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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】音波制御器
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20231031BHJP
   A61B 8/00 20060101ALI20231031BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20231031BHJP
   H04R 19/00 20060101ALI20231031BHJP
   H04R 1/44 20060101ALI20231031BHJP
   H04R 1/34 20060101ALI20231031BHJP
   G01H 11/06 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G01H3/00 Z
A61B8/00
G10K11/172
H04R19/00
H04R1/44
H04R1/34 330B
G01H11/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020011405
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021117135
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-129391(JP,A)
【文献】特表2018-527096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0146745(US,A1)
【文献】国際公開第2019/099638(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/199397(WO,A1)
【文献】特開2019-216397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0092125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
A61B 8/00
G10K 11/172
H04R 19/00
H04R 1/44
H04R 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を有する膜構造体と、
第2電極を有する第1基板と、
前記膜構造体および前記第1基板に囲まれ、且つ、前記第1電極と前記第2電極との間に位置するギャップ層と、
前記第1電極および前記第2電極に電気的に接続された直流電源と、
前記第1基板に接合された第2基板と、
前記第2基板上に形成された受信回路と、
を備え、
前記直流電源から前記第1電極へ印加される電圧は、前記直流電源から前記第2電極へ印加される電圧と逆極性であり、
前記直流電源から前記第1電極および前記第2電極へ印加される電圧をそれぞれ調整することで、前記膜構造体における音波の反射率が制御され、
第1共振周波数を有する前記膜構造体において第1音波を反射させる場合、前記ギャップ層を介して対向している前記膜構造体および前記第1基板は離間し、
前記膜構造体において前記第1音波を透過させる場合、前記ギャップ層を介して対向していた前記膜構造体および前記第1基板を接触させることで、前記膜構造体の前記第1共振周波数が、前記第1共振周波数とは異なる第2共振周波数へ移動し、
前記受信回路は、前記第1音波を受信する、音波制御器。
【請求項2】
請求項1に記載の音波制御器において、
前記膜構造体において前記第1音波を反射させる場合、前記直流電源から前記第1電極へ第1電圧が印加され、前記直流電源から前記第2電極へ前記第1電圧と逆極性の第2電圧が印加され、前記第1電圧および前記第2電圧の電位差の絶対値が閾値電位差の絶対値よりも小さくなる、または、前記直流電源から前記第1電極および前記第2電極へ電圧が印加されず、
前記膜構造体において前記第1音波を透過させる場合、前記直流電源から前記第1電極へ前記第1電圧よりも絶対値の大きい第3電圧が印加され、前記直流電源から前記第2電極へ前記第3電圧と逆極性であり、且つ、前記第2電圧よりも絶対値の大きい第4電圧が印加され、前記第3電圧および前記第4電圧の電位差の絶対値が前記閾値電位差の絶対値以上となる、音波制御器。
【請求項3】
請求項1に記載の音波制御器において、
前記直流電源は、電圧の大きさを変更可能な電源である、音波制御器。
【請求項4】
請求項1に記載の音波制御器において、
前記膜構造体の前記第1共振周波数および前記第2共振周波数は、低次モードおよび高次モードを含む振動モードを有し、前記膜構造体における前記第1音波の透過または反射には、低次モードおよび高次モードの何れも利用可能である、音波制御器。
【請求項5】
請求項に記載の音波制御器において、
前記第2基板上に形成され、且つ、前記第1音波を送信するための送信回路を更に備える、音波制御器。
【請求項6】
請求項に記載の音波制御器において、
前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた介在層を更に有し、
前記第1基板および前記第2基板は、前記介在層を介して接合されている、音波制御器。
【請求項7】
請求項1に記載の音波制御器において、
前記ギャップ層は、前記膜構造体および前記第1基板に囲まれた空洞部と、前記空洞部に存在する気体とによって構成されている、音波制御器。
【請求項8】
請求項1に記載の音波制御器において、
前記ギャップ層は、前記膜構造体および前記第1基板に囲まれた空洞部と、前記空洞部に存在する液体とによって構成されている、音波制御器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波制御器に関し、特に、物体を伝搬する音波の反射率を制御可能な音波制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
可聴域または超音波領域に限定されることなく、音波を利用する様々な音響機器および音響施設が利用されている。上記音響機器の例として、スピーカー、マクロフォン、医療用超音波装置、非破壊検査装置または海洋ソナーなどがあり、上記音響施設の例として、音楽ホールなどがある。これらの音響機器および音響施設では、目的に応じて、様々な物体に対して音波を効率的に透過または反射させることが行なわれる。
【0003】
例えば、海洋ソナーでは、送信器および受信器が別々に設置される場合があるが、送信器の前方に受信器が設置される場合、送信時では、送信器から送信される音波を、効率的に受信器を透過させて周囲に放射させることが望まれる。一方で、受信時では、受信器の前面側から伝達される音波のみを高感度に受信することが望まれ、受信器の背面側から伝達される音波を遮断し、音波を効率的に反射したいという要求がある。
【0004】
また、音楽ホールでは、演奏の内容またはホールの観客の配置などによって、室内の壁、天井および床などからの反響音を能動的に制御したいという要求がある。また、将来的には、音波の反射および透過を平面上において制御することで、音響的な模様を作り出す技術(音響ディスプレイ)または音響上の擬態などが考案されている。
【0005】
単純な均質媒質(弾性体)の場合、音波の反射率および透過率は、弾性体の音響インピーダンス、弾性体の厚さおよび音波の波長によって決定されるという事は、音響伝搬理論から周知の事実である。
【0006】
同じ音響機器および音響施設においては、その時々で透過率および反射率を変化させたい場合がある。一般的に、均一な弾性体としてバルク材料が用いられる場合、バルク材料の固有音響インピーダンスと周囲の固有音響インピーダンスとの差が大きいので、厚いバルク材料を介在させることで、音波が透過し難くなる。逆に、薄いバルク材料を介在させることで、音波が透過し易くなる。従って、弾性体によって音波の反射および透過を同時に最適化することは、困難である。
【0007】
音波の送受信を行う音波制御器の一種として、音波トランスデューサが知られている。従来では、圧電現象を利用した圧電セラミクスを用いた音波トランスデューサが主流であったが、近年では、コンデンサ型のマイクロフォン、または、半導体プロセスを応用したCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasound Transducer)構造と呼ばれる音響デバイスが用いられている。
【0008】
例えば、特許文献1には、空洞部を介して設置された電極に、ある一定の電圧を印加することで、超音波トランデューサとしての周波数特性を変化させることが可能なCMUT構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2016-533825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、均一な弾性体であるバルク材料を用いて、音波の反射および透過を制御することは、原理的に困難である。少なくとも、効率的な反射を行うためには、バルク材料が一定の固有音響インピーダンスおよび厚さを有している必要がある。それ故、設置場所の確保が困難となる問題、または、重量の増加という問題が発生する。
【0011】
音波トランスデューサの送受信特性を変化させる方法は存在するが、物体を伝搬する音波の反射率および透過率を、能動的、且つ、効率的に制御することができないという課題がある。仮に、小型または薄い音波制御器によって、物体を伝搬する音波の反射率および透過率を能動的に変化させることが可能となれば、より広い分野における応用が期待できる。従って、そのような音波制御器の開発が望まれ、音波の反射率および透過率を精度良く制御できるように、音波制御器の性能を向上させる技術の構築が望まれる。また、音波制御器を用いた音響機器の性能を向上させることが望まれる。
【0012】
その他の目的および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
一実施の形態における音波制御器は、第1電極を有する膜構造体と、第2電極を有する第1基板と、前記膜構造体および前記第1基板に囲まれ、且つ、前記第1電極と前記第2電極との間に位置するギャップ層と、前記第1電極および前記第2電極に電気的に接続された直流電源と、を備える。ここで、前記直流電源から前記第1電極へ印加される電圧は、前記直流電源から前記第2電極へ印加される電圧と逆極性であり、前記直流電源から前記第1電極および前記第2電極へ印加される電圧をそれぞれ調整することで、前記膜構造体における音波の反射率が制御される。
【発明の効果】
【0015】
一実施の形態によれば、性能の良い音波制御器を提供できる。また、音響機器の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1における具体的な課題を説明するための断面図である。
図2A】実施の形態1で利用される基本的な物理現象の説明図である。
図2B】実施の形態1で利用される基本的な物理現象の説明図である。
図3A】実施の形態1で利用される基本的な物理現象の説明図である。
図3B】実施の形態1で利用される基本的な物理現象の説明図である。
図4A】実施の形態1で利用される基本的な物理現象の説明図である。
図4B】実施の形態1で利用される基本的な物理現象の説明図である。
図5】実施の形態1における音波制御器を示す断面図である。
図6】実施の形態1における音波制御器を示す詳細な断面図である。
図7】実施の形態1における音波の反射率および周波数の関係を示すグラフである。
図8】実施の形態1における音波の反射率および周波数の関係を示すグラフである。
図9】実施の形態1における音波の反射率および周波数の関係を示すグラフである。
図10】実施の形態1における音波の反射率および周波数の関係を示すグラフである。
図11】変形例1における音波制御器を示す断面図である。
図12】変形例2における音波制御器を示す断面図である。
図13】変形例3における音波制御器を示す断面図である。
図14】実施の形態2における海洋ソナーを示す断面図である。
図15】実施の形態2における海洋ソナーの一部を示す要部断面図である。
図16】実施の形態3における音響ディスプレイを示す断面図である。
図17】実施の形態3における音響ディスプレイを示す平面図である。
図18】実施の形態4における音波制御器を示す断面図である。
図19】変形例4における音波制御器を示す断面図である。
図20】変形例5における音波制御器を示す断面図である。
図21】実施の形態5における音波制御器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0018】
また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図であってもハッチングを付す場合もあるし、断面図であってもハッチングを省略する場合もある。
【0019】
(実施の形態1)
まず、図1を用いて、実施の形態1における具体的な課題について説明する。図1には、音波を利用する音響機器として、海洋ソナー200が例示されている。
【0020】
図1に示されるように、海洋ソナー200は、複数の受信器1および送信器2を備える。複数の受信器1の各々は、音波を受信するための受信回路を有し、送信器2は、音波を送信するための送信回路を有する。
【0021】
複数の受信器1は、送信器2を中心として、送信器2の周囲に複数の独立チャネルとしてアレイ化されて配置されている。送信器2は周囲に音波を送信し、送信器2から送信された音波はある物体に伝達される。上記物体で反射した音波を受信器1によって受信することで、上記物体の存在などを把握することが可能となる。
【0022】
送信器2から送信された音波のうち、一部が受信器1を透過する透過波(送信音波)SW1となり、他の一部が受信器1で反射する反射波(送信音波)SW2となる。送信時において、透過波SW1が受信器1を透過する必要があるが、限られた消費可能なエネルギーの中で、透過波SW1をより効率的に周囲に送信するためには、反射波SW2の発生を抑制する必要がある。それ故、通常、受信器1は薄く構成され、音波が透過しやすい構造となっている。
【0023】
一方で、受信時において、受信器1の前面側から伝搬される受信音波SW3のみを、選択的に受信することが効率的である。しかしながら、受信器1が受信する音波には、受信器1を透過し、送信器2で反射して受信器1に到達する背面反射波(受信音波)SW4、および、背面側に存在する他の受信器1を透過した背面透過波(受信音波)SW5などが含まれる。
【0024】
そうすると、前面側からの受信音波SW3と、背面側からの背面反射波SW4および背面透過波SW5との区別がつかない状況が発生する。それ故、高精度に物体の情報が取得できないという問題がある。従って、送信時には受信器1を効率的に透過させ、受信時には受信器1の背面側からの音波を効率的に反射させる技術が求められる。
【0025】
次に、図2A図2B図3A図3B図4Aおよび図4Bを用いて、実施の形態1で利用される基本的な物理現象について説明する。
【0026】
図2Aは、弾性体であるバルク材料における音波の反射および透過を示す断面図であり、図2Bは、反射率および周波数の関係を示すグラフである。図2Aまたは図2Bにおいて、符号zはバルク材料の固有音響インピーダンスであり、符号zおよび符号zはバルク材料の外部の物質の固有音響インピーダンスであり、符号Dはバルク材料の厚さである。周波数fは、音波の位相速度cおよび音波の波長λの除算(f=c/λ)で表される。
【0027】
バルク材料に対して音波SW6が入射した場合、音波SW6のうち、一部が反射波SW7となり、他の一部が透過波SW8となる。また、反射率Rは、バルク材料の厚さDが無限である場合(D=∞)、すなわち、厚さDが関心周波数の波長λよりも十分厚い場合(λ<<D)には、以下の式(1)で表される。透過率Tは、以下の式(2)で表される。なお、ここでは、海中のような状況を想定し、固有音響インピーダンスzが固有音響インピーダンスzと等しいとする(z=z)。
【0028】
R =(z-z)/(z+z) (1)
T=1-R =2z/(z+z) (2)
図2Bに示されるように、バルク材料の厚さDが無限(D=∞)である場合、周波数依存性はなく、反射率Rは一定値となる。一方で、厚さDが有限である場合(D≠∞)、すなわち、厚さDが関心周波数の波長λよりも十分厚くない場合、低周波帯では音波SW6が反射せず、透過波SW8がバルク材料を透過するようになる。言い換えれば、波長が長い領域では反射率が低く、透過波SW8がバルク材料を透過するようになる。従って、バルク材料の材料が決定している場合、音波SW6の透過率Tおよび反射率Rは、波長λに対して厚さDでしか制御できず、一定値となる。
【0029】
また、本願で表現される「関心周波数」とは、利用したい音波の周波数を意味し、「関心周波数帯域」とは、利用したい音波の周波数の範囲を意味する。例えば、本願における音響機器である海洋ソナーなどで用いられる関心周波数帯域は、数kHz~数百kHzである。ただし、関心周波数帯域は用途によって異なるので、関心周波数帯域はその用途に合わせて適宜設計される。
【0030】
図3Aは、バルク材料を有する基板13と、薄い板状の膜構造体11と、これらに囲まれたギャップ層12とからなる構造体を示す断面図である。図3Bは、反射率および周波数の関係を示すグラフである。なお、図3Aにおける厚さDは、上記構造体の厚さであり、図2Aにおける厚さDと同等である。また、ギャップ層12は、空洞部と、空洞部に存在する気体または液体によって構成されている。
【0031】
膜構造体11では、ある周波数にて定在波が励起され、定在波が大振幅となった時に、膜構造体11が振動する。この周波数を共振周波数fresと呼ぶ。共振周波数fresは、膜構造体11の形状、材質および厚さなどで決定され、様々な振動モードによって複数の共振周波数が存在する。
【0032】
膜構造体11に音波SW6が入射した場合、ギャップ層12の周囲に位置する膜構造体11に力が加わることで、一部のエネルギーは透過波SW8として透過し、他の一部のエネルギーは反射波SW7として反射する。この場合、膜構造体11の共振周波数fresでは、音波SW6は定在波となるので、その周波数のエネルギーは膜構造体11に閉じ込められる。その結果、ギャップ層12に接する膜構造体11において、透過波SW8は伝搬し難くなり、そのエネルギーの多くが反射波SW7として反射する。
【0033】
すなわち、図3Bに示されるように、膜構造体11の共振周波数fresの付近では、反射率Rは、バルク材の材質および厚さDに依存せず、大きくなる。言い換えれば、反射率Rは、厚さDが波長λよりも十分小さい場合であっても、大きくなる。
【0034】
図4Aは、図3Aに示される膜構造体11が基板13に接触している状態を示す断面図である。図4Bは、反射率および周波数の関係を示すグラフである。
【0035】
上述のように、膜構造体11の共振周波数fresはその形状にも依存する。図4Aに示されるように、ギャップ層12を介して対向していた膜構造体11および基板13が接触することで、その共振周波数は全体的に高周波側に移動する。従って、音波SW6が入射した際に、高い反射率を示す共振周波数も高周波側に移動する。すなわち、図4Bに示されるように、図3Aの状態である共振周波数fres0から図4Aの状態である共振周波数fres1へ移動する。それ故、膜構造体11および基板13が接触する前に共振周波数fres1付近で発生した反射波SW7は、接触後においてほぼ発生せず、音波SW6の大部分が透過波SW8として膜構造体11を透過する。
【0036】
実施の形態1では、上記現象を利用して、音波の反射率および透過率を能動的に制御できる音波制御器を提供する。
【0037】
図5は、実施の形態1における音波制御器100を示す断面図であり、音波SW6の反射時および透過時におけるそれぞれの音波制御器100の状態を示している。図6は、音波制御器100を示す詳細な断面図である。図7は、反射率および周波数の関係を示すグラフである。
【0038】
実施の形態1における音波制御器100は、例えばスピーカー、マクロフォン、医療用超音波装置、非破壊検査装置、海洋ソナーまたは音響ディスプレイのような様々な音響機器に用いられる。
【0039】
図5に示されるように、音波制御器100は、電極14を有する膜構造体11、電極15を有する基板13、膜構造体11と基板13との間に位置するギャップ層12、および、直流電源16を備える。膜構造体11、ギャップ層12および基板13によってCMUT構造が構成されている。また、図5では、膜構造体11側から音波SW6が入射する様子が示されている。
【0040】
図6に示されるように、基板13は、例えば、半導体基板SUB、絶縁膜IF1、電極15および絶縁膜IF2を含む積層構造体からなる。半導体基板SUBは、例えばシリコンのような半導体材料からなる。絶縁膜IF1は、半導体基板SUB上に形成され、例えば酸化シリコンからなる。電極15は、絶縁膜IF1上に形成され、例えばアルミニウム、チタンまたはタングステンのような導電性膜からなる。絶縁膜IF2は、電極15上に形成され、例えば酸化シリコンからなる。
【0041】
なお、基板13の積層構造体は、上記構成に限られず、音波が透過可能な物質であれば、他の絶縁膜および他の導電性膜を含んでいてもよい。また、基板13の積層構造体は、例えば絶縁膜IF2の形成が省略されていてもよい。
【0042】
膜構造体11は、例えば、絶縁膜IF3、電極14および絶縁膜IF4を含む積層構造体からなる。絶縁膜IF3は、絶縁膜IF2上に形成され、例えば酸化シリコンからなる。電極14は、絶縁膜IF3上に形成され、例えばアルミニウム、チタンまたはタングステンのような導電性膜からなる。絶縁膜IF4は、電極14上に形成され、例えば窒化シリコンからなる。
【0043】
なお、膜構造体11の積層構造体は、上記構成に限られず、音波が透過可能な物質であれば、他の絶縁膜および他の導電性膜を含んでいてもよい。また、膜構造体11の積層構造体は、例えば絶縁膜IF3または絶縁膜IF4の形成が省略されていてもよい。
【0044】
半導体基板SUB、各絶縁膜および各導電性膜の各々の厚さは、特に限定されないが、ここでは基板13の厚さが、ギャップ層12を介して対向している膜構造体11の厚さよりも厚くなっている。なお、ここで言う厚さとは、膜構造体11、ギャップ層12および基板13の積層方向における厚さである。
【0045】
ギャップ層12は、膜構造体11および基板13によって囲まれている。具体的には、ギャップ層12は、膜構造体11および基板13によって囲まれた空洞部と、上記空洞部に存在する気体とによって構成されている。上記気体は、例えば窒素ガスのような不活性ガスまたは空気である。なお、ギャップ層12の上記空洞部には、上記気体に代えて液体が存在していてもよい。
【0046】
また、図6では、絶縁膜IF3が絶縁膜IF2に接触している箇所と、絶縁膜IF3が絶縁膜IF2から離間している箇所とが存在する。絶縁膜IF3および絶縁膜IF2が互いに離間し、絶縁膜IF2および絶縁膜IF3によって囲まれた箇所が、ギャップ層12を構成している。
【0047】
また、ギャップ層12は、電極14と電極15との間に設けられている。ここでは図示を省略するが、ギャップ層12は、膜構造体11、ギャップ層12および基板13の積層方向に対して垂直な平面視において、電極14および電極15に重なる位置に設けられる。従って、電極14と電極15との間で発生する電界は、ギャップ層12の内部に発生する。
【0048】
図5に示されるように、直流電源16は、膜構造体11および基板13の外部に設けられ、電極14および電極15に電気的に接続されている。直流電源16は、正電圧または負電圧を供給するための端子16aおよび端子16bを有し、端子16aは、配線などの導電性膜を介して電極14に電気的に接続され、端子16bは、配線などの導電性膜を介して電極15に電気的に接続されている。従って、端子16aおよび端子16bに、正電圧または負電圧を印加させることが可能となっている。
【0049】
なお、端子16aおよび端子16bの何れかが、正電圧側でもよいし、負電圧側でもよい。すなわち、電極14に正電圧を印加させ、且つ、電極15に負電圧を印加させてもよいし、電極14に負電圧を印加させ、且つ、電極15に正電圧を印加させてもよい。
【0050】
また、直流電源16は、一定の電圧のみだけでなく、所望の電圧となるように、電圧の大きさを変更可能な電源である。ここでは図示はしないが、直流電源16は、電極14および電極15への電圧印加の可否を制御する制御回路に、電気的に接続されている。また、電極14および電極15へ印加する電圧の大きさも、上記制御回路によって制御される。
【0051】
図5の「反射時」は、膜構造体11において音波SW6を反射させる場合の音波制御器100の状態を示し、図5の「透過時」は、膜構造体11において音波SW6を透過させる場合の音波制御器100の状態を示している。なお、音波SW6が十分に透過できるように、音波制御器100の厚さは設計されている。すなわち、音波制御器100の厚さは、図3Bにおける厚さDに相当し、関心周波数帯域における波長λよりも小さいことが望ましい。
【0052】
「反射時」の状態と「透過時」の状態とは、ある一定の閾値電位差ΔVthを境界として制御される。ここでは、「反射時」の状態は、電極14に印加される電圧および電極15に印加される電圧の電位差の絶対値が、閾値電位差ΔVthの絶対値よりも小さい場合であり、「透過時」の状態は、電極14に印加される電圧および電極15に印加される電圧の電位差の絶対値が、閾値電位差ΔVthの絶対値以上の場合である。なお、本願で電圧または電位差の大きさを比較する場合、特別な理由が無い限り、その大きさは絶対値として比較されることを意味する。
【0053】
直流電源16から電極14および電極15へ電圧を印加した場合、電極14と電極15との間に発生する静電気力によって、基板13と膜構造体11とが互いに引き合い、相対的に厚さの薄い膜構造体11が基板13よりもより大きく変位し、基板13の表面に近づいていく。そして、電極14に印加された電圧および電極15に印加された電圧の電位差が、閾値電位差ΔVth以上になると、膜構造体11は基板13に接触する。このように、直流電源16から印加される電圧を調整することで、膜構造体11と基板13との接触を制御し、膜構造体11における音波の反射率を制御することができる。
【0054】
「反射時」では、ギャップ層12を介して対向している膜構造体11および基板13が離間するように、直流電源16から電極14および電極15へ印加される電圧が調整される。
【0055】
例えば、「反射時」では、直流電源16から電極14へ絶対値の小さい第1電圧が印加され、直流電源16から電極15へ絶対値の小さい第2電圧が印加され、第1電圧および第2電圧の電位差ΔVdc1aの絶対値が閾値電位差ΔVthの絶対値よりも小さくなる。または、「反射時」では、直流電源16から電極14および電極15へ電圧が印加されない。なお、電極14へ印加される第1電圧と、電極15へ印加される第2電圧とは、互いに逆極性である。また、電位差ΔVdc1aは、後述の電位差ΔVdc1bよりも絶対値の小さい電位差である。
【0056】
ここで、図7に示されるように、このときの膜構造体11の共振周波数がfres0である場合、共振周波数fres0付近では、反射率が高いので、音波SW6は膜構造体11において高効率で反射する。
【0057】
「透過時」では、ギャップ層12を介して対向していた膜構造体11および基板13が接触するように、直流電源16から電極14および電極15へ印加される電圧が調整される。
【0058】
例えば、「透過時」では、直流電源16から電極14へ絶対値の大きい第3電圧が印加され、直流電源16から電極15へ絶対値の大きい第4電圧が印加され、第3電圧および第4電圧の電位差ΔVdc1bの絶対値が閾値電位差ΔVthの絶対値以上になる。なお、電極14へ印加される第3電圧と、電極15へ印加される第4電圧とは、互いに逆極性である。また、電位差ΔVdc1bは、上述の電位差ΔVdc1aよりも絶対値の大きい電位差である。
【0059】
ここで、図7に示されるように、共振周波数がfres0からfres1へ移動する。共振周波数fres0付近では、反射率が低いので、音波制御器100の厚さが小さくなるほど、膜構造体11において音波SW6は高効率で透過する。
【0060】
以上のように、実施の形態1によれば、音波の反射率および透過率を能動的に変化させることが可能な音波制御器100を提供できる。また、上述のように、音波SW6の反射率および透過率は、直流電源16の電圧調整によって精度良く制御されるので、性能の良い音波制御器100を提供できる。
【0061】
また、実施の形態1における直流電源16は、電圧の大きさを変更可能な電源である。それ故、共振周波数の帯域を調整することができる。
【0062】
例えば、上述のように、反射時の高効率な反射帯域は、膜構造体11の共振周波数によって決定される。CMUT構造において、共振周波数は、膜構造体11と、電極14に印加された電圧および電極15に印加された電圧の電位差の大きさとに依存する。例えば、上記電位差が大きいほど共振周波数は低周波帯域へ移動する。図8には、その様子が示されている。
【0063】
図8に示されるように、反射時において、直流電源16から電極14および電極15へ図7よりも大きな電圧を印加した場合、これらの電位差は、閾値電位差ΔVthよりも小さく、且つ、電位差ΔVdc1aよりも大きな電位差ΔVdc2aとなる。この場合、共振周波数fres0が低周波側へ移動する。このように、反射帯域を比較的自由に調整することができるので、音波制御器100は、様々な波長を有する音波に対応できる。
【0064】
また、透過時における膜構造体11および基板13の接触面積は、直流電圧によって制御することができ、この接触面積に応じて接触時の共振周波数も決定される。従って、直流電圧の大きさを制御することで、反射帯域を高効率で制御することが可能となる。図9には、その様子が示されている。
【0065】
図9に示されるように、透過時において、直流電源16から電極14および電極15へ図7よりも大きな電圧を印加した場合、これらの電位差は、閾値電位差ΔVth閾値電位差ΔVth以上であり、且つ、電位差ΔVdc1bよりも大きな電位差ΔVdc2bとなる。この場合、膜構造体11および基板13の接触面積が増加する。そうすると、共振周波数fres1が高周波側へ移動する。このように、透過帯域を比較的自由に調整することができるので、音波制御器100は、様々な波長を有する音波に対応できる。
【0066】
また、図7図8および図9に示した周波数特性では、膜構造体11の共振周波数は、無数に存在する膜構造体11の共振周波数のうち、最も低次の基本波モード(低次モード)によって例示されていた。しかしながら、実際には、膜構造体11の共振周波数は、低次モード、および、低次モードよりも高次の高次モードを含む振動モードを有する。
【0067】
図10には、低次モードの共振周波数fres0と、その次の高次モードの共振周波数fres2とを含む周波数特性が示されている。実施の形態1において、膜構造体11における音波の透過および反射には、低次モードおよび高次モードの何れも利用可能である。
【0068】
また、上述の説明において、音波制御器100について、二次元の断面構造のみが示されていたが、重要なのは膜構造体11の共振周波数である。従って、共振周波数が制御できる限りにおいて、膜構造体11、ギャップ層12および基板13の積層方向に対して垂直な平面視における膜構造体11の平面形状は、様々な形状を適用でき、例えば矩形状、円形状または最密六角形状である。
【0069】
(変形例1、変形例2)
以下に、実施の形態1の変形例1および変形例2を説明する。図11は、変形例1における音波制御器100を示す断面図であり、図12は、変形例2における音波制御器100を示す断面図である。
【0070】
図5では、膜構造体11の内部に電極14が設けられ、基板13の内部に電極15が設けられていた。しかしながら、静電気力による膜構造体11の変形が可能であれば、電極14および電極15の形成位置は、それぞれ個別に変更可能である。
【0071】
例えば、図11に示されるように、電極14および電極15がギャップ層12において露出されていてもよい。より詳細には、図6を参照して、電極14が絶縁膜IF2上に形成されていてもよく、電極15が絶縁膜IF3下に形成されていてもよい。また、ギャップ層12において露出される電極は、電極14および電極15の両方であってもよいし、何れか一方だけであってもよい。
【0072】
なお、透過時において、電極14および電極15が直接接触するが、例えば電極14側に抵抗素子を設けることで、これらが接触した場合でも、大きな電流が流れることを抑制できる。
【0073】
また、図12に示されるように、膜構造体11の外部に露出するように、電極14がギャップ層12から最も遠い箇所に位置していてもよい。より詳細には、図6を参照して、電極14が絶縁膜IF4上に形成されていてもよい。
【0074】
(変形例3)
以下に、実施の形態1の他の変形例3を説明する。図13は、変形例3における音波制御器100を示す断面図である。
【0075】
図5では、膜構造体11側から音波SW6が入射した場合を例示した。図13に示されるように、基板13側から音波SW6が入射した場合であっても、電極14および電極15に適切な電圧を印加することで、膜構造体11において音波SW6の反射率および透過率を制御することができる。
【0076】
(実施の形態2)
以下に図14および図15を用いて、実施の形態2における海洋ソナー200を説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。図14は、海洋ソナー200を示す断面図であり、図15は、図14において破線で囲まれた領域を拡大した要部断面図である。なお、図15では、図面を見易くするために、音波制御器100のうち電極14、電極15および直流電源16の図示を省略している。
【0077】
海洋ソナー200は、実施の形態1における音波制御器100を用いた音響機器である。図14に示されるように、海洋ソナー200は、複数の受信器1および送信器2を備える。複数の受信器1の各々は、音波を受信するための受信回路を有し、送信器2は、音波を送信するための送信回路を有する。音波制御器100は、送信器2と、複数の受信器1の各々との間に設けられている。
【0078】
複数の受信器1および送信器2の各々の機能と、これらで扱われる送信音波および受信音波については、図1の説明を参照されたい。
【0079】
図15の「送信時」に示されるように、送信器2から送信音波SW1を周囲に送信するタイミングにおいて、電極14に印加された電圧および電極15に印加された電圧の電位差を、閾値電位差ΔVth以上に調整することで、膜構造体11と基板13とを接触させる。送信音波SW1は、音波制御器100を高効率で透過するので、送信音波SW1の損失が抑制される。
【0080】
図15の「受信時」に示されるように、受信器1の前面から伝搬される受信音波SW3を受信するタイミングにおいて、電極14に印加された電圧および電極15に印加された電圧の電位差を、閾値電位差ΔVthよりも小さく調整することで、膜構造体11と基板13とを離間させる。受信器1の背面側から侵入してくる背面反射波SW4および背面透過波SW5は、膜構造体11において高効率で反射するので、受信音波SW3と、背面反射波SW4および背面透過波SW5との区別がつかなくなるような不具合が抑制できる。
【0081】
以上のように、音波制御器100を搭載した海洋ソナー200によって、送信時には受信器1を効率的に透過させ、受信時には受信器1の背面側からの音波を効率的に反射させることができるので、音響機器である海洋ソナー200の性能を向上させることができる。
【0082】
また、図15では、基板13が受信器1側に位置し、且つ、膜構造体11が送信器2側に位置している。ここで、図5のように膜構造体11側から音波が入射した場合、または、図9のように基板13側から音波が入射した場合の何れであっても、膜構造体11において音波の反射率および透過率を制御することはできる。
【0083】
しかしながら、音波制御器100では、相対的に厚さの薄い膜構造体11によって、音波の反射率を能動的に制御している。それ故、背面反射波SW4および背面透過波SW5の近くに膜構造体11が位置していることで、背面反射波SW4および背面透過波SW5をより高効率で反射させることができる。
【0084】
(実施の形態3)
以下に図16および図17を用いて、実施の形態3における音響ディスプレイ300を説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。図16は、音響ディスプレイ300を示す断面図であり、図17は、音波制御器100および減衰層17の積層方向に対して垂直な平面視における音響ディスプレイ300の平面図である。なお、図16では、図面を見易くするために、音波制御器100のうち膜構造体11以外の図示または符号を省略している。
【0085】
音響ディスプレイ300は、実施の形態1における音波制御器100を用いた音響機器である。図16に示されるように、音響ディスプレイ300は、複数の減衰層17と、複数の音波制御器100とを備える。複数の減衰層17の各々は、その内部を伝搬する音波の振幅を減少させる性質を有する。
【0086】
複数の減衰層17の表面には、それぞれ複数の音波制御器100が設けられている。一つの減衰層17に入射される音波SW9の反射率は、その表面に設けられた一つの音波制御器100によって個別に制御される。従って、複数の減衰層17は、平面視における二次元的なアレイとして認識され、図17に示されるような音響的な模様を構成する。図17では、音響的な模様として、英字の「H」に類似した模様が例示されている。
【0087】
以上のように、音波制御器100によって、減衰層17に入射される音波SW9の反射率および透過率を能動的に制御できる。従って、音響機器である音響ディスプレイ300の性能を向上させることができる。
【0088】
なお、図16および図17では、複数の減衰層17がそれぞれ個別の層として図示されているが、複数の減衰層17は、一体化した一つの減衰層であってもよい。その場合、複数の音波制御器100に対応する複数の領域の集合を、一体化した減衰層として認識することもできる。すなわち、実施の形態3における複数の減衰層17は、それぞれ個別の減衰層であるか、一つの減衰層の複数の領域である。
【0089】
また、図16では、相対的に厚さの薄い膜構造体11が、音波SW9の近くに位置している。すなわち、複数の音波制御器100の各々の基板13が、減衰層17側に位置している。それ故、音波SW9をより高効率で反射させることができる。
【0090】
(実施の形態4)
以下に図18を用いて、実施の形態4における音波制御器100を説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1および実施の形態2との相違点を主に説明する。図18は、実施の形態4における音波制御器100を示す断面図である。
【0091】
実施の形態2では、実施の形態1における音波制御器100は、受信器1および送信器2とは別の構造体として設けられ、送信器2と受信器1との間に設けられていた。実施の形態4における音波制御器100は、受信器1を備え、受信器1と一体化している。
【0092】
図18に示されるように、実施の形態4における受信器1は、電極24を有する膜構造体21、電極25を有する基板23、膜構造体21と基板23との間に位置するギャップ層22、直流電源26および受信回路27を備える。受信器1は、音波制御器100とほぼ同様なCMUT構造によって構成され、受信器1および音波制御器100は、それぞれ異なる直流電源16および直流電源26によって、個別に制御される。
【0093】
膜構造体21および基板23は、膜構造体11および基板13に使用されている各絶縁膜および各導電性膜を適用し、それらを適宜積層させた積層構造体からなる。ギャップ層22は、膜構造体21および基板23によって囲まれ、ギャップ層12と同様に、空洞部と、上記空洞部に存在する気体または液体とによって構成されている。
【0094】
また、基板23は、基板13の半導体基板SUBと同様な半導体基板を備える。実施の形態4では、基板13および基板23が接合されることで、音波制御器100および受信器1が一体化している。具体的には、基板13の半導体基板SUBと、基板23の半導体基板とが接合されている。
【0095】
また、受信器1は、基板23上に形成され、且つ、音波SW3を受信するための受信回路27を有する。受信回路27は、電極24および直流電源26に電気的に接続されている。具体的には、受信回路27は、基板23の半導体基板に形成された半導体素子と、上記半導体素子上に電気的に接続された配線層とによって構成され、上記配線層は、電極24を介して直流電源26に電気的に接続されている。
【0096】
このような受信器1と一体化した音波制御器100においても、音波の反射率および透過率を能動的に制御できる。従って、送信時には、送信音波SW1を透過させることができ、受信時には、背面反射波SW4および背面透過波SW5を効率的に反射させ、受信音波SW3を受信することができる。
【0097】
なお、実施の形態4では、CMUT構造の受信器1を例示したが、受信器1は、CMUT構造でなく、例えば公知の圧電素子によって構成されていてもよい。
【0098】
また、実施の形態4では、図18の構造体は、受信器1を備えた音波制御器100であると説明しているが、図18の構造体は、音波制御器100を備えた受信器1であると言い換えることもできる。
【0099】
(変形例4)
以下に、実施の形態4の変形例4を説明する。図19は、変形例4における音波制御器100を示す断面図である。
【0100】
図19に示されるように、変形例4における音波制御器100は、受信回路27だけでなく、送信回路28も備えている。すなわち、音波制御器100は、受信回路27および送信回路28を備えた送受信器3と一体化している。
【0101】
変形例4における送受信器3の構造は、送信回路28が形成されている点を除き、図18の構造体とほぼ同じである。
【0102】
また、送受信器3は、基板23上に形成され、且つ、音波SW1を送信するための送信回路28を有する。送信回路28は、電極24および電極25を介して直流電源26に電気的に接続されている。具体的には、送信回路28は、基板23の半導体基板に形成された半導体素子と、上記半導体素子上に電気的に接続された配線層とによって構成され、上記配線層は、電極24および電極25を介して直流電源26に電気的に接続されている。
【0103】
送信時では、送受信器3の前面側から音波SW1を送信するが、送受信器3の背面側にも一定のエネルギーを有する音波が放射され、その音波の反射波SW10が返ってくる。また、受信時では、これまでの説明と同様に、背面反射波SW4および背面透過波SW5が存在する。
【0104】
このような送受信器3と一体化した音波制御器100においても、音波の反射率および透過率を能動的に制御できる。従って、送信時には、反射波SW10を効率的に反射させることができるので、音波SW1に反射波SW10が混在することを抑制できる。受信時には、背面反射波SW4および背面透過波SW5を効率的に反射させ、受信音波SW3を受信することができる。
【0105】
また、変形例4では、図19の構造体は、送受信器3を備えた音波制御器100であると説明しているが、図19の構造体は、音波制御器100を備えた送受信器3であると言い換えることもできる。
【0106】
(変形例5)
以下に、実施の形態4の他の変形例5を説明する。図20は、変形例5における音波制御器100を示す断面図である。
【0107】
図18および図19では、基板13および基板23が接合され、具体的には、同じ半導体材料である基板13の半導体基板SUBおよび基板23の半導体基板が接合されていた。
【0108】
図20に示されるように、変形例5では、基板13と基板23との間に介在層18が設けられ、基板13および基板23は、介在層18を介して接合されている。介在層18は、基板13の半導体基板SUBと基板23の半導体基板とを、より安定して密着させるために設けられている。介在層18は、音波が透過できる材料で構成されていればよく、例えば、アルミニウム膜のような導電性膜、または、酸化シリコン膜若しくは樹脂膜のような絶縁膜からなる。
【0109】
また、上述の変形例4でも、基板13と基板23との間に介在層18を設けてもよい。
【0110】
(実施の形態5)
以下に図21を用いて、実施の形態5における音波制御器100を説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点を主に説明する。図21は、実施の形態5における音波制御器100を示す断面図である。なお、図21では、図面を見易くするために、音波制御器100のうち電極14、電極15および直流電源16の図示を省略している。
【0111】
図21に示されるように、実施の形態5における音波制御器100は、膜構造体11、ギャップ層12および基板13によって構成されるCMUT構造を複数有する。複数のCMUT構造の各々は、左右方向に複数のギャップ層12を備えており、複数のギャップ層12を備えたCMUT構造が、互いの膜構造体11および基板13が接合されることで、上下方向に対して積層されている。
【0112】
また、上層のCMUT構造のギャップ層12と、下層のCMUT構造のギャップ層12とは、左右方向おいて間隔を広げて配置されている。すなわち、上下方向および左右方向において、上層のギャップ層12の位置は、下層のギャップ層12の位置とずれている。
【0113】
なお、上述の上下方向とは、膜構造体11、ギャップ層12および基板13の積層方向であり、上述の左右方向とは、上記積層方向と直交する方向である。
【0114】
複数のギャップ層12の位置をずらすことで、一部の背面反射波SW4は、下層のギャップ層12に接する膜構造体11において反射するが、他の背面反射波SW4は、上層のギャップ層12に接する膜構造体11において反射する。従って、背面反射波SW4を段階的に反射させることができる。言い換えれば、背面反射波SW4を段階的に減衰させることができる。また、背面反射波SW4の代わりに、背面透過波SW5の場合でも同様の効果がある。
【0115】
このように、実施の形態5では、音波制御器100を減衰器として機能させることもできる。
【0116】
以上、本発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0117】
例えば、上記実施の形態では、複数の絶縁膜および複数の導電性膜によって形成された膜構造体11および基板13を例示したが、膜構造体11および基板13の各々の構造は、それらに限定されない。膜構造体11および基板13は、プラスチックまたは樹脂膜などを用いて形成されていてもよく、例えば板状のプラスチック板と屈曲加工されたプラスチック板とを接合させることで形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 受信器
2 送信器
3 送受信器
11 膜構造体
12 ギャップ層
13 基板
14 電極
15 電極
16 直流電源
16a、16b 端子
17 減衰層
18 介在層
21 膜構造体
22 ギャップ層
23 基板
24 電極
25 電極
26 直流電源
27 受信回路
28 送信回路
100 音波制御器
200 海洋ソナー
300 音響ディスプレイ
SW1 透過波(送信音波)
SW2 反射波(送信音波)
SW3 前面透過波(受信音波)
SW4 背面反射波(受信音波)
SW5 背面透過波(受信音波)
SW6 音波
SW7 反射波
SW8 透過波
SW9 音波
SW10 反射波
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21