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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/00 20060101AFI20231031BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C08G59/00
H01L21/30 502D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019111978
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020203979
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓也
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/096071(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195548(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
H01L 21/00- 21/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)を含み、
成分(A)の含有量が、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量の20~50重量%であり、
成分(C)の含有量が、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量の10~60重量%であり、
成分(A)と成分(B)の含有量の重量比(A/B)が50/50~60/40である光硬化性組成物。
成分(A):下記式(a)で表され、分子量が200以下である化合物
【化1】
(式中、環Zは、-NH-基を含む複素環式芳香族化合物の構造式から、前記-NH-基の水素原子を除いた構造を示す)
成分(B):下記式(b)で表され、分子量が100~500である化合物
【化2】
(式中、Lは単結合、2価の炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合してなる2価の基を示し、R1はCH2OH基、又はカチオン重合性基を示す)
成分(C):数平均分子量(GPCによる、ポリスチレン換算)が1500以上の多官能エポキシ化合物及び/又は多官能オキセタン化合物(成分(B)に含まれる化合物を除く)
成分(D):光カチオン重合開始剤
【請求項2】
成分(A)が、下記式(a’)で表される化合物である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【化3】
【請求項3】
成分(C)の官能基当量が100~400g/eqである、請求項1又は2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
成分(A)と成分(C)の含有量の重量比(A/C)が45/55~25/75である、請求項1~3の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
成分(A)の含有量と、成分(B)と成分(C)の合計含有量の重量比[A/(B+C)]が25/75~45/55である、請求項1~4の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計100重量部に対して、成分(D)を1~10重量部含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計100重量部に対して、表面調整剤を0.1~5重量部含有する、請求項1~6の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
さらに、沸点が100℃~210℃(760mmHg)である溶剤を含む、請求項1~7の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項9】
インプリント用である、請求項1~8の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
エッチングマスク形成用である、請求項1~9の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1項に記載の光硬化性組成物の塗膜にインプリント加工を施してパターン形状を有する硬化物を形成し、前記硬化物をマスクとして使用して基板をエッチングする工程を経て光学デバイスを得る、光学デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、及びそれを用いた光学デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント法は、光硬化性組成物の塗膜を基板上に設け、前記塗膜に微細パターンを備えたモールドを押圧して微細パターンを転写し、その後、光照射により塗膜を硬化させることで、微細パターンを有する硬化物を得、得られた硬化物をマスクとして利用して基板をドライエッチングすることにより基板上に微細パターンを作製する方法である。
【0003】
そして、ナノインプリント法によって、高精度の光学デバイスを歩留まり良く、低コストで製造するためには、モールドを繰り返し使用することができ、且つモールドの使用回数を重ねてもマスクを精度良く形成できることが求められる。
【0004】
しかし、モールドとしてシリコーンモールドを使用した場合には、光硬化性組成物中の低分子量成分がシリコーンモールドに浸潤しやすく、光硬化性組成物がシリコーンモールドに浸潤すると、得られる硬化物の厚みが薄化して、パターンが設計より小さくなる。このようにして得られたパターン精度が低い硬化物をエッチングマスクとして使用すると、基板上に精度良くパターンを形成することが困難となることが問題であった(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】Microelectronic Engineering 98(2012)275-278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光硬化性組成物がシリコーンモールドに浸潤することで、得られる硬化物のパターン精度が低下するのを防止する方法として、モールドへの浸潤を見越して、光硬化性組成物の塗膜を設計より厚めに形成することが考えられる。しかし、モールドへの浸潤し易さは、モールドの使用回数等により変化し、繰り返し使用の初期には顕著に浸潤するが、その後飽和に達すると浸潤し難くなる。そのため、塗膜の厚みをその都度適切に微調整するのは極めて困難であり、作業性が著しく低下することが問題であった。
【0007】
更に、硬化物のパターンをより微細化するためには、光硬化性組成物に低分子量成分をある程度配合することが必要であるが、低分子量成分はシリコーンモールドへ浸潤し易いため、より一層、得られる硬化物のパターン精度が低下し易いことがわかった。また、光硬化性組成物を硬化させても、低分子量成分の一部は十分に架橋すること無く残存するため、得られる硬化物のエッチング耐性が低下することもわかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、シリコーンモールドをインプリントすることにより、シリコーンモールドの既使用回数にかかわらず、高精度の微細パターンを有し、エッチング耐性に優れた硬化物を、簡便且つ歩留まり良く形成することができる光硬化性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、エッチングマスクを、精度良く、且つ低コストで形成することができる光硬化性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記光硬化性組成物により形成された微細パターンを有する硬化物をエッチングマスク(以下、単に「マスク」と称する場合がある)として使用して基板をエッチングすることを特徴とする光学デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、
1.下記成分(A)は低分子量のカチオン硬化性化合物であるがエッチング耐性が高く、さらに下記成分(B)と共に用いることによりシリコーンモールドに浸潤し難くなるため、これを含有する光硬化性組成物は、シリコーンモールドへの浸潤が抑制され、シリコーンモールドの既使用回数にかかわらず、高精度の微細パターンを簡便に且つ歩留まり良く形成することができること、
2.下記成分(B)はシリコーンモールドに浸潤し難く、硬化の際には成分(B)中の1級水酸基が連鎖移動反応を示すため、これを含有する光硬化性組成物は、カチオン重合反応を促進させ、未反応モノマーが残存するのを抑制する効果が得られ、得られる硬化物のパターン精度とエッチング耐性が高められること、
3.下記成分(A)、(B)と共に、高分子量のカチオン硬化性化合物(C)及び光カチオン重合開始剤(D)を含有する光硬化性化合物は、シリコーンモールドへ浸潤し難く、硬化性に優れ、インプリント法により、高精度の微細パターンを有し、エッチング耐性に優れ硬化物を製造できること、
を見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)を含み、
成分(A)の含有量が、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量の20~50重量%であり、
成分(A)と成分(B)の含有量の重量比(A/B)が35/65~70/30である光硬化性組成物を提供する。
成分(A):下記式(a)で表され、分子量が200以下である化合物
【化1】
(式中、環Zは、-NH-基を含む複素環式芳香族化合物の構造式から、前記-NH-基の水素原子を除いた構造を示す)
成分(B):下記式(b)で表される化合物
【化2】
(式中、Lは単結合、2価の炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合してなる2価の基を示し、R1はCH2OH基、又はカチオン重合性基を示す)
成分(C):数平均分子量(GPCによる、ポリスチレン換算)が400以上の多官能カチオン硬化性化合物(成分(B)に含まれる化合物を除く)
成分(D):光カチオン重合開始剤
【0011】
本発明は、また、成分(A)が下記式(a’)で表される化合物である前記光硬化性組成物を提供する。
【化3】
【0012】
本発明は、また、成分(C)が、官能基当量が100~400g/eqの多官能カチオン硬化性化合物である前記光硬化性組成物を提供する。
【0013】
本発明は、また、成分(A)と成分(C)の含有量の重量比(A/C)が45/55~25/75である前記光硬化性組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、成分(A)の含有量と、成分(B)と成分(C)の合計含有量の重量比[A/(B+C)]が25/75~45/55である前記光硬化性組成物を提供する。
【0015】
本発明は、また、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計100重量部に対して、成分(D)を1~10重量部含有する前記光硬化性組成物を提供する。
【0016】
本発明は、また、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計100重量部に対して、表面調整剤を0.1~5重量部含有する前記光硬化性組成物を提供する。
【0017】
本発明は、また、さらに、沸点が100℃~210℃(760mmHg)である溶剤を含む前記光硬化性組成物を提供する。
【0018】
本発明は、また、インプリント用である前記光硬化性組成物を提供する。
【0019】
本発明は、また、エッチングマスク形成用である前記光硬化性組成物を提供する。
【0020】
本発明は、また、前記光硬化性組成物の塗膜にインプリント加工を施してパターン形状を有する硬化物を形成し、前記硬化物をマスクとして使用して基板をエッチングする工程を経て光学デバイスを得る、光学デバイスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光硬化性組成物は上記構成を有するため、シリコーンモールドへ浸潤し難い性質を有する。そのため、本発明の光硬化性組成物を使用すれば、シリコーンモールドの使用回数により、塗膜の厚みを変更せずとも、一定の厚みを有する硬化物を安定して形成することができる。
従って、本発明の光硬化性組成物を使用すれば、シリコーンモールドの繰り返し使用が可能であり、シリコーンモールドを繰り返し使用しても、作業性は低下せず、高精度の微細パターンを有する硬化物を歩留まり良く製造することができる。そのため、コストの削減や環境負荷の低減に資する。
また、本発明の光硬化性組成物は硬化性に優れ、得られる硬化物は優れたエッチング耐性を有する。
さらに、本発明の光硬化性組成物は、低分子量の成分(A)を特定の割合で含有するため、前記の通り優れたエッチング耐性を備えつつ、硬化物のパターンの更なる微細化を実現することができる。
【0022】
本発明の光硬化性組成物は上記特性を有するので、これをインプリント加工して得られた微細パターンを有する硬化物をマスクとして利用して、基板(例えば、サファイア基板等)表面をエッチングすれば、高精度の微細パターンが表面に形成された基板(例えば、PSS(Patterned Sapphire Substrate)等)を製造することができる。
そして、上記微細パターンが表面に形成された基板を使用すれば、光取り出し効率に優れ、高輝度、長寿命、低消費電力、低発熱性等の特性を有するフラットパネルディスプレイを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[光硬化性組成物]
本発明の光硬化性組成物は、下記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)を含む。
成分(A):式(a)で表され、分子量が200以下である化合物
成分(B):式(b)で表される化合物
成分(C):数平均分子量(GPCによる、ポリスチレン換算)が400以上の多官能カチオン硬化性化合物(成分(B)に含まれる化合物を除く)
成分(D):光カチオン重合開始剤
【0024】
[成分(A)]
本発明の成分(A)は、下記式(a)で表される化合物(=カチオン硬化性化合物)である。
【化4】
【0025】
上記式(a)で表される化合物の分子量は200以下(例えば、90~200)であり、よりシリコーンモールドへ浸潤し難い点において、好ましくは120~200、より好ましくは140~200、特に好ましくは160~200、最も好ましくは180~200である。
【0026】
式(a)中、環Zは、-NH-基を含む複素環式芳香族化合物の構造式から、前記-NH-基の水素原子を除いた構造を示す。
【0027】
前記-NH-基を含む複素環式芳香族化合物としては、例えば、下記式(z-1)~(z-7)で表される化合物が挙げられる。下記式で表される化合物は置換基(例えば、C1-5アルキル基等)を有していてもよい。
【化5】
【0028】
前記-NH-基を含む複素環式芳香族化合物としては、なかでも、よりシリコーンモールドへ浸潤し難い点において、上記式(z-4)~(z-7)で表される化合物が好ましく、特に好ましくは上記式(z-7)で表される化合物である。
【0029】
従って、成分(A)としては、シリコーンモールドへ浸潤し難い点において、下記式(a’)で表される化合物がとりわけ好ましい。
【化6】
【0030】
本発明の光硬化性組成物は、低分子量の成分(A)を含有するため、モールドの微細パターンを精度良く転写することができる。また、成分(A)は低分子量であるが、本発明の光硬化性組成物では、後述の成分(B)と共に存在するため、シリコーンモールドへの浸潤が抑制される。更に、成分(A)は複素環式芳香族炭化水素骨格を有する。そのため、得られる硬化物のエッチング耐性を高めることができる。
【0031】
[成分(B)]
本発明の成分(B)は、下記式(b)で表される、1級水酸基を少なくとも1つ含有する化合物である。
【化7】
【0032】
式(b)中、R1はCH2OH基、又はカチオン重合性基を示す。前記カチオン重合性基には、ビニルエーテル基、エポキシ基、及びオキセタニル基が含まれる。
【0033】
式(b)中、Lは単結合、2価の炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が単結合若しくは連結基を介して結合してなる2価の基を示す。
【0034】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が含まれる。
【0035】
脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20(=C1-20)の脂肪族炭化水素基が好ましく、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基等の炭素数1~10(好ましくは1~5、特に好ましくは1~3)程度のアルキレン基;ビニレン、1-メチルビニレン、プロペニレン、1-ブテニレン、2-ブテニレン、1-ペンテニレン、2-ペンテニレン基等の炭素数2~10(好ましくは2~5、特に好ましくは2~3)程度のアルケニレン基等が挙げられる。
【0036】
脂環式炭化水素基としては、1,2-シクロペンチレン、1,3-シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2-シクロヘキシレン、1,3-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキシレン、シクロヘキシリデン基等の炭素数3~18のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0037】
芳香族炭化水素基としては、C6-14(特に、C6-10)芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、フェニレン、ナフチレン、フルオレン基等を挙げることができる。
【0038】
前記連結基としては、例えば、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、及びエステル結合(-COO-)等が挙げられる。
【0039】
上記式(b)で表される化合物としては、なかでも、環状構造を有することがエッチング耐性を高める効果が得られる点において好ましく、R1が環状構造を有するカチオン重合性基(例えば、エポキシ基又はオキセタニル基)である場合は、Lは単結合又は脂肪族炭化水素基であることが好ましい。一方、R1がCH2OH基又は環状構造を有するカチオン重合性基(例えば、ビニルエーテル基)である場合は、Lは脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を含む基(或いは、脂環又は芳香環を含む基)であることが好ましい。
【0040】
本発明においては、成分(B)として、少なくとも、1分子中に1級水酸基(=CH2OH基)とカチオン重合性基とを備える化合物(b-1)を含有することが好ましく、特に、硬化性を向上し、得られる硬化物のエッチング耐性を高める効果が得られる点で、1分子中に1級水酸基(=CH2OH基)とカチオン重合性基とを備える化合物(b-1)と、1分子中に2個の1級水酸基(=CH2OH基)を備える化合物(b-2)とを含有することが好ましい。
【0041】
成分(B)が化合物(b-1)と化合物(b-2)とを含有する場合、これらの含有比(b-1/b-2;重量比)は、例えば15/85~80/20、得られる硬化物のエッチング耐性を高める効果が得られる点で、特に好ましくは55/45~80/20、最も好ましくは60/40~80/20である。
【0042】
上記式(b)で表される化合物の分子量は、例えば100~500、好ましくは150~450である。
【0043】
式(b)で表される化合物のなかでも特に、化合物(b-1)の分子量は、例えば100~500、好ましくは100~450、特に好ましくは100~400、最も好ましくは100~300である。また、化合物(b-2)の分子量は、例えば300を超え、500以下、好ましくは350~500、特に好ましくは380~500、最も好ましくは400~480である。
【0044】
成分(B)は1級水酸基を有するため、シリコーンモールドに浸潤し難い。また、硬化の際には成分(B)中の1級水酸基が連鎖移動反応を示す。そのため、成分(B)を含有する本発明の光硬化性組成物は、カチオン重合反応の進行が促進されて、未反応モノマーが残存するのが抑制されることで、エッチング耐性に優れる硬化物を形成することができる。
【0045】
[成分(C)]
本発明の成分(C)は、数平均分子量(GPCによる、ポリスチレン換算)が400以上の多官能カチオン硬化性化合物である。尚、成分(B)に含まれる化合物は、成分(C)に含まれない。
【0046】
成分(C)の数平均分子量は400以上であり、例えば400~10000、好ましくは400~7000である。成分(C)の数平均分子量が上記範囲を下回ると、シリコーンモールドへの浸潤を防止することが困難となり、成分(C)がシリコーンモールドへ浸潤することで塗膜の厚みが薄化するので、得られる硬化物の形状精度が低下する傾向がある。また、得られる硬化物の耐エッチング性も低下する傾向がある。一方、成分(C)の数平均分子量が上記範囲を上回ると、モールドの微細パターンを精度良く転写することが困難となる傾向がある。
【0047】
前記成分(C)の官能基当量は、例えば100~400g/eq、好ましくは150~300g/eqである。
【0048】
本発明においては、成分(C)として、少なくとも、数平均分子量が400~1000(特に、400~850)の化合物(c-1)を含有することが、得られる硬化物の形状精度とエッチング耐性を高める効果が得られる点で好ましく、特に、シリコーンモールドへの浸潤し易さを抑制する効果も得られる点で、数平均分子量が400~1000(特に、400~850)の化合物(c-1)と、数平均分子量が1500以上(特に好ましくは1500~7000、最も好ましくは1800~5000、とりわけ好ましくは1800~4500)の化合物(c-2)とを含有することが好ましい。
【0049】
成分(C)が化合物(c-1)と化合物(c-2)とを含有する場合、これらの含有比(c-1/c-2;重量比)は、例えば80/20~30/70、得られる硬化物のエッチング耐性を高める効果が得られる点で、特に好ましくは80/20~40/60、最も好ましくは80/20~50/50である。
【0050】
前記カチオン重合性基としては、例えば、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタニル基等を挙げることができる。本発明の成分(C)は前記カチオン重合性基の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。本発明においては、なかでも、カチオン重合性基としてエポキシ基又はオキセタニル基を含有する化合物が架橋性に優れる点で好ましい。
【0051】
本発明の成分(C)としては、なかでも、得られる硬化物のエッチング耐性を高める効果が得られる点で、エポキシ化合物及び/又はオキセタン化合物を含有することが好ましく、少なくともエポキシ化合物を含有することが特に好ましく、エポキシ化合物とオキセタン化合物とを含有することが最も好ましい。
【0052】
成分(C)がエポキシ化合物とオキセタン化合物とを含有する場合、これらの含有比(前者/後者;重量比)は、例えば70/30~30/70、得られる硬化物のエッチング耐性を高める効果が得られる点で、特に好ましくは70/30~50/50、最も好ましくは65/35~55/45である。
【0053】
前記エポキシ化合物としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されない。エポキシ化合物には、例えば、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物等が含まれる。
【0054】
前記脂環式エポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、以下の化合物等が挙げられる。
(1)分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(本明細書においては、「脂環エポキシ基」と称する場合がある。脂環エポキシ基には、例えば、シクロヘキセンオキシド基等が含まれる)を有する化合物
(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物
(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)
【0055】
上記(1)分子内に脂環エポキシ基を有する化合物としては、例えば、下記式(c1)、(c2)で表される化合物が挙げられる。尚、式中のn1~n6は、それぞれ1~30の整数を示す。
【化8】
【0056】
上述の(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物としては、例えば、下記式(c3)で表される化合物等が挙げられる。
【化9】
【0057】
式(c3)中、R'は、p価のアルコールの構造式からp個の水酸基(-OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、n7はそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R'(OH)p]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15の多価アルコール等)等が挙げられる。pは1~6が好ましく、n7は1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの[ ]内(外側の角括弧内)の基におけるn7は同一でもよく異なっていてもよい。上記式(ii)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0058】
上述の(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物としては、例えば水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素化ビフェノール型エポキシ樹脂、水素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、水素化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0059】
前記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0060】
前記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、q価の環状構造を有しないアルコール(qは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。
【0061】
前記オキセタン化合物としては、例えば、下記式(c4)、(c5)で表される化合物等の、環状構造(特に、芳香環)を備えたオキセタン化合物が好ましい。下記式中、nは1~3の数であり、n’は1~3の数である。
【化10】
【0062】
[成分(D)]
本発明の成分(D)は光カチオン重合開始剤である。光カチオン重合開始剤は、光の照射によってカチオン種を発生してカチオン硬化性化合物の硬化反応を開始させる光カチオン重合開始剤である。光カチオン重合開始剤は、光を吸収するカチオン部と酸の発生源となるアニオン部からなる。
【0063】
本発明の光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩系化合物、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ホスホニウム塩系化合物、セレニウム塩系化合物、オキソニウム塩系化合物、アンモニウム塩系化合物、臭素塩系化合物等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
本発明においては、なかでも、スルホニウム塩系化合物を使用することが、硬化性に優れた硬化物を形成することができる点で好ましい。スルホニウム塩系化合物のカチオン部としては、例えば、[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウムイオン、トリフェニルスルホニウムイオン、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムイオン、トリ-p-トリルスルホニウムイオン等のアリールスルホニウムイオン(特に、トリアリールスルホニウムイオン)を挙げることができる。
【0065】
光カチオン重合開始剤のアニオン部としては、例えば、BF4 -、[(C65sB(C654-s-(s:0~3の整数)、PF6 -、[(Rf)tPF6-t-(Rf:水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基、t:1~5の整数)、AsF6 -、SbF6 -、SbF5(OH)-等を挙げることができる。
【0066】
本発明の光カチオン重合開始剤としては、例えば、[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、商品名「サイラキュアUVI-6970」、「サイラキュアUVI-6974」、「サイラキュアUVI-6990」、「サイラキュアUVI-950」(以上、米国ユニオンカーバイド社製)、「イルガキュア250」、「イルガキュア290」、「イルガキュア261」、「イルガキュア264」(以上、BASF社製)、「CG-24-61」(チバ・ジャパン社製)、「SP-150」、「SP-151」、「SP-170」、「オプトマーSP-171」(以上、(株)ADEKA製)、「DAICAT II」((株)ダイセル製)、「UVAC1590」、「UVAC1591」(以上、ダイセル・サイテック(株)製)、「CI-2064」、「CI-2639」、「CI-2624」、「CI-2481」、「CI-2734」、「CI-2855」、「CI-2823」、「CI-2758」、「CIT-1682」(以上、日本曹達(株)製)、「PI-2074」(ローディア社製、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート トリルクミルヨードニウム塩)、「FFC509」(3M社製)、「BBI-102」、「BBI-101」、「BBI-103」、「MPI-103」、「TPS-103」、「MDS-103」、「DTS-103」、「NAT-103」、「NDS-103」(以上、ミドリ化学(株)製)、「CD-1010」、「CD-1011」、「CD-1012」(以上、米国、Sartomer社製)、「CPI-100P」、「CPI-101A」(以上、サンアプロ(株)製)等の市販品を使用できる。
【0067】
成分(D)の含有量(2種以上を含有する場合はその総量)は、光硬化性組成物に含まれる成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計100重量部に対して、例えば1~10重量部、好ましくは2~8重量部、特に好ましくは3~7重量部である。
【0068】
[その他の成分]
本発明の光硬化性組成物は上記成分以外にも必要に応じて他の成分を含有していても良い。他の成分としては、例えば、溶剤、表面調整剤(=レベリング剤)、光増感剤(例えば、チオキサントン化合物等)、消泡剤、カップリング剤(例えば、シランカップリング剤等)、界面活性剤、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、蛍光体、離型剤、顔料分散剤、分散助剤等の慣用の添加剤を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
(表面調整剤)
本発明の光硬化性組成物は、表面調整剤を含有することが、スピンコート法等により塗膜を形成する際に、優れた表面平滑性を有する塗膜を形成することができる点で好ましい。
【0070】
表面調整剤には、シリコーン系表面調整剤(例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリエステル変性ポリシロキサン、アラルキル変性ポリシロキサン等)、炭化水素系表面調整剤[例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテル変性ポリ(メタ)アクリレート、フッ素変性ポリ(メタ)アクリレート等(何れも、ホモポリマー、及びコポリマーを含む)]が含まれる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
表面調整剤の分子量は、例えば3000以上、好ましくは4000~150000、更に好ましくは5000~100000、特に好ましくは7000~100000、最も好ましくは10000~50000である。前記範囲の分子量を有する表面調整剤を使用すると、エッジビードの発生を低く制御することができ、得られる塗膜の表面平滑性を向上することができる点で好ましい。
【0072】
表面調整剤としては、例えば、商品名「BYK-UV3510」、「BYK-350」、「BYK-352]、「BYK-354」(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)等の市販品を好適に使用することができる。
【0073】
表面調整剤の含有量(2種以上を含有する場合はその総量)は、光硬化性組成物に含まれる成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計100重量部に対して、例えば0.1~5重量部、好ましくは0.5~3重量部である。
【0074】
(溶剤)
本発明の光硬化性組成物は溶剤を含有してもよい。前記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテ-ト、1-メトキシ-2-プロピルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
溶剤としては、なかでも、沸点(760mmHgにおける)が、例えば100~210℃、好ましくは120~200℃、特に好ましくは130~180℃、最も好ましくは130~160℃である溶剤を使用することが、塗布性の点で好ましい。
【0076】
溶剤(好ましくは、沸点が上記範囲である溶剤)の含有量(2種以上を含有する場合はその総量)は、光硬化性組成物に含まれる不揮発分の濃度が3~90重量%(好ましくは5~80重量%)となる範囲内であることが好ましく、溶剤を添加することにより、本発明の光硬化性組成物の粘度[25℃、せん断速度20(1/s)における]を、例えば0.1~500mPa・s程度(好ましくは1~200mPa・s)に調整することが、塗布性を向上することができる点で好ましい。
【0077】
また、沸点が上記範囲を外れる溶剤の含有量(2種以上を含有する場合はその総量)は、塗布性を向上することができる点で、沸点が上記範囲である溶剤の含有量(2種以上を含有する場合はその総量)の80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは70重量%以下、更に好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下、更に好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下、とりわけ好ましくは1重量%以下である。
【0078】
[光硬化性組成物]
本発明の光硬化性組成物は、例えば、上記成分を所定の割合で撹拌・混合して、必要に応じて真空下で脱泡することにより調製することができる。
【0079】
成分(A)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)の合計含有量(100重量%)に対して、例えば15~60重量%、好ましくは20~50重量%、特に好ましくは25~45重量%である。成分(A)の含有量が過剰となると、塗膜内において成分(A)が結晶化して析出し易くなる傾向がある。
【0080】
成分(B)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)の合計含有量(100重量%)に対して、例えば15~50重量%、好ましくは20~45重量%、特に好ましくは20~40重量%である。
【0081】
成分(C)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)の合計含有量(100重量%)に対して、例えば10~60重量%、好ましくは20~50重量%、特に好ましくは20~35重量%である。
【0082】
また、成分(C)としてエポキシ化合物を含有することが、得られる硬化物のエッチング耐性を高め、パターン部分の強靱性を向上する効果が得られる点で好ましく、前記エポキシ化合物の含有量は、成分(A)、(B)、(C)の合計含有量(100重量%)に対して、例えば5~60重量%、好ましくは5~50重量%、特に好ましくは5~30重量%である。
【0083】
また、成分(C)としてオキセタン化合物を含有することが、得られる硬化物のエッチング耐性を高める効果が得られる点で好ましく、前記オキセタン化合物の含有量は、成分(A)、(B)、(C)の合計含有量(100重量%)に対して、例えば1~30重量%、好ましくは5~25重量%、特に好ましくは10~20重量%である。
【0084】
本発明の光硬化性組成物における、成分(A)と成分(B)の含有量の重量比(A/B)は、例えば35/65~70/30、好ましくは40/60~60/40、特に好ましくは50/50~60/40である。
【0085】
本発明の光硬化性組成物における、成分(A)と成分(C)の含有量の重量比(A/C)は、例えば45/55~25/75、好ましくは45/55~30/70である。
【0086】
本発明の光硬化性組成物における、成分(B)と成分(C)の含有量の重量比(B/C)は、例えば30/70~70/30、好ましくは35/65~60/40、特に好ましくは50/50~60/40である。
【0087】
本発明の光硬化性組成物における、成分(A)の含有量と、成分(B)と成分(C)の合計含有量の重量比[A/(B+C)]は、例えば25/75~45/55、好ましくは35/65~45/55である。
【0088】
本発明の光硬化性組成物は上記構成を有するため、硬化性に優れ、光照射により速やかに硬化物を形成することができる。
【0089】
前記光照射に使用する光(活性エネルギー線)としては、光硬化性組成物の重合反応を進行させる光であればよく、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等の何れを使用することもできる。なかでも、取り扱い性に優れる点で、紫外線が好ましい。紫外線の照射には、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク、メタルハライドランプ、太陽光、LEDランプ、UV-LED、レーザー等を使用することができる。
【0090】
紫外線を照射して膜厚1μmの薄膜を形成する場合の光照射条件は、積算光量が50~4000mJ/cm2程度である。
【0091】
また、本発明の光硬化性組成物は上記構成を有するため、シリコーンモールドへの浸潤が抑制される。そのため、本発明の光硬化性組成物をインプリント加工に付して得られる硬化物は、シリコーンモールドの既使用回数に係わらず、高精度のパターン形状を有する。
【0092】
更に、本発明の光硬化性組成物は上記構成を有するため、得られる硬化物はエッチング耐性に優れ、エッチングレート(Er:nm/分)は、シリコン基板のエッチングレート(Es:nm/分)の例えば1.45以上(好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.6以上)である。すなわち、エッチング選択比(Er/Es)は、例えば1.45以上(好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.6以上)である。
【0093】
[光学デバイスの製造方法]
本発明の光学デバイスの製造方法は、上記光硬化性組成物の塗膜にインプリント加工を施してパターン形状を有する硬化物を形成し、前記硬化物をマスクとして使用して基板をエッチングする工程を経て光学デバイスを得ることを特徴とする。
【0094】
パターン形状を有する硬化物の形成は、より詳細には、基板の表面に上記光硬化性組成物を塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜にインプリント加工を施すことにより行われる。
【0095】
前記基板としては、例えば、シリコン基板、サファイア基板、セラミックス基板、アルミナ基板、リン化ガリウム基板、ヒ化ガリウム基板、リン化インジウム基板、チッ化ガリウム基板等の無機材料基板を使用することができる。
【0096】
光硬化性組成物を基板表面に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、カーテンコート法、スプレー法等を挙げることができる。
【0097】
塗膜の厚みは、例えば0.1~20μm、好ましくは0.2~4μmである。
【0098】
本発明では、上記光硬化性組成物がシリコーンモールドに浸潤し難い特性を有するため、モールドとしてシリコーンモールドを使用した場合には、シリコーンモールドの使用回数にかかわらず、一定の厚みの塗膜をインプリント加工に付すことで、高精度のパターン形状を有する硬化物を効率良く製造することができる。
【0099】
インプリント加工とは、パターンが形成されたモールドを塗膜に接触させて該パターンを塗膜に転写し、その後、パターンが転写された塗膜を硬化して、パターン形状を有する硬化物を形成する方法である。
【0100】
モールドを塗膜に接触させる際の押圧力としては、例えば100~1000Pa程度である。モールドを塗膜に接触させる時間は、例えば1~100秒程度である。
【0101】
モールドが転写された塗膜は、光照射を施すことで硬化させることができる。光照射条件としては、上記光硬化性組成物の硬化の場合と同様である。光照射後は、更にポストキュア(例えば、50~180℃で、30秒~3時間程度加熱)を施してもよい。
【0102】
塗膜の硬化後は、離型することにより、高精度のパターン形状を有する硬化物が得られる。本発明では、このようにして得られた硬化物を、基板をエッチングする際のマスクとして利用する。
【0103】
前記基板をエッチングする方法としては、ドライエッチング法、ウェットエッチング法等を挙げることができる。本発明においては、なかでもドライエッチング法を採用することが好ましく、特に、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)を採用することが、高精度の微細加工を可能とする点で好ましい。
【0104】
基板のエッチング後は、マスクとして使用された前記硬化物は、周知慣用の方法で基板の表面から除去される。
【0105】
本発明では、上記の高精度のパターン形状を有し、且つエッチング耐性に優れる硬化物をマスクとして使用して基板をエッチングするため、高精度の微細パターンが表面に形成された基板を歩留まり良く製造することができる。
【0106】
[光学デバイス]
本発明の光学デバイスは上記微細パターン基板を構成単位として含む構造体であり、例えば、光導波路、導光板、回折格子、センサ素子、発光素子、マイクロレンズアレイ等が含まれる。
【0107】
本発明の光学デバイスを使用すれば、光取り出し効率に優れ、高輝度、長寿命、低消費電力、低発熱性等の特性を有するフラットパネルディスプレイ(例えば、携帯電話などのモバイル機器や、液晶テレビ等に使用されるディスプレイ)が得られる。
【実施例
【0108】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、以下の重量平均分子量はGPCによる、ポリスチレン換算の値である。
【0109】
実施例1~4、比較例1~4
表に示す配合組成(単位:重量部)に従って各成分をフラスコ内に仕込み、室温下、撹拌・混合することにより均一な組成物を得た。得られた組成物について、以下の方法で評価した。
【0110】
[塗布性]
組成物をスピンコーターを用いてシリコンウェハ上に塗布し、23℃、50%RHの環境下で1時間放置して塗膜(膜厚:1μm)を得た。得られた塗膜について目視で観察し、下記基準により塗布性を評価した。
評価基準
○:塗膜のはじき、凝集・析出物なし
×:塗膜のはじき、凝集・析出物あり
【0111】
[硬化性]
[塗布性]の評価と同様の方法で得られた塗膜(膜厚:1μm)に、紫外線照射装置(UVもしくはUV-LED照射装置)を用いて500mJ/cm2の積算光量の紫外線を照射して塗膜を硬化させて薄膜を形成した。得られた薄膜の硬化性を下記基準で評価した。
評価基準
○:べたつきなし。指触の跡が残らない。
×:べたつきあり。指触の跡が残る。
【0112】
[インプリント転写繰り返し時のパターン形状変化]
[塗布性]の評価と同様の方法で得られた塗膜(膜厚:1μm)に、シリコンモールド(パターンの高さ:2.0μm、パターンの直径:1.0μm、パターンのピッチ幅:2.0μm)を押し当てつつ、[硬化性]の評価と同条件で紫外線を照射して塗膜を硬化させて硬化物を得た。
シリコーンモールドを離型後の硬化物について、三次元光学プロファイラーシステム(New View3600、Zygo社)を使ってパターンの高さを測定した。任意の2箇所から5パターンずつ測定し、計10箇所の測定値を平均した。同一のモールドを用いて繰り返しインプリント転写を行い、1回目の硬化物のパターン高さと10回目の硬化物のパターン高さを比較して、下記基準によりパターン形状の変化の大きさを評価した。
評価基準
○:(1回目のパターン高さ/10回目のパターン高さ)の比が0.90以上~1.05以下
×:(1回目のパターン高さ/10回目のパターン高さ)の比が0.90未満
【0113】
[ドライエッチング耐性の評価]
[塗布性]の評価と同様の方法で得られた塗膜(膜厚:1μm)に、紫外線(1000mJ/cm2)を照射して塗膜を硬化させて、硬化物付きシリコンウェハを得た。
得られた硬化物付きシリコンウェハを150℃で10分間加熱した後、硬化物の一部をポリイミドテープでマスクした。
ICP型RIE装置を用いて、硬化物の非マスク面のエッチングを10分間行った。
エッチング後、マスクに使用したポリイミドテープを剥がし、エッチングされていない面(=マスク面)と、エッチングされた面(=非マスク面)の厚みの差を段差計(商品名「T-4000」、(株)小坂研究所社製)を用いて測定して、硬化物の1分あたりのエッチングレートを算出した。
シリコンウェハについても同様にポリイミドテープでマスクし、エッチングすることにより、シリコンウェハのエッチングレートを求め、下記式からエッチング選択比を算出してドライエッチング耐性を評価した。
エッチング選択比=Es/Er
(式中、Esはシリコンウェハのエッチングレートであり、Erは組成物の硬化物のエッチングレートである)
【0114】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0115】
尚、実施例及び比較例で使用した化合物は、以下の通りである。
成分(A)
N-VCz:9-ビニルカルバゾール、分子量:193、商品名「HRM-C01」、(株)日触ファインテクノケミカル製
成分(B)
CHMVE:4-(ヒドロキシメチル)シクロへキシルメチルビニルエーテル、分子量:170、商品名「CHMVE」、日本カーバイド工業(株)製
OXT-101:3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、分子量:116、商品名「アロンオキセタン OXT-101」、東亞合成(株)製
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシフェニル)]フルオレン、分子量:438、商品名「BPEF」、大阪ガスケミカル(株)製
成分(C)
GT401:エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス-(3-シクロヘキセニルメチル)修飾イプシロン-カプロラクトン、平均分子量:788、官能基当量220g/eq、商品名「エポリード GT401」、(株)ダイセル製
OXBP:4,4’-ビス[3-エチル-(3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、平均分子量:411、官能基当量205g/eq、商品名「ETERNACOLL OXBP」、宇部興産(株)製
NC-3000H:ビフェノール型エポキシ樹脂、数平均分子量:2300、官能基当量290g/eq、商品名「NC-3000H」、日本化薬(株)製
N-890:変性ノボラック型エポキシ樹脂、数平均分子量:2000、官能基当量210g/eq、商品名「EPICLON N-890」、DIC(株)製
PB3600:エポキシ化ポリブタジエン、数平均分子量:5900、官能基当量193g/eq、商品名「エポリード PB3600」、(株)ダイセル製
PB4700:エポキシ化ポリブタジエン、数平均分子量:5900、官能基当量165g/eq、商品名「エポリード PB4700」、(株)ダイセル製
成分(D)
Irg290:光酸発生剤、商品名「Irgacure PAG290」、BASFジャパン(株)製
CPI-310FG:光酸発生剤、商品名「CPI-310FG」、サンアプロ(株)製
表面調整剤
BYK350:アクリル系共重合物、分子量:約20000、商品名「BYK-350」、ビックケミー・ジャパン(株)製
溶剤
MMPGAC:1-メトキシ-2-プロピルアセテート、沸点145.8℃