(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】親水性部材並びにこれを用いたレンズ、車載用カメラ、樹脂フィルム及び窓
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20231031BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20231031BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20231031BHJP
B60R 1/20 20220101ALI20231031BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20231031BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20231031BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B01J35/02 J
B01J35/02 H
G03B15/00 V
B60R1/20
G02B7/02 D
G02B1/18
(21)【出願番号】P 2019011846
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】森 俊介
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-271491(JP,A)
【文献】特開2001-047581(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147573(WO,A1)
【文献】特開2008-132474(JP,A)
【文献】特開2002-148402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B01J 35/00-35/12
G02B 1/10- 1/18,
7/02- 7/16
G03B 15/00-15/16
B60R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、下地層と、最外表面層と、を含み、
前記下地層は、前記基材と前記最外表面層との間に配置され、
前記最外表面層は、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素バインダを含み、
前記下地層は、二酸化ケイ素を含み、
前記下地層の厚さは、15~90nmであり、
前記最外表面層の二酸化ケイ素と二酸化チタンとの質量比率は、4:6~7:3であ
り、
鉛筆硬度が3H以上である、親水性部材。
【請求項2】
前記最外表面層の前記二酸化ケイ素粒子の平均粒子径は、10~50nmである、請求項1記載の親水性部材。
【請求項3】
前記最外表面層の二酸化チタン粒子の平均粒子径は、7~35nmである、請求項1記載の親水性部材。
【請求項4】
前記最外表面層の厚さは、40~220nmである、請求項1記載の親水性部材。
【請求項5】
前記最外表面層の算術平均粗さは、1~4nmである、請求項1記載の親水性部材。
【請求項6】
前記基材は、ガラス又は樹脂で形成されている、請求項1記載の親水性部材。
【請求項7】
前記基材は、二酸化ケイ素系ガラス、ランタン-ボロン系ガラス又はタンタル系ガラスで形成されている、請求項1記載の親水性部材。
【請求項8】
前記基材は、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂で形成されている、請求項1記載の親水性部材。
【請求項9】
可視領域である400~700nmにおける透過率は、85%以上であり、
水との接触角は、10°以下である、請求項1記載の親水性部材。
【請求項10】
親水性部材を含むレンズであって、
前記親水性部材は、基材と、下地層と、最外表面層と、を含み、
前記下地層は、前記基材と前記最外表面層との間に配置され、
前記最外表面層は、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素バインダを含み、
前記下地層は、二酸化ケイ素を含み、
前記下地層の厚さは、15~90nmであり、
前記最外表面層の二酸化ケイ素と二酸化チタンとの質量比率は、4:6~7:3であ
り、
鉛筆硬度が3H以上である、レンズ。
【請求項11】
前記下地層と前記基材との間には、反射防止膜が配置されている、請求項
10記載のレンズ。
【請求項12】
前記反射防止膜は、前記基材の表面に三酸化二アルミニウム層及び二酸化ジルコニウム層をこの順に形成したものである、請求項
11記載のレンズ。
【請求項13】
車両の外周部に設けられるカメラであって、
請求項
10~
12のいずれか一項に記載のレンズを備えている、車載用カメラ。
【請求項14】
丸める変形
が可能であって可視領域の光を透過する実質的に透明な樹脂フィルムであって、
基材と、下地層と、最外表面層と、を含み、
前記基材は、樹脂であり、
前記下地層は、前記基材と前記最外表面層との間に配置され、
前記最外表面層は、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素バインダを含み、
前記下地層は、二酸化ケイ素を含み、
前記最外表面層の二酸化ケイ素と二酸化チタンとの質量比率は、4:6~7:3であり、
前記最外表面層の厚さは、40~80nmであり、
前記下地層の厚さは、15~50nmであ
り、
鉛筆硬度が3H以上である、樹脂フィルム。
【請求項15】
前記下地層及び前記最外表面層は、前記基材の一方の面に設け、
もう一方の面には、粘着層が設けられている、請求項
14記載の樹脂フィルム。
【請求項16】
建築物又は車両の内部から外部を視認可能な窓であって、
基材と、下地層と、最外表面層と、を含み、
前記下地層は、前記基材と前記最外表面層との間に配置され、
前記最外表面層は、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素バインダを含み、
前記下地層は、二酸化ケイ素を含み、
前記下地層の厚さは、15~90nmであり、
前記最外表面層の二酸化ケイ素と二酸化チタンとの質量比率は、4:6~7:3であり、
鉛筆硬度が3H以上であり、
前記下地層及び前記最外表面層は、前記基材の前記内部側又は前記外部側の表面に設けられている、窓。
【請求項17】
前記基材に樹脂フィルムが貼付された構成を有し、
前記下地層及び前記最外表面層は、前記樹脂フィルムを構成する樹脂の表面に設けられている、請求項
16記載の窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性部材並びにこれを用いたレンズ、車載用カメラ、樹脂フィルム及び窓に関する。
【背景技術】
【0002】
野外の風雨に曝される建築物、自動車等の窓ガラスは、水滴により視認性が妨げられる。この問題の解決策の一つとして、窓ガラスの表面を親水化する手段が挙げられる。これにより、付着した水を膜状にし、水滴の付着を防止することができ、窓ガラスの視認性を確保することができる。
【0003】
しかし、親水性の表面には、自動車の排気ガス、工場の排煙などに由来する有機物の汚れが付着しやすい。有機物が付着すると、親水性が低下する。こうなると、水が滴状に付着し、視認性が著しく低下する。自動車、トラック等のバックモニターなどに使われるカメラの外表面に装着されているレンズも、上記窓ガラスと同様、初期に親水性を有していても、排気ガスなどに含まれる有機物の汚れが付着すると、親水性が低下する。このため、雨水が水滴として付着し、カメラとしての視認性が低下する。
【0004】
特許文献1には、レンズ表面に小さな水滴が僅かに付着しても水膜が形成しやすい親水膜を形成した車載用カメラであって、レンズの表面に、所定範囲の平均粒子径を持つ二酸化ケイ素粒子、及び二酸化ケイ素を主成分とするバインダーからなる親水膜を設け、親水膜に分散された二酸化ケイ素粒子のうち、レンズ表面側の二酸化ケイ素粒子の平均粒子径を大きくしたものが開示されている。
【0005】
特許文献2には、有色干渉色及び有色二重像の発生を抑える観点から、透明ガラス基板上に、Al2O3、SiO2、及びMgF2のうちの少なくとも一つを含むバリア層と、バリア層上に形成されたアモルファス酸化チタン層と、アモルファス酸化チタン層の上に形成されたアナターゼ酸化チタン層と、アナターゼ酸化チタン層の上に形成されたSiO2の多孔質状の親水層とを備え、それぞれの層が所定の膜厚を有する防曇素子等が開示されている。
【0006】
特許文献3には、基材である有機基材上に光触媒層設けた光触媒塗装体であって、光触媒層が、光触媒粒子である酸化チタン粒子と、無機酸化物粒子であるシリカ粒子と、を含んでなり、光触媒層が、層中の粒子間に隙間を有し、基材と光触媒層との間にシリコーン変性樹脂等を含む中間層を備えてなるものが開示されている。
【0007】
特許文献4には、降雨時及び晴天時の両方で、有害物質の分解除去、脱臭、防汚などの光触媒活性を発現し、かつ、透明性に優れた光触媒層形成組成物として、光触媒粒子である所定の二酸化チタンと、シリカ化合物とを含有するものであって、所定の特徴を有するものが開示されている。特許文献4には、基材と光触媒層との間に、光触媒層の光触媒作用から基材を保護する基材保護層を介在させて光触媒層付透明基材を形成すること、シリカ化合物の例としてのアルコール性シリカゾル等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-49281号公報
【文献】特開2005-330148号公報
【文献】特開2010-99647号公報
【文献】特開2005-131552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1においては、有機物が付着した際の対応策が記載されていないため、親水性を長期にわたって確保することについては改善の余地があると考えられる。
【0010】
特許文献2~4においては、光触媒である酸化チタンを用いて、親水性及び防汚性を付与した膜を有する部材が記載されているが、膜の硬度については詳細には記載されていない。
【0011】
本発明の目的は、親水性、防汚性、透明性及び耐擦性が高く、かつ、基材が樹脂であっても発生するラジカルにより基材の分解が生じにくい部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の親水性部材は、基材と、下地層と、最外表面層と、を含み、下地層は、基材と最外表面層との間に配置され、最外表面層は、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素バインダを含み、下地層は、二酸化ケイ素を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、親水性、防汚性、透明性及び耐擦性が高く、かつ、基材が樹脂であっても発生するラジカルにより基材の分解が生じにくい部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の親水性部材を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の親水性部材の他の例であって、ガラス板に樹脂フィルムを貼付した構成を有するものを示す模式断面図である。
【
図3】本発明の親水性部材の他の例であって、基材の表面に反射防止膜が形成されたものを示す斜視図である。
【
図4】本発明の車載用カメラを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、基材の表面に親水性及び防汚性を有する膜を設けた親水性部材、具体的には、基材としてガラス板、樹脂板、樹脂フィルム等を用いた親水性部材に関する。言い換えると、基材は、曲げにくい硬質の板状部材であってもよく、屈曲性を有するフィルム状部材であってもよい。当該親水性部材は、レンズ、窓等に用いられる。また、レンズ、窓等を有する車載用のカメラ、センサ等にも用いられる。
【0016】
我々は、鋭意検討を行った結果、基材の最外表面に二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子、及びこれらを固定する二酸化ケイ素を含む層を有し、更にこの層と基材との間に二酸化ケイ素層を有する部材が、その表面において親水性及び光触媒性を有することを見出した。また、基材が有機物であっても、光触媒作用に伴う基材の分解が生じないことを見出した。
【0017】
本発明の具体的な解決手段は、次のとおりである。
【0018】
本発明の親水性部材は、基材と、下地層と、最外表面層と、を含む。下地層は、基材と最外表面層との間に配置されている。最外表面層は、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素バインダを含む。下地層は、二酸化ケイ素を含む。
【0019】
最外表面層の二酸化ケイ素粒子の平均粒子径は、10~50nmであることが望ましい。
【0020】
最外表面層の二酸化チタン粒子の平均粒子径は、7~35nmであることが望ましい。
【0021】
最外表面層の二酸化ケイ素と二酸化チタンとの質量比率は、4:6~7:3であることが望ましい。
【0022】
最外表面層の厚さは、40~220nmであることが望ましい。
【0023】
最外表面層の算術平均粗さは、1~4nmであることが望ましい。
【0024】
下地層の厚さは、15~90nmであることが望ましい。
【0025】
基材は、ガラスで形成されていてもよいし、樹脂で形成されていてもよい。
【0026】
基材は、二酸化ケイ素系ガラス、ランタン-ボロン系ガラス又はタンタル系ガラスで形成されていてもよい。
【0027】
基材は、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂で形成されていてもよい。
【0028】
本発明のレンズは、上記の親水性部材そのものであってもよい。また、親水性部材を含むものであってもよい。
【0029】
下地層と基材との間には、反射防止膜が配置されていてもよい。
【0030】
反射防止膜は、基材の表面に三酸化二アルミニウム層及び二酸化ジルコニウム層をこの順に形成したものであることが望ましい。
【0031】
本発明のカメラは、車両の外周部に設けられるものであってもよく、上記のレンズを備えている。すなわち、車載用カメラである。
【0032】
本発明の樹脂フィルムは、可視領域の光を透過する実質的に透明なものが望ましい。この樹脂フィルムは、上記の親水性部材そのものであってもよい。また、親水性部材を含むものであってもよい。
【0033】
樹脂フィルムにおいては、下地層及び最外表面層は、基材の一方の面に設け、もう一方の面には、粘着層が設けられているものであってもよい。
【0034】
本発明の窓は、建築物又は車両の内部から外部を視認可能なものであることが望ましい。この窓は、上記の親水性部材そのものであってもよい。また、親水性部材を含むものであってもよい。
【0035】
窓においては、下地層及び最外表面層は、基材の内部側又は外部側の表面に設けられているものであってもよい。
【0036】
窓においては、基材に樹脂フィルムが貼付された構成を有するものであってもよい。
【0037】
下地層及び最外表面層は、樹脂フィルムを構成する樹脂の表面に設けられていることが望ましい。
【0038】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0039】
1.膜の構成
図1は、本発明の親水性部材の断面を模式的に示したものである。
【0040】
本図においては、親水性部材100は、基材1の表面に二層構造の膜を有する。膜は、最外表面を構成する光触媒層2(上層膜)と、基材1と光触媒層2との間に設けられた下地層3(下層膜)と、を有する。光触媒層2は、二酸化ケイ素を実質的な基本成分とするバインダ4に二酸化ケイ素粒子5及び二酸化チタン粒子6が分散された構成を有する。下地層3は、後述のとおり、二酸化ケイ素の薄膜であり、バインダ4を塗布して形成してもよい。なお、上層膜は、「最外表面層」ともいう。
【0041】
(1)下地層3(下層膜)
a)膜の構成
この膜は、二酸化ケイ素の薄膜である。この膜は、スパッタ、蒸着等の真空プロセスで形成することも可能である。しかし、表面側の被膜と基材との密着性を向上させるには、塗布し、熱硬化することにより形成される二酸化ケイ素の膜が好適である。これは、このようにして形成された膜の表面には、オングストロームオーダーの隙間が多数形成され、この隙間に最外表面を構成する被膜のバインダが浸透し、硬化することにより、強固なアンカー効果を期待できるからである。
【0042】
膜の厚さは、アンカー効果を発揮するように、最小でも15nmは必要である。また、この膜は、膜中に微細な隙間を多数含むため、厚すぎると擦れ等の衝撃に耐えるための物理的強度が低下する。これを防ぐため、膜の厚さは、最大でも90nmに抑えることが望ましい。
【0043】
また、基材が容易に変形可能な樹脂フィルムの場合、保管のために内径10cm程度に丸める際に下層膜が割れるおそれがある。それを抑制するためには、下層膜を極力薄くすることが望まれる。具体的には、下層膜の厚さを50nm以下にすれば、基材を丸めた場合でも下層膜がほとんど割れないという結果を得ている。よって、基材が樹脂フィルムの場合、下層膜の厚さは15~50nmが好ましい。
【0044】
b)膜の形成方法
塗布・熱硬化で形成する場合は、加水分解性有機ケイ素化合物の一種でアルコキシシランの重合体が溶剤に溶解・懸濁したシリカゾルを塗布し、熱硬化する方法が好適である。シリカゾルは、溶剤として水或いはエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコールを使用する。この中では表面張力が小さく、樹脂基材等に弾かれにくいアルコールが好適である。熱硬化は、基材の耐えられる温度で行う。
【0045】
(2)光触媒層2(上層膜)
a)膜の構成
この膜は、上述のとおり、二酸化ケイ素を実質的な基本成分とするバインダ4に二酸化ケイ素粒子5及び二酸化チタン粒子6が分散された構成を有する(
図1)。各組成の詳細は、次のとおりである。
【0046】
i)バインダ材料
バインダは、上記の下層膜を形成する際に用いるシリカゾルが好適である。
【0047】
ii)二酸化ケイ素粒子
本発明の親水性部材は、レンズ、窓等に用いる場合、すなわち、最低限、可視光をある程度透過する必要がある部材として用いる場合を主たる適用対象として考えている。なお、可視光以外を透過対象とする部材であってもよい。例えば、赤外線、紫外線等を透過する部材であってもよい。もちろん、光透過性を重視しない部材として用いる場合も適用対象である。
【0048】
我々の検討では、実用性を考えると可視領域である400~700nmの領域は85%以上透過することが望ましい。そのため、膜中にある二酸化ケイ素粒子のサイズが大きいと、可視光は二酸化ケイ素粒子により散乱され、実質的な透過率が低下する。特に、平均粒子径が100nm以上になると膜は白濁してしまう。そのため、二酸化ケイ素粒子の平均粒子径は50nm以下にする必要がある。また、平均粒子径が小さすぎると、後述する膜の形成時に秤量等で二酸化ケイ素粒子を扱う際、飛散しやすくなる。このため、平均粒子径は10nm以上が望ましい。
【0049】
以上より、二酸化ケイ素粒子の平均粒子径は10~50nmが好適である。
【0050】
iii)二酸化チタン粒子
上記二酸化ケイ素粒子と同様、二酸化チタン粒子のサイズも大きすぎると、散乱により透過率の低下を招く。また、二酸化チタンは、屈折率が約2.6もあるため、反射率も高い。そのため、屈折率が約1.5の二酸化ケイ素に比べ、屈折率が高く、小径でもその影響は二酸化ケイ素より大きい。そのため、平均粒子径は35nm以下とする必要がある。
【0051】
また、二酸化ケイ素に比べ、二酸化チタン(比重は約3.9)の方が比重が大きい。このため、粒子サイズの下限は、二酸化ケイ素より小さく、7nmまでは平均粒子径10nmの二酸化ケイ素粒子(比重は約2.2)と同等のハンドリングが可能となる。
【0052】
以上より、二酸化チタンの平均粒子径は、7~35nmが好適である。
【0053】
iv)膜の厚さ、表面粗さ、各組成の割合等
膜の厚さは、用いる二酸化ケイ素、二酸化チタンのサイズにより多少変わるが、概ね40~220nmが好適である。膜がほぼ粒子サイズ~粒子サイズの1.2倍程度の場合、膜はほぼ単粒子の膜となる。こうなると、表面の粗さ(ここでは算術平均粗さ(Ra)で表す。)は、膜中の粒子の半径程度の値となる。
【0054】
二酸化ケイ素の平均粒子径の下限が10nmとすると、Raは5nmとなる。Raがこの値、及びこの値以上の値になると、膜表面を尖ったものは膜の凹凸に引っかかりやすくなり、膜が剥離しやすくなる問題が生じる。膜を粒子サイズの4倍程度に厚くすると、膜は平坦化し、Raも小さくなる。Raが4nm以下になると、尖ったものも引っかかりにくくなるため、耐擦性は向上する。よって、膜厚の下限は用いている二酸化ケイ素粒子のサイズの下限の約4倍である40nmが望ましい。
【0055】
一方、二酸化チタンは、屈折率が約2.5と、汎用の透明基材である二酸化ケイ素(屈折率は約1.5)、アクリル樹脂(屈折率は約1.49)等に比べて高い。そのため、この膜が厚くなりすぎると、可視領域での反射率が高くなり、透過率の低下が生じる問題が出てくる。カメラレンズや車両の視認性を確保するためには、透過率としては、400~700nmの可視領域で85%は必要と考えられる。二酸化チタン粒子、二酸化ケイ素粒子等を添加すると、レイリー散乱により可視領域でも短波長域、具体的には400nm近傍の透過率が下がる傾向にある。そのため、400nmでの透過率は85%以上確保する必要がある。
【0056】
この透過率を確保するために検討した結果、膜厚は220nm以下にする必要があることがわかった。また、この程度の膜厚になると、膜はかなり平坦になる。但し、二酸化ケイ素及び二酸化チタンの粒子を含有しているため、それぞれの粒子の含有率によっても異なるが、光触媒作用による防汚機能を発揮するのに必要な二酸化チタンの含有割合を維持しようとすると、膜厚が220nmでは、Raは1nm程度となる。
【0057】
以上より、膜の厚さは、40~220nmが好適である。また、膜の算術表面粗さRaは、1~4nmが好適である。
【0058】
また、基材が容易に変形可能な樹脂フィルムの場合、保管のために内径10cm程度に丸める際に上層膜が割れるおそれがある。それを抑制するためには、上層膜を極力薄くすることが望まれる。具体的には、上層膜の厚さを80nm以下にすれば、基材を丸めた場合でも上層膜がほとんど割れないという結果を得ている。よって、基材が樹脂フィルムの場合、上層膜の厚さは40~80nmが好ましい。上層膜が下層膜に比べ膜を厚くすることが可能である理由は、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の粒子を含有しているため、膜の柔軟性が向上するのではないかと推察される。
【0059】
膜中の二酸化ケイ素と二酸化チタンの比率の割合は、光触媒作用、親水性、膜の物理的強度等を考慮して決められる。二酸化チタンの割合が高くなるほど、光触媒作用が顕著に発現する。また、二酸化ケイ素粒子の割合が高くなるほど、膜の親水性は向上する。さらに、二酸化ケイ素バインダの割合を高めると、膜の物理的強度が高まる。
【0060】
後述の膜の形成方法として塗布・熱硬化を採る場合、二酸化ケイ素に比べて比重が大きい二酸化チタンは、膜の表面側よりも下層膜側に局在化する。すると、表面の有機物を分解するための酸素ラジカルやOHラジカルが表面に到達しにくくなる。特に、膜が厚くなるほどその影響は大きくなるので、二酸化チタンの割合は高めなければならない。
【0061】
我々の検討の結果、膜厚が前述した上限である220nmの場合は、光触媒作用を発揮するための二酸化チタンは、膜に対して質量基準で30%以上必要であることが判った。一方、膜厚が下限値である40nmの場合は、二酸化チタンは膜に対して質量基準で30%より少なくても、光触媒効果は認められた。よって、膜厚を考慮した場合、二酸化チタン粒子の添加率の下限は30%であると言える。
【0062】
二酸化チタンの上限を調べるため、いずれの膜厚においても、二酸化チタンの添加割合を高めていったところ、質量基準で70%の場合は、鉛筆硬度が3H以上を確保できた。しかしながら、これより二酸化チタンの割合を高めると、鉛筆硬度は著しく低下した。二酸化チタン粒子を質量基準で73%とした膜は、二酸化ケイ素粒子の割合をほぼ0まで減らしても、鉛筆硬度がH以下であった。さらに、二酸化チタン粒子を質量基準で77%とした膜は、鉛筆硬度がBまで低下した。透明な汎用樹脂基材の中で最も高硬度のアクリル樹脂でも、鉛筆硬度は2Hはあるので、H以下になる組成は実用上問題と考えられる。
【0063】
よって、二酸化チタン粒子の添加割合の上限は70%が好適と判断される。
【0064】
以上より、膜中の二酸化チタン粒子の比率は30~70質量%が好適である。残りは二酸化ケイ素バインダと二酸化ケイ素粒子である。
【0065】
前述のように、二酸化ケイ素粒子は、膜の親水性を向上させるために添加する。この粒子を添加することにより、膜内部の細かな隙間の割合が増えるので、毛細管現象により水が浸みこみやすくなり、膜表面の親水性が向上する。しかし、二酸化ケイ素粒子の割合を高めると、二酸化ケイ素バインダの割合が減るので、耐擦性等の物理的強度が低下する。
【0066】
我々が検討した結果、鉛筆硬度3Hを確保するためには、二酸化ケイ素バインダの割合は、質量基準で最低でも20%は必要であることが判った。また、水との接触角10°以下の親水性を得るには、二酸化ケイ素粒子は、質量基準で10%以上必要なことも判った。
【0067】
よって、膜中の二酸化ケイ素粒子の比率は、10質量%以上が好適である。
【0068】
b)膜の形成方法
膜は、上記した二酸化チタン粒子、二酸化ケイ素粒子及びシリカゾルを溶剤に混合した塗料を基材に塗布し、熱硬化することによって形成する。
【0069】
溶剤は、シリカゾルが溶解するものであれば特に制限はないが、樹脂フィルム等の基材に塗布する場合は、表面張力の高い溶剤は、塗布後に弾かれて均一な膜が形成できない可能性がある。そのため、表面張力が高い水、エチレングリコール等の溶剤は好ましくない。また、基材がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の場合は、ケトン系の溶剤やエステル系の溶剤に基材が溶解してしまうので好ましくない。よって、表面張力が水やエチレングリコール等に比べて小さく、且つ、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等を溶解しないエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコールが好適である。
【0070】
塗料中の固形分の濃度は、塗布方法によっても異なる。コート方法は、スピンコート、ディップコート、フローコート、バーコート、ロールコート等、通常のコート方法でかまわない。
【0071】
前述のように、塗料中には、二酸化ケイ素粒子及び二酸化チタン粒子が分散し、シリカゾルが溶解した状態で存在する。二酸化ケイ素は、比重が約2.2であり、比重が0.8前後のアルコール系溶剤に比べて大きい。しかし、粒子のサイズが最大でも50nmのため、表面積が大きく、オーバーヘッドスターラー、或いは攪拌子を用いた通常の攪拌操作で容易に塗料中に分散可能である。
【0072】
しかし、二酸化チタン粒子は比重が約3.9と高いので、遊星ボールミルやホモジナイザー等の機器を用いて攪拌することにより、塗料中に分散することが可能となる。
【0073】
また、分散剤としては、製膜時にほぼ揮発してしまう材料を用いる必要がある。それは、二酸化チタンによる光触媒作用が膜中に残っている分散剤を分解する可能性があるからである。そこで、有機物系の分散剤としては、製膜時の熱硬化により揮発してしまうようなエチレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル等が候補として挙げられる。
【0074】
前述の塗布方法で塗料を基材に塗布した後、熱硬化して製膜する。熱硬化の温度は、高いほど、速やかに進み、しかも高硬度の膜が形成できる利点がある。しかし、基材がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の樹脂の場合は、加熱温度が高すぎると基材の変形を招く。よって、加熱温度は、基材の耐えられる最高温度に設定することが望ましい。
【0075】
2.基材
本発明の基材は、視認性が高いガラス板、樹脂板、レンズ等である。表面に形成されている上述の二層の膜は、可視領域の光を概ね85%以上透過するので、基材の視認性は確保可能となる。
【0076】
基材が建築物の窓用ガラス板や、車両の窓用ガラス板の場合、二酸化ケイ素の中にナトリウム、カリウム等が添加されたガラスの上に上述の二層の膜が形成された構成をとる。
【0077】
基材が樹脂板や樹脂フィルムの場合は、下層膜が薄すぎると、表面の膜から発生した酸素ラジカル、OHラジカル等が樹脂板や樹脂フィルムの表面を分解するおそれがある。そのため、この膜は、40~90nm程度の厚さにすることが望ましい。この膜を厚くすることにより、酸素ラジカル、OHラジカル等が樹脂板や樹脂フィルムの表面に達しないようにする。
【0078】
また、樹脂フィルムの場合、前処理無しに塗布液をコーティングしようとすると、塗布液が弾かれ、均一な膜が形成できなくなることもある。その際は、あらかじめコートする表面に酸素プラズマを照射したり、オゾン雰囲気下に置いたりすることにより、表面の濡れ性が向上し、塗布液を弾かなくなる。
【0079】
図2は、本発明の親水性部材の他の例であって、ガラス板に樹脂フィルムを貼付した構成を有するものの断面を模式的に示したものである。
【0080】
本図に示す親水性部材110は、ガラス板で形成された基材1の表面に、二層構造の膜を有しかつ粘着層8を有する樹脂フィルム7を貼付したものである。膜は、
図1に示すものと同様の二層構造を有する。すなわち、最外表面を構成する光触媒層2と、樹脂フィルム7と光触媒層2との間に設けられた下地層3と、を有する。
【0081】
なお、光触媒層2及び下地層3を設けた樹脂フィルム自体も、樹脂を基材として用いた本発明の親水性部材の一例である。樹脂フィルムは、屈曲性を有することが望ましい。
【0082】
さらに、
図2に示すように、樹脂フィルム7の裏面に粘着層8を形成することにより、ガラス板に塗布し、熱硬化するといった工程を経ずに、単に貼付することで、本発明の親水性部材の一つであるガラス板を形成することができる。
【0083】
ガラス板やレンズの場合、基材の表面に反射防止膜が形成されていることがある。
【0084】
図3は、本発明の親水性部材の他の例であって、基材の表面に反射防止膜が形成されたものを示す斜視図である。
【0085】
本図に示す親水性部材120においては、一例として、基材1の下面に、反射防止膜を構成する三酸化二アルミニウム層9及び二酸化ジルコニウム層10が設けられている。
【0086】
本図においては、二酸化ジルコニウム層10の表面に下地層3を設け、下地層3の表面にバインダ4、二酸化ケイ素粒子5及び二酸化チタン粒子6を含む光触媒層2を設けた構成となっている。すなわち、反射防止膜の表面に上述の二層の膜を形成した構成である。
【0087】
このほか、反射防止膜の変形例としては、三酸化二アルミニウム層を設けずに、二酸化ジルコニウム層を設けたものがある。この場合、二酸化ジルコニウム層の表面に下地層3を設け、光触媒層2(最外表面層)を設ける。反射防止膜の効果を極力生かすため、最外表面層の厚さは、50nm以下にする。これにより、可視領域波長の光の干渉が低減されるので望ましい。
【0088】
レンズの材質は、ナトリウムやカリウム等が僅かに含有する二酸化ケイ素系ガラスが一般的であるが、車載用カメラのように、高視野角を確保する必要がある場合は、二酸化ケイ素より大きな屈折率の可視領域で実質的に透明な基材、具体的には、ランタン-ボロン系ガラス、タンタル系ガラス等を用いる。ここで、ランタン-ボロン系ガラスは、酸化ランタン(La2O3)及び酸化ホウ素(B2O3)を含むガラスである。また、タンタル系ガラスは、酸化タンタル(Ta2O5)を含むガラスである。
【0089】
つぎに、本発明の車載用カメラについて説明する。
【0090】
図4は、本発明の車載用カメラの一例を示す模式断面図である。
【0091】
本図においては、カメラ200は、その筐体11にパッキン12を介してレンズ13が取り付けられている。レンズ13の内側には、CCD素子14が設けられている。レンズ13を通して入ってきた光をCCD素子14により電気的な画像情報に変換し、図示していない画像処理機器に送る。レンズ13の表面には、親水性及び防汚性を有する膜が設けられている。すなわち、レンズ13は、本発明の親水性部材である。
【0092】
本発明のレンズは、二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素粒子を含有する層を有するため、透明なレンズに比べて若干ヘイズが高い。その場合、CCD素子は、レンズの表面に極力近づけて配置することにより、濁りによる透過率の低減を極力抑えることが可能となる。
【0093】
本発明の車載用カメラに用いるレンズのヘイズは、1以下であることが望ましい。レンズからCCD素子を4mm程度離すと、入力する光量がCCD素子を3mm離して入ってきた光量より約2%程度低下する。CCD素子とレンズとの距離が3mmの場合と、レンズに接触させた場合とでは、光の透過率の差が0.5%以下である。よって、CCD素子とレンズとの距離は、3mm以下が望ましい。
【0094】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0095】
(1)親水膜形成用の塗料の調製
テトラエトキシシラン(70質量部)をエタノール(930質量部)に溶解し、極微量の硝酸を加え、50℃で約1時間加温した。この過程を経ることで、ケイ素濃度で約1質量%、溶媒を揮発させ、熱硬化後の二酸化ケイ素濃度で約2質量%のシリカゾル液(1000質量部)を得た。この液が二酸化珪素構造とアルコキシシラン部位とを有する化合物を含む液である。この液を塗布液Aとする。
【0096】
平均粒子径7nmの二酸化チタン粒子、平均粒子径10nmの二酸化ケイ素粒子、塗布液A、及びエタノールを混合し、遊星ボールミルを用いて攪拌した。当初牛乳のように白かった液が半透明になった。この液を塗布液Bとする。
【0097】
なお、塗布液A、二酸化チタン粒子、二酸化ケイ素粒子、及び溶剤のエタノールの混合割合は、表1に示すとおりである。
【0098】
【0099】
(2)製膜
まず、塗布液Aをスピンコート法(回転数:2000rpm、回転時間:30秒間)で青板ガラスからなるスライドガラスに塗布した。その後、150℃で10分間加熱することにより、スライドガラス表面に二酸化ケイ素層を形成した。
【0100】
つぎに、塗布液Bをスピンコート法(回転数:2000rpm、回転時間:30秒間)で青板ガラスからなるスライドガラスに塗布する。その後、150℃で10分間加熱することにより、スライドガラス表面に二酸化チタン粒子及び二酸化ケイ素粒子を含有する二酸化ケイ素層を形成した。
【0101】
製膜したスライドガラス(親水性部材)について、次の評価を行った。
【0102】
(3)評価
a)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4に則り、荷重750g、摺動速度1mm/秒で基材の鉛筆硬度を測定した。
【0103】
b)接触角
親水性部材の表面の水との接触角を測定した。
【0104】
c)光触媒作用評価
製膜面を上にして室内に放置した。インターバル1日間で数日計測すると、すべての基材の製膜面の接触角が徐々に上昇した。製膜面の接触角が30°以上になったとき、波長365nm、出力1mWの紫外光を3時間照射し、接触角が20°未満になる場合は、光触媒作用の機能が十分であると判断し、「有り」とした。接触角が20°以上の場合は、光触媒作用の機能が不十分であると判断し、「無し」とした。
【0105】
表1には、上述の評価結果についてもまとめて記載している。
【0106】
(4)結果
表1に示すように、上層膜の質量組成で、二酸化チタンが70%以下の場合は、鉛筆硬度が4H以上の高硬度であったが、二酸化チタンが73%の膜はH、77%の膜はBまで鉛筆硬度が低下した。
【0107】
また、二酸化チタンが30%以上の膜では光触媒作用が「有り」と判断されたが、二酸化チタンが27%の膜では光触媒作用が「無し」と判断された。
【0108】
よって、上層膜中の二酸化チタンの割合は、30~70%が好適と判断される。
【実施例2】
【0109】
本実施例においては、スピンコート時の回転数を変えたこと以外は、実施例1と同様に製膜し、同様の評価を行った。
【0110】
表2は、スピンコート時の回転数、形成された上層膜の性状等を示したものである。
【0111】
【0112】
スピンコート時の回転数が4000rpmのときは、上層膜の膜厚が40nm以上あり、この場合は、表面の算術平均粗さが4nm以下であり、鉛筆硬度は3H以上の高硬度であった。しかし、スピンコート時の回転数を5000rpmにすると、算術平均粗さは5nm以上となり、鉛筆硬度はH以下に低下した。
【0113】
よって、上層膜の厚さは、40nm以上が好適である。また、表面の算術平均粗さは、4nm以下が好適であることが判った。
【実施例3】
【0114】
本実施例においては、スピンコート時の回転数を変えたこと以外は、実施例1と同様に製膜し、同様の評価を行った。
【0115】
表3は、スピンコート時の回転数、形成された上層膜の性状等を示したものである。
【0116】
【0117】
スピンコート時の回転数が1200rpmのときは、上層膜の膜厚が200~210nmであり、この場合は400nmでの光の透過率は86%以上であった。しかし、スピンコート時の回転数を700rpmにすると、400nmでの光の透過率は83%以下になった。光の透過率は、高い方が視認性を確保する観点から好ましい。膜厚を220nm以下にすることにより、86%以上の透過率が確保されることから、上層膜の厚さは220nm以下が好適であることが判った。
【実施例4】
【0118】
本実施例においては、二酸化チタンの平均粒子径を7nmのものだけでなく、25nm、33nm、40nmのものも用い、上層膜の組成が二酸化チタンと二酸化ケイ素どちらも50質量%となるよう調製した。これ以外は、実施例1と同様の実験を行った。
【0119】
表4は、結果をまとめて示したものである。
【0120】
【0121】
目視で基材を観察したところ、用いる二酸化チタンの平均粒子径が大きくなるほど、膜の濁りの程度が大きくなることがわかった。
【0122】
本表に示すように、400nmの光の透過率は、用いる二酸化チタンの平均粒子径が33nm以下の範囲では86%以上を確保していたが、平均粒子径が40nmでは81%まで低下した。光の透過率は、高い方が視認性を確保する観点から好ましい。
【0123】
二酸化チタンの平均粒子径が33nmから40nmまでの範囲における光の透過率の低下率を考慮すると、二酸化チタンの平均粒子径を35nm以下とすれば、約85%以上の透過率が確保されることがわかる。このことから、二酸化チタンの平均粒子径は35nm以下が好適であると判断した。
【実施例5】
【0124】
本実施例においては、二酸化ケイ素の平均粒子径を10nmのものだけでなく、30nm、47nm、55nmのものも用い、上層膜の組成が二酸化チタンと二酸化ケイ素どちらも50質量%となるよう調製した。これ以外は、実施例1と同様の実験を行った。
【0125】
表5は、結果をまとめて示したものである。
【0126】
【0127】
目視で基材を観察したところ、用いる二酸化ケイ素の平均粒子径が大きくなるほど、膜の濁りの程度が大きくなることがわかった。
【0128】
本表に示すように、400nmの光の透過率は、用いる二酸化ケイ素の平均粒子径が47nm以下の範囲では86%以上を確保していたが、平均粒子径が55nmでは81%まで低下した。光の透過率は、高い方が視認性を確保する観点から好ましい。
【0129】
二酸化ケイ素の平均粒子径が47nmから55nmまでの範囲における光の透過率の低下率を考慮すると、二酸化ケイ素の平均粒子径を50nm以下とすれば、約85%以上の透過率が確保されることがわかる。このことから、二酸化ケイ素の平均粒子径は50nm以下が好適であると判断した。
【符号の説明】
【0130】
1:基材、2:光触媒層、3:下地層、4:バインダ、5:二酸化ケイ素粒子、6:二酸化チタン粒子、7:樹脂フィルム、8:粘着層、9:三酸化二アルミニウム層、10:二酸化ジルコニウム層、11:筐体、12:パッキン、13:レンズ、14:CCD素子、100、110、120:親水性部材、200:カメラ。