(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】エスカレータ
(51)【国際特許分類】
B66B 29/00 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
B66B29/00 K
(21)【出願番号】P 2022171926
(22)【出願日】2022-10-27
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【氏名又は名称】森 優
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【氏名又は名称】浅野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】新井 晋治
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210345(JP,A)
【文献】特開2019-127342(JP,A)
【文献】特開2014-213997(JP,A)
【文献】特開2006-193241(JP,A)
【文献】特開2010-168188(JP,A)
【文献】特開平09-227063(JP,A)
【文献】国際公開第2008/064394(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0026523(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0118429(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に連結されて循環走行する複数の踏段が階段の形を成して走行する斜行区間を含み、前記踏段に乗った乗客を搬送するエスカレータであって、
開閉により、前記斜行区間における前記乗客の搬送路を開放する状態と閉鎖する状態とに切り換えるゲートと、
前記複数の踏段上における乗客の混雑度を指標する混雑度指標を取得する混雑度指標取得手段と、
前記斜行区間を搬送される乗客が前記ゲートに近づいたことを検出する乗客検出手段と、
前記ゲートの開閉制御を行う制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記混雑度指標取得手段が取得する混雑度指標が所定の混雑度指標以上の高い間は前記ゲートを開き、前記所定の混雑度指標よりも低い間は前記ゲートを閉じ、
前記ゲートを閉じているときに前記乗客検出手段が乗客を検出すると少なくとも当該乗客
がゲート位置を通過するまでの間、前記ゲートを開くことを特徴とするエスカレータ。
【請求項2】
前記混雑度指標は、前記複数の踏段を走行駆動する動力源であるモータに掛かる負荷の大きさであり、
前記制御部は、前記混雑度指標取得手段が取得する前記負荷の大きさが所定の大きさ以上の間は前記ゲートを開き、前記所定の大きさ未満の間は前記ゲートを閉じることを特徴とする請求項1に記載のエスカレータ。
【請求項3】
前記制御部は、前記乗客検出手段により検出された乗客が前記ゲート位置を通過するまでの間に当該乗客検出手段により新たな乗客が検出されると、少なくとも当該新たな乗客が前記ゲート位置を通過するまでの間、前記ゲートを開いた状態を延長することを特徴とする請求項1に記載のエスカレータ。
【請求項4】
前記ゲートをN台(Nは正の整数)有し、
前記N台のゲートの各々が、前記斜行区間を略(N+1)等分する位置にそれぞれ配されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のエスカレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータに関し、特に、荷物等の落下から乗客を保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャリーバッグ等の荷物を伴ったエスカレータの乗客が、不意に前記荷物を落下させてしまう場合がある。この場合、階段状に連続する踏段上を荷物が滑り落ちて(滑落して)次第に速度を増し、下方にいる乗客に勢いよく衝突してしまうことがある。
【0003】
この事態に対処するため、特許文献1では、踏段において踏面とライザとが成す角部に、踏面よりも摩擦係数の大きい微細な凹凸31(引用文献1の
図4A、
図4B)を設けている。これによれば、滑落する荷物が凹凸31に摺接し、摩擦抵抗により荷物の滑落速度が抑制される旨記載されている(特許文献1の段落[0033])。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1に記載のエスカレータよりも滑落する荷物の落下速度をさらに抑制できるエスカレータが開示されている。特許文献2では、踏面とライザとが成す角部を、長さ方向において、第1の滑り抵抗係数を有する領域(第1踏面端部)と、前記滑り抵抗係数とは異なる大きさの第2の滑り抵抗係数を有する領域(第2踏面端部)とに形成している。これによれば、前記第1踏面端部と前記第2踏面端部の滑り抵抗係数の差に起因して滑落する荷物が回転し、直線的に滑落する場合と比較して、滑落速度を一層抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-1854号公報
【文献】特許第7068672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、荷物の形状や、落下開始時の姿勢によっては、滑落ではなく転げ落ちる(転落する)場合がある。また、滑落する荷物が、踏面とライザが成す角部に当たって飛び跳ねて後、転落する場合もある。
【0007】
これらの場合、引用文献1、引用文献2の技術では、荷物の落ちる速度を抑制することは困難であり、落下先に乗車している乗客の保護に欠けてしまう。
【0008】
本発明は、上記した課題に鑑み、転落する荷物等から乗客を可能な限り保護し得るエスカレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエスカレータは、環状に連結されて循環走行する複数の踏段が階段の形を成して走行する斜行区間を含み、前記踏段に乗った乗客を搬送するエスカレータであって、開閉により、前記斜行区間における前記乗客の搬送路を開放する状態と閉鎖する状態とに切り換えるゲートと、前記複数の踏段上における乗客の混雑度を指標する混雑度指標を取得する混雑度指標取得手段と、前記斜行区間を搬送される乗客が前記ゲートに近づいたことを検出する乗客検出手段と、前記ゲートの開閉制御を行う制御部と、を有し、前記制御部は、前記混雑度指標取得手段が取得する混雑度指標が所定の混雑度指標以上の高い間は前記ゲートを開き、前記所定の混雑度指標よりも低い間は前記ゲートを閉じ、前記ゲートを閉じているときに前記乗客検出手段が乗客を検出すると少なくとも当該乗客がゲート位置を通過するまでの間、前記ゲートを開くことを特徴とする。
【0010】
また、前記混雑度指標は、前記複数の踏段を走行駆動する動力源であるモータに掛かる負荷の大きさであり、前記制御部は、前記混雑度指標取得手段が取得する前記負荷の大きさが所定の大きさ以上の間は前記ゲートを開き、前記所定の大きさ未満の間は前記ゲートを閉じることを特徴とする。
【0011】
あるいは、前記制御部は、前記乗客検出手段により検出された乗客が前記ゲート位置を通過するまでの間に当該乗客検出手段により新たな乗客が検出されると、少なくとも当該新たな乗客が前記ゲート位置を通過するまでの間、前記ゲートを開いた状態を延長することを特徴とする。
【0012】
前記ゲートをN台(Nは正の整数)有し、前記N台のゲートの各々が、前記斜行区間を略(N+1)等分する位置にそれぞれ配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成を有する本発明に係るエスカレータによれば、上記混雑度指標が所定の混雑度指標よりも低い間、すなわち、複数の踏段上が比較的空いている間、上記ゲートが閉じられて乗客の搬送路が閉鎖される。これにより、転落した荷物等は、相当な勢いがつく前に前記閉じられたゲートで食い止められるため、相当な勢いで転落する荷物等が乗客に衝突することを可能な限り防止できる。
【0014】
また、上記ゲートが閉じられているときに、搬送される乗客が当該ゲートに近づいたことが検出されると、少なくとも当該乗客が前記ゲート位置を通過するまでの間、当該ゲートが開かれて上記搬送路が開放される。これにより、乗客は上記ゲートに干渉することなく、ゲート位置を搬送される。
【0015】
一方、上記混雑度指標が所定の混雑度指標以上の高い間、すなわち、複数の踏段上が比較的混んでいる間は、荷物等が転落したとしても、当該荷物等は転落開始位置から比較的近い下方を搬送される乗客に当たって、それ以上の落下が食い止められる可能性が高い。すなわち、相当な勢いがつく前に落下が食い止められるため、相当な勢いで転落する荷物等が乗客に衝突する可能性は低いので、ゲートの頻繁な開閉を避けるため、ゲートが開かれた状態が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は、実施形態に係るエスカレータの概略構成を示す斜視図であり、(b)は、前記斜視図におけるゲートユニットの拡大図である。
【
図2】(a)は、上記エスカレータを
図1(a)とは異なる向きから視た斜視図であり、(b)は、前記斜視図におけるゲートユニットの拡大図である。
【
図3】(a)は、上記エスカレータの正面図であり、(b)は、平面図である。
【
図4】(a)は、ゲートユニットのフラップが閉じた状における上記エスカレータの正面図であり、(b)は、同エスカレータの平面図である。
【
図5】制御装置及び当該制御装置に接続されている機器の概略構成を示す図である。
【
図6】上記制御装置で実行されるゲート開閉処理プログラムの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るエスカレータの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、構成要素間の尺度は必ずしも統一していない。
【0018】
図1(a)、
図2(a)は、実施形態に係るエスカレータ10をそれぞれ異なる向きから視た概略構成を示す斜視図である。
図1(b)は、後述するゲートユニット40Aの、
図2(b)は、後述するゲートユニット40Bの拡大図をそれぞれ示している。また、
図3(a)は、エスカレータ10の正面図を、
図3(b)は、同平面図をそれぞれ示している。
【0019】
エスカレータ10は、環状に連結されて循環走行する無端搬送体である複数の踏段12を有する。エスカレータ10は、複数の踏段12が階段の形を成して走行する斜行区間を含み、踏段12に乗った乗客を乗口側から降口側へと搬送する。踏段12の走行路および上下の乗降口を含む乗客の通路PWの両側には、欄干14、16が設置されている。
【0020】
欄干14と欄干16は、通路PWを挟んで対称形をなしており、基本的に同様の構成部材からなる。そこで、対応する構成部材同士には同じ番号を付すこととする。そして、欄干14と欄干16でその構成部材を区別する場合は、欄干14の構成部材には前記番号に「A」を添え、欄干16の構成部材には前記番号に「B」を添えることとする。また、欄干14と欄干16とで区別する必要のない場合は、添え字(A、B)は省略することとする。
【0021】
欄干14、16の各々は、通路PWに沿って列設された複数の欄干パネル18、19、20、21、22、23、24を有する。欄干パネル18~24の各々は、例えば、ガラス製であり、透光性を有している。欄干パネル21と欄干パネル22の間には、後述するゲートユニット40が設置されている。
【0022】
複数の欄干パネル18~24の内、列設方向において両端部に設けられた欄干パネル18、24は、水平方向に張り出した円弧状端部を有する。欄干パネル18、24を特に区別する必要がある場合、「端部欄干パネル18、24」と称し、端部欄干パネル18、24以外の欄干パネルを「中間パネル19、…、23」と称することとする。
【0023】
欄干パネル18~24の上端部および端部欄干パネル18、24の前記円弧状端部には、複数本のガイドレール(不図示)が設けられている。前記複数本のガイドレールには、当該ガイドレールに案内され、踏段12と同じ向きに同じ速度で循環走行する(すなわち、複数の踏段12と同期して走行する)無端ベルト状をしたハンドレール26が装着されている。
【0024】
ガイドレール(不図示)に案内されるハンドレール26は、欄干パネル18、…、24の上部端部に沿って走行する区間(乗客が掴む区間)では、水平方向に走行した後、カーブして直線的に斜行し、またカーブして再び水平方向に走行する。水平方向に走行したハンドレール26は、一方の端部欄干パネルの円弧状端部に沿って走行方向を反転した後、他方の端部欄干パネルへと走行する。
【0025】
複数の踏段12とハンドレール26とは、上部機械室28に設置された搬送モータ30を動力源とし、不図示の動力伝達機構を介して駆動される。建築物の階上USと階下DSに掛け渡されたエスカレータ10は、搬送モータ30の回転方向を正転と逆転とに切り換えることで、昇り用としても降り用としても用いられるのであるが、本例では、エスカレータ10を下り用として使用する場合、すなわち、階上US側が乗り口、階下DS側が降り口となる場合を例に説明する。
【0026】
次に、ゲート41について説明する。ゲート41は、一対のゲートユニット40A、40Bで構成される。本例において、ゲート41は、複数の踏段12が階段の形を成して走行する斜行区間の略中央(斜行区間を略2等分する位置)に設けている。具体的には、中間パネル21と中間パネル22の間に設けている。
【0027】
ゲートユニット40は、方形箱体をした筐体42を有している。ゲートユニット40は、筐体42の下端部部分が内デッキ36と外デッキ38の内側(下方)において、トラス(不図示)に、上端部部分が前記ガイドレール(不図示)に固定されて、設置されている。
【0028】
筐体42は方形の凹部を有しており、当該凹部には、方形板状をしたフラップ44が収納されている。フラップ44の一端部には、回転軸46が固定されている。回転軸46の両端部の各々は、筐体42内において公知のロータリダンパのロータ(いずれも不図示)に接続されて、回転軸46の軸心RX周りに回転自在に支持されている。前記ロータリダンパは、回転軸46の回転方向に衝撃的にトルクが加わると、瞬間的には高い抵抗力(制動力)を発揮し、所定以上のトルクが加わると緩やかに回転軸46の回転を許容する特性を有する公知のものである。
【0029】
フラップ44は、不図示のねじりコイルばねで、常時、矢印Aの向きに回転するよう付勢されている。
【0030】
筐体42内には、ゲートモータ48(
図5)が設置されている。ゲートモータ48の回転動力は、ゲートモータ48の出力軸(不図示)に連結された不図示の減速機(動力伝達機構)を介して、回転軸46に伝達され、フラップ44を矢印Bの向きに回転させる。ゲートモータ48には、モータ出力軸の回転角を検出するロータリエンコーダ(不図示)が併設されている。前記ロータリエンコーダから出力される回転角からフラップ44の回転角を検知することができる。また、前記出力軸と連結された、前記減速軸の入力軸には、公知の励磁作動ブレーキ(不図示)が設けられている。前記励磁作動ブレーキは、通電中は前記入力軸にブレーキを掛け、通電が遮断されるとブレーキを開放するものである。励磁作動ブレーキのブレーキトルクの大きさについては後述する。
【0031】
エスカレータ10は、また、ゲート41に対し、踏段12の斜行区間における走行方向の上流側を搬送される乗客を検出する乗客検出手段として人感センサ32を有している(
図1)。人感センサ32は、人は感知するが物は感知しないタイプのセンサであり、例えば、公知の赤外線センサを用いることができる。
【0032】
欄干パネル19~24の下端部側方には、上記無端搬送体(連結された複数の踏段12)と僅かな隙間を保って、上記走行路に沿って配された、ステンレス鋼板等のパネルからなるスカートガード34が設けられている。また、欄干パネル18~28の下端部とスカートガード34との間には、ステンレス鋼板等のパネルからなる内デッキ36が設けられている。欄干パネル18~24を挟んで、内デッキ36と反対側には、外デッキ38が設けられている。人感センサ32は、一方の内デッキ36Aとスカートガード34Aの内側に設けられている。内デッキ36Aには窓が開設されている。人感センサ32は、当該窓を介して、踏段12で搬送される乗客を検出できる姿勢で設けられている。便宜上、
図1には前記窓の位置に人感センサ32を図示している。
【0033】
人感センサ32は、ゲートユニット40の回転軸46よりも3~4ステップ(踏段12の3~4段分)上流位置に設けられている。人感センサ32よって、斜行区間を搬送される乗客が、ゲート41に近づいたことが検出される。
【0034】
ゲート41の開閉制御を行うゲート制御部62を含む制御装置50が上部機械室28に設置されている。
図5に、制御装置50の概略構成を示す。
【0035】
制御装置50は、CPU52を中心として、これにROM54、RAM56、運転制御部58、負荷検出部60、ゲート制御部62、および人感センサ32が接続された構成を有している。
【0036】
運転制御部58は、CPU52の指示にしたがい、搬送モータ30の回転速度を制御することにより、踏段12の走行速度制御、すなわち運転速度制御を行う。
【0037】
負荷検出部60は、搬送モータ30に流れる駆動電流の大きさを検出することにより搬送モータ30に掛かる負荷の大きさを検出する。検出結果は、複数の踏段12上における乗客の混雑度の指標として利用する。
【0038】
踏段12を一定の走行速度で走行するためには、負荷の大小、すなわち、複数の踏段12上の乗客の人数に応じて搬送モータ30へ電流(駆動電流)を流す必要があるところ、駆動電流の大きさを検出すれば、搬送モータ30に掛かる負荷、ひいては、乗客の人数の多少(すなわち、混雑度)を知ることができるからである。
【0039】
搬送モータ30に流れる駆動電流の大きさを「In」とし、「In」を複数の踏段12上における乗客の混雑度を指標する「混雑度指標」とする。そして、例えば、複数の踏段12の搬送領域の全長に亘って、平均体重の大人が10人、踏段12に乗って搬送されている場合に搬送モータ30に流れる駆動電流の大きさをIs1とする。駆動電流InがIs1以上であれば(In≧Is1)、複数の踏段12上で、少なくとも10人の乗客が搬送されていると推定できる。一方、駆動電流InがIs1未満であれば、複数の踏段12上には、10人に満たない乗客しか居ないものと推定される。本例では、「Is1」を複数の踏段12上の混雑度を判定するための閾値(所定の混雑度指標)として用いる。搬送モータ30に流れる駆動電流の大きさIn(搬送モータ30に掛かる負荷の大きさ)の具体的な利用については後述する。
【0040】
ゲート制御部62は、CPU52の指示にしたがい、前記ロータリエンコーダから出力される回転角を参照して、ゲートモータ48A、48Bの回転制御を行い、フラップ44A、44Bを開閉させる。ここで、
図1、
図2に示すように、フラップ44が筐体42の前記凹部に収納されている状態を「ゲートが開かれた状態」とし、フラップ44が筐体42の前記凹部に収納されている状態から、矢印Bの向きに90度回転した状態を「ゲート41が閉じられた状態」とする。ゲートが閉じられた状態を
図4に示す。ゲートが開かれると、上記斜行区間(の中程)における乗客の搬送路が開放され、ゲートが閉じられると、上記斜行区間(の中程)において乗客の搬送路が閉鎖されることとなる。
【0041】
具体的には、ゲート制御部62は、CPU52からゲートを閉じるよう指示されると、ゲートモータ48A、48Bを起動し、前記ロータリエンコーダから出力される回転角を参照して、フラップ44A、44Bを90度回転させてゲートを閉じる。ゲートが閉じた時点で前記励磁作動ブレーキに通電し、当該励磁作動ブレーキで前記減速機の前記入力軸(いずれも不図示)にブレーキをかけ、ひいては、フラップ44A、44Bの回転軸46A、46Bにブレーキをかけると共に、ゲートモータ48A、48Bへの通電を遮断する。以上により、ゲートは閉じた状態が維持される。
【0042】
ゲート制御部62は、CPU52からゲートを開くよう指示されると、励磁作動ブレーキへの通電を遮断する。これにより、前記減速機の前記入力軸(いずれも不図示)に対するブレーキが開放され、ひいては、フラップ44A、44Bの回転軸46A、46Bに対するブレーキが開放される。そうすると、フラップ44A、44Bは、前記ねじりコイルばねの復元力(弾性力)によって、筐体42の前記凹部に収納されるまで回転される。以上により、ゲートは開かれた状態となる。
【0043】
ROM54は、CPU52が実行するプログラムを格納している。RAM56は、CPU52が前記プログラムを実行する際のワークエリアとなる。
【0044】
続いて、制御装置50の制御部であるCPU52で実行されるゲート開閉プログラムについて、
図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0045】
ゲート開閉プログラムは、エスカレータ10の運転が開始され、踏段12が定常の走行速度に達したときに起動される。CPU52は、駆動電流Inと閾値Is1を比較し(ステップS1)、駆動電流Inが閾値Is1以上の場合は(ステップS1でYes)、ゲートが開かれた状態に保持し(ステップS2)、乗客の搬送路を開放する(
図3)。
【0046】
駆動電流In(すなわち、搬送モータ30に掛かる負荷の大きさ)が、閾値Is1(所定の大きさ)以上の場合、上記した通り、すくなくとも10人の乗客が複数の踏段12で搬送されていると推定され、複数の踏段12上は比較的混んでいると考えられる。
【0047】
複数の踏段12上が混んでいる場合、搬送される乗客と乗客の間隔は比較的短い。よって、例えば、ある乗客の手荷物が転げ落ちて(転落して)落下したとしても、当該落下に勢いが付く前に、直ぐ下を搬送される他の乗客に当たり、そこでそれ以上の落下が防止される。このため、乗客のスムーズな搬送を勘案するとゲートを閉じない(搬送路を閉鎖しない)方がよいからである。
【0048】
一方、駆動電流Inが、閾値Is1未満の場合(ステップS1でNo)、ゲートを閉じ(ステップS3)、乗客の搬送路を閉鎖する(
図4)。駆動電流In(すなわち、搬送モータ30に掛かる負荷の大きさ)が、閾値Is1(所定の大きさ)未満の場合、上記した通り、複数の踏段12で搬送されている乗客は10人に満たないと推定され、複数の踏段12上は比較的空いていると考えられる。
【0049】
複数の踏段12上が空いている場合、搬送される乗客と乗客の間隔は比較的長い。この場合、ゲート41の設置位置よりも高いところを搬送されているある乗客の手荷物が転げ落ちて(転落して)落下すると、(ゲート41が設置されていなければ)最長で搬送路の全長に亘って落下し、相当な勢いが付いた状態で他の乗客に衝突するおそれがある。そこで、搬送路の半ばよりも上で落下した荷物等は、落下に勢いがついてしまう前に、ゲート(フラップ44)で食い止めるのである。
【0050】
なお、ゲート41の設置位置よりも低いところから落下した荷物は、降り口に到達して止まる。この場合でも、落下距離の最長は、ゲートユニット40設置位置よりも高いところからの落下の場合と同じになる。
【0051】
ゲートが閉じられた状態において(ステップS3)、人感センサ32(
図1、
図5)が乗客を検出すると(ステップS4でYes)、当該乗客の搬送の邪魔にならないように、CPU52は、ゲート制御部62にゲートを開くよう指示し(ステップS5)、指示を受けたゲート制御部52は、励磁作動ブレーキへの通電を遮断してゲートを開く。これにより、乗客はゲート(フラップ44A、44B)に干渉することなく、ゲート41の設置位置を通過できる。
【0052】
CPU52は、ゲート制御部62にゲートを開くよう指示する(ステップS5)と共に、内部タイマー(不図示)を所定の時間(例えば、5秒)にセットして、乗客が検出されたとき(ステップS4でYes)からカウントダウンを開始する。この所定の時間は、人感センサ32で検出された乗客が、少なくとも、ゲート41の設置位置を通過するのに要する時間である。
【0053】
CPU52は、新たな乗客が人感センサ32で検出されると(ステップ7でYes)、再度、前記内部タイマーを再セットする(ステップS6)。直近の乗客が検出されてから(ステップS4またはS7でYes)、前記所定の時間が経過すると(前記内部タイマーのカウント値が0になると(ステップS8でYes))、すなわち、人感センサ32で検出された直近の乗客がゲート41の設置位置を通過すると(ステップS8でYes)、ステップS1にリターンする。
【0054】
以上説明してきた本実施形態に係るエスカレータ10は、以下の効果を奏する。
(1)複数の踏段12上が空いているときはゲートが閉じられて、搬送路が閉鎖される。これにより、乗客の手荷物等が転げ落ちて(転落して)落下した場合に、当該手荷物が相当な落下速度に到達する前に、閉じられたゲート(フラップ44)で止められる。よって、勢いがついた状態の手荷物等が乗客に衝突することを可能な限り防止できる。
【0055】
(2)ゲートが閉じられた状態で、人感センサ32が乗客を検知し、搬送される乗客がゲート41に近づいたことが検出されとゲートが開かれるため、乗客はゲート41(フラップ44A、44B)に干渉することなく、ゲート41の設置位置を通過できる。なお、既述したように、人感センサ32は、人は検知するが、物は検知しないので、人感センサ32の検知領域を手荷物等の物が落下してもゲートは閉じられたままの状態が維持されるため、当該物は、ゲート(フラップ44)によって食い止められる。
【0056】
(3)既述した通り、ゲートが閉じられた状態では、フラップ44は、前記励磁作動ブレーキの制動力によって、その姿勢が維持されている。この場合、当該励磁作動ブレーキのブレーキトルクが大き過ぎると、フラップ44に当たって落下が止められ、踏段12に押される手荷物等によってフラップ44等が破損してしまうおそれがある。そこで、前記ブレーキトルクを踏段12で押される程度の外力(トルク)が掛かった場合は、フラップ44の回転を許容する程度の大きさに設定しておくことで、上記した事態によるフラップ44等の破損を防止できる。
【0057】
また、フラップ44の回転軸44は、既述した特性を有するロータリダンパ(不図示)で支持されている。これにより、フラップ44に手荷物等が衝突したとしても、前記ロータリダンパの前記高い抵抗力によって、直ちには、フラップ44が開くことはなく、手荷物等の落下は食い止められる。そして、落下が食い止められた後、手荷物等に踏段12からの押圧力が加わり、フラップ44が当該手荷物等で押されると、回転軸44が緩やかに回転して、フラップ44の破損が防止できるのである。
【0058】
なお、前記励磁作動ブレーキのブレーキトルクを、乗客自身の力でフラップ44を押し開けることができる程度の大きさに設定しておくことで、人感センサ32の故障等によって、ゲートが自動で開かなくなったとしても、乗客が自力でゲートを開き、ゲート設置位置を通過することが可能となる。これにより、人感センサ32の故障等が生じた場合のゲート設置位置での乗客の滞留を防止できる。
【0059】
(4)フラップ44は、上述したように、
図1、
図2に矢印Aの向きに回転するように(すなわち、ゲートが開くように)、不図示のねじりコイルばねで常時付勢されている。よって、ゲートユニット40等に生じた故障内容によっては、フラップ44が、ねじりコイルばねの付勢力(復元力)で矢印Aの向きに回転するため(すなわち、ゲートが開くため)、乗客のフラップ44との干渉を防止できる。
【0060】
以上、本発明に係るエスカレータを実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下の形態とすることもできる。
(1)上記実施形態では、踏段12上の混雑度を指標するものとして、搬送モータ30への通電電流(搬送モータ30に掛かる負荷)の大きさを用いたが、当該指標は、これに限らない。例えば、以下のようにしても良い。
【0061】
(a)複数の踏段12で搬送される乗客をカメラで撮影する。撮影により得られた画像に公知の画像処理を施して、一時に撮影された画像における乗客の人数を抽出し、これを混雑度の指標とする。抽出の結果、10人以上であれば、混んでいる(混雑度は高い)と判断し、10人未満であれば、空いている(混雑度は低い)と判断するのである。撮影は、例えば、1秒おきに行い、その都度、上記乗客の人数を抽出し、その結果をゲートの開閉制御に反映させる(
図6のステップS1~S3)。
【0062】
搬送モータ30に掛かる負荷の大きさを混雑度の指標とした上記実施形態の場合、当該指標には、多少、荷物の重量も反映される場合があるところ、上記撮影による場合は、乗客の人数のみをもって混雑度の指標とすることができるため、より精度の高い混雑度指標を取得することが可能となる。また、撮影による場合は、乗客の人数のみならず、乗客間の距離等も考慮した混雑度指標としても構わない。
【0063】
さらに、荷物等を識別し、当該荷物等の多少、荷物等の大きさを考慮して、ゲート開閉の基準とする混雑度指標を調整(補正)しても構わない。すなわち、例えば、踏段12上に置かれた荷物等の個数が少なく(例えば、1個)小さい場合、ゲートを閉じる必要性は低いため、混雑度指標を、ゲートを開ける方向に補正するのである。
【0064】
あるいは、例えば、踏段12上に置かれた荷物等が検出されない場合、ゲートを閉じる必要性は乏しいため、混雑度指標の高低に関わらず、ゲートが開かれた状態を維持することとしても構わない。
【0065】
なお、上記の例では、撮影間隔を1秒とし間欠的な撮影としたが、撮影間隔をさらに短縮して連続的な撮影としても構わない。
【0066】
(b)乗り口に人感センサを設置し、単位時間(例えば、10秒間)当たりに乗り口を通過する乗客の人数(すなわち、踏段12に乗り込む人数)を検出し、これを混雑度の指標とする。検出の結果、2人以上であれば、混んでいる(混雑度は高い)と判断し、2人未満であれば、空いている(混雑度は低い)と判断するのである。前記単位時間毎に通過人数を検出し、その結果をゲートの開閉制御に反映させる(
図6のステップS1~S3)。
【0067】
(2)上記実施形態では、搬送される乗客がゲート41に近づいたことを検出する乗客検出手段として、人感センサ32(
図1)を用いたが、これに限らず、乗客検出手段は、例えば、以下のような構成としても構わない。
【0068】
ゲート41およびゲート41近傍の搬送路を撮影するカメラを設置する。撮影により得られた画像に公知の画像処理を施して、当該撮影範囲に存する人(乗客)を特定する。撮影を一定時間間隔(例えば、0.5秒間隔)で行い、搬送される乗客がゲート41(の回転軸46)よりも3~4ステップ上流に到達すると、当該乗客がゲート41に近づいたと見做すこととするのである。
【0069】
(3)上記実施形態では、ゲート41(一対のゲートユニット40A、40B)をエスカレータ1台に付き1箇所に設ける構成としたが、これに限らず、2箇所以上に設けても構わない。この場合、エスカレータのライズの高さ(斜行区間の長さ)に応じ、ライズの高い程、多くの箇所に設けることとする。
【0070】
設ける位置は、上記斜行区間を等分する位置とする。すなわち、ゲート41をN台(Nは正の整数)設ける場合、N台のゲート41の各々を、前記斜行区間を略(N+1)等分する位置に配するのである。
【0071】
(4)ゲートユニットを構成するフラップの片面に、緩衝材として、例えば、発泡ウレタンマットを設けても構わない。この緩衝材は、万一、閉じたままのゲートのフラップに乗客が当たった場合における乗客の保護が目的であるため、搬送方向上流側の面に設ける。
【0072】
(5)閉じたゲートのフラップ44に荷物が衝突した場合、CPU52は、運転制御部58に安全な減速度で停止するよう指示するようにしても構わない。フラップ44に荷物が衝突したことは、フラップ44に加速度センサを設け、当該加速度センサからの出力によりCPU52は検知することができる。
【0073】
(6)上記実施形態では、フラップ44を収納状態から乗客の搬送方向と直交するまで回転させた状態(90度回転させた状態)をゲートが閉じた状態としたが、これに限らず、直交まで至る手前の状態に止めても構わない。このようにすることで、二つのフラップ44A、44B間の隙間が増大し、フラップ44A、44Bによる搬送路の閉塞感が緩和されるため、乗客に安心感を与えることができる。
【0074】
(7)上記実施形態では、上記ねじりコイルばねの復元力(弾性力)によってのみ、ゲートを閉じた状態から開いた状態に遷移させたが、これに限らず、以下のようにしても構わない。ゲート制御部62が、CPU52からゲートを開くよう指示されると、励磁作動ブレーキへの通電を遮断して、前記減速機の前記入力軸(いずれも不図示)に対するブレーキを開放すると共に、ゲートモータ48A、48Bへ通電し、前記ロータリエンコーダから出力される回転角を参照して、フラップ44A、44Bを
図1(b)、
図2(b)に示す矢印Aの向きに90度回転させてゲートを開く。そして、ゲートが開いた時点でゲートモータ48A、48Bへの通電を遮断するのである。
【0075】
コイルばねの復元力だけでゲートを開くと、フラップ44A、44Bが勢いよく回転し、筐体42の上記凹部に収納される際、当該凹部底部に衝突して不快な衝突音が発生するおそれがある。そこで、ゲートモータ48A、48Bでフラップ44A、44Bの回転制御を行い、滑らかに開かせることにより、上記衝突音を解消ないしは低減させることとするのである。
【0076】
(8)上記実施形態では、前記減速軸の入力軸に設けた励磁作動ブレーキによって、ゲートが閉じた状態を維持したが、励磁作動ブレーキを用いず、ゲートモータ48A、48Bへの通電を継続することによりゲートが閉じた状態を維持するようにしても構わない。
【0077】
(9)本発明は、上記実施形態のような下りのエスカレータに特に有用である。乗客は、自身が乗る踏段の一つ前方の踏段に荷物等を置く傾向がある。上りエスカレータの場合、乗客自身が障害物となって、当該荷物等が落下するのが防止される。これに対し、下りエスカレータの場合は、乗客よりも下方に荷物が存在するため、そのまま下方へ落下してしまうからである。
【0078】
また、昇りエスカレータの場合、ある乗客の荷物が落下した場合、当該ある乗客の下方を搬送されている他の乗客は、落下する荷物の方を向いているため、これに気付き易く、荷物との衝突を避けられる可能性が高い。これに対し、下りエスカレータの場合、ある乗客の荷物が、別の乗客に向かって落下した場合、当該別の乗客は落下する荷物に背を向けているため、当該落下に気付きにくいからである。
【0079】
しかしながら、乗客は、自身が乗る踏段で自身の側方に荷物を置く場合があり、この場合、昇りエスカレータであっても、乗客は当該荷物に対する障害物とはならないため、下りエスカレータの場合と同様に荷物が落下する可能性がある。
【0080】
よって、本発明を昇りエスカレータに適用することとしても構わない。上記実施形態のように下りエスカレータの場合は、収納状態のフラップを上方へ回転させてゲートを閉じたが、昇りエスカレータの場合は、収納状態からフラップを下方へ回転させてゲートを閉じる構成とする。その他の構成は、昇りエスカレータの場合も下りエスカレータと、基本的に同様の構成である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るエスカレータは、例えば、ライズ(揚程)の高いエスカレータに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 エスカレータ
12 踏段
32 人感センサ
40A、40B ゲートユニット
41 ゲート
50 制御装置
52 CPU
54 ROM
56 RAM
60 負荷検出部
62 ゲート制御部
【要約】
【課題】転落した荷物等から乗客を可能な限り保護し得るエスカレータを提供する。
【解決手段】循環走行する複数の踏段12が階段の形を成して走行する斜行区間における乗客の搬送路を開放する状態と閉鎖する状態とに切り換えるゲート41と、複数の踏段12上における乗客の混雑度を指標する混雑度指標を取得する混雑度指標取得手段と、前記斜行区間を搬送される乗客がゲート41に近づいたことを検出する乗客検出手段である人感センサ32と、ゲート41の開閉制御を行う制御部とを有し、前記制御部は、前記混雑度指標取得手段が取得する混雑度指標が所定の混雑度指標以上の高い間はゲート41を開き、前記所定の混雑度指標よりも低い間はゲート41を閉じ、ゲート41を閉じているときに人感センサ32が乗客を検出すると少なくとも当該乗客がゲート41位置を通過するまでの間、ゲート41を開く制御を実行する。
【選択図】
図1