(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/352 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
F01L1/352
(21)【出願番号】P 2022553850
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034582
(87)【国際公開番号】W WO2022071023
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020166826
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】湊 博志
(72)【発明者】
【氏名】徳永 禎斉
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-227983(JP,A)
【文献】特開2019-183765(JP,A)
【文献】特開2009-257186(JP,A)
【文献】特開2018-200006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34~ 1/356
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御するため電動モータ及び減速ギヤと、前記相対回転位相を実位相として検出する位相センサと、目標位相が設定された際に前記実位相と前記目標位相との位相差を小さくする方向に前記電動モータを制御する位相制御部と、を備えると共に、
前記駆動側回転体に形成された駆動側当接部と、前記従動側回転体に形成された従動側当接部とが当接することにより前記相対回転位相の機械的な限界となる当接位相を有するように構成され、
前記相対回転位相は、所定の幅で変動しており、
前記目標位相が、前記当接位相に設定された場合、若しくは、前記所定の幅での変動により前記相対回転位相が前記当接位相に到達する位相に設定された場合に、前記相対回転位相が前記所定の幅で変動しても前記相対回転位相が前記当接位相に到達することなく前記駆動側当接部と前記従動側当接部との間に間隙が形成される補正目標位相を、前記目標位相に代えて新たな前記目標位相に設定する目標位相補正部を備え
、
前記目標位相補正部は、前記位相センサが、前記相対回転位相が前記当接位相に到達したことを検出した後に、前記当接位相を基準に前記補正目標位相を設定し、
前記電動モータの回転角に対応した信号を検出する回転センサと、前記回転センサで検出される前記回転角に対応した信号から角速度を求める角速度演算部と、を更に備え、
前記位相制御部は、前記駆動側当接部と前記従動側当接部とを当接させる当接制御を行い、
この当接制御において、前記角速度演算部で求められる角速度の変化を示す波形が変化したときに前記位相センサにより検出された前記実位相を前記当接位相に設定する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記目標位相補正部は、前記相対回転位相が前記所定の幅で変動する際の変動幅の1/2以上の値に対応する位相を、前記目標位相に付加した位相を前記補正目標位相とする請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弁開閉時期制御装置として、クランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、カムシャフトと一体的に回転する従動側回転体と、これらの相対回転位相を検出する位相センサと、相対回転位相を制御する駆動機構と、を備えたものとして、以下の特許文献1、あるいは、特許文献2のように、相対回転位相(実位相)と、位相センサで検出される検出位相との誤差を校正するため所定の回転位相で学習を行うものがある。
【0003】
特許文献1の弁開閉時期制御装置(バルブタイミング制御装置)は、従動側回転体(カム軸部材)と、従動側回転体に支承された駆動側回転体(カムプーリ)とを備え、これらにヘリカル噛合する中間部材、及び、油圧によって中間部材の軸方向へ移動させる構成の駆動機構を備えている。
【0004】
この特許文献1の弁開閉時期制御装置では、複数のセンサからの信号によって相対回転位相を検出しており、アイドリング運転時に相対回転位相の基準位相(例えば、最進角位相または最遅角位相)を設定し、この基準位相を学習する。
【0005】
また、特許文献2の弁開閉時期制御装置(可変バルブタイミング制御装置)では、相対回転位相が、基準位相(例えば、最進角位相または最遅角位相)に設定されたタイミング、及び、基準位相の近傍の位相にあるタイミングで学習が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-299876号公報
【文献】特開2012-41901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
弁開閉時期制御装置は、最進角位相と最遅角位相とを決めるため、駆動側回転体の当接部と従動側回転体の当接部とが当接する構造を備えている。また、相対回転位相を設定するため、電動モータの駆動力を減速ギヤで減速して伝える駆動機構を備えたものも開発されている。
【0008】
エンジンの吸気カムシャフトと排気カムシャフトは、エンジンの稼動時にカム変動トルクの作用により回転速度が増速方向と減速方向とに短い周期で変動する。このため、カムシャフトに連結する従動側回転体と、駆動側回転体との間の相対回転位相も進角方向と遅角方向とに短い周期で変動することになり、位相制御において相対回転位相が最遅角位相、あるいは、最進角位相に設定された場合には、当接構造の一対の当接部が当接する状態と、離間する状態とが繰り返して作り出されることになる。
【0009】
特に、相対回転位相を設定する駆動機構が減速ギヤを有するものでは、カム変動トルクによるカムシャフトの回転速度の変動に伴い一対の当接部が当接するタイミングで減速ギヤに作用する負荷が増大し、減速ギヤの歯を破損させる等、駆動機構を故障させることも考えられた。
【0010】
このような理由から、相対回転位相を制御領域の端部や端部の近傍に設定する制御を行っても駆動機構を故障させることのない弁開閉時期制御装置を構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に回転自在で内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体および前記従動側回転体の相対回転位相を制御するため電動モータ及び減速ギヤと、前記相対回転位相を実位相として検出する位相センサと、目標位相が設定された際に前記実位相と前記目標位相との位相差を小さくする方向に前記電動モータを制御する位相制御部と、を備えると共に、前記駆動側回転体に形成された駆動側当接部と、前記従動側回転体に形成された従動側当接部とが当接することにより前記相対回転位相の機械的な限界となる当接位相を有するように構成され、前記相対回転位相は、所定の幅で変動しており、前記目標位相が、前記当接位相に設定された場合、若しくは、前記所定の幅での変動により前記相対回転位相が前記当接位相に到達する位相に設定された場合に、前記相対回転位相が前記所定の幅で変動しても前記相対回転位相が前記当接位相に到達することなく前記駆動側当接部と前記従動側当接部との間に間隙が形成される補正目標位相を、前記目標位相に代えて新たな前記目標位相に設定する目標位相補正部を備え、前記目標位相補正部は、前記位相センサが、前記相対回転位相が前記当接位相に到達したことを検出した後に、前記当接位相を基準に前記補正目標位相を設定し、前記電動モータの回転角に対応した信号を検出する回転センサと、前記回転センサで検出される前記回転角に対応した信号から角速度を求める角速度演算部と、を更に備え、前記位相制御部は、前記駆動側当接部と前記従動側当接部とを当接させる当接制御を行い、この当接制御において、前記角速度演算部で求められる角速度の変化を示す波形が変化したときに前記位相センサにより検出された前記実位相を前記当接位相に設定する点にある。
【0012】
この特徴構成によると、目標位相が、当接位相に設定された場合、若しくは、所定の幅での変動により相対回転位相が当接位相に到達する位相に設定された場合には、目標位相補正部が、相対回転位相が所定の幅での変動により駆動側当接部と従動側当接部とが接近する方向に変位しても駆動側当接部と従動側当接部との間に間隔が形成される補正目標位相を、目標位相に代えて新たに設定する。つまり、目標位相が駆動側当接部と従動側当接部とが当接する位相に限らず、駆動側当接部と従動側当接部とが当接しない位相であってもカム変動トルクの作用によって夫々が当接する位相にある場合には、目標位相に代えて補正目標位相を新たな目標位相に設定することになる。これにより、駆動側当接部と従動側当接部とが離間する状態を維持することが可能となり、カム変動トルクの作用により駆動側当接部と従動側当接部とが当接する不都合を抑制できる。
従って、相対回転位相を制御領域の端部や端部の近傍に設定する制御を行っても駆動機構を故障させることのない弁開閉時期制御装置が構成された。
これによると、目標位相補正部は、位相センサが、相対回転位相が当接位相に到達したことを検出した後に、当接位相を基準に補正目標位相を設定できる。
また、これによると、駆動側当接部と従動側当接部とが離間する状況では、電動モータに作用する負荷は低く、回転センサで検出される回転角に基づき角速度演算部が求める角速度は殆ど変化がない。これに対し、当接制御により駆動側当接部と従動側当接部とが当接する状態に達した場合には、電動モータに作用する負荷の増大により角速度が変化する。このような角速度の変化に基づいて当接位相に達したことを検出できることになり、このように波形が変化した際の実位相を当接位相に設定できる。
【0015】
上記構成に加えた構成として、前記位相制御部は、前記相対回転位相が前記所定の幅で変動する状態において前記駆動側当接部と前記従動側当接部とを当接させる位相に移行させる当接制御を行い、この当接制御において、時間経過に伴い、前記駆動側当接部と前記従動側当接部とを離間させる方向と、前記駆動側当接部と前記従動側当接部とを近接させる方向とに前記実位相が前記所定の幅で繰り返して変化することを前記位相センサにより検出し、前記駆動側当接部と前記従動側当接部とが最も接近したときの前記実位相を前記当接位相に設定しても良い。
【0016】
これによると、当接制御を行い、位相センサで検出される実位相の変化を時間経過に沿って取得することで、カム変動トルクの作用により駆動側当接部と従動側当接部とが離間する方向への変位と、接近する方向への変位とを取得でき、取得した実位相のうち駆動側当接部と従動側当接部とが最も接近した状態で当接したときの実位相を当接位相として設定できる。
【0019】
上記構成に加えた構成として、前記電動モータに供給される電流を検出する電流センサを更に備え、前記位相制御部は、前記駆動側当接部と前記従動側当接部とを当接させる当接制御を行い、この当接制御において、前記電流センサで検出される前記電流が増大したときに前記位相センサで検出された前記実位相を前記当接位相に設定しても良い。
【0020】
当接制御により駆動側当接部と従動側当接部とが当接する状態に達した場合には、電動モータに作用する負荷が増大し、電流センサで検出される電流が増大する。このような理由から、電流センサで検出される電流が上昇した際の実位相が当接位相であり、このように電流センサで検出される電流が上昇した際の実位相を当接位相に設定できる。
【0021】
上記構成に加えた構成として、前記目標位相補正部は、前記相対回転位相が前記所定の幅で変動する際の変動幅の1/2以上の値に対応する位相を、前記目標位相に付加した位相を前記補正目標位相としても良い。
【0022】
カムシャフトの回転時には、カム変動トルクの作用によりカムシャフトの回転位相が進角方向と遅角方向とに所定の変動幅で短い周期で変動する。このような理由から、駆動側当接部と従動側当接部とを当接した実位相を基準に相対回転位相の変動幅の1/2以上の位相を目標位相に付加した位相を補正目標位相とするように、目標位相補正部が補正目標位相に設定することでカム変動トルクの作用により駆動側当接部と従動側当接部とが互いに接近する方向に変位した場合でも、これらが当接する不都合を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】エンジンの断面および制御装置を示す図である。
【
図2】弁開閉時期制御装置の作動本体の断面図である。
【
図4】従動側当接部が進角側外当接位相にある当接構造の断面図である。
【
図5】従動側当接部が進角側補正目標位相にある当接構造の断面図である。
【
図6】従動側当接部が遅角側外当接位相にある当接構造の断面図である。
【
図7】従動側当接部が遅角側補正目標位相にある当接構造の断面図である。
【
図9】当接位相検出ルーチンのフローチャートである。
【
図10】非当接位相での位相変動量と電流とを示すタイミングチャートである。
【
図11】当接位相での位相変動量と電流とを示すタイミングチャートである。
【
図12】別実施形態(a)の当接位相検出ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、内燃機関としてのエンジンEは、吸気バルブVaと排気バルブVbとを備え、吸気バルブVaのバルブタイミング(開閉時期)を設定する弁開閉時期制御装置Aを備えている。このエンジンE(内燃機関の一例)は、乗用車等の走行駆動力を得るために車両に備えられたものを示している。
【0025】
尚、弁開閉時期制御装置Aは、排気バルブVbの開閉時期を設定するものや、吸気バルブVaと排気バルブVbとの開閉時期を個別に設定するように、エンジンEに対して、弁開閉時期制御装置Aを2つ備えるものでも良い。
【0026】
エンジンEと弁開閉時期制御装置Aとは、エンジン制御装置40で制御される。特に、弁開閉時期制御装置Aは、ブラシレスDCモータとして構成される位相制御モータM(電動モータの一例)の駆動力で吸気バルブVaのバルブタイミングを決めるハードウエアで成る作動本体Aaと、位相制御モータMを制御するためエンジン制御装置40のソフトウエアを含む制御ユニットAbとで構成されている。
【0027】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置Aの作動本体Aaは、駆動ケース21(駆動側回転体)と、内部ロータ22(従動側回転体)とを有し、位相制御モータM(電動モータの一例)の駆動力を減速ギヤGで減速して伝えることで駆動ケース21と内部ロータ22との相対回転位相(これ以降の説明では単に「相対回転位相」と記載することもある)の制御を実現する。この弁開閉時期制御装置Aでは、位相制御モータM(電動モータ)と減速ギヤGとを駆動機構と称している。
【0028】
図1に示すように、制御ユニットAbは、エンジン制御装置40のうち、位相センサPS等の信号に基づいて位相制御モータMを制御することにより吸気バルブVaのバルブタイミングを制御するソフトウエアを備えている。
【0029】
図1、
図2に示すように、位相センサPSは、クランクシャフト1の回転角を検出するクランク角センサ16と、吸気カムシャフト7(弁開閉用のカムシャフトの一例)の回転角を検出するカム角センサ17とで構成されている。駆動ケース21と内部ロータ22との相対回転位相は、駆動ケース21と内部ロータ22との回転軸芯Xを中心とする相対的な角度であり、この相対回転位相を変化させることで吸気バルブVaのバルブタイミング(開閉時期)が変化する。特に、位相センサPSで検出される相対回転位相を実位相と称している。
【0030】
図1に示すように、エンジンEは、クランクシャフト1を支持するシリンダブロック2の上部にシリンダヘッド3を連結している。また、エンジンEは、シリンダブロック2に形成された複数のシリンダボアにピストン4を収容し、ピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結して4サイクル型に構成されている。
【0031】
シリンダヘッド3に吸気バルブVaと、排気バルブVbとが備えられ、シリンダヘッド3の上部に吸気バルブVaを制御する吸気カムシャフト7(弁開閉用のカムシャフトの一例)と、排気バルブVbを制御する排気カムシャフト8とが備えられている。また、クランクシャフト1の出力プーリ1Sと、作動本体Aaの駆動プーリ21Sおよび排気バルブVbの排気プーリVbSとに亘ってタイミングベルト6が巻回されている。
【0032】
シリンダヘッド3には、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ9と点火プラグ10とが備えられている。シリンダヘッド3には、吸気バルブVaを介して燃焼室に空気を供給するインテークマニホールド11と、排気バルブVbを介して燃焼室からの燃焼ガスを送り出すエキゾーストマニホールド12とが備えられている。
【0033】
クランク角センサ16は、クランクシャフト1の回転に伴いパルス信号を出力するように構成され、クランクシャフト1の回転基準からのパルス信号をカウントすることで回転基準からの回転角の取得を可能にしている。また、カム角センサ17は、吸気カムシャフト7の回転時に吸気カムシャフト7の回転基準からのパルス信号(クランク角センサ16が出力するパルス信号)をカウントすることで吸気カムシャフト7の回転基準からの回転角の取得を可能にしている。
【0034】
前述したように、位相センサPSは、クランク角センサ16と、カム角センサ17とで構成されている。この構成から、位相センサPSで相対回転位相を検出するには、例えば、駆動ケース21と内部ロータ22とが所定の基準位相(例えば、中間位相)にある状態でのクランク角センサ16の回転基準からのカウント値と、カム角センサ17の回転基準からのカウント値とをエンジン制御装置40の位相制御部42に記憶しておくことにより、相対回転位相が、基準位相から進角側と遅角側との何れに変化しても2種のカウント値の比較により実位相の取得が可能であり、このような原理から位相センサPSでは実位相の検出を実現している。
【0035】
前述したように、エンジン制御装置40は、エンジンEを制御するECUとして制御ユニットAbを構成するものである。このエンジン制御装置40の詳細は後述する。
【0036】
〔弁開閉時期制御装置:作動本体〕
図2に示すように作動本体Aaは、駆動ケース21(駆動側回転体)と、内部ロータ22(従動側回転体)とを吸気カムシャフト7の回転軸芯Xと同軸芯に配置しており、これらの相対回転位相を設定するため、前述した駆動機構として位相制御モータMと減速ギヤGとを備えている。
【0037】
駆動ケース21は、外周に駆動プーリ21Sが形成されている。内部ロータ22は、駆動ケース21に内包され、連結ボルト23により吸気カムシャフト7に連結固定されている。この構成により、内部ロータ22の外周部位に駆動ケース21が相対回転自在に支持される。
【0038】
作動本体Aaは、
図1に示すように、タイミングベルト6からの駆動力により全体が駆動回転方向Sに回転する。また、位相制御モータMの駆動力が減速ギヤGを介して内部ロータ22に伝えられることで駆動ケース21に対する内部ロータ22の相対回転位相が変化する。この変化のうち駆動回転方向Sと同方向へ向かう変化方向を進角方向Saと称し、この逆方向を遅角方向Sbと称している。このように相対回転位相を進角方向Saに変化させることで吸気タイミングを早め、遅角方向Sbに変化させることで吸気タイミングを遅らせるようにバルブタイミングが制御される。
【0039】
減速ギヤGは、位相制御モータMの回転駆動力を減速することにより駆動ケース21と内部ロータ22との相対回転位相の変位を実現する。つまり、エンジンEの稼動時において、吸気カムシャフト7と等しい速度で、位相制御モータMの出力軸MSを駆動回転方向Sと同方向に駆動回転することで、弁開閉時期制御装置Aの相対回転位相が維持される。これに対し、出力軸MSの回転速度を減じることにより、相対回転位相を進角方向Saに変化させ、出力軸MSの回転速度を増大させることにより、相対回転位相を遅角方向Sbに変化させる。
【0040】
〔駆動構成〕
駆動ケース21と内部ロータ22との間に減速ギヤGが配置され、駆動ケース21の開口部分を覆う位置に、複数の締結ボルト25によりフロントプレート24が締結されている。これにより、減速ギヤGと内部ロータ22との回転軸芯Xに沿う方向での変位がフロントプレート24によって規制される。
【0041】
減速ギヤGは、内部ロータ22の内周に回転軸芯Xと同軸芯に形成したリングギヤ26と、内部ロータ22の内周側で回転軸芯Xと平行姿勢の偏心軸芯Yと同軸芯で回転自在に配置されるインナギヤ27とを備えている。また、この減速ギヤGを機能させるため、インナギヤ27の内周側には外面にカム面が形成された偏心カム体28と、フロントプレート24と、オルダム型の継手部Jとを備えている。偏心カム体28は、第1軸受31によってフロントプレート24に対して回転自在に支持されている。
【0042】
リングギヤ26は複数の内歯部26Tを有し、インナギヤ27は複数の外歯部27Tを有し、外歯部27Tの一部がリングギヤ26の内歯部26Tに咬合している。この減速ギヤGは、リングギヤ26の内歯部26Tの歯数と比較してインナギヤ27の外歯部27Tの歯数が1歯だけ少ない内接型遊星ギヤとして構成されている。
【0043】
偏心カム体28は、偏心軸芯Yを中心とする円形の偏心カム面28Aを外周に形成し、この偏心カム面28Aに対し第2軸受32を介してインナギヤ27を回転自在に支持している。位相制御モータMは、エンジンEに支持され、出力軸MSに形成された係合ピン34を偏心カム体28の内周の一対の係合溝28Bに係合させている。詳細を図示していないが、位相制御モータMは、永久磁石を有するロータと、このロータを取り囲む位置に配置される複数の界磁コイルを有するステータと、ロータの回転が伝達される出力軸MSとを備えている。
【0044】
この駆動構成では、位相制御モータMの駆動によって偏心カム体28が、回転軸芯Xを中心に回転する際には、インナギヤ27が1回転する毎に、歯数差に対応する角度だけ、インナギヤ27とリングギヤ26とを相対回転させる。その結果、インナギヤ27に対し継手部Jを介して一体回転する駆動ケース21と、リングギヤ26に連結ボルト23により連結する吸気カムシャフト7とを相対回転させ、駆動ケース21と内部ロータ22との相対回転位相の変位を実現する。
【0045】
〔当接構造〕
特に、作動本体Aaは、
図3に示すように、相対回転位相が進角方向Saの機械的な限界となる進角側当接位相Pa(一般に最進角位相、当接位相の一例)と、遅角方向Sbの機械的な限界となる遅角側当接位相Pb(一般に最遅角位相、当接位相の一例)とを設定する当接構造35を備えている。当接構造35は、駆動ケース21に一体的に形成された駆動側当接部35aと、内部ロータ22に一体形成された従動側当接部35bとを備えている。なお、進角側当接位相Paと遅角側当接位相Pbは、何れもその近傍であってカム変動トルクの作用により進角側当接位相Paと遅角側当接位相Pbに到達する位相も含んでいる。
【0046】
つまり、駆動ケース21のうち回転軸芯Xに直交する姿勢の壁部21wに開口が形成され、この開口の内周に対し、回転軸芯Xを中心とする円周方向で離間する位置に一対の駆動側当接部35aが形成されている。また、従動側当接部35bは、内部ロータ22のうち駆動ケース21の壁部21wの開口に挿通し、相対回転位相が進角側当接位相Paに達した際に一方の駆動側当接部35aに当接し、相対回転位相が遅角側当接位相Pbに達した際に他方の駆動側当接部35aに当接するように形成されている。
【0047】
エンジンEの吸気カムシャフト7と排気カムシャフト8は、エンジンEの稼動時にカム変動トルクの作用により回転速度が増速方向と減速方向とに短い周期で変動する。このため、カムシャフト7,8に連結する内部ロータ22と駆動ケース21との間の相対回転位相も、進角方向Saと遅角方向Sbとに短い周期で変動することになり、位相制御において相対回転位相が進角側当接位相Pa、あるいは、遅角側当接位相Pbに設定された場合には、当接構造35の駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが当接する状態と、離間する状態とが繰り返して作り出されることになる。
【0048】
〔制御構成〕
図1に示すように、エンジン制御装置40には、クランク角センサ16、及び、カム角センサ17からの検出信号が夫々入力される。また、エンジン制御装置40は、位相制御モータMを制御するモータ制御ユニット47に制御信号を出力し、位相制御モータMに内蔵された回転センサRSの検出信号と、モータ制御ユニット47から位相制御モータMに供給される電流信号とが入力される。回転センサRSは、位相制御モータMの回転角に対応した信号を出力する。
【0049】
前述したように、吸気カムシャフト7は、カム変動トルクの作用により相対回転位相が進角方向Saと遅角方向Sbとに所定の幅で変動しており、エンジン制御装置40は、この変動(角速度の変動)を、位相制御モータMに内蔵した回転センサRSの検出信号に基づいて取得している。回転センサRSは、位相制御モータMの出力軸MSが所定の回転角に達する毎に検出信号を出力するものを想定しており、検出信号は、エンジン制御装置40に出力される。
【0050】
エンジン制御装置40は、稼動制御部41を備えると共に、位相制御部42と、当接位相検出部43と、補正目標位相設定部44と、目標位相補正部45と、角速度演算部46とを備えている。これらはソフトウエアとして構成されるものであるが、例えば、一部をロジック回路のようにハードウエアで構成することも可能である。この構成において、位相制御部42と、当接位相検出部43と、補正目標位相設定部44と、目標位相補正部45と、角速度演算部46とで制御ユニットAbが構成されている。また、エンジン制御装置40は、EEPROMのように不揮発性のストレージ(不図示)を備えている。
【0051】
稼動制御部41は、インジェクタ9による燃料の噴射、点火プラグ10による点火等を管理することにより、エンジンEの稼動を制御する。位相制御部42は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み操作量や、走行系に作用する負荷等に対応して弁開閉時期制御装置Aの目標位相を設定すると共に、位相センサPS(クランク角センサ16、カム角センサ17)で検出された実位相と目標位相との位相差(偏差)を小さくする方向に位相制御モータMを制御することにより実位相を目標位相に一致させる位相制御を行う。
【0052】
当接位相検出部43は、前述した位相制御部42による位相制御の実行時に駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが当接するまで位相制御モータMを駆動する当接制御を行い、相対回転位相が機械的な限界となる進角側当接位相Paと、遅角側当接位相Pbとを検出する。
【0053】
補正目標位相設定部44は、当接位相検出部43で検出された当接位相を基準にして、回転センサRSに基づき角速度演算部46で求められる角速度の変動量に基づいて
図5に示す進角側補正目標位相Pac(補正目標位相の一例)と、
図7に示す遅角側補正目標位相Pbc(補正目標位相の一例)とを設定する。
【0054】
この補正目標位相(進角側補正目標位相Pac、遅角側補正目標位相Pbc)は、カム変動トルクの作用により相対回転位相が所定の幅で変動しても、相対回転位相が当接位相(進角側当接位相Pa、遅角側当接位相Pb)に到達することなく駆動側当接部35aと従動側当接部35bとの間に間隙が形成される位相である。
【0055】
目標位相補正部45は、位相制御の実行時において、目標位相が、当接位相に設定された場合や、相対回転位相の所定の幅での変動により目標位相が当接位相に到達する位相に設定された場合に、目標位相に代えて補正目標位相(
図5に示す進角側補正目標位相Pacと、
図7に示す遅角側補正目標位相Pbc)を新たに目標位相に設定する。
【0056】
角速度演算部46は、回転センサRSで検出される回転角に対応する信号から、位相制御モータMの出力軸MSの角速度を演算する。
【0057】
〔制御形態:位相制御〕
図8のフローチャートに示すように、位相制御では、当接位相検出ルーチン(#200ステップ)が実行される。次に、補正目標位相設定部44が、カム変動トルクの作用による相対回転位相の変動を取得し、この取得に基づき補正目標位相(進角側補正目標位相Pacと遅角側外当接位相Pbs)の値を算出し、ストレージに記憶する(#101ステップ)。
【0058】
以下、#101ステップによる制御の詳細を説明する。エンジンEが稼動する状況ではカム変動トルクの作用により吸気カムシャフト7の回転速度が進角方向と遅角方向とに短い周期で、所定の幅で増減するため、相対回転位相も進角方向と遅角方向とに所定の幅で変動する(角速度が変動する)。このため、例えば、相対回転位相を中間位相から進角側に変位させた場合には、相対回転位相が
図3に示す進角側当接位相Paに達する以前に、
図4に示す進角側外当接位相Pasと進角側当接位相Paとの間の位相においても駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが短い周期で当接と離間とを繰り返すことになる。
【0059】
図10の上段には、角速度演算部46で演算される角速度の変動を基準波形Tsとして示している。同図では、横軸に時間経過を取り、縦軸にカム変動トルクの作用による位相の変動量を取っており、基準波形Tsは、正弦波となり相対回転位相の角速度の変動を示している。この制御では、基準波形Tsの振れ量Taの1/2(振幅Tb)に対応する位相角を、進角側当接位相Paに対して遅角方向に変位させた進角側外当接位相Pasとして示している。
【0060】
この進角側外当接位相Pasより更に遅角方向に設定位相だけ変位した相対回転位相では、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとの当接を確実に防止できるため、この相対回転位相を
図5に示す進角側補正目標位相Pacに設定している。尚、進角側補正目標位相Pacでは、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが最も接近したときであっても、これらの間に間隙が形成される。
【0061】
先に説明した、進角側当接位相Paと進角側外当接位相Pasと進角側補正目標位相Pacと同様の考え方に基づいて、
図6に示す遅角側外当接位相Pbsと、
図7に示す遅角側補正目標位相Pbcが設定される。
【0062】
つまり、相対回転位相を中間位相から遅角側に変位させた場合には、相対回転位相が遅角側当接位相Pbに達する以前に、
図6に示す遅角側外当接位相Pbsと遅角側当接位相Pbとの間の位相において駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが短い周期で当接と離間とを繰り返す。
図10の上段に示す、基準波形Tsの振れ量Taの1/2(振幅Tb)に対応する位相角を、遅角側当接位相Pbに対して進角方向に変位させた遅角側外当接位相Pbsとして示している。
【0063】
更に、遅角側外当接位相Pbsから進角方向に設定位相だけ変位させた相対回転位相を
図7に示す遅角側補正目標位相Pbcとしている。尚、遅角側補正目標位相Pbcでは、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが最も近接したときであっても、これらの間に間隙が形成される。
【0064】
「駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが最も近接した」とは、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとの間に間隙が形成される状態となる位置関係を説明するものであり、例えば、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが互いに近接する方向に変位する状況においては、各々が当接する直前の位置関係と言える。
【0065】
以下、進角側当接位相Paと遅角側当接位相Pbの上位概念を当接位相と称し、進角側補正目標位相Pacと遅角側補正目標位相Pbcの上位概念を補正目標位相と称することもある。この進角側補正目標位相Pacあるいは遅角側補正目標位相Pbcを設定する制御形態は後述する。
【0066】
このような理由から、
図8に示すように、当接制御ルーチン(#200ステップ)によって当接位相(進角側当接位相Pa及び遅角側当接位相Pb)を検出した後に、#101ステップにおいて回転センサRSで検出される回転角の信号に基づき
図5、
図7に示す補正目標位相(進角側補正目標位相Pacと遅角側補正目標位相Pbc)の値が算出され、ストレージに記憶される。
【0067】
次に、位相制御の目標位相を取得し(#102ステップ)、取得した目標位相が、補正目標位相(進角側補正目標位相Pacと遅角側補正目標位相Pbc)を基準に駆動側当接部35aと従動側当接部35bが近接する側ではなく、当接構造35で当接が生じないと判断できる場合には(#103ステップのNo)、位相センサPS(クランク角センサ16、カム角センサ17)で検出された実位相と、目標位相との位相差(偏差)を小さくする方向に位相制御モータMを制御する(#105ステップ)。この位相制御は、位相制御部42によって実行される。
【0068】
これに対し、取得した目標位相で位相制御を行った場合に、当該目標位相では当接構造35で駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが当接すると判断できる場合には(#103ステップのYes)、目標位相の値に代えて、補正目標位相(進角側補正目標位相Pacと遅角側補正目標位相Pbcとの何れか)を新たな目標位相に設定し(#104ステップ)、位相制御が実行される。この#104、#105ステップが目標位相補正部45による処理である。
【0069】
つまり、目標位相が進角側外当接位相Pasより進角側に設定された場合には、目標位相に代えて進角側補正目標位相Pacが新たに設定されることにより、カム変動トルクの作用によって目標位相が進角側当接位相Paに到達する場合でも、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが当接することのことない間隙が形成される制御が行われる。
【0070】
これと同様に、遅角側外当接位相Pbsより遅角側に設定された場合には、目標位相に代えて遅角側補正目標位相Pbcが新たに設定されることにより、カム変動トルクの作用によって目標位相が遅角側当接位相Pbに到達する場合でも、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが当接することのない間隙が形成される制御が行われる。
【0071】
これにより、カム変動トルクの作用によって駆動側当接部35aと従動側当接部35bとの間隙が変動する場合でも、これらが接触する不都合を防止し、減速ギヤGに大きい負荷を作用させず、減速ギヤGを破損させる不都合を招くこともない。
【0072】
〔制御形態:当接位相検出ルーチン〕
当接位相検出ルーチン(#200ステップ)を、
図9にサブルーチンとして示している。このルーチンでは位相制御モータMの駆動により、当接部同士(駆動側当接部35aと従動側当接部35b)が当接する方向(機械的な限界に向かう方向)に相対回転位相を変位させ、この駆動時に位相制御モータMの回転センサRSに基づき、角速度演算部46が角速度の変化を示す波形を演算によって取得し(#201、#202ステップ)、取得した波形の比較により当接の有無の判定を行う(#203、#204ステップ)。この#200ステップの当接位相検出ルーチンは当接位相検出部43によって実行される。
【0073】
前述したように、エンジンEが稼動する状況では、カム変動トルクの作用により、内部ロータ22が短時間のうちに進角方向Saと遅角方向Sbとに交互に変動する。当接部同士が当接しない状況での角速度の変化を示す波形を
図10の上段に、正弦波となる基準波形Tsとして示している。これに対し、当接部同士が当接する状態に移行した場合には、駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが当接した位相を基準に、これらが離間する方向への変動だけが許されるため、角速度の変化を示す波形が
図11の上段に示す規制波形Trとなる。このような理由から、#203ステップでは、直前に取得された波形との比較を行い、波形の変化が生じたか否かにより、当接状態と非当接状態との判定が行われる。
【0074】
図11の上段に示す基準波形Tsは、横軸に時間経過を取り、縦軸に角速度を取っており、当接部同士の当接が認められない場合には(#204ステップのNo)、#201、#202ステップの制御が繰り返して行われる。これに対し、当接部同士が当接する状態に移行したことが判定された場合には(#204ステップのYes)、位相変動が規制される実位相(
図11の上段で位相変動量が「0」として示される位相)を当接位相(進角側当接位相Paと、遅角側当接位相Pb)として検出し、#205ステップにおいてストレージに記憶される。
【0075】
この当接位相は、カム変動トルクの作用により駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが接近する方向と離間する方向とに繰り返して変位することにより、実位相が繰り返して変動する状況において、夫々が最も接近したときの実位相となる。
【0076】
尚、当接部同士が当接する状態に達した場合には、前述したように先に取得した波形に対して、この後に取得した波形が変化するため、波形の変化量が所定値を超えたタイミング(例えば、設定された値より角速度が低下したタイミング等)において位相センサPSで検出される実位相を、当接位相として取得するように制御形態を設定することが可能である。
【0077】
#201~#204ステップの制御は、進角側と遅角側とで行われる。これにより、当接位相検出ルーチンでは、進角側当接位相Paと、遅角側当接位相Pbとが検出される。この当接位相検出ルーチン(#200ステップ)の処理は、例えば、エンジンEがアイドリング状態に移行した場合のようにエンジンEの出力が低下した際に実行するなど、エンジンEが稼動する状況で複数回行っても良い。尚、この制御を実現するために角速度を検出するための専用のセンサを用いても良い。
【0078】
〔実施形態の作用効果〕
この弁開閉時期制御装置Aでは、例えば、位相制御の目標位相が最進角位相(進角側当接位相Pa)に設定された場合、若しくは、進角側外当接位相Pasより当接側(進角側)に設定された場合には、目標位相に代えて進角側外当接位相Pasを目標位相に設定することにより、相対回転位相が所定の幅で変動し駆動側当接部35aと従動側当接部35bとが接近する方向に変位しても駆動側当接部35aと従動側当接部35bとの間に間隔を形成するため、駆動機構の減速ギヤGの破損の防止を実現しつつ、必要とするタイミングで吸気バルブVaの開閉が行われる。
【0079】
また、位相制御の所定のタイミングで、当接位相検出ルーチンを実行するため、例えば、経年変化によって当接位相が変化する場合にも、正確な当接位置を検出して適正な制御を実現する。
【0080】
更に、不揮発性のストレージを用いているため、エンジンEが始動した後に当接位相検出ルーチンを実行しない状況であっても、ストレージに既に記憶されている補正目標位相(進角側補正目標位相Pacと遅角側外当接位相Pbs)を用いることが可能となる。また、ストレージには、当接位相(進角側当接位相Paと遅角側当接位相Pb)が記憶されるため、この当接位相に基づいて補正目標位相を算出することも可能となる。
【0081】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0082】
(a)当接位相検出ルーチン(#200ステップ)での制御を、
図12のフローチャートに従って行わせる。この別実施形態(a)では位相制御モータM(電動モータ)に供給される電流をモータ制御ユニット47で検出する制御形態を想定している。
【0083】
つまり、位相制御モータMの駆動により、当接部同士(駆動側当接部35aと従動側当接部35b)を当接させる方向(機械的な限界に向かう方向)に相対回転位相を変位させて、これらを当接させる当接制御を行い、この当接制御時に位相制御モータMに供給される電流を取得し(#201、#202ステップ)、取得した電流に基づいて当接状態の判定を行う(#203ステップ)。
【0084】
位相制御モータMは、当接部同士が当接した際の負荷の増大に伴い位相制御モータMに供給する電流が増大するものであり、#203ステップにおいて電流が増大しない場合には、当接部同士が当接していないと判断し(#203ステップのNo)、#201、#202ステップの制御を繰り返して行う。これに対して、位相制御モータMに供給される電流が増大した場合には、当接部同士が当接状態に達していると判断し(#203ステップのYes)、検出した際の実位相をストレージに記憶する(#204ステップ)。
【0085】
当接部同士が当接しない低負荷の状況では、カム変動トルクの作用により回転センサRSの検出信号に基づいて角速度の変化が、
図10の上端に基準波形Tsに示されるように、正弦波を描くように変動する。このように低負荷である場合に位相制御モータMに供給される電流は、
図10の下段において電流値グラフMcに示すように一定の電流値Q1の電流が位相制御モータMに供給される。
【0086】
これに対し、当接部同士(駆動側当接部35aと従動側当接部35b)が当接し、負荷が増大した場合には、当接部同士が離間する方向への変動だけが許されるため、角速度の変化が
図11の上段に示すように、規制波形Trに示される波形を描くように変化する。
このように負荷が増大した状態では、
図11の下段において電流値グラフMcに示すように、当接部同士が当接するタイミング毎に電流値が山状に増大する。このため、例えば、閾値Q2を設定し、この閾値Q2を超える電流が計測された場合に、当接部同士が当接状態に達していると判断できるように構成している。
【0087】
この別実施形態(a)でも、当接位相検出ルーチンが進角側と遅角側とで行われることにより、進角側当接位相Paと、遅角側当接位相Pbとが検出される。この別実施形態(a)では、単純な制御でありながら、当接位相を確実に検出できる。また、この別実施形態(a)では、制御を実現するために専用の電流センサを取り付けても良い。
【0088】
(b)当接位相検出ルーチン(#200ステップ)での制御を可能にするため、相対回転位相を高い精度で検出する位相センサPSを用いることが考えられる。
図1に示す位相センサPSは、高い精度での相対回転位相の検出が困難であるが、例えば、吸気カムシャフト7が1回転する際に、複数のタイミングで相対回転位相を検出する性能の位相センサPSを用いた場合には、当接位相検出ルーチンにおいて、当接部同士(駆動側当接部35aと従動側当接部35b)が当接する方向(機械的な限界に向かう方向)に相対回転位相を変位させ、当接部同士が当接した場合に相対回転位相の変化が停止するタイミングの実位相を高い精度で取得することが可能となる。従って、このように取得した実位相を当接位相として、記憶することも可能となる。
【0089】
この別実施形態(b)でも、当接位相検出ルーチン進角側と遅角側とで行われることにより、進角側当接位相Paと、遅角側当接位相Pbとが検出される。
【0090】
(c)位相制御部42による制御において、例えば、エンジンEの始動時に既に当接位相がストレージに記憶されている状況のように当接位相が既知である場合には、当接位相検出ルーチン(#200ステップ)の制御を行わずに、実位相の振れ量を取得し、この振れ量に基づいて補正目標位相(進角側補正目標位相Pac、遅角側補正目標位相Pbc)を設定するように制御形態を設定することも考えられる。
【0091】
この別実施形態(c)では、当接位相を検出するための制御を行わないため、補正目標位相の設定を迅速に行える。
【0092】
(d)進角側当接位相Paと、遅角側当接位相Pbとの何れか一方にだけ、補正目標位相を設定するように制御形態を構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、電動式の弁開閉時期制御装置に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 クランクシャフト
7 吸気カムシャフト(カムシャフト)
21 駆動ケース(駆動側回転体)
22 内部ロータ(従動側回転体)
35a 駆動側当接部
35b 従動側当接部
42 位相制御部
45 目標位相補正部
46 角速度演算部
E エンジン(内燃機関)
G 減速ギヤ
M 位相制御モータ(電動モータ)
Pac 進角側補正目標位相
Pbc 遅角側補正目標位相
RS 回転センサ
PS 位相センサ
X 回転軸芯