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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ろ過方法および中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20231031BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20231031BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231031BHJP
   C12H 1/12 20060101ALN20231031BHJP
   C12G 1/06 20190101ALN20231031BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D65/02
C02F1/44 D
C12H1/12
C12G1/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020043035
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2020151707
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019045201
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】中元 浩平
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205981(JP,A)
【文献】特開2018-084249(JP,A)
【文献】特開2013-117250(JP,A)
【文献】特開2009-160561(JP,A)
【文献】特開2014-221477(JP,A)
【文献】特開2009-233629(JP,A)
【文献】特開2014-034019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C12H 1/12
C12G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束がモジュールケースに挿入され、該中空糸膜の両端部がポッティング材により一体化された、中空糸膜モジュールを用いた、前記中空糸膜モジュール内の圧力が0.3~1.0MPaでろ過されるろ過方法であって、
前記中空糸膜モジュールは、無拘束下で該中空糸膜モジュール内の圧力を1.0MPaとした場合に、前記中空糸膜モジュールの長手方向における中央部分の拡径率がR%、長手方向の伸びがL%であることに対して、0.5<R/L<4の関係を満たし、
運転時は、前記中空糸膜モジュールの長手方向が拘束された状態で、前記中央部分の拡径率が0.3%以下である
ことを特徴とするろ過方法。
【請求項2】
炭酸ガスを3.92g/l以上含有する飲料を少なくとも前記中空糸膜モジュールによりろ過する、ろ過工程を有し、
前記ろ過工程における2次側圧力の最低圧力が0.3MPa以上、1次側の最大圧力が1.0MPa以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のろ過方法。
【請求項3】
前記ろ過工程と、逆洗工程と、を繰り返すろ過方法であって、
前記ろ過工程から前記逆洗工程に移行するときの、逆洗運転時の1次側圧力が0.3MPa以上を維持したままの状態において、前記逆洗工程がろ液を用いて行われ、
前記ろ過工程時の1次側の圧力>前記ろ過工程時の2次側の圧力の関係が、前記逆洗工程時には、前記逆洗工程時における1次側の圧力>逆洗工程時における2次側の圧力の関係となるようにする、
ことを特徴とする請求項2に記載のろ過方法。
【請求項4】
炭酸ガスを3.92g/l以上含有する飲料を少なくとも前記中空糸膜モジュールによりろ過するろ過工程と、逆洗工程と、を繰り返すろ過方法であって、
前記ろ過工程から前記逆洗工程に移行するときの、逆洗運転時の1次側圧力が0.3MPa以上を維持したままの状態において、前記逆洗工程がろ液を用いて行われ、
前記ろ過工程時の1次圧>前記ろ過工程時の2次圧の関係が、前記逆洗工程時には、前記逆洗工程時における1次圧>前記逆洗工程時における2次圧の関係となるようにする、
ことを特徴とする請求項1に記載のろ過方法。
【請求項5】
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束がモジュールケースに挿入され、該中空糸膜の両端部がポッティング材により一体化された、中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜モジュールは、無拘束下で圧力を1.0MPaとした場合に、前記中空糸膜モジュールのパイプ状部の中央部分の拡径率がR%、長手方向の伸びがL%であることに対して、0.5<R/L<4の関係を満たし、
運転時は、前記中空糸膜モジュールの長手方向が拘束された状態で、前記中央部分の拡径率が0.3%以下である
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記モジュールケースの少なくとも一部は、外表面側に層状のガラス繊維強化樹脂部を含み、前記ガラス繊維強化樹脂部を含有するモジュールケースの少なくとも一部において、前記モジュールケースの肉厚に対する前記層状のガラス繊維強化樹脂部の肉厚の割合が5%以上50%以下である
ことを特徴とする請求項5に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記モジュールケースの少なくとも一部は、ガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットの少なくとも一つを有し、
該ガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットの少なくとも一つの1平方メートルあたりの重量が、50g以上600g以下である
ことを特徴とする請求項5または6に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
前記ガラス繊維強化樹脂部のうちパイプ状部を被覆する第1のガラス繊維強化樹脂部と、ヘッダ部を被覆する第2のガラス繊維強化樹脂部と、ノズル部を被覆する第3のガラス繊維強化樹脂部とを含み、
前記第1のガラス繊維強化樹脂部および前記第2のガラス繊維強化樹脂部のガラス繊維が相互に重なり合う領域があり、
前記第2のガラス繊維強化樹脂部および前記第3のガラス繊維強化樹脂部のガラス繊維が相互に重なり合う領域を持つ
ことを特徴とする請求項6に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記第3のガラス繊維強化樹脂部に使用されるガラス繊維のガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットの少なくとも一つの1平方メートルあたりの重量が、50g以上300g以下である
ことを特徴とする請求項8に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項10】
前記モジュールケースでは、プラスチック部の外表面側に前記ガラス繊維強化樹脂部を積層しており、
前記ガラス繊維強化樹脂部と前記プラスチック部の引張せん断強度が3MPa以上
である
ことを特徴とする請求項6、8、9のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項11】
前記ガラス繊維強化樹脂部中の、前記ガラス繊維を有するガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットのすくなくとも一つが、前記モジュールケース内でらせん状に巻回され、
それらの幅が、30mm以上140mm以下である
ことを特徴とする請求項6、8から10のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束を備えた中空糸膜モジュール、特に耐圧性を向上させた中空糸膜モジュール、および、例えば、炭酸を含む液体を長期間にわたりサニタリー性を担保してろ過運転するろ過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気液吸収、脱気、ろ過用等の用途で、精密ろ過膜、限外ろ過膜を利用した膜ろ過法に用いられる膜として、中空糸膜が知られている。中空糸膜を用いた膜モジュールは、膜面積が大きく、装置を小型化できるために、種々の膜分離の用途に広く利用されている。この主の膜モジュールとして、その両端が樹脂部で固定された複数の中空糸膜からなる中空糸膜束を備えるものが知られている。
【0003】
中空糸膜モジュールを用いたろ過方法は、原水を中空糸膜の内表面側から外表面側へ透過しろ過水を得る内圧ろ過方式と、外表面側から内表面側へ透過する外圧ろ過方式に大別される。
【0004】
ろ過運転時に中空糸膜束を挿入したモジュールケースにはモジュールケースの内側から外側への陽圧が加わるため、モジュールケースには運転条件に応じた耐圧性が求められる。ろ過の用途によっては、モジュールケースに高い耐圧性が求められることがある。
【0005】
例えば、炭酸が溶解された状態の飲料をろ過する用途において、高い耐圧性が求められることがある。このような炭酸水等の飲料水のろ過では、気体を溶解させたままろ過運転を行う必要があるため、2次側の圧力を通常よりも高く保つ必要がある。そのため、結果としてろ過圧力が高くなり、モジュールケースに大きな負荷をかける場合がある。モジュールケース一体型の中空糸膜モジュールの場合、耐圧性を向上するにはガラス短繊維入りの樹脂のような弾性率の高い素材をケース素材として用いる方法が知られている(特許文献1参照)。またカートリッジタイプの膜モジュールを挿入するハウジングにおいては、ガラス長繊維とマトリクス樹脂を型となるマンドレルに巻きつけた後に、マトリックス樹脂を完全硬化させ、型から引き抜いた後に切削加工を経てハウジングに供する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-160561号公報
【文献】特開2013-117250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラス繊維入りの樹脂を成形したとしても、ろ過運転の条件によってはパイプ部の肉厚を増加する必要が出てくる。この場合、パイプの内側に厚さを増す場合と、外側に増す場合が考えられる。内側方向に向かって厚さを増した場合、ろ過面積が減少してしまい製品としての性能が低下してしまう。一方パイプ部の外側方向に向かって厚さを増やした場合、ろ過面積は維持できるものの、パイプ部を仕出し成形するためのダイスをその都度用意する必要があり、設備投資が膨大となってしまう。
【0008】
また特許文献2のように、巻回するガラス繊維の角度を調節することにより、周方向および径方向の耐圧性をある程度コントロールできる特徴がある。しかしながら特許文献2の場合、食品と接触するハウジング内表面にガラス繊維が露出する懸念があり好適なハウジングとは言えない。またこのようなハウジングは主にスパイラル膜のハウジングとして用いられる。中空糸膜モジュール、スパイラルモジュールハウジング共にろ過液もしくは濃縮液を取り出すためのサイドポートが設けられている場合がある。ケース一体型の中空糸膜モジュールにおいては、サイドポート周辺の内表面と中空糸膜束外周部の間にはろ液もしくは洗浄時の液体が流れるための十分なスペースを確保する必要がある。またノズル部近傍の液流れを抑制するための整流筒が設けられる場合があるため、通常ハウジングにおいてはパイプ部とヘッダ部は個別に成形し、後で接続する方法が採用される例が多い。しかしながら特許文献2のような製造方法ではマンドレルに巻き付きた後に、製品を必ず引き抜く必要があるため、ハウジングの内径を長手方向に異なる径で成形することは困難である。
【0009】
また飲料水ろ過用途のシステムにおいては、サニタリー性を担保するため、中空糸膜モジュールの長手方向に位置する原液導入部と濃縮液排出部がステンレス配管により接続固定されることが多い。この場合、圧力を印加した際に発生する中空糸膜モジュールの長手方向の伸びが、固定されたステンレス配管により抑制されてしまうために、長手方向が固定されない場合に比べて径方向により大きな負荷が発生することがわかった。
【0010】
またできるだけ長くろ過運転を行うために、膜に詰まった物質を取り除くため、ろ過の途中に短時間、ろ過側と逆側、つまり2次側から1次側に向かって液体を流す逆洗と呼ばれる操作が取り入れられることがある。逆洗はろ過対象液の種類にもよるが数分から数十分に1回程度の頻度で行われる。ろ過モジュールは長期間に渡り繰り返し使用するため、相当数の繰り返し圧力変動が加わる。逆洗に用いられる液体としては、ろ液を用いる場合や冷水、温水を用いる場合がある。ろ液によって逆洗を行う場合、操作終了後速やかにろ過運転を再開できる一方、ろ液が炭酸を含む液体である場合、より高い圧力負荷がハウジングに発生し、かつ高頻度の繰り返し圧力負荷が発生する。中空糸膜モジュールの長手方向が固定されている場合、モジュールの径方向に大きな負荷が発生するが、特にハウジング中のパイプ部とヘッダ部付近に応力が集中しやすいことが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述のような課題を鋭意検討した結果、中空糸膜モジュールの印加圧力
に対するハウジングの拡径率を調節することにより、上記課題を解決できることを見出し
、本発明をなすに至った。即ち、本発明を以下の通りである。
[1]
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束がモジュールケースに挿入され、該中空糸膜の両端部がポッティング材により一体化された、中空糸膜モジュールを用いた、前記中空糸膜モジュール内の圧力が0.3~1.0MPaでろ過されるろ過方法であって、
前記中空糸膜モジュールは、無拘束下で該中空糸膜モジュール内の圧力を1.0MPaとした場合に、前記中空糸膜モジュールの長手方向における中央部分の拡径率がR%、長手方向の伸びがL%であることに対して、0.5<R/L<4の関係を満たし、
運転時は、前記中空糸膜モジュールの長手方向が拘束された状態で、前記中央部分の拡径率が0.3%以下である
ことを特徴とするろ過方法。
[2]
炭酸ガスを3.92g/l以上含有する飲料を少なくとも前記中空糸膜モジュールによりろ過する、ろ過工程を有し、
前記ろ過工程における2次側圧力の最低圧力が0.3MPa以上、1次側の最大圧力が1.0MPa以下である
ことを特徴とする[1]に記載のろ過方法。
[3]
前記ろ過工程と、逆洗工程と、を繰り返すろ過方法であって、
前記ろ過工程から前記逆洗工程に移行するときの、逆洗運転時の1次側圧力が0.3MPa以上を維持したままの状態において、前記逆洗工程がろ液を用いて行われ、
前記ろ過工程時の1次側の圧力>前記ろ過工程時の2次側の圧力の関係が、前記逆洗工程時には、前記逆洗工程時における1次側の圧力>逆洗工程時における2次側の圧力の関係となるようにする、
ことを特徴とする[2]に記載のろ過方法。
[4]
炭酸ガスを3.92g/l以上含有する飲料を少なくとも前記中空糸膜モジュールによりろ過するろ過工程と、逆洗工程と、を繰り返すろ過方法であって、
前記ろ過工程から前記逆洗工程に移行するときの、逆洗運転時の1次側圧力が0.3MPa以上を維持したままの状態において、前記逆洗工程がろ液を用いて行われ、
前記ろ過工程時の1次圧>前記ろ過工程時の2次圧の関係が、前記逆洗工程時には、前記逆洗工程時における1次圧>前記逆洗工程時における2次圧の関係となるようにする、
ことを特徴とする[1]に記載のろ過方法。
[5]
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束がモジュールケースに挿入され、該中空糸膜の両端部がポッティング材により一体化された、中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜モジュールは、無拘束下で圧力を1.0MPaとした場合に、前記中空糸膜モジュールのパイプ状部の中央部分の拡径率がR%、長手方向の伸びがL%であることに対して、0.5<R/L<4の関係を満たし、
運転時は、前記中空糸膜モジュールの長手方向が拘束された状態で、前記中央部分の拡径率が0.3%以下である
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
[6]
前記モジュールケースの少なくとも一部は、外表面側に層状のガラス繊維強化樹脂部を含み、前記ガラス繊維強化樹脂部を含有するモジュールケースの少なくとも一部において、前記モジュールケースの肉厚に対する前記層状のガラス繊維強化樹脂部の肉厚の割合が5%以上50%以下である
ことを特徴とする[5]に記載の中空糸膜モジュール。
[7]
前記モジュールケースの少なくとも一部は、ガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットの少なくとも一つを有し、
該ガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットの少なくとも一つの1平方メートルあたりの重量が、50g以上600g以下である
ことを特徴とする[5]または[6]に記載の中空糸膜モジュール。
[8]
前記ガラス繊維強化樹脂部のうちパイプ状部を被覆する第1のガラス繊維強化樹脂部と、ヘッダ部を被覆する第2のガラス繊維強化樹脂部と、ノズル部を被覆する第3のガラス繊維強化樹脂部とを含み、
前記第1のガラス繊維強化樹脂部および前記第2のガラス繊維強化樹脂部のガラス繊維が相互に重なり合う領域があり、
前記第2のガラス繊維強化樹脂部および前記第3のガラス繊維強化樹脂部のガラス繊維が相互に重なり合う領域を持つ
ことを特徴とする[6]に記載の中空糸膜モジュール。
[9]
前記第3のガラス繊維強化樹脂部に使用されるガラス繊維のガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットの少なくとも一つの1平方メートルあたりの重量が、50g以上300g以下である
ことを特徴とする[8]に記載の中空糸膜モジュール。
[10]
前記モジュールケースでは、プラスチック部の外表面側に前記ガラス繊維強化樹脂部を積層しており、
前記ガラス繊維強化樹脂部と前記プラスチック部の引張せん断強度が3MPa以上である
ことを特徴とする[6]、[8]、[9]のいずれか1つに記載の中空糸膜モジュール

[11]
前記ガラス繊維強化樹脂部中の、前記ガラス繊維を有するガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットのすくなくとも一つが、前記モジュールケース内でらせん状に巻回され、
それらの幅が、30mm以上140mm以下である
ことを特徴とする[6]、[8]から[10]のいずれか1つに記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サニタリー性を担保できる運転システムおよび運転方法を採用しながら、炭酸を含む液体の高圧でのろ過運転を長期間安定に行うことができる実用性に優れた中空糸膜モジュールおよびろ過方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による中空糸膜モジュールを示す縦端面図である。
図2図1の中空糸膜モジュールの変形例を示す縦断面図である。
図3図1のモジュールケースにおけるガラス繊維を含有する部分の断面図である。
図4図1のモジュールケースにおけるプラスチック部の外周面を被覆するガラス繊維を含有する部分の断面図である。
図5図1のモジュールケース内におけるガラス繊維の傾斜を示す図である。
図6図1のモジュールケース内におけるガラス繊維の布状態の巻きまわしの態様を示す図である。
図7】ノズル部を被覆するためのガラスクロスの一形態を示した図である。
図8】本発明の一実施形態に係る発泡性飲料のろ過システムの例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
図1、2に示す、本実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、例えば、上水処理用途又は食品精製用途、超純水製造用途に用いられる。本実施形態の中空糸膜モジュール10は、中空糸膜11、ポッティング材12、及びモジュールケース13を備えている。
【0016】
中空糸膜11は多孔質であり、通過する流体をろ過する。本実施形態においては、中空糸膜11は、複数本の中空糸膜11を束ねた中空糸膜束としてモジュールケース13に挿入された状態で収容されている。
【0017】
なお、中空糸膜11の材質は特に制限されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アクリロニトリル、ならびに酢酸セルロース等が用いられている。中でも、結晶性を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリフッ化ビニリデン等の結晶性熱可塑性樹脂は、強度発現の面から好適に用いることができる。さらに好適には、疎水性ゆえ耐水性が高く、通常の水系液体のろ過において耐久性が期待できる、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。特に好適には、耐薬品性等の化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンを用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデンの比率が50モル%以上であるフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンまたはエチレンから選ばれた1種以上との共重合体が挙げられる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが最も好ましい。
【0018】
中空糸膜11のサイズは特に限定しないが、中空糸膜11の内径0.4~3mm、外径0.8~6mm、膜厚0.2~1.5mm、中空糸膜11の阻止孔径0.02~1μm、膜間差圧0.1~1.0MPaの耐圧性を備えたものが好ましく用いられる。
【0019】
ポッティング材12は、中空糸膜11の少なくとも一部をモジュールケース13に固定している。本実施形態においては、ポッティング材12は、中空糸膜11の両端部と一体化して、後述するモジュールケース13のハウジング本体14に固定されている。本実施形態において、ポッティング材12は、中空糸膜11の外周面及びハウジング本体14の内周面の間にポッティング材12を充填して硬化させることにより、形成されている。
【0020】
なお、ポッティング材12の材質は特に制限されないが、例えば、二液混合型硬化性樹脂が適用され、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコン樹脂等が好適に用いられている。ポッティング材12は、粘度、可使時間、硬化物の硬度や機械的強度、及び原液に対する物理的及び化学的安定性、中空糸膜11との接着性、モジュールケース13との接着性を勘案して、適切に選定することが望ましい。例えば、製造時間の短縮化及び生産性の向上の観点からは、可使時間の短いウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、機械的強度が求められる場合は、機械的耐久性を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、ポッティング材12にはこれらの樹脂を複数用いてもよい。
【0021】
モジュールケース13は、中空糸膜11を収容している。モジュールケース13のサイズは特に限定しないが、全長700~2500mm、外径20~250mmであることが好ましい。モジュールケースの肉厚は2~20mmであることが望ましく4~18mmであることがより望ましい。モジュールケース13は、ハウジング本体14及び2つのキャップ部材15を備えている。
【0022】
ハウジング本体14は、本実施形態において、全体として筒状の筒状体であり、当該筒状体の内部に中空糸膜11を収容している。ハウジング本体14は、本実施形態において、別部材である、パイプ状部16および2つのヘッダ部17を備えている。ただし、パイプ状部16およびヘッダ部17は分割されない単一の部材であってもよい。
【0023】
パイプ状部16は、本実施形態において、筒状をなしている。パイプ状部16の軸方向の両端部それぞれに、ヘッダ部17が係合している。本実施形態においては、パイプ状部16と両ヘッダ部17とを接着することにより、一体化されたハウジング本体14が形成されている。
【0024】
ヘッダ部17は、本実施形態において、筒状部を有している。ヘッダ部17は、ヘッダ部17の筒状部の内部とパイプ状部16の内部とが連通し、かつ互いに軸線が一致するように、パイプ状部16に係合されている。
【0025】
ヘッダ部17は、本実施形態において、ノズル部18を有している。ヘッダ部17の筒状部の側面に、当該筒状部の軸方向に対して垂直に突出するノズル部18が設けられている。ノズル部18は、ヘッダ部17の軸方向においてポッティング材12よりもパイプ状部16側に設けられている。
【0026】
開放されているノズル部18(図1の例では、上側のノズル部18、図2例では上下両方のノズル部18)は、ヘッダ部17の内部及び外部の間で流体を通過させるポートとして機能する。したがって、ノズル部18は、ハウジング本体14の内周面、各中空糸膜11の外周面、及びポッティング材12の露出面によって画定される内部空間に外部から流体を流入させ得、また当該内部空間から外部に流体を流出させ得る。
【0027】
キャップ部材15は、本実施形態において、一端が開放された筒状又はテーパ形状をなしている。キャップ部材15の開放された端は、ハウジング本体14の軸方向の両端において、ハウジング本体14に係合している。本実施形態において、キャップ部材15は、ナット19によりハウジング本体14に固定されている。なお、キャップ部材15とポッティング材12及びハウジング本体14の少なくとも一方との間にはOリング20が設けられ、キャップ部材15とハウジング本体14により画定される内部空間が液密に密封されている。
【0028】
キャップ部材15の閉鎖端又はテーパ形状部の細径部側に、管路21が設けられている。管路21は、ハウジング本体14の軸方向に平行に突出している。管路21は、キャップ部材15の内部及び外部間で流体を通過させるポートとして機能する。したがって、管路21は、キャップ部材15及びポッティング材12によって画定される内部空間に外部から流体を流入させ得、また当該内部空間から外部に流体を流出させ得る。
【0029】
さらに、図1の例において、中空糸膜11の長手方向の一方の端はポッティング材12及びキャップ部材15が画定する空間に開口を露出し(図面上側)、他方の端はポッティング材12に埋設され、開口は閉鎖されている(図面下側)。中空糸膜11が埋設されている側のポッティング材12には、軸方向に沿った貫通孔thが形成されている。また、中空糸膜11が埋設されている側のノズル部18は閉鎖されている。
【0030】
このような構成の中空糸膜モジュール10では、例えば、中空糸膜11が埋設されている側の管路21(図面下側)を通じて中空糸膜モジュール10に流入させた原液は、貫通孔thから、ハウジング本体14の内周面、中空糸膜11の外周面、および両ポッティング材12の露出面により画定される内部空間に流入する。当該内部空間に流入した原液は、解放されたノズル部18(図面上側)に向かってハウジング本体14の中空部内を通過しながら、一部が中空糸膜11によってろ過される。ろ過されたろ液が中空糸膜11の中空部内を通過して、開口が露出している側の管路21(図面上側)から排出される。また、解放されたノズル部18まで通過した原液が、濃縮液として排出される。
【0031】
なお、図2に示すように、中空糸膜モジュール10において、中空糸膜11の長手方向の両端が、ポッティング材12及びキャップ部材15が画定する空間に開口を露出し、いずれのポッティング材12にも貫通孔が形成されず、さらにいずれのノズル部18も解放されている構成であってよい。
【0032】
中空糸膜モジュール10は、ヘッダ部17内に、円筒状の整流筒26を有してもよい。整流筒26は、ヘッダ部17の軸線と一致するように配置されている。整流筒26は、一端がポッティング材12内に埋設しており、他端はノズル部18よりもパイプ状部16の長手方向中心側で終端している。
【0033】
このような構成の中空糸膜モジュール10では、例えば、一方の管路21から中空糸膜モジュール10に流入させた原液は、他方の管路21に向かって中空糸膜11の中空部内を通過しながら、一部が中空糸膜11によってろ過される。ろ過されたろ液は、ハウジング本体14の内周面、中空糸膜の外周面、及び両ポッティング材12の露出面により画定される内部空間に流入する。当該内部空間に流入したろ液がノズル部18から排出される。また、中空糸膜の中空部内を他方の管路21まで通過した原液が、濃縮液として当該他方の管路21から排出される。あるいは、中空糸膜モジュール10の一方のノズル部18に原液を流入させることにより、ろ液が管路21から排出され、濃縮液が他方のノズル部18から排出されてもよい。
【0034】
モジュールケース13の少なくとも一部分は、ガラス繊維を含有している。本実施形態において、モジュールケース13の中のハウジング本体14が、ガラス繊維を含有している。より具体的には、本実施形態において、ハウジング本体14において筒状であるパイプ状部16およびヘッダ部17の少なくともいずれかがガラス繊維を含有している。さらに具体的には、本実施形態において、パイプ状部16およびヘッダ部17がガラス繊維を含有している。ガラス繊維はその化学組成によりEガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス等が知られているが、適宜選択したガラス繊維を適用することができる。
【0035】
モジュールケース13は、熱可塑性プラスチックにより構成されるプラスチック部とガラス繊維を含むガラス繊維強化樹脂部を有している。プラスチック部は射出成型、押出し成型等により製造することができ、部分的なパーツを予め成型し、後から熱溶着や溶剤接合、接着剤により接合してもよいし、予め一体型を成型してもよい。プラスチック部の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ABS樹脂及び塩化ビニル樹脂、および、変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。ガラス繊維強化樹脂部は、モジュールケース13における、ガラス繊維を含有する部分に設けられている。ガラス繊維強化樹脂部は、ガラス繊維とともに、さらに硬化性樹脂を含んでいる。硬化性樹脂は、例えば、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂である。本実施形態においては、硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0036】
図3に示すように、本実施形態では、モジュールケース13の肉厚方向において、プラスチック部22およびガラス繊維強化樹脂部23が積層されている。さらに本実施形態では、モジュールケース13の肉厚方向の内側に層状のプラスチック部22が配置され、外表面側に層状のガラス繊維強化樹脂部23が配置されている。
【0037】
モジュールケース13のガラス繊維を含有する部分の少なくとも一部において、モジュールケース13の肉厚に対する、ガラス繊維強化樹脂部23の被覆層の肉厚の割合は5%以上50%以下であることが望ましい。すなわち、(ガラス繊維強化樹脂部23の被覆層の肉厚(mm)/モジュールケース13の肉厚(mm))×100の値が5%以上50%以下であることが望ましい。当該割合が5%より低いと、ガラス繊維の種類にもよるが耐圧補強の効果が十分に得られない場合がある。また、当該割合が50%よりも高いと耐圧効果はあるものの、ガラス繊維強化樹脂部23の成型時に発生する硬化発熱が大きくなりすぎ、プラスチック部22を膨張させてしまい、硬化後のモジュールケース13の全長が変動してしまう等の問題が発生する可能性がある。
【0038】
本実施形態においてガラス繊維強化樹脂部23を構成している、ガラス繊維は、長さ3cm以上延伸している。また、図4に示すように、当該ガラス繊維24は、プラスチック部22の管軸の外周を少なくとも720°以上連続して延伸していることが望ましい。ガラス繊維24が連続的にプラスチック部22を延伸していることにより、プラスチック部22が径方向に内圧負荷を受けても、局所的に大きな変異が発生する部位が存在しないため、耐圧性を均一に向上することができる。ガラス繊維24が連続的にプラスチック部22を巻回していることにより、プラスチック部22が径方向に内圧負荷を受けても、局所的に大きな変異が発生する部位が存在しないため、耐圧性を均一に向上することができる。
【0039】
また、図5に示すように、ガラス繊維24は、モジュールケース13の管軸方向に対して、60°~120°の角度θで延伸している。より好ましくは、ガラス繊維24は当該管軸方向に対して、75°~105°の角度θで、いっそう好ましくは、85°~95°の角度θで延伸している。ガラス繊維24が管軸方向に対して90°に近い角度で延伸されていることで、内圧による径方向のケース膨張を抑えることができる。
【0040】
ガラス繊維24の表面は熱硬化性樹脂との接着性を向上するためにシランカップリング剤による処理を施したものであってもよい。
【0041】
ガラス繊維24は、本実施形態において、例えば、ガラスクロス、ロービングクロス、およびチョップドストランドマットのように、加工された布状体の内部で連続し、プラスチック部22を被覆している。ガラスクロスは、捻りをかけたガラス繊維の束であるストランドを用いて編んだ布状体である。ロービングクロスは、ストランドに捻りを加えていない状態のものを用いて編んだ布状体である。また、ガラス繊維24には、ガラスロービングを用いてもよい。
【0042】
ガラスクロスおよびロービングクロスの種類は特に限定しないが、平織、あや織、目抜き平織、朱子織等を用いることができる。また、ガラスクロス、ロービングクロス、チョップドストランドマットの1平方メートルあたりの重量は50g/m2~600g/m2が望ましく、100g/m2~500g/m2がより望ましく、200g/m2~400g/m2がさらに望ましい。50g/m2よりも軽い場合、多重に積層しなければ十分な強度が得られず、かつ、積層工程が煩雑になる。また、600g/m2よりも重い場合、ガラスクロスまたはロービングクロスのプラスチック部に対する追従性が悪くなり、密着性が悪くなる可能性がある。特にノズル部をガラスクロス等で被覆する場合、形が複雑であるため、1平方メートルあたりの重量は300g/m2以下であることが望ましい。
【0043】
ガラス繊維24の布状体の幅は、30mm以上140mm以下であることが望ましい。幅が30mmよりも狭いと1回あたりの被覆に要する作業時間が長くなってしまう。一方140mmよりも幅が広くなると、巻回している際、ガラス繊維24の布状体がよじれてしまい、しわが発生しやすくなる可能性がある。
【0044】
図6に示すように、ガラス繊維24の布状体25は、モジュールケース13の管状の部分にらせん状に巻回されている。巻回しにより管軸方向において隣接する、ガラス繊維24の布状体25の重なり割合は、平均で3%以上70%以下であることが好ましく、10%~50%がより望ましく、20%~40%がさらに望ましい。なお、布状体25の重なり割合とは、管軸方向における、布状体25の幅に対する布状体25の重なり幅の割合である。重なる割合が3%より低いと、巻回する場所によって布状体25が重ならない場所が発生する可能性がある。また70%よりも高い場合、工程上時間がかかり、効率的ではない。
【0045】
本実施形態では、種類の異なるガラス繊維24の布状体25が、複数積層されていてもよい。例えば、モジュールケース13のプラスチック部22をガラスクロスが被覆し、当該ガラスクロスが被覆された外周をロービングクロスおよびチョップドストランドマットの少なくとも一方が被覆してもよい。または、プラスチック部22をロービングクロスが被覆し、当該ロービングクロスが被覆された外周をガラスクロスおよびチョップドストランドマットの少なくとも一方が被覆してもよい。または、プラスチック部22をチョップドストランドマットが被覆し、当該チョップドストランドマットが被覆された外周をガラスクロスおよびロービングクロスの少なくとも一方が被覆してもよい。
【0046】
本実施形態のような中空糸膜モジュール10においてガラス繊維強化樹脂部23を被覆する場合、ガラスクロス等はパイプ状部16、ヘッダ部17、ノズル部18の3種類に分割して被覆してもよい。この場合、パイプ状部16とヘッダ部17の境界部分においてはそれぞれのガラスクロス等がオーバーラップしていることが望ましい。オーバーラップする幅はハウジングの構造にもよるが50mm以上あることが望ましい。同様にヘッダ部17とノズル部18の境界部分においてもそれぞれのガラスクロス等がオーバーラップしていることが望ましい。図7に示すように、ノズル部18のガラスクロス27の形状としては、予め長方形の形状に切り出したガラスクロス28において、その長辺の長さはノズル部分18を360°以上に巻回できる長さが良く、またその短辺の長さはノズル部18の全長およびヘッダ部17本体まで覆うことが可能であれば良い。そして長辺側の下端部分には適当な間隔で切れ込みを加え、ヘッダ部17本体およびオーバーラップさせるガラスクロスとの追従性を良くした形状が望ましい。ノズル部18の付け根部分は応力が集中しやすい箇所であるが、上記のようにガラス繊維強化樹脂部23を被覆することで応力に対する補強効果を発揮することができる。
【0047】
ガラス繊維強化樹脂部23に用いられる熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を使用することができるが、エポキシ樹脂がより好適に用いられる。エポキシ樹脂の主剤としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等を単独または適宜配合し用いることができる。また硬化剤としてはアミン系硬化剤、酸無水物等が用いられるが、常温で硬化するためにはアミン系硬化剤を用いることが好ましい。上記主剤、硬化剤を配合し混合初期の粘度が500mPa・s以上5000mPa・s以下となることが望ましい。5000mPa・sより粘度が高いとガラス繊維中にエポキシ樹脂が含浸しづらくなりガラス繊維強化樹脂部23中に気泡が残留しやすくなる。また500mPa・s以下となった場合は、一度含浸したエポキシ樹脂がガラス繊維24中から垂れてしまい、所望の形状のまま硬化することができなくなるおそれがある。
【0048】
次に、上述した中空糸膜モジュール10の製造方法について説明する。中空糸膜モジュール10の製造工程の説明においては、ポッティング材12としてウレタン樹脂を使用した場合について記載する。但し、ウレタン樹脂に限定されるわけではなく、他の樹脂を使用した場合でも同様の製造工程にて中空糸膜モジュール10を製造することができる。なお、本実施形態では、機械的強度の向上の観点から、ポッティング材12としてエポキシ樹脂が用いられる。または、本実施形態では、製造時間の短縮化および生産性の向上の観点から、ポッティング材12としてウレタン樹脂が用いられる。
【0049】
中空糸膜11はモジュールケース13に挿入できるように円筒状に中空糸膜束を整えることで、膜モジュールあたりの膜面積、すなわちろ過面積を最大化することができる。中空糸膜束の外周には保護用のネットをさらに被覆してもよい。ネットの素材は特に限定しないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニルコポリマー等が望ましい。中空糸膜の充填率を高くしすぎると、原液もしくはろ過液の流れが悪くなったり、運転時の逆洗工程における洗浄効率が低下する。運転方法にもよるが、モジュールケース13の内径断面積に対する、モジュールケース13に挿入する中空糸膜11の断面積の総和が40~70%になることが望ましい。中空糸膜束の両端部は後段のポッティング工程でポッティング剤により閉塞しないように目止めしておくことが望ましい。目止めに用いる素材としてはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、およびシリコン樹脂等が用いられる。
【0050】
目止めした中空糸膜束を所望の形状に成型したプラスチック部22に挿入した後、プラスチック部22の両端部にポッティング剤を用いて接着するポッティング工程を行う。接着方法としてはプラスチック部22の中央部を中心として回転させることにより発生する遠心力を利用してポッティング材12を導入する遠心接着法と、プラスチック部22を縦置きし、ヘッダ差を利用してポッティング材12を導入する静置接着法がある。接着方法は、中空糸膜モジュール10の全長やモジュールケース13の径、使用するポッティング剤の混合初期粘度やポットライフにより、適宜選択することができる。ポッティング材12が硬化した後に、さらに高温で養生する時間を設けてもよい。完全にポッティング材12が硬化した後に、目止めした部分を除去し、中空糸膜11の端部を開口させる。
【0051】
本実施形態においては、中空糸膜束のプラスチック部22へのポッティング工程の後にガラス繊維強化樹脂部23の被覆工程を説明しているが、被覆工程を接着工程の前に実施してもよい。
【0052】
プラスチック部22とガラス繊維強化樹脂部23との接着性を向上させるための処理をプラスチック部22の外表面に施してもよい。処理方法は特に限定しないが、化学処理、プラズマ処理、粗面化処理等が挙げられる。また粗面化の手段としては、サンドペーパーやサンドブラストを用いることができるが、粗面化後に発生する発塵を取り除くことが接着性を維持するために重要である。粗面化の目安としては算術平均粗さで面粗さ(以下Ra)が1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。測定方法はJIS B 0601:1994に基づく。
【0053】
プラスチック部22の外表面とガラス繊維強化樹脂部23との接着強度は一体化させる観点から高く保つことが良い。例えば、引張せん断強度は3MPa以上あることが望ましい。さらに望ましくは、引張せん断強度は4.5MPa以上ある。
【0054】
上述のポッティング工程後に、ガラス繊維強化樹脂部23の被覆工程を行う。被覆工程においては、ガラスクロスおよびロービングクロス等の布状体25を連続的に被覆する場合、フープ巻きと呼ぶ、布状体25をプラスチック部22に部分的に重ねながら巻回することで良好な耐圧強度を保持することができる。なお、フープ巻きは、軸方向に略垂直に巻く巻き方であり、軸方向に微小に傾斜させてらせん状に巻く巻き方も含んでいる。巻回する際は布状体25とプラスチック部22との間に隙間が発生しないように延伸させることが望ましい。上述のように、フープ巻きを行うときに布状体25同士が重なる割合は、平均で3%~70%が望ましく、10%~50%がより望ましく、20%~40%がさらに望ましい。
【0055】
上述のように、フープ巻きに用いるガラスクロスの幅はモジュールケース13の径にもよるが、30mm~140mmが適している。巻回時は専用の装置を用いてもよいし、手作業で実施してもよい。この時、プラスチック部22を管軸方向中心に回転させながら巻回してもよい。
【0056】
要求される設計耐圧に応じて、前述のフープ巻きを繰り返し行ってもよい。
【0057】
さらに必要であれば、フープ巻きを施した外周部に、ガラスクロスを覆うことが可能な面積を有するロービングクロスを被覆してもよい。この時ロービングクロスの片端部が、他端部と少なくとも1cm以上、望ましくは3cm以上、より望ましくは5cm以上オーバーラップしていてもよい。またモジュールケース13のノズル部18等は適宜ロービングクロスを予め定長切断し、しわが極力少なくなるように被覆することが重要である。さらにノズル部18のような形状部分には後述する熱硬化性樹脂の含浸後も気泡が残りやすい傾向がある。そのため、ローラー等で気泡を取り除くことで耐圧性を十分に発揮することができる。
【0058】
さらに必要に応じて、チョップドストランドマットをロービングクロスの外周部に被覆してもよい。
【0059】
上述のロービングクロス、ガラスクロス、およびチョップドストランドマット等のガラス繊維24の布状体25には、熱硬化性樹脂が含浸される。ガラス繊維24の布状体25への熱硬化性樹脂の含浸は、プラスチック部22への巻回し前に行われていても、巻回し後に行われてもよい。ガラス繊維24の布状体25に含浸した熱硬化性樹脂を室温で硬化させた後、使用している中空糸膜11およびモジュールケース13の素材にもよるが、50℃~80℃の温度で養生することが望ましい。熱硬化性樹脂が完全に硬化することにより、耐候性、耐薬品性、および耐久性を確保することができる。80℃を超える温度で養生を行った場合、ガラス繊維強化樹脂部23そのもの、およびプラスチック部22の外表面部とガラス繊維強化樹脂部23とのせん断強度についてはより良好な強度を得られる。その一方で、プラスチック部22または中空糸膜モジュール10に採用される、その他の素材の種類によっては、養生温度が当該素材の耐熱温度を超える場合がある。またそのような高温状態に中空糸膜11を長時間乾燥すると中空糸膜11の細孔から水分が蒸発してしまい透水性能が保てなく可能性がある。
【0060】
上記のような構造により、ろ過工程または逆洗工程において、最大で1.0MPaの内圧力がハウジング本体14の内表面に印加され、かつ中空糸膜モジュール10が長手方向においてステンレス配管によって拘束されたとしても、中空糸膜モジュール10の拡径率を0.3%以下に抑えることが可能となり、運転に伴う繰返しの圧力変動に対しても十分な耐久性を持つことができる。
【0061】
養生後は必要に応じてガラス繊維強化樹脂部23の表層をサンディングしてもよい。また用途によっては、ガラス繊維強化樹脂部23の表層に塗装を施してもよい。塗装の厚みとしては最大でも30μm程度が良い。それ以上の厚みの場合、塗料中の有機溶媒が適切に揮発せず塗装層に気泡として残留する場合がある。
【0062】
以上のように構成された中空糸膜モジュール10によれば、例えば、ノズル部18を介して原水を中空糸膜モジュール10に導入することにより、中空糸膜11によってろ過されたろ過水が管路21の少なくとも一方を介して中空糸膜モジュール10から排出されると共に、ノズル部18の残りの一方を介して濃縮水が中空糸膜モジュール10から排出される。(外圧式ろ過、図2参照)
【0063】
また、管路21のいずれか一方を介して原液を中空糸膜モジュール10に導入することにより、管路21の残りの一方を介して濃縮水が中空糸膜モジュール10から排出されると共に、中空糸膜11によってろ過されたろ過水が二つのノズル部18を介して中空糸膜モジュール10から排出される(内圧式ろ過、図2参照)。
【0064】
また、プラスチック部22の外周にガラス繊維強化樹脂部23を被覆することにより、原水等の原液とガラス繊維強化樹脂部23との接触を防止し得る。したがって、中空糸膜モジュール10は、原液とガラス繊維24が含まれる樹脂との接触が好ましくない用途にも適用し得る。
【0065】
以下、本実施形態に係る中空糸膜モジュール10を用いたろ過システムに関して具体的に説明する。
【0066】
図8に示すように、発泡性飲料を清澄化するろ過システム34は、耐圧性を有する中空糸膜モジュール10、原液タンク35、ろ液タンク36、ループ配管37、返送配管38、供給配管39、およびろ液配管40を有する。原液タンク35は、未ろ過の発泡性飲料を収容する。ろ液タンク36は、ろ過後の発泡性飲料を収容する。ループ配管37は、中空糸膜モジュール10の下側および上側の管路21に環状に接続する。返送配管38は、ループ配管37から濃縮液を原液タンク35に返送する。供給配管39は、原液タンク35の下端を、ループ配管37における中空糸膜モジュール10の1次側入口近傍に接続する。ろ液配管40は、中空糸膜モジュール10のノズル部18の上下どちらか1箇所もしくは2箇所を、ろ液タンク36に接続する。
【0067】
ループ配管37およびろ液配管40は、サニタリー性を担保するためにステンレス製であることが多い。中空糸膜モジュール10の上下がステンレス製配管で接続固定される構成において原液の供給により圧力が印加された場合、長手方向への中空糸膜モジュール10の伸びが抑制されるかわりに径方向に対してより拡径する変形が発生する。長手方向が拘束されない無拘束下の状態でモジュールケース13内を1.0MPaに加圧して、パイプ状部16の中央部分の拡径率をR%、長手方向の伸び率をL%としたとき、0.5<R/L<4の関係を満たすと良い。R/Lが0.5よりも小さい場合、Lの伸び率が拡径率に比べて大きいため、長手方向が拘束された時に通常以上に拡径方向に負荷が発生する場合がある。またR/Lが4以上の場合、拡径率が大きいため、長手方向が拘束された応力が径方向に付加された場合、長期間の応力変動に耐えきれない可能性がある。そのため、ろ過を行う運転時における拡径率Rは最大でも0.3%以下が望ましく、より望ましくは0.25%以下、さらに望ましくは0.15%以下である。また、ヘッダ部18の中のパイプ状部16の軸方向における部分で、ノズル部18のパイプ状部16の付け根部分の位置近傍の部分における拡径率をR2%としたとき、0.2%以下が望ましく、さらに好ましくは0.15%以下である。当該付け根部分には応力が発生しやすいため、パイプ状部16の中央部分の拡径率R%よりもR2%が小さい値となることが好ましく、より好ましくはR2≦0.5×Rである。なお、ろ過を行う運転時に、例えば、ろ過工程では、モジュールケース13内が、4℃の液温条件において最大で0.8MPa、40℃の液温条件において最大で0.7MPa、80℃の液温条件において0.6MPaである。また、ろ過液を用いた逆洗工程では、モジュールケース13内が、4℃の液温条件において最大1.0MPa、40℃の液温条件において最大0.9MPa、80℃の液温条件において最大0.8MPaである。また、ろ過工程と逆洗工程との実施頻度であるが、膜間差圧の上昇速度にもよるが、2分間~20分間隔で行われる。
【0068】
中空糸膜モジュール10は、未ろ過の発泡性飲料をろ過する。図8に示すろ過システム34における中空糸膜モジュール10は、図2に示す、中空糸膜11の外表面側に原液が供給され、内表面側からろ液が取出される外圧ろ過方式のモジュールであってもよい。あるいは、図8に示すろ過システム34における中空糸膜モジュール10は、図2に示す、中空糸膜11の内表面側に原液が供給され、外表面側からろ液が取出される内圧ろ過方式のモジュールであってもよい。
【0069】
なお、以下の説明において、「1次側」は、中空糸膜モジュール10において、中空糸膜11を通過させる液体を供給する側である。また、「2次側」、中空糸膜モジュール10において、中空糸膜11を一方の表面から他方の表面に通過した液体が排出される側である。逆洗工程では、ろ過工程において中空糸膜11の膜表面を通過させる方向の逆方向に逆洗用の液体を通過させる。したがって、ろ過工程における1次側および2次側は、逆洗工程における2次側および1次側である。
【0070】
ろ過システム34では、中空糸膜モジュール10内の圧力が0.3MPa~1.0MPaでろ過される。なお、0.3MPa~1.0MPaでろ過されるとは、特定されない限り、ろ過工程および逆洗工程の少なくとも一方において、0.3MPa~1.0MPaの圧力が中空糸膜モジュール10内に印加されることを意味する。圧力が中空糸膜モジュール10内に印加されるとは、少なくとも、ハウジング本体14の内部に圧力が印加されることを意味する。
【0071】
ろ液タンク36には、飲料中に3.92g/L以上で溶解している炭酸ガスが飲料中から抜けないようにするため、ろ液が加圧された状態で保持されている。そのため、中空糸膜モジュール10のろ過時における2次側には、膜間差圧にもよるが、最大で0.6MPaの圧力が加えられる場合がある。
【0072】
また、中空糸膜モジュール10は、内圧ろ過方式では、供給水側(1次側)の圧力の最大値が0.6MPa以上1.0MPa以下、ろ過水側(2次側)の圧力の最低値が0.3MPa以上最大値が0.6MPa以下、膜内外面差圧の最大値が0.4MPa以下で運転される場合がある。
【0073】
また、具体的にはろ過工程において、原液に気体を溶解させているため、原液タンク35、ろ液タンク36ともに0.3MPa以上の圧力が印加された状態となっている。そのため、ろ過運転時の供給水側(1次側)の圧力は、中空糸膜11の細孔部および内表面部分の閉塞状況にもよるが、0.3MPa以上1.0MPa以下となり、ろ過水側(2次側)の圧力は0.3MPa以上0.6MPa以下となる。
【0074】
またろ過工程とともに定期的にろ液を用いた逆洗工程が入る運転条件で運転される場合がある。ろ過工程から逆洗工程に切替わる時、中空糸膜モジュール10の圧力は完全には開放されず、供給水側で0.3MPa以上の圧力を保持した状態で逆洗工程が行われる場合がある。逆洗時に水ではなくろ液を用いることで、迅速な洗浄が可能となるほか、水と処理液のコンタミを防ぐことができる。逆洗工程における供給水側の圧力の最大値は、ろ過工程の50%以下の範囲である。
【0075】
本発明の中空糸膜モジュール10は、モジュールケース13のプラスチック部外周がガラス繊維強化樹脂部23で補強されているため、内圧ろ過を行った場合、中空糸膜11の内表面の1次側に最大1MPa、長期間に渡って最大0.6MPaで繰り返し加圧されてもモジュールケース13の破損なく運転を継続することができる。また、ろ過した食品中へのガラス繊維の移行を完全に防ぐことができる。さらに、薬品洗浄時に使用する熱アルカリに対しても、直接の接触が無いために劣化を防ぐことができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0077】
以下、実施例で用いた測定方法および試験方法について説明する。
【0078】
(ガラス繊維強化樹脂部の厚さ)
ガラス繊維強化樹脂部の厚さを以下の通りに測定した。被覆後のモジュールケースをガラス繊維強化樹脂部の断面が露出するように切断し、3か所測定したものを平均し算出した。
【0079】
(中空糸膜の内径及び外径)
中空糸膜の内径及び外径は、以下のようにして求めた。中空糸膜を膜長手方向に垂直な向きにカミソリ等で薄く切り、走査型電子顕微鏡を用いて断面の内径の長径と短径、外径の長径と短径を測定し、以下の式(1)、(2)式により、それぞれ内径と外径を決定した。なお、本実施形態では任意に選んだ中空糸膜、20本についてそれぞれ内径および外径を測定し、相加平均値を算出することで求めた。
【0080】
【数1】
【0081】
(中空糸膜の膜厚方向の厚さ)
中空糸膜の膜厚方向の厚さを、以下のようにして測定した。上述したように、中空糸膜の内径(A)および外径(B)を測定し、以下の式(3)に基づいて、中空糸膜の膜厚方向の厚さを求めた。
中空糸膜の厚さ =(B-A)/2・・・(3)
なお、本実施形態では任意に選んだ中空糸膜、20本についてそれぞれ膜厚を測定し、相加平均値を算出することで中空糸膜の膜厚を求めた。
【0082】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計(DSC)装置(型版:DSC8000)を用いて測定した。測定方法はJIS K7121のガラス転移温度の測定方法に準拠した。なお、基準物質としてはインジウムを使用した。具体的には、完成した中空糸膜モジュールにおいて、約5mgのガラス繊維強化樹脂を採取し、専用のサンプル容器に封入し、サンプル容器を装置内に設置した後、装置内を20℃に温調し測定を開始した。0℃から200℃の範囲でサンプルを昇温した。昇温速度は10℃/minとした。得られた結果から中間点ガラス転移温度(Tg)を算出し、これをガラス転移温度とした。
【0083】
(せん断強度)
せん断強度は以下の通り測定した。サンプルは実際に作成した膜モジュールのパイプ状部から切り出した。全長180mm、幅10mmのスティック状のサンプルをパイプ部の長手方向から切り出した後、サンプル長手方向の中央部12.5mm×10mm以外の部分において、片側はプラスチック部(後述する、ポリスルホン)のみ、反対側はガラス繊維強化樹脂部のみを残す加工を施した。その他のせん断試験条件についてはJIS K 7161プラスチック-引張特性の試験方法に準じて実施した。
【0084】
(瞬時破壊試験)
瞬時破壊試験は、中空糸膜モジュールに内圧を印加し、ケースが破壊された時の圧力を破壊時圧力とした。予め中空糸膜モジュールの内部を水で満たしノズル部2か所とキャップ部1か所をシールした。残る1か所のキャップ部から空気圧を0.2MPa/secで徐々に加えた。試験時は全て40℃の水温で実施した。膜モジュールの長手方向を拘束した状態で試験を実施した。
【0085】
(疲労破壊試験)
疲労破壊試験は、中空糸膜モジュールに1.0MPaまで内圧を繰り返し印加し、ケースが破壊された時の回数を記録した。予め中空糸膜モジュールの内部を水で満たしノズル部2か所とキャップ部1か所をシールした。残る1か所のキャップ部から空気圧を加えた。圧力を印加する頻度は1分間あたり6回とした。試験時は全て40℃の水温で実施した。膜モジュールは長手方向を拘束した状態で試験を実施した。
【0086】
(ハウジングの拡径率および全長伸び率測定)
ハウジングの拡径率および全長伸び率を以下のように測定した。予め中空糸膜モジュールの内部を水で満たしノズル部2か所とキャップ部1か所をシールした。残る1か所のキャップ部から空気圧を加えた。圧力を印加する頻度は1分間あたり6回とした。試験時は全て40℃の水温で実施した。圧力の印加前後にてノギス(ミツトヨ製)によってパイプ部の径または全長の変動を直接測定した。長手方向を拘束している場合は径変動のみを測定し、拘束されていないフリーの状態の場合は、径変動と全長変動をそれぞれ測定した。
【0087】
(ガラス繊維の長さ測定)
ガラス繊維の長さは、X線CT装置を用いて透過観察により測定した。装置としては、株式会社リガク製の高分解能3DX線顕微鏡 nano3DXを用いた。また、上記の手法による測定が困難な場合には、加熱炉等により繊維強化樹脂部のガラス繊維以外の成分を焼失させた後、スケール、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いてガラス繊維の長さを観察した。
【0088】
(実施例1)
実施例1では、モジュールケースの素材として、プラスチック部にはポリスルホン樹脂(ソルベイ社製)を用いた。プラスチック部の外表面には、接着性を向上させるため、予めサンドペーパーで粗面化を施した。#100のサンドペーパーで粗面化を実施したところ、粗面化後の表面粗さ(Ra)は6.6μmであった。パイプ状部におけるプラスチック部の外周部に、幅100mmの包帯状のガラスクロス(前田硝子(株)製、ECM13100-A)同士が平均で3%重なるように連続的に巻回した。この時、モジュールケースの管軸と略平行になるガラス繊維を経糸、略垂直に配置されるガラス繊維を緯糸とした場合、経糸の長さは約100mm、緯糸の長さは約18mであった。ガラスクロスは経糸と緯糸を相互に直交して織り込まれた平織を使用した。その後、シート状のロービングクロス(紡績(株)製、WF350-100BS6)を巻回した。さらに、ロービングクロスの外周に、シート状のチョップドストランドマット(日東紡績(株)製、MC300-A)を巻回して、チョップドストランドマットが2層となるように積層させた。チョップドストランドマットを構成するガラス繊維の平均長さは5cmであり、それらがランダムにシート状に配置され、バインダーによりガラス繊維同士が固定されているものを使用した。巻回後にエポキシ樹脂を含浸させ、ローラーを使ってエアーを押出し密着させた。同様に、ヘッダ部およびノズル部にもガラスクロスとチョップドストランドマットを巻回した。エポキシ樹脂は主剤としてJER811(三菱ケミカル製)、硬化剤としてトリエチレンテトラミン(TETA)(東ソー製)、反応性希釈剤としてSR-TMP(阪本薬品製)を混合したものを用いた。ガラスクロスおよびチョップドストランドマットにエポキシ樹脂を含浸させた後、50℃の環境でワークを回転させながら8時間養生しエポキシ樹脂を硬化させることにより実施例1の中空糸膜モジュールを製造した。
【0089】
実施例1の中空糸膜モジュールに対して、中空糸膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.14%、全長伸び率Lは0.09%となり、R/Lは1.63となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.16%、ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.07%となった。その後、中空糸膜モジュールの長手方向が変動しないよう拘束した状態で瞬時破壊試験を行った。試験結果を、プラスチック部、ガラス繊維強化樹脂部、中空糸膜、およびポッティング材の材質およびサイズ等の諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、実施例1の中空糸膜モジュールでは、少なくとも5MPaまでモジュールケースは破壊されなかった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、100万サイクルまで到達し、中空糸膜モジュールの破壊は確認されなかった。試験完了後の中空糸膜モジュールを解体したが異常は見受けられなかった。
【0090】
実施例1の中空糸膜モジュールを、4g/Lの二酸化炭素を溶解させているスパークリングワインのろ過に供した。スパークリングワイン中に含まれる二酸化炭素の濃度はアントンパール社製の二酸化炭素測定センサ(Carbo150)で測定した。スパークリングワイン原液及びろ液の温度を2℃を保つよう調整した。中空糸膜モジュールの長手方向両端に位置する2カ所の中空糸膜束の開口部には配管と接続するためのキャップを取り付け、ナットによって固定した。2カ所のキャップには固定されたステンレス配管を接続した。また、上下2カ所のノズル部にも固定されたステンレス配管を接続した。スパークリングワイン原液を、縦置きされた状態の中空糸膜モジュールの下側から導入することで内圧ろ過を行った。ろ過運転開始時の一次側圧力(中空糸膜における内表面側の圧力)は0.35MPaであり、二次側圧力(中空糸膜における外表面側の圧力)は0.3MPaであった。ろ過運転開始から約3分後に、中空糸膜モジュール内の一次側、二次側圧力を開放することなく、それぞれの圧力を調整することでろ液を用いた逆洗操作を5秒間実施した。この時の一次側圧力(中空糸膜における外表面側の圧力)は0.4MPaであり、二次側圧力(中空糸膜における内表面側の圧力)は0.3MPaであった。上述したろ過、逆洗動作を交互に継続し、最終的にろ過運転時の一次側圧力が1.0MPaに達した段階でろ過運転を終了した。運転完了後の中空糸膜モジュールの外観を観察したが、特にリーク等の破損は確認されなかった。また、ろ過後のスパークリングワイン中の二酸化炭素濃度保持率は100%であった。
【0091】
【表1】
【0092】
(実施例2)
実施例2では、シート状ロービングクロスとチョップドストランドマットの積層枚数をそれぞれ1層ずつとした。それ以外の諸条件は実施例1と同様である。実施例2の中空糸膜モジュールに対して、中空糸膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.21%、全長伸び率Lは0.11%となり、R/Lは1.91となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.24%, ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.10%となった。実施例2の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、実施例2の中空糸膜モジュールでは、少なくとも5MPaまでモジュールケースは破壊されなかった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、100万サイクルまで到達し、中空糸膜モジュールの破壊は確認されなかった。試験完了後の中空糸膜モジュールを解体したが異常は見受けられなかった。
【0093】
(実施例3)
実施例3では、ヘッダ部のシート状ロービングクロスとチョップドストランドマットの積層枚数をそれぞれ3層ずつとした。それ以外の諸条件は実施例1と同様である。実施例2の中空糸膜モジュールに対して、中空糸膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.14%、全長伸び率Lは0.09%となり、R/Lは1.56となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.16%、ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.05%となった。実施例3の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、実施例3の中空糸膜モジュールでは、少なくとも5MPaまでモジュールケースは破壊されなかった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、100万サイクルまで到達し、中空糸膜モジュールの破壊は確認されなかった。試験完了後の中空糸膜モジュールを解体したが異常は見受けられなかった。
【0094】
(実施例4)
実施例4では、実施例1で実施したプラスチック部の外表面への粗面化処理を#120のサンドペーパーにて行った後、維強化樹脂部の被覆を施した。粗面化後のプラスチック部外表面の表面粗さ(Ra)は2.7μmであった。それ以外の諸条件は実施例1と同様である。実施例4の中空糸膜モジュールに対して、中空糸膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.14%、全長伸び率Lは0.09%となり、R/Lは1.63となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.16%、ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.07%となった。実施例4の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、実施例4の中空糸膜モジュールでは、少なくとも5MPaまでモジュールケースは破壊されなかった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、100万サイクルまで到達し、中空糸膜モジュールの破壊は確認されなかった。完了後の中空糸膜モジュールを解体したところ、プラスチック部外表面とガラス繊維強化樹脂部の境界に一部剥離した部分が見受けられた。
【0095】
(実施例5)
実施例5では、実施例1で使用した包帯状ガラスクロスを3層分巻回し、さらにパイプ状部の全面にわたり包帯状クロスを途切れず連続して巻きつけた。またシート状クロスとチョップドストランドマットは使用しなかった。それ以外の諸条件は実施例1と同様である。実施例5の中空糸膜モジュールに対して、膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.10%、全長伸び率Lは0.14%となり、R/Lは0.71となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.13%、ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.06%となった。実施例5の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、実施例5の中空糸膜モジュールでは、少なくとも5MPaまでモジュールケースは破壊されなかった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、100万サイクルまで到達し、中空糸膜モジュールの破壊は確認されなかった。試験完了後の中空糸膜モジュールを解体したが異常は見受けられなかった。
【0096】
(実施例6)
実施例6では、実施例1で実施したプラスチック部の外表面への粗面化処理を#240のサンドペーパーにて行った後、維強化樹脂部の被覆を施した。粗面化後のプラスチック部外表面の表面粗さ(Ra)は0.8μmであった。それ以外の諸条件は実施例1と同様である。実施例6の中空糸膜モジュールに対して、中空糸膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.14%、全長伸び率Lは0.09%となり、R/Lは1.63となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.16%、ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.07%となった。実施例6の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、実施例4の中空糸膜モジュールでは、少なくとも5MPaまでモジュールケースは破壊されなかった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、75万サイクルまで到達した段階でリークが確認された。完了後の中空糸膜モジュールを解体したところ、プラスチック部外表面とガラス繊維強化樹脂部に一部剥離した部分が見受けられ、そこを起点としてパイプ部が破断していた。
【0097】
(比較例1)
比較例1ではパイプ状部およびヘッダ部のプラスチック素材としてポリスルホン樹脂(ソルベイ製)を用いた。モジュールケースのプラスチック部外表面にはガラス強化繊維樹脂部の被覆を実施しなかった。比較例1の中空糸膜モジュールに対して、中空糸膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.37%、全長伸び率Lは0.07%となり、R/Lは5.66となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.44%、ヘッダ部ノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.26%となった。比較例1の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、比較例1の中空糸膜モジュールでは、3.8MPaで破壊された。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、12.6万サイクルで破断した。破壊箇所はモジュールケースのパイプ状部であった。また、ヘッダ部のノズル根本部にも一部破断が発生した。
【0098】
(比較例2)
比較例2ではパイプ状部およびヘッダ部のプラスチック素材としてポリスルホン樹脂(ソルベイ製)を用いた。モジュールケースのプラスチック部外表面のパイプ部外表面には被覆を行わず、ヘッダ部およびノズル部のみにガラス強化繊維樹脂部の被覆を実施した。比較例2の中空糸膜モジュールに対して、膜モジュールを拘束しないフリーの状態で1.0MPaの内圧を印加する前後の、パイプ状部の中央部分のパイプ径をノギスにて測定した。また、中空糸膜モジュール全長の変動も同様に測定した。結果、中央部分の拡径率Rは0.40%、全長伸び率Lは0.07%となり、R/Lは5.71となった。また長手方向の拘束がある状態で1.0MPaの圧力を加えたところ、中央部分の拡径率R1は0.42%、ヘッダ部のノズル根本部(パイプ中央側)の拡径率R2は0.07%となった。比較例2の中空糸膜モジュールに対して、瞬時破壊試験を行った。試験結果を、諸条件とともに表1に記載した。表1に示すように、比較例2の中空糸膜モジュールでは、3.8MPaで破壊された。破壊箇所はモジュールケースのパイプ状部であった。同じく長手方向を拘束した状態で繰り返し耐久性試験を実施したが、10.4万サイクルでパイプ部が破断した。
【0099】
(比較例3)
比較例3ではガラス繊維強化樹脂部のキュアリング条件を温度100℃、10時間とした以外は実施例1と同じ方法で作成した。高温でキュアリングした場合、ポリスルホンとガラス繊維強化樹脂層のせん断強度は6.5MPaと高い値であったが、透水試験を行ったところ中空糸膜が乾いてしまいろ過運転が可能な状態ではなかた。
【符号の説明】
【0100】
10 中空糸膜モジュール
11 中空糸膜
12 ポッティング材
13 モジュールケース
14 ハウジング本体
15 キャップ部材
16 パイプ状部
17 ヘッダ部
18 ノズル部
19 ナット
20 Oリング
21 管路
22 プラスチック部
23 ガラス繊維強化樹脂部
24 ガラス繊維
25 ガラス繊維の布状体
26 整流筒
27 ノズル部のガラスクロス
28 予め切出したガラスクロス
34 発泡性飲料を清澄化するろ過システム
35 原液タンク
36 ろ液タンク
37 ループ配管
38 返送配管
39 供給配管
40 ろ液配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8