(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】患者移送装置及びエアベアリング
(51)【国際特許分類】
A61G 1/00 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
A61G1/00 701
(21)【出願番号】P 2019084384
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591189812
【氏名又は名称】エンジニアリングシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】左治木 修
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-033405(JP,A)
【文献】米国特許第05561873(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0000050(US,A1)
【文献】米国特許第05564963(US,A)
【文献】米国特許第05121756(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者を上面側に乗せるプレート台の下面側に、前記プレート台を含む部材が載置される載置部材の載置面の方向に圧縮空気を噴出して前記プレート台を浮上するエアベアリングが設けられ、
前記エアベアリングは、供給された前記圧縮空気により前記載置面方向に膨出する底面部に、前記圧縮空気を噴出する複数の噴射孔が穿設された噴射孔穿設領域を有する少なくとも1個の樹脂フィルム製の袋状部と、
前記袋状部よりも幅狭に形成され、前記袋状部に供給する圧縮空気で膨出する樹脂フィルム製の空気供給流路と、
前記袋状部及び前記空気供給流路の各々を、前記プレート台との間に挟み込むように設けられ、前記袋状部の前記噴射孔穿設領域に対応する箇所に開口部が開口されているカバー板とを具備し、
前記袋状部及び前記空気供給流路が供給された圧縮空気により膨出したとき、前記カバー板と前記プレート台とに当接して前記膨出が制限される前記空気供給流路の下端よりも、前記カバー板の前記開口部から膨出する前記袋状部の前記噴射孔穿設領域が下方となることを特徴とする患者移送装置。
【請求項2】
前記プレート台の下面側に、複数個の前記袋状部と、前記袋状部の各々に前記圧縮空気を供給する前記空気供給流路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の患者移送装置。
【請求項3】
前記空気供給流路は、前記袋状部に供給する前記圧縮空気により筒状に膨出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の患者移送装置。
【請求項4】
前記空気供給流路及び前記袋状部は、前記圧縮空気の供給が停止されたとき、平坦な形状となることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の患者移送装置。
【請求項5】
前記カバー板の前記開口部が、前記袋状部に前記圧縮空気が供給されたとき、前記噴射孔穿設領域が前記開口部から前記載置面方向に膨出するように、前記開口部の面積が前記噴射孔穿設領域よりも大きいことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の患者移送装置。
【請求項6】
前記プレート台に代えて、樹脂フィルムで形成された袋状気密部内に発泡樹脂ビーズが充填されたビーズバッグが用いられることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の患者移送装置。
【請求項7】
前記ビーズバッグが、前記袋状気密部内の空気を吸排して形状を変更する吸引式ビーズバッグであることを特徴とする請求項6に記載の患者移送装置。
【請求項8】
前記ビーズバッグ、前記袋状部及び前記空気供給流路が一体に形成されていることを特徴とする
請求項6又は請求項7に記載の患者移送装置。
【請求項9】
患者を搭載して移動するプレート台の下面側に設けられ、前記プレート台を含む部材が載置される載置部材の載置面の方向に圧縮空気を噴出して前記プレート台を浮上するエアベアリングが、
供給された前記圧縮空気
により前記載置面方向に膨出される底面部に前記圧縮空気を噴出する複数の噴射孔が穿設された噴射孔穿設領域を有する少なくとも1個の樹脂フィルム製の袋状部と、
前記袋状部よりも幅狭に形成され、前記袋状部に供給する前記圧縮空気で膨出する樹脂フィルム製の空気供給流路と、
前記プレート台との間に、前記袋状部及び前記空気供給流路の各々を挟み込むように設けられ、前記袋状部の前記噴射孔穿設領域に対応する箇所に開口部が開口されているカバー板とを具備し、
前記袋状部及び前記空気供給流路に圧縮空気が供給されて膨出したとき、前記カバー板と前記プレート台とに当接して前記膨出が制限される前記空気供給流路の下端よりも、前記カバー板の前記開口部から膨出する前記袋状部の前記噴射孔穿設領域が下方となることを特徴とするエアベアリング。
【請求項10】
前記袋状部が複数個形成されており、前記袋状部の各々に前記圧縮空気を供給する前記空気供給流路が形成されていることを特徴とする請求項9に記載のエアベアリング。
【請求項11】
前記空気供給流路は、前記袋状部に供給する前記圧縮空気により筒状に膨出することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のエアベアリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の移送を簡単化できる患者移送装置及びエアベアリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ベッド上やストレッチャー上の患者を診察台や検査機器の検査台上に移送する際、患者を乗せたプレート台を数人が力を合わせて持ち上げて移送している。しかし、患者の移送を人手に頼っている場合、人への負担は大きく、人手不足のときには患者の移送は困難となる。
【0003】
患者の移送を簡単にすべく、プレート台の昇降等の移送に機械力を使うことが考えられるが、プレート台を含む装置が複雑化・大型化する。また、X線等の放射線を用いた検査や治療を、患者を搭載したプレート台ごと検査機器や治療装置の台上に移送して行うことが要請されている。このような要請に対して、プレート台に移送のための機械装置を設けることは放射線の照射に対して影響を与えるおそれがあり好ましくない。
【0004】
この点、下記特許文献1には、上面側に患者が乗るプレート台の下面側に、
図13(a)に示すエアベアリング100を装着することが記載されている。エアベアリング100は、織物に熱可塑性樹脂をコーティングした二枚のフィルムの内側を所定間隔で線状に溶着した溶着ライン102を形成して複数の細長い筒状部104が形成されている。筒状部104の各々には、その底面側に供給口106から供給された圧縮空気を噴出する多数の噴射孔が穿設されている。
【0005】
患者が乗ったプレート台の下面側に装着されたエアベアリング100によれば、各筒状部104に供給された圧縮空気は、噴射孔からベッドやストレッチャー等の載置部材の載置面に対して直角方向に噴射されて、プレート台をその載置面から浮上し、エアベアリング100の下面側と載置部材の載置面との間に空気層を形成する。このような空気層の形成により、プレート台の移送を妨げている載置面との摩擦力を軽減でき、患者が搭載されたプレート台を少人数で簡単に移送できる。また、エアベアリング100は樹脂製であり、患者に照射する放射線等に対して何等の影響も与えない。
【0006】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、エアベアリング100は、各筒状部104の底面側の全面に亘って圧縮空気の噴射孔が形成されており、全噴射孔から圧縮空気を噴射することは困難であり、圧縮空気が噴射しない噴射孔が発生してプレート台108の浮上力が不十分となるおそれがある。全噴射孔から圧縮空気を噴射すべく、圧縮空気の圧力を高圧にすることは、溶着ライン102が剥離するおそれがある。
【0007】
また、例え、全噴射孔から圧縮空気が噴射されたとしても、
図13(b)に示すように、筒状部104の底面側の全面に亘って穿設された全噴射孔のうち、プレート台108の浮上力に寄与しないものがある。すなわち、プレート台108の浮上力は、プレート台108が載置されたベッドやストレッチャー等の載置部材の載置面110に沿っている筒状部104の底面部に穿設された噴射孔から噴射された圧縮空気によるものである。一方、載置面110から離れた筒状部104の周面部に穿設された噴射孔から噴射される圧縮空気は、プレート台108の浮上力に殆ど寄与せず無駄であり、騒音の原因ともなる。
【0008】
更に、載置面110に沿う筒状部104の底面部の噴射孔数は、筒状部104内及び/又は筒状部104間でバラツキが生じ、プレート台108に対する浮上力にバラツキが発生してプレート台108に傾斜が生じる等の不安定化するおそれがある。このプレート台108の不安定化を解消すべく、
図13(b)に示す外側の二本の筒状部104を内側の二本の筒状部104よりも幅広に形成することが考えられるが、幅の異なる筒状部104が混在することは、幅の異なる筒状部104の噴射孔からの圧縮空気の噴出程度が不揃いとなって却ってプレート台108を不安定化するおそれがある。また、外側の二本の筒状部104に噴射孔を穿設しないことも考えられるが、外側の二本の筒状部104の底面が載置面110と接触してプレート台108の移送ができ難くなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決し患者を乗せたプレート台を安定して移送でき、患者の検査や治療のために照射される放射線等に影響を与えることのない患者移送装置及びエアベアリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る患者移送装置は、患者を上面側に乗せるプレート台の下面側に、前記プレート台を含む部材が載置される載置部材の載置面の方向に圧縮空気を噴出して前記プレート台を浮上するエアベアリングが設けられ、前記エアベアリングは、供給された前記圧縮空気で膨出されたとき、前記載置面方向に膨出する底面部に前記圧縮空気を噴出する複数の噴射孔が穿設された噴射孔穿設領域が形成された少なくとも1個の樹脂フィルム製の袋状部と、前記袋状部よりも幅狭に形成され、前記袋状部に供給する前記圧縮空気で膨出する樹脂フィルム製の空気供給流路と前記袋状部及び前記空気供給流路の各々を、前記プレート台との間に挟み込むように設けられ、前記袋状部の前記噴射孔穿設領域に対応する箇所に開口部が開口されているカバー板とを具備し、前記袋状部及び前記空気供給流路が供給された圧縮空気により膨出したとき、前記カバー板と前記プレート台とに当接して前記膨出が制限される前記空気供給流路の下端よりも、前記カバー板の前記開口部から膨出する前記袋状部の前記噴射孔穿設領域が下方となることを特徴とするものである。
【0012】
前記プレート台の下面側に、複数個の前記袋状部と、前記袋状部の各々に前記圧縮空気を供給する前記空気供給流路が形成されていることにより、患者を載せたプレート台を更に安定して移送できる。
【0013】
前記空気供給流路は、前記袋状部に供給する前記圧縮空気により筒状に膨出することにより、空気供給流路の強度を向上できる。
【0014】
前記空気供給流路及び前記袋状部は、前記圧縮空気の供給が停止されたとき、平坦な形状となるものである。
【0015】
前記カバー板の前記開口部が、前記袋状部に前記圧縮空気が供給されたとき、前記噴射孔穿設領域が前記開口部から前記載置面方向に膨出するように、前記開口部の面積が前記穿設領域よりも大きいことにより、噴射孔穿設領域の全体がカバー板の開口部から膨出し、各噴射孔から確実に載置面に対して垂直方向に圧縮空気を噴射できる。
【0016】
前記プレート台に代えて、樹脂フィルムで形成された袋状気密部内に発泡樹脂ビーズが充填されたビーズバッグが用いられることにより、ビーズバッグは放射線を透過することができ、ビーズバッグの上面側に乗せた患者に対してビーズバッグの下面側から放射線を照射できる。
【0017】
前記ビーズバッグが、前記袋状気密部内の空気を吸排して形状を変更する吸引式ビーズバッグであることにより、患者の体形に合わせてビーズバッグの形状を変更できる。
【0018】
前記ビーズバッグ、前記袋状部及び前記空気供給流路が一体に形成されていることにより、これらの取り扱い性を向上できる。
【0019】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係るエアベアリングは、患者を搭載して移動するプレート台の下面側に設けられ、前記プレート台を含む部材が載置される載置部材の載置面の方向に圧縮空気を噴出して前記プレート台を浮上するエアベアリングが、供給された前記圧縮空気により前記載置面方向に膨出される底面部に前記圧縮空気を噴出する複数の噴射孔が穿設された噴射孔穿設領を有する少なくとも1個の樹脂フィルム製の袋状部と、前記袋状部よりも幅狭に形成され、前記袋状部に供給する前記圧縮空気で膨出する樹脂フィルム製の空気供給流路と、前記プレート台との間に、前記袋状部及び前記空気供給流路の各々を挟み込むように設けられ、前記袋状部の前記噴射孔穿設領域に対応する箇所に開口部が開口されているカバー板とを具備し、前記袋状部及び前記空気供給流路に圧縮空気が供給されて膨出したとき、前記カバー板と前記プレート台とに当接して前記膨出が制限される前記空気供給流路の下端よりも、前記カバー板の前記開口部から膨出する前記袋状部の前記噴射孔穿設領域が下方となることを特徴とするものである。
【0020】
前記袋状部が複数個形成されており、前記袋状部の各々に前記圧縮空気を供給する前記空気供給流路が形成されていることにより、プレート台を更に安定して移送できる。
【0021】
前記空気供給流路は、前記袋状部に供給する前記圧縮空気により筒状に膨出することにより、空気供給流路の強度を向上できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る患者移送装置によれば、エアベアリングを構成する袋状部及び空気供給流路が供給された圧縮空気で膨出したとき、プレート台が載置されているベッドやストレッチャー等の載置部材の載置面方向に膨出される袋状部の底面部に形成された噴射孔穿設領域の噴射孔から圧縮空気が噴射され、プレート台の浮上力として作用する。この際、膨出した袋状部の噴射孔穿設領域は、膨出した空気供給流路の下端よりも下方となっており、圧縮空気の噴射孔が穿設さていない空気供給流路がプレート台の載置面に接触することなく、患者が乗せられたプレート台の移送をスムーズに行うことができる。また、圧縮空気の噴射孔が形成された袋状部に圧縮空気を供給する空気供給流路は、袋状部よりも幅狭に形成され且つ噴射孔が形成されていないことから、空気供給流路の耐圧性を容易に向上でき、袋状部に形成されている噴射孔の各々から圧縮空気が十分に噴出されるように空気供給流路を介して袋状部内に十分な圧縮空気を供給できる。しかも、プレート台とカバー板とにより、空気供給流路の過度の膨出を防止でき、カバー板の開口部から膨出した袋状部の底面部に形成された噴射孔穿設領域を確実に空気供給流路の下端よりも下方にできるから、袋状部の噴射孔からベッドやストレッチャー等の載置部材の載置面に対して垂直方向に圧縮空気を噴出してプレート台を確実に浮上できる。尚、袋状部及び空気供給流路が共に放射線透過性の樹脂フィルム製であり、放射線照射の際に、エアベアリングによる影響は無視できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明を適用する患者移送装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明を適用する患者移送装置の組み立て図であって、プレート台の下面上に底面側を上に向けたエアベアリング及びカバー板を順次積層していることを示す。
【
図3】本発明を構成するエアベアリングの底面図である。
【
図4】
図3に示すエアベアリングに圧縮空気を供給したきの状態を説明する部分断面斜視図である。
【
図5】プレート台の下面側にエアベアリングとカバー板とが装着された状態を示す斜視図である。
【
図6】プレート台とカバー板との間に挟まれて装着されたエアベアリングに圧縮空気を供給したときの状態を説明する部分断面斜視図である。
【
図7】プレート台の下面側にエアベアリングが装着された患者移送装置による移送を説明する断面図である。
【
図8】本発明に適用できる他のエアベアリングを示す正面図である。
【
図9】本発明に適用できる他の患者移送装置の断面図である。
【
図10】本発明に適用できる他の患者移送装置の断面図である。
【
図11】本発明を適用できる他の患者移送装置の組み立て図であって、プレート台の下面上に底面側を上に向けたエアベアリング及びカバー板を順次積層していることを示す。
【
図12】本発明を適用できる他の患者移送装置の縦断面斜視図である。
【
図13】従来のエアベアリングの底面図及び従来の患者移送装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を施例するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明を適用する患者移送装置の一例を示す斜視図である。
図1に示すように上面10a側に患者Mが仰臥する長方形状のプレート台10の下面10b側に、エアベアリングがカバー板12で覆われて装着されている。
図1に示す患者移送装置は、
図2に示すように、プレート台10の下面10b上に底面側を上に向けたエアベアリング14及びカバー板12が順次積層されている。このエアベアリング14は、長方形状であって、プレート台10の下面10bとカバー板12との間に挟まれている。カバー板12には、患者Mの胸部及び脚部の各々に対応する箇所に長方形の開口部12aが開口されている。
【0026】
エアベアリング14は、
図3に示すように二枚の樹脂フィルム14a,14bから構成される長方形のものであって、その所定箇所が接合されて長方形の袋状部16A~16Dと袋状部16A~16Dの各々に圧縮空気を供給する空気供給流路18a~18cとが形成されている。袋状部16A~16Dは、同一の大きさであって、長方形のエアベアリング14がプレート台10に装着されたとき、患者Mの胸部及び脚部の各々に対応する箇所に形成されており、袋状部16A~16Dを形成する樹脂フィルム14aに多数の圧縮空気の噴射孔16aが穿設されている噴射孔穿設領域が形成されている。袋状部16A~16Dの各々は、圧縮空気入口21を残して、各辺を形成する接合部20で樹脂フィルム14a,14bが接合されて形成されている。また、空気供給流路18a~18cの各々は、その長軸に沿った両端部を形成する接合部20で樹脂フィルム14a,14bが接合されて形成されている。このようにして形成された空気供給流路18a~18cの各々は、袋状部16A~16Dの各々よりも幅狭であって、噴射孔16aは形成されていない。空気供給流路18aの一端に装着された供給口22から供給された圧縮空気は、
図3の矢印で示すようにエアベアリング14の中央部に長軸方向に沿って形成された空気供給流路18aを通過し、空気供給流路18aの他端に中途部が接続する空気供給流路18b,18bに分流される。分流された圧縮空気は、空気供給流路18bの各端に中途部が接続する空気供給流路18c,18cに分流されて袋状部16A~16Dの各々に各圧縮空気入口21から供給される。
【0027】
樹脂フィルム14a,14bの各々は、ナイロン等の化学繊維から成る布帛生地に、ウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂等の樹脂から成る薄膜をコーティングしたもの、或いは合成皮革を用いることができ、その厚さを50μm~1mmとすることが好ましい。このような樹脂フィルム14a,14bから構成されるエアベアリング14は、供給口22から圧縮空気が供給されると、空気供給流路18a~18c及び袋状部16A~16Dは膨出し、圧縮空気の供給が停止されると、薄く平坦な形状に復帰する。
【0028】
図3に示すエアベアリング14の樹脂フィルム14a側を下方に向けて供給口22から圧縮空気を供給したきの
図2のA-A面に相当する部分断面斜視図を
図4に示す。供給口22から空気供給流路18aに供給された圧縮空気は、空気供給流路18aを形成する樹脂フィルム14a,14bの間を通過し、袋状部16A,16Bの各圧縮空気入口21から袋状部16A,16Bを形成する樹脂フィルム14a,14bの間に供給され、袋状部16A,16Bの底面部に成された噴射孔穿設領域の多数の噴射孔16aから噴射される。このように圧縮空気が空気供給流路18a及び袋状部16A,16Bに供給されたとき、
図4に示すように空気供給流路18aは筒状に膨出する。袋状部16A,16Bも膨出し、袋状部16A,16Bの噴射孔穿設領域は、筒状に膨出した空気供給流路18aの下端よりも下方に位置する。尚、
図4からも明らかなように、空気供給流路18aと袋状部16A,16Bとは樹脂フィルム14a,14bを接合する接合部20で区切られている。
【0029】
図3に示すエアベアリング14は、
図2に示すようにプレート台10の下面10bとカバー板12との間に挟まれる。エアベアリング14とプレート台10の下面10bとは、エアベアリング14の
図3に示す接合部20で囲まれた四角形領域15,15及びT字状領域17が、粘着層がスポンジ材等の弾性部材を挟んで形成された厚地の両面テープ(以下、単に厚地両面テープと称する)を介して接合される。更に、エアベアリング14とカバー板12とも、エアベアリング14の
図3に示す接合部20で囲まれた四角形領域15,15とT字状領域17が厚地両面テープを介して接合される。この際、エアベアリング14とカバー板12とを、カバー板12に接合されたエアベアリング14の噴射孔16aが穿設された穿設領域の各々が、カバー板12の開口部12aに臨むように、位置調整する。また、プレート台10の下面10bとカバー板12とは、両者の周縁部が厚地両面テープで接合される。
【0030】
プレート台10の下面10bにエアベアリング14とカバー板12とが装着された状態を
図5に示す。
図5は、プレート台10の下面10b側からの斜視図である。
図5に示すように、カバー板12の各開口部12aに、エアベアリング14の噴射孔穿設領域が臨んでいる。
図5に示す状態のエアベアリング14に供給口22から圧縮空気を供給したときの状態を
図6に示す。
図6(a)は、
図5のX-X面での部分断面斜視図であって、エアベアリング14は
図2に示すA-A面に相当する部分である。プレート台10の下面10bとカバー板12とは、各々の縁部に沿って貼着された厚地両面テープ24a,24bで接合されている。空気供給流路18aを介して圧縮空気が供給された袋状部16A,16Bの各々は、袋状部16A,16Bを形成する樹脂フィルム14aがカバー板12の開口部12a方向に膨出し、樹脂フィルム14bがプレート台10の下面10b側方向に膨出する。これら膨出のうち、樹脂フィルム14bのプレート台10の下面10b側方向への膨出は、プレート台10の下面10bに当接して制限されるが、樹脂フィルム14aのうち、カバー板12の開口部12aに臨む噴射孔穿設領域の膨出は制限されず、噴射孔穿設領域はカバー板12よりも下方に膨出して、多数の噴射孔16aから圧縮空気を噴射する。一方、空気供給流路18aは筒状に膨出し、プレート台10の下面10b及びカバー板12に当接して、カバー板12よりも下方に膨出することはない。
【0031】
図6(b)は、
図5のY-Y面での部分断面斜視図であって、エアベアリング14は
図2に示すB-B面に相当する部分であって、袋状部16C,16Dに圧縮空気を供給する空気供給流路18c,18cのみが形成されている。プレート台10、エアベアリング14及びカバー板12のうち、プレート台10の下面10bとカバー板12とは、各々の縁部に沿って貼着された厚地両面テープ24a,24bで接合され、エアベアリング14とカバー板12、エアベアリング14とプレート台10とは、エアベアリング14のT字状領域17(
図3参照)の幅広部分に貼着された厚地両面テープ24c,24dで接合されている。圧縮空気が供給された空気供給流路18c,18cは筒状に膨出し、プレート台10の下面10b及びカバー板12に当接する。
【0032】
図6(c)は、
図5のZ-Z面での部分断面斜視図であって、エアベアリング14は
図2に示すC-C面に相当する部分であって、袋状部16C,16Dのみが形成されている。プレート台10、エアベアリング14及びカバー板12のうち、プレート台10の下面10bとカバー板12とは、各々の縁部に沿って貼着された厚地両面テープ24a,24bで接合され、エアベアリング14とカバー板12、エアベアリング14とプレート台10は、エアベアリング14のT字状領域17(
図3参照)の幅狭部分に貼着された厚地両面テープ24e,24fで接合されている。空気供給流路18C,18Cから圧縮空気が供給された袋状部16C,16Dの各々は、袋状部16C,16Dを形成する樹脂フィルム14aがカバー板12の開口部12a方向に膨出し、樹脂フィルム14bがプレート台10の下面10b方向に膨出する。これら膨出のうち、樹脂フィルム14bのプレート台10の下面10b方向への膨出は、プレート台10の下面10bに当接して制限されるが、樹脂フィルム14aのうち、カバー板12の開口部12aに臨む噴射孔穿設領域の膨出は制限されず、噴射孔穿設領域はカバー板12よりも下方に膨出して、多数の噴射孔16aから圧縮空気を噴射する。
【0033】
プレート台10の下面10b側にエアベアリング14が装着された患者移送装置による移送を、
図2に示すA-A面での断面図である
図7を用いて説明する。
図7に示すように患者Mを乗せたプレート台10、エアベアリング14及びカバー板12が載置部材26の載置面に載置された状態で、供給口22から圧縮空気がエアベアリング14内に供給されると、圧縮空気は空気供給流路18aを介して袋状部16A,16Bに供給され、袋状部16A,16Bを膨出する。特に、袋状部16A,16Bの底面部を形成する樹脂フィルム14aの各噴射穿設領域は、カバー板12の開口部12a,12aから載置部材26の載置面方向に膨出し、噴射孔16aの各々から圧縮空気がベッドやストレッチャー等の載置部材26の載置面に対して直角方向に噴射され、プレート台10を浮上する。噴射孔16aの各々から噴射された圧縮空気は、
図7に示す部分拡大図に示すように樹脂フィルム14aの噴射孔16aの穿設領域と載置部材26の載置面との間を流れて空気層を形成する。また、圧縮空気が供給された空気供給流路18aも筒状に膨出し、その下端がカバー板12に当接する。このようにカバー板12の開口部12aから下方に膨出した袋状部16A,16Bの噴射孔穿設領域は、膨出した空気供給流路18aの下端よりも下方となることから、空気供給流路18aが載置面と当接して患者Mを乗せたプレート台10の移送を妨げることなく、患者Mを乗せたプレート台10を小人数でスムーズに移送できる。尚、圧縮空気が供給された空気供給流路18b,18c及び袋状部16C,16Dにおいても、空気供給路16a及び袋状部18A,19Bと同様である。
【0034】
図2~
図7に示すエアベアリング14は、二枚の樹脂フィルム14a,14bから成る袋状部16A~16D及び空気供給流路18a~18cが一体に形成されているが、
図8(a)に示すように袋状部16A,16Bと空気供給流路18aとが切り離され、四角形領域15,15及びT字状領域17が切り抜かれたものであってもよい。また、
図8(b)に示すように直列に形成された袋状部16A,16Bが空気供給流路18d,18dで連結されている帯状のエアベアリング14が並列に設けられていてもよい。帯状のエアベアリング14は、袋状部16Aに直接圧縮空気が供給され、袋状部16Aから空気供給流路18aを介して袋状部16Bに圧縮空気が供給される。
【0035】
図2~
図8に示す二枚の樹脂フィルム14a,14bで形成されていたが、
図9に示すように一枚の樹脂フィルム14aでエアベアリング14を形成してもよい。
図9に示すエアベアリング14は、樹脂フィルム14aの所定箇所をプレート台10の下面10bに、厚地両面テープや面ファスナー、或いは接着や溶着によって接合して空気供給流路18a及び底面に噴射孔16aが穿設されている袋状部16A,16Bを形成した。
図9に示すエアベアリング14においても、空気供給流路18aは袋状部16A,16Bよりも幅狭に形成されており、圧縮空気が供給されて膨出した袋状部16A,16Bの噴射孔16aの噴射孔穿設領域は、供給された圧縮空気で膨出した空気供給流路18aの下端よりも下方に位置する。
【0036】
図2~
図9では、患者Mをプレート台10に乗せていたが、
図10に示すようにビーズバッグ30に患者Mを乗せることができる。ビーズバッグ30は、放射線透過性の樹脂フィルム32で形成された袋状気密部内に多数の発泡樹脂ビーズ34が充填されたものである。ビーズバッグ30の上面側の患者Mを乗せ、その下面側に樹脂フィルム14aで形成されたエアベアリング14が接合されている。このエアベアリング14は、
図9に示すものと同一であるので、詳細な説明を省略する。ビーズバッグ30にエアベアリング14を装着するには、樹脂フィルム14aの所定箇所を厚地両面テープや面ファスナー、或いは接着や溶着によってビーズバッグ30に接合できる。特に、ビーズバッグ30とエアベアリング14とを接着や溶着により一体化することが、両者の取り扱い性を向上でき好ましい。このようなビーズバッグ30及びエアベアリング14は放射線を透過でき、ビーズバッグ30の上面側に乗せた患者Mに対してビーズバッグ30及びエアベアリング14の下面側から放射線を照射できる。更に、ビーズバッグ30を、袋状気密部内の空気を吸排して形状を変更する吸引式ビーズバッグとすることにより、患者Mの体形に合わせてビーズバッグ30の形状を変更でき好ましい。
【0037】
これまで説明してきたエアベアリング14は、複数個の袋状部16A~16Dが設けられているが、
図11に示すエアベアリング50ように1個の袋状部52が設けられているものであってもよい。
図11は、本発明を適用する他の患者移送装置であって、底面を下向にしたプレート台40の下面40b上に、底面側を上に向けたエアベアリング50及びカバー板60が順次積層されている。
図11に示すエアベアリング50は、上面40aに患者Mが乗るプレート台40の下面40bとカバー板60との間に挟まれて装着される。エアベアリング50は、エアベアリング14と同様に、二枚の樹脂フィルム50a,50bから構成され、その外周縁が接合されて長方形の袋状部52と、袋状部52の空気入口57に一端が接続された空気供給流路54とが形成されている。袋状部52の樹脂フィルム14aに複数の圧縮空気の噴射孔52aが穿設された噴射孔穿設領域が形成されている。この袋状部52の圧縮空気入口57に一端が接続された袋状部52よりも幅狭の空気供給流路54の他端に圧縮空気を供給する供給口56が設けられている。
【0038】
このようなエアベアリング50は、プレート台40の下面40b側とカバー板60に挟まれて装着される。このカバー板60には、エアベアリング50の袋状部52に形成された噴射孔穿設領域と対応するように開口部62aが開口されている。エアベアリング50がプレート台40の下面40bにカバー板60との間に挟まれて装着された状態を
図12に示す。
図12は、プレート台40とカバー板60との間に挟まれたエアベアリング50の状態を示す縦断面斜視図である。
図12に示すエアベアリング50は、供給口56から圧縮空気を供給した状態である。プレート台40とカバー板60とは、その周縁部が厚地両面テープ64で接合されており、カバー板60の開口部62aに対応しているエアベアリング50の袋状部52の噴射孔穿設領域は、開口部62aから膨出し、噴射孔52aの各々から圧縮空気が噴射されている。この際、空気供給流路54も筒状に膨出するが、プレート台40とカバー板60とに膨出が制限されるから、袋状部52の噴射孔穿設領域は、筒状に膨出した空気供給流路54の下端よりも下方に位置する。尚、エアベアリング50の袋状部52の噴射孔穿設領域は、プレート台40の面積の1/1.25~1/15とすることが、プレート台40を安定とすることができ、移送をスムーズに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る患者移送装置によれば、患者を少人数で安全に簡単に移送でき、病院等での患者の移送の省力化を図ることができる。
【符号の説明】
【0040】
10,40,108:プレート台、10a,40a:プレート台の上面、10b,40b:プレート台の下面、12,60:カバー板、12a,62a:開口部、14,50,100:エアベアリング、14a,14b,32,50a,50b:樹脂フィルム、15:四角形領域、16A,16B,16C,16D,52:袋状部、16a,52a:噴射孔、17:T字状領域、18a,18b,18c,18d,54:空気供給流路、20:接合部、21,57:圧縮空気入口、22,56,106:圧縮空気の供給口、24a,24b,24c,24d,24f,64:厚地両面テープ、26:載置部材、30:ビーズバッグ、34:発泡樹脂ビーズ、102:溶着ライン、104:筒状部、110:載置面、M:患者