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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】タンデム冷間圧延機の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/20 20060101AFI20231031BHJP
   B21B 38/04 20060101ALI20231031BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B21B37/20 110A
B21B38/04 B
B21B38/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022546829
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033656
(87)【国際公開番号】W WO2022049739
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手塚 知幸
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-068305(JP,A)
【文献】特開平11-342409(JP,A)
【文献】特開昭58-000309(JP,A)
【文献】特開昭59-097709(JP,A)
【文献】特開2018-134661(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106424156(CN,A)
【文献】特開昭59-021423(JP,A)
【文献】特開2018-005544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/20
B21B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3基のスタンドを備え、最終スタンドにおいてダルロールを用いた被圧延材の表面への粗度の付与が行われるタンデム冷間圧延機の制御システムであって、
前記最終スタンドの入側での被圧延材の板厚を示す入側板厚を計測する入側板厚計と、
前記最終スタンドの出側での前記板厚を示す出側板厚を計測する出側板厚計と、
前記少なくとも3基のスタンドによる前記被圧延材の板厚制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記最終スタンドの入側での前記被圧延材の速度を示す入側速度と、前記最終スタンドの出側での前記速度を示す出側速度と、に基づいて、前記入側板厚計の設置箇所から前記出側板厚計の設置箇所まで、前記入側板厚の計測データを前記被圧延材の速度と同じ速度で搬送し、
前記出側板厚の計測データと、当該出側板厚の計測データが得られたタイミングにおいて前記出側板厚計の設置箇所に搬送されてきた前記入側板厚の計測データを示す搬送データと、に基づいて、前記最終スタンドでの板厚変化量を計算し、
前記板厚変化量と、前記最終スタンドの出側での前記板厚の目標値を示す出側目標板厚と、に基づいて、前記最終スタンドの入側での前記板厚の目標値を示す入側目標板厚を計算し、
前記入側板厚の計測データが前記入側目標板厚に一致するように、前記最終スタンドよりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度の操作量を計算する
ことを特徴とするタンデム冷間圧延機の制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記最終スタンドの入側に設置されて前記入側速度を計測する入側速度計と、
前記最終スタンドの出側に設置されて前記出側速度を計測する出側速度計と、
を備える
ことを特徴とするタンデム冷間圧延機の制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記最終スタンドの入側に設置された非圧延ロールを示す入側ロールと、
前記入側ロールの回転速度を検出する入側回転速度計と、
前記最終スタンドの出側に設置された非圧延ロールを示す出側ロールと、
前記出側ロールの回転速度を検出する出側回転速度計と、
を備え、
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記入側ロールの回転速度およびロール径に基づいて、前記入側速度を推定し、
前記出側ロールの回転速度およびロール径に基づいて、前記出側速度を推定する
ことを特徴とするタンデム冷間圧延機の制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドのロール速度と、当該スタンドの先進率とに基づいて前記入側速度を推定し、
前記最終スタンドのロール速度と、前記最終スタンドの先進率とに基づいて前記出側速度を推定する
ことを特徴とするタンデム冷間圧延機の制御システム。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の制御システムであって、
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記搬送データを前記出側板厚の計測データで除した比、または、前記搬送データから前記出側板厚の計測データを引いた差に基づいて、前記板厚変化量を計算する
ことを特徴とするタンデム冷間圧延機の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最終スタンドで軽圧下圧延を行うタンデム冷間圧延機の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のスタンドにより金属等の材料(以下、「被圧延材」と称す。)を連続的に圧延する冷間圧延が知られている。一般的な冷間圧延では、板厚制御および張力制御が実施される。板厚制御では、2段目以降に位置するスタンドの出側板厚は、当該スタンドよりも上流に位置するスタンドのロール速度によって制御される。張力制御では、スタンドの圧下によって当該スタンドの入側張力が制御される。
【0003】
最終スタンドに表面粗度の大きいロール(以下、「ダルロール」と称す。)を用い、下流ライン処理のために被圧延材の表面に適度な粗度を付与する冷間圧延も知られている。ダルロールを用いる冷間圧延では、表面粗度の転写を一様にするため、通常、最終スタンドの圧延荷重を所定の値に制御し、または、許容範囲内に制御する荷重一定制御が行われる。この場合、最終スタンドの圧下は荷重一定制御に用いられ、当該最終スタンドの入側張力はこれよりも上流に位置するスタンドのロール速度によって制御される。つまり、最終スタンドの板厚制御は、最終スタンドよりも2段上流に位置するスタンドのロール速度により行われる。そのため、むだ時間が大きく、最終スタンドの出側板厚を精度よく制御するのが難しいという問題があった。
【0004】
この問題を解決するための従来技術として、特許文献1および2に開示された技術が例示される。これらの従来技術では、最終スタンドの入側板厚(すなわち、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドの出側板厚)をその目標値にするための第1および第2の板厚制御が行われる。第1の板厚制御では、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドの出側板厚とその目標値の偏差に基づいて、最終スタンドよりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度が制御される。第2の板厚制御では、最終スタンドの出側板厚とその目標値の偏差に基づいて、第1の板厚制御で使用される出側板厚の目標値が修正される。
【0005】
特許文献3に開示された技術では、最終スタンドの出側板厚を計測することなく最終スタンドの出側板厚が制御される。この従来技術では、最終スタンドの出側板厚の予め設定された目標値と、予め設定された最終スタンドの圧下率とを用いて、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドの出側板厚の目標値が計算される。そして、このスタンドの出側板厚が、計算された目標値となるように、最終スタンドよりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特開平7-68305号公報
【文献】日本特開平11-342409号公報
【文献】日本特開2018-122339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1または2の板厚制御では、第1の板厚制御で使用される出側板厚の目標値の修正が、最終スタンドでの出側板厚の偏差を比例積分器等に入力することで行われている。そのため、この目標値修正による遅れが発生するという問題がある。
【0008】
また、最終スタンドでの出側板厚の偏差の入力が行われるということは、最終スタンドの入側板厚の状況(すなわち、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドの出側板厚の状況)が目標値修正に考慮されないことを意味する。そのため、次の問題がある。すなわち、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドの出側板厚が目標値近辺で推移している間は、目標値修正が良好に機能する。一方、そうでない場合は、このスタンドでの出側板厚の偏差の影響が最終スタンドの出側板厚に及び、目標値修正が落ち着くまでに時間が掛かる。この問題は、特に、圧延機の起動時や走間板厚変更時に顕著になる。
【0009】
特許文献3の板厚制御では、次の問題がある。すなわち、最終スタンドの圧下率は、張力、荷重、ロールと被圧延材の間の摩擦係数などの圧延状況によって変化する。ところが、特許文献3の板厚制御では、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドの出側板厚の目標値が予め設定された圧下率を用いて計算される。また、最終スタンドの出側板厚の計測値によるフィードバック制御が行われない。そのため、予め設定された圧下率が適切でなければ、最終スタンドの出側板厚をその目標値にすることが難しい。
【0010】
本発明は、上述した課題の少なくとも1つを解決するためになされたものである。本発明の1つの目的は、最終スタンドでの軽圧下圧延が行われる冷間圧延において、板厚制御の制御応答性を高めることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも3基以上のスタンドを備え、最終スタンドにおいてダルロールを用いた被圧延材の表面への粗度の付与が行われるタンデム冷間圧延機の制御システムであり、次の特徴を有する。
前記制御システムは、入側板厚計と、出側板厚計と、制御装置と、を備える。
前記入側板厚計は、前記最終スタンドの入側での被圧延材の板厚を示す入側板厚を計測する。
前記出側板厚計は、前記最終スタンドの出側での前記板厚を示す出側板厚を計測する。
前記制御装置は、前記少なくとも3基のスタンドによる前記被圧延材の板厚制御を行う。
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記最終スタンドの入側での前記被圧延材の速度を示す入側速度と、前記最終スタンドの出側での前記速度を示す出側速度と、に基づいて、前記入側板厚計の設置箇所から前記出側板厚計の設置箇所まで、前記入側板厚の計測データを前記被圧延材の速度と同じ速度で搬送し、
前記出側板厚の計測データと、当該出側板厚の計測データが計測されたタイミングにおいて前記出側板厚計の設置箇所に搬送されてきた前記入側板厚の計測データを示す搬送データと、に基づいて、前記最終スタンドでの板厚変化量を計算し、
前記板厚変化量と、前記最終スタンドの出側での前記板厚の目標値を示す出側目標板厚と、に基づいて、前記最終スタンドの入側での前記板厚の目標値を示す入側目標板厚を計算し、
前記入側板厚の計測データが前記入側目標板厚に一致するように、前記最終スタンドよりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度の操作量を計算する。
【0012】
前記制御システムは、入側速度計と、出側速度計とを備えていてもよい。
前記入側速度計は、前記最終スタンドの入側に設置されて前記入側速度を計測する。
前記出側速度計は、前記最終スタンドの出側に設置されて前記出側速度を計測する。
【0013】
前記制御システムは、入側ロールと、入側回転速度計と、出側ロールと、出側回転速度計と、を備えていてもよい。
前記入側ロールは、前記最終スタンドの入側に設置された非圧延ロールを示す。
前記入側回転速度計は、前記入側ロールの回転速度を検出する。
前記出側ロールは、前記最終スタンドの出側に設置された非圧延ロールを示す。
前記出側回転速度計は、前記出側ロールの回転速度を検出する。
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記入側ロールの回転速度およびロール径に基づいて、前記入側速度を推定し、
前記出側ロールの回転速度およびロール径に基づいて、前記出側速度を推定してもよい。
【0014】
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドのロール速度と、当該スタンドの先進率とに基づいて前記入側速度を推定し、
前記最終スタンドのロール速度と、前記最終スタンドの先進率とに基づいて前記出側速度を推定してもよい。
【0015】
前記制御装置は、前記板厚制御において、
前記搬送データを前記出側板厚の計測データで除した比、または、前記搬送データから前記出側板厚の計測データを引いた差に基づいて、前記板厚変化量を計算してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、最終スタンドの入側での被圧延材の板厚(入側板厚)の計測データが入側板厚計の設置箇所から出側板厚計の設置箇所まで、被圧延材の速度と同じ速度で搬送される。そのため、最終スタンドの出側での被圧延材の板厚(出側板厚)の計測データが得られた直後に最終スタンドでの板厚変化量を計算することが可能となる。この板厚変化量は、出側板厚の計測データと、当該計測データが得られたタイミングにおいて出側板厚計の設置箇所に搬送されてきた入側板厚の計測データ(搬送データ)と、に基づいて行われる。そのため、板厚変化量のデータは、最終スタンドでの圧下の状況を正確に表している。
【0017】
本発明によれば、この板厚変化量のデータに基づいて、最終スタンドの入側での被圧延材の板厚の目標値(入側目標板厚)が計算され、更には、入側板厚の計測データがこの入側目標板厚に一致するように、最終スタンドよりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度の操作量が計算される。ここで、入側板厚は、最終スタンドよりも1段上流のスタンドでの被圧延材の板厚と同義であり、入側目標板厚は、当該スタンドでの被圧延材の板厚の目標値と同義である。そのため、本発明によれば、最終スタンドよりも1段上流のスタンドでの被圧延材の板厚の如何に関係なく、出側板厚(すなわち、最終スタンドの出側での被圧延材の板厚)を出側目標板厚(すなわち、最終スタンドの出側での板厚の目標値)に素早く一致させることが可能となる。つまり、板厚制御の制御応答性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る制御システムが適用されるタンデム冷間圧延機の全体構成例を示す図である。
図2】入側板厚データ搬送部により行われる搬送処理の一例を説明する図である。
図3】制御装置による板厚制御処理の流れを示すフローチャートである。
図4】第2実施形態に係る制御システムが適用されるタンデム冷間圧延機の全体構成例を示す図である。
図5】第3実施形態に係る制御システムが適用されるタンデム冷間圧延機の全体構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
1.第1実施形態
まず、図1乃至3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るタンデム冷間圧延機の制御システムについて説明する。
【0021】
1-1.制御システムの構成例
図1は、第1実施形態に係る制御システムが適用されるタンデム冷間圧延機の全体構成例を示す図である。図1に示されるタンデム冷間圧延機(以下、単に「圧延機」とも称す。)1は、少なくとも3基のスタンド(例えば、5~6基のスタンド)を備えている。図1には模式的に4段圧延機が示されるが、6段圧延機などの他の圧延機からスタンドが構成されてもよい。スタンドS(N)は、少なくとも3基のスタンドのうち、圧延方向の最も下流に位置するスタンド(すなわち、最終スタンド)である(Nは、スタンドの総数を示す)。スタンドS(N-1)は、最終スタンドよりも1段上流に位置するスタンドである。スタンドS(N-2)は、最終スタンドよりも2段上流に位置するスタンドである。
【0022】
スタンドS(N)の入側(Entry side)には、板厚計11が設けられている。板厚計11は、スタンドS(N)の入側における被圧延材Mの板厚(以下、「入側板厚」とも称す。)He(N)を計測する。スタンドS(N)の出側(Delivery side)には、板厚計12が設けられている。板厚計12は、スタンドS(N)の出側における被圧延材Mの板厚(以下、「出側板厚」とも称す。)Hd(N)を計測する。
【0023】
スタンドS(N)の入側には、速度計13が設けられている。速度計13は、スタンドS(N)の入側における被圧延材Mの速度(以下、「入側速度」とも称す。)VMe(N)を計測する。スタンドS(N)の出側には、速度計14が設けられている。速度計14は、スタンドS(N)の出側における被圧延材Mの速度(以下、「出側速度」とも称す。)VMd(N)を計測する。
【0024】
圧延機1は、制御装置15を備えている。制御装置15は、典型的には、プロセッサ、メモリおよび入出力インターフェースを備えるコンピュータから構成される。制御装置15は、製品板厚等の圧延に関する諸元を決定する上位コンピュータに接続されている。この上位コンピュータの構成が制御装置15に含まれていてもよい。制御装置15は、張力制御システム、荷重一定制御システムおよび板厚制御システムの一部を構成する。
【0025】
制御装置15が張力制御システムの一部を構成する場合、制御装置15は、例えば、上位コンピュータからの諸元データ(例えば、目標張力データ)と、圧延機1からの計測データ(例えば、実張力データ)と、に基づいて、スタンドS(N-1)とスタンドS(N)の間の張力を、スタンドS(N-1)のロール速度の操作により制御する。制御装置15は、また、諸元データ(例えば、目標張力データ)および計測データ(例えば、実張力データ)に基づいて、スタンドS(N-2)とスタンドS(N-1)の間の張力を、スタンドS(N-1)の圧下位置の操作により制御する。張力制御システムの別の例では、制御装置15が、スタンドS(N-1)とスタンドS(N)の間の張力をスタンドS(N)の圧下により制御する。
【0026】
制御装置15が荷重一定制御システムの一部を構成する場合、制御装置15は、スタンドS(N)の圧延荷重を、スタンドS(N)の圧下位置の操作により一定に制御する「軽圧下圧延」を行う。例えば、制御装置15は、スタンドS(N)での計測データ(例えば、実荷重データ)が諸元データ(例えば、目標荷重データ)と一致するように、スタンドS(N)の圧下装置の圧下位置を操作する。
【0027】
図1には、制御装置15が板厚制御システムの一部を構成する場合の構成例が描かれている。制御装置15が板厚制御システムの一部を構成する場合、制御装置15は、計測データおよび諸元データを取得する。計測データには、入側板厚He(N)、出側板厚Hd(N)、入側速度VMe(N)および出側速度VMd(N)のデータが含まれる。諸元データには、出側目標板厚Hd(N)_tgtのデータが含まれる。出側目標板厚Hd(N)_tgtは、スタンドS(N)の出側における被圧延材Mの板厚の目標値を示す。
【0028】
制御装置15は、入側板厚He(N)が入側目標板厚He(N)_tgtに一致するように、スタンドS(N-2)のロール速度を操作する。入側目標板厚He(N)_tgtは、スタンドS(N)の入側における被圧延材Mの板厚の目標値を示す。板厚制御システムの一部を構成する場合の機能構成として、制御装置15は、入側板厚データ搬送部151と、板厚変化量計算部152と、入側目標板厚計算部153と、入側板厚制御部154と、を備えている。なお、これらの機能は、制御装置15のプロセッサがメモリに記憶されている所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0029】
入側板厚データ搬送部151は、入側板厚He(N)のデータの搬送処理を行う。搬送処理では、入側板厚He(N)のデータが板厚計11の設置箇所から板厚計12のそれまで搬送される。図2は、入側板厚データ搬送部151により行われる搬送処理の一例を説明する図である。図2に示す被圧延材Mは、スタンドS(N)での軽圧下圧延によって粗度が付与される。位置P11は、板厚計11の設置箇所を表している。位置P12は、板厚計12の設置箇所を表している。
【0030】
搬送処理では、板厚計11によって時々刻々取得される入側板厚He(N)のデータが、被圧延材Mの速度と同じ速度で位置P11から位置P12まで搬送される。スタンドS(N)の入側におけるデータの移動速度は入側速度と等しく、スタンドS(N)の出側におけるそれは出側速度と等しい。
【0031】
データの搬送は、例えば次のように行われる。まず、位置P11からスタンドS(N)までの入側区間と、スタンドS(N)から位置P12までの出側区間と、が細かく分割される。スキャン時間ごとに被圧延材Mが移動した距離を演算し、演算した距離に基づいて入側板厚He(N)のデータを移動させる。
【0032】
別の搬送例では、データエリアと移動距離エリアの組み合わせが設定される。データエリアには、入側板厚He(N)のデータが格納される。そして、入側速度および出側速度に基づいて、入側板厚He(N)のデータが入力されたタイミングからの被圧延材Mの移動量を計算して移動距離エリアを更新する。この移動距離エリアが位置P11から位置P12までの距離に到達したら、データエリアから入側板厚He(N)のデータが取り出される。
【0033】
搬送処理が行われると、位置P11から位置P12まで入側板厚He(N)のデータが被圧延材Mの速度と同じ速度で搬送される。入側板厚データ搬送部151は、出側板厚Hd(N)のデータが計測されたタイミングにおいて位置P12に搬送されてきた入側板厚He(N)のデータを、「搬送板厚Hc(N)のデータ」として板厚変化量計算部152に送信する。
【0034】
板厚変化量計算部152は、スタンドS(N)での被圧延材Mの板厚変化量ΔH(N)を計算する。板厚変化量ΔH(N)は、出側板厚Hd(N)のデータと、このデータが計測されたタイミングにおいて位置P12に搬送されてきた搬送板厚Hc(N)のデータと、に基づいて計算される。板厚変化量ΔH(N)は、例えば、搬送板厚Hc(N)のデータを出側板厚Hd(N)のデータで除した比ΔHR(=Hc(N)/Hd(N))である。別の例では、板厚変化量ΔH(N)は、搬送板厚Hc(N)のデータから出側板厚Hd(N)のデータを引いた差ΔHD(=Hc(N)-Hd(N))である。板厚変化量計算部152は、板厚変化量ΔH(N)のデータを入側目標板厚計算部153に送信する。
【0035】
入側目標板厚計算部153は、出側目標板厚Hd(N)_tgtと、板厚変化量ΔH(N)に基づいて、入側目標板厚He(N)_tgtを計算する。板厚変化量ΔH(N)が比ΔHRである場合、入側目標板厚計算部153は下記式(2)を用いて入側目標板厚He(N)_tgtを計算する。板厚変化量ΔH(N)が差ΔHDである場合、入側目標板厚計算部153は下記式(3)を用いて入側目標板厚He(N)_tgtを計算する。
He(N)_tgt=Hd(N)_tgt×ΔHR ・・・(2)
He(N)_tgt=Hd(N)_tgt+ΔHD ・・・(3)
入側目標板厚計算部153は、入側目標板厚He(N)_tgtのデータを入側板厚制御部154に送信する。
【0036】
入側板厚制御部154は、入側目標板厚He(N)_tgtと、入側板厚He(N)との差ΔHe(N)に基づいて、スタンドS(N-2)のロール速度VR(N-2)の操作量を計算する。ここで、スタンドS(N)の入側は、スタンドS(N-1)の出側と同じ意味を有する。そのため、入側板厚He(N)は、スタンドS(N-1)の出側における被圧延材Mの板厚(すなわち、出側板厚)Hd(N-1)と同義である。また、入側目標板厚He(N)_tgtは、スタンドS(N-1)の出側における被圧延材Mの板厚の目標値(すなわち、出側目標板厚)Hd(N-1)_tgtと同義である。
【0037】
ロール速度VR(N-2)の操作量の計算方法としては、公知の比例積分制御によるモニター制御が例示される。制御応答性を上げるために、フィードバック制御系の構成にスミス補償器を加えてもよい。なお、入側板厚差ΔHe(N)を速やかに減らすことのできるロール速度VR(N-2)の操作量を計算する方法であれば、上述した計算方法に限られることなく適用可能である。入側板厚制御部154は、ロール速度VR(N-2)の操作量のデータを速度制御装置16に出力する。
【0038】
入側板厚制御部154は、また、スタンドS(N-k)のロール速度VR(N-k)の操作量を計算する(ただし、3≦k≦N-1)。つまり、入側板厚制御部154は、スタンドS(N)よりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度の操作量を計算する。圧延機1の操業を安定にするため、ロール速度VR(N-k)の操作量は、ロール速度VR(N-2)の操作量と同じ割合に設定される。ロール速度VR(N-k)の操作量は、所定の割合に設定されてもよい。
【0039】
1-2.制御装置による板厚制御例
図3は、制御装置15(プロセッサ)による板厚制御処理の流れを示すフローチャートである。図3に示される例では、まず、入側板厚He(N)の搬送処理が行われる(ステップS1)。搬送処理は、入側板厚He(N)が板厚計11によって計測される都度行われる。搬送処理では、板厚計11が計測した入側板厚He(N)のデータが、位置P11から位置P12まで被圧延材Mの速度と同じ速度で搬送される。
【0040】
ステップS1に続いて、板厚変化量ΔH(N)が計算される(ステップS2)。板厚変化量ΔH(N)の計算は、出側板厚Hd(N)が板厚計12によって計測される都度行われる。板厚変化量ΔH(N)は、出側板厚Hd(N)のデータと、このデータが計測されたタイミングにおいて位置P12に搬送されてきた搬送板厚Hc(N)のデータと、に基づいて計算される。板厚変化量ΔH(N)は、比ΔHRまたは差ΔHDとして得られる。
【0041】
ステップS2に続いて、入側目標板厚He(N)_tgtが計算される(ステップS3)。入側目標板厚He(N)_tgtは、ステップS2で計算された板厚変化量ΔH(N)のデータと、出側目標板厚Hd(N)_tgtのデータと、に基づいて計算される。出側目標板厚Hd(N)_tgtのデータが上位コンピュータからの諸元データに含まれることは既に説明したとおりである。
【0042】
ステップS3に続いて、ロール速度VR(N-2)およびVR(N-k)の操作量が計算される(ステップS4)。ロール速度VR(N-2)の操作量は、ステップS3で計算された入側目標板厚He(N)_tgtのデータと、板厚計11が計測した入側板厚He(N)(すなわち、出側板厚Hd(N-1))の最新のデータとの入側板厚差ΔHe(N)に基づいて計算される。ロール速度VR(N-k)の操作量は、ロール速度VR(N-2)の操作量と同じ割合、または、所定の割合に設定される。
【0043】
1-3.効果
以上説明した第1実施形態によれば、入側板厚He(N)のデータの搬送処理が行われるので、出側板厚Hd(N)のデータが計測された直後に板厚変化量ΔH(N)を計算することが可能となる。また、板厚変化量ΔH(N)の計算は、出側板厚Hd(N)のデータと、このデータが計測されたタイミングにおいて位置P12に搬送されてきた搬送板厚Hc(N)のデータとに基づいて行われる。よって、板厚変化量ΔH(N)のデータは、スタンドS(N)での圧下の状況を正確に表している。
【0044】
そして、第1実施形態によれば、板厚変化量ΔH(N)のデータに基づいて入側目標板厚He(N)_tgt(すなわち、出側目標板厚Hd(N-1)_tgt)が計算され、更には、スタンドS(N)よりも2段以上上流に位置するスタンドのロール速度の操作量が計算される。そのため、出側板厚Hd(N-1)の如何に関係なく、出側板厚Hd(N-1)を出側目標板厚Hd(N-1)_tgtに素早く一致させることが可能となる。つまり、板厚制御の制御応答性を高めることが可能となる。また、スタンドS(N)の出側における出側目標板厚Hd(N)_tgtを達成することも可能となる。
【0045】
2.第2実施形態
次に、図4を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る制御システムについて説明する。なお、第1実施形態の説明と重複する説明については適宜省略される。
【0046】
2-1.制御システムの構成例
図4は、第2実施形態に係る制御システムが適用されるタンデム冷間圧延機の全体構成例を示す図である。図4に示される圧延機2は、スタンドS(N)の入側に張力計ロール21を備えている。張力計ロール21は、スタンドS(N-1)とスタンドS(N)の間の張力を計測するため、張力計ロール21の下に設置されている張力計に、被圧延材Mにかかる力を伝える。張力計ロール21には、その回転速度を検出するパルス検出装置22が備え付けられている。張力計ロール21は、本願における「入側ロール」に相当する。パルス検出装置22は、本願における「入側回転速度計」に相当する。
【0047】
圧延機2は、スタンドS(N)の出側に形状計ロール23を備えている。形状計ロール23は、スタンドS(N)の出側における被圧延材Mの形状(例えば、平坦度)を計測する。形状計ロール23には、その回転速度を検出するパルス検出装置24が備え付けられている。形状計ロール23は、本願における「出側ロール」に相当する。パルス検出装置24は、本願における「出側回転速度計」に相当する。
【0048】
第1実施形態では、速度計13および14の計測データ(すなわち、入側速度VMe(N)および出側速度VMd(N)のデータ)を用いて入側板厚He(N)のデータの搬送が行われた。これに対し、第2実施形態では、張力計ロール21の回転速度およびロール径(既知)に基づいて入側速度VMe(N)が計算され、形状計ロール23の回転速度およびロール径(既知)に基づいて出側速度VMd(N)が計算される。つまり、第2実施形態では、入側速度VMe(N)および出側速度VMd(N)の推定値に基づいて、入側板厚He(N)のデータの搬送が行われる。
【0049】
第2実施形態において、スタンドS(N)の出側には、張力計ロール21とは別の張力計ロールが設けられていてもよい。この場合、出側速度VMd(N)は、別の張力計ロールの回転速度およびロール径に基づいて推定されてもよい。この場合の別の張力計ロールは、本願における「出側ロール」に相当する。被圧延材Mをコイル状に巻き取る巻取り設備がスタンドS(N)の出側に設けられている場合は、このコイルの回転速度(巻取り速度)および別途演算されるコイル径に基づいて、出側速度VMd(N)が推定されてもよい。
【0050】
また、第2実施形態において、スタンドS(N)の入側には、形状計ロール23とは別の形状計ロールが設けられていてもよい。この場合、入側速度VMe(N)は、別の形状計ロールの回転速度およびロール径に基づいて推定されてもよい。この場合の別の形状計ロールは、本願における「入側ロール」に相当する。
【0051】
また、第2実施形態において、上述した出側速度VMd(N)の推定データと、速度計13の計測データ(すなわち、入側速度VMe(N))との組み合わせに基づいて、入側板厚He(N)のデータの搬送が行われてもよい。上述した入側速度VMe(N)の推定データと、速度計14の計測データ(すなわち、出側速度VMd(N))との組み合わせに基づいて、入側板厚He(N)のデータの搬送が行われてもよい。
【0052】
2-2.効果
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態による効果と同じ効果を得ることができる。
【0053】
3.第3実施形態
次に、図5を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る制御システムについて説明する。なお、第1実施形態の説明と重複する説明については適宜省略される。
【0054】
3-1.制御システムの構成例
図5は、第3実施形態に係る制御システムが適用されるタンデム冷間圧延機の全体構成例を示す図である。図5に示される圧延機3では、制御装置15にロール速度VR(N-1)およびVR(N)が入力される。ロール速度VR(N-1)は、スタンドS(N-1)のロール速度である。ロール速度VR(N)は、スタンドS(N)のロール速度である。
【0055】
制御装置15には、更に、上位コンピュータからの諸元データとして、先進率f(N-1)およびf(N)が入力される。ここで、先進率f(m)は、下記式(4)から計算される(ただし、m=N-1またはN)。
f(m)={VMd(m)-VR(m)}/VR(m) ・・・(4)
そのため、先進率f(N-1)およびロール速度VR(N-1)を式(4)に代入すれば、出側速度VMd(N-1)(すなわち、入側速度VMe(N))が計算される。また、先進率f(N)およびロール速度VR(N)を式(4)に代入すれば、出側速度VMd(N)が計算される。
【0056】
第1実施形態では、速度計13および14の計測データ(すなわち、入側速度VMe(N)および出側速度VMd(N)のデータ)を用いて入側板厚He(N)のデータの搬送が行われた。これに対し、第3実施形態では、入側速度VMe(N)および出側速度VMd(N)の推定値に基づいて、入側板厚He(N)のデータの搬送が行われる。
【0057】
なお、第3実施形態において、上述した出側速度VMd(N)の推定データと、速度計13の計測データ(すなわち、入側速度VMe(N))との組み合わせに基づいて、入側板厚He(N)のデータの搬送が行われてもよい。上述した入側速度VMe(N)の推定データと、速度計14の計測データ(すなわち、出側速度VMd(N))との組み合わせに基づいて、入側板厚He(N)のデータの搬送が行われてもよい。
【0058】
3-2.効果
以上説明した第3実施形態によれば、第1実施形態による効果と同じ効果を得ることができる。
【0059】
4.その他の実施形態
第1~第3実施形態では、スタンドS(N)の圧下が荷重一定制御に用いられ、ロール速度VR(N-1)が張力制御に用いられた。しかしながら、スタンドS(N)の圧下位置を所定の位置に制御する圧下位置一定制御が行われる場合など、出側板厚Hd(N)を直接制御できない制御システムに本発明は広く適用が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,2,3 圧延機
11,12 板厚計
13,14 速度計
15 制御装置
151 入側板厚データ搬送部
152 板厚変化量計算部
153 入側目標板厚計算部
154 入側板厚制御部
16 速度制御装置
21 張力計ロール
22,24 パルス検出装置
23 形状計ロール
Hc(N) 搬送板厚
Hd(N) 出側板厚
Hd(N)_tgt 出側目標板厚
He(N) 入側板厚
He(N)_tgt 入側目標板厚
ΔH(N) 板厚変化量
M 被圧延材
S(N-2),S(N-1),S(N) スタンド
図1
図2
図3
図4
図5