(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】回転直動変換装置およびシフトアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20231031BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20231031BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20231031BHJP
F16B 39/10 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
F16H25/24 G
F16H25/20 Z
F16H25/22 Z
F16B39/10 P
(21)【出願番号】P 2023544136
(86)(22)【出願日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2023026590
【審査請求日】2023-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水城 宏教
(72)【発明者】
【氏名】清水屋 雅由
(72)【発明者】
【氏名】田中 進
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実公昭36-017614(JP,Y1)
【文献】実開昭51-120456(JP,U)
【文献】特開2012-063009(JP,A)
【文献】特開2009-095221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/20
F16H 25/22
F16B 39/10
F16B 39/24
F16B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
その外周面にらせん状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、その内周面にらせん状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、前記ナット側ボールねじ溝と前記軸側ボールねじ溝とからなる負荷路に転動可能に配置された複数のボールとを含むボールねじ機構と、
前記ハウジングに対して軸方向の移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持された出力軸と、
を備え、
前記ねじ軸と前記ナットとのうちの一方の部材が、使用時に直線運動する直動部材を構成し、かつ、前記ねじ軸と前記ナットとのうちの他方の部材が、使用時に回転運動する回転部材を構成しており、
前記直動部材と前記出力軸と
のうちの一方である第1部材は、外周面に、雄ねじ部を有しており、
前記直動部材と前記出力軸とのうちの他方である第2部材は、内周面に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有しており、
前記第1部材と前記第2部材とにかけ渡され、該第1部材と該第2部材との相対回転を阻止する回り止め部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に軸方向の弾力を付与する弾性部材と、
をさらに備える、
回転直動変換装置。
【請求項2】
前記弾力の方向は、前記第1部材と前記第2部材とを軸方向に関して互いに離れる方向に相対移動させる方向である、請求項1に記載の
回転直動変換装置。
【請求項3】
前記第1部材の前記外周面は、軸方向一方側に配置された小径部と、軸方向他方側に配置された大径部と、該小径部の軸方向他方側の端部と該大径部の軸方向一方側の端部とを接続する段差面とを備える段付円筒面により構成されており、
前記雄ねじ部は、前記小径部に形成されており、および、
前記弾性部材は、前記段差面と、前記第2部材の軸方向他方側の端面との間に挟持されている、請求項2に記載の
回転直動変換装置。
【請求項4】
前記弾性部材は、弾性リングにより構成されている、請求項3に記載の
回転直動変換装置。
【請求項5】
前記弾性部材は、ウェーブワッシャにより構成されている、請求項3に記載の
回転直動変換装置。
【請求項6】
前記第1部材は、少なくとも前記外周面に開口する第1係止部を有しており、
前記第2部材は、径方向に貫通する第2係止部を有しており、および、
前記回り止め部材は、前記第1係止部と前記第2係止部とにかけ渡されるストッパ部を有する、請求項1に記載の
回転直動変換装置。
【請求項7】
前記直動部材が前記第1部材により構成され、かつ、前記出力軸が前記第2部材により構成されている、請求項
1に記載の
回転直動変換装置。
【請求項8】
前記直動部材が前記ナットにより構成され、かつ、前記回転部材が前記ねじ軸により構成されている、請求項
1に記載の回転直動変換装置。
【請求項9】
前記ナットは、前記ナット側ボールねじ溝を有するナット本体と、該ナット本体に取り付けられて、前記複数のボールを前記負荷路の始点から終点に戻すリターンチューブとを備える、請求項
8に記載の回転直動変換装置。
【請求項10】
前記第1部材と前記第2部材とが、異なる材料により構成されている、請求項1に記載の回転直動変換装置。
【請求項11】
モータ出力軸を有する電動モータと、
回転部材に入力された回転運動を出力軸の軸方向の直線運動に変換する、回転直動変換装置と、
前記モータ出力軸の回転運動を前記回転部材に伝達する減速機構と、
を備え、
前記回転直動変換装置が、請求項
1~10のいずれかに記載の回転直動変換装置により構成されている、シフトアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、雄ねじ部と雌ねじ部との螺合により結合され、かつ、回り止め部材により互いの相対回転が阻止された2つの部材の結合構造、該結合構造を備える回転直動変換装置、および該回転直動変換装置を備えるシフトアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
船外機では、前進と後進との切り換えは、操作者により操作されたレバーに接続されたワイヤまたはロッドを介して、ドグクラッチを、それぞれがプロペラシャフトに固定された前進ギヤと後進ギヤとのうちのいずれのギヤと噛み合わせるかを切り換えることにより行われる。
【0003】
特開2008-228557号公報には、操作者がレバーを操作するために要する力の軽減を図るため、電動モータを駆動源として用いたアクチュエータにより、ドグクラッチの切り換えを行う船外機が開示されている。
【0004】
特開2008-228557号公報に記載の船外機のアクチュエータでは、電動モータの出力軸(駆動軸)の回転は、ボールねじ装置によりナットの軸方向の直線運動に変換される。ナットに結合された出力軸は、リンク部材および操作軸を介してカム軸に接続されている。カム軸が直線運動することに伴い、プロペラシャフトに軸方向の相対移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されたドグクラッチが直線運動して、前進ギヤと後進ギヤとのうちの一方と噛み合う。
【0005】
一般的に、ナットは、強度および剛性を確保するために、炭素鋼、クロムモリブデン鋼などの鉄系合金により構成され、出力軸は、軽量化を図るため、アルミニウム合金などの軽合金により構成される。
【0006】
ナットと出力軸とは、たとえば、特開2012-063009号公報に記載されているアクチュエータのように、ナットの外周面に備えられた雄ねじ部と出力軸の内周面に備えられた雌ねじ部とが螺合され、かつ、ナットと出力軸とに回り止め部材(第一出力軸支持部材)がかけ渡されてナットと出力軸との相対回転が阻止されることで結合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-228557号公報
【文献】特開2012-063009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2012-063009号公報に記載のアクチュエータにおいては、次の(1)~(3)の理由により、ナットの軸方向を向いた段差面と、出力軸の軸方向端面とを当接させることは難しい。
(1) 回り止め部材をかけ渡すために、ナットの貫通孔の円周方向位相と出力軸の凹部の円周方向位相とを一致させる必要があること。
(2) ナットの外周面にリターンチューブが取り付けられているため、ハウジングに対するナットの取付位相を規制する必要があること。
(3) リンク部材に接続するため、出力軸の先端部の円周方向位相を規制する必要があること。
【0009】
ナットの軸方向を向いた段差面と、出力軸の軸方向端面とが当接していないため、ナットおよび出力軸が直線運動していない状態において、雄ねじ部と雌ねじ部との螺合部には十分な軸力が作用していない。したがって、エンジンの振動に伴いナットおよび/または出力軸が振動すると、
図8に示すように、雄ねじ部101のねじ山と雌ねじ部102のねじ山との衝突が繰り返し発生して、雄ねじ部101および/または雌ねじ部102で摩耗が発生する可能性がある。特に、雌ねじ部102は、ナットを構成する鉄系金属よりも軟らかい軽合金により構成された出力軸に設けられているため、摩耗が発生しやすい。
【0010】
なお、ナットの軸方向を向いた段差面と、出力軸の軸方向端面とを当接させることは難しいといった問題は、(1)~(3)のすべてを満たす構造に限らず、(1)~(3)のうちのいずれか1つまたは2つを満たす必要がある構造においても発生し得る。
【0011】
また、雄ねじ部と雌ねじ部との螺合部での摩耗は、船外機のアクチュエータに限らず、振動が発生する環境であれば、発生する可能性がある。
【0012】
本開示は、雄ねじ部と雌ねじ部との螺合により結合され、かつ、回り止め部材により互いの相対回転が阻止された2つの部材の結合構造において、前記螺合部での摩耗が発生しにくい構造、該構造を備える回転直動変換装置、および該回転直動変換装置を備えるシフトアクチュエータを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様の結合構造は、
その外周面に、雄ねじ部を有する第1部材と、
その内周面に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とにかけ渡され、該第1部材と該第2部材との相対回転を阻止する回り止め部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に軸方向の弾力を付与する弾性部材と、
を備える。
【0014】
本開示の一態様の結合構造では、前記弾力の方向は、前記第1部材と前記第2部材とを軸方向に関して互いに離れる方向に相対移動させる方向であることができる。
【0015】
この場合、前記第1部材の前記外周面は、軸方向一方側に配置された小径部と、軸方向他方側に配置された大径部とを、該小径部の軸方向他方側の端部と該大径部の軸方向一方側の端部とを接続する段差面を備える段付円筒面により構成されることができ、
前記雄ねじ部は、前記小径部に形成されることができ、および、
前記弾性部材は、前記段差面と、前記第2部材の軸方向他方側の端面との間に配置されることができる。
【0016】
前記弾性部材は、弾性リングもしくはウェーブワッシャにより構成されることができる。
【0017】
本開示の一態様の結合構造では、
前記第1部材は、少なくとも外周面に開口する第1係止部を有することができ、
前記第2部材は、径方向に貫通する第2係止部を有することができ、および、
前記回り止め部材は、前記第1係止部と前記第2係止部とにかけ渡されるストッパ部を有することができる。
【0018】
本開示の一態様の回転直動変換装置は、
ハウジングと、
その外周面にらせん状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、その内周面にらせん状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、前記ナット側ボールねじ溝と前記軸側ボールねじ溝とからなる負荷路に転動可能に配置された複数のボールとを含むボールねじ機構と、
前記ハウジングに対して軸方向の移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持された出力軸と、
を備える。
【0019】
特に、本開示の一態様の回転直動変換装置では、
前記ねじ軸と前記ナットとのうちの一方の部材が、使用時に直線運動する直動部材を構成し、かつ、前記ねじ軸と前記ナットとのうちの他方の部材が、使用時に回転運動する回転部材を構成しており、
前記直動部材と前記出力軸とが、本開示の一態様の結合構造により結合されている。
【0020】
本開示の一態様の回転直動装置では、前記直動部材は前記第1部材により構成されることができ、かつ、前記出力軸は前記第2部材により構成されることができる。この場合、前記直動部材に備えられた前記雄ねじ部と、前記出力軸に備えられた前記雌ねじ部とが螺合され、かつ、前記直動部材に備えられた前記第1係合部と、前記出力軸に備えられた前記第2係合部とに前記回り止め部材がかけ渡される。
【0021】
あるいは、前記直動部材は前記第2部材により構成されることができ、かつ、前記出力軸は前記第1部材により構成されることができる。この場合、前記直動部材に備えられた前記雌ねじ部と、前記出力軸に備えられた前記雄ねじ部とが螺合され、かつ、前記直動部材に備えられた前記第2係合部と、前記出力軸に備えられた前記第1係合部とに前記回り止め部材がかけ渡される。
【0022】
本開示の一態様の回転直動装置では、前記直動部材は前記ナットにより構成されることができ、かつ、前記回転部材は前記ねじ軸により構成されることができる。
【0023】
この場合、前記ナットは、前記ナット側ボールねじ溝を有するナット本体と、該ナット本体に取り付けられて、前記複数のボールを前記負荷路の始点から終点に戻すリターンチューブとを備えることができる。
【0024】
あるいは、前記直動部材は前記ねじ軸により構成されることができ、かつ、前記回転部材は前記ナットにより構成されることができる。
【0025】
本開示の一態様のシフトアクチュエータは、
モータ出力軸を有する電動モータと、
回転部材に入力された回転運動を出力軸の軸方向の直線運動に変換する、回転直動変換装置と、
前記モータ出力軸の回転運動を前記回転部材に伝達する減速機構と、
を備える。
【0026】
特に、本開示の一態様のシフトアクチュエータでは、前記回転直動変換装置が、本開示の回転直動変換装置により構成されている。
【発明の効果】
【0027】
本開示の一態様の結合構造および回転直動機構によれば、雄ねじ部と雌ねじ部との螺合部での摩耗の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の1例の回転直動装置を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した回転直動装置を、ハウジングを取り外して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ナットと出力軸との結合部を示す拡大斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、ナット、出力軸、回り止め部材、および弾性部材を取り出して、前記ナットと前記出力軸とを結合する以前の状態で斜視図であり、
図4(B)は、
図4(A)と軸方向に関して反対側から見た斜視図である。
【
図5】
図5は、ハウジングを、
図1の左側から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、ナットと出力軸との結合部を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(A)は、ナットおよび出力軸が軸方向一方側に向けて移動する場合の
図6のX部拡大図であり、
図7(B)は、ナットおよび出力軸が軸方向他方側に向けて移動する場合の
図6のX部拡大図である。
【
図8】
図8は、従来構造の問題点を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の一実施形態の結合構造は、その外周面に、雄ねじ部を有する第1部材と、その内周面に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とにかけ渡され、該第1部材と該第2部材との相対回転を阻止する回り止め部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に軸方向の弾力を付与する弾性部材と、を備える。
【0030】
本開示の実施の形態の1例として、本開示の一実施形態の結合構造を、船外機のシフトアクチュエータに用いられる回転直動変換装置1を構成するナット15と出力軸4との結合構造に適用した例を、
図1~
図7(B)を用いて説明する。
【0031】
本例では、ナット15が、直動部材を構成し、かつ、第1部材を構成する。また、ねじ軸14が、回転部材を構成し、かつ、出力軸4が、第2部材を構成する。
【0032】
ただし、本開示の一実施形態の結合構造をナットと出力軸との結合構造に適用する場合、出力軸が第1部材を構成し、かつ、ナットが第2部材を構成するようにすることもできる。
【0033】
本開示の一実施形態の結合構造は、回転直動変換装置を構成するねじ軸と出力軸との結合構造に適用することもできる。この場合、ねじ軸が、直動部材を構成し、かつ、ナットが、回転部材を構成する。
【0034】
また、本開示の一実施形態の結合構造は、船外機のシフトアクチュエータを構成する回転直動変換装置の直動部材と出力軸との結合構造に限定されるものではなく、雄ねじ部と雌ねじ部との螺合により結合され、かつ、回り止め部材により互いの相対回転が阻止された2つの部材の結合構造であれば、任意の構造に適用することができる。
【0035】
たとえば、本開示の一実施形態の結合構造は、自動車の変速機などのシフトアクチュエータに用いられる回転直動変換装置に適用することができる。
【0036】
[回転直動変換装置]
本例の回転直動変換装置1は、ハウジング2と、ボールねじ機構3と、出力軸4とを備える。結合構造は、ボールねじ機構3を構成するナット15と、出力軸4との結合構造に適用されている。本例では、第1部材はナット15により構成され、かつ、第2部材は出力軸4により構成される。
【0037】
以下の説明において、軸方向、径方向、および円周方向は、特に断らない限り、回転直動変換装置1の軸方向、径方向、および円周方向を表す。回転直動変換装置1の軸方向、径方向、および円周方向は、ねじ軸14の軸方向、径方向、および円周方向、ナット15の軸方向、径方向、および円周方向、並びに、出力軸4の軸方向、径方向、および円周方向と、それぞれ一致する。
【0038】
また、軸方向一方側とは、出力軸4側(
図1の右側)を表し、かつ、軸方向他方側とは、ナット15側(
図1の左側)を表す。
【0039】
本例では、ハウジング2は、軸方向両側が開口した筒状に構成されている。すなわち、ハウジング2は、中心部を軸方向に貫通する中心孔5を有する。
【0040】
中心孔5の内周面は、軸方向一方側から順に、第1ハウジング大径円筒面部6、ハウジング小径円筒面部7、および第2ハウジング大径円筒面部8を有する。
【0041】
第1ハウジング大径円筒面部6は、ハウジング小径円筒面部7の内径よりも大きい内径を有する。また、第2ハウジング大径円筒面部8は、第1ハウジング大径円筒面部6の内径よりも小さく、かつ、ハウジング小径円筒面部7の内径よりも大きい内径を有する。ただし、第2ハウジング大径円筒面部8の内径は、第1ハウジング大径円筒面部6の内径と同じにする、または、第1ハウジング大径円筒面部6の内径よりも大きくすることができる。
【0042】
第1ハウジング大径円筒面部6の軸方向他方側の端部と、ハウジング小径円筒面部7の軸方向一方側の端部とは、軸方向一方側を向いた第1ハウジング段差面9により接続されている。第2ハウジング大径円筒面部8の軸方向一方側の端部と、ハウジング小径円筒面部7の軸方向他方側の端部とは、軸方向他方側を向いた第2ハウジング段差面10により接続されている。
【0043】
ハウジング2は、ハウジング小径円筒面部7の円周方向1箇所に、径方向外側に向けて凹んだチューブ収容凹部11を有する。
【0044】
本例では、チューブ収容凹部11は、ハウジング小径円筒面部7に軸方向にわたって形成されている。すなわち、チューブ収容凹部11の軸方向一方側の端部が第1ハウジング段差面9に開口し、かつ、チューブ収容凹部11の軸方向他方側の端部が第2ハウジング段差面10に開口している。ただし、チューブ収容凹部11の軸方向一方側の端部が第1ハウジング段差面9にのみ開口し、かつ、チューブ収容凹部11の軸方向他方側の端部が第2ハウジング段差面10に開口しないようにすることもできる。
【0045】
ハウジング2は、複数箇所に設けられた取付フランジ部12の取付孔13を挿通したボルトにより、船体などの固定部分に支持固定されて、使用時にも回転も変位もしない。
【0046】
ボールねじ機構3は、ねじ軸14と、ナット15と、複数のボール(図示省略)とを備える。
【0047】
ねじ軸14は、その外周面に、らせん状の軸側ボールねじ溝16を有する。本例では、軸側ボールねじ溝16は、外周面の軸方向一方側部分に設けられている。軸側ボールねじ溝16は、ゴシックアーチ形またはサーキュラアーク形の断面形状を有する。
【0048】
ねじ軸14は、ハウジング2に対して軸方向の移動を不能に、かつ、相対回転を可能に支持されている。本例では、ねじ軸14の軸方向中間部が、ハウジング2の第2ハウジング大径円筒面部8に、ラジアル軸受17を介して支持されている。
【0049】
本例では、ねじ軸14は、減速機構18を介して、電動モータ19のモータ出力軸により回転駆動可能に構成されている。
【0050】
ナット15は、その内周面に、らせん状のナット側ボールねじ溝20を有する。本例では、ナット側ボールねじ溝20は、ゴシックアーチ形またはサーキュラアーク形の断面形状を有する。
【0051】
ナット15は、ハウジング2に対して軸方向の移動を可能に、かつ、相対回転を不能に配置されている。
【0052】
本例では、ナット15は、ナット本体21と、リターンチューブ22とを備える。
【0053】
ナット本体21は、炭素鋼、クロムモリブデン鋼などの鉄系金属により構成され、略円筒形状を有する。
【0054】
ナット側ボールねじ溝20は、ナット本体21の内周面に設けられている。
【0055】
リターンチューブ22は、内側に、軸側ボールねじ溝16とナット側ボールねじ溝20とからなる負荷路の始点と終点とを接続する循環路を有する。このために、リターンチューブ22の両側の端部は、ナット本体21を径方向に貫通する2つの貫通孔の径方向外側の端部に接続されている。貫通孔の径方向内側の端部のそれぞれは、ナット側ボールねじ溝20の両側の端部に開口している。
【0056】
ボールのそれぞれは、前記負荷路および前記循環路に転動可能に配置されている。
【0057】
本例では、電動モータ19への通電に基づいて、ねじ軸14が回転駆動されると、ナット15が軸方向に直線運動する。このとき、ボールのそれぞれは、前記循環路を通じて循環しつつ、前記負荷路を転動する。
【0058】
出力軸4は、ナット15に結合固定されている。本例では、出力軸4は、ハウジング2の内側に軸方向の移動を可能に配置され、かつ、ナット15の軸方向一方側に結合固定されている。
【0059】
本例では、出力軸4は、軽量化のため、アルミニウム合金などの軽合金により構成されている。
【0060】
本開示を実施する場合、第1部材を構成するナットと、第2部材を構成する出力軸とを、同じ材料により構成することもできる。ただし、第1部材を構成するナットと、第2部材を構成する出力軸とを異なる材料により構成した場合、同じ材料に構成した場合に比べて、本開示による効果を顕著に得ることができる。
【0061】
[結合構造]
本例の結合構造は、第1部材を構成するナット15と、第2部材を構成する出力軸4と、回り止め部材38と、弾性部材41とを備える。
【0062】
ナット15は、その外周面に雄ねじ部26を有する。
【0063】
ナット15を構成するナット本体21の外周面は、軸方向一方側に配置された小径部23と、軸方向他方側に配置された大径部24と、該小径部23の軸方向他方側の端部と該大径部24の軸方向一方側の端部とを接続する段差面25とを備える段付円筒面により構成されている。大径部24は、ハウジング2のハウジング小径円筒面部7の内径よりもわずかに小さい外径を有する。
【0064】
本例では、雄ねじ部26は、小径部23に設けられている。なお、
図4(A)および
図4(B)では、雄ねじ部26のねじ山が省略されている。
【0065】
ナット15は、少なくとも外周面に開口する第1係止部27を有する。
【0066】
本例では、第1係止部27は、小径部23の円周方向1箇所に開口するように設けられている。具体的には、第1係止部27は、ナット本体21の軸方向一方側の端面に開口し、かつ、軸方向に伸長する凹部により構成されている。
【0067】
ただし、第1係止部は、ナット本体の軸方向一方側の端面に開口しない凹部により構成されることもできる。あるいは、第1係止部は、ナットを径方向に貫通し、かつ、該ナットの軸方向一方側の端面に開口する切り欠き、または、ナットを径方向に貫通し、かつ、該ナットの軸方向一方側の端面に開口しない貫通孔により構成されることもできる。
【0068】
本例では、リターンチューブ22は、ナット本体21の大径部24の円周方向1箇所位置に、抑え金具42およびねじ43を用いて支持固定されている。
【0069】
ナット15は、リターンチューブ22をチューブ収容凹部11の内側に配置するようにして、ハウジング小径円筒面部7の内側に、ハウジング2に対する軸方向の移動を可能に、かつ、径方向に関するがたつきなく配置されている。
【0070】
ナット15は、その軸方向一方側に、回り止め部材38を介して相対回転不能に結合された出力軸4の先端部を、リンク部材などに接続することにより、ハウジング2に対して相対回転が不能となっている。
【0071】
出力軸4は、その内周面に、ナット15の雄ねじ部26と螺合する雌ねじ部28を有する。
【0072】
本例では、出力軸4は、軸方向一方側から順に、接続軸部30、小径軸部31、および大径軸部32を有する。
【0073】
接続軸部30は、軸方向から見て略長円形の端面形状を有する。本例では、接続軸部30は、短軸方向に貫通する円孔33を有する。接続軸部30は、円孔33を挿通した接続部材により、前記リンク部材の端部に対して接続される。
【0074】
小径軸部31は、円柱状に構成され、接続軸部30の外接円の直径よりも大きい外径を有する。本例では、ハウジング2の第1ハウジング大径円筒面部6と、出力軸4の小径軸部31との間部分が、ゴムのごときエラストマー製のシール部材44により密封されている。
【0075】
大径軸部32は、小径軸部31の外径よりも大きく、かつ、ナット15の大径部24の外径と同じ大きさの外径を有する。大径軸部32は、軸方向他方側の端面に開口し、かつ、軸方向から見て円形の開口形状を有する凹部34を有する。
【0076】
本例では、雌ねじ部28は、凹部34の内周面に設けられている。別の言い方をすれば、雌ねじ部28は、大径軸部32のうち、凹部34の径方向外側に存在する筒状部35の内周面に設けられている。
【0077】
出力軸4は、径方向に貫通する第2係止部29を有する。
【0078】
本例では、第2係止部29は、筒状部35の円周方向1箇所位置を径方向に貫通するように設けられている。具体的には、第2係止部29は、筒状部35の軸方向他方側の端面に開口し、かつ、軸方向に伸長する切り欠きにより構成されている。
【0079】
ただし、第2係止部は、筒状部35の軸方向他方側の端面に開口しない貫通孔により構成されることもできる。
【0080】
本例では、出力軸4は、筒状部35の外周面に、凹溝36を全周にわたって有する。凹溝36は、矩形の断面形状を有する。
【0081】
出力軸4は、凹部34の底面に開口する有底孔37をさらに有する。有底孔37は、ねじ軸14の軸方向一方側部分を挿入するために設けられている。本例では、有底孔37は、出力軸4のうち、大径軸部32の軸方向中間部から小径軸部31の軸方向他方側部分にかけての範囲に設けられている。
【0082】
回り止め部材38は、出力軸4とナット15との相対回転を阻止する。本例では、回り止め部材38は、ストッパ部39と、基部40とを備え、合成樹脂により全体を一体に構成されている。
【0083】
ストッパ部39は、第1係止部27と第2係止部29とにかけ渡されている。具体的には、ストッパ部39は、第1係止部27と第2係止部29とに径方向外側から挿入されている。本例では、ストッパ部39は、径方向から見て略長円形の端面形状を有する。
【0084】
本例では、第2係止部29の内側にストッパ部39を配置した状態で、ストッパ部39の軸方向他方側の端部が、出力軸4の軸方向他方側の端面よりも軸方向他方側に突出しないように、ストッパ部39の寸法および形状が規制されている。これにより、ナット15と出力軸4との間で弾性部材41を挟持する力が、円周方向に関して不均一になることを防止している。
【0085】
回り止め部材38のストッパ部39を挿入するために、雄ねじ部26と雌ねじ部28とを螺合させて、第1係止部27の円周方向位相と第2係止部29の円周方向位相とを一致させた状態では、ナット15の段差面25と出力軸4の軸方向他方側の端面とは直接当接しないようになっている。
【0086】
基部40は、円周方向1箇所位置に不連続部を有する欠円筒状に構成され、ストッパ部39の径方向外側の端部を横切るように円周方向に伸長している。基部40は、凹溝36の底面に弾性的に外嵌されている。これにより、第1係止部27および第2係止部29からのストッパ部39の脱落が防止されている。
【0087】
ただし、回り止め部材は、ナットと出力軸との相対回転を防止することができる限り、本例の構造に限定されるものではなく、任意の構造を採用することができる。たとえば、第1係止部および第2係止部からの脱落を防止することができれば、弾性材製で全体として柱状または筒状の回り止め部材を、第1係止部と第2係止部とにかけ渡すようにすることができる。あるいは、回り止め部材は、それぞれが貫通孔である第1係止部と第2係止部とにかけ渡された割ピンにより構成されることができる。あるいは、ナットと出力軸とのうちの一方に設けられた爪状の回り止め部材を、ナットと出力軸とのうちの他方に設けられた凹部に係止することができる。
【0088】
弾性部材41は、ナット15と出力軸4との間に軸方向の弾力を付与する。
【0089】
本例では、弾性部材41は、Oリングと呼ばれる、自由状態において円形の断面形状を有するゴム製の弾性リングにより構成され、ナット15の段差面25と出力軸4の軸方向他方側の端面との間で弾性的に挟持されている。
【0090】
本例では、弾性部材41が、ナット15の段差面25と出力軸4の軸方向他方側の端面との間で弾性的に復元しようとすることで、ナット15と出力軸4とに、該ナット15と該出力軸4とを軸方向に関して互いに離れる方向に相対移動させる方向の力が付与される。
【0091】
このため、ナット15が直線運動していない場合でも、
図7(B)に示すように、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向他方側を向いた面と、雌ねじ部28を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向一方側を向いた面とを弾性的に当接させることができる。したがって、エンジンの振動などに伴って、ナット15および/または出力軸4が振動した場合でも、雄ねじ部26および/または雌ねじ部28、特に軽合金製の出力軸4に設けられた雌ねじ部28での摩耗の発生を防止することができる。
【0092】
弾性部材は、ナットと出力軸とに軸方向の弾力を付与することができる限り、任意の部材により構成されることができる。たとえば、弾性部材は、矩形などの非円形の断面形状を有するゴム製の弾性リングもしくはウェーブワッシャにより構成されることができる。
【0093】
あるいは、弾性部材は、皿ばねにより構成されることができる。
【0094】
ただし、皿ばねは、弾性リングやウェーブワッシャと比較してばね定数が大きく、圧縮量に対する弾性力の変化量が大きい。
【0095】
本例の結合構造では、次の(1)~(3)の理由により、ナット15の段差面25と出力軸4の軸方向他方側の端面との間の軸方向間隔を高精度に規制することが難しい。
(1) 回り止め部材38をかけ渡すために、ナット15の第1係止部27の円周方向位相と出力軸4の第2係止部29の円周方向位相とを一致させる必要があること。
(2) ナット15のリターンチューブ22の円周方向位相と、ハウジング2のチューブ収容凹部11の円周方向位相とを一致させる必要があること。
(3) リンク部材に接続するため、出力軸4の接続軸部30の円周方向位相を規制する必要があること。
【0096】
したがって、ナット15の段差面25と出力軸4の軸方向他方側の端面との間の軸方向間隔の誤差による弾性力の変化の影響を小さく抑えるため、弾性部材は、弾性リングもしくはウェーブワッシャにより構成されることが好ましい。
【0097】
あるいは、弾性部材は、座金により構成されることができる。
【0098】
ただし、ナット15の段差面25と出力軸4の軸方向他方側の端面とを、円周方向に関してバランスよく押圧するためには、弾性部材は、弾性リングもしくはウェーブワッシャにより構成されることが好ましい。
【0099】
本例の回転直動変換装置1では、電動モータ19への通電に基づいて、ねじ軸14が回転駆動されて、ナット15が軸方向に直線運動すると、該ナット15とともに出力軸4が軸方向に直線運動する。ナット15の直線運動は、雄ねじ部26と雌ねじ部28との螺合部を通じて、出力軸4に伝達される。出力軸4の直線運動に伴い、前記リンク部材が押し引きされ、進行方向および/または多段変速機のギヤが切り換えられる。
【0100】
ナット15が軸方向一方側に向けて直線運動する場合には、
図7(A)に示すように、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向一方側を向いた面により、雌ねじ部28を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向他方側を向いた面が軸方向一方側に向けて押圧される。これにより、出力軸4も軸方向一方側に向けて直線運動する。
【0101】
ただし、弾性部材41の弾性力が大きい場合には、ナット15が軸方向一方側に向けて直線運動する場合でも、出力軸4の軸方向他方側の端面が、弾性部材41を介して、ナット15の段差面25により軸方向一方側に押圧されることで、出力軸4が軸方向一方側に向けて直線運動する。この場合、
図7(B)に示すように、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向他方側を向いた面と、雌ねじ部28を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向一方側を向いた面とが当接したままとなる。
【0102】
ナット15が軸方向他方側に向けて直線運動する場合には、
図7(B)に示すように、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向他方側を向いた面により、雌ねじ部28を構成するねじ山のフランク面のうち、軸方向一方側を向いた面が軸方向他方側に向けて押圧される。これにより、出力軸4も軸方向他方側に向けて直線運動する。
【0103】
本例では、本開示の結合構造を、ナット15の雄ねじ部26と出力軸4の雌ねじ部28とを螺合することにより、ナット15と出力軸4とを結合する構造に適用した例について説明した。ただし、本開示の結合構造は、ナットに設けられた雌ねじ部と出力軸に設けられた雌ねじ部とを螺合することにより、ナットと出力軸とを結合する構造に適用することもできる。
【符号の説明】
【0104】
1 回転直動変換装置
2 ハウジング
3 ボールねじ機構
4 出力軸
5 中心孔
6 第1ハウジング大径円筒面部
7 ハウジング小径円筒面部
8 第2ハウジング大径円筒面部
9 第1ハウジング段差面
10 第2ハウジング段差面
11 チューブ収容凹部
12 取付フランジ部
13 取付孔
14 ねじ軸
15 ナット
16 軸側ボールねじ溝
17 ラジアル軸受
18 減速機構
19 電動モータ
20 ナット側ボールねじ溝
21 ナット本体
22 リターンチューブ
23 小径部
24 大径部
25 段差面
26 雄ねじ部
27 第1係止部
28 雌ねじ部
29 第2係止部
30 接続軸部
31 小径軸部
32 大径軸部
33 円孔
34 凹部
35 筒状部
36 凹溝
37 有底孔
38 回り止め部材
39 ストッパ部
40 基部
41 弾性部材
42 抑え金具
43 ねじ
44 シール部材
【要約】
【課題】雄ねじ部と雌ねじ部とを螺合してなる結合部を有する結合構造において、摩耗が発生しにくい構造を実現する。
【解決手段】結合構造は、その外周面に雄ねじ部を有する第1部材と、その内周面に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とにかけ渡され、該第1部材と該第2部材との相対回転を阻止する回り止め部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に軸方向の弾力を付与する弾性部材と、を備える。
【選択図】
図6