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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】トルク変動抑制装置、及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20231031BHJP
   F16H 45/02 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
F16F15/14 B
F16H45/02 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019167273
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021042840
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晃一
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145857(JP,A)
【文献】特開2017-053467(JP,A)
【文献】特開2018-132161(JP,A)
【文献】特開平01-312246(JP,A)
【文献】特開2019-032045(JP,A)
【文献】特開2017-031995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/14
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部を有し、回転可能に配置される第1回転体と、
前記第1回転体とともに回転可能であり、且つ前記第1回転体と相対回転可能に配置される第2回転体と、
前記収容部内に径方向移動可能に配置され、前記第1回転体又は前記第2回転体の回転による遠心力を受ける遠心子と、
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記第1回転体と前記第2回転体との回転位相差が小さくなる方向の円周方向力に変換するカム機構と、
を備え、
前記カム機構は、
前記遠心子に形成されるカム面と、
前記カム面と当接し、前記遠心子と前記第2回転体との間で力を伝達するカムフォロアと、
を有し、
前記遠心子は、前記収容部の内壁面上を転動することによって径方向に移動するように構成され
前記第2回転体は、第2貫通孔を有し、
前記カムフォロアは、前記第2貫通孔の内壁面上を転動する、
トルク変動抑制装置。
【請求項2】
前記カムフォロアは、前記カム面上を転動する、
請求項1に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項3】
前記遠心子は、軸方向に貫通する第1貫通孔を有し、
前記カム面は、前記第1貫通孔の内壁面によって構成される、
請求項1又は2に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項4】
前記カムフォロアは、前記第2回転体に自転可能に取り付けられる、
請求項1から3のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項5】
前記カムフォロアは、円柱状又は円筒状のコロである、
請求項1からのいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項6】
入力部材と、
前記入力部材からトルクが伝達される出力部材と、
請求項1からのいずれかに記載のトルク変動抑制装置と、
を備える、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク変動抑制装置、および動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルク変動抑制装置は、入力部材及びイナーシャ部材を備えている。例えば、特許文献1に記載のトルク変動抑制装置では、ハブフランジの凹部内に遠心子が径方向移動可能に配置されている。遠心子は、ハブフランジの回転による遠心力を受けて、径方向外側に移動する。そして、この遠心子がスムーズに径方向に移動できるように、遠心子にはローラが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-132161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したトルク変動抑制装置では、遠心子をスムーズに径方向に移動させるために、遠心子にローラを設けている。これに対して、遠心子をより簡易な構成にしたいという要望があった。そこで、本願発明では、遠心子を、スムーズに径方向に移動可能にするとともに、より簡易な構成にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に係るトルク変動抑制装置は、第1回転体と、第2回転体と、遠心子と、カム機構とを備えている。第1回転体は、収容部を有する。第1回転体は、回転可能に配置される。第2回転体は、第1回転体とともに回転可能であり、且つ第1回転体と相対回転可能に配置される。遠心子は、収容部内に径方向移動可能に配置される。遠心子は、第1回転体又は第2回転体の回転による遠心力を受ける。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力を第1回転体と第2回転体との回転位相差が小さくなる方向の円周方向力に変換する。カム機構は、カム面と、カムフォロアとを有する。カム面は、遠心子に形成される。カムフォロアは、カム面と当接し、遠心子と第2回転体との間で力を伝達する。遠心子は、収容部の内壁面上を転動することによって径方向に移動するように構成される。
【0006】
この構成によれば、遠心子は、収容部の内壁面上を転動することによって径方向に移動するため、収容部の内壁面上を摺動する場合に比べて、スムーズに径方向に移動することができる。
【0007】
好ましくは、カムフォロアは、カム面上を転動する。
【0008】
好ましくは、遠心子は、軸方向に貫通する第1貫通孔を有する。カム面は、第1貫通孔の内壁面によって構成される。
【0009】
好ましくは、カムフォロアは、第2回転体に自転可能に取り付けられる。
【0010】
好ましくは、第2回転は、第2貫通孔を有する。カムフォロアは、第2貫通孔の内壁面上を転動する。
【0011】
好ましくは、カムフォロアは、円筒状又は円柱状のコロである。なお、カムフォロアは径が一定であってもよいし、大径部及び小径部を有するような形状であってもよい。
【0012】
本発明の第2側面に係る動力伝達装置は、入力部材と、出力部材と、上記いずれかのトルク変動抑制装置と、を備えている。出力部材は、入力部材からトルクが伝達される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遠心子を、スムーズに径方向に移動可能にするとともに、より簡易な構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】トルクコンバータの模式図。
図2】トルク変動抑制装置の斜視図。
図3】トルク変動抑制装置の正面図。
図4図3のIV-IV線断面図。
図5】トルク変動抑制装置の拡大図。
図6】トルク変動が入力されていない状態の遠心子、カムフォロア、及びイナーシャリングの位置関係を示す概略図。
図7】トルク変動が入力された状態の遠心子、カムフォロア、及びイナーシャリングの位置関係を示す概略図。
図8】トルク変動抑制装置の特性の一例を示すグラフ。
図9】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大図。
図10】ダンパ装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るトルク変動抑制装置及び動力伝達装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るトルクコンバータ(動力伝達装置の一例)の模式図である。なお、以下の説明において、軸方向とはトルク変動抑制装置の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。なお、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向に完全に一致している必要はなく、例えば、図5において、遠心子を基準とした左右方向も含む概念である。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の直径方向に完全に一致している必要はなく、例えば、図5において、遠心子を基準とした上下方向も含む概念である。
【0016】
[全体構成]
図1に示すように、トルクコンバータ100は、フロントカバー11、トルクコンバータ本体12と、ロックアップ装置13と、出力ハブ14(出力部材の一例)と、を有している。フロントカバー11にはエンジンからトルクが入力される。トルクコンバータ本体12は、フロントカバー11に連結されたインペラ121と、タービン122と、ステータ(図示せず)と、を有している。タービン122は出力ハブ14に連結されている。トランスミッションの入力軸(図示せず)が出力ハブ14にスプライン嵌合している。
【0017】
[ロックアップ装置13]
ロックアップ装置13は、クラッチ部や、油圧によって作動するピストン等を有し、ロックアップオン状態と、ロックアップオフ状態と、を取り得る。ロックアップオン状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介さずに、ロックアップ装置13を介して出力ハブ14に伝達される。一方、ロックアップオフ状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介して出力ハブ14に伝達される。
【0018】
ロックアップ装置13は、入力側回転体131(入力部材の一例)と、ダンパ132と、トルク変動抑制装置10と、を有している。
【0019】
入力側回転体131は、軸方向に移動自在なピストンを含み、フロントカバー11側の側面に摩擦部材133が固定されている。この摩擦部材133がフロントカバー11に押し付けられることによって、フロントカバー11から入力側回転体131にトルクが伝達される。
【0020】
ダンパ132は、入力側回転体131と、後述するハブフランジ2との間に配置されている。ダンパ132は、複数のトーションスプリングを有しており、入力側回転体131とハブフランジ2とを円周方向に弾性的に連結している。このダンパ132によって、入力側回転体131からハブフランジ2にトルクが伝達されるとともに、トルク変動が吸収、減衰される。
【0021】
[トルク変動抑制装置10]
図2はトルク変動抑制装置10の斜視図、図3はトルク変動抑制装置10の正面図、図4図3のIV-IV線断面図である。なお、図2及び図3では、一方(手前側)のイナーシャリング3が取り外されている。図2及び図3では4つの遠心子4のうち、1つの遠心子4のみを示しており、残りの3つの遠心子4の記載を省略している。また、カムフォロア52についても同様に、1つのみを記載し、残りの3つの記載を省略している。
【0022】
図2図4に示すように、トルク変動抑制装置10は、ハブフランジ2(第1回転体の一例)、一対のイナーシャリング3(第2回転体の一例)、遠心子4、及びカム機構5を有している。
【0023】
<ハブフランジ2>
ハブフランジ2は、回転可能に配置される。ハブフランジ2は、入力側回転体131と軸方向に対向して配置されている。ハブフランジ2は、入力側回転体131と相対回転可能である。ハブフランジ2は、出力ハブ14に連結されている。すなわち、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一体的に回転する。なお、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一つの部材で構成されていてもよい。
【0024】
ハブフランジ2は、環状に形成されている。ハブフランジ2の内周部が出力ハブ14に連結されている。ハブフランジ2は、複数の収容部21を有している。本実施形態では、ハブフランジ2は4つの収容部21を有している。複数の収容部21は、周方向において互いに間隔をあけて配置されている。各収容部21は、ハブフランジ2の外周部に形成されている。各収容部21は、径方向外側に開口する。収容部21は、所定の深さを有している。
【0025】
図5は、トルク変動抑制装置10の拡大図である。図5に示すように、収容部21を画定する内壁面22は、第1及び第2ガイド面221a、221bと、円弧面222とを有している。
【0026】
第1及び第2ガイド面221a、221bは、円周方向(図5の左右方向)を向いている。第1及び第2ガイド面221a、221bは、遠心子4を向いている。遠心子4がない場合、第1及び第2ガイド面221a、221bは、対向している。第1ガイド面221aと第2ガイド面221bとは、互いに略平行に延びている。第1及び第2ガイド面221a、221bは、平面である。
【0027】
円弧面222は、第1ガイド面221aと第2ガイド面221bとを連結している。円弧面222は、正面視(軸方向視)において、円弧状である。円弧面222は、遠心子4の外周面に沿った形状を有している。詳細には、円弧面222の半径は、遠心子4の半径と略同じである。円弧面222は、径方向外側を向いている。円弧面222は、遠心子4の外周面と対向している。
【0028】
<イナーシャリング3>
図2図4に示すように、イナーシャリング3は、環状のプレートである。詳細には、イナーシャリング3は、連続した円環状に形成されている。イナーシャリング3は、トルク変動抑制装置10の質量体として機能する。一対のイナーシャリング3は、ハブフランジ2を挟むように配置されている。一対のイナーシャリング3は、軸方向においてハブフランジ2の両側に所定の隙間をあけて配置されている。すなわち、ハブフランジ2と一対のイナーシャリング3とは、軸方向に並べて配置されている。イナーシャリング3は、ハブフランジ2の回転軸と同じ回転軸を有する。イナーシャリング3は、ハブフランジ2とともに回転可能で、かつハブフランジ2に対して相対回転可能である。
【0029】
イナーシャリング3は、複数の第2貫通孔31を有している。第2貫通孔31は、イナーシャリング3を軸方向に貫通している。第2貫通孔31の径は、後述するカムフォロア52の小径部522の径よりも大きい。また、第2貫通孔31の径は、カムフォロア52の大径部521よりも小さい。
【0030】
一対のイナーシャリング3は、複数のリベット32によって固定されている。したがって、一対のイナーシャリング3は、互いに、軸方向、径方向、及び円周方向に移動不能である。すなわち、一対のイナーシャリング3は、互いに一体的に回転する。
【0031】
一対のイナーシャリング3の間には、複数のイナーシャブロック33が配置されている。複数のイナーシャブロック33は、周方向において、互いに間隔をあけて配置されている。例えば、周方向において、イナーシャブロック33と遠心子4とが交互に配置されている。イナーシャブロック33は、一対のイナーシャリング3に固定されている。具体的には、イナーシャブロック33は、リベット32によって一対のイナーシャリング3に固定されている。なお、イナーシャブロック33は、遠心子4よりも厚い。
【0032】
<遠心子4>
遠心子4は、収容部21内に配置されている。遠心子4は、ハブフランジ2の回転によって遠心力を受けるように構成されている。遠心子4は、収容部21内において径方向に移動可能である。遠心子4の軸方向の移動は、一対のイナーシャリング3によって規制されている。
【0033】
図5に示すように、遠心子4は、円板状である。遠心子4は、ハブフランジ2よりも厚い。遠心子4は、一つの部材によって構成することができる。遠心子4は、収容部の内壁面22上を転動するように構成されている。詳細には、遠心子4は、径方向に移動する際、収容部21の内壁面22上を転動する。なお、遠心子4は、内壁面22のうち、第1及び第2ガイド面221a、221b上を転動する。
【0034】
例えば、イナーシャリング3が、ハブフランジ2に対して時計回りに相対回転すると、遠心子4は、第2ガイド面221b上を転動する。逆に、イナーシャリング3が、ハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転すると、遠心子4は、第1ガイド面221a上を転動する。
【0035】
遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第1ガイド面221aと転がり接触する面を第1接触面42aとする。また、遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第2ガイド面221bと転がり接触する面を第2接触面42bとする。この第1及び第2接触面42a、42bは、軸方向視において円弧状である。
【0036】
第1ガイド面221aと第2ガイド面221bとの距離は、遠心子4の直径と同じか、遠心子4の直径よりもわずかに大きいことが好ましい。第1ガイド面221aと第2ガイド面221bとの距離が遠心子4の直径よりもわずかに大きい場合、第1接触面42aが第1ガイド面221a上を転動するときに、第2接触面42bは第2ガイド面221bとすべり接触しない。また、第2接触面42bが第2ガイド面221b上を転動するときに、第1接触面42aは第1ガイド面221aとすべり接触しない。
【0037】
遠心子4は、中央部に第1貫通孔41を有する。第1貫通孔41は、遠心子4を軸方向に貫通している。第1貫通孔41の径は、カムフォロア52の径よりも大きい。詳細には、第1貫通孔41の径は、カムフォロア52の大径部521の径よりも大きい。この第1貫通孔41を画定する内壁面の一部は、カム面51を構成する。
【0038】
<カム機構5>
カム機構5は、遠心子4に作用する遠心力を受けて、その遠心力をハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成されている。なお、カム機構5は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに機能する。
【0039】
カム機構5は、カム面51とカムフォロア52とを有している。カム面51は、遠心子4に形成されている。詳細には、カム面51は、遠心子4の第1貫通孔41の内壁面の一部である。カム面51は、カムフォロア52が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。カム面51は、径方向外側を向いている。
【0040】
カムフォロア52は、カム面51と当接している。カムフォロア52は、遠心子4と一対のイナーシャリング3との間で力を伝達するように構成されている。詳細には、カムフォロア52は、第1貫通孔41内と第2貫通孔31内を延びている。カムフォロア52は、自転可能に、イナーシャリング3に取り付けられている。
【0041】
カムフォロア52は、第1貫通孔41のカム面51上を転動する。また、カムフォロア52は、第2貫通孔31の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア52は、第2貫通孔31の内壁面のうち、径方向内側を向く面と当接している。すなわち、カムフォロア52は、カム面51と、第2貫通孔31の内壁面とによって挟まれている。詳細には、カムフォロア52は、径方向内側においてカム面51と当接し、径方向外側において第2貫通孔31の内壁面と当接している。これによって、カムフォロア52は、位置決めされている。また、このようにカムフォロア52がカム面51と第2貫通孔31の内壁面とによって挟まれているため、カムフォロア52は、遠心子4と一対のイナーシャリング3との間で力を伝達する。
【0042】
カムフォロア52は、円柱状のコロとして構成されている。すなわち、カムフォロア52はベアリングではない。カムフォロア52は、大径部521と、一対の小径部522とを有している。大径部521と小径部522とは、互いの中心が一致している。大径部521は、小径部522よりも径が大きい。大径部521は、第1貫通孔41よりも径が小さく、第2貫通孔31よりも径が大きい。大径部521は、カム面51上を転動する。
【0043】
各小径部522は、大径部521から軸方向の両側に突出している。小径部522は、第2貫通孔31の内壁面上を転動する。小径部522は、第2貫通孔31よりも径が小さい。カムフォロア52は、一つの部材によって構成することができる。すなわち、カムフォロア52の大径部521と一対の小径部522とは一つの部材によって構成されている。なお、カムフォロア52は、径が一定の円柱状であってもよい。また、カムフォロア52は、円筒状であってもよい。
【0044】
カムフォロア52とカム面51との接触、及びカムフォロア52と第2貫通孔31の内壁面との接触によって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに、遠心子4に生じた遠心力は、回転位相差が小さくなるような円周方向の力に変換される。
【0045】
<ストッパ機構>
トルク変動抑制装置10は、ストッパ機構8をさらに備えている。ストッパ機構8は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲を規制する。ストッパ機構8は、第1凸部81と第2凸部82とを有する。
【0046】
第1凸部81は、イナーシャブロック33から径方向内側に突出している。第2凸部82は、ハブフランジ2から径方向外側に突出している。この第1凸部81と第2凸部82とが当接することによって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲を規制する。
【0047】
[トルク変動抑制装置の作動]
図6及び図7を用いて、トルク変動抑制装置10の作動について説明する。
【0048】
ロックアップオン時には、フロントカバー11に伝達されたトルクは、入力側回転体131及びダンパ132を介してハブフランジ2に伝達される。
【0049】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、図6に示すような状態で、ハブフランジ2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構5のカムフォロア52はカム面51のもっとも径方向内側の位置(円周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、ハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差は「0」である。
【0050】
前述のように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間の円周方向の相対変位量を、「回転位相差」と称しているが、これらは、図6及び図7では、遠心子4及びカム面51の円周方向の中央位置と、第2貫通孔31の中心位置と、のずれを示すものである。
【0051】
ここで、トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、図7に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間には、回転位相差θが生じる。
【0052】
図7に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差θが生じた場合、カム機構5のカムフォロア52は、図6に示す位置から図7に示す位置まで移動する。このとき、カムフォロア52は、カム面51上を転動しながら相対的に左側に移動する。また、カムフォロア52は、第2貫通孔31の内壁面上も転動している。詳細には、カムフォロア52の大径部521がカム面51上を転動し、カムフォロア52の小径部522が第2貫通孔31の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア52は、反時計回りに自転している。
【0053】
このカムフォロア52が左側に移動することによって、カムフォロア52がカム面51を介して遠心子4を径方向内側(図6及び図7の下側)に押圧し、遠心子4を径方向内側に移動させる。この結果、遠心子4は、図6に示す位置から図7に示す位置まで移動する。このとき、遠心子4は、収容部21の内壁面22上を転動しながら径方向内側に移動する。詳細には、遠心子4は、内壁面22の第1ガイド面221a上を転動する。遠心子4は、時計回りに自転している。
【0054】
このように図7の位置に移動した遠心子4には遠心力が作用しているので、遠心子4は径方向外側(図7の上側)に移動する。詳細には、遠心子4は、第1ガイド面221a上を転動して、径方向外側に移動する。なお、遠心子4は、反時計周りに自転する。
【0055】
そして、遠心子4に形成されたカム面51がカムフォロア52を介して、イナーシャリング3を図7の右側に押圧し、イナーシャリング3を図7の右側に移動させる。このとき、カムフォロア52の大径部521はカム面51上を転動し、カムフォロア52の小径部522は第2貫通孔31の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア52は、時計回りに自転している。この結果、図の状態に戻る。
【0056】
なお、逆方向に回転位相差が生じた場合は、カムフォロア52がカム面51に沿って相対的に図7の右側に移動するが、作動原理は同じである。このとき、遠心子4は、第2ガイド面221b上を転動する。
【0057】
以上のように、トルク変動によってハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じると、遠心子4に作用する遠心力及びカム機構5の作用によって、ハブフランジ2は、両者の回転位相差を小さくする円周方向の力を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。なお、カムフォロア52を介して、遠心子4とイナーシャリング3との間で力が伝達される。
【0058】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわちハブフランジ2の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム面51の形状によっても変化する。したがって、カム面51の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置10の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0059】
また、遠心子4は、第1又は第2ガイド面221a、221b上を転動することによって径方向に移動する。このため、遠心子4は、第1又は第2ガイド面221a、221b上を摺動するものに比べて、スムーズに径方向に移動することができる。また、カムフォロア52は、カム面51上及び第2貫通孔31の内壁面上を転動している。このため、よりスムーズに遠心子4とイナーシャリング3との間で力を伝達することができる。
【0060】
[特性の例]
図8は、トルク変動抑制装置10の特性の一例を示す図である。横軸は回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)である。特性Q1はトルク変動を抑制するための装置が設けられていない場合、特性Q2はカム機構を有さない従来のダイナミックダンパ装置が設けられた場合、特性Q3は本実施形態のトルク変動抑制装置10が設けられた場合を示している。
【0061】
この図8から明らかなように、カム機構を有さないダイナミックダンパ装置が設けられた装置(特性Q2)では、特定の回転数域のみについてトルク変動を抑制することができる。一方、カム機構5を有する本実施形態(特性Q3)では、すべての回転数域においてトルク変動を抑制することができる。
【0062】
[変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0063】
<変形例1>
遠心子4は、円板状でなくてもよい。例えば、図9に示すように、遠心子4は、第1及び第2接触面42a、42b以外の部分は、正面視において円弧状に形成されていなくてもよい。
【0064】
<変形例2>
カムフォロア52は、軸受部材を介して、第2貫通孔31に取り付けられていてもよい。
【0065】
<変形例3>
上記実施形態では、遠心子4をハブフランジ2に設けたが、遠心子4をイナーシャリング3に設けてもよい。この場合、イナーシャリング3が本発明の第1回転体に相当し、ハブフランジが本発明の第2回転体に相当する。
【0066】
<変形例4>
上記実施形態では、第1回転体の一例としてハブフランジ2を例示しているが、第1回転体はこれに限定されない。例えば、トルク変動抑制装置を本実施形態のようにトルクコンバータに取り付ける場合、トルクコンバータ100のフロントカバー11又は入力側回転体131などを第1回転体とすることができる。
【0067】
<変形例5>
上記実施形態では、トルク変動抑制装置10を、トルクコンバータ100に取り付けているが、クラッチ装置などの他の動力伝達装置にトルク変動抑制装置10を取り付けることもできる。
【0068】
例えば、図10に示すように、ダンパ装置101にトルク変動抑制装置10を取り付けることができる。このダンパ装置101は、例えば、ハイブリッド車に搭載される。ダンパ装置101は、入力部材141と、出力部材142と、ダンパ143と、トルク変動抑制装置10と、を備えている。入力部材141には駆動源からのトルクが入力される。ダンパ143は、入力部材141と出力部材142との間に配置されている。出力部材142は、ダンパ143を介して入力部材141からのトルクが伝達される。トルク変動抑制装置10は、例えば出力部材142に取り付けられている。
【符号の説明】
【0069】
2 ハブフランジ
21 収容部
3 イナーシャリング
31 第2貫通孔
4 遠心子
41 第1貫通孔
5 カム機構
51 カム面
52 カムフォロア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10