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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】走行車システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20231031BHJP
【FI】
G05D1/02 G
G05D1/02 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021084595
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022178069
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(72)【発明者】
【氏名】江口 裕也
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/261772(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115586(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0203455(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車が走行する走行経路において、少なくとも一つの区画エリアが設定されている、走行車システムであって、
前記区画エリアにおける走行車の存在台数が第一所定値に到達すると前記区画エリアへの前記走行車の進入を制限するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記存在台数に加えて、前記区画エリアへの前記走行車の進入予定台数も監視し、前記存在台数と前記進入予定台数との合計台数に基づいて、前記合計台数を取得時に前記区画エリアに進入予定であった前記走行車の前記区画エリアへの進入の可否を決定すると共に、前記区画エリアを前記走行経路に含む経路の新たな設定の可否を決定し、決定された前記進入の可否及び前記設定の可否に基づいて前記走行車の走行を制御し、
前記合計台数が前記第一所定値よりも少ない第二所定値又は前記第一所定値に対して所定の割合に到達すると、前記第二所定値又は前記所定の割合到達時に前記区画エリアに進入予定であった前記走行車の前記区画エリアへの進入はそのまま許容すると共に、前記走行経路を新たに設定するときは、前記区画エリアを迂回する前記走行経路の優先度を前記区画エリアに進入する前記走行経路の優先度よりも高くし、
前記合計台数が前記第一所定値に到達又は前記第一所定値以上になると、前記第一所定値に到達又は前記第一所定値以上になった時に前記区画エリアに進入予定であった前記走行車の前記区画エリアへの進入はそのまま許容すると共に、前記区画エリアに進入する前記走行経路の新たな設定を禁止する、走行車システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記区画エリアの範囲を設定可能に設けられている、請求項記載の走行車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、走行車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
天井又は床面等に予め設けられた走行路において、コンピュータ制御によって複数の走行車を自動走行させる走行車システム(例えば、特許文献1)が知られている。走行車システムの走行車は、電源から供給される電力によって走行している。この電源には給電能力に制限があるため、一の電源から電力が供給されるエリアが複数区画設定されている。しかしながら、一つの区画エリアに所定台数以上の走行車が進入すると、各走行車への電力の供給が不十分となり、各走行車の速度が低下したり、停止したりする不具合を発生する。そこで、従来より、各区画エリアに進入することができる走行車の台数(以下、「存在台数」)と称する。)を予め設定された台数に制限することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-351546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、存在台数が予め定められた台数に到達し、当該区画エリアへ走行車の進入が禁止されるようになると、例えば区画エリアの手前に走行車が停止することにより後続の走行車が数珠繋ぎ的に停滞したり、当該区画エリアを回避しようとする走行車が同じ経路に集中したりして、走行車システムの搬送効率が低下してしまうという新たな問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明の一側面の目的は、区画エリアにおける存在台数を予め定められた台数に制限する走行車システムにおいて、当該区画エリアへの走行車の進入が制限される事態となることを抑制し、搬送効率の低下を抑えることができる、走行車システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る走行車システムは、走行車が走行する走行経路において、少なくとも一つの区画エリアが設定されている、走行車システムであって、区画エリアにおける走行車の存在台数が第一所定値に到達すると区画エリアへの走行車の進入を制限するコントローラを備え、コントローラは、存在台数に加えて、区画エリアへの走行車の進入予定台数も監視し、存在台数と進入予定台数との合計台数に基づいて、合計台数を取得時に区画エリアに進入予定であった走行車の区画エリアへの進入の可否を決定すると共に、区画エリアを走行経路に含む経路の新たな設定の可否を決定し、決定された進入の可否及び設定の可否に基づいて走行車の走行を制御する。
【0007】
この構成の走行車システムでは、存在台数に加えて、区画エリアへの走行車の進入予定台数を監視し、存在台数と進入予定台数との合計台数という新たな指標に基づいて、区画エリアに進入予定であった走行車の区画エリアへの進入の可否を決定すると共に、区画エリアを走行経路に含む経路の新たな設定の可否を決定している。これにより、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度に応じた、当該区画エリアへの走行車の進入抑制処置を実行できるようになる。この結果、区画エリアにおける存在台数を予め定められた台数に制限する走行車システムにおいて、当該区画エリアへの走行車の進入が制限される事態となることを抑制し、搬送効率の低下を抑えることができる。
【0008】
本発明の一側面に係る走行車システムでは、コントローラは、上記合計台数が第一所定値よりも少ない第二所定値又は第一所定値に対して所定の割合に到達すると、第二所定値又は所定の割合到達時に区画エリアに進入予定であった走行車の区画エリアへの進入はそのまま許容すると共に、走行経路を新たに設定するときは、区画エリアを迂回する走行経路の優先度を区画エリアに進入する走行経路の優先度よりも高くしてもよい。この構成では、相対的に緩やかに、当該区画エリアへ走行車の進入が制限される事態となることを抑制することができる。
【0009】
本発明の一側面に係る走行車システムでは、合計台数が第一所定値に到達又は第一所定値以上になると、第一所定値に到達又は第一所定値以上になった時に区画エリアに進入予定であった走行車の区画エリアへの進入はそのまま許容すると共に、区画エリアに進入する走行経路の新たな設定を禁止してもよい。この構成では、相対的に速やかに、当該区画エリアへ走行車の進入が制限される事態となることを抑制することができる。
【0010】
本発明の一側面に係る走行車システムでは、コントローラは、合計台数が第一所定値よりも少ない第二所定値又は第一所定値に対して所定の割合に到達すると、第二所定値又は所定の割合到達時に区画エリアに進入予定であった走行車の区画エリアへの進入はそのまま許容すると共に、走行経路を新たに設定するときは、区画エリアを迂回する走行経路の優先度を区画エリアに進入する走行経路の優先度よりも高くし、合計台数が第一所定値に到達又は第一所定値以上になると、第一所定値に到達又は第一所定値以上になった時に区画エリアに進入予定であった走行車の区画エリアへの進入はそのまま許容すると共に、区画エリアに進入する走行経路の新たな設定を禁止してもよい。この構成では、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度が低いときには、相対的に緩やかに、当該区画エリアへ走行車の進入が制限される事態となることを抑制し、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度が高いときには、相対的に速やかに、当該区画エリアへ走行車の進入が制限される事態となることを抑制することができる。すなわち、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度に応じて、適切な当該区画エリアへの走行車の進入抑制処置が可能となる。
【0011】
本発明の一側面に係る走行車システムでは、コントローラは、区画エリアの範囲を設定可能に設けられていてもよい。この構成では、稼働状況にあわせて自由に区画エリアの範囲を設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、区画エリアにおける存在台数を予め定められた台数に制限する走行車システムにおいて、当該区画エリアへの走行車の進入が制限される事態となることを抑制し、搬送効率の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る走行車システムの構成を示す構成図である。
図2図2は、図1の走行車システムの機能構成を示す機能ブロック図である。
図3図3は、走行車システムが第一予備制御を発動するまでの流れの一例を説明する図である。
図4図4は、走行車システムが第二予備制御を発動するまでの流れの一例を説明する図である。
図5図5は、走行車システムが進入制限制御を発動するまでの流れの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。図面の説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0015】
走行車システム1は、軌道(走行経路)に沿って移動可能な走行車5を用いて、物品を搬送するためのシステムである。走行車5は、無人走行車であり、例えば天井走行車、有軌道台車等である。ここでは、工場等において、天井走行車5(以下、単に「走行車5」と称する。)が、工場の天井等に敷設された一方通行の軌道に沿って走行する走行車システム1を例に挙げて説明する。図1に示すように、走行車システム1は、主に、軌道11、複数のステーション(図示せず)、複数台の走行車5及び走行車コントローラ3を備えている。
【0016】
軌道11は、走行車5を案内し、走行させる部材であり、天井から吊り下げられている。図1は、本実施形態における軌道11のレイアウトを示している。
【0017】
ステーションは、軌道11に沿って設けられている。ステーションは、走行車5との間で物品の受け渡しが行われる部分である。例えば半導体処理工場におけるステーションの例には、半導体処理装置と走行車5との間でFOUPの受け渡しをするロードポート、及び走行車5がFOUPを仮置きできるバッファ等が含まれる。
【0018】
走行車5は、物品を移載可能に構成されている。走行車5は、物品を移載する機構の他、図2に示されるように、位置取得部51と、走行制御部53と、を備えている。
【0019】
位置取得部51は、軌道11上における自車両の位置を取得する部分である。位置取得部51は、例えば、軌道11に貼付されたポイント情報を示すバーコード等を読み取る読取部及びエンコーダ等から構成されてもよい。位置取得部51は、読取部によって得られるポイント情報と、エンコーダから得られる当該ポイントを通過してからの走行距離とを含んで構成される位置データを、走行車コントローラ3へ送信する。
【0020】
走行制御部53は、走行車5の走行を制御する部分であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等からなる電子制御ユニットである。走行制御部53は、走行車コントローラ3から送信されてくる搬送指令に基づいて、走行車5の走行を制御する。
【0021】
走行車コントローラ3は、エリア(区画エリア)A1,A2内の複数の走行車5を管理する部分である。走行車コントローラ3は、図2に示されるように、入力部31と、表示部32と、通信部33と、制御部40と、を備えている。入力部31は、作業者により各種操作及び各種設定値が入力される部分である。表示部32は、例えば、液晶ディスプレイ等からなり、各種設定画面を表示したり、作業者に入力部31等を介して設定値等を入力させる入力画面等を表示したりする部分である。
【0022】
通信部33は、他の装置等と通信を行う部分であり、例えば、無線通信ネットワークを介して、搬送指令を走行車5へ送信したり、走行車5の現在位置及び被搬送物の積載の有無に関する情報を走行車5から受信したりする。また、通信部33は、例えばLAN(Local Area Network)を介して、始点(移動元)及び/又は終点(移動先)となるステーションの情報を含む搬送指示を上位コントローラから受信したりもする。
【0023】
制御部40は、後段にて詳述する走行車システム1における各種制御処理を実行する部分であり、例えば、CPU、ROM、RAM等からなる電子制御ユニットである。制御部40は、走行車システム1における各種制御処理を実行する概念的な部分としてのエリア管理部41と、地図情報管理部42と、台数算出部43と、台数管理部44と、経路探索部45と、走行コスト管理部46と、指令割付部47と、走行車制御部48と、を有している。このような概念的な部分として形成されるエリア管理部41、地図情報管理部42、台数算出部43、台数管理部44、経路探索部45、走行コスト管理部46、指令割付部47及び走行車制御部48は、例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されるソフトウェアとして構成することができる。なお、制御部40は、電子回路等によるハードウェアとして構成されてもよい。
【0024】
以下、走行車コントローラ3の各構成について詳細に説明する。
【0025】
エリア管理部41は、工場等に敷設される軌道11に対し、図1に示されるような区画エリアA(例えば、区画エリアA1,A2)を設定する部分である。エリア管理部41は、地図情報管理部42に記憶された軌道11に対して、区画エリアAを設定する。言い換えれば、エリア管理部41は、区画エリアAごとに所属する軌道11の範囲を設定する。エリア管理部41は、例えば、電源が供給可能な電力量及び/又は安定的な通信が可能な通信容量に基づいて、区画エリアAの範囲(区画エリアAに所属する軌道11の範囲)を自由に設定することができる。区画エリアAの設定は、走行車システム1が稼働を開始する前に行われる。
【0026】
地図情報管理部42は、地図情報を記憶する部分である。地図情報は、軌道11、ステーション及び区画エリアAに関する情報であり、より詳細には、軌道11の敷設状況(レイアウト)、ステーションの配置位置及び区画エリアAごとの軌道11の範囲に関する情報である。軌道11の敷設状況は、複数のノード及び複数のリンクによって示される。ステーションの配置位置は、上記ノード又はノードごとに設定された位置に関連付けて示される。区画エリアAの範囲は、区画エリアAごとに上記のノード及び/又はリンクを特定する情報が関連付けられた状態で示される。
【0027】
台数算出部43は、区画エリアAごとに、そのエリアに存在する走行車5の台数(以下、「存在台数」とも称する。)を監視する部分である。台数算出部43は、各走行車5の位置取得部51から定期的又は連続的に送信されてくる情報に基づいて走行車5の位置情報を取得し、当該位置情報に基づいて区画エリアAごとの走行車5の存在台数を算出する。更に、台数算出部43は、各区画エリアAへ進入予定である走行車5の台数(以下、「進入予定台数」とも称する。)を監視する。台数算出部43は、後段にて詳述する経路探索部45によって探索された走行経路を参照することによって進入予定台数を導出する。なお、経路探索部45によって探索された走行経路は、経路探索部45又は地図情報管理部42等の記憶部に、搬送指令に基づいた搬送を完了するまでの間一時的に記憶される。台数算出部43は、このように算出される存在台数と進入予定台数との合計台数を算出する。台数算出部43によって算出された存在台数と、進入予定台数と、存在台数と進入予定台数との合計台数とは、台数管理部44によって管理される。
【0028】
台数管理部44は、台数算出部43によって算出された存在台数と、進入予定台数と、存在台数と進入予定台数との合計台数とを記憶する。台数管理部44は、SSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive)等のハードウェアによって構成される記憶部を一部に含んで構成されてもよい。
【0029】
経路探索部45は、走行車5を搬送指令に含まれる所定のステーションまで走行させる走行経路を探索し、走行経路を設定する部分である。経路探索部45は、例えば、上位コントローラ(図示せず)から搬送指令を受信したとき、又は進入制限制御時に再経路探索が必要となったとき等、地図情報管理部42に記憶された地図情報と、走行コスト管理部46によって管理されている各ノード(走行経路)のコスト(優先度)と、に基づいて、走行車5を搬送指令に含まれる所定のステーションにまで走行させる走行経路を探索し、探索された走行経路を走行車5に設定する。
【0030】
走行コスト管理部46は、各ノード(走行経路)のコスト(優先度)を管理する部分である。走行コスト管理部46は、後段にて詳述する第一予備制御時及び第二予備制御時ごとに走行経路(各ノード)のコストを切り替える。具体的には、走行コスト管理部46は、第一予備制御時に、区画エリアAに進入する走行経路が選択され難くなるように、区画エリアAを迂回する走行経路のコストを区画エリアAに進入する走行経路のコストよりも低く(優先度を高く)設定する。また、走行コスト管理部46は、区画エリアAに進入する走行経路が選択されないように、区画エリアAに進入する走行経路のコストを相対的に高く(優先度を相対的に低く)設定する。走行コスト管理部46は、SSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive)等のハードウェアによって構成される記憶部を一部に含んで構成されてもよい。
【0031】
指令割付部47は、複数の走行車5の中から搬送指令を実行させる走行車5を選択する部分である。搬送指令は、上位コントローラ(図示せず)から送信されてくる。搬送指令には、移動先となるステーションに関する情報が含まれる場合と、移動元及び移動先の両方のステーションに関する情報が含まれる場合がある。上位コントローラから送信されてくる搬送指令を受け取った指令割付部47は、複数の走行車の5の中から一つの走行車5を選択(割り付け)する。指令割付部47は、例えば、物品を保持しておらず、最初に向かうステーションに最も近い位置の走行車5に搬送指令を割り付ける。
【0032】
走行車制御部48は、軌道11を走行する走行車5の走行を制御する部分である。走行車制御部48は、指令割付部47によって割り付けられた走行車5を、上記の経路探索部45によって探索される走行経路に従って走行させる。また、走行車制御部48は、各区画エリアAにおける走行車5の存在台数を監視している。走行車制御部48は、当該存在台数が第一所定値(例えば5台)に到達すると、区画エリアAへの走行車5の進入を制限(禁止)する。以後、このような区画エリアAへの走行車5の進入を制限する制御を開始することを「進入制限制御を発動する」と称し、その状態を「進入制限時」と称する。このような進入制限制御を発動することで、電力量が不足することによって走行車5が走行不能になったり、通信量の増加によって搬送命令の送受信の遅延が生じたりすることを防止できる。
【0033】
また、走行車制御部48は、上記存在台数に加えて、上記の経路探索部45によって探索される走行経路から導出することができる、各区画エリアAへの走行車5の進入予定台数も監視している。走行車制御部48は、上記存在台数と上記進入予定台数との合計台数に基づいて、進入制限制御の発動を抑えるための予備制御を実行する。予備制御とは、上記合計台数を取得時に区画エリアA(例えば区画エリアA1)に進入予定であった走行車5の区画エリアA1への進入の可否を決定すると共に、区画エリアA1を走行経路に含む経路の新たな設定の可否を決定し、決定された上記進入の可否及び上記設定の可否に基づいて走行車5の走行を制御することをいう。
【0034】
走行車制御部48は、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度に応じて、区画エリアAへ走行車5が進入することを抑制する処置(予備制御)の内容を切り替える。本実施形態の走行車制御部48は、緊急度が相対的に低いときには第一予備制御を実行し、緊急度が第一予備制御時よりも高くなったときには第二予備制御を実行する。
【0035】
走行車制御部48は、区画エリアAにおける上記存在台数と上記進入予定台数との合計台数が第一所定値(例えば5台)よりも少ない第二所定値(例えば4台)又は第一所定値に対して所定の割合(例えば80%)に到達すると、第二所定値又は所定の割合到達時に区画エリアAに進入予定であった走行車5の区画エリアAへの進入はそのまま許容すると共に、走行経路を新たに設定するときは、区画エリアAを迂回する走行経路の優先度を区画エリアAに進入する走行経路の優先度よりも高くする第一予備制御を実行する。以後、このような第一予備制御を開始することを「第一予備制御を発動する」とも称し、その状態を「第一予備制御時」と称する。
【0036】
走行車制御部48は、区画エリアAにおける合計台数が第一所定値(例えば5台)に到達又は第一所定値以上になると、第一所定値に到達又は一所定値以上になった時に区画エリアAに進入予定であった走行車5の区画エリアAへの進入はそのまま許容すると共に、区画エリアAに進入する走行経路の新たな設定を禁止する第二予備制御を実行する。以後、このような第二予備制御を実行することを「第二予備制御を発動する」とも称し、その状態を「第二予備制御時」と称する。区画エリアAに進入する走行経路の新たな設定を禁止する制御の一例には、区画エリアAに進入する走行経路の設定を禁止し、区画エリアAに進入しないような(区画エリアAを迂回する)走行経路を再探索して、探索された走行経路に基づいて走行車5を走行させる制御、または結果として走行経路を再探索できないときには走行車5を停止させる制御等が含まれる。
【0037】
次に、走行車システム1が、第一予備制御の発動及び第二予備制御の発動を経て進入制限制御を発動するまでの流れの一例を、図3図5を用いて説明する。ここでは、区画エリアA1の存在台数が第一所定値(5台)になると区画エリアA1への進入制限を発動し、上記合計台数が第一所定値(5台)よりも少ない第二所定値(4台)又は第一所定値に対して所定の割合(80%)に到達すると第一予備制御を発動し、合計台数が第一所定値(5台)に到達又は第一所定値以上になると第二予備制御を発動する走行車コントローラ3の例を挙げて説明する。
【0038】
図3に示されるように、シーン1では、区画エリアA1に走行車5が3台存在し、搬送指令を割り付けられていない1台の走行車5Aが区画エリアA1の外で巡回している。走行車コントローラ3は、区画エリアA1の存在台数及び進入予定台数を監視している。走行車コントローラ3は、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ3台、0台及び3台と判定している。シーン1では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて、第一予備制御、第二予備制御及び進入制限制御の何れも発動しない。
【0039】
シーン2では、区画エリアA1に走行車5が3台存在し、シーン1で搬送指令を割り付けられていなかった走行車5Aに、搬送指令が割り付けられたとする。走行車コントローラ3は、搬送指令に含まれる所定のステーションまで走行車5Aを走行させる走行経路を探索し、走行経路の中に区画エリアA1を含むノードが含まれているか否かを判定する。走行車コントローラ3は、走行車5Aの走行経路の中に区画エリアA1を含むノードが含まれている場合、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ3台、1台及び4台と判定する。シーン2では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて第一予備制御を発動する。すなわち、走行車コントローラ3は、合計台数が4台になったので、第一予備制御を発動する。
【0040】
第一予備制御時の走行車コントローラ3は、第二所定値又は上記所定の割合到達時に区画エリアA1に進入予定であった走行車5の区画エリアA1への進入はそのまま許容すると共に、走行経路を新たに設定するときは、区画エリアA1を迂回する走行経路の優先度を区画エリアA1に進入する走行経路の優先度よりも高くする。
【0041】
シーン3では、シーン2において搬送指令が割り付けられた走行車5Aが区画エリアA1を走行している。走行車コントローラ3は、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ4台、0台及び4台と判定する。シーン3では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて第一予備制御を維持する。すなわち、走行車コントローラ3は、合計台数が4台で変わらないので、第一予備制御を維持する。
【0042】
図4に示されるように、シーン4では、区画エリアA1に走行車5が4台存在し、搬送指令を割り付けられていない2台の走行車5C,5Dが区画エリアA1の外で巡回している。走行車コントローラ3は、区画エリアA1の存在台数及び進入予定台数を監視している。走行車コントローラ3は、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ4台、0台及び4台と判定している。シーン4では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて、シーン2で発動している第一予備制御を維持する。
【0043】
シーン5では、区画エリアA1に走行車5が4台存在し、シーン4で搬送指令を割り付けられていなかった一方の走行車5Cに、搬送指令が割り付けられたとする。走行車コントローラ3は、搬送指令に含まれる所定のステーションにまで走行車5Cを走行させる走行経路を探索し、走行経路の中に区画エリアA1を含むノードが含まれているか否かを判定する。走行車コントローラ3は、走行車5Cの走行経路の中に区画エリアA1を含むノードが含まれている場合、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ4台、1台及び5台と判定する。シーン5では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて第二予備制御を発動する。すなわち、走行車コントローラ3は、合計台数が5台になったので、第二予備制御を発動する。
【0044】
第二予備制御時の走行車コントローラ3は、第一所定値に到達時又は第一所定値以上になった時に区画エリアA1に進入予定であった走行車5Cの区画エリアA1への進入はそのまま許容すると共に、区画エリアA1に進入する走行経路の新たな設定を禁止する。
【0045】
シーン6では、シーン5において搬送指令が割り付けられた走行車5Cが、未だ区画エリアA1を進入しておらず、シーン5において区画エリアA1の外を巡回していた走行車5Dに搬送指令が割り付けられた場面とする。走行車コントローラ3は、第二所定値又は上記所定の割合到達時に区画エリアA1に進入予定であった走行車5Cの区画エリアA1への進入はそのまま許容する。走行車コントローラ3は、搬送指令に含まれる所定のステーションにまで走行させる走行経路を探索する。第二予備制御時の走行車コントローラ3は、区画エリアA1を迂回するような走行経路を探索する。シーン6において、走行車コントローラ3は、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ4台、1台及び5台と判定する。シーン6では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて第二予備制御を維持する。
【0046】
図5に示されるシーン7は、シーン6からは少し時間が経過した状態を示している。シーン7は、区画エリアA1に走行車5が3台存在し、搬送指令を割り付けられていない3台の走行車5E,5F,5Gが区画エリアA1の外で巡回しているときに、同時又は連続的に3台の走行車5E,5F,5Gのそれぞれに搬送指令が割り付けられた状態を示している。
【0047】
走行車コントローラ3は、搬送指令に含まれる所定のステーションにまで走行車5E,5F,5Gのそれぞれを走行させる走行経路を探索し、走行経路の中に区画エリアA1を含むノードが含まれているか否かを判定する。また、走行車コントローラ3は、区画エリアA1の存在台数及び進入予定台数を監視している。走行車コントローラ3は、走行車5E,5F,5Gのそれぞれの走行経路の中に区画エリアA1を含むノードが含まれている場合、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ3台、3台及び6台と判定する。シーン7では、走行車コントローラ3は、この合計台数に基づいて、第二予備制御を発動する。
【0048】
シーン8では、シーン7において搬送指令が割り付けられた走行車5E,5Fが区画エリアA1に順に進入した状態を示している。シーン8において、走行車コントローラ3は、存在台数、進入予定台数及び上記合計台数を、それぞれ5台、1台及び6台と判定する。シーン8では、走行車コントローラ3は、監視する存在台数に基づいて進入制限制御を発動する。すなわち、走行車コントローラ3は、存在台数が5台になったので、進入制限制御を発動する。走行車コントローラ3は、シーン7において決定された進入経路に従って区画エリアA1に進入しようとする走行車5Gに対して、区画エリアA1への進入を制限する。具体的には、走行車コントローラ3は、区画エリアA1に進入する手前で走行車5Gを停止させるか、区画エリアA1を迂回する走行経路を再検索する。
【0049】
上記実施形態の走行車システム1における作用効果について説明する。上記実施形態の走行車システム1では、存在台数に加えて、区画エリアへの走行車5の進入予定台数を監視し、存在台数と進入予定台数との合計台数という新たな指標に基づいて、区画エリアAに進入予定であった走行車5の区画エリアAへの進入の可否を決定すると共に、区画エリアAを走行経路に含む経路の新たな設定の可否を決定している。これにより、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度に応じた、当該区画エリアAへの走行車5の進入抑制処置を実行できるようになる。この結果、区画エリアAにおける走行車5の存在台数の上限が予め定められている走行車システム1において、当該区画エリアAへ走行車5の進入が制限される(すなわち、進入制限制御が発動する)事態となることを抑制し、搬送効率の低下を抑えることができる。
【0050】
上記実施形態の走行車システム1では、走行車コントローラ3は、上述したような進入第一予備制御及び第二予備制御を実行する。これにより、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度が低いときには、相対的に緩やかに、当該区画エリアAへ走行車5の進入が禁止される事態となることを抑制し、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度が高いときには、相対的に速やかに、当該区画エリアAへ走行車5の進入が禁止される事態となることを抑制することができる。すなわち、存在台数が第一所定値に到達するまでの緊急度に応じて、当該区画エリアAへの走行車5の適切な進入抑制処置が可能となる。
【0051】
上記実施形態の走行車システム1では、走行車コントローラ3は、区画エリアAの範囲を自由に設定可能に設けられているので、稼働状況にあわせて区画エリアAの範囲を適切に設定することができる。
【0052】
以上、一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られない。発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
上記実施形態では、第一予備制御及び第二予備制御の両方を発動するように構成された例を挙げて説明したが、第一予備制御及び第二予備制御の一方のみを発動するように構成されてもよい。
【0054】
上記実施形態及び変形例では、図1に示される軌道11のレイアウトを例に挙げて説明したが、所定の区画エリアAが設定されさえすれば、軌道11のレイアウトはどのような態様であってもよい。また、軌道11に対し設定される区画エリアAは、一つであってもよいし、3つ以上設定されてもよい。
【0055】
上記実施形態では、上位コントローラと走行車コントローラ3とが別体として構成されている例を挙げて説明したが、一体として構成されてもよい。
【0056】
上記実施形態及び変形例の走行車システム1では、走行車の一例として天井走行車5を挙げて説明したが、走行車のその他の例には、床面又は架台に配設された軌道を走行する無人走行車等が含まれる。
【0057】
上記実施形態及び変形例では、走行車コントローラ3が、進入制限制御、第一予備制御及び第二予備制御を実行する例を挙げて説明したが、区画エリアAにおける走行車5の存在台数が第一所定値に到達すると区画エリアAへの走行車の進入を制限すると共に、区画エリアAへの走行車5の進入予定台数も監視し、存在台数と進入予定台数との合計台数に基づいて、合計台数を取得時に区画エリアAに進入予定であった走行車5の区画エリアAへの進入の可否を決定すると共に、区画エリアAを走行経路に含む経路の新たな設定の可否を決定し、決定された進入の可否及び設定の可否に基づいて走行車5の走行を制御する一連の方法をコンピュータに実行させるプログラムとして構成されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…走行車システム、3…走行車コントローラ、5(5A,5C,5D,5E,5F,5G)…天井走行車(走行車)、11…軌道、40…制御部、41…エリア管理部、42…地図情報管理部、43…台数算出部、44…台数管理部、45…経路探索部、46…走行コスト管理部、47…指令割付部、48…走行車制御部、A(A1,A2)…エリア。
図1
図2
図3
図4
図5