IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電動車両の制御装置 図1
  • 特許-電動車両の制御装置 図2
  • 特許-電動車両の制御装置 図3
  • 特許-電動車両の制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/14 20060101AFI20231031BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20231031BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20231031BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20231031BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231031BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20231031BHJP
【FI】
B60L7/14
B60K6/442 ZHV
B60L50/60
B60L58/12
B60W10/08 900
B60W20/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023532437
(86)(22)【出願日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2023002978
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022033195
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】田中 颯
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅大
(72)【発明者】
【氏名】横辻 北斗
(72)【発明者】
【氏名】石川 清貴
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 一
(72)【発明者】
【氏名】加納 靖章
(72)【発明者】
【氏名】新谷 正紀
(72)【発明者】
【氏名】田力 明洋
(72)【発明者】
【氏名】八木 彩月
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-223698(JP,A)
【文献】特開2016-46919(JP,A)
【文献】特開2017-165373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/14
B60L 50/60
B60L 58/12
B60K 6/442
B60W 10/08
B60W 20/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの電力で車輪を駆動する機能と回生発電で生じた電力を前記バッテリに充電する機能とを併せ持つモータが搭載された電動車両の制御装置であって、
前記バッテリに充電可能な電力の最大値として、充電時間が所定時間以下の充電時に適用される短時間SOPと、前記充電時間が前記所定時間を超える充電時に適用され前記短時間SOPよりも値が小さい長時間SOPとを設定する設定部と、
前記短時間SOP及び前記長時間SOPに基づき、前記モータからの回生電力の最大値に相当する回生SOPを算出する算出部と、
前記モータからの前記回生電力を前記回生SOP以下の範囲で制御する制御部とを備え、
前記算出部が、前記回生発電の継続時間に応じて前記回生SOPを前記短時間SOPから前記長時間SOPへと徐々に変更する移行演算を実施することを特徴とする、電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記回生発電の継続時間が前記所定時間に達する前に前記移行演算を開始することを特徴とする、請求項1記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記移行演算において、前記回生SOPに反映される前記短時間SOPの割合または前記長時間SOPの割合を前記回生発電の継続時間に対して線形に変化させることを特徴とする、請求項記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記算出部は、以下の式1に基づいて前記回生SOPを算出する
式1.回生SOP=(1-k1)×(短時間SOP)+k1×(長時間SOP)
(k1:移行演算の実施時間に比例して増加する割掛け係数,0≦k1≦1)
ことを特徴とする、請求項3記載の電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記回生発電を開始してから前記移行演算が開始されるまでの時間及び前記割掛け係数k1の時間変化率を、前記バッテリの作動状態または前記電動車両の走行状態に応じて設定することを特徴とする、請求項4記載の電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記回生発電の継続時間が前記所定時間に達した時点で、前記回生SOPに反映される前記短時間SOPの割合と前記回生SOPに反映される前記長時間SOPの割合とを一致させることを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、モータが搭載された電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両に搭載されるモータの回生発電に際し、その時点でバッテリに充電可能な電力を考慮して回生電力を制限する制御が知られている。この種の制御では、回生発電の継続時間が長時間になりうることを想定して、回生電力が比較的小さく設定される。一方、回生発電の継続時間が短時間である場合には、回生電力を比較的大きく設定することも可能である。このような設定により、バッテリの過電圧による電析や劣化を抑制しつつ、回生電力を増加させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2011-223698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような制御では、回生時間が所定時間を超えた場合に、回生制御を終了させている。例えば、特許文献1の技術では、当初の回生電力が電力Paであって回生時間が時間Aを超えた場合に、回生電力を0に向かって急勾配で減少させている(図9参照)。しかしながら、回生時間が時間Aを超えた直後に回生電力を直ちに0まで減少させなくても、バッテリの電析や劣化が抑制される場合がある。既存の制御では、回生電力が過剰に抑制されており、エネルギーロスが大きいことから電費を向上させにくいという課題がある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、回生発電において電費を改善できるようにした電動車両の制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の電動車両の制御装置は、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の電動車両の制御装置は、バッテリの電力で車輪を駆動する機能と回生発電で生じた電力を前記バッテリに充電する機能とを併せ持つモータが搭載された電動車両の制御装置である。前記制御装置は、前記バッテリに充電可能な電力の最大値として、充電時間が所定時間以下の充電時に適用される短時間SOPと、前記充電時間が前記所定時間を超える充電時に適用され前記短時間SOPよりも値が小さい長時間SOPとを設定する設定部と、前記短時間SOP及び前記長時間SOPに基づき、前記モータからの回生電力の最大値に相当する回生SOPを算出する算出部と、前記モータからの前記回生電力を前記回生SOP以下の範囲で制御する制御部とを備える。また、前記算出部は、前記回生発電の継続時間に応じて前記回生SOPを前記短時間SOPから前記長時間SOPへと徐々に変更する移行演算を実施する。
【発明の効果】
【0007】
開示の電動車両の制御装置によれば、回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと徐々に変更することで、バッテリの電析保護要件を満たしつつモータからの回生電力を大きくすることができ、電動車両の回生発電において電費を向上させることができる。また、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えが滑らかになることから、回生発電時の走行フィーリングを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電動車両及びその制御装置を示すブロック図である。
図2】モータの回生発電時における短時間SOP及び長時間SOPの経時変化を例示するグラフである。
図3】移行演算の継続時間と割掛け係数との関係を例示するグラフである。
図4】回生発電時の移行演算に関する制御のフローチャート例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
開示の電動車両の制御装置は、以下の実施例によって実施されうる。
【実施例
【0010】
[1.装置構成]
図1は、実施例としての制御装置10及び制御装置10が適用される電動車両1(以下、単に車両1とも表記する)の構成を例示するブロック図である。車両1の具体的な種類としては、電気自動車,ハイブリッド自動車,プラグインハイブリッド自動車等が挙げられる。車両1には、少なくとも駆動源としてのモータ2と電力源としてのバッテリ3とが搭載される。バッテリ3は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等の二次電池である。
【0011】
モータ2は、バッテリ3の電力で車輪を駆動する機能と、回生発電で生じた電力をバッテリ3に充電する機能とを併せ持つモータジェネレータ(電動機兼発電機)である。モータ2によって駆動される車輪(駆動輪)は、前輪でも後輪でもよく、全輪でもよい。モータ2の搭載数や駆動輪の数は不問である。一つのモータ2で一つの駆動輪を駆動してもよいし、一つのモータ2で複数の駆動輪を駆動してもよく、複数のモータ2で一つの駆動輪を駆動してもよく、複数のモータ2で複数の駆動輪を駆動してもよい。また、モータ2と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上に、図示しない変速機構を介装させてもよい。
【0012】
図1に示す車両1は、第二の駆動源としてのエンジン4と発電装置としてのジェネレータ5とが搭載されたハイブリッド自動車(ハイブリッド電気自動車,HEV)またはプラグインハイブリッド自動車(プラグインハイブリッド電気自動車,PHEV)である。ハイブリッド車両とは、駆動源としてエンジン4及びモータ2が搭載された車両を意味する。また、プラグインハイブリッド車両とは、バッテリ3に対する外部充電、または、バッテリ3からの外部給電が可能なハイブリッド車両を意味する。プラグインハイブリッド車両には、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)や、外部機器に電力を供給する給電ケーブルを差し込むための外部給電用コンセント(アウトレット)が設けられる。
【0013】
エンジン4は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン4の駆動軸には、少なくともエンジン4の駆動力を利用して発電する機能を持つジェネレータ5(発電機)が連結される。ジェネレータ5の発電電力(発電出力)は、モータ2の駆動やバッテリ3の充電に用いられる。エンジン4とジェネレータ5とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。なお、車両1を走行させる電動機としての機能を兼ね備えたジェネレータ5を適用してもよい。
【0014】
モータ2とエンジン4とを繋ぐ動力伝達経路上には、クラッチ6が介装される。エンジン4はクラッチ6を介して駆動輪に接続され、モータ2はクラッチ6よりも駆動輪側に配置される。また、ジェネレータ5はクラッチ6よりもエンジン4側に接続される。クラッチ6が切断(解放)されると、エンジン4及びジェネレータ5が駆動輪に対して非接続の状態となり、モータ2が駆動輪に対して接続された状態となる。したがって、例えばモータ2のみを作動させることで、いわゆるEV走行(モータ単独走行)が実現される。これに加えて、エンジン4を作動させてジェネレータ5に発電させることで、いわゆるシリーズ走行が実現される。
【0015】
一方、クラッチ6が接続(締結)されると、モータ2,エンジン4,ジェネレータ5の三者が駆動輪に対して接続された状態となる。したがって、例えばエンジン4のみを作動させることで、いわゆるENG走行(エンジン単独走行)が実現される。これに加えて、モータ2やジェネレータ5を駆動することで、いわゆるパラレル走行が実現される。なお、車両1は少なくともEV走行が可能なハイブリッド車両であればよく、他の走行態様(ENG走行,シリーズ走行,パラレル走行)は適宜省略されうる。
【0016】
モータ2,バッテリ3,エンジン4,ジェネレータ5,クラッチ6の作動状態は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、少なくともモータ2からの回生電力を制御する機能を持ったコンピュータ(電子制御装置,ECU,Electronic Control Unit)である。制御装置10は、プロセッサ(演算処理装置)及びメモリ(記憶装置)を内蔵する。制御装置10が実施する制御の内容(制御プログラム)はメモリに保存され、その内容がプロセッサに適宜読み込まれることによって実行される。
【0017】
制御装置10には、車速センサ7,ブレーキセンサ8,アクセルセンサ9が接続される。車速センサ7は、車両1の走行速度(車速)を検出するセンサである。ブレーキセンサ8は、ブレーキペダルの踏み込み量に相当するパラメータ(ブレーキ開度,ブレーキペダルストローク,ブレーキ液圧等)を検出するセンサである。アクセルセンサ9は、アクセルペダルの踏み込み量に相当するパラメータ(アクセル開度,アクセルペダルストローク,スロットル開度等)を検出するセンサである。これらの各センサ7~9で検出された情報は、制御装置10に伝達される。
【0018】
制御装置10に伝達される他の情報としては、モータ2の作動状態(回転速度,モータ温度,駆動電流,駆動電圧,駆動周波数等)の情報や、バッテリ3の作動状態(充電率SOC,健全度SOH,入出力電流,バッテリ電圧,バッテリ温度,内部抵抗等)の情報や、車両1の走行状態(走行モード,外気温等)の情報が挙げられる。本実施例の制御装置10は、上記のような多様な情報を用いて、モータ2からの回生電力を既存の制御よりも柔軟に変更する制御を実施する。なお、バッテリ3の充電率SOCは、入出力電流やバッテリ電圧に基づいて算出可能である。
【0019】
[2.制御構成]
上記の制御を実施するための要素として、制御装置10には、設定部11と算出部12と制御部13とが設けられる。これらの要素は、制御装置10の機能を便宜的に分類して示したものであり、ソフトウェア(プログラム)やハードウェア(電子制御回路)で実現されうる。これらの要素は、一つのソフトウェアまたはハードウェアに一体化されてもよいし、複数のソフトウェア及びハードウェアに分散化されてもよい。例えば、モータ2を管理するためのモータECU(MCU,Motor Control Unit)にこれらの要素を内蔵させてもよいし、バッテリ3を管理するためのバッテリECU(BMU,Battery Management Unit)にこれらの要素を内蔵させてもよく、あるいは、これらの要素を複数のECUに分散させて設けてもよい。
【0020】
設定部11は、バッテリ3に充電可能な電力[kW]の最大値として、短時間SOP(短時間充電可能最大電力,短時間State Of Power)と長時間SOP(長時間充電可能最大電力,長時間State Of Power)とを設定するものである。短時間SOPは、充電時間が所定時間C以下(比較的短い時間)の充電時に適用される最大電力である。短時間SOPが適用される所定時間Cのスケール(時間の長さの度合い)としては、例えば数秒程度が想定されている。これに対して長時間SOPは、充電時間が所定時間Cを超える充電時に適用される最大電力であって、短時間SOPよりも値が小さく設定される。長時間SOPは、例えば一般的なバッテリ3の定格入力電力に相当しうるパラメータである。
【0021】
短時間SOP,長時間SOPの各々の値は、あらかじめ設定された固定値であってもよいし、バッテリ3の作動状態(充電率SOC,健全度SOH,回生電流量,バッテリ電圧,バッテリ温度等)や車両1の走行状態(走行モード,車速,外気温,アクセル開度等)に応じて設定される可変値であってもよい。また、短時間SOPを使用できる所定時間Cについても同様であり、あらかじめ設定された固定値であってもよいし、バッテリ3の作動状態や車両1の走行状態に応じて設定される可変値であってもよい。例えば、バッテリ3への充電電流(回生電流量)やバッテリ電圧に基づいて所定時間Cを設定してもよい。短時間SOP及び長時間SOPは、少なくともモータ2が作動していることを前提として設定される。本実施例の短時間SOP及び長時間SOPは、モータ2の回生発電時に使用されるため、モータ2が回生発電していることを前提として設定されてもよい。
【0022】
図2は、モータ2の回生発電時における短時間SOP及び長時間SOPの経時変化を例示するグラフである。この例では、短時間SOP及び長時間SOPの値が直線状かつ平行に推移している。設定部11では、モータ2の回生発電中は常に短時間SOP及び長時間SOPの両方の値が設定される。長時間SOP(二点鎖線グラフ)の値は、その時点における短時間SOP(破線グラフ)の値よりも小さな値に設定される。また、回生発電の継続時間Aが長くなるにつれて、バッテリ3の充電率が上昇して満充電に近い状態となる。そのため、短時間SOP及び長時間SOPの値は、回生発電の継続時間Aが長くなるほど減少するように設定され、図2中に示す短時間SOP及び長時間SOPのグラフが下り勾配となる。
【0023】
図2中の時刻tは、モータ2の回生発電が開始されてから所定時間C(短時間SOPの最大時間)が経過した時刻である。従来の制御では、所定時間Cを超えて短時間SOPを使用することが想定されていないため、時刻t以降に短時間SOPを設定する必要がなかった。一方、本実施例ではモータ2が作動している限り、時刻t以降も短時間SOPの値の設定が継続され、回生SOPの算出のために参照される。ただし、以下に説明する回生SOPの値に短時間SOPの値を反映させる必要がなくなった後には(図2中の時刻t以降は)、短時間SOPの値の設定を省略してもよい。
【0024】
算出部12は、設定部11で設定された短時間SOP及び長時間SOPに基づき、モータ2からの回生電力の最大値に相当する回生SOPを算出するものである。ここでは、回生発電の継続時間Aに応じて、回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと徐々に変更する移行演算が実施される。回生発電の開始時(図2中の時刻t)には、短時間SOPの値がそのまま回生SOPの値として算出される。その後、回生発電の開始時から時間B(移行演算を開始するまでの時間B)が経過すると(図2中の時刻t)、移行演算が開始される。時間Bは、図2に示すように所定時間Cよりも短く設定される。これにより、回生発電によるバッテリ3への充電時間が所定時間Cに達する前に、回生SOPの値が長時間SOPへ向かって減少し始めることになる。
【0025】
本実施例の算出部12は、上記の移行演算において、回生SOPに反映される短時間SOPの割合または長時間SOPの割合を回生発電の継続時間Aに対して線形に変化させる演算を実施しうる。例えば、算出部12は以下の式1や式2に基づいて回生SOPを算出する。なお、式1,式2中の移行時間Dは、移行演算が開始された時刻を基準とした時間(移行演算の実施時間)であって、回生発電の継続時間A(回生発電が開始された時刻を基準とした時間)から時間Bを減じた時間に相当する。
式1.回生SOP=(1-k)×(短時間SOP)+k×(長時間SOP)
(k:移行時間Dに比例して増加する割掛け係数,0≦k≦1)
式2.回生SOP=k×(短時間SOP)+(1-k)×(長時間SOP)
(k:移行時間Dに比例して減少する割掛け係数,0≦k≦1)
【0026】
式1中の割掛け係数kは、移行演算の移行時間Dに比例して0から1へと増加する係数である。図3中の実線は、移行演算の移行時間Dと割掛け係数kとの関係を例示するグラフである。この例では、移行時間Dが時間Eであるときに割掛け係数kの値が0.5に設定され、移行時間Dが時間E以上になると割掛け係数kの値が1に設定されている。また、式2中の割掛け係数kは、移行時間Dに比例して1から0へと減少する係数である。図3中の破線は、移行演算の移行時間Dと割掛け係数kとの関係を例示するグラフである。図3中の時間Eは、時間Eの倍の時間であって、図2のグラフ中における時刻tから時刻tまでの時間に対応する。時刻t以降は、回生SOPに反映される短時間SOPの割合が0となり、長時間SOPの値がそのまま回生SOPの値として算出される。時間Eは、移行演算において割掛け係数k,kが0.5に変化するまでの時間である。また、時間Eは、移行演算において割掛け係数k,kの変化が停止するまでの時間である。
【0027】
上記の割掛け係数kは、厳密には(数学的な意味においては)移行時間Dに「比例」しているとはいえない。移行時間Dに「比例」しているのは、割掛け係数kから1を減じた値である。したがって、割掛け係数kと移行時間Dとの関係をより厳密な定義に即応させて理解したい場合には、割掛け係数kから1を減じた値を「割掛け係数k」と定義し、この「割掛け係数k」が移行時間Dに「比例」して0から-1へと減少するものと捉えればよい。
【0028】
上記の割掛け係数k,kの特性に関して、好ましくは所定時間Cから時間Bを減算した時間と時間Eとが一致するように、割掛け係数k,kのグラフ形状が設定される。つまり、回生発電の継続時間Aが所定時間Cに達した時点で、回生SOPに反映される短時間SOPの割合と回生SOPに反映される長時間SOPの割合とを一致させる(ともに50%にする)ことが好ましい。言い換えれば、回生発電の継続時間Aが所定時間Cに達したときに、回生SOPが短時間SOPと長時間SOPとの中間値(平均値)になるように、割掛け係数kの特性を定めておくことが好ましい。
【0029】
これにより、図2における時刻t~t間のハッチング部分の三角形が時刻t~t間のハッチング部分の三角形と合同になる。換言すれば、時刻t~t間のハッチング面積Sが、時刻t~t間のハッチング面積Sに一致する。ハッチング面積Sは、時刻t~t間の短時間SOPよりも回生SOPを減少させることによって生じる余剰分の充電可能電力量[Wh]に相当する。また、ハッチング面積Sは、時刻t~t間の長時間SOPよりも回生SOPを増加させることによって必要となる充電可能電力量[Wh]に相当する。
【0030】
これらの二つの面積(二つの電力量)を一致させることで、充電可能電力量の過不足が相殺される。したがって、バッテリ3の電析保護要件が満たされる範囲において、モータ2からの回生電力が最大化されうる。また、時刻tに回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと不連続に(階段状に)変化させた場合と比較すると、回生電力の変動が滑らかになり、車両の走行フィーリングが良好となる。
【0031】
算出部12における回生SOPの算出に際し、回生発電の開始時から移行演算を開始するまでの時間Bは、あらかじめ設定された固定値(例えば、数秒)であってもよいし、バッテリ3の作動状態(充電率SOC,健全度SOH,回生電流量,バッテリ電圧,バッテリ温度等)や車両1の走行状態(走行モード,車速,外気温,アクセル開度等)に応じて設定される可変値であってもよい。同様に、割掛け係数k,kの時間変化率(すなわち、移行演算中における回生SOPの時間変化率)は、あらかじめ設定された固定値であってもよいし、バッテリ3の作動状態や車両1の走行状態に応じて設定される可変値であってもよい。
【0032】
制御部13は、算出部12で算出された回生SOPを用いて、モータ2からの回生電力を制御するものである。制御部13は、モータ2からの回生電力が回生SOP以下になるように、モータ2(あるいは図示しないインバータ)の作動状態を制御する。これにより、モータ2に接続された駆動輪に回生制動力が発生するとともに、回生電力がバッテリ3に充電される。また、ドライバーが要求する制動力(制動トルク)の大きさに応じて、図示しないブレーキ機構を介して駆動輪に摩擦制動力が付与される。
【0033】
[3.フローチャート]
図4は、回生発電時の移行演算に関する制御のフローチャート例である。このフローチャートに示す制御は、モータ2が作動している状況(例えば、EV走行モード時やハイブリッド走行モード時)において、制御装置10の内部で所定の周期で繰り返し実行される。なお、このフローチャートに示す制御は、少なくともモータ2が作動する走行モードを有する車両1であれば実施可能であり、エンジン4,ジェネレータ5,クラッチ6等の有無は不問である。
【0034】
ステップA1では、制御装置10の設定部11において、短時間SOPと長時間SOPとが設定される。短時間SOP及び長時間SOPは、バッテリ3の作動状態(充電率SOC,健全度SOH,回生電流量,バッテリ電圧,バッテリ温度等)や車両1の走行状態(走行モード,車速,外気温,アクセル開度等)に応じて設定される。長時間SOPは、短時間SOPよりも値が小さく設定される。
【0035】
ステップA2では、モータ2に回生発電を実施させるための回生発電条件が成立するか否かが判定される。回生発電条件には公知の諸条件が含まれ、例えばアクセル開度が減少したこと、ブレーキ開度が増加したこと、バッテリ3への充電が可能な状態であること(充電率SOCが所定値以下であること,健全度SOHが所定値以上であること,バッテリ温度が適正範囲内であること)、車両1が停止していないこと(車速が0でないこと)などが含まれる。回生発電条件が成立しなければ(ステップA2にてNo)、この周期での制御が終了する。一方、回生発電条件が成立すると(ステップA2にてYes)、制御がステップA3に進む。
【0036】
ステップA3では、回生発電の継続時間Aが計測される。継続時間Aとは、ステップA2で回生発電条件が最初に成立した時刻からの経過時間である。また、ステップA4では、移行演算を開始するまでの時間Bが算出される。時間Bは、所定時間C(短時間SOPの最大時間)よりも短く設定される。続くステップA5では、回生発電の継続時間Aが時間B未満であるか否かが判定される。この条件が成立する場合には(ステップA5にてYes)制御がステップA6に進み、算出部12において短時間SOPの値が回生SOPに代入される。その後、ステップA10では、制御部13においてモータ2からの回生電力が回生SOP以下の範囲で制御される。ステップA5に続くYesルートの制御は、図2中の時刻t~t間の制御に対応する。
【0037】
回生発電の継続時間Aが時間B以上になり、ステップA5の条件が成立しなくなった場合には(ステップA5にてNo)、制御がステップA7に進む。ステップA7では、移行演算の移行時間Dが計測される。移行時間Dとは、ステップA5で回生発電条件が最初に成立した時刻からの経過時間である。また、ステップA8では、算出部12において、移行時間Dに応じて割掛け係数kが算出される。割掛け係数kは、例えば図3中の実線グラフのように、移行時間Dに対して線形に増加するように算出される。
【0038】
続くステップA9では、算出部12において、上記の式1に基づいて回生SOPが算出される。回生SOPの値は、移行時間Dが増加するにつれて短時間SOPから長時間SOPへと徐々に移行するように算出される。その後、ステップA10では、制御部13においてモータ2からの回生電力が回生SOP以下の範囲で制御される。ステップA5に続くNoルートの制御は、図2中の時刻t以降の制御に対応する。
【0039】
[4.効果]
(1)上記の制御装置10(電動車両の制御装置)には、設定部11と算出部12と制御部13とが設けられる。設定部11は、バッテリ3に充電可能な電力の最大値として、充電時間が所定時間C以下の充電時に適用される短時間SOPと、充電時間が所定時間Cを超える充電時に適用され短時間SOPよりも値が小さい長時間SOPとを設定する。算出部12は、短時間SOP及び長時間SOPに基づき、モータ2からの回生電力の最大値に相当する回生SOPを算出する。制御部13は、モータ2からの回生電力を回生SOP以下の範囲で制御する。また、算出部12は、回生発電の継続時間Aに応じて回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと徐々に変更する移行演算を実施する。
【0040】
上記のように、回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと徐々に変更することで、回生電力が過剰に抑制されることがなくなり、バッテリ3の電析保護要件を満たしつつモータ2からの回生電力を大きくすることができる。したがって、車両1の回生発電において電費を向上させることができる。また、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えが滑らかになることから、回生発電時の走行フィーリングを向上させることができる。
【0041】
(2)上記の算出部12は、図2に示すように、回生発電の継続時間Aが所定時間Cに達する前に移行演算を開始する。このように、所定時間Cが経過する前に回生SOPを短時間SOPよりも小さくすることで、所定時間Cの経過後における回生SOPを長時間SOPよりも大きくすることができる。つまり、所定時間Cが経過するまで回生SOPを短時間SOPと同一値にし、かつ、所定時間Cの経過後に回生SOPを長時間SOPと同一値にした場合と比較して、バッテリ3に充電されるトータルの電力量を変化させることなく回生SOPの急変を抑制できる。したがって、バッテリ3の電析保護要件を満たしつつ、走行フィーリングをさらに向上させることができる。
【0042】
(3)上記の算出部12は、図3に示すように、回生SOPに反映される短時間SOPの割合または長時間SOPの割合を回生発電の移行時間Dに対して線形に変化させる演算を実施しうる。例えば、図3中に実線で示す割掛け係数kは、移行時間Dに比例して0から増加する特性を持つ。このように、回生SOPに反映される短時間SOPや長時間SOPの割合をリニアに変化させることで、回生SOPを滑らかに変化させることができ、走行フィーリングをさらに向上させることができる。
【0043】
(4)上記の算出部12は、以下のような式1に基づいて回生SOPを算出しうる。
式1.回生SOP=(1-k)×(短時間SOP)+k×(長時間SOP)
(k:移行時間Dに比例して増加する割掛け係数,0≦k≦1)
このようなシンプルな算定式を利用することで、滑らかに変化する回生SOPを素早くかつ容易に算出できるようになり、走行フィーリングをさらに向上させることができる。
【0044】
(5)上記の算出部12は、回生発電の開始時から移行演算を開始するまでの時間B及び割掛け係数kの時間変化率を、バッテリ3の作動状態や車両1の走行状態に応じた可変値として設定しうる。これにより、車両1やバッテリ3の状態に応じて移行演算の実施期間の長さを変更でき、電費の改善度合いと走行フィーリングの改善度合いとのバランスを容易に調節できるようになる。
【0045】
例えば、回生発電が比較的長時間にわたって継続される可能性がある場合には、時間Bを短く設定する(所定時間Cから遠ざける)とともに、割掛け係数kの時間変化率を比較的小さく設定してもよい。このように、早めに移行演算を開始することで移行演算の実施期間が長くなるため、回生SOPを緩やかに変化させることができる。ただし、移行演算の実施期間が長くなるほど、その途中で回生発電が終了しやすくなるため、電費の改善効果を最大化できるとは限らない。
【0046】
反対に、回生発電が比較的短時間で終了する可能性がある場合には、時間Bを長く設定する(所定時間Cに近づける)とともに、割掛け係数kの時間変化率を比較的大きく設定してもよい。このように、遅めに移行演算を開始することで移行演算の実施期間が短くなるため、回生SOPを速やかに変化させることができ、より確実に電費の改善効果を最大化できる。
【0047】
(6)上記の算出部12は、回生発電の継続時間Aが所定時間Cに達した時点で、回生SOPに反映される短時間SOPの割合と回生SOPに反映される長時間SOPの割合とを一致させる移行演算を実施しうる。例えば、図3に示す時間Eが、所定時間Cから時間Bを減算した時間と一致するように、割掛け係数k,kのグラフ形状が設定される。これにより、回生発電の継続時間Aが所定時間Cに達した時点で、回生SOPに反映される短時間SOPの割合と回生SOPに反映される長時間SOPの割合とがともに50%になる。
【0048】
ここで、図2において、短時間SOP及び長時間SOPのグラフがともに直線かつ平行であると仮定すると、時刻t~tのハッチング部分の三角形は、時刻t~tのハッチング部分の三角形と合同になる。また、前者の三角形の面積Sは、後者の三角形の面積Sと同一になる。したがって、時刻tに回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと不連続に(階段状に)変化させた場合と比較して、同じ充電可能電力量を確保しながら、回生SOPを急変させることなく滑らかに変動させることができる。したがって、走行フィーリングをさらに向上させることができる。
【0049】
[5.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。
【0050】
上記の実施例では、駆動源としてのモータ2及びエンジン4を搭載したハイブリッド自動車における制御装置10について詳述したが、制御装置10をハイブリッド自動車以外の車両1に適用してもよい。また、図2図3に示すような出力の経時変化や割掛け係数の特性は、適宜変更可能である。少なくとも、モータ2が搭載された車両1に上記の制御装置10を適用することで、上述の実施形態と同様の制御を実現でき、上述の実施形態と同様の効果を獲得できる。
【0051】
以上、各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0052】
なお、本出願は、2022年3月4日出願の日本特許出願(特願2022-033195)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本件は、電動車両(電気自動車,ハイブリッド自動車,プラグインハイブリッド自動車)の製造産業に利用可能であるとともに、電動車両に搭載される制御装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 車両(電動車両)
2 モータ
3 バッテリ
4 エンジン
5 ジェネレータ
6 クラッチ
7 車速センサ
8 ブレーキセンサ
9 アクセルセンサ
10 制御装置
11 設定部
12 算出部
13 制御部
A 回生発電の継続時間
B 移行演算を開始するまでの時間
C 所定時間(短時間SOPの最大時間)
D 移行時間(移行演算の実施時間)
時間(移行演算において割掛け係数k,kが0.5に変化するまでの時間)
時間(移行演算において割掛け係数k,kの変化が停止するまで時間)
~k 割掛け係数
~t 時刻
【要約】
電動車両の制御装置において、設定部は、バッテリに充電可能な電力の最大値として、充電時間が所定時間以下の充電時に適用される短時間SOPと、充電時間が所定時間を超える充電時に適用される長時間SOPとを設定する。算出部は、短時間SOP及び長時間SOPに基づき、モータからの回生電力の最大値に相当する回生SOPを算出する。制御部は、モータからの回生電力を回生SOP以下の範囲で制御する。算出部は、回生発電の継続時間に応じて回生SOPを短時間SOPから長時間SOPへと徐々に変更する。
図1
図2
図3
図4