオンキャパシタである。一般的にリチウムイオンキャパシタの製造方法に含まれるプレドープの工程では、単体のリチウム金属が使用される。単体のリチウムイオンは発火の原因になるため、リチウムイオンキャパシタ内に単体のリチウム金属が残らないようにプレドープの工程が行われている。万が一、リチウムイオンキャパシタ内に単体のリチウム金属が残った場合も、密封体の内部空間に配置された消火剤が難燃化機能を発揮することによりリチウムイオンキャパシタの発火が防止される。また、従来のように金属リチウムが析出しないようプレドープの工程に時間をかける必要がなくなり、プレドープ工程の時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態の蓄電デバイスの分解斜視図である。
【
図2】第1の実施の形態の蓄電デバイスの斜視図である。
【
図3】
図2の蓄電デバイスにおけるIII-III線断面の模式的な図である。
【
図4】第1の実施の形態において、正極板の外観の例を説明する図である。
【
図5】
図4の正極板におけるV-V線断面図である。
【
図6】第1の実施の形態において、負極板の外観の例を説明する図である。
【
図7】
図6の負極板におけるVII-VII線断面図である。
【
図8】第1の実施の形態において、消火剤を備えるセパレータの外観の例を説明する図である。
【
図9】
図8のセパレータにおけるIX-IX線断面図である。
【
図10】第1の実施の形態において、消火剤を備えるセパレータの他の例の外観を説明する図である。
【
図11】第1の実施の形態において、正極の正極板と、負極の負極板と、セパレータと、電解液と、消火剤との位置関係を説明する図である。
【
図12】第1の実施の形態において、蓄電デバイスの製造過程を示すフローチャートの例である。
【
図13】第1の実施の形態の蓄電デバイスの製造過程において、正極板作成、および負極板作成のためのロールプレス加工を説明する図である。
【
図14】第1の実施の形態の蓄電デバイスの製造過程において、プレドープ用電極板の外観の例を説明する図である。
【
図15】
図14のプレドープ用電極板におけるXV-XV線断面図である。
【
図16】第1の実施の形態の蓄電デバイスの製造過程において、プレドープ用電極作成のためのロールプレス加工を説明する図である。
【
図17】第1の実施の形態の蓄電デバイスの製造過程において、プレドープを行う状態を説明する図である。
【
図18】第2の実施の形態の蓄電デバイスの分解斜視図である。
【
図19】第2の実施の形態の蓄電デバイスの模式的な断面図である。
【
図20】第2の実施の形態において、正極板と、負極板と、セパレータと、電解液と、消火剤との位置関係を説明する図である。
【
図21】第3の実施の形態の蓄電デバイスの模式的な断面図である。
【
図22】消火剤の難燃化機能の試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態について
図1~
図17を用いて説明する。第1の実施の形態における蓄電デバイスは、リチウムイオンキャパシタ1である。
図1の分解斜視図に示す様に、リチウムイオンキャパシタ1は、複数の板状の正極板11と、複数の板状の負極板21とを備えている。複数の板状の正極板11と、複数の板状の負極板21とは交互に積層されている。各正極板11は一方向に突出する電極端子接続部12bを備える。各負極板21も、正極板11の電極端子接続部12bが突出する方向と同一の方向に突出する電極端子接続部22bを備えている。
図1に示す様に、正極板11の電極端子接続部12bが突出する方向をX軸方向とし、積層される方向をZ軸方向とし、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸方向とする。これらのX軸、Y軸、Z軸は互いに直交している。X軸、Y軸、Z軸が記載されているすべての図において、これらの軸方向は同一の方向を示し、以下の説明において方向に関する記述はこれらの軸方向を基準とすることがある。なお、本実施の形態および以下に説明する実施の形態において、付随的な構成については、その図示および詳細な説明を省略する。
【0013】
<1.リチウムイオンキャパシタ1の全体構造(
図1~
図3)>
リチウムイオンキャパシタ1は、
図1に示すように、複数の正極板11と、複数の負極板21と、複数のセパレータ30と、電解液40と、ラミネート部材50とを備えている。ここで、
図1に示す様に、正極板11と負極板21とは交互に積層されており、正極板11と負極板21との間それぞれにセパレータ30が挟まれている。電解液40は、この様に積層された、複数の正極板11の一部と、複数の負極板21の一部と、複数のセパレータ30と共に、2つのラミネート部材50(密封体)に包まれてリチウムイオンキャパシタ1内に密封されている。電解液40は、正極板11、負極板21及びラミネート部材50の内側に接触している。詳細は後述するが、セパレータ30は、消火剤32を備えており(
図3参照)、消火剤32はリチウムイオンキャパシタ1の難燃性を向上させる。なお、リチウムイオンキャパシタ1は、Z軸方向の最上層と最下層とにセパレータ30を更に有し、各負極板21がセパレータ30で挟まれるように配置してもよい。
【0014】
複数の正極板11の電極端子接続部12bは、同一方向に突出し、正極端子14に導通している。この正極端子14やこれと接続されている複数の正極板11など、正極側の導体部材をまとめて正極10と呼ぶ。複数の負極板21の電極端子接続部22bと、負極端子24とは導通している。負極端子24やこれと接続されている複数の負極板21など、負極側の導体部材をまとめて負極20と呼ぶ。リチウムイオンキャパシタ1は、その内部に上述の構成を備え、その外観を
図2に示した。
図2に示すリチウムイオンキャパシタ1のIII-III断面を模式的に
図3に示す。
図3では、わかりやすくするためにリチウムイオンキャパシタ1内における各部材の間に間隔を開けて図示している。しかし、実際には、正極板11と負極板21とセパレータ30とがほとんど隙間無く積層されている。
【0015】
<2.リチウムイオンキャパシタ1の各部について(
図1、
図3~
図10)>
<2-1.正極板11の構造(
図1、
図3~
図5)>
正極板11は、従来のリチウムイオンキャパシタの正極板を用いることができる。すなわち、正極板11は、薄板状の集電体12と、集電体12に塗工されている正極活物質層13とを備えている。
図4に示すように集電体12は、矩形状の集電部12aと、集電部12aの一端(
図4の例では、上辺の左端)から突出する電極端子接続部12bとが一体に形成されている。集電部12aは、Z軸方向に貫通する複数の孔12cを有する金属箔である。電極端子接続部12bは集電部12aの孔12cと同様の複数の孔を有してもよいし、有していなくてもよい。そして、
図1および
図4に示す、電極端子接続部12bのY軸方向の幅は適宜変更できる。その幅は、例えば集電部12aと同じ幅としても良い。また、正極活物質層13は、集電部12aの両面に塗工されているが、塗工されている面はどちらかの片面であってもよい。ここで、集電部12aは、複数の孔12cが形成されているため、電解液40の陽イオンおよび陰イオンが集電部12aを透過できる。
【0016】
集電体12は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、ニッケルからなる金属箔を用いることができる。正極活物質層13は、比表面積が大きく導電性の高い正極活物質と、正極活物質層13の電気伝導性を高めるための導電助剤と、正極活物質の結着および正極活物質と集電体12の集電部12aとを結着させるバインダとを含む。正極活物質層13は、さらに増粘剤等の他の成分を含んでも良い。正極活物質は、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、ポリアセン等を用いることができる。導電助剤は、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイトの微粒子、グラファイトの微細線維を用いることができる。増粘剤は、例えば、カルボキシルメチルセルロース[CMC]を用いることができる。
【0017】
バインダは、正極を構成する材料を結着するために用いられる。バインダは、接着成分であるポリマーを主成分としている。ポリマーは、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム[SBR]、ポリアクリル酸等から選択される。ポリマーは、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づくRED値(相対エネルギー差)が1より大きいことが好ましい。電解液40に対するRED値が1より大きいポリマーは、電解液40に溶解しないため、リチウムイオンキャパシタ1を高温環境で長時間使用しても内部抵抗の増加率が小さい。このようなポリマーとして、ポリアクリル酸が挙げられる。ここでのポリアクリル酸とは、未中和のポリアクリル酸だけでなくポリアクリル酸の中和塩及び架橋したものも含む広義の概念である。ポリアクリル酸は、1種のみでも2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリマーを溶解する溶媒としては、水や有機溶媒を用いることができる。溶媒として水を用いる水系バインダは、製造工程での環境負荷を低減することができるため好ましい。ポリアクリル酸は、水を溶媒として水系バインダを構成することができる点でも好適である。なお、ハンセン溶解度パラメータに基づくRED値の詳しい説明は後述する。
【0018】
バインダは、正極活物質に対して1~10質量%添加するのが好ましい。バインダが1質量%未満であると結着力が不足しやすい。一方バインダが10質量%を超えるとリチウムイオンキャパシタ1の内部抵抗の増加原因となる可能性がある。
【0019】
<2-2.負極板21の構造(
図1、
図3、
図6、
図7)>
負極板21は、従来のリチウムイオンキャパシタの負極板を用いることができる。そして、負極板21は、大まかには上述した正極板11と同様の構造を備えている。つまり負極板21は、薄板状の集電体22と、負極活物質層23とを備えている。負極活物質層23は、リチウムイオンLi
+を吸蔵可能及び放出可能な負極活物質を備える。そして、後述する様に、負極活物質は、製造時にリチウムイオンLi
+が吸着される(いわゆるプレドープされる)。
【0020】
図6に示すように集電体22は、矩形状の集電部22aと、集電部22aの一端(
図6の例では、上辺の右端)から外側に突出する電極端子接続部22bとが一体に形成されている。集電部22aは、Z軸方向に貫通する複数の孔22cを有する金属箔である(
図7参照)。電極端子接続部22bは、集電部22aの孔22cと同様の複数の孔を有してもよく、有していなくてもよい。また、負極活物質層23は、集電部22aの両面に塗工されているが、塗工されている面はどちらかの片面であってもよい。ここで、上述した正極板11と同様に、集電部22aは、複数の孔22cが形成されているため、電解液40の陽イオンおよび陰イオンが集電部22aを透過できる。また
図1に示す様に、正極板11の電極端子接続部12bと、負極板21の電極端子接続部22bとは、Z軸方向に互いに間隔を開けた位置に設けられている。そのため、電極端子接続部12bと電極端子接続部22bとが相互に接触することを防止できる。ここで、
図1および
図6に示す、電極端子接続部22bのY軸方向の幅は適宜変更でき、例えば集電部22aと同じ幅としても良い。
【0021】
集電体22は、正極板11の集電体12と同様に、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅からなる金属箔を用いることができる。負極活物質層23は、リチウムイオンLi+を吸脱着可能な負極活物質と、負極活物質の結着および負極活物質と集電体22の集電部22aとを結着させるバインダとを含む。負極活物質層23は、負極活物質層23の電気伝導性を高めるための導電助剤や、増粘剤等、他の成分を含んでも良い。負極活物質は、例えば、グラファイトを用いることができる。導電助剤、バインダ、増粘剤は、上述した正極板11と同様の物質を用いることができる。すなわち、導電助剤に、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイトの微粒子、グラファイトの微細線維を用いることができる。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム[SBR]、ポリアクリル酸を用いることができる。増粘剤は、例えば、カルボキシルメチルセルロース[CMC]を用いることができる。
【0022】
<2-3.セパレータ30の構造(
図1、
図3、
図8~
図10)>
セパレータ30は、板状である(
図1、
図8参照)。セパレータ30の縦横の長さは、正極板11の集電体12の集電部12aの縦横の長さ、および、負極板21の集電体22の集電部22aの縦横の長さよりも長く設定されている(
図1、
図4、
図6参照)。
図9に示す様に、セパレータ30は、正極板11と負極板21の間を隔離するための多孔質でシート状のセパレータシート31と、セパレータシート31の両面に塗工されている消火剤32とを有している。セパレータ30は、電解液40の陽イオンおよび陰イオンが透過できるように構成されている。
【0023】
消火剤32は、セパレータシート31上に塗工されていればよい。つまり消火剤32は、セパレータシート31の片面に塗工されていてもよく、セパレータシート31上に部分的に塗工されていても良い。例えば
図10に示す様に、セパレータシート31の中心を除く外側に消火剤32を塗工してもよい。消火剤32は、セパレータシート31の外側の一部に塗工してもよい。消火剤32は、セパレータシート31上に複数の帯状やドット状に塗工してもよい。
【0024】
セパレータシート31は、従来のリチウムイオンキャパシタのセパレータを用いることができる。セパレータシート31は、例えば、ビスコースレイヨンや天然セルロース等の抄紙、ポリエチレンやポリプロピレン等の不織布などを用いることができる。
【0025】
消火剤32は、難燃化機能を発揮し、かつ、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づくRED値が1より大きい。ハンセン溶解度パラメータは、Charles M Hansen氏により発表され、ある物質がある物質にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標として知られている。例えば、一般的に水と油は溶け合わないが、これは水と油の「性質」が違うからである。この溶解性に関する物質の「性質」として、ハンセン溶解度パラメータでは、分散項D、極性項P、水素結合項Hの3つの項目を、物質毎に数値で表す。ここで、分散項Dはファンデルワールス力の大きさを表す値である。極性項Pはダイポール・モーメントの大きさを表す値である。水素結合項Hは水素結合の大きさを表す値である。以下では基本的な考えを説明する。このため、水素結合項Hをドナー性とアクセプター性に分割して扱うこと等の説明を省略する。
【0026】
ハンセン溶解度パラメータ(D,P,H)は、溶解性を検討するために、3次元の直交座標系(ハンセン空間、HSP空間)にプロットされる。例えば、溶液Aおよび固体Bそれぞれハンセン溶解度パラメータは、ハンセン空間上で溶液Aおよび固体Bそれぞれに対応する2つの座標(座標A,座標B)にプロットできる。そして、座標Aと座標Bとの距離Ra(HSP distance, Ra)が短い程、溶液Aと固体Bは互いに似た上記「性質」をもつため溶液Aに固体Bが溶解しやすいと考えることができる。この逆に、この距離Raが長い程、溶液Aと固体Bは互いに似ていない「性質」をもつため、溶液Aに固体Bが溶解しにくいと考えることができる。
【0027】
また、溶液Aに対して、溶解する物質と溶解しない物質との境目となる距離Raを相互作用半径R0とする。従って、溶液Aと固体Bについて、距離Raが相互作用半径R0より小さい場合(Ra<R0)は溶液Aに固体Bが溶解すると考えることができる。一方、このRaが相互作用半径R0より大きい場合(R0<Ra)は溶液Aに固体Bが溶解しないと考えることができる。さらに、距離Raを相互作用半径R0で割った値をRED値(=Ra/Ro)とする。すると、RED値が1より小さい場合(RED=Ra/Ro<1)には、Ra<R0となり、溶液Aに固体Bが溶解すると考えることができる。一方、RED値が1より大きい場合(RED=Ra/Ro>1)には、R0<Raとなり、溶液Aに固体Bが溶解しないと考えることができる。この様に、溶液Aおよび固体Bに関するRED値を元に、固体Bが溶液Aに溶けるか否かを判断できる。
【0028】
ここで、本実施の形態では、溶液Aが電解液40に対応し、固体Bが消火剤32に対応する。消火剤32は、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいため、電解液40に溶解しないとみなすことができる。この逆に、電解液40に難溶性を示す消火剤も、ハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいと考えることができる。
【0029】
ハンセン溶解度パラメータおよび相互作用半径R0は、成分の化学構造及び組成比や、実験結果を用いて算出することができる。その場合、Hansen氏らにより開発されたソフトウエアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice:HSPを効率よく扱うためのWindows〔登録商標〕用ソフト)を用いて求めることができる。このソフトウエアHSPiPは、2018年3月5日現在 http://www.hansen-solubility.com/から入手可能である。また、複数の溶媒が混合された混合溶媒の場合等に対しても、ハンセン溶解度パラメータ(D,P,H)を算出することができる。
【0030】
消火剤32は、公知の消火剤のうち、難燃化機能を発揮し、かつ、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きい消火剤を用いることができる。このような消火剤32は、例えば、以下に説明する、燃料成分Aと、酸化剤成分Bと、有機塩成分Cとを含む消火剤を用いることができる。この消火剤は、燃料成分Aと酸化剤成分Bの合計100質量部に対して、燃料成分Aを15~50質量部、酸化剤成分Bを85~50質量部、有機塩成分Cを7~1000質量部を含有している。
【0031】
この消火剤は、加熱されると燃料成分Aおよび酸化剤成分Bが燃焼することで、有機塩成分Cからカリウムラジカルを含むエアロゾルを生成することができる。このエアロゾルに含まれるカリウムラジカルは、消火作用および、発火を抑止する難燃化機能を備える。ここで、この消火剤の難燃化機能とは、発火し始めたときに直ちにカリウムラジカルを生成し、このカリウムラジカルの消火作用により発火を抑止する機能である。なお、燃料成分Aおよび酸化剤成分Bが燃焼する温度は、燃料成分Aと、酸化剤成分Bと、有機塩成分Cとの組成を適宜変更することにより設定することができる。また、この消火剤は、消火作用および、発火を抑止する難燃化機能を備えるカリウムラジカルを生成することができるが、生成するラジカルは、カリウムラジカル以外の消火作用または難燃化機能をそなえるラジカルであってもよい。すなわち、消火剤は、カリウムラジカル以外の消火作用または難燃化機能をそなえるラジカルを生成する消火剤であってもよい。また、消火剤は、上述のように発火を防ぐ難燃化機能を有していればよく、熱分解反応や酸化反応等の発火した際に生じる燃焼の連鎖反応をラジカルトラップによって停止するラジカルを含むエアロゾルを発生するものでなくてもよい。例えば消火剤は、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスを生成することによって燃焼の連鎖反応を停止させる難燃化機能を有してもよい。また、事前に不活性ガスを吸蔵し、所定温度で放出可能な吸蔵合金等を用いることもできる。ハロゲン及びリン系難燃剤以外の消火剤は、環境への安全性が高くなる点で好ましい。また、上記の構成で、二酸化炭素以外の不活性ガスを放出する構成とすれば、人に対する安全性を高めることもできる。
【0032】
燃料成分Aは、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素等である。燃料成分Aは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0033】
酸化剤成分Bとしては、無機酸化剤等が挙げられる。無機酸化剤は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等である。酸化剤成分Bは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0034】
有機塩成分Cとしては、有機カルボン酸カリウム塩等が挙げられる。有機カルボン酸カリウム塩は、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム等である。有機塩成分Cは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0035】
<2-4.電解液40の組成>
電解液40は、従来のリチウムイオンキャパシタの電解液を用いることができる。すなわち、電解液40は、有機溶媒(非水溶媒)と、電解質とを含む。電解液40には、適宜添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート[VC]が挙げられる。
【0036】
有機溶媒として、カーボネート系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、ラクトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、エステル系有機溶媒、アミド系有機溶媒、スルホン系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、芳香族系有機溶媒を例示できる。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。有機溶媒は85℃以上の耐熱性を有することが好ましい。
【0037】
カーボネート系有機溶媒として、エチレンカーボネート[EC]やプロピレンカーボネート[PC]やフルオロエチレンカーボネート[FEC]などの環状カーボネート、エチルメチルカーボネート[EMC]やジエチルカーボネート[DEC]やジメチルカーボネート[DMC]などの鎖状カーボネートを例示できる。
【0038】
ここで鎖状カーボネートとして各種の鎖状カーボネートを用いることができるが、電解液の耐熱性向上の観点から、沸点が低く耐熱性に劣るジメチルカーボネート(DMC)を用いないことが好ましい。すなわち有機溶媒中にジメチルカーボネート(DMC)が含まれる場合、ジメチルカーボネート(DMC)が熱分解してジエチルカーボネート(DEC)となり、その際の分解副産物が内部抵抗の増加や耐熱性の悪化を引き起こすことが懸念される(なおこの推察は本開示の技術を限定するものではない)。そしてリチウムイオンキャパシタを高温環境下で使用することを考慮すると、鎖状カーボネートとして、比較的高沸点且つ低粘度のエチルメチルカーボネート(EMC)や、より高沸点のジエチルカーボネート(DEC)を用いることが好ましい。そして耐熱性を向上させる観点から、エチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)を混合して用いることがさらに好ましい。なお有機溶媒中におけるエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)の比率は特に限定しないが、例えばEMC:DEC=2:1~1:2の範囲に設定できる。
【0039】
また環状カーボネートとして各種の環状カーボネートを用いることができるが、電解液の酸化耐性向上の観点から固体電解液相間(SEI)膜生成能力を備えたエチレンカーボネート(EC)を用いることが好ましい。そして環状カーボネートとして、エチレンカーボネート(EC)と他の環状カーボネート(例えばPC)を混合して用いる場合には、エチレンカーボネート(EC)を、他の環状カーボネート(例えばPC)よりも多く含むことが好ましい。このようにエチレンカーボネート(EC)を相対的に多く含む場合、エチレンカーボネート(EC)が還元分解され、SEI膜が負極表面に生成される。それにより、電解液がリチウム(Li)の電位に直接さらされなくなる。
【0040】
またニトリル系有機溶媒として、アセトニトリル、アクリロニトリル、アジポニトリル、バレロニトリル、イソブチロ二トリルを例示できる。またラクトン系有機溶媒として、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトンを例示できる。またエーテル系有機溶媒として、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル、1,2-ジメトキシエタンやジメチルエーテルやトリグライムなどの鎖状エーテルを例示できる。またアルコール系有機溶媒として、エチルアルコール、エチレングリコールを例示できる。またエステル系有機溶媒として、酢酸メチル、酢酸プロピル、リン酸トリメチルなどのリン酸エステル、ジメチルサルフェートなどの硫酸エステル、ジメチルサルファイトなどの亜硫酸エステルを例示できる。アミド系有機溶媒として、N‐メチル‐2‐ピロリドン、エチレンジアミンを例示できる。スルホン系有機溶媒として、ジメチルスルホンなどの鎖状スルホン、3‐スルホレンなどの環状スルホンを例示できる。ケトン系有機溶媒としてメチルエチルケトン、芳香族系有機溶媒としてトルエンを例示できる。そしてカーボネート系有機溶媒を除く上記各種の有機溶媒は、環状カーボネートを混合して用いることが好ましく、特に、保護被膜を生成可能なエチレンカーボネート[EC]と混合して用いることが好ましい。
【0041】
電解質は、陽イオン(カチオン)であるLiイオンと、陰イオン(アニオン)とのリチウム塩を用いる。電解質として、例えば、過塩素酸リチウム[LiClO4]、ヘキサフルオロリン酸リチウム[LiPF6]、テトラフルオロホウ酸リチウム[LiBF4]、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiN(FSO2)2、LiFSI]、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[LiN(SO2CF3)2、LiTFSI]、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[LiN(SO2CF2CF3)2、LiBETI]を用いることができる。これらのリチウム塩を1種のみを用いても2種以上を用いてもよい。特に、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド等のイミド系リチウム塩(-SO2-N-SO2-を部分構造に有するリチウム塩)は、85℃以上の耐熱性を備えているため好ましい。
【0042】
電解液40中の電解質の濃度は、0.5~10.0mol/Lが好ましい。電解液40の適切な粘度および、イオン伝導度の観点から、電解液40中の電解質の濃度は、0.5~2.0mol/Lがより好ましい。電解質の濃度が0.5mol/Lより少ない場合、電解質が解離したイオンの濃度の低下により、電解液40のイオン伝導度が低すぎるため好ましくない。また、電解質の濃度が10.0mol/Lより大きいと電解液40の粘度の増加により電解液40のイオン伝導度が低すぎるため好ましくない。
【0043】
<2-5.ラミネート部材50の構造(
図1、
図3)>
ラミネート部材50は、
図3に示すように、心材シート51、外側シート52、内側シート53を備えている。そして、心材シート51の外側となる面に外側シート52が接着され、心材シート51の内側となる面に内側シート53が接着されている。例えば心材シート51はアルミニウム箔である。外側シート52はナイロンペットフィルム等の樹脂シートである。内側シート53はポリプロピレン等の樹脂シートである。
【0044】
<3.リチウムイオンキャパシタ1の充放電の過程について(
図3、
図11)>
上述した様に、正極板11の集電体12の集電部12aはZ方向に貫通する複数の孔12cを備える。負極板21の集電体22の集電部22aもZ方向に貫通する複数の孔22cを備える。そのため、電解液40の陰イオン及び陽イオンは、正極板11の集電部12aと負極板21の集電部22aとを透過できる。また、セパレータ30も電解液40の陰イオン及び陽イオンが透過できるように構成されている。リチウムイオンキャパシタ1の、正極10の正極板11と、負極20の負極板21と、セパレータ30と、電解液40と、消火剤32との位置関係を
図11に模式的に示した。
図11に示す様に、正極板11と負極板21とが、消火剤32を備えるセパレータ30を間に挟んでいる。リチウムイオンキャパシタ1は、正極板11の表面では、正極活物質と電解質の陰イオンとで電気二重層を形成し、負極板21では、負極活物質にリチウムイオンLi
+を吸脱着することで充放電を行う。また、後述する様に、リチウムイオンキャパシタ1の製造時には、負極板21の負極活物質にリチウムイオンLi
+を吸着させる(プレドープ)。負極活物質にリチウムイオンLi
+が吸着していることで、正極板11と負極板21との間の電位差が大きくなり、正極板11に形成される電気二重層のエネルギー密度を高めることができる。その結果、リチウムイオンキャパシタ1は、大容量化および高出力化される。
【0045】
<4.消火剤の効果について>
一般的に、製造時におけるプレドープの過程では、負極板21の負極活物質にあらかじめリチウムイオンLi+を吸着させる。このリチウムイオンLi+の供給源は、リチウムイオンキャパシタの電解液の存在する内部空間に配置され、Li+に変換されるリチウム金属である。リチウム金属をリチウムイオンLi+にする方法は、一般的に、リチウム金属と負極板21とに電圧をかけてリチウム金属をリチウムイオンLi+にする電気化学方法と、リチウム金属を電解液に溶解させてリチウムイオンLi+にする化学的方法とである。
【0046】
これらのいずれの方法がなされる場合でも、一般的にリチウムイオンキャパシタの製造方法に含まれるプレドープの工程では、単体のリチウム金属が使用される。そして、通常では、リチウムイオンキャパシタ内に単体のリチウム金属が残らないように、プレドープの工程が行われている。しかし、万が一、リチウムイオンキャパシタ内に単体のリチウム金属が残ったときや、リチウムイオンキャパシタに内部短絡が生じるときや、リチウムイオンキャパシタが加熱されたときにおいて、リチウムイオンキャパシタの発火の可能性がある。この様な場合についても、本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1は、難燃化機能を発揮する消火剤32がラミネート部材50(密封体)の内部空間に設けられているため、発火を防止できる。また、従来のように金属リチウムが析出しないようプレドープの工程に時間をかける必要がなくなり、プレドープ工程の時間を短縮できる。
【0047】
リチウムイオンキャパシタ1(蓄電デバイス)は、消火剤32がラミネート部材50(密封体)の内部空間に設けられている。従って、消火剤32がリチウムイオンキャパシタ1(蓄電デバイス)を難燃化する難燃化機能は、ラミネート部材50(密封体)の外部からではなく、内部から発揮できる。そのため、消火剤32がリチウムイオンキャパシタ1(蓄電デバイス)の難燃性を確実に高めることができる。
【0048】
また、消火剤32は、正極板11(正極)と負極板21(負極)とを隔離するセパレータ30上に設けられている。従って、正極板11(正極)と負極板21(負極)とのショートによる発火を確実に抑えることができ、消火剤32は、より効果的にリチウムイオンキャパシタ1(蓄電デバイス)の難燃性を高め得る。
【0049】
また、消火剤32は、電解液40に対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値が1より大きいため、消火剤32の電解液40への溶解量は無視できるほど小さい。そのため、消火剤32は、安定していると考えることができる。従って、消火剤32は、リチウムイオンキャパシタ1(蓄電デバイス)の難燃性を経時的に安定して高め、かつ、リチウムイオンキャパシタ1(蓄電デバイス)の充放電の過程へ大きな影響を及ぼさない。
【0050】
<5.リチウムイオンキャパシタ1の製造方法について(
図12~
図17)>
本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1の製造方法を説明する。上述した様に、リチウムイオンLi
+を負極板21の負極活物質層23に吸着させるプレドープの方法は、一般に電気化学的方法と化学的方法から選択される。電気化学的方法は、リチウム金属と負極板21とに電圧をかけてリチウム金属をリチウムイオンLi
+にする。化学的方法は、リチウム金属を電解液に溶解させる。以下では、まず、化学的方法でプレドープを行うものとして説明し、その後、電気化学的方法でプレドープを行う場合について説明する。リチウムイオンキャパシタ1は、
図12に示す様に製造することができる。
【0051】
リチウムイオンキャパシタ1の製造では、まず、正極板11および負極板21を作成する(S1)。正極板11と負極板21の作成の順番はどちらが先でも、並行して行ってもよい。
【0052】
正極板11の作成方法について説明する。正極板11は、複数の孔12cが形成された金属薄板状の集電体12と、集電体12の両面又は片面に塗工されている正極活物質層13とを備える。まず、正極活物質層13の材料を準備する。すなわち、上述した、正極活物質と、導電助剤と、バインダと、水や有機溶媒等の溶媒と、および必要に応じて増粘剤等の成分とを、ミキサーを用いて混合したスラリーを調製する。そして、このスラリーを集電体12の材料となる複数の孔が形成された金属薄板の片面もしくは両面に塗工する。次に、スラリーの溶媒を除去するために乾燥し、厚みを均一にするためにプレスする(
図13参照)。金属薄板にスラリーを塗工する時に、片面ずつ塗工を行ってもよいし、両面同時に塗工を行ってもよい。
【0053】
塗工方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ゲートロールコート法、及びダイコート法などを用いることができる。これらの中でも、ブレードコート法及びダイコート法が好ましい。また、乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥炉などで熱乾燥する方法を用いることができる。プレスには、例えば、ロールプレス機を用いることができる。
【0054】
また、正極板11の作成は、次の様に行っても良い。スラリーを塗工する集電体12の材料となる金属薄板を、ロール状に巻かれた複数の孔を備える金属薄板とし、この金属薄板にスラリーを塗工する。そして、スラリーを塗工した金属薄板の乾燥とプレスを行い、プレス後に正極板11の大きさ(
図4参照)に切り分け、さらに、電極端子接続部12bとなる部分(
図4参照)に塗工されている正極活物質層をはぎ落しても良い。また、スラリーを塗工する金属薄板を、ロール状に巻かれた複数の孔を備える金属薄板とし、金属薄板上で集電部12aとなる部分にスラリーを塗工し、ここで電極端子接続部12bとなる部分にはスラリーを塗工しないものとし、プレスの前または後に正極板11の大きさ(
図4参照)に切り分けてもよい。また、スラリーを塗工する金属薄板を、スラリーを塗工する前に正極板11の大きさに切り分けてもよい。
【0055】
負極板21は、上述した様に、大まかには正極板11と同様の構造を備えている。負極板21と正極板11との大きな違いは、負極活物質層23の負極活物質の材質が正極活物質層13の正極活物質の材質と異なることにある。そこで、負極板21は、正極板11と同様に製造することができる。すなわち、まず、上述した、負極活物質層23の材料である、負極活物質と、バインダと、水や有機溶媒等の溶媒と、および必要に応じて導電助剤や増粘剤等の成分とを、ミキサーを用いて混合したスラリーを調製する。そして、このスラリーを集電体22の材料となる複数の孔が形成された金属薄板の片面もしくは両面に塗工する。次に、スラリーの溶媒を除去するために乾燥し、厚みを均一にするためにプレスする(
図13参照)。金属薄板にスラリーを塗工する時に、片面ずつ塗工を行ってもよいし、両面同時に塗工を行ってもよい。
【0056】
次に、消火剤32を所定の形状に加工する(S2)。消火剤32を、セパレータシート31上に塗工する(
図3および
図9参照)。また、厚みを均一にするためにプレス(
図13参照)してもよい。この塗工は、上述した正極板11の集電体12に正極活物質層13を塗工する方法と同様に行うことができる。セパレータシート31の両面に消火剤32を塗工する場合は、片面ずつ塗工を行ってもよいし、両面同時に塗工を行ってもよい。また、プレスは、上述した正極板11のプレスと同様に行うことができる。
【0057】
次に、プレドープに用いるリチウム金属を所定の形状に加工する(S3)。ここでは、その例として、プレドープ用負極板21pを作成する。プレドープ用負極板21pの作成は、負極板21の負極活物質層23上に所定の形状のリチウム金属箔LiS1を配置し(
図14、
図15参照)、さらにプレスにより負極板21の負極活物質層23とリチウム金属箔LiS1を圧着(
図16参照)する。ここで、プレスには、例えば、ロールプレス機を用いてもよい。また、リチウム金属箔LiS1の代わりに粉末状のリチウム金属を用いても良い。また、このS3では、1枚の負極板21を用いるが、S1で1枚の負極板21を作成した後に、このS3を行うことができるので、S1とこのS3を並行して行うこともできる。また、S1で1枚の負極板21を作成した後であれば、S1とS2とS3とを並行して行うことができ、S1とS2とS3とを行う順番は適宜変更できる。
【0058】
次に、リチウム金属、複数の正極板11、複数の負極板21、複数のセパレータ30が積層され、また、正極端子14および負極端子24が組付けられた積層体を作成する(S4)。まず、
図17に示す様に、複数の正極板11と複数の負極板21とは交互に積層されており、かつ、正極板11と負極板21との間それぞれにセパレータ30が挟まれる様に、プレドープ用負極板21pと、正極板11と、負極板21と、セパレータ30とを積層する。ここで、プレドープ用負極板21pは、Z軸方向最上層に積層する。次に、正極端子14を複数の正極板11へ組付け、さらに、負極端子24をプレドープ用負極板21pおよび複数の負極板21へ組付けることで積層体を作成する。なお、積層体のZ軸方向最上層に更にセパレータ30を配置してもよいし、積層体のZ軸方向最下層に更にセパレータ30を配置してもよい。以上では、プレドープ用負極板21pと、正極板11と、負極板21と、セパレータ30との積層を行った後、正極端子14および負極端子24の組付けを行うものとして説明したが、この積層と組付けとの順番は適宜変更しても良い。例えば、積層と並行して、正極端子14と正極板11との接続と、負極端子24と負極板21との接続を行っても良い。また、プレドープに用いるリチウム金属を所定の形状に加工するS3を、単にリチウム金属箔LiS1を用意する工程とし、S4の工程で作成する積層体にプレドープ用負極板21pを配置する代わりにリチウム金属箔LiS1と1枚の負極板21とを配置してもよい。
【0059】
次に、上記の積層体をラミネート部材50に内包する(S5)。まず、正極端子14の一部及び負極端子24の一部がラミネート部材50の外部に露出する様に、積層体をラミネート部材50に内包し、ラミネート部材50の一部を除いた周辺部分を溶着する。
【0060】
次に、負極活物質層23にリチウムイオンLi+を吸着させるプレドープを行う(S6)。まず、あらかじめ調製した電解液40をラミネート部材50の内部空間に注入する。そして、ラミネート部材50を封止し、電解液40を密封する。これにより、プレドープ用負極板21p上のリチウム金属箔LiS1と、複数の負極板21の負極活物質層23と、電解液40とは、ラミネート部材50の内部空間に密封される。電解液40中のリチウムイオンLi+は、負極活物質層23に吸着されてゆくと共に、リチウム金属箔LiS1がリチウムイオンLi+となって電解液40に溶解する。上述した様に、正極板11の集電体12の集電部12aは複数の孔12cを備え、負極板21の集電体22の集電部22aは複数の孔22cを備える。そのため、電解液40内のリチウムイオンLi+は、正極板11および負極板21を透過できる。さらに、セパレータ30も電解液40内のリチウムイオンLi+が透過できる様に構成されている。このため、すべての負極板21の負極活物質層23にリチウムイオンLi+を吸着させることができる。ここで、リチウム金属箔LiS1を電解液40に溶解しやすくするために、リチウム金属箔LiS1を電解液40と共に加温してもよい。万が一、加温によりリチウム金属が発火しやすい状態になったとしても、リチウム金属と共に消火剤32がラミネート部材50の内部空間に内包されているため、リチウム金属の発火は抑えられる。
【0061】
次に、充放電およびエージングを行う(S7)。充放電およびエージングは、ラミネート部材50から外部に露出している正極端子14および負極端子24を外部の電気回路と接続して行う。一般的に、この充放電の過程では、ガスが発生する。
【0062】
次に、ガスをラミネート部材50の外側へ排出する(S8)。まず、密封されたラミネート部材50を開封し、充放電によって発生するガスをラミネート部材50の外側へ排出する。排出するガスは、充放電を行う前にラミネート部材50の内部空間に存在するガスを含んでもよい。
【0063】
最後に、ラミネート部材50の内部空間を密封する(S9)。これにより、リチウムイオンキャパシタ1の製造が完了する。ここで、必要に応じて他の工程を含めても良い。例えば、リチウムイオンキャパシタ1を検査し、検査が完了した時点を、リチウムイオンキャパシタ1の製造が完了した時点とすることができる。
【0064】
<6.リチウムイオンキャパシタ1の製造方法の他の例について>
以上の製造方法では、上述した様に、プレドープは、リチウム金属を電解液に溶解させてリチウムイオンLi
+にする化学的方法で行った。これに対して、プレドープを電気化学方法で行う場合のリチウムイオンキャパシタ1の製造方法について、以下に説明する。この製造方法は、以下に説明する点を除いて、上述したS1~S9を含む方法(
図12参照)と実質的に同じである。すなわち、上述したプレドープに用いるリチウム金属を所定の形状に加工する工程(S3)では、負極板21の負極活物質層23上にリチウム金属箔LiS1を圧着させたプレドープ用負極板21pを作成した。この方法では、その代わりに、金属箔(例えば銅箔、図示省略)に、電極端子(図示省略)とリチウム金属箔(図示省略)を組付けたプレドープ用電極(図示省略)を作成する。そして、積層体を作成する工程(S4)で、このプレドープ用電極と、複数の正極板11、複数の負極板21、複数のセパレータ30の積層と、正極端子14および負極端子24の組付けとを行う。この積層では、例えば、プレドープ用電極は、Z軸方向の最上層におかれ、このプレドープ用電極と負極板21との間にセパレータ30を挟むことを含める。そして、積層体をラミネート部材50に内包する工程(S5)では、正極端子14の一部と、負極端子24の一部と、およびプレドープ用電極の電極端子の一部とがラミネート部材50の外部に露出する様に、積層体をラミネート部材50に内包する。そして、上述した、プレドープを行う工程(S6)では、上述した様に電解液40を密封した後、プレドープ用電極と、複数の負極板21(すなわち1つの負極20)との間に電圧をかけてリチウム金属をリチウムイオンLi
+にし、プレドープを行うものとする。また、S1,S2,S7,S8,S9は、上述した様に行う。
【0065】
従って、
図12を用いて上述したS1~S9を含む製造方法は、プレドープを化学的方法で行う製造方法と、プレドープを電気化学的方法で行う製造方法とを含む。また、この製造方法は、プレドープを行う前の、積層体をラミネート部材50に内包する工程(S5)で、ラミネート部材50の内部空間に消火剤32がリチウム金属箔LiS1と共に収容される。このため、この内包する工程(S5)の後は、ラミネート部材50の内部空間に消火剤32がリチウム金属箔LiS1と共に収容される。従って、この製造方法(S1~S9)は、内包する工程(S5)以降の工程で、製造中のリチウムイオンキャパシタの難燃性が高いため、より安全にリチウムイオンキャパシタ1を製造できる製造方法となっている。
【0066】
[第2の実施の形態]
続いて、第2の実施の形態の蓄電デバイスについて、
図18~
図20を用いて説明する。第2の実施の形態係る蓄電デバイスは、リチウムイオンキャパシタ2である。なお、リチウムイオンキャパシタ2が第1の実施の形態に係るリチウムイオンキャパシタ1と実質的に同一の構成を有する場合、その構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
<1.リチウムイオンキャパシタ2の構造(
図18、
図19)>
上述した第1の実施の形態では、消火剤32は、セパレータシート31上に設けられていた。しかし、消火剤は、ラミネート部材50(密封体)の内部空間に設けられていればよい。本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2は、第1の実施の形態の消火剤32と同じ成分の消火剤が板状に固められて形成された2つの板状消火剤60を有する(
図18参照)。そして、リチウムイオンキャパシタ2は、第1の実施の形態のセパレータシート31に相当するセパレータ130を有する(
図19参照)。リチウムイオンキャパシタ2は、積層された複数の正極板11、複数の負極板21、および複数のセパレータ130が、2つの板状消火剤60の間に設けられる(
図18および
図19参照)。なお、本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2の模式的な断面を示す
図19では、わかりやすくするためにリチウムイオンキャパシタ2内における各部材の間に間隔を開けて図示している。しかし、実際には、正極板11と負極板21とセパレータ130とがほとんど隙間無く積層されている。また、板状消火剤60の数は2つに限らず、3つ以上としてもよい。また、1つの板状消火剤60を複数の板状消火剤を積み重ねたものとしてもよい。
【0068】
<2.リチウムイオンキャパシタ2の充放電の過程について(
図19、
図20)>
本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2(
図19参照)と、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1(
図3参照)とで、正極10と負極20との構成は同様である。リチウムイオンキャパシタ2の、正極10の正極板11と、負極20の負極板21と、セパレータ130と、電解液40と、消火剤(板状消火剤60)との位置関係を
図20に模式的に示した。
図20に示す様に、正極板11と負極板21とが、セパレータ130を間に挟んで配置されている。リチウムイオンキャパシタ2は、リチウムイオンキャパシタ1と同様に、正極板11の表面では、正極活物質と電解液40の陰イオンとで電気二重層を形成し、負極板21では、負極活物質にリチウムイオンLi
+を吸脱着することで充放電を行う。
【0069】
<3.リチウムイオンキャパシタ2の消火剤の効果について(
図18~
図20)>
本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2は、上述した第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1と同様に、板状消火剤60(消火剤)がリチウムイオンキャパシタ2(蓄電デバイス)の充放電の過程へ大きな影響を及ぼすことなく、難燃性が高い。ここで、板状消火剤60(消火剤)は、単独の板状の部品として構成されている。このため、リチウムイオンキャパシタ2(蓄電デバイス)に設ける消火剤の量を容易に調整し得る。
【0070】
<4.リチウムイオンキャパシタ2の製造方法について>
以下に詳細を説明するが、本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2は、上述した第1の実施の形態のS1~S9を含む製造方法(
図12参照)と実質的に同じ製造方法で製造できる。上述した様に、リチウムイオンキャパシタ2(
図19参照)は、セパレータ130と板状消火剤60とを備える点において、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1(
図3参照)と異なる。そのため本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2の製造方法は、上述した第1の実施の形態のS1~S9を含む製造方法(
図12参照)のうち、消火剤の加工の工程であるS2と、セパレータ130および消火剤が配置される工程であるS4とについて説明する。
【0071】
本実施の形態における消火剤を所定の形状に加工する工程(S2)は、消火剤をプレス成型などで板状にした板状消火剤60を作成する工程である。また、本実施の形態におけるリチウム金属、複数の正極板、複数の負極板、複数のセパレータが積層され、また、正極端子および負極端子が組付けられた積層体を作成する工程(S4)は、セパレータ30の代わりにセパレータ130を積層し、さらに、積層体に2つの板状消火剤60も加えられる。なお、本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2と、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1との差異は、消火剤およびセパレータの形態によるものであって、プレドープに用いるリチウム金属に関するものではない。従って、プレドープが化学的方法で行われる場合と、プレドープが電気化学的に行われる場合との差異は、上記の第1の実施の形態の場合と同様である。
【0072】
従って、リチウムイオンキャパシタ2の製造方法(S1~S9)は、積層体をラミネート部材50に内包する工程(S5)以降の工程で、製造中のリチウムイオンキャパシタ(蓄電デバイス)の難燃性を高めることができる。つまり、より安全にリチウムイオンキャパシタ2(蓄電デバイス)を製造できる。
【0073】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態の蓄電デバイスについて、
図21を用いて説明する。第3の実施の形態の蓄電デバイスは、リチウムイオンキャパシタ3である。なお、リチウムイオンキャパシタ3が第1の実施の形態に係るリチウムイオンキャパシタ1と実質的に同一の構成を有する場合、その構成に同一の符号を付して説明を省略する。
【0074】
<1.リチウムイオンキャパシタ3の構造(
図21)>
第1の実施の形態では、消火剤32は、セパレータ30に設けられていた。しかし、消火剤は、ラミネート部材50(密封体)の内部空間に設けられていればよい。本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3の模式的な断面を
図21に示した。本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3は、第1の実施の形態のセパレータシート31に相当するセパレータ130を有する(
図21参照)。また、リチウムイオンキャパシタ3は、積層された、正極10の複数の正極板11と、負極20の複数の負極板21と、複数のセパレータ130との外周を囲む包囲体70を有する。より詳しくは、包囲体70は、積層された複数の正極板11と複数の負極板21と複数のセパレータ130とを有する積層体の周囲を囲んでおり、積層体のZ軸方向の最上層と最下層とは負極板21である。なお、
図21では、わかりやすくするためにリチウムイオンキャパシタ3内における各部材の間に間隔を開けて図示している。しかし、実際には、正極板11と負極板21とセパレータ130とがほとんど隙間無く積層されている。
【0075】
包囲体70は、包囲体芯材71と、その両面に塗工された消火剤72とからなる。包囲体70は、第1の実施の形態のセパレータ30と同様の構成(
図8および
図9参照)を備える。すなわち、包囲体芯材71は第1の実施の形態のセパレータシート31を長くしたものに相当する。包囲体芯材71に塗工された消火剤72(不図示)は、第1の実施の形態の消火剤32と同じ成分のものを用いることができる。包囲体芯材71は、セパレータシート31と同じく、従来のリチウムイオンキャパシタのセパレータと同じものを用いることができる。例えば、包囲体芯材71は、ビスコースレイヨンや天然セルロース等の抄紙、ポリエチレンやポリプロピレン等の不織布などで構成される。
【0076】
ここで、消火剤72は、包囲体芯材71上に塗工されていればよい。消火剤72は、第1の実施の形態のセパレータシート31上に塗工された消火剤32と同様に、包囲体芯材71の片面に塗工されていてもよく、包囲体芯材71に部分的に塗工されていても良い。例えば、
図10のセパレータ30と同様に、包囲体芯材71の中心を除く外側に消火剤72を塗工してもよい。また、消火剤72は、包囲体芯材71の外側の一部に塗工してもよい。消火剤72は、包囲体芯材71上に複数の帯状やドット状に塗工してもよい。
【0077】
<2.リチウムイオンキャパシタ3の充放電の過程について(
図20、
図21)>
本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3(
図21参照)と、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1(
図3参照)とで、正極10と負極20との構成は同様である。また、リチウムイオンキャパシタ3のセパレータ130は、第1の実施の形態のセパレータシート31と同一である。リチウムイオンキャパシタ3の、正極10の正極板11と、負極20の負極板21と、セパレータ130と、電解液40との位置関係は、模式的には第2の実施の形態に係る位置関係と同様である(
図20参照)。正極板11と負極板21とは、セパレータ130を間に挟むように配置されている。リチウムイオンキャパシタ3は、正極板11の表面では、正極活物質と電解液40の陰イオンとで電気二重層を形成し、負極板21では、負極活物質にリチウムイオンLi
+を吸脱着することで充放電を行う。
【0078】
<3.リチウムイオンキャパシタ3の消火剤の効果について(
図12、
図21)>
リチウムイオンキャパシタ3は、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1と同様に、消火剤72がリチウムイオンキャパシタ3(蓄電デバイス)の充放電の過程へ大きな影響を及ぼすことなく、高い難燃性を有する。ここで、リチウムイオンキャパシタ3の消火剤72は、ラミネート部材50(密封体)の内部空間に設けられた包囲体70に設けられており、包囲体70は正極10の正極板11および負極20の負極板21を囲うように配置されている。そのため、消火剤72がリチウムイオンキャパシタ3(蓄電デバイス)の難燃性を効果的に高めることができる。
【0079】
<4.リチウムイオンキャパシタ3の製造方法について(
図21)>
本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3は、第1の実施の形態のS1~S9を含む製造方法(
図12参照)と実質的に同じ製造方法で製造できる。リチウムイオンキャパシタ3(
図21参照)は、セパレータ130と、消火剤72を備える包囲体70とを備える点において第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1(
図3参照)と異なる。そのため本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3の製造方法は、上述した第1の実施の形態のS1~S9を含む製造方法(
図12参照)のうち、消火剤の加工の工程であるS2と、セパレータ130および消火剤が配置される工程であるS4とについて説明する。
【0080】
消火剤を所定の形状に加工する工程(S2)では、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1のセパレータ30の作成方法と同様に、包囲体70を作成する。より詳しくは、上述したS1の正極板11の集電体12に正極活物質層13を塗工する方法と同様に、包囲体芯材71に消火剤72を塗工する。
【0081】
また、リチウム金属、複数の正極板、複数の負極板、複数のセパレータが積層され、また、正極端子および負極端子が組付けられた積層体を作成する工程(S4)は、組み付けるセパレータ30の代わりにセパレータ130を積層し、さらに、積層体に包囲体70を巻く工程を含める。なお、本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3と、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1との差異は、消火剤およびセパレータの形態によるものであって、プレドープに用いるリチウム金属に関するものではない。従って、プレドープが化学的方法に行われる場合と、プレドープが電気化学的に行われる場合との差異は、上記の第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1の製造方法S1~S9と同様に考えることができる。つまり、プレドープに用いられるリチウム金属箔は、正極板11及び負極板21と同様に包囲体70で囲われる。
【0082】
従って、この製造方法(S1~S9)は、積層体をラミネート部材50に内包する工程(S5)以降の工程で、製造中のリチウムイオンキャパシタ3(蓄電デバイス)の難燃性が高い。そのため、より安全にリチウムイオンキャパシタ3(蓄電デバイス)を製造できる。
【0083】
[その他の実施の形態]
本開示の蓄電デバイスは、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱することなく様々な変更が可能である。
【0084】
例えば、上記の実施の形態の蓄電デバイスはリチウムイオンキャパシタであるが、本開示の技術は、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出できる材料を用いた種々の蓄電デバイスに適用可能である。アルカリ金属としては、標準電極電位が-3.045Vであるリチウム、標準電極電位が-2.714Vであるナトリウム、標準電極電位が-2.925Vであるカリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属を利用する蓄電デバイスは、標準電極電位差が比較的大きくなるように負極に炭素材、正極にアルカリ金属酸化物等を備える。その具体例としては、リチウムイオン2次電池や、リチウムポリマー2次電池や、ナトリウムイオン2次電池や、カリウムイオン2次電池や、全固体電池等、種々の蓄電デバイスが挙げられる。リチウムイオンキャパシタ以外のアルカリ金属を利用する2次電池においても、長期間の使用等によりアルカリ金属のデンドライトが発生し、短絡発火の原因となる。そのため、本開示の技術はアルカリ金属イオンを利用する種々の蓄電デバイスに対して発火を抑制し、安全に保つことが可能である。
【0085】
また、消火剤を、上記の実施の形態の消火剤32、板状消火剤60、消火剤72の代わりに、粉末状の消火剤とし、電解液40内に分散させることができる。また、第1の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ1において、第2の実施の形態の板状消火剤60や、第3の実施の形態の包囲体70もしくは包囲体芯材71を加えてもよい。また、第2の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ2において、セパレータ130の代わりに第1の実施の形態のセパレータ30を用いてもよく、第3の実施の形態の包囲体70もしくは包囲体芯材71を加えてもよい。また、第3の実施の形態のリチウムイオンキャパシタ3において、セパレータ130の代わりに第1の実施の形態のセパレータ30を用いてもよく、第2の実施の形態の板状消火剤60を加えても良い。また、第1~3の実施の形態では、リチウムイオンキャパシタ1~3は、正極板11と負極板21とセパレータ30と積層した積層型セルであるが、長尺の正極と、長尺の負極と、長尺のセパレータを捲回した捲回型セルとすることができる。
【0086】
[実施例]
以下に、実施例を挙げて本開示の技術をさらに具体的に説明するが、本開示の技術はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【0087】
<消火剤の難燃化機能の試験(
図22)>
燃料成分Aとしてジシアンジアミド15質量%、酸化剤成分Bとして硝酸カリウム77質量%、有機塩成分Cとして酢酸カリウム8質量%を混合し、板状に成形した後に自然乾燥することで板状消火剤103を得た。以下では、リチウム金属箔を集気瓶101内で加熱した場合と、板状消火剤103とリチウム金属箔102とを集気瓶101内で加熱した場合とを比較し、消火剤の効果を調べた。なお、リチウム金属の自然発火温度(発火点)は約180℃であることが知られている。
【0088】
板状消火剤103とリチウム金属箔102とを集気瓶内101で加熱した場合は、
図22に示す様に加熱した。すなわち、加熱炉100内に集気瓶101を設置した。そして、板状に押し固めた板状消火剤103と、リチウム金属箔102とを、集気瓶101に入れた。また、リチウム金属箔102の温度を計測できるように、温度計104の温度計測部がリチウム金属箔102に触れるよう温度計104を設置した。そして、加熱炉内の温度を上昇させた。その結果、リチウム金属箔102の温度が280℃にまで上昇しても、リチウム金属箔102は発火しなかった。これは、板状消火剤103の温度が150℃以上になると、消火作用をもつカリウムラジカルを含む白煙(エアロゾル)が生じ、このカリウムラジカルによりリチウム金属箔102の発火が抑制されたためと考えられる。
【0089】
次に、リチウム金属箔を集気瓶101内で加熱した場合は、上述した
図22に示す状態から、板状消火剤103を除き、加熱炉100内の温度を上昇させた。その結果、リチウム金属箔の温度が182℃の時にリチウム金属箔が発火した。以上の様に、リチウム金属箔の周囲に消火剤が存在する場合は、消火剤によってリチウム金属箔の発火が抑制された。
【0090】
<リチウムイオンキャパシタの作成>
[正極の作成]
まず、正極活物質として粉体の活性炭88質量部、バインダとしてポリアクリル酸(ポリアクリル酸のナトリウム中和塩)6質量部、導電助剤としてアセチレンブラック15質量部、溶媒として水345質量部を用いて正極活物質を含む正極用スラリーAを調製した。
【0091】
バインダとしてポリアクリル酸を用いた正極用スラリーAは、以下の手順にて調製した。
(1)全ての材料と水とを、ミキサーa(株式会社シンキー製あわとり練太郎ARE-310)にて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーb(プライミクス株式会社製フィルミックス40-L)にて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーを再度ミキサーaで混合して正極用スラリーAを調製した。
【0092】
次に、集電箔として厚み15μmのアルミニウム箔(多孔箔)を用い、正極用スラリーAをそれぞれ集電箔に塗工し、乾燥させて正極Aを作成した。正極用スラリーAの塗布量は、乾燥後の活性炭の質量が3mg/cm2となるように調整した。集電箔への正極用スラリーAの塗工には、ブレードコーターやダイコーターを用いた。
【0093】
[負極の作成]
まず、負極活物質としてのグラファイト95質量部、バインダとしてのSBR1質量部、増粘材としてのCMC1質量部、溶媒としての水100質量部を混合し、以下の手順にて負極用スラリーを調製した。
(1)バインダを除く材料と水とを、ミキサーaにて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーbにて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーにバインダを添加し、ミキサーaにて混合して負極用スラリーを調製した。
【0094】
次に、集電箔として厚み10μmの銅箔(多孔箔)を用い、負極用スラリーを集電箔に塗工し、乾燥させて負極を作成した。負極用スラリーの塗布量は、乾燥後のグラファイトの質量が3mg/cm2となるように調整した。集電箔への負極用スラリーの塗工には、ブレードコーターを用いた。
【0095】
[電解液の調製]
溶媒として、エチレンカーボネート(EC)30vol%、ジメチルカーボネート(DMC)30vol%及びエチルメチルカーボネート(EMC)40vol%の混合溶媒を用いた。混合溶媒にリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L添加して電解液Iを調製した。
【0096】
[包囲体の作成]
燃料成分Aとしてジシアンジアミド15質量%、酸化剤成分Bとして硝酸カリウム77質量%、有機塩成分Cとして酢酸カリウム8質量%を混合し、消火剤を調製した。消火剤の電解液Iに対するハンセン溶解度パラメータに基づくRED値を算出したところ、1より大きいことが確認できた。この消火剤を厚さ20μmのセルロースの両面に塗布し、自然乾燥して包囲体を形成した。
【0097】
[リチウムイオンキャパシタの組立]
試験例1,2のリチウムイオンキャパシタを、次の手順にて作製した。
(1)正極、負極をそれぞれ打ち抜き、60mm×40mmのサイズの長方形とし、40mm×40mmの塗膜を残して長辺の一端側の20mm×40mmの領域の塗膜を剥ぎ落として集電用タブを取り付けた。
(2)厚さ20μmのセルロース製セパレータを間に介した状態で正極と負極の塗膜部分を対向させて積層体を作製した。
(3)(2)で作製した積層体と、リチウムプレドープ用の金属リチウム箔を包囲体で囲み、アルミラミネート箔に内包し、電解液を注入し、封止して試験例1のリチウムイオンキャパシタを作製した。
なお、試験例2のリチウムイオンキャパシタは、上記(3)において消火剤が塗布されていない厚さ20μmのセルロースを包囲体として用いて作成した。
【0098】
<加熱試験>
リチウムイオンキャパシタを加熱炉内で加熱した。その結果、試験例1のリチウムイオンキャパシタは消火剤を備えるため、210℃でも発火しなかった。一方、試験例2のリチウムイオンキャパシタは、消火剤を備えないため183℃で発火した。
【0099】
<内部抵抗>
リチウムイオンキャパシタのプレドープ、充放電、エージングを行った。その後、常温(25℃)にて、カットオフ電圧:2.2~3.8V、測定電流10Cでリチウムイオンキャパシタの内部抵抗を測定し、その内部抵抗比を求めた。内部抵抗比は、試験例2を100%とすると、試験例1は98.1%であった。試験例1と試験例2との間で内部抵抗に有意な差はみられず、消火剤がキャパシタの性能を低下させることがなかった。
【0100】
<釘刺し試験>
リチウムイオンキャパシタに釘を刺し、発火等の有無を観察すると共に、表面温度を測定した。3mm径の釘を80mm/秒の速度でリチウムイオンキャパシタに刺した。釘を刺した位置は、リチウムイオンキャパシタの高さ方向に平行な面積の大きい面における、2つの対角線が交差する位置である。釘を刺した位置から集電用タブ側と反対側へ10mmの位置の温度を、釘を刺した時点から1時間測定した。
【0101】
釘刺し試験の結果、試験例1は、表面温度の最高値が146℃であり、発火もしなかった。試験例2は、表面温度の最高値が332℃であり、釘を刺した直後にリチウムイオンキャパシタが爆発した。試験例1のリチウムイオンキャパシタは、消火剤を内包することにより難燃化機能を十分に発揮できた。試験例1は表面温度が146℃でも発火しなかったことから、85℃以上の高温環境でリチウムイオンキャパシタが正常に動作している状態で釘刺し試験や圧壊試験の状態(自動車事故など)に遭遇したとしても、発火しないで、安全な状態を保てると確認できた。
【0102】
<他のリチウムイオンキャパシタの作成>
リチウムイオンキャパシタの高温耐久性を調べるために、バインダ及び電解液を変更した複数のリチウムイオンキャパシタを以下の手順で作成した。なお、基本的な作成方法は上記試験例1と同じであるため、相違点のみを以下に示す。
【0103】
[正極の作成]
下記表1に示される組成にて正極活物質を含む正極用スラリーB及びCを調製した。増粘材としてカルボキシメチルセルロース〔CMC〕を用いた。表1における「SBR」は、スチレン-ブタジエンゴムを示し、「部」は質量部を示し、「%」は質量%を示す。
【0104】
【0105】
バインダとしてアクリル酸エステル又はSBRを用いた正極用スラリーBとCとは、以下の手順にて調製した。
(1)バインダを除く材料と水とを、ミキサーaにて混合してプレスラリーを調製した。
(2)(1)で得たプレスラリーを、ミキサーbにて更に混合して中間スラリーを調製した。
(3)(2)で得た中間スラリーにバインダを添加し、ミキサーaにて混合して正極用スラリーB又はCを調製した。
【0106】
次に、正極用スラリーBをそれぞれ集電箔に塗工し、乾燥させて正極Bを作成した。集電箔は厚み15μmのアルミニウム箔(多孔箔)である。正極用スラリーBの塗布量は、乾燥後の活性炭の質量が3mg/cm2となるように調整した。集電箔への正極用スラリーBの塗工には、ブレードコーターやダイコーターを用いた。同様に、正極用スラリーCを用いて正極Cを作成した。
【0107】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)30vol%、ジメチルカーボネート(DMC)30vol%及びエチルメチルカーボネート(EMC)40vol%の混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を添加して電解液Pを調製した。エチレンカーボネート(EC)30vol%、エチルメチルカーボネート(EMC)46.7vol%、ジエチルカーボネート(DEC)23.3vol%、プロピレンカーボネート(PC)10vol%の混合溶媒に、リチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI)を1mol/L添加して電解液I2を調製した。
【0108】
[リチウムイオンキャパシタの組立]
リチウムイオンキャパシタを、表2に示す正極及び電解液の組み合わせで作製した。表2には、各組合せにおいて、バインダを構成するポリマーの電解液に対するRED値も示す。なお、試験例3~6のリチウムイオンキャパシタは、消火剤が塗布された包囲体を内包する。
【0109】
【0110】
[初期性能の測定]
試験例1,3~6のリチウムイオンキャパシタのリチウムプレドープ、充放電、エージングを行った。その後、常温(25℃)にて、カットオフ電圧:2.2~3.8V、測定電流10Cで各リチウムイオンキャパシタの内部抵抗及び放電容量を測定し、その結果を初期性能とした。
【0111】
[耐久試験(85℃フロート試験)]
試験例1,3~6のリチウムイオンキャパシタを、外部電源を繋いで電圧を3.8Vに保持した状態で85℃の恒温槽内に放置した。その放置時間が、85℃,3.8Vフロート時間に相当する。所定時間経過後、リチウムイオンキャパシタを恒温槽から取り出し、常温に戻した後上記初期性能の測定と同一条件で内部抵抗及び放電容量を測定し、容量維持率(初期の放電容量を100%としたときの放電容量の百分比)と、内部抵抗増加率(初期性能からの内部抵抗の増加率)を算出した。その結果を表3に示す。
【0112】
【0113】
表3に示されるように、85℃の高温環境に放置した場合、電解質としてイミド系リチウム塩ではないフッ化リン酸リチウムを含む電解液を用いた試験例6では短時間で容量維持率が半減したのに対し、電解質としてイミド系リチウム塩を含む電解液を用いた試験例1,3~5では容量維持率が長時間高く保たれた。しかし、電解質としてイミド系リチウム塩を含む電解液を用いた場合でも、正極のバインダの構成により、内部抵抗増加率に差異があることが明らかとなった。そこで、正極のバインダを構成するポリマーの電解液に対するRED値(表2参照)を対比したところ、RED値が1以下であるアクリル酸エステルを用いた試験例4やSBRを用いた試験例5では内部抵抗増加率が高いことが判明した。これに対し、試験例1及び3では、電解質としてイミド系リチウム塩を含む電解液を用いるとともに、正極のバインダを構成するポリマーとして、電解液に対するRED値が1より大きいポリアクリル酸を用いている。この場合、正極のバインダを構成するポリマーが電解液に溶解しにくく、85℃の高温環境に放置しても容量維持率が高く保たれるとともに、内部抵抗増加率を小さく抑えられることが明らかになった。