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特許7375755陽電子放出核種で標識された脂肪酸誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】陽電子放出核種で標識された脂肪酸誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/52 20060101AFI20231031BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C07C323/52 CSP
G01T1/161 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020531374
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028380
(87)【国際公開番号】W WO2020017620
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018136483
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【弁理士】
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100158252
【弁理士】
【氏名又は名称】飯室 加奈
(74)【代理人】
【識別番号】100172546
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 路人
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【弁理士】
【氏名又は名称】川濱 周弥
(74)【代理人】
【識別番号】100191639
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 啓明
(72)【発明者】
【氏名】村上 佳裕
(72)【発明者】
【氏名】伏木 洋司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 優史
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/063216(WO,A1)
【文献】DEGRADO,T.R. et al.,Synthesis and preliminary evaluation of 18-18F-fluoro-4-thia-oleate as a PET probe of fatty acid oxi,Journal of Nuclear Medicine,2010年,Vol.51, No.8,p.1310-1317
【文献】CAI,Z. et al.,Synthesis and preliminary evaluation of an 18F-labeled oleic acid analog for PET imaging of fatty ac,Nuclear Medicine and Biology,2016年,Vol.43, No.1,p.108-115
【文献】PANDEY,M.K. et al.,Structure Dependence of Long-Chain [18F]Fluorothia Fatty Acids as Myocardial Fatty Acid Oxidation Pr,Journal of Medicinal Chemistry,2012年,Vol.55, No.23,p.10674-10684
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
G01T
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩。
【化14】
(式中、R1 ~ R3のいずれか一つが18Fであり、それ以外の二つはHである。また、Meはメチル基である。)
【請求項2】
R1がHである、請求項1に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩。
【請求項3】
標識脂肪酸誘導体が、3-{[(5Z)-3-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸である、請求項1に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩。
【請求項4】
標識脂肪酸誘導体が、3-{[(5Z)-2-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸である、請求項1に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩、及び製薬学的に許容される担体を含む、画像診断用組成物。
【請求項6】
心疾患の画像診断用組成物である、請求項5に記載の画像診断用組成物。
【請求項7】
心疾患が虚血性心疾患である、請求項6に記載の画像診断用組成物。
【請求項8】
心疾患の画像診断用組成物の製造のための、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
【請求項9】
心疾患の画像診断のための、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
【請求項10】
心疾患が虚血性心疾患である、請求項9に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
【請求項11】
心疾患の画像診断に使用するための、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩。
【請求項12】
心疾患が虚血性心疾患である、請求項11に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩。
【請求項13】
式(1i)で示される化合物又はその塩。
【化15】
(式中、R11 ~ R31のいずれか一つがスルホニル基又はハロゲンであり、それ以外の二つはHである。また、R’はH又は置換されていてもよい低級アルキル基であり、Meはメチル基である。)
【請求項14】
R’が低級アルキル基である、請求項13に記載の化合物又はその塩。
【請求項15】
R21スルホニル基又はハロゲンであり、R11及びR31がHである、請求項14に記載の化合物又はその塩。
【請求項16】
請求項13ないし15に記載の化合物又はその塩に、[18F]フッ化物イオンを反応させる工程を含む、請求項1ないし4に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項17】
請求項13ないし15に記載の化合物又はその塩を含んで成る、請求項5に記載の画像診断用組成物を作成するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出核種で標識された脂肪酸誘導体又はその塩に関する。更に、当該標識脂肪酸誘導体又はその塩を含む画像診断用組成物、並びにそれを作成するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は全身に血液を送るため大量のアデノシン三リン酸(ATP)を必要とし、その大部分はミトコンドリアでの酸化代謝により産生される。心筋では脂肪酸やグルコース等様々な基質が代謝されるが、酸素が心筋に行き渡った状態では、必要なATPの約60~90%が脂肪酸のβ酸化により産生される。一方、虚血状態においては酸化代謝の割合が低下し、嫌気代謝によるATP産生の割合が増加することが分かっている(Expert Rev. Cardiovasc. Ther. 2007;5(6):1123-1134.)。このため、心筋における脂肪酸代謝活性の定量は、心疾患の診断において有効な手段の一つである。
【0003】
この脂肪酸代謝活性の定量は、標識した長鎖脂肪酸誘導体を放射標識トレーサーとして用い、陽電子断層撮影法(PET)又は単一光子断層撮影法(SPECT)により行われる。SPECTに用いる放射標識トレーサーとしては、下式で示される15-(p-[123I]ヨードフェニル)-3(R,S)-メチルペンタデカン酸(以下、[123I]BMIPPと略記する。)が報告されており(非特許文献1)、実際に臨床において心疾患の診断に利用されている。
【0004】
【化1】
(式中、Meはメチル基を表す。以下同じ。)
【0005】
一方、PETに用いる放射標識トレーサーとしては、下式で示される16-[18F]フルオロ-4-チアヘキサデカン酸(16-[18F]フルオロ-4-チアパルミチン酸とも称され、以下、[18F]FTPと略記する。)が知られている(特許文献1)。
【0006】
【化2】
【0007】
同様にPETに用いる放射標識トレーサーとして、前記[18F]FTPに比して心臓への集積が改善した下式で示される3-{[(5Z)-14-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(18-[18F]フルオロ-4-チアオレイン酸とも称され、以下、[18F]FTOと略記する。)の報告がある(非特許文献2)。
【0008】
【化3】
しかしながら、トレーサーとしてSPECTによる画像診断に用いられている[123I]BMIPPは、感度及び解像度の低さが課題となっており、また、PETによる画像診断に用いられているトレーサーの[18F]FTPや[18F]FTOについても、前記[123I]BMIPPを用いたSPECTには優るものの、より正確な診断のために、更なる感度及び解像度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2000/063216号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Eur. J. Nucl. Med., 1989, 15, 341-345
【文献】J. Nucl. Med., 2010, 51(8), 1310-1317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
心臓への選択的集積性を有し感度及び解像度が向上した、心疾患の正確な診断を可能とする放射標識トレーサーの開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
公知のPETトレーサーである[18F]FTOを用いたPET画像では、心臓のみならず骨へも[18F]フッ素の集積が確認され、そのためにバックグラウンド値が上昇し、感度及び解像度の低下がみられた(例えば、図1並びに図2における[18F]FTOを用いたPET画像を参照)。そこで、骨への[18F]フッ素の集積が低減した標識脂肪酸誘導体を見出すべく、[18F]フッ素の置換位置を変えた後記参考例5及び6に記載する3-{[(5Z)-11-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(15-[18F]フルオロ-4-チアオレイン酸とも称し、以下、15-[18F]FTOと略記する。)及び3-{[(5Z)-13-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(17-[18F]フルオロ-4-チアオレイン酸とも称し、以下、17-[18F]FTOと略記する。)を製造して検討を行ったが、同様に骨への集積が見られるものであった(表6参照)。
【0013】
【化4】
【0014】
更なる検討において、長鎖脂肪酸の酸化代謝の経路には、β酸化とω酸化が存在し、ω酸化においては、脂肪酸はカルボキシル基より離れた末端側から代謝を受け、代謝の過程で[18F]フッ化物イオンが生成すること、並びに、[18F]フッ化ナトリウムが骨に集積性を有することから、[18F]FTOの代謝過程で生成した[18F]フッ化物イオンが骨への非特異的な集積の原因ではないかと推測するに至った。
【0015】
そこで、本発明者等は、代謝による[18F]フッ化物イオンの生成が起こりにくい標識脂肪酸誘導体の創製を目指して鋭意検討を行った結果、意外にも、3-{[(5Z)-テトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸の硫黄原子と二重結合の間の炭素原子上に[18F]フッ素が置換した式(I)に示される標識脂肪酸誘導体が、従来の[18F]FTOに比して、[18F]フッ素の骨への集積性が低く、心臓に選択的に集積し、心筋における脂肪酸代謝が感度良く画像化できる放射標識トレーサーとなり得ることを知見し、本発明を完成した。当該特定の置換位置に[18F]フッ素を導入したことにより、カルボキシル基より離れた末端側からのω酸化に対する代謝安定性が向上し、[18F]フッ化物イオンの生成が抑えられ、結果として骨への集積が低減されたものと推察される。
【0016】
即ち、本発明は、式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩に関する。
【化5】
(式中、R1 ~ R3のいずれか一つが18Fであり、それ以外の二つはHである。)
【0017】
なお、特に記載がない限り、本明細書中のある化学式中の記号が他の化学式においても用いられる場合、同一の記号は同一の意味を示す。
【0018】
また、本発明は、
(1) 前記式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩、及び製薬学的に許容される担体を含む画像診断用組成物、特に心疾患の画像診断用組成物、
(2) 心疾患の画像診断用組成物の製造のための、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用、
(3) 心疾患の画像診断のための、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用、
(4) 心疾患の画像診断に使用するための、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩、
(5) 式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩の検出可能量を対象に投与することからなる、心疾患の画像診断方法、
(6) 式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩に変換しうる中間体化合物又はその塩、
(7) (6)の中間体化合物又はその塩から式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩を製造する方法、及び、
(8) (6)の中間体化合物又はその塩を含んで成る、(1)の画像診断用組成物を作成するためのキットにも関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩は、公知の標識脂肪酸である[18F]FTOと比して、骨への集積に由来するバックグラウンド値の上昇がなく、心筋に対して良好な集積性を有し、PETによる脂肪酸代謝活性の画像化を可能とする。よって、本発明の式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩は、放射標識トレーサーとして、心疾患患者の分別、心疾患治療剤による治療効果の画像診断等に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例5において参考例4の化合物([18F]FTO)と実施例1の化合物(7-[18F]FTO)をそれぞれ正常カニクイザルに投与したPET画像である。[18F]FTOの投与60分後、及び240分後のPET画像を(A)及び(B)にそれぞれ示す。また、7-[18F]FTOの投与60分後、及び240分後のPET画像を(C)及び(D)にそれぞれ示す。
図2図2は、実施例6において参考例4の化合物([18F]FTO)と実施例1の化合物(7-[18F]FTO)をそれぞれ正常マウスに投与したPET画像である。[18F]FTO及び7-[18F]FTOの投与90分後のPET画像を(A)及び(B)にそれぞれ示す。
図3図3は実施例7において実施例1の化合物(7-[18F]FTO)を正常及び心筋梗塞モデルラットに投与したPET画像である。7-[18F]FTOの投与20分後の正常及び心筋梗塞モデルラットの心臓PET横断面画像を(A)及び(B)にそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩のある態様は、R1がHである標識脂肪酸誘導体又はその塩である。
【0023】
本発明の式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩のある態様は、下記の群から選択される標識脂肪酸誘導体、又はそれらの塩である。
(1) R118Fであり、R2及びR3がHである化合物、すなわち、3-{[(5Z)-4-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(8-[18F]フルオロ-4-チアオレイン酸とも称し、以下、8-[18F]FTOと略記する。)
(2) R218Fであり、R1及びR3がHである化合物、すなわち、3-{[(5Z)-3-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(7-[18F]フルオロ-4-チアオレイン酸とも称し、以下、7-[18F]FTOと略記する。)
(3) R318Fであり、R1及びR2がHである化合物、すなわち、3-{[(5Z)-2-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(6-[18F]フルオロ-4-チアオレイン酸とも称し、以下、6-[18F]FTOと略記する。)
【0024】
本発明の式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩は、放射標識トレーサーとしてPET等の画像診断に使用される。本発明の標識脂肪酸誘導体は、生体内で心筋へ集積性を有し、PET及び同様の画像化方法によるその脂肪酸代謝活性の画像化を可能にするものであり、心疾患、特には虚血性心疾患の画像診断に使用できる。小動物試験においてはin vivoでの画像診断手段として、小動物用PETシステムに加えて、断層像ではなく平面集積画像を取得する装置Planar Positron Imaging System (PPIS)にも使用することができる。更には、摘出臓器の切片における画像解析手段であるオートラジオグラフィーや、ガンマカウンターを用いた摘出臓器における集積性の評価にも利用できる。
【0025】
本発明の標識脂肪酸誘導体に使用される陽電子放出核種は、18Fである。
一般的には、18Fはサイクロトロンと呼ばれる装置により産生される。産生された18Fを用いて、式(I)の化合物を標識することができる。使用する施設内などに設置された(超)小型サイクロトロンから所望の核種を得て、当該分野において公知の方法により本発明の式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩を製造し、画像診断用組成物を作製することができる。
【0026】
本発明の式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩は、不斉中心を有する場合があり、これに基づくエナンチオマー(光学異性体)が存在し得る。式(I)の化合物又はその塩は、単離された個々の(R)体、(S)体などのエナンチオマー、それらの混合物(ラセミ混合物又はラセミでない混合物を含む)のいずれも包含する。
【0027】
また、本発明の式(I)の標識脂肪酸誘導体は、条件によっては塩を形成する場合があり、本発明にはこれらの塩も包含される。ここに、塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0028】
更に、本発明の式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩は、水和物や溶媒和物及び結晶多形の物質として提供される場合もあり、本発明はこれらを包含する。
【0029】
本発明は、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩に変換しうる中間体化合物又はその塩を含む。「式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩に変換しうる中間体化合物」とは、例えば、下式(1i)で示される化合物が挙げられる。別の態様としては、当該(1i)で示される化合物の前駆体である下式(1h)で示される化合物が挙げられる。
【化6】
(式中、Y1~Y3のいずれか一つがOHであり、それ以外の二つはHである。R11~R31のいずれか一つが脱離基であり、それ以外の二つはHである。また、R'はH又は置換されていてもよい低級アルキル基である。以下同じ。)
【0030】
また、本発明は、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩に変換しうる中間体化合物又はその塩に、[18F]フッ化物イオンを反応させる工程を含む、式(I)の標識脂肪酸誘導体またはその塩の製造方法を包含する。
【0031】
更に、本発明は、少なくとも、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩に変換しうる中間体化合物又はその塩を含む、画像診断用組成物を作成するためのキットを包含する。本発明のキットのある態様としては、本発明の標識脂肪酸誘導体の迅速な合成のためのキットである。当該キットは、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩に変換しうる中間体化合物又はその塩と、18F標識するための試薬とを含む、画像診断用組成物を作成するためのキットを包含し、所望により、他の試薬や溶媒等をも含むキットであり、必要時に本発明の画像診断用組成物を作製するために使用できる。また、キットには、当該分野で公知のような、反応容器、反応容器に同位体物質を移すための装置、生成物を過剰の反応物から分離するための前もって充填された分離カラム、遮蔽物等のような、器具類をも含み得る。
【0032】
本明細書中、「18F標識するための試薬」とは、[18F]フッ化物イオンを含む試薬であり、例えば、[18F]TBAF、[18F]KF等である。
【0033】
本明細書において「置換されていてもよい」とは、無置換又は1以上の任意の置換基が結合していることを意味する。
【0034】
「低級アルキル」とは、直鎖又は分枝状の炭素数が1~6(以下、C1-6とも表される)のアルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。ある態様としてはC1-4アルキルであり、ある態様としてはメチル、エチル又はt-ブチルであり、ある態様としてはメチルである。
【0035】
「脱離基」とは、求核置換反応により脱離する置換基を意味し、例えばスルホニル基やハロゲンを含むがこれに限られない。スルホニル基の例としてはp-トルエンスルホニルオキシ基、p-ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基及びトリフルオロメタンスルホニルオキシ基等が挙げられ、ある態様としては、p-トルエンスルホニルオキシ基又はp-ニトロベンゼンスルホニルオキシ基である。ハロゲンの例としてはCl、Br及びI等が挙げられ、ある態様としてはBrである。
【0036】
本発明の具体的態様としては、以下が挙げられる。
(1-1)式(I)で示される標識脂肪酸誘導体又はその塩。
(1-2)R1がHである、前記(1-1)に記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩。
(1-3)7-[18F]FTO又はその塩。
(1-4)6-[18F]FTO又はその塩。
(2) 前記(1-1)~(1-4)のいずれかに記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩、及び製薬学的に許容される担体を含む、画像診断用組成物。
(3) 心疾患の画像診断用組成物である、(2)に記載の画像診断用組成物。
(4) 心疾患が虚血性心疾患である、(3)に記載の画像診断用組成物。
(5) 心疾患の画像診断用組成物の製造のための、前記(1-1)~(1-4)のいずれかに記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
(6) 心疾患が虚血性心疾患である、(5)に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
(7) 心疾患の画像診断のための、前記(1-1)~(1-4)のいずれかに記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
(8) 心疾患が虚血性心疾患である、(7)に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩の使用。
(9) 心疾患の画像診断に使用するための、前記(1-1)~(1-4)のいずれかに記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩。
(10) 心疾患が虚血性心疾患である、(9)に記載の標識脂肪酸誘導体又はその塩。
(11) 前記(1-1)~(1-4)のいずれかに記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩の検出可能量を対象に投与することからなる、心疾患の画像診断方法。
(12) 心疾患が虚血性心疾患である、(11)に記載の画像診断方法。
(13-1)式(1i)で示される化合物又はその塩。
(13-2)R'が低級アルキル基である、前記(13-1)に記載された化合物又はその塩。
(13-3)低級アルキル基がメチル、エチル又はt-ブチルである、前記(13-2)に記載された化合物又はその塩。
(13-4)低級アルキル基がメチルである、前記(13-2)に記載された化合物又はその塩。
(13-5)R21が脱離基であり、R11及びR31がHである、前記(13-1)~(13-4)のいずれかに記載された化合物又はその塩。
(13-6)脱離基がp-トルエンスルホニルオキシ基、p-ニトロベンゼンスルホニルオキシ基又はブロモ基である、前記(13-2)~(13-5)のいずれかに記載された化合物又はその塩。
(13-7)脱離基がp-トルエンスルホニルオキシ基である、前記(13-2)~(13-5)のいずれかに記載された化合物又はその塩。
(13-8)脱離基がp-ニトロベンゼンスルホニルオキシ基である、前記(13-2)~(13-5)のいずれかに記載された化合物又はその塩。
(13-9)脱離基がブロモ基である、前記(13-2)~(13-5)のいずれかに記載された化合物又はその塩。
(14) 前記(13-1)~(13-9)のいずれかに記載された化合物又はその塩に、[18F]フッ化物イオンを反応させる工程を含む、前記(1-1)~(1-4)のいずれかに記載された標識脂肪酸誘導体又はその塩の製造方法。
(15) 前記(13-1)~(13-9)のいずれかに記載された化合物又はその塩を含んで成る、前記(2)~(4)のいずれかに記載された画像診断用組成物を作成するためのキット。
【0037】
(製造法)
式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩は、その基本構造あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料から中間体へ至る段階で適当な保護基(容易に当該官能基に転化可能な基)に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような保護基としては、例えば、ウッツ(P. G. M. Wuts)著「Greene's Protective Groups in Organic Synthesis(第5版、2014年)」に記載の保護基等を挙げることができ、これらの反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行ったあと、必要に応じて保護基を除去することにより、所望の化合物を得ることができる。
【0038】
以下、式(I)の標識脂肪酸誘導体又はその塩の代表的な製造法を説明する。各製法は、当該説明に付した参考文献を参照して行うこともできる。なお、本発明の製造法は以下に示した例には限定されない。
【0039】
なお、本明細書において、以下の略号を用いることがある。
AlkylFluor(商標)=1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)-2-フルオロイミダゾリウムテトラフルオロボラート、DBU=1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、EtOAc=酢酸エチル、HMPA=ヘキサメチルリン酸トリアミド、MeCN=アセトニトリル、MeOH=メタノール、Nos=p-ニトロベンゼンスルホニル、Ph=フェニル、TBAF=フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、TBDMS=t-ブチルジメチルシリル、TBDPS=t-ブチルジフェニルシリル、TFA=トリフルオロ酢酸、THF=テトラヒドロフラン、THP=テトラヒドロピラン-2-イル、Ts=p-トルエンスルホニル。
【0040】
(第一工程)
【化7】
(式中、X1、X2、X3のいずれか一つがOPg2であり、それ以外の二つはHである。ここに、Pg1、Pg2はそれぞれ保護基を示す。保護基としては、例えば、TBDMS、TBDPS、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、メトキシメチル、1-エトキシエチル、[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メチル、THP、p-メトキシベンジルが挙げられ、ある態様としては、TBDMS、TBDPS、THPである。以下同様。)
【0041】
化合物(1c)は、化合物(1a)及び化合物(1b)から製造できる。
本反応は、反応に不活性な溶媒中、塩基の存在下、-78℃から室温で、通常0.1時間~3日間攪拌する。ここに、溶媒としては、例えば、THF、1,4-ジオキサン、HMPA等及びそれらの混合物が挙げられる。塩基としては、例えば、カリウムヘキサメチルジシラジド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0042】
(第二工程)
【化8】
【0043】
化合物(1d)は、化合物(1c)の保護基Pg1を脱保護することにより製造することができる。脱保護は当業者に周知の方法を用いて行うことができ、例えば、反応に不活性な溶媒中、フッ素試薬、又は、酸の存在下、-78℃から室温で、通常0.1時間~3日間攪拌することにより行うことができる。ここに、フッ素試薬としては、TBAF、ピリジンフッ化水素酸等が挙げられ、このとき、酢酸を添加してもよい。酸としては、例えば、塩酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0044】
(第三工程)
【化9】
【0045】
化合物(1e)は、化合物(1d)の水酸基をヨウ素化反応によりヨウ素に変換することで製造することができる。
ヨウ素化反応は、化合物(1d)とヨウ素を、反応に不活性な溶媒中、トリフェニルホスフィン及び塩基の存在下、氷冷下~室温で、通常0.1時間~3日間攪拌することにより行う。ここに、塩基としては、例えば、イミダゾール、トリエチルアミン等が挙げられる。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、THF等が挙げられる。
【0046】
(第四工程)
【化10】
(式中、R'はH又は置換されていてもよい低級アルキル基を示す。以下同様。)
【0047】
化合物(1g)は、化合物(1e)及び化合物(1f)から製造することができる。
本反応は、反応に不活性な溶媒中、化合物(1e)及び化合物(1f)を塩基の存在下、氷冷~室温で、0.1時間~3日間攪拌することにより行う。ここに、溶媒としては、例えば、THF、1,4-ジオキサン等が挙げられる。塩基としては、例えば、水素化ナトリウム、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0048】
(第五工程)
【化11】
(式中、X1がOPg2のときY1はOHであり、X1がHのときY1はHである。X2がOPg2のときY2はOHであり、X2がHのときY2はHである。X3がOPg2のときY3はOHであり、X3がHのときY3はHである。以下同様。)
【0049】
化合物(1h)は、化合物(1g)の保護基Pg2を脱保護することにより製造することができる。脱保護は、第二工程と同様にして行うことができる。
【0050】
(第六工程)
【化12】
(式中、Y1がOHのときR11は脱離基であり、Y1がHのときR11はHである。Y2がOHのときR21は脱離基であり、Y2がHのときR21はHである。Y3がOHのときR31は脱離基であり、Y3がHのときR31はHである。)
【0051】
化合物(1i)は、化合物(1h)の水酸基を脱離基に変換することにより製造することができる。
脱離基がスルホニル基のとき、本反応は、反応に不活性な溶媒中、化合物(1h)及びスルホニル化剤を、塩基の存在下、氷冷~室温で、通常0.1時間~3日間攪拌する。ここに、スルホニル化剤としては、例えば、塩化(p-トルエンスルホニル)、塩化(p-ニトロベンゼンスルホニル)、塩化(メタンスルホニル)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等が挙げられる。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、THF等が挙げられる。塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられる。このとき、トリメチルアミン塩酸塩を添加してもよい。
【0052】
また、脱離基がハロゲンのとき、本反応は、反応に不活性な溶媒中、トリフェニルホスフィンの存在下、化合物(1h)及びハロゲン化剤を、氷冷~室温で、通常0.1時間~3日間攪拌する。ここに、ハロゲン化剤としては、例えば、四臭化炭素、ヨウ素等が挙げられる。溶媒としては、例えば、四塩化炭素、ジクロロメタン、THF等が挙げられる。このとき、イミダゾール、トリエチルアミン等の塩基を添加してもよい。
【0053】
(第七工程)
【化13】
(式中、R11が脱離基のときR118Fであり、R11がHのときR1はHである。R21が脱離基のときR218Fであり、R21がHのときR2はHである。R31が脱離基のときR318Fであり、R31がHのときR3はHである。)
【0054】
(第七工程-1)
化合物(1j)は、例えば、化合物(1i)と、当業者によく知られた方法によりサイクロトロンより産生させた陽電子放出核種18Fを含む試薬である、[18F]フッ化物イオン水溶液、[18F]フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム([18F]TBAF)、[18F]KF等を加熱下、反応させることにより製造することができる。
【0055】
(第七工程-2)
化合物(I)は、化合物(1j)より当業者によく知られた方法で製造することができ、例えば、反応に不活性な溶媒中、塩基水溶液の存在下、氷冷~110℃で、通常0.1時間~3日間攪拌することにより行うことができる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なお、R'がHであるとき、第七工程-2は省略される。
【0056】
このようにして製造された式(I)の化合物又はその塩の単離・精製は、抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等の通常の化学操作を適用して行われる。
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより製造でき、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、ラセミ体の一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化や、キラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により得られ、また、適当な光学活性な原料化合物から製造することもできる。
【0057】
本発明の画像診断用組成物は、前記標識脂肪酸誘導体を少なくとも1つの製薬学的に許容される担体と組み合わせることにより製造することができる。本発明の画像診断用組成物は、静脈内投与に適した剤型であることが好ましく、例えば、静脈内投与のための注射剤である。ここに注射剤としては、無菌の水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を含有するものが挙げられる。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(商品名)等がある。このような組成物は、更に等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。ある態様としては、本発明の画像診断用組成物は、静脈内投与用の注射剤である。別の態様としては、水性の液剤である。
【0058】
本発明の画像診断用組成物は、使用する撮影法(PET等)、疾患の種類、患者の年齢・状態、検査部位、画像化の目的によって投与量を調整して使用できる。本発明の画像診断用組成物は、検出可能な量の標識脂肪酸誘導体を包含する必要があるが、患者の被曝量については十分に注意を要する必要がある。例えば、18Fにより標識された本発明の画像診断用組成物の放射能量としては、約1.85~740メガベクレル(MBq)程度であり、ある態様としては、約1.85~37 MBqであり、また別の態様としては、約37~740 MBqである。これを1回もしくは複数回に分けて投与するか、持続的に点滴投与する。
【実施例
【0059】
以下、実施例に基づき、本発明の標識脂肪酸誘導体の製造法並びにその効果を更に詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の化合物に限定されるものではない。
【0060】
また、実施例、参考例及び後記表中において、以下の略号を用いることがある。
Ex:実施例番号(枝番は、当該化合物が、実施例中の第何工程の結果得られたかを示す。例えば、実施例番号がEx1-3である化合物は実施例1の第三工程で得られた化合物であることを意味する)、Ref:参考例番号、Str:化学構造式、DAT:物理化学的データ、ESI+:質量分析におけるm/z値(イオン化法ESI、断りのない場合[M+H]+)、ESI-:質量分析におけるm/z値(イオン化法ESI、断りのない場合[M-H]-)、APCI/ESI+(イオン化法APCIとESIを同時に行う、断りのない場合[M+H]+)、CI+:質量分析におけるm/z値(イオン化法CI、断りのない場合[M+H]+)、NMR:CDCl3中の1H-NMRにおけるシグナルのδ値(ppm)、J:カップリング定数、s:一重線、d:二重線、t:三重線、m:多重線、Ci:放射能の単位キュリー(1 Ci = 3.7×1010 Bq)をそれぞれ示す。
【0061】
また、便宜上、濃度mol/LをMとして表す。例えば、1 M水酸化ナトリウム水溶液は1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液であることを意味する。
【0062】
実施例1
第一工程:窒素気流下、臭化ノニルトリフェニルホスホニウム(7.39 g)をTHF(190 mL)とHMPA (7.4 mL)の混合物に溶解し-78℃に冷却した。カリウムヘキサメチルジシラジド(1 M THF溶液、15.7 mL)を滴下した後、氷冷下1時間攪拌した。反応液を-78℃に冷却したのち5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-3-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタナール(2.47 g)のTHF(10 mL)溶液を滴下し、同温で3時間攪拌した。室温で14時間攪拌後、水を加えた。酢酸エチルと水を加え、有機層を分離し、飽和食塩水で洗浄したのち硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、2,2,9,9,10,10-ヘキサメチル-3,3-ジフェニル-5-[(2Z)-ウンデカ-2-エン-1-イル]-4,8-ジオキサ-3,9-ジシラウンデカン(2.93 g)を油状物質として得た。
【0063】
第二工程:2,2,9,9,10,10-ヘキサメチル-3,3-ジフェニル-5-[(2Z)-ウンデカ-2-エン-1-イル]-4,8-ジオキサ-3,9-ジシラウンデカン(2.94 g)をTHF(30 mL)と水(1.5 mL)の混合物に溶解し、室温でp-トルエンスルホン酸一水和物(96 mg)を加え、同温で20時間攪拌した。重曹水と酢酸エチルを加え、有機層を分離し、飽和食塩水で洗浄したのち硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、(5Z)-3-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-オール(2.29 g)を油状物質として得た。
【0064】
第三工程:窒素気流下トリフェニルホスフィン(2.57 g)にジクロロメタン(120 mL)を加えて溶解し、ヨウ素(2.49 g)、イミダゾール(0.83 g)を加え室温で10分間攪拌した。(5Z)-3-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-オール(2.29 g)のジクロロメタン(20 mL)溶液を加え、室温で1時間攪拌した。5%チオ硫酸ナトリウム水溶液(100 mL)を加え、有機層を分離したのち、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、t-ブチル{[(5Z)-1-ヨードテトラデカ-5-エン-3-イル]オキシ}ジフェニルシラン(2.61 g)を油状物質として得た。
【0065】
第四工程:窒素気流下3-スルファニルプロピオン酸メチル(0.59 mL)のTHF(470 mL)溶液を氷冷し、水素化ナトリウム(60%鉱油分散体、220 mg)を加えた。同温で15分間攪拌し、t-ブチル{[(5Z)-1-ヨードテトラデカ-5-エン-3-イル]オキシ}ジフェニルシラン(2.61 g)のTHF(20 mL)溶液を加えた。同温で15分間攪拌したのち、室温で24時間攪拌した。飽和食塩水を加え有機層を分離したのち、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、3-{[(5Z)-3-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(1.87 g)を油状物質として得た。
【0066】
第五工程:3-{[(5Z)-3-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(1.87 g)にTHF(36 mL)と酢酸(0.23 mL)を加え、室温でTBAF(1 M THF溶液、4 mL)を加えて10時間攪拌した。酢酸(0.45 mL)及びTBAF(1 M THF溶液、4 mL)を加え、更に20時間攪拌した。減圧下濃縮し、残渣を酢酸エチルに溶解した。得られた溶液を水で2回、重曹水で1回、飽和食塩水で1回洗浄したのち、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、3-{[(5Z)-3-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(0.31 g)を油状物質として得た。
【0067】
第六工程:窒素気流下3-{[(5Z)-3-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(150 mg)をジクロロメタン(3 mL)に溶解し、氷冷した。トリエチルアミン(0.16 mL)、トリメチルアミン塩酸塩(43 mg)を加えて攪拌し、塩化(p-トルエンスルホニル)(130 mg)を少しずつ加えた。同温で30分間攪拌し、水、クロロホルムを加え、クロロホルムで抽出した。有機層を塩酸水溶液(1 M)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥したのち減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、3-({(5Z)-3-[(4-メチルベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチル(148 mg)を油状物質として得た。
【0068】
第七工程:サイクロトロンから得られた[18F]フッ化物イオン水溶液をあらかじめコンディショニングしておいた陰イオン交換樹脂(Sep-Pak(登録商標) QMA)に吸着させた後、75 mM 炭酸水素テトラ-n-ブチルアンモニウム(0.27 mL)とMeCN(0.7 mL)の混合溶液にて溶出した。溶出液を140℃で減圧濃縮したのち、MeCN(1 mL)を加えて140℃で減圧濃縮を行った。再度MeCN(1 mL)を加え、120℃で減圧濃縮を行い、[18F]TBAFを得た。ここに3-({(5Z)-3-[(4-メチルベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチル(4 mg)のMeCN(0.8 mL)溶液を加え、130℃で10分間加熱した。反応液に0.2 M 水酸化カリウム水溶液(0.2 mL)を加え、110℃で4分間加熱した。反応液に75% MeCN水溶液(1.8 mL)と酢酸(25 μL)を加え、HPLCで精製した(0.005% TFA水溶液/0.005% TFA-0.05% D-α-トコフェロール-MeCN溶液(20:80), カラム: YMC-Pack Pro C18, S-5μm, 10×250 mm, 流速: 6 mL/min)。得られた3-{[(5Z)-3-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸分画に水(30 mL)を加え、Sep-Pak(登録商標) Light C18に通液し、35% エタノール水溶液(5 mL)で洗浄した。続いてエタノール(1 mL)で目的物を溶出したのち、0.5% Tween(登録商標) 80-saline(10 mL)を通液して先の溶出液と合わせ、無菌フィルターを通して3-{[(5Z)-3-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(7-[18F]FTO)を含む液剤を得た(22.6 - 37.2 mCi)。当該化合物の生成は、HPLCにおける保持時間が参考例1に示す非放射標識体と一致することにより確認した。
【0069】
実施例2
第一工程の出発原料となる5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-4-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタナールの合成法は参考例3に示す。
【0070】
第一工程:原料に5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-4-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタナールを用いる以外は実施例1の第一工程と同様にして、5-[(3Z)-ドデカ-3-エン-1-イル]-2,2,8,8,9,9-ヘキサメチル-3,3-ジフェニル-4,7-ジオキサ-3,8-ジシラデカンを得た。
【0071】
第二工程:原料に5-[(3Z)-ドデカ-3-エン-1-イル]-2,2,8,8,9,9-ヘキサメチル-3,3-ジフェニル-4,7-ジオキサ-3,8-ジシラデカンを用いる以外は実施例1の第二工程と同様にして、(5Z)-2-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-オールを得た。
【0072】
第三工程:原料に(5Z)-2-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-オールを用いる以外は実施例1の第三工程と同様にして、t-ブチル{[(5Z)-1-ヨードテトラデカ-5-エン-2-イル]オキシ}ジフェニルシランを得た。
【0073】
第四工程:原料にt-ブチル{[(5Z)-1-ヨードテトラデカ-5-エン-2-イル]オキシ}ジフェニルシランを用いる以外は実施例1の第四工程と同様にして、3-{[(5Z)-2-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを得た。
【0074】
第五工程:原料に3-{[(5Z)-2-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}テトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを用いる以外は実施例1の第五工程と同様にして、3-{[(5Z)-2-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを得た。
【0075】
第六工程:窒素気流下3-{[(5Z)-2-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル (94 mg)をジクロロメタン(5 mL)に溶解し氷冷した。トリフェニルホスフィン (112 mg)続いて四臭化炭素 (113 mg)を加えて1時間同温で攪拌した。水、クロロホルムを加え、クロロホルムで抽出し硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、無色オイルとして3-{[(5Z)-2-ブロモテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル (36 mg)を得た。
【0076】
第七工程:原料に3-{[(5Z)-2-ブロモテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを用いる以外は実施例1の第七工程と同様にして、3-{[(5Z)-2-[18F]フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(6-[18F]FTO)を含む液剤を得た(21.8 mCi)。当該化合物の生成は、HPLCにおける保持時間が参考例2に示す非放射標識体と一致することにより確認した。
【0077】
実施例3
7-[18F]FTOは、3-{[(5Z)-3-ブロモテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを中間体として用いても得ることができる。工程を以下に示す。
【0078】
第一工程:原料に3-{[(5Z)-3-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを用いる以外は実施例2の第六工程と同様にして、3-{[(5Z)-3-ブロモテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを得た。
【0079】
第二工程:原料に3-{[(5Z)-3-ブロモテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを用いる以外は実施例1の第七工程と同様にして、7-[18F]FTOを得た。
【0080】
実施例4
7-[18F]FTOは、3-({(5Z)-3-[(4-ニトロベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを中間体として用いても得ることができる。工程を以下に示す。
【0081】
第一工程:実施例1の第六工程と同様にして、ただし、スルホニル化剤として塩化(p-ニトロベンゼンスルホニル)を用い、トリメチルアミン塩酸塩を用いず、3-({(5Z)-3-[(4-ニトロベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを得た。
【0082】
第二工程:原料に3-({(5Z)-3-[(4-ニトロベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを用いる以外は実施例1の第七工程と同様にして、7-[18F]FTOを得た。
【0083】
実施例1と同様にして、ただし、原料として5-[(t-ブチルジメチルシリル)オキシ]-2-[(t-ブチルジフェニルシリル)オキシ]ペンタナールを用いて、8-[18F]FTOを製造し得る。
【0084】
各工程で得られた化合物の化学構造式と物理化学的データを表1~表3に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
参考例1
実施例1の標品として用いる、3-{[(5Z)-3-フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸を合成した。工程を以下に示す。
フッ化セシウム(69 mg)を減圧下150℃に加熱し2時間静置したのち放冷し、窒素置換してAlkylFluor(商標)(55 mg)を加え、減圧下120℃で1時間静置した。放冷したのちトルエン(1 mL)を加え、100℃で2時間攪拌した。放冷したのち3-{[(5Z)-3-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(30 mg)のトルエン(0.8 mL)溶液を加え、80℃で12時間攪拌した。得られた反応混合物をセライトろ過し、固体はクロロホルムで洗浄し、併せた濾液を減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製した。
得られた残渣にTHF(0.3 mL)とMeOH(0.9 mL)を加えて溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(1 M、0.3 mL)を室温で加え1時間攪拌した。塩酸水溶液(1 M)を加えて中和したのちクロロホルム、飽和食塩水を加え、クロロホルムで抽出し有機層を分離した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮して、3-{[(5Z)-3-フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(11 mg)を油状物質として得た。
【0089】
参考例2
実施例2の標品として用いる、3-{[(5Z)-2-フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸を合成した。工程を以下に示す。
3-{[(5Z)-2-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(50 mg)をトルエン(0.5 mL)に溶解し、室温でピリジン-2-スルホニルフルオリド(29 mg)とDBU(45 μL)を加え室温で終夜攪拌した。反応液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製した。
得られた残渣にTHF(0.5 mL)とMeOH(0.5 mL)を加えて溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(1 M、0.5 mL)を加え室温で30分間攪拌した。塩酸水溶液(1 M)を加えて中和したのち、酢酸エチルと飽和食塩水を加え抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残渣を水/MeCN溶液(20:80、1 mL)に溶解し、HPLCで精製した(0.005% TFA水溶液/MeCN(20:80)、カラム:YMC-Pack Pro C18, 10×250 mm, S-5 μm、流速:6 mL/min)。得られた目的物の分画を減圧下濃縮して液量を減らし、クロロホルム、飽和食塩水を加えて有機層を分離した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後減圧下濃縮し、3-{[(5Z)-2-フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸(6.1 mg)を油状物質として得た。
【0090】
参考例3
実施例2において6-FTOの出発原料として用いた5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-4-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタナールの合成法を以下に示す。
【0091】
第一工程:窒素気流下5-(ベンジルオキシ)-1-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}ペンタン-2-オール (5.0 g)をDMF (10 mL)に溶解し室温でイミダゾール(3.1 g)およびt-ブチルジフェニルシリルクロリド(5.9 mL)を加えた。72時間攪拌し、水、酢酸エチルを加えて分液し有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、油状物質として5-[3-(ベンジルオキシ)プロピル]-2,2,8,8,9,9-ヘキサメチル-3,3-ジフェニル-4,7-ジオキサ-3,8-ジシラデカン (8.28 g)を得た。
【0092】
第二工程:5-[3-(ベンジルオキシ)プロピル]-2,2,8,8,9,9-ヘキサメチル-3,3-ジフェニル-4,7-ジオキサ-3,8-ジシラデカン (7.09 g)をメタノール (140 mL)に溶解し10%Pd/C (1.49 g)を加えて水素置換し8時間攪拌した。その後、酢酸 (0.7 mL)を加えて一晩攪拌した。セライトろ過し、濾液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、油状物質として5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-4-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタン-1-オール (6.12 g)を得た。
【0093】
第三工程:5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-4-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタン-1-オール (2.94 g)をジクロロメタン (60 mL)に溶解し氷冷した。Dess-Martin試薬 (2.90 g)を加えて同温で1時間攪拌した。重曹水、チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて分液し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、油状物質として5-{[t-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-4-{[t-ブチル(ジフェニル)シリル]オキシ}ペンタナール (2.54 g)を得た。
【0094】
参考例4
J. Nucl. Med., 2010, 51(8), 1310-1317 記載の方法と同様の方法を用いて、[18F]FTOを得、実施例1の第七工程と同様にして液剤とした。
【0095】
参考例5
第一工程:9-ブロモノナン-4-オン(9.8 g)をEtOH(160 mL)に溶解し、氷冷した。水素化ホウ素ナトリウム(1.7 g)を少しずつ加えた後、室温で30分攪拌した。減圧下濃縮し、クロロホルムを加えた。有機層を水で洗浄したのち硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮して9-ブロモノナン-4-オール(10.23 g)を油状の粗生成物として得た。
【0096】
第二工程:9-ブロモノナン-4-オール(10.2 g)をジクロロメタン(200 mL)に溶解し、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(4.35 mL)及びp-トルエンスルホン酸ピリジニウム(1.15 g)を加え室温で24時間攪拌した。3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(3 mL)を加え、室温で16時間攪拌した。溶液を重曹水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥したのち減圧下濃縮した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n-ヘキサン)を用いて精製し、2-[(9-ブロモノナン-4-イル)オキシ]オキサン(11.26 g)を油状物質として得た。
【0097】
第三工程:2-[(9-ブロモノナン-4-イル)オキシ]オキサン(10.57 g)、トリフェニルホスフィン(8.58 g)及びMeCN (85 mL)を混合し、窒素雰囲気下14時間加熱還流した。溶液を濃縮し、臭化{6-[(オキサン-2-イル)オキシ]ノニル}トリフェニルホスファニウム(19.2 g)を油状の粗生成物として得た。
【0098】
第四工程:実施例1の第一工程と同様にして、t-ブチルジメチル({(5Z)-11-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}オキシ)シランを得た。
【0099】
第五工程:実施例1の第五工程と同様にして、(5Z)-11-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-オールを得た。
【0100】
第六工程:実施例1の第三工程と同様にして、2-{[(9Z)-14-ヨードテトラデカ-9-エン-4-イル]オキシ}オキサンを得た。
【0101】
第七工程:実施例1の第四工程と同様にして、3-({(5Z)-11-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを得た。
【0102】
第八工程:3-({(5Z)-11-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチル(0.48 g)をメタノール(25 mL)に溶解し、p-トルエンスルホン酸一水和物(200 mg)を加え室温で4時間攪拌した。減圧下濃縮し重曹水を加え、クロロホルムで3回抽出し有機層を分離した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥したのち減圧下濃縮し、3-{[(5Z)-11-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチル(0.43 g)を油状の粗生成物として得た。
【0103】
第九工程:実施例1の第六工程と同様にして、3-({(5Z)-11-[(4-メチルベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを得た。
【0104】
第十工程:実施例1の第七工程と同様にして、15-[18F]FTOの液剤を得た。当該化合物の生成は、実施例1と同様に対応する非放射標識体(参考例7)との比較により確認した。
【0105】
参考例6
第一工程:参考例5の第三工程と同様にして、ただし、原料として2-[(9-ブロモノナン-2-イル)オキシ]オキサンを用いて、臭化{8-[(オキサン-2-イル)オキシ]ノニル}トリフェニルホスファニウムを得た。
【0106】
第二工程:実施例1の第一工程と同様にして、t-ブチルジメチル({(5Z)-13-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}オキシ)シランを得た。
【0107】
第三工程:実施例1の第五工程と同様にして、(5Z)-13-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-オールを得た。
【0108】
第四工程:実施例1の第三工程と同様にして、2-{[(9Z)-14-ヨードテトラデカ-9-エン-2-イル]オキシ}オキサンを得た。
【0109】
第五工程:実施例1の第四工程と同様にして、3-({(5Z)-13-[(オキサン-2-イル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを得た。
【0110】
第六工程:参考例5の第八工程と同様にして、3-{[(5Z)-13-ヒドロキシテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸メチルを得た。
【0111】
第七工程:実施例1の第六工程と同様にして、3-({(5Z)-13-[(4-メチルベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを得た。
【0112】
第八工程:実施例1の第七工程と同様にして、17-[18F]FTOの液剤を得た。当該化合物の生成は、実施例1と同様に対応する非放射標識体(参考例8)との比較により確認した。
【0113】
参考例7
J. Nucl. Med., 2010, 51(8), 1310-1317 記載の方法と同様の方法を用いて、ただし、原料として3-({(5Z)-11-[(4-メチルベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを用いて、3-{[(5Z)-11-フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸を得た。
【0114】
参考例8
J. Nucl. Med., 2010, 51(8), 1310-1317 記載の方法と同様の方法を用いて、ただし、原料として3-({(5Z)-13-[(4-メチルベンゼン-1-スルホニル)オキシ]テトラデカ-5-エン-1-イル}スルファニル)プロパン酸メチルを用いて、3-{[(5Z)-13-フルオロテトラデカ-5-エン-1-イル]スルファニル}プロパン酸を得た。
参考例1~8で得られた化合物の化学構造式と物理化学的データを表4及び表5に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
実施例5
正常カニクイザルを用いたPET試験
(実験方法)
正常カニクイザルを用いて、実施例1(7-[18F]FTO)、実施例2(6-[18F]FTO)、参考例4([18F]FTO)、参考例5(15-[18F]FTO)及び参考例6(17-[18F]FTO)において調製した各化合物を含む液剤を用いて心臓造影PET試験を実施した。
非侵襲的にPETイメージングを行うため、オスカニクイザルを吸入麻酔薬イソフルランにより麻酔を施した状態で、PETカメラSHR17000(浜松ホトニクス社製)に仰臥体位にて保持し、各化合物を含む溶液(約300 MBq)を下腿静脈より投与し、投与後180分または240分間の連続撮像を行った。PET画像はDRAMA (dynamic row-action maximum likelihood algorithm)にて再構成を行い20分毎の平均画像を取得した後、心筋領域又は骨(脊椎付近)に関心領域(ROI)を設定し、各化合物の集積(Standardized Uptake Value (SUV))を、{ROIにおける放射能カウント(MBq/cc)/〔投与量(MBq)/体重(g)〕}として算出した。
【0118】
(結果)
各化合物の心筋及び骨にROIを設定し定量したSUV値を、SUV(心筋)及びSUV(骨)として表6及び7に示す。なお、表中、実施例1は2例の平均を、参考例4は3例の平均±標準誤差を、実施例2、参考例5及び参考例6は1例の値をそれぞれ示し、画像上で対象臓器が確認できずROI設定が不可能であった場合はn.d.と、未測定の場合はn.t.と示す。また、参考例4([18F]FTO)及び実施例1(7-[18F]FTO)の化合物投与60分後、及び240分後のMIP (Maximum Intensity Projection: 最大値投影法)PET画像を図1に示す。
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
表6の結果から、参考例5(15-[18F]FTO)及び参考例6(17-[18F]FTO)の心筋への集積性は参考例4([18F]FTO)と比較してやや低下するが、実施例1(7-[18F]FTO)及び実施例2(6-[18F]FTO)の心筋への集積性は[18F]FTOより上昇していることが示された。
一方、表7の結果から、骨への非特異的集積は6-[18F]FTO、7-[18F]FTO、15-[18F]FTO及び17-[18F]FTO全てにおいて[18F]FTOと比較して同等又は低下しており、特に7-[18F]FTOにおいては骨への非特異的集積が全く検出されず、図1に示す通り心臓の良好なPET画像撮像を可能とすることが示された。
これらの結果から、特定の置換位置に18Fが置換した本発明実施例化合物が、良好な心臓集積性と骨への非特異的集積性の低減を両立できることが確認された。
【0122】
実施例6
正常マウスを用いたPET試験
(実験方法)
DBA2マウスを用いて、実施例1(7-[18F]FTO)、又は、参考例4([18F]FTO)の化合物を含む液剤を用いて全身造影PET試験を実施した。
非侵襲的にPETイメージングを行うため、オスDBA2マウスを吸入麻酔薬イソフルランにより麻酔を施した状態で、PETカメラInveon(シーメンス社製)に仰臥体位にて保持し、各化合物を含む溶液(約10 MBq)を尾静脈より投与し、投与90分後に5分間のPET撮像を行った。PET画像は再構成を行った後画像化処理を行った。投与120分後に心臓及び大腿骨を単離し、放射能量をガンマカウンター2480 WIZARD2(パーキンエルマー社製)により測定した。各化合物の集積(SUV)を、{対象臓器における放射能カウント(MBq/cc)/〔投与量(MBq)/体重(g)〕}として算出した。
【0123】
(結果)
投与90分後の全身PET画像を図2に示す。また、投与120分後の対象臓器中の放射能量を定量した各5例におけるSUV値(平均 ± 標準誤差)を表8に示す。
【0124】
【表8】
上記の表8の結果から、実施例1の化合物(7-[18F]FTO)は、参考例4の化合物([18F]FTO)と比較して良好な心臓への集積性、並びに、低い骨への非特異的集積性を有することが、摘出臓器を用いた測定によっても確認された。このことは、図2の全身MIP PET画像からも確認される。
【0125】
実施例7
冠動脈結紮処置による心筋梗塞モデルラットを用いたPET試験
(実験方法)
SDラットを用いて冠動脈結紮処置により心筋梗塞モデルを作成し、実施例1(7-[18F]FTO)の化合物を含む液剤を用いて胸部造影PET試験を実施した。
オスSDラットを用い未処置ラットあるいは心筋梗塞モデルラットに対し、吸入麻酔薬イソフルランにより麻酔を施した状態で、PETカメラInveon(シーメンス社製)に仰臥体位にて保持し、化合物を含む溶液(約10 MBq)を尾静脈より投与し、投与20分後に5分間のPET撮像を行った。PET画像は再構成を行った後画像化処理を行った。
【0126】
(結果)
未処置あるいは心筋梗塞モデルラットにおける化合物の心臓中心付近冠状断面PET画像を図3に示す。
【0127】
図3において、未処置ラット(A)では冠状断面像において楕円形の心臓を描出しているのに対し、心筋梗塞モデルラット(B)では、楕円形の心臓のうち一部においてシグナルが欠失していることが確認された。このシグナルの欠失は、冠動脈結紮による心筋梗塞により心筋代謝能不全が起こったことを示していると考えられ、本化合物が心筋梗塞に代表される心疾患の診断に有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の標識脂肪酸誘導体は、放射標識トレーサーとして、迅速かつ非侵襲的な、心疾患患者の分別、心疾患治療剤による治療効果の診断等に使用できる。
図1
図2
図3