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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】廃プラスチックの選別装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20231031BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20231031BHJP
   G01J 3/46 20060101ALI20231031BHJP
   B07C 5/342 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G01N21/27 F
G01N21/3563
G01J3/46 Z
B07C5/342
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020022812
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021128063
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大石 昇治
(72)【発明者】
【氏名】村上 孝伸
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-115193(JP,A)
【文献】特開2018-165010(JP,A)
【文献】特開2020-3419(JP,A)
【文献】特開2001-225029(JP,A)
【文献】特開2018-100903(JP,A)
【文献】特開2013-64726(JP,A)
【文献】特開2001-91484(JP,A)
【文献】特表2016-540996(JP,A)
【文献】特表2007-535671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0252990(US,A1)
【文献】特表2003-527594(JP,A)
【文献】特開2016-200602(JP,A)
【文献】登録実用新案第3120310(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 21/84-G01N 21/958
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
G01B 11/00-G01B 11/30
B07C 1/00-B07C 99/00
B29B 17/00-B29B 17/04
C08J 11/00-C08J 11/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックの選別装置であって、
搬送路上で搬送される廃プラスチック片に光を照射する照射部と、
前記照射部により照射された光の反射光を受光して前記反射光のスペクトルを検出する反射スペクトル検出部と、
前記反射スペクトル検出部により検出された前記スペクトルを、前記反射光が明るい条件で計測した第1の補正用スペクトルと、前記明るい条件よりも暗い条件で計測した第2の補正用スペクトルとを用いて補正する前処理部と、
前記前処理部により補正されたスペクトルを用いて前記廃プラスチック片の材質を判別する判定部と、
前記第1及び第2の補正用スペクトルを取得するための校正板を、所定の基準位置と、
前記照射部による前記搬送路上の照射位置との間で移動する移動部と、
前記判定部による材質判定結果に応じて、前記搬送路上で搬送される前記廃プラスチック片へエアーを噴射するタイミングを制御して前記廃プラスチック片を複数の領域に仕分けて落下させることにより、前記廃プラスチック片を前記材質ごとに選別して収集する選別部と、
を備え
前記照射部は、
前記搬送路の幅方向に延在し、延在方向の軸心まわりの全方向に赤外線を放射する光源と、
前記光源を基準として前記搬送路とは反対側に配置され、前記光源の軸心まわりの周方向に沿って湾曲して形成される反射部と、を有する、
廃プラスチックの選別装置。
【請求項2】
前記移動部は、先端に前記校正板を接続するアーム部を有し、前記アーム部は、基端を中心として前記アーム部の延在方向を径方向とするときの周方向に沿って回動可能に構成される、
請求項1に記載の廃プラスチックの選別装置。
【請求項3】
前記照射部は、
前記光源の周囲を覆い、熱放射を防ぐためのカバーを有する、
請求項に記載の廃プラスチックの選別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、廃プラスチックの選別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックの再処理においてマテリアルリサイクルのためには、選別後の製品への非対象物混入が少なく純度が高いことが求められる。また、素材に高価なものが含まれる場合には、高価な素材を取りこぼしなく選別できることが求められる。また、従来は分別できないためサーマルリサイクルをせざるを得なかった黒色プラスチックを、マテリアルリサイクルするために材質判別、選別を効率良く行うことが求められている。
【0003】
特許文献1には、選別対象物に赤外光を照射して選別対象物からの反射光を受光し、反射光に基づくスペクトルを用いてパターンマッチングの手法によって選別対象物の樹脂種を判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-100903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1等に記載のスペクトルに基づく材質判別手法では、温度、経年劣化、測定位置などによってスペクトルの特性に変動が生じるため、例えば白と黒の校正板を計測位置に設置して補正用のスペクトルを算出して、これらの補正用スペクトルを用いてスペクトルの補正を行われる。
【0006】
しかし、このような補正用スペクトルの取得作業では、校正板をコンベヤ上の照射位置に逐次設置して、データ取得後は取り外す必要がある。
【0007】
本開示は、スペクトルの補正を校正板の設置、取り外しを容易にでき、補正用スペクトルの取得を容易にできる廃プラスチックの選別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の一観点に係る廃プラスチックの選別装置は、搬送路上で搬送される廃プラスチック片に光を照射する照射部と、前記照射部により照射された光の反射光を受光して前記反射光のスペクトルを検出する反射スペクトル検出部と、前記反射スペクトル検出部により検出された前記スペクトルを、前記反射光が最も明るい条件で計測した第1スペクトルと、最も暗い条件で計測した第2スペクトルとを用いて補正する前処理部と、前記前処理部により補正されたスペクトルを用いて前記廃プラスチック片の材質を判別する判定部と、前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルを取得するための校正板を、所定の基準位置と、前記照射部による前記搬送路上の照射位置との間で移動する移動部と、前記判定部による材質判定結果に応じて、前記搬送路上で搬送される前記廃プラスチック片へエアーを噴射するタイミングを制御して前記廃プラスチック片を複数の領域に仕分けて落下させることにより、前記廃プラスチック片を前記材質ごとに選別して収集する選別部と、を備え、前記照射部は、前記搬送路の幅方向に延在し、延在方向の軸心まわりの全方向に赤外線を放射する光源と、前記光源を基準として前記搬送路とは反対側に配置され、前記光源の軸心まわりの周方向に沿って湾曲して形成される反射部と、を有する
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、スペクトルの補正用の校正板の設置、取り外しを容易にでき、補正用スペクトルの取得を容易にできる廃プラスチックの選別装置を提供することができる

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る廃プラスチックの材質判定装置の概略構成を示す斜視図
図2図1に示す廃プラスチックの材質判定装置の側面図
図3図1に示す廃プラスチックの材質判定装置の平面図
図4】判別装置の機能ブロック図
図5】実施形態に係る廃ブラスチックの材質判別処理のフローチャート
図6】補正用のスペクトルの抽出手法を示す図
図7】材質判定装置の操作画面の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
なお、以下の説明において、x方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向及びy方向は水平方向であり、z方向は鉛直方向である。x方向はコンベア2の搬送路3の搬送方向である。y方向は、コンベア2の搬送路3の幅方向である。また、以下では説明の便宜上、z正方向側を上側、z負方向側を下側とも表現する場合がある。
【0013】
図1図3を参照して、実施形態に係る廃プラスチックの選別装置の一例としての材質判定装置1の概略構成を説明する。図1は、実施形態に係る廃プラスチックの材質判定装置1の概略構成を示す斜視図である。図2は、図1に示す廃プラスチックの材質判定装置1の側面図である。図3は、図1に示す廃プラスチックの材質判定装置1の平面図である。ここでは、材質判定対象の廃プラスチックが黒色廃プラスチックの場合であり、かつ、二種類の材質S1、S2(図1図3では四角形と三角形のマークで示す)を混合する構成を例示して説明する。以下では、二種類の材質S1、S2の黒色廃プラスチック片を纏めて符号Sで表す場合がある。
【0014】
この黒色廃プラスチックの材質判定装置1は、黒色廃プラスチック片S1、S2を順次供給する供給部の一例としての振動フィーダー8と、振動フィーダー8により供給された黒色廃プラスチック片S1、S2を搬送する搬送部の一例としてのコンベア2とを主要部として備えている。振動フィーダー8には、例えば投入用ホッパなどを介して、破砕された黒色廃プラスチック片S1、S2が供給される。振動フィーダー8は、黒色廃プラスチック片S1、S2が載置される載置面が振動することによって、黒色廃プラスチック片S1、S2同士の重畳を防止しながらコンベア2に供給する。コンベア2は、その上面に搬送路3を有し、振動フィーダー8から遠ざかる向きに搬送路3上の黒色廃プラスチック片S1、S2を搬送する。
【0015】
また、材質判定装置1は、黒色廃プラスチック片S1、S2に赤外線を照射する照射部の一例としての照明10と、黒色廃プラスチック片S1、S2からの反射スペクトルを検出する反射スペクトル検出部の一例としての中赤外線カメラ4と、中赤外線カメラ4で検出した反射スペクトルに基づき黒色廃プラスチック片S1、S2の材質を同定する判別装置5と、を主要部として備えている。照明10は、例えばハロゲンタングステンランプ等の赤外線光源であるランプ10A(図6参照)を有し、ランプ10Aから黒色廃プラスチック片S1、S2に向かって赤外線を照射する。また、照明10は、中赤外線カメラ4に黒色廃プラスチック片S1、S2からの反射光が入光するように設置され、中赤外線カメラ4に対してコンベア2の流れ方向の上部両側(又は上部片側)に設置されている。
【0016】
中赤外線カメラ4は、例えば図1に示すように1台でコンベア2の幅方向の全域に亘って計測可能であり、幅方向に沿って複数個(例えば318個)の領域に区分して黒色廃プラスチック片S1、S2からの近赤外線の反射光を受光し、各領域ごとに反射光のスペクトルを計測できる。中赤外線カメラ4は、例えば、中赤外線の波長領域3μm以上の分光器付カメラで構成されている。中赤外線カメラ4は、例えば230Hzのスキャン周波数で計測を行い、1回のスキャンごとに318個のスペクトルデータを判別装置5に送信する。判別装置5は、中赤外線カメラ4から受信した318個のスペクトルデータに基づき、318個の各領域の材質判定結果を後述の噴射制御部6に出力する。
【0017】
さらに、材質判定装置1は、コンベア2の搬送方向の下流側にて、搬送方向と交差する方向に横又は斜めからエアーを噴射する噴射ノズル7が設けられている。噴射ノズル7は、コンベア2の幅方向に複数個(例えば318個)が並設されており、噴射制御部6によって個々のノズルの動作が制御される。噴射制御部6は、判別装置5から受信した材質判定結果に応じて、噴射ノズル7からエアーを噴射させ、または噴射させないことにより、例えば仕切り板9により区分される複数の領域(例えば回収用ホッパなど)に黒色廃プラスチック片S1、S2を仕分けて落下させて、所望の材質の廃プラスチックを収集する。つまり、本実施形態では、噴射制御部6と、噴射ノズル7と、仕切り板9とが、判別装置5による材質判定結果に基づき、コンベア2の搬送路3を流れる廃プラスチック片から所望の材質のものを収集する収集装置12(選別部)として機能する。
【0018】
材質判定装置1の動作について説明する。例えば投入用ホッパなどを介して、破砕された黒色廃プラスチック片S1、S2が振動フィーダー8に供給されると、振動フィーダー8は、供給された黒色廃プラスチック片S1、S2に振動を与えながら重ならないようにして下流に搬送して、コンベア2に供給する。
【0019】
コンベア2の上面の搬送路3に供給された黒色廃プラスチック片S1、S2は、x正方向側の搬送方向に搬送されながら、中赤外線カメラ4の撮像可能な位置にて、照明10から赤外光が照射される。中赤外線カメラ4は、照明10から発せられた赤外線の黒色廃プラスチック片S1、S2による反射光を受光し、受光結果(受光スペクトルのデータ)を判別装置5に出力する。
【0020】
判別装置5は、中赤外線カメラ4から入力された受光結果に基づき、黒色廃プラスチック片S1、S2の材質を同定する。なお、判別装置5による材質判定手法の詳細は図4図9を参照して後述する。判別装置5は、材質同定結果を噴射制御部6に出力する。
【0021】
噴射制御部6は、複数配置されている噴射ノズル7のうち、材質に応じた噴射ノズル7を選択して、タイミングを計って制御信号を送信する。制御信号を受信した噴射ノズル7は、ノズル口を開口して、エアーを噴射する。判別装置5の判別結果により適切なタイミングで噴射ノズル7からエアーを噴射することにより、選別対象の材質とそうでないものとを分離して回収することができる。
【0022】
図2図3の例では、コンベア2上の黒色廃プラスチック片S1は、制御信号を受信したエアー噴射ノズル7からエアーを受けて、材質毎に設けられた収集装置12に吹き飛ばされ落下して回収される。また、コンベア2上の黒色廃プラスチック片S2は、噴射ノズル7からエアーを受けないので、黒色廃プラスチック片S1とは異なる収集装置12に回収される。このように噴射ノズル7の噴射及び停止によって、複数の材質の黒色廃プラスチック片を材質ごとに仕分けて回収することができる。
【0023】
図7は、材質判定装置1の操作画面の一例を示す図である。図7に示す操作画面は、例えば材質判定装置1の本体に設置される表示装置に表示される。図7に示すように、操作画面には、選別するプラスチックの材質名が列挙され、上記の第1の系統(図7では「1次」と、第2の系統(図7では「2次」)ごとに噴射して選別する材質を個別に選択可能となっている。操作画面が表示される表示装置は例えばタッチパネルであり、「噴射選択」欄の「OFF」表示を押下するなどの操作によって「ON」表示に切り替えることによって、当該材質(図7ではABS)の場合に噴射ノズル7がエアーを噴射して収集装置で分別するように設定できる。また、操作画面では、「投入原料面積比」欄を設け、材料判定処理の判定結果に応じて、素材に混合される各材質の割合を表示することもできる。
【0024】
図4は、判別装置5の機能ブロック図である。図4に示すように、判別装置5は、前処理部51と、判定部52とを有する。
【0025】
前処理部51は、中赤外線カメラ4により検出された黒色廃プラスチック片S1、S2の反射スペクトルの補正や加工などの前処理を行う。前処理部51は、例えば、反射光が明るい条件で計測したスペクトルと、暗い条件で計測したスペクトルとを用いて、検出された反射スペクトルを補正する。「暗い条件」とは、上記の「明るい条件」よりも相対的に暗い条件を意味する。
【0026】
判定部52は、前処理部51により補正されたスペクトルを用いて廃プラスチック片Sの材質S1、S2を判別する。判定部52は、例えば既知のパターンマッチングや、機械学習アルゴリズムなどの任意の手法を用いて、スペクトルと材質との対応関係を推定することができる。
【0027】
判別装置5は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)、通信モジュール、補助記憶装置、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。図4に示した判別装置5の各機能は、CPUやRAMなどに所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで各種ハードウェアを動作させると共に、RAMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。すなわち、本実施形態に係る材質判定プログラムをコンピュータ上で実行させることで、判別装置5は、図4の前処理部51、判定部52として機能する。
【0028】
判別装置5は、アナログ回路、デジタル回路又はアナログ・デジタル混合回路で構成された回路であってもよい。また、判別装置5の各機能の制御を行う制御回路を備えていてもよい。各回路の実装は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等によるものであってもよい。
【0029】
同様に、噴射制御部6も、物理的には、CPU、RAMおよびROM、通信モジュール、補助記憶装置、などを含むコンピュータシステムとして構成することができ、CPUやRAMなどに所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることによりその機能が実現される。
【0030】
図5は、実施形態に係る廃ブラスチックの材質判別処理のフローチャートである。図5に示すフローチャートの各処理は判別装置5により実行される。
【0031】
ステップS01では、前処理部51により、中赤外線カメラ4によるスペクトルSorg(n,w)が取得される。ここで、nはセンサ数(中赤外線カメラ4によりコンベア2の幅方向で区分されるスペクトル検出領域の数)であり、センサ数が318個の場合には各検出領域に対応する0~317の整数が用いられる。wはスペクトルの波長であり、本実施形態では、2700(nm)~5300(nm)の間で20(nm)刻みで合計131個の波長が設定され、各波長に対応する0~130の整数が用いられる。つまり、Sorg(n,w)は、コンベア2の幅方向に沿ったn番目のスペクトル検出領域における、波長wのスペクトルの強度の数値を表す。
【0032】
ステップS02では、前処理部51により、ステップS01で取得されたスペクトルSorg(n,w)が補正されて、補正済みのスペクトルScor(n,w)が算出される。この補正により、測定空間の水蒸気及び二酸化炭素の濃度変化、計測対象の黒色廃プラスチック片S1、S2の温度、照明10および中赤外線カメラ4の経年劣化、コンベア2上の位置、などの影響によるスペクトル強度の特性の差異を吸収できる。補正済みのスペクトルScor(n,w)は、例えば下記の(1)式により算出できる。
【0033】
【数1】
ここで、Wref(n,w)は、反射光が明るい条件で計測した第1の補正用スペクトルである。Dref(n,w)は、反射光が上記の明るい条件よりも暗い条件で計測した第2の補正用スペクトルである。これらの補正用スペクトルWref(n,w)、Dref(n,w)は、例えば、材質判別処理を実行する前に中赤外線カメラ4の校正を行うときに抽出できる。
【0034】
図6は、補正用のスペクトルWref(n,w)、Dref(n,w)の抽出手法を示す図である。図6に示すように、コンベア2の搬送路3上の、中赤外線カメラ4の撮像領域に、補正用スペクトルを取得するための校正板11を設置して、中赤外線カメラ4による反射光のスペクトルの検出を行うことで、補正用のスペクトルWref(n,w)、Dref(n,w)を取得できる。
【0035】
反射光が明るい条件で計測した第1の補正用スペクトルWref(n,w)(第1スペクトル)の場合、中赤外線領域の波長をすべて反射する校正板11(アルミ、ステンレス等)を置き、照明10を点灯した状態で、すべてのセンサ(n=0、1,2、・・・、317)について、全波長(w=0(2700)、2(2720)、・・・、130(5300))のデータを取得する。
【0036】
反射光が暗い条件で計測した第2の補正用スペクトルDref(n,w)(第2スペクトル)の場合、中赤外線領域の波長をすべて反射する校正板11(アルミ、ステンレス等)を置き、照明10を消灯した状態(もしくはカメラのシャッターを閉じた状態)で、すべてのセンサ(n=0、1,2、・・・、317)について、全波長(w=0(2700)、2(2720)、・・・、130(5300))のデータを取得する。
【0037】
校正板11は、例えば図6に点線の矢印で示すように、補正用のスペクトルWref(n,w)、Dref(n,w)を取得する際に配置される、コンベア2の搬送路3上の、中赤外線カメラ4の撮像領域の位置と、中赤外線カメラ4の撮像領域や照明10の照射範囲から外れる待機位置との間で移動可能に設置されるのが好ましい。言い換えると、校正板11は、中赤外線カメラ4の視野内の所定位置と、視野外の所定位置とに固定可能であり、両方の所定位置の間を移動可能であるのが好ましい。校正板11は、照明10からの光によって中赤外線カメラ4にハレーションが発生しないように、表面の粗さをJIS B 0601-2001規格の3.2a~6.3a相当程度にし、表面仕上げをバイブレーション(無方向性ヘアーライン)のような特定の方向に偏りの無いランダムなものにするのが好ましい。
【0038】
また、校正板11の厚さは可能な限り薄くする方がよく、コンベア2に出来るだけ近い低い位置に挿入する。これにより、校正板11の表面の高さが実際に選別するプラスチックに近づくため、より精度の高い校正を行うことができる。また、校正板11の搬送方向の幅は、ランプ10Aがベルト(搬送路3)を照らす幅の4倍程度であると挿入しやすく、また、熱によるベルトの損傷を防ぐことができて都合がよい。また、校正板11の搬送方向の下流側(すなわち図6では校正板11を中赤外線カメラ4の視野外から視野内に移動させるときの先頭部分)の端部は、コンベア2に対向する部位が削られているのが好ましい。これにより、校正板11を中赤外線カメラ4の視野内の所定位置に配置したときに、校正板11がコンベア2に接触するのを防止できるので都合がよい。
【0039】
図6に示すように、本実施形態では、材質判定装置1は、補正用のスペクトルWref(n,w)、Dref(n,w)を取得するための校正板11を、中赤外線カメラ4の視野外の所定の基準位置と、照明10による搬送路3上の照射位置との間で移動させるためのアーム部14(移動部)を備える。
【0040】
アーム部14は、その先端部14Aに校正板11が接続される。アーム部14は、基端部14Bを中心としてアーム部14の延在方向を径方向とするときの周方向に沿って回動可能に構成される。校正板11は、照明10からの光を受ける主面がアーム部14の回転中心を向くよう設置される。
【0041】
このように中赤外線カメラ4の校正用の校正板11をアーム部14により可動式とすることで、校正を行わないときには、材質判定装置1の廃プラスチック片の選別の妨げにならない場所に校正板11を移動させることができる。また、校正を行うときには、アーム部14を回動させるだけで校正板11を所定位置に設置することができ、校正板11の位置決めや固定などの作業が不要となる。これにより、スペクトルの補正用の校正板11の設置、取り外しを容易にでき、補正用スペクトルの取得を容易にできる。
【0042】
なお、校正板11は、中赤外線カメラ4の視野外の所定の基準位置と、照明10による搬送路3上の照射位置との間で移動可能であればよく、アーム部14のように回動する構成には限られず、他の移動手法でもよい。
【0043】
また、補正用スペクトルの取得時には、コンベア2は停止していてもよい。この場合、アーム部14などの動作の何らかの不具合により、校正板11が中赤外線カメラ4の撮像領域の位置に正しく配置されないと、照明10の赤外線によりコンベア2の搬送路3上の赤外線が照射される部分の温度が上昇し、焼損や発火の虞がある。このため、校正板11が中赤外線カメラ4の視野内に固定されていない場合には、照明10から赤外線を照射しないようにインターロックを設けるのが好ましい。
【0044】
図5に戻り、ステップS03では、判定部52により、補正後のスペクトルScor(n,w)を用いて、廃プラスチック片Sの材質S1、S2の判別が行われる。判定部52は、例えば既知のパターンマッチングや、機械学習アルゴリズムなどの任意の手法を用いて、スペクトルと材質との対応関係を推定することができる。
【0045】
図6に示すように、照明10は、赤外線の光源であるランプ10A(シースヒーター、カーボンランプ、カンタルランプなど)と、ランプ10Aの熱を集める反射板10B(反射部)とを有する。ランプ10Aは、コンベア2の幅方向(y方向)に沿って延在するよう形成され、y軸に沿った軸心まわりの全方向に赤外線を放射するよう配置される。反射板10Bは、ランプ10Aを基準としてコンベア2の搬送路3とは反対側に配置され、ランプ10Aの軸心まわりの周方向に沿って湾曲して形成され、これによりランプ10Aからコンベア2とは反対側に放射された赤外線を集めてコンベア2側に反射して送ることができる。これにより、ランプ10Aが放射した赤外線を搬送路3上の廃ブラスチック片に効率良く照射でき、反射スペクトルもより精度良く検出できる。また、反射板10Bは湾曲しているため、反射板10Bで反射された光をさまざまな角度で搬送路3上の廃ブラスチック片に当てることができ、光の当たりムラを小さくできる。反射板10Bは、例えば、アルミニウム、ステンレス、またはアルミニウムメッキなどされた部材からなる。
【0046】
また、図6に示すように、ランプ10Aの周方向の周囲は、熱放射を防ぐためのカバー10Cが覆われている。カバー10Cは、近赤光や中赤光で、測定に支障をもたらす吸収を持たない材料、例えば、石英ガラス製であり、一重または二重にランプ10Aの周囲を覆うように形成されている。これにより、ランプ10Aの無駄な熱放射を防止して、ランプ10Aが放射した赤外線を搬送路3上の廃ブラスチック片に効率良く照射できる。
【0047】
またランプ10Aの発熱を防ぐために冷却構造を設けてもよい。例えば、カバー10Cを石英ガラス製のパイプでランプ10Aを覆うように形成し、パイプ内に空気を循環するようにして発熱を防止してもよい。
【0048】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0049】
上記実施形態では、材質判定対象の廃プラスチックが黒色廃プラスチックSの場合を例示して説明したが、例えば赤色や青色等の他の色の廃プラスチックでもよい。また、色が異なる廃プラスチックを混在して用いてもよい。
【0050】
コンベア2のベルトの温度上昇を防止するために、白系の材料で構成したり、コンベア2のランプ10Aによる照射位置の裏面に冷風を吹きかける、冷却したローラーを接触させるといった冷却構造を設けてもよい。
【0051】
また、温度上昇のよる損傷を避けるため、コンベア2のベルトの材質として、熱に強いポリウレタンやシリコンなどの熱に強いものを使用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 廃プラスチックの材質判定装置(廃プラスチックの選別装置)
2 コンベア
3 搬送路
4 中赤外線カメラ(反射スペクトル検出部)
5 判別装置
51 前処理部
52 判定部
10 照明(照射部)
10A ランプ(光源)
10B 反射板(反射部)
10C カバー
11 校正板
12 収集装置(選別部)
14 アーム部(移動部)
S1、S2 黒色廃プラスチック片


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7