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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231031BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231031BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231031BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019164431
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021041784
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伸文
(72)【発明者】
【氏名】都甲 高広
(72)【発明者】
【氏名】山口 恭史
(72)【発明者】
【氏名】江崎 之進
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104476(JP,A)
【文献】特開平11-078919(JP,A)
【文献】特開2008-137486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に往復動可能に収容される転舵軸と、モータを駆動源として前記転舵軸を往復動させるモータトルクを付与するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とし、
モータ制御信号を出力する制御回路と、前記モータ制御信号に基づいて前記モータに駆動電力を供給する駆動回路とを備える操舵制御装置において、
前記制御回路は、
前記転舵軸に連結される転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角であって、360°を超える範囲を含む絶対角で示される絶対舵角を検出する絶対舵角検出部と、
前記モータが出力するモータトルクの目標値に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部と、
前記モータに供給する実電流値を前記電流指令値に追従させる電流フィードバック演算を行う電流フィードバック制御部を有し、前記モータ制御信号を生成するモータ制御信号生成部とを備え、
前記転舵軸が前記ハウジングに当接するエンド当てにより該転舵軸の移動が規制されるエンド位置を示す角度であって、前記絶対舵角と対応付けられたエンド位置対応角が記憶され、
前記電流指令値演算部は、前記絶対舵角の前記エンド位置対応角からの距離を示すエンド離間角が所定角度以下となる場合に、該エンド離間角の減少が規制されるように前記電流指令値を補正するエンド当て緩和制御を実行するものであって、
前記電流フィードバック制御部は、前記エンド当て緩和制御の実行時において、前記電流指令値と前記実電流値との電流偏差の絶対値が予め設定された第1電流偏差閾値以上であることを含む調整開始条件が成立する場合に、前記実電流値のオーバーシュートが発生すると判定して、前記電流フィードバック演算に用いる制御ゲインが大きくなるように該制御ゲインを調整する操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記電流指令値演算部は、
前記エンド離間角が前記所定角度以下となる場合に、該エンド離間角の減少に基づいて小さくなる舵角制限値を演算する舵角制限値演算部と、
前記電流指令値の絶対値の上限となる制限値を前記舵角制限値以下に設定する制限値設定部とを備え、
前記電流指令値の絶対値を前記舵角制限値に制限することにより、前記エンド当て緩和制御を実行する操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵制御装置において、
前記調整開始条件には、前記電流偏差の絶対値が前記第1電流偏差閾値以上であることに加え、前記モータの角速度の絶対値が予め設定された角速度閾値以上であることが含まれる操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記調整開始条件には、前記電流偏差の絶対値が前記第1電流偏差閾値以上であることに加え、前記モータの角速度変化量の絶対値が予め設定された角速度変化量閾値以上であることが含まれる操舵制御装置。
【請求項5】
請求項のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記電流フィードバック制御部は、前記制御ゲインが大きくなるように該制御ゲインを調整した後、解除条件が成立する場合に前記制御ゲインの調整を解除する操舵制御装置。
【請求項6】
請求項に記載の操舵制御装置において、
前記解除条件には、前記電流偏差の絶対値が前記第1電流偏差閾値よりも小さな値に予め設定された第2電流偏差閾値以下となることが含まれる操舵制御装置。
【請求項7】
請求項又はに記載の操舵制御装置において、
前記解除条件には、前記制御ゲインの大きい状態が所定時間継続することが含まれる操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置として、モータを駆動源とするアクチュエータを備えた電動パワーステアリング装置(EPS)が知られている。こうしたEPSには、ステアリングホイールの操舵角を360°を超える範囲を含む絶対角で取得し、該操舵角に基づいて各種制御を行うものがある。こうした制御の一例として、例えば特許文献1,2には、ラック軸の端部であるラックエンドがラックハウジングに当たる、所謂エンド当ての衝撃を緩和するためのエンド当て緩和制御を実行するものが開示されている。特許文献1のEPSでは、モータが出力するモータトルクの目標値に対応する電流指令値を、操舵角に基づく操舵反力成分によって補正することで、エンド当ての衝撃を緩和する。また、特許文献2のEPSでは、モータが出力するモータトルクの目標値に対応する電流指令値を操舵角に基づく制限値以下となるように制限することで、エンド当ての衝撃を緩和する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-20506号公報
【文献】特許第5962881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の各構成のようにエンド当て緩和制御を実行しても、例えば低μ路上において運転者が高速で操舵する場合には、ラックエンドがラックハウジングに衝突することがある。この場合、高速で回転していたモータが急停止するため、該モータで発生していた逆起電圧が急激に低下する。こうした逆起電圧の低下は、電流指令値の減少に伴う電圧指令値の低下よりも早いため、一時的にモータに電圧が印加されることになり、モータに供給される実電流値が電流指令値よりも大きくなるオーバーシュートが発生する。その結果、エンド当ての衝撃を十分に緩和できず、操舵装置の構成部品に加わる負荷が大きくなるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、モータに供給する電流のオーバーシュートを抑制できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する操舵制御装置は、ハウジングと、前記ハウジング内に往復動可能に収容される転舵軸と、モータを駆動源として前記転舵軸を往復動させるモータトルクを付与するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とし、モータ制御信号を出力する制御回路と、前記モータ制御信号に基づいて前記モータに駆動電力を供給する駆動回路とを備えるものにおいて、前記制御回路は、前記転舵軸に連結される転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角であって、360°を超える範囲を含む絶対角で示される絶対舵角を検出する絶対舵角検出部と、前記モータが出力するモータトルクの目標値に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部と、前記モータに供給する実電流値を前記電流指令値に追従させる電流フィードバック演算を行う電流フィードバック制御部を有し、前記モータ制御信号を生成するモータ制御信号生成部とを備え、前記転舵軸が前記ハウジングに当接するエンド当てにより該転舵軸の移動が規制されるエンド位置を示す角度であって、前記絶対舵角と対応付けられたエンド位置対応角が記憶され、前記電流指令値演算部は、前記絶対舵角の前記エンド位置対応角からの距離を示すエンド離間角が所定角度以下となる場合に、該エンド離間角の減少が規制されるように前記電流指令値を補正するエンド当て緩和制御を実行するものであって、前記電流フィードバック制御部は、前記エンド当て緩和制御の実行時において、前記実電流値のオーバーシュートが発生する場合に、前記電流フィードバック演算に用いる制御ゲインが大きくなるように該制御ゲインを調整する。
【0007】
上記構成によれば、エンド当て緩和制御の実行時において、実電流値のオーバーシュートが発生すると、制御ゲインが大きくなる。これにより、実電流値の電流指令値に対する応答性が高くなるため、モータに供給する電流のオーバーシュートを抑制できる。
【0008】
上記操舵制御装置において、前記電流指令値演算部は、前記エンド離間角が前記所定角度以下となる場合に、該エンド離間角の減少に基づいて小さくなる舵角制限値を演算する舵角制限値演算部と、前記電流指令値の絶対値の上限となる制限値を前記舵角制限値以下に設定する制限値設定部とを備え、前記電流指令値の絶対値を前記舵角制限値に制限することにより、前記エンド当て緩和制御を実行することが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、電流指令値の絶対値が舵角制限値に制限される態様でエンド当て緩和制御が実行される場合に、実電流値のオーバーシュートを抑制できる。同構成では、電流指令値を最大限制限してもその絶対値がゼロとなるのみであるため、制御ゲインの調整によりオーバーシュートを抑制する効果は大である。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記電流フィードバック制御部は、前記エンド当て緩和制御の実行時において、前記電流指令値と前記実電流値との電流偏差の絶対値が予め設定された第1電流偏差閾値以上であることを含む調整開始条件が成立する場合に、前記実電流値のオーバーシュートが発生すると判定して、前記制御ゲインが大きくなるように該制御ゲインを調整することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、電流偏差と第1電流偏差閾値との大小比較を行うことで、実電流値のオーバーシュートの発生を正確に判定できる。
上記操舵制御装置において、前記調整開始条件には、前記電流偏差の絶対値が前記第1電流偏差閾値以上であることに加え、前記モータの角速度の絶対値が予め設定された角速度閾値以上であることが含まれることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、エンド当ての発生により実電流値がオーバーシュートする場合を正確に捉えて制御ゲインを大きくすることができ、好適にオーバーシュートを抑制できる。
上記操舵制御装置において、前記調整開始条件には、前記電流偏差の絶対値が前記第1電流偏差閾値以上であることに加え、前記モータの角速度変化量の絶対値が予め設定された角速度変化量閾値以上であることが含まれることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、エンド当ての発生により実電流値がオーバーシュートする場合を正確に捉えて制御ゲインを大きくすることができ、好適にオーバーシュートを抑制できる。
上記操舵制御装置において、前記電流フィードバック制御部は、前記制御ゲインが大きくなるように該制御ゲインを調整した後、解除条件が成立する場合に前記制御ゲインの調整を解除することが好ましい。
【0014】
制御ゲインを大きくして実電流値の電流指令値に対する応答性を高くすると、例えば電流指令値の僅かな変化に対してモータが過敏に反応し、振動や異音が発生するおそれがある。この点、上記構成によれば、解除条件が成立する場合に、制御ゲインが大きい状態、すなわち応答性が高い状態を解除する。そのため、実電流値のオーバーシュートが小さくなって高い応答性が不要となった場合に、制御ゲインを高いままにしておくことを抑制し、振動や異音の発生を抑制できる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記解除条件には、前記電流偏差の絶対値が前記第1電流偏差閾値よりも小さな値に予め設定された第2電流偏差閾値以下となることが含まれることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、実電流値のオーバーシュートが大きい状態で、制御ゲインの調整を解除することを抑制できる。
上記操舵制御装置において、前記解除条件には、前記制御ゲインの大きい状態が所定時間継続することが含まれることが好ましい。
【0017】
ここで、実電流値のオーバーシュートは、モータの急停止に伴う逆起電圧の急激な低下以外に、エンド当て緩和制御の実行による電流指令値の急激な低下に対して実電流値の応答が遅れることでも生じる。こうした実電流値の応答性に起因するオーバーシュートにより、調整開始条件が成立すれば、制御ゲインが大きくなるように調整されることで、当該オーバーシュートを抑制できる。ところで、実電流値の応答性に起因するオーバーシュートは、エンド当て緩和制御の実行により電流指令値が低下した時点で発生し、逆起電圧の低下に起因するオーバーシュートは、エンド当てによりモータが停止してから発生する。したがって、エンド当て緩和制御の実行時にエンド当てが発生する場合を想定すると、実電流値の応答性に起因するオーバーシュートが発生した後、一旦、電流偏差の絶対値が小さくなってから逆起電圧の急激な低下に起因するオーバーシュートが発生して再び電流偏差の絶対値が大きくなることがある。その結果、例えば電流偏差の絶対値が第2電流偏差閾値以下となることのみを条件に制御ゲインの調整を解除すると、制御ゲインの値が大きくなったり、小さくなったりを繰り返すおそれがある。この点、上記構成によれば、制御ゲインが大きくなる状態が所定時間は継続するため、制御ゲインが頻繁に切り替わることを防いで、操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、モータに供給する電流のオーバーシュートを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
図2】操舵制御装置のブロック図。
図3】制限値設定部のブロック図。
図4】モータ制御信号生成部のブロック図。
図5】q軸電流F/B制御部による比例ゲイン及び積分ゲインの調整に係る処理手順を示すフローチャート。
図6】エンド当てが発生する前後におけるq軸電流指令値、q軸実電流値及びモータ角速度の変化の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置としての電動パワーステアリング装置(EPS)2は、運転者によるステアリングホイール3の操作に基づいて転舵輪4を転舵させる操舵機構5を備えている。また、EPS2は、操舵機構5にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するアクチュエータとしてのEPSアクチュエータ6を備えている。
【0021】
操舵機構5は、ステアリングホイール3が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11に連結された転舵軸としてのラック軸12と、ラック軸12が往復動可能に挿通されるハウジングとしてのラックハウジング13と、ステアリングシャフト11の回転をラック軸12に変換するラックアンドピニオン機構14とを備えている。なお、ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール3が位置する側から順にコラム軸15、中間軸16、及びピニオン軸17を連結することにより構成されている。
【0022】
ラック軸12とピニオン軸17とは、ラックハウジング13内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構14は、ラック軸12に形成されたラック歯12aとピニオン軸17に形成されたピニオン歯17aとが噛合されることで構成されている。また、ラック軸12の両端には、その軸端部に設けられたボールジョイントからなるラックエンド18を介してタイロッド19がそれぞれ回動自在に連結されている。タイロッド19の先端は、転舵輪4が組付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS2では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト11の回転がラックアンドピニオン機構14によりラック軸12の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド19を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪4の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0023】
なお、ラックエンド18がラックハウジング13の左端に当接するラック軸12の位置が右方向に最大限操舵可能な位置であり、同位置が右側のエンド位置としてのラックエンド位置に相当する。また、ラックエンド18がラックハウジング13の右端に当接するラック軸12の位置が左方向に最大限操舵可能な位置であり、同位置が左側のエンド位置としてのラックエンド位置に相当する。
【0024】
EPSアクチュエータ6は、駆動源であるモータ21と、ウォームアンドホイール等の減速機構22とを備えている。モータ21は減速機構22を介してコラム軸15に連結されている。そして、EPSアクチュエータ6は、モータ21の回転を減速機構22により減速してコラム軸15に伝達することによって、モータトルクをアシスト力として操舵機構5に付与する。なお、本実施形態のモータ21には、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0025】
操舵制御装置1は、モータ21に接続されており、その作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の制御が実行される。
【0026】
操舵制御装置1には、車両の車速SPDを検出する車速センサ31、及び運転者の操舵によりステアリングシャフト11に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ32が接続されている。また、操舵制御装置1には、モータ21の回転角θmを360°の範囲内の相対角で検出する回転センサ33が接続されている。なお、操舵トルクTh及び回転角θmは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。そして、操舵制御装置1は、これら各センサから入力される各状態量を示す信号に基づいて、モータ21に駆動電力を供給することにより、EPSアクチュエータ6の作動、すなわち操舵機構5にラック軸12を往復動させるべく付与するアシスト力を制御する。
【0027】
次に、操舵制御装置1の構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、モータ制御信号Smを出力する制御回路としてのマイコン41と、モータ制御信号Smに基づいてモータ21に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えている。なお、本実施形態の駆動回路42には、FET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータが採用されている。そして、マイコン41の出力するモータ制御信号Smは、各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するものとなっている。これにより、モータ制御信号Smに応答して各スイッチング素子がオンオフし、各相のモータコイルへの通電パターンが切り替わることにより、車載電源43の直流電力が三相の駆動電力に変換されてモータ21へと出力される。
【0028】
なお、以下に示す各制御ブロックは、マイコン41が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものであり、所定のサンプリング周期で各状態量を検出し、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理が実行される。
【0029】
マイコン41には、上記車速SPD、操舵トルクTh、及びモータ21の回転角θmが入力される。また、マイコン41には、電流センサ44により検出されるモータ21の各相電流値Iu,Iv,Iw、及び電圧センサ45により検出される車載電源43の電源電圧Vbが入力される。電流センサ44は、駆動回路42と各相のモータコイルとの間の接続線46に設けられている。電圧センサ45は、車載電源43と駆動回路42との間の接続線47に設けられている。なお、図2では、説明の便宜上、各相の電流センサ44及び各相の接続線46をそれぞれ1つにまとめて図示している。そして、マイコン41は、これら各状態量に基づいてモータ制御信号Smを出力する。
【0030】
詳しくは、マイコン41は、電流指令値Id*,Iq*を演算する電流指令値演算部51と、電流指令値Id*,Iq*に基づいてモータ制御信号Smを出力するモータ制御信号生成部52と、絶対舵角θsを検出する絶対舵角検出部53とを備えている。
【0031】
電流指令値演算部51には、操舵トルクTh、車速SPD及び絶対舵角θsが入力される。電流指令値演算部51は、これらの状態量に基づいて電流指令値Id*,Iq*を演算する。電流指令値Id*,Iq*は、モータ21に供給すべき電流の目標値であり、d/q座標系におけるd軸上の電流指令値及びq軸上の電流指令値をそれぞれ示す。このうち、q軸電流指令値Iq*は、モータ21が出力するモータトルクの目標値を示す。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id*は、基本的にゼロに固定されている。電流指令値Id*,Iq*は、例えば右方向への操舵をアシストする場合に正の値、左方向への操舵をアシストする場合に負の値とする。
【0032】
モータ制御信号生成部52には、電流指令値Id*,Iq*、各相電流値Iu,Iv,Iw、モータ21の回転角θm、後述する舵角制限値Ien及び回転角θmが入力される。モータ制御信号生成部52は、これらの状態量に基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、モータ制御信号Smを生成し、駆動回路42に出力する。これにより、モータ21には、モータ制御信号Smに応じた駆動電力が供給される。そして、モータ21からq軸電流指令値Iq*に対応したモータトルクが出力され、操舵機構5にアシスト力が付与される。
【0033】
絶対舵角検出部53には、回転角θmが入力される。絶対舵角検出部53は、回転角θmに基づいて、360°を超える範囲を含む絶対角で表されるモータ絶対角を検出する。本実施形態の絶対舵角検出部53は、例えば車載電源43の交換後、イグニッションスイッチ等の起動スイッチが初めてオンされた時の回転角θmを原点としてモータ21の回転数を積算し、この回転数及び回転角θmに基づいてモータ絶対角を検出する。そして、絶対舵角検出部53は、モータ絶対角に減速機構22の減速比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングシャフト11の操舵角を示す絶対舵角θsを検出する。本実施形態の操舵制御装置1では、起動スイッチのオフ時にもモータ21の回転の有無を監視しており、モータ21の回転数が常時積算されている。これにより、車載電源43が交換されてから2回目以降、起動スイッチがオンされた時でも、絶対舵角θsの原点は、起動スイッチが初めてオンされた時に設定された原点と同じになる。
【0034】
なお、上記のようにステアリングシャフト11の回転により転舵輪4の転舵角が変更されることから、絶対舵角θsは、転舵輪4の転舵角に換算可能な回転軸の回転角を示す。また、モータ絶対角及び絶対舵角θsは、例えば原点から右方向の回転角である場合に正の値、左方向の回転角である場合に負の値とする。
【0035】
次に、電流指令値演算部51の構成について詳細に説明する。
電流指令値演算部51は、q軸電流指令値Iq*の基礎成分であるアシスト指令値Ias*を演算するアシスト指令値演算部61を備えている。また、電流指令値演算部51は、q軸電流指令値Iq*の絶対値の上限となる制限値Igを設定する制限値設定部62と、アシスト指令値Ias*の絶対値を制限値Ig以下に制限するガード処理部63とを備えている。制限値設定部62には、メモリ64が接続されている。
【0036】
アシスト指令値演算部61には、操舵トルクTh及び車速SPDが入力される。アシスト指令値演算部61は、操舵トルクTh及び車速SPDに基づいてアシスト指令値Ias*を演算する。具体的には、アシスト指令値演算部61は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速SPDが遅いほど、より大きな絶対値を有するアシスト指令値Ias*を演算する。このように演算されたアシスト指令値Ias*は、ガード処理部63に出力される。
【0037】
ガード処理部63には、アシスト指令値Ias*に加え、後述するように制限値設定部62において設定される制限値Igが入力される。ガード処理部63は、入力されるアシスト指令値Ias*の絶対値が制限値Ig以下の場合には、アシスト指令値Ias*の値をそのままq軸電流指令値Iq*としてモータ制御信号生成部52に出力する。一方、入力されるアシスト指令値Ias*の絶対値が制限値Igよりも大きい場合には、アシスト指令値Ias*の絶対値を制限値Igの値に制限した値をq軸電流指令値Iq*としてモータ制御信号生成部52に出力する。
【0038】
メモリ64には、モータ21が出力可能なモータトルクとして予め設定された定格トルクに対応する定格電流Ir、及びエンド位置対応角θs_le,θs_re等が記憶されている。左側のエンド位置対応角θs_leは、左側のラックエンド位置に対応する絶対舵角θsであり、右側のエンド位置対応角θs_reは、右側のラックエンド位置に対応する絶対舵角θsである。なお、エンド位置対応角θs_le,θs_reは、例えば運転者による操舵に基づいて行われる適宜の学習により設定される。
【0039】
次に、制限値設定部62の構成について説明する。
制限値設定部62には、絶対舵角θs、車速SPD、電源電圧Vb、定格電流Ir及びエンド位置対応角θs_le,θs_reが入力される。そして、制限値設定部62は、これらの状態量に基づいて制限値Igを設定する。
【0040】
詳しくは、図3に示すように、制限値設定部62は、絶対舵角θsに基づく舵角制限値Ienを演算する舵角制限値演算部71と、電源電圧Vbに基づく他の制限値としての電圧制限値Ivbを演算する電圧制限値演算部72と、舵角制限値Ien及び電圧制限値Ivbのいずれか小さい方を選択する最小値選択部73とを備えている。
【0041】
舵角制限値演算部71には、絶対舵角θs、車速SPD、定格電流Ir及びエンド位置対応角θs_le,θs_reが入力される。舵角制限値演算部71は、これらの状態量に基づいて、後述するように絶対舵角θsのエンド位置対応角θs_le,θs_reからの距離を示すエンド離間角Δθが所定角度θ1以下となる場合に、該エンド離間角Δθの減少に基づいて小さくなる舵角制限値Ienを演算する。このように演算された舵角制限値Ienは、最小値選択部73に出力される。
【0042】
電圧制限値演算部72には、電源電圧Vbが入力される。電圧制限値演算部72は、電源電圧Vbの絶対値が予め設定された電圧閾値Vth以下になった場合に、定格電流Irを供給するための定格電圧よりも小さな電圧制限値Ivbを演算する。具体的には、電圧制限値演算部72は、電源電圧Vbの絶対値が電圧閾値Vth以下になった場合、該電源電圧Vbの絶対値の低下に基づいてより小さな絶対値を有する電圧制限値Ivbを演算する。このように演算された電圧制限値Ivbは、最小値選択部73に出力される。
【0043】
最小値選択部73は、入力される舵角制限値Ien及び電圧制限値Ivbのいずれか小さい方を制限値Igとして選択し、ガード処理部63に出力する。
そして、舵角制限値Ienが制限値Igとしてガード処理部63に出力されることにより、q軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienに制限される。これにより、エンド離間角Δθが所定角度θ1以下となる場合に、該エンド離間角Δθの減少に基づいてq軸電流指令値Iq*の絶対値を小さくすることで、ラックエンド18がラックハウジング13に衝突するエンド当ての衝撃を緩和するエンド当て緩和制御が実行される。
【0044】
また、電圧制限値Ivbが制限値Igとしてガード処理部63に出力されることにより、q軸電流指令値Iq*の絶対値が電圧制限値Ivbに制限される。これにより、電源電圧Vbの絶対値が電圧閾値Vth以下となる場合に、該電源電圧Vbの絶対値の低下に基づいてq軸電流指令値Iq*の絶対値を小さくする電源保護制御が実行される。
【0045】
次に、舵角制限値演算部71の構成について説明する。
舵角制限値演算部71は、エンド離間角Δθを演算するエンド離間角演算部81と、エンド離間角Δθに応じて定まる電流制限量である角度制限成分Igaを演算する角度制限成分演算部82とを備えている。また、舵角制限値演算部71は、上限角速度ωlimに対する操舵速度ωsの超過分である超過角速度ωoを演算する超過角速度演算部83と、超過角速度ωoに応じて定まる電流制限量である速度制限成分Igsを演算する速度制限成分演算部84とを備えている。
【0046】
エンド離間角演算部81には、絶対舵角θs及びエンド位置対応角θs_le,θs_reが入力される。エンド離間角演算部81は、最新の演算周期での絶対舵角θsと左側のエンド位置対応角θs_leとの間の差分、及び最新の演算周期での絶対舵角θsと右側のエンド位置対応角θs_reとの間の差分を演算する。そして、エンド離間角演算部81は、演算した差分のうちの小さい方の絶対値をエンド離間角Δθとして角度制限成分演算部82及び超過角速度演算部83に出力する。
【0047】
角度制限成分演算部82には、エンド離間角Δθ及び車速SPDが入力される。角度制限成分演算部82は、エンド離間角Δθ及び車速SPDと角度制限成分Igaとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりエンド離間角Δθ及び車速SPDに応じた角度制限成分Igaを演算する。
【0048】
このマップでは、角度制限成分Igaは、エンド離間角Δθがゼロの状態からその増大に比例して減少し、エンド離間角Δθが所定角度θ1よりも大きくなると、ゼロになるように設定されている。また、このマップでは、エンド離間角Δθが負の領域も設定されており、角度制限成分Igaは、エンド離間角Δθがゼロよりも小さくなると、その減少に比例して増大し、定格電流Irと同じ大きなになった以降は一定となる。マップにおける負の領域は、ラックエンド18がラックハウジング13に当接した状態からさらに切り込み操舵を行うことにより、EPS2が弾性変形してモータ21が回転する分を想定している。なお、所定角度θ1は、エンド位置対応角θs_le,θs_re近傍の範囲を示す小さな角度に設定されている。すなわち、角度制限成分Igaは、絶対舵角θsがエンド位置対応角θs_le,θs_reからステアリング中立側に向かうにつれて小さくなり、エンド位置対応角θs_le,θs_re近傍よりもステアリング中立位置側にある場合には、ゼロになるように設定されている。
【0049】
また、このマップは、エンド離間角Δθが所定角度θ1以下の領域では、車速SPDの増大に基づいて、角度制限成分Igaが小さくなるように設定されている。具体的には、車速SPDが低速域である場合は角度制限成分Igaがゼロよりも大きくなるが、車速SPDが中高速域である場合は角度制限成分Igaがゼロとなるように設定されている。このように演算された角度制限成分Igaは、減算器85に出力される。
【0050】
超過角速度演算部83には、エンド離間角Δθ、及び絶対舵角θsを微分することにより得られる操舵速度ωsが入力される。そして、超過角速度演算部83は、これらの状態量に基づいて超過角速度ωoを演算する。
【0051】
詳しくは、超過角速度演算部83は、上限角速度ωlimを演算する上限角速度演算部86を備えている。上限角速度演算部86には、エンド離間角Δθが入力される。上限角速度演算部86は、エンド離間角Δθと上限角速度ωlimとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりエンド離間角Δθに応じた上限角速度ωlimを演算する。
【0052】
このマップでは、上限角速度ωlimは、エンド離間角Δθがゼロの場合に上限角速度ωlimが最も小さくなり、エンド離間角Δθの増大に比例して上限角速度ωlimが大きくなるように設定されている。また、上限角速度ωlimは、エンド離間角Δθが所定角度θ2よりも大きくなると、モータ21が回転可能な最大の角速度として予め設定された値で一定となるように設定されている。なお、所定角度θ2は、上記所定角度θ1よりも大きな角度に設定されている。
【0053】
超過角速度演算部83は、操舵速度ωsの絶対値がエンド離間角Δθに応じた上限角速度ωlimよりも大きい場合には、操舵速度ωsの上限角速度ωlimに対する超過分を超過角速度ωoとして速度制限成分演算部84に出力する。一方、超過角速度演算部83は、操舵速度ωsの絶対値が上限角速度ωlim以下の場合には、ゼロを示す超過角速度ωoを速度制限成分演算部84に出力する。
【0054】
具体的には、超過角速度演算部83は、上限角速度ωlim及び操舵速度ωsが入力される最小値選択部87を備えている。最小値選択部87は、上限角速度ωlim及び操舵速度ωsの絶対値のうちの小さい方を選択して減算器88に出力する。そして、超過角速度演算部83は、減算器88において、操舵速度ωsの絶対値から最小値選択部87の出力値を差し引くことで超過角速度ωoを演算する。このように最小値選択部87において上限角速度ωlim及び操舵速度ωsの絶対値のうちの小さい方を選択することで、操舵速度ωsが上限角速度ωlim以下の場合には、減算器88において操舵速度ωsから操舵速度ωsが差し引かれることとなり、超過角速度ωoがゼロとなる。一方、操舵速度ωsが上限角速度ωlimよりも大きい場合には、減算器88において操舵速度ωsの絶対値から上限角速度ωlimが差し引かれることとなり、超過角速度ωoが操舵速度ωsの上限角速度ωlimに対する超過分となる。
【0055】
速度制限成分演算部84には、超過角速度ωo及び車速SPDが入力される。速度制限成分演算部84は、超過角速度ωo及び車速SPDと速度制限成分Igsとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより超過角速度ωo及び車速SPDに応じた速度制限成分Igsを演算する。
【0056】
このマップでは、速度制限成分Igsは、超過角速度ωoがゼロの場合に速度制限成分Igsが最も小さくなり、超過角速度ωoの増大に比例して速度制限成分Igsが大きくなるように設定されている。また、このマップは、車速SPDの増大に基づいて、速度制限成分Igsが小さくなるように設定されている。なお、このマップでは、速度制限成分Igsの絶対値が角度制限成分Igaの絶対値に比べて小さくなるように設定されている。このように演算された速度制限成分Igsは、減算器89に出力される。
【0057】
上記した角度制限成分Igaが入力される減算器85には、定格電流Irが入力される。舵角制限値演算部71は、減算器85において定格電流Irから角度制限成分Igaを差し引いた値を、速度制限成分Igsが入力される減算器89に出力する。そして、舵角制限値演算部71は、減算器89において、減算器85の出力値から速度制限成分Igsを差し引いた値、すなわち定格電流Irから角度制限成分Iga及び速度制限成分Igsを差し引いた値を舵角制限値Ienとして上記最小値選択部73に出力する。なお、舵角制限値Ienは、上記モータ制御信号生成部52にも出力される。
【0058】
次に、モータ制御信号生成部52について説明する。
図4に示すように、モータ制御信号生成部52は、電流指令値Id*,Iq*に基づいてdq座標系における電流フィードバック演算を実行することにより、モータ制御信号Smを演算する。なお、以下では、フィードバックという文言を「F/B」と記すことがある。
【0059】
詳しくは、モータ制御信号生成部52は、d軸実電流値Id及びq軸実電流値Iqを演算する三相二相変換部91を備えている。また、モータ制御信号生成部52は、電流F/B演算の実行によりd軸電圧指令値Vd*を演算するd軸電流F/B制御部92と、電流F/B演算の実行によりq軸電圧指令値Vq*を演算するq軸電流F/B制御部93とを備えている。また、モータ制御信号生成部52は、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する二相三相変換部94と、モータ制御信号Smを生成するPWM変換部95とを備えている。
【0060】
三相二相変換部91には、各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θmが入力される。三相二相変換部91は、回転角θmに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをdq座標上に写像することにより、d軸実電流値Id及びq軸実電流値Iqを演算する。d軸実電流値Idは、d軸電流指令値Id*とともに減算器97に入力され、q軸実電流値Iqは、q軸電流指令値Iq*とともに減算器98に入力される。減算器97は、d軸電流指令値Id*からd軸実電流値Idを減算したd軸電流偏差ΔIdを演算し、d軸電流F/B制御部92に出力する。減算器98は、q軸電流指令値Iq*からq軸実電流値Iqを減算したq軸電流偏差ΔIqを演算し、q軸電流F/B制御部93に出力する。
【0061】
d軸電流F/B制御部92は、d軸電流偏差ΔIdに基づいて、d軸電流指令値Id*にd軸実電流値Idを追従させる電流F/B演算を行い、d軸電圧指令値Vd*を演算する。具体的には、d軸電流偏差ΔIdに比例ゲインKdpを乗ずることにより得られる比例成分、及びd軸電流偏差ΔIdの積分値に積分ゲインKdiを乗ずることにより得られる積分成分を足し合わせることで、d軸電圧指令値Vd*を演算する。
【0062】
q軸電流F/B制御部93には、q軸電流偏差ΔIqに加え、q軸電流指令値Iq*、舵角制限値Ien及び回転角θmを微分することにより得られるモータ角速度ωmが入力される。q軸電流F/B制御部93は、これらの状態量に基づいて、q軸電流指令値Iq*にq軸実電流値Iqを追従させる電流F/B演算を行い、q軸電圧指令値Vq*を演算する。具体的には、q軸電流偏差ΔIqに比例ゲインKqpを乗ずることにより得られる比例成分、及びq軸電流偏差ΔIqの積分値に積分ゲインKqiを乗ずることにより得られる積分成分を足し合わせることで、d軸電圧指令値Vd*を演算する。後述するように比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiは、入力される状態量に応じて変更される。このように演算されたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、二相三相変換部94に出力される。
【0063】
二相三相変換部94には、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に加え、回転角θmが入力される。二相三相変換部94は、回転角θmに基づいてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を三相の交流座標上に写像することにより三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。このように演算された電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM変換部95に出力される。
【0064】
PWM変換部95は、各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてデューティ指令値を演算し、デューティ指令値と三角波や鋸波等の搬送波としてのPWMキャリアとの比較を通じて、該デューティ指令値の示すデューティ比を有するモータ制御信号Smを生成する。
【0065】
次に、q軸電流F/B制御部93における比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整について説明する。
本実施形態のq軸電流F/B制御部93は、エンド当て緩和制御の実行時において、q軸実電流値Iqのオーバーシュートが発生する場合に、電流F/B演算に用いる制御ゲインとしての比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整する。なお、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiは、実験等の結果に基づく最適値が予め設定されている。また、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整は、例えば予め設定された値を定数倍する又は所定値を加算するといった方法が採用される。
【0066】
詳しくは、q軸電流F/B制御部93は、q軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienに制限されるエンド当て緩和制御の実行時において、次の(a)~(c)からなる調整開始条件が成立すると、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整する。なお、q軸電流F/B制御部93は、入力されるq軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienと等しい場合に、q軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienに制限され、エンド当て緩和制御が実行されていると判定する。
【0067】
(a)q軸電流偏差ΔIqの絶対値が予め設定された第1電流偏差閾値ΔIth1以上である。
(b)モータ角速度ωmの絶対値が予め設定された角速度閾値ωth以上である。
【0068】
(c)モータ角速度ωmの変化量である角速度変化量Δωの絶対値が予め設定された角速度変化量閾値Δωth以上である。
なお、第1電流偏差閾値ΔIth1は、例えば操舵フィーリングの低下を招くおそれのある電流偏差を示す値であり、予め設定されている。角速度閾値ωthは、例えばエンド当てが発生するような比較的速い角速度を示す値であり、予め設定されている。角速度変化量閾値Δωthは、例えばエンド当て緩和制御の実行によりモータ角速度ωmが低下していることを示す角速度変化量であり、予め設定されている。本実施形態の角速度変化量Δωには、q軸電流F/B制御部93が最新の演算周期で取得したモータ角速度ωmと一周期前のモータ角速度ωmとの差分が用いられる。
【0069】
また、q軸電流F/B制御部93は、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整後、次の(d),(e)からなる解除条件が成立すると、これら比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除し、元の値に戻す。
【0070】
(d)q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1よりも小さな値に予め設定された第2電流偏差閾値ΔIth2以下となる。
(e)比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整した状態が所定時間継続する。
【0071】
なお、第2電流偏差閾値ΔIth2は、例えば操舵フィーリングの低下をほぼ招かないと考えられる電流偏差を示す値であり、予め設定されている。所定時間は、エンド当て緩和制御の実行時にq軸実電流値のオーバーシュートが生じやすい時間であり、予め設定されている。
【0072】
具体的には、図5のフローチャートに示すように、q軸電流F/B制御部93は、各種状態量を取得すると(ステップ101)、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが高くなるように調整されていることを示すフラグがセットされているか否かを判定する(ステップ102)。上記フラグがセットされていない場合には(ステップ102:NO)、q軸電流指令値Iq*が舵角制限値Ienに制限されることによりエンド当て緩和制御が実行されているか否かを判定する(ステップ103)。
【0073】
続いて、q軸電流F/B制御部93は、q軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienに制限されている場合には(ステップ103:YES)、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上であるか否かを判定する(ステップ104)。q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上である場合には(ステップ104:YES)、モータ角速度ωmの絶対値が角速度閾値ωth以上であるか否かを判定する(ステップ105)。モータ角速度ωmの絶対値が角速度閾値ωth以上である場合には(ステップ105:YES)、角速度変化量Δωの絶対値が角速度変化量閾値Δωth以上であるか否かを判定する(ステップ106)。そして、角速度変化量Δωの絶対値が角速度変化量閾値Δωth以上である場合には(ステップ106:YES)、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整し(ステップ107)、上記フラグをセットする(ステップ108)。
【0074】
一方、q軸電流F/B制御部93は、q軸電流指令値Iq*の絶対値が舵角制限値Ienに制限されていない場合(ステップ103:NO)、すなわちエンド当て緩和制御が実行されていない場合や、制限値Igが舵角制限値Ienよりも低い電圧制限値Ivbに設定されている場合等には、それ以降の処理を実行しない。また、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1未満である場合(ステップ104:NO)、モータ角速度ωmの絶対値が角速度閾値ωth未満である場合(ステップ105:NO)、又は角速度変化量Δωの絶対値が角速度変化量閾値Δωth未満である場合には(ステップ106:NO)、それ以降の処理を実行しない。
【0075】
また、q軸電流F/B制御部93は、上記フラグがセットされている場合には(ステップ102:YES)、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが調整されてからの時間を示すカウント値Cをインクリメントする(ステップ109)。続いて、カウント値Cが所定時間に相当する所定カウント値Cth以上であるか否かを判定し(ステップ110)、カウント値Cが所定カウント値Cth以上である場合には(ステップ110:YES)、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第2電流偏差閾値ΔIth2未満であるか否かを判定する(ステップ111)。そして、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第2電流偏差閾値ΔIth2未満である場合には(ステップ111:YES)、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除し(ステップ112)、上記フラグをリセットする(ステップ113)とともにカウント値Cをクリアする(ステップ114)。
【0076】
一方、q軸電流F/B制御部93は、カウント値Cが所定カウント値Cth未満である場合(ステップ110:NO)、又はq軸電流偏差ΔIqの絶対値が第2電流偏差閾値ΔIth2以上である場合には(ステップ111:NO)、それ以降の処理を実行しない。
【0077】
次に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整によるq軸実電流値Iqの変化について説明する。
ここで、図6を参照して、運転者が高速で操舵してラックエンド18がラックハウジング13に衝突する場合を想定する。同図に示すように、時刻t1においてエンド離間角Δθが所定角度θ1以下になると、それまでは操舵トルクTh及び車速SPDに応じた値であったq軸電流指令値Iq*が急激に減少し、ゼロとなる。このとき、同図において破線で示すように比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiを調整しない比較例のq軸実電流値Iqは、q軸電流指令値Iq*に対して遅れて減少することで、一時的にオーバーシュートし、q軸電流指令値Iq*とq軸実電流値Iqとの乖離が大きくなる。その後、q軸実電流値Iqのオーバーシュートは小さくなるものの、時刻t2においてエンド当てが発生すると、逆起電圧の急激な低下に伴って再びオーバーシュートする。
【0078】
具体的には、時刻t2以降、高速で回転していたモータ21が急停止し、モータ角速度ωmが低下することで、該モータ21で発生していた逆起電圧が急激に低下する。一方、上記のようにq軸電流F/B制御部93は、電流F/B演算を行っているため、該q軸電流F/B制御部93が出力するq軸電圧指令値Vq*には、モータ21で発生する逆起電圧に抗して電流を供給するための電圧が含まれる。しかし、逆起電圧の低下は、q軸電流指令値Iq*の制限に伴うq軸電圧指令値Vq*の低下よりも早いため、一時的にモータ21に電圧が印加されることになり、q軸実電流値Iqのオーバーシュートが発生する。
【0079】
ここで、時刻t1において、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上であるとともに、モータ角速度ωmの絶対値が角速度閾値ωth以上であり、かつq軸電流指令値Iq*が制限されることでモータ角速度ωmが低下し、角速度変化量Δωの絶対値が角速度変化量閾値Δωth以上であるとする。その結果、本実施形態では、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるように調整されることで、q軸実電流値Iqの応答性が高くなる。
【0080】
これにより、同図において実線で示すように、q軸実電流値Iqの応答性に起因したオーバーシュートが抑制される。また、q軸電流F/B制御部93は、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiを高くした状態を所定時間継続するため、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの値が大きくなったり、小さくなったりせず、逆起電圧の急激な低下に起因したオーバーシュートが抑制される。
【0081】
なお、時刻t1において、例えばq軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上にならず、この時点では、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるように調整されないことがある。この場合でも、時刻t2以降、逆起電圧の急激な低下に起因したオーバーシュートが発生することで、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上となり、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるように調整される。これにより、逆起電圧の急激な低下に起因したオーバーシュートが抑制される。
【0082】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)q軸電流F/B制御部93は、エンド当て緩和制御の実行時において、q軸実電流値Iqのオーバーシュートが発生する場合に、電流F/B演算に用いる比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整する。これにより、q軸実電流値Iqのq軸電流指令値Iq*に対する応答性が高くなるため、モータ21に供給する電流のオーバーシュートを抑制できる。
【0083】
(2)電流指令値演算部51は、q軸電流指令値Iq*の絶対値を舵角制限値Ienに制限する態様でエンド当て緩和制御を実行する。したがって、電流指令値演算部51は、q軸電流指令値Iq*を最大限制限してもその絶対値がゼロとなるのみであるため、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整によりオーバーシュートを抑制する効果は大である。
【0084】
(3)q軸電流F/B制御部93は、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上であることを含む調整開始条件が成立する場合に、q軸実電流値Iqのオーバーシュートが発生すると判定して、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整する。このようにq軸電流偏差ΔIqの絶対値と第1電流偏差閾値ΔIth1との大小比較を行うことで、オーバーシュートの発生を正確に判定できる。
【0085】
(4)調整開始条件には、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上であることに加え、モータ角速度ωmの絶対値が角速度閾値ωth以上であることが含まれる。そのため、エンド当ての発生によりq軸実電流値Iqがオーバーシュートする場合を正確に捉えて制御ゲインを大きくすることができ、好適にオーバーシュートを抑制できる。
【0086】
(5)調整開始条件には、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第1電流偏差閾値ΔIth1以上であることに加え、角速度変化量Δωの絶対値が角速度変化量閾値Δωth以上であることが含まれる。そのため、エンド当ての発生によりq軸実電流値Iqがオーバーシュートする場合を正確に捉えて制御ゲインを大きくすることができ、好適にオーバーシュートを抑制できる。
【0087】
(6)比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiを大きくしてq軸実電流値Iqの応答性を高くすると、例えばq軸電流指令値Iq*の僅かな変化に対してモータ21が過敏に反応し、振動や異音が発生するおそれがある。この点、本実施形態では、q軸電流F/B制御部93は、解除条件が成立する場合に、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除する。そのため、q軸実電流値Iqのオーバーシュートが小さくなって高い応答性が不要となった場合に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiを高いままにしておくことを抑制し、振動や異音の発生を抑制できる。
【0088】
(7)解除条件には、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が第2電流偏差閾値ΔIth2以下となることが含まれるため、q軸実電流値Iqのオーバーシュートが大きい状態で、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除することを抑制できる。
【0089】
(8)q軸実電流値Iqのオーバーシュートは、モータ21の急停止に伴う逆起電圧の急激な低下以外に、エンド当て緩和制御の実行によるq軸電流指令値Iq*の急激な低下に対してq軸実電流値Iqの応答が遅れることでも生じる。こうしたq軸実電流値Iqの応答性に起因するオーバーシュートにより、上記(a)~(c)の調整開始条件が成立すれば、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるように調整されることで、当該オーバーシュートを抑制できる。
【0090】
ところで、上記のようにq軸実電流値Iqの応答性に起因するオーバーシュートが発生した後、一旦、q軸電流偏差ΔIqの絶対値が小さくなってから、逆起電圧の急激な低下に起因するオーバーシュートが発生して再びq軸電流偏差ΔIqの絶対値が大きくなることがある。そのため、例えばq軸電流偏差ΔIqの絶対値が第2電流偏差閾値ΔIth2以下となることのみを条件に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除すると、これらの値が大きくなったり、小さくなったりを繰り返すおそれがある。この点、本実施形態では、解除条件として、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなるようにこれらを調整した状態が所定時間継続することを含む。したがって、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが大きくなる状態が所定時間は継続するため、比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiが頻繁に切り替わることを防いで、操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【0091】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、上記(d),(e)の解除条件が成立した場合に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除した。しかし、これに限らず、(d)のみ、又は(e)のみの条件が成立した場合に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiの調整を解除してもよく、また、解除条件に他の条件を含めてもよい。
【0092】
・上記実施形態では、エンド当て緩和制御の実行の実行時において、上記(a)~(c)の調整開始条件が成立した場合に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiを調整した。しかし、これに限らず、(b)及び(c)の条件の少なくとも一方が成立しなくても、(a)の条件が成立した場合に比例ゲインKqp及び積分ゲインKqiを調整してもよい。また、調整開始条件に他の条件を含めてもよい。さらに、(a)の条件に代えて、例えばq軸実電流値Iqが急増し、かつq軸電圧指令値Vq*が急減することを判定してもよい。
【0093】
・上記実施形態において、d軸電流F/B制御部92が、q軸電流F/B制御部93と同様に、d軸実電流値Idのオーバーシュートが発生する場合に、比例ゲインKdp及び積分ゲインKdiを調整してもよい。
【0094】
・上記実施形態において、q軸電流F/B制御部93が行う電流F/B演算の態様は適宜変更可能であり、例えばPID制御演算を行ってもよい。同様に、d軸電流F/B制御部92が、例えばPID制御演算を行ってもよい。
【0095】
・上記実施形態では、イグニッションスイッチのオフ時にもモータ21の回転の有無を監視することで、原点からのモータ21の回転数を常時積算し、モータ絶対角を演算した。しかし、これに限らず、例えば操舵角を絶対角で検出するステアリングセンサを設け、該ステアリングセンサにより検出される操舵角及び減速機構22の減速比に基づいて、原点からのモータ21の回転数を積算し、モータ絶対角を演算してもよい。
【0096】
・上記実施形態では、アシスト指令値Ias*を舵角制限値Ienに制限することで、エンド当て緩和制御を実行したが、これに限らず、例えばアシスト指令値Ias*に対し、ラックエンド位置に近づくほど大きくなる操舵反力成分、すなわちアシスト指令値Ias*と符号が反対の成分を加算することにより、エンド当て緩和制御を実行してもよい。
【0097】
・上記実施形態では、アシスト指令値Ias*に対してガード処理を行ったが、これに限らず、例えば操舵トルクThを微分したトルク微分値に基づく補償量によってアシスト指令値Ias*を補正した値に対してガード処理を行ってもよい。
【0098】
・上記実施形態では、制限値設定部62は、電源電圧Vbに基づいて電圧制限値Ivbを演算する電圧制限値演算部72を備えたが、これに限らず、電圧制限値演算部72に加えて又は代えて、他の状態量に基づく他の制限値を演算する他の演算部を備えてもよい。また、制限値設定部62が電圧制限値演算部72を備えず、舵角制限値Ienをそのまま制限値Igとして設定する構成としてもよい。
【0099】
・上記実施形態において、舵角制限値Ienを定格電流Irから角度制限成分Igaのみを減算した値としてもよい。
・上記実施形態では、操舵制御装置1は、EPSアクチュエータ6がコラム軸15にモータトルクを付与する形式のEPS2を制御対象としたが、これに限らず、例えばボール螺子ナットを介してラック軸12にモータトルクを付与する形式の操舵装置を制御対象としてもよい。また、EPSに限らず、操舵制御装置1は、運転者により操作される操舵部と、転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置を制御対象とし、転舵部に設けられる転舵アクチュエータのモータのトルク指令値又はq軸電流指令値について、本実施形態のようにエンド当て緩和制御を実行してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…操舵制御装置、2…電動パワーステアリング装置、4…転舵輪、6…EPSアクチュエータ、12…ラック軸、13…ラックハウジング、18…ラックエンド、21…モータ、41…マイコン、42…駆動回路、51…電流指令値演算部、52…モータ制御信号生成部、53…絶対舵角検出部、62…制限値設定部、71…舵角制限値演算部、92…d軸電流F/B制御部、93…q軸電流F/B制御部Id…d軸実電流値、Id*…d軸電流指令値、Iq…q軸実電流値、Iq*…q軸電流指令値、Ien…舵角制限値、Ivb…電圧制限値、Ig…制限値、ΔId…d軸電流偏差、ΔIq…q軸電流偏差、ΔIth1…第1電流偏差閾値、ΔIth2…第2電流偏差閾値、Sm…モータ制御信号、Kqi…積分ゲイン、Kqp…比例ゲイン、θm…回転角、θs…絶対舵角、θs_le,θs_re…エンド位置対応角、Δθ…エンド離間角、ωm…モータ角速度、ωth…角速度閾値、Δω…角速度変化量、Δωth…角速度変化量閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6