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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】性能評価方法、および性能評価システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/00 20060101AFI20231031BHJP
   H04R 29/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61B 5/1171 20160101ALI20231031BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20231031BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20231031BHJP
   G09B 23/14 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G10K15/00 L
H04R29/00
A61B5/1171
A61B5/107
G09B23/28
G09B23/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021563551
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019048843
(87)【国際公開番号】W WO2021117205
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】荒川 隆行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良峻
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110269626(CN,A)
【文献】特開2005-032056(JP,A)
【文献】特開2015-165717(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0057941(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00-15/12
H04R 29/00
A61B 5/1171
A61B 5/107
G09B 23/28
G09B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
模型を用いて、耳音響認証に使用されるイヤホン型デバイスの性能を評価する方法であって、
前記耳模型は、穴を設けられた複数のプレート型部材と、一個人の鼓膜に対応する人工鼓膜部材とを備え、前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の外耳道を模擬するように、前記複数のプレート型部材が前記人工鼓膜部材の上に積層されており、
前記イヤホン型デバイスから、前記一個人の外耳道口に相当する前記耳模型の部位に向かって、検査信号を発信し、
前記検査信号が前記耳模型内を伝播した後に前記耳模型から発信される反響音を、前記イヤホン型デバイスを用いて集音し、
集音した前記反響音に基づく反響信号から、前記耳模型の音響特性を算出し、
前記音響特性に基づいて、前記イヤホン型デバイスの性能を評価する
ことを含む性能評価方法。
【請求項2】
前記耳模型に対し、同一のイヤホン型デバイスを着脱することを繰り返し、
前記耳模型に対し、前記同一のイヤホン型デバイスを着脱するごとに、前記音響特性を算出し、
繰り返し算出された前記音響特性の分散に基づいて、前記同一のイヤホン型デバイスの第1の性能を評価する
ことを特徴とする請求項に記載の性能評価方法。
【請求項3】
形状の異なる複数の耳模型に関して、前記音響特性をそれぞれ算出し、
前記複数の耳模型のそれぞれの形状を表すパラメータと、前記複数の耳模型のそれぞれの音響特性とを紐付けた音響特性データを蓄積し、
前記複数の耳模型の間における前記音響特性の分散に基づいて、前記イヤホン型デバイスの第2の性能を評価する
ことを特徴とする請求項またはに記載の性能評価方法。
【請求項4】
前記パラメータは、前記一個人の外耳道口から鼓膜までの長さに対応する前記複数のプレート型部材の枚数、および、前記一個人の外耳道の太さに対応する前記穴の径の大きさのうち、少なくともいずれか一方である
ことを特徴とする請求項に記載の性能評価方法。
【請求項5】
前記複数のプレート型部材の厚みおよび枚数が、前記一個人の外耳道口から鼓膜までの長さに対応する
ことを特徴とする請求項1に記載の性能評価方法
【請求項6】
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴の径の大きさが、前記一個人の外耳道の太さに対応する
ことを特徴とする請求項1または5に記載の性能評価方法。
【請求項7】
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することによって前記耳模型内に形成される空洞内の空気圧を制御する
ことを特徴とする請求項1、5、または6のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項8】
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の外耳道および中耳腔をそれぞれ模擬するように、前記複数のプレート型部材が前記人工鼓膜部材を挟んで両側にそれぞれ積層された
ことを特徴とする請求項1、または、請求項5から7のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項9】
前記耳模型は、
前記一個人の声道内の筋肉に対応する人工筋肉部材をさらに備え、
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の声道を模擬するように、前記人工筋肉部材と前記人工鼓膜部材との間において、前記複数のプレート型部材が積層された
ことを特徴とする請求項1、または、請求項5から8のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項10】
穴を設けられた複数のプレート型部材と、一個人の鼓膜に対応する人工鼓膜部材とを備え、前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の外耳道を模擬するように、前記複数のプレート型部材が前記人工鼓膜部材の上に積層されている耳模型と、
前記一個人の外耳道口に相当する前記耳模型の部位に向かって、検査信号を発信し、前記検査信号が前記耳模型内を伝播した後に前記耳模型から発信される反響音を集音するイヤホン型デバイスと、
集音した前記反響音に基づく反響信号から、前記耳模型の音響特性を算出し、前記音響特性に基づいて、前記イヤホン型デバイスの性能を示す指標値を算出する演算装置と
を備えた性能評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳模型、性能評価方法、および性能評価システムに関し、特に、人間の耳穴の形状の個人特性に基づいた個人認証技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体が持つ個人特性に基づいた個人認証技術(生体認証技術と呼ぶ)として、例えば、指紋認証、静脈認証、顔認証、虹彩認証、そして音声認証などが知られている。個人認証技術のうち、特に、耳音響認証は、人間の耳穴の内部構造の個人特性に着目する。耳音響認証では、認証の対象である個人の耳穴に検査信号を入力し、耳穴からの反響音に基づく反響信号を用いて、個人認証を行う。
【0003】
個人認証の対象である個人(認証対象者)は、スピーカおよびマイクロフォンを内蔵したイヤホンの形状を有するデバイス(イヤホン型デバイスあるいはヒアラブルデバイスと呼ぶ)を耳介に装着する。イヤホン型デバイスのスピーカは、認証対象者の耳穴内へ向けて、検査信号(音波)を発信する。イヤホン型デバイスのマイクロフォンは、耳穴からの反響音を集音する。そして、反響音に基づく反響信号が、イヤホン型デバイスから個人認証装置へ送信される。個人認証装置は、予め登録された一または複数の個人の反響信号と、イヤホン型デバイスから受信した反響信号とを照合することによって、個人認証を実行する。
【0004】
耳音響認証技術は、瞬時かつ安定的に個人認証が完了すること、個人が移動中または作業中であっても、個人がイヤホン型デバイスを装着したまま、即時に個人認証を行うことができること(ハンズフリー)、また、人間の耳穴の内部構造に関する秘匿性が高いことといったメリットを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/069118号
【文献】国際公開第2013/172039号
【文献】特表2005-535017号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「PATTERN RECOGNITION AND MACHINE LEARNING」(CHRISTOPHER M. BISHOP) (Springer Science + Business Media, LLC)(2010/2/15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
関連する耳音響認証技術において、イヤホン型デバイスの性能評価が行われる。具体的には、複数の被験者に同じイヤホン型デバイスを順番に装着させて、耳音響認証を試験し、イヤホン型デバイスの性能の指標値である本人拒否率(False Rejection Rate, FRR)および他人受入れ率(False Acceptance Rate, FAR)を算出する。しかしながら、イヤホン型デバイスの性能を正確に評価するために、被験者たちを長時間にわたって拘束する必要があるので、性能評価に係る手間が大きく、かつコストが高いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耳音響認証に使用するイヤホン型デバイスの性能を容易かつ低コストで評価するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係わる耳模型は、穴を設けられた複数のプレート型部材と、一個人の鼓膜に対応する人工鼓膜部材とを備え、前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の外耳道を模擬するように、前記複数のプレート型部材が前記人工鼓膜部材の上に積層されている。
【0010】
本発明の一態様に係わる性能評価方法は、前記耳模型を用いて、耳音響認証に使用されるイヤホン型デバイスの性能を評価する方法であって、前記イヤホン型デバイスから、前記一個人の外耳道口に相当する前記耳模型の部位に向かって、検査信号を発信し、前記検査信号が前記耳模型内を伝播した後に前記耳模型から発信される反響音を、前記イヤホン型デバイスを用いて集音し、集音した前記反響音に基づく反響信号から、前記耳模型の音響特性を算出し、前記音響特性に基づいて、前記イヤホン型デバイスの性能を評価することを含む。
【0011】
本発明の一態様に係わる性能評価システムは、前記耳模型と、前記イヤホン型デバイスから、前記一個人の外耳道口に相当する前記耳模型の部位に向かって、検査信号を発信し、前記検査信号が前記耳模型内を伝播した後に前記耳模型から発信される反響音を集音するイヤホン型デバイスと、集音した前記反響音に基づく反響信号から、前記耳模型の音響特性を算出し、前記音響特性に基づいて、前記イヤホン型デバイスの性能を示す指標値を算出する演算装置とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、耳音響認証に使用するイヤホン型デバイスの性能を容易かつ低コストで評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係わる性能評価システムの構成を示す概略図である。
図2】実施形態1に係わる性能評価システムが備えた耳模型の断面図である。
図3】実施形態1に係わる耳模型が備えたプレート型部材の形状を示す図である。
図4】実施形態1に係わる演算装置の構成を示すブロック図である。
図5】実施形態1に係わる演算装置の音響特性蓄積部が生成する音響特性データの一例である。
図6】実施形態1に係わる演算装置の動作を示すフローチャートである。
図7】実施形態1に係わる性能評価システムによるイヤホン型デバイスの性能の評価結果(J値)を示すグラフである。
図8】実施形態2に係わる耳模型の断面図である。
図9】実施形態3に係わる耳模型の断面図である。
図10】実施形態1から3のいずれかに係わる演算装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
図1図7を参照して、実施形態1について以下で説明する。
【0015】
(性能評価システム1)
図1を参照して、本実施形態1に係わる性能評価システム1の構成を説明する。図1は、性能評価システム1の構成を示す概略図である。図1に示すように、性能評価システム1は、演算装置10、耳模型20、およびイヤホン型デバイス30を備えている。性能評価システム1は、イヤホン型デバイス30の性能を評価するために用いられる。
【0016】
演算装置10は、検査信号を再生し、イヤホン型デバイス30から耳模型20へ、検査信号を発信させる。そして、演算装置10は、検査信号が耳模型20内を伝播した後に耳模型20から発信される反響音に基づく反響信号を観測し、反響信号に基づいて、イヤホン型デバイス30の性能を示す指標値を算出する。
【0017】
一般的に、イヤホン型デバイス30の性能には、2つの要素が存在する。すなわち、本人拒否率(FRR)、および、他人受入れ率(FAR)である。イヤホン型デバイス30の性能が高いとは、本人拒否率(FRR)および他人受入れ率(FAR)がどちらも低いことである。本実施形態1では、演算装置10は、イヤホン型デバイス30の性能を示す一つの指標値として、J値を算出する。J値に関しては、後に詳細を説明する。
【0018】
耳模型20は、一個人の耳穴の内部構造を模擬する。より詳細には、耳模型20には穴が設けられており、この穴は、一個人の耳穴における外耳道口から鼓膜までの内部構造(以下、外耳道と呼ぶ)を少なくとも模擬する(耳模型20の穴については後述)。耳模型20の上には、耳介模型が載置されている。耳介模型は、イヤホン型デバイス30の形状と適合するように作製される(図1)。例えば、耳介模型は、個人の耳介の型を取り、その型に流体のシリコーンゴム等の材料を流し込むことによって作製される。あるいは、個人の耳介をスキャンして、耳介の3Dデータを生成し、生成した耳介の3Dデータに基づいて、3Dプリンタ技術によって、耳介模型を作製してもよい。
【0019】
イヤホン型デバイス30は、スピーカおよびマイクロフォンを少なくとも内蔵している。ただし、図1では、模式的に、イヤホン型デバイス30に内蔵されたスピーカおよびマイクロフォンを、イヤホン型デバイス30の表面上に示している。イヤホン型デバイス30は、耳介模型の耳穴口に相当する部分に埋め込むように装着される。イヤホン型デバイス30は、無線または有線で、演算装置10と接続されている。
【0020】
イヤホン型デバイス30は、演算装置10から検査信号を発信するように指示を受信する。イヤホン型デバイス30は、イヤホン型デバイス30に内蔵されたスピーカから、耳介模型に設けられた耳穴口を介し、耳模型20の穴の内部に向けて、検査信号を発信する。また、イヤホン型デバイス30は、検査信号が耳模型20内を伝播した後に耳模型20から発信される反響音を、マイクロフォンによって集音する。イヤホン型デバイス30は、マイクロフォンによって集音した反響音に基づく反響信号を生成して、演算装置10へ反響信号を送信する。
【0021】
(耳模型20a)
図2は、図1に示す耳模型20の一例である耳模型20aの断面図である。図2に示すように、本実施形態1に係わる耳模型20aは、複数のプレート型部材201および1つの人工鼓膜部材202を少なくとも備えている。なお、図2では、耳模型20a上にある耳介模型(人工耳介と呼ぶ場合もある)の図示を省略している。プレート型部材201は例えばアクリル製である。人工鼓膜部材202は例えばシリコンまたはテフロン製の膜である。
【0022】
図2に示す耳模型20aの上面は、図1において、耳介模型が配置されている面に相当する。耳模型20aの最上面に位置するプレート型部材201の穴は、一個人の外耳道口に相当する。耳模型20aの上面(耳介模型と接する面)から、人工鼓膜部材202までの間で、複数のプレート型部材201の中心にそれぞれ設けられた穴が連結することによって、一個人の耳穴の内部構造(具体的には外耳道)を模擬している。複数のプレート型部材201は、積み重なって、中空の筒の中に収容されている。中空の筒内において、上側のプレート型部材201は、自重およびより上側のプレート型部材201の重量によって、下側のプレート型部材201(または人工鼓膜部材202)と密着している。
【0023】
図3は、耳模型20aを構成するプレート型部材201の形状を示す。図3に示すように、プレート型部材201の中心には、プレート型部材201を厚み方向に貫通する穴が設けられている。プレート型部材201の厚みは、例えば5mmである。穴の径の大きさ(R)は、例えば5mmから20mmまでの間で可変である。プレート型部材201は、例えばアクリル製である。
【0024】
しかしながら、プレート型部材201の材料は特に限定されない。一般的に、耳穴の音響特性は、長さおよび太さに依存するが、耳穴の湾曲の複雑さには依存しない。また、耳穴の音響特性は、耳穴の内壁の材質や質感(硬さ)にも依存しない。したがって、耳模型20aは、人間の耳とは異なる材質や質感のプレート型部材201で形成されていても、また複数のプレート型部材201が直線的に並んでいても、耳模型20aの穴と長さおよび太さが等しい一個人の耳穴とほぼ同等の音響特性を備える。
【0025】
耳模型20aにおいて、複数のプレート型部材201は、それぞれのプレート型部材201に予め付与された番号(n)にしたがう並び順で積層されている。複数のプレート型部材201の穴の大きさ(R)および並び順(n)は、耳模型20aが模擬の対象とする個人の耳穴の内部構造に基づいて定められる。
【0026】
耳模型20aを構成する複数のプレート型部材201の厚みおよび枚数が、(耳模型20aの穴の内部構造が模擬している)一個人の外耳道口から鼓膜までの長さに対応する。
【0027】
耳模型20aを構成する複数のプレート型部材201の各々に設けられた穴の径の大きさが、(耳模型20aの穴の内部構造が模擬している)一個人の外耳道の太さに対応する。
【0028】
一個人の耳穴の内部構造に関するデータは、例えば、CT(computed tomography)スキャンによって得られる。この場合、耳模型20aのパラメータ(R,n)は、被験者に対してCTスキャンを実行した結果から得られてもよい。
【0029】
一例では、被験者の外耳道の3次元データをディスプレイに表示して、作業者に対し耳模型20aのパラメータ(R,n)を入力することを要求してもよい。別の例では、演算装置10が、CTスキャンを実行した結果を解析することによって、パラメータ(R,n)を決定する。
【0030】
(適用例)
なお、性能評価システム1は、イヤホン型デバイス30以外の通話デバイスにも適用可能である。例えば、性能評価システム1は、イヤホン型デバイス30に代えて、耳介模型を覆ったヘッドホン型デバイスの性能を評価する。この場合、ヘッドホン型デバイスの耳当て部分に、スピーカおよびマイクロフォンが設けられてもよい。他の適用例では、性能評価システム1は、イヤホン型デバイス30に代えて、受話器に相当する部分にスピーカおよびマイクロフォンを設けた電話機型デバイスの性能を評価することもできる。
【0031】
(演算装置10)
図4を参照して、本実施形態1に係わる演算装置10の構成を説明する。図4は、演算装置10の構成を示すブロック図である。図4に示すように、演算装置10は、検査信号再生部101、反響信号観測部102、音響特性算出部103、入力部104、音響特性蓄積部105、および指標値算出部106を備えている。
【0032】
検査信号再生部101は、耳模型20aへ入力される検査信号を再生する。耳模型20aへ入力された検査信号は、耳模型20aの穴の内部で反響し、反響音が耳模型20aから出力される。検査信号再生部101が再生する検査信号を符号化したデータは、図示しない記録媒体にあらかじめ格納される。検査信号再生部101は、この記録媒体に格納された検査信号のデータを取得して、検査信号を再生する。検査信号の決め方は特に限定されない。例えば、検査信号は、複数の個人の耳穴の一般的な太さや長さに基づいて、いずれの個人の耳穴からの反響音も強く(あるいはS/Nが大きく)なるように、実験的に決定される。
【0033】
反響音は、耳模型20aの穴の内部構造に依存する特性(耳模型20aの音響特性と呼ぶ)を示す。耳模型20aの音響特性は、耳模型20aの穴が模擬する個人の耳穴の音響特性と対応する。個人の耳穴の内部構造は、個別性を持っているので、個人の耳穴の音響特性に基づいて、当該個人を識別することが原理的に可能である。
【0034】
検査信号再生部101は、再生した検査信号を、無線または有線で、イヤホン型デバイス30へ送信し、イヤホン型デバイス30のスピーカから検査信号を出力させる。検査信号は、具体的にはインパルス波である。
【0035】
反響信号観測部102は、イヤホン型デバイス30のマイクロフォンを用いて、耳模型20aからの反響音に基づく反響信号を観測する。より詳細には、検査信号が耳模型20a内を伝播した後に、耳模型20aから反響音が出力される。イヤホン型デバイス30のマイクロフォンは、耳模型20aから出力された反響音を集音する。イヤホン型デバイス30は、マイクロフォンが集音した反響音をデジタルデータに変換することによって、反響信号を生成する。
【0036】
反響信号観測部102は、イヤホン型デバイス30に対し、反響信号を要求する。イヤホン型デバイス30は、無線または有線で、反響信号を反響信号観測部102へ送信する。反響信号観測部102は、無線または有線で、イヤホン型デバイス30から反響信号を受信する。反響信号観測部102は、イヤホン型デバイス30から受信した反響信号を、音響特性算出部103へ送信する。
【0037】
音響特性算出部103は、反響信号観測部102から反響信号を受信する。音響特性算出部103は、受信した反響信号から、耳模型20aの音響特性として、伝達関数を算出する。すなわち、伝達関数は、音響特性の一例である。検査信号に対する耳模型20aの応答(反響信号)に基づく応答関数が、音響特性の他の例である。
【0038】
具体的には、音響特性算出部103は、まず、反響信号から、インパルス応答を抽出する。インパルス応答とは、インパルス波である検査信号に対する耳模型20の応答(反響信号)である。音響特性算出部103は、インパルス応答をフーリエ変換またはラプラス変換することによって、伝達関数を算出する。音響特性算出部103は、算出した伝達関数のデータを、音響特性蓄積部105へ送信する。
【0039】
入力部104は、耳模型20aのパラメータとして、それぞれのプレート型部材201(図4)の中心に設けられた穴の径の大きさ(R)、および、それぞれのプレート型部材201の番号すなわち並び順(n)を示す情報を取得する。例えば、入力部104は、ユーザに対し、表示、音声、またはその他の手段によって、複数のプレート型部材201の各々に設けられた穴の径の大きさ(R)、および、それらのプレート型部材201の並び順の入力を要求する。
【0040】
入力部104は、演算装置10に対するユーザの入力操作を解析することによって、耳模型20aのパラメータ(R,n)を示す情報を取得する。入力部104は、耳模型20aのパラメータ(R,n)を示す情報を、音響特性蓄積部105へ送信する。
【0041】
音響特性蓄積部105は、音響特性算出部103から、伝達関数のデータを受信する。また音響特性蓄積部105は、入力部104から、耳模型20aのパラメータ(R,n)を示す情報を受信する。音響特性蓄積部105は、音響特性算出部103から受信した伝達関数のデータを、耳模型20aのパラメータ(R,n)を示す情報と紐付けて、音響特性データとして、図示しない記録媒体に蓄積する(ここで1回目のフローが終了)。
【0042】
その後、作業者が、耳模型20aからイヤホン型デバイス30を外し、同じ耳模型20aに対し、同じイヤホン型デバイス30を再び装着する(ここから2回目のフローが開始)。演算装置10は、上述した手順で、音響特性のデータを再び取得する。このように、音響特性のデータを繰り返し取得することによって、イヤホン型デバイス30が、単一の耳模型20aへの着脱に対してどれぐらい再現性があるか、すなわち、どれぐらいばらつきの少ない音響特性のデータを取得できるかを評価することができる。
【0043】
以下では、1回目のフローで取得された伝達関数と、2回目以降のフローで取得された伝達関数とを区別するため、フローID:i(i=1,2,・・・)を導入する。演算装置10は、i回目のフローで得られた音響特性のデータ(x)と、パラメータ(R,n)とを紐付けて、記録媒体に格納する。以上の手順を、所定の複数回にわたって繰り返す。その後、音響特性蓄積部105は、記録媒体に蓄積していた音響特性データ(すなわち、伝達関数(x)(i=1,2,・・・)およびパラメータ(R,n))を、指標値算出部106へ送信する。ここまでは、単一の耳模型20a(より詳細には、同一のパラメータを持つ耳模型20a)を用いて、伝達関数(x)(i=1,2,・・・)のデータを収集した。
【0044】
続いて、作業者は、先の耳模型20aとは異なるパラメータ(R,n)を有する別個の耳模型(以下では、仮に耳模型20aと呼ぶ)に、イヤホン型デバイス30を装着する。ここで、別個の耳模型20aのパラメータ(R,n)は、先の耳模型20aのパラメータ(R,n)と異なる。演算装置10は、上述した手順で、所定の複数回分の伝達関数(x)を取得し、パラメータ(R,n)の集合と紐付けて記録媒体に格納する。
【0045】
以下では、互いに異なるパラメータ(R,n)を有する複数の耳模型20aを、耳模型ID:g=1~G(>1)によって区別する。また、耳模型ID:gを付与された耳模型20aを、「耳模型20a(耳模型ID:g)」と記載する場合がある。
【0046】
図5は、音響特性蓄積部105が記録媒体に格納する音響特性データの一例である。図5に示すように、音響特性データは、耳模型20aのパラメータ(R,n)と、伝達関数(x)(i=1,2,・・・)とを含む。前述したように、パラメータ(R,n)は、プレート型部材201の穴の径の大きさ(R)、および、プレート型部材201の番号(n)である。音響特性蓄積部105は、パラメータ(R,n)が互いに異なる複数の耳模型20aについて、それぞれ、図5に示す音響特性データを生成する。
【0047】
指標値算出部106は、音響特性蓄積部105から、図5に示す音響特性データを受信する。指標値算出部106は、受信した音響特性データを用いて、イヤホン型デバイス30の性能を示す指標値を算出する。具体的には、指標値算出部106は、以下の数式にしたがって、VおよびVをそれぞれ算出する。

【0048】
ここで、数式(2)において、太字のy(i=1,2,・・・)は、伝達関数(x)(i=1,2,・・・)を有する耳模型20a(耳模型ID:g)とイヤホン型デバイス30との系に対し、所定の入力があったときの出力を表すベクトル(出力ベクトルと呼ぶ)である。n(g=1~G)は、1つの耳模型20a(耳模型ID:g)に関する計測回数である。μgは、1つの耳模型20a(耳模型ID:g)に関する出力ベクトルの平均値である。μは、全ての耳模型20a(耳模型ID:1~G)に関するμg(g=1~G)の平均値である。Tはベクトルの転置を表す。また(2)式中の2つ目のシグマの「i:=g」は、iが変数であり、gが固定であることを示す。
【0049】
(1)式に示すVは、1つの耳模型20a(耳模型ID:g)と、イヤホン型デバイス30とを一体としてみた系に関する出力ベクトルの平均値μ(g=1~G)の間の分散を、全ての耳模型20a(耳模型ID:1~G)について総和したものである。耳模型20aに対して、イヤホン型デバイス30がどのように取り付けられているかによって、Vは変化するほか、イヤホン型デバイス30のスピーカおよびマイクロフォンの特性、配置、および音量などに応じても、Vは変化する。Vが大きくなるようなイヤホン型デバイス30ほど、耳模型20aの識別(ひいては個人の識別)の面で好ましい。Vは、イヤホン型デバイス30の第1の性能を示す他人受入れ率(FAR)と関連している。
【0050】
(2)式に示すVは、1つの耳模型20a(耳模型ID:g)と、イヤホン型デバイス30とを一体としてみた系に関する。(2)式では、n回のフローで得られた出力ベクトル(太字のy)(i=1,2,・・・,n)の間の分散を求め、全ての耳模型20a(耳模型ID:g=1~G)について、この分散の総和を取ったものである。耳模型20aに対して、イヤホン型デバイス30がどのように取り付けられているかによって、Vは変化するほか、イヤホン型デバイス30のスピーカおよびマイクロフォンの特性、配置、および音量などに応じても、この分散は変化する。Vが小さくなるようなイヤホン型デバイス30ほど、個人認証の成功率(または非認証率)を一定にできる点で好ましい。Vは、イヤホン型デバイス30の第2の性能を示す本人拒否率(FRR)と関連している。以下では、Vを模型間分散(の総和)、Vを自模型内分散(の総和)と、それぞれ呼ぶ場合がある。
【0051】
指標値算出部106は、模型間分散Vおよび自模型内分散Vを用いて、以下のJ値を計算する。J値は、イヤホン型デバイス30と耳模型20aとが一体となった系とみなしたときに、この系の特性を示すものである。J値が大きいほど、演算装置10が耳模型20aを正しく識別する精度が高くなる。
【0052】
厳密に言えば、イヤホン型デバイス30と耳模型20a(あるいは個人)との組み合わせが異なれば、模型間分散Vおよび自模型内分散Vは異なる。しかしながら、十分なサンプル数Gの耳模型20aについて、模型間分散Vおよび自模型内分散Vが求められており、かつ、個々の耳模型20aが、多様な属性(例えば、年齢、性別、人種、身長など)の個人の耳穴と対応しているならば、仮に、いくつかの耳模型20aが別のものに置き換わったとしても、模型間分散Vおよび自模型内分散Vには、それほど大きな差は生じないと考えられる。その場合、演算装置10がある耳模型20a(あるいはある個人)を識別する精度が高いならば、他の耳模型20a(あるいは他の個人)の識別精度も高いことを期待できる。
【0053】
したがって、イヤホン型デバイス30といくつかの耳模型20a(あるいは何人かの個人)の組み合わせについて、模型間分散Vおよび自模型内分散Vを計測し、イヤホン型デバイス30が多数の耳模型20a(あるいは多数の個人)を識別する目的に合っているかどうかを、以下のJ値の大小に基づいて評価することができる。
【0054】
J値は周波数ωの関数である。J値は、フィッシャーの線形判別分析法(Fisher's Linear Discriminative Analysis:LDA)では評価関数と呼ばれる(例えば特許文献3、非特許文献1)。(3)式によれば、模型間分散Vが大きいほど、J値は大きくなる。また、自模型内分散Vが小さいほど、J値は大きくなる。模型間分散Vが大きいことは、イヤホン型デバイス30による耳模型20aの識別機能の精度が高いことを意味する。また、自模型内分散Vが小さいことは、同じ耳模型20aに対して、同じイヤホン型デバイス30の着脱を繰り返しても、耳音響認証が成功する精度の変動が小さいことを意味する。したがって、J値が高いイヤホン型デバイス30は、その性能が高いといえる。
【0055】
(性能評価方法)
図6を参照して、本実施形態1に係わる性能評価システム1の演算装置10が実行する性能評価方法について説明する。図6は、性能評価方法の流れを示すフローチャートである。
【0056】
図6に示すように、性能評価方法では、まず、第1の変数gおよび第2の変数iが設定される(S1、S10)。第1の変数gは、上述した耳模型IDを示す。第2の変数iは、複数回の計測を識別するためのフローIDである。
【0057】
入力部104は、耳模型20a(耳模型ID;g)のパラメータ(R,n)を取得する(S101)。入力部104は、取得したパラメータ(R,n)を示す情報を、音響特性蓄積部105へ送信する。
【0058】
検査信号再生部101は、耳模型20aの穴に入力するための検査信号を再生する(S102)。
【0059】
検査信号再生部101は、再生した検査信号を、無線または有線で、イヤホン型デバイス30(図1)へ送信する。検査信号再生部101は、イヤホン型デバイス30のスピーカから、再生信号を発信させる。イヤホン型デバイス30に内蔵されたスピーカは、耳模型20aの穴に向けて、検査信号を発信する。
【0060】
イヤホン型デバイス30のマイクロフォンが、耳模型20aからの反響音を集音する。イヤホン型デバイス30は、集音した反響音をデジタルデータに変換することによって、反響信号を生成する。そして、イヤホン型デバイス30は、無線または有線で、演算装置10へ反響信号を送信する。
【0061】
図6に戻って、演算装置10の反響信号観測部102は、耳模型20aからの反響音に基づく反響信号を観測する(S103)。具体的には、反響信号観測部102は、イヤホン型デバイス30から、無線または有線で、反響音から生成された反響信号を受信する。
【0062】
音響特性算出部103は、受信した反響信号に基づいて、耳模型20aの音響特性を算出する(S104)。具体的には、音響特性算出部103は、耳模型20aの音響特性として、インパルス応答をフーリエ変換またはラプラス変換した伝達関数を算出する。音響特性算出部103は、算出した伝達関数(x)のデータを、音響特性蓄積部105に送信する。
【0063】
音響特性蓄積部105は、音響特性算出部103から、伝達関数(x)のデータを受信する。また音響特性蓄積部105は、入力部104から、耳模型20aのパラメータ(R,n)を受信する。音響特性蓄積部105は、音響特性算出部103から受信した音響特性のデータ(x)を、パラメータ(R,n)を示す情報と紐付けて、音響特性データ(図5)として、図示しない記録媒体に蓄積する(S105)。
【0064】
その後、上述した第2の変数(フローID)iに1を加算する(S20)。第2の変数iがn以下である場合(S30でNo)、フローは、ステップS101へ戻る。このとき、作業者は、耳模型20aからイヤホン型デバイス30を外し、同じ耳模型20aに対し、同じイヤホン型デバイス30を再び装着する。ここで同じ耳模型20aとは、同じパラメータ(R,n)を有する耳模型20aを意味するので、必ずしも特定の1つの耳模型20aではなくてもよい。
【0065】
第2の変数iがnを上回った場合(S30でYes)、第1の変数g(耳模型ID)に1を加算する(S2)。この場合、フローはステップS3へ進む。なお、図6では、「n」が「n_g」と表記されている。このとき、作業者は、耳模型20aからイヤホン型デバイス30を外し、異なるパラメータ(R,n)を有する別個の耳模型20aに対し、イヤホン型デバイス30を装着する。
【0066】
第1の変数gがGを上回らない場合(S3でNo)、フローは、ステップS10へ戻る。第1の変数gがGを上回る場合(S3でYes)、音響特性蓄積部105は、記録媒体に蓄積した音響特性データを、指標値算出部106へ送信する。
【0067】
指標値算出部106は、音響特性蓄積部105から、音響特性データを受信する。指標値算出部106は、受信した音響特性データを用いて、上述した(3)式にしたがって、イヤホン型デバイス30の性能を示す一つの指標値であるJ値を算出する(S106)。以上で、性能評価方法のフローは終了する。
【0068】
(イヤホン型デバイス30の性能の評価結果)
図7は、演算装置10によるイヤホン型デバイス30の性能の評価結果を示す。図7は、指標値算出部106が算出する指標値であるJ値の一例を示す。図7には、2つのイヤホン型デバイス30(AおよびB)についてのJ値のグラフが示されている。図7によれば、イヤホン型デバイス(B)は、イヤホン型デバイス(A)と比較して、10kHzおよびその近傍の周波数帯において、J値が大きい。すなわち、イヤホン型デバイス(B)は、少なくともこの周波数帯では、イヤホン型デバイス(A)よりも性能が高いといえる。なお、極低周波数帯(0kHz近傍)において、イヤホン型デバイス(A)のJ値と、イヤホン型デバイス(B)のJ値との間の差が大きい理由は、通常のスピーカは、人間が不可聴である極低周波数帯における出力が小さいため、反響音が弱く、また、弱い反響音に対するノイズの影響が相対的に大きいからである。
【0069】
(本実施形態の効果)
本実施形態の構成によれば、複数のプレート型部材201には、穴が設けられており、人工鼓膜部材202は、一個人の鼓膜に対応し、複数のプレート型部材201の各々に設けられた穴が連結することで、一個人の外耳道を模擬するように、複数のプレート型部材201が人工鼓膜部材202の上に積層されている。イヤホン型デバイス30が、耳模型20aに装着されて、イヤホン型デバイス30の性能を評価するために、耳音響認証が試行される。複数のプレート型部材201に設けられている穴の径の大きさ、および、複数のプレート型部材201の並び順を変更することにより、様々なパラメータ(R,n)を持つ耳模型20aを容易に得られる。これにより、耳音響認証に使用するイヤホン型デバイス30の性能を容易かつ低コストで評価することができる。
【0070】
〔実施形態2〕
図8を参照して、実施形態2について説明する。
【0071】
(耳模型20b)
図8は、図1に示す耳模型20の一例である耳模型20bの断面図である。図8に示すように、本実施形態2に係わる耳模型20bは、複数のプレート型部材201および1つの人工鼓膜部材202に加えて、2つの空気圧制御部203をさらに備えている。なお、図8では、耳模型20b上にある耳介模型の図示を省略している。
【0072】
図8に示すように、耳模型20bでは、複数のプレート型部材201が、人工鼓膜部材202を挟んで、上下の両側に配置されている。人工鼓膜部材202よりも上側にある複数のプレート型部材201の穴は、一個人の外耳道を模擬する。一方、人工鼓膜部材202よりも下側にある複数のプレート型部材201の穴は、一個人の中耳腔を模擬する。
【0073】
空気圧制御部203は、耳模型20b内に形成される空洞内の空気圧を制御する。空気圧制御部203は、空気圧制御手段の一例である。例えば、空気圧制御部203は、プレート型部材201に挿入されるバルブ、耳模型20b内に形成される空洞内へ空気を送り込むコンプレッサ、耳模型20b内に形成される空洞内の空気圧を計測する圧力計、および空気を送出するための配管を備えている。
【0074】
1つの空気圧制御部203は、人工鼓膜部材202よりも上側にある複数のプレート型部材201の穴が形成する空間、すなわち一個人の外耳道を模擬する空間内の空気圧を制御する。もう一つの空気圧制御部203は、人工鼓膜部材202よりも下側にある複数のプレート型部材201の穴が形成する空間、すなわち一個人の中耳腔を模擬する空間内の空気圧を制御する。例えば、2つの空気圧制御部203は、一個人の外耳道を模擬する空間内の空気圧が高く(低く)、一個人の中耳腔を模擬する空間内の空気圧が低く(高く)なるように制御する。これにより、例えば高地や上空における低気圧、あるいは、水中における高気圧を耳模型20b内において再現することができる。
【0075】
(本実施形態の効果)
本実施形態の構成によれば、複数のプレート型部材201には、穴が設けられており、人工鼓膜部材202は、一個人の鼓膜に対応し、複数のプレート型部材201の各々に設けられた穴が連結することで、一個人の外耳道を模擬するように、複数のプレート型部材201が人工鼓膜部材202の上に積層されている。イヤホン型デバイス30が、耳模型20bに装着されて、イヤホン型デバイス30の性能を評価するために、耳音響認証が試行される。複数のプレート型部材201に設けられている穴の径の大きさ、および、複数のプレート型部材201の並び順を変更することにより、様々なパラメータ(R,n)を持つ耳模型20bを容易に得られる。これにより、耳音響認証に使用するイヤホン型デバイス30の性能を容易かつ低コストで評価することができる。
【0076】
さらに、本実施形態の構成によれば、空気圧制御部203によって、耳模型20b内に形成される空洞内の空気圧が制御される。これにより、様々な環境下におけるイヤホン型デバイス30の性能を評価することができる。
【0077】
〔実施形態3〕
図9を参照して、実施形態3について説明する。
【0078】
(耳模型20c)
図9は、図1に示す耳模型20の一例である耳模型20cの断面図である。図9に示すように、本実施形態3に係わる耳模型20cは、複数のプレート型部材201および1つの人工鼓膜部材202に加えて、人工筋肉部材204をさらに備えている。なお、図9では、耳模型20c上にある耳介模型の図示を省略している。
【0079】
人工筋肉部材204は、一個人の声道内の筋肉に対応する。人工筋肉部材204は、一個人の声道内の筋肉の構造及び性質を模擬するアクチュエータの一種である。人工筋肉部材204は、例えば、合成樹脂などの高分子で形成される。あるいは、人工筋肉部材204は、形状記憶合金またはヒドロゲルなどによって形成されてもよい。
【0080】
人工筋肉部材204は、耳模型20c内の空洞で生じる空気の振動に応答する。換言すれば、人工筋肉部材204は、空気の振動を弾性エネルギーに変換する。これにより、耳穴内で音響が発生した際の声道の震えを再現できる。さらに、音響と声道の震えの相互作用を再現できる。
【0081】
本実施形態3に係わる耳模型20cでは、前記実施形態2に係わる耳模型20bと同様に、複数のプレート型部材201が、人工鼓膜部材202を介して、上下に配置されている。人工鼓膜部材202よりも上側にある複数のプレート型部材201の穴は、一個人の外耳道を模擬する。人工鼓膜部材202よりも下側で、かつ人工筋肉部材204よりも上側にある複数のプレート型部材201の穴は、一個人の中耳腔を模擬する。
【0082】
また、人工筋肉部材204よりも下側にある複数のプレート型部材201の穴は、一個人の声道を模擬する。すなわち、耳模型20cは、一個人の耳穴における外耳道口(耳介と接続する部分)から声道までの内部構造を模擬する。
【0083】
(本実施形態の効果)
本実施形態の構成によれば、複数のプレート型部材201には、穴が設けられており、人工鼓膜部材202は、一個人の鼓膜に対応し、複数のプレート型部材201の各々に設けられた穴が連結することで、一個人の外耳道を模擬するように、複数のプレート型部材201が人工鼓膜部材202の上に積層されている。イヤホン型デバイス30が、耳模型20cに装着されて、イヤホン型デバイス30の性能を評価するために、耳音響認証が試行される。複数のプレート型部材201に設けられている穴の径の大きさ、および、複数のプレート型部材201の並び順を変更することにより、様々なパラメータ(R,n)を持つ耳模型20cを容易に得られる。これにより、耳音響認証に使用するイヤホン型デバイス30の性能を容易かつ低コストで評価することができる。
【0084】
さらに、本実施形態の構成によれば、人工筋肉部材204は、一個人の声道内の筋肉に対応する。人工筋肉部材204の振動は、耳穴内で音響が発生した際の一個人の声道の震えを再現する。これにより、イヤホン型デバイス30の性能をより精密に評価することができる。
【0085】
〔ハードウェア構成〕
前記実施形態1~3で説明した演算装置10の各構成要素は、機能単位のブロックを示している。これらの構成要素の一部又は全部は、例えば図10に示すような情報処理装置900により実現される。図10は、情報処理装置900のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0086】
図10に示すように、情報処理装置900は、一例として、以下のような構成を含む。
【0087】
・CPU(Central Processing Unit)901
・ROM(Read Only Memory)902
・RAM(Random Access Memory)903
・RAM903にロードされるプログラム904
・プログラム904を格納する記憶装置905
・記録媒体906の読み書きを行うドライブ装置907
・通信ネットワーク909と接続する通信インタフェース908
・データの入出力を行う入出力インタフェース910
・各構成要素を接続するバス911
前記実施形態1~3で説明した演算装置10の各構成要素は、これらの機能を実現するプログラム904をCPU901が読み込んで実行することで実現される。各構成要素の機能を実現するプログラム904は、例えば、予め記憶装置905やROM902に格納されており、必要に応じてCPU901がRAM903にロードして実行される。なお、プログラム904は、通信ネットワーク909を介してCPU901に供給されてもよいし、予め記録媒体906に格納されており、ドライブ装置907が当該プログラムを読み出してCPU901に供給してもよい。
【0088】
(本実施形態の効果)
本実施形態の構成によれば、前記実施形態において説明した演算装置10が、ハードウェアとして実現される。したがって、前記実施形態1~3において説明した効果と同様の効果を奏することができる。
【0089】
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態(及び実施例)に限定されるものではない。実施形態(及び実施例)の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0090】
(付記)
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0091】
(付記1)
穴を設けられた複数のプレート型部材と、
一個人の鼓膜に対応する人工鼓膜部材とを備え、
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の外耳道を模擬するように、前記複数のプレート型部材が前記人工鼓膜部材の上に積層された
耳模型。
【0092】
(付記2)
前記複数のプレート型部材の厚みおよび枚数が、前記一個人の外耳道口から鼓膜までの長さに対応する
ことを特徴とする付記1に記載の耳模型。
【0093】
(付記3)
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴の径の大きさが、前記一個人の外耳道の太さに対応する
ことを特徴とする付記1または2に記載の耳模型。
【0094】
(付記4)
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することによって前記耳模型内に形成される空洞内の空気圧を制御する空気圧制御手段をさらに備えた
ことを特徴とする付記1から3のいずれか1項に記載の耳模型。
【0095】
(付記5)
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の外耳道および中耳腔をそれぞれ模擬するように、前記複数のプレート型部材が前記人工鼓膜部材を挟んで両側にそれぞれ積層された
ことを特徴とする付記1から4のいずれか1項に記載の耳模型。
【0096】
(付記6)
前記一個人の声道内の筋肉に対応する人工筋肉部材をさらに備え、
前記複数のプレート型部材の各々に設けられた前記穴が連結することで、前記一個人の声道を模擬するように、前記人工筋肉部材と前記人工鼓膜部材との間において、前記複数のプレート型部材が積層された
ことを特徴とする付記1から5のいずれか1項に記載の耳模型。
【0097】
(付記7)
付記1から6のいずれか1項に記載の耳模型を用いて、耳音響認証に使用されるイヤホン型デバイスの性能を評価する方法であって、
前記イヤホン型デバイスから、前記一個人の外耳道口に相当する前記耳模型の部位に向かって、検査信号を発信し、
前記検査信号が前記耳模型内を伝播した後に前記耳模型から発信される反響音を、前記イヤホン型デバイスを用いて集音し、
集音した前記反響音に基づく反響信号から、前記耳模型の音響特性を算出し、
前記音響特性に基づいて、前記イヤホン型デバイスの性能を評価する
ことを含む性能評価方法。
【0098】
(付記8)
前記耳模型に対し、同一のイヤホン型デバイスを着脱することを繰り返し、
前記耳模型に対し、前記同一のイヤホン型デバイスを着脱するごとに、前記音響特性を算出し、
繰り返し算出された前記音響特性の分散に基づいて、前記同一のイヤホン型デバイスの第1の性能を評価する
ことを特徴とする付記7に記載の性能評価方法。
【0099】
(付記9)
形状の異なる複数の耳模型に関して、前記音響特性をそれぞれ算出し、
前記複数の耳模型のそれぞれの形状を表すパラメータと、前記複数の耳模型のそれぞれの音響特性とを紐付けた音響特性データを蓄積し、
前記複数の耳模型の間における前記音響特性の分散に基づいて、前記イヤホン型デバイスの第2の性能を評価する
ことを特徴とする付記7または8に記載の性能評価方法。
【0100】
(付記10)
前記パラメータは、前記一個人の外耳道口から鼓膜までの長さに対応する前記複数のプレート型部材の枚数、および、前記一個人の外耳道の太さに対応する前記穴の径の大きさのうち、少なくともいずれか一方である
ことを特徴とする付記9に記載の性能評価方法。
【0101】
(付記11)
付記1から6のいずれか1項に記載の耳模型と、
前記一個人の外耳道口に相当する前記耳模型の部位に向かって、検査信号を発信し、前記検査信号が前記耳模型内を伝播した後に前記耳模型から発信される反響音に基づく反響信号を観測するイヤホン型デバイスと、
集音した前記反響音に基づく反響信号から、前記耳模型の音響特性を算出し、前記音響特性に基づいて、前記イヤホン型デバイスの性能を示す指標値を算出する演算装置と
を備えた性能評価システム。
【符号の説明】
【0102】
1 性能評価システム
20(20a~20c) 耳模型
30 イヤホン型デバイス
201 プレート型部材
202 人工鼓膜部材
203 空気圧制御部
204 人工筋肉部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10