(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】分岐脂肪酸の代謝制御方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20231031BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C12N1/20 Z
C12N1/16 Z
(21)【出願番号】P 2019212465
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】雉鳥 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 啓文
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-078987(JP,A)
【文献】特開2018-052980(JP,A)
【文献】特開2012-127012(JP,A)
【文献】特表平07-509470(JP,A)
【文献】国際公開第94/002108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物に、(a)下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(a)成分という〕と(b)脂肪酸合成酵素の阻害剤〔以下、(b)成分という〕を接触させて、当該微生物の分岐脂肪酸の代謝を
抑制する、分岐脂肪酸の代謝
抑制方法。
RO-(C
2H
4O)
n-H (1)
〔式中、Rは、炭素数9以上16以下の直鎖脂肪族炭化水素基であり、nは0又は1である。〕
【請求項2】
(a)成分と微生物が接触しない場合の微生物の生菌数の対数値(1)と、(a)成分と微生物が接触した場合の微生物の生菌数の対数値(2)との差である、対数値(1)-対数値(2)が-1以上2未満である、請求項1に記載の分岐脂肪酸の代謝
抑制方法。
【請求項3】
分岐脂肪酸の存在下で(a)成分と(b)成分とを微生物に接触させる、請求項1又は2に記載の分岐脂肪酸の代謝
抑制方法。
【請求項4】
前記微生物の分岐脂肪酸の代謝がβ酸化である、請求項1~3の何れかに記載の分岐脂肪酸の代謝
抑制方法。
【請求項5】
(a)下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物及び(b)脂肪酸合成酵素の阻害剤を含有する、微生物における分岐脂肪酸の代謝
抑制剤。
RO-(C
2H
4O)
n-H (1)
〔式中、Rは、炭素数9以上16以下の直鎖脂肪族炭化水素基であり、nは0又は1である。〕
【請求項6】
前記微生物の分岐脂肪酸の代謝がβ酸化である、請求項5に記載の分岐脂肪酸の代謝
抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐脂肪酸の代謝制御方法に関する。
本発明は、例えば生物学、生化学、生理科学、消費者使用製品の分野において、分岐脂肪酸の代謝を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば消費者使用製品の分野では、近年、消費者の生活環境への関心の高まりから、身の回りの不快臭の低減又は除去が望まれている。下着、タオル及びハンカチ等の人の皮膚と直接接触するような繊維製品、又は皮脂を含んだ汗や角質などを吸収若しくはこれらが付着する可能性のある繊維製品は、特有の臭いを生ずることがある。
【0003】
これまでに、不快臭の原因物質を生成する原因菌(微生物)の細胞内で起こる、不快臭の原因物質への代謝反応を制御することで、臭いの生成を抑制する方法が検討されてきた。
例えば、特許文献1には、皮脂汚れ成分が生乾き臭原因物質の1種である4-メチル-3-ヘキセン酸への変換されるのを抑制する剤として、特定の構造を有するケトン化合物が開示されている。
また、特許文献2には、β-グルコニダーゼの活性を阻害し、尿臭の生成を抑制する剤として、特定の構造を有する大環状ケトン化合物が開示されている。
さらに、安息香酸などの特定の構造を有する有機カルボン酸を使用し、微生物を殺菌することで臭いの生成を抑制する技術も知られている。
【0004】
また、微生物制御方法の一つとして、微生物バイオフィルムの生成抑制に関して、特許文献3には、炭素数8~14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有する特定のアルコール又はそのEO付加物を、特定濃度で微生物と接触させる、バイオフィルムの生成抑制方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-127012号公報
【文献】国際公開第2009/037861号
【文献】特開2009-078987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、消費者使用製品における課題は次の通りである。種々の微生物が分岐脂肪酸を基質とする代謝により不快臭の原因物質を生成することが知られている。そのような微生物を殺菌して不快臭を抑制することは可能であるが、環境や身体などに存在する有用菌も殺菌してしまうおそれがある。すなわち、環境との共存や健常な肌の維持の観点から、とりわけ微生物を殺菌することなく、不快臭生成の抑制の検討が必要な場合がある。
【0007】
そこで本発明は、微生物内での分岐脂肪酸の代謝を制御する方法、そして分岐脂肪酸の代謝による生成物の生成量を制御する、分岐脂肪酸の代謝制御方法を提供することを課題とする。
例えば、消費者使用製品の分野において、本発明は、不快臭の原因となる微生物を殺菌することなく、微生物が分岐脂肪酸を基質とする代謝により不快臭の原因物質を生成することを制御できる、分岐脂肪酸の代謝制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、微生物に、(a)下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物〔以下、(a)成分という〕と(b)脂肪酸合成酵素の阻害剤〔以下、(b)成分という〕を接触させて、当該微生物の分岐脂肪酸の代謝を制御する、分岐脂肪酸の代謝制御方法に関する。
RO-(C2H4O)n-H (1)
〔式中、Rは、炭素数9以上16以下の直鎖脂肪族炭化水素基であり、nは0又は1である。〕
【0009】
また、本発明は、(a)前記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物及び(b)脂肪酸合成酵素の阻害剤を含有する、微生物における分岐脂肪酸の代謝制御剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法又は代謝制御剤によれば、分岐脂肪酸の微生物内での代謝の程度を制御することができる。とりわけ、分岐脂肪酸の微生物内でのβ酸化の程度、又は分岐脂肪酸の微生物内への取り込みの程度を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
必ずしも限定されるものではないが、分岐脂肪酸の代謝制御方法又は代謝制御剤による、分岐脂肪酸の代謝制御の機構について、本発明者は、以下の様に考えている。
分岐脂肪酸は、微生物の細胞膜を通過する工程と、細胞膜内に取り込まれた分岐脂肪酸がβ酸化により代謝され代謝生成物を生成する工程とを経て代謝されると考えられる。(a)成分である前記一般式(1)で表される化合物は、対応する脂肪酸よりも速く微生物内に取り込まれることが考えられる。取り込まれた前記一般式(1)で表される化合物は、菌体内でアルコールデヒドロゲナーゼによる酸化、次いでアシルCoAシンセターゼによる修飾を受け、前記一般式(1)に対応する脂肪酸-CoAへ変換される。生成した脂肪酸-CoAが、脂肪酸の代謝・合成酵素の転写調節タンパクであるFadRへ作用し、菌体外に存在する分岐脂肪酸の微生物内への取り込み、そして代謝を抑制していると考えている。一般式(1)で表される化合物の微生物内への取り込みと代謝の制御により、分岐脂肪酸の代謝が制御されることは、従来、当業界では知られていなかった。しかしながら、FadRが活性化されると、脂肪酸伸長酵素が活性化される為に、微生物内で長鎖脂肪酸が生成し、長鎖脂肪酸の量が増加する。生成した長鎖脂肪酸は、FadRの不活化因子となるため、FadRが不活化し、菌体外脂肪酸の取込・代謝を開始してしまう。本発明の(b)成分である、脂肪酸合成酵素の阻害剤が、脂肪酸合成酵素の反応を阻害し、FadRの不活化を防ぐため、本発明の(a)成分の効果が高まる。微生物の代謝を制御する方法として、例えば微生物の数を減少させて、分岐脂肪酸の代謝を低下させる方法が一般的に考えられる。しかしながら、本発明のように、微生物の数を実質維持しつつ、微生物内の分岐脂肪酸の代謝の度合いを調整できる方法は知られていなかった。
また、分岐の脂肪族アルコールのように直鎖の炭化水素基を持たない化合物は、直鎖の炭化水素基を持つ前記一般式(1)で表される化合物、例えば直鎖の脂肪族アルコールよりも、菌体内での酸化工程から脂肪酸-CoAの生成工程が起こりにくく、分岐脂肪酸の微生物内への取り込みや代謝を十分に制御できないものと推定している。
【0012】
<(a)成分>
本発明の方法で用いる(a)成分は、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
RO-(C2H4O)n-H (1)
〔式中、Rは、炭素数9以上16以下の直鎖脂肪族炭化水素基であり、nは0又は1である。〕
【0013】
(a)成分は市販のものを用いてもよい。あるいは、アルコールやエーテルを製造する通常の方法で(a)成分を合成することもできる。(a)成分は2種以上を用いてもよい。
【0014】
一般式(1)中、Rは、炭素数9以上16以下の直鎖脂肪族炭化水素基であり、分岐脂肪酸の代謝をより制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、好ましくは炭素数10以上であり、より好ましくは炭素数11以上であり、更に好ましくは炭素数12以上であり、そして同じ観点から、好ましくは炭素数15以下であり、より好ましくは炭素数14以下である。直鎖脂肪族炭化水素基は、直鎖アルキル基が好ましく、直鎖第1級アルキル基が好ましい。
一般式(1)中、分岐脂肪酸の代謝をより制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、nは0が好ましい。
【0015】
(a)成分の質量当たりの分岐脂肪酸の代謝制御効果、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、前記(a)成分中の、Rが炭素数12又は13である化合物の割合は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上であり、より更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、より更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、より更に好ましくは97質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、100質量%であってよい。
【0016】
(a)成分の質量当たりの分岐脂肪酸の代謝制御効果、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、前記(a)成分中の、Rが炭素数9以上16以下の直鎖飽和脂肪族炭化水素基である化合物の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上であり、より更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、より更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、より更に好ましくは97質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、100質量%であってよい。
【0017】
前記Rは、分岐脂肪酸の代謝を制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、炭素数12又は13の直鎖飽和脂肪族炭化水素基から選ばれる1種以上の基が好ましい。
(a)成分の質量当たりの分岐脂肪酸の代謝制御効果、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、前記(a)成分中の、Rが炭素数12又は13の直鎖飽和脂肪族炭化水素基である化合物の含有割合は、好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上であり、より更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、より更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、より更に好ましくは97質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、100質量%であってよい。
【0018】
前記一般式(1)において、nが0である(a)成分の具体的な化合物の例としては、1-ノニルアルコール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ペンタデカノール及び1-ヘキサデカノールから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。分岐脂肪酸の代謝を制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、(a)成分は、好ましくは1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール及び1-ペンタデカノールから選ばれる1種以上の化合物であり、より好ましくは1-ドデカノール、1-トリデカノール及び1-テトラデカノールから選ばれる1種以上の化合物であり、(a)成分は、更に好ましくは1-ドデカノール及び1-トリデカノールから選ばれる1種以上の化合物である。また、より低い量で分岐脂肪酸の代謝を制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、(a)成分は、好ましくは1-ドデカノール及び1-トリデカノールから選ばれる1種以上の化合物であり、より好ましくは1-ドデカノールである。
【0019】
前記一般式(1)において、nが1である(a)成分の具体例としては、エチレングリコールモノ-1-ドデシルエーテル、エチレングリコールモノ-1-トリデシルエーテル及びエチレングリコールモノ-1-テトラデシルエーテルから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。分岐脂肪酸の代謝を制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝を抑制する観点から、前記一般式(1)において、nが1である(a)成分は、好ましくはエチレングリコールモノ-1-ドデシルエーテル及びエチレングリコールモノ-1-トリデシルエーテルから選ばれる1種以上の化合物であり、より好ましくはエチレングリコールモノ-1-ドデシルエーテルである。
【0020】
<(b)成分>
(b)成分は脂肪酸合成酵素の阻害剤である。微生物の細胞内の脂肪酸は、脂肪酸合成酵素により生体内で合成される場合がある。脂肪酸合成酵素には一般的に、細胞質に存在するタイプ1(FAS-I)と、ミトコンドリアに存在するタイプ2(FAS-II)が知られている。様々な化合物が脂肪酸合成酵素を阻害することが分かっており、本発明での使用に関し好適である。脂肪酸合成酵素の阻害剤を選択することは当業者の技術範囲内である。脂肪酸合成酵素を阻害する化合物は、精製脂肪酸合成酵素を用いてその化合物の脂肪酸合成酵素活性阻害能力を試験することで同定できる。例えば,Dilsら(1975年)Meth.Enzymol.35巻、p.74~83、に記載の方法で同定できる。脂肪酸合成酵素の阻害剤は、例えば国際特許出願公開WO94/02108号に例示されている。
【0021】
(b)成分として、好ましい化合物は、下記(b1)成分、(b2)成分、(b3)成分及び(b4)成分から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
(b1)成分:ジフェニルエーテル基を有する化合物
(b2)成分:チオラクトマイシン又はチオラクトマイシン誘導体
(b3)成分:セルレニン又はセルレニン誘導体
(b4)成分:α-メチレン-γ-ブチロラクトン又はα-メチレン-γ-ブチロラクトン誘導体
より低い量で分岐脂肪酸の代謝抑制効果が得やすい観点から、(b1)成分が好ましい。
【0022】
〔(b1)成分〕
(b1)成分は、ジフェニルエーテル基を有する化合物である。脂肪酸合成酵素の阻害効果がより高い観点から、好ましい(b1)成分は、フェニル基の水素原子の少なくとも一つ以上が、水酸基を有する化合物であり、より好ましくは、フェニル基の水素原子の二つ以上が、水酸基及びクロロ基を有する化合物であることが好ましい。より具体的な(b1)成分としては、4-4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(ジクロサン)及び2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0023】
〔(b2)成分〕
(b2)成分は、チオラクトマイシン又はチオラクトマイシン誘導体である。チオラクトマイシン誘導体はチオラクトマイシンと構造的に関連しており、そして少なくとも測定可能量の脂肪酸合成酵素の阻害活性を保持している化合物を意味する。チオラクトマイシン又はチオラクトマイシン誘導体の非限定的な例としては、Wangら(1984年)Tetrahdron Lett.25巻、5243~5246ページ、Oishiら(1982年)J.Antibiotics 35巻、391~395ページおよびKremerら(2000年)、J.Bio.Chem.275巻、16857~16864ページに記載されている。
【0024】
〔(b3)成分〕
(b3)成分は、セルレニン又はセルレニン誘導体である。構造的には[2R,3S]-2,3-エポキシ-4-オキソ-7,10-trans,trans-ドデカン酸アミドとして特徴づけられる。セルレニン誘導体は、セルレニンと構造的に関連しており、そして少なくとも測定可能量の脂肪酸合成酵素の阻害活性を保持している化合物を意味する。セルレニンおよびセルレニン誘導体の例としては、Morisakiら(1992年)Chem.Pharm.Bull.40巻、2945~2953ページ、Shimazawaら(1992年)Chem.Pharm.Bull.40巻、2954~2957ページ、および米国特許第5539132号に記載のものが挙げられる。
アルコール
〔(b4)成分〕
(b4)成分は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン又はα-メチレン-γ-ブチロラクトン誘導体である。α-メチレン-γ-ブチロラクトン誘導体は、それぞれのα-メチレン-γ-ブチロラクトンと構造的に関連しており、そして少なくとも測定可能量の脂肪酸合成酵素の阻害活性を有している化合物を意味する。α-メチレン-γ-ブチロラクトン誘導体は、例えば、米国特許第5981575号に記載のものが挙げられる。
【0025】
(b)成分は、前記(b1)成分、及び(b3)成分から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、前記(b1)成分から選ばれる1種以上の化合物がより好ましい。(b)成分は、より具体的には、4-4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(ジクロサン)、2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)及びセルレニンから選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0026】
<微生物>
本発明の対象とする微生物は分岐脂肪酸の代謝能を有する微生物であり、それらは環境中に存在する一般的な微生物に見出すことができる。例えば、嫌気性細菌、好気性細菌及び酵母から選ばれる1種以上の微生物が挙げられる。
【0027】
本発明は、環境中に存在する一般的な微生物に対して用いることができる。微生物としては、例えば、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌及び酵母から選ばれる1種以上の微生物が挙げられる。
【0028】
グラム陰性菌として、モラクセラ(Moraxella)属細菌、アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌、シェードモナス(Pseudomonas)属細菌、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌、ラルストニア(Ralstonia)属細菌、キュープリアビダス(Cupriavidus)属細菌、サイクロバクター(Psychorobacter)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、ブルクホルデリア(Burkholderia)属細菌、が挙げられる。
【0029】
モラクセラ(Moraxella)属細菌としては、例えばモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)、モラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)が挙げられる。アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌として、アシネトバクター・レイディオレジステンス(Acinetobacter radioresistens)、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)が挙げられる。シェードモナス(Pseudomonas)属細菌としては、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)が挙げられる。スフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌としては、スフィンゴモナス・ヤノイクヤエ(Sphingomonas yanoikuyae)が挙げられる。ラルストニア(Ralstonia)属細菌としては、ラルストニア・エスピー(Ralstonia sp.)が挙げられる。キュープリアビダス(Cupriavidus)属細菌としては、キュープリアビダス・オキサラティカス(Cupriavidus oxalaticus)が挙げられる。
【0030】
サイクロバクター(Psychorobacter)属細菌としては、サイクロバクター・パシフィセンシス(Psychrobacter pacificensis)、サイクロバクター・グラシンコラ(Psychrobacter glacincola)が挙げられる。セラチア(Serratia)属細菌としては、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)が挙げられる。エシェリキア(Escherichia)属細菌としては、エシェリキア・コーライ(Escherichia coli)が挙げられる。ブルクホルデリア(Burkholderia)属細菌としては、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)が挙げられる。
【0031】
グラム陽性菌として、バチルス(Bacillus)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、マイクロコッカス(Micrococcus)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌が挙げられる。
【0032】
バチルス(Bacillus)属細菌としては、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)が挙げられる。スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌としては、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)が挙げられる。マイクロコッカス(Micrococcus)属細菌としては、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、マイクロコッカス・ライレ(Micrococcus lylae)、マイクロコッカス・アロエベラ(Micrococcus aloeverae)が挙げられる。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌としては、コリネバクテリウム・キセロシス(Corynebacterium xerosis)が挙げられる。
【0033】
酵母として、サッカロマイセス(Saccaromyces)属酵母、及びロドトルラ(Rhodotorula)属酵母等が挙げられる。
【0034】
サッカロマイセス(Saccaromyces)属酵母としては、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccaromyces cerevisiae)が挙げられる。ロドトルラ(Rhodotorula)属酵母としては、ロドトルラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)、ロドトルラ・スルーフィエ(Rhodotorula slooffiae)が挙げられる。
【0035】
<分岐脂肪酸>
本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法は、微生物の代謝系において、脂肪酸合成系の代謝に適用することができる。例えば、本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法は、微生物による分岐脂肪酸のβ酸化を抑制する方法であってよい。生体内でのβ酸化は、脂肪酸代謝において脂肪酸を酸化して脂肪酸アシルCoAを生成し、アセチルCoAを取り出す代謝経路であり、脂肪酸代謝の3つのステージ(β酸化、クエン酸回路、電子伝達系)の最初の段階に該当する。
【0036】
分岐脂肪酸としては、例えば、炭素数9以上21以下の分岐脂肪酸が挙げられる。本発明の効果がより得られる観点から、分岐脂肪酸の炭素数は、好ましくは11以上であり、より好ましくは13以上であり、更に好ましくは15以上であり、より更に好ましくは17以上であり、そして同じ観点から、より好ましくは19以下である。また、本発明の効果がより得られる観点から、分岐脂肪酸は、好ましくは炭素数11以上21以下の飽和又は不飽和の分岐脂肪酸であり、より好ましくは炭素数13以上19以下の飽和又は不飽和の分岐脂肪酸であり、より更に好ましくは炭素数15以上19以下の飽和又は不飽和の分岐脂肪酸である。
【0037】
分岐脂肪酸としては、例えば、10-メチル脂肪酸、イソ脂肪酸及びアンテイソ脂肪酸から選ばれる1種以上の分岐脂肪酸が挙げられる。
また、分岐脂肪酸としては、分岐鎖としてメチル基を1つ以上有する分岐脂肪酸が挙げられる。
【0038】
10-メチル脂肪酸としては、総炭素数が15以上18以下の10-メチル脂肪酸が挙げられる。具体的には、10-メチルペンタデカン酸、10-メチルヘキサデカン酸、1-メチルヘプタデカン酸、10-メチルオクタデカン酸が挙げられる。
【0039】
イソ脂肪酸とは、脂肪酸のω端の1つ前、すなわちω-1の炭素にメチルの枝別れがついた脂肪酸として知られている。イソ脂肪酸としては、総炭素数10以上24以下の炭素数を有するイソ脂肪酸が挙げられる。本発明の代謝制御方法でより制御されやすい観点で、総炭素数12以上18以下の炭素数を有するイソ脂肪酸が挙げられる。
【0040】
アンテイソ脂肪酸は、末端メチル基から数えて3番目の炭素にメチル基が置換したアンテイソ型の分岐脂肪酸として知られている。アンテイソ脂肪酸としては、総炭素数9以上23以下の炭素数を有するアンテイソ脂肪酸が挙げられる。本発明の代謝制御方法でより制御されやすい観点で、総炭素数13以上21以下の炭素数を有するアンテイソ脂肪酸が挙げられる。
【0041】
アンテイソ脂肪酸としては、より具体的には、6-メチルオクタン酸、8-メチルデカン酸、12-メチルテトラデカン酸、14-メチルヘキサデカン酸、16-メチルオクタデカン酸、14-メチルヘキサデセン酸、16-メチルオクタデセン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の分岐脂肪酸が挙げられる。
【0042】
分岐脂肪酸は塩であってよく、塩としては、アルカリ金属塩、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばマグネシウム塩、カルシウム塩から選ばれる1種以上の塩が挙げられる。
【0043】
<分岐脂肪酸の代謝制御方法>
分岐脂肪酸の代謝とは、微生物内において、別の化合物に変換される工程を意味する。代謝には、分岐脂肪酸が微生物に取り込まれる工程や、取り込まれた分岐脂肪酸が、例えばβ酸化により代謝され、各種化合物を生成する工程も含まれる。例えば、炭素数17のアンテイソ脂肪酸が微生物内に取り込まれ、代謝されると、系中の分岐脂肪酸の量は低減して、別の化合物に変換される。炭素数17のアンテイソ脂肪酸が微生物内で代謝されると、例えば、4-メチル-3-ヘキセン酸(以下、4M3Hともいう)、4-メチルヘキサン酸(以下、4MHともいう)、2-メチル酪酸(以下、2MBAともいう)などが代謝物として生成される。4M3Hには、下記に示すようにシス体、トランス体が存在するが、本発明においては、そのいずれの構造の化合物も包含する。4M3H、4MH及び2MBAは、いずれも不快臭の原因物質として知られている。
【0044】
【0045】
また、炭素数15のイソ脂肪酸が微生物内で代謝されると、例えばイソ吉草酸などが代謝物として生成される。
【0046】
次に、本発明の代謝制御方法について説明する。
本発明の代謝制御方法は、微生物に、(a)成分及び(b)成分を接触させて、当該微生物の分岐脂肪酸の代謝を制御するものである。
【0047】
微生物と(a)成分及び(b)成分の接触時間は、微生物の代謝を制御する程度によって適宜決めることができる。微生物の代謝の制御をより大きくする観点から、接触時間は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以上であり、更に好ましくは10分以上であり、より更に好ましくは30分以上であり、より更に好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは72時間以下であり、より好ましくは48時間以下であり、更に好ましくは24時間以下である。本発明では、(a)成分及び(b)成分の一方を微生物に接触させた後、(a)成分及び(b)成分の他方を微生物に接触させてもよいが、(a)成分及び(b)成分が共存する状態で前記範囲の接触時間となることが好ましい。
【0048】
本発明の代謝制御方法では、微生物、(a)成分、(b)成分及び水を接触させることが好ましい。すなわち、本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法は、(a)成分と(b)成分と水と微生物が接触する方法に適用することができる。それぞれが接触する順番は制限されない。微生物、(a)成分、(b)成分及び水を接触させる方法としては、例えば、
(I)(a)成分、(b)成分及び水を含む組成物と、微生物とを接触させる方法、
(II)水及び微生物を含む混合物と、(a)成分及び(b)成分を含む混合物とを接触させる方法、
(III)(a)成分と(b)成分と微生物が存在する部位に水を接触させる方法、
(IV)水及び微生物を含む混合物と、(a)成分と(b)成分を別々又は同時に接触させる方法、
(V)(a)成分及び水を含む組成物と、微生物と(b)成分とを別々又は同時に接触させる方法、
(VI)(b)成分及び水を含む組成物と、微生物と(a)成分とを別々又は同時に接触させる方法、
などが挙げられる。
【0049】
前記(I)の方法の例としては、例えば(a)成分と(b)成分と水を含む組成物を微生物に対して噴霧又は塗布する方法、(a)成分と(b)成分と水を含む組成物に微生物を浸漬する方法が挙げられる。組成物を噴霧する方法としては、例えばスプレイヤー等の噴霧器を用いて噴霧する方法が挙げられる。組成物を塗布する方法としては、塗布に用いる用具、例えば、(a)成分と(b)成分と水を含む組成物を含ませた木綿繊維や化繊繊維で構成されたシート状の用具やロールオンタイプの道具と、微生物を接触させて、微生物に(a)成分と(b)成分と水を含む組成物を塗布する方法が挙げられる。
【0050】
微生物、(a)成分、(b)成分及び水を接触させることで、(a)成分と(b)成分と水と微生物とが混在する状態になっていてもよい。(a)成分と(b)成分と水と微生物とが混在する状態は、(a)成分と(b)成分と水と微生物を含む液体の状態であってもよく、また、そのような液体が固体の表面に存在する状態であってもよい。固体は、繊維製品、硬質物品などの物品や、皮膚、毛髪などの身体の部位などであってもよい。繊維製品の素材としては特に制限はなく、ウール、シルク、木綿等の天然素材、ポリエステル、ポリアミド等の化学繊維、及びこれらの組合せのいずれであってもよい。本発明において、繊維製品の素材は木綿であることが好ましい。繊維製品は未使用であっても、一度以上使用した使用済のものでもよい。繊維製品は、湿気ないし水分を含んだものでもよいし、乾燥を十分に行ったものであってもよい。硬質表面としては、ガラス、金属、プラスチック、陶器であってもよい。
【0051】
前記の(II)、(III)に記載の方法を固体の表面で行う場合に、(a)成分と(b)成分を固体上に存在させる方法としては、例えば、(a)成分及び(b)成分の効果を阻害しない範囲で、(a)成分、(b)成分以外の任意の成分と共に固体の表面に存在させても良い。具体的には、有機溶剤、(a)成分以外の界面活性剤が挙げられる。有機溶剤としては、水酸基を有する有機溶剤、例えば炭素数1以上7以下の1価以上6価以下のアルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤〔但し、(a)成分を除く。〕及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤が挙げられる。
【0052】
本発明の代謝制御方法は、分岐脂肪酸の存在下で(a)成分と(b)成分とを微生物に接触させることが好ましい。分岐脂肪酸は微生物が代謝可能なものが好ましい。分岐脂肪酸としては、例えば、前記の炭素数9以上21以下の分岐脂肪酸が挙げられる。この分岐脂肪酸も、アンテイソ型の分岐脂肪酸及びイソ型の分岐脂肪酸から選ばれる1種以上の脂肪酸が好ましい。
分岐脂肪酸の存在下で(a)成分及び(b)成分を微生物に接触させる代謝制御方法の例として、例えば、
(X1)分岐脂肪酸と(a)成分と(b)成分とが共存する箇所に、微生物を接触させる方法、
(X2)(a)成分と(b)成分と微生物が共存する箇所に、分岐脂肪酸を接触させる方法、
(X3)分岐脂肪酸と微生物が共存する箇所に、(a)成分と(b)成分とを接触させる方法
などが挙げられる。分岐脂肪酸の代謝をより制御する観点、とりわけ分岐脂肪酸の代謝をより抑制する観点から、好ましくは前記の(X1)及び(X2)から選ばれる1種以上の方法であり、より好ましくは、(X1)の方法である。
【0053】
本発明の代謝制御方法は、微生物による分岐脂肪酸の代謝を抑制する方法であることが好ましい。更に、本発明の代謝制御方法は、(a)成分と(b)成分と微生物が接触した場合と(a)成分と(b)成分と微生物が接触しない場合において微生物の生菌数の変化が少なく微生物が代謝する分岐脂肪酸の量を抑制する方法であることが好ましい。本発明では、微生物の生菌数が、(a)成分と(b)成分の接触前後で実質的に維持されていることが好ましい。本発明において、微生物の生菌数が「実質的に維持されている」とは、例えば、(a)成分と(b)成分と微生物が接触しない場合の微生物の生菌数の対数値(1)と、(a)成分と(b)成分と微生物が接触した場合の微生物の生菌数の対数値(2)との差である、対数値(1)-対数値(2)が-1以上2未満であることであってよい。前記の対数値の差は、一般的に殺菌活性値ないし静菌活性値と呼ばれることもあり、殺菌性を有する又は抗菌性を有するとは、各々殺菌性試験又は抗菌性試験において、例えば、JIS L 1902:2015において、殺菌活性値又は静菌活性値が2.2以上であると定義されている。本発明においては、(a)成分及び(b)成分による過度の殺菌が行われないことが好ましいことから、例えば、殺菌活性値ないし静菌活性値が-1以上2未満、好ましくは-0.5以上1未満、より好ましくは0以上0.8以下、更に好ましくは0以上0.7以下である場合を、微生物の生菌数が「実質的に維持されている」としてよい。
【0054】
本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法の一例として、微生物に、(a)成分、(b)成分、炭素数9以上21以下の分岐脂肪酸及び有機溶媒を含有する処理液を接触させて、当該微生物の分岐脂肪酸の代謝を制御する、分岐脂肪酸の代謝制御方法が挙げられる。
前記微生物は、モラクセラ(Moraxella)属細菌、マイクロコッカス(Micrococcus)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌及びロドトルラ(Rhodotorula)属酵母から選ばれる1種以上の微生物が好ましい。
(a)成分は、前記一般式(1)において、nが0である化合物が好ましい。
(b)成分は、下記(b1)成分、(b2)成分、(b3)成分及び(b4)成分から選ばれる1種以上の化合物、更に下記(b1)成分、及び(b3)成分から選ばれる1種以上の化合物、更に下記(b1)成分から選ばれる1種以上の化合物、更に4-4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(ジクロサン)、2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)及びセルレニンから選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
(b1)成分:ジフェニルエーテル基を有する化合物
(b2)成分:チオラクトマイシン又はチオラクトマイシン誘導体
(b3)成分:セルレニン又はセルレニン誘導体
(b4)成分:α-メチレン-γ-ブチロラクトン又はα-メチレン-γ-ブチロラクトン誘導体
前記処理液は、(a)成分の含有量が10ppm以上10質量%以下が好ましい。
前記処理液は、(b)成分の含有量が0.01ppm以上10ppm以下が好ましい。
前記処理液は、前記分岐脂肪酸の含有量が1ppm以上1質量%以下が好ましい。
前記処理液は、有機溶媒が残部であることが好ましい。有機溶媒はメタノールが好ましい。
前記処理液の接触時間は、1分以上64時間以下が好ましい。前記の(a)成分と微生物が接触している間、本発明の効果を得ることができる。本発明を適用する技術分野に合わせて、接触時間を適宜変えることができる。
前記処理液の接触温度は、1℃以上45℃以下が好ましく、本発明の効果が得られやすい観点から、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、そして同じ観点から、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは35℃以下である。
前記微生物と水とを含む混合物に、前記処理液を接触させてもよい。
【0055】
本発明は、(a)成分及び(b)成分を含有する、微生物における分岐脂肪酸の代謝制御剤を提供する。本発明の代謝制御剤は、微生物における分岐脂肪酸の代謝制御の有効成分として(a)成分及び(b)成分を含有するものである。本発明の代謝制御剤には、本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、(a)成分、(b)成分の具体例及び好ましい態様なども、本発明の分岐脂肪酸の代謝制御方法と同じである。
【0056】
本発明の分岐脂肪酸の代謝制御剤は、(a)成分及び(b)成分からなる剤であってもよい。また、本発明の分岐脂肪酸の代謝制御剤は、(a)成分、(b)成分以外の任意の成分〔以後、(c)成分と称する。〕と併用しても良い。(c)成分としては、(c1)溶剤、(c2)(a)成分以外の界面活性剤が挙げられる。(c1)溶剤としては、水及び有機溶剤から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。水としては、イオン交換水、蒸留水、水道水、カルシウムやマグネシウム等の硬度成分を含む水であってもよい。有機溶剤としては、本発明の分岐脂肪酸の代謝制御効果をより高める観点から、水酸基を有する有機溶剤であることが好ましい。水酸基を有する有機溶剤としては、炭素数1以上7以下の1価以上6価以下のアルコールが挙げられる。具体例としては、炭素数1以上7以下の1価のアルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。また、炭素数2以上7以下の2価のアルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコールが挙げられる。また、炭素数3以上7以下の3価のアルコール、例えばグリセリン、1,2,3-プロパントリオールが挙げられる。炭素数5以上7以下の4価以上6価以下のアルコール、例えばペンタエリスリトール、糖アルコールが挙げられる。また、(c2)の界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤及びカチオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤が挙げられる。
【実施例】
【0057】
試験例、比較試験例に用いた化合物を以下に示す。
[代謝制御剤]
<(a)成分>
C12OH:1-ドデカノール
【0058】
<(b)成分>
・ダイクロサン
・トリクロサン
・セルレニン
【0059】
<(b’)成分:(b)成分の比較化合物>
・CCCP:カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン
CCCPは、脱共役剤として知られており、脂肪酸合成酵素は阻害しない化合物である。
【0060】
<分岐脂肪酸>
14-メチルヘキサデカン酸:SIGMA-ALDRICH製
【0061】
<試験例及び比較試験例>
モラクセラ(Moraxella)属細菌による14-メチルヘキサデカン酸の代謝抑制及び代謝生成物の抑制について、以下の方法で試験を行った。結果を表1~4に示した。
【0062】
(1)14-メチルヘキサデカン酸の代謝抑制
SCD-LP寒天培地(日本製薬)にMoraxella osloensis(衣類分離株)を37℃で24時間前培養し、イオン交換水で1/20に希釈したNB液体培地(Difco)を用いて106(CFU/ml)となるよう菌懸濁液を調製した。
滅菌した木綿平織布3cm×3cmに対して、14-メチルヘキサデカン酸(SIGMA-ALDRICH)を溶解させたメタノール溶液を滴下し布へ付着させた。14-メチルヘキサデカン酸の付着量は、木綿平織布1枚当たり10μg(100μg/布g)となるように設定した。さらに、(a)成分を溶解させたメタノール溶液、次いで(b)成分又は(b’)成分を溶解させたメタノール溶液を14-メチルヘキサデカン酸が付着している布に滴下し、その後1時間乾燥させた。前記メタノール溶液は、(a)成分又は(b)成分の量が表に記載の通りとなるように滴下した。この布を滅菌済No3スクリュー管(マルエム)に入れ、前記の菌懸濁液100μlを植菌して、37℃条件下で21時間培養を行った。
【0063】
培養後のスクリュー管に、メタノール3mlを添加し30分間超音波照射下で抽出を行った(20℃)。抽出液をトリメチルシリルジアゾメタン・ヘキサン溶液(富士フイルム和光純薬)と9:1(体積比)で混合し、室温暗所条件下で一晩放置させた。その後にGCを用いて布上に残留している14-メチルヘキサデカン酸の定量を行った。GCによる定量条件を下記に示す。
・GC:Agilent 6890N
・GCカラム:Agilent DB-1 30m×250μm×0.25μm
・昇温条件:50℃(3分ホールド)-(10℃/分)-300℃(5分ホールド)
・サンプル注入量:1μl
・スプリット比:1:12
・検出器:FID
【0064】
代謝制御剤を添加した布における培養後の14-メチルヘキサデカン酸の残存量を定量し、代謝制御剤を添加しない場合(対照)の14-メチルヘキサデカン酸の残存量に対する比を算出して、代謝抑制率(%)とした。数値が高い方が、代謝をより抑制していることを表す。なお、代謝抑制率は下記式で求めた。
代謝抑制率(%)=〔1-(100-A)/(100-B)〕×100
A:基準、試験例、又は比較試験例の14-メチルヘキサデカン酸の残存量(μg/布g)
B:対照の14-メチルヘキサデカン酸の残存量(μg/布g)
対照は、(a)成分、(b)成分又は(b’)成分を添加しない例であり、基準1-1、基準2-1、基準3-1、基準4-1が該当する(以下同様)。これらの対照では、代謝抑制率は0%となる。
【0065】
(2)代謝生成物の抑制
上記(1)と同じ方法で準備した布を培養後、メタノール3mlを添加して30分間超音波照射下で抽出を行った(20℃)。抽出液をフナコシ社のADAM試薬(1000ppmメタノール溶液)と1:1(体積比)で混合し、室温暗所条件下で一晩放置させた。その後にHPLCを用い、14-メチルヘキサデカン酸の代謝生成物として4-メチル-3-ヘキセン酸の定量を行った。定量条件を下記に示す。
代謝生成物の定量条件
LC:HITACHI ELITE LaChrom
カラム:Zorbax C8 4.6×250mm
溶離液:アセトニトリル61%(v/v)、水39%(v/v)
カラム温度:40℃
サンプル注入量:10μL
流速:1.0mL/min
検出:FLD Ex.365nm、Em.412nm
【0066】
代謝制御剤を添加した布における培養後の4-メチル-3-ヘキセン酸の生成量を定量し、代謝制御剤を添加しない場合(対照)の4-メチル-3-ヘキセン酸の生成量に対する比を算出して、代謝生成物抑制率(%)とした。数値が高い方が、代謝をより抑制していることを表す。なお、代謝生成物抑制率は下記式で求めた。対照である基準1-1、基準2-1、基準3-1、基準4-1では、代謝生成物抑制率は0%となる。
代謝生成物抑制率(%)=100×〔(D-C)/D〕
C:基準、試験例、又は比較試験例の代謝生成物の生成量(μg/布g)
D:対照の代謝生成物の生成量(μg/布g)
【0067】
(3)生菌数の測定
上記(1)と同じ方法で準備した布を培養後、9mLのLP希釈液(日本製薬社製)を加えて10分間超音波下で菌の抽出を行った。抽出液をSCD-LP寒天培地(日本製薬)にて混釈後、37℃にて培養を1日間行った。それぞれの布について得られたコロニー数を計測し、その常用対数値を生菌数として測定した。代謝制御剤を添加しない場合の微生物の生菌数の対数値(1)と代謝制御剤を添加した場合の微生物の生菌数の対数値(2)との差である、対数値(1)-対数値(2)が-1以上2未満であることが代謝制御剤の接触の有無で生菌数に変化がなく、微生物の生菌数が維持されていることを意味する。また、値が0により近いほど、微生物の生菌数がより維持されていることを意味する。
【0068】
試験例1~3の結果を表1~表3に示す。また、(b)成分の代わりに脱共役剤である(b’)成分であるカルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾンを用いた比較試験例の結果を表4に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
上記表中、例えば、表1において、基準1-1は、対象物の一例として用いた繊維製品上に、所定量の分岐脂肪酸と微生物が共存するが、代謝制御剤であるC12OHとダイクロサンを用いておらず、代謝抑制率と代謝生成物抑制率はいずれも0%となる。
表1において、基準1-2は、ダイクロサンを共存させるが、C12OHの共存はない場合の値を記載している。比較試験例1-1は、ダイクロサンは共存しないが、C12OHが共存した場合の値を記載している。試験例1-1は、ダイクロサンとC12OHのいずれも共存する場合の値を記載している。ここで、分岐脂肪酸の代謝抑制率を見てみると、基準1-2((b)成分のみ)と比較試験例1-1((a)成分のみ)の値を合計すると、7%+33%で40%になるが、実施例である試験例1-1((a)成分と(b)成分)は61%であり、前記合計の40%よりも高く、ダイクロサンとC12OHの相乗効果により、より高い値となっている。試験例1-1の代謝生成物抑制率も、同様に相乗的な向上が確認できる。実施例である試験例1-2、試験例1-3も同様であり、代謝抑制率と代謝生成物抑制率の相乗的な向上が確認できる。
表2~3の実施例である各試験例についても、同様に、代謝抑制率と代謝生成物抑制率の相乗的な向上が確認できる。