(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20231031BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C23C26/00 C
C23C28/00 C
(21)【出願番号】P 2021146269
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2020151346
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】森本 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真司
(72)【発明者】
【氏名】水野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】戸畑 潤也
(72)【発明者】
【氏名】古谷 真一
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-005489(JP,A)
【文献】特開2012-072438(JP,A)
【文献】特開2007-297686(JP,A)
【文献】特開2016-199794(JP,A)
【文献】特開2016-098380(JP,A)
【文献】特開2012-071490(JP,A)
【文献】特開2011-131586(JP,A)
【文献】特開平06-240469(JP,A)
【文献】特開2019-026893(JP,A)
【文献】特開2018-168467(JP,A)
【文献】特開2010-236027(JP,A)
【文献】特開2009-079291(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021197(WO,A1)
【文献】特開2010-196088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C26/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強さが1180MPa以上の鋼板であって、鋼板表面上に非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数が
0.16以下であり、前記皮膜の膜厚が100nm以上であり、さらに、前記非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数と前記皮膜の膜厚が
式(2)を満たす鋼板。
(1/μ)×t≧1000・・・(2)
なお、式(2)において、
μ:非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数、t:非金属からなる皮膜の膜厚(nm)
である。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼板において、鋼板表面上にめっき層を有し、前記めっき層上に前記非金属からなる皮膜を有する鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断端面で発生する遅れ破壊を抑制可能とする鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の構造部材を軽量化する観点から、使用する鋼板を高強度化することによって板厚を低減する努力が進められている。このような鋼板の高強度化にともない、遅れ破壊が生じやすくなることが知られており、従来の自動車用部材では問題になることのなかった遅れ破壊に対する懸念が新たに浮上してきた。
【0003】
遅れ破壊とは、高強度鋼部品が静的な負荷応力を受けた状態で、ある時間が経過したとき、外見的にはほとんど塑性変形を伴うことなしに、突然脆性的に破壊する現象である。広義には液体金属接触割れや応力腐食割れなども含まれるが、自動車用部品で問題になるのは腐食に伴い鋼中に侵入する水素によって引き起こされる水素脆化型の遅れ破壊である。遅れ破壊を引き起こす因子としては、材料(強度)、加工(歪・応力)、水素の3因子であることが知られている。ここで、金属材料への水素の侵入原因としては、金属材料と接触する溶液・溶媒からの侵入や、使用される環境下で金属材料が腐食することに伴って発生する水素の侵入が考えられる。
【0004】
この遅れ破壊は、鋼板の場合についていえば、プレス成形により所定の形状に成形したときの残留引張り応力と、応力集中部における鋼の水素脆性により生じるものであることが知られている。
【0005】
近年、1180MPa以上の高強度鋼板における遅れ破壊の評価方法についても、種々の提案がなされている。例えば、せん断加工後にU曲げ加工した試験片(鋼板)を用いて遅れ破壊特性を評価する方法が挙げられる。せん断加工後の鋼板のせん断端面には、ひずみ(刃と鋼板の接触による加工硬化や残留応力)およびひずみによる微小なき裂が生じる。このひずみおよび微小なき裂によって、U曲げ加工を施した鋼板のせん断端面の割れ発生頻度が異なることがあり、遅れ破壊特性におよぼすせん断端面の影響が問題となっている。また、実際の自動車用部材においてもせん断端面は存在するため、せん断端面のひずみおよび微小なき裂による遅れ破壊は大きな問題となりうる。
【0006】
こうしたせん断端面の遅れ破壊特性を良くするため、特許文献1や特許文献2で開示された技術では、せん断条件または打ち抜き条件を制御することでせん断端面の残留応力を低下させている。
【0007】
しかしながら、これだけではせん断端面に発生する微小なき裂を抑制することが難しく、せん断端面の遅れ破壊を抑制することは難しい。さらに、せん断端面のみならず、せん断時に刃と鋼板が接触した部分については、刃と鋼板の接触による加工硬化や残留応力の影響を受ける。このため、刃と鋼板が接触する部分においても発生する微小なき裂を抑制する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-223663号公報
【文献】特開2006-224151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、せん断時に刃と鋼板が接触する部分およびせん断端面の遅れ破壊を抑制可能な鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は次のとおりである。
[1]引張強さが1180MPa以上の鋼板であって、鋼板表面上に非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数が0.5以下であり、前記皮膜の膜厚が10nm以上であり、さらに、前記非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数と前記皮膜の膜厚が式(1)を満たす鋼板。
(1/μ)×t≧100・・・(1)
なお、式(1)において、
μ:非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数、t:非金属からなる皮膜の膜厚(nm)
である。
[2]前記[1]に記載の鋼板において、鋼板表面上にめっき層を有し、前記めっき層上に前記非金属からなる皮膜を有する鋼板。
[3]前記[1]または[2]に記載の鋼板において、前記非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数と前記皮膜の膜厚が式(2)を満たす鋼板。
(1/μ)×t≧1000・・・(2)
なお、式(2)において、
μ:非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数、t:非金属からなる皮膜の膜厚(nm)
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、せん断時に刃と鋼板が接触する部分の微小なき裂や、せん断端面に入るひずみおよび微小なき裂の発生を抑制することができ、せん断端面の遅れ破壊特性を向上することが可能である。このため、本発明の鋼板は自動車用部材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
【
図2】
図2は、
図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、曲げ加工およびボルト締結後の試験片の模式図である。
【
図4】
図4は、実施例における金属光沢部の観察箇所を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、引張強さが1180MPa以上の鋼板であって、鋼板表面上に非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数が0.5以下であって、皮膜の膜厚が10nm以上であり、非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数と膜厚が後述の式(1)を満たすことを特徴とする。
【0014】
以下、本発明について説明する。
【0015】
引張強さが1180MPa以上
本発明では、遅れ破壊が発生しやすい1180MPa以上の引張強さを有する鋼板を用いる。なお、鋼板表面上にはめっき層を有してもよい。鋼板の耐食性を向上させるため、鋼板表面にZn、Fe、Al、Mg、Ni、およびSiを少なくとも1種類以上含むめっき層を有することが好ましい。また、めっき層を有する鋼板の場合、後述する非金属からなる皮膜は、めっき層上に形成されるものとする。
【0016】
鋼板表面に非金属からなる皮膜
せん断もしくは打ち抜きの刃が鋼板に直接あたると、せん断時に刃と鋼板が接触する部分およびせん断端面が押しつぶされて加工硬化してしまい、せん断時に刃と鋼板が接触する部分およびせん断端面には微小なき裂が入りやすくなる。この微小なき裂が遅れ破壊を起こしやすくするため、せん断もしくは打ち抜きの刃による加工硬化および微小なき裂の発生を抑える必要がある。なお、本発明において、せん断(機)の上刃および下刃、ならびに、打ち抜き(機)のポンチおよびダイスのことを、単に刃(可動刃)と称することもある。
【0017】
せん断端面のひずみによる加工硬化を抑制するため、本発明では鋼板表面上に非金属からなる皮膜を有する。皮膜が金属である場合、プレス成形の際に、皮膜が鋼板表面に凝着してしまう。このため、自動車用部材として化成処理や電着塗装をする際に、金属の凝着部が化成処理および電着塗装不良の原因となる。
【0018】
鋼板表面上に非金属からなる皮膜を有することにより、せん断もしくは打ち抜きの刃と鋼板の間の摩擦係数を低下させる効果だけでなく、せん断もしくは打ち抜き時の圧縮応力を緩和させ、鋼板表面の加工硬化を抑制する効果がある。その結果、微小なき裂の発生を抑制し、せん断端面からの遅れ破壊を抑制可能とする。
【0019】
非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数が0.5以下
せん断端面のひずみ抑制効果を発現するためには、非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数は、0.5以下とする。好ましくは0.3以下が望ましい。摩擦係数が小さくなると、鋼板とせん断もしくは打ち抜きの刃の間の面圧が小さくなり、ひずみが抑制しやすい。摩擦係数が0.5より大きいとひずみの抑制効果は発現できない。
【0020】
皮膜の膜厚が10nm以上
皮膜の膜厚は10nm以上とする。皮膜の膜厚が10nm未満であると、皮膜が薄いため、ひずみおよび微小なき裂の抑制効果は発現できない。さらに、皮膜によるクッション効果によるひずみ抑制を発現するためには皮膜の厚さは、好ましくは100nm以上、より好ましくは1000nm以上であることが望ましい。一方、皮膜の膜厚が大きくなると所定のプレス成形が難しくなることと、コスト高を招くことから皮膜の膜厚は1mm以下とすることが好ましい。
【0021】
なお、皮膜の膜厚は、後述する実施例の方法により測定すればよい。
【0022】
非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数と膜厚が下記式(1)を満たす。
(1/μ)×t≧100・・・(1)
なお、式(1)において、
μ:非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数、t:非金属からなる皮膜の膜厚(nm)
である。
【0023】
好ましくは、非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数と皮膜の膜厚が下記式(2)を満たす。
(1/μ)×t≧1000・・・(2)
μ:非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数、t:非金属からなる皮膜の膜厚(nm)
である。
【0024】
皮膜には、せん断もしくは打ち抜きの刃と鋼板の間の摩擦係数を低下させる効果だけでなく、せん断もしくは打ち抜き時の圧縮応力を緩和させ、鋼板表面の加工硬化を抑制する効果がある。このため、式(1)の範囲外の場合は、摩擦係数が大きく、膜厚が薄い場合となり、ひずみおよび微小き裂抑制効果が小さい。
【0025】
本発明における皮膜の種類は、特段限定する必要はないが、例えば、無機系皮膜、有機系皮膜があげられる。無機系皮膜として、Mn-P系酸化物皮膜、Ni系無機皮膜、亜鉛系酸化皮膜、銅系酸化皮膜、鉄系酸化皮膜があげられる。また、有機系皮膜として、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂があげられる。また、皮膜は、有機無機複合皮膜であっても効果を発現することができる。
【0026】
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の鋼板は、引張強さが1180MPa以上の鋼板に非金属からなる皮膜を付与することにより得ることができる。
【0028】
鋼板表面に皮膜を付与する方法としては、前処理後に皮膜を付与すればよい。鋼板に所定の引張強さを確保するため、固溶強化元素のSiや、マルテンサイト変態を容易にするMn等が軟鋼に比べて多く含まれる。このため、鋼板表面またはめっき層表面にはSiやMnなどの高温酸化物が形成する。この酸化物によって鋼板表面またはめっき層表面が不活性になり、無機系皮膜、有機系皮膜、有機無機複合皮膜を効果的に付与することが難しい。そこで、皮膜付与の前処理として、酸性の溶液に鋼板を浸漬し、SiやMnなどの酸化物を除去する必要がある。酸性の溶液は特に限定しないが、好ましくは、SiやMnを効果的に除去するため、フッ化水素酸(30~50%)/過酸化水素の液量比率が1/30~1/9となるように混合し、液温度が10~70℃になるよう調整すればよい。この酸性溶液に鋼板を1~10秒浸漬し、その後、飽和の炭酸水素ナトリウムに浸漬して表面を中和することで皮膜を効果的に付与可能となる。また、酸性溶液に浸漬してSiやMnなどの高温酸化物の除去が難しい場合は、鋼板表面に電気めっきによるFeめっきもしくはZnめっきを施してもよい。鋼板表面上の高温酸化物を電気めっき層で覆い、表面が活性になることで無機系皮膜、有機系皮膜、有機無機複合皮膜を効果的に付与可能となる。
【0029】
無機系皮膜、有機系皮膜、有機無機複合皮膜においては、皮膜成分を含む塗料を鋼板表面に塗布する手段は特に限定しないが、浸漬やロールコータが好適に用いられる。乾燥は、室温での自然乾燥または加熱乾燥による焼き付け処理が用いられる。加熱乾燥による焼き付け処理は、ドライヤー熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱乾燥による焼き付け処理は、到達板温で50~350℃、好ましくは、80~250℃の範囲が特に好ましい。加熱温度が50℃未満では皮膜中の溶媒が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、加熱温度が350℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下する恐れがある。
【0030】
ここで、皮膜の膜厚については、浸漬の場合は浸漬時間を変える、ロールコータの場合はロールの圧下力やロールの回転速度、塗料の粘度を変えることにより制御すればよい。また、摩擦係数については、付与する皮膜の種類により定まるものである。
【実施例】
【0031】
本発明について実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0032】
皮膜の種類は、表1に示す通り、皮膜なし、有機系皮膜のエポキシ系樹脂、有機無機複合皮膜のエポキシ系樹脂/結晶性層状物、無機系皮膜の塩基性硫酸亜鉛3~5水和物とした。表1に示す各皮膜を、表2に示す1.4mm厚の冷延鋼板または各めっき鋼板表面上に設けた。
【0033】
皮膜形成に際し、冷延鋼板またはめっき鋼板をアルカリ脱脂処理した後、前処理を行った。冷延鋼板は、前処理としてアルカリ脱脂処理した後、フッ化水素酸(30~50%)/過酸化水素の液量比率が1/30となるように混合し、液温度が10℃になるよう調整し、鋼板を5秒浸漬し、その後、飽和の炭酸水素ナトリウムに浸漬して表面を中和し、水洗乾燥した。各めっき鋼板はアルカリ脱脂後に前処理として電気めっきにてZnめっきを施した。
【0034】
各皮膜は以下の方法により鋼板表面上に設けた。
【0035】
有機系皮膜のエポキシ系樹脂は、アミン変性エポキシ樹脂/ブロックイソシアネート硬化剤をロールコータにより鋼板表面に塗布し、140℃で焼付した。なお、膜厚については、ロールコータの速度を変えて適宜制御した。
【0036】
有機無機複合皮膜のエポキシ系樹脂/結晶性層状物は、あらかじめ硝酸マグネシウム・6水和物水溶液113g/Lと硝酸アルミニウム・9水和物水溶液83g/Lに炭酸水素ナトリウム・10水和物水溶液31g/Lを滴下することで精製し得られた沈殿物をろ過し、乾燥して得た結晶性層状物の[Mg0.667Al0.333(OH)2][CO3
2]0.167・0.5H2Oをアミン変性エポキシ樹脂/ブロックイソシアネート硬化剤と10:2(アミン変性エポキシ樹脂/ブロックイソシアネート硬化剤:結晶性層状物)の質量比で混ぜ、ロールコータにより供試材に塗布し、140℃で焼付した。結晶性層状物が[Mg0.667Al0.333(OH)2][CO3
2]0.167・0.5H2OであることはXRD解析で確認した。なお、膜厚については、ロールコータの速度を変えて適宜制御した。
【0037】
無機系皮膜の塩基性硫酸亜鉛3~5水和物は、濃度:20g/L、温度:50℃の硫酸亜鉛・7水和物水溶液に鋼板を浸漬し(浸漬時間については、皮膜K:3秒、皮膜L:60秒、皮膜M:100秒)、その後十分に水洗を行った後に乾燥して得た。塩基性硫酸亜鉛3~5水和物であることはXRD解析で確認した。なお、膜厚については、浸漬時間を変えて適宜制御した。
【0038】
このようにして得られた各鋼板について、皮膜の膜厚を測定した。有機系皮膜(エポキシ系樹脂)、有機無機複合皮膜(エポキシ系樹脂/結晶性層状物)は、FIBを用いて皮膜の断面を45°にスパッタリングし、極低加速SEMで断面を観察し、任意の10点を測定した平均値とした。無機系皮膜(塩基性硫酸亜鉛3~5水和物)は、蛍光X線分析装置で得られた値を膜厚とした。蛍光X線分析装置の測定条件として、管球の電圧および電流は30kVおよび100mAとし、分光結晶TAPに設定してO-Kα線の測定に際しては、そのピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、O-Kα線の正味の強度が算出できるようにした。なお、ピーク位置およびバックグラウンド位置での積分時間は、それぞれ20秒とした。また、試料ステージには、96nm、54nm、24nmの酸化シリコン皮膜を形成したシリコンウエハーをセットし、これら酸化シリコン皮膜のO-Kα線の強度を算出できるようにし、酸化膜厚とO-Kα線強度との検量線を作成し、酸化シリコン皮膜換算での値を膜厚とした。
【0039】
また、各非金属からなる皮膜を有する鋼板の摩擦係数を以下のようにして測定した。
図1は摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、鋼板から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押し上げることによりビード6による摩擦係数測定用試料1への押し付け荷重Nを測定するための第1ロードセル7がスライドテーブル支持台5に取り付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させた際の摺動抵抗力Fを測定するために第2ロードセル8がレール9の上を動くように、スライドテーブル3の一方の端部に取り付けられている。なお、潤滑油としてスギムラ化学工業(株)製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを摩擦係数測定用試料1の表面に塗布して試験を行った。
図2は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。
図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ4mm、摺動方向両端の下部は曲率0.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。摩擦係数測定試験は
図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとした。試料とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0040】
また、得られた鋼板について、クリアランス:5%、可動刃の速度:1m/secとして、100mm×30mmにせん断し、試験片を得た。得られた試験片のせん断端面の破断面がダイス側、せん断面がポンチ側になるようR=10mmで180°曲げ加工を施した。曲げ加工後の試験片について、以下の評価を行った。
【0041】
(ひずみ抑制効果)
ひずみ抑制効果は、せん断時に刃と鋼板が接触する部分(
図4参照。)における、金属光沢部(刃で鋼板表面が押しつぶされることによってできる平滑な面)の有無を観察した。金属光沢部が刃と鋼板の接触部分全体に存在する場合は抑制効果なし、金属光沢部がない場合は抑制効果ありと判断した。また、金属光沢部が点在する場合は、金属光沢部が一部ありと判断した。金属光沢部は、刃によって押しつぶされた箇所となり、鋼板に圧延加工を施して歪を与えた状態に類似する。このことから、金属光沢部がある場合はひずみ抑制効果なし、金属光沢部がない場合はひずみ抑制効果ありとした。
【0042】
(微小き裂)
キーエンス製のマイクロスコープを用いて、
図3に示す曲げR止まり部(曲げR加工を受けた部分)の曲げ部外側に発生したき裂の個数を確認した。き裂の個数が5個以下であれば抑制効果ありと判断した。
【0043】
(遅れ破壊特性)
曲げ加工後、ボルト締結により曲げに伴うスプリングバック分を締め込み、曲げ頂点部の表層に応力を負荷した。曲げ加工およびボルト締結後の試験片の模式図を
図3に示す。
図3に示したボルト締め込み後の試験片をpH3の塩酸に浸漬し、割れ発生までの時間で評価した。最大浸漬時間は100時間とした。浸漬100時間たっても割れなかったものは評価a、浸漬50時間以上100時間未満で割れたものは評価b、浸漬10時間以上50時間未満で割れたものは評価c、浸漬時間10時間未満で割れたものは評価dとした。さらに100時間で割れなかった評価aの材料を、追加でpH2の塩酸に浸漬し、100時間浸漬しても割れなかったものを評価a+とし、100時間未満で割れたものは評価aのままとした。評価a+、aまたはbを合格と判断した。
【0044】
以上より得られた結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
表2より、本発明はいずれも遅れ破壊特性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力