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特許7376077炭素質構造体の形成方法及び炭素質構造体を有する基体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】炭素質構造体の形成方法及び炭素質構造体を有する基体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20231031BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20231031BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231031BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20231031BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C01B32/168
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/159
C23C26/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019194828
(22)【出願日】2019-10-26
(65)【公開番号】P2021066642
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146732
【弁理士】
【氏名又は名称】横島 重信
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 学
(72)【発明者】
【氏名】栗原 正人
(72)【発明者】
【氏名】松井 淳
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0076974(US,A1)
【文献】特表2008-536710(JP,A)
【文献】特開2006-008473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体表面に炭素質構造体を形成する炭素質構造体の形成方法であって、
微小炭素体と分散媒を含む微小炭素体分散液が、当該分散媒を保持可能な多孔質膜と基体の間の少なくとも一部を充填してなる積層体を形成する積層体形成工程と、
上記多孔質膜及び/又は基体を介して上記分散媒の少なくとも一部を積層体外に取り出す分散媒除去工程を含むことを特徴とする炭素質構造体の形成方法。
【請求項2】
上記積層体が、上記微小炭素体分散液を吸引濾過して当該微小炭素体分散液を保持させた当該多孔質膜を基体と重ね合わせて形成されることを特徴とする請求項1に記載の炭素質構造体の形成方法。
【請求項3】
上記積層体が、上記微小炭素体分散液を吸引濾過して当該微小炭素体分散液を保持させた当該多孔質膜を、更に溶媒中に浸漬した後、基体と重ね合わせて形成されることを特徴とする請求項1に記載の炭素質構造体の形成方法。
【請求項4】
上記吸引濾過の過程において上記微小炭素体分散液に含まれる分散媒を他の分散媒に置換することを特徴とする請求項2又は3に記載の炭素質構造体の形成方法。
【請求項5】
前記分散媒除去工程は、上記多孔質膜の細孔を通して上記分散媒を蒸発させて行うことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の炭素質構造体の形成方法。
【請求項6】
請求項1~5に記載の炭素質構造体の形成方法において、更に形成された炭素質構造体から上記多孔質膜を除去する工程を含むことを特徴とする炭素質構造体の形成方法。
【請求項7】
前記多孔質膜を除去する工程は、当該多孔質膜を炭素質構造体から剥離することによって行うことを特徴とする請求項6に記載の炭素質構造体の形成方法。
【請求項8】
微小炭素体を含む炭素質構造体を有する基体であって、
当該炭素質構造体が、微小炭素体と分散媒を含む微小炭素体分散液が当該分散媒を保持可能な多孔質膜と基体の間の少なくとも一部を充填してなる積層体から、当該多孔質膜及び/又は基体を介して当該分散媒の少なくとも一部を積層体外に取り出す過程で形成されたものであることを特徴とする基体。
【請求項9】
上記微小炭素体はカーボンナノチューブを含み、上記炭素質構造体において当該カーボンナノチューブが相互に絡み合っていることを特徴とする請求項8に記載の基体。
【請求項10】
上記炭素質構造体が導電性を有することにより配線及び/又は電極として機能することを特徴とする請求項8に記載の基体。
【請求項11】
上記炭素質構造体の380nm~750nmの波長範囲における平均透過率が51.6%以上であることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質構造体の形成方法、及び炭素質構造体を有する基体に係るものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置等を含む各種半導体デバイスにおいては、デバイスを構成するトランジスタ、キャパシタ、光電変換等の各構成要素を電気的に接続するための配線層が必要とされる。従来、当該配線層は主に高い導電性を有する金、銀、銅、アルミニウム等の金属相を用いて形成されることが一般的であったが、近年では、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン等のように、炭素原子のsp結合によって形成される極微小な炭素繊維や炭素粒等の微小炭素体を用いてデバイス装置の配線層を形成する試みが広く行われている。
【0003】
また、特に上記CNTの先端部が非常に高い電界電子放出特性を有することを利用して、蛍光表示管、X線管、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等に用いる電界放出型冷陰極用の電極として、CNTを含む膜の使用が期待されている。更に、上記の微小炭素体の形状等を調整したり、炭素原子の一部を他の原子に置換することにより、それ自体を半導体の構成要素として使用することが期待されている。
【0004】
微小炭素体を用いてデバイス装置の配線層等を形成しようとする場合、当該微小炭素体含む炭素質膜等の構造体を、所定の基体表面の全面、又は一部に形成する炭素質構造体の形成工程が必要となる。
【0005】
基体の表面に上記炭素質構造体を形成する方法として、従来より、CNT等の微小炭素体を適切なバインダーと混合したペーストや、適切な分散媒に分散させた分散液を基体表面に塗布する印刷的な手法によって基材上に炭素質膜等の構造体を形成する方法等が検討されている。印刷的な手法によれば、炭素質構造体の形成プロセスを安定化し、低コスト化が可能であると考えられる。
【0006】
一方、CNT等の微小炭素体は一般に溶媒等に対する濡れ性が低いために高濃度の微小炭素体を含む分散液の生成が必ずしも容易でなく、また微小炭素体が各種の表面に固着した場合にはその脱離が困難となる等、CNT等の微小炭素体に固有の特性に起因する理由によって単純に印刷的な手法を用いることが困難であり、これを回避するための各種方法が検討されている。
【0007】
例えば、主に高濃度でCNT等を含む分散液の生成が困難である問題を回避するために、低密度のCNT分散液等をフィルターを用いて濾過することにより、フィルター表面にCNT等を堆積させて、これを目的とする基体表面に転写させることで、所望の炭素質膜を基体表面に形成する転写法が検討されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、FEDやキャパシタ等の構成要素として使用するために、CNTを主成分とする炭素質の固着予備体を濾紙上に堆積させ、当該固着予備体を平滑な金属面と重ねて荷重を加えながら加熱することで転写して、金属面に炭素質集合体を固着する方法が記載されている。また、特許文献2にも、CNT分散液を濾過することでCNTが堆積したフィルターを電子源用の金属基板に載せて加圧することで基板側へCNT膜を転写する方法が記載されている。また、非特許文献1には、CNT分散液を濾過してフィルター上に形成して乾燥させたCNT膜を、基板と接触させて加圧することで基板に密着させた後、CNT膜に固着したフィルターを有機溶剤で溶解して除去することにより、基板側へCNT膜を転写する方法が記載されている。
【0009】
また、分散媒等の形態を経由せずに、炭素質膜を形成したい基材表面に所定の金属触媒等を付着させ、当該金属触媒等を基点としてCNTを化学気相蒸着法(CVD法)等により成長させる方法や、予め合成したCNT等を静電気等の作用で基材に電着する方法の他、特許文献3には、気相中で成長したCNTをフィルター上に集めて構造体を形成し、当該構造体を基材上に転写することで透明導電膜を形成する技術が記載されている。また、非特許文献2では、気相中で成長したCNTをフィルター上に集めて固着予備体として、当該固着予備体を平滑な基板に押し付けた後で、フィルターを剥離することで基板上にCNT透明導電膜を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-272785号公報
【文献】特開2011-009131号公報
【文献】特開2014-044839号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Science、305、1273(2004)
【文献】Nano Letters、10、4349(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記説明したように、主にCNT等の微小炭素体が有する各種の特徴に起因して、当該微小炭素体を用いて基体上に炭素質構造体を形成する方法は必ずしも確立されていない。
【0013】
特に、微小炭素体等を揮発性の分散媒に分散した分散液を用いる各種の方法では、微小炭素体等を分散媒に高密度で良好に分散させることの困難に起因して分散媒の選択肢が限定される問題がある一方で、分散媒の種類によっては炭素質構造体が形成される基体表面との濡れ性が確保できず、基体表面の所定の箇所に分散液の液膜が均一に形成できない問題を生じる。
【0014】
更に、気相法によりフィルター上にCNT等を堆積させて予備成形体を形成し、これを基体に転写することで基体表面に炭素質構造体を形成する手法では、上記予備成形体が一般に低密度であるため、これを所定の圧力で基体に押し付けることで圧縮して炭素質構造体とする工程が必要になる。また、CNT等の微小炭素体の分散液を経由しない方法では、当該微小炭素体に付着した触媒等の除去や各種修飾等を行う機会が乏しいと共に、転写後に炭素質構造体等と固着したフィルターを良好に除去する工程にも問題が存在する。
【0015】
上記のように予めフィルター等の表面に低密度の予備成形体を形成し、これを転写することで炭素質構造体を形成する手法の問題点は、予め所定の半導体構造等が作製された基体上に配線層を形成する、いわゆるトップコンタクト構造を形成する際に顕著となる。つまり、当該手法を用いる際には、下地の半導体構造等を害しない分散媒の選択や予備成形体の適切な押圧方法が必要となり、炭素質構造体の形成工程を複雑にする問題が存在する。
【0016】
更に、CNT等の微小炭素体を使用して配線、透明導電膜、電極、半導体構造等の炭素質構造体を含む半導体デバイス等を形成しようとする際には、形成される炭素質構造体が所望の特性を示すことはもとより、当該炭素質構造体を形成する際に既に形成済みの構造を害する等がなく、更に低コストや高い生産性を確保する等、各種の半導体デバイスの構造やその製造工程に応じて様々なニーズが存在する。
【0017】
そして、上記ニーズに照らせば、既存の手法とは異なる新規な炭素質構造体の形成方法が提供されることにより、既存の半導体デバイス構造の形成を容易にし、また新規の半導体デバイス構造の形成を可能とすることが期待される。
【0018】
そこで、本発明は、特にCNT等の微小炭素体含む分散液を用いて炭素質構造体を形成する際の形成方法において、新規な炭素質構造体の形成方法を提供すると共に、当該形成方法により形成された炭素質構造体を有する基体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、基体表面に炭素質構造体を形成する炭素質構造体の形成方法であって、微小炭素体と分散媒を含む微小炭素体分散液が、当該分散媒を保持可能な多孔質膜と基体の間の少なくとも一部を充填してなる積層体を形成する積層体形成工程と、上記多孔質膜及び/又は基体を介して上記分散媒の少なくとも一部を積層体外に取り出す分散媒除去工程を含む炭素質構造体の形成方法を提供する。
【0020】
また、上記方法において、上記積層体が、上記微小炭素体分散液を吸引濾過して当該微小炭素体分散液を保持させた当該多孔質膜を基体と重ね合わせて形成される炭素質構造体の形成方法を提供する。
また、上記方法において、上記積層体が、上記微小炭素体分散液を吸引濾過して当該微小炭素体分散液を保持させた当該多孔質膜を、更に溶媒中に浸漬した後、基体と重ね合わせて形成される炭素質構造体の形成方法を提供する。
【0021】
また、上記方法において、上記吸引濾過の過程において上記微小炭素体分散液に含まれる分散媒を他の分散媒に置換する炭素質構造体の形成方法を提供する。
また、上記方法において、前記分散媒除去工程は、上記多孔質膜の細孔を通して上記分散媒を蒸発させて行う炭素質構造体の形成方法を提供する。
【0022】
上記方法に、更に形成された炭素質構造体から上記多孔質膜を除去する工程を含む炭素質構造体の形成方法を提供する。
また、前記多孔質膜を除去する工程は、当該多孔質膜を炭素質構造体から剥離することによって行う炭素質構造体の形成方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、微小炭素体を含む炭素質構造体を有する基体であって、当該炭素質構造体が、微小炭素体と分散媒を含む微小炭素体分散液が当該分散媒を保持可能な多孔質膜と基体の間の少なくとも一部を充填してなる積層体から、当該多孔質膜及び/又は基体を介して当該分散媒の少なくとも一部を積層体外に取り出す過程で形成された基体を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡便且つ効率的に炭素質構造体を形成可能である。また、特に下部に所定の構造が形成されることで凹凸を有する表面や、曲面に対しても良好に炭素質構造体を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】CNT水分散液を用いてCNT被膜を形成したPET基板である。
図1B】CNT水分散液を用いてCNT被膜を形成したPET基板である。
図2A】CNT水分散液を用いて形成されたCNT被膜のSEM像である。
図2B】CNT水分散液を用いて形成されたCNT被膜のSEM像である。
図2C】CNT水分散液を用いて形成されたCNT被膜の断面のSEM像である。
図3】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したPET基板である。
図4A】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したガラス基板である。
図4B】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したフッ素樹脂(Cytop)で被覆したガラス基板である。
図4C】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したポリシクロオレフィン樹脂である。
図4D】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したPTFE樹脂である。
図4E】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成した曲面のガラス表面である。
図4F】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したアルミホイル表面である。
図4G】CNTトルエン分散液を用いてCNT被膜を形成したゴム手袋(ニトリルゴム)である。
図5A】CNTとグラフェンのトルエン分散液を用いてCNTとグラフェンの混合被膜を形成したPET基板である。
図5B】CNTとグラフェンのトルエン分散液を用いてCNTとグラフェンの混合被膜のSEM像である。
図6】多孔質膜にしみ込んだ液滴の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明においては、液体と多孔質膜とが共存する際に観察される各種の挙動を利用して、上記微小炭素体を用いて炭素質構造体を形成することを特徴としている。
1,本発明における多孔質膜の使用について
本発明における多孔質膜は微小炭素体等の分散液を介して基体と積層体を形成することで、基体表面で分散液が液滴化等することを防止して略均一な膜厚で分散液を基体表面に分布させる機能を果たすと共に、分散液中の微小炭素体等を基体と多孔質膜間に閉じ込める役割を果たすものである。更に、分散媒が多孔質膜の細孔等を通じて基体と多孔質膜間から排出される過程で、多孔質膜が分散質を大気圧により等方的に圧縮する圧力媒体としての役割を果たすものである。
【0027】
各種の液体を基体表面に供給して略均一な膜厚を有する液膜を形成しようとする際の手段として、一般にスピンコート法や噴霧法等が使用される。本発明で使用する上記微小炭素体等を分散させた分散液についても、主にその分散媒を調整等することにより、スピンコート法等によって基体表面に均一な液膜を形成することが望まれる。
しかしながら、図6(a)に模式的に示すように、当該液体と基体表面間の濡れ性が低い場合には、当該液体の表面張力によって基体表面との接触面積を縮小すると共に、自己の表面積を最小化しようとする結果、当該液体は基体表面で液滴を形成し、結果として均一な液膜を形成することは困難である。この現象は、特に形成しようとする液膜が薄い際に顕著となる。
【0028】
一方、図6(b)に模式的に示すように、一定以上の濡れ性を有する多孔質膜に液体を滴下等した際には、いわゆる毛細管現象によって液体が多孔質膜内の細孔に浸透して充満し、且つ、多孔質膜表面には当該細孔内を充満する液体を繋ぐように液膜を生じ、全体として多孔質膜を包含する「膜状の液滴」となる現象が一般的に観察される。このように、多孔質膜に液体がしみ込むことで液体が呈する形態が変化し、多孔質膜の表面に略均一な厚みを有する液膜を形成して安定的に存在することは一般に観察される事項である。このように多孔質膜の全体又は一部を含んで安定的に薄膜状に広がって存在する液体の形態を、本明細書において「多孔質膜に濡れた液滴」等と呼ぶことがある。
【0029】
そして、例えば、撥水性の高いフッ素樹脂等の基体表面においては、水等の液体単独では表面に弾かれて液滴を形成する傾向を有するのに対して(図6(a))、十分な量の液体を含浸させて上記「多孔質膜に濡れた液滴」の形成された多孔質膜を当該表面上に設置した際には、当該多孔質膜等は当該液体を介して基体表面に密着して安定的に貼付されることも一般に観察される現象である(図6(c))。また、その際に、当該基体表面の形状等によらず、多孔質膜と基体表面の間に存在する液膜の厚さは略均一になることが観察される。
【0030】
本発明は、上記のような多孔質膜を濡らしている液体において見られる現象を利用して、基体との間で濡れ性の低い分散媒を用いた場合にも、基体表面において当該分散媒を含む分散液が液滴化することを防止し、所望の炭素質構造体を基体表面に形成するものである。
【0031】
つまり本発明はその一側面において、炭素質構造体を形成しようとする基体の表面に、当該炭素質構造体を構成する微小炭素体等を分散する分散液を介して多孔質膜を積層して積層体とすることで、分散液の表面張力によって多孔質膜を基体に密着させ、分散液と基体の濡れ性の良否に依らず略均一な厚みで分散液の液膜を基体表面に保持させることを特徴とする。
【0032】
また、その際に柔軟な多孔質膜を使用することで、基体表面に凹凸が存在したり、基体表面が曲面である場合でも、多孔質膜が分散液の表面張力によって自律的に変形することによって基体に密着して、基体が平面の時と同様に略均一な厚みで分散液の液膜を基体表面に保持することが可能となる。また、多孔質膜が分散液によって十分に湿潤されることによって、乾燥状態の場合と比較して多孔質膜の細かな皺や縮みなどが自律的に解消されるため、形成される炭素質構造体のムラや位置のずれ等を防止する点でも有効である。
【0033】
更に、分散液中の分散質である微小炭素体等が実質的に通過できない程度の大きさの細孔径を有する多孔質膜を用いることによって、微小炭素体等を実質的に基体と多孔体膜間に閉じ込めることが可能となり、その後の炭素質構造体の形成を容易にする点でも有効である。
【0034】
本発明は他の一側面において、上記微小炭素体等を分散する分散液を介して基体と多孔質膜が積層した積層体において、例えば、多孔質膜の裏面側から分散液に含まれる分散媒を徐々に蒸発等させることにより、基体と多孔体膜間に存在する分散媒が多孔体膜の細孔を通じて吸い出される結果、基体と多孔体膜間の距離を縮小させることを特徴とする。そして、この過程において、基体と多孔体膜間に存在する分散質である微小炭素体等が基体と多孔体膜間で圧縮されて凝集する結果として、炭素質構造体を形成することができる。
【0035】
上記の微小炭素体等を基体と多孔体膜間で圧縮する力は、柔軟な多孔質膜を介して大気圧が等方的な静水圧として作用するものであり、基体の表面形状によらず均一に作用し、特にトップコンタクト構造における上部電極の形成を行う際にも、基体表面に予め構成された構造を破壊等するおそれがない点で有効である。
【0036】
2,本発明に係る炭素質構造体の形成方法
(1)本発明で使用する微小炭素体について
本発明で炭素質構造体を形成するために使用される微小炭素体として、工業的な手法によって微細で均質な微小炭素体が得られるCNT、グラフェン、フラーレン等の微小炭素体が好ましく使用される。当該CNT等は、炭素原子によって形成される六角形格子構造を基本として、当該構造が単層又は数層組み合わされることで特有の二次構造を有するものであり、特異な化学的、物理的特徴を有する。特に、CNT、グラフェンが有する極めて高い導電性や、CNTの一部やフラーレンの一種が示す半導体としての性質を利用することで、特色のある炭素質構造体が形成可能となる。一方、上記CNT等の微小炭素体が極めて高い比表面積を有すること等に起因して、印刷法的な手法によって炭素質構造体を形成する過程に各種の困難性が存在する。
【0037】
本発明では、除去が比較的容易な揮発性を有する溶媒を分散媒として、上記のような微小炭素体等を分散させた分散液を予め生成させ、各種の微小炭素体の表面を分散媒によって覆った状態で取り扱うことによって、微小炭素体同士や、微小炭素体と接触する多孔質膜等に強く固着する等の微小炭素体が示す各種の特徴の発現を抑制しながら、溶液プロセスで印刷法的な手法によって炭素質構造体を形成するものである。
【0038】
(2)分散液について
本発明により基体上に炭素質構造体を形成する工程においては、まず炭素質構造体を形成可能な微小炭素体等を適宜の分散媒に分散した分散液が作製される。なお、本発明において分散とは、分散質が分散媒中に浸漬していることによって分散質の表面が分散媒に覆われていればよく、その範囲で分散質間や分散質と多孔質膜等の間で容易に再分散が可能な程度で凝集を生じている状態を含むものとする。つまり、本発明における分散液は、超音波や撹拌処理等により均一化された後、分散媒中の分散質である微小炭素体等が所定の時間に亘って略均一に存在可能であれば良く、分散媒中において分散質が実質的な相互作用を示さずに安定して分散する分散液の他に、当該分散媒を撹拌等した後に長時間の静置した際に分散質が沈殿を生じるようなものであってもよく、分散質が分散媒中において容易に再分散が可能な状態で沈殿等しているものも含むものとする。当該分散液中に保持することで微小炭素体等の表面が分散媒で覆われることにより、微小炭素体間や、多孔質膜や基体表面と微小炭素体との間での強固な固着等を生じ難くすることが可能である。
【0039】
本発明において、炭素質構造体を形成するために使用される微小炭素体の構造等は特に限定されず、超音波や撹拌処理等によって分散媒中に所定の時間に亘って略均一に存在可能な範囲で、目的とする炭素質構造体に応じて適宜決定することが可能である。当該微小炭素体として、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、フラーレン等が例示される。
【0040】
また、必要に応じて分散媒との親和性を高めて分散を容易にするための界面活性作用を有する助剤等を用いることにより、当該微小炭素体を分散媒中に分散して使用することができる。例えば、上記CNTを微小炭素体として使用する場合には、その界面活性効果が既に知られているドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、TritonX-100、ポリビニルピロリドン等の界面活性剤を用いることができる。また、クレゾール等の芳香環等を有する炭素質化合物を用いることで、高濃度で適宜の分散媒中に高濃度でCNTを分散可能となる。また、塩化スルホン酸などの酸性液体を用いることで、高濃度でCNTを分散可能となる。更には、アルカリ金属塩やアンモニウム塩を分散助剤として使用し、アルコール等へのCNTの分散性を向上してもよい。
【0041】
また、本発明で使用する微小炭素体は必ずしも高純度の炭素からなるものである必要はなく、目的とする炭素質構造体に応じて、各種の添加物や不純物を含むものであっても良い。また、本発明で用いる上記の分散液中には、目的とする炭素質構造体に応じて、微小炭素体以外の成分を混合することが可能である。
【0042】
本発明で用いる上記の分散液中の微小炭素体の密度は、使用する微小炭素体や分散媒の種類等に応じて、また形成しようとする炭素質構造体の構造や、炭素質構造体を形成する際の具体的な手段等に応じて適宜決定することが可能であり、例えば、5、0.1、0.01、0.001wt%等が例示的に挙げられる。また、特に、多孔質膜としてメンブレンフィルター等を使用し、吸引濾過等の手段によって多孔質膜上で微小炭素体を濃縮する場合には、更に希薄な密度で微小炭素体を含む分散液を使用することができる。
【0043】
また、本発明で用いる上記の分散液を構成する分散媒は特に限定されず、トルエン、クロロベンゼン、エタノール、2-メトキシエタノール、エチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ヘキサン、オクタン、テルピネオール、γ―ブチロラクトン、クロロホルム、DMF、DMSO、THF、水、等の溶媒を主成分とすることが可能であり、使用する上記界面活性剤や、主に基体に起因する要請(基体との濡れ性、基体に対する浸食性等)、溶媒を除去する際の揮発性等を考慮して適宜決定することができる。
【0044】
更に、炭素質構造体が形成される基体に起因する要請を実現するために、例えば、微小炭素体等の分散液を多孔質膜上で濾過して微小炭素体等を富化した後に、吸引等の方法でその分散媒を除去しながら他の分散媒を供給する等の方法で分散媒を置換した後に、基体と重ね合わせて積層体としても良い。
【0045】
(3)本発明で使用する多孔質膜について
本発明において使用する多孔質膜は、その表面と裏面間を連通する細孔を内部に有すると共に、上記分散液中の分散媒を保持可能なものであれば適宜使用することが可能である。特に、適宜の溶媒等に浸漬した際に当該溶媒に対して良好な濡れ性を示すと共に、柔軟であることによって、各種凹凸等を有する基体に対しても濡れた状態で貼付された際に容易に隙間なく密着可能である多孔質膜が好ましく使用される。
【0046】
図6(b)に模式的に示すように、微細な連通細孔を有する多孔質膜を溶媒に浸漬する等して多孔質膜を濡らした際には、いわゆる毛細管現象によって液体が多孔質膜内の細孔に浸透して充満し、且つ、多孔質膜表面には当該細孔内を充満する液体を繋ぐように液膜を生じ、全体として多孔質膜を包含する膜状の「多孔質膜に濡れた液滴」が生成する。
【0047】
本発明において、上記分散媒を保持可能な多孔質膜とは、当該多孔質膜に含まれる連通細孔の径が十分に小さいことにより、上記「多孔質膜に濡れた液滴」を形成する液が重力のみの作用によっては当該多孔質膜を脱しないことを意味するものとする。本発明においては、分散液を介して当該分散媒を保持可能な多孔質膜と基体が積層した積層体を形成することによって、特に当該多孔質膜の表面から分散媒を蒸発等によって除去する過程で、大気圧によって多孔質膜と基体間の間隔が縮小され、分散質である微小炭素体の圧縮を生じさせることができる。
【0048】
当該「多孔質膜に濡れた液滴」が形成された多孔質膜の上面には、当該液滴(分散媒)が有する表面張力によって、主に多孔質膜の細孔径等に応じた厚みの液相を保持可能である。一方で、例えば、吸引濾過において行われるように、多孔質膜の表裏面間に圧力差を設けたり、多孔質膜に乾いた濾紙等を接触させることで、当該液相は多孔質膜の連通細孔を通じて吸引除去が可能である。
【0049】
そして、上記分散媒を保持可能な多孔質膜として、特に分散液中の分散質が通過できない程度の細孔径のものを使用することで、分散液に含まれる分散質を主に多孔質膜の上面側(分散液を供給した面)に保持させることができる。この状態において、当該多孔質膜は、主に分散媒の表面張力等によって、その上面側(分散液を供給した面)に分散液を保持する容器と見なすことが可能である。
【0050】
上記分散媒を保持可能な多孔質膜として、一般に濾過を行う際のフィルターとして用いられている多孔質膜を好適に使用することができる。特に、各種繊維を固めて形成される通常の濾紙と区別して一般にメンブレンフィルターと呼ばれるような、主にフィルターの表面で濾過物を保持可能なフィルターを用いることで、多孔体膜の表面側のみに微小炭素体を保持することが可能になる点で好ましい。
【0051】
好適に使用されるメンブレンフィルターとしては、分散媒として使用する溶媒等に応じて、主にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPVDF(ポリビニリデンフロライド)、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリカーボネート等による構成されるものであって、その孔径が8以下、0.5以下、0.1以下、0.025μm以下等のものを適宜使用することができる。
【0052】
(4)多孔質膜/分散液/基体からなる積層体の形成について
高い密度で微小炭素体を含む分散液を用いる場合には、多孔質膜に当該分散液を滴下、スピンコート、噴霧する等の他、多孔質膜を分散液に浸漬する等、適宜の手段によって炭素質構造体を形成するために十分な密度で多孔質膜に微小炭素体が供給可能であり、分散液を保持した多孔質膜の面に基体を重ね合わせることにより、分散液を介して基体と多孔質膜の積層体が形成される。或いは、基体表面に分散液を滴下等した際には、当該基体の表面に多孔質膜を重ね合わせることにより、分散液を介して基体と多孔質膜の積層体が形成される。その際に、分散液を滴下した基体表面に積層される多孔質膜として、予め適宜の溶媒を浸透させた多孔質膜を用いることは、基体と多孔質膜間の分散液の欠乏を防ぎ良好な積層体を形成する点で有効である。
【0053】
一方、低い密度で微小炭素体等を含む分散液を用いる場合には、多孔質膜を濾過膜として使用し、当該分散液を吸引濾過等することによって多孔質膜上に必要量の微小炭素体等を濃縮させた後、多孔質膜の当該微小炭素体等が存在する側の面(主に上面)に基体を重ね合わせることにより、分散液を介して基体と多孔質膜の積層体が形成される。
【0054】
多孔質膜上に微小炭素体等を濃縮する手段としては、当該多孔質膜に差圧を設けることによる吸引濾過の他、当該多孔質膜の裏面に濾紙等を重ねて分散媒の表面張力を利用して分散液中の分散媒を除去する方法、分散液を供給した多孔質膜上から所定の割合で分散媒を蒸発させる等、適宜の手段を用いることができる。
【0055】
上記のように、低い密度で微小炭素体等を含む分散液を用いて、吸引濾過等によって多孔質膜上に必要量の微小炭素体等を濃縮させた場合には、多孔質膜上に均一な密度で微小炭素体等を濃縮させることが可能である。また、特に吸引濾過等の過程を経ることで、例えば、CNTでは繊維どうしの絡み合い等による凝集を通じて、微小炭素体等を多孔質膜の表面に均一に弱く吸着等させることが可能であり、その後の工程で、この凝集した微小炭素体等の流失等を防止できる点でも好ましい。また、形成する炭素質構造体の構造体に応じて、複数種の分散液を順次用いることによって、各種の積層構造をする炭素質構造体を形成することが可能である。
【0056】
過度の分散媒の除去により分散液中の微小炭素体等が乾燥した際には、微小炭素体等が多孔質膜に密着し、その後の基体表面への炭素質構造体の形成が困難となる。このため、微小炭素体等が湿潤した状態を保持するために、上記分散液の吸引濾過は適当量の分散媒が残留した状態で終了することが好ましい。
【0057】
また、分散液に含まれる分散媒とは異なる分散媒への置換や、微小炭素体等に付着した不純物等の除去が必要な場合には、上記吸引濾過の過程で適宜の溶媒を分散液側に追加することが有効である。この時、上記のように分散液の吸引濾過によって微小炭素体等を多孔質膜の表面に均一に弱く吸着等させることが可能であるため、吸引濾過後に置換することによって使用する微小炭素体の分散性が低い溶媒を使用することが可能となる。
【0058】
上記のように、分散液の吸引濾過等によって微小炭素体等を濃縮させた多孔質膜を、その後に適宜の溶媒中に浸漬したり、スプレー法によって溶媒を供給することで多孔質膜に十分な量の分散媒を含ませることで、多孔質膜に生じたシワや縮みを解消することが可能であり、また基体と積層する際にも潤滑作用を生じるため、良好な積層を容易にする点で好ましい。
【0059】
そして、分散液を保持した多孔質膜の面に基体が重ね合わされる(又は、分散液を保持した基体面に多孔質膜が重ね合わされる)ことで、いわゆる毛細管現象によって分散媒が多孔質膜と基材間で気相を排除しながら拡張することで多孔質膜と基材間を充填し、分散媒の種類等によって定まる厚さの液相を介して多孔質膜/液相(分散液)/基材から構成される積層体が形成される。当該積層体においては、多孔質膜が柔軟であることによって、多孔質膜と基体間の分散液内に大気圧に等しい大きさの等方的な静水圧を生じることとなる。
【0060】
なお、上記重ね合わせの工程においては、多孔質膜と基体の間に意図しない気相(泡)が残留したり、多孔質膜にシワが生じたりしないようすることが有効であり、必要に応じて分散液の液膜が切れない程度の範囲で多孔体膜を基体側に押しつける等により、多孔質膜と基体に分散液が良好に充填されるようにしても良い。
【0061】
分散液を介して多孔質膜と基体を重ね合わせた積層体においては、多孔質膜と基体間の少なくとも一部が分散媒(液相)で満たされており、微小炭素体等の分散質が当該分散媒中に浸漬されて存在することが、以下に説明するように当該分散媒の除去過程において微小炭素体等を圧縮、凝集させて炭素質構造体を形成するために望ましい。
【0062】
例えば、微小炭素体等を用いて透明導電膜等の薄膜状の炭素質構造体を形成する際には、微小炭素体等の単位面積当りの量が少ないため、一般には微小炭素体等を溶媒の表面張力により形成される液膜中に保持可能であり、その状態で重ね合わせを行うことで好ましい積層体を形成可能である。
【0063】
一方、CNT等からなる放電電極等を形成する等、単位面積当りの微小炭素体等の量が多い場合には、分散液(分散媒)の流出を防止する手段を適宜用いることで微小炭素体等を十分に浸漬可能な量の分散媒を保持した状態で積層体を形成することが好ましい。
【0064】
上記積層体において、基体の全面に微小炭素体等を含む分散液が接するようにすることで、基体の全面に均一な炭素質構造体が形成可能である。
一方、基体表面の一部に炭素質構造体を形成する際には、予め基体表面にレジスト等を用いたマスク層を形成することで分散液が接触する箇所を制限したり、各種の表面修飾によって基体表面の所定の箇所に微小炭素体等を結合し易くする(又は、微小炭素体等を結合し難くする)等によって、基体表面の所定の箇所に炭素質構造体を形成することができる。
【0065】
又は、多孔質膜の所定の領域の細孔を閉じる処理を行った後に分散液の吸引濾過等を行ったり、多孔質膜上に分散液を用いて所定の描画を行う等により、多孔質膜面上に微小炭素体等のパターニングを行った状態で基体と積層することによっても基体表面の所定の箇所に炭素質構造体を形成することができる。
なお、上記分散液を介して多孔質膜と基体が積層した積層体においては、分散液は多孔質膜と基体間の全面を充填させてもよく、炭素質構造体を形成する箇所を部分的に充填してもよい。
【0066】
分散液を介して多孔質膜と基体を重ね合わせた積層体において、分散液層は一般に1~1000μm程度の厚みとすることが可能である。当該分散液層の厚みは本発明で使用される微小炭素体等と比べて十分に広い空間であり、分散質は分散媒中においてと同様に挙動するものと考えられる。そして、この分散液層を反応容器として、当該分散液中に微小炭素体等と所定の反応を生じる物質を介在させることにより、その後に形成される炭素構造体に各種の機能を付与等すること等も可能である。
【0067】
(5)積層体からの分散媒の除去等について
上記のようにして形成された多孔質膜/分散液/基体からなる積層体において、主に多孔質膜の外側の面内から分散媒を除去することにより多孔質膜と基体間の間隔が縮小し、その過程で分散液中の微小炭素体等が等方的な静水圧によって圧縮され、炭素質構造体が形成される。
【0068】
積層体からの分散媒の除去は、例えば、当該積層体の多孔質膜を上側にして静置等することで、多孔質膜の外側の面から分散媒を蒸発させる等により行うことができる。また、その際に積層体を分散媒の沸点以下の適宜の温度に加熱等することで、積層体からの溶媒の除去速度を向上することができる。また、積層体の多孔質膜の面に濾紙等の溶媒を吸収する吸収材を接触させたり、負圧を適用したりすることで、溶媒を積層体から除去してもよい。その際に、必要に応じて積層体を外部から押圧することも可能である。
上記積層体からの分散媒の除去は、多孔質膜を通じて行うものに限定されず、例えば、基体側に通気孔を設けたり、基体に分散媒を吸収させること等により基体の側から行うことも可能である。
【0069】
上記分散媒を除去する工程においては、最初に多孔質膜の外側の面に存在する液膜の体積が減少する。そして、多孔質膜の表面に存在する液膜は、その表面張力の要請によってその膜厚を一定以上に維持しようとする力を生じるために、多孔質膜内の連通細孔内に存在する分散媒を吸引することとなり、結果として多孔質膜と基体の間に存在する分散媒が多孔質膜の外側の面に移動することで、等方的な静水圧によって多孔質膜と基体間の距離が縮小される。
【0070】
上記の機構による多孔質膜と基体間の距離の縮小は、分散媒の総体積の減少により多孔質膜と基体間の液膜が分断されるまで継続する結果、その過程で多孔質膜と基体間に存在する分散質が多孔質膜と基体とによって挟み込まれて接触し、その後に分子間力等によって多孔質膜や基体の表面に固着すると考えられる。
【0071】
上記多孔質膜等の面内からの液相(分散媒)の蒸発を十分に行った後、或いは、実質的に蒸発が完了した後、必要に応じて、適宜の手段で基体から多孔質膜を除去することにより、微少炭素粒等の分散質が炭素質構造体として表面に固着した基体が得られる。多孔質膜の除去は、上記で形成された炭素質構造体の表面から多孔質膜を剥離して除去することが最も簡便である。一方、多孔質膜を適宜の溶媒等で溶解して除去することにより、形成された炭素質構造体の損傷等を防止することができる。
【0072】
上記等方的な静水圧によって微小炭素体等が圧縮されて形成される炭素質構造体に接する多孔質膜/基体の表面は、共に当該多孔質膜/基体の材質等に対応した所定の分子間力等によってそれぞれ炭素質構造体と固着しているものと考えられる。一方、当該多孔質膜においては、その多孔質構造に起因して当該炭素質構造体に接する実効面積が小さいために炭素質構造体に対する接着力が小さい結果、多孔質膜を剥離した際にも微小炭素体等の大きな割合が基体表面に炭素質構造体として固着すると考えられる。また、分散質との親和性を考慮して多孔質膜や基体の材質や表面を調整することによっても、分散質を有効に基体表面の側に炭素質構造体として固着させることが可能である。
【0073】
上記のように、多孔質膜と基体間に存在する分散液を構成する分散媒の表面張力等に起因する等方的な静水圧によって当該分散媒中に存在する分散質を凝集して圧着させる手法においては、例えば、濾紙等に堆積させた微小炭素体等を基体に押圧して転写する方法と比較して、以下のような利点が存在する。
【0074】
微小炭素体等を分散液中の分散質として表面を分散媒で覆った状態で取り扱うため、他の物質との相互作用が強く容易に固着を生じる物質についても、望ましくない固着等の発生を回避しながら、基体表面上に均一に炭素質構造体として固着・成形することができる。
【0075】
また、所定の柔軟性を有する多孔質膜を用いることで、基体の全面に亘って同一の圧力条件で分散質の固着が行えるため、面積の大きい基体に対しても高い均一性で炭素質構造体が形成可能である。特に基体表面に凹凸が存在したり、基体が曲面を有する場合にも均一な圧力状態で微小炭素体等を固着させて炭素質構造体が形成可能である。また、乾燥したフィルターを基体に押し付ける工程においては、フィルターに生じる局所的な皺や縮み等により転写の位置ズレ等が生じ易いのに対して、分散液で十分に湿潤した多孔質膜と基体間で微小炭素体等を等方的な静水圧によって圧縮する方法では、多孔質膜の皺や縮み等が自律的に解消されると共に、多孔質膜と基体間でのズレを生じにくいため、良好な炭素質構造体の形成が可能である。
【0076】
更に、例えば、各種半導体デバイスの製造工程において、いわゆるトップコンタクト構造により、既に下部に形成された各種構造の表面に微小炭素体等を用いた配線などを形成する際には、溶解等によって当該下部構造に影響しない分散媒を選択すれば、実質的な加圧を生じることなく炭素質構造体を形成できるため、下部構造の破壊等を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
以下、実施例を用いて本発明に係る方法について、より詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は本発明の一形態であって、本発明は当該実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0078】
以下のようにして、炭素質構造体の一例であるCNT被膜をPET基板上に形成した。微小炭素体として、水に分散した単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン製、eDIPS INK(EC-DH))を使用した。
【0079】
上記CNT水分散液1.0mLに蒸留水0.5mLを加えて濃度調整し、多孔質膜としてのPTFE製メンブレンフィルター(ミリポア JGWP02500、25mmφ、ポアサイズ0.2μm)を浸漬してCNT水分散液を十分に含浸させた。次に、CNT水分散液の含浸した当該フィルターをCNT水分散液から取り出して、速やかに乾燥したPET基板上に貼付した。PET基板上に貼付されたフィルターは、CNT水分散液を介してPET基板表面に全面で密着した。
【0080】
その後、当該PET基板をホットプレート上に載せて90℃に加熱・保持することで、CNT水分散液中の水を蒸発除去した。水の蒸発除去に伴って、フィルターは半透明の状態からグレーの不透明へと変化した。なお、フィルターをPET基板上に貼付して水を蒸発除去する過程で、特にフィルターを押圧する等の操作は行わなかった。水を蒸発除去した後、フィルターをPET基板から剥離することで、PET基板表面にフィルターと同形状の黒色/半透明の被膜が観察された。
【0081】
図1Aには、上記PET基板表面に観察された黒色/半透明の被膜の写真を示す。当該黒色/半透明の被膜が付着したPET基板の透過スペクトルを測定(島津UV-2700、可視光域380nm~750nm)した結果、平均透過率は51.6%であった。また、面抵抗を測定(協和理研K-705RS)した結果、面抵抗は60.8Ω/□であり、高い導電性を示した。
【0082】
上記面抵抗の測定結果等から、フィルターを剥離後にPET基板表面に観察された黒色/半透明の被膜は、フィルターに付着したCNT水分散液中のCNTがPET基板表面に凝集して密着したCNT薄膜と考えられた。
【0083】
上記工程によってPET基板表面にCNT薄膜が形成される機構は以下のように考えられる。つまり、CNT水分散液を介してフィルターがPET基板表面に密着して積層した状態で分散媒(水)をフィルター面を介して蒸発除去することで、フィルターとPET基板の間隔が縮小してCNTがフィルターと基材間で圧縮・乾燥され、CNT間の分散媒を介さない直接的な接触や、CNTとPET基板表面間での直接的な接触を生じることにより、CNTがPET基板表面に凝集して密着したと考えられる。
【実施例2】
【0084】
CNT水分散液(名城ナノカーボン製、eDIPS INK(EC-DH))を用いて、転写法により炭素質構造体の一例としてCNT被膜を形成した。
上記CNT水分散液1.0mLを9.0mLの蒸留水で希釈し、その希釈液20μLを5.0mLの蒸留水でさらに希釈して濃度調整したCNT水分散液を得た。当該CNT水分散液をPTFE製メンブレンフィルター(ミリポア JGWP02500、25mmφ、ポアサイズ0.2μm)を使って、フィルター上の分散液が無くなる直前まで吸引濾過することでフィルター上にCNTを濃縮した。次に、CNTに付着している分散剤(界面活性剤)を洗浄・除去する目的で、フィルター上に適当量の蒸留水を供給して吸引濾過する工程を3回繰り返し、最後にフィルター上の分散液が無くなる直前で吸引濾過を終了した。
【0085】
その後に、フィルターを吸引濾過器から取り出し、これを水浴に浸漬することでフィルターに十分な吸水をさせてシワや縮み等を解消した後に、速やかに乾燥したPET基板上に貼付した。PET基板上に貼付されたフィルターは、CNT水分散液を介してPET基板表面に全面で密着した。その後は、実施例1と同様に90℃に保持したホットプレート上で水を蒸発除去した後、メンブレンフィルターを剥離することで、PET基板表面に黒色/半透明の被膜を形成した。
【0086】
図1Bには、上記で形成した黒色/半透明の被膜の写真を示す。希薄なCNT分散液を用いて吸引濾過によりフィルター上にCNTを濃縮したことで、実施例1と比較して、より均一性の高い被膜が得られた。上記と同様に測定した当該被膜の付着したPET基板の平均透過率は80.8%であった。また、面抵抗は233Ω/□であり、CNTが凝集してPET基板表面に密着したCNT被膜と考えられた。
【0087】
なお、上記実施例によりCNT被膜を形成する過程で、CNT水分散液を吸引濾過してメンブレンフィルター上にCNTを濃縮する工程を経た際に、分散液中のCNTは何らかの機構によりフィルター表面に弱く吸着しているものと考えられる。このことは、当該CNTを濃縮したフィルターを水浴に浸漬した際に、実質的にCNTがフィルター表面に残留することによって裏付けられる。
【0088】
一方、当該CNTを濃縮したフィルターを用いて実施例1と同様の操作によってPET基板表面にCNT被膜が形成されたことから、上記吸引濾過によって生じたCNTのフィルター表面への吸着は比較的弱い力によるものであって、その後の過程において容易にCNTがPET基板表面に密着してCNT被膜を形成すると考えられた。
【実施例3】
【0089】
微小炭素体として、スーパーグロース法で製造された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(ZEON ZEONANO SG101)を用いて、炭素質構造体の一例としてCNT被膜を形成した。
CNTを水中に分散させるための界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム(関東化学 特級)50mgを溶かした蒸留水5.0mLに、上記単層カーボンナノチューブ(ZEON ZEONANO SG101)0.50mg加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON SONIFIER 250)を用いて1時間の超音波処理をすることでCNT水分散液を得た。
【0090】
上記CNT分散液60μLを5.0mLの蒸留水で希釈して得たCNT水分散液を使用した以外は、実施例2と同様の方法の操作を行ってPET基板上にCNT被膜を形成した。上記と同様に測定した当該CNT被膜が付着したPET基板の平均透過率は79.1%であり、また、面抵抗は2.56kΩ/□であった。
【実施例4】
【0091】
微小炭素体として、eDIPS法で製造された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(大阪ソーダ株式会社製、炭素純度>99%、中心直径1~3nm)を用いて、炭素質構造体の一例としてCNT被膜を形成した。
界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム500mgを溶かした蒸留水5.0mLに、上記単層カーボンナノチューブ(大阪ソーダ株式会社製)0.50mgを加えて、超音波ホモジナイザーで1時間の超音波処理をして得たCNT水分散液80μLを5.0mLの蒸留水で希釈して得たCNT水分散液を使用した以外は、実施例2と同様の方法の操作を行って、PET基板上にCNT被膜を形成した。上記と同様に測定した当該CNT被膜が付着したPET基板の平均透過率は74.5%であり、また、面抵抗は270Ω/□であった。
【0092】
上記実施例1~4の結果から、異なる製造法によって製造されることで異なる性状を有するCNTを用いた場合にも、本発明によって基体上にCNT被膜が形成可能であることが示される。
【実施例5】
【0093】
実施例3,4で形成されるCNT被膜の微細構造を以下のようにして確認した。
実施例3,4と同様に分散液を作製し、フィルター上への吸引濾過等を経てCNT被膜をガラス基板上に形成した。形成されたCNT被膜を、走査型電子顕微鏡(日本電子JSM-7600F)で観察した。
【0094】
図2Aにはスーパーグロース法で製造されたCNT(実施例3)により形成した被膜、図2BにはeDIPS法で製造されたCNT(実施例4)により形成した被膜のSEM像をそれぞれ示す。いずれのCNT被膜においても、繊維状のCNTが相互に絡まり、基板表面に固着していることが確認された。
図2Cには、上記図2Bに示したCNT被膜を形成したガラス基板の断面のSEM像を示す。実施例4で基板上に形成されるCNT被膜の厚みは50nm程度であることが確認された。
【実施例6】
【0095】
微小炭素体として、スーパーグロース法で製造された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(ZEON ZEONANO SG101)を使用し、当該CNTを分散させる分散媒としてトルエンを用いて、炭素質構造体の一例としてCNT被膜を形成した。
トルエンに分散可能なCNTとするために、m-クレゾール(東京化成、>98.0%)5.0mLに、上記単層カーボンナノチューブ(ZEON ZEONANO SG101)0.50mgを加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON SONIFIER 250)を用いて2時間の超音波処理をすることで、CNTをm-クレゾールに分散させた。このCNT分散液をマイクロ冷却遠心機(KUBOTA 3780)で遠心分離(15000g、1時間)を行い、黒色の上澄み液を沈殿物から分離した。
【0096】
上記遠心後の上澄み液100μLを5mLのトルエン(関東化学 特級)で希釈してCNTトルエン分散液を作製した。このCNTトルエン分散液において、分散質であるCNTはトルエン中に均一に分散することが観察された。
次に、作製したCNTトルエン分散液をPTFE製メンブレンフィルター(ミリポア JGWP02500、25mmφ、ポアサイズ0.2μm)を使って吸引濾過し、フィルター上にCNTを濃縮した。吸引濾過は、フィルター上の分散液が無くなる直前で終了した。
【0097】
その後に、フィルターを吸引濾過器から取り出し、これをトルエン浴に浸漬することでフィルターに十分なトルエンを吸収させた後に、速やかに乾燥したPET基板上に貼付した。PET基板上に貼付されたフィルターは、CNTトルエン分散液を介してPET基板表面に全面で密着した。その後は、実施例1と同様に70℃に保持したホットプレート上でトルエンを蒸発除去した後、フィルターを剥離することで、PET基板表面に黒色/半透明のCNT被膜を形成した。
【0098】
図3には、上記で形成した黒色/半透明のCNT被膜の写真を示す。分散媒としてトルエンを用いた場合にも、水分散液を用いた実施例1~5と同様にCNT被膜が形成された。上記と同様に測定した当該被膜の付着したPET基板の平均透過率は78.1%であった。また、面抵抗は2.96kΩ/□であった。
【0099】
なお、CNT水分散液(実施例2等)の場合と同様に、上記のように、CNTトルエン分散液を吸引濾過後のフィルターをトルエン浴に浸漬しても実質的にCNTがフィルター表面に残留することが観察された。一方、当該吸引濾過後のフィルターを浸漬したトルエン浴を超音波処理(アズワン、AZU-2M)することで、数秒間の内にCNTがフィルターから全て除去されることが観察された。
以上のことから、CNT分散液を吸引濾過後のフィルター表面には、濃縮されたCNTが、実質的な結合等を伴わない何らかの比較的弱い力により容易に再分散可能な形態でフィルター表面に拘束されているものと考えられた。
上記実施例1~6の結果から、各種の分散媒を用いたCNT分散液により、本発明によって基体上にCNT被膜が形成可能であることが示される。
【実施例7】
【0100】
実施例6で作製したCNTトルエン分散液を使用して、PET基板以外の各種基体表面に、炭素質構造体の一例としてCNT被膜を形成した。
図4A~Gには、実施例6と同様の手法で各種の材質表面に形成したCNT被膜の写真を示す。(A)ガラス表面以外にも、(B)フッ素樹脂(Cytop)で被覆したガラス表面、(C)ポリシクロオレフィン樹脂表面、(D)PTFE樹脂表面にも良好にCNT被膜が形成された。また、表面が曲率を有したり凹凸が存在するような、(E)曲面のガラス表面、(F)アルミホイル表面、(G)ゴム手袋(ニトリルゴム)の表面にも良好にCNT被膜が形成された。実施例6,7の結果から明らかなように、本発明に係る方法によって、各種の材質や表面形状を有する基体表面にCNT被膜等が形成可能である。
【0101】
また、特に多孔質膜として使用したPTFE製メンブレンフィルター(ミリポア JGWP02500、25mmφ、ポアサイズ0.2μm)と同等の材質から構成されるPTFE樹脂表面にも良好にCNT被膜が形成される(図4D)ことから、フィルターと基体間で圧縮・乾燥されて形成されるCNT被膜が特に基体表面の側に密着する理由は、当該乾燥後のCNT被膜とフィルター/基体間での実効的な接触面積の違いに起因するものであって、フィルターを剥離する際により大きな実効面積でCNT被膜に接触する基体の側にCNT被膜が残留するためと考えられる。
また、曲率を有したり凹凸が存在する表面上にも良好にCNT被膜が形成される(図4E~G)ことから、柔軟な多孔質膜を使用することで、分散液の表面張力によって多孔質膜が基体の細部にも密着し、CNT被膜等を形成可能であることが示される。
【実施例8】
【0102】
炭素質構造体を形成する際に使用する微小炭素体の分散媒について、その分散媒を他の溶媒等に置換した後に、上記と同様の方法により炭素質構造体の一例としてCNT被膜の形成を行った。
界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム500mgを溶かした蒸留水5.0mLに、eDIPS法で製造されたSWCNTを0.50mg加え、超音波ホモジナイザーで1時間の超音波処理をしてCNT水分散液を作製した。次に、当該CNT水分散液80μLを水2.0mL、及びメタノール3.0mLで希釈して水・メタノール混合溶媒を分散媒とするCNT分散液とした。当該CNT分散液をPTFE製メンブレンフィルター(ミリポア JGWP02500、25mmφ、ポアサイズ0.2μm)を使って、フィルター上の分散液が無くなる直前まで吸引濾過することでフィルター上にCNTを濃縮した。次に、フィルター上に適当量のメタノールを供給して吸引濾過する工程を3回繰り返し、最後にフィルター上の分散液が無くなる直前で吸引濾過を終了した。
【0103】
その後にフィルターを吸引濾過器から取り出し、これをトルエン浴に浸漬することでフィルターに十分にトルエンを含ませた。つまり、予めフィルター上でCNT水分散液の分散媒をメタノールに置換し、その後に分散媒をトルエンに置換した。当該フィルターを速やかに乾燥したPET基板上に貼付し、CNTトルエン分散液を介してPET基板表面に全面で密着させた。その後は、実施例6と同様に70℃に保持したホットプレート上でトルエンを蒸発除去した後、メンブレンフィルターを剥離することで、PET基板表面に黒色/半透明のCNT被膜を均一に形成した。
上記CNT被膜を形成したPET基板の平均透過率は71.3%であり、また、面抵抗は170Ω/□であり、CNT水分散液を用いて同一のSWCNTによってCNT被膜の形成した際(実施例4)と比較して、同程度の特性を示すCNT被膜が形成された。
【実施例9】
【0104】
微小炭素体として、スーパーグロース法で製造された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(ZEON ZEONANO SG101)とグラフェン(株式会社アイテック iGurafen-as 180020C)を使用し、炭素質構造体の一例としてCNT/グラフェン複合被膜を形成した。
上記CNT、グラフェンをトルエンに分散可能とするために、m-クレゾール(東京化成、>98.0%)5.0mLに、上記単層カーボンナノチューブ(ZEON ZEONANO SG101)0.45mgとグラフェン(iGurafen-as 180020C)0.050mgを加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON SONIFIER 250)を用いて2時間の超音波処理をすることで、CNTとグラフェンをm-クレゾールに分散させた。このCNT分散液をマイクロ冷却遠心機(KUBOTA 3780)で遠心分離(15000g、1時間)を行い、黒色の上澄み液を沈殿物から分離した。
【0105】
上記遠心後の上澄み液100μLを5mLのトルエン(関東化学 特級)で希釈してトルエン分散液を作製した。このトルエン分散液において、分散質であるCNTとグラフェンがトルエン中に均一に分散することが観察された。
その後、実施例6と同様に、吸引濾過によりCNTとグラフェンの混合物をフィルター上に濃縮等して、PET基板及びガラス基板上へCNTとグラフェンの混合被膜を形成した。
【0106】
図5Aには、上記でPET基板状に形成したCNTとグラフェンの混合被膜の写真を示す。図5Aに示すように、形成したCNTとグラフェン混合被膜は黒色/半透明であり、上記と同様に測定した当該被膜の付着したPET基板の平均透過率は87.0%であった。また、面抵抗は8.65kΩ/□であった。
図5Bには、上記でガラス基板状に形成したCNTとグラフェンの混合被膜のSEM像を示す。CNTとグラフェンが混合して被膜を形成することが確認された。
【比較例1】
【0107】
実施例6と同様に、スーパーグロース法で製造された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(ZEON ZEONANO SG101)をトルエン(関東化学 特級)中に分散させてCNTトルエン分散液を作製し、PTFE製メンブレンフィルター(ミリポア JGWP02500、25mmφ、ポアサイズ0.2μm)を使って吸引濾過し、フィルター上にCNTを濃縮した。
【0108】
その後に、フィルターを吸引濾過器から取り出し、空気中で長時間放置することで、十分に乾燥させた。乾燥によってフィルターは半透明の状態からグレーの不透明に変化した。乾燥させたフィルターをPET基板に重ね合わせて、1kg/cm程度の圧力で均一に加圧して、フィルターとPET基板を密着させた。その後、フィルターをPET基板から剥離したところ、ほぼ全てのCNTがフィルター側に残留して、PET基板上にCNT被膜は形成されなかった。
【比較例2】
【0109】
比較例1と同様にして、CNTを濃縮したフィルターを十分に乾燥させた後、トルエン浴に浸漬して十分にトルエンを吸収させた後に、速やかに乾燥したPET基板上に貼付した。十分に乾燥させたフィルターはトルエン浴に浸漬することで速やかに湿潤して半透明の状態となった。その際にCNTがトルエン浴中に散出する様子は観察されず、CNTはフィルター表面に残留するものと考えられた。その後、湿潤したフィルターをPET基板上に貼付することで、フィルターはPET基板表面に全面で密着した。
その後、実施例6と同様に70℃に保持したホットプレート上でトルエンを蒸発除去した後、フィルターを剥離したところ、ほぼ全てのCNTがフィルター側に残留して、PET基板表面にCNT被膜は形成されなかった。
【0110】
上記フィルターを浸漬したトルエン浴を超音波処理(アズワン、AZU-2M)したところ、CNTをフィルターからほぼすべて散出させるために数分を要することが観察され、乾燥工程を経ない場合(実施例6等)と大きな違いが観察された。
以上のことから、フィルターの乾燥に伴ってCNT表面を覆っていた分散媒が除去されることでCNTとフィルター間の直接的な接触を生じる結果、CNTとフィルター間に物理吸着等を生じ、トルエン浴への浸漬によってもトルエン内でCNTが容易に再分散しないために、実施例6とは異なり、PET基板表面にCNT被膜が形成できなかったと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係る炭素質構造体の形成方法は、各種の微小炭素体を含む炭素質構造体の形成に良好に利用可能である。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B
図6