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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
F16D41/08 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023527264
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2022042069
(87)【国際公開番号】W WO2023085395
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2021185429
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021211833
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】土肥 永生
(72)【発明者】
【氏名】金子 祥平
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/216280(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/172558(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/054479(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-47/06,49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に被押圧面を有する被押圧部材と、
前記被押圧面の径方向内側に配置された少なくとも1個の入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置された入力部材と、
前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置された出力部材と、
それぞれが前記被押圧面に対向し、かつ、周方向に互いに離隔した1対の押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部とを有し、前記被押圧面に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置された係合子と、
を備え、
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面から離れる方向に変位し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達し
前記係合子は、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側被係合部に前記出力側係合部が係合することに基づいて、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させ、
前記出力部材の所定方向への回転に伴い、前記1対の押圧面が前記被押圧面に押し付けられ、かつ、前記入力部材の前記所定方向と反対方向への回転に伴い、前記入力側係合部と前記入力側被係合部とが係合した状態を第1状態とし、
前記出力部材に回転トルクが逆入力され、前記1対の押圧面が前記被押圧面に接触した状態を第2状態とし、
前記第1方向と前記入力部材の回転中心との両方に直交する方向を第2方向とした場合、
前記第1状態において、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との接触部と、前記入力部材の回転中心との前記第2方向に沿う距離は、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記出力部材の回転中心との前記第2方向に沿う距離よりも大きく、
前記第2状態において、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部、前記1対の押圧面のうちの一方の押圧面と前記被押圧面との接触部と、前記出力部材の回転中心とを結ぶ仮想直線よりも前記第1方向に関して前記出力部材の回転中心に近い側に位置する、
逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記第2状態において、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部を第一接触部とし、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との接触部を第二接触部とし、前記1対の押圧面のうち前記第2方向に関して前記出力部材の回転中心を挟んで前記第一接触部と反対側に位置する他方の押圧面と被押圧面との接触部を第三接触部とした場合、
前記第一接触部と前記第二接触部との前記第2方向に沿う距離である力点距離は、前記第一接触部と前記第三接触部との前記第2方向に沿う距離である作用点距離の1/3よりも小さい、
請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記係合子を1対備え、かつ、前記入力部材が、前記入力側係合部を1対有する、
請求項1又は請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達するのに対し、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しないかまたはその一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する、逆入力遮断クラッチに関する。
本願は、2021年12月27日に出願された日本国特願2021-211833号及び2021年11月15日に出願された日本国特願2021-185429号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
逆入力遮断クラッチは、駆動源などの入力側機構に接続される入力部材と、減速機構などの出力側機構に接続される出力部材とを備えており、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達するのに対し、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しないかまたはその一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する機能を有する。
【0003】
逆入力遮断クラッチは、出力部材に逆入力される回転トルクを遮断する機構の相違により、ロック式とフリー式に大別される。ロック式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、出力部材の回転を防止する機構を備える。一方、フリー式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが入力された際に、出力部材を空転させる機構を備える。ロック式の逆入力遮断クラッチとフリー式の逆入力遮断クラッチとのいずれを使用するかについては、逆入力遮断クラッチを組み込む装置の用途などによって適宜決定される。
【0004】
国際公開第2021/054481号パンフレットには、ロック式の逆入力遮断クラッチが記載されている。国際公開第2021/054481号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチは、1対の入力側係合部を有する入力部材と、出力側係合部を有する出力部材と、被押圧面を有する被押圧部材と、係合子本体とリンク部材とを有する係合子とを備える。前記係合子本体は、前記出力側係合部と係合する出力側被係合部と、前記入力側係合部よりも前記被押圧面に近い側に位置する揺動支持部とを有する。また、前記リンク部材は、前記揺動支持部に揺動可能に連結された第1の端部と、前記入力側係合部に揺動可能に連結された第2の端部とを有する。
【0005】
国際公開第2021/054481号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチでは、前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部によって、前記リンク部材を介して前記揺動支持部が引っ張られることにより、前記被押圧面から遠ざかるように変位するとともに、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達する。一方、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けることで、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させる。
【0006】
国際公開第2021/054481号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチによれば、入力部材への回転トルクの入力時に、押圧面が被押圧面に押し付けられた状態(ロック状態または半ロック状態)から、押圧面が被押圧面から離れた状態(ロック解除状態または半ロック解除状態)への切り換えを円滑に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2021/054481号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
国際公開第2021/054481号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチは、係合子を係合子本体とリンク部材とを有する構成としているため、部品点数が多く、部品管理や組立コストが嵩んで、製造コストが増大してしまう。
【0009】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、入力部材への回転トルクの入力時に、押圧面が被押圧面に押し付けられた状態(ロック状態または半ロック状態)から、押圧面が被押圧面から離れた状態(ロック解除状態または半ロック解除状態)への切り換えを円滑に行うことができ、かつ、製造コストを抑えることができる、逆入力遮断クラッチの構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る逆入力遮断クラッチは、被押圧部材と、入力部材と、出力部材と、係合子とを備える。
【0011】
前記被押圧部材は、内周面に被押圧面を有する。
【0012】
前記入力部材は、前記被押圧面の径方向内側に配置された少なくとも1個の入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている。
【0013】
前記出力部材は、前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている。
【0014】
前記係合子は、それぞれが前記被押圧面に対向し、かつ、周方向に互いに離隔した1対の押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部とを有し、前記被押圧面に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置されている。
【0015】
また、前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面から離れる方向に変位し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達し、かつ、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側被係合部に前記出力側係合部が係合することに基づいて、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させる。
【0016】
特に本発明の一態様に係る逆入力遮断クラッチでは、前記出力部材の所定方向への回転に伴い、前記1対の押圧面が前記被押圧面に押し付けられ、かつ、前記入力部材の前記所定方向と反対方向への回転に伴い、前記入力側係合部と前記入力側被係合部とが係合した状態において、前記第1方向と前記入力部材の回転中心との両方に直交する第2方向に関する、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との接触部と、前記入力部材の回転中心との距離が、前記第2方向に関する、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記出力部材の回転中心との距離よりも大きい。
【0017】
また、前記出力部材に回転トルクが逆入力され、前記1対の押圧面が前記被押圧面に接触した状態で、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部が、前記1対の押圧面のうちの一方の押圧面と前記被押圧面との接触部と、前記出力部材の回転中心とを結ぶ仮想直線よりも前記第1方向に関して前記出力部材の回転中心に近い側に位置する。
【0018】
本発明の一態様に係る逆入力遮断クラッチは、前記係合子を1対備えることができ、かつ、前記入力部材が、前記入力側係合部を1対有することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様に係る逆入力遮断クラッチによれば、入力部材への回転トルクの入力時に、押圧面が被押圧面に押し付けられた状態(ロック状態または半ロック状態)から、押圧面が被押圧面から離れた状態(ロック解除状態または半ロック解除状態)への切り換えを円滑に行うことができ、かつ、製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチを、出力部材側から見た端面図である。
図2図2は、図1のII-II断面図である。
図3図3は、図2のX-X断面図である。
図4図4は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチに関して、入力部材に回転トルクが入力された状態を示す、図3と同様の図である。
図5図5は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチに関して、出力部材に回転トルクが逆入力された状態を示す、図3と同様の図である。
図6A図6Aは、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチの効果を説明するための模式図である。
図6B図6Bは、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチの効果を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態の1例について、図1図6Bを用いて説明する。なお、軸方向、径方向および周方向とは、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向および周方向をいう。本例において、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向および周方向は、入力部材3の軸方向、径方向および周方向と一致し、かつ、出力部材4の軸方向、径方向および周方向と一致する。また、軸方向片側とは、入力部材3側(図2の右側)をいい、軸方向他側とは、出力部材4側(図2の左側)をいう。
【0022】
[逆入力遮断クラッチの構造の説明]
本例の逆入力遮断クラッチ1は、被押圧部材2と、入力部材3と、出力部材4と、1対の係合子5とを備える。逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3に入力される回転トルクを出力部材4に伝達するのに対し、出力部材4に逆入力される回転トルクは完全に遮断して入力部材3に伝達しないかまたはその一部のみを入力部材3に伝達して残部を遮断する逆入力遮断機能を有する。なお、以下の説明では、主に入力部材3の回転方向が反時計方向である場合及び出力部材4の回転方向が時計方向である場合を例に説明するが、これに限られない。すなわち、本例の逆入力遮断クラッチ1は、回転方向(トルクの入力方向)に依らず、逆入力される回転トルクの遮断(ロック動作)及びロック解除動作を実施可能である。
【0023】
被押圧部材2は、円筒形状を有し、たとえばハウジングなどの図示しない他の部材に固定されるか、または、他の部材と一体に設けられることにより、その回転が拘束されている。被押圧部材2は、内周面に、円筒面状の凹面である被押圧面6を有する。
【0024】
入力部材3は、電動モータなどの入力側機構に接続され、回転トルクが入力される。入力部材3は、基板部7と、入力軸部8と、1対の入力側係合部9とを有する。
【0025】
基板部7は、軸方向から見て略円形の端面形状を有する。
【0026】
入力軸部8は、基板部7の軸方向片側面の中央部から軸方向片側に向けて突出している。入力軸部8は、軸方向片側部分に、前記入力側機構の出力部にトルク伝達可能に接続するための入力側接続部10aを有する。本例では、入力側接続部10aは、外周面に互いに平行な1対の平坦面を含む二面幅形状を有する。ただし、入力側接続部10aは、前記入力側機構の出力部にトルク伝達可能に接続することができれば、任意の形状とすることができる。
【0027】
1対の入力側係合部9は、軸方向から見て略扇形または略台形の端面形状を有し、基板部7の軸方向他側面の径方向反対側2箇所位置から軸方向他側に向けて突出している。1対の入力側係合部9は、入力部材3の径方向に互いに離隔している。このため、それぞれの入力側係合部9は、基板部7の軸方向他側面のうちで回転中心Oから径方向外側に外れた部分に配置されている。また、それぞれの入力側係合部9は、周方向に関して対称な形状を有する。
【0028】
本例では、それぞれの入力側係合部9の径方向内側面9aは、互いに平行な平坦面により構成されており、かつ、それぞれの入力側係合部9の径方向外側面9bは、基板部7の外周面と同じ円筒面状の輪郭形状を有する。また、それぞれの入力側係合部9の1対の周方向側面9cは、径方向外側に向かうほど互いに離れる方向に傾斜した平坦面により構成されている。
【0029】
出力部材4は、減速機構などの出力側機構に接続され、回転トルクを出力する。出力部材4は、入力部材3と同軸に配置されている。本例では、出力部材4は、出力軸部11と、出力側係合部12とを有する。
【0030】
出力軸部11は、軸方向片側の端部に、径方向外側に向けて突出するフランジ部18を有し、かつ、軸方向他側部分に、前記出力側機構の入力部にトルク伝達可能に接続するための出力側接続部10bを有する。本例では、出力側接続部10bは、外周面に互いに平行な1対の平坦面を含む二面幅形状を有する。ただし、出力側接続部10bは、前記出力側機構の入力部にトルク伝達可能に接続することができれば、任意の形状とすることができる。
【0031】
出力側係合部12は、カム機能を有する。すなわち、出力部材4の回転中心Oから出力側係合部12の外周面までの距離は、周方向に関して一定でない。本例では、出力側係合部12は、軸方向から見て略矩形または略長円形の端面形状を有し、出力軸部11の軸方向片側の端面の中央部から軸方向片側に向けて突出している。すなわち、出力側係合部12の外周面は、互いに平行な1対の平坦面12aと、それぞれが部分円筒面状の1対の凸曲面12bとから構成されている。このため、出力部材4の回転中心Oから出力側係合部12の外周面までの距離は、周方向にわたり一定でない。なお、本例では、1対の凸曲面12bは、出力部材4の回転中心Oを中心とする部分円筒面により構成されている。
【0032】
出力側係合部12は、出力部材4の回転中心Oを通り、かつ、1対の平坦面12aに直交する仮想平面に対して面対称であり、かつ、出力部材4の回転中心Oを通り、かつ、1対の平坦面12aに平行な仮想平面に対して面対称である。このような出力側係合部12は、1対の入力側係合部9同士の間部分に配置される。
【0033】
1対の係合子5は、軸方向から見て略半円形の端面形状を有し、かつ、幅方向(後述する平坦面部15に対して平行な方向であって、図3に矢印Bで示す方向)に関して対称な形状を有する。
【0034】
1対の係合子5は、径方向外側面に、それぞれが被押圧面6に対向し、かつ、周方向に関して互いに離隔した1対の押圧面13を有する。それぞれの押圧面13は、被押圧面6の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する部分円筒面状の凸曲面により構成されている。なお、1対の係合子5の径方向外側面のうち、1対の押圧面13から周方向に外れた部分は、軸方向から見た場合に、入力部材3の中心軸Oを中心とし、かつ、1対の押圧面13に接する仮想円よりも、径方向内側に存在している。すなわち、1対の押圧面13が被押圧面6に当接した状態で、1対の係合子5の径方向外側面のうち、1対の押圧面13から周方向に外れた部分は、被押圧面6に当接しない。
【0035】
それぞれの押圧面13は、係合子5のその他の部分よりも被押圧面6に対する摩擦係数が大きい表面性状を有することが好ましい。また、それぞれの押圧面13は、係合子5のその他の部分と一体に構成することもできるし、係合子5のその他の部分に、貼着や接着などにより固定された摩擦材の表面に形成することもできる。
【0036】
また、1対の係合子5は、径方向内側面の幅方向中央部に、出力側係合部12と係合可能な出力側被係合部14を有する。本例では、1対の係合子5の径方向内側面に、平坦面部15を有し、かつ、平坦面部15の幅方向2箇所位置に、径方向内側に向けて突出する1対の凸部16を有する。そして、出力側被係合部14は、平坦面部15のうち、幅方向に関して1対の凸部16同士の間に存在する部分により構成されている。なお、本例では、出力側被係合部14の幅方向寸法(1対の凸部16同士の間隔)を、出力側係合部12の平坦面12aの幅方向寸法よりも大きくしている。
【0037】
なお、係合子5に関して径方向とは、図3に矢印Aで示した平坦面部15に対して直角な方向をいい、係合子5に関して幅方向とは、図3に矢印Bで示した平坦面部15に対して平行な方向をいう。本例では、係合子5に関する径方向が、係合子5の1対の押圧面13の被押圧面6に対する遠近方向であって、第1方向に相当し、係合子5に関する幅方向が、第1方向と入力部材3の回転中心Oとの両方に直交する第2方向に相当する。
【0038】
さらに、1対の係合子5は、幅方向中央部の径方向中間部に、入力側係合部9と係合可能な入力側被係合部17を有する。本例では、入力側被係合部17は、軸方向から見て略弓形の開口形状を有し、かつ、係合子5の幅方向中央位置の径方向中間部を軸方向に貫通する貫通孔により構成されている。入力側被係合部17は、入力側係合部9を緩く挿入できる大きさを有する。したがって、入力側被係合部17の内側に入力側係合部9を挿入した状態で、入力側係合部9と入力側被係合部17の内面との間には、係合子5の幅方向および径方向にそれぞれ隙間が存在する。このため、入力側係合部9は、入力側被係合部17(係合子5)に対し、入力部材3の回転方向に関する変位が可能であり、入力側被係合部17は、入力側係合部9に対し、係合子5の径方向の変位が可能である。本例では、入力側被係合部17は、径方向内側面(径方向外側を向いた面)に、平坦面部15と平行な平坦面17aを有する。
【0039】
なお、本発明を実施する場合、入力側被係合部を、係合子の軸方向片側面にのみ開口する有底孔により構成することもできる。あるいは、入力側被係合部を、係合子の径方向外側面に開口する切り欠きにより構成することもできる。
【0040】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、それぞれの係合子5の1対の押圧面13を径方向に関して互いに反対側に向け、かつ、それぞれの係合子5の径方向内側面(平坦面部15)を互いに対向させた状態で、1対の係合子5を被押圧部材2の径方向内側に、該1対の係合子5の径方向(第1方向)の移動を可能に配置する。また、軸方向片側に配置した入力部材3の1対の入力側係合部9を、1対の係合子5の入力側被係合部17に軸方向に挿入し、かつ、軸方向他側に配置した出力部材4の出力側係合部12を、1対の出力側被係合部14同士の間に軸方向に挿入する。すなわち、1対の係合子5は、それぞれの出力側被係合部14により、出力側係合部12を径方向外側から挟むように配置される。
【0041】
なお、1対の係合子5を被押圧部材2の径方向内側に配置した状態で、被押圧面6と1対の押圧面13との間部分、および、凸部16の先端面同士の間部分の少なくとも一方に隙間が存在するように、被押圧部材2の内径寸法と係合子5の径方向寸法が規制されている。
【0042】
(逆入力遮断クラッチの動作説明)
本例の逆入力遮断クラッチ1の動作について、図4および図5を用いて説明する。なお、図4および図5は、入力部材3および出力部材4と、1対の係合子5との間の径方向に関する隙間を誇張して示している。
【0043】
まず、入力部材3に入力側機構から回転トルクが入力された場合を説明する。
【0044】
入力部材3に回転トルクが入力されると、図4に示すように、入力側被係合部17の内側で、入力側係合部9が入力部材3の回転方向(図4の例では反時計方向)に回転する。すると、入力側係合部9の径方向内側面9aが入力側被係合部17の平坦面17aを径方向内側に向けて押圧し、1対の係合子5を、被押圧面6から離れる方向にそれぞれ移動させる。つまり、1対の係合子5を、入力部材3との係合に基づき、互いに近づく方向である径方向内側に向けて(図4の上側に位置する係合子5を下側に向けて、図4の下側に位置する係合子5を上側に向けて)それぞれ移動させる。これにより、1対の係合子5の径方向内側面が互いに近づく方向に移動し、1対の出力側被係合部14が出力部材4の出力側係合部12を径方向両側から挟持する。すなわち、出力部材4を、出力側係合部12の平坦面12aが係合子5の平坦面部15と平行になるように回転させつつ、出力側係合部12と1対の出力側被係合部14とをがたつきなく係合(当接)させる。この結果、入力部材3に入力された回転トルクは、1対の係合子5を介して、出力部材4に伝達され、出力部材4から出力される。本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3に回転トルクが入力されると、入力部材3の回転方向に関係なく、1対の係合子5を、被押圧面6から離れる方向にそれぞれ移動させる。そして、入力部材3に入力された回転トルクが、1対の係合子5を介して、出力部材4に伝達される。
【0045】
次に、出力部材4に出力側機構から回転トルクが逆入力された場合を説明する。
【0046】
出力部材4に回転トルクが逆入力されると、図5に示すように、出力側係合部12が、1対の出力側被係合部14同士の内側で、出力部材4の回転方向(図5の例では時計方向)に回転する。すると、出力側係合部12の外周面のうち、平坦面12aと凸曲面12bとの接続部(角部)が出力側被係合部14を径方向外側に向けて押圧し、1対の係合子5を、被押圧面6に近づく方向にそれぞれ移動させる。つまり、1対の係合子5を、出力部材4との係合に基づき、互いに離れる方向である径方向外側に向けて(図5の上側に位置する係合子5を上側に向けて、図5の下側に位置する係合子5を下側に向けて)それぞれ移動させる。これにより、1対の係合子5のそれぞれの押圧面13を、被押圧面6に対して摩擦係合させる。
【0047】
この結果、出力部材4に逆入力された回転トルクが完全に遮断されて入力部材3に伝達されないか、または、出力部材4に逆入力された回転トルクの一部のみが入力部材3に伝達され残部が遮断される。出力部材4に逆入力された回転トルクを完全に遮断して入力部材3に伝達されないようにするには、1対の押圧面13が被押圧面6に対して摺動(相対回転)しないように、1対の係合子5を出力側係合部12と被押圧部材2との間で突っ張らせ、出力部材4をロックする。これに対し、出力部材4に逆入力された回転トルクのうちの一部のみが入力部材3に伝達され残部が遮断されるようにするには、1対の押圧面13が被押圧面6に対して摺動するように、1対の係合子5を出力側係合部12と被押圧部材2との間で突っ張らせ、出力部材4を半ロックする。
【0048】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、以上の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。特に、それぞれの係合子5の1対の押圧面13が被押圧面6に接触した位置関係において、入力側係合部9の径方向内側面9aと入力側被係合部17の内面との間に、出力側係合部12の角部が出力側被係合部14を押圧することに基づいて1対の押圧面13を被押圧面6に向けてさらに押し付けることを許容する隙間が存在するようにしている。これにより、出力部材4に回転トルクが逆入力されたときに、係合子5の径方向外側への移動が入力側係合部9によって阻止されることを防止し、かつ、1対の押圧面13が被押圧面6に接触した後も、1対の押圧面13と被押圧面6との接触部に作用する面圧が、出力部材4に逆入力された回転トルクの大きさに応じて変化するようにすることで、出力部材4のロックまたは半ロックが適正に行われるようにしている。
【0049】
さらに、本例の逆入力遮断クラッチ1では、以下の関係を満たすように、被押圧部材2、入力部材3、出力部材4および1対の係合子5の各部の寸法および形状が規制されている。
【0050】
まず、出力部材4の所定方向(たとえば図3の時計方向)への回転に伴い、1対の押圧面13が被押圧面6に押し付けられ、かつ、入力部材3の前記所定方向と反対方向(たとえば図3の反時計方向)への回転に伴い、入力側係合部9と入力側被係合部17とが係合した(入力側係合部9の一部が入力側被係合部17に接触した)状態(請求項の第1状態)において、入力側係合部9と入力側被係合部17との接触部Pinと、入力部材3の回転中心Oとの第2方向に関する距離である第1距離D1を、出力側係合部12と出力側被係合部14との接触部Poutと、出力部材4の回転中心Oとの第2方向に関する第2距離D2よりも大きくしている(D1>D2)。
【0051】
また、図5に示すように、出力部材4に回転トルクが逆入力され、それぞれの係合子5の1対の押圧面13が被押圧面6に接触した状態(ロック状態または半ロック状態)(請求項の第2状態)で、出力側係合部12と出力側被係合部14との接触部C1が、1対の押圧面13のうちの一方(第2方向に関して、出力部材4の回転中心Oよりも接触部C1に近い側)の押圧面13と被押圧面6との接触部C2と、出力部材4の回転中心Oとを結ぶ仮想直線Lよりも、第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側(図5の下側)に位置している。
【0052】
本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、軸方向寸法を短くでき、かつ、部品点数を抑えることができる。
【0053】
本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3および出力部材4のそれぞれの回転を、係合子5の径方向移動に変換する。そして、このように入力部材3および出力部材4の回転を係合子5の径方向移動に変換することで、係合子5を、該係合子5の径方向内側に位置する出力部材4に係合させたり、あるいは、係合子5を、該係合子5の径方向外側に位置する被押圧部材2に押し付けるようにしている。このように、本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3および出力部材4のそれぞれの回転によって制御される係合子5の径方向移動に基づき、入力部材3から出力部材4に回転トルクが伝達可能になる出力部材4のロック解除状態または半ロック解除状態と、出力部材4の回転が防止または抑制される出力部材4のロックまたは半ロック状態とを切り替えることができるため、逆入力遮断クラッチ1の装置全体の軸方向寸法を短くできる。
【0054】
しかも、係合子5に、入力部材3に入力された回転トルクを出力部材4に伝達する機能と、出力部材4をロックまたは半ロックする機能との両方の機能を持たせている。このため、逆入力遮断クラッチ1の部品点数を抑えることができ、かつ、回転トルクを伝達する機能とロックまたは半ロックする機能とをそれぞれ別の部材に持たせる場合に比べて、動作を安定させることができる。たとえば、回転トルクを伝達する機能とロックまたは半ロックする機能とを別の部材に持たせる場合、ロック解除または半ロック解除のタイミングと回転トルクの伝達開始のタイミングとがずれる可能性がある。この場合、ロック解除または半ロック解除から回転トルクの伝達開始までの間に出力部材に回転トルクが逆入力されると、出力部材が再びロックまたは半ロックされてしまう。本例では、係合子5に、回転トルクを出力部材4に伝達する機能と、出力部材4をロックまたは半ロックする機能との両方の機能を持たせているため、このような不都合が生じることを防止できる。
【0055】
また、入力部材3から係合子5に作用する力の向きと、出力部材4から係合子5に作用する力の向きとを逆向きにしているため、両方の力の大小関係を規制することで、係合子5の移動方向を制御できる。このため、出力部材4のロック状態または半ロック状態とロック解除状態または半ロック解除状態との切り換え動作を安定して確実に行うことができる。
【0056】
また、本例の逆入力遮断クラッチ1では、第1距離Dを第2距離Dよりも大きくしている(D>D)ため、第1距離Dが第2距離Dよりも小さい比較構造と比較して、入力部材3の回転方向のがたつきを小さくすることができる。すなわち、本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、1対の押圧面13を被押圧面6に接触させ、かつ、第2方向に関して入力側係合部9を入力側被係合部17の中央位置に位置させた状態から、入力側係合部9と入力側被係合部17とが接触するまでの入力部材3の回転角度を前記比較構造と比較して小さくすることができる。
【0057】
さらに本例の逆入力遮断クラッチ1では、ロック状態または半ロック状態において、接触部Cを、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置させている。このため、第1距離Dを第2距離Dよりも大きくすることにより、入力部材3のがたつきを小さく抑えた場合にも、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。この理由について、図6Aおよび図6Bを参照しつつ説明する。
【0058】
逆入力遮断クラッチ1のロック状態または半ロック状態において、入力部材3に反時計方向の回転トルクが入力されると、それぞれの係合子5は、接触部C(請求項の第一接触部)を中心として反時計方向に回転する傾向となる。
【0059】
接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oから遠い側に位置する場合、図6Bに示すように、入力部材3に反時計方向の回転トルクが入力されると、係合子5が接触部Cを中心に、反時計方向に回転する傾向となる。そして、図6Bに一点鎖線で軌跡rを示すように、1対の押圧面13のうち、第2方向に関して出力部材4の回転中心Oを挟んで接触部Cと反対側(図6Bの右側)に位置する他方の押圧面13が、被押圧面6に強く押し付けられる傾向となる。
【0060】
すなわち、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oから遠い側に位置する場合、支点となる接触部Cと力点となる接触部Pinとの第2方向に関する距離(力点距離)Dは比較的大きくなる。一方、接触部Cと、作用点である被押圧面6と他方の押圧面13との接触部C(請求項の第三接触部)との第2方向に関する距離(作用点距離)Dは比較的小さくなる。したがって、梃子の原理により、被押圧面6に対して他方の押圧面13を押し付ける力が大きくなって、他方の押圧面13が被押圧面6に対して食い込みやすくなる。このような被押圧面6に対する他方の押圧面13の食い込みを解除するため、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換える際に、入力部材3の回転トルクが瞬間的に過大になる。すなわち、入力部材3を回転駆動するための入力側機構の瞬時最大トルク(ピークトルク)が過大になる。
【0061】
一方、本例の逆入力遮断クラッチ1のように、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置する場合にも、図6Aに示すように、入力部材3に反時計方向の回転トルクが入力されると、係合子5が接触部Cを中心に、反時計方向に回転する傾向となる。そして、図6Aに一点鎖線で軌跡rを示すように、1対の押圧面13のうち、第2方向に関して出力部材4の回転中心Oを挟んで接触部Cと反対側(図6Aの右側)に位置する他方の押圧面13が、被押圧面6に押し付けられる傾向となる。
【0062】
本例では、接触部Cを、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置させているため、支点となる接触部Cと力点となる接触部Pinとの第2方向に関する距離(力点距離)Dを、図6Bに示した構造と比較して小さくすることができる。また、接触部Cと、作用点である被押圧面6と他方の押圧面13との接触部Cとの第2方向に関する距離(作用点距離)Dを、図6Bに示した構造と比較して大きくすることができる。このため、被押圧面6に対して他方の押圧面13を押し付ける力は、図6Bに示した構造と比較して小さくなり、他方の押圧面13が被押圧面6に対して食い込みにくくなる。したがって、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換える際の入力側機構のピークトルクを、図6Bに示した構造と比較して小さく抑えることができる。この結果、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。また、ピークトルクを小さく抑えることができるため、入力部材3から出力部材4へのトルク伝達の効率を良好に確保することができるとともに、入力側機構の最大出力トルクを徒に大きくする必要がなくなって、入力側機構の徒な大型化を防止することができる。
【0063】
図6Aに示す本例において、出力部材4に回転トルクが逆入力され、1対の押圧面13が被押圧面6に接触した状態(第2状態)において、出力側係合部12と出力側被係合部14との接触部を第一接触部(図6A中の接触部C1)とする。また、入力側係合部9と入力側被係合部17との接触部を第二接触部(図6A中の接触部Pin)とする。また、1対の押圧面13のうち第2方向に関して出力部材4の回転中心を挟んで第一接触部と反対側に位置する他方の押圧面13と被押圧面6との接触部を第三接触部(図6A中の接触部C3)とする。このとき、第一接触部と第二接触部との第2方向に沿う距離である力点距離(図6A中の距離Dp)は、第一接触部と第三接触部との第2方向に沿う距離である作用点距離(図6A中の距離Da)の1/3よりも小さいことが好ましい。このような構成によれば、押圧面13が被押圧面6に対してより食い込みにくくなる。よって、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換える際にも、入力部材3の回転トルクが瞬間的に大きくなることはなく、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えをより一層円滑に行うことができる。したがって、入力部材3を反時計方向に回転させた場合のロック解除性が良くなる。
【0064】
さらに、本例の逆入力遮断クラッチ1では、ロック状態または半ロック状態において、接触部Cを、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置させている。このため、入力部材3を時計方向に回転させた場合にも、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。この理由について、再び図6Aおよび図6Bを参照しつつ説明する。
【0065】
逆入力遮断クラッチ1のロック状態または半ロック状態において、入力部材3に時計方向の回転トルクが入力されると、それぞれの係合子5は、接触部Cを中心として時計方向に回転する傾向となる。
【0066】
接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oから遠い側に位置する場合、図6Bに示すように、入力部材3に時計方向の回転トルクが入力されると、力点となる係合子5と入力部材3との接触部Pin_fに力が作用し、係合子5の支点となる接触部Cを中心に、作用点である接触部Cが時計方向に回転する傾向となる。このとき、係合子5は、接触部Cを中心とし、かつ接触部C及び接触部C接触間を半径とする円弧に沿って接触部Cが回転する傾向となる。そして、図6Bの矢印Bで軌跡を示すように、1対の押圧面13のうち、第2方向に関して接触部Cと同じ側(図6Bの左側)に位置する一方の押圧面13が、被押圧面6に強く押し付けられて食い込む傾向となる。
【0067】
このような被押圧面6に対する押圧面13の食い込みを解除するため、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態へ切り換える際に、入力部材3の回転トルクが瞬間的に大きくなる(ピークトルクが発生する)。
したがって、一方の押圧面13が被押圧面6に対して食い込みやすくなり、ピークトルクが発生することにより、入力部材3を時計方向に回転させた場合のロック解除性が悪くなる。
【0068】
一方、本例の逆入力遮断クラッチ1のように、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置する場合、図6Aに示すように、入力部材3に時計方向の回転トルクが入力されると、力点となる係合子5と入力部材3との接触部Pin_fに力が作用し、係合子5の支点となる接触部Cを中心に、作用点である接触部Cが時計方向に回転する傾向となる。このとき、係合子5は、接触部Cを中心とし、かつ接触部C及び接触部C接触間を半径とする円弧に沿って接触部Cが回転する傾向となる。
【0069】
図6Aに示す本例では、図6Bの場合と比較して、接触部C及び接触部C接触間の距離が小さくなるので、矢印Aで示す押圧面13の軌跡で示すように、接触部Cの軌跡が係合子5の押圧面13よりも係合子5の内側を通る。このため、押圧面13は被押圧面6に対して押し付けられることはない。つまり、押圧面13が被押圧面6に対して食い込みにくくなる。このため、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換える際にも、入力部材3の回転トルクが瞬間的に大きくなることはなく、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。したがって、入力部材3を時計方向に回転させた場合のロック解除性が良くなる。また、ピークトルクが発生しないため、入力側機構の最大出力トルクを徒に大きくする必要がなく、入力側機構の徒な大型化を防止することができる。
【0070】
本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる構造を、国際公開第2021/054481号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチのように、係合子を係合子本体とリンク部材とを有する構成とすることなく実現できる。このため、部品点数を削減することができ、製造コストを抑えることができる。なお、図6A及び図6Bでは、接触部Pin,Pin_fと接触部Cとが第一方向において同じ高さに位置しているが、接触部Pin,Pin_fと接触部Cとの第一方向に関する位置が異なっている場合であっても、上述した作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0071】
なお、本発明の逆入力遮断クラッチを実施する場合、係合子の数を、1個または3個以上とすることもできる。
【0072】
また、本発明の逆入力遮断クラッチを実施する場合、係合子を、1対の押圧面を被押圧面に近づける方向に弾性的に付勢する弾性部材を備えることもできる。前記弾性部材は、たとえば、ねじりコイルばねや板ばねなどにより構成することができる。前記係合子を1対備え、かつ、前記弾性部材がねじりコイルばねに構成される場合、前記係合子に備えられた凸部(本例の図1および図3~5に示す凸部16)を、前記ねじりコイルばねの端部に挿入することで、該ねじりコイルばねを保持することもできる。
【0073】
また、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子の材質は、特に限定されない。たとえば、これらの材質としては、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金などの金属のほか、必要に応じて強化繊維を混入した合成樹脂などでも良い。また、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子のそれぞれで、同じ材質にしても良いし、異なる材質にしても良い。
【0074】
また、出力部材に回転トルクが逆入力した場合に、出力部材がロックまたは半ロックする条件さえ満たせば、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子が相互に接触する部分に、潤滑剤を介在させることもできる。このために、たとえば、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子のうちの少なくとも1つを含油メタル製とすることもできる。
【符号の説明】
【0075】
1 逆入力遮断クラッチ
2 被押圧部材
3 入力部材
4 出力部材
5 係合子
6 被押圧面
7 基板部
8 入力軸部
9 入力側係合部
9a 径方向内側面
9b 径方向外側面
9c 周方向側面
10a 入力側接続部
10b 出力側接続部
11 出力軸部
12 出力側係合部
12a 平坦面
12b 凸曲面
13 押圧面
14 出力側被係合部
15 平坦面部
16 凸部
17 入力側被係合部
17a 平坦面
18 フランジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B