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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】形状測定システム及び形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20231031BHJP
   G01B 11/16 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01B11/16 G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022528897
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021283
(87)【国際公開番号】W WO2021246497
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020098349
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】半澤 信智
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】村山 英晶
(72)【発明者】
【氏名】和田 良太
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輝人
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505441(JP,A)
【文献】特表2019-522776(JP,A)
【文献】特表2018-527041(JP,A)
【文献】特開2016-102691(JP,A)
【文献】特表2019-531487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面の中心に配置される中心コア、及び前記中心コアの外側かつ同心円状に等間隔で配置される3個以上の外周コアを有するマルチコア光ファイバと、
前記マルチコア光ファイバの各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光分布を計測する計測装置と、
3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバと3次元形状が既知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバの前記後方ブリルアン散乱光分布から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出する解析装置と、
を備える形状測定システム。
【請求項2】
前記マルチコア光ファイバの長手方向の位置をzとすると、
前記解析装置は、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εを計算すること、
関係式(1)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと曲げ角度βから前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること、
を行うことを特徴とする請求項1に記載の形状測定システム。
[関係式(1)]
ε=r・κ・cos(α-β)
ただし、rは前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離、αは前記マルチコア光ファイバの断面における前記外周コアの位置を表す角度である。
【請求項3】
前記マルチコア光ファイバは、既知の捩じりが与えられていること、及び
前記解析装置は、前記位置座標を算出するときに、前記マルチコア光ファイバに生じている捩じり歪と前記既知の捩じりによる歪とに基づいて前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置するときに発生した意図しない捩じりを推定し、前記意図しない捩じりによる影響を除外すること、
を特徴とする請求項1に記載の形状測定システム。
【請求項4】
前記マルチコア光ファイバの長手方向の位置をzとすると、
前記解析装置は、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iを計算すること、
前記意図しない捩じりによる影響を除外する関係式(2)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εbending,iから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと曲げ角度βから前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること、
を行うことを特徴とする請求項3に記載の形状測定システム。
【数2】
ただし、rは前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離、kは式(3)で表される捩じりの補正係数、νは前記マルチコア光ファイバのポアソン比、aはコアiの初期角度、ωは式(4)で表される前記マルチコア光ファイバの位置zでの断面における前記外周コアの位置を表す角度、pは前記外周コアのスピンレート、εtwistingは前記マルチコア光ファイバの位置zに発生している捩じり歪、φ(z)は式(5)で表される前記マルチコア光ファイバの位置zでの比捩じり角、及びkは式(6)で表される捩じりの補正係数である。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【請求項5】
前記解析装置は、前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iの周期的な変動から前記外周コアのスピンレートpを算出することを特徴とする請求項4に記載の形状測定システム。
【請求項6】
前記マルチコア光ファイバは、前記外周コアの数は3であり、クラッド直径が375μm以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の測定システム。
【請求項7】
前記マルチコア光ファイバは、前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離が120μm以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の測定システム。
【請求項8】
断面の中心に配置される中心コア、及び前記中心コアの外側かつ同心円状に等間隔で配置される3個以上の外周コアを有するマルチコア光ファイバを線状構造物に沿って配置すること、
前記マルチコア光ファイバの各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光分布を計測すること、及び
3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバと3次元形状が既知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバの前記後方ブリルアン散乱光分布から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること、
を行う形状測定方法。
【請求項9】
前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出するときに、前記マルチコア光ファイバの長手方向の位置をzとし、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εを計算すること、
関係式(1)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと曲げ角度βから前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること、
を行うことを特徴とする請求項8に記載の形状測定方法。
[関係式(1)]
ε=r・κ・cos(α-β)
ただし、rは前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離、αは前記マルチコア光ファイバの断面における前記外周コアの位置を表す角度である。
【請求項10】
前記マルチコア光ファイバには、既知の捩じりが与えられていること、及び
前記位置座標を算出するときに、前記マルチコア光ファイバに生じている捩じり歪と前記既知の捩じりによる歪とに基づいて前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置するときに発生した意図しない捩じりを推定し、前記意図しない捩じりによる影響を除外すること、
を特徴とする請求項8に記載の形状測定方法。
【請求項11】
前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出するときに、前記マルチコア光ファイバの長手方向の位置をzとし、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iを計算すること、
前記意図しない捩じりによる影響を除外する関係式(2)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εbending,iから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと曲げ角度βから前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること、
を行うことを特徴とする請求項10に記載の形状測定方法。
【数2】
ただし、rは前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離、kは式(3)で表される捩じりの補正係数、νは前記マルチコア光ファイバのポアソン比、aはコアiの初期角度、ωは式(4)で表される前記マルチコア光ファイバの位置zでの断面における前記外周コアの位置を表す角度、pは前記外周コアのスピンレート、εtwistingは前記マルチコア光ファイバの位置zに発生している捩じり歪、φ(z)は式(5)で表される前記マルチコア光ファイバの位置zでの比捩じり角、及びkは式(6)で表される捩じりの補正係数である。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【請求項12】
前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iの周期的な変動から前記外周コアのスピンレートpを算出することを特徴とする請求項11に記載の形状測定方法。
【請求項13】
前記マルチコア光ファイバは、前記外周コアの数は3であり、クラッド直径が375μm以上であることを特徴とする請求項8から12のいずれかに記載の形状測定方法。
【請求項14】
前記マルチコア光ファイバは、前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離が120μm以上であることを特徴とする請求項8から13のいずれかに記載の形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバを用いたリフレクトメトリ技術により、パイプラインや海底ケーブル等の被測定対象の3次元形状を導出する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチコア光ファイバの各コアの周波数領域の反射スペクトルをOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)で測定及び解析し、被測定対象の3次元形状を導出する技術が提案されている(例えば、非特許文献1を参照。)。また、センシング媒体(光ファイバ)の全長にFBG(Fiber Bragg Grating)を付与し、測定分解能を改善する手法も提案されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Roger G. Duncan, etc., “High-accuracy fiber-optic shape sensing”, https://doi.org/10.1117/12.720914, 2020年4月30日検索
【文献】Yong-Lae Park, etc., “Real-Time Estimation of 3-D Needle Shape and Deflection for MRI-Guided Interventions”, IEEE/ASME TRANSACTIONS ON MECHATRONICS, VOL. 15, NO. 6, DECEMBER 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
OFDRで被測定対象の3次元形状を導出しようとした場合、次のような困難性が発生する。
(1)OFDRは、数10mmオーダーの高分解能を実現できるが、測定距離が数10m程度に限定され、長距離の3次元形状を導出することが困難である。
(2)光ファイバにFBGを付与すれば、その光ファイバの製造容易性や経済性を向上させることが困難となる。
(3)FBGの付与など準分布測定により形状同定を行う技術は、測定点数に制約があり、長距離にわたる形状同定が困難である。
(4)FBGを付与した光ファイバを非線形材料の被測定対象に埋め込んだ形態の場合、温度や応力でFBGによる反射の中心周波数が変化し、計測する光ファイバの歪と曲率にも非線形性が生じるため、被測定物の形状変化を特定することが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、線状の被測定物の3次元形状を長距離且つ高分解能で導出することができる形状測定システム及び形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る形状測定システムは、所定のコア配置を持つマルチコア光ファイバをセンシング媒体として用い、BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)で取得したデータを解析することとした。
【0007】
具体的には、本発明に係る形状測定システムは、
断面の中心に配置される中心コア、及び前記中心コアの外側かつ同心円状に等間隔で配置される3個以上の外周コアを有するマルチコア光ファイバと、
前記マルチコア光ファイバの各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光分布を計測する計測装置と、
3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバと3次元形状が既知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバの前記後方ブリルアン散乱光分布から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出し、その時間変化を同定する解析装置と、
を備える。
【0008】
また、本発明に係る形状測定方法は、
断面の中心に配置される中心コア、及び前記中心コアの外側かつ同心円状に等間隔で配置される3個以上6個以下の外周コアを有するマルチコア光ファイバを線状構造物に沿って配置すること、
前記マルチコア光ファイバの各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光分布を計測すること、及び
3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバと3次元形状が既知である線状構造物に沿って配置された前記マルチコア光ファイバの前記後方ブリルアン散乱光分布から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出し、その時間変化を同定すること、
を行う。
【0009】
マルチコア光ファイバのコア毎に後方ブリルアン散乱光を測定することで長距離測定を可能とする。また、マルチコア光ファイバの中心コアと外周コアとの中心間距離、並びに隣接する外周コア間の距離を保つことで被測定物の微小変動を検知することができる。従って、本発明は、線状の被測定物の3次元形状を長距離且つ高分解能で導出することができる形状測定システム及び形状測定方法を提供することができる。
【0010】
具体的な解析手法は次の通りである。
前記マルチコア光ファイバの長手方向の位置をzとすると、
前記解析装置は、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εを計算すること、
関係式(1)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算し、曲げ角度βを弧長で微分して捩率を計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと捩率から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出し、その時間変化を同定すること、
を行うことを特徴とする。
尚、曲げ角度βはMCF断面において、MCF中心と曲率中心を結ぶベクトルと基準方向ベクトル、例えば、MCF中心とある特定の一つのコアを結ぶベクトルのなす角度を表す。
[関係式(1)]
ε=r・κ・cos(α-β)
ただし、rは前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離、αは前記マルチコア光ファイバの断面における前記外周コアの位置を表す角度である。
【0011】
本手法において、構造物にマルチコア光ファイバを沿わせる際に、意図しない捩じりが生じることにより、計測結果に誤差が生じる可能性がある。このような場合、
前記マルチコア光ファイバには、既知の捩じりが与えられていること、及び
前記解析装置は、前記位置座標を算出するときに、前記マルチコア光ファイバに生じている捩じり歪と前記既知の捩じりによる歪とに基づいて前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置するときに発生した意図しない捩じりを推定し、前記意図しない捩じりによる影響を除外すること、
が好ましい。
【0012】
この場合の具体的な解析手法は次の通りである。
前記マルチコア光ファイバの長手方向の位置をzとすると、
前記解析装置は、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iを計算すること、
前記意図しない捩じりによる影響を除外する関係式(2)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εbending,iから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと曲げ角度βから前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること、
を行うことを特徴とする。
【数2】
ただし、rは前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離、kは式(3)で表される捩じりの補正係数、νは前記マルチコア光ファイバのポアソン比、aはコアiの初期角度、ωは式(4)で表される前記マルチコア光ファイバの位置zでの断面における前記外周コアの位置を表す角度、pは前記外周コアのスピンレート、εtwistingは前記マルチコア光ファイバの位置zに発生している捩じり歪、φ(z)は式(5)で表される前記マルチコア光ファイバの位置zでの比捩じり角、及びkは式(6)で表される捩じりの補正係数である。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0013】
この場合、前記解析装置は、前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iの周期的な変動から前記外周コアのスピンレートpを算出することが好ましい。マルチコア光ファイバの製造誤差などにより捩じり回数の誤差をも考慮でき、被測定物の形状変化を高い精度で特定することができる。
【0014】
前記マルチコア光ファイバは、前記外周コアの数は3以上であり、クラッド直径が375μm以上であることが好ましい。
また、前記マルチコア光ファイバは、前記中心コアと前記外周コアとの中心間距離が120μm以上であることが好ましい。
既存のシングルモードファイバ(クラッド直径が125μm)をバンドルすることでファンイン/ファンアウト(FIFO)デバイスを容易に実現できる。また、中心コアと外周コアの中心間の間隔が広いほど外周コアに生じる歪が大きくなり、高ダイナミックレンジ化することができる。
【0015】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、線状の被測定物の3次元形状を長距離且つ高分解能で導出することができる形状測定システム及び形状測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る形状測定システムの構成を説明する図である。
図2】本発明に係る形状測定システムのマルチコア光ファイバの断面を説明する図である。
図3】本発明に係る形状測定システムの効果を説明する図である。
図4】本発明に係る形状測定方法を説明する図である。
図5】本発明に係る形状測定方法を説明する図である。
図6】本発明に係る形状測定システムでの計測例を説明する図である。
図7】本発明に係る形状測定システムでの計測例を説明する図である。
図8】本発明に係る形状測定システムに備わるマルチコア光ファイバを説明する図である。
図9】本発明に係る形状測定方法を説明する図である。
図10】本発明に係る形状測定システムに備わるマルチコア光ファイバを説明する図である。
図11】マルチコア光ファイバの比捩じり角を説明する図である。
図12】マルチコア光ファイバのスピンレート実測方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0019】
[実施形態1]
図1は、本実施形態の形状測定システムを説明する図である。本形状測定システムは、
断面の中心に配置される中心コア11、及び中心コア11の外側かつ同心円状に等間隔で配置される3個以上の外周コア12を有するマルチコア光ファイバ10と、
マルチコア光ファイバ10の各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光分布を計測する計測装置20と、
3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置されたマルチコア光ファイバ10と3次元形状が既知である線状構造物に沿って配置されたマルチコア光ファイバ10の前記後方ブリルアン散乱光分布から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出し、その時間変化を同定する解析装置30と、
を備える。
尚、図1では、マルチコア光ファイバ10の特定の1コアと、後方ブリルアン散乱光分布を計測する計測装置20とが接続される例を示している。他の構成として、マルチコア光ファイバの各コアを単一コア光ファイバに分離するファンアウト機構、および光スイッチを介してマルチコア光ファイバ10と計測装置20とを接続する形態でも構わない。
【0020】
本形状測定システムは、センシング媒体であるマルチコア光ファイバ10と、マルチコア光ファイバ10の各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光を検出する計測装置(BOTDR)20と、BOTDR12で取得された測定データを解析する解析装置30とを備える。
【0021】
マルチコア光ファイバ10は、被測定対象である線状構造物の長手方向に沿って設置される。線状構造物とは、例えば、パイプライン、ライザー(海洋掘削や海洋生産において海底から海面上の設備まで流体が通れるパイプ)、海底ケーブル等である。図2は、マルチコア光ファイバ10の断面を説明する図である。マルチコア光ファイバ10は、断面の中心にある中心コア、および断面中心から概ね同一円周上に概ね等間隔で配置された外周コアの計4個のコアを有する。本実施形態では、4個のコアは概ね同等の屈折率分布および光学特性を有するものを使用したが、各コアの屈折率分布や光学特性が意図的に異なるように配置される構造でも構わない。
【0022】
また、コアの数の制限については次の通りである。コア数が3以下(外周コア2個以下)では、形状の同定を行うことができない。一方、コア数が5以上(外周コア4個以上)の場合、測定精度の面では向上するが、測定時間はコア数分増える。
また、ある半径の円は、それに接する同じ半径の6個の円で取り囲むことができる。この場合、円の数はトータルで7個である。つまり、同じ直径のシングルコアの光ファイバを7本を最密で配置したときのコア位置のマルチコア光ファイバとすることができ、FIFOを容易に作ることができる。
一方、外周の円が7個以上(円の数はトータルで8個以上)になると、1つの円の周りに7つ以上の円を配置すると中心の円と外周の円との間に隙間が生まれる。つまり、同じ直径のシングルコアの光ファイバを8本以上では最密で配置することができず、マルチコア光ファイバのクラッド径が大きくなり、ファンイン/ファンアウト(FIFO)の作成が難しくなる。
従って、マルチコア光ファイバの外周コア数は3個以上6個以下が望ましい。
【0023】
マルチコア光ファイバ10は、一般的な通信用光ファイバより大きなクラッド外径(>125μm)を有する。光ファイバの中心に配置された中心コア11と、中心コア11の外周に配置された外周コア12との中心間距離は30μmより大きく設定する。その理由は、クラッド外径125μmの標準的なマルチコア光ファイバにおいて漏洩損失などの影響を抑えて配置可能な中心コアと外周コアの中心間距離が30μm程度であるからである。
【0024】
図3は、関係式(1)において(α-β)が0としたマルチコア光ファイバ10の中心の曲率に対する前記中心間距離と外周コア12の歪量との関係を説明する図である。図3より、中心コア11と外周コア12の中心間距離を120μm以上で、曲率κ=0.5[1/m]においてもクラッド外径125μmの標準的なマルチコア光ファイバで得られる歪量の5倍以上の歪量を得ることができることがわかる。これは、中心コア11と外周コア12の中心間距離を長くすることで、マルチコア光ファイバ10に発生した小さい曲率の形状変化に対して感度を向上できることを意味する。
【0025】
以上説明したように、既存のシングルモードファイバ(クラッド直径125μm)をバンドルすることでFIFOデバイスを容易に実現できること、並びに既存のシングルモードファイバで作成されたFIFOを用いればマルチコア光ファイバ10の中心コア11と外周コア12の中心間距離が125μmとなり小さな形状変化に対しても十分な感度を得られること、から、本実施形態では、マルチコア光ファイバ10のクラッド外径を375μmと(=125μm×3)として検討を行った。
【0026】
次に、図4を用いてマルチコア光ファイバ10を用いて被測定物の形状変化を測定する形状測定方法を説明する。本形状測定方法は、
マルチコア光ファイバ10を線状構造物に沿って配置すること(ステップS01)、
マルチコア光ファイバ10の各コアの伝搬方向における後方ブリルアン散乱光分布を計測すること(ステップS02)、及び
3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置されたマルチコア光ファイバ10と3次元形状が既知である線状構造物に沿って配置されたマルチコア光ファイバ10の後方ブリルアン散乱光分布から3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出し、時間変化を同定すること(ステップS03)、
を行う。なお、計測装置20がステップS02を行い、解析装置30がステップS03を行う。ステップS02では、ブリルアン周波数シフトの温度依存性を補正することが望ましい。
【0027】
ステップS03についてより詳細に説明する、測定装置20からマルチコア光ファイバ10の長手方向の位置をzとする。
ステップS03では、
3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること(ステップS31)、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εを計算すること(ステップS32)、
関係式(1)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること(ステップS33)、曲げ角度βを弧長で微分して捩率を計算すること、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと捩率から前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出し、時間変化を同定すること(ステップS34)、
を行う。
【0028】
図5は、本形状測定方法で3次元形状が未知である線状構造物を計測するときの具体的手順を説明する図である。
[Step A]
まず、3次元形状が既知である線状構造物(例えば、すでに敷設されている水道管等)に沿ってマルチコア光ファイバ10を敷設し、定常状態(基準状態)における各コアの後方ブリルアン散乱光の分布特性を取得する。これを基準データとする。
[Step B]
次に、線状構造物の3次元形状が変化した状態(例えば、地震などで変形が想定される水道管等)で、改めて各コアの後方ブリルアン散乱光の分布特性を取得する。これを比較データとする。
[Step C]
次に、コア毎且つ位置z毎に比較データと基準データの差分を計算して差分歪を導出する。
[Step D]
次に、それぞれの外周コアの差分歪から中心コアの差分歪を減算し、外周コア毎に位置zにおける曲げ歪εを導出する。
[Step E]
外周コアの曲げ歪εと、マルチコア光ファイバ10の曲率κと曲げ角度βの関係式(1)に、Step Dで導出したεを代入する。
[関係式(1)]
ε=r・κ・cos(α-β)
ただし、rは中心コア11と外周コア12との中心間距離、αはマルチコア光ファイバ10の断面における外周コア12の位置を表す角度である。例えば、rは125μm、αは外周コア毎に0°、120°、240°である。
本実施形態では、外周コアが3つあるので3元連立方程式が得られる。この式により位置zにおける曲率κと曲げ角度βを算出する。ここで、曲げ歪εはコアごとに異なるが、曲率κと曲げ角度βはいずれのコアにおいても等しいため、最小二乗法で位置zにおける曲率κと曲げ角度βを決定する。
[Step F]
フレネ・セレの公式を用い、Step Eで決定した距離z毎の曲率κと曲げ角度βから、マルチコア光ファイバ10の位置ベクトル(3次元形状)を決定する。なお、位置精度を向上するために、既知の終点を用いて3次元形状を補正することが好ましい。
【0029】
(実施例1)
図6は、形状測定方法でマルチコア光ファイバ10の3次元形状を測定した第1の例を説明する図である。図6(a)~(e)では、マルチコア光ファイバ10の長手方向の距離(上で説明した位置z)をs[m]で表している。図6(f)では、マルチコア光ファイバ10が配置された3次元空間をx軸、y軸、z軸で表している。ここでのz軸は上で説明した位置zと異なることに注意する。
【0030】
本実施例では、センシング用のマルチコア光ファイバ10を直線状に延伸した状態で、図5のStep Aの基準データを取得した。次に、マルチコア光ファイバ10の中央付近を時計回りに一定曲率で回転させ、図5のStep Bの比較データを取得した。図6(a)、(b)、(c)は、それぞれ図5のStep Aの基準データ、Step Bの比較データ、Step Cの差分歪の結果である。図中の点線、破線、一点鎖線は、それぞれ外周コアの違いを表す。図6(d)、(e)は、それぞれマルチコア光ファイバ10の曲率κおよび角度βの評価結果を表す。図6(f)は、位置ベクトルを考慮した、マルチコア光ファイバ10の空間座標を表しており、マルチコア光ファイバ10の中央付近に与えた曲率が精度良く検出できている。
【0031】
(実施例2)
図7は、形状測定方法でマルチコア光ファイバ10の3次元形状を測定した第2の例を説明する図である。図7(a)~(e)でも、マルチコア光ファイバ10の長手方向の距離(上で説明した位置z)をs[m]で表している。図7(f)でも、マルチコア光ファイバ10が配置された3次元空間をx軸、y軸、z軸で表している。ここでのz軸は上で説明した位置zと異なることに注意する。
【0032】
本実施例では、センシング用のマルチコア光ファイバ10を直線状に延伸した状態で、図5のStep Aの基準データを取得した。次に、マルチコア光ファイバ10の中央付近を反時計回りに一定曲率で回転させ、図5のStep Bの比較データを取得した。図7(a)、(b)、(c)は、それぞれ図5のStep Aの基準データ、Step Bの比較データ、Step Cの差分歪の結果である。図中の点線、破線、一点鎖線は、それぞれ外周コアの違いを表す。図7(d)、(e)は、それぞれマルチコア光ファイバ10の曲率κおよび角度βの評価結果を表す。図7(f)は、位置ベクトルを考慮した、マルチコア光ファイバ10の空間座標を表しており、図6(f)と逆方向(反時計回り)の形状変化が精度良く検出できている。
【0033】
[実施形態2]
センシング媒体として線状構造物にマルチコア光ファイバを沿わせる際に、意図しない捩じりが生じ、計測結果に誤差が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、センシング媒体に使用するマルチコア光ファイバに意図的に捩じりを加えることとした。線状構造物の形状同定の際にその捩じり歪以下の意図しない捩じりによる歪分を計算で排除することができ、形状同定の精度を向上させることができる。
【0034】
本実施形態の形状測定システムのシステム構成は図1で説明した形状測定システムのシステム構成に対し、マルチコア光ファイバ10に既知の捩じれが与えられていること、及び解析装置30の解析手順が相違する。
【0035】
図8は、マルチコア光ファイバ10について説明する図である。図8(A)は捩じれが無い状態のマルチコア光ファイバ10で測定される曲げ歪、図8(B)は捩じれがある状態のマルチコア光ファイバ10で測定される曲げ歪を説明している。コア0が中心コア、コア1からコア3が外周コアである。
なお、曲げ歪が無い場合、曲げ歪は捩じれの有無によらず全てのコアでゼロとなり重なる。また、中心コアについては捩じれの有無によらず、曲げ歪はゼロとなる。捩じれが無い状態のマルチコア光ファイバ10の場合、曲率が一定の曲げが付与されると測定される曲げ歪は図8(A)の軸方向の位置z=2mからz=12mの間のようにコアごとに異なる歪量であるが一定の歪量が観測される。
また、図8(B)は、軸方向の位置z=2mからz=12mの間で捩じれを付与したマルチコア光ファイバ10の曲げ歪を説明している。図8(B)では、図8(A)と同様に曲率が一定の曲げを付与しているが、曲げが付与された区間において、外周コアの位置が捻じれによって入れ替わるため、歪量の正負が反転していることが確認できる。マルチコア光ファイバ10をセンシング媒体として線状構造物に配置する場合、線状構造物に配置する区間全てに捩じりが必要である。
【0036】
解析装置30は、前記位置座標を算出するときに、マルチコア光ファイバ10に生じている捩じり歪と前記既知の捩じりによる歪とに基づいて前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って配置するときに発生した意図しない捩じりを推定し、前記意図しない捩じりによる影響を除外する。
【0037】
本形状測定方法は、図4の形状測定方法で説明したステップS33が実施形態1の説明と異なる。すなわち、ステップS03では、
前記3次元形状が未知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量と、前記3次元形状が既知である線状構造物に沿って前記マルチコア光ファイバを配置したときの前記後方ブリルアン散乱光分布から得られた前記マルチコア光ファイバの各コアの位置zの歪量との差分である位置zの差分歪を計算すること(ステップS31)、
前記外周コアそれぞれの前記差分歪から前記中心コアの前記差分歪を減算して前記外周コアそれぞれの曲げ歪εbending,iを計算すること(ステップS32)、
前記意図しない捩じりによる影響を除外する関係式(2)を用い、前記外周コア毎の前記曲げ歪εbending,iから前記マルチコア光ファイバの位置zにおける曲率κと曲げ角度βを計算すること(ステップS33)、及び
フレネ・セレの公式を用い、位置zにおける曲率κと曲げ角度βから前記3次元形状が未知である線状構造物の3次元空間における位置座標を算出すること(ステップS34)、
を行う。
【0038】
図9は、本形状測定方法で3次元形状が未知である線状構造物を計測するときの具体的手順を説明する図である。ここで、“i”はコア番号とする。なお、i=0は中心コア、1以上のiは外周コアである。
[Step A]
まず、3次元形状が既知である線状構造物(例えば、すでに敷設されている水道管等)に沿ってマルチコア光ファイバ10を敷設し、定常状態(基準状態)における各コアの後方ブリルアン散乱光の分布特性を取得する。これを基準データとする。
[Step B]
次に、線状構造物の3次元形状が変化した状態(例えば、地震などで変形が想定される水道管等)で、改めて各コアの後方ブリルアン散乱光の分布特性を取得する。これを比較データとする。
[Step C]
次に、コア毎且つ位置z毎に比較データと基準データの差分を計算して差分歪を導出する。
[Step D]
次に、それぞれの外周コアの差分歪から中心コアの差分歪を減算し、外周コア毎に位置zにおける歪εmix,iを導出する(ここのiは1以上)。
[Step D-α]
歪εmix,iには、曲げ歪εbending,iと捩じり歪εtwistingが含まれる(ここのiは1以上)。外周コアの相対的な位置関係は変化しないので、全ての外周コアiの曲げ歪εbending,iを加算するとゼロになることを利用し、次式のように位置zにおける捩じり歪εtwistingを算出する。max{i}は最大のコア番号を意味する。
【数7】
式(7)で算出した捩じり歪εtwistingを式(5)に代入して位置zにおける比捩じり角φ(z)を算出する。図11は比捩じり角φを説明するイメージ図である。比捩じり角φは、単位長当たりの捩じれ角度である。
【数5】
ここで、rはマルチコア光ファイバ10の断面において中心から外周コアの中心までの距離である。k2は捩じりの補正係数であり、次式で表される。pは外周コアのスピンレート(単位長あたりの捩じれ量)であり、設計上の値もしくは後述する測定手法で得た値である。
【数6】
[Step E]
各外周コアの歪εmix,iからStep D-αで導出したεtwistingを減算して外周コアiの曲げ歪εbending,iを算出する。
そして、式(4)に式(5)で算出した比捩じり角φ(z)を代入し、位置zにおける外周コアiの位置を表わす角度ωを算出する。aは外周コアiの初期角度である。
【数4】
さらに、外周コアiの曲げ歪εbending,iと、式(4)で導出した角度ωをマルチコア光ファイバ10の曲率κと曲げ角度βの関係式(2)に代入する。
【数2】
ただし、kは式(3)で表される捩じりの補正係数である。
【数3】
ここで、νは前記マルチコア光ファイバのポアソン比である。
本実施形態では、外周コアが3つあるので3元連立方程式が得られる。関係式(2)により位置zにおける曲率κと曲げ角度βを算出する。ここで、曲げ歪εはコアごとに異なるが、曲率κと曲げ角度βはいずれのコアにおいても等しいため、最小二乗法で位置zにおける曲率κと曲げ角度βを決定する。
なお、図10は、外周コアが3であるマルチコア光ファイバの半径r、曲げ方向(曲率κ)、曲げ角度βを説明するイメージ図である。図10(A)はマルチコア光ファイバの側面から見た図、図10(B)はマルチコア光ファイバの断面図である。
[Step F]
フレネ・セレの公式を用い、Step Eで決定した距離z毎の曲率κと曲げ角度βから、マルチコア光ファイバ10の位置ベクトル(3次元形状)を決定する。なお、位置精度を向上するために、既知の終点を用いて3次元形状を補正することが好ましい。
【0039】
(スピンレート測定方法)
ここで、スピンレートを実測する方法について説明する。
図12は、捩じりを加えたマルチコア光ファイバの各コアの歪をz方向に測定した結果を示す図である。マルチコア光ファイバを捩じった場合、製造誤差などにより捩じり回数(スピンレート)に設計値との誤差が生じる。このため、各コアとも、歪の周期が変動する。そこで、STFT(short-time Fourier transform)により周期的な歪の変動から捩じり回数(スピンレート)を算出する。上述したステップD-αでは、この実測した歪の周期から算出したスピンレートpの値を利用することができる。
【0040】
(効果)
本発明に係る形状測定システムは、線状構造物の形状同定に後方ブリルアン散乱光を用いることで、数kmから数10kmの測定ダイナミックレンジを実現できる。また、形状変化の検出に用いるマルチコア光ファイバの中心コアと外周コアの中心間距離を120μm以上としたことで、曲率0.5[1/m]以下の微小変化を検出できる。
【符号の説明】
【0041】
10:マルチコア光ファイバ
11:中心コア
12:外周コア
20:計測装置
30:解析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12