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▶ 不二製油株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】油性食品
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/34 20060101AFI20231031BHJP
   A23G 1/40 20060101ALI20231031BHJP
   A23G 1/48 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A23G1/34
A23G1/40
A23G1/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022563932
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2022011514
(87)【国際公開番号】W WO2022209842
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021057691
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本池 英樹
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 千晶
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-027280(JP,A)
【文献】特表2009-543562(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023800(WO,A1)
【文献】特開2006-020523(JP,A)
【文献】特開平10-033126(JP,A)
【文献】特開昭57-036938(JP,A)
【文献】特開昭64-034247(JP,A)
【文献】勇気凛りん岸田夕子,抹茶ときな粉のカラメルミルクアーモンド,クックパッド,2008年11月28日,https://cookpad.com/recipe/318372,[検索日2023.01.06]
【文献】ma fleur,ロータス風♪香ばしいカラメルビスケット,クックパッド,2010年06月11日,https://cookpad.com/recipe/907582,[検索日2023.01.06]
【文献】ユミころ,カラメルリンゴのチョコパウンド,クックパッド,2008年02月12日,https://cookpad.com/recipe/496849,[検索日2023.01.06]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆からなる群から選択される一種以上の豆類の粉砕物である豆類粉末素材が焙煎された、豆類焙煎粉末素材、焙煎された糖類、未焙煎の糖類、及び油脂を原材料として含有するチョコレート様の油性食品であって、
該豆類焙煎粉末素材と、該焙煎された糖類が、さらに加えられたリン脂質とともに同時に焙煎されたものである、チョコレート様の油性食品。
【請求項2】
原材料として含有する油脂が、ハードバターを含む、請求項1に記載のチョコレート様の油性食品。
【請求項3】
請求項1に記載の、同時に焙煎された豆類焙煎粉末素材と焙煎した糖類を含む混合物の、色調のL値が40~60である、請求項1又は請求項2に記載のチョコレート様の油性食品。
【請求項4】
該糖類水溶液が、単糖水溶液である、請求項3に記載のチョコレート様の油性食品。
【請求項5】
カカオマス及びココアの合計量が5重量%未満である、請求項1~請求項4いずれか一項に記載のチョコレート様の油性食品。
【請求項6】
緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆からなる群から選択される一種以上の豆類の粉砕物である豆類粉末素材と糖類、及びさらに加えられたリン脂質の混合物を焙煎し、それらと未焙煎の糖類及び油脂を含有させる、チョコレート様の油性食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆類由来粉末素材を使用した油性食品、及び、その油性食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油性食品の一種であるチョコレートは、カカオマス、ココアバター、ココアパウダー等カカオに由来する成分と、砂糖などから構成され、その独特の風味や食感が好まれ、世界中で消費されている。しかしながら、カカオを収穫できる地域は限られており、カカオを主原料として製造されるチョコレートは高価なものである。
【0003】
カカオに由来する成分のうち、ココアバターについては、パーム油等を分別、またエステル交換により代替素材を得る検討が進められ、カカオバターよりも安価に入手できるようになった。
【0004】
特許文献1では、ココアパウダー代用品として大豆蛋白質抽出残渣を主成分とするチョコレート様食品が開示されている。
【0005】
特許文献2では、脱臭した大豆を粉砕、加工したスナック菓子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-27280号公報
【文献】特開平2-84135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、カカオに由来する成分を減少させた新規な油性食品について考察した。
【0008】
特許文献1記載の方法では、風味面の課題を有し、ココアパウダーを全面置換することができなかった。
そこで本発明の目的は、カカオに由来する成分を減少させ、風味的にも優れた新規な油性食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、豆類由来焙煎粉末素材、焙煎した糖類、及び未焙煎の糖類を含有させることで、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1) 豆類由来焙煎粉末素材、焙煎した糖類、および未焙煎の糖類を含有する、油性食品、
(2) 豆類由来焙煎粉末素材および焙煎した糖類の混合物の、色調のL値が40~60である、(1)の油性食品、
(3) 前記焙煎した糖類が、糖類水溶液を焙煎したものである、(1)の油性食品、
(4) 前記焙煎した糖類が、糖類水溶液を焙煎したものである、(2)の油性食品。
(5) 前記糖類水溶液が、単糖水溶液である、(1)~(4)のいずれかの油性食品、
(6) 前記、豆類由来焙煎粉末素材および焙煎した糖類が、同時に焙煎したものである、(1)~(5)のいずれかの油性食品、
(7) カカオマス及びココアの合計量が5重量%未満である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の油性食品、
(8) 豆由来粉末素材と糖類の混合物を焙煎し、それら及び未焙煎の糖類を含有させる油性食品の製造方法、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、カカオに由来する成分を減少させて、油性食品を提供することができる。
好ましい態様として、カカオに由来する成分を使用することなく、油性食品を提供することができる。得られた油性食品は、豆類由来粉末素材の異風味を感じない、好ましい風味を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の油性食品は、豆類由来焙煎粉末素材、焙煎した糖類、及び未焙煎の糖類を含有する。本明細書において、豆類由来焙煎粉末素材とは、豆類由来粉末素材を焙煎して得られる粉末素材である。
なお、本明細書において、豆類由来焙煎粉末素材としては、緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆からなる群から選択される一種以上の豆類の粉砕物である豆類粉末素材が焙煎された、豆類焙煎粉末素材を使用する。
【0013】
本発明で使用することができる豆類由来粉末素材は、豆類の種子状態である豆の全体及び/又はその一部に由来する粉末全般を指す。
豆類としては、大豆、緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆、小豆、ヒヨコ豆等が例示できる。
【0014】
好ましい豆類由来粉末素材としては、大豆、緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆、小豆であって、より好ましくは、大豆、緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆、さらに好ましくは、緑豆、インゲン豆、エンドウ豆、紫花豆、最も好ましくはインゲン豆、紫花豆である。油性食品に適した風味が得られる点で好ましい。
【0015】
本発明の油性食品は、前記した豆類由来粉末素材を焙煎した、豆類由来焙煎粉末素材を使用する。豆類由来粉末素材を焙煎する条件は、得られる豆類由来焙煎粉末素材を使用して得られる油性食品の品質を確認して適宜調整することができるため制限はないが、好ましくは、豆類由来焙煎粉末素材の色調により焙煎条件を設定することができる。
【0016】
本発明で使用することができる焙煎した糖類は、好ましくは、糖類水溶液を焙煎したものであり、より好ましくは、単糖水溶液を使用することが好ましい。単糖類としては、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース等が例示できる。好ましくは、ブドウ糖、果糖、キシロース、より好ましくは果糖である。油性食品に適した色調と、風味が得られる点で好ましい。かかる糖類を組み合わせて使用しても良い。前記成分を含む、はちみつ、黒糖等も制限無く使用することができる。
【0017】
焙煎する温度と時間は、前記した豆類由来焙煎粉末素材や、焙煎した糖類の色調で調整することができるため制限はないが、焙煎条件を例示すると、温度は100℃~250℃が好ましく、より好ましくは、120℃~250℃、さらに好ましくは、140℃~200℃である。
香ばしい風味や、濃い色調が付与できる点で、焙煎時間は10分以上が好ましく、より好ましくは20分以上である。焙煎に使用する機器により変化するため、前記した温度、時間に制限されるものではなく、豆類由来焙煎粉末素材及び焙煎した糖類の、色調や風味に応じて適宜調整して採用することができる。
焙煎に使用する機器としては、均一に混合加熱できるため、撹拌羽根付きが好ましく、熱源は、温度制御ができれば、ガス加熱、IH加熱の何れでもよい。温度制御が容易な点でIH加熱が好ましい。
【0018】
豆類由来焙煎粉末素材や、焙煎した糖類の色調は目視で判断することもできるが、好ましい態様として、焙煎度合いは色調のL値を指標として、加熱条件を調整することができる。色調L値も特に限定されるものではないが、色差計を用いて測定したものであり、色差計としては、測色色差計(ZE-6000:日本電色工業株式会社製)が例示できる。
好ましい態様として、本発明の油性食品は、豆類由来焙煎粉末素材及び焙煎した糖類の混合物の色調L値が40~60であることが好ましい。
色調L値を所定の範囲に調整することで、風味が良好でありながら、種々の色調に調整した新規な油性食品を調製することができる。
【0019】
前記したとおり、本発明の油性食品は、豆類由来焙煎粉末素材及び、焙煎した糖類を使用するが、豆類由来粉末素材及び、糖類を同時に焙煎したものであっても良い。工程管理を同時に実施でき、工程を簡略可できる点で好ましい。
また好ましい態様として、豆類由来粉末素材及び、糖類を同時に焙煎する工程で、さらに油脂分を含有させることが、風味が向上できる点で好ましい。使用することができる油脂分としては、各種食用油脂を使用することができる。より好ましい油脂分としては、リン脂質を使用することができる。
【0020】
本発明で使用することができる未焙煎の糖類としては、単糖類、二糖類などが使用できる。具体例としては、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、糖アルコール、果糖ぶどう糖液糖等が例示できる。必要に応じてトレハロースやオリゴ糖などの他の糖類や糖アルコールなどを配合してもよい。それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができ、前記糖類は、取り扱いの観点から粉末状であることが好ましい。
【0021】
豆類由来焙煎粉末素材の油性食品中の含有量は、好ましくは、10重量%~50重量%、より好ましくは、15重量%~45重量%、さらに好ましくは、20重量%~40重量%である。
【0022】
焙煎した糖類の油性食品中の含有量は、好ましくは、豆類由来焙煎粉末素材に対して焙煎した糖類の含有重量比が0.01 ~0.5、より好ましくは、0.05 ~0.3である。
【0023】
未焙煎の糖類の油性食品中の含有量は、好ましくは、0.5重量%~50重量%、より好ましくは、0.5重量%~40重量%、さらに好ましくは、10重量%~40重量%、さらにより好ましくは、20重量%~40重量%である。
【0024】
油性食品に用いられる原材料としては、豆類由来焙煎粉末素材、焙煎した糖類、及び未焙煎の糖類を含む以外に特に限定はなく使用することができる。代表的な油性食品であるチョコレートの組成を参考に適用することもできる。一例としては、乳成分、油脂類、その他可食物を適宜組み合わせる事が出来る。その他添加物としては、乳化剤・酸化防止剤・香料等が挙げられるが、種類・量ともに限定はされず、添加しなくてもかまわない。
【0025】
本発明の豆由来焙煎粉末素材及び焙煎した糖類を用いることで、カカオ由来原料であるカカオマス及びココアの合計量が5%未満であっても、風味良好なチョコレート類を調製することができる。さらには、カカオマス及びココアを実質的に含まず、風味良好なチョコレート類を調製することができる。
【0026】
使用可能な油脂は、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
本発明の油性食品においては、好ましい硬さを与えるために、カカオバター代用脂を使用することが望ましい。カカオバター代用脂はハードバターとも呼ばれているが、その種類はテンパリング型、ノンテンパリング型の何れであってもよい。油性食品に求められる多様な品質に応じて、適宜、他の油脂も選択し、組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の油性食品は、チョコレート類の製造工程(混合工程、ロール掛け、コンチング処理、成形冷却固化工程等)により製造することができる。
【0028】
本発明の油性食品は、豆類由来粉末素材、焙煎する糖類及び未焙煎の糖類の種類や配合量の調整、焙煎条件を調整することで、濃い色調~希薄な色調、香ばしい風味、希薄な風味~渋い風味、など種々の色調や様々な風味を有する、新規な油性食品を得ることができる。
【実施例
【0029】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、例中、%及び部はいずれも重量基準を意味する。
【0030】
(油性食品の作製方法)
・豆類は、市販のコーヒーミルで粉砕して使用した。
・表1焙煎欄に記載の原材料を加えて混合し、平らに広げる。
・オーブン(DKM600:ヤマト科学株式会社製)を使用して焙煎した。加熱条件は所望の焙煎度となるように130~190℃ 、20~60分間の範囲内で調節した。
・焙煎した後に、表1混合欄に記載の原材料の配合割合に従い、全ての粉類、融解した油脂の一部を配合する。なお油脂として、ハードバター(不二製油製 商品名「パルケナS」)を使用した。
・上記生地をシェイクマスターオート(株式会社バイオメディカルサイエンス)でボールミル粉砕し、粉砕物を得た。粉砕物の粒度は20~30μmであった。なお粒度測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ社製、商品名「デジマチック標準外側マイクロメーター MDC-25PJ」)を使用した。
・残りの油脂を追加し、レシチンを添加し、混合して液状化した。
・モールドに流し、5℃で固化させた。
【0031】
(油性食品の評価方法)
・18~20℃の室内に1~3時間放置した油性食品の風味の評価を行なう。
【0032】
(色調の評価)
豆類由来粉末素材の色調は、測色色差計ZE-6000を用いて測定した。
○:L値が40~60。良好
×:L値が60を超える、または40を下回る。
【0033】
(風味の評価)
・下記基準にて油性食品を評価し、評価3以上を合格とした。
5:豆臭が抑制され非常に良好
4:良好
3:やや良好
2:やや不良
1:豆臭が強く不良
【0034】
(総合評価)
・色調の評価が「○」でかつ、風味の評価3の油性食品を総合評価「○」とした。
・色調の評価が「○」でかつ、風味の評価4以上の油性食品を総合評価「◎」とした。
【0035】
【表1】
【0036】
豆類として、紫花豆を使用した。なお、焙煎欄中の糖類とレシチンは、糖類の33%水溶液にレシチンを加えたものを豆類に混合して焙煎した。比較例については、糖類を水に置き換えて豆類に混合して焙煎した。
【0037】
(検討-1)果糖の効果検討
・糖類として、果糖を使用して、表1「糖類あり」で実施例1~3を作製した。比較例1~5は、表1「糖類なし」で油性食品を作製した。
・前記(油性食品の作製方法)に従って油性食品を作製し、(油性食品の評価方法)に従って評価した。比較例では、実施例と同様な温度で焙煎し、実施例1の3倍の時間(90分)焙煎しても、色調L値を低下することができなかった。
【0038】
【表2】
【0039】
(考察)
・実施例の油性食品は、油性食品に適した色調と、良好な風味が得られた。
・焙煎した糖類を使用していない比較例は、豆臭さが強すぎる結果であった。
・実施例1は、薄い茶色で、強いロースト感があり優れた油性食品が得られた。
【0040】
(検討-2)各種糖類の効果検討、焙煎条件の検討
・糖類として、はちみつ、黒糖を使用して、表1「糖類あり」で実施例4~6を作製した。
・前記(油性食品の作製方法)に従って油性食品を作製し、(油性食品の評価方法)に従って評価した。
【0041】
【表3】
【0042】
(考察)
・果糖以外の各種糖類を使用しても同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、新規な油性食品を提供することができる。