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特許7375756エピスルフィド化合物および光学材料用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】エピスルフィド化合物および光学材料用組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 409/14 20060101AFI20231031BHJP
   C07D 407/14 20060101ALI20231031BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20231031BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20231031BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C07D409/14 CSP
C07D407/14
C08G59/32
G02B1/04
G02C7/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020532235
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025539
(87)【国際公開番号】W WO2020021953
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018138712
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】竹村 紘平
(72)【発明者】
【氏名】今川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-071580(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038654(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098718(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204080(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/098798(WO,A1)
【文献】特開2003-185820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 409/14
C07D 407/14
C08G 59/32
G02B 1/04
G02C 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物。
【化1】
(ただし、X、XはOまたはSを示し、
およびXがOであるか、または、XがOであり、XがSである。)
【請求項2】
下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物と下記式(2)で表されるエピスルフィド化合物とを含み、
前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物の含有量が0.001~5.0質量%である、光学材料用組成物。
【化2】
(ただし、X、XはOまたはSを示す)
【化3】
【請求項3】
式(2)で表されるエピスルフィド化合物の含有量が40~99.999質量%である、請求項2に記載の光学材料用組成物。
【請求項4】
前記光学材料用組成物に含まれる前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物中、前記式(1)においてXおよびXがOであるエピスルフィド化合物(B1)および前記式(1)においてXがOであり、XがSであるエピスルフィド化合物(B2)の合計の割合が、50質量%以上である、請求項2または3に記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
さらに1,2,3,5,6-ペンタチエパンを含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項6】
さらにポリチオールを含む、請求項2から5のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
さらに硫黄を含む、請求項2から6のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項8】
請求項2から7のいずれか一項に記載の光学材料用組成物に、重合触媒を光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%~10質量%添加し、重合硬化することを含む、光学材料の製造方法。
【請求項9】
請求項2から7のいずれか一項に記載の光学材料用組成物の重合硬化物を含む、光学材料。
【請求項10】
請求項9に記載の光学材料からなる光学レンズ。
【請求項11】
請求項2に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程を含む、方法。
【化4】
【請求項12】
請求項5に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物の混合物を得る工程と、前記混合物と1,2,3,5,6-ペンタチエパンを混合する工程と、を含む、方法。
【化5】
【請求項13】
請求項6に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程と、前記混合物と1,2,3,5,6-ペンタチエパンとポリチオールを混合する工程と、を含む、方法。
【化6】
【請求項14】
請求項7に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程と、前記混合物、1,2,3,5,6-ペンタチエパン、ポリチオールおよび硫黄を混合する工程と、を含む方法。
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエピスルフィド化合物に関し、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料、中でもプラスチックレンズに好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは軽量かつ靭性に富み、染色も容易である。プラスチックレンズに特に要求される性能は、低比重、高透明性および低黄色度、光学性能として高屈折率および高アッベ数、高耐熱性、高強度などである。高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高アッベ数はレンズの色収差を低減する。
近年、高屈折率と高アッベ数を目的として、硫黄原子を含有する有機化合物が数多く報告されている。中でも硫黄原子を含有するポリエピスルフィド化合物は屈折率とアッベ数のバランスが良いことが知られている(特許文献1~3)。また、ポリエピスルフィド化合物は様々な化合物と反応可能であることから、物性向上のため各種化合物との組成物が提案されている。(特許文献4~10)。
しかしながら、エピスルフィド化合物から生産されるプラスチックレンズにおいては、離型性が悪いために脱型時にレンズが欠けたり、反応の不均一化により、重合中にモールドから剥がれて必要な面精度が得られないという場合もあり、意匠性が重視される眼鏡レンズの要求特性に十分には達していない場合があった。また、エピスルフィド化合物を含む組成物は、重合硬化した際に透明性、脈理等が悪化することから、これらの改善も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-110979号公報
【文献】特開平09-071580号公報
【文献】特開平09-255781号公報
【文献】特開平10-298287号公報
【文献】特開2001-002783号公報
【文献】特開2001-131257号公報
【文献】特開2002-122701号公報
【文献】国際公開WO2014/38654号公報
【文献】国際公開WO2015/98718号公報
【文献】国際公開WO2017/098798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、重合効果した際の良好な離形性、剥がれ防止性、透明性、低レベルの脈理の少なくとも一つを向上し得る光学材料が求められている。
本発明の一つの態様においては、重合硬化した際、高度数のプラスレンズにおいて脱型時にレンズが欠ける離型不良や、高度数のマイナスレンズにおいてモールドから剥がれて必要な面精度が得られないハガレ不良による良品率低下を抑制しつつ、高い透明性、低レベルの脈理等の品質に優れた光学材料が得られるエピスルフィド化合物、および、光学材料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のエピスルフィド化合物、ならびにこれを含む光学材料用組成物により本課題を解決し、本発明に至った。
【0006】
例えば、本発明は以下の通りである。
[1] 下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物。
【化1】
(ただし、X、XはOまたはSを示し、
およびXがOであるか、または、XがOであり、XがSである。)
[2] 下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物と下記式(2)で表されるエピスルフィド化合物とを含み、
前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物の含有量が0.001~5.0質量%である、光学材料用組成物。
【化2】
(ただし、X、XはOまたはSを示す)
【化3】
[3] 式(2)で表されるエピスルフィド化合物の含有量が40~99.999質量%である、[2]に記載の光学材料用組成物。
[4] 前記光学材料用組成物に含まれる前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物中、前記式(1)においてXおよびXがOであるエピスルフィド化合物(B1)および前記式(1)においてXがOであり、XがSであるエピスルフィド化合物(B2)の合計の割合が、50質量%以上である、[2]または[3]に記載の光学材料用組成物。
[5] さらに1,2,3,5,6-ペンタチエパンを含む、[2]から[4]のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【0007】
[6] さらにポリチオールを含む、[2]から[5]のいずれかに記載の光学材料用組成物。
[7] さらに硫黄を含む、[2]から[6]のいずれかに記載の光学材料用組成物。
[8] [2]から[7]のいずれかに記載の光学材料用組成物に、重合触媒を光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%~10質量%添加し、重合硬化することを含む、光学材料の製造方法。
[9] [8]に記載の製造方法で得られる、光学材料。
[10] [9]に記載の光学材料からなる光学レンズ。
【0008】
[11] [2]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程を含む、方法。
【化4】
[12] [5]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物の混合物を得る工程と、前記混合物と1,2,3,5,6-ペンタチエパンを混合する工程と、を含む、方法。
【化5】
[13] [6]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程と、前記混合物と1,2,3,5,6-ペンタチエパンとポリチオールを混合する工程と、を含む、方法。
【化6】
[14] [7]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、
下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程と、前記混合物、1,2,3,5,6-ペンタチエパン、ポリチオールおよび硫黄を混合する工程と、を含む方法。
【化7】
【0009】
本発明の別の態様は以下の通りである。
[1a]下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物。
【化8】
(ただし、X、XはOまたはSを示す。)
【化9】
[2a] [1a]に記載の式(1)で表されるエピスルフィド化合物と下記式(2)で表されるエピスルフィド化合物とを含む光学材料用組成物。
【化10】
[3a] [1a]に記載の式(1)で表されるエピスルフィド化合物の含有量が0.001~5.0質量%である[2a]に記載の光学材料用組成物。
[4a] 式(2)で表される化合物の含有量が40~99.999質量%である、[2a]または[3a]に記載の光学材料用組成物。
[5a] さらに1,2,3,5,6-ペンタチエパンを含む[2a]から[4a]いずれかに記載の光学材料用組成物。
【0010】
[6a] さらにポリチオールを含む[2a]から[5a]いずれかに記載の光学材料用組成物。
[7a] さらに硫黄を含む[4a]から[6a]いずれかに記載の光学材料用組成物。
[8a] [2a]から[7a]いずれかに記載の光学材料用組成物に、重合触媒を光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%~10質量%添加し、重合硬化する光学材料の製造方法。
[9a] [8a]に記載の製造方法で得られる光学材料。
[10a] [9a]に記載の光学材料からなる光学レンズ。
【0011】
[11a] [2a]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させて式(1)で表されるピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物の混合物を得る工程を有する光学材料用組成物の製造方法。
【化11】
[12a] [5a]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させて式(1)で表されるピスルフィド化合物と式(2)で表されるピスルフィド化合物の混合物を得る工程と、1,2,3,5,6-ペンタチエパンを混合する工程と、を有する光学材料用組成物の製造方法。
【化12】
[13a] [6a]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させて式(1)で表されるピスルフィド化合物と式(2)で表されるピスルフィド化合物の混合物を得る工程と、1,2,3,5,6-ペンタチエパンとポリチオールを混合する工程と、を有する光学材料用組成物の製造方法。
【化13】
[14a] [7a]に記載の光学材料用組成物を製造する方法であって、下記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させて式(1)で表されるピスルフィド化合物と式(2)で表されるピスルフィド化合物の混合物を得る工程と、1,2,3,5,6-ペンタチエパン、ポリチオールおよび硫黄を混合する工程と、を有する光学材料用組成物の製造方法。
【化14】
【発明の効果】
【0012】
本発明により、重合効果した際の良好な離形性、剥がれ防止性、透明性、低レベルの脈理の少なくとも一つを向上し得る光学材料が提供され得る。
本発明の一形態によれば、高度数のプラスレンズにおいて脱型時にレンズが欠ける離型不良や高度数のマイナスレンズにおいてモールドから剥がれて必要な面精度が得られないハガレ不良による良品率低下を抑制しつつ、透明性および脈理等の品質に優れた光学材料が得られる光学材料組成物が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【0014】
本発明の一形態は、下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物(以下単に「エピスルフィド化合物(1)」ともいう)に関する。
また、本発明の他の一形態は、下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物と下記式(2)で表されるエピスルフィド化合物(以下単に「エピスルフィド化合物(2)」ともいう)とを含む光学材料用組成物、及びさらに必要に応じて下記式(2)で表される化合物と重合可能な化合物等(例えば後述する(c)化合物、(d)化合物、硫黄等)を含む光学材料用組成物に関する。
【0015】
【化15】
式(1)中、X、XはO(酸素原子)またはS(硫黄原子)を示す。
【0016】
特定の実施形態では、エピスルフィド化合物(1)は、式(1)において、XおよびXがOである(すなわち、X=X=Oである)か、または、XがOであり、XがSである(すなわち、X=OかつX=Sである)。
一実施形態では、式(1)において、XおよびXがOである(すなわち、X=X=Oである)。
エポキシ環を含有することで、急速な重合反応の進行が抑制されることにより、透明性に優れ、脈理が低減された重合体が得られる傾向にある。
【0017】
一実施形態においてエピスルフィド化合物(1)は、X=X=O、X=OかつX=S、およびX=X=Sの化合物の混合物であり、その割合は任意でもかまわない。
一実施形態では、エピスルフィド化合物(1)は、式(1)においてX=X=Oである化合物(以下「エピスルフィド化合物(B1)」ともいう)および式(1)においてX=OかつX=Sである化合物(以下「エピスルフィド化合物(B2)」ともいう)の少なくとも一つ、ならびに必要に応じて式(1)においてX=X=Sである化合物(以下「エピスルフィド化合物(B3)」ともいう)を含む。一実施形態では、エピスルフィド化合物(1)は、エピスルフィド化合物(B1)およびエピスルフィド化合物(B2)を含む。一実施形態では、エピスルフィド化合物(1)は、エピスルフィド化合物(B1)、エピスルフィド化合物(B2)、およびエピスルフィド化合物(B3)を含む。
【0018】
エピスルフィド化合物(1)が、エピスルフィド化合物(B1)、エピスルフィド化合物(B2)、および/またはエピスルフィド化合物(B3)の混合物である場合、その割合は特に限定されない。一実施形態において、エピスルフィド化合物(1)は、エピスルフィド化合物の全質量(100質量%)に対して、1~99質量%(好ましくは5~95質量%、より好ましくは10~99質量%)のエピスルフィド化合物(B1)、1~99質量%(好ましくは5~95質量%、より好ましくは10~90質量%)のエピスルフィド化合物(B2)、および0~95質量%(好ましくは5~95質量%、より好ましくは10~90質量%)のエピスルフィド化合物(B3)を含む。
また、エピスルフィド化合物(1)中に含まれる、エポキシ環の割合(エポキシ環とエピチオ環との合計個数に対するエポキシ環の個数の割合)は、50%以上が好ましく、51%以上がより好ましく、52%以上がさらに好ましい。
【0019】
【化16】
【0020】
本発明の一実施形態は、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物とを含む光学材料用組成物であり、光学材料用組成物中の前記式(1)で表される化合物(エピスルフィド化合物(1))の割合(含有量)は、光学材料用組成物の総量(100質量%)に対して、0.001~5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005~3.0質量%、特に好ましくは0.01~1.0質量%である。式(1)で表される化合物が0.001質量%を下回ると十分な効果(高透明性や脈理低減)が得られない場合があり、5.0質量%を超えると離型性が悪化する場合がある。また、本発明の一実施形態の光学材料用組成物中の前記式(2)で表される化合物(エピスルフィド化合物(2))の割合(含有量)は、光学材料用組成物の総量(100質量%)に対して、40~99.999質量%であることが好ましく、より好ましくは50~99.995質量%であり、特に好ましくは60~99.99質量%である。40質量%以上であれば、エピスルフィド化合物の優れた光学特性が得られる傾向にある。
エピスルフィド化合物(1)をエピスルフィド化合物(2)と混合することにより上記のような優れた効果(例えば透明性、低レベルの脈理、剥離防止性、離型性)が得られる理由は定かではないが、重合反応の進行を穏やかにするためであると推測している。
【0021】
好ましい一実施形態において、前記光学材料用組成物に含まれる前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物(1)中、前記式(1)においてXおよびXがOであるエピスルフィド化合物(B1)および前記式(1)においてXがOであり、XがSであるエピスルフィド化合物(B2)の合計の割合が、50質量%以上(より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上)である。一実施形態において、前記光学材料用組成物に含まれる前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物中、前記式(1)においてXおよびXがOであるエピスルフィド化合物(B1)の割合が、10質量%以上(より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上)である。
【0022】
以下、上記式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物の製造方法について説明するが、製造方法は特に限定されない。式(1)及び式(2)で表される化合物は、下記式(3)で表されるエポキシ化合物を、チオ尿素と反応させて得ることが出来る。
【化17】
なお、式(3)で表されるエポキシ化合物をチオ尿素と反応させて式(1)で表される化合物を得る際に、反応を途中で中断することは効率良く式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物の混合物を得る手法である。具体的には、チオ尿素が溶解可能な極性有機溶媒と、式(3)で表されるエポキシ化合物が溶解可能な非極性有機溶媒の混合溶媒中、酸もしくは酸無水物、あるいはアンモニウム塩の存在下で反応を行い、反応が完結する前に終了させる。
【0023】
すなわち、一実施形態の光学材料用組成物の製造方法は、上記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させ、必要に応じて式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程を含む。
【0024】
なお、光学材料用組成物を、エポキシ環の含有率が高いエピスルフィド化合物(1)を用いて構成する場合(例えば、上記エピスルフィド化合物(B1)および上記エピスルフィド化合物(B2)を高含有率(例えば、B1とB2の合計が50質量%以上)含む場合)には、通常、上記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させて式(1)で表されるエピスルフィド化合物を得た後に、式(2)で表されるエピスルフィド化合物(2)を添加する必要がある。
すなわち、一実施形態の光学材料用組成物の製造方法は、上記式(3)で表されるエポキシ化合物とチオ尿素とを反応させて式(1)で表されるエピスルフィド化合物を得、式(2)で表されるエピスルフィド化合物を添加して、式(1)で表されるエピスルフィド化合物と式(2)で表されるエピスルフィド化合物との混合物を得る工程を含む。
式(2)で表されるエピスルフィド化合物は、式(3)の化合物とチオ尿素とを完全に反応させることにより合成したものを用いてもよい。
【0025】
前記反応により式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物の化合物を得る方法において、チオ尿素は、式(3)で表されるエポキシ化合物のエポキシに対応するモル数、すなわち理論量を使用するが、反応速度、純度を重視するのであれば理論量~理論量の2.5倍モルを使用する。好ましくは理論量の1.3倍モル~理論量の2.4倍モルであり、より好ましくは理論量の1.5倍モル~理論量の2.3倍モルである。
【0026】
チオ尿素が溶解可能な極性有機溶媒は、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のヒドロキシエーテル類が挙げられるが、好ましくはアルコール類であり、最も好ましくはメタノールである。式(3)で表されるエポキシ化合物が溶解可能な非極性有機溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられるが、好ましくは芳香族炭化水素であり、最も好ましくはトルエンである。溶媒比は、極性有機溶媒/非極性有機溶媒=0.1~10.0の体積比で使用するが、好ましくは極性有機溶媒/非極性有機溶媒=0.2~5.0の体積比で使用する。体積比が0.1未満の場合はチオ尿素が溶解不十分となり反応が十分に進行せず、10.0を超えるとポリマーの生成が顕著となる場合がある。
【0027】
反応温度は、10℃~30℃で実施する。10℃未満の場合、反応速度の低下に加え、チオ尿素が溶解不十分となり反応が十分に進行せず、30℃を超える場合、ポリマーの生成が顕著となる。
【0028】
使用する酸もしくは酸無水物の具体例としては、硝酸、塩酸、過塩素酸、次亜塩素酸、二酸化塩素、フッ酸、硫酸、発煙硫酸、塩化スルフリル、ホウ酸、ヒ酸、亜ヒ酸、ピロヒ酸、燐酸、亜リン酸、次亜リン酸、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン、硫化リン、三塩化リン、三臭化リン、五塩化リン、青酸、クロム酸、無水硝酸、無水硫酸、酸化ホウ素、五酸化ヒ酸、五酸化燐、無水クロム酸、シリカゲル、シリカアルミナ、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等の無機の酸性化合物、蟻酸、酢酸、過酢酸、チオ酢酸、蓚酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ナフテン酸、メチルメルカプトプロピオネート、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、シクロヘキサンカルボン酸、チオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸酢酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、o-トルイル酸、m-トルイル酸、p-トルイル酸、サリチル酸、2-メトキシ安息香酸、3-メトキシ安息香酸、ベンゾイル安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、ベンジル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水トリフルオロ酢酸等の有機カルボン酸類、モノ、ジおよびトリメチルホスフェート、モノ、ジおよびトリエチルホスフェート、モノ、ジおよびトリイソブチルホスフェート、モノ、ジおよびトリブチルホスフェート、モノ、ジおよびトリラウリルホスフェート等のリン酸類およびこれらのホスフェート部分がホスファイトとなった亜リン酸類、ジメチルジチオリン酸に代表されるジアルキルジチオリン酸類等の有機リン化合物、フェノール、カテコール、t-ブチルカテコール、2,6-ジ-t-ブチルクレゾール、2,6-ジ-t-ブチルエチルフェノール、レゾルシン、ハイドロキノン、フロログルシン、ピロガロール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、ノニルフェノール、ヒドロキシフェニル酢酸、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸アミド、ヒドロキシフェニル酢酸メチル、ヒドロキシフェニル酢酸エチル、ヒドロキシフェネチルアルコール、ヒドロキシフェネチルアミン、ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルフェノール、ビスフェノール-A、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビスフェノール-F、ビスフェノール-S、α-ナフトール、β-ナフトール、アミノフェノール、クロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール等のフェノール類、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、o-クレゾールスルホン酸、メタニル酸、スルファニル酸、4B-酸、ジアミノスチルベンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸、α-ナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、ペリ酸、ローレント酸、フェニルJ酸(7-アニリノ-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸)等のスルホン酸類、等があげられ、これらのいくつかを併用することも可能である。好ましくは、蟻酸、酢酸、過酢酸、チオ酢酸、蓚酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ナフテン酸、メチルメルカプトプロピオネート、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、シクロヘキサンカルボン酸、チオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸酢酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、o-トルイル酸、m-トルイル酸、p-トルイル酸、サリチル酸、2-メトキシ安息香酸、3-メトキシ安息香酸、ベンゾイル安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、ベンジル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水トリフルオロ酢酸の有機カルボン酸類であり、より好ましくは無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水トリフルオロ酢酸の酸無水物であり、最も好ましくは無水酢酸である。酸もしくは酸無水物の添加量は通常反応液総量に対して0.001質量%~10質量%の範囲で用いられるが、好ましくは0.01質量%~5質量%である。添加量が0.001質量%未満ではポリマーの生成が顕著となって反応収率が低下し、10質量%を超えると収率が著しく低下する場合がある。
【0029】
また、アンモニウム塩の具体例としては、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。より好ましくは硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムであり、最も好ましくは硝酸アンモニウムである。
【0030】
これら反応はNMRやIR、液体クロマトグラフ、もしくはガスクロマトグラフでモニターし、式(1)で表される化合物が残存する状態で反応を停止する。一実施形態において、所望の化合物(B1)、(B2)、および(B3)の割合となった状態で反応を停止する。他の一実施形態において、式(1)で表される化合物が0.05~20質量%、より好ましくは0.1~15質量%、特に好ましくは0.5~10質量%、最も好ましくは0.5~4質量%である状態で反応を停止する。
こうして得られた式(1)で表される化合物は、カラム精製することで、化合物(B1)、化合物(B2)、化合物(B3)をそれぞれ単離することができる。
式(2)で表される化合物を得る場合には、NMRやIR、液体クロマトグラフ、もしくはガスクロマトグラフでモニターし、エポキシ環が完全にエピチオ環に転換した状態で反応を停止する。
【0031】
上記反応で得られた式(1)で表される化合物またはこれから単離して得られる化合物(B1)、化合物(B2)および/もしくは、化合物(B3)と、式(2)で表される化合物とを混合することにより、光学材料用組成物を得ることが可能である。
【0032】
[1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)]
本発明の光学材料用組成物は必要に応じて1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)を含んでもよい。
1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)は、下記式(c)で表される化合物であり、本発明の光学材料用組成物から得られる光学材料(樹脂)の屈折率を向上させる効果がある。
【化18】
1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)の入手方法は特に制限されない。市販品を用いてもよく、原油や動植物等の天然物から採取抽出しても、又公知の方法で合成してもかまわない。
合成法の一例としては、N. Takeda等,Bull.Chem.Soc.Jpn.,68,2757(1995)、F.Feherら,Angew.Chem.Int.Ed.,7,301(1968)、G.W.Kutneyら,Can.J.Chem,58,1233(1980)等に記載の方法が挙げられる。
【0033】
光学材料用組成物において1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)を使用する場合の割合は、光学材料用組成物の総量に対して、好ましくは5~70質量%であり、より好ましくは5~50質量%である。この範囲にあることで、屈折率向上と光学材料の透明性とを両立できる。
【0034】
[ポリチオール(d)]
光学材料用組成物は必要に応じてポリチオール(d)を含んでもよい。ポリチオール(d)は、1分子あたりメルカプト基を2つ以上有するチオール化合物である。ポリチオール(d)は本発明の光学材料用組成物から得られる樹脂の加熱時の色調を改善させる効果がある。
本発明において使用されるポリチオールは特に限定されないが、色調改善効果が高いことから、好ましい具体例として、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン、メタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、及びチイランメタンチオールが挙げられ、特にビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼンが好ましく、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタンが最も好ましい。これらは市販品や公知の方法により合成した物が使用可能であり、また2種以上を併用することができる。
【0035】
光学材料用組成物においてポリチオール(d)の割合は、光学材料用組成物の総量に対して、好ましくは0~25質量%(例えば0.1~25質量%)、より好ましくは0~20質量%(例えば0.5~20質量%)であり、さらに好ましくは0~15質量%(例えば0.5~15質量%)であり、特に好ましくは0~12質量%(例えば0.5~12質量%)である。
【0036】
[硫黄]
光学材料用組成物は必要に応じて硫黄を含んでもよい。硫黄は本発明の光学材料用組成物から得られる光学材料(樹脂)の屈折率を向上させる効果がある。
本発明で用いる硫黄の形状はいかなる形状でもかまわない。具体的には、硫黄としては、微粉硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、結晶硫黄、昇華硫黄等が挙げられ、溶解速度の観点から好ましくは、粒子の細かい微粉硫黄である。
本発明に用いる硫黄の粒径(直径)は10メッシュより小さいことが好ましい。硫黄の粒径が10メッシュより大きい場合、硫黄が完全に溶解しにくい。硫黄の粒径は、30メッシュより小さいことがより好ましく、60メッシュより小さいことが最も好ましい。
本発明に用いる硫黄の純度は、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.5%以上であり、最も好ましくは99.9%以上である。硫黄の純度が98%以上であると、98%未満である場合に比べて、得られる光学材料の色調がより改善する。
上記条件を満たす硫黄は、市販品を容易に入手可能であり、好適に用いることができる。
【0037】
光学材料用組成物において硫黄の割合は、光学材料用組成物の総量に対して、通常0~40質量%(例えば1~40質量%)であり、好ましくは0~30質量%(例えば5~30質量%、10~30質量%)、より好ましくは0~25質量%(例えば5~25質量%)であり、特に好ましくは0~20質量%(例えば5~20質量%)である。
【0038】
本発明の光学材料用組成物を重合硬化して光学材料を得るに際して、重合触媒を添加することが好ましい。重合触媒としてはアミン、ホスフィン、オニウム塩が用いられるが、特にオニウム塩、中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第3級スルホニウム塩、第2級ヨードニウム塩が好ましく、中でも光学材料用組成物との相溶性の良好な第4級アンモニウム塩および第4級ホスホニウム塩がより好ましく、第4級ホスホニウム塩がさらに好ましい。より好ましい重合触媒としては、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1-n-ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい重合触媒は、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイドである。
重合触媒の添加量は、組成物の成分、混合比および重合硬化方法によって変化するため一概には決められないが、通常は光学材料用組成物の総量(100質量%)に対して、0.0001質量%~10質量%、好ましくは、0.001質量%~5質量%、より好ましくは、0.01質量%~1質量%、最も好ましくは、0.01質量%~0.5質量%である。重合触媒の添加量が10質量%より多いと急速に重合する場合がある。また、重合触媒の添加量が0.0001質量%より少ないと光学材料用組成物が十分に硬化せず耐熱性が不良となる場合がある。
【0039】
また、本発明の製造方法で光学材料を製造する際、光学材料用組成物に紫外線吸収剤、ブルーイング剤、顔料等の添加剤を加え、得られる光学材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。
紫外線吸収剤の好ましい例としてはベンゾトリアゾール系化合物であり、特に好ましい化合物は、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、5-クロロ-2-(3、5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールである。
これら酸化防止剤および紫外線吸収剤の添加量は、通常、光学材料用組成物の総量(100質量%)に対してそれぞれ0.01~5質量%である。
【0040】
光学材料用組成物を重合硬化させる際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、必要に応じて重合調整剤を添加することができる。重合調整剤は、長期周期律表における第13~16族のハロゲン化物を挙げることができる。これらのうち好ましいものは、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物であり、より好ましいものはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。さらに好ましい化合物は、ジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドであり、最も好ましい化合物は、ジブチルスズジクロライドである。重合調整剤は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
重合調整剤の添加量は、光学材料用組成物の総量(100質量%)に対して、0.0001~5.0質量%であり、好ましくは0.0005~3.0質量%であり、より好ましくは0.001~2.0質量%である。重合調整剤の添加量が0.0001質量%よりも少ない場合、得られる光学材料において充分なポットライフが確保できず、重合調整剤の添加量が2.0質量%よりも多い場合は、光学材料用組成物が充分に硬化せず、得られる光学材料の耐熱性が低下する場合がある。
【0041】
このようにして得られた光学材料用組成物はモールド等の型に注型し、重合させて光学材料とする。
本発明の光学材料用組成物の注型に際し、0.1~5μm程度の孔径のフィルター等で不純物を濾過し除去することは、本発明の光学材料の品質を高める上からも好ましい。
本発明の光学材料用組成物の重合は通常、以下のようにして行われる。即ち、硬化時間は通常1~100時間であり、硬化温度は通常-10℃~140℃である。重合は所定の重合温度で所定時間保持する工程、0.1℃~100℃/hの昇温を行う工程、0.1℃~100℃/hの降温を行う工程によって、又はこれらの工程を組み合わせて行う。
また、硬化終了後、得られた光学材料を50~150℃の温度で10分~5時間程度アニール処理を行うことは、本発明の光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに得られた光学材料に対して、必要に応じて染色、ハードコート、耐衝撃性コート、反射防止、防曇性付与等の表面処理を行ってもよい。
本発明の光学材料は光学レンズとして好適に用いることができる。
【実施例
【0042】
以下、本発明の内容を、実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例の方法により得られた光学材料を以下の方法により評価した。
1.離型性の評価方法
以下の実施例記載の方法で12Dのプラスレンズを10枚作製し、モールドからレンズを離型する際に1枚もレンズの欠けのないものを「A」、1枚レンズの欠けのあるものを「B」、2枚以上レンズの欠けのあるものを「C」とした。AおよびBが合格であるが、AおよびBが好ましく、Aが特に好ましい。
2.ハガレの評価方法
以下の実施例記載の方法で作成した-15Dのマイナスレンズを10枚作製し、モールドから離型後、120℃で30分アニール処理したのち、表面状態を目視で観察した。10枚作成し、1枚もハガレ跡のないものを「A」、1枚ハガレ跡のあるものを「B」、2枚以上ハガレ跡のあるものを「C」とした。AおよびBが合格であるが、AおよびBが好ましく、Aが特に好ましい。
3.透明性の評価方法
以下の実施例および比較例に記載の方法で、レンズを10枚作製し、暗室内で蛍光灯下、観察した。すべて白濁が観測されないものをA、7から9枚白濁が観測されないものをB、白濁が観測されないものが6枚以下をCとした。AおよびBが合格レベルである。
4.脈理の評価方法
以下の実施例および比較例に記載の方法でレンズを10枚作製し、シュリーレン法により目視で観察した。すべて脈理が観測されないものをA、7から9枚脈理が観測されないものをB、脈理が観測されないものが6枚以下をCとした。AおよびBが合格レベルである。
【0043】
実施例1
テトラキス(β-エポキシプロピルチオメチル)メタン20.1g(0.047mol)にトルエン100mL、メタノール100mL、無水酢酸1.24g(0.012mol)、およびチオ尿素30.5g(0.40mol)を加えて、20℃で6時間撹拌を行った。その後、トルエン400mLおよび5%硫酸400mLを加えてトルエン層を3回水洗し、溶媒を留去することで16.8gのテトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタンの粗製物を得た。粗製物を更にシリカゲルカラム精製を行うことで11.2gの化合物(1)(以下、化合物bと称する)を得た。NMRで測定したところ、X=X=Oの化合物、X=OかつX=Sの化合物ならびにX=X=Sの化合物が40:30:30の質量割合で含有していることを確認した。
以下の実験で用いた化合物(1)はこの方法で合成したものである。
=X=O(エピスルフィド化合物(B1))
H-NMR(CDCl):2.54ppm(1H)、2.34ppm、2.09ppm(2H)、2.81ppm(3H)、2.61ppm、2.36ppm(6H)、2.88ppm、2.63ppm(2H)、2.67ppm、2.43ppm(6H)、2.30ppm(8H)
13C-NMR(CDCl):32.6ppm(1C)、26.4ppm(1C)、53.8ppm(3C)、46.8ppm(3C)、44.8ppm(1C)、41.5ppm(3C)、37.5ppm(1C)、37.6ppm(3C)、38.9ppm(1C)
=OかつX=S(エピスルフィド化合物(B2))
H-NMR(CDCl):2.54ppm(2H)、2.34ppm、2.09ppm(4H)、2.81ppm(2H)、2.61ppm、2.36ppm(4H)、2.88ppm、2.63ppm(4H)、2.67ppm、2.43ppm(4H)、2.30ppm(8H)
13C-NMR(CDCl):32.6ppm(2C)、26.4ppm(2C)、53.8ppm(2C)、46.8ppm(2C)、44.8ppm(2C)、41.5ppm(2C)、37.5ppm(2C)、37.6ppm(2C)、38.9ppm(1C)
=X=S(エピスルフィド化合物(B3))
H-NMR(CDCl):2.54ppm(4H)、2.34ppm、2.09ppm(8H)、2.88ppm、2.63ppm(8H)、2.30ppm(8H)
13C-NMR(CDCl):32.6ppm(3C)、26.4ppm(3C)、53.8ppm(1C)、46.8ppm(1C)、44.8ppm(3C)、41.5ppm(1C)、37.5ppm(3C)、37.6ppm(1C)、38.9ppm(1C)
【0044】
実施例2~7、参考例1
前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物であるテトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタン(以下「化合物a」)と実施例1で得られた前記式(1)で表される化合物(以下「化合物b」)とを混合し、化合物a、化合物bの割合が表1の割合となる組成物を調製した。得られた組成物55質量部に、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)35質量部、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン10質量部、重合触媒としてテトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド0.05質量部を添加後、よく混合し均一とした。ついで1.3kPaの真空度で脱気を行い、2枚のガラス板とテープから構成されるモールドへ注入し、30℃で10時間加熱し、100℃まで10時間かけて一定速度で昇温させ、最後に100℃で1時間加熱し、重合硬化させた。放冷後、モールドから離型し、120℃で30分アニール処理して成型板(12Dおよび-15D)を得た。得られた光学材料の離型性及びハガレ跡、透明性、脈理の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
化合物aと化合物bとを混合した組成物の代わりに化合物aを用いた以外は実施例2と同様に行い、成型板を得た。評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例8~13、比較例2
前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物であるテトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタン(以下「化合物a」)と実施例1で得られた前記式(1)で表される化合物(以下「化合物b」)とを混合し、化合物a、化合物bの割合が表2の割合となる組成物を調製した。得られた組成物60質量部に、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(c)25質量部、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン5質量部、硫黄10質量部、重合触媒としてテトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド0.05質量部を添加後、よく混合し均一とした。ついで1.3kPaの真空度で脱気を行い、2枚のガラス板とテープから構成されるモールドへ注入し、30℃で10時間加熱し、100℃まで10時間かけて一定速度で昇温させ、最後に100℃で1時間加熱し、重合硬化させた。放冷後、モールドから離型し、120℃で30分アニール処理して成型板(12Dおよび-15D)を得た。得られた光学材料の離型性及びハガレ跡、透明性、脈理の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
上記表1および表2に示されるとおり、式(1)で表されるエピスルフィド化合物(化合物b)と式(2)で表されるエピスルフィド化合物(化合物a)を含有する実施例の組成物は、重合硬化時の離形不良および剥がれ不良が抑制され、高い透明性および低レベルの脈理の品質に優れる光学材料が得られることが確認される。