(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】霧化用エアゾール作製用乳化組成物、シャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/30 20060101AFI20231031BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20231031BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20231031BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C09K3/30 E
A61K8/06
A61K8/86
A61K8/02
(21)【出願番号】P 2019084670
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2018084549
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185363
【氏名又は名称】小池化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小見 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 健太
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘明
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079107(JP,A)
【文献】特開2016-033121(JP,A)
【文献】特開平11-222589(JP,A)
【文献】特開2017-185474(JP,A)
【文献】特許第5817083(JP,B1)
【文献】特開2018-035082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/30
B01J
A01K8/, 9/
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分の水溶液を含む水相と、
液化ガス、液化ガスと圧縮ガスとの混合ガス、および液化ガスとジメチルエーテルとの混合ガスからなる群より選択される1以上の油系噴射剤
のみからなる油相と、
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含み、
前記閉鎖小胞体又は前記水溶性高分子の粒子が、前記油相及び前記水相の界面に粒子として介在する、霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項2】
前記乳化組成物は、以下の条件で測定されたメディアン径が300μm以下の噴霧粒子として霧化される、請求項1に記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
(測定条件)
測定装置:レーザー光回折式粒度測定装置
測定距離(測定箇所から噴霧位置までの距離):15cm
測定温度:25℃
【請求項3】
前記乳化組成物に対して、5質量%以上の油系噴射剤を含む、請求項1又は2に記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項4】
前記乳化組成物に対して、5質量%以上95質量%以下の水を含む、請求項1から3のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項5】
前記乳化組成物に対して、70質量%以下のエタノールを含む、請求項1から4のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項6】
前記乳化組成物に対して、10質量%以下の界面活性剤を含む、請求項1から5のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項7】
前記乳化組成物に対して、35質量%以下のジメチルエーテルを含む、請求項1から6のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項8】
有効成分の水溶液を含む水相と、
液化ガス、液化ガスと圧縮ガスとの混合ガス、および液化ガスとジメチルエーテルとの混合ガスからなる群より選択される1以上の油系噴射剤
のみからなる油相と、
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含み、
前記閉鎖小胞体又は前記水溶性高分子の粒子が、前記油相及び前記水相の界面に粒子として介在する、シャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項9】
前記乳化組成物に対して、30質量%以上の油系噴射剤を含む、請求項8に記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項10】
前記乳化組成物に対して、5質量%以上70質量%以下の水を含む、請求項8又は9に記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項11】
前記乳化組成物に対して、10質量%以下のエタノールを含む、請求項8から10のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項12】
前記乳化組成物に対して、10質量%以下の界面活性剤を含む、請求項8から11のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項13】
前記乳化組成物に対して、10質量%以下のジメチルエーテルを含む、請求項8から12のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【請求項14】
前記乳化組成物に対して、10質量%以下の無機粉末を含む、請求項8から13のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、霧化用エアゾール作製用乳化組成物、シャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エアゾール剤は、噴射剤とともに容器に封入された有効成分を、噴射剤の作用によって、様々な形態で噴射する剤であり、例えば、噴霧粒子として霧化する剤、シャーベット状に氷結させる剤、泡状に吐出する剤等が挙げられる。エアゾール剤は、人体用品(化粧品、医薬品等)、家庭用品(芳香剤、消臭剤等)、殺虫剤等の様々な用途で使用されている。
【0003】
エアゾール剤における噴射剤としては、有効成分が水溶液の形態(有効成分の水溶液)である場合、一般的には、圧縮ガス(空気、窒素、二酸化炭素、亜酸化窒素等)、ジメチルエーテル、液化石油ガス(ブタン、プロパン)、フロロカーボンとジメチルエーテルの混合物が用いられる。これらのうち、液化石油ガス(ブタン、プロパン)やフロロカーボンは、通常、界面活性剤、アルコール(エタノール等)等を水溶液に配合して用いられる(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【0004】
また、特許文献3には、油相、水相、及び、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子を含む、エアゾール作成用乳化組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-167301号公報
【文献】特開2002-114633号公報
【文献】特開2016-79107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エアゾール剤において、有効成分の水溶液を、噴霧粒子として適切に霧化したり、シャーベット状に適切に氷結させたりすることは難しい場合がある。
【0007】
例えば、噴射剤が圧縮ガスである場合、噴霧粒子が粗くなる傾向があり、噴射対象物(エアゾール剤を噴射しようとする対象)への有効成分の付着量が過度になってしまう傾向がある。また、粘度が比較的高い水溶液である場合、圧縮ガスでは霧状に噴霧できないため、内容物処方設計に制限がある。
【0008】
噴射剤がジメチルエーテルである場合、ジメチルエーテルには極性があるため、水への溶解度が高く、噴霧粒子が細かくなりやすい。しかし、ジメチルエーテルを用いると、エアゾール剤の容器の内壁やバルブのガスケットへの悪影響、内圧による過度な噴射の勢い、特有の匂い、内容物が乳化物の場合は乳化破壊の可能性が高まる等の問題が生じ得る。
【0009】
エアゾール剤に界面活性剤が含まれる場合、これを噴射すると、噴射対象物にベタつきを生じさせたり、刺激感を生じさせたりする等の問題が生じ得る。
【0010】
エアゾール剤にアルコールが含まれる場合、これを噴射すると、刺激感を生じさせたりする等の問題が生じ得る。
【0011】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、有効成分の水溶液を霧化又はシャーベット化できる新規なエアゾール剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、有効成分の水溶液を含む水相と、油系噴射剤からなる油相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を配合した乳化組成物によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 有効成分の水溶液を含む水相と、
油系噴射剤からなる油相と、
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含み、
前記閉鎖小胞体又は前記水溶性高分子の粒子が、前記油相及び前記水相の界面に粒子として介在する、霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0014】
(2) 前記乳化組成物は、以下の条件で測定されたメディアン径が300μm以下の噴霧粒子として霧化される、(1)に記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
(測定条件)
測定装置:レーザー光回折式粒度測定装置
測定距離(測定箇所から噴霧位置までの距離):15cm
測定温度:25℃
【0015】
(3) 前記乳化組成物に対して、5質量%以上の油系噴射剤を含む、(1)又は(2)に記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0016】
(4) 前記乳化組成物に対して、5質量%以上95質量%以下の水を含む、(1)から(3)のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0017】
(5) 前記乳化組成物に対して、70質量%以下のエタノールを含む、(1)から(4)のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0018】
(6) 前記乳化組成物に対して、10質量%以下の界面活性剤を含む、(1)から(5)のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0019】
(7) 前記乳化組成物に対して、35質量%以下のジメチルエーテルを含む、(1)から(6)のいずれかに記載の霧化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0020】
(8) 有効成分の水溶液を含む水相と、
油系噴射剤からなる油相と、
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含み、
前記閉鎖小胞体又は前記水溶性高分子の粒子が、前記油相及び前記水相の界面に粒子として介在する、シャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0021】
(9) 前記乳化組成物に対して、30質量%以上の油系噴射剤を含む、(8)に記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0022】
(10) 前記乳化組成物に対して、5質量%以上70質量%以下の水を含む、(8)又は(9)に記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0023】
(11) 前記乳化組成物に対して、10質量%以下のエタノールを含む、(8)から(10)のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0024】
(12) 前記乳化組成物に対して、10質量%以下の界面活性剤を含む、(8)から(11)のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0025】
(13) 前記乳化組成物に対して、10質量%以下のジメチルエーテルを含む、(8)から(12)のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【0026】
(14) 前記乳化組成物に対して、10質量%以下の無機粉末を含む、(8)から(13)のいずれかに記載のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、有効成分の水溶液を霧化又はシャーベット化できる新規なエアゾール剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0029】
従来のエアゾール組成物においては、有効成分の水溶液を噴霧粒子として霧化したり、シャーベット状に氷結させたりするために、ジメチルエーテルや界面活性剤等が配合されていたが、上述のとおり、諸問題が生じる可能性があった。
【0030】
そこで、本発明者らは、圧縮ガス等のような問題が生じにくい油系噴射剤(液化石油ガス(LPG)等)を使用しつつ、良好に霧化やシャーベット化を実現できるエアゾール組成物について鋭意検討した。ここで、油系噴射剤は、水に溶解せず、水への分散性が低いため、有効成分の水溶液を霧化又はシャーベット化することが難しいという問題があった。水への油系噴射剤の分散性を高めるには、さらにエタノールを配合する方法があるが、この場合は、水と油系噴射剤とエタノールとの相溶域が狭いため、処方設計の幅が著しく狭まるという問題がある。エタノールの代わりに界面活性剤を配合する方法もあるが、エアゾール組成物の用途によっては、有効成分の水溶液の形態を問わず、界面活性剤を配合すること自体が好ましくない場合がある。
【0031】
しかし、意外にも、水及び油系噴射剤とともに、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子を配合すると、水中に油系噴射剤が均一に分散した乳化物が形成され、その結果、これらを含む組成物を良好に霧化又はシャーベット化できることが見出された。すなわち、本発明の組成物は乳化物の形態である。
【0032】
本発明の組成物が良好に霧化又はシャーベット化される作用は以下のように推察される。すなわち、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体(以下、このような閉鎖小胞体を「ベシクル」ともいう。)又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子は、表面が親水性の粒子であり、ファンデルワールス力によって水相と油相との界面に介在することで、乳化状態を維持することができる。この乳化機構は、三相乳化機構として公知であり、界面活性剤による乳化機構、すなわち親水性部分及び疎水性部分をそれぞれ水相及び油相に向け、油水界面張力を下げることで乳化状態を維持する乳化機構とは全く異なる(例えば特許3855203号公報参照)。このような三相乳化エマルションにおいては、内相の外周を複数のベシクル又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子が取り囲んでエマルション粒子が形成される。
【0033】
上記のような三相乳化機構により、有効成分の水溶液を含む水相中に、油系噴射剤からなる油相が安定的に分散した状態となり、エアゾール組成物を霧化又はシャーベット化することができる。したがって、本発明によれば、エタノールや界面活性剤を配合しなくとも油系噴射剤の水への分散性を高めることができる。
【0034】
<霧化用エアゾール作製用乳化組成物>
本発明の霧化用エアゾール作製用乳化組成物(以下、「本発明の霧化用組成物」ともいう。)は、有効成分の水溶液を含む水相と、油系噴射剤からなる油相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含み、閉鎖小胞体又は水溶性高分子の粒子が、油相及び水相の界面に粒子として介在するものである。なお、本発明の霧化用組成物の形態は、通常、容器に収容された状態のものである。
【0035】
本発明において「霧化」とは、有効成分の水溶液が噴霧粒子として噴霧されることを意味する。噴霧粒子の粒子径は、好ましくは、下記<霧化用組成物の特性>の項に示される値である。
【0036】
以下、本発明の霧化用組成物の組成や特性等について詳述する。
【0037】
(閉鎖小胞体)
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体(ベシクル)を形成する両親媒性物質としては、特に限定されないが、下記の一般式1で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体が挙げられる。
【0038】
【0039】
式中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3~200である。
【0040】
両親媒性物質としては、リン脂質やリン脂質誘導体等、特に疎水基と親水基とがエステル結合したものを採用してもよい。
【0041】
リン脂質としては、下記の一般式2で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)に例示される、グリセリンやスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸が結合し、構造中にリン酸部位とコリン部位を持つ脂質を採用可能である。
【0042】
【0043】
また、下記の一般式3で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH4塩を採用してもよい。
【0044】
【0045】
さらに、リン脂質として卵黄レシチン又は大豆レシチン等のレシチンを採用してもよい。
【0046】
両親媒性物質としては、脂肪酸エステルを用いてもよい。脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0047】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンと炭素-炭素結合が飽和不飽和結合を問わず、直鎖脂肪酸又は分岐脂肪酸のエステルであり、具体的には、モノミリスチン酸ポリグリセリル、ジミリスチン酸ポリグリセリル、トリミリスチン酸ポリグリセリル、モノパルミチン酸ポリグリセリル、ジパルミチン酸ポリグリセリル、トリパルミチン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、ジモノオレイン酸ポリグリセリル、トリモノオレイン酸ポリグリセリル等が挙げられる。
【0048】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。
【0049】
(水溶性高分子)
本発明における水溶性高分子としては、化合物全体として水と親和性があり、かつ、疎水基を有する任意の高分子を使用できる。水溶性高分子は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明における水溶性高分子の上記要件を満たしていれば、水溶性高分子として両親媒性高分子を用いてもよい。
【0050】
水溶性高分子としては、天然水溶性高分子であってもよく、合成水溶性高分子であってもよい。
【0051】
天然水溶性高分子としては、セルロース系水溶性高分子(微結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース等)が挙げられる。セルロース系水溶性高分子は疎水化されたものであってもよい。
【0052】
セルロース系水溶性高分子のうち、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0053】
合成水溶性高分子としては、主鎖に親水性基を含むものが挙げられる。主鎖としては、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、エーテル、無水マレイン酸、ポリピペリジン、ポリアルキレンポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアミド、ポリカチオン、ホルマリン系樹脂、ジシアンジアミドポリアミン、ポリウレタン等が挙げられる。
【0054】
合成水溶性高分子としては、疎水変性ポリエーテルウレタン、疎水変性アルキルセルロース等が挙げられる。疎水変性アルキルセルロースとしては、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを炭素数6~26のアルキル基を有する変性剤で処理したセルロース誘導体が好ましく、炭素数6~26のアルキル基によって変性されたヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。疎水変性ポリエーテルウレタン、疎水変性アルキルセルロースとしては、特開2016-222611号公報に挙げられたものを好ましく使用できる。
【0055】
好ましい合成水溶性高分子としては、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー、ポリウレタン-59、塩化O-〔2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル〕ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0056】
両親媒性高分子としては、任意に変性された天然起源のポリマー、ラジカルポリマー、重縮合物等を使用できる。例えば、少なくとも1つの脂肪鎖を含む基で変性されたホロシド、マレイン酸無水物又はその誘導体と少なくとも1つの脂肪鎖を含むモノマーとのコポリマー、少なくとも1つの脂肪鎖を含む基を有するポリウレタンとその誘導体等を使用できる。
【0057】
両親媒性高分子としては、特開2000-53527号公報に挙げられたものを好ましく使用できる。
【0058】
水溶性高分子における疎水基としては、任意の疎水基であってもよく、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、環式不飽和炭化水素、疎水性アミノ基等が挙げられる。疎水基が炭化水素基である場合、炭素数の下限は好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、上限は好ましくは26以下、より好ましくは20以下である。炭化水素基の炭素数が上記範囲内であると、高分子が水溶性になり、かつ、会合した疎水基に油系噴射剤が取り込まれやすくなる結果、本発明の効果を奏しやすい。
【0059】
水溶性高分子における疎水基は、任意の部位に位置していてもよく、水溶性高分子の主鎖、側鎖のいずれに位置していてもよい。例えば、高分子のシロキサン骨格の側鎖に、上記疎水基が含まれていてもよい。
【0060】
(閉鎖小胞体又は水溶性高分子の含量)
本発明の霧化用組成物中の閉鎖小胞体又は水溶性高分子の含量は特に限定されず、噴霧しようとする有効成分の水溶液の量、油系噴射剤の量、得ようとする組成物の粘度等に応じて適宜設定される。例えば、良好な霧化を実現できる組成物が得られやすいという観点から、本発明の霧化用組成物中の閉鎖小胞体又は水溶性高分子の含量の下限は、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは0.0050質量%以上、より好ましくは0.0075質量%以上、さらに好ましくは0.0100質量%以上である。上限は、閉鎖小胞体又は水溶性高分子が水にほぼ均一に分散する濃度である。本発明の霧化用組成物中に閉鎖小胞体及び水溶性高分子が含まれる場合、その総量が上記範囲内にあればよい。
【0061】
(有効成分の水溶液)
本発明における「有効成分の水溶液」は、噴霧対象物に対して噴霧しようとする目的の成分(有効成分)の水溶液である。有効成分の水溶液は、乳化物である本発明の霧化用組成物の水相を構成する。該水相は有効成分の水溶液を含み、好ましくは有効成分の水溶液からなる。
【0062】
有効成分の水溶液の形態は、水溶液そのもの(単相の水溶液)である。
【0063】
有効成分の種類や量は、本発明の霧化用組成物の用途等に応じて適宜選択される。
【0064】
上記のとおり、本発明の霧化用組成物は、閉鎖小胞体又は水溶性高分子の作用により、水中に油系噴射剤が安定的に分散されており、有効成分の水溶液を好ましく霧化できる。そのため、本発明の霧化用組成物においては、溶媒である水の量が、油系噴射剤を用いた従来のエアゾール組成物における量より多くても、噴射剤と溶媒とが分離しにくく、良好に霧化できる。例えば、本発明の霧化用組成物の水の量は、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。水の量の上限は特に限定されないが、水溶性高分子や油系噴射剤を充分に配合する観点から、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0065】
有効成分の溶媒としては水が含まれていればよいが、さらに他の溶媒(エタノール等)が含まれていてもよい。上述のとおり、油系噴射剤と組み合わせてエタノールを用いることが従来知られていたが、水と油系噴射剤とエタノールとの相溶域が狭いという問題があった。他方、本発明の霧化用組成物においては水に対する油系噴射剤の分散性が良好である。そのため、本発明の霧化用組成物にはエタノールが含まれなくともよいが、組成物の粘度を低下できる等の観点から、エタノールが含まれていてもよい。エタノールが含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。エタノールの量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明の霧化用組成物に対して0質量%である。
【0066】
(油系噴射剤)
油系噴射剤は、乳化物である本発明の霧化用組成物の油相を構成する。該油相は油系噴射剤からなり、換言すれば、該油相は油系噴射剤以外の油性成分を含まない。
【0067】
本発明における油系噴射剤は、噴射剤として機能する液化ガスを含む。液化ガスとしては、液化石油ガス(ブタン(イソブタン、ノルマルブタン)、プロパン、イソペンタン等)、フロロカーボン(HFO-1234ze(トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのガス)、HFC-134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)、HFC-152a(1,1-ジフルオロエタン)等)等が挙げられる。油系噴射剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記のうち、液化石油ガスが好ましい。
【0068】
油系噴射剤は、液化ガス、液化ガスと圧縮ガス(N2、CO2等)との混合ガス、液化ガスとジメチルエーテルとの混合ガスのいずれの形態であってもよい。液化ガスは、20℃における液比重が0.5~1.3のガスであってもよい。
【0069】
上述のとおり、従来は、油系噴射剤は水への分散性が低いため、水を含むエアゾール組成物に油系噴射剤を高配合することが困難だった。しかし、本発明の霧化用組成物においては、油系噴射剤を高配合しても水への分散性が良好である。油系噴射剤の量は特に限定されないが、下限は、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。上限は、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。また、油系噴射剤の量は、本発明の霧化用組成物に含まれる噴射剤に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。最も好ましくは、本発明の霧化用組成物に含まれる噴射剤は、油系噴射剤からなる。
【0070】
水への溶解度が高く、噴霧粒子を細かくできる噴射剤として、従来のエアゾール組成物においては、ジメチルエーテルが知られていた。しかし、上述のとおり、ジメチルエーテルを用いた場合には各種の問題が生じ得る。他方、本発明の霧化用組成物においてはジメチルエーテルが含まれなくとも、水への噴射剤の分散性が良好である。本発明の霧化用組成物にはジメチルエーテルが含まれないことが好ましいが、本発明の霧化用組成物にジメチルエーテルが含まれる態様は排除されない。ジメチルエーテルが含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは35質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。ジメチルエーテルの量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明の霧化用組成物に対して0質量%である。
【0071】
本発明の霧化用組成物中の油系噴射剤の含量は、乳化組成物における油系噴射剤の分散性が良好となりやすいという観点から、水溶性高分子の含量に対して、下限が好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、上限が好ましくは2000倍以下、より好ましくは1500倍以下である。
【0072】
(その他の成分)
本発明の霧化用組成物は、従来のエアゾール剤に含まれ得る公知の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、目的に応じて種類や含量を適宜選択でき、例えば、pH調整剤、保湿剤、キレート剤、界面活性剤、アルコール類、有機溶剤、防腐剤、増粘剤、着色剤、抗酸化剤、紛体等が挙げられる。
【0073】
本発明の霧化用組成物は、上述のとおり、その作用上、水への噴射剤の均一分散性が高い。そのため、本発明の霧化用組成物には、均一分散性を高めるために従来使用されていた界面活性剤(非イオン界面活性剤、イオン性界面活性剤等)を配合しなくともよい。本発明の霧化用組成物には界面活性剤が含まれないことが好ましいが、本発明の霧化用組成物に界面活性剤が含まれる態様は排除されない。界面活性剤が含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明の霧化用組成物に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。界面活性剤の量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明の霧化用組成物に対して0質量%である。
【0074】
<霧化用組成物の特性>
本発明の霧化用組成物は、上記のとおり、有効成分の水溶液を好ましく霧化させることができる。例えば、本発明の霧化用組成物を、例えば、霧状噴霧用のバルブ及びアクチュエーターを用いて噴射によって霧化した場合、以下の条件で測定した噴霧粒子径(メディアン径(D50))が、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下であり得る。
(測定条件)
測定装置:レーザー光回折式粒度測定装置
測定距離(測定箇所から噴霧位置までの距離):15cm
測定温度:25℃
【0075】
本発明の霧化用組成物においては、霧化をより容易にする観点から、有効成分の水溶液と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子と、を含む溶液の粘度を、水溶性高分子の種類に関わらず、好ましくは7500cP以下、より好ましくは5000cP以下に調整してもよい。粘度は、噴射剤を含まないエアゾール組成物を充分に撹拌して単相とした後に、単一円筒型回転式粘度計(B型)を使用して25℃で測定する。有効成分の水溶液と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含む溶液の粘度が低いほど、油系噴射剤の均一分散性がより良好になる傾向がある。有効成分の水溶液と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含む溶液の粘度は、水溶性高分子の種類や濃度等を適宜設定することで調整できる。
【0076】
本発明の霧化用組成物は、目的の成分を霧化させる必要がある種々の用途に対して好適に使用できる。このような用途として、例えば、人体用品(化粧品、医薬部外品、医薬品等)、家庭用品(芳香剤、消臭剤、洗濯糊、除草剤、衣類用防虫剤、防炎剤、除菌剤、クリーナー)、殺虫剤(空間殺虫剤、ゴキブリ殺虫剤、殺ダニ剤等)自動車用品(防曇剤、解氷剤等)、工業用品(塗料、接着剤、防錆剤等)、忌避剤(人体用忌避剤、動物用忌避剤等)、ペット用品、スポーツ用品、食品等が挙げられる。
【0077】
<シャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物>
本発明のシャーベット化用エアゾール作製用乳化組成物(以下、「本発明のシャーベット化用組成物」ともいう。)は、有効成分の水溶液を含む水相と、油系噴射剤からなる油相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含み、閉鎖小胞体又は水溶性高分子の粒子が、油相及び水相の界面に粒子として介在するものである。なお、本発明のシャーベット化用組成物の形態は、通常、容器に収容された状態のものである。
【0078】
本発明において「シャーベット化」又は「シャーベット状に氷結する」とは、有効成分の水溶液が噴射された際に、噴射対象物(特に限定されないが、皮膚、髪、コットン、布、植物、忌避や殺虫の対象となる虫、冷却させたい対象物等)の表面に氷が形成されることを意味する。
【0079】
本発明のシャーベット化用組成物の成分やその含量に関する詳細は、本発明の霧化用組成物における説明と同様である。ただし、より良好なシャーベット化を実現する観点から、各成分の含量は、下記のように調整してもよい。
【0080】
本発明のシャーベット化用組成物の水溶性高分子の含量の下限は、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.0015質量%以上である。上限は、水溶性高分子の水に対する溶解度濃度である。
【0081】
本発明のシャーベット化用組成物の水の量は、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。水の量の上限は特に限定されないが、水溶性高分子や油系噴射剤を充分に配合する観点から、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
【0082】
本発明のシャーベット化用組成物にエタノールが含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。エタノールの量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明のシャーベット化用組成物に対して0質量%である。
【0083】
本発明のシャーベット化用組成物の油系噴射剤の量の下限は、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。上限は、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは95質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。また、油系噴射剤の量は、本発明のシャーベット化用組成物に含まれる噴射剤に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは33質量%以上である。最も好ましくは、本発明のシャーベット化用組成物に含まれる噴射剤は、油系噴射剤からなる。
【0084】
本発明のシャーベット化用組成物にジメチルエーテルが含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは35質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。ジメチルエーテルの量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明のシャーベット化用組成物に対して0質量%である。
【0085】
本発明のシャーベット化用組成物中の油系噴射剤の含量は、油系噴射剤の分散性が良好となりやすいという観点から、水溶性高分子の含量に対して、下限が好ましくは60倍以上、より好ましくは80倍以上、上限が好ましくは50000倍以下、より好ましくは40000倍以下である。
【0086】
本発明のシャーベット化用組成物に界面活性剤が含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。界面活性剤の量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明のシャーベット化用組成物に対して0質量%である。
【0087】
従来のシャーベット化用エアゾール組成物には、良好なシャーベット化を実現するために、無機粉末(タルク、カオリン、マイカ、シリカ等)が配合されることがあった。しかし、本発明のシャーベット化用組成物によれば、このような無機粉末を配合しなくとも良好なシャーベット化を実現できる。ただし、本発明のシャーベット化用組成物に無機粉末が含まれる態様は排除されない。無機粉末が含まれる場合、その量は過度でなくともよく、本発明のシャーベット化用組成物に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。無機粉末の量は、より低いことが好ましく、最も好ましくは、本発明のシャーベット化用組成物に対して0質量%である。
【0088】
<シャーベット化用組成物の特性>
本発明のシャーベット化用組成物は、上記のとおり、好ましくシャーベット化させることができる。エアゾール組成物がシャーベット化したかどうかは、実施例に示した方法で本発明のシャーベット化用組成物の噴射状態を評価することで特定できる。本発明のシャーベット化用組成物は、特に好ましくは、実施例に示した方法で評価される噴射状態が「噴射物の温度が0℃以下であり、噴射直後が最低温度ではなく、ある一定時間経過後に最低温度になること」を満たす。
【0089】
本発明のシャーベット化用組成物においては、シャーベット化をより容易にする観点から、有効成分の水溶液と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含む溶液の粘度を、水溶性高分子の種類に関わらず、好ましくは100000cP以下、より好ましくは75000cP以下に調整してもよい。粘度は、噴射剤を含まないエアゾール組成物を充分に撹拌して単相とした後に、単一円筒型回転式粘度計(B型)を使用して25℃で測定する。有効成分の水溶液と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含む溶液の粘度が低いほど、油系噴射剤の分散性がより良好になる傾向がある。有効成分の水溶液と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子と、を含む溶液の粘度は、水溶性高分子の種類や濃度等を適宜設定することで調整できる。
【0090】
本発明のシャーベット化用組成物の用途は、本発明の霧化用組成物と同様である。本発明のシャーベット化用組成物は、冷却剤として特に好ましく用いることができる。
【0091】
<エアゾール組成物の製造方法>
本発明の霧化用組成物及び本発明のシャーベット化用組成物は、例えば、原液(有効成分の水溶液、及び、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は疎水基を有する水溶性高分子の粒子を含む。)をエアゾール用容器に加え、バルブを装着し密閉嵌合する。これに油系噴射剤を充填し、容器を振盪して油系噴射剤を三相乳化することでエアゾール組成物が得られる。振盪の手段は特に限定されず、例えば、組成物を入れた容器を手で振って振盪させてもよい。
【0092】
エアゾール組成物を充填する容器は、特に限定されず、従来の公知のエアゾール剤の容器として使用できるものを採用できる。例えば、金属、樹脂、ガラス等の材質の容器を使用できる。容器は、必要に応じて、バルブ、アクチュエーター、キャップ等の、従来の公知のエアゾール剤の容器に備え付けられるものを備えていてもよい。
【0093】
本発明のエアゾール組成物は、バルブ、アクチュエーターの種類を適宜設定することで、噴射物を容易に霧状又はシャーベット状にすることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
<霧化用組成物の調製及び分散性の評価-1>
以下の方法に基づき、閉鎖小胞体の分散液又は水溶性高分子の水溶液、及び、油性噴射剤からなる霧化用組成物を作製し、閉鎖小胞体の分散液又は水溶性高分子水溶液と、油性噴射剤との均一分散性を評価した。その結果を表1~8に示す。良好な分散性を有するエアゾール組成物は、噴霧も可能であり、霧化用組成物として実用に耐えることを意味する。
【0096】
(閉鎖小胞体の調製)
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を室温で精製水に投入し、撹拌子で30分撹拌し、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の閉鎖小胞体(ベシクル)分散液を得た。
【0097】
(水溶性高分子水溶液の調製)
以下の各水溶性高分子を用いて水溶液を調製した。なお、高分子1及び2は、本発明における疎水基を有する水溶性高分子に相当する。高分子3及び4は疎水基を有さず、本発明における水溶性高分子に相当しない。
(高分子1)セルロース系水溶性高分子:セルロース系水溶性高分子として、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いた。
(高分子2)(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー
(高分子3)(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー
(高分子4)カルボマー(カルボキシビニルポリマー)
【0098】
高分子1及び2については、以下の方法で、異なる濃度の水溶液を調製した。すなわち、90℃以上に加温した精製水に水溶性高分子を徐々に分散させ、ディスパーを用いて、約600rpmで20分撹拌した。その後、冷却を行いながら、ディスパーを用いて、約800rpmで60分撹拌し、水溶液を得た。
【0099】
高分子3及び4については、以下の方法で、異なる濃度の水溶液を調製した。すなわち、室温で精製水に水溶性高分子(粉末状原料)を徐々に分散させ、ディスパーを用いて、約600rpmで30分撹拌した。粉末状原料が水溶したことを確認してから、添加した水溶性高分子と同量の48%KOHaqを加えて約800rpmで60分間、粘度の変化がなくなるまで撹拌し、水溶液を得た。
【0100】
水溶性高分子水溶液中の水溶性高分子、及び、閉鎖小胞体の分散液中の閉鎖小胞体の濃度を、表1~8中の「濃度」(単位:質量%)の項に示す。
【0101】
(油性噴射剤の準備)
油性噴射剤として、ブタンガス、プロパンガス、L-0.29(20℃における圧力が0.29MPaとなるように調整したブタンとプロパンの混合ガス)及び、R-1234ze(E)を準備した。「R-1234ze(E)」は、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのガスである。
【0102】
(エアゾール組成物の調製)
閉鎖小胞体分散液(10g)又は水溶性高分子水溶液(10g)を耐圧ビン(透明ガラス製)に充填し、密閉嵌合した。そこに油性噴射剤を充填し容器を振盪することでエアゾール組成物を得た。油性噴射剤の充填率は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、又は70%に設定した。表1~8中、「油性噴射剤の量」の項には、エアゾール組成物に対する油性噴射剤の割合(単位:質量%)とともに、括弧内にエアゾール組成物中の油性噴射剤の質量(単位:g)を示した。例えば、「10(1.11)」とは、エアゾール組成物に対する油性噴射剤の割合が「10質量%」であり、かつ、エアゾール組成物中の油性噴射剤の質量が「1.11g」であることを意味する。
【0103】
(水溶性高分子水溶液の粘度の測定)
各水溶性高分子水溶液の粘度を「粘度」(単位:cP)の項に示す。粘度は、噴射剤を含まないエアゾール組成物を充分に撹拌して単相とした後に、単一円筒型回転式粘度計(B型)を使用して25℃で測定した。なお、表中、「粘度」の項の「低」は、粘度が低すぎたことから本測定方法では測定できなかったことを意味する。
【0104】
(エアゾール組成物の均一分散性の評価)
エアゾール組成物を充填した各耐圧ビンを、一定回数振り混ぜた後、5分間静置したときに、目視観察によって、内容物が完全に相溶しているかどうかを以下の基準で評価した。エアゾール組成物が均一分散している場合、内容物は均一な相となる。他方で、エアゾール組成物が均一分散していない場合、溶液相と、該相の上に形成されたガス相とに分かれる。
[均一分散性の評価基準]
○:エアゾール組成物が均一分散した。
×:エアゾール組成物が均一分散しておらず、ガス相が形成された。
-:評価未実施
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
表1~6のとおり、本発明における閉鎖小胞体の分散液又は疎水基を有する水溶性高分子の水溶液と、油性噴射剤とは、均一分散性が良好であった。
【0114】
他方、表7及び8のとおり、疎水基を有しない水溶性高分子の水溶液と、油性噴射剤とは、均一分散しなかった。
【0115】
<霧化用組成物の調製及び分散性の評価-2>
以下の方法に基づき、霧化用組成物を育毛剤モデルとして作製し、その均一分散性及び組成物を霧化した場合の噴霧粒子径を評価した。
【0116】
組成物の噴霧粒子径(メディアン径(D50))は、以下の条件で測定した。
(測定条件)
測定装置:レーザー光回折式粒度測定装置
測定距離(測定箇所から噴霧位置までの距離):15cm
測定温度:25℃
【0117】
(育毛剤のモデル処方の調製)
表9に示す組成を有する水溶性高分子水溶液を調製した。次いで、油性噴射剤としてL-0.29(20℃における圧力が0.29MPaとなるように調整したブタンとプロパンの混合ガス)を準備し、各水溶性高分子水溶液とともに耐圧ビン(透明ガラス製)に充填し、表10に示す組成の霧化用組成物(育毛剤のモデル処方)を得た。
【0118】
【0119】
【0120】
霧化用組成物について、上記(エアゾール組成物の均一分散性の評価)と同様に均一分散性を評価したところ、上記霧化用組成物は良好な均一分散性を示し、良好に霧化することができた。霧化用組成物の噴霧粒子径は32.26μmだった。
【0121】
<シャーベット化用組成物の調製及び分散性の評価-1>
以下の方法に基づき、閉鎖小胞体の分散液又は水溶性高分子の水溶液、及び、油性噴射剤からなるエアゾール組成物を作製し、閉鎖小胞体の分散液又は水溶性高分子水溶液と油性噴射剤との均一分散性及び噴射状態を評価した。その結果を表12~26に示す。
【0122】
(閉鎖小胞体の調製-1)
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を室温で精製水に投入し、撹拌子で30分撹拌し、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の閉鎖小胞体(ベシクル)分散液を得た。
【0123】
(閉鎖小胞体の調製-2)
精製水の代わりに表11に示す4種類の水相のいずれかを用いた点以外は上記(閉鎖小胞体の調製-1)と同様の方法で、閉鎖小胞体(ベシクル)の分散液得た。なお、表11中の数値の単位は「質量%」である。
【0124】
【0125】
(水溶性高分子水溶液の調製)
以下の各水溶性高分子を用いて水溶液を調製した。なお、高分子A群の高分子は本発明における疎水基を有する水溶性高分子に相当する。高分子B群及びC群の高分子は疎水基を有さず、本発明おける水溶性高分子に相当しない。
(高分子A群)
疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース
ヒドロキシエチルセルロース
ヒドロキシプロピルセルロース
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー
ポリウレタン-59
塩化O-〔2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル〕ヒドロキシエチルセルロース
(高分子B群)
ポリアクリル酸ナトリウム
ポリビニルピロリドン
(高分子C群)
カルボマー
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー
【0126】
高分子A群及びB群については、以下の方法で異なる濃度の水溶液を調製した。すなわち、室温で精製水に水溶性高分子を徐々に分散させ、80℃以上まで加温し、撹拌子を用いて30分撹拌した。その後、冷却を行いながら撹拌子を用いて約60分撹拌し、水溶液を得た。
【0127】
高分子C群については、以下の方法で、異なる濃度の水溶液を調製した。すなわち、室温で精製水に水溶性高分子(粉末状原料)を徐々に分散させ、撹拌子で約30分撹拌した。粉末状原料が水溶したことを確認してから、添加した水溶性高分子と同量の48%KOHaqを加えて60分間、粘度の変化がなくなるまで、撹拌し、水溶液を得た。
【0128】
水溶性高分子水溶液中の水溶性高分子の濃度を表12~19、23~26中の「濃度」(単位:質量%)の項に示す。
【0129】
(噴射剤の準備)
油性噴射剤として、L-0.29(20度における圧力が0.29MPaとなるように調整したブタンとプロパンの混合ガス)、R-1234ze(E)、及び、R-1233zd(E)を準備した。「R-1234ze(E)」はトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、「R-1233zd(E)」はトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのガスである。
また、油性噴射剤ではない噴射剤として、ジメチルエーテル(DME)を準備した。
【0130】
(エアゾール組成物の調製)
霧化用組成物の調製方法と同様にシャーベット化用組成物を調製し、噴射剤の充填率は、30%、40%、50%、60%、又は70%に設定した。
【0131】
(エアゾール組成物の噴射状態の評価)
以下の方法で、エアゾール組成物の噴射状態を評価し、以下の基準で評価した。その結果を表12~26中の各マスに示す。
(1)室温20℃かつ無風状態の環境下に各エアゾール組成物が入った容器と、スライドガラスを1時間以上実験机上に静置した。
(2)上記(1)で準備した容器を、上記(1)のスライドガラスから10cmの位置に固定し、エアゾール組成物1gをスライドガラス表面に噴射した。
(3)サーモグラフィーを用いて、噴射直後からスライドガラス表面の噴射物の温度を連続的に測定した。
[噴射状態の評価基準]
○:氷を含む噴射物が0℃以下となり、噴射直後が最低温度ではなく、ある一定時間経過後に最低温度となった。
×:エアゾール組成物が均一分散しておらず、ガス相が形成された。または、均一分散はしたが、上記○の条件に合致しなかった。
-:評価未実施
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
表12~22(ただし、表19はDMEを用いた例以外)のとおり、本発明のシャーベット化用組成物は噴射性が良好であり、さらには、良好なシャーベット化が認められた。
【0148】
他方、表23~26のとおり、閉鎖小胞体の分散液、又は疎水基を有する水溶性高分子の水溶液を含まない組成物は、エアゾール組成物が均一分散しておらず、ガス相が形成されており、良好なシャーベット化が認められなかった。また、表19におけるDMEを用いた例では、DMEが30質量%である場合は組成物が均一分散したもののシャーベット化せず、40質量%以上である場合はガス相が形成されシャーベット化しなかった。
【0149】
<シャーベット化用組成物の調製及び分散性の評価-2>
以下の方法に基づき、シャーベット化用組成物を冷却剤モデルとして作製し、その均一分散性を評価した。
【0150】
(冷却剤のモデル処方の調製)
表27に示す組成を有する水溶性高分子水溶液を調製した。次いで、油性噴射剤としてL-0.29(20℃における圧力が0.29MPaとなるように調整したブタンとプロパンの混合ガス)を準備し、各水溶性高分子水溶液とともに耐圧ビン(透明ガラス製)に充填し、表28に示す組成のシャーベット化用組成物(冷却剤のモデル処方)を得た。
【0151】
【0152】
【0153】
シャーベット化用組成物について、上記(エアゾール組成物の均一分散性の評価)と同様に均一分散性を評価したところ、上記シャーベット化用組成物は良好な均一分散性を示し、良好にシャーベット化することができた。