(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】フィチン酸エステル誘導体
(51)【国際特許分類】
C07F 9/117 20060101AFI20231031BHJP
A61K 31/6615 20060101ALI20231031BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231031BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231031BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 13/04 20060101ALI20231031BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231031BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231031BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231031BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231031BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C07F9/117 CSP
A61K31/6615
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/00
A61P13/04
A61P17/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P43/00 123
A61Q19/00
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2020539644
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034220
(87)【国際公開番号】W WO2020045653
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018161944
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 美歌子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】大杉 剛生
(72)【発明者】
【氏名】立石 大
(72)【発明者】
【氏名】村尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】増永 拓弥
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-541222(JP,A)
【文献】特開2003-238414(JP,A)
【文献】特表平05-503914(JP,A)
【文献】MENTEL,M. et al.,Photoactivatable and Cell-Membrane-Permeable Phosphatidylinositol 3,4,5-Trisphosphate,Angewandte Chemie, International Edition,2011年,Vol.50, No.16,pp.3811-3814
【文献】PAVLOVIC,I. et al.,Prometabolites of 5-Diphospho-myo-inositol Pentakisphosphate,Angewandte Chemie,2015年,Vol.54, No.33,pp.9622-9626
【文献】KANOH,N. et al.,Design and synthesis of the penta(acetoxymethyl) ester of dioctanoyl phosphatidylinositol-3,5-bispho,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2016年,Vol.26, No.23,p.5770-5772
【文献】CHEN,W. et al.,Synthesis and in vitro anticancer activity evaluation of novel bioreversible phosphate inositol deri,European Journal of Medicinal Chemistry,2015年,Vol.93,pp.172-181
【文献】LAKETA,V. et al,Membrane-permeant phosphoinositide derivatives as modulators of growth factor signaling and neurite,Chemistry & Biology,2009年,Vol.16,pp.1190-1196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式Iの化合物。
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12の全てが、ブチリルオキシメチルである。]
【請求項2】
請求項1に記載の式Iの化合物を含む、医薬組成物。
【請求項3】
細胞増殖抑制、細胞傷害抑制、免疫力上昇、コレステロール低下、腎結石形成抑制、がん転移抑制、および繊維化抑制からなる群から選択される活性を有する、
請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
がん、冠動脈疾患、糖尿病および結石症からなる群から選択される疾患を予防または処置するための
請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
がんが白血病、リンパ腫、骨髄腫からなる群から選択されるがんである、
請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
経口投与、経皮投与、腹腔内投与または静脈内投与される、
請求項3-5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の式Iの化合物の医薬組成物の製造のための使用。
【請求項8】
請求項1に記載の式Iの化合物を含む、化粧用組成物。
【請求項9】
美白作用または美肌作用を有する
請求項8に記載の化粧用組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の式Iの化合物を含む、研究用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィチン酸エステル誘導体およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
フィチン酸(myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6六リン酸、IP6)はヒト等の哺乳類の細胞内で生合成され、また種子など多くの植物組織にも存在するリンの主要な貯蔵形態である。穀物、豆類などの食物からも摂取される。その一部は吸収され、細胞にもピノサイトーシスなどにより取り込まれる。
【0003】
高濃度のIP6をがん細胞に加えた場合に、細胞増殖抑制効果を示すことがよく研究され、注目されてきた。特開2003-238414は、イノシトールリン酸類(イノシトール6リン酸を含む)を有効成分する抗腫瘍剤を開示している。またIP6は、免疫力上昇、腎結石形成抑制、コレステロール低下、冠動脈疾患や糖尿病の発症リスク軽減などの多彩な活性を持つことが知られる。Vucenik l.et al.,Nutrion and Cancer,2006,55,109は、抗酸化、免疫力上昇、抗炎症、Phase I酵素およびPhase II酵素の修飾、がん遺伝子の制御、抗-血管新生作用、腫瘍転移抑制、アポトーシス誘導、細胞分化上昇、細胞増殖抑制などの多様な作用をIP6が有することを記載している。
【0004】
IP6はこのように多くの有用な効果を奏するが、6個のリン酸基に由来する多くの負電荷を持つために細胞膜を通りづらく、細胞のIP6取り込み量には限界がある。またIP6は金属とキレートする性質を持ち体内のミネラルの吸収を妨げることから、大量摂取による副作用が指摘されている。
【0005】
特表2009-541222には、任意の組み合せでのIP-6、その医薬的に許容可能な塩、またはその医薬的に許容可能な誘導体を含む、有効量の医薬組成物を前記哺乳類に投与する工程を含む、哺乳類における電離放射線暴露の、健康への急性かつ短期的な悪影響を予防または治療する方法(請求項1)を記載している。特表2009-541222の段落0015は、『本出願の対象物であるIP-6ならびにピロリン酸および/またはイノシトールを含むその誘導体に関して、当業者は、「イノシトール6リン酸、IP-6、およびその類似体は薬物としてのテストに入っている。挑戦の1つは、細胞内への分子の通過を促進するために、保護基でリン酸塩を覆うことである。(2005年7月13日のDOE報告)」と結論付けている。IP-6ならびにピロリン酸および/またはイノシトールを含むその誘導体は、現在防護剤として効果がない場合があるという考えが示唆される。』と記載している。IP6を細胞内への分子の通過を促進するために、保護基でリン酸塩を覆うことについて言及している。しかしながら、当該文献には、具体的にどのような保護基でリン酸塩を覆うのか、仮に保護基でリン酸塩を覆った化合物が本当に細胞内への分子の追加が促進されるのか、細胞内に取り込まれた化合物が細胞内でどのような機能を有するかについて全く示唆がない。
【0006】
IP6は細胞内への取り込みが悪く、取り込み量に限界がある、との問題があったにもかかわらず、当該問題を解決する具体的な方法は提供されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-238414
【文献】特表2009-541222
【非特許文献】
【0008】
【文献】Vucenik l.et al.,Nutrion and Cancer,2006,55,109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、細胞内への取り込みがよく、生体内でIP6と同様の機能を奏するIP6誘導体を提供することを目的とする。本発明はさらに、当該IP6誘導体を含む医薬組成物および化粧用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記問題解決のため鋭意研究に務めた結果、フィチン酸エステル誘導体を合成し、本発明を想到した。限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
以下の式Iの化合物。
【0011】
【化1】
[式I中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12は、各々独立に、H、式II
【0012】
【化2】
(式II中、-CH
2-は所望により1若しくは2の置換基により置換されていてもよい)、
式III
【0013】
【化3】
(式III中、-CH
2-C
6H
4-は所望により1若しくは複数の置換基により置換されていてもよい)、
および、式IV
【0014】
【化4】
(式IV中、-CH
2-CH
2-は所望により1若しくは複数の置換基により置換されていてもよい)
からなるグループから選択される、
ただし、R
1-R
12の全てがHである場合を除く。
[態様2]
式II、式IIIまたは式IVにおいて、置換若しくは未置換のC
1-6アルキル若しくはアリールが、置換若しくは未置換のメチル、置換若しくは未置換のエチルおよび置換若しくは未置換のブチルからなる群から選択される、態様1の化合物。
[態様3]
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12の6個以上がHではない、態様1または2に記載の化合物。
[態様4]
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12の全てがHではない、態様1-3のいずれか1項に記載の化合物。
[態様5]
C
1-6アルキル若しくはアリールが、ハロゲン、C
1-4アルキル、アミノ基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、チオール基、C
1-4アシルおよびアリル基からなる群から選択される置換基で置換されている、態様1-4のいずれか1項に記載の化合物。
[態様6]
式II中の-CH
2-、式III中の-CH
2-C
6H
4-、および式IV中の-CH
2-CH
2-の1以上が、ハロゲン、C
1-4アルキル、アミノ基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、チオール基、C
1-4アシルおよびアリル基からなる群から選択される置換基で置換されている、態様1-5のいずれか1項に記載の化合物。
[態様7]
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12の全てが、ブチリルオキ
シメチルまたはアセトキシメチルである、態様1に記載の化合物。
[態様8]
生体内で加水分解されて、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12の一部または全てがHになる、態様1-7のいずれか1項に記載の化合物。
[態様9]
態様1-8のいずれか1項に記載の式Iの化合物を含む、医薬組成物。
[態様10]
細胞増殖抑制、細胞傷害抑制、免疫力上昇、コレステロール低下、腎結石形成抑制、がん転移抑制、および繊維化抑制からなる群から選択される活性を有する、態様9に記載の医薬組成物。
[態様11]
がん、冠動脈疾患、糖尿病および結石症からなる群から選択される疾患を予防または処置するための態様9または10に記載の医薬組成物。
[態様12]
がんが白血病、リンパ腫、骨髄腫からなる群から選択されるがんである、態様11に記載の医薬組成物。
[態様13]
経口投与、経皮投与、腹腔内投与または静脈内投与される、態様9-12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[態様14]
式Iの化合物が生体内で加水分解されて、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12の一部または全てがHになる、態様9-13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[態様15]
態様1-8のいずれか1項に記載の式Iの化合物の医薬組成物の製造のための使用。
[態様16]
態様1-8のいずれか1項に記載の式Iの化合物を含む、化粧用組成物。
[態様17]
美白作用または美肌作用を有する態様16に記載の化粧用組成物。
[態様18]
態様1-8のいずれか1項に記載の式Iの化合物を含む、研究用試薬。
【発明の効果】
【0015】
フィチン酸エステル誘導体(Pro-IP6)は、IP6よりも細胞内に取り込まれやすい。細胞内に取り込まれたPro-IP6は、腫瘍細胞等の悪性細胞等に対し、殺細胞効果、抗腫瘍活性等、IP6と同様の効果を奏する。Pro-IP6は、正常細胞に対して毒性を示さない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、細胞内のIP6メチルエステルをLC/MSにより測定した結果である。縦軸は相対強度、横軸は時間(分)、を示す。
【
図2】
図2は、MT-2細胞(HTLV形質転換ヒトT細胞白血病細胞)を用いたMTTアッセイの結果を示す。縦軸は、IP6、Pro-IP6を添加しない場合の細胞生存率を1とした場合の相対細胞細胞生存率を示す。横軸は、IP6またはPro-IP6の添加濃度を示す。
【
図3】
図3は、M8166細胞(ヒトT-リンパ芽球様細胞)を用いたMTTアッセイの結果を示す。縦軸は、IP6、Pro-IP6を添加しない場合の細胞生存率を1とした場合の相対細胞細胞生存率を示す。横軸は、IP6またはPro-IP6の添加濃度を示す。
【
図4】
図4は、ジャーカット細胞(ヒトT-リンパ球細胞株)を用いたMTTアッセイの結果を示す。縦軸は、IP6、Pro-IP6を添加しない場合の細胞生存率を1とした場合の相対細胞細胞生存率を示す。横軸は、IP6またはPro-IP6の添加濃度を示す。
【
図5】
図5は、K562細胞(慢性骨髄性白血病細胞)を用いたMTTアッセイの結果を示す。縦軸は、IP6、Pro-IP6を添加しない場合の細胞生存率を1とした場合の相対細胞細胞生存率を示す。横軸は、IP6またはPro-IP6の添加濃度を示す。
【
図6】
図6は、健常者由来のPBMC(末梢血単核球細胞)を用いたMTTアッセイの結果を示す。縦軸は、Pro-IP6を添加しない場合の細胞生存率を1とした場合の相対細胞細胞生存率を示す。横軸は、Pro-IP6の添加濃度を示す。
【
図7】
図7は、Jurkat細胞をPro-IP6またはIP6で8時間または24時間処理後、anti-phospho-Akt(Thr308)抗体、anti-PARP-1抗体、Caspase-3抗体、および、anti-β-アクチン抗体の各種抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す。
【
図8】
図8は、HTLV-1感染細胞移植マウスにPro-IP6またはIP6を投与後、移植後1日目-28日目までの腫瘍体積の変化を示す図である。IP投与群の26日目および27目の腫瘍体積が極端に増殖しているが、これは、いくつかの腫瘍をまとめて計測したかもしれない等、何らかのミスの可能性がある。28日目の値は、腫瘍を全摘出して測定したものであり、正確である。
【
図9】
図9は、HTLV-1感染細胞移植マウスにPro-IP6またはIP6を投与後、移植後28日目の腫瘍体積を示す図である。
【
図10】
図10は、ヒトT細胞由来白血病細胞であるJurkat細胞を用い、細胞死判別試験(フローサイトメトリー)を行った結果である。
【
図11】
図11は、
図7は、Jurkat細胞をPro-IP6またはIP6で8時間または24時間処理後、抗TRAF6抗体(CST)、抗pAMPK抗体(CST)、および、抗β-アクチン抗体(シグマアルドリッチ)の各種抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す。
【
図12】
図12は、Pro-IP6を投与した場合と投与しない場合のHela細胞蛍光顕微鏡で3D撮影した写真図であり、Pro-IP6のウイルスタンパク質GagまたはそのMA領域の凝集に対する関与を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.フィチン酸エステル誘導体
本発明は、フィチン酸(myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6リン酸、IP6)のエステル誘導体に関する。
【0018】
フィチン酸エステルの誘導体化合物は、以下の式Iの構造を有する。
【0019】
【化5】
[式I中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12は、各々独立に、H、式II
【0020】
【化6】
(式II中、-CH
2-は所望により1若しくは2の置換基により置換されていてもよい)、
式III
【0021】
【化7】
(式III中、-CH
2-C
6H
4-は所望により1若しくは複数の置換基により置換されていてもよい)、
および、式IV
【0022】
【化8】
(式IV中、-CH
2-CH
2-は所望により1若しくは複数の置換基により置換されていてもよい)
からなるグループから選択される、
ただし、R
1-R
12の全てがHである場合を除く。R
1-R
12の全てがHである場合は、フィチン酸(IP6)に相当する。
【0023】
式II、式IIIまたは式IVにおいて、置換若しくは未置換のC1-6アルキルのアルキルは、直鎖状であっても枝分かれしていても良く、好ましくは直鎖状である。置換若しくは未置換のC1-6アルキルのアルキルは、非限定的に、メチル、エチル、ブチル、プロピル、イソプロピル、ペンチル、t-ブチル、イソブチルを含む。非限定的に、置換若しくは未置換のC1-6アルキルは、置換若しくは未置換のメチル、置換若しくは未置換のエチルおよび置換若しくは未置換のブチルからなる群から選択されてもよい。
【0024】
置換若しくは未置換のアリールは、単純芳香環から誘導された芳香族炭化水素基および多環芳香族炭化水素基を含む。アリールは、好ましくは単純芳香環の芳香属炭化水素基、即ち、炭素数が6のC6アリールである。置換若しくは未置換のアリールは、非限定的に、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基を含む。
【0025】
C1-6アルキル若しくはアリールが置換されている場合、置換基の数および種類は特に限定されない。C1-6アルキル若しくはアリール中で置換可能な全ての部位が置換されていてもよく、あるいは、1箇所のみ置換されてもよく、あるいは、未置換であってもよい。C1-6アルキル若しくはアリール中の複数の箇所が、同じ置換基で置換されていても、異なる置換基で置換されていてもよい。
【0026】
置換基の種類は特に限定されない。非限定的に、ハロゲン、C1-4アルキル、アミノ基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、チオール基、C1-4アシル、アリル基等の置換基が含まれる。フェニル基のような大きな置換基であってもよい。一態様において、式Iの化合物中のC1-6アルキル若しくはアリールは、ハロゲン、C1-4アルキル、アミノ基およびニトロ基からなる群から選択される置換基で置換されている。C1-4アルキルのアルキルは、直鎖状であっても枝分かれしていても良く、好ましくは直鎖状である。非限定的に、メチル、エチル、ブチル、プロピル、イソプロピルを含む。
【0027】
ハロゲンは、非限定的に、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含む。
【0028】
C1-4アルキルは、直鎖状であっても枝分かれしていても良く、好ましくは直鎖状である。C1-4アルキルは、非限定的に、置換若しくは未置換のメチル、エチル、ブチル、プロピル、イソプロピル、t-ブチル、イソブチルである。
【0029】
アミノ基は、アンモニア、第一級アミンまたは第二級アミンから水素を除去した1価の置換基の総称である。
【0030】
チオール基は、水素化された硫黄を末端に持つ置換基で、非限定的に、メタンチオール基、エタンチオール基、チオフェノール基を含む。
【0031】
アシル基は、オキソ酸からヒドロキシル基を取り除いた形の置換基である。C1-4アシルは、非限定的に、置換若しくは未置換のホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基を含む。
【0032】
式II中の-CH2-、式III中の-CH2-C6H4-、および式IV中の-CH2-CH2-は、所望により1若しくは複数の置換基により置換されていてもよい。一態様において、式II中の-CH2-、式III中の-CH2-C6H4-、および式IV中の-CH2-CH2-の1以上が1若しくは複数の置換基により置換されている。置換基の数および種類は特に限定されない。式II中の-CH2-、式III中の-CH2-C6H4-、および式IV中の-CH2-CH2-において置換可能な全ての部位が置換されていてもよく、あるいは、1箇所のみ置換されてもよく、あるいは、未置換であってもよい。式II中の-CH2-、式III中の-CH2-C6H4-、および式IV中の-CH2-CH2-の複数の箇所が、同じ置換基で置換されていても、異なる置換基で置換されていてもよい。
【0033】
置換基の種類は特に限定されない。非限定的に、ハロゲン、C1-4アルキル、アミノ基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、チオール基、C1-4アシル、アリル基の置換基が含まれる。フェニル基のような大きな置換基であってもよい。
【0034】
ハロゲン、C1-4アルキル、アミノ基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、チオール基、C1-4アシル、アリル基の定義は上述した通りである。
【0035】
一態様において、式II中の-CH2-、式III中の-CH2-C6H4-、および式IV中の-CH2-CH2-の1以上が、ハロゲン、C1-4アルキル、アミノ基およびニトロ基からなる群から選択される置換基で置換されている。C1-4アルキルのアルキルは、直鎖状であっても枝分かれしていても良く、好ましくは直鎖状である。非限定的に、メチル、エチル、ブチル、プロピル、イソプロピルを含む。
【0036】
式Iの化合物は、R1-R12の全てがHである場合は含まない。好ましくは、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上がHではない。「Hではない」場合とは、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12の少なくとも1つの基によりエステル化されていることを意味する。一態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の6個以上がHではない。
【0037】
非限定的に、一態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の全てがHではない。一態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の全てが、ブチリルオキチメチルまたはアセトキシメチルである。
【0038】
後述に実施例2で実証されたように、式Iの化合物(Pro-IP6)は、細胞内によく取り込まれ、Pro-IP6からIP6が発生する。さらに、実施例6は、Jurkat細胞内でPro-IP6からIP6が生成し、IP6と同様の抗腫瘍活性を示すことを示している。一態様において、式Iの化合物(Pro-IP6)は、生体内で加水分解されて、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の一部または全てがHになる。
【0039】
一態様において、式Iの化合物は、myo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステルまたはmyo-イノシトール六リン酸ドデカシス(アセトキシメチル)エステルである。
【0040】
本明細書において、フィチン酸(myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6六リン酸、IP6)のエステル誘導体、即ち、式Iの化合物を総称して、あるいは、式Iに含まれる特定の化合物を「Pro-IP6」と呼称する場合がある。「Pro-IP6」のIP6のプロドラッグ、との意味を有する。本明細書においては、「プロドラッグ」とは、生体内投与後に代謝される、あるいは化合物の生物学的、医薬的または治療的に活性な型に転換される化合物である。
【0041】
式Iの化合物の合成方法は特に限定されない。リン酸基をエステル化するための公知の方法を用いることが可能である。当業者は式I中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の種類に応じて適宜適切な方法を使用可能である。一態様として、例えば、先ずカルボン酸からカルボン酸ハロゲンアルキルエステルを合成する。これを、トリエチルアミン等の強塩基性の置換基で活性化されているIP6の塩基性塩に反応させ、IP6のエステル誘導体を得ることができる。
【0042】
2.医薬組成物
本発明はまた、上述した式Iの化合物を含む医薬組成物に関する。
【0043】
式Iの化合物は、IP6化合物の有する機能を生体内、細胞内において発揮する。非限定的に、式Iの化合物を含む医薬組成物は、細胞増殖抑制、細胞傷害抑制、免疫力上昇、コレステロール低下、腎結石形成抑制、がん転移抑制、および繊維化抑制からなる群から選択される活性を有する。これらはいずれもIP6の活性として公知である。
【0044】
本明細書において、「細胞増殖抑制」とは、細胞の増殖を止める働きを意味する。がん細胞を含む悪性細胞への「細胞増殖抑制」、「がん転移抑制」作用は、殺細胞効果、抗腫瘍効果をもたらしうる。本明細書の実施例4において、Pro-IP6が、Aktのリン酸化の抑制活性、およびアポトーシスの誘導活性を有することが示された。これらの活性は、IP6の抗腫瘍活性の機序としても報告されている。本明細書において、「アポトーシス誘導活性」とは、アポトーシス実行分子の活性化やその結果としての核凝縮などを特徴とする細胞のアポトーシスを導くことができる活性をいう。
【0045】
「細胞増殖抑制」、「細胞傷害抑制」、「腎結石形成抑制」、「がん転移抑制」、および「繊維化抑制」とは、各事象がPro-IP6を投与しない場合よりも抑制されることを意味する。非限定的に、好ましくは3%以上、5%以上、8%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上抑制される。
【0046】
「コレステロール低下」とは、摂取した食品、飲料等中のコレステロールが生体内に摂取される割合が、Pro-IP6を投与しない場合よりも低下されることを意味する。非限定的に、好ましくは3%以上、5%以上、8%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上抑制される。
【0047】
「免疫」とは、ヒトや動物が有する、生体内で病原体などの「自分とは異なる異物」(非自己物質)やがん細胞などの異常な細胞を認識して殺滅することにより、生体を病気から保護する多数の機構が集積した、生体の恒常性維持機構の一つである。「免疫力上昇」とは、この非自己物質や異常細胞を排除する能力が、Pro-IP6を投与しない場合よりも高まることを意味する。免疫力は、例えば、血液検査により、白血球数、T細胞数(CD4T細胞数、CD8T細胞数、CD4/CD8T細胞比等)、B細胞数、NK細胞数などを測定し総合的に解析することにより、調べることが可能である。
【0048】
式Iの化合物を含む医薬組成物は、細胞増殖、細胞傷害、免疫力低下、コレステロール上昇、腎結石形成、がん転移、および繊維化からなる群から選択される状態が関与する疾患を予防または処置するために有用である。一態様において、式Iの化合物を含む医薬組成物は、がん、冠動脈疾患、糖尿病および結石症からなる群から選択される疾患を予防または処置するため医薬組成物である。
【0049】
がんの種類は特に限定されない。一態様において、がんは、白血病、リンパ腫、骨髄腫からなる群から選択されるがんである。その他、肝癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫および肺、結腸、乳房、膀胱、卵巣、精巣、前立腺、睾丸腫瘍、子宮、頚部、膵臓、胃、大腸、小腸、その他の器官の癌を包含する多様なタイプのがんも含まれうる。
【0050】
「冠動脈疾患」とは、心筋への血液供給が部分的にまたは完全に遮断されることによって生じる疾患の総称である。冠動脈疾患の主な原因は、冠動脈の内壁に蓄積したコレステロール等による動脈硬化により、冠動脈に狭窄または閉塞を生じることによる。冠動脈疾患に含まれる代表的な疾患にとして、狭心症、心筋梗塞(例えば、急性心筋梗塞)がある。
【0051】
「糖尿病」とは、血糖値やヘモグロビンA1c値が一定の基準を超えている状態を指す疾患である。1型糖尿病、2型糖尿病、遺伝子異常による糖尿病(若年発症成人型糖尿病等)、続発性糖尿病、妊娠糖尿病等に分類される。
【0052】
「結石症」には、腎臓や尿路の結石、肝臓や胆汁輸送経路の結石、唾液腺の唾石症などを含む。IP6はこれらの結石の治療、予防に有用であることが知られている。
【0053】
式Iの化合物(Pro-IP6化合物)を、所望により医薬的または薬理学的に許容可能な担体と組み合せて、式Iの化合物を含む医薬組成物の形で投与することができる。医薬的または薬理学的に許容可能な担体の種類は1つもそれ以上でもよい。医薬組成物に含まれる式Iの化合物の種類は、1つでもそれ以上でもよい。医薬組成物中に含まれる式Iの化合物の割合は特に限定さえず、非限定的に、0.01から約100の質量パーセントでありうる。「医薬的に」または「薬理学的に許容可能な担体」は、製剤の他の成分と適合し、被験者に有害ではない、任意の担体、希釈剤または賦形剤を意味する。本明細書の開示に基づき、式Iの化合物を含む医薬組成物を処方することは本技術分野の範囲内である。
【0054】
例えば、医薬品の分野の標準的技法に従って、式Iの化合物を含む医薬組成物を処方することが可能である。例えば、Alphonso Gennaro,ed.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,(1990)Mack Publishing Co.,Easton,Paを参照。
【0055】
式Iの化合物を含む医薬組成物の投与経路は特に限定されない。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、トローチ、ドリンク剤等に処方して経口投与してもよい。あるいは、パッチ剤等の経皮投与、腹腔内投与、静脈内点滴もしくは注射等による静脈内投与などの非経口投与を用いてもよい。その他、筋肉内注射等による筋肉内投与、経腸投与、局所投与等による投与も可能である。一態様において、式Iの化合物を含む医薬組成物は、経口投与、経皮投与、腹腔内投与または静脈内投与される。式Iの化合物を含む医薬組成物の処方(製剤)の具体例を以下に示す。
【0056】
例えば、経口投与用の錠剤、散剤、顆粒剤、トローチ、カプセル剤等は、式Iの化合物を含む医薬組成物に、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤または滑沢剤等の1つ以上の固形不活性成分を添加して圧縮成型し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のためのコーティングを行うことにより製造することができる。
【0057】
注射剤は、例えば、式Iの化合物を含む医薬組成物を、例えば分散剤、保存剤、等張化剤等と共に水性注射剤として、あるいはオリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油等の植物油、プロピレングリコール等に溶解、懸濁あるいは乳化して油性注射剤として成型することにより製造することができる。
【0058】
外用剤は、例えば、式Iの化合物を含む医薬組成物を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造される。例えば、上記固状の組成物は、該医薬組成物をそのまま、あるいは賦形剤、増粘剤などを添加、混合して粉状とすることにより製造される。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様で、油性あるいは水性懸濁剤とすることにより製造される。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれも緩衝剤、防腐剤などを含んでいてもよい。外用剤は、例えば、局所投与用のクリーム、ローション、ゲル、軟膏等が含まれる。
【0059】
座剤は、例えば式Iの化合物を含む医薬組成物を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造される。このような組成物に用いる油性基剤としては、例えば、高級脂肪酸のグリセリド(例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類等)、中級脂肪酸(例えば、ミグリオール類等)、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油等)等が挙げられる。水性ゲル基剤としては、例えば天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体等が挙げられる。
【0060】
式Iの化合物を含む医薬組成物は、所望により、さらに、1またはそれ以上の他の有効成分を含んでもよい。「他の有効成分」は、式Iの化合物と同様に、細胞増殖抑制、細胞傷害抑制、免疫力上昇、コレステロール低下、腎結石形成抑制、がん転移抑制、および繊維化抑制からなる群から選択される活性を有する成分であってもよい。あるいは、これら以外の活性を有する成分であってもよい。
【0061】
式Iの化合物を含む医薬組成物は、所望により、さらに、安定化剤、酸化防止剤および保存料が添加されてもよい。適切な酸化防止剤は、例えば、亜硫酸、アスコルビン酸,クエン酸およびその塩、ならびにナトリウムEDTAを含む。適切な保存料は、例えば、塩化ベンザルコニウム、メチル-またはプロピル-パラベン、ならびにクロルブタノールを含む。
【0062】
式Iの化合物を含む医薬組成物の投与量および投与期間は、投与対象のサイズ、質量、年齢および性別、治療される疾患の性質および段階、疾患の攻撃性、投与経路、ならびに放射線の特定の毒性を含む個々の患者の特定の状況によって決定される。投与量および投与期間は、また、既知の試験プロトコルを用いて実験的に、または生体内もしくは生体外試験データからの外挿法によって決定されうる。本明細書に記載する濃度範囲は、例示的な目的のみであり、請求される組成物の範囲または実施化を制限するものではない。
【0063】
例えば、式Iの化合物を含む医薬組成物中の投与量は、有効成分である式Iの化合物の量で約0.01から約2000mg/kg/日、より好ましくは約0.05から約1000mg/kg/日である。約1.0から約200mg/kg/日、例えば、約50mg/kg/日の用量が特に好適な用量である。医薬組成物は、1日1回で投与されてもよく、または同時にもしくは時間間隔を置いて投与される何回かの低用量に分割されてもよい。投与量は、多数の投与、例えば、25mg/kgの2回投与で与えられてもよい。より高いまたはより低い用量であってもよい。
【0064】
一態様において、医薬組成物に含まれる式Iの化合物(Pro-IP6)は、生体内で加水分解されて、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12の一部または全てがHになる。
【0065】
本発明はまた。式Iの化合物の医薬組成物の製造のための使用に関する。
【0066】
本発明はさらに、式Iの化合物を必要とする対象に投与することを含む、細胞増殖抑制、細胞傷害抑制、免疫力上昇、コレステロール低下、腎結石形成抑制、がん転移抑制、および繊維化抑制からなる群から選択される活性を対象に与える方法、に関する。
【0067】
本発明はさらに、式Iの化合物を必要とする対象に投与することを含む、細胞増殖、細胞傷害、免疫力低下、コレステロール上昇、腎結石形成、がん転移、および繊維化からなる群から選択される状態が関与する疾患を予防または処置する方法、に関する。「細胞増殖、細胞傷害、免疫力低下、コレステロール上昇、腎結石形成、がん転移、および繊維化からなる群から選択される状態が関与する疾患」は、例えば、がん、冠動脈疾患、糖尿病、結石症を含む。
【0068】
本発明はさらにまた、式Iの化合物を必要とする対象に投与することを含む、がん、冠動脈疾患、糖尿病および結石症からなる群から選択される疾患を予防または処置する方法、に関する。
【0069】
実施例3においてPro-IP6は、正常細胞に対して毒性を示さないことが示された。式Iの化合物を含む組成物は生体に対して安全に使用でき、医薬組成物または化粧用組成物として有用である。
【0070】
3.化粧用組成物
本発明は、式Iの化合物を含む化粧用組成物に関する。一態様において、化粧用組成物は、美白作用または美肌作用を有する。
【0071】
化粧用組成物の使用態様および使用量は特に限定されない。例えば、化粧水(ローション)、乳液(スキンミルク)、クリーム、美容液、ジェル、パック、ムースなどのベース化粧品の態様でありうる。
【0072】
化粧用組成物の組成は特に限定されず、化粧品として許容される成分であればいかなる成分を含むものであってもよい。化粧用組成物は、化粧用組成物で使用している水、多価アルコール、水溶性高分子化合物、油溶性成分(オイル、ワックス)、防腐剤、酸化防止剤、香料等を必要に応じて配合することができる。
【0073】
化粧用組成物は、保湿機能や粘度調整機能等を発揮するため多価アルコールを含有してもよい。また、多価アルコールの添加により、化粧用組成物の水分活性を下げることができ、微生物の繁殖を抑えることができる。
【0074】
化粧用組成物は、水溶性高分子化合物を配合してもよい。配合可能な水溶性高分子化合物としては、広く合成高分子、天然高分子、半合成高分子のいずれも用いることができる。特に糖類、タンパク質類およびそれらの複合体が好ましい。
【0075】
化粧用組成物は、油性媒体に溶解する油溶性成分を含んでもよい。油溶性成分として、通常、紫外線吸収剤、抗酸化剤、抗炎症剤、保湿剤、毛髪保護剤、分散剤、溶剤、美白剤、抗シミ剤、細胞賦活剤、エモリエント剤、角質溶解剤、帯電防止剤、ビタミン類、メタボリックシンドローム改善剤、降圧剤、鎮静剤などとして使用されている他の成分も使用することができ、例えば、オリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油などの油脂類、流動パラフィン、パラフィン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、スクワランなどの炭化水素、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリンなどのロウ類、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2-オクチルドデシル、2-エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリルなどのエステル類、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸などの脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノールなどの高級アルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコーン油、グリセリンの脂肪酸エステル類、その他、高分子類、油溶性色素類、油溶性蛋白質などを挙げることができる。また、それらの混合物である各種の植物由来油、動物由来油も含まれる。
【0076】
化粧用組成物は、安定性を保持するために酸化防止剤を配合してもよい。使用可能な酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリフェノール類からなる化合物群、ラジカル捕捉剤を挙げることができる。
【0077】
化粧用組成物は、香料を含んでも良い。香料としては、動物系、植物系、鉱物系の天然香料および合成香料のいずれも使用可能である。
【0078】
本発明はまた、式Iの化合物の化粧用組成物の製造のための使用に関する。
【0079】
4.組成物
本発明はまた、式Iの化合物を含む組成物に関する。
【0080】
式Iの化合物を含む組成物は、一態様において、研究用試薬として用いることもできる。組成物は、一態様において、IP6の細胞内のシグナル伝達を解明するための研究用試薬として用いることができる。
【0081】
IP6単独では細胞内への取込がほとんどなされないため、試薬として用いるためには大量に用いる必要がある。しかし、IP6は負電荷を有し、かつ酸性物質であるため、実験環境及び対象となる細胞に影響を及ぼす可能性がある。本発明による研究用試薬を用いれば、少量で細胞内に導入することが可能であり、かつリン酸基の保護により、実験環境への影響を最小限に留めることができる。すなわち、本発明による細胞への研究用試薬の添加により、効率的にIP6を細胞内に導入することが可能である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0083】
実施例1 myo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステルの合成
本実施例では、以下の経路に従って、myo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステルを合成した。合成はまず酪酸を原料とし、2段階で酪酸ブロモメチルエステルを合成した。これとIP6トリエチルアミン塩を反応させ、IP6のブチリルオキシメチルエステル(Pro-IP6)を得た。最終的にHPLCを用いてPro-IP6を精製した。
【0084】
【0085】
メチレンジブチレート(1)の合成
酪酸(2.65g=2.75ml、30.1mmol)に2M NaOH水溶液(30ml)を加え30分間撹拌した。その後、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(10.2g、30.5mmol)を加え30分撹拌し、水層をCH2Cl2(50ml×4)で抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過して2日間45℃で還流した。CH2Cl2を溜去することにより結果物を濃縮し、ヘキサン(60ml)に溶かし10%酢酸(50ml)、水(50ml×2)、飽和食塩水(50ml)で分液して硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後濾液をエバポレーターで濃縮し、無色液体の化合物、メチレンジブチレート(1)(1.354g、96%)を得た。
1H NMR (600MHz,CDCl3) δ:0.96(t,6H,CH3),δ:1.66(sext,4H,CH2CH3),δ:2.34(t,4H,CH2CH2CH3),δ:5.76(s,2H,OCH2O)
【0086】
酪酸ブロモメチルエステル(2)の合成
化合物(1)(0.47g,2.52mmol)に、ブロモトリメチルシラン(TMSBr)(0.77g=0.65ml,5.03mmol)、臭化亜鉛(29.6mg,0.13mmol)を加えアルゴン下で1日間撹拌した。その後反応液をジエチルエーテル(20ml)に溶かし、1M塩酸(10ml)を加えて10分間撹拌した。さらに水層を取り除いて飽和炭酸ナトリウム溶液(20ml)を加え、30分間撹拌した。その後水層を取り除き有機層を水(50ml×2)、飽和食塩水(50ml)で洗浄して硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後クーゲルロール蒸留で最初の5分間の初留(1mmHg,30℃)をとった後に、15分間出た本留(1mmHg,55℃)をとり無色液体の酪酸ブロモメチルエステル(2)(21.4g,47%)を得た。なお化合物(2)は分解しやすいためすぐに次の反応に使用した。
1H NMR (600MHz,CDCl3) δ:0.96(t,3H,CH3),δ:1.67(sext,2H,CH2CH3),δ:2.35(t,2H,CH2CH2CH3),δ:5.80(s,2H,OCH2Br)
【0087】
myo-イノシトール六リン酸Et
3
N塩(3)の合成
myo-イノシトール六リン酸Na塩(シグマアルドリッチより入手)(1.00g,1.51mmol)を陽イオン交換樹脂(和光純薬社製、Dowex 50WX8(100-200mesh)で精製し、Et3N(3ml)を加え無色色個体のmyo-イノシトール六リン酸Et3N塩(3)(2.6g,92%)を得た。
【0088】
myo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステル(4)の合成
化合物(3)(50.0mg,2.69×10-2mmol)をアセトニトリル(5ml×3回)で共沸してアセトニトリル(5ml)に溶かし、DIPEA(0.2ml)を加えアルゴン下で16時間撹拌した。その後アセトニトリル(5ml×3回)で共沸してアセトニトリル(5ml)に溶かし、化合物(2)(0.24g,1.35mmol)、DIPEA(0.2ml)を加え3日間アルゴン下で撹拌した。3日間撹拌後、HPLC(MeOH:H2O=96:4,F=3ml/分,rt=6.3分)にて精製を行い無色液体のmyo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステル(4)(8.2mg,16%)を得た。以下、本明細書の実施例において、myo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステル(4)を「Pro-IP6」の例として使用した。
1H NMR (600MHz,CD3CN) δ:0.98(m,36H,CH3),δ:1.66(m,24H,CH2CH3),δ:2.41(m,24H,CH2CH2CH3), δ:4.55(q,1H),δ:4.63(d,2H),δ:4.75(q,2H),δ:5.29(d,1H),δ:5.68(m,24H,OCH2O).
13C NMR (600MHz,CD3CN) δ:12.5,17.4,34.9,72.4,74.5,75.3,82.8,171.6.
HRMS(FAB+) m/s 計算値(C66H114O48P6):1860.4905. 測定値:1883.4766
【0089】
実施例2 細胞内IP6の定量
本実施例では、Pro-IP6のHeLa細胞内への取り込みを定量した。
【0090】
HeLa細胞(5x105細胞/ウェル、培養液1mL)を3.5cmディッシュに播種し、24時間培養した。その後、DMSO(1%、富士フィルム和光純薬株式会社、IP6(最終濃度:10μM,シグマアルドリッチ)の水溶液(1%)、または、実施例1で合成したPro-IP6(最終濃度:10μM)のDMSO溶液(1%)を加え、さらに30分間培養した。ネガティブコントロールとして、IP6、Pro-IP6のいずれも加えずに培養したHela細胞に上記と同量のDMSOを加えたものを用いた。
【0091】
その後1xPBS(-)で1回洗浄し、セルスクレーパーで細胞を剥がして1.5mLチューブに移して、1xPBS(-)で3回洗浄した。沈殿に350μlのMeOH(富士フィルム和光純薬株式会社)+1%NP-40(ナカライテスク)を加え、超音波破砕(10分間)を行った。カラム(Oasis WAX 1cc,Waters)をMeOH(1mL)とH2O(1mL)で平衡化した後に、破砕した細胞抽出液を添加した。その後、50%MeOH(1mL)でカラムを洗浄し、2mol/LのHCl(富士フィルム和光純薬株式会社)含有50%MeOH(200μLx2)で溶出を行なった。得られた溶出液を濃縮してMeOH(50μL)に溶解後、トリメチルシリルジアゾメタン(200μl、東京化成)を加え、アルゴン雰囲気下50℃で1時間撹拌した。H2O(100μL)を加え反応停止した。トリメチルシリルジアゾメタンがIP6と反応することによりIP6メチルエステルが得られる。
【0092】
得られたサンプル(IP6メチルエステル)をLC/MS[カラム:MastroC18 2.1mmx100mm,3m(島津ジーエルシー)、移動相:0.1%ぎ酸溶液(富士フィルム和光純薬株式会社)、アセトニトリル(富士フィルム和光純薬株式会社)]にて測定した[LC:LC-20AD(島津)、MS:amaZon speed(BRUKER)]。
【0093】
代表的なデータを
図1に示す。
図1に示された通り、IP6の値はネガティブコントロールとほぼ同様であり、Hela細胞の細胞内に実質的に取り込まれなかった。これに対し、Pro-IP6は、IP6の200倍以上のIP6メチルエステルが観測された。これはPro-IP6がHela細胞の細胞内によく取り込まれること、そして、細胞内に取り込まれた後に、Pro-IP6からIP6が発生することが明らかになった。
【0094】
実施例3 MTTアッセイ
本実施例では、MTTアッセイにより、4種類の血液がん細胞株および健常者由来の細胞に対するPro-IP6の殺細胞効果を調べた。MTTアッセイは、MTT(3-(4,5-ジ-メチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)をホルマザン色素(紫色)へ還元する酵素活性を測定する比色定量法である。MTTアッセイにより培養細胞の生存率を調べることが可能である。
がん細胞株(1.74x104細胞/ウェル、培養液200μL)
MT-2細胞(HTLV形質転換ヒトT細胞白血病細胞)
M8166細胞(ヒトT-リンパ芽球様細胞)
ジャーカット細胞(ヒトT-リンパ球細胞株)
K562細胞(慢性骨髄性白血病細胞)
健常者由来の細胞(5.0x105細胞/ウェル、培養液200μL)
PBMC(末梢血単核球細胞)
【0095】
上記各種細胞を96ウェルプレートに播種し、各種がん細胞株は8時間、PMBCは16時間培養した。その後、DMSO(1%、富士フィルム和光純薬株式会社)、IP6(最終濃度:1μMまたは10μM、シグマアルトリッチ)の水溶液(1%)、またはPro-IP6(最終濃度:1μMまたは10μM)のDMSO溶液(1%)を加え、8時間または24時間培養した。MTT試薬(同仁化学、1.1mg/mL)を各ウェル50μLずつ加え、さらに4時間培養した。析出した結晶を回収後、上清を取り除き、DMSO100μLを加え完全に溶解した。この溶液の吸光度(550nm)を測定した。
【0096】
結果を、
図2-
図6に示す。
図2-
図5からわかるように、本実施例ではPro-IP6の投与により血液がん細胞株の相対細胞生存率が25%以上低下し、どの血液がん細胞株においても、Pro-IP6が殺細胞効果を示した。これに対し、IP6はほとんど効果を示さなかった。試験したがん細胞株のうちM8166、Jurkatにおいて特に効果が強く、10μMでほとんどの細胞が死んだ。
【0097】
Pro-IP6は、このようにがん細胞への殺細胞効果を示すのに対し、健常人末梢血単核球(PBMC)に対しては10μMでも毒性を示さなかった(
図6)。
【0098】
実施例4 ウェスタンブロッティング(1)
本実施例では、Jurkat細胞、各種抗体を用いたウェスタンブロッティングにより、Pro-IP6による細胞死の作用機序を調べた。
【0099】
Jurkat細胞(1x105細胞/ウェル、培養液500μL)を24ウェルプレートに播種し、終夜培養した。その後、DMSO(1%、富士フィルム和光純薬株式会社)、IP6(最終濃度:10μM、シグマアルトリッチ)の水溶液(1%)、またはPro-IP6(最終濃度:1μMまたは10μM)のDMSO溶液(1%)を加え、8時間または24時間培養した。上清を取り除き、1xPBS(-)で1回洗浄した後Laemmliサンプルバッファーを加えて1時間100℃で煮沸して細胞を溶解した。これを電気泳動した後に膜(Millipore)に転写し、anti-phospho-Akt(Thr308)抗体(CST)、anti-PARP-1抗体(Merck)、Caspase-3抗体(CST)、または、anti-β-アクチン抗体(シグマアルトリッチ)を一次抗体として反応させた。検出はImmunoStar LD(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて行った。
【0100】
結果を
図7に示す。1μMと10μMのPro-IP6はAktのリン酸化を抑制することが分かった(
図7)。さらに、10μMの濃度でPARP-1およびカスパーゼ-3の切断が観察され、アポトーシスの誘導が示された。Aktのリン酸化の抑制、およびアポトーシスの誘導は、IP6の抗腫瘍活性の機序としても報告されている。よって、本実施例の結果は、Jurkat細胞内でPro-IP6からIP6が生成し、IP6と同様の抗腫瘍活性を示すことを示唆している。
【0101】
実施例5 HTLV-1感染細胞移植マウスに対する効果
本実施例では、Pro-IP6のHTLV-1感染細胞移植マウスに対するin vivo効果を調べた。HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞ががん化すると治療抵抗性の悪性腫瘍である成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)を引き起こす。本実施例ではATL細胞株の1つであるS1T細胞を用いた。
【0102】
(5-1)マウス
5週齢の雌のNSGマウス(NOD.Cg-Prkdc scid Il2rg tm1Wjl/SzJ、日本チャールス・リバー)を用いた。マウスは、滅菌したケージ(日本クレア)に滅菌床敷(ペパークリーン:日本エスエルシー)をいれ、1ケージに5匹で計2ケージ、10匹飼育した。飼料は、γ線照射飼料を与え、水は、オートクレーブした滅菌水に塩酸を加え、pH2.5から3.0に維持した塩酸水を自由摂取させた。マウスは入荷後1週間馴化させた。本研究は遺伝子組換え実験安全管理基準および酪農学園大学動物実験指針に従い、遺伝子組換え実験安全管理委員会(承認番号:154)および動物実験委員会(承認番号VH16A21)の承認を受けて実施した。
【0103】
(5-2)投与薬剤
以下の薬剤を用いた。
1)DMSO ネガティブコントロールとして
2)IP6(71mg/ml H2O中) MW:660 比較物質
3)pro-IP6(200mg/ml DMSO中) MW:1861 合成化合物
【0104】
マウスへの投与薬剤は以下のように調製した。1日の投与量を20mg/kgとなるようにした。
1.DMSO2μl+生理食塩水198μl
2.IP62μl+生理食塩水196μl+DMSO2μl(終濃度7.1mg/kg:11μmol/kg、DMSO1%)
3.pro-IP62μl+生理食塩水198μl(終濃度20mg/kg:11μmol/kg,DMSO1%)0.2ml(DMSO1%)
【0105】
(5-3)移植用細胞
ATL細胞株の1つであるS1T細胞を用いた。細胞移植日に、約2.5LのS1T細胞培養液(継代後4日目)を用意し、500ml遠心チューブ6本に分注した。HITACHI-himac-SCR20Bにて1500rpm、5分間4℃で培養液を遠心した。上清を廃棄し、120mlのダルベッコのPBS(D-PBS:和光純薬)に浮遊させ、50ml遠心チューブ4本に細胞を移し、TOMY-RL-101にて1000rpm、5分間4℃で遠心した。上清を廃棄し、再度120mlのD-PBSで洗浄後、5mlのD-PBSに浮遊させ細胞数を測定後、0.2ml:5×107/マウスとなるようにD-PBSを用いて調整した。
【0106】
(5-4)移植実験プロトコル
1週間馴化させた6週齢のNSGマウス10匹にS1T細胞株(0.2ml:5×107/細胞/マウス)を頚部皮下に移植し、ATLモデルマウスとした。10匹のATLモデルマウスを無作為に3群に分けた。対照群3匹、IP6投与群3匹およびpro-IP6投与群4匹である。
【0107】
対照群にはDMSOを、IP6投与群にはIP6を7.1mg/kg、pro-IP6投与群にはpro-IP6を20mg/kgになるように腹腔内に投与した。細胞移植日より28日間連続投与し、各マウスの体重、腫瘍体積を連日計測した。腫瘍体積は、(短径mm)2×(長径mm)×0.5とし、短径および長径はノギスを用いて測定した。細胞移植後28日目に全てのマウスをイソフルランの過麻酔により安楽死させた。次いで、腫瘍を全摘出し、それぞれの腫瘍体積、腫瘍重量を計測した。
【0108】
移植後1日目-28日目までの腫瘍体積の変化の結果を
図8に示す。移植後28日目の腫瘍体積を
図9に示す。
図9に示すように、Pro-IP6投与群では、移植後28日目に腫瘍体積が対照群と比較して25%程小さくなっており、Pro-IP6が抗腫瘍効果を持つことを明らかにされた。なお、IP投与群では、腫瘍体積は対照群と有意差がなかった。
【0109】
実施例6 myo-イノシトール六リン酸ドデカシス(アセトキシメチル)エステルの合成
実施例1で合成したmyo-イノシトール六リン酸Et3N塩(3)から、以下のように、myo-イノシトール六リン酸ドデカシス(アセトキシメチル)エステルを合成した。
【0110】
具体的には、化合物(3)(176.8mg、9.44×10-2mmol)をアセトニトリル(5mL×3回)で共沸後、アセトニトリル(2mL)に溶かしDIPEA(0.2mL)を加え、アルゴン下で30分攪拌し濃縮した。その後アセトニトリル(3.0mL)に溶かし、酢酸ブロモメチル(1.0g、18.9mmol)、DIPEA(0.4mL)を加え、3日間アルゴン下で攪拌した。3日間攪拌後、HPLC(ACN:H2O=30:70(0分→10分)、ACN:H2O=95:5(10.1分→20分),F=3ml/分、rt=15.0分)にて精製を行い、無色液体のmyo-イノシトール六リン酸ドデカシス(アセトキシメチル)エステルを得た。
1H NMR (600MHz,CD3CN) δ:2.14(m,36H,OCOCH
3
), δ:4.55(q,1H),δ:4.63(t,2H), δ:4.75(q,2H), δ:5.27(d,1H), δ:5.68(m,24H,OCH
2
O).
HRMS(FAB+) m/s 計算値(C44H66O48P6Na):1547.1047. 測定値:1547.1041
【0111】
実施例7 細胞死判別試験(フローサイトメトリー)
本実施例では、ヒトT細胞由来白血病細胞であるJurkat細胞を用い、細胞死判別試験(フローサイトメトリー)を行った。
【0112】
Jurkat細胞(1x105細胞/ウェル、培養液500μL)を24ウェルプレート(Iwaki)に播種し、終夜培養した。その後、DMSO(1%、富士フィルム和光純薬株式会社)、IP6(最終濃度:10μM、シグマアルドリッチ)の水溶液(1%)、Pro-IP6(実施例1で合成したmyo-イノシトール六リン酸ドデカキス(ブチリルオキシメチル)エステル(4))(最終濃度:10μM)のDMSO溶液(1%)を加え、24時間培養した。上清を取り除き1xPBS(-)で一回洗浄した後、5x結合溶液(PromoCell)を100μL加え、Annexin V-FITC(PromoCell)と7-AAD(ベクトンディッキンソン)を加えて15分反応させた。その後、FACS Calibur(ベクトンディッキンソン)を使用して測定し、解析はFlowJo(ベクトンディッキンソン)を用いて行った。
【0113】
結果を
図10に示す。Pro-IP6を加えた場合には、ヒトT細胞由来白血病細胞であるJurkat細胞に対するアポトーシス誘導が観察された。
【0114】
実施例8 ウェスタンブロッティング(2)
本実施例では、実施例4と同様に、Jurkat細胞、各種抗体を用いたウェスタンブロッティングにより、Pro-IP6による細胞死の作用機序を調べた。
【0115】
Jurkat細胞(1x105細胞/ウェル、培養液500μL)を24ウェルプレートに播種し、終夜培養した。その後、DMSO(1%、富士フィルム和光純薬株式会社)、IP6(最終濃度:10μM、シグマアルトリッチ)の水溶液(1%)、またはPro-IP6(最終濃度:1μMまたは10μM)のDMSO溶液(1%)を加え、8時間または24時間培養した。上清を取り除き、1xPBS(-)で1回洗浄した後Laemmliサンプルバッファーを加えて1時間100℃で煮沸して細胞を溶解した。これを電気泳動した後に膜(Millipore)に転写した。
【0116】
抗TRAF6抗体(CST)、抗pAMPK抗体(CST)、または、抗β-アクチン抗体(シグマアルドリッチ)を一次抗体として反応させた。検出はImmunoStar LD(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて行った。
【0117】
結果を
図11に示す。Pro-IP6により、癌細胞生存促進につながるTRAF6の発現抑制、がん抑制につながるAMPKの活性化が観察された。本実施例の結果は、Jurkat細胞内でPro-IP6からIP6が生成し、IP6と同様の抗腫瘍活性を示すことを示唆している。
【0118】
実施例9 Pro-IP6の細胞内におけるウイルスタンパク質Gagの凝集への関与
本実施例では、蛍光顕微鏡観察により、Pro-IP6が、細胞内において、ウイルスタンパク質Gagの凝集に関与することを観察した。
【0119】
HeLa細胞(0.5x105細胞/ウェル、培養液300μL)を8ウェルチャンバースライド(Thermo fisher scientific)に播種し、終夜培養した。リポフェクトアミン3000(Thermo fisher scientific)を用いてpUCまたはpEF-Gag(p17)cFLAG、pNL4-3/Gag-Venusを導入し10時間培養した。その後、DMSO(1%、富士フィルム和光純薬株式会社)またはPro-IP6(最終濃度:10μM)を添加し、さらに4時間培養した。細胞を4%パラホルムアルデヒド(東京化成)で固定化したのち、Hoechst33342(Thermo fisher scientific)で染色を行い蛍光顕微鏡BZ-X800(Keyence)にて観察した。
【0120】
蛍光顕微鏡の3D撮影した写真図を
図12に示す(倍率×1000)。
図12の右下の写真図において、Pro-IP6を添加した場合、Hela細胞内において、ウイルスタンパク質GagまたはMA領域が凝集することが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
式Iの化合物は細胞内に有意にとりこまれ、がん細胞等の悪性細胞に対する殺細胞効果、抗腫瘍効果等を含め、フィチン酸(IP6)と同様の作用効果を奏する。またPro-IP6は、正常細胞に対して毒性を示さない。式Iの化合物を含む医薬組成物および化粧用組成物は、IP6よりも効果の高くかつ生体に安全な組成物として有用である。