(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】脂質異常症の予防、改善又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20231031BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20231031BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231031BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231031BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231031BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K36/899
A61P3/06
A61P9/10 101
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2019223666
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】豊原 清綱
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸二郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】平賀 由水香
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231986(JP,A)
【文献】特開2014-139166(JP,A)
【文献】特開2013-040108(JP,A)
【文献】特開2015-020993(JP,A)
【文献】特開2005-068132(JP,A)
【文献】The Journal of Nutrition,2014年,Vol.145,pp.199-206
【文献】Food Funct,2019年06月,Vol.10,pp.3282-3290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルレゾルシノールを含む、動脈硬化の予防、改善又は治療用組成物
であって、前記アルキルレゾルシノールが、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦からの抽出物である、前記組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の組成物を含む
、動脈硬化の予防、改善又は治療用飲食品。
【請求項3】
請求項
1に記載の組成物を含む
、動脈硬化の予防、改善又は治療用医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質異常症の予防、改善又は治療用組成物及びそれを用いた飲食品又は医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化は、血管の内側にコレステロールなどが付着して血管が狭く硬くなり、血液の流れが悪くなることによって引き起こされる疾病で、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満などメタボリックシンドロームや喫煙などが原因で発症することが知られている。動脈硬化は、全身の血管に生じ、さまざまな健康障害を引き起こし、例えば、脳への血流を担保する血管が障害を受けると脳梗塞を起こしたり、大動脈に硬化が生じると解離性大動脈瘤といった命に関わる病気を起こしたりするため、これを予防することは現代人の健康を守るうえでとても重要な課題である。
【0003】
動脈硬化を引き起こす一因とされるコレステロールを低下させる素材として、例えば特許文献1には、胆汁酸吸着能及び胆汁酸排泄を促進しコレステロールを低下させる作用を有する、コメ由来のタンパク質及びそれを含む脂質代謝改善剤が記載されている。また、特許文献2には、茶葉から得られるサポニン類を有効成分とするコレステロール排出促進剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-266289号公報
【文献】特開2006-206472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらはいずれも血中コレステロールの排出を促進する機能を有しているが、脂質異常症や動脈硬化等の病態への適用には必ずしも十分ではない。そこで、本発明は、脂質異常症や動脈硬化を予防、改善又は治療するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、いわゆるアルキルレゾルシノールが、進行した状態の脂質異常症や動脈硬化を改善し、増悪化を予防することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]アルキルレゾルシノールを含む、脂質異常症の予防、改善又は治療用組成物。
[2]脂質異常症が、高LDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症又は低HDLコレステロール血症である、[1]に記載の組成物。
[3]アルキルレゾルシノールを含む、動脈硬化の予防、改善又は治療用組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の組成物を含む飲食品。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の組成物を含む医薬品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、脂質異常症、特に高LDLコレステロール血症や、それら疾患と関連する動脈硬化を予防、改善又は治療する組成物や、斯かる組成物を用いた飲食品や医薬品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、コントロール群(Control、以下同様)、アルキルレゾルシノール低含有飼料摂餌群(ARs-Low、以下同様)及びアルキルレゾルシノール高含有飼料摂餌群(ARs-High)に関する血中総コレステロール量の経時変化を示した図である。なお、図中の*は、コントロールに対する各群の有意差(*P<0.05、**P<0.01 Mean ±S.E.)を示す(以下
図2~3も同様)。
【
図2】
図2は、コントロール群、アルキルレゾルシノール低含有飼料摂餌群及びアルキルレゾルシノール高含有飼料摂餌群に関する血中LDLコレステロール量の経時変化を示した図である。
【
図3】
図3は、コントロール群、アルキルレゾルシノール低含有飼料摂餌群及びアルキルレゾルシノール高含有飼料摂餌群に関する血中HDLコレステロール量の経時変化を示した図である。
【
図4】
図4は、コントロール群、アルキルレゾルシノール低含有飼料摂餌群及びアルキルレゾルシノール高含有飼料摂餌群に関する、マウスの大動脈切片の染色写真である。コントロールの図中の矢印は動脈硬化部位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の脂質異常症の予防、改善又は治療用組成物(以下「本発明の組成物」とも称す)は、アルキルレゾルシノールを含むことを特徴とする。
本発明において「アルキルレゾルシノール」とは、以下の式I:
【0010】
【0011】
において、式(I)中、Rが、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基を表す化合物である。Rで表されるアルキル基の炭素数は、制限されるものではないが、好ましくは1~27、より好ましくは3~27、さらに好ましくは5~27、特に好ましくは5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25及び27である。Rは、好ましくは、飽和又は不飽和の直鎖アルキル基であり、より好ましくは飽和直鎖アルキル基である。Rで表される飽和直鎖アルキル基の例としては、メチル、n-プロピル、n-ペンチル、n-ヘプチル、n-ノニル、n-ウンデシル、n-トリデシル、n-ペンタデシル、n-ヘプタデシル、n-ノナデシル、n-ヘンイコシル、n-トリコシル、n-ペンタコシル、n-ヘプタコシル等が挙げられる。
【0012】
Rで表される不飽和直鎖アルキル基の不飽和結合の位置や数は、特に制限されるものではない。当該不飽和直鎖アルキル基の例としては、上述した飽和直鎖アルキル基の炭素鎖上の任意の位置に不飽和結合を有するアルキル基が挙げられる。また、Rで表される飽和又は不飽和の分岐鎖アルキル基の分岐の位置や数、及び不飽和結合の位置や数も、特に制限されるものではない。
【0013】
上記式(I)のアルキルレゾルシノールの好ましい例としては、以下が挙げられる(Cの後の数字はアルキル基中の炭素鎖の数で、コロンの後の数字は不飽和結合数を表す。本明細書において、各化合物は「CX(Xは整数)のアルキルレゾルシノール」とも称す)。
5-ペンチルレゾルシノール[オリベトール又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンチルベンゼン(C5:0)]
5-ヘプチルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプチルベンゼン(C7:0)]
5-ノニルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノニルベンゼン(C9:0)]
5-ウンデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ウンデシルベンゼン(C11:0)]
5-トリデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリデシルベンゼン(C13:0)]
5-ペンタデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)]
5-ヘプタデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)]
5-ノナデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0)]
5-ヘンイコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)]
5-トリコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0)]
5-ペンタコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)]
5-ヘプタコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタコシルベンゼン(C27:0)]
【0014】
本発明におけるアルキルレゾルシノールは、上記のようなアルキル鎖の鎖長が異なるアルキルレゾルシノールの混合物も包含する。このようなアルキルレゾルシノールは、市販品や化学合成した化合物として入手できる他、一般の小麦やバーリーマックス(登録商標)大麦の穀粒から抽出した抽出物として得ることもできる。また、抽出せずに、アルキルレゾルシノールを含む小麦やバーリーマックス等の大麦穀粒を、そのまま使用してもよい。
【0015】
バーリーマックス(登録商標)大麦とは、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された品種改良大麦であり、特開2002-540557号公報及び特開2012-521910号公報に開示されている大麦である(本明細書では「SSII抑制大麦」とも称す)。具体的には、SSII抑制大麦は、デンプン合成酵素II遺伝子の発現を下方制御する、内在性デンプン合成酵素II遺伝子中の変異又は外来性核酸分子を導入することにより、野生型SSII遺伝子と比較してSSII遺伝子の発現を低下させる変異を導入する手法や、大麦において野生型デンプン合成酵素IIポリペプチドに比較して、合成活性が低いデンプン合成酵素IIポリペプチドの発現を生じさせる変異を導入する手法を用いて得ることができる。市販品としては、品種改良大麦バーリーマックス(登録商標)として入手できる。デンプン合成酵素IIは、そのアイソフォームとして、デンプン合成酵素IIa、デンプン合成酵素IIb及びデンプン合成酵素IIcが知られているが、大麦穀粒の表現型等の点からは、デンプン合成酵素IIaが抑制されることが好ましい。
【0016】
本明細書において、上記大麦のデンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が「抑制された」とは、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は酵素活性が、未改変(野生型)の大麦穀粒でのタンパク質の発現量及び/又は酵素活性と比較すると、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも90%又は少なくとも95%に低下している状態を意味する。
【0017】
本明細書において「大麦の穀粒」とは、栽培・収穫後の外皮の付いた裸麦、又は精麦後の外皮を除去した状態の大麦の粒を意味する。本発明では、加工性の点から、精麦後の外皮を取り除いた状態の大麦の粒が好ましい。
【0018】
本明細書において、大麦の「穀粒の抽出物」とは、大麦の穀粒からアルキルレゾルシノール成分を含むよう抽出濃縮した物質を意味し、搾油や溶剤抽出等の方法によって得ることができる。たとえば化学的分離操作法の一つで、液体又は固体の原料を溶剤と接触させ、原料中に含まれている溶剤に可溶な成分を、溶剤に不溶又は難溶性の成分から選択的に分離された物質を指す。好ましくは、ふすまの付いた状態の大麦穀粒を粉砕して得た全粒粉から抽出された抽出物である。本発明における抽出操作は、上記一般的な抽出操作であり、原料が植物の固体であり、溶剤として脂溶性溶媒を用いるものである。
【0019】
本発明では、上記の粉砕や抽出により得られた粉砕物や抽出物を、必要に応じてさらに、圧搾、濃縮、固液分離、加熱滅菌、ろ過滅菌等の公知の技術を単独又は2つ以上組み合わせて処理することもできる。
【0020】
上記SSII抑制大麦は、公知の方法により精麦して外皮を除去した状態の大麦穀粒1gに対して、鎖長の異なるアルキルレゾルシノールを、それらの総含有量として、通常120μg/g以上含有する。上限は限定されないが500μg/g、場合によっては450μg/g程度含有する。上記SSII抑制大麦は特に、アルキル鎖長がC17、C19、C21、C23及びC25のアルキルレゾルシノールを豊富に含み、それらを合わせた含有量としては、通常120~350μg/gであり、好ましくは150~320μg/gであり、より好ましくは200~300μg/gを含む。
【0021】
本発明の組成物は、脂質異常症の予防、改善又は治療のために好適に使用でき、特に高LDLコレステロール血症や動脈硬化の予防、改善又は治療のために好適に使用できる。
【0022】
本発明において「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。また、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。また、「治療」には、疾患の完全治癒に加えて、症状を改善することが包含される。
【0023】
本発明における「脂質異常症」とは、血中の脂質成分の少なくとも1種が正常範囲を逸脱した病態を意味する。血中の脂質成分としては、総コレステロール、トリグリセリド、低比重リポタンパク質(LDL)コレステロール、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロール、VLDLコレステロール、非HDLコレステロール、IDLコレステロール、VHDLコレステロール、遊離脂肪酸、リン脂質、カイロミクロン、ApoB、Lp(a)、RLPコレステロール、sdLDLコレステロールなどが例示される。これらの脂質成分のうち、総コレステロール、トリグリセリド、LDLコレステロール、非HDLコレステロール及びHDLコレステロールが臨床上重要な脂質成分として例示される。上記非HDLコレステロールとは、総コレステロールからHDLコレステロールを除いた残りの脂質であり、悪玉コレステロールとして知られているLDLの他、レムナント、small dense LDL等のリポタンパク質が含まれる。これらのリポタンパク質もまた、LDLと同様に血管に停滞すると動脈硬化を促進することが知られている。
【0024】
上記の脂質異常症における正常範囲は、例えば日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2012年版によると、空腹時採血による数値として、高LDLコレステロール血症はLDLコレステロール値が140mg/dl以上、低HDLコレステロール血症はHDLコレステロール値が40mg/dl未満、高トリグリセリド(中性脂肪)血症はトリグリセリド値150mg/dl以上と規定されており、これらのうちいずれか一項目以上該当する場合、脂質異常症と診断される。なお、2006年以前は総コレステロール値を基準として「高コレステロール血症」が診断されていたが、脂質異常症に名称が変更された経緯にも鑑みて、一般的に高コレステロール血症と呼ばれる症状は、本発明においては脂質異常症に含まれるものとする。
【0025】
本発明の組成物は、ヒト又は動物用の医薬品又は飲食品として利用することもできる。本明細書では、動物用の飲食品を飼料とも称す。
【0026】
本発明における医薬品は、本発明の組成物を含有する、脂質異常症や動脈硬化等の予防薬、改善薬又は治療薬であり得る。上記医薬品の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、及び吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられる。上記液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、上記錠剤及び顆粒剤は周知の方法でその表面をコーティングされていてもよい。また上記注射剤は、必要に応じて溶解補助剤を含む滅菌蒸留水又は滅菌生理食塩水の溶液であり得る。
【0027】
本発明における医薬品は、本発明の組成物に加えて、必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、例えば賦形剤、安定化剤、その他の添加剤等を含有していてもよく、あるいは、さらに他の薬効成分、例えば各種ビタミン類、ミネラル類、生薬等を含有していてもよい。当該医薬品は、本発明の組成物に、上述の担体及び他の薬効成分を配合し、常法に従って製造することができる。
【0028】
本発明における飲食品又は飼料は、本発明の組成物を含み、場合によって、脂質異常症や動脈硬化等に対する効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜、競走馬、鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等としてもあり得る。本発明における食品においては、上記アルキルレゾルシノールを含有する小麦や大麦自体をそのまま食品として使用することもできる。
【0029】
本発明における飲食品及び飼料の形態は特に制限されず、本発明の組成物を配合できる全ての形態が含まれる。例えば当該形態としては、固形、半固形又は液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。
【0030】
具体的な飲食品の例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、クリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、ベーカリー類(パン、パイ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等)、菓子(ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット等)、栄養補助食品(丸剤、錠剤、ゼリー剤又はカプセル剤等の形態を有するサプリメント、グラノーラ様シリアル、グラノーラ様スネークバー、シリアルバー)等が挙げられる。
【0031】
本発明における飼料は、上記飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0032】
本発明における飲食品及び飼料は、本発明の組成物に、飲食品や飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー等)等を配合して、常法に従って製造することができる。あるいは、通常食されている飲食品又は飼料に、本発明の組成物を配合することにより、本発明に係る飲食品又は飼料を製造することもできる。
【0033】
本発明における医薬品、飲食品又は飼料における本発明の組成物の含有量は、脂質異常症や動脈硬化等に対して所望する効果が得られる量であればよく、医薬の剤型や飲食品の形態、投与又は摂取する個体の種、症状、年齢、性別等に応じて適宜変更され得るが、通常成人のヒトの場合、有効成分としてのアルキルレゾルシノールを一日あたり0.001~100mg程度摂取されるように調製するとよい。
【実施例】
【0034】
[試験試料の調製]
バーリーマックス(登録商標)大麦を粉砕して粉末化したものを5倍重量のエタノールに浸漬し、アルキルレゾルシノール成分を含む抽出液を得た。これをエバポレーターで濃縮してエタノール成分を除去して抽出物をオイルとして調製した。続いて、抽出物200gをヘキサン2Lで溶解し、シリカ順相クロマトグラフィーにより精製を行った。カラムは、山善社製ハイフラッシュカラムシリカ5L、カタログ番号:W007(カラム内径×カラム長:60×180mm、充填剤量:250g)を用いた。クロマト条件は、流速70mL/min、検出波長280nm、移動相(ヘキサン/酢酸エチル:90/10(v/v)を9分間→80/20(v/v)を15分間→60/40(v/v)を16分間のステップグラジエント)とし、溶出時間30~40分の間の溶出液を分取した。分取物は減圧乾燥した。この乾固物中のアルキルレゾルシノールを以下の通り定量した。
【0035】
[高速液体クロマトグラフィーによる定量方法]
上記乾固物中のアルキルレゾルシノール量を高速液体クロマトグラフィーによる分析法で定量した。具体的には、分析カラムとしては、GLscience社InertsilODS4を使用し、分析条件としては、流速1mL/min、検出波長275nm、カラム温度40℃、移動相(89%(v/v)メタノールを5分間→92%(v/v)メタノールを25分間→100%メタノールのステップグラジエント)で実施した。アルキルレゾルシノールの標準品として、市販のオリベトール(炭素数5の直鎖状のアルキル鎖を有するアルキルレゾルシノール:シグマ・アルドリッチ)を用いた。C5のオリベトールとアルキル鎖長の異なるアルキルレゾルシノールを定量するため、予めアルキルレゾルシノールの溶出位置を特定しておき、実測されたピーク面積を、予め作成したオリベトール(C5)のピーク面積と濃度との検量線を基に算出した。なお、前記溶出位置におけるピークの同定については、UVスペクトル及びマススペクトルにより各鎖長のアルキルレゾルシノールであることを同定して行った。
【0036】
[動物試験]
脂質異常動脈硬化モデルマウス(C.KOR/StmSlc-Apoeshlオス)(日本エスエルシー株式会社)を実験に用いた。8週齢個体を導入し、飼育環境に2日間馴化後体重を指標に、6匹を3群に群分けした。餌はAIN93飼料とし、各種披検試料はこの飼料に混合し、自由摂食により4週間の飼育期間中投与した。飼育群は披検試料非添加飼料摂餌の対照(コントロール)群、アルキルレゾルシノール(本実施例においては「ARs」とも称す)高含有飼料摂餌群(ARsを0.9質量%配合)、ARs低含有飼料摂餌群(ARsを0.3質量%配合)とし、飼育期間中摂餌量、体重を毎日測定した。採血を投与開始前及び投与期間中週1回実施し、血液パラメーターとして総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールを測定した。試験終了日に安楽死後解剖し、肝臓、大動脈を摘出した。摘出臓器は秤量後一部からRNAを抽出し、残りは冷凍保存した。総コレステロールの測定はコレステロールE-テストワコー(富士フィルム和光純薬(株))キットを、LDLコレステロールはLタイプワコ-LDL-C・M(富士フィルム和光純薬(株))キットを、HDLコレステロールの測定はHDL-コレステロールE-テストワコー(富士フィルム和光純薬(株))キットを用い、同社マニュアルに従い測定した。
【0037】
切片写真の取得は、Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 2007;27:865-870に記載の方法に応じて、試験終了後のマウスの大動脈根サンプルを10μm切片に切断し、各マウスについて120μm間隔を用いて3つの連続切片を選択した。次に切片をオイルレッドO溶液(60%イソプロピルアルコール中0.3%)で15分間染色し、60%イソプロピルアルコールで洗浄した。オイルレッドO染色手順の後、切片をヘマトキシリンで対比染色した。
【0038】
[実施例1]
上記試験方法に従い、総コレステロール量を測定したところ、
図1の通り、コントロール群と比較し、ARs高含有飼料摂餌群やARs低含有飼料摂餌群では有意に総コレステロール量が低減した。よって、アルキルレゾルシノールが総コレステロールの低減に寄与することが確認された。
【0039】
[実施例2]
上記試験方法に従い、LDLコレステロール量を測定したところ、
図2の通り、コントロール群と比較し、ARs高含有飼料摂餌群やARs低含有飼料摂餌群では有意にLDLコレステロール量が低減した。よって、アルキルレゾルシノールがLDLコレステロールの低減に寄与することが確認された。
【0040】
[実施例3]
上記試験方法に従い、HDLコレステロール量を測定したところ、
図3の通り、コントロール群と比較し、ARs高含有飼料摂餌群やARs低含有飼料摂餌群では有意にHDLコレステロール量が増加した。よって、アルキルレゾルシノールがHDLコレステロールの増加に寄与することが確認された。
【0041】
[実施例4]
上記試験方法に従い、動脈切片を取得したところ、
図4の通り、コントロール群では確認されていた動脈硬化部位が、ARs高含有飼料摂餌群やARs低含有飼料摂餌群では確認されなかった。よって、アルキルレゾルシノールが動脈硬化の予防、改善又は治療に用いることができることが確認された。