(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】糸状粘着体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20231031BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20231031BHJP
C09J 201/10 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/20
C09J201/10
(21)【出願番号】P 2019179184
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】水原 銀次
(72)【発明者】
【氏名】森下 裕充
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-231980(JP,A)
【文献】特開2018-044139(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056499(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状の芯材と、前記芯材の長手方向の表面を被覆する粘着剤層を含む糸状粘着体であって、
前記粘着剤層は非バイオマス由来成分を含み、
前記芯材はバイオマス由来成分を含み、
前記芯材がマルチフィラメント糸であり、
前記マルチフィラメント糸には30回/m~3000回/mの撚りがかけられており、
前記芯材に、2μlの水を滴下した直後に測定された当該水の接触角θ
0と、滴下から30秒経過後に測定された当該水の接触角θ
30との差(θ
0-θ
30)が20°以下である、糸状粘着体。
【請求項2】
前記マルチフィラメント糸はバイオマス由来成分を含まないフィラメントを含む、請求項1に記載の糸状粘着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状粘着体に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の貼り合わせの際に、液だれ防止等の要請から、基材と粘着剤層とを有する粘着体が用いられる場合がある。特に接着領域の細幅化や複雑形状化に対応可能な粘着体として、糸状の芯材の周面に粘着剤層を形成した糸状粘着体が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、持続可能な社会の実現のために環境負荷の低減が強く要請されており、糸状粘着体においてもバイオマス度の向上が求められている。
ここで、糸状粘着体のバイオマス度を向上させる方法としては、芯材のバイオマス度を向上させる方法と粘着剤層のバイオマス度を向上させる方法が考えられる。しかしながら、粘着剤層のバイオマス度を向上させると、粘着力の低下や製造コストの上昇を招く場合がある。したがって、糸状粘着体のバイオマス度の向上においては特に芯材のバイオマス度の向上が望まれる。
【0005】
特許文献1においては、バイオマス材料である綿糸を芯材として用いることが開示されている。
【0006】
しかしながら、綿糸を芯材として用いた場合、十分な粘着力を発現するためには多量の粘着剤を用いる必要があり、したがってバイオマス度を十分に向上させることができないことが、本発明者らの検討により明らかになった。
【0007】
本発明は上記にかんがみてなされたものであり、環境負荷が抑制された糸状粘着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する本発明の糸状粘着体は、糸状の芯材と、芯材の長手方向の表面を被覆する粘着剤層を含む糸状粘着体であって、粘着剤層は非バイオマス由来成分を含み、芯材はバイオマス由来成分を含み、芯材に、2μlの水を滴下した直後に測定された当該水の接触角θ0と、滴下から30秒経過後に測定された当該水の接触角θ30との差(θ0-θ30)が20°以下である。
本発明の糸状粘着体の一態様において、芯材がマルチフィラメント糸であってもよい。
本発明の糸状粘着体の一態様において、マルチフィラメント糸はバイオマス由来成分を含まないフィラメントを含んでもよい。
本発明の糸状粘着体の一態様において、マルチフィラメント糸には撚りがかけられていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の糸状粘着体は、環境負荷が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る糸状粘着体の長手方向に垂直な断面における断面図である。
【
図2】
図2は、θ
0及びθ
30の測定方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の糸状粘着体の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0012】
[糸状粘着体]
図1に、本発明の一実施形態に係る糸状粘着体10の長手方向に垂直な断面における断面図を示す。
本実施形態の糸状粘着体10は、糸状の芯材2と、芯材2の長手方向の表面を被覆する粘着剤層1を含む糸状粘着体である。
また、本実施形態において、粘着剤層は非バイオマス由来成分を含み、芯材はバイオマス由来成分を含む。
また、本実施形態において、芯材に、2μlの水を滴下した直後に測定された当該水の接触角θ
0と、滴下から30秒経過後に測定された当該水の接触角θ
30との差(θ
0-θ
30)が20°以下である。
【0013】
本明細書において糸状とは、長手方向の長さが幅方向の長さに対して十分に長く、長手方向に垂直な断面の形状(以下、「断面形状」ともいう)における短軸(断面形状の重心を通る軸のうち最短のもの)の長さに対する長軸(断面形状の重心を通る軸のうち最長のもの)の長さの割合(長軸/短軸)が、例えば200以下、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは10以下、よりさらに好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である形状であり、また、糸のように多様な方向、角度に曲げられうる状態であることを意味する。
【0014】
本明細書において、バイオマス由来成分とは、再生可能な有機資源由来の成分をいう。典型的には、太陽光と水と二酸化炭素とが存在すれば持続的な再生産が可能な生物資源に由来する成分のことをいう。したがって、採掘後の使用によって枯渇する化石資源に由来する成分(化石資源系材料)は除かれる。例えば、植物由来の成分はバイオマス由来成分である。
また、非バイオマス由来成分とはバイオマス由来成分以外の成分を言う。
【0015】
糸状粘着体のバイオマス度とは、糸状粘着体の総重量に対する、糸状粘着体に含まれるバイオマス由来成分の重量の割合であり、以下の式で算出される。また、芯材、及び粘着剤のバイオマス度についても同様であり、それぞれ以下の式で算出される。
糸状粘着体のバイオマス度[%]=100×(糸状粘着体に含まれるバイオマス由来成分の重量[g])/(糸状粘着体の総重量[g])
芯材のバイオマス度[%]=100×(芯材に含まれるバイオマス由来成分の重量[g])/(芯材の総重量[g])
粘着剤のバイオマス度[%]=100×(粘着剤に含まれるバイオマス由来成分の重量[g])/(粘着剤の総重量[g])
バイオマス度は、ASTM D6866-18に準拠して測定することができる。
【0016】
本発明者らは検討を重ね、糸状粘着体において綿糸を芯材として用いた場合、粘着剤が粘着性に寄与する芯材の外周面のみならず、芯材の内部にも染み込んで付着するため、十分な粘着力を発現するためには多量の粘着剤を用いる必要があることを見出した。上記の知見から、本発明者らは、バイオマス由来成分を含有し、かつ粘着剤が内部へ染み込みにくい芯材を用いて糸状粘着体を形成することにより、少ない粘着剤使用量で十分な粘着力を発現させることができ、高いバイオマス度が得られやすいことを見出した。
【0017】
芯材に対する粘着剤の染み込みやすさを評価する指標として、芯材に、2μlの水を滴下した直後に測定された当該水の接触角θ0と、滴下から30秒経過後に測定された当該水の接触角θ30との差(θ0-θ30)が挙げられる。当該接触角差が大きいほど、芯材に対して粘着剤が染み込みやすく、したがって十分な粘着力を確保するために多量の粘着剤が必要となり、バイオマス度を向上させにくくなる。
したがって、上記接触角差(θ0-θ30)は20°以下、好ましくは15°以下、より好ましくは10°以下、さらに好ましくは5°以下とする。なお、当該接触角差(θ0-θ30)の下限は特に限定されず、0°であってもよい。当該接触角差の測定方法の詳細な条件については、実施例の欄に記載する。
上記の接触角差(θ0-θ30)は、例えば芯材の材料を適宜変更することにより制御することができる。一般的には芯材が短繊維を多く含んだり、フィブリルが多かったりする場合や、空気を多く含む場合は接触角差(θ0-θ30)が大きくなりやすい。したがって、例えば芯材の材料として長繊維を多く含む糸やフィブリルの少ない糸を採用したり、芯材に撚りをかけたりすると小さくなる傾向がある。
【0018】
糸状粘着体のバイオマス度は、環境負荷の低減の観点からは好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは35%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは100%である。糸状粘着体のバイオマス度は、芯材及び/又は粘着剤層のバイオマス度を調整することにより調整できる。
一方、糸状粘着体のバイオマス度を向上させるために芯材や粘着剤層のバイオマス度を向上させすぎると、強度や柔軟性の低下、粘着力の低下、製造コストの上昇等といった問題を招く恐れがある。したがって、糸状粘着体のバイオマス度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下である。
【0019】
芯材は、糸状であり、バイオマス由来成分を含み、上記の接触角差(θ0-θ30)が20°以下であれば、その形態や材質等は特に限定されず、要求される強度、重量、硬さ等の性質に応じて適宜調整すればよい。
【0020】
芯材の断面形状は典型的には円形だが、円形の他にも、楕円形、多角形等、種々の形状をとりうる。
芯材の太さは特に限定されず、用途に応じて糸状粘着体の太さが適切になるように、粘着剤層の厚みとともに適宜調整すればよい。例えば糸状粘着体の太さが5~3000μmとなるようにする。
【0021】
芯材は単一のフィラメントからなるモノフィラメントであってもよく、複数本のフィラメントからなるマルチフィラメント糸であってもよく、また、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、中空糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸等であってもよい。
芯材がマルチフィラメント糸である場合、マルチフィラメント糸を構成するすべてのフィラメントがバイオマス由来成分を含んでいてもよいが、一部のフィラメントのみがバイオマス由来成分を含んでおり、他のフィラメントはバイオマス由来成分を含まなくてもよい。マルチフィラメント糸を構成する全フィラメントの本数に対する、バイオマス由来成分を含むフィラメントの本数の割合を調整することにより、バイオマス度、粘着剤の染み込みにくさ、強度等の諸特性を容易に調整できる。
また、バイオマス由来成分を含む糸は柔軟性が低い傾向があるが、芯材をマルチフィラメント糸とすることにより、これを構成するフィラメント1本ずつの細さは細くなり、柔軟性が向上する。したがって、柔軟性の向上の観点からもマルチフィラメント糸は好ましい。
マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの本数は特に限定されず、糸状粘着体の用途や所望の特性に応じて適宜調整すればよいが、例えば4本以上が好ましく、10本以上がより好ましく、15本以上がさらに好ましく、20本以上が特に好ましい。また、300本以下が好ましい。
【0022】
また、マルチフィラメント糸は撚りがかけられている撚糸であってもよく、かけられていない無撚糸であってもよい。芯材に対する粘着剤の染み込みをより一層抑制するためには、芯材は撚りがかけられたマルチフィラメント糸であることが好ましい。マルチフィラメント糸に撚りをかける場合の撚り数は特に限定されず0回/m超であればよいが、好ましくは30回/m以上、より好ましくは60回/m以上、さらに好ましくは90回/m以上である。一方、撚り数が多すぎると糸状粘着体の柔軟性が損なわれる恐れがあるため、好ましくは3000回/m以下、より好ましくは1500回/m以下、さらに好ましくは800回/m以下、特に好ましくは250回/m以下である。
【0023】
芯材は、バイオマス由来成分を含み、先述の接触角差(θ0-θ30)が20°以下であれば、これを構成する材料は特に限定されず、所望のバイオマス度、強度、重量、硬さ等に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
バイオマス由来成分を含む材料として、例えば、天然繊維が挙げられる。天然繊維としては、例えば麻などの植物繊維や、シルクやウールなどの動物繊維が挙げられる。
また、バイオマス由来成分を含む材料として、例えば、バイオマスプラスチックが挙げられる。バイオマスプラスチックは、バイオマス由来成分からなるものと、バイオマス由来成分及び化石資源由来成分からなるものに大別される。
バイオマス由来成分からなるバイオマスプラスチックとしては、例えばポリ乳酸、ポリエチレン(バイオPE)、ナイロン11(バイオPA11)、ナイロン1010(バイオPA1010)、ポリエチレンテレフタレート(バイオPET)等のポリエステル(バイオPEs)等が挙げられる。
バイオマス由来成分及び化石資源由来成分からなるバイオマスプラスチックとしては、例えばバイオマス由来成分を含むポリエチレンテレフタラート(バイオPET)、ポリブチレンサクシネート(バイオPBS)、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリアミド610、410、510、1012、10T、11T、MXD10(バイオPA610、410、510、1012、10T、11T、MXD10)、ポリカーボネート(バイオPC)、ポリウレタン(バイオPU)、芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリ乳酸ブレンド・PBAT、スターチブレンド・ポリエステル樹脂等が挙げられる。
芯材に粘着剤を染み込みにくくするという観点からは、水分が含侵しにくいポリエステルやポリエチレンが特に好ましい。
【0025】
環境負荷の低減の観点からは、芯材のバイオマス度は、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは100%である。
一方、芯材のバイオマス度を向上させすぎると、強度や柔軟性の低下、粘着力の低下、製造コストの上昇等といった問題を招く恐れがある。したがって、芯材のバイオマス度は、好ましくは95%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0026】
芯材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤など)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加剤が配合されていてもよい。芯材の表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。
【0027】
なお、芯材を備える糸状粘着体において芯材は必ずしもその周面の全体が粘着剤層により被覆されている必要はなく、本発明の効果を奏する限りにおいて、部分的に粘着剤層を備えない部分を有してもよい。また、芯材の端面は粘着剤層によって被覆されていてもいなくともよい。例えば、粘着体が製造過程や使用時に切断されるような場合には、芯材の端面は粘着剤層によって被覆されないことがありうる。
【0028】
粘着剤層は、例えば芯材の表面に粘着剤組成物をディッピング、浸漬、塗布等により塗工し、必要に応じて加熱乾燥させることにより得ることができる。粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。
【0029】
粘着剤組成物の種類は、非バイオマス材料を含めば特に限定されない。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、エポキシ系粘着剤などを使用することができる。中でも、粘着性の点から、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤が好ましく、特にアクリル系粘着剤が好ましい。なお、粘着剤組成物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
アクリル系粘着剤は、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これらに必要によりアクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルピロリドン、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミドなどの改質用単量体を加えてなる単量体の重合体を主剤としたものである。
【0031】
ゴム系粘着剤は、天然ゴム、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴムなどのゴム系ポリマーを主剤としたものである。
【0032】
また、これら粘着剤組成物にはロジン系、テルペン系、スチレン系、脂肪族石油系、芳香族石油系、キシレン系、フエノール系、クマロンインデン系、それらの水素添加物などの粘着付与樹脂や、架橋剤、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の各種の添加剤を適宜配合できる。
【0033】
なお、粘着剤組成物もバイオマス由来成分を含んでいてもよい。しかしながら、粘着剤組成物のバイオマス度が高すぎると粘着力の低下や製造コストの上昇を招く場合がある。したがって、粘着剤層のバイオマス度は芯材のバイオマス度より小さくする。
【0034】
なお、粘着剤としては、溶剤型の粘着剤と水分散型の粘着剤のいずれのタイプも使用することができる。ここで、高速塗工が可能であり、環境にやさしく、溶剤による芯材への影響(膨潤、溶解)が少ない面からは、水分散型の粘着剤が好ましい。
【0035】
糸状粘着体においては粘着力の観点からは芯材に多くの粘着剤が付着していることが好ましく、具体的には粘着剤の付着量(単位長さ当たりの粘着剤層の重量)は2mg/m以上が好ましく、5mg/m以上がより好ましく、8mg/m以上がさらに好ましい。一方粘着剤の付着量が過剰であると、製造工程において芯材に粘着剤を複数回塗布する必要があったり、塗布した粘着剤の乾燥に時間がかかったりするため、製造効率が低い。また、バイオマス度を向上させにくい。したがって粘着剤の付着量は200mg/m以下が好ましく、180mg/m以下がより好ましく、160mg/m以下がさらに好ましい。
【0036】
糸状粘着体は、その使用時まで粘着剤層の表面にセパレーターを備え、粘着面が保護されていてもよいが、セパレーターは糸状粘着体の使用時に廃棄されるため、環境負荷低減の観点からはセパレーターを備えないことが好ましい。
【0037】
糸状粘着体は、細幅の部材や幅の狭い領域にもはみ出しを抑えながら貼り付け可能であり、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状にも適用させやすく、また、易解体(リワーク)可能な点においても好ましい。
例えば、糸状粘着体は電子機器の製造における物品の固定に好適に用いることができ、携帯電話やスマートフォン等の携帯端末の狭額縁の固定等に適用できる。
【0038】
また、例えば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分を有する被着体に粘着テープを貼り付けようとすると、かかる部分において粘着テープにしわや重なりが生じてしまい、はみ出しを抑えて綺麗に貼り付けることは困難であり、また、しわや重なりの生じた部分は粘着力が低下する要因ともなるおそれがある。また、しわや重なりを生じないようにしながら粘着テープを貼り付けるには、粘着テープを細かく切断しながら貼り付けることも考えられるが、作業性が大幅に悪化することとなる。一方、糸状粘着体であれば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分に貼り付ける際にも、しわや重なりを生じることなく強固に貼り付けることができる。さらに、かかる糸状粘着体は、貼り付けたい部分に、一度に、すなわち一工程で貼り付け可能であることから、作業性にも優れ、自動化ラインにも適用可能である。
具体的には、糸状粘着体は例えば、電線や光ファイバー等のケーブル、LEDファイバーライト、FBG(Fiber Bragg Gratings、ファイバブラッググレーティング)等の光ファイバセンサ、糸、紐、ワイヤ等の各種線材(線状部材)や、細幅の部材を、所望の形態で固定する用途に好適に使用することができる。線材や細幅の部材を複雑な形状で他の部材に固定するような場合においても、糸状粘着体であれば、線材や細幅の部材の有すべき複雑な形状にあわせて、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら、優れた作業性で強固に固定することができる。なお、線材や細幅の部材を他の部材に固定する場合においては、他の部材の表面における線材や細幅の部材が固定されるべき形態にあわせて糸状粘着体を予め貼り付けた後に、他の部材表面に貼付された糸状粘着体にあわせて線材や細幅の部材を貼り合わせて固定することができる。あるいは、糸状粘着体を線材や細幅の部材に貼り付けた後に、線材や細幅の部材を所望の形態で他の部材に固定してもよい。
【0039】
また、糸状粘着体は、一の物品を他の物品の表面に仮固定(仮止め)するための、物品の仮固定(仮止め)用途にも好適に用いることができる。より具体的には、糸状粘着体は、例えば、衣服、靴、鞄、帽子等の繊維製品や皮革製品等を製造する際の仮固定(仮止め)用途に用いることができる。ただし、その用途はこれに限定されるものではなく、仮固定(仮止め)が所望される各種用途に好適に用いられる。
例えば、一の物品を他の物品の表面に固定する際に、該一の物品を該他の物品の表面に糸状粘着体を用いて予め仮固定させて位置決めした後に、両物品を熱圧着や縫製等の固定方法により固定(本固定)する。この場合において、糸状粘着体であれば、両物品間に設けられる固定部を避けて仮固定することが容易である。例えば、繊維製品や皮革製品を縫製する場合において、糸状粘着体により仮固定を行えば、縫製部分を避けて仮固定することが容易であり、粘着剤の針への付着を容易に防止できる。
また、糸状粘着体であれば、上述したように、両物品の形状が曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状であっても、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら良好に貼り付けでき、しかも一工程で貼り付け可能であり、作業性が良好である。
また、例えば、繊維製品ないし皮革製品を構成する生地、布、皮革等といった変形しやすい部材であっても、糸状粘着体による仮固定を行うことにより、引張による部材の変形が抑制ないし防止でき、固定(本固定)後の意匠性が良好となる。
さらには、糸状粘着体であれば、両物品の固定(本固定)後に、必要に応じて固定(本固定)された両物品間から糸状粘着体を抜き取り除去することも容易である。このようにすれば、粘着剤のはみ出しが防止でき、残存する粘着剤の経時的な変色に由来する意匠性の劣化を良好に防止できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0041】
<例1~4の芯材の製造>
(例1)
非バイオマス由来のPETからなるフィラメント48本に撚りをかけずにまとめてマルチフィラメント糸(太さ280dtex)として、例1の芯材を得た。
(例2)
非バイオマス由来のPETからなるフィラメント48本に150回/mの撚りをかけてまとめてマルチフィラメント糸(太さ280dtex)として、例2の芯材を得た。
(例3)
バイオマス由来のナイロン(ナイロン610、バイオマス度約60%)からなるフィラメント80本に撚りをかけずにまとめてマルチフィラメント糸(太さ264dtex)として、例3の芯材を得た。
(例4)
40番手双糸の綿糸を例4の芯材とした。
【0042】
<芯材の評価>
図2に示すように、2枚の厚み2cmのアクリル板3を、3cmの隙間を開けて並べ、これらのアクリル板の上面に、当該隙間をまたぐように各例の芯材2をまっすぐ伸ばしてテープ4で貼付した。次いで、隙間をまたぐ芯材の上に2μlの水を滴下し、滴下直後の水の接触角θ
0、及び30秒経過後の水の接触角θ
30を、接触角計(協和界面科学株式会社製、製品名「DropMaster」)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
例1及び2の芯材は、θ0-θ30は小さく、粘着剤が染み込みにくいと考えられるが、バイオマス由来成分を含まないので、これらの芯材を用いても、バイオマス度が高く環境負荷が抑制された糸状粘着体は得られないと考えられる。なお、例1の芯材を撚糸としたものが例2の芯材だが、これらを対比すると、撚糸とすることによりθ0-θ30が小さくなることが確認された。
例4の芯材は、天然繊維である綿糸であり芯材のバイオマス度は高いが、θ0-θ30が大きく、粘着剤が染み込みやすいと考えられるため、この芯材を用いてもバイオマス度が高く環境負荷が抑制された糸状粘着体は得られないと考えられる。
例3の芯材は、バイオマス由来のナイロンからなるのでバイオマス度が高く、かつ、θ0-θ30が小さく、粘着剤が染み込みにくいと考えられる。したがって、例3の芯材を用いれば、バイオマス度が高く環境負荷が抑制された糸状粘着体が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
10 糸状粘着体
1 粘着剤層
2 芯材
3 アクリル板
4 テープ