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特許7375928ピークトラッキング装置、ピークトラッキング方法およびピークトラッキングプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ピークトラッキング装置、ピークトラッキング方法およびピークトラッキングプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20231031BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G01N21/17 D
G01N30/86 E
G01N30/86 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022527519
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2021006657
(87)【国際公開番号】W WO2021240922
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020093336
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-212059(JP,A)
【文献】特表2008-539441(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119086(WO,A1)
【文献】Imre Molnar et al.,Chromatography Modelling in High Performance Liquid Chromatography Method Development,Chromatography,2013年
【文献】三井 利幸,主成分得点を用いる有機溶媒混合比の決定,分析化学,2008年,Vol. 57,No. 10,PP.811-817
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 27/60-G01N 27/70
G01N 27/92
G01N 30/00-G01N 30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得部と、
各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応部と、
を備え、
前記ピーク対応部は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出するピークスペクトル抽出部と、
前記測定スペクトルデータから、前記ピークスペクトルデータの特異値分解により得られた第1主成分のスペクトル、あるいは、前記ピークスペクトルデータの時間方向の平均値スペクトルと直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出部と、
前記直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定部と、
を含む、ピークトラッキング装置。
【請求項2】
前記ピーク対応部は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからベースライン由来のスペクトルであるベースラインスペクトルデータを抽出するベースラインスペクトル抽出部、
を含み、
前記直交スペクトル抽出部は、
各測定スペクトルデータから、前記ベースラインスペクトルデータと直交するスペクトルデータを抽出する、請求項1に記載のピークトラッキング装置。
【請求項3】
前記ピークスペクトル抽出部は、
各クロマトグラムに対して二次微分フィルタまたはハイパスフィルタを適用させることにより、ピーク領域を特定するピーク領域特定部と、
特定された前記ピーク領域に基づいて、ベースラインを推定するベースライン推定部と、
前記測定スペクトルデータから前記ベースラインを除去するベースライン除去部と、
を含む、請求項1記載のピークトラッキング装置。
【請求項4】
前記直交スペクトル抽出部が抽出したスペクトルデータを次元縮約してディスプレイに表示するスペクトル表示部、
をさらに備える、請求項1記載のピークトラッキング装置。
【請求項5】
前記直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータが、複数の物質由来のスペクトルデータにより張られる超平面に含まれることを示す情報を、ピークの混合可能性の情報として提供する、請求項1記載のピークトラッキング装置。
【請求項6】
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得部と、
各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応部と、
を備え、
前記ピーク対応部は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからベースライン由来のスペクトルであるベースラインスペクトルデータを抽出するベースラインスペクトル抽出部と、
各測定スペクトルデータから、前記ベースラインスペクトルデータと直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出部と、
前記直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定部と、
を含む、ピークトラッキング装置。
【請求項7】
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得工程と、
各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応工程と、
を備え、
前記ピーク対応工程は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出するピークスペクトル抽出工程と、
前記測定スペクトルデータから、前記ピークスペクトルデータの特異値分解により得られた第1主成分のスペクトル、あるいは、前記ピークスペクトルデータの時間方向の平均値スペクトルと直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出工程と、
前記直交スペクトル抽出工程において抽出された直交するスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定工程と、
を含む、ピークトラッキング方法。
【請求項8】
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得する処理、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出し、前記測定スペクトルデータから、前記ピークスペクトルデータの特異値分解により得られた第1主成分のスペクトル、あるいは、前記ピークスペクトルデータの時間方向の平均値スペクトルと直交するスペクトルデータを抽出し、抽出された直交するスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行うことにより、各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けする処理、
をコンピュータに実行させるピークトラッキングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピークトラッキング装置、ピークトラッキング方法およびピークトラッキングプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
分析装置において取得される測定データから、試料のクロマトグラムを取得することができる。ピークの分離度を高くすることを目的として、あるいは、分析時間を短くすることを目的として、分析条件データの最適化を図るメソッドスカウティングが行われる。
【0003】
メソッドスカウティングを行うとき、異なる分析条件データに基づいて得られる異なるクロマトグラム間で同じ物質由来のピークを決定するピークトラッキングを行う必要がある。ピークトラッキングを行うためには、例えば、ピークの面積値、ピークの光学スペクトル、または、ピークのMSスペクトルの類似度などが用いられる。
【0004】
また、ピークトラッキングを行う上で、クロマトグラムから真のピークを抽出するために、ベースラインを推定する処理が行われる。下記特許文献1は、クロマトグラムから推定されたベースラインの影響を除去することで、ピーククロマトグラムを求める方法を開示している。
【文献】国際公開2017-119086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
核酸医薬品、ペプチド医薬品など比較的分子量の大きな薬剤の合成において、構造の似通った類縁物が副産物として生成されることが知られている。このような類縁物は光学スペクトルも似通っているため、光学スペクトル類似度を利用してもピークトラッキングが充分に行えない場合がある。また、このような類縁物はMSスペクトルも似た形状になることが多く、ピーク毎に特異なクロマトグラムを出力するm/z値を探索するために膨大な労力が必要とされる。ピーク面積値を用いる方法によっても、組み合わせを絞りきれない場合が多く、ピークトラッキングが充分に行えない場合がある。
【0006】
また、特定の分析条件データによっては、偶然に2つの成分のピークが重なる場合がある。このような場合には、単純に相関関数などを利用するなど、類似度だけを判定する方法では、ピークトラッキングが充分に行えない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、クロマトグラムに含まれるピークを同定するための有効な手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うピークトラッキング装置は、複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得部と、各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応部とを備え、ピーク対応部は、各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出するピークスペクトル抽出部と、測定スペクトルデータから、ピークスペクトルデータの成分のうち支配的な成分と直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出部と、直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定部とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロマトグラムに含まれるピークを同定するための有効な手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本実施の形態に係る分析システムの全体図である。
図2図2は本実施の形態に係るコンピュータの構成図である。
図3図3は本実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
図4図4はピークスペクトル抽出部の構成を示す機能ブロック図である。
図5図5は測定スペクトルデータとクロマトグラムを示す図である。
図6図6は異なる分析条件データから得られたクロマトグラムを示す図である。
図7図7は本実施の形態に係るピークトラッキング方法を示すフローチャートである。
図8図8は直交スペクトル抽出部により抽出された直交スペクトルデータの波長ごとのクロマトグラムを重ね合わせた図である。
図9図9は直交スペクトル抽出部により抽出された直交スペクトルデータの波長ごとのクロマトグラムを重ね合わせた図である。
図10図10は直交スペクトル抽出部により抽出された直交スペクトルデータの波長ごとのクロマトグラムを重ね合わせた図である。
図11図11は直交スペクトル抽出部により抽出された直交スペクトルデータの波長ごとのクロマトグラムを重ね合わせた図である。
図12図12は直交スペクトル抽出部により抽出された直交スペクトルデータの波長ごとのクロマトグラムを重ね合わせた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るピークトラッキング装置、方法およびプログラムの構成について説明する。
【0012】
(1)分析システムの全体構成
図1は、本実施の形態に係る分析システム5の全体図である。分析システム5は、コンピュータ1および液体クロマトグラフ3を備える。コンピュータ1および液体クロマトグラフ3は、ネットワーク4を介して接続される。ネットワーク4は、例えばLAN(Local Area Network)である。
【0013】
コンピュータ1は、液体クロマトグラフ3に分析条件を設定する機能、液体クロマトグラフ3における測定結果を取得し、測定結果を分析する機能などを備える。コンピュータ1には、液体クロマトグラフ3を制御するためのプログラムがインストールされる。
【0014】
液体クロマトグラフ3は、ポンプユニット、オートサンプラユニット、カラムオーブンユニットおよび検出器ユニットなどを備える。検出器としては、例えば、フォトダイオードアレイ(PDA)、質量分析計(MS)などが用いられる。液体クロマトグラフ3は、また、システムコントローラを備える。システムコントローラは、コンピュータ1からネットワーク4経由で受信した制御指示に従って、液体クロマトグラフ3を制御する。システムコントローラは、液体クロマトグラフ3の測定結果のデータを、ネットワーク4経由でコンピュータ1に送信する。
【0015】
(2)コンピュータ(ピークトラッキング装置)の構成
図2は、コンピュータ1の構成図である。コンピュータ1は、本実施の形態においてはパーソナルコンピュータが利用される。コンピュータ1は、CPU(Central Proccessing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、ディスプレイ104、操作部105、記憶装置106、通信インタフェース107、および、デバイスインタフェース108を備える。
【0016】
CPU101は、コンピュータ1の制御を行う。RAM102は、CPU101がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。ROM103には、制御プログラムなどが記憶される。ディスプレイ104は、例えば液晶ディスプレイである。操作部105は、ユーザの操作を受け付けるデバイスであり、キーボード、マウスなどを含む。ディスプレイ104がタッチパネルディスプレイで構成され、ディスプレイ104が操作部105としての機能を備えていても良い。記憶装置106は、各種プログラムおよびデータを記憶する装置である。記憶装置106は、例えばハードディスクである。通信インタフェース107は、他のコンピュータおよびデバイスと通信を行うインタフェースである。通信インタフェース107は、ネットワーク4に接続される。デバイスインタフェース108は、各種の外部デバイスにアクセスするインタフェースである。CPU101は、デバイスインタフェース108に接続された外部デバイス装置を介して記憶媒体109にアクセスすることができる。
【0017】
記憶装置106には、ピークトラッキングプログラムP1、分析条件データAP、測定データMD、測定スペクトルデータMSD、クロマトグラムCG、ピークスペクトルデータPSD、ベースラインスペクトルデータBSD、および、直交スペクトルデータRSDが記憶される。ピークトラッキングプログラムP1は、液体クロマトグラフ3を制御するためのプログラムである。ピークトラッキングプログラムP1は、液体クロマトグラフ3に対して分析条件を設定する機能、液体クロマトグラフ3から測定結果を取得し、クロマトグラムCGを生成するなど、測定結果を分析する機能などを備える。
【0018】
分析条件データAPは、液体クロマトグラフ3に設定する分析条件を記述したデータであり、複数の分析パラメータを含む。測定データMDは、分析条件データAPに基づいて液体クロマトグラフ3から取得した測定結果のデータである。測定データMDは、時間、波長および吸光度(信号強度)からなる3つのディメンションを持つ、3次元クロマトグラムである。測定スペクトルデータMSDは、3次元クロマトグラムである測定データMDから、特定の測定時刻について抽出された波長方向の吸光度データである。クロマトグラムCGは、3次元クロマトグラムである測定データMDから、特定の波長について抽出された時間方向の吸光度データである。
【0019】
ピークスペクトルデータPSDは、測定スペクトルデータMSDのうち、ピーク由来のスペクトル成分を抽出したデータである。ベースラインスペクトルデータBSDは、測定スペクトルデータMSDのうち、ベースライン由来のスペクトル成分を抽出したデータである。直交スペクトルデータRSDは、測定スペクトルデータMSDから抽出されたスペクトルデータであり、ピークスペクトルデータPSDの成分のうち支配的な成分と直交する成分である。
【0020】
図3は、コンピュータ1の機能ブロック図である。制御部200は、CPU101が、RAM102をワークエリアとして使用し、ピークトラッキングプログラムP1を実行することにより実現される機能部である。制御部200は、分析管理部201、クロマトグラム取得部203、スペクトル取得部204、ピーク対応部205およびスペクトル表示部210を備える。
【0021】
分析管理部201は、液体クロマトグラフ3の制御を行う。分析管理部201は、ユーザによる分析条件データAPの設定および分析処理の開始指示を受けて、液体クロマトグラフ3に対する分析処理の指示を行う。ユーザは、溶媒濃度、溶媒混合比、グラジエント初期値、グラジエント勾配、カラム温度などの分析パラメータの設定値の組み合わせを、分析条件として設定する。ユーザは、これら分析パラメータの組み合わせを複数セット設定する。例えば、溶媒濃度を少しずつ変化させた分析パラメータの組み合わせや、カラム温度を少しずつ変化させた分析パラメータの組み合わせなどを分析条件として設定する。ユーザは、このように複数の分析条件データAPを作成し、同一の試料に対して複数の分析条件データAPに基づく分析処理を行う。
【0022】
分析管理部201は、また、液体クロマトグラフ3から3次元クロマトグラムである測定データMDを取得する。上記のように、ユーザは、複数の分析条件データAPに基づく分析処理を行う。分析管理部201は、複数の分析条件データAPに対応する複数の測定データMDを取得する。
【0023】
クロマトグラム取得部203は、測定データMDに基づいてクロマトグラムCGを取得する。クロマトグラム取得部203は、取得したクロマトグラムCGを記憶装置106に保存する。上記のように、分析管理部201は、複数の分析条件データAPに対応する複数の測定データMDを取得する。クロマトグラム取得部203は、複数の測定データMDに対応する複数のクロマトグラムCGを取得する。
【0024】
スペクトル取得部204は、測定データMDに基づいて測定スペクトルデータMSDを取得する。スペクトル取得部204は、取得した測定スペクトルデータMSDを記憶装置106に保存する。
【0025】
ピーク対応部205は、異なる分析条件データAPに基づいて得られた複数のクロマトグラム間で、ピークの対応付けを行う。ピーク対応部205は、図に示すように、ピークスペクトル抽出部206、直交スペクトル抽出部207、類似度判定部208およびベースラインスペクトル抽出部209を備える。
【0026】
ピークスペクトル抽出部206は、測定スペクトルデータMSDから、ピーク由来のスペクトル成分であるピークスペクトルデータPSDを抽出する。直交スペクトル抽出部207は、測定スペクトルデータMSDから直交スペクトルデータRSDを抽出する。直交スペクトルデータRSDは、測定スペクトルデータMSDから、ピークスペクトルデータPSDの成分のうち支配的な成分と直交する成分を抽出したデータである。また、直交スペクトルデータRSDは、測定スペクトルデータMSDから、ベースラインスペクトルデータBSDと直交する成分を抽出したデータである。類似度判定部208は、直交スペクトルデータRSDに基づいて、複数のクロマトグラムCGに含まれるピークの類似度を判定する。ベースラインスペクトル抽出部209は、測定スペクトルデータMSDから、ベースライン由来の成分であるベースラインスペクトルデータBSDを抽出する。
【0027】
スペクトル表示部210は、ディスプレイ104に、次元縮約した直交スペクトルデータRSDを表示する。具体的には、スペクトル表示部210は、直交スペクトル抽出部207により抽出された直交スペクトルデータRSDの波長ごとのクロマトグラムを重ね合わせた図をディスプレイ104に表示する。
【0028】
図4は、ピークスペクトル抽出部206の機能ブロック図である。ピークスペクトル抽出部206は、ピーク領域特定部211、ベースライン推定部212およびベースライン除去部213を備える。ピーク領域特定部211は、クロマトグラムCGにおけるピークの保持時間方向のピーク始点およびピーク終点を特定する。ベースライン推定部212は、クロマトグラムCGにおけるベースライン成分を推定する。ベースライン除去部213は、測定スペクトルデータMSDからベースライン成分を除去する。
【0029】
図5は、測定データMDを示す図である。測定データMDは、上述したように、時間、波長および吸光度(信号強度)を3軸とする3次元クロマトグラムデータである。図に示すように、測定データMDにおける測定時刻を固定することにより、測定スペクトルデータMSDを抽出することが可能である。測定スペクトルデータMSDは、時間方向に複数抽出される。時間方向の複数の測定スペクトルデータMSDについて、波長を固定することにより、クロマトグラムCGを抽出することができる。図に示すクロマトグラムCGは、波長λ0におけるクロマトグラムCGを示す。クロマトグラムCGにおけるピークは、ピーク開始点Tsからピーク終点Teまでの時間方向の幅を有している。
【0030】
図6は、2つの異なる分析条件データAPに基づいて得られた2つのクロマトグラムCG1,CG2を示す図である。クロマトグラムCG1,CG2は、同一の試料について得られた測定データMDに基づいて取得される。図6を参照すれば分かるように、クロマトグラムCG1,CG2では、分析条件データAPの違いに起因して各ピークの保持時間が異なっている。図において点線で結ばれているピークは、同一の物質に由来するピークである。ピーク対応部205は、クロマトグラムCG1,CG2に含まれるピークの対応付けを行う。
【0031】
(3)ピークトラッキング方法
次に、本実施の形態に係るコンピュータ1(ピークトラッキング装置)において実行されるピークトラッキング方法について説明する。図7は、本実施の形態に係るピークトラッキング方法を示すフローチャートである。
【0032】
図7に示す処理を開始する前に、予め、ユーザが操作部105を操作し、複数の分析条件の設定を行う。このようなユーザの設定操作を受けて、分析管理部201は、記憶装置106に複数の分析条件データAPを保存する。
【0033】
次に、図7に示すステップS101において、分析管理部201が、複数の分析条件データAPを液体クロマトグラフ3に設定する。具体的には、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3のシステムコントローラに対して、複数の分析条件データAPを設定する。これに応じて、液体クロマトグラフ3において、設定された複数の分析条件データAPに基づいて、同一の試料に対して複数回の分析処理が実行される。液体クロマトグラフ3において、複数の分析条件データAPに対応して複数の測定データMDが取得される。
【0034】
次に、ステップS102において、分析管理部201は、液体クロマトグラフ3から複数の測定データMDを取得する。分析管理部201は、記憶装置106に、取得した複数の測定データMDを保存する。
【0035】
次に、ステップS103において、クロマトグラム取得部203が、ステップS102において記憶装置106に保存された複数の測定データMDを取得し、取得した複数の測定データMDから複数のクロマトグラムCGを取得する。
【0036】
次に、ステップS104において、ピークスペクトル抽出部206が、測定スペクトルデータMSDからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータPSDを抽出する。ピークスペクトルデータPSDの抽出処理は、ピーク領域特定処理、ベースライン推定処理、および、ベースライン除去処理の3つの処理からなる。
【0037】
まず、図4に示すピーク領域特定部211が、ピーク領域特定処理を実行する。ピーク領域特定部211は、クロマトグラムCGに対して、保持時間方向に窓幅として半値幅前後の長さを持つ2次微分フィルタ(サビツキーゴーレイ)を適用させる。クロマトグラムCGに含まれるベースラインの大部分は1次までの式で近似できるため、2次微分により消去することができる。これにより、ピーク領域特定部211は、ピーク領域を特定することができる。多くの場合、ベースラインの変動周波数に比べて、ピーク領域の変動周波数が高いことを利用して、ハイパスフィルタ、マッチドフィルタ、または、ウェーブレット変換などの時不変フィルタ・変換を用いることによって、ピーク領域を特定してもよい。このように保持時間方向にフィルタ処理を施した場合であっても、フィルタが線形処理である限り、各ピーク由来のスペクトルのベクトルが張る空間自体に影響は与えない。あるいは、Labsolなどのピーク検出アルゴリズムを用いることにより、ユーザによりピーク開始点および終了点が指定されてもよい。
【0038】
次に、図4に示すベースライン推定部212が、ベースライン推定処理を実行する。ベースライン推定部212は、ピーク領域特定部211が特定したピーク開始点および終了点の間を保持時間方向で線形補間することにより、ベースラインを推定する。つまり、ピークボトム点を線形補間することにより、ベースラインを推定する。あるいは、ベースラインが曲線であることが予想される場合には、ピーク領域特定部211が特定したピーク開始点および終了点の間を保持時間方向で曲線補間することにより、ベースラインを推定する。つまり、ピークボトム点を曲線補間することにより、ベースラインを推定する。
【0039】
最後に、図4に示すベースライン除去部213が、ベースライン除去処理を実行する。ベースライン除去部213は、ベースライン推定部212が推定したベースラインに基づいて、ベースラインの信号値を、測定スペクトルデータMSDの信号値から減算する。例えば、ピーク頂点であれば、線形補間されたピーク頂点位置におけるベースラインの信号値を、測定スペクトルデータMSDの信号値から減算する。このとき、スペクトルが崩れないように、測定スペクトルデータMSDの各波長(検出器がMSの場合は、各m/z)において、同じ信号値を減算する。
【0040】
以上の処理により、ピークスペクトル抽出部206において、測定スペクトルデータMSDからベースラインスペクトルデータBSDが除去され、ピークスペクトルデータPSDが抽出される。ピークスペクトル抽出部206は、さらに、ピークスペクトルデータPSDに対して、特異値分解(主成分分析)などの因子分解を行う。本実施の形態においては、経験的に決めた特異値の閾値により、スペクトル成分を主要な成分に絞るようにしている。元々のベクトル空間が表現できればよいので、スペクトル分析などのその他の因子分解も利用することができる。ピークスペクトル抽出部206は、抽出したピークスペクトルデータPSDを、記憶装置106に保存する。
【0041】
次に、ステップS105において、ベースラインスペクトル抽出部209が、測定スペクトルデータMSDからベースライン由来のスペクトルであるベースラインスペクトルデータBSDを抽出する。本実施の形態においては、ベースラインスペクトル抽出部209は、ローパスフィルタとしてサビツキーゴーレイフィルタを用いることにより、ベースラインスペクトルデータBSDを抽出する。ベースラインスペクトルデータBSDの抽出方法としては、他の線形フィルタを用いることも可能である。また、ベースラインスペクトル抽出部209は、ピーク開始点および終了点を線形または曲線補完し、ピーク部分を除去することにより、ベースラインスペクトルデータBSDを抽出してもよい。あるいは、ピーク部分を除去した後に、ローパスフィルタを適用させることにより、ベースラインスペクトルデータBSDを抽出してもよい。ベースラインスペクトル抽出部209は、さらに、ベースラインスペクトルデータBSDに対して、特異値分解などの因子分解を行う。
【0042】
上記の処理は、測定スペクトルデータMSDに対する信号処理によりベースラインスペクトルデータBSDを抽出する方法である。他の方法としては、分析対象となる試料の注入を行うことなく、移動相または前処理薬品のみから測定スペクトルデータMSDを取得することにより、ベースラインスペクトルデータBSDを抽出してもよい。
【0043】
以上の処理により、測定スペクトルデータMSD、ピークスペクトルデータPSD、および、ベースラインスペクトルデータBSDの3つのデータが得られる。本実施の形態のピークトラッキングプログラムP1は、以下に示す処理により、これらの3つのデータから、ピークトラッキングに寄与するベクトル成分を残して、その他の成分を低減させる。
【0044】
まず、ステップS106において、直交スペクトル抽出部207が、測定スペクトルデータMSDからベースラインスペクトルデータBSDと直交する成分を抽出する。この直交化処理を第1の直交化処理とする。この処理は、ベースラインスペクトルデータBSDが張る超平面成分を除去することを目的とする直交化処理である。したがって、因子分解によって得られるベースラインスペクトルデータBSDの全ての因子(全てのスペクトル)に対して、測定スペクトルデータMSDを直交化してもよい。
【0045】
次に、ステップS107において、直交スペクトル抽出部207が、ステップS106において第1の直交化処理が施された測定スペクトルデータMSDに対して、第2の直交化処理を施す。第2の直交化処理において、直交スペクトル抽出部207は、測定スペクトルデータMSDから、ピークスペクトルデータPSDの成分のうち支配的な成分と直交する成分を抽出する。第1の直交化処理および第2の直交化処理によって抽出された成分が直交スペクトルデータRSDである。ピークスペクトルデータPSDのうち、支配的な成分とは、例えば、特異値分解(主成分分析)により得られたスペクトルの中で第1主成分となるスペクトルである。あるいは、支配的な成分としては、ピークスペクトルデータPSDの時間方向の平均値を用いることもできる。なお、ステップS106における直交化処理、および、ステップS107における直交化処理は、いずれも線形処理であるので、その処理順序はどちらが先であってもよい。
【0046】
そして、ステップS108において、類似度判定部208が、直交スペクトルデータRSDの類似度により各ピークの対応付けを行う。類似度判定部208は、例えば、異なるクロマトグラムCGから得られた複数のピークについて、各ピークについて抽出された直交スペクトルデータRSDの相関度に基づいて類似度を判定する。類似度判定部208は、相関度が所定の閾値を超えるピーク同士が同じ物質由来のピークであるとして対応付ける。
【0047】
このように、本実施の形態において、ピーク対応部205は、測定データMDから取得された測定スペクトルデータMSDからピークスペクトルデータPSDを抽出するピークスペクトル抽出部206と、測定スペクトルデータMSDから、ピークスペクトルデータPSDの成分のうち支配的な成分と直交する直交スペクトルデータRSDを抽出する直交スペクトル抽出部207と、直交スペクトルデータRSDの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定部208とを含む。これにより、本実施の形態のピークトラッキング装置であるコンピュータ1は、時間方向に共通する主成分を除いて、主成分と直交する成分によりピークの類似度を判定することができる。
【0048】
なお、上記の処理では、第1の直交化処理および第2の直交化処理を行って直交スペクトルデータRSDを抽出することにより、ピークの同定をより有効に行うようにしている。しかし、第1の直交化処理は必須ではない。特に、グラジエント溶出を行っていない場合など、ベースライン変動の影響が小さい場合には、ベースラインスペクトルデータBSDによる直交化を省略することができる。
【0049】
図8図12は、直交スペクトル抽出部207において抽出された直交スペクトルデータRSDの例を示す図である。図8(A)、図9(A)、図10(A)、図11(A)は、直交スペクトル抽出部207において抽出された直交スペクトルデータRSDの各波長におけるクロマトグラムを重ね合わせた図である。図8(B)、図9(B)、図10(B)、図11(B)は、図8(A)、図9(A)、図10(A)、図11(A)の直交スペクトルデータRSDを次元縮約した図である。
【0050】
図8および図9は、同じ物質由来のピークについての直交スペクトルデータRSDを示す。図8(A)および図9(A)を参照すると、ピークの形状は比較的近似しているが、ピークが同じ物質由来のものであるか否かの判断は困難である。しかし、次元縮約された図8(B)および図9(B)を参照すると、ピークが同じ物質由来のものである可能性が非常に高いことが分かる。図8(B)および図9(B)においては、直交スペクトルデータRSDのクロマトグラムを波長ごとに異なる線種で描いている。図8(B)および図9(B)を参照すると、波長ごとのクロマトグラムが、同じ順序で並んでいることが分かる。
【0051】
図10および図11は、異なる物質由来のピークについての直交スペクトルデータRSDを示す。図10(A)および図11(A)を参照すると、ピークの形状は比較的近似しているが、ピークが同じ物質由来のものであるか否かの判断は困難である。しかし、次元縮約された図10(B)および図11(B)を参照すると、ピークが異なる物質由来のものである可能性が非常に高いことが分かる。図10(B)および図11(B)においては、直交スペクトルデータRSDのクロマトグラムを波長ごとに異なる線種で描いている。図10(B)および図11(B)を参照すると、波長ごとのクロマトグラムが、異なる順序で並んでいることが分かる。
【0052】
上記実施の形態においては、直交スペクトルデータRSDの類似度によってピークの対応を評価した。この類似度がどの程度頑健であるかも確認するために、直交スペクトルデータRSDのSN比を算出したい場合がある。あるいは、類似度の妥当性を確認するためにユーザが目視確認したい場合がある。そこで、本実施の形態においては、以下に示すように、次元縮約された直交スペクトルデータRSDが利用される。
【0053】
図3に示すスペクトル表示部210は、次元縮約された直交スペクトルデータRSDを、コンピュータ1のディスプレイ104に表示させる。つまり、上記の図8(B)、図9(B)、図10(B)、図11(B)で示した直交スペクトルデータRSD(波長ごとのクロマトグラムを重ねた図)をディスプレイ104に表示させる。これにより、ユーザは、類似度の判定に用いられる直交スペクトルデータRSDのクロマトグラムのSN比を評価することができる。ユーザは、スペクトル同士を比較した意味のあるピークトラックが行われているのか、あるいは、ノイズによる誤差の範囲であるかなど容易に判断することができる。直交スペクトルデータRSDは次元縮約されているので、ユーザの目視確認も用意である。直交スペクトルデータRSDを再び因子分解を行うことにより、次元縮約を行ってもよいが、結果は同様である。
【0054】
(4)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記の実施の形態では、液体クロマトグラフ3が分析装置の例である。また、上記の実施の形態では、コンピュータ1がピークトラッキング装置の例である。
【0055】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する種々の要素を用いることもできる。
【0056】
(5)他の実施の形態
(5-1)ピークスペクトル支配的成分による直交化の省略
上記実施の形態においては、直交スペクトル抽出部207は、第1の直交処理および第2の直交処理により、直交スペクトルデータRSDを抽出した。ここで、ベースラインスペクトルデータBSDを推定するときに、ピーク領域を切り取る方法を用いる場合には、微小なピークスペクトル成分がベースラインスペクトルデータBSDに混入する場合がある。この場合には、ベースラインスペクトルデータBSDにより、測定スペクトルデータMSDを直交化することにより、ピークスペクトルデータPSDの支配的な成分に対する直交化も行われることになる。このような場合においては、第1の直交処理を実行するだけで、第1の直交処理および第2の直交処理を両方実施した場合と同様の効果が表れることになる。したがって、ピークの類似度が経験的に決めた一定閾値以下であればピークスペクトルの支配的成分による直交化を省略することも可能である。
【0057】
(5-2)ピークの混合可能性の提示
特定の分析条件データAPによっては、偶然に異なる物質由来の2つのピークが重なり、一つのピークとして出力される場合がある。本実施の形態のピークトラッキング方法は、混合されたピークについても、混合可能性を判断する情報を提供可能である。ピークA(スペクトルSA)とピークB(スペクトルSB)が混合してできたピークCのスペクトルSCは完全に重なっていれば、SC=SA+SBである。完全に一致していない場合であっても、SC=αSA+βSBで表され、スペクトルSA,SBで張られる空間に収まるはずである。
【0058】
SC=SA+SBという関係を確認するためには、ピークAの領域の直交スペクトルデータRSDの積算値と、ピークBの領域の直交スペクトルデータRSDの積算値の合計が、SCの値の誤差の範囲に収まるか否かを確認すれば良い。これにより、ピーク混合可能性の情報を得ることができる。
【0059】
図12は、直交スペクトル抽出部207において抽出された直交スペクトルデータRSDの例を示す図である。図12(A)は、直交スペクトル抽出部207において抽出された直交スペクトルデータRSDの各波長におけるクロマトグラムを重ね合わせた図である。図12(B)は、図12(A)の直交スペクトルデータRSDを次元縮約した図である。図12(A)を参照すると、単一のピークのようにも見える。しかし、図12(B)を参照すると、僅かにずれたピークAおよびピークBが存在することが分かる。ピークの形状はピークCに含まれるピークAも独立したピークAも概ね同じである。したがって、ピークAの直交スペクトルデータRSDのクロマトグラムを時間方向に移動して、ピークBのクロマトグラムに重ね合わせ、移動量を最適にすればピークCのクロマトグラムと一致することを確認してもよい。このような確認処理には、多くの計算量が必要となるが、ピークが一致すると誤って判断する可能性を低減させることができる。
【0060】
コンピュータ1は、ピークの混合可能性に関する情報を、他の装置または他のプログラム、プロセスなどに出力するようにしてもよい。例えば、AQBD(Analytical Quality by Design)を目的とした処理を実行する装置に、ピークの混合可能性の情報を出力するようにしてもよい。この場合、コンピュータ1の制御部200は、図2に示した機能ブロックに加えて、更に出力部を備える。
【0061】
例えば、ピークの保持時間や分離度を回帰分析することにより、保持時間や分離度のデザインスペースを取得するプログラムまたは装置がある。これらデザインスペースを処理するプログラムまたは装置に、本実施の形態において算出したピーク混合可能性の情報を出力するようにしてもよい。例えば、ピーク混合可能性の情報を入力した装置において、デザインスペースとピーク混合可能性とを関連付けて情報を提示することができる。
【0062】
(5-3)他の装置構成
上記実施の形態においては、本発明の分析装置として、液体クロマトグラフ3を例に説明した。本発明は、他にも、ガスクロマトグラフにも適用可能である。また、上記の実施の形態において、本実施の形態のピークトラッキング装置であるコンピュータ1は、ネットワーク4を介して分析装置である液体クロマトグラフ3に接続される場合を例に説明した。他の実施の形態として、コンピュータ1が、分析装置に内蔵される構成であってもよい。また、上記の実施の形態においては、測定スペクトルデータMSDは、波長ごとに吸光度などの信号を有するスペクトルデータである場合を例に説明した。本発明は、他にも、検出器としてMSを用いることにより、m/zごとの信号値を有するスペクトルデータにも適用可能である。
【0063】
(5-4)プログラムの提供方法
上記実施の形態においては、ピークトラッキングプログラムP1は、記憶装置106に保存されている場合を例に説明した。他の実施の形態として、ピークトラッキングプログラムP1は、記憶媒体109に保存されて提供されてもよい。CPU101は、デバイスインタフェース108を介して記憶媒体109にアクセスし、記憶媒体109に保存されたピークトラッキングプログラムP1を、記憶装置106またはROM103に保存するようにしてもよい。あるいは、CPU101は、デバイスインタフェース108を介して記憶媒体109にアクセスし、記憶媒体109に保存されたピークトラッキングプログラムP1を実行するようにしてもよい。
【0064】
なお、本発明の具体的な構成は、前述の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。
【0065】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0066】
(第1項)
本発明の一態様に係るピークトラッキング装置は、
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得部と、
各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応部と、を備え、
前記ピーク対応部は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出するピークスペクトル抽出部と、
前記測定スペクトルデータから、前記ピークスペクトルデータの成分のうち支配的な成分と直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出部と、
前記直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定部と、を含む。
【0067】
第1項のピークトラッキング装置によれば、クロマトグラムに含まれるピークを同定することができる。
【0068】
(第2項)
第1項に記載のピークトラッキング装置において、
前記ピーク対応部は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからベースライン由来のスペクトルであるベースラインスペクトルデータを抽出するベースラインスペクトル抽出部、を含み、
前記直交スペクトル抽出部は、
各測定スペクトルデータから、前記ベースラインスペクトルデータと直交するスペクトルデータを抽出してもよい。
【0069】
ベースライン変動成分の影響を排除し、ピークの同定を効果的に行うことができる。
【0070】
(第3項)
第1項または第2項に記載のピークトラッキング装置において、
前記ピークスペクトル抽出部は、
各クロマトグラムに対して二次微分フィルタまたはハイパスフィルタを適用させることにより、ピーク領域を特定するピーク領域特定部と、
特定された前記ピーク領域に基づいて、ベースラインを推定するベースライン推定部と、
前記測定スペクトルデータから前記ベースラインを除去するベースライン除去部と、を含んでもよい。
【0071】
ベースラインを除去することにより、ベースライン変動成分の影響を排除することができる。
【0072】
(第4項)
第1項~第3項のいずれか一項に記載のピークトラッキング装置において、
前記直交スペクトル抽出部は、前記ピークスペクトルデータの特異値分解を行うことにより前記支配的な成分を取得してもよい。
【0073】
特異値分解によりピークスペクトルデータの支配的成分を取得可能である。これにより、ピークトラッキング装置は、ピークスペクトルデータに支配的な成分以外の成分により、ピークの同定を効果的に行うことができる。
【0074】
(第5項)
第1項~第3項のいずれか一項に記載のピークトラッキング装置において、
前記直交スペクトル抽出部は、前記ピークスペクトルデータの時間方向の平均値により、前記支配的な成分を取得してもよい。
【0075】
平均値によりピークスペクトルデータの支配的成分を取得可能である。これにより、ピークトラッキング装置は、ピークスペクトルデータに支配的な成分以外の成分により、ピークの同定を効果的に行うことができる。
【0076】
(第6項)
第1項~第5項のいずれか一項に記載のピークトラッキング装置において、
前記直交スペクトル抽出部が抽出したスペクトルデータを次元縮約してディスプレイに表示するスペクトル表示部、をさらに備えてもよい。
【0077】
ユーザは、ピークトラッキング装置によるピークの類似度判定の妥当性を目視で確認することができる。
【0078】
(第7項)
第1項~第6項のいずれか一項に記載のピークトラッキング装置において、
前記直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータが、複数の物質由来のスペクトルデータにより張られる超平面に含まれることを示す情報を、ピークの混合可能性の情報として提供してもよい。
【0079】
ピーク混合の可能性をユーザに提供することができる。
【0080】
(第8項)本発明の他の態様に係るピークトラッキング装置は、
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得部と、
各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応部と、を備え、
前記ピーク対応部は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからベースライン由来のスペクトルであるベースラインスペクトルデータを抽出するベースラインスペクトル抽出部と、
各測定スペクトルデータから、前記ベースラインスペクトルデータと直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出部と、
前記直交スペクトル抽出部から抽出されたスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定部と、を含む。
【0081】
ベースラインに直交する成分を排除することによって、ピークの同定を行うことが可能である。
【0082】
(第9項)
本発明の他の態様に係るピークトラッキング方法は、
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得するクロマトグラム取得工程と、
各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けするピーク対応工程と、を備え、
前記ピーク対応工程は、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出するピークスペクトル抽出工程と、
前記測定スペクトルデータから、前記ピークスペクトルデータの成分のうち支配的な成分と直交するスペクトルデータを抽出する直交スペクトル抽出工程と、
前記直交スペクトル抽出工程において抽出された直交するスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行う類似度判定工程と、を含む。
【0083】
第9項のピークトラッキング方法によれば、クロマトグラムに含まれるピークを同定することができる。
【0084】
(第10項)
本発明の他の態様に係るピークトラッキングプログラムは、
複数の分析条件データを分析装置に与えることによって得られた複数の測定データに基づいて、複数のクロマトグラムを取得する処理、
各測定データから取得された測定スペクトルデータからピーク由来のスペクトルであるピークスペクトルデータを抽出し、前記測定スペクトルデータから、前記ピークスペクトルデータの成分のうち支配的な成分と直交するスペクトルデータを抽出し、抽出された直交するスペクトルデータの類似度により各ピークの対応付けを行うことにより、各クロマトグラムに含まれる各ピークを対応付けする処理、をコンピュータに実行させる。
【0085】
第10項のピークトラッキングプログラムによれば、クロマトグラムに含まれるピークを同定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12