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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】発熱システムおよび発熱体
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20231031BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20231031BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20231031BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20231031BHJP
   H05B 6/74 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H05B3/14 F
C01B32/186
C01B32/194
C01B32/198
H05B6/74 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019548067
(86)(22)【出願日】2017-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 KR2017008848
(87)【国際公開番号】W WO2018159909
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2019-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】10-2017-0026772
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年2月17日に公開された以下の論文。 S Kang著、2D Materials,(“Efficient heat generation in large-area graphene films by electromagnetic wave absorption”)、2017年、Volume 4、025037
(73)【特許権者】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】519313150
【氏名又は名称】グラフェン・スクエア・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・ヒ・ホン
(72)【発明者】
【氏名】サンミン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ヨンス・キム
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】鈴木 充
【審判官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-146478(JP,A)
【文献】特開2014-210675(JP,A)
【文献】特開2014-12921(JP,A)
【文献】特開2013-101808(JP,A)
【文献】特開2016-47777(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1424089(KR,B1)
【文献】国際公開第2016/091882(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0372622(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/14
H05B 6/74
H05B 6/64
H05B 6/80
C01B 32/186
C01B 32/194
C01B 32/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に備えられ、グラフェンからなる発熱層とを含む発熱部と、
前記発熱部の少なくとも一領域に電磁波を走査する電磁波走査部と、
前記電磁波走査部の作動を制御する制御部とを含み、
前記発熱層は、1層以上層以下の積層された単層グラフェンシートから形成され、
前記発熱部は、前記基材と前記発熱層との間に備えられた自己組織化単分子膜(SAM;Self-Assembled Monolayer)を含み、
前記発熱層は、前記電磁波を吸収して熱を放出する発熱システム。
【請求項2】
前記電磁波走査部は、1MHz以上100GHz以下の周波数の電磁波を走査するものである、請求項1に記載の発熱システム。
【請求項3】
前記発熱部の可視光線波長における平均光透過度は、80%以上95%以下である、請求項1に記載の発熱システム。
【請求項4】
前記発熱部は、別途の電極を備えないものである、請求項1に記載の発熱システム。
【請求項5】
周波数:2.45GHz、出力:70Wで走査した場合に、前記発熱層の飽和温度到達時間は、9cm×9cmの面積で40秒以内である、請求項1に記載の発熱システム。
【請求項6】
前記発熱層は、前記電磁波の吸収により誘導される前記グラフェンの反磁性状態における電荷移動によって発熱するものである、請求項1に記載の発熱システム。
【請求項7】
基材と、該基材上に備えられ、グラフェンからなる発熱層とを含み、
前記発熱層は、1層以上層以下の積層された単層グラフェンシートから形成され、
前記基材と前記発熱層との間に備えられた自己組織化単分子膜(SAM;Self-Assembled Monolayer)を含み、
前記発熱層は、電磁波を吸収して熱を放出するものである発熱体。
【請求項8】
前記発熱体は、別途の電極を備えないものである、請求項に記載の発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱システムおよび発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、炭素が有する自らの抵抗を用いた面状発熱体に対する開発と応用が活発に進められている。このようなカーボン面状発熱体は、温度調節が容易であり、空気が汚染せず衛生的で、騒音がないだけでなく、人体に有益な遠赤外線が放出される特性により、住宅暖房から、商業用、農業用、そして各種産業用暖房剤として広く用いられている。
【0003】
さらに、グラフェンシートを用いた発熱体の研究も進められており、これは、グラフェンシートの内部抵抗を用いたジュール発熱(Joule heating)を利用することに限られているのが現状である。グラフェンシートの内部抵抗を用いるジュール発熱を利用したグラフェンシート発熱体は、グラフェンシートの面抵抗低下の限界によって発熱均一性が確保されにくい限界がある。さらに、加熱速度および発熱効率を高めにくい問題点がある。また、金属電極を用いて発熱体に電源を供給しなければならないので、電極が備えられる部分は透明性を確保できない問題点もあり、特に、発熱体の曲面加工時、柔軟性に劣る電極によって作製の困難が発生することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、グラフェンを用いた発熱システムおよび発熱体を提供しようとする。
【0005】
ただし、本発明が解決しようとする課題は上述した課題に限らず、言及されていない別の課題は下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、基材と、該基材上に備えられ、グラフェンを含む発熱層とを含む発熱部と、前記発熱部の少なくとも一領域に電磁波を走査する電磁波走査部と、前記電磁波走査部の作動を制御する制御部とを含み、前記発熱層は、前記電磁波を吸収して熱を放出する発熱システムを提供する。
【0007】
本発明の一実施態様は、基材と、該基材上に備えられ、グラフェンを含む発熱層とを含み、前記発熱層は、電磁波を吸収して熱を放出するものである発熱体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様に係る発熱システムは、発熱部に別途の電極を備えずに熱を放出可能で、発熱部の製造の容易性に優れるという利点がある。
【0009】
本発明の一実施態様に係る発熱システムは、速い発熱速度を実現し、発熱部の飽和発熱温度到達時間が短いという利点がある。
【0010】
本発明の一実施態様によれば、発熱部の光透過度に優れ、発熱部の曲面加工が容易であるという利点がある。
【0011】
本発明の一実施態様に係る発熱システムは、ジュール発熱による発熱システムに比べて低い消費電力を用いて同等の発熱効率を実現できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施態様に係る発熱システムにおける、発熱層の発熱現象を模式的に示すものである。
図2】実施例1により製造されたそれぞれの発熱部を示すものである。
図3】実験例1によるそれぞれの発熱部の温度分布を示すものである。
図4】実験例1によるそれぞれの発熱部の温度変化を示すものである。
図5】実験例2による実施例1の発熱部および比較例1の発熱部の飽和温度到達時間を測定したグラフである。
図6】実験例3による実施例1および比較例1の飽和温度到達後の温度均一度を測定したものである。
図7】実験例4によるそれぞれの発熱部の温度分布を示すものである。
図8】実施例1、実施例2-1および実施例2-2によるそれぞれの発熱部の温度変化を示すものである。
図9】実験例5による電磁波走査後の除霜効果の結果を示すものである。
図10】実験例5による電磁波走査後のガラス瓶の赤外線写真を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0014】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0015】
以下、本明細書についてより詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施態様は、基材と、該基材上に備えられ、グラフェンを含む発熱層とを含む発熱部と、前記発熱部の少なくとも一領域に電磁波を走査する電磁波走査部と、前記電磁波走査部の作動を制御する制御部とを含み、前記発熱層は、前記電磁波を吸収して熱を放出する発熱システムを提供する。
【0017】
また、本発明の一実施態様は、基材と、該基材上に備えられ、グラフェンを含む発熱層とを含み、前記発熱層は、電磁波を吸収して熱を放出するものである発熱体を提供する。
【0018】
本明細書の一実施態様に係る前記発熱体は、前記発熱システムの発熱部と同一のものであってもよい。また、本明細書の一実施態様に係る前記発熱体の基材および発熱層などの構成は、前記発熱システムの発熱部の構成と同一のものであってもよい。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、前記基材は、前記発熱層が備えられるための支持体を意味することができる。また、前記基材は、場合によっては、発熱が必要な部材自体でもよいし、この場合、前記発熱層は、前記発熱が必要な部材自体に備えられる。例えば、具体的には、発熱が必要な自動車ガラスの場合、前記基材は、自動車ガラス自体でもよいし、この場合、自動車ガラスに前記発熱層が備えられる。あるいは、別途の基材上に発熱層を備えて発熱部を製造した後、これを自動車ガラスに付着させてもよい。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、前記基材は、透明基材であってもよい。また、前記基材は、柔軟性基材であってもよい。具体的には、前記基材の可視光線波長領域における平均光透過度は、80%以上または85%以上、より具体的には、90%以上であってもよい。
【0021】
また、前記基材は、ガラス基材、高分子基材、またはシリコンベースの基材であってもよい。前記高分子基材は、PET(Polyethylene Terephthalate)、PMMA[poly(methyl methacrylate)]、PVDF[Poly(viniylidine flouride)]、およびPANI(polyaniline)からなる群より選択される1種以上を含む基材であってもよい。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンは、酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、グラフェンシート、およびグラフェンフレークからなる群より選択される1種以上を含むことができる。ただし、前記グラフェンはこれに限定されるものではなく、グラフェンを含むグラフェンナノ構造体またはグラフェン誘導体を含むことができる。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱層は、前記基材上に備えられたグラフェンシートを含み、酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、およびグラフェンフレークの少なくとも1種をさらに含むものであってもよい。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱層は、前記電磁波の吸収により誘導される前記グラフェンの反磁性状態での電荷移動によって発熱するものであってもよい。具体的には、前記グラフェンの前記電磁波走査部から走査される電磁波を吸収して反磁性で誘導され、吸収された電磁波はグラフェン内の電荷のオービタルスピンを誘導し、これによって発熱可能になる。前記発熱層は、前記電磁波の走査により発生する誘導電流によって、ジュール発熱も同時に実現可能である。ただし、誘導電流によるジュール発熱現象は、前記発熱層の主な発熱効果ではなく、前記電磁波の吸収による電荷移動による発熱に比べてわずかな水準に過ぎない。
【0025】
すなわち、本発明の一実施態様に係る発熱システムの発熱部は、一般的なジュール発熱のように発熱層の電気伝導度による抵抗を用いて発熱するのではなく、電磁波の吸収による電荷移動性を利用して発熱するものである。
【0026】
図1は、本発明の一実施態様に係る発熱システムにおける、発熱層の発熱現象を模式的に示すものである。具体的には、図1によれば、電磁波走査部(図示せず)から放出される電磁波(EM)が発熱層のグラフェンシートの中央に走査され、電磁波を吸収したグラフェンシートの一領域では電荷のオービタル回転による磁気モーメント振動が発生し、前記磁気モーメント振動は周辺に拡散して、発熱層の迅速かつ効率的な発熱を実現できることを示すものである。
【0027】
本明細書における「グラフェンシート」は、複数の炭素原子が互いに共有結合で連結されてポリサイクリック芳香族分子を形成するグラフェンが層またはシート形態を形成したものであって、前記共有結合で連結された炭素原子は、基本的な繰り返し単位として6員環を形成するが、5員環および/または7員環をさらに含むことも可能である。したがって、前記グラフェンシートは、互いに共有結合した炭素原子(通常、sp結合)の単一層として見える。前記グラフェンシートは多様な構造を有することができ、このような構造は、グラフェン内に含まれる5員環および/または7員環の含有量に応じて異なる。前記グラフェンシートは、上述のように、グラフェンの単一層からなってもよいが、これらが複数互いに積層されて複数層を形成することも可能であり、通常、前記グラフェンの側面末端部は水素原子で飽和する。
【0028】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、単層グラフェンシート(monolayered grapheme sheet)または多層グラフェンシート(multilayered grapheme sheet)であってもよい。
【0029】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、1層以上10層以下のグラフェンシートであってもよい。具体的には、本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、3層以上8層以下のグラフェンシートを含むことができ、より具体的には、4層以上6層以下のグラフェンシートを含むことができる。
【0030】
前記グラフェンシートが前記範囲内のグラフェン層を形成する場合、グラフェンシートの反磁性を高めて、発熱部の迅速な温度上昇および高い温度均一度を誘導することができ、前記発熱部の光透過度を確保することができるという利点がある。前記発熱部が10層を超えたグラフェンシートからなる場合、温度上昇および温度均一度の上昇による利点の増加はわずかになり、製造費用の上昇を誘発することがある。また、前記発熱部が10層を超えたグラフェンシートからなる場合、光透過度の低下をもたらして透明な発熱部としての機能を果たせないことがある。ただし、前記グラフェンシートの層数は前記範囲内に限定されるものではなく、用途に応じて調節可能である。例えば、透明な発熱部の用途の場合、前記グラフェンシートの層数を10層以内に調節して、光透過度および発熱効率を調節することができる。また、高い発熱効率が必要な不透明発熱部の用途の場合、前記グラフェンシートの層数を10層以上に調節することができる。
【0031】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、周知の方法により形成可能である。具体的には、本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、化学気相蒸着法を利用して形成され、具体的には、高温化学気相蒸着(Rapid Thermal Chemical Vapour Deposition;RTCVD)、誘導結合プラズマ化学気相蒸着(Inductively Coupled Plasma-Chemical Vapor Deposition;ICP-CVD)、低圧化学気相蒸着(Low Pressure Chemical Vapor Deposition;LPCVD)、常圧化学気相蒸着(Atmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition;APCVD)、金属有機化学気相蒸着(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)、またはプラズマ化学気相蒸着(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition;PECVD)を利用して形成される。
【0032】
また、前記グラフェンシートは、常圧、低圧、または真空下で形成可能である。具体的には、前記グラフェンシートを形成するステップが常圧条件下で行われる場合、ヘリウム(He)などをキャリアガスとして用いることにより、高温で重いアルゴン(Ar)との衝突によって引き起こされるグラフェンの損傷(damage)を最小化させることができる。尚、前記グラフェンシートを形成するステップが常圧条件下で行われる場合、低費用で簡単な工程によりグラフェンシートを製造することができるという利点がある。また、前記グラフェンシートを形成するステップが低圧または真空条件で行われる場合、水素を雰囲気ガスとして用い、温度を上げながら処理すれば、金属触媒の酸化した表面を還元させることにより、高品質のグラフェンシートを合成することができる。
【0033】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、薄膜または箔形態の金属材質のグラフェン成長支持体をロール形態で管状の炉(furnace)に入れて、炭素ソースを含む反応ガスを供給し、常圧で熱処理することにより形成される。具体的には、前記炭素ソースを気相で供給しながら、300℃~2000℃の温度で熱処理して、前記炭素ソースに存在する炭素成分の結合による6角形の板状構造のグラフェンシートが形成される。
【0034】
また、本発明の一実施態様によれば、前記グラフェンシートは、単一層グラフェンシートを繰り返し形成することにより、多層のグラフェンシートを形成することができる。
【0035】
本発明の一実施態様によれば、前記電磁波は、前記電磁波走査部から前記発熱部の少なくとも一領域に走査されるものであってもよい。具体的には、前記電磁波は、前記発熱層の少なくとも一領域に走査されるものであってもよい。前記電磁波は、前記発熱層に直接走査されてもよく、前記基材に走査されて前記基材を通過して前記発熱層に到達することもできる。
【0036】
上述のように、本発明の一実施態様に係る発熱システムの発熱層は、電気伝導度による抵抗を用いるのではなく、電磁波の吸収によるグラフェン内の電荷の動きを利用するものであるので、前記電磁波が前記発熱層の一部領域にのみ走査されても、前記グラフェン内の電荷の動きが周辺に伝播して全体的に発熱が行われる。
【0037】
前記発熱部の飽和温度到達時間をより短縮するために、電磁波の前記発熱層に走査される領域を拡大することができ、これは、前記発熱部の用途に応じて調節可能である。
【0038】
本発明の一実施態様によれば、前記電磁波走査部は、前記発熱部に電磁波を走査できる手段であれば制限なく利用可能である。前記電磁波走査部は、前記発熱部と離隔して位置し、前記発熱部と直接接しなくてもよい。
【0039】
本発明の一実施態様によれば、前記電磁波走査部は、1MHz以上100GHz以下の周波数の電磁波を走査するものであってもよい。
【0040】
本発明の一実施態様によれば、前記制御部は、前記電磁波走査部の作動を制御するものであってもよい。具体的には、前記制御部は、外部電源から前記電磁波走査部に電源を供給または遮断する役割を果たすことができ、さらに、前記電磁波走査部の出力を調節する役割を果たすことができる。具体的には、前記制御部は、前記電磁波走査部から走査される電磁波の周波数および出力を調節して、前記発熱部の発熱速度を調節することができる。
【0041】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱部は、前記基材と前記発熱層との間に備えられた自己組織化単分子膜(SAM;Self-Assembled Monolayer)をさらに含むことができる。
【0042】
前記自己組織化単分子膜は、前記グラフェン内の電荷移動性を調節する役割を果たして、前記発熱層の発熱速度および温度均一度などを調節することができる。具体的には、前記自己組織化単分子膜は、前記グラフェンのディラック電圧(Dirac-voltage)を0V近くに移動させることができ、これによって、前記グラフェン内の電荷移動性を増加させて、電磁波の吸収による発熱効率を上昇させることができる。
【0043】
自己組織化単分子膜は、固体表面、例えば、基材上に自発的に形成される有機単分子膜を意味することができる。前記有機単分子膜を形成するのに用いられる分子の構造は、ヘッドグループ(head group)、アルキル鎖(alkyl chain)、ターミナルグループ(terminal group)に分けられる。
【0044】
前記自己組織化単分子膜は、構成分子中の一部が基材表面に吸着されると同時に、分子同士の相互作用による超分子組織体が形成されることにより作られる。また、前記自己組織化単分子膜は、溶液状または気体状で作られる。
【0045】
本発明の一実施態様によれば、前記自己組織化単分子膜は、アルキルシロキサン自己組織化単分子膜(SAM of Alkylsiloxanes)、アルカンチオール自己組織化単分子膜(SAM of Alkanethiols)、アルキル自己組織化単分子膜(SAM of Alkyl)、アルカンリン酸自己組織化単分子膜(SAM of Alkanephosphonic Acid)、または3,4-ジヒドロキシフェニルエチルアミン自己組織化単分子膜(SAM of 3,4-Dihydroxyphenylethylamine)であってもよい。
【0046】
具体的には、本発明の一実施態様によれば、前記自己組織化単分子膜は、アルキルシロキサン自己組織化単分子膜(SAM of Alkylsiloxanes)であってもよいし、より具体的には、前記自己組織化単分子膜は、γ-aminopropyltriethoxysilane(APS)を用いた自己組織化単分子膜、またはoctadecyltrichlorosilane(OTS)を用いた自己組織化単分子膜であってもよい。
【0047】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱部の可視光線波長における平均光透過度は、80%以上95%以下であってもよい。また、前記発熱部の550nmの波長における光透過度は、80%以上95%以下であってもよい。具体的には、前記発熱部の可視光線波長領域における平均光透過度は、80%以上または85%以上であってもよいし、95%以下または90%以下であってもよい。
【0048】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱部は、別途の電極を備えないものであってもよい。具体的には、本発明の一実施態様に係る発熱システムは、発熱部の抵抗を用いたものではないので、発熱部に電圧を印加するための金属電極を備えなくてもよい。これによって、前記発熱部は、電極による不透明部を除去して全面に対して透明性を確保することができ、金属電極の加工を必要としないので、曲面など所望の形態への加工が容易であるという利点がある。
【0049】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱層の飽和温度での温度均一度は、60%以上であってもよい。具体的には、前記発熱層の飽和温度での温度均一度は、60%以上90%以下であってもよい。
【0050】
前記発熱層の飽和温度での温度均一度は、熱画像カメラで撮影されたイメージのピクセルを、Matlabプログラムを用いて定量処理して計算されたものであってもよい。
【0051】
本明細書における飽和温度は、発熱層の温度がそれ以上上昇せずに一定温度を維持する場合の温度を意味することができる。例えば、前記飽和温度は、電磁波を前記発熱層に走査する場合、それ以上温度が上昇しない時の温度を意味することができる。
【0052】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱層の飽和温度到達時間は、9cm×9cmの面積で40秒以内であってもよい。具体的には、本発明の一実施態様によれば、前記発熱層の飽和温度到達時間は、9cm×9cmの面積で30秒以内または20秒以内であってもよい。
【0053】
前記発熱部は、発熱層の電気抵抗を用いるものではないので、高い温度均一度を実現することができる。ジュール発熱のように電気伝導体の抵抗を用いた発熱体の場合には、抵抗の低い所に電流が流れてしまい、均一な温度分布を実現することが非常に難しい問題がある。しかし、本発明に係る発熱システムの発熱部は、電磁波の吸収によるグラフェン内の電荷移動性を利用するものであるので、飽和温度への到達時間が速いだけでなく、飽和温度での温度均一度も非常に優れるという利点がある。
【0054】
本発明の一実施態様によれば、前記発熱システムは、既存の発熱体を代替して適用可能であり、より低い電力を用いて高効率で発熱させることができるという利点がある。さらに、前記発熱システムは、大面積および平面構造で製造が可能であり、自動車、船、飛行機などに用いられるガラス板、山間地域の道路交通表示板、視野角確保ミラー、軍事用装備画面、スキーゴーグル、ビルに用いられるガラス壁、室内ガラスなどの多様な分野にわたって使用可能であり、冬季のガラスに発生する霜を防止または霜防止のための手段として使用可能である。具体的には、前記発熱システムは、自動自用ガラスに適用して除霜に使用可能であり、湿気に弱い電子製品に適用して湿度を下げるための用途に使用可能である。
【0055】
[実施例]
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に述べる実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0056】
[実施例1]
25μmの厚さの銅箔(Alfa Aesar、99.99%)を化学気相蒸着装置にローディングした後、70mTorrおよび4sccm以下のHガスおよび650mTorrおよび35sccm以下のCHガスを1,000℃の雰囲気で供給し、単層のグラフェンシートを形成した。製造されたグラフェンシート上に減圧粘着テープ(PSAF;Presure Sensitive Adhesive Film)を付着させた後、0.1Mのアンモニウムスルフェート溶液を用いて銅箔をエッチングして除去し、蒸留水を用いて洗浄した後、乾燥した。さらに、石英ガラス基材上に前記グラフェンシートを転写し、減圧粘着テープを除去して1層のグラフェンシートがガラス基材上に備えられた発熱部を製造した。さらに、前記グラフェンシートを転写する過程を繰り返して、2層から4層のグラフェンシートがガラス基材上に備えられた発熱部を製造した。
【0057】
さらに、電磁波走査のために、2.45GHzの周波数を放出し、50W~700Wの出力を有する電子レンジを用意した。
【0058】
図2は、実施例1により製造されたそれぞれの発熱部を示すものである。具体的には、図2は、グラフェンシートを備えない石英ガラス(none)、1層のグラフェンシートが備えられた発熱部(mono)、2層のグラフェンシートが備えられた発熱部(bi)、3層のグラフェンシートが備えられた発熱部(tri)、4層のグラフェンシートが備えられた発熱部(tetra)を示すものである。図2によれば、4層のグラフェンシートが備えられた発熱部(tetra)の場合にも、グラフェンシートが備えられない石英ガラス基材(none)に比べて著しく低下せず、光透過度を維持することを確認することができる。
【0059】
[実験例1]
前記実施例1で製造されたそれぞれの発熱部に前記電子レンジを用いて2.45GHzの周波数および70Wの出力で10秒間電磁波を走査した後の発熱部の温度分布を、赤外線カメラ(FLIR T650sc)を用いて測定した。
【0060】
図3は、実験例1によるそれぞれの発熱部の温度分布を示すものである。図3によれば、グラフェンシートが積層されていない石英ガラス基材(None)の場合には温度変化がなく、グラフェンシートが多く積層されるほど、速い温度上昇がなされたことを確認することができる。
【0061】
本発明に係る前記発熱部は、グラフェンシートの層数が増加するほど、発熱効率は増加するが、光透過度は低下する傾向を示すことが分かる。そのため、光透過度を考慮した用途に合わせてグラフェンシートの層数を調節して、発熱部の温度上昇速度および発熱効率などを調節することができる。
【0062】
図4は、実験例1によるそれぞれの発熱部の温度変化を示すものである。具体的には、図4の横軸は、図3の試料の配列による距離を意味し、縦軸は、各位置に相当する試料の温度変化を示すものである。図4によれば、グラフェンシートを備えない石英ガラス(None)、1層のグラフェンシートが備えられた発熱部(Mono)、2層のグラフェンシートが備えられた発熱部(Bi)、3層のグラフェンシートが備えられた発熱部(Tri)、4層のグラフェンシートが備えられた発熱部(Tetra)の温度変化を示すものであり、グラフェンシートの層数が多くなるほど、温度変化の幅は大きくなることが分かる。
【0063】
[比較例1]
実施例1の方法により、1層から4層のグラフェンシートを石英ガラス基材上に備え、それぞれのグラフェンシートの両末端に厚さ1μm、幅7cmの銅電極を形成した後、銅電極に電源を連結してジュール発熱体を製造した。
【0064】
[実験例2]
実施例1と同様の方法で製造した4つの層のグラフェンシートを含む発熱部および電磁波走査のための電子レンジを用意した後、2.45GHzの周波数および70Wの出力で160秒間電磁波を発熱部に走査した。さらに、比較例1における4つの層のグラフェンシートを含むジュール発熱体の銅電極に70Wの電力で電流を供給して、グラフェンシートのジュール発熱を誘導した。
【0065】
図5は、実験例2による実施例1の発熱部および比較例1の発熱部の飽和温度到達時間を測定したグラフである。図5によれば、同一の条件でジュール発熱による発熱を利用する比較例1に比べて、電磁波の吸収による発熱を利用する実施例1の方が、より速く飽和温度に到達することを確認することができる。
【0066】
[実験例3]
実施例1と同様の方法で製造した1層から4層のグラフェンシートを含む発熱部を9cm×9cmの大きさでそれぞれ用意し、電磁波走査のための電子レンジを用意した後、2.45GHzの周波数および70Wの出力で10秒間電磁波を発熱部に走査して飽和温度に到達させた。さらに、比較例1における1層から4層のグラフェンシートを含むジュール発熱体を9cm×9cmの大きさでそれぞれ用意し、それぞれのジュール発熱体の銅電極に70Wの電力で電流を10秒間供給して、グラフェンシートのジュール発熱を誘導して飽和温度に到達させた。
【0067】
図6は、実験例3による実施例1および比較例1の飽和温度到達後の温度均一度を測定したものである。図6における飽和温度到達後の温度均一度は、熱画像カメラで撮影されたイメージのピクセルを、Matlabプログラムを用いて定量処理して計算した。図6によれば、同一の条件でジュール発熱による発熱を利用する比較例1に比べて、電磁波の吸収による発熱を利用する実施例1の方が、飽和温度到達後の温度均一度に優れていることを確認することができる。
【0068】
[実施例2-1]
300nmの厚さにSiコーティングされたp型ドーピングシリコン基材を用意し、これをPiranha溶液で処理後、蒸留水で洗浄し、反応容器に置いた。そして、20mlのトルエン溶液を反応容器に添加し、10mMのγ-aminopropyltriethoxysilane(APS)を添加した。さらに、アルゴンガス雰囲気で2時間反応させた後、反応済みの基材を120℃の雰囲気で10分間熱処理をし、3分間超音波処理をした。そして、前記基材を洗浄してトルエン溶液を除去した後、乾燥して、APS-自己組織化単分子膜(SAM of γ-aminopropyltriethoxysilane)が形成された基材を製造した。
【0069】
さらに、前記基材を用いて、実施例1と同様の方法で4つの層のグラフェンシートを接合して発熱部を製造し、実施例1と同一の電磁波走査のための電子レンジを用意した。
【0070】
[実施例2-2]
γ-aminopropyltriethoxysilane(APS)の代わりにoctadecyltrichlorosilane(OTS)を適用してOTS-自己組織化単分子膜(SAM of octadecyltrichlorosilane)を形成したことを除き、実施例2-1と同様の方法で発熱部を製造し、実施例1と同様に、電磁波走査のための電子レンジを用意した。
【0071】
[実験例4]
実施例2-1および2-2による発熱部、および実施例1による4つの層のグラフェンシートを含む発熱部に70Wの出力で10秒間電磁波を走査した後の発熱部の温度分布を、赤外線カメラ(FLIR T650sc)を用いて測定した。
【0072】
図7は、実験例4によるそれぞれの発熱部の温度分布を示すものである。図7によれば、APS-自己組織化単分子膜またはOTS-自己組織化単分子膜が備えられた発熱部における温度分布は、自己組織化単分子膜を含まない発熱部と異なることを確認することができる。これによって、自己組織化単分子膜を用いてグラフェンシートの電荷移動を調節して、発熱部の発熱を調節できることが分かる。
【0073】
図8は、実施例1、実施例2-1および実施例2-2によるそれぞれの発熱部の温度変化を示すものである。具体的には、図8の横軸は、図7の試料の配列による距離を意味し、縦軸は、各位置に相当する試料の温度変化を示すものである。図8によれば、自己組織化単分子膜を含まない実施例1による発熱部は、APS-自己組織化単分子膜を含む実施例2-1による発熱部およびOTS-自己組織化単分子膜が備えられた実施例2-2による発熱部より、グラフェンシート内の電荷移動度が低くて熱発生が少なかったことを確認することができた。
【0074】
[実験例5]
本発明に係る発熱システムの効果を確認するために、実施例1における1層のグラフェンシートが備えられた発熱部を曲面加工してガラス瓶の表面に付着させ、温度を下げて霜が形成されるようにした。そして、発熱部に70Wの出力で5秒間電磁波を走査した後の結果を観察した。対照群として、グラフェンシートが備えられない曲面のガラスをガラス瓶の表面に付着させ、同様に霜形成後に電磁波を走査した後の結果を観察した。
【0075】
図9は、実験例5による電磁波走査後の除霜効果の結果を示すものである。図9によれば、実施例1による1層のグラフェンシートが備えられた発熱部が付着したガラス瓶(Graphene)は、除霜がなされているのに対し、グラフェンが備えられない基材を付着させたガラス瓶(None)は、除霜がなされていないことを確認することができる。
【0076】
図10は、実験例5による電磁波走査後のガラス瓶の赤外線写真を示すものである。図10によれば、実施例1による1層のグラフェンシートが備えられた発熱部が付着した左側のガラス瓶は、発熱による温度上昇を確認することができるが、グラフェンが備えられていない基材を付着させた右側のガラス瓶は、電磁波の走査による温度上昇がないことを確認することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10