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特許7376206遊星ギア、遊星減速機、および遊星ギアの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】遊星ギア、遊星減速機、および遊星ギアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/46 20060101AFI20231031BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
F16H1/46
F16H1/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020061304
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162036
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】ニデックドライブテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】福岡 紀砂世
(72)【発明者】
【氏名】中土井 喜春
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-162338(JP,A)
【文献】特開2014-134286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/46
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星減速機に使用される遊星ギアであって、
円環状の第1遊星ギアと、
前記第1遊星ギアに固定された、前記第1遊星ギアよりも小径の第2遊星ギアと、
を有し、
前記第1遊星ギアは、内周面に、軸方向に延びる複数の内歯をもつ第1スプラインを有し、
前記第2遊星ギアは、外周面に、軸方向に延びる複数の外歯をもつ第2スプラインを有し、
前記第1スプラインと前記第2スプラインとが、隙間ばめまたは中間ばめにより嵌合し、
軸方向の端面に、1つ以上の固定部を有し、
前記固定部においては、前記第2スプラインの歯形断面が、前記第2スプラインの他の部分の歯形断面よりも大きく、
前記固定部において、前記内歯と前記外歯とが密接している、遊星ギア。
【請求項2】
遊星減速機に使用される遊星ギアであって、
円環状の第1遊星ギアと、
前記第1遊星ギアに固定された、前記第1遊星ギアよりも小径の第2遊星ギアと、
を有し、
前記第1遊星ギアは、内周面に、軸方向に延びる複数の内歯をもつ第1スプラインを有し、
前記第2遊星ギアは、外周面に、軸方向に延びる複数の外歯をもつ第2スプラインを有し、
前記第1スプラインと前記第2スプラインとが、隙間ばめまたは中間ばめにより嵌合し、
軸方向の端面に、1つ以上の固定部を有し、
前記固定部においては、前記第1スプラインの歯先と前記第2スプラインの歯底との間の第1間隙が、他の前記第1間隙よりも小さく、あるいは、前記第1スプラインの歯底と前記第2スプラインの歯先との間の第2間隙が、他の前記第2間隙よりも小さく、
前記固定部において、前記内歯と前記外歯とが密接している、遊星ギア。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の遊星ギアであって、
前記固定部は、前記第1スプラインの歯先と前記第2スプラインの歯底との境界に位置する、遊星ギア。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の遊星ギアであって、
前記固定部は、前記第1スプラインの歯底と前記第2スプラインの歯先との境界に位置する、遊星ギア。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の遊星ギアであって、
前記固定部は、前記端面の他の部分よりも、軸方向に凹んでいる、遊星ギア。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の遊星ギアであって、
前記第1遊星ギアは、外周面に複数の第1ギア歯を有し、
前記第2遊星ギアは、外周面に複数の第2ギア歯を有し、
前記第1ギア歯の数と、前記第2ギア歯の数とは、相違し、
前記第2ギア歯の数と、前記第2スプラインの前記外歯の数とは、同一である、遊星ギア。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の遊星ギアであって、
軸方向視において、前記内歯および前記外歯の側面の形状がインボリュート曲線である、遊星ギア。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の遊星ギアを備えた遊星減速機であって、
中心軸を中心として、減速前の第1回転数で回転する太陽ギアと、
前記太陽ギアの径方向外側において、前記太陽ギアと噛み合う複数の前記遊星ギアと、
複数の前記遊星ギアの径方向外側において、前記第1遊星ギアと噛み合う円環状の第1インタナルギアと、
複数の前記遊星ギアの径方向外側において、前記第2遊星ギアと噛み合う円環状の第2インタナルギアと、
を備え、
前記第2インタナルギアが、前記第1インタナルギアに対して、減速後の第2回転数で回転する、遊星減速機。
【請求項9】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の遊星ギアの製造方法であって、
a)前記第1遊星ギアの前記第1スプラインの内側に、前記第2遊星ギアの前記第2スプラインを嵌合させる工程と、
b)前記遊星ギアの端面において、前記第1スプラインと前記第2スプラインとの境界を、軸方向にかしめることにより、前記固定部を形成する工程と、
を有する、遊星ギアの製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の遊星ギアの製造方法であって、
a)前記第1遊星ギアの前記第1スプラインの内側に、前記第2遊星ギアの前記第2スプラインを嵌合させる工程と、
b)前記遊星ギアの端面において、前記第2スプラインの前記外歯を、軸方向にかしめることにより、前記固定部を形成する工程と、
を有する、遊星ギアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ギア、遊星減速機、および遊星ギアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽ギアと、太陽ギアの周囲に配置された複数の遊星ギアと、複数の遊星ギアを包囲するインタナルギアとを有する遊星減速機が知られている。また、遊星ギアを、歯数の異なる2つのギアで構成された2段遊星ギアとし、この2段遊星ギアに噛み合う2つのインタナルギアによって、高い減速比を実現した、差動型の遊星減速機が知られている。
【0003】
従来の差動型の遊星減速機については、例えば、実開昭54-183566号公報に記載されている。
【文献】実開昭54-183566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
差動型の遊星減速機に使用される2段遊星ギアは、第1遊星ギアと、第1遊星ギアよりも小径の第2遊星ギアとで構成される。2段遊星ギアの製造時には、第1遊星ギアの内側に、第2遊星ギアの一部分が挿入される。その際、第1遊星ギアの内周面に設けられたスプラインに、第2遊星ギアの外周面に設けられたスプラインを、嵌合させる。これにより、第1遊星ギアに対する第2遊星ギアの回転を規制する。
【0005】
ただし、第1遊星ギアのスプラインと、第2遊星ギアのスプラインとを、隙間ばめにより挿入すると、第2遊星ギアに対して第1遊星ギアを軸方向に固定することができない。一方、第1遊星ギアのスプラインに、第2遊星ギアのスプラインを圧入すると、第1遊星ギアに歪みが生じ、第1遊星ギアの歯形が変化する、という問題がある。
【0006】
本発明の目的は、第1遊星ギアと、第1遊星ギアよりも小径の第2ギアとを有する遊星ギアの製造時に、第1遊星ギアの歯形が変化することを抑制しつつ、第1遊星ギアと第2遊星ギアとを固定できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、遊星減速機に使用される遊星ギアであって、円環状の第1遊星ギアと、前記第1遊星ギアに固定された、前記第1遊星ギアよりも小径の第2遊星ギアと、を有し、前記第1遊星ギアは、内周面に、軸方向に延びる複数の内歯をもつ第1スプラインを有し、前記第2遊星ギアは、外周面に、軸方向に延びる複数の外歯をもつ第2スプラインを有し、前記第1スプラインと前記第2スプラインとが、隙間ばめまたは中間ばめにより嵌合し、軸方向の端面において、前記第1スプラインと前記第2スプラインとの境界に、1つ以上の固定部を有し、前記固定部においては、前記第2スプラインの歯形断面が、前記第2スプラインの他の部分の歯形断面よりも大きく、前記固定部において、前記内歯と前記外歯とが密接している。
【0008】
本願の第2発明は、遊星減速機に使用される遊星ギアであって、円環状の第1遊星ギアと、前記第1遊星ギアに固定された、前記第1遊星ギアよりも小径の第2遊星ギアと、を有し、前記第1遊星ギアは、内周面に、軸方向に延びる複数の内歯をもつ第1スプラインを有し、前記第2遊星ギアは、外周面に、軸方向に延びる複数の外歯をもつ第2スプラインを有し、前記第1スプラインと前記第2スプラインとが、隙間ばめまたは中間ばめにより嵌合し、軸方向の端面において、前記第1スプラインと前記第2スプラインとの境界に、1つ以上の固定部を有し、前記固定部においては、前記第1スプラインの歯先と前記第2スプラインの歯底との間の第1間隙が、他の前記第1間隙よりも小さく、あるいは、前記第1スプラインの歯底と前記第2スプラインの歯先との間の第2間隙が、他の前記第2間隙よりも小さく、前記固定部において、前記内歯と前記外歯とが密接している。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の遊星ギアの製造方法であって、a)前記第1遊星ギアの前記第1スプラインの内側に、前記第2遊星ギアの前記第2スプラインを嵌合させる工程と、b)前記遊星ギアの端面において、前記第1スプラインと前記第2スプラインとの境界を、軸方向にかしめることにより、前記固定部を形成する工程と、を有する。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明または第2発明の遊星ギアの製造方法であって、a)前記第1遊星ギアの前記第1スプラインの内側に、前記第2遊星ギアの前記第2スプラインを嵌合させる工程と、b)前記遊星ギアの端面において、前記第2スプラインの前記外歯を、軸方向にかしめることにより、前記固定部を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本願の第1発明~第4発明によれば、第1スプラインに対して第2スプラインを圧入することなく、第1遊星ギアと第2遊星ギアとを、固定できる。これにより、第1遊星ギアのギア歯が変形することを抑制しつつ、第1遊星ギアと第2遊星ギアとを固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、遊星減速機の縦断面図である。
図2図2は、太陽ギア、複数の遊星ギア、および第1インタナルギアの、図1におけるA-A線断面図である。
図3図3は、遊星ギアの部分縦断面図である。
図4図4は、遊星ギアの平面図である。
図5図5は、遊星ギアの製造手順を示すフローチャートである。
図6図6は、遊星ギアの製造時における第1遊星ギアおよび第2遊星ギアの縦断面図である。
図7図7は、固定部の付近を軸方向に見た図である。
図8図8は、第1変形例に係る遊星ギアの平面図である。
図9図9は、第2変形例に係る遊星ギアの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、太陽ギアの中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0014】
また、以下の説明では、図1中の右側を「入力側」と称し、図1中の左側を「出力側」と称する。
【0015】
<1.一実施形態に係る遊星減速機>
図1は、本発明の一実施形態に係る遊星減速機1の縦断面図である。この遊星減速機1は、モータから入力される第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速して出力する装置である。遊星減速機1は、例えば、ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、遊星減速機1は、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の遊星減速機1は、1つの太陽ギア10、複数の遊星ギア20、遊星支持部30、第1インタナルギア40、第2インタナルギア50、および出力シャフト60を備えている。
【0017】
太陽ギア10は、中心軸91に沿って配置されるギアである。太陽ギア10は、入力シャフト11を介して、駆動源であるモータと接続される。入力シャフト11は、図示を省略したケーシングに、軸受を介して回転可能に支持される。太陽ギア10および入力シャフト11は、モータから入力される駆動力により、中心軸91を中心として、減速前の第1回転数で回転する。太陽ギア10の外周面には、複数の外歯12が設けられている。複数の外歯12は、中心軸91を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各外歯12は、太陽ギア10の外周面において、径方向外側へ突出する。
【0018】
遊星ギア20は、太陽ギア10の径方向外側に配置されたギアである。図2は、太陽ギア10、複数の遊星ギア20、および第1インタナルギア40の、図1におけるA-A線断面図である。ただし、図2では、図の煩雑化を避けるために、断面を示すハッチングと、各ギアの歯の図示が省略されている。図2に示すように、本実施形態では、太陽ギア10の周囲に、3つの遊星ギア20が等間隔で配置されている。ただし、遊星減速機1が有する遊星ギア20の数は、1~2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0019】
各遊星ギア20は、中央にピン孔23を有する。ピン孔23には、後述するキャリアピン32が挿入される。各遊星ギア20は、このキャリアピン32により、中心軸91と平行な遊星軸92を中心として、回転可能に支持される。
【0020】
図1に示すように、遊星ギア20は、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とを有する。第1遊星ギア21と第2遊星ギア22は、別部材であり、互いに固定されている。第1遊星ギア21は、太陽ギア10と噛み合う円環状のギアである。第1遊星ギア21は、外周面に複数の第1ギア歯211を有する。複数の第1ギア歯211は、遊星軸92を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各第1ギア歯211は、第1遊星ギア21の外周面において、外側へ向けて突出する。第1ギア歯211は、上述した太陽ギア10の外歯12と噛み合う。
【0021】
第2遊星ギア22は、第1遊星ギア21よりも小径のギアである。第2遊星ギア22は、外周面に複数の第2ギア歯221を有する。複数の第2ギア歯221は、遊星軸92を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各第2ギア歯221は、第2遊星ギア22の外周面において、外側へ向けて突出する。複数の第2ギア歯221は、複数の第1ギア歯211よりも、出力側に位置する。また、第1遊星ギア21が有する第1ギア歯211の数と、第2遊星ギア22が有する第2ギア歯221の数とは、相違する。
【0022】
遊星支持部30は、複数の遊星ギア20を支持するユニットである。図1に示すように、遊星支持部30は、籠型のキャリア31と、複数のキャリアピン32とを有する。キャリア31は、中心軸91を中心とする円環状の部材である。キャリア31は、中心軸91を中心として回転可能に支持される。キャリア31は、複数の窓部33を有する。窓部33は、キャリア31を径方向に貫通する孔である。複数の窓部33は、中心軸91を中心として等間隔に設けられる。複数のキャリアピン32は、周方向に間隔をあけた状態で、キャリア31に固定されている。各キャリアピン32は、窓部33において、遊星軸92に沿って軸方向に延びる。
【0023】
遊星ギア20は、キャリア31の窓部33内に配置される。また、遊星ギア20は、キャリアピン32に対して、ベアリング34を介して、回転可能に支持される。ベアリング34には、例えば、ニードルベアリングが用いられる。ただし、ニードルベアリングに代えて、ボールベアリング等の他方式のベアリングが用いられてもよい。遊星ギア20は、遊星軸92を中心として自転しながら、キャリア31とともに、中心軸91を中心として公転できる。
【0024】
第1インタナルギア40は、複数の遊星ギア20の径方向外側において、第1遊星ギア21と噛み合う円環状のギアである。第1インタナルギア40は、中心軸91と同軸に配置される。第1インタナルギア40は、図示を省略したケーシングに固定されている。したがって、遊星減速機1の駆動時にも、第1インタナルギア40は、静止した状態に保たれる。第1インタナルギア40は、複数の第1内歯41を有する。複数の第1内歯41は、中心軸91を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各第1内歯41は、第1インタナルギア40の内周面において、径方向内側へ突出する。上述した第1遊星ギア21の第1ギア歯211は、第1インタナルギア40の第1内歯41と噛み合う。
【0025】
第2インタナルギア50は、複数の遊星ギア20の径方向外側において、第2遊星ギア22と噛み合う円環状のギアである。第2インタナルギア50は、第1インタナルギア40よりも、出力側に位置する。また、第2インタナルギア50は、中心軸91と同軸に配置される。第2インタナルギア50は、図示を省略したケーシングに、軸受を介して回転可能に支持される。また、キャリア31と第2インタナルギア50との間には、軸受35が介在する。このため、キャリア31と第2インタナルギア50とは、互いに異なる回転数で、回転可能である。
【0026】
第2インタナルギア50は、複数の第2内歯51を有する。複数の第2内歯51は、中心軸91を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各第2内歯51は、第2インタナルギア50の内周面において、径方向内側へ突出する。上述した第2遊星ギア22の第2ギア歯221は、第2インタナルギア50の第2内歯51と噛み合う。第1インタナルギア40が有する第1内歯41の数と、第2インタナルギア50が有する第2内歯51の数とは、相違する。
【0027】
出力シャフト60は、中心軸91に沿って配置されるシャフトである。出力シャフト60は、キャリア31よりも出力側に位置する。本実施形態では、第2インタナルギア50と出力シャフト60とが、単一の部材により形成されている。ただし、第2インタナルギア50と出力シャフト60とは、別部材であってもよい。
【0028】
太陽ギア10が第1回転数で回転すると、遊星ギア20は、太陽ギア10との噛み合いにより、遊星軸92を中心として自転する。また、遊星ギア20は、第1インタナルギア40との噛み合いにより、第1インタナルギア40に沿って、太陽ギア10の周りを公転する。すなわち、複数の遊星ギア20は、遊星軸92を中心として自転しながら、中心軸91を中心として公転する。このとき、中心軸91を中心とする遊星ギア20の公転の回転数は、第1回転数よりも低い中間回転数となる。
【0029】
また、上述の通り、第1インタナルギア40が有する第1内歯41の数と、第2インタナルギア50が有する第2内歯51の数とは、相違する。このため、遊星ギア20の公転に伴い、第1インタナルギア40に対して第2インタナルギア50が、歯数の差に応じた回転数で回転する。この第2インタナルギア50の回転数は、中間回転数よりもさらに低い第2回転数となる。その結果、第2インタナルギア50および出力シャフト60が、中心軸91を中心として第2回転数で回転する。したがって、出力シャフト60から、減速後の第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0030】
<2.遊星ギアについて>
続いて、上述した遊星ギア20のより詳細な構造について説明する。図3は、遊星ギア20の部分縦断面図である。図4は、遊星ギア20の入力側の端面を、軸方向に見た平面図である。
【0031】
図3および図4に示すように、第1遊星ギア21は、内周面に第1スプライン70を有する。第1スプライン70は、内側へ向けて突出する複数の内歯71を有する。複数の内歯71は、遊星軸92を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各内歯71は、軸方向に沿って直線状に延びる。
【0032】
第2遊星ギア22は、外周面に第2スプライン80を有する。すなわち、第2遊星ギア22は、上述した複数の第2ギア歯221を有するギア部222と、第2スプライン80を有する挿入部223とを有する。挿入部223は、ギア部222よりも入力側に位置する。第2スプライン80は、外側へ向けて突出する複数の外歯81を有する。複数の外歯81は、遊星軸92を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各外歯81は、軸方向に沿って直線状に延びる。第1スプライン70の内歯71の数と、第2スプライン80の外歯81の数は、同一である。
【0033】
なお、第2遊星ギア22において、第2ギア歯221の数と、外歯81の数とは、同一である。第2ギア歯221と外歯81とは、軸方向に繋がっている。ただし、外歯81の高さは、第2ギア歯221の高さよりも低い。すなわち、第2スプライン80の外歯81は、第2ギア歯221を入力側へ延長し、その先端がカットされた形状を有する。このような構造にすれば、第2遊星ギア22の製造時に、第2ギア歯221とともに外歯81を加工しやすい。したがって、第2遊星ギア22の製造時の工数を低減できる。
【0034】
図5は、遊星ギア20の製造手順を示すフローチャートである。図5に示すように、遊星ギア20の製造時には、まず、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22を用意する(ステップS1)。そして、第1遊星ギア21の出力側から、第1遊星ギア21の内側へ、第2遊星ギア22の挿入部223を挿入する。これにより、第1スプライン70の内側に、第2スプライン80の挿入部223を嵌合させる(ステップS2)。
【0035】
ステップS2では、第1スプライン70の隣り合う内歯71の間に、それぞれ、第2スプライン80の外歯81が挿入される。そして、第1スプライン70の内歯71の先端と、第2スプライン80の外歯81の歯底とが、互いに対向する。また、第2スプライン80の外歯81の先端と、第1スプライン70の内歯71の歯底とが、互いに対向する。
【0036】
ステップS2では、第1スプライン70と第2スプライン80とを、圧入ではなく、隙間ばめまたは中間ばめにより嵌合する。すなわち、第1スプライン70の内歯71と、第2スプライン80の外歯81とは、公差の範囲の少なくとも一部の状態において、互いに接触しないような寸法としておく。このようにすれば、嵌合に伴う第1遊星ギア21の歪みを抑制できる。したがって、第1ギア歯211の歯形の変化を抑制できる。
【0037】
図6は、ステップS2の完了後における第1遊星ギア21および第2遊星ギア22の縦断面図である。第1スプライン70に対する第2スプライン80の嵌合が完了すると、図6のように、第1遊星ギア21の入力側の端面の軸方向の位置と、第2遊星ギア22の入力側の端面の軸方向の位置とが、一致する。
【0038】
次に、第1遊星ギア21および第2遊星ギア22の入力側の端面において、第1スプライン70と第2スプライン80の境界を、軸方向にかしめる(ステップS3)。具体的には、図6のように、第1遊星ギア21および第2遊星ギア22の入力側から、第1スプライン70と第2スプライン80の境界へ向けて、かしめ用の押圧ピンPを押し当てる。これにより、第1スプライン70と第2スプライン80の入力側の端面が、部分的に塑性変形する。その結果、図3および図4のように、第1スプライン70と第2スプライン80の境界に、固定部25が形成される。
【0039】
固定部25は、例えば、周方向の1箇所に形成される。ただし、周方向の複数箇所に固定部25を形成してもよい。
【0040】
図7は、固定部25の付近を軸方向に見た図である。図7には、かしめ前の第2スプライン80の歯形断面が、二点鎖線で示されている。図7のように、本実施形態の固定部25は、第1スプライン70の内歯71の歯先と、第2スプライン80の外歯81の歯底との境界に位置する。
【0041】
ステップS3のかしめにより、図7中の破線矢印のように、第2スプライン80の歯底付近の歯形断面が拡大する。これにより、固定部25における第2スプライン80の歯形断面が、第2スプライン80の固定部25以外の部分の歯形断面よりも、大きくなる。また、第1スプライン70の内歯71の歯先と、第2スプライン80の外歯81の歯底との間の第1間隙26が、固定部25以外の部分の第1間隙26よりも、小さくなる。
【0042】
また、固定部25においては、第1スプライン70の内歯71の側面と、第2スプライン80の外歯81の側面とが、互いに密接する。これにより、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とが固定される。すなわち、第2遊星ギア22に対する第1遊星ギア21の軸方向の位置ずれが、防止される。
【0043】
以上のように、この遊星減速機1の遊星ギア20は、入力側の端面に、かしめにより形成された固定部25を有する。このため、第1スプライン70に対して第2スプライン80を圧入することなく、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とを固定できる。これにより、第1遊星ギア21の第1ギア歯211の歯形が変化することを抑制しつつ、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とを固定できる。
【0044】
遊星ギア20の入力側の端面において、固定部25は、他の部分よりも出力側へ凹んでいる。したがって、遊星ギア20の軸方向の寸法を拡大することなく、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とが固定される。また、固定部25は、第1インタナルギア40に接触しない。これにより、遊星減速機1の駆動時の摺動摩擦が抑制される。
【0045】
図7のように、軸方向視において、第1スプライン70の内歯71の歯先と、第2スプライン80の外歯81の歯先は、いずれも、平坦に面取りされている。また、軸方向視において、第1スプライン70の内歯71の側面と、第2スプライン80の外歯81の側面とは、いずれも、インボリュート曲線となっている。内歯71と外歯81をこのような形状にすれば、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22の位相を合わせることが容易となる。また、第1スプライン70の内歯71の歯先と、第2スプライン80の外歯81の歯底との第1間隙26が、小さくなる。このため、軸方向視における固定部25の面積を、小さくすることができる。
【0046】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態には限定されない。以下では、種々の変形例について、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0047】
<3-1.第1変形例>
図8は、第1変形例に係る遊星ギア20の平面図である。この第1変形例では、固定部25が、第1スプライン70の内歯71の歯底と、第2スプライン80の外歯81の歯先との境界に位置する。当該固定部25においては、第1スプライン70の内歯71の歯底と、第2スプライン80の外歯81の歯先との間の第2間隙27が、固定部25以外の部分の第2間隙27よりも、小さい。このような構造でも、かしめにより形成された固定部25により、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とを固定できる。
【0048】
ただし、固定部25が形成される前の状態において、第1スプライン70の内歯71の歯先と第2スプライン80の外歯81の歯底との間の第1間隙26は、第1スプライン70の内歯71の歯底と第2スプライン80の外歯81の歯先との間の第2間隙27よりも、小さい。このため、上記実施形態のように、第1間隙26の付近に固定部25を設ける方が、内歯71と外歯81とを、より容易に密接させることができる。
【0049】
<3-2.第2変形例>
図9は、第2変形例に係る遊星ギア20の平面図である。この第2変形例では、第1スプライン70と第2スプライン80の境界ではなく、第2スプライン80の外歯81のみを、軸方向にかしめる。これにより、第2スプライン80の外歯81に、固定部25を形成する。この場合でも、外歯81の歯形断面が、固定部25以外の部分の外歯81歯形断面よりも大きくなることによって、外歯81の側面と、内歯71の側面とが、互いに密接する。これにより、第1遊星ギア21と第2遊星ギア22とを固定することができる。
【0050】
<3-3.他の変形例>
遊星減速機の細部の形状については、本願の各図に示された形状と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、遊星ギア、遊星減速機、および遊星ギアの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 遊星減速機
10 太陽ギア
11 入力シャフト
12 外歯
20 遊星ギア
21 第1遊星ギア
22 第2遊星ギア
23 ピン孔
25 固定部
26 第1間隙
27 第2間隙
30 遊星支持部
31 キャリア
32 キャリアピン
33 窓部
34 ベアリング
35 軸受
40 第1インタナルギア
41 第1内歯
50 第2インタナルギア
51 第2内歯
60 出力シャフト
70 第1スプライン
71 内歯
80 第2スプライン
81 外歯
91 中心軸
92 遊星軸
211 第1ギア歯
221 第2ギア歯
222 ギア部
223 挿入部
P 押圧ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9