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  • 特許-電着液、絶縁皮膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】電着液、絶縁皮膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20231031BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20231031BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20231031BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20231031BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20231031BHJP
   C25D 13/06 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D5/44
C09D7/20
C09D127/18
C09D179/08 B
C25D13/06 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021003765
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108653
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-05-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131562(JP,A)
【文献】特開2019-096607(JP,A)
【文献】特開2001-294815(JP,A)
【文献】特開2002-298674(JP,A)
【文献】特開2007-197535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 127/12
C09D 5/44
C09D 7/20
C09D 127/18
C09D 179/08
C25D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基材に電着膜を電着させる電着液であって、
水と、分散媒と、固形成分とを含み、
前記固形成分は、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含み、
前記固形成分に含まれる前記フッ素系樹脂の含有量は、72質量%以上、95質量%以下の範囲であり、
前記水および前記分散媒に分散された前記固形成分の平均粒径は50nm以上、500nm以下、前記固形成分の粒径の標準偏差は250nm以下であることを特徴とする電着液。
【請求項2】
前記ポリイミド系樹脂は、ポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1に記載の電着液。
【請求項3】
前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1または2に記載の電着液。
【請求項4】
前記分散媒は、N-メチル-2-ピロリドンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電着液。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電着液を用いた絶縁皮膜の製造方法であって、
前記電着液に前記基材と対向電極とを浸漬し、前記基材を陽極、前記対向電極を陰極として、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記基材に電着膜を形成する電着工程を有することを特徴とする絶縁皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記電着工程における、前記電着液の温度は5℃以上35℃以下であり、前記陽極と前記陰極との間の印加電圧は10V以上600V以下であることを特徴とする請求項5に記載の絶縁皮膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の基材に電着によって電着膜を製造する際に用いる電着液、および絶縁皮膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性の基材を絶縁性の樹脂からなる絶縁皮膜で被覆した絶縁導体は、絶縁が必要な各種電気機器の導電材料や放熱板材料として広く用いられている。絶縁皮膜の構成材料として、複数種の樹脂が混合されたものが知られている。例えば、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂などのポリイミド系樹脂と、フッ素系樹脂との混合物からなる絶縁皮膜が知られている。複数種の樹脂を混合することにより、絶縁皮膜の絶縁特性を向上させることができる。
【0003】
こうした絶縁性の樹脂からなる絶縁皮膜を導電性の基材の表面に形成する方法として、電着法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
電着法は、絶縁皮膜の材料を分散させた電着液に、絶縁皮膜を形成する基材と対向電極とを浸漬し、基材と対向電極との間に電圧を印加することによって、絶縁皮膜の材料を基材の表面に析出させた電着膜を形成する方法である。そして、形成した電着膜を加熱して、電着膜を基材に焼付けることによって絶縁皮膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-156378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液で電着膜を形成する場合、絶縁性を高めるためにフッ素系樹脂の割合を高めると、ひび割れが形成しやすいといった課題があった。このため、焼付後にクラックが生じたりすることがあり、改善が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、基材に対して、絶縁性に優れ、かつ表面が平滑で凹凸の少ない電着膜を形成するための電着液、およびこれを用いた絶縁皮膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者は、電着液中にフッ素樹脂の粗大粒子が存在する場合、粗大粒子が造膜を阻害し皮膜にクラックが発生すると考え、ポリイミド系樹脂粒子分散液とフッ素樹脂粒子分散液との混合時の溶媒比率に着目した結果、ポリイミド系樹脂の分散媒に対する水の濃度を高くしたポリイミド系樹脂分散液にフッ素樹脂粒子分散液を加えることで、フッ素樹脂の粗大粒子発生を抑制できることを見出した。これは、フッ素樹脂粒子の分散状態が、分散媒中の極性溶剤、ポリイミド系樹脂粒子により不安定化されるためと考えられる。よって、混合前のポリイミド系樹脂粒子分散液に水を加え、ポリイミド系樹脂粒子の濃度及び分散媒中の極性溶剤の濃度を低くしてからフッ素樹脂粒子分散液を加えることで、フッ素樹脂粒子の分散状態不安定化を抑制できるという新たな知見が得られた。
【0009】
こうした知見に基づいて、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の電着液は、水と、分散媒と、固形成分とを含み、前記固形成分は、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含み、前記固形成分に含まれる前記フッ素系樹脂の含有量は、72質量%以上、95質量%以下の範囲であり、前記水および前記分散媒に分散された前記固形成分の平均粒径は50nm以上、500nm以下、前記固形成分の粒径の標準偏差は250nm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、水および分散媒に分散される固形成分に含まれるフッ素系樹脂の含有量を72質量%以上、95質量%以下の範囲、かつ水および分散媒に分散された固形成分の平均粒径は50nm以上、500nm以下、固形成分の粒径の標準偏差は250nm以下にした電着液を用いることで、絶縁性を高めるフッ素系樹脂の含有量が多くても、分散媒に対する水の含有量を高めることで、フッ素樹脂粒子の巨大クラスターの発生を抑制することができ、高い絶縁性を備え、かつクラックの無い表面が平滑な絶縁皮膜を形成することが可能になる。
【0011】
また、本発明では、前記ポリイミド系樹脂は、ポリアミドイミドであってもよい。
【0012】
また、本発明では、前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであってもよい。
【0013】
また、本発明では、前記分散媒は、N-メチル-2-ピロリドンであってもよい。
【0014】
本発明の絶縁皮膜の製造方法は、前記各項に記載の電着液を用いた絶縁皮膜の製造方法であって、前記電着液に前記基材と対向電極とを浸漬し、前記基材を陽極、前記対向電極を陰極として、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記基材に電着膜を形成する電着工程を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明では、前記電着工程における、前記電着液の温度は5℃以上35℃以下であり、前記陽極と前記陰極との間の印加電圧は10V以上600V以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材に対して、絶縁性に優れ、かつ表面が平滑で凹凸の少ない電着膜を形成するための電着液、およびこれを用いた絶縁皮膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁皮膜の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁皮膜の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
本発明の一実施形態の絶縁皮膜の製造方法は、酸化被膜除去工程S1と、電着工程S2と、焼付工程S3とを有する。
【0020】
本実施形態の絶縁皮膜の製造方法に用いる基材としては、導電性の金属材料、例えば、純銅、銅を含む金属材料、純アルミニウム、アルミニウムを含む金属材料が用いられる。本実施形態では、基材として4N銅(純度99.99%)を用いた。
【0021】
(酸化被膜除去工程S1)
まず、有機溶剤や界面活性剤等の酸化被膜除去剤水溶液を用いて、基材の表面に付着している油脂及び酸化被膜を取り除く(酸化被膜除去工程S1)。例えば、本実施形態では、液温が20℃程度の酸化被膜除去剤(ハイクリーンC-100、株式会社シミズ製)を5質量%含む酸化被膜除去剤水溶液に、基材を1分間浸漬することにより、基材の表面に付着した油脂及び酸化被膜を溶解除去した。
【0022】
(電着工程S2)
次に、アニオン電着法によって、基材の表面にポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂との混合物からなる皮膜(電着膜)を電着形成させる(電着工程S2)。
【0023】
こうした電着工程S2で用いる、本発明の一実施形態の電着液は、水と、分散媒と、水および分散媒に分散される固形成分とを有する。電着液の固形成分としては、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを用いている。より具体的には、本実施形態では、ポリイミド系樹脂としてポリアミドイミド樹脂、フッ素系樹脂としてポリテトラフルオロエチレンを固形成分として用いている。こうした固形成分に含まれるフッ素系樹脂の含有量は、72質量%以上、95質量%以下の範囲である。
【0024】
固形成分に含まれるフッ素系樹脂の含有量が72質量%未満では、焼付工程を経て形成される絶縁皮膜の比誘電率を、例えば3.0未満などまで十分に下げることができない。一方、95質量%を超えると、絶縁皮膜が連続膜化とならずにクラックが発生しやすくなる。
【0025】
水および分散媒に分散された固形成分の平均粒径は、50nm以上、500nm以下、より好ましくは50nm以上、450nm以下、さらに好ましくは50nm以上、300nm以下であればよい。また、固形成分の粒径の標準偏差は250nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下であればよい。
【0026】
分散媒は、極性溶剤及び塩基を含むことが好ましい。また、極性溶剤は水より高い沸点を有することが好ましい。極性溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N,Nジメチルアセトアミド等の有機溶剤が挙げられる。本実施形態では、極性溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンを用いた。
【0027】
更に、分散媒中の塩基としては、トリ-n-プロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、トリエチルアミン等が挙げられる。電着液中の水の含有割合は、15~40質量%であることが好ましく、18~30質量%であることが更に好ましい。また、電着液中の極性溶剤の含有割合は60~90質量%であることが好ましく、塩基の含有割合は0.1~0.3質量%であることが好ましい。
【0028】
次に電着液の製造例を説明する。
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたフラスコ内に、極性溶剤と、イソシアネート成分と酸成分とを混合し、例えば、80~130℃の温度に昇温させて2~8時間保持して反応させることにより、ポリアミドイミドを得る。
【0029】
ここで、イソシアネート成分としては、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
また、酸成分としてはトリメリット酸無水物(TMA)、1,2,5-トリメリット酸(1,2,5-ETM)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’-(2,2’-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が挙げられる。
その後、合成したポリアミドイミドを、極性溶剤により希釈してポリアミドイミドワニスを調製する。
【0031】
そして、このポリアミドイミドワニスを、極性溶剤、例えばN-メチル-2-ピロリドンで更に希釈し、塩基性化合物であるトリnプロピルアミン(TPA)を加えた後、更に水を添加して、ポリアミドイミド分散液を形成する。
【0032】
一方、ポリテトラフルオロエチレンを、乳化剤で水中に分散させることで、ポリテトラフルオロエチレン分散液を得る。
そして、ポリアミドイミド分散液を、塩基性化合物(TPA)とともに水で希釈した後、ポリテトラフルオロエチレン分散液を混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで希釈することで、本実施形態の電着液を製造することができる。
【0033】
このようにして得られた電着液を用いて、導電性の基材の表面に、ポリアミドイミドとポリテトラフルオロエチレンが混合された電着膜をアニオン電着させる方法としては、本実施形態の電着液に、導電性の基材と、対向電極とを浸漬し、基材を陽極、対向電極を陰極として、直流電圧を印加する。
【0034】
電着工程S2における電着液の温度(液温)は、例えば、5℃以上、35℃以下の範囲に調整する。液温が5℃未満では結露の発生等により液に水が混入する、35℃を超えると、液の保存安定性に悪影響を与える可能性がある。
【0035】
電着工程S2における基材(陽極)と対向電極(陰極)との間の印加電圧は、10V以上、600V以下にする。印加電圧が10V未満では電着速度が遅く生産性が低下する懸念がある。また、600Vを超えると、基材の表面に気泡が多く発生し、後工程の焼付工程S3でこうした気泡が弾けて、絶縁皮膜に多数の凹凸が生じる原因となる。
【0036】
(焼付工程S3)
焼付工程S3では、電着工程S2で得られた固形成分であるポリアミドイミドとポリテトラフルオロエチレンを形成した電着膜中に含む電着膜が形成された基材を、例えば、200℃以上、かつ固形成分の融点以下の温度範囲内で乾燥させて残留電着液を除去した後、ポリアミドイミドとポリテトラフルオロエチレンを含む電着膜を基材に焼き付けて絶縁皮膜を形成する。
【0037】
焼付工程S3における焼付温度は、ポリアミドイミド、およびポリテトラフルオロエチレンの電着膜が硬化して、基材に絶縁皮膜が形成される温度範囲であればよく、例えば、200℃以上450℃以下の範囲内にすればよい。また、焼付時間は、例えば、1分間以上60分間以下の範囲内であればよい。
【0038】
以上のような工程を経て、導電性の基材に、ポリイミド系樹脂であるポリアミドイミドと、フッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレンとの混合樹脂を含む絶縁皮膜を形成することができる。これにより、絶縁性が良好(例えば、比誘電率が3.0未満)であり、クラックの無い平滑性に優れた絶縁皮膜が得られる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0040】
「電着液の具体的な製造例」
(1)ポリイミド系樹脂ワニスの合成
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内に、有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン747g、イソシアネート成分として4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート298g(1.19モル)、及び酸成分として無水トリメリット酸227g(1.18モル)を投入して130℃まで昇温させた。この温度で約4時間反応させることにより、数平均分子量が17000のポリマー(ポリアミドイミド樹脂)を得た。その後、合成したポリアミドイミド樹脂を、有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを使用し、ポリアミドイミド樹脂(不揮発分)の濃度が20質量%となるように希釈したポリアミドイミドワニス(ポリアミドイミド樹脂/N-メチル-2-ピロリドン=20質量%/80質量%)を得た。
【0041】
(2)ポリイミド系樹脂粒子分散液の調製
次いで、得られたポリアミドイミドワニス62.5gを、N-メチル-2-ピロリドン140gで更に希釈し、塩基性化合物であるトリnプロピルアミン0.5gを加えた後、この液を回転速度10000rpmの高速で撹拌しつつ、常温下(25℃)で水を47g添加した。これにより、メジアン径250nmのポリアミドイミド分散液(ポリアミドイミド粒子/N-メチル-2-ピロリドン/水/トリnプロピルアミン=5質量%/75.8質量%/19質量%/0.2質量%)250gを得た。
【0042】
(3)フッ素樹脂粒子分散液の調製
市販のポリテトラフルオロエチレン粒子分散液(ポリフロンPTFE D210C、ダイキン工業株式会社製)を水で希釈して、ポリテトラフルオロエチレン分散液を得た(平均粒径280nm、PTFE/水=50質量%/50質量%)。
【0043】
(4)電着液の調製
(2)のポリアミドイミド分散液2020gをTPA3.6727g、水1244gで希釈した後、(3)のポリテトラフルオロエチレン分散液792gを混合し、さらにNMPで希釈することで電着液を得た(ポリアミドイミド粒子/ポリテトラフルオロエチレン粒子/N-メチル-2-ピロリドン/水/トリnプロピルアミン=3.6質量%/0.9質量%/77.3質量%/18質量%/0.3質量%)。
【0044】
「絶縁皮膜の具体的な製造例」
上述した電着液を用いて、この電着液を電着槽内に貯留し、電着槽内の電着液の温度を20℃とした。次いで、直径1mm、長さ300mmの銅線を陽極とし、電着槽内の電着液に挿入された円筒型の銅板を陰極として、銅線と円筒型の銅板との間に直流電圧500Vを印加した状態で、銅板を電着槽内の電着液中に30秒間保持した(電着工程)。これにより銅線の表面に電着膜が形成された。次に、電着膜が形成された銅線を300℃の乾燥炉中に5分間静置し乾燥処理を行い、電着膜を焼き付けることで、絶縁皮膜が形成された銅線を得た(焼付工程)。
【0045】
次に、本発明の効果を検証した。
上述した絶縁皮膜の具体的な製造例に基づいて、実施例1~4、および比較例1~3の電着液をそれぞれ形成し、銅からなる基材に絶縁皮膜を形成した。
実施例1は、固形成分であるポリアミドイミドと、ポリテトラフルオロエチレンとの混合比(質量%)を72:28とした。また、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈した。
実施例2は、固形成分であるポリアミドイミドと、ポリテトラフルオロエチレンとの混合比(質量%)を75:25とした。また、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈した。
実施例3は、固形成分であるポリアミドイミドと、ポリテトラフルオロエチレンとの混合比(質量%)を80:20とした。また、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈した。
実施例4は、固形成分であるポリアミドイミドと、ポリテトラフルオロエチレンとの混合比(質量%)を95:5とした。また、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈した。
比較例1は、水で希釈しなかったこと以外は実施例3と同様である。
比較例2は、固形成分であるポリアミドイミドと、ポリテトラフルオロエチレンとの混合比(質量%)を60:40とした。また、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈した。
比較例3は、固形成分であるポリアミドイミドと、ポリテトラフルオロエチレンとの混合比(質量%)を99:1とした。また、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈した。
【0046】
実施例1~4、および比較例1~3の電着液における固形成分の平均粒子径と、標準偏差とを測定した。測定には、粒度分布計(LB550:堀場製作所株式会社製)を用いた。
そして、それぞれの電着液を用いて電着膜を形成し、焼付を行って基材に絶縁皮膜を形成した。形成した絶縁皮膜の外観状態(クラックの有無)および比誘電率を観察、測定した。外観状態は目視によって観察を行った。また、比誘電率はLCRメーター(日置電機株式会社製)を用いて測定した。
これらの検証結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示す結果によれば、実施例1~4では、固形成分に含まれるポリテトラフルオロエチレン(フッ素系樹脂)の含有量を72質量%以上、95質量%以下の範囲とし、固形成分の質量の4倍の質量の水で希釈して、水および分散媒に分散された固形成分の平均粒径を50nm以上、500nm以下、固形成分の粒径の標準偏差を250nm以下にしたので、フッ素系樹脂の粒子の粗大化によるクラックの発生が抑えられるとともに、比誘電率も3.0未満と、優れた絶縁性を有する絶縁皮膜を形成することができる。
【0049】
一方、比較例1では、水で希釈を行わなかったために、粗大フッ素樹脂粒子が生じて、絶縁皮膜にクラックが生じてしまった。比較例2では、固形成分に含まれるポリテトラフルオロエチレン(フッ素系樹脂)の含有量が60質量%と低かったために、比誘電率が3.4と高くなり、形成した絶縁皮膜の絶縁性が低かった。また、比較例3では、固形成分に含まれるポリテトラフルオロエチレン(フッ素系樹脂)の含有量が99質量%と高すぎるために、粗大フッ素樹脂粒子が生じて、絶縁皮膜にクラックが生じてしまった。
【0050】
これらの結果から、固形成分に含まれるポリテトラフルオロエチレン(フッ素系樹脂)の含有量を72質量%以上、95質量%以下の範囲にして、かつ水および分散媒に分散された固形成分の平均粒径を50nm以上、500nm以下、固形成分の粒径の標準偏差を250nm以下にすることで、高い絶縁性を備え、かつクラックの無い表面が平滑な絶縁皮膜が得られることが確認できた。
図1