IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社LSIメディエンスの特許一覧

特許7376007生体試料中からの標的タンパク質の抽出方法および標的タンパク質の分析方法
<>
  • 特許-生体試料中からの標的タンパク質の抽出方法および標的タンパク質の分析方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】生体試料中からの標的タンパク質の抽出方法および標的タンパク質の分析方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20231031BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C07K1/14 ZNA
G01N33/68
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019521356
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2018021292
(87)【国際公開番号】W WO2018221745
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-07-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017110247
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591122956
【氏名又は名称】株式会社LSIメディエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100146330
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 博行
(72)【発明者】
【氏名】新田 真一郎
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】加々美 一恵
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/019889(WO,A1)
【文献】特開2007-10418(JP,A)
【文献】特表2003-508350(JP,A)
【文献】MOLECULAR & CELLULAR PROTEOMICS、2003年、VOLUME 2、ISSUE 10、 p1096-1103 及びSUPPLEMENTARY MATERIAL
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
G01N
CAPLUS/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料から夾雑タンパク質を除タンパクして、標的タンパク質を抽出する方法であって、界面活性剤を使用しない下記の工程、
(工程1)採取された生体試料に高濃度の塩を添加し攪拌する工程、
(工程2)工程1で高濃度の塩を添加した試料に、水溶性有機溶媒を添加する工程、
(工程3)工程2で水溶性有機溶媒を添加した試料を上清と沈殿に分離する工程、および
(工程4)工程3で分離した後の上清を採取する工程、を含み、
前記高濃度の塩は試料中濃度として1~8Mであり
前記水溶性有機溶媒は生体試料の量の2倍以上(v/v)の量を用いるものであり、
前記塩ギ酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムの中から選択される一つまたは複数の塩である、方法。
【請求項2】
前記水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、およびアセトニトリルの中から選択される一つまたは複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩を、試料中に1~8Mの濃度で添加した後に、タンパク質を除去する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的タンパク質が、水溶性有機溶媒に溶解しうるタンパク質である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的タンパク質が分子量50,000以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記標的タンパク質が、グルカゴン又はその類縁体、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)又はその類縁体、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)又はその類縁体、ケラチン(サイトケラチン)の部分ペプチドK1~K20又はその類縁体、ダイノルフィン又はその類縁体、GRF又はその類縁体、インシュリン又はその類縁
体、HIVウイルス由来ペプチド又はその類縁体、SRタンパク質ファミリー又はその類縁体、ペプチドYY(PYY)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン様中間ペプチド(CLIP)又はその類縁体、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)又はその類縁体、リポトロピン(LPH)又はその類縁体、アミロイドβ(Aβ)又はその類縁体、成長因子もしくは増殖因子又はその類縁体、VGF由来ペプチド又はその類縁体、イソロイシルーセリルーブラジキニン又はその類縁体、ナトリウム利尿ペプチド又はその類縁体、ミッドカイン(MK)又はその類縁体、ニューロメジン又はその類縁体、ガストリン又はその類縁体、ガストリン放出ペプチド又はその類縁体、オピオイドペプチド類又はその類縁体、アドレノメデュリン(AM)又はその類縁体、ニューロペプチド類又はその類縁体、ノシセプチン(オルファニンFQ)又はその類縁体、オキシトシン(OT、OXT)又はその類縁体、ウロコルチン又はその類縁体、インターフェロン-γ又はその類縁体、ラット好中球走化性因子-1又はその類縁体(CINC-1/gro)、副甲状腺ホルモン又はその類縁体(PTH)、オバルブミン又はその類縁体(OVA)、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシンI~IV又はその類縁体、イリシン又はその類縁体、サブスタンスP又はその類縁体、ニューロキニンA又はその類縁体、ニューロキニンB又はその類縁体、コペプチン又はその類縁体、グレリン又はその類縁体、モチリン又はその類縁体、エリスロポエチン又はその類縁体、エンドセリン又はその類縁体、黄体形成ホルモン又はその類縁体、オレキシン又はその類縁体、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド又はその類縁体、カルシトニン又はその類縁体、カルシトニン遺伝子関連ペプチド又はその類縁体、カタカルシン又はその類縁体、血管作動性腸管ペプチド又はその類縁体、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)又はその類縁体、コレシストキニン又はその類縁体、植物ペプチドホルモン又はその類縁体、性腺刺激ホルモン又はその類縁体、セクレチン又はその類縁体、ソマトスタチン又はその類縁体、妊馬血清性性腺刺激ホルモン又はその類縁体、バソプレシン(VP)又はその類縁体、バゾトシン又はその類縁体、パラトルモン(PTH)又はその類縁体、ボンベシン又はその類縁体、卵胞刺激ホルモン又はその類縁体、リュープロレリン又はその類縁体、リラキシン又はその類縁体、リラグルチド又はその類縁体、レプチン又はその類縁体、ペプチドB又はその類縁体、ペプチドE又はその類縁体、ペプチドF又はその類縁体、BAMP22P又はその類縁体、モルフィン又はその類縁体、ニューロフィジン1又はその類縁体、ニューロフィジン2又はその類縁体、アントリン又はその類縁体、コルチスタチン又はその類縁体、RFアミド関連ペプチド又はその類縁体、膵臓ポリペプチドY又はその類縁体、膵臓ポリペプチドYY(PP)又はその類縁体、膵島アミロイドポリペプチド又はその類縁体、アミリン又はその類縁体、インテルメジン又はその類縁体、ラナテンシン又はその類縁体、グリセンチン又はその類縁体、オキシントモジュリン又はその類縁体、血管作用性小腸ペプチド(VIP)又はその類縁体、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACPA)又はその類縁体、ソマトリベリン又はその類縁体、ソマトレリン又はその類縁体、セルモレリン又はその類縁体、ウロテンシン又はその類縁体、キニノーゲン又はその類縁体、カリジン又はその類縁体、キニン又はその類縁体、ニューロテンシン又はその類縁体、クロモグラニン又はその類縁体、グラニン又はその類縁体、バソスタチン又はその類縁体、セクレトグラニン又はその類縁体、CCB又はその類縁体、GAWK又はその類縁体、EM66又はその類縁体、オベスタチン又はその類縁体、ガラニン又はその類縁体、ガラニンメッセージ関連ペプチド又はその類縁体、ガラニン様ペプチド又はその類縁体、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)又はその類縁体、ゴナドリベリン又はその類縁体、ニューレキソフィリン(NXPH)1~4又はその類縁体、パラトルモン様ホルモン(PTHLH)又はその類縁体、オステオスタチン又はその類縁体、メラニン凝集ホルモン(MCH)又はその類縁体、ヒポクレチン又はその類縁体、コカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)又はその類縁体、アグーチ関連ペプチド(AGRP)又はその類縁体、プロラクチン又はその類縁体、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)又はその類縁体、アペリン又はその類縁体、キスペプチン又はその類縁体、メタスチン又はその類縁体
、ジアゼパム結合阻害タンパク質又はその類縁体、セレベリン(CBLN)又はその類縁体、オベシン又はその類縁体、アディポネクチン又はその類縁体、ビスファチン又はその類縁体、PBEF又はその類縁体、レジスチン又はその類縁体、脂肪組織特異的分泌因子又はその類縁体、低酸素誘導分裂促進因子(HIMF、FIZZ、RELM)又はその類縁体、結腸・腸管特異的システインリッチタンパク質又はその類縁体、結腸癌特異的遺伝子産物又はその類縁体、分泌型DNA・カルシウム結合タンパク質ヌクレオバインディン又はその類縁体、ネスファチン又はその類縁体または、上記ペプチドの前駆体からなる群から選択される一つ以上であり、
類縁体は、共通する前駆体に由来するものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、血液、血漿、又は血清である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により標的タンパク質を含む上清を採取し、該上清を用いて標的タンパク質の分析を行う、標的タンパク質の分析方法。
【請求項9】
標的タンパク質をUV検出器、蛍光検出器または質量分析計で分析する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法に用いるための、試料と混合可能な状態の塩、並びに水溶性有機溶媒を含む、標的タンパク質抽出キット。
【請求項11】
沈殿を分離するためのフィルターまたはカラムを含む、請求項10に記載の標的タンパク質抽出キット。
【請求項12】
記フィルターを構成する担体が、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ガラス繊維(GF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ナイロン(NY)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、再生セルロース(RC)、酢酸セルロース(CA)、メタクリレートブタジエンスチレン(MBS)から選ばれる少なくとも一つ以上である、請求項11に記載の、標的タンパク質抽出キット。
【請求項13】
前記塩が、濃度が1~8mol/Lとなるように含有されていることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載の標的タンパク質抽出キット。
【請求項14】
保存剤、安定化剤、緩衝液の中から選ばれる少なくとも一つの添加剤を含む、請求項1013のいずれか1項に記載の標的タンパク質抽出キット。
【請求項15】
請求項1014のいずれか1項に記載の標的タンパク質抽出キットを用いて生体試料から標的タンパク質を抽出し、抽出された標的タンパク質の存在及び/又は量を測定することを特徴とする、標的タンパク質の測定法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の標的タンパク質を分析する際に、効率良く標的タンパク質を抽出する方法、標的タンパク質の分析方法及び除タンパク用前処理用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体試料中に含まれる微量物質を分析することの重要性が益々高まっている。特に、疾患によって誘導、消失等の変動があるバイオマーカータンパク質を分析することは、診断のマーカーだけでなく、創薬のターゲットとしても利用できる可能性が高いため、高精度な測定方法の開発が注目されている。
【0003】
従来より、タンパク質の分析には、抗原抗体反応を利用した、ELISA法やラテックス凝集法などの方法が用いられているが、これらの方法は、標的とするタンパク質ごとに抗体を作製する必要がある。また、測定された結果は抗体の反応性に大きく依存することが多く、安定性に不安がある。また、用手測定と言われる測定工程の場合、その煩雑性や再現性の点でもデメリットがある。
【0004】
一方で、高速液体クロマトグラフィーや質量分析装置による測定技術が進展し、これらの機器分析は、研究目的だけでなく、臨床検査における利用も身近なものとなりつつある。機器分析は、微量タンパク質の測定だけでなく、高速で大量の検体を取り扱える強力なツールとなり得ると考えられており、測定方法や機器が急速に改良されてきてはいるものの、機器分析が臨床現場で簡便かつ迅速に実施できる状況にはまだない。それは、測定方法そのものが、標的物質の測定に対して高度に特異的な条件が設定されているために、実際に臨床検査の現場において、測定精度を保ったまま大量の検体を高速に処理するには、汎用性の高い抽出法の確立が不十分であることが挙げられる。
【0005】
どのような種類の分析法を使用する場合であっても、試料中に微量に含まれる標的タンパク質を高精度に分析するためには、血漿や血清等の検体をそのまま用いるのではなく、標的タンパク質以外の夾雑物、特に数万種類以上あると推定されている夾雑タンパク質成分を除去して、標的タンパク質の回収率を高めた状態で分析に使用することが必要である。上記のような夾雑タンパク質としては、アルブミン、グロブリン、各種プロテアーゼ等のような、正確な測定を阻害し得る比較的高分子量のタンパク質が挙げられるが、これらの成分を除去することが求められている。この点が解決されると、臨床検査の診断の迅速性が飛躍的に向上することが期待できる。
【0006】
この夾雑タンパク質の除去方法(以下、単に除タンパクと記載することがある)には、タンパク質の変性による不溶化を利用する方法、物理的な除去による方法、LC(液体クロマトグラフィー)に直接注入しオンラインでタンパク質を除く方法などがある。
【0007】
タンパク質の変性による不溶化を利用する方法とは、タンパク質の高次構造を壊してタンパク質を変性・沈殿させるものである。具体的には、酸(過塩素酸、トリクロロ酢酸、メタリン酸)や有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール)を添加する方法、加熱・冷却させる方法などがある。この方法は簡便に比較的高分子量タンパク質を除去することができるために広く用いられているものの、多様な標的タンパク質に対して有効ではない場合も多く、思わぬ化学反応が起こる可能性があり、目的物質の濃度に影響を与えないことを事前に確認しておく必要がある、といったデメリットがある。
【0008】
物理的な除去による方法とは、限外濾過(メンブレンフィルター・遠心濾過デバイスなど)、透析(透析チューブ)、超遠心等を利用したもので、分子サイズの違いを利用して目的の標的タンパク質を分離する方法である。条件が温和なため、副反応の心配はほとんどないメリットがあり、遠心式の製品は簡単な操作で限外濾過操作を行うことができる。一方で、膜は、目的物質の非特異吸着や、膜が流体を透過させる能力に留意し、目的に合った分画分子量のものを選択する必要がある。また、膜の選択や遠心の条件は、試料の性質、濃度、pH条件などの影響を受けるため、予備実験での確認が必要であり、汎用性を持たせるには相当な労力を要する。
【0009】
また、標的タンパク質を含む試料を直接LCに注入しオンラインで除タンパクを行う方法では、血清タンパク質などの高分子物質が変性することなくサイズ排除により溶出され、薬物などの低分子物質が疎水性相互作用や静電的相互作用で保持されるような機能を有する浸透制限充填剤カラム(内面逆相充填剤、ハイブリッド型充填剤、親水性ポリマー充填剤)を使用する。多くの場合、浸透制限充填剤カラムで除タンパクを行い、目的成分を別のカラムで分析するカラムスイッチング法が行われる。この方法は試料を0.2μm程度のフィルターに通すだけでLCに注入できる特長がある。しかし、カラムを組み合わせて使用するために、汎用的な条件の設定には労力を要する。また、試料を直接注入することになるために、カラムの劣化が著しく、頻繁にカラム交換の必要性が生じ得る。
【0010】
上記の方法に加えて、特に、タンパク質の精製法として有機溶媒を使用した分画法や、塩析(凝析)の効果を利用した硫安沈殿などの方法が、古くから使用されている。しかし、これらの方法では、一度沈殿させたタンパク質を再溶解する工程が必要となる。
【0011】
例えば、血清ならびに血漿に有機溶媒を添加することによる除タンパクを行った場合、除去しようとする高分子量タンパク質と目的とする標的タンパク質とが共沈する現象が起こる等、回収率が著しく低下してしまうという問題点があった。また、有機溶媒を加える前に界面活性剤を添加して除タンパクを行うと回収率の向上が見込める場合があることが知られている。しかし、続いて使用される分析法がHPLC法の場合にはカラムの劣化を招きやすく、質量分析法の場合には、界面活性剤を使用することによるイオン化抑制やイオン源の汚染による感度低下を招くことになる。また、機器を使用しないELISA法等の場合であっても、界面活性剤が免疫反応に影響を与えてしまい、思うような結果を得られないことが多い。
【0012】
高速液体クロマトグラフや質量分析計を分析機器として使用した分析を選択した場合には、前処理で使用した溶媒と機器分析において使用する溶媒との相性や、イオン化抑制といったことを考慮せねばならず、上記の前処理法では、簡便で汎用性が高く、且つ、十分に高精度な性能での分析を達成することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Jensen et al. Eur. J. Pharm. Sci. 104; 31-41, 2017
【文献】Prasain et al. Tandem Mass Spectrometry - Applications and Principles Chap. 18, pp390-420
【文献】McCord et al. J Biol. Chem. 244(22); 6049-55, 1969
【文献】Green et al. J. Biol. Chem. 95; 47, 1932
【文献】Cromwell ME et al. AAPS J. 8(3); E572-9, 2006
【文献】Mahler HC et al. J Pharm Sci. 98(9); 2909-34, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、生体試料中に含まれる標的タンパク質を効率よく抽出できる方法が求められていた。本発明の目的は、血清・血漿等の生体試料中に含まれる標的タンパク質を効率よく抽出する方法を提供し、高精度な分析を可能とすることである。
なお、本発明において、分析とは標的タンパク質の検出、定量、といった測定工程だけでなく、それらの測定結果から得られた解析をも含むものとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、生体試料に塩及び/又は尿素を高濃度で添加することによって、高い回収率で標的タンパク質を抽出することができることを見出した。本発明はこの知見に基づいて、正確で高感度な測定を行うための、生体試料から標的タンパク質を抽出する方法及び前処理キットを完成させたものである。
【0016】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1] 生体由来の試料から除タンパク法によって、標的タンパク質を抽出する方法であって、
高濃度の塩及び/又は尿素と、水溶性有機溶媒とを用いる方法。
[2] 前記水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、およびアセトニトリルの中から選択される一つまたは複数である、[1]に記載の方法。
[3] 前記塩がアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩である、[
1]または[2]のいずれかに記載の方法。
[4] 前記塩が、ギ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、尿素、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムの中から選択される一つまたは複数の塩である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記塩及び/又は尿素を、試料中に0.02~8Mの濃度で添加した後に、タンパク質を除去する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 添加する水溶性有機溶媒の量が、生体試料の量の2倍以上(v/v)である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記標的タンパク質が、水溶性有機溶媒に溶解しうるタンパク質である、[1]~[
6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記標的タンパク質が分子量50,000以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記標的タンパク質が、グルカゴン又はその類縁体、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)又はその類縁体、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)又はその類縁体、上記以外のインクレチン類又はその類縁体、ケラチン(サイトケラチン)の部分ペプチド(例えば、K1~K20)又はその類縁体、ダイノルフィン又はその類縁体、GRF又はその類縁体、インシュリン又はその類縁体、HIVウイルス由来ペプチド(例えば、T-20、T-1249、C-34)又はその類縁体、SRタンパク質ファミリー(例えば、SF2、ASF、SC35、SRp40、SRp55など)又はその類縁体、ペプチドYY(PYY)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン様中間ペプチド(CLIP)又はその類縁体、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)又はその類縁体、リポトロピン(LPH)又はその類縁体、アミロイドβ(Aβ)又はその類縁体、成長ホルモン(GH)又はその類縁体、成長ホルモン放出因子(GRF又はGHRF)又はその類縁体、インスリン様成長因子1(IGF-1)、インスリン様成長因子2(IGF-2)等の各種成長因子もしくは増殖因子又はその類縁体、VGF由来ペプチド(TLPQ-21、TLPQ-62、AQEE-30、LQEQ-19)又はその類縁体、イソロイシルーセリルーブラジキニン又はその類縁体、ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)又はその類縁体、ナトリウム利尿因子(ANF、BNF、CNF)又はその類縁体、ナトリウム利尿ペプチドの前駆体(例えば、pre-proANP、proANP、NT-proANP、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、pre-proCNP、proCNP、NT-proCNP)又はその類縁体、ミッドカイン(MK)又はその類縁体、ニューロメジン類(例えば、ニュ
ーロメジンC、ニューロメジンB、ニューロメジンU、ニューロメジンS、ニューロメジンK、ニューロメジンNなど)又はその類縁体、ガストリン又はその類縁体、ガストリン放出ペプチド又はその類縁体、エンドルフィン(EP)又はその類縁体、ネオエンドルフィン又はその類縁体、プロオピオメラノコルチン(POMC)又はその類縁体、エンケファリン(PENK)又はその類縁体、ダイノルフィン又はその類縁体、アドレノルフィン又はその類縁体、アミドルフィン又はその類縁体、オピオルフィン又はその類縁体、カソモルフィン又はその類縁体、グルテン・エキソルフィン又はその類縁体、グリアドルフィン又はその類縁体、ルビスコリン又はその類縁体、デルトルフィン又はその類縁体、デルモルフィン等のオピオイドペプチド類又はその類縁体、アドレノメデュリン(AM)又はその類縁体、ニューロペプチド1、ニューロペプチド2、ニューロペプチドAF、ニューロペプチドB、ニューロペプチドFF、ニューロペプチドG、ニューロペプチドK、ニューロペプチドS、ニューロペプチドSF、ニューロペプチドW、ニューロペプチドY、ニューロペプチドY C末隣接ペプチド、ニューロペプチドγ、ニューロペプチドNEIもしくはニューロペプチドNGE等のニューロペプチド類又はその類縁体、ノシセプチン(オルファニンFQ)又はその類縁体、オキシトシン(OT、OXT)又はその類縁体、ウロコルチン又はその類縁体、インターフェロン-γ又はその類縁体、ラット好中球走化性因子-1又はその類縁体(CINC-1/gro)、副甲状腺ホルモン又はその類縁体(PTH)、オバルブミン又はその類縁体(OVA)、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシンI~IV又はその類縁体、イリシン又はその類縁体、サブスタンスP又はその類縁体、ニューロキニンA又はその類縁体、ニューロキニンB又はその類縁体、コペプチン又はその類縁体、グレリン又はその類縁体、モチリン又はその類縁体、エリスロポエチン又はその類縁体、エンドセリン又はその類縁体、黄体形成ホルモン又はその類縁体、オレキシン又はその類縁体、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド又はその類縁体、カルシトニン又はその類縁体、カルシトニン遺伝子関連ペプチド又はその類縁体、カタカルシン又はその類縁体、血管作動性腸管ペプチド又はその類縁体、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)又はその類縁体、コレシストキニン又はその類縁体、植物ペプチドホルモン又はその類縁体、性腺刺激ホルモン又はその類縁体、セクレチン又はその類縁体、ソマトスタチン又はその類縁体、妊馬血清性性腺刺激ホルモン又はその類縁体、バソプレシン(VP)又はその類縁体、バゾトシン又はその類縁体、パラトルモン(PTH)又はその類縁体、ボンベシン又はその類縁体、卵胞刺激ホルモン又はその類縁体、リュープロレリン又はその類縁体、リラキシン又はその類縁体、リラグルチド又はその類縁体、レプチン又はその類縁体、ペプチドB又はその類縁体、ペプチドE又はその類縁体、ペプチドF又はその類縁体、BAMP22P又はその類縁体、モルフィン又はその類縁体、ニューロフィジン1又はその類縁体、ニューロフィジン2又はその類縁体、アントリン又はその類縁体、コルチスタチン又はその類縁体、RFアミド関連ペプチド又はその類縁体、膵臓ポリペプチドY又はその類縁体、膵臓ポリペプチドYY(PP)又はその類縁体、膵島アミロイドポリペプチド又はその類縁体、アミリン又はその類縁体、インテルメジン又はその類縁体、ラナテンシン又はその類縁体、グリセンチン又はその類縁体、オキシントモジュリン又はその類縁体、血管作用性小腸ペプチド(VIP)又はその類縁体、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACPA)又はその類縁体、ソマトリベリン又はその類縁体、ソマトレリン又はその類縁体、セルモレリン又はその類縁体、ウロテンシン又はその類縁体、キニノーゲン又はその類縁体、カリジン又はその類縁体、キニン又はその類縁体、ニューロテンシン又はその類縁体、クロモグラニン又はその類縁体、グラニン又はその類縁体、バソスタチン又はその類縁体、セクレトグラニン又はその類縁体、CCB又はその類縁体、GAWK又はその類縁体、EM66又はその類縁体、オベスタチン又はその類縁体、ガラニン又はその類縁体、ガラニンメッセージ関連ペプチド又はその類縁体、ガラニン様ペプチド又はその類縁体、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)又はその類縁体、ゴナドリベリン又はその類縁体、ニューレキソフィリン(NXPH)1~4又はその類縁体、パラトルモン様ホルモン(PTHLH)又はその類縁体、オステオスタチン又はその類縁体、メラニン凝集ホルモン(MCH)又はその類縁体、ヒポクレチ
ン又はその類縁体、コカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)又はその類縁体、アグーチ関連ペプチド(AGRP)又はその類縁体、プロラクチン又はその類縁体、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)又はその類縁体、アペリン又はその類縁体、キスペプチン又はその類縁体、メタスチン又はその類縁体、ジアゼパム結合阻害タンパク質又はその類縁体、セレベリン(CBLN)又はその類縁体、オベシン又はその類縁体、アディポネクチン又はその類縁体、ビスファチン又はその類縁体、PBEF又はその類縁体、レジスチン又はその類縁体、脂肪組織特異的分泌因子又はその類縁体、低酸素誘導分裂促進因子(HIMF、FIZZ、RELM)又はその類縁体、結腸・腸管特異的システインリッチタンパク質又はその類縁体、結腸癌特異的遺伝子産物又はその類縁体、分泌型DNA・カルシウム結合タンパク質ヌクレオバインディン又はその類縁体、ネスファチン又はその類縁体からなる群から選択される一つ以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 前記試料が、血液、血漿、又は血清である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 下記の工程1~4を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
(工程1)採取された生体試料に高濃度の塩及び/又は尿素を添加し攪拌する工程、
(工程2)工程1で高濃度の塩及び/又は尿素を添加した試料に、水溶性有機溶媒を添加する工程、
(工程3)工程2で水溶性有機溶媒を添加した試料を分離する工程、および
(工程4)工程3で分離した後の上清を採取する工程。
[12] [11]に記載の方法により標的タンパク質を含む上清を採取し、該上清を用いて標的タンパク質の分析を行う、標的タンパク質の分析方法。
[13] 標的タンパク質をUV検出器、蛍光検出器または質量分析計で分析する、[12]に記載の方法。
[14] 試料と混合可能な状態の塩及び/又は尿素、並びに水溶性有機溶媒を含む、除タンパク用前処理キット。
[15] 試料と混合可能な状態の塩及び/又は尿素、並びに除タンパク用フィルターまたは除タンパクカラムを含む、除タンパク用前処理キット。
[16] 前記除タンパク用フィルターを構成する担体が、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ガラス繊維(GF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ナイロン(NY)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、再生セルロース(RC)、酢酸セルロース(CA)、メタクリレートブタジエンスチレン(MBS)から選ばれる少なくとも一つ以上である、[15]に記載の、除タンパク用前処理キット。
[17] 水溶性有機溶媒を含む、[15]又は[16]に記載の除タンパク用前処理用キット。
[18] 前記塩及び/又は尿素が、濃度が0.02~8mol/Lとなるように含有されていることを特徴とする、[14]~[17]のいずれかに記載の除タンパク用前処理キット。
[19] 保存剤、安定化剤、緩衝液の中から選ばれる少なくとも一つの添加剤を含む、[
14]~[18]のいずれかに記載の除タンパク用前処理キット。
[20] [14]~[19]のいずれかに記載の除タンパク用前処理キットを用いて生体由来の試料を前処理し、前処理された試料中の標的タンパク質の存在及び/又は量を測定することを特徴とする、標的タンパク質の測定法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抽出方法を用いることにより、血清・血漿等の生体試料中に含まれる標的タンパク質を効率よく抽出することができ、高精度な標的タンパク質の分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、LC-MSシステムの一態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、本発明の実施形態について詳細に説明するが、利用方法の態様についてはこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明は、生体試料からの標的タンパク質の抽出方法であって、高濃度の塩及び/又は尿素と水溶性有機溶媒を用いることにより生体試料から非標的タンパク質を除去する方法に関するものである。本明細書において、前処理は抽出や回収の意味を含むものとし、抽出と回収はほぼ同義の語として用いられることがある。
本発明において生体試料とは、生体に由来し採取される成分を含むものであって、例えば、全血、血漿、血清、尿、便、唾液、喀痰、精液、または、膣、鼻、直腸、尿道もしくは咽頭の分泌物、排出物もしくはスワブ、涙管分泌液、ブラシ洗浄液などの気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar Lavage Fluid:BALF)、胸水、バイオプシー組織試料などが挙げられる。生体試料はそのまま本発明の方法に適用してもよいし、水、酸、アルカリ、有機溶媒またはこれらの混合液に溶解または懸濁し、必要に応じてさらに処理を加えたものを本発明の方法に適用してもよい。
【0021】
本発明において、タンパク質とは、膜由来や細胞質由来など特に成分が限定されるものではなく、アミノ酸が鎖状に多数結合してできた高分子化合物を対象とすることができる。生体由来のあらゆるタンパク質や糖鎖やリン酸基などが付加され修飾された自然界に存在するあらゆるタンパク質に加えて、自然界に存在しない配列や修飾・付加体も対象とすることができる。アミノ酸が鎖状に多数結合したものであればよく、例えば、ペプチド製剤等も対象とすることができる。その他、一部アミノ酸配列が置換、欠失、挿入、付加されたものであってもよい。
【0022】
分析対象となる標的タンパク質を構成するアミノ酸の個数に特に制限はないが、後述するように、水溶性有機溶媒に溶解しうるタンパク質を標的タンパク質とすることができる。具体的には、分子量が50,000以下のタンパク質であることが好ましく、分子量が25,000以下のタンパク質であることがより好ましく、分子量12,000以下のタンパク質であることが更に好ましく、分子量が8,000以下であることが最も好ましい。
【0023】
標的タンパク質は、特定の機能を有するタンパク質であってもよいし、その一部であってもよい。また、ペプチドであってもよく、ペプチドの場合(以下、標的ポリペプチドと記載することがある)、分子量、等電点、機能、構造等に限定されず、全てのポリペプチドを含み、標的ポリペプチドは、既知のポリペプチド又は未知のポリペプチドのいずれをも含む。ここで、ポリペプチドとは、タンパク質、ポリペプチド及びオリゴペプチドのいずれをも含む総称用語であり、その最小サイズは2アミノ酸である。標的ポリペプチドは、各種組織、細胞、細菌、ウイルスなど生体由来ポリペプチドに限らず、公知の合成方法により合成されたポリペプチド、公知の遺伝子工学的手法により取得されるポリペプチド、各種プロテアーゼにより酵素消化されることにより生じたあるタンパク質のポリペプチド断片及び標品として購入できるポリペプチドのいずれをも含む。
また、本発明において利用可能な類縁体は、共通する前駆体に由来するものであればよく、例えば、複数種類存在する部分ペプチドやホモログ、パラログ、オルソログ、アナログ等は全て含まれるものとする。なお、これらの用語の定義に関しては、現在、生物学、生化学、生理学、分子生物学、生物工学等の関連する分野において広く一般的に使用されている用語と同じ意味である。また、前駆体そのものも対象タンパク質とすることができる。
【0024】
また、標的ポリペプチドは、水、酸、アルカリ、有機溶媒またはこれらの混合液に完全に溶解または懸濁された生体由来試料に含まれるポリペプチドに加えて、公知の調製方法、例えば、遠心処理、変性処理、硫安などによる分画処理、透析処理、限外ろ過、イオンクロマトグラフィー等を用いた精製処理などの公知の調製方法により調製された試料中に含まれるポリペプチドであり得る。
【0025】
標的ポリペプチド含有試料に含まれる標的ポリペプチドは1種又は2種以上であってもよい。すなわち、本方法を用いて同時に多種のポリペプチドを検出又は定量することができる。この様なペプチドとしては、上述した分子量のペプチドであればよい。例えば、グルカゴン又はその類縁体、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)又はその類縁体、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)又はその類縁体、上記以外のインクレチン類又はその類縁体、ケラチン(サイトケラチン)の部分ペプチド(例えば、K1~K20)又はその類縁体、ダイノルフィン又はその類縁体、GRF又はその類縁体、インシュリン又はその類縁体、HIVウイルス由来ペプチド(例えば、T-20、T-1249、C-34)又はその類縁体、SRタンパク質ファミリー(例えば、SF2、ASF、SC35、SRp40、SRp55など)又はその類縁体、ペプチドYY(PYY)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)又はその類縁体、副腎皮質刺激ホルモン様中間ペプチド(CLIP)又はその類縁体、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)又はその類縁体、リポトロピン(LPH)又はその類縁体、アミロイドβ(Aβ)又はその類縁体、成長ホルモン(GH)又はその類縁体、成長ホルモン放出因子(GRF又はGHRF)又はその類縁体、インスリン様成長因子1(IGF-1)、インスリン様成長因子2(IGF-2)等の各種成長因子もしくは増殖因子又はその類縁体、VGF由来ペプチド(TLPQ-21、TLPQ-62、AQEE-30、LQEQ-19)又はその類縁体、イソロイシルーセリルーブラジキニン又はその類縁体、ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)又はその類縁体、ナトリウム利尿因子(ANF、BNF、CNF)又はその類縁体、ナトリウム利尿ペプチドの前駆体(例えば、pre-proANP、proANP、NT-proANP、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、pre-proCNP、proCNP、NT-proCNP)又はその類縁体、ミッドカイン(MK)又はその類縁体、ニューロメジン類(例えば、ニューロメジンC、ニューロメジンB、ニューロメジンU、ニューロメジンS、ニューロメジンK、ニューロメジンNなど)又はその類縁体、ガストリン又はその類縁体、ガストリン放出ペプチド又はその類縁体、エンドルフィン(EP)又はその類縁体、ネオエンドルフィン又はその類縁体、プロオピオメラノコルチン(POMC)又はその類縁体、エンケファリン(PENK)又はその類縁体、ダイノルフィン又はその類縁体、アドレノルフィン又はその類縁体、アミドルフィン又はその類縁体、オピオルフィン又はその類縁体、カソモルフィン又はその類縁体、グルテン・エキソルフィン又はその類縁体、グリアドルフィン又はその類縁体、ルビスコリン又はその類縁体、デルトルフィン又はその類縁体、デルモルフィン等のオピオイドペプチド類又はその類縁体、アドレノメデュリン(AM)又はその類縁体、ニューロペプチド1、ニューロペプチド2、ニューロペプチドAF、ニューロペプチドB、ニューロペプチドFF、ニューロペプチドG、ニューロペプチドK、ニューロペプチドS、ニューロペプチドSF、ニューロペプチドW、ニューロペプチドY、ニューロペプチドY C末隣接ペプチド、ニューロペプチドγ、ニューロペプチドNEIもしくはニューロペプチドNGE等のニューロペプチド類又はその類縁体、ノシセプチン(オルファニンFQ)又はその類縁体、オキシトシン(OT、OXT)又はその類縁体、ウロコルチン又はその類縁体、インターフェロン-γ又はその類縁体、ラット好中球走化性因子-1又はその類縁体(CINC-1/gro)、副甲状腺ホルモン又はその類縁体(PTH)、オバルブミン又はその類縁体(OVA)、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシンI~IV又はその類縁体、イリシン又はその類縁体、サブスタンスP又はその類縁体、ニューロキニンA又はその類縁体、ニューロキニンB又はその類縁体、コペプチン又はその類縁体、グレリン又はその類縁体、モチリン又はその類縁体、エリスロポエチン又はその類縁体、エンドセリン又はその類縁体、黄体形成ホルモン又はその類縁体、オレキシン又はその類縁体、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド又はその類縁体、カルシトニン又はその類縁体、カルシトニン遺伝子関連ペプチド又はその類縁体、カタカルシン又はその類縁体、血管作動性腸管ペプチド又はその類縁体、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)又はその類縁体、コレシストキニン又はその類縁体、植物ペプチドホルモン又はその類縁体、性腺刺激ホルモン又はその類縁体、セクレチン又はその類縁体、ソマトスタチン又はその類縁体、妊馬血清性性腺刺激ホルモン又はその類縁体、バソプレシン(VP)又はその類縁体、バゾトシン又はその類縁体、パラトルモン(PTH)又はその類縁体、ボンベシン又はその類縁体、卵胞刺激ホルモン又はその類縁体、リュープロレリン又はその類縁体、リラキシン又はその類縁体、リラグルチド又はその類縁体、レプチン又はその類縁体、ペプチドB又はその類縁体、ペプチドE又はその類縁体、ペプチドF又はその類縁体、BAMP22P又はその類縁体、モルフィン又はその類縁体、ニューロフィジン1又はその類縁体、ニューロフィジン2又はその類縁体、アントリン又はその類縁体、コルチスタチン又はその類縁体、RFアミド関連ペプチド又はその類縁体、膵臓ポリペプチドY又はその類縁体、膵臓ポリペプチドYY(PP)又はその類縁体、膵島アミロイドポリペプチド又はその類縁体、アミリン又はその類縁体、インテルメジン又はその類縁体、ラナテンシン又はその類縁体、グリセンチン又はその類縁体、オキシントモジュリン又はその類縁体、血管作用性小腸ペプチド(VIP)又はその類縁体、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACPA)又はその類縁体、ソマトリベリン又はその類縁体、ソマトレリン又はその類縁体、セルモレリン又はその類縁体、ウロテンシン又はその類縁体、キニノーゲン又はその類縁体、カリジン又はその類縁体、キニン又はその類縁体、ニューロテンシン又はその類縁体、クロモグラニン又はその類縁体、グラニン又はその類縁体、バソスタチン又はその類縁体、セクレトグラニン又はその類縁体、CCB又はその類縁体、GAWK又はその類縁体、EM66又はその類縁体、オベスタチン又はその類縁体、ガラニン又はその類縁体、ガラニンメッセージ関連ペプチド又はその類縁体、ガラニン様ペプチド又はその類縁体、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)又はその類縁体、ゴナドリベリン又はその類縁体、ニューレキソフィリン(NXPH)1~4又はその類縁体、パラトルモン様ホルモン(PTHLH)又はその類縁体、オステオスタチン又はその類縁体、メラニン凝集ホルモン(MCH)又はその類縁体、ヒポクレチン又はその類縁体、コカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)又はその類縁体、アグーチ関連ペプチド(AGRP)又はその類縁体、プロラクチン又はその類縁体、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)又はその類縁体、アペリン又はその類縁体、キスペプチン又はその類縁体、メタスチン又はその類縁体、ジアゼパム結合阻害タンパク質又はその類縁体、セレベリン(CBLN)又はその類縁体、オベシン又はその類縁体、アディポネクチン又はその類縁体、ビスファチン又はその類縁体、PBEF又はその類縁体、レジスチン又はその類縁体、脂肪組織特異的分泌因子又はその類縁体、低酸素誘導分裂促進因子(HIMF、FIZZ、RELM)又はその類縁体、結腸・腸管特異的システインリッチタンパク質又はその類縁体、結腸癌特異的遺伝子産物又はその類縁体、分泌型DNA・カルシウム結合タンパク質ヌクレオバインディン又はその類縁体、ネスファチン又はその類縁体など、また、上記ペプチドの前駆体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明で利用可能な抽出法は、高濃度の塩及び/又は尿素と有機溶媒とを使用することを特徴とするが、例えば、以下の工程に従って実施することができる。
(工程1)採取された生体試料に高濃度の塩及び/又は尿素を添加し攪拌する工程、
(工程2)工程1で高濃度の塩及び/又は尿素を添加した試料に、水溶性有機溶媒を添加する工程、
(工程3)工程2で水溶性有機溶媒を添加した試料を分離する工程、および
(工程4)工程3で分離した後の上清を採取する工程。
以下では、上記工程に沿って本発明で利用可能な抽出法の一例について説明をするが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
本発明において使用することができる塩は固体でも液体であってもよく、不揮発性塩溶液、揮発性塩溶液、不揮発性塩そのものまたは揮発性塩そのものであれば特に限定されず、比較的極性の高い塩溶液を使用することができる。例えば、検出器として質量分析計を用いる分析にあたっては、揮発性塩溶液または揮発性塩の使用が好ましい。当該塩溶液は、塩を液体に溶解させたものであれば特に限定はされないが、例えば精製水などに溶解させた溶液を使用することができる。当該塩溶液は、緩衝液を含むことができ、pH、溶媒の種類、塩の種類、及び塩濃度に関して、最適化されてもよい。
塩の種類は、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩が挙げられ、より具体的には、例えば、ギ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、尿素、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、これらの塩の溶液、例えば、これらの塩の飽和水溶液を使用することができる。また、塩を溶解するために使用する溶媒の種類は水に限定されず、また、単独の溶媒であっても複数の溶媒を組み合わせて使用してもよく、3種類以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。
また、本発明の一態様として、塩の代わりに尿素を使用してもよい。使用法や濃度などは塩の使用法に準じて抽出を実施することができる。また、塩と尿素とを組み合わせて使用してもよい。
【0028】
試料に対する様々な塩の添加は、疎水性相互作用を促進する。塩濃度が増大するにつれて、結合タンパク質の量は、当該タンパク質の沈殿点にまで増大される。塩の各型は、疎水性相互作用を促進する能力において異なる。疎水性相互作用に関する異なる塩の影響を、ホフマイスター系列に従って考慮した上で選択してもよい。例えば、塩析効果は疎水性相互作用とも関連するため、カオトロピック効果の増大はそれらを弱める方へ寄与すると推定される。夫々の種類、条件については、当業者であればタンパク質の溶解度等を参照しながら、適宜設定することができるが、高濃度で添加することが好ましい。例えば、添加する塩溶液または尿素溶液の濃度は、0.02~8mol/L、0.2~8mol/L、0.5~8mol/L、1~8mol/L、1.5~8mol/L、2~8mol/Lの間で設定することが好ましく、0.1~8mol/Lが好ましく、0.2~8mol/Lがより好ましく、0.5~8mol/Lが最も好ましい。例えば、添加する塩及び/又は尿素溶液の濃度は、標的タンパク質含有試料中濃度(最終濃度)として0.02~8mol/L、0.2~8mol/L、0.5~8mol/L、1~8mol/L、1.5~8mol/L、2~8mol/Lの間で設定することが好ましく、更に具体的には、0.02~8mol/Lが好ましく、0.04~8mol/Lがより好ましく、0.1~8mol/Lが最も好ましい。塩と尿素とを組み合わせて添加する場合、それぞれが上記範囲にある濃度のものを組み合わせて使用することができるが、組み合わせて濃度が上記範囲にあるものであってもよい。
例えば、対象とする試料に血漿を使用する場合、塩溶液または尿素溶液を試料に対して0.02~1倍(v/v)量添加して攪拌することができる。例えば、試験管(テストチューブ)に塩溶液または尿素溶液を試料量の0.02~1(v/v)倍量添加した後、窒素気流下溶媒を留去またはエバポレーターにて留去し、対象とする血漿を添加後、攪拌することができる。
【0029】
これらの塩及び/又は尿素を高濃度で添加した後に、有機溶媒を添加して除タンパクを行うことができる。除タンパクは公知の技術を使用してよい。例えば、有機溶媒を添加後に攪拌し、遠心分離、除タンパク用フィルターまたは除タンパク用カラムによる分離によって分子量の大きなタンパク質を除去することができる。添加する有機溶媒としては、室温にて水に完全に混和する有機溶媒を意味し、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノールまたはアセトニトリルである。また、これらの有機溶媒は単独で使用してもよいし、混合した状態で使用してもよい。その際の有機溶媒は混合された状態のものであればよく、混合比は当業者であれば適宜設定することができる。例えば、メタノールとアセトニトリルの混合溶媒を使用する場合は、混合比(v/v)は好ましくは1:99~99:1、より好ましくは1:5~5:1が例示されるが、これに限定されるものではない。
また、回収率を更に上げるために、有機溶媒添加後の沈殿に水及び塩を添加して攪拌後、再度同じ工程を複数回繰り返して実施してもよい。この場合、対象タンパク質の回収率に応じて実施回数を適宜設定して実施すればよい。
【0030】
添加する水溶性有機溶媒の量は試料に対して2倍量(v/v)以上であることが好ましく、10倍量(v/v)以下であることが好ましい。例えば、有機溶媒として、メタノールとアセトニトリルの混合溶液を試料の2倍量(v/v)以上添加して攪拌することができる。
この後、塩及び/又は尿素と有機溶媒とを添加した試料を分離する工程を実施することができる。試料の分離は、公知の方法を対象タンパク質等個々の条件に応じて適宜選択して使用することができるが、例えば、4℃で毎分3,000回転以上で5分間の遠心分離操作を行う。遠心分離後の試料は沈殿と上清の2層に分かれていることが確認される。上清を分取して、その後の標的タンパク質の測定に使用することができる。また、例えば、除タンパク用フィルターや除タンパク用カラムを使用して上清を分取し、その後の標的タンパク質の測定に使用することができる。
分取した上清は、必要に応じて窒素気流またはエバポレーターを用いた濃縮、固相抽出カラムを用いた濃縮を行った後、標的タンパク質の測定に使用することもできる。
【0031】
また、添加した塩がその後の分析に影響を与える場合には、必要に応じて脱塩の工程を実施してもよい。脱塩の手法は分析結果に影響を与えないものである限り特に限定されるものではない。例えば、透析、限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、脱塩カラムの使用、沈殿・再懸濁を実施する沈殿法などを使用することができるが、必要とする分析精度や労力やコスト等の負担を考慮して、当業者であれば適宜選択して使用することができる。
【0032】
標的タンパク質の分子量の大きさや分子の安定性等個々の分子の性質に応じて、各種プロテアーゼによりペプチド断片化する(以下、ペプチド断片と記載する場合がある)消化の工程を含み、得られたペプチド断片の混合物を分析に使用してもよい。プロテアーゼはタンパク質をペプチド断片に分解するものであればどのようなものでもよいが、トリプシン、リシルエンドペプチターゼ、ASP-N等、またはこれらを組み合わせて用いることができる。
【0033】
例えば、得られた試料は、液体クロマトグラフィー(LC)に用いることができる。液体クロマトグラフィー部分には、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)やHPLCよりも高圧送液が可能なUHPLC(Ultra High Performance Liquid Chromatography;UHPLC)などを使用することができる。
【0034】
本発明の一態様として利用可能な抽出方法は、界面活性剤等を使用せず、また、塩析等のように再溶解させる工程を実施せずに目的とする標的タンパク質を効率良く抽出することが可能であるため、その後に実施される分析において与える影響が少なく、高精度な分析を行うことができるため好ましい。特に、検出器として質量分析計を用いる場合に、界面活性剤成分によるイオン化抑制を生じないため、好ましい。
【0035】
本発明の一態様として利用可能な抽出法によって抽出された標的タンパク質は、質量分析計によって測定可能となるが、質量分析計や液体クロマトグラフ以外の方法、例えばELISA法やラテックス凝集法のような免疫反応を利用した分析方法によっても、十分な感度と特異性を期待できる程度に夾雑物を除去することができる抽出法を提供することができる。
【0036】
また、本発明によれば、より高速で簡便に除タンパクの工程を行うことができるため、臨床検査の現場において大量の検体を対象とした検査を実施することが期待される。また、生体試料中に含まれる標的タンパク質を効率よく抽出することが可能となるために、検出感度が格段に向上し、より正確な測定を実施することができる。これは例えば、高分子量タンパク質をはじめとした夾雑物を除去することができるためであると考えられる。
【0037】
本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、試料と混合可能な状態の塩及び/又は尿素を含む。上述した本発明で利用可能な抽出法同様、試料に混合する塩には塩溶液も含むものとし、揮発性であっても不揮発性であってもよい。当該塩及び/又は尿素は、前述の前処理方法で説明したものと同様である。例えば、マイクロチューブ等の容器に凍結乾燥させた塩及び/又は尿素を含むようにしてもよい。容器中の塩及び/又は尿素は、凍結乾燥させた状態の塩及び/又は尿素であってもよいし、適切な溶媒に溶解させた状態の塩溶液で提供することもできる。チューブの材質はタンパク質の吸着や有機溶媒による影響が無ければ特に限定はされないが、ポリプロピレン製チューブが好ましく用いられる。また、容器内に含まれる塩として揮発性塩を使用する場合は特に、該容器が密閉された状態が保たれていることが好ましい。密閉された状態が保たれていれば、密閉の方法は特に限定されない。
【0038】
本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、除タンパク用フィルターを含んでいてもよい。フィルターを構成する担体としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビリニデン(PVDF)、ガラス繊維(GF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ナイロン(NY)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、再生セルロース(RC)、酢酸セルロース(CA)、メタクリレートブタジエンスチレン(MBS)を含むことができる。また、これらの構成要素が複数組み合わさって構成されたハイブリッド型であってもよい。
【0039】
また、本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、除タンパク用カラムを含んでいてもよい。カラムを構成する担体としては、例えば、シリカ、セルロース、デキストラン、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体、オクタデシルシリル(ODS)などタンパク質の吸着能の高い樹脂、ガラス、セラミック、金属を含むことができる。フィルターによる除タンパクとカラムによる除タンパクとを組み合わせて使用することもできる。
【0040】
これらの担体を除去したいタンパク質の分子量に応じて細孔性担体とすることもできる。当業者であれば、担体として使用する物質は適宜選択して使用することができる。
【0041】
また、担体の形状についても、当業者であれば、カラム中の移動相の移動速度、滞留時間や移動中の標的タンパク質濃度、担体の残存結合容量などを考慮し、粒子充填型、モノリス型、ディスク状、膜状など適宜形状を選択して使用することができる。
【0042】
上記除タンパク用担体は、ポリプロピレン製チューブにカートリッジとして装着して使用し、塩及び/又は尿素と混合された試料溶液を通過させて除タンパクをすることもできる。或いは、ポリプロピレン等容器にハウジングされたフィルターをシリンジに装着し、塩及び/又は尿素と混合された試料溶液を通過させて除タンパクを実施してもよい。
【0043】
上記除タンパク用担体に試料溶液を通過させる手段としては、圧力を利用した限外濾過による方法が一般的であるが、遠心デバイスを使用するもの、シリンジタイプのデバイスを使用するものなど、当業者であれば、適宜選択して使用することができる。
【0044】
また、本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、水溶性有機溶媒を含むことができる。当該水溶性有機溶媒は、前述の前処理方法で用いられるものと同様である。前記塩及び/又は尿素と、試料とを混合した後に、更に当該水溶性有機溶媒と混合することで、夾雑物の除去を促進させることができ、好ましい。この場合、塩及び/又は尿素と、有機溶媒とは、夾雑物質の非特異的な検出を抑制する観点から、別々の容器であることが好ましい。
【0045】
本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、例えば、安定的に維持するための保存剤または安定化剤、複合体の形成のための試薬、分離試薬などが挙げられるが、特に限定されない。添加剤としては、例えば、緩衝液などが挙げられる。
【0046】
分析において標識物質を使用する場合、本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、標識物質に基づく信号の検出に必要な試薬をさらに含有していてもよい。標識物質の種類は、当業者であれば、分析方法に応じて適宜選択することができる。例えば、同位体、酵素基質、発色剤などが挙げられるが、特に限定されない。
【0047】
本発明の一態様として利用可能な前処理用キットは、添付文書をさらに含んでもよい。添付文書は、本発明の前処理用キットを用いて上述した標的タンパク質の分析を行なう操作手順などの記載を含んでもよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。また、本実施例において使用した固体試薬は全て塩であり、これらの塩を水等に溶解させて調製した溶液を、塩溶液として使用した。
【0049】
《実施例1:標準溶液の調製》
(1)材料
GLP-1 (1-37)はBACHEM社、GLP-1 (7-36)はProspec-Tany Technogen Ltd.、GLP-1 (7-36)AmideおよびGLP-1 (7-37)は株式会社ペプチド研究所より購入したものを使用した。また、HDEFERHAEGT(F)*TSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGRG、以下「13, 15N-GLP-1(1-37)」、HAEGT(F)*TSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGR、以下「13, 15N-GLP-1(7-36)」、HAEGT(F)*TSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGR[Ami]、以下「13, 15N-GLP-1(7-36)Amide」、HAEGT(F)*TSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGRG、以下「13, 15N-GLP-1(7-37)」(bio SYNTHESIS社製)をそれぞれGLP-1 (1-37)、GLP-1 (7-36)、GLP-1 (7-36)Amide、GLP-1 (7-37)の内標準物質とした。
【0050】
(2)試薬の調製
試薬の調製には、ギ酸(関東化学社製、精密分析用)、ギ酸アンモニウム(関東化学社製、特級)、アセトニトリル(和光純薬工業社製、LC/MS用)、メタノール(和光純薬工業社製、LC/MS用)、CHAPS(和光純薬工業社製)、TWEEN80(SIGMA社製)を使用した。
(i)2%ギ酸含有10 mmol/Lギ酸アンモニウムの調製
ギ酸アンモニウム0.63 gにMilli-Q水を900 mL加え溶解し、これにギ酸を20 mL加えた後、更にMilli-Q水を加えて1000 mLとした。
(ii)2%ギ酸含有アセトニトリル/100 mmol/Lギ酸アンモニウム(9:1, v/v)の調製
ギ酸アンモニウム0.63 gにMilli-Q水を90 mL加え溶解した後、更にMilli-Q水を加えて100 mLとした。次に、100 mmol/L ギ酸アンモニウム100 mLにアセトニトリルを900 mL加えた。最後に、アセトニトリル/100 mmol/Lギ酸アンモニウム(9:1, v/v)900 mLにギ酸を20 mL加えた後、更にアセトニトリル/100 mmol/Lギ酸アンモニウム(9:1, v/v)を加えて1000 mLとした。
(iii)1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液の調製
アセトニトリル50 mLにMilli-Q水を50 mL加え、50%アセトニトリル水溶液を調製した。次に、50%アセトニトリル水溶液90 mLにギ酸を1 mL加えた後、更に50%アセトニトリル水溶液を加えて100 mLとした。
(iv)1%ギ酸水溶液の調製
Milli-Q水90 mLにギ酸を1 mL加えた後、更にMilli-Q水を加えて100 mLとした。
(v)メタノール/アセトニトリル (4:1, v/v)の調製
メタノール80 mLにアセトニトリルを20 mL加えた。
(vi)メタノール/アセトニトリル (3:2, v/v)の調製
メタノール60 mLにアセトニトリルを40 mL加えた。
(vii)メタノール/アセトニトリル (2:3, v/v)の調製
メタノール40 mLにアセトニトリルを60 mL加えた。
(viii)メタノール/アセトニトリル (1:4, v/v)の調製
メタノール20 mLにアセトニトリルを80 mL加えた。
(ix)8 mol/L ギ酸アンモニウムの調製
ギ酸アンモニウム 0.50gにMilli-Q水を加えて1 mLとした。
(x)5 mol/L ギ酸アンモニウムの調製
8 mol/L ギ酸アンモニウム625μLにMilli-Q水を375μL加えた。
(xi)2 mol/L ギ酸アンモニウムの調製
5 mol/L ギ酸アンモニウム400μLにMilli-Q水を600μL加えた。
(xii)0.5 mol/L ギ酸アンモニウムの調製
5 mol/L ギ酸アンモニウム100μLにMilli-Q水を900μL加えた。
(xiii)1% CHAPSの調製
CHAPS 0.01gに水を加えて1 mLとした。
(xiv)1% TWEEN80の調製
TWEEN80 0.01gに水を加えて1 mLとした。
【0051】
(3)標準溶液の調製
GLP-1 (1-37)、GLP-1 (7-36)、GLP-1 (7-36)Amide、GLP-1 (7-37)および内標準物質は1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液に溶解した。
GLP-1 (1-37) 1 mgに1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を2.398 mL加えて完全に溶解し、0.1 mmol/L濃度に調製し、これをGLP-1 (1-37)標準溶液とした。GLP-1 (7-36) 0.05 mgに1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を1.516 mL加えて完全に溶解し、0.01 mmol/L濃度に調製し、これをGLP-1 (7-36)標準溶液とした。GLP-1 (7-36)Amide 0.54 mgに1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を1.638 mL加えて完全に溶解し、0.1 mmol/L濃度に調製し、これをGLP-1 (7-36)Amide標準溶液とした。GLP-1 (7-37) 0.53mgに1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を1.579 mL加えて完全に溶解し、0.1 mmol/L濃度に調製し、これをGLP-1 (7-37)標準溶液とした。
GLP-1 (1-37)、GLP-1 (7-36)AmideおよびGLP-1 (7-37)標準溶液は、1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液で100倍に希釈し、GLP-1 (7-36) 標準溶液は、1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液で10倍に希釈し、イオン化の最適条件の設定および測定するイオンの選択に使用する質量分析計チューニング溶液とした。
GLP-1 (1-37) 標準溶液を10 μL、GLP-1 (7-36) 標準溶液を100 μL、GLP-1 (7-36)Amide標準溶液を10 μL、GLP-1 (7-37) 標準溶液を10 μLおよび1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を870 μL合わせ、1 μmol/Lの回収率確認用混合標準溶液を調製した。
【0052】
《実施例2:質量分析条件の決定》
図1のコネクターを二方から三方に切り替え、シリンジポンプを用いて質量分析計チューニング溶液をイオン源に導入した。その際、HPLCポンプ(LC-20A、島津製作所製)を用いて混合した移動相をチューニング溶液と共にイオン源に導入した。
定量に使用するプリカーサーイオン(親イオン)を確認しながら、このイオン強度が最高となるように質量分析計(QTRAP5500、AB SCIEX)のイオン源(ESI、Turbo V Spray、AB SCIEX)の噴霧位置を調整した。
噴霧位置の調整完了後、デクラスタリングポテンシャル(オリフィス電圧;DP)、イオンを引き込む電圧(EP)、印加する高電圧(イオンスプレー電圧;IS)、GS1およびGS2のガス圧(GS1、GS2)および温度(TEM)を調整した。
次に、プリカーサーイオン(親イオン)からプロダクトイオン(娘イオン)を検索し、そのイオン強度が最大となるように、衝突するガス量(CAD)、衝突開裂に関与するエネルギー電圧(CE)およびコリジョンセル出口の電圧(CXP)を調整した。
上記方法により決定した質量分析条件を表1および2に示す。共通のイオン化条件を表1に示す。各成分の質量分析条件(MS/MS条件)を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
《実施例3:HPLC条件の設定》
実施例1において作成した回収率確認用混合標準溶液を用いて、GLP-1 (1-37)、GLP-1 (7-36)、GLP-1 (7-36)AmideおよびGLP-1(7-37)を分離できるHPLC条件を検討した。
HPLC装置としては、Nexera MPシステム(島津製作所社製)を使用し、HPLCカラムとしては、Cadenza CD-C18カラム(粒子径3 μm, 内径2.0 mm × 長さ150 mm;Imtakt社製)を使用した。
分離溶液の水系移動相として2%ギ酸含有10 mmol/Lギ酸アンモニウム、有機溶媒系移動相として2%ギ酸含有アセトニトリル/100 mmol/Lギ酸アンモニウム(9:1, v/v)を用いたリニアグラジエント条件を設定した。流速は0.6 mL/minとした。グラジエント条件の一例を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
《実施例4:抽出方法の評価》
生体試料よりGLP-1 (1-37)、GLP-1 (7-36)、GLP-1 (7-36)Amide、GLP-1 (7-37)を抽出する前処理法とし有機溶媒添加による除タンパク法を用いた。除タンパクを行う前に生体試料に水、ギ酸アンモニウムまたは界面活性剤(比較例)を添加し、有機溶媒として、メタノール、またはメタノールとアセトニトリルの混合液を添加し、各成分の回収率を確認した。
生体試料としてHuman 2Na-EDTA plasma, pool of donors (BIOPREDIC社) 2 mLをニプロネオチューブ(2mL, DPP阻害剤+EDTA-2Na, ニプロ社製)に移し、転倒混和を行った後の試料を用いた。
回収率確認サンプルは、上記血漿50 μLに回収率確認用混合標準溶液(各1 μmol/L)を5 μL添加し1分間攪拌後、後述する添加剤1を10 μL添加した。これを1分間攪拌後、後述する有機溶媒1を150 μL添加し1分間攪拌後、毎分4000回転で5分間、4℃に設定して遠心分離(CF16RXII、日立工機)を行った。この上清10 μLを分取し、内標準物質(各0.5 μmol/L)10 μL, 1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液 40 μLおよび1%ギ酸水溶液40 μLを加え混和し回収率確認サンプルとした。
添加剤1としては、水、0.5 mol/Lギ酸アンモニウム、2 mol/Lギ酸アンモニウム、5 mol/Lギ酸アンモニウム、8 mol/Lギ酸アンモニウム、1% CHAPSまたは1% TWEEN80を使用した。また、有機溶媒1としては、メタノール、メタノール/アセトニトリル (4:1, v/v)、メタノール/アセトニトリル (3:2, v/v)、メタノール/アセトニトリル (2:3, v/v)またはメタノール/アセトニトリル (1:4, v/v)を使用した。
【0058】
回収率確認用基準サンプルは、上記血漿50 μLに1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を5 μL添加し1分間攪拌後、添加剤1を10 μL添加した。これを1分間攪拌後、有機溶媒1を150 μL添加し1分間攪拌後、毎分4000回転で5分間、4℃に設定して遠心分離(CF16RXII、日立工機)を行った。この上清10 μLを分取し、内標準物質(各0.5 μmol/L)10 μL, 後述のSTD溶液1を10 μL, 1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液 30 μLおよび1%ギ酸水溶液40 μLを加え混和し回収率確認用基準サンプルとした。
STD溶液1としては、1%ギ酸水溶液50 μLに回収率確認用混合標準溶液(各1 μmol/L)5 μL、水10 μLおよび有機溶媒1を150 μL加え混和したものを使用した。
回収率確認サンプルならびに回収率確認用基準サンプルを実施例2ならびに3の条件にて測定し、各成分のピーク面積比(標準物質のピーク面積値/内標準物質のピーク面積値)を質量分析計付属のソフト、Analyst 1.6.2(AB SCIEX)を用いて算出した。回収率 (%)は以下の式により求めた。
回収率(%)=回収率確認サンプルのピーク面積比/回収率確認用基準サンプルのピーク面積比×100
【0059】
抽出方法の評価結果を表4~7に示した。各添加有機溶媒において、添加剤として水、1%CHAPS、TWEEN80を用いた時よりも高回収率であったものについて、背景を灰色で表示した。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
本検討結果から、ギ酸アンモニウムを生体試料に添加後に有機溶剤添加による除タンパクを行ったとき、既存の方法と同等またはそれ以上の回収率(%)となる事が明らかとなった。
【0065】
《実施例5:標準溶液の調製》
(1)材料
Fibronectin type III domain-containing protein 5(FNDC5)の47番目から72番目の配列を有したもの(アミノ酸配列:ANSAVVSWDVLEDEVVIGFAISQQKK)「FNDC5(47-72)」は株式会社スクラムより購入したものを使用した。また、ANSAVVSWDVLEDEVVIGFAISQQK (K)*、以下「13, 15- FNDC5(47-72)」(株式会社スクラム社製)をFNDC5(47-72)の内標準物質とした。
【0066】
(2)試薬の調製
実施例1で調製した試薬以外に、以下の試薬を調製した。試薬の調製には、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、食塩(関東化学社製、特級)を使用した。
(i)0.1%ギ酸水溶液の調製
ギ酸1 mLにMilli-Q水を加えて1000 mLとした。
(ii)0.1%ギ酸含有アセトニトリルの調製
ギ酸1 mLにアセトニトリルを加えて1000 mLとした。
(iii)メタノール/アセトニトリル (1:1, v/v)の調製
メタノール50 mLにアセトニトリルを50 mL加えた。
(iv)8 mol/L ギ酸アンモニウムの調製
ギ酸アンモニウム 0.62gにMilli-Q水を加えて1 mLとした。
(v)飽和炭酸水素アンモニウムの調製
Milli-Q水10 mLに炭酸水素アンモニウムを加え飽和させた。
(vi)飽和リン酸二水素カリウムの調製
Milli-Q水10 mLにリン酸二水素カリウムを加え飽和させた。
(vii)飽和食塩水の調製
Milli-Q水10 mLに食塩を加え飽和させた。
(viii)飽和炭酸ナトリウムの調製
Milli-Q水10 mLに炭酸ナトリウムを加え飽和させた。
【0067】
(3)標準溶液の調製
FNDC5 (47-72)および内標準物質はDMSO(和光純薬社製、特級)に溶解した。
FNDC5 (47-72) 1 mgにDMSOを1 mL加えて完全に溶解し、1 mg/mL濃度に調製し、これをFNDC5 (47-72)標準溶液とした。
FNDC5 (47-72)標準溶液は、1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液で500倍に希釈し、イオン化の最適条件の設定および測定するイオンの選択に使用する質量分析計チューニング溶液とした。
FNDC5 (47-72) 標準溶液を10 μLおよび1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を990 μL合わせ、10 μg/mLの回収率確認用標準溶液を調製した。
【0068】
《実施例6:質量分析条件の決定》
実施例2と同様の方法で質量分析条件を設定した。決定した質量分析条件を表8および9に示す。共通のイオン化条件を表8に示す。各成分の質量分析条件(MS/MS条件)を表9に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
【表9】
【0071】
《実施例7:HPLC条件の設定》
実施例5において作成した回収率確認用標準溶液を用いて、FNDC5 (47-72)を分析できるHPLC条件を検討した。
HPLC装置としては、Nexera MPシステム(島津製作所社製)を使用し、HPLCカラムとしては、XBridge peptide BEH C18カラム(300Å, 粒子径3.5 μm, 内径2.1 mm × 長さ50 mm;Waters社製)を使用した。
分離溶液の水系移動相として0.1%ギ酸水溶液、有機溶媒系移動相として0.1%ギ酸含有アセトニトリルを用いたリニアグラジエント条件を設定した。流速は0.5 mL/minとした。グラジエント条件の一例を表10に示す。
【0072】
【表10】
【0073】
《実施例8:抽出方法の評価》
生体試料よりFNDC5 (47-72)を抽出する前処理法は有機溶媒としてメタノール/アセトニトリル (1:1, v/v)添加による除タンパク法を用いた。除タンパクを行う前に生体試料に水、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、界面活性剤(比較例)、リン酸二水素カリウムまたは食塩を添加し、FNDC5 (47-72)の回収率を確認した。
実施例3同様に、生体試料としてHuman 2Na-EDTA plasma, pool of donors (BIOPREDIC社) を用いた。
回収率確認サンプルは、上記血漿25 μLに回収率確認用標準溶液(各10 μg/mL)を2.5 μL添加し1分間攪拌後、後述の添加剤2を5 μL添加した。これを1分間攪拌後、メタノール/アセトニトリル (1:1, v/v)を75 μL添加し1分間攪拌後、毎分4000回転で5分間、4℃に設定して遠心分離(CF16RXII、日立工機)を行った。この上清25 μLを分取し、内標準物質(10 μg/mL)2.5 μL, 1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液 25 μLを加え混和し回収率確認サンプルとした。
添加剤2としては、水、8 mol/Lギ酸アンモニウム、8 mol/L酢酸アンモニウム、飽和炭酸水素アンモニウム、飽和炭酸ナトリウム、1% CHAPS、1% TWEEN80、飽和リン酸二水素カリウムまたは飽和食塩水を使用した。
回収率確認用基準サンプルは、上記血漿25 μLに1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液を2.5 μL添加し1分間攪拌後、添加剤2を5μL添加した。これを1分間攪拌後、メタノール/アセトニトリル (1:1, v/v)を75 μL添加し1分間攪拌後、毎分4000回転で5分間、4℃に設定して遠心分離(CF16RXII、日立工機)を行った。この上清25 μLを分取し、内標準物質(10 μg/mL)2.5 μL, STD溶液2を25 μL加えて混和し回収率確認用基準サンプルとした。
また、STD溶液2としては、1%ギ酸含有50%アセトニトリル水溶液1025 μLに回収率確認用標準溶液(10 μg/mL)50 μLを加え混和したものを使用した。
回収率確認サンプルならびに回収率確認用基準サンプルを実施例6ならびに7の条件にて測定し、FNDC5 (47-72)のピーク面積比(標準物質のピーク面積値/内標準物質のピーク面積値)を質量分析計付属のソフト、Analyst 1.6.2(AB SCIEX)を用いて算出した。回収率 (%)は以下の式により求めた。
回収率(%)=回収率確認サンプルのピーク面積比/回収率確認用基準サンプルのピーク面積比×100
抽出方法の評価結果を表11に示した。添加剤として、水、1%CHAPS、TWEEN80を用いた時よりも高回収率であったものについて、背景を灰色で表示した。
【0074】
【表11】
【0075】
以上の結果より、試料に高濃度の塩を添加後に有機溶媒を加えて混和することで試料中に含まれるタンパク質を除去し、標的タンパク質の回収率を飛躍的に向上させることが示された。本発明を用いることで、微量の標的タンパク質を正確かつ、高速で大量の検体を取り扱うことが可能になった。これは、夾雑高分子量タンパク質が標的タンパク質を巻き込まず、効率良く除去できたためであると推測される。高分子量タンパク質と標的タンパク質とが共沈する現象が起こる場合において、特に有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の抽出方法は、界面活性剤を使用せずに目的とする標的タンパク質を効率良く抽出することが可能であるため、その後に実施される分析において与える影響が少なく、高精度な分析を行うことができるため好ましい。特に、検出器として質量分析計を用いる場合に、界面活性剤成分によるイオン化抑制が生じないため、好ましい。
また、本発明によれば、より高速で簡便に除タンパクの工程を行うことができるため、臨床検査の現場において大量の検体を対象とした検査を実施することが期待される。また、生体試料中に含まれるタンパク質をはじめとした夾雑物を除去することができるため、検出感度が格段に向上し、より正確な分析を実施することができる。
図1
【配列表】
0007376007000001.app