(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20231031BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231031BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20231031BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231031BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0562
H01M4/66 A
H01M4/139
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020041243
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232014
【氏名又は名称】日本電解株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井 昭男
(72)【発明者】
【氏名】川崎 利雄
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 安浩
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-009526(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141962(WO,A1)
【文献】特開2019-192596(JP,A)
【文献】特開2001-313037(JP,A)
【文献】特開2019-121557(JP,A)
【文献】特開2017-054720(JP,A)
【文献】特開平10-212591(JP,A)
【文献】特開2012-126951(JP,A)
【文献】特開2010-282957(JP,A)
【文献】特開2005-063929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっきによって、銅箔の表面にニッケルめっき皮膜を形成することにより、負極集電体を形成すること、
前記負極集電体の表面に、負極活物質層を形成することにより、負極を形成すること、
および
前記負極、固体電解質層および正極を含む、全固体電池を製造すること、
を含み、
前記固体電解質層は、前記正極と前記負極とを物理的に分離しており、
前記負極活物質層は、負極活物質および硫化物固体電解質を含み、
前記電気めっきにおいて、+2.2%以上の均一電着性を有するめっき液が使用され、
前記ニッケルめっき皮膜は、2.0g/m
2以上4.4g/m
2以下の付着量を有するように形成される、
全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記負極活物質層は、25%以下の空隙率を有する、
請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-009526号公報(特許文献1)は、銅箔にニッケルめっきを施した全固体電池用負極集電体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池の電解質として、硫化物固体電解質が有望視されている。硫化物固体電解質が高いイオン伝導度を有するためである。
【0005】
従来、負極集電体として銅(Cu)箔が使用されている。Cu箔の表面に負極活物質層が形成される。負極活物質層が硫化物固体電解質を含む時、硫化物固体電解質とCu箔とが接触することになる。硫化物固体電解質とCu箔とが接触していると、初回充放電効率が低下する傾向がある。硫化物固体電解質とCu箔とが反応することにより、硫化銅(Cu2S)が生成するためと考えられる。
【0006】
Cu箔にニッケル(Ni)めっきを施すことが検討されている。Niめっき皮膜が、硫化物固体電解質とCu箔との接触を阻害することにより、Cu2Sの生成が抑制されることが期待される。これにより、初回充放電効率の向上が期待される。
【0007】
ところで、液系電池の負極活物質層においては、液体電解質を保持するための空隙が設けられている。他方、全固体電池の負極活物質層においては、空隙が可及的に低減される。全固体電池においては、固体中をリチウム(Li)イオンが伝導するため、固体同士の接触面積を大きくすることが求められるためである。全固体電池の製造プロセスにおいては、空隙を低減するため、高い圧力により負極活物質層がプレスされることがある。
【0008】
Niめっき皮膜の付着量が少ない場合、全固体電池の製造プロセスにおけるプレスにより、Niめっき皮膜が剥離する可能性がある。Niめっき皮膜の剥離により、硫化物固体電解質とCu箔とが接触する。Niめっき皮膜が剥離しないように、Niめっき皮膜の付着量を多くすると、電池抵抗が増加する。NiがCuに比して低い電子伝導性を有するためと考えられる。
【0009】
本開示の目的は、高い初回充放電効率と、低い電池抵抗との両立にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本開示における技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示における作用メカニズムは、推定を含んでいる。作用メカニズムの正否は、特許請求の範囲を限定しない。
【0011】
〔1〕 全固体電池の製造方法は、下記の(S1)、(S2)および(S3)を含む。
(S1) 電気めっきによって、銅箔の表面にニッケルめっき皮膜を形成することにより、負極集電体を形成する。
(S2) 負極集電体の表面に、負極活物質層を形成することにより、負極を形成する。
(S3) 負極、固体電解質層および正極を含む、全固体電池を製造する。
固体電解質層は、正極と負極とを物理的に分離している。負極活物質層は、負極活物質および硫化物固体電解質を含む。
電気めっきにおいて、+2.2%以上の均一電着性を有するめっき液が使用される。
ニッケルめっき皮膜は、2.0g/m2以上4.4g/m2以下の付着量を有するように形成される。
【0012】
Niめっき皮膜の均一さは、めっき液の「均一電着性(throwing power)」により調整され得る。均一電着性は、-100%から+100%の値をとる。値が正(+)であり、かつ絶対値が大きい程、めっき液から得られる皮膜において、付着量および厚さのバラツキが小さくなることが期待される。本開示における均一電着性は、ハーリングセルにおいて測定される。測定方法の詳細は、後述される。
【0013】
本開示の新知見によると、めっき液が特定の均一電着性を有する時、Niめっき皮膜の付着量が少なくても、所望の剥離耐性が期待される。すなわち、Niめっき皮膜の付着量が少なくても、Niめっき皮膜が剥離せずに、全固体電池が製造されることが期待される。
【0014】
本開示におけるめっき液は、+2.2%以上の均一電着性を有する。Niめっき皮膜は2.0g/m2以上4.4g/m2以下の付着量を有するように形成される。
【0015】
めっき液が+2.2%以上の均一電着性を有することにより、Niめっき皮膜の付着量が4.4g/m2以下であっても、所望の剥離耐性が期待される。したがって、硫化物固体電解質とCu箔との接触が阻害され、高い初回充放電効率が期待される。さらに、付着量が4.4g/m2以下であることにより、低い電池抵抗が期待される。付着量が4.4g/m2を超えると、無視できない程度に電池抵抗が増加する可能性がある。
【0016】
ただし、Niめっき皮膜の付着量は2.0g/m2以上である。Niめっき皮膜の付着量が2.0g/m2未満であると、めっき液の均一電着性が+2.2%以上であっても、全固体電池の製造プロセスにおいて、Niめっき皮膜が剥離する可能性がある。
【0017】
〔2〕 負極活物質層は、例えば25%以下の空隙率を有していてもよい。
【0018】
本開示におけるNiめっき皮膜は、高い均一性を有する。本開示においては、負極活物質層の空隙率が例えば25%以下になるように、高い圧力によって負極活物質層がプレスされてもよい。本開示においては、Niめっき皮膜が剥離し難いためである。負極活物質層の空隙率が25%以下であることにより、負極活物質層におけるイオン伝導が促進されることが期待される。これにより、電池抵抗の低減が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態における全固体電池の製造方法の概略フローチャートである。
【
図2】
図2は、ハーリングセルの概略斜視図である。
【
図3】
図3は、ハーリングセルの概略側面図である。
【
図4】
図4は、ハーリングセルの概略上面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における全固体電池を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示における実施形態(以下「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0021】
<全固体電池の製造方法>
図1は、本実施形態における全固体電池の製造方法の概略フローチャートである。
本実施形態における全固体電池の製造方法は、《(S1)めっき処理》、《(S2)負極の形成》および《(S3)全固体電池の製造》を含む。
【0022】
《(S1)めっき処理》
本実施形態における全固体電池の製造方法は、電気めっきによって、Cu箔の表面にNiめっき皮膜を形成することにより、負極集電体を形成することを含む。
【0023】
(Cu箔)
Cu箔は、負極集電体の基材である。Cu箔は、例えば、1μm以上100μm以下の厚さを有していてもよい。Cu箔は、例えば、5μm以上50μm以下の厚さを有していてもよい。Cu箔は、例えば、5μm以上30μm以下の厚さを有していてもよい。Cu箔は、例えば、10μm以上20μm以下の厚さを有していてもよい。
【0024】
Cu箔は、任意の方法により製造され得る。Cu箔は、例えば電解銅箔であってもよい。Cu箔は、例えば圧延銅箔であってもよい。
【0025】
本実施形態におけるCu箔は、Cuを含む金属箔を示す。Cu箔は、実質的にCuからなっていてもよい。すなわち、Cu箔は、純銅箔であってもよい。Cu箔は、Cu以外の元素をさらに含んでいてもよい。すなわち、Cu箔は、銅合金箔であってもよい。
【0026】
本実施形態においては、Cu箔に含まれる元素のうち、Cu以外の元素が「合金元素」とも記される。合金元素は、例えば、意図的に添加されたものであってもよい。合金元素は、例えば、Cu箔の製造過程において意図せず混入したものであってもよい。Cu箔は、例えば、0.01質量%以上50質量%以下の合金元素と、残部を占めるCuと、を含んでいてもよい。Cu箔は、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の合金元素と、残部を占めるCuと、を含んでいてもよい。Cu箔は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下の合金元素と、残部を占めるCuと、を含んでいてもよい。Cu箔は、例えば、0.01質量%以上1質量%以下の合金元素と、残部を占めるCuと、を含んでいてもよい。Cu箔の組成は、蛍光X線分析法により特定され得る。
【0027】
合金元素は、例えば、非金属元素を含んでいてもよい。合金元素は、例えば、酸素(O)、リン(P)、炭素(C)、窒素(N)および硫黄(S)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0028】
合金元素は、例えば、金属元素を含んでいてもよい。合金元素は、例えば、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、錫(Sn)、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)およびコバルト(Co)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0029】
(電気めっき)
めっき液中において、Cu箔に対して電気めっきが施されることにより、Cu箔の表面にNiめっき皮膜が形成される。Niめっき皮膜は、2.0g/m2以上4.4g/m2以下の付着量を有するように形成される。Niめっき皮膜の形成により、負極集電体が形成される。
【0030】
(めっき液の均一電着性)
本実施形態におけるめっき液は、+2.2%以上の均一電着性を有する。めっき液が+2.2%以上の均一電着性を有することにより、Niめっき皮膜の付着量が4.4g/m2以下であっても、所望の剥離耐性が期待される。これにより、高い初回充放電効率が期待される。めっき液は、例えば+2.3%以上の均一電着性を有していてもよい。めっき液は、例えば+2.5%以上の均一電着性を有していてもよい。めっき液は、例えば+2.5%以下の均一電着性を有していてもよい。めっき液は、例えば+2.3%以下の均一電着性を有していてもよい。めっき液は、例えば+2.2%以上+2.3%以下の均一電着性を有していてもよい。めっき液の均一電着性は、ハーリングセルによって測定される。
【0031】
図2は、ハーリングセルの概略斜視図である。
図3は、ハーリングセルの概略側面図である。
図4は、ハーリングセルの概略上面図である。
【0032】
ハーリングセル200は、第1陰極板201、第2陰極板202、陽極板203および浴槽204を含む。
【0033】
浴槽204は、例えばアクリル樹脂製であってもよい。浴槽204は、「長さ 240mm×幅 62.5mm×深さ 100mm」の内寸を有する。
【0034】
第1陰極板201および第2陰極板202は、浴槽204の長さ方向(y軸方向)の両端にそれぞれ配置されている。第1陰極板201および第2陰極板202の各々は、Cu箔である。第1陰極板201および第2陰極板202の各々は、「横 50mm×縦 150mm×厚さ 0.018mm」の大きさを有する。
【0035】
陽極板203は、Ni板である。陽極板203は、「横 50mm×縦 150mm×厚さ 1mm」の大きさを有する。陽極板203は、治具(不図示)により、浴槽204内に固定されている。陽極板203と第1陰極板201との距離(図中の「a」)は、40mmである。陽極板203と第2陰極板202との距離(図中の「b」)は、200mmである。よって、「a/b=1/5」の関係が満たされている。
【0036】
浴槽203内に、1500mLのめっき液205が入れられる。めっき液205の温度が調整される。めっき液205は、空気攪拌される。めっき液205の温度は、40℃以上50℃以下である。第1陰極板201と陽極板203とが通電される。同時に、第2陰極板202と陽極板203とが通電される。通電による全電流は10A/dm2である。通電時間は900秒である。通電により、第1陰極板201および第2陰極板202の各々の表面に、Niが析出する。
【0037】
通電終了後、第1陰極板201の質量が測定される。通電後の質量と通電前の質量との差が、第1陰極板201におけるNi析出量「A」である。同様に、第2陰極板202の質量が測定される。通電後の質量と通電前の質量との差が、第2陰極板202におけるNi析出量「B」である。
【0038】
下記式(I)により、均一電着性が算出される。
T={(P-M)/(P+M-2)}×100
=[{5-(A/B)}/{5+(A/B)-2}]×100 …(I)
【0039】
上記式(I)中、
「T」は、均一電着性(%)を示す。
「P」は、両陰極板への電流分配比を示す。
「M」は、両陰極板におけるNi析出量の比を示す。
「A」は、第1陰極板201におけるNi析出量(g)を示す。
「B」は、第2陰極板202におけるNi析出量(g)を示す。
【0040】
本実施形態においては、電流分配比に関して「P=b/a=5/1=5」の関係が満たされている。Ni析出量の比に関して「M=A/B」の関係が満たされている。均一電着性は、3回以上測定される。3回以上の結果の算術平均が、めっき液の均一電着性とみなされる。
【0041】
(めっき液の組成)
めっき液が+2.2%以上の均一電着性を有する限り、めっき液は任意の組成を有し得る。めっき液は、例えば、ホウ酸またはクエン酸ナトリウムと、硫酸ニッケル(無水物)と、残部を占める水と、を含んでいてもよい。ホウ酸またはクエン酸ナトリウムの濃度は、例えば、30g/L以上40g/L以下であってもよい。硫酸ニッケルの濃度は、例えば、40g/L以上400g/L以下であってもよい。
【0042】
めっき液が、例えば、スルファミン酸ニッケル、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル(II)六水和物、次亜リン酸ナトリウム等を含む時、+2.2%以上の均一電着性が実現できないことがあり得る。
【0043】
(操業条件)
めっき液が+2.2%以上の均一電着性を有し、かつNiめっき皮膜の付着量が2.0g/m2以上4.4g/m2以下になり得る限り、任意の操業条件が採用され得る。
【0044】
めっき処理の前処理として、Cu箔に対して、例えば、脱脂洗浄処理、電解洗浄処理等が施されてもよい。
【0045】
めっき液のpHは、例えば4程度であってもよい。例えば、pHが4よりも低くなると、+2.2%以上の均一電着性が実現できないことがあり得る。めっき液の温度は、例えば40℃以上50℃以下であってもよい。電流密度は、例えば10A/dm2程度であってもよい。
【0046】
(Niめっき皮膜)
電気めっきにより、Cu箔の表面にNiめっき皮膜が形成される。負極活物質層に含まれる硫化物固体電解質と、Cu箔との接触が阻害され得る限り、Niめっき皮膜は、Cu箔の表面の全部に形成されていてもよいし、Cu箔の表面の一部に形成されていてもよい。例えば、Niめっき皮膜は、Cu箔の両面に形成されていてもよいし、Cu箔の片面のみに形成されていてもよい。例えば、負極活物質層が形成されるべき部分のみに、Niめっき皮膜が形成されていてもよい。例えば、集電部材および電極端子等と溶接されるべき部分においては、Cu箔が露出していてもよい。
【0047】
(Niめっき皮膜の組成)
Niめっき皮膜は、Niを含む。Niめっき皮膜は、例えば、99質量%以上100質量%以下のNiを含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、99.5質量%以上のNiを含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、99.7質量%以上のNiを含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、99.9質量%以上のNiを含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、実質的にNiからなっていてもよい。Niめっき皮膜の組成は、蛍光X線分析法により特定され得る。
【0048】
Cu2Sの生成が抑制され得る限り、Niめっき皮膜は、不純物を含んでいてもよい。不純物は、例えば、Niめっき皮膜の形成過程において、不可避的に取り込まれる元素であってもよい。不純物は、例えば、めっき液に由来する元素であってもよい。Niめっき皮膜は、例えば、O、P、C、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、0質量%超1質量%以下の不純物を含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、0質量%超0.5質量%以下の不純物を含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、0質量%超0.3質量%以下の不純物を含んでいてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、0質量%超0.1質量%以下の不純物を含んでいてもよい。
【0049】
(Niめっき皮膜の付着量)
Niめっき皮膜は、2.0g/m2以上4.4g/m2以下の付着量を有するように形成される。付着量が4.4g/m2以下であることにより、低い電池抵抗が期待される。付着量が2.0g/m2以上であることにより、所望の剥離耐性が期待される。Niめっき皮膜は、例えば、2.0g/m2以上3.0g/m2以下の付着量を有していてもよい。Niめっき皮膜は、例えば、3.0g/m2以上4.4g/m2以下の付着量を有していてもよい。
【0050】
付着量は、間接法により測定される。負極集電体のうち、Niめっき皮膜が形成されている部分から、所定サイズの試験片が切り出される。試験片の平面形状は、例えば、「縦 10mm×横 10mm」の正方形状であり得る。試験片の質量(剥離前質量)が測定される。めっき剥離剤が準備される。めっき剥離剤は市販品でよい。めっき剥離剤は、Cu素地上のNiの剥離に適したものとされる。めっき剥離剤に試験片が浸漬されることにより、Niめっき皮膜がめっき剥離剤に溶解し、剥離される。Niめっき皮膜の剥離後、試験片が洗浄され、乾燥される。乾燥後、試験片の質量(剥離後質量)が測定される。剥離前質量と剥離後質量との差が算出される。剥離前質量と剥離後質量との差は、試験片に付着していたNiめっき皮膜の質量を示している。Niめっき皮膜がCu箔の両面に形成されている場合は、Niめっき皮膜の質量の半分が、片面あたりの質量とみなされる。片面あたりの質量が、試験片の面積で除されることにより、試験片の付着量が算出される。付着量は3回以上測定される。3回以上の結果の算術平均が、Niめっき皮膜の付着量をみなされる。付着量は、小数第1位まで有効である。小数第2位以下は、四捨五入される。
【0051】
(負極集電体)
Cu箔の表面に、Niめっき皮膜が形成されることにより、負極集電体が形成される。すなわち、負極集電体は、Cu箔およびNiめっき皮膜を含む。負極集電体は、電子伝導性を有する。負極集電体は、例えば、1μm以上100μm以下の厚さを有していてもよい。厚さは、膜厚計により測定され得る。
【0052】
負極集電体は、表面に凹凸を有していてもよい。負極集電体は、例えば、0.1μm以上5μm以下の十点平均粗さを有していてもよい。本実施形態における「十点平均粗さ」は、「JIS B 0601-2001」における「Rzjis」を示す。負極集電体は、例えば、0.1μm以上3μm以下の十点平均粗さを有していてもよい。負極集電体は、例えば、1μm以上3μm以下の十点平均粗さを有していてもよい。十点平均粗さは、レーザ顕微鏡により測定され得る。
【0053】
《(S2)負極の形成》
本実施形態における全固体電池の製造方法は、負極集電体の表面に、負極活物質層を形成することにより、負極を形成することを含む。
【0054】
(負極活物質層)
上記の負極集電体が使用される限り、負極活物質層は、任意の方法により形成され得る。負極活物質層は、例えば、負極ペーストが負極集電体の表面に塗工され、乾燥されることにより形成され得る。負極ペーストは、例えば、負極活物質と、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、調製され得る。負極活物質層は、乾燥後にプレスされてもよい。分散媒は、例えば、硫化物固体電解質との反応性が低いものが選択される。分散媒は、例えば、カルボン酸エステル等であってもよい。
【0055】
負極活物質層は、例えば、1μm以上200μm以下の厚さを有するように形成されてもよい。負極活物質層は、例えば、10μm以上100μm以下の厚さを有するように形成されてもよい。
【0056】
(負極活物質層の組成)
負極活物質層は、負極活物質および硫化物固体電解質を含む。負極活物質層は、実質的に、負極活物質および硫化物固体電解質からなっていてもよい。負極活物質と硫化物固体電解質とは、例えば、体積比で「負極活物質/硫化物固体電解質=40/60」から「負極活物質/硫化物固体電解質=90/10」の関係を満たしていてもよい。
【0057】
負極活物質は、例えば、粒子群であってもよい。負極活物質は、例えば、1μm以上30μm以下のメジアン径を有していてもよい。本実施形態における「メジアン径」は、体積基準の粒度分布において微粒側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%になる粒子径を示す。
【0058】
負極活物質は、任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiO、Si基合金、Sn、SnO、Sn基合金、およびチタン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0059】
硫化物固体電解質は、Liイオン伝導性を有する。硫化物固体電解質は、実質的に、電子伝導性を有しない。硫化物固体電解質は、負極活物質層、固体電解質層および正極活物質層に共通して含まれ得る。各層に含まれる硫化物固体電解質は、すべて同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0060】
硫化物固体電解質は、例えば、粒子群であってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、負極活物質に比して、小さいメジアン径を有していてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、0.1μm以上5μm以下のメジアン径を有していてもよい。
【0061】
硫化物固体電解質は、例えば、ガラスであってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ガラスセラミックス(「結晶化ガラス」とも称される)であってもよい。硫化物固体電解質は、SおよびLiを含む。硫化物固体電解質は、例えば、Pをさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ハロゲン元素をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ヨウ素(I)、臭素(Br)等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、O、Si、ゲルマニウム(Ge)、Sn等をさらに含んでいてもよい。
【0062】
硫化物固体電解質は、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li3PO4-Li2S-SiS2、およびLi2S-P2S5-GeS2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここに列記される硫化物固体電解質は、固体電解質層および正極活物質層にも共通して含まれ得る。
【0063】
硫化物固体電解質の組成は、原材料によって表され得る。例えば、「Li2S-P2S5」は、硫化物固体電解質が、Li2Sに由来する成分と、P2S5に由来する成分とからなることを示す。Li2S-P2S5は、例えば、Li2SとP2S5とのメカノケミカル反応により生成され得る。硫化物固体電解質のうち、Li2Sに由来する成分と、P2S5に由来する成分とを含むものは、特に「Li2S-P2S5系固体電解質」とも称されている。Li2SとP2S5との混合比は、任意である。Li2SとP2S5とは、例えば、モル比で「Li2S/P2S5=50/50」から「Li2S/P2S5=90/10」の関係を満たしていてもよい。Li2SとP2S5とは、例えば、モル比で「Li2S/P2S5=60/40」から「Li2S/P2S5=80/20」の関係を満たしていてもよい。
【0064】
負極活物質層は、導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は、電子伝導性を有する。導電材の配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここに列記される導電材は、正極活物質層にも共通して含まれ得る。
【0065】
負極活物質層は、バインダをさらに含んでいてもよい。バインダは、固体同士を結合する。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下であってもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアクリル酸(PAA)、およびカルボキシメチルセルロース(CMC)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここに列記されるバインダは、固体電解質層および正極活物質層にも共通して含まれ得る。
【0066】
(負極活物質層の空隙率)
負極活物質層は、例えば、25%以下の空隙率を有していてもよい。負極活物質層の空隙率は、プレスの圧力によって調整され得る。25%以下の空隙率を実現するためには、ある程度高い圧力が必要になる。本実施形態においては、Niめっき皮膜が剥離し難いため、高い圧力によって負極活物質層がプレスされ得る。負極活物質層の空隙率が25%以下であることにより、負極活物質層におけるイオン伝導が促進されることが期待される。これにより、電池抵抗の低減が期待される。負極活物質層は、例えば、18%以下の空隙率を有していてもよい。負極活物質層は、例えば、16%以上の空隙率を有していてもよい。
【0067】
本実施形態における空隙率は、負極活物質層の断面において測定される。まず、負極が切断されることにより、負極活物質層の断面を含む試験片が採取される。ここでの断面は、任意断面である。断面は、例えば、負極活物質層の厚さ方向と平行であってもよい。イオンミリング装置により、試験片に含まれる負極活物質層に対して、断面加工が施される。断面加工後、SEM(scanning electron microscope)により、負極活物質層が観察される。観察倍率は1000倍から2000倍程度である。これによりSEM画像が取得される。画像処理によりSEM画像が二値化される。二値化により、SEM画像内の材料部分(負極活物質、硫化物固体電解質等)と、空隙部分とが判別される。空隙部分の面積が測定される。空隙部分の面積が、画像全体の面積で除されることにより、当該試験片における空隙率が算出される。
【0068】
負極から、無作為に5個の試験片が採取される。5個の試験片において、空隙率がそれぞれ測定される。5個の空隙率の算術平均が、負極活物質層の空隙率とみなされる。空隙率は、百分率で表示される。空隙率は、整数部のみ有効である。小数点以下は、四捨五入される。
【0069】
《(S3)全固体電池の製造》
本実施形態における全固体電池の製造方法は、負極、固体電解質層および正極を含む、全固体電池を製造することを含む。本実施形態においては、上記の負極が使用される限り、任意の方法により、全固体電池が製造され得る。
【0070】
図5は、本実施形態における全固体電池を示す概略断面図である。
全固体電池100は、蓄電要素50を含む。蓄電要素50は、正極10、固体電解質層30および負極20が積層されることにより形成される。すなわち、全固体電池100は、正極10、固体電解質層30および負極20を含む。固体電解質層30は、正極10と負極20とを物理的に分離している。正極10、固体電解質層30および負極20は、例えば、プレスにより一体化され得る。
【0071】
全固体電池100は、1個の蓄電要素50を単独で含んでいてもよい。全固体電池100は、複数個の蓄電要素50を含んでいてもよい。複数個の蓄電要素50は、
図5のz軸方向に積層されていてもよい。複数個の蓄電要素50は、直列回路を形成していてもよい。複数個の蓄電要素50は、並列回路を形成していてもよい。
【0072】
全固体電池100は、筐体(不図示)を含んでいてもよい。筐体に、蓄電要素50が封入されていてもよい。筐体は、任意の形態を有し得る。筐体は、例えばアルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。筐体は、例えば金属製のケース等であってもよい。
【0073】
(負極)
負極20は、正極10に比して、低い電位を有する電極である。負極20は、シート状である。負極20は、負極集電体21および負極活物質層22を含む。負極活物質層22は、負極活物質および硫化物固体電解質を含む。
【0074】
負極20の製造方法の詳細は、前述のとおりである。負極集電体21は、Cu箔1およびNiめっき皮膜2を含む。本実施形態におけるNiめっき皮膜2は、+2.2%以上の均一電着性を有するめっき液から形成されている。Niめっき皮膜2は、2.0g/m2以上4.4g/m2以下の付着量を有する。
【0075】
(正極)
正極10は、負極20に比して高い電位を有する電極である。正極10は、シート状である。正極10は、正極集電体11および正極活物質層12を含む。正極集電体11は、例えば、5μm以上30μm以下の厚さを有していてもよい。正極集電体11は、例えば、Al箔等であってもよい。
【0076】
正極活物質層12は、正極集電体11の表面に形成されている。正極活物質層12は、例えば、正極ペーストが正極集電体11の表面に塗工され、乾燥されることにより形成され得る。正極ペーストは、例えば、正極活物質と、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、調製され得る。正極活物質層12は、乾燥後にプレスされてもよい。
【0077】
正極活物質層12は、例えば、1μm以上200μm以下の厚さを有していてもよい。正極活物質層12は、例えば、10μm以上100μm以下の厚さを有していてもよい。
【0078】
正極活物質層12は、正極活物質および硫化物固体電解質を含む。正極活物質層12は、実質的に、正極活物質および硫化物固体電解質からなっていてもよい。正極活物質と硫化物固体電解質とは、例えば、体積比で「正極活物質/硫化物固体電解質=40/60」から「正極活物質/硫化物固体電解質=90/10」の関係を満たしていてもよい。硫化物固体電解質の詳細は、前述のとおりである。硫化物固体電解質は、例えば、Li2S-P2S5系固体電解質等を含んでいてもよい。
【0079】
正極活物質は、例えば、粒子群であってもよい。正極活物質は、例えば、1μm以上30μm以下のメジアン径を有していてもよい。
【0080】
正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、および、リン酸鉄リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0081】
正極活物質に表面処理が施されていてもよい。表面処理により、正極活物質の表面に緩衝層が形成されてもよい。緩衝層は、硫化物固体電解質と正極活物質との直接接触を阻害し得る。緩衝層は、例えば、LiNbO3、LiTaO3、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0082】
正極活物質層12は、導電材をさらに含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック等を含んでいてもよい。
【0083】
正極活物質層12は、バインダをさらに含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下であってもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、PVdF等を含んでいてもよい。
【0084】
(固体電解質層)
固体電解質層30は、セパレータである。固体電解質層30は、正極10と負極20との間に介在している。固体電解質層30は、正極10と負極20とを物理的に分離している。「物理的分離」は、2つ物が直接接触していない状態を示す。すなわち、固体電解質層30は、正極10と負極20とを空間的に分離している。固体電解質層30は、例えば、1μm以上100μm以下の厚さを有していてもよい。固体電解質層30は、例えば、10μm以上50μm以下の厚さを有していてもよい。
【0085】
固体電解質層30は、固体電解質ペーストが所定の仮支持体の表面に塗工され、乾燥されることにより形成され得る。固体電解質ペーストは、例えば、硫化物固体電解質と、バインダと、分散媒とが混合されることにより調製され得る。仮支持体は、例えば、金属箔等であってもよい。固体電解質層30は、仮支持体の表面から、例えば、正極活物質層12の表面に転写され得る。固体電解質層30は、仮支持体の表面から、例えば、負極活物質層22の表面に転写され得る。
【0086】
固体電解質ペーストが正極活物質層12の表面に塗工されることにより、正極活物質層12の表面に固体電解質層30が形成されてもよい。固体電解質ペーストが負極活物質層22の表面に塗工されることにより、負極活物質層22の表面に固体電解質層30が形成されてもよい。
【0087】
固体電解質層30は、硫化物固体電解質を含む。固体電解質層30は、実質的に硫化物固体電解質からなっていてもよい。固体電解質層30は、硫化物固体電解質に加えて、例えば、バインダ等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質の詳細は、前述のとおりである。硫化物固体電解質は、例えば、Li2S-P2S5系固体電解質等を含んでいてもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ブタジエンゴム(BR)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100体積部の硫化物固体電解質に対して、例えば、0.1体積部以上10体積部以下であってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、本開示の実施例(以下「本実施例」とも記される)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0089】
《(S1)めっき処理》
下記の手順により、各試料に係る負極集電体が形成された。
【0090】
(比較例1)
Cu箔(日本電解社製)が準備された。Cu箔の厚さは18μmであった。Cu箔の十点平均粗さは2.0μmであった。比較例1においては、Cu箔が未加工のまま、負極集電体として使用された。
【0091】
(実施例1、2、3、比較例2、3、4)
1.前処理
脱脂剤(製品名「クリーナー160S」、メルテックス社製)が準備された。脱脂剤を含む脱脂液(60g/L)が調製された。脱脂液の温度が60℃に調整された。脱脂液にCu箔が浸漬された。2.5A/dm2の電流密度により、30秒間、Cu箔に電解処理が施された。電解処理後、硫酸(10g/L)中において、Cu箔が60秒間洗浄された。
【0092】
2.Niめっき処理
下記表1のめっき浴が準備された。
【0093】
【0094】
10A/dm2の電流密度により、Cu箔にめっき処理が施された。Niめっき皮膜の付着量は、通電時間により調整された。
【0095】
3.評価
前述の方法により、めっき液の均一電着性、およびNiめっき皮膜の付着量が測定された。測定結果は、下記表6に示される。
【0096】
(比較例10)
1.前処理
実施例1と同様に、Cu箔に前処理が施された。
【0097】
2.Niめっき処理
下記表2のめっき浴が準備された。
【0098】
【0099】
めっき浴において、10A/dm2の電流密度により、Cu箔にめっき処理が施された。Niめっき皮膜の付着量は、通電時間により調整された。
【0100】
3.評価
前述の方法により、めっき液の均一電着性、およびNiめっき皮膜の付着量が測定された。測定結果は、下記表6に示される。
【0101】
(比較例5、6、9)
1.前処理
実施例1と同様に、Cu箔に前処理が施された。
【0102】
2.Niめっき処理
下記表3のめっき浴が準備された。
【0103】
【0104】
10A/dm2の電流密度により、Cu箔にめっき処理が施された。Niめっき皮膜の付着量は、通電時間により調整された。
【0105】
3.評価
前述の方法により、めっき液の均一電着性、およびNiめっき皮膜の付着量が測定された。測定結果は、下記表6に示される。
【0106】
(比較例7)
1.前処理
実施例1と同様に、Cu箔に前処理が施された。
【0107】
2.めっき処理
下記表4のめっき浴が準備された。
【0108】
【0109】
10A/dm2の電流密度により、Cu箔にめっき処理が施された。Niめっき皮膜の付着量は、通電時間により調整された。
【0110】
3.評価
前述の方法により、めっき液の均一電着性、およびNiめっき皮膜の付着量が測定された。測定結果は、下記表6に示される。
【0111】
(比較例8)
1.前処理
実施例1と同様に、Cu箔に前処理が施された。
【0112】
2.めっき処理
下記表5のめっき浴が準備された。
【0113】
【0114】
10A/dm2の電流密度により、Cu箔にめっき処理が施された。Niめっき皮膜の付着量は、通電時間により調整された。
【0115】
3.評価
前述の方法により、めっき液の均一電着性、およびNiめっき皮膜の付着量が測定された。測定結果は、下記表6に示される。
【0116】
《(S2)負極の形成》
上記で製造された負極集電体が使用され、下記の手順により、負極が製造された。
【0117】
(硫化物固体電解質の合成)
0.550質量部のLi2Sと、0.887質量部のP2S5と、0.285質量部のLiIと、0.227質量部のLiBrとが秤量され、メノウ乳鉢に投入された。メノウ乳鉢において、材料が5分間混合されることにより、混合物が調製された。4質量部の脱水ヘプタンが混合物に追加された。遊星型ボールミルにより、40時間にわたって、混合物にメカニカルミリング処理が施された。以上より、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5)が合成された。硫化物固体電解質は、ガラスセラミックスであった。硫化物固体電解質は、2.5μmの平均粒子径を有していた。
【0118】
(負極活物質層の形成)
以下の材料が準備された。
負極活物質 :Si(粉末状、平均粒子径=2μm)
硫化物固体電解質:LiI-LiBr-Li2S-P2S5(上記で合成されたもの)
導電材 :VGCF
バインダ :PVdF
分散媒 :酪酸ブチル
負極集電体 :NiめっきCu箔(上記で製造されたもの)
【0119】
1.0質量部の負極活物質と、0.776質量部の硫化物固体電解質と、0.04質量部の導電材と、0.02質量部のバインダと、2.4質量部の分散媒とが秤量され、所定の容器に投入された。超音波ホモジナイザー(型番「UH-50」、エスエムテー社製)により、固体材料が分散媒中に分散された。これにより、負極ペーストが調製された。
【0120】
ブレード方式のアプリケータにより、負極集電体の表面に、負極ペーストが塗工された。100℃のホットプレート上において、負極ペーストが30分間乾燥された。負極ペーストが乾燥することにより、負極活物質層が形成された。以上より負極が製造された。
【0121】
《(S3)全固体電池の製造》
上記で製造された負極が使用され、下記の手順により、全固体電池が製造された。
【0122】
(正極の製造)
以下の材料が準備された。
正極活物質 :LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2
硫化物固体電解質:LiI-LiBr-Li2S-P2S5(上記で合成されたもの)
導電材 :VGCF
バインダ :PVdF
分散媒 :酪酸ブチル
正極集電体 :Al箔
【0123】
本実施例における正極活物質には、表面処理が施されていた。すなわち、正極活物質の表面には、LiNbO3の皮膜が形成されていた。
【0124】
1.5質量部の正極活物質と、0.239質量部の硫化物固体電解質と、0.023質量部の導電材と、0.011質量部のバインダと、0.8質量部の分散媒とが秤量され、所定の容器に投入された。超音波ホモジナイザー(型番「UH-50」、エスエムテー社製)により、固体材料が分散媒中に分散された。これにより、正極ペーストが調製された。
【0125】
ブレード方式のアプリケータにより、正極集電体の表面に、正極ペーストが塗工された。100℃のホットプレート上において、正極ペーストが30分間乾燥された。正極ペーストが乾燥することにより、正極活物質層が形成された。以上より正極が製造された。
【0126】
本実施例においては、対向容量比が2.5になるように、正極活物質層および負極活物質層の目付量が設計された。対向容量比は、単位面積あたりの正極活物質層の充電容量に対する、単位面積あたりの負極活物質層の充電容量の比を示す。本実施例における対向容量比は、正極活物質の比容量(充電容量)を160mAh/gとして計算された。
【0127】
(固体電解質層の形成)
硫化物固体電解質:LiI-LiBr-Li2S-P2S5(上記で合成されたもの)
バインダ溶液 :溶質 ブタジエンゴム系バインダ(5質量%)、溶媒 ヘプタン
分散媒 :ヘプタン
【0128】
ポリプロピレン製の容器が準備された。硫化物固体電解質と、バインダ溶液と、分散媒とが容器に投入された。超音波分散装置により、容器内の材料が30秒間攪拌された。攪拌後、容器が振とう器にセットされた。振とう器により、容器が3分間振とうされた。以上より、固体電解質ペーストが調製された。
【0129】
負極がプレスされた。負極のプレス後、ブレード方式のアプリケータにより、負極活物質層の表面に固体電解質ペーストが塗工された。100℃のホットプレート上において、固体電解質ペーストが30分間乾燥された。固体電解質ペーストが乾燥することにより、負極活物質層の表面に固体電解質層が形成された。これにより第1積層体が形成された。ロールプレスにより第1積層体がプレスされた。プレスの圧力は、2tоn/cm2または0.5tоn/cm2であった。プレス後、打ち抜き加工により、第1積層体が所定の平面形状に加工された。
【0130】
正極がプレスされた。正極のプレス後、ブレード方式のアプリケータにより、正極活物質層の表面に固体電解質ペーストが塗工された。100℃のホットプレート上において、固体電解質ペーストが30分間乾燥された。固体電解質ペーストが乾燥することにより、正極活物質層の表面に固体電解質層が形成された。これにより第2積層体が形成された。ロールプレスにより第2積層体がプレスされた。プレスの圧力は、2tоn/cm2であった。プレス後、打ち抜き加工により、第2積層体が所定の平面形状に加工された。
【0131】
(組み立て)
仮支持体として、Al箔が準備された。仮支持体の表面に、固体電解質ペーストが塗工され、乾燥されることにより、固体電解質層が形成された。
【0132】
仮支持体の表面に形成された固体電解質層が、第2積層体の表面に転写された。正極集電体、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層および負極集電体がこの順で積層されるように、第2積層体と第1積層体とが貼り合わされた。これにより蓄電要素が形成された。蓄電要素にホットプレスが施された。ホットプレスの温度は、130℃であった。ホットプレスの圧力は、2tоn/cm2または0.5tоn/cm2であった。
【0133】
筐体が準備された。筐体は、アルミラミネートフィルム製のパウチであった。筐体に蓄電要素が封入された。蓄電要素に5MPaの圧力が加わるように、筐体の周囲が拘束された。以上より、全固体電池が製造された。
【0134】
《評価》
(初回充放電効率)
以下の説明において「C」は、電流レートの大きさを表す。例えば1Cは、電池の満充電容量が1時間で放電される電流レートを示す。例えば0.1Cは、電池の満充電容量が10時間で放電される電流レートを示す。
【0135】
まず0.1C相当の電流により、電圧が4.55Vに到達するまで、全固体電池が定電流方式で充電された。4.55Vに到達した後、全固体電池が定電圧方式で充電された。定電圧方式に移行後、充電電流が0.01C相当の電流まで減衰した時点で、充電が終了された。
【0136】
0.1C相当の電流により、全固体電池が定電流方式で放電された。電圧が3.0Vに到達した時点で、放電が終了された。放電容量が充電容量で除されることにより、初回充放電効率が算出された。初回充放電効率は、百分率で表示される。初回充放電効率は、下記表6に示される。本実施例においては、初回充放電効率が87%以上であれば、初回充放電効率が高いとみなされる。
【0137】
(電池抵抗)
0.1C相当の電流により、全固体電池が定電流方式で充電された。充電開始から10秒経過後の電圧が測定された。10秒間の電圧上昇量が、0.1C相当の電流で除されることにより、電池抵抗(直流抵抗)が算出された。電池抵抗は、下記表6に示される。本実施例においては、電池抵抗が4.4mΩ以下であれば、電池抵抗が低いとみなされる。
【0138】
(空隙率)
前述の方法により、負極活物質層の空隙率が測定された。空隙率は、下記表6に示される。
【0139】
【0140】
《評価結果》
比較例1は、初回充放電効率が低い。比較例1の負極集電体は、Niめっき皮膜を有していない。Cu箔と硫化物固体電解質とが接触することにより、Cu2Sが生成していると考えられる。
【0141】
比較例2および3は、初回充放電効率が低い。付着量が少ないため、全固体電池の製造プロセスにおいて、Niめっき皮膜が剥離していると考えられる。
【0142】
比較例4は、電池抵抗が高い。付着量が多いためと考えられる。
【0143】
比較例5から9は、電池抵抗が低い。付着量が適度に少ないためと考えられる。しかし、比較例5から9は、初回充放電効率が低い。めっき液の均一電着性が低いため、全固体電池の製造プロセスにおいて、Niめっき皮膜が剥離していると考えられる。
【0144】
比較例10は、初回充放電効率が高い。比較例10は、比較例3と同等の付着量を有する。比較例10においては、0.5tоn/cm2のプレス圧力により、全固体電池が製造された。他の試料においては、2tоn/cm2のプレス圧力により全固体電池が製造された。比較例10においては、プレス圧力が相対的に低いため、付着量が少なくても、Niめっき皮膜が剥離しなかったと考えられる。しかし比較例10は、電池抵抗が高い。比較例10はプレスの圧力が低いため、負極活物質層の空隙率が高くなっている。空隙によってイオン伝導が阻害されることにより、電池抵抗が増加していると考えられる。
【0145】
実施例1から3においては、高い充放電効率と、低い電池抵抗とが両立されている。実施例1から3においては、Niめっき皮膜の付着量が2.0g/m2以上4.4g/m2以下である。実施例1から3においては、めっき液の均一電着性が+2.2%以上である。
【0146】
図6は、初回充電時の充電微分曲線である。
約2.5Vから約3.3Vの範囲において、例えば比較例1は、例えば実施例1に比して、「dQ/dV」が増大している。「dQ/dV」の増大は、「Cu
2S+2Li→2Cu+Li
2S」の反応によって流れる電流を反映していると考えられる。
【0147】
2.0g/m2以上の付着量、かつ+2.2%以上の均一電着性の条件を満たす試料(例えば実施例1)においては、「dQ/dV」の増大がみられない。したがって、2.0g/m2以上の付着量、かつ+2.2%以上の均一電着性の条件を満たす試料においては、Cu2Sが実質的に生成していないと考えられる。
【0148】
本実施形態および本実施例は、すべての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味におけるすべての変更を包含する。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲内におけるすべての変更も包含する。
【符号の説明】
【0149】
1 Cu箔、2 Niめっき皮膜、10 正極、11 正極集電体、12 正極活物質層、20 負極、21 負極集電体、22 負極活物質層、30 固体電解質層、50 蓄電要素、100 全固体電池、200 ハーリングセル、201 第1陰極板、202 第2陰極板、203 陽極板、204 浴槽、205 めっき液。