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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】耐水粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20231031BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C23C26/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020041302
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143085
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504005035
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前 英雄
(72)【発明者】
【氏名】野上 修
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-212328(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071111(WO,A1)
【文献】特表2019-509958(JP,A)
【文献】特開昭61-072073(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103849862(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
B22F 1/00 - 12/90
C01B 15/00 - 25/46
C01C 1/00 - 3/20
C01F 1/00 - 17/38
C01G 25/00 - 99/00
C09C 1/00 - 3/12
C09D 1/00 - 10/00
C09D 15/00 - 17/00
C09D 101/00 - 201/10
C22C 1/04 - 1/059
C22C 33/02
C23C 24/00 - 30/00
H01F 1/00 - 1/117
H01F 1/40 - 1/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と反応することで水和物が生成する酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化アルミニウム、炭化バナジウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、金属マグネシウム、金属アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、フェライト磁性体及びニオブ磁性体並びに水に溶解する硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム及びホウ酸ナトリウムから選択されたいずれかの材料粉末の表面に耐水性皮膜を被覆した耐水粉末の製造方法であって、
前記材料粉末に対して、ポリフェノール及び没食子酸エステルのいずれか又は両方を主成分とする処理剤を、前記材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.001~0.1g混合し撹拌する混合撹拌工程と、
前記混合撹拌工程によって得られた混合物を160~300℃に加熱する加熱工程と、を有する
ことを特徴とする耐水粉末の製造方法。
【請求項2】
前記混合撹拌工程において、100~120℃に加熱しながら攪拌するとともに、前記材料粉末に対して、プロピルアルコール、ブタノール、ドデシルアルコール及びエチレングリコールから選択されたいずれかのアルコールを、前記材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.005~0.05g添加して撹拌する
ことを特徴とする請求項1に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項3】
前記混合撹拌工程において、前記アルコールに対して、アンモニア水又は水酸化ナトリウムを、前記アルコール1gあたり0.001~0.002g、水を、前記アルコール1gあたり0.5~1g添加して撹拌する
ことを特徴とする請求項2に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項4】
前記混合撹拌工程において、前記材料粉末に対して、テトラエトキシシランを、前記材料粉末100gあたり0.5~3g、エタノールを、前記材料粉末100gあたり1~5ml及び水を、前記材料粉末100gあたり0.01~0.05g添加して撹拌する
ことを特徴とする請求項2に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ポリフェノールは、単純フェノール類とそのエステル、加水分解型タンニン類及び縮合型タンニン類のうちのいずれか一つ又はいずれか二つ以上の組合せである
ことを特徴とする請求項1に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項6】
前記単純フェノール類は、没食子酸、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸及びクルクミンのうちのいずれか一つ又はいずれか二つ以上の組合せである
ことを特徴とする請求項5に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項7】
前記加水分解型タンニン類は、エラグ酸である
ことを特徴とする請求項5に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項8】
前記縮合型タンニン類は、プロシアニンである
ことを特徴とする請求項5に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項9】
前記没食子酸エステルは、没食子酸とグリコールのエステルである
ことを特徴とする請求項5に記載の耐水粉末の製造方法。
【請求項10】
前記没食子酸とグリコールのエステルは、ポリエチレングリコール没食子酸エステルである
ことを特徴とする請求項9に記載の耐水粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水粉末の製造方法に関し、各種材料からなる粉末の表面に耐水性皮膜を被覆して耐水粉末を得るための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水と反応して水和物を生成する材料の表面に水和防止の保護皮膜を被覆することが行われている。
保護皮膜に用いられる材料は、無機系、有機系、有機無機複合系、キレート系、水性樹脂、シランカップリング系等があり、材料の特性と表面処理した材料の用途に応じて適宜選択されており、薄く欠陥のない保護皮膜を形成する方法が様々開発されたが、十分な耐水性が得られないという問題があった。
そこで、本発明者らは特許文献1(特許第5343197号公報)に記載されるように、薄くても熱膨張差で皮膜が破壊されることがなく、高温のアルカリ水溶液に浸漬しても皮膜が溶解、侵食されることもない保護被膜を被覆した耐水性材料を開発した。
【0003】
しかし、特許文献1記載の耐水性材料は、120℃程度の加圧蒸気には耐えられるものの、135℃程度の加圧蒸気には耐えることができず、また、皮膜が不純物として働くため、被覆を施した耐水粉末では十分な物性が得られない等の課題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5343197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題等に鑑みてなされたものであり、135℃程度の加圧蒸気に耐えられ、かつ、十分な物性を発揮することのできる耐水粉末の提供を第1の課題とする。
また、耐水性皮膜が被覆可能な粉末の種類を増やすことを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、水と反応することで水和物が生成する酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化アルミニウム、炭化バナジウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、金属マグネシウム、金属アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、フェライト磁性体及びニオブ磁性体並びに水に溶解する硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム及びホウ酸ナトリウムから選択されたいずれかの材料粉末の表面に耐水性皮膜を被覆した耐水粉末の製造方法であって、
前記材料粉末に対して、ポリフェノール及び没食子酸エステルのいずれか又は両方を主成分とする処理剤を、前記材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.001~0.1g混合し撹拌する混合撹拌工程と、
前記混合撹拌工程によって得られた混合物を160~300℃に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記混合撹拌工程において、100~120℃に加熱しながら攪拌するとともに、前記材料粉末に対して、プロピルアルコール、ブタノール、ドデシルアルコール及びエチレングリコールから選択されたいずれかのアルコールを、前記材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.005~0.05g添加して撹拌することを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記混合撹拌工程において、前記アルコールに対して、アンモニア水又は水酸化ナトリウムを、前記アルコール1gあたり0.001~0.002g、水を、前記アルコール1gあたり0.5~1g添加して撹拌することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記混合撹拌工程において、前記材料粉末に対して、テトラエトキシシランを、前記材料粉末100gあたり0.5~3g、エタノールを、前記材料粉末100gあたり1~5ml及び水を、前記材料粉末100gあたり0.01~0.05g添加して撹拌することを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記ポリフェノールは、単純フェノール類とそのエステル、加水分解型タンニン類及び縮合型タンニン類のうちのいずれか一つ又はいずれか二つ以上の組合せであることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記単純フェノール類は、没食子酸、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸及びクルクミンのうちのいずれか一つ又はいずれか二つ以上の組合せであることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記加水分解型タンニン類は、エラグ酸であることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項5に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記縮合型タンニン類は、プロシアニンであることを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明は、請求項5に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記没食子酸エステルは、没食子酸とグリコールのエステルであることを特徴とする。
【0015】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の耐水粉末の製造方法において、
前記没食子酸とグリコールのエステルは、ポリエチレングリコール没食子酸エステルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明の製造方法によって耐水性皮膜を被覆された粉末は、表面に没食子酸構造を有する耐水性皮膜が被覆されるものとなるため、135℃程度の加圧蒸気に耐えられる耐水粉末を提供することができ、また、耐水性皮膜を被覆できる材料粉末の種類を増やすことができる。
また、没食子酸構造を有する耐水性皮膜は粉末表面全部を覆うことなく、水と反応する部位を的確に覆う構造となるため、材料粉末の物性を十分に発揮することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る発明による効果に加えて、没食子酸と各種アルコールから合成される物質が各種材料粉末に吸着するので、その合成物質と同様の特性を有する耐水粉末を提供することができる。
例えば、プロピルアルコールを添加した場合、没食子酸プロピルが合成され、没食子酸プロピルと同様の特性を有する耐水粉末を提供することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、請求項2に係る発明による効果に加えて、アンモニア水又は水酸化ナトリウムを添加することにより、水と反応してアルカリ性にならない材料粉末に対しても、表面が水と反応してアルカリ性を示す材料粉末と同様の処理を施すことができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、請求項2に係る発明による効果に加えて、耐水粉末のシリコン系樹脂に対する分散性を良くすることができる。
【0020】
請求項5~10に係る発明によれば、請求項1に係る発明による効果に加えて、ポリフェノールが単純フェノール類とそのエステル、加水分解型タンニン類、縮合型タンニン類に限定されているので、より良い特性を有する耐水粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る耐水粉末の製造方法の概要を示すフロー図。
図2】未処理品、先行発明及び本発明の耐水性試験結果を示すグラフ。
図3】未処理品、先行発明及び本発明に係る窒化アルミニウム粉末の拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明に係る耐水粉末の製造方法の概要を示すフロー図である。
本発明は図1に示すとおり、まず、水と反応することで水和物が生成する酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化アルミニウム、炭化バナジウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、金属マグネシウム、金属アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、フェライト磁性体及びニオブ磁性体並びに水に溶解する硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム及びホウ酸ナトリウムから選択されたいずれかの材料粉末と、ポリフェノール及び没食子酸エステルのいずれか又は両方を主成分とする処理剤を、材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.001~0.1g混合し、適宜の撹拌装置を用いて撹拌する(混合撹拌工程)。
【0023】
なお、ポリフェノール及び没食子酸エステルのいずれか又は両方を主成分とする処理剤の量を、材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.001~0.1gに限定する理由は、0.001g未満では本発明による効果が十分に発揮されず、0.1gを超えて混合しても本発明による効果は変わらず、0.1gを超える量は不経済となるからである。
【0024】
また、ポリフェノール及び没食子酸エステルは、それぞれ単独で混合してもよいし、あるいは混ぜて混合してもよい。
混ぜて混合する場合、混合後の総量が、材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.001~0.1gの範囲になればよい。
そして、処理剤の量は材料粉末の種類によっても左右されるが、単位表面積(1m)あたり0.015g以上添加すれば、ほとんどの材料粉末において効果を発揮する。
【0025】
次に、材料粉末と処理剤が均一に混ざった粉末を撹拌装置から取り出し、160~300℃で加熱して、カルボキシル基や水酸基を加熱分解により除去する(加熱工程)。
ここで、加熱分解成分の除去率は100%である必要は必ずしもなく、ある程度は材料粉末に残存しても問題ない。なぜなら、カルボキシル基や水酸基成分を残存させると表面処理した耐水粉末に親水性の特性を持たせることができるためで、製造する耐水粉末を親水性の強いものとしたい場合にはカルボキシル基や水酸基成分の除去率を低くすると良い。
没食子酸エステルの場合、プロピル成分やドデシル成分を完全に除去する方が良い。逆に、製造する耐水粉末を親油性の強いものとしたい場合にはカルボキシル基や水酸基成分の除去率を高くすると良い。
【0026】
なお、ここで160~300℃の範囲に加熱する理由は、160℃未満では酸化による分解が進まないため好ましくなく、300℃を超えると燃焼が始まるため好ましくないからである。
【0027】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1に係る耐水粉末の製造方法について順を追って説明する。
(工程1-1)材料粉末として窒化アルミニウム粉末を選択した。
(工程1-2)窒化アルミニウム粉末の比表面積をBET表面積測定装置で測定した。
【0029】
本実施例では、ポリフェノールを主成分とする処理剤として没食子酸プロピル、カフェ酸及びタンニン酸の3種の処理剤を選択し、それぞれを単独で使用、及び3種を混合した4条件でテストした。
【0030】
なお、実施例1で使用した窒化アルミニウム粉末の表面積は、0.5m/gと測定され、処理剤の量を、単独使用の場合には、それぞれ没食子酸プロピル0.008g/m、カフェ酸0.008g/m、タンニン酸0.008g/mに設定し、3種混合の場合には、没食子酸プロピル、カフェ酸及びタンニン酸ともに、0.00267g/mに設定した。
【0031】
(工程1-3)窒化アルミニウム粉末100g及び処理剤0.4gを、攪拌装置に投入し、加熱しながら2,500rpmの回転数で攪拌した。
(工程1-4)攪拌装置内が100℃以上になった時点で、エチレングリコール1gを添加し、攪拌装置内が120~140℃に保たれるように加熱及び保温を続けながら、2,500rpmの回転数で約30分間攪拌した。
(工程1-5)攪拌装置から窒化アルミニウム粉末と処理剤等の混合物を取り出し、加熱装置によって190℃に加熱してカルボン酸基や水酸基等の成分を酸化して除去した。
なお、カルボン酸基や水酸基、プロピル等の成分の除去に要する時間は加熱温度によって異なるが、190℃に加熱する場合約30分である。
(工程1-6)加熱装置から混合物を取り出し、窒化アルミニウム粉末の表面に耐水性皮膜が被覆された耐水粉末を得た。
【実施例2】
【0032】
実施例2に係る耐水粉末の製造方法について順を追って説明する。
(工程2-1)材料粉末として酸化マグネシウム粉末を選択した。
(工程2-2)酸化マグネシウム粉末の比表面積をBET表面積測定装置で測定し、処理剤の量を0.01g/粉体表面積(m)となるように決定した。
【0033】
なお、本実施例で使用した酸化マグネシウム粉末の表面積は、3m/gと測定され、処理剤としてカフェ酸、没食子酸ドデシル及びクルクミンの3種の処理剤を選択し、それぞれを単独で使用する3条件でテストした。
【0034】
(工程2-3)酸化マグネシウム粉末100g及び処理剤3gを攪拌装置に投入し、加熱しながら2,500rpmの回転数で攪拌した。
(工程2-4)攪拌装置内が100℃以上になった時点で、エチレングリコール2gを添加し、攪拌装置内が120~140℃に保たれるように加熱及び保温を続けながら、2,500rpmの回転数で約30分間攪拌した。
(工程2-5)攪拌装置から酸化マグネシウム粉末と処理剤等の混合物を取り出し、加熱装置によって210℃に加熱して、カルボン酸基や水酸基、ドデシル成分等を除去した。
(工程2-6)加熱装置から混合物を取り出し、酸化マグネシウム粉末の表面に耐水性皮膜が被覆された耐水粉末を得た。
【実施例3】
【0035】
実施例3に係る耐水粉末の製造方法について順を追って説明する。
(工程3-1)材料粉末としてフェライト磁性体粉末を選択した。
(工程3-2)フェライト磁性体粉末の比表面積をBET表面積測定装置で測定し、処理剤の量を0.005g/粉体表面積(m)となるように決定した。
【0036】
なお、本実施例で使用したフェライト磁性体粉末の表面積は、2m/gと測定され、処理剤としてエラグ酸、タンニン酸及び没食子酸の3種の処理剤を選択した。
【0037】
(工程3-3)フェライト磁性体粉末100g及びプロピルアルコール1gを攪拌装置に投入し、加熱しながら2,500rpmの回転数で攪拌した。
(工程3-4)攪拌装置内が100℃以上になった時点で、処理剤1gを添加し、攪拌装置内が110~120℃に保たれるように加熱及び保温を続けながら、2,500rpmの回転数で約30分間攪拌した。
【0038】
(工程3-5)攪拌装置からフェライト磁性体粉末と処理剤等の混合物を取り出し、加熱装置によって160~250℃に加熱してドデシル成分等を除去した。
(工程3-6)加熱装置から混合物を取り出し、フェライト磁性体粉末の表面に耐水性皮膜が被覆された耐水粉末を得た。
【実施例4】
【0039】
実施例4に係る耐水粉末の製造方法について順を追って説明する。
(工程4-1)材料粉末として、窒化ホウ素、金属マグネシウム、金属アルミニウム及び亜鉛を選択した。
(工程4-2)選択した各粉末の比表面積をBET表面積測定装置で測定し、処理剤の量は、窒化ホウ素0.005g/粉体表面積(m)、金属マグネシウム0.015g/粉体表面積(m)、金属アルミニウム0.01g/粉体表面積(m)、亜鉛0.01g/粉体表面積(m)とした。
【0040】
本実施例では、ポリフェノールを主成分とする処理剤として没食子酸プロピル、カフェ酸及びタンニン酸の3種の処理剤を選択し、それぞれを単独で使用してテストした。
そして、窒化ホウ素には没食子酸プロピル、金属マグネシウムには没食子酸ドデシル、金属アルミニウムには没食子酸プロピル、亜鉛にはタンニン酸を用いた。
【0041】
以下、実施例1と同じ処理工程で、耐水性皮膜が被覆された窒化ホウ素、金属マグネシウム、金属アルミニウム及び亜鉛粉末を得た。
【0042】
実施例1~4で製造された窒化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末、フェライト磁性体粉末、窒化ホウ素、金属マグネシウム、金属アルミニウム及び亜鉛粉末は、いずれも、135℃の熱水に48時間、耐えることができた。
【0043】
表1は、本発明と、本発明者らが開発した特許文献1(特許第5343197号公報)の耐水性材料(以下「先行発明」という。)について、適応できる材料粉末、処理条件及び耐水性能を各々比較したものである。
表1に示すように、適応できる材料粉末が、本発明では、水と反応することで水和物が生成する材料である、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化アルミニウム、炭化バナジウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、金属マグネシウム、金属アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、フェライト磁性体及びニオブ磁性体から選択されたいずれかの材料粉末だけではなく、水に溶解する硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム及びホウ酸ナトリウムから選択されたいずれかの材料粉末も利用できる点で、異なっている。
また、耐水性能が、本発明では、オートクレーブ内で135℃の熱水に浸漬した場合、48時間であるのに対し、先行発明では、オートクレーブ内で121℃の熱水に浸漬した場合、24時間であった。
すなわち、本発明は、適応できる材料粉末が幅広いので応用分野を広げることができる上に、高い耐水性を実現できることが分かる。
【表1】
【0044】
図2は、未処理の窒化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末及び窒化ホウ素粉末(図中には「未処理品」と記載。)、先行発明によって窒化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末及び窒化ホウ素粉末の表面に耐水性皮膜が被覆された耐水性材料(図中には「先行発明」と記載。)並びに実施例1、2に係る耐水粉末及び窒化ホウ素粉末の表面に実施例4に係る耐水処理を施した耐水粉末(図中には「本発明」と記載。)のそれぞれについて、耐水性試験を行った結果を材料粉末別に示すグラフである。
耐水性試験は、それぞれの粉末1gをオートクレーブ内で135℃の熱水(15mlの蒸留水)に浸漬及び撹拌し、24時間(1440分)における熱水のpHを測定することによって行った。ただし、未処理品については3時間(180分)で測定を終了した。
なお、pHが低い値で維持されるのは粉末と水との水和反応が進んでいないことを示し、pHが上昇するのは粉末と水との水和反応が進んでいることを示し、pHが高い値で維持されるのは粉末と水との水和反応が終了していることを示している。
図2(a)~(c)から、本発明の耐水粉末では、すべての材料において24時間経過しても水和反応が進んでいないことが見てとれる。
また、先行発明の耐水性材料では、窒化アルミニウム粉末及び窒化ホウ素粉末の場合、60分経過後から水和反応が進み180分程度で水和反応が終了していること、酸化マグネシウム粉末の場合、当初から水和反応が徐々に進み24時間程度で水和反応が終了していることが見てとれる。
そして、未処理の材料粉末では、窒化アルミニウム粉末及び酸化マグネシウム粉末の場合、熱水に粉末を浸漬するとすぐに水和反応が進んで10分以内に終了するため、10分以上経過した後のpHはほとんど変化していないものと考えられ、窒化ホウ素粉末の場合、熱水に粉末を浸漬してから180分程度で水和反応が終了していることが見てとれる。
【0045】
図3は、左から未処理の窒化アルミニウム粉末、先行発明によって窒化アルミニウム粉末の表面に耐水性皮膜が被覆された耐水性材料及び実施例1に係る耐水粉末の拡大写真であり、上の写真は拡大率2000倍、下の写真は拡大率1万倍である。
これらの拡大写真からみて、実施例1に係る耐水粉末は耐水性皮膜が窒化アルミニウム粉末の表面を完全に覆っていないことから、同耐水粉末においては水と反応する部位が耐水性皮膜によって的確に覆われる構造となっているものと考えられる。
そして、耐水性皮膜が窒化アルミニウム粉末の表面を完全に覆っていないために、本発明による耐水粉末は材料粉末の物性を発揮し易いという特徴があり、また、本発明による耐水粉末は、先行発明の耐水性材料と比較して耐水性皮膜以外の残留物が少ないことも、材料粉末の物性を発揮し易い原因のひとつと考えられる。
【0046】
実施例1~4に係る耐水粉末の製造方法の変形例を列記する。
(1)実施例1、2及び4においてはエチレングリコールを添加し、実施例3においてはプロピルアルコールを添加したが、これらは添加しなくても良い。
また、エチレングリコールに代えてプロピルアルコール、ブタノール及びドデシルアルコール等のアルコールを添加しても良いし、プロピルアルコールに代えてエチレングリコール、ブタノール及びドデシルアルコール等のアルコールを添加しても良い。
(2)実施例1、3及び4においては、添加するアルコールの量がいずれも1gであり、実施例2においては添加量が2gであったが、アルコールについても処理剤と同様に材料粉末の表面積を考慮して添加量を決めた方が良く、材料粉末の単位表面積(1m)あたり0.005~0.05gの範囲内とするのが良い。
【0047】
(3)実施例1及び2においては、材料粉末が窒化アルミニウムや酸化マグネシウムであり、その表面が水と反応するとアルカリ性を示す物質であったため、エチレングリコールのみを添加することで、エチレングリコールと没食子酸とを反応させることができたが、表面が水と反応してもアルカリ性にならない材料粉末を処理する場合には、エチレングリコール1gあたり、アンモニア水又は水酸化ナトリウムを0.001~0.002g及び水0.5~1gを添加すると良い。
(4)実施例1~4の混合撹拌工程において、材料粉末100gあたり、テトラエトキシシランを0.5~3g、エタノールを1~5ml及び水を0.01~0.05g添加して撹拌するとより良い耐水粉末が得られる。
(5)ポリフェノールを主成分とする処理剤として、実施例1及び4では没食子酸プロピル、カフェ酸及びタンニン酸を選択し、実施例2ではカフェ酸、没食子酸ドデシル及びクルクミンを選択し、実施例3ではエラグ酸、タンニン酸及び没食子酸を選択したが、これらに限らず、単純フェノール類とそのエステル、加水分解型タンニン類及び縮合型タンニン類のうちのいずれか一つ又はいずれか二つ以上の組合せから選択すれば良い。
そして、単純フェノール類としては、没食子酸、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸及びクルクミンのうちのいずれか一つ又はいずれか二つ以上の組合せから選択すれば良く、加水分解型タンニン類としてはエラグ酸が挙げられ、縮合型タンニン類としてはプロシアニンが挙げられる。
また、没食子酸エステルは処理剤として優れているが、没食子酸とグリコールのエステルがより優れており、その中でもポリエチレングリコール没食子酸エステルが特に優れている。
(6)実施例1~4においては、撹拌装置として、ヘンシェルミキサーのほか、撹拌羽根を回転させるタイプの撹拌機、ボールミル、振動撹拌機等いずれのタイプの撹拌装置を利用しても良い。
(7)実施例1~4においては、加熱装置として、ホットプレートや内部の温度を300℃程度までの任意の温度に保持できる焼成器等、粉末を加熱できるものであれば、どのような装置でも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
各種材料からなる粉末の表面に耐水性皮膜を被覆した耐水粉末が得られるので、難燃剤製造用の材料として利用でき、高熱伝導性フィラー(AlN、MgO及びBN)の耐水処理や化粧品用粉末(BN)の撥水性を高め低刺激性の化粧品製造にも応用できる。
図1
図2
図3