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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231031BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231031BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20231031BHJP
   H02P 29/68 20160101ALI20231031BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231031BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231031BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
H02P25/22
H02P29/68
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020057676
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154894
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊介
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199477(JP,A)
【文献】特開2007-137283(JP,A)
【文献】特開2019-130958(JP,A)
【文献】特開2017-149216(JP,A)
【文献】特開2018-047875(JP,A)
【文献】特開2004-345412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
H02P 25/22
H02P 29/68
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とするアクチュエータからモータトルクが付与される操舵装置を制御対象とし、
前記モータの作動を制御するためのモータ制御信号を出力する制御部と、前記モータ制御信号に基づいて前記モータに駆動電力を供給する駆動回路とを備える操舵制御装置において、
前記制御部は、
前記モータの回転角に換算可能な換算可能角を目標角に調整する角度制御の実行に基づいて、前記モータトルクの目標値となるトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、
前記トルク指令値に基づいて前記モータ制御信号を演算するモータ制御信号演算部とを備え、
前記トルク指令値演算部は、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因の変化に基づいて、前記角度制御に用いる制御ゲインを変更するものであり、
前記モータは、給電経路が分けられた複数のコイル群を有するものであり、
前記複数のコイル群にそれぞれ対応する前記制御部及び前記駆動回路の組を該コイル群と同数備え、
前記モータとの間において、前記複数のコイル群で発生するトルクを個別に制御する複数の制御系統が構成されるものであって、
前記要因には、前記モータの駆動方式が含まれる操舵制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の操舵制御装置において、
前記駆動方式には、
前記複数の制御系統の一の前記制御部が演算する前記トルク指令値に基づいて、前記各制御系統のコイル群で発生するトルクを制御する協調方式と、
前記複数の制御系統の前記制御部がそれぞれ演算する前記トルク指令値に基づいて、対応する前記制御系統のコイル群で発生するトルクを制御する独立方式と、
前記複数の制御系統のいずれか1つが異常である場合に、正常な制御系統の前記制御部が演算する前記トルク指令値に基づいて、対応する前記正常な制御系統のコイル群で発生するトルクを制御する残存方式とが含まれ、
前記制御ゲインは、前記独立方式、前記協調方式、前記残存方式の順で大きくなるように変更される操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵制御装置において、
前記要因には、車速が含まれ、
前記制御ゲインは、前記車速の増大に基づいて、大きくなるように変更される操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記要因には、車両の加減速状態が含まれ、
前記制御ゲインは、車両が減速状態である場合に、車両が非減速状態である場合に比べ、小さくなるように変更される操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記要因には、横加速度が含まれ、
前記制御ゲインは、前記横加速度の絶対値の増大に基づいて、大きくなるように変更される操舵制御装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記要因には、前記モータの温度、前記制御部の温度、前記駆動回路の温度、前記操舵装置の温度、及び前記操舵装置の周辺温度の少なくとも1つの対象温度が含まれ、
前記制御ゲインは、前記対象温度の低下に基づいて、大きくなるように変更される操舵制御装置。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記角度制御には、前記換算可能角を前記目標角に追従させるフィードバック制御が含まれ、
前記制御ゲインには、前記フィードバック制御に用いられるフィードバックゲインが含まれる操舵制御装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記角度制御には、前記目標角に基づくフィードフォワード制御が含まれ、
前記制御ゲインには、前記フィードフォワード制御に用いられるフィードフォワードゲインが含まれる操舵制御装置。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記角度制御には、前記目標角の変化量である目標角速度に基づくダンピング制御が含まれ、
前記制御ゲインには、前記ダンピング制御に用いられるダンピングゲインが含まれる操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の操舵装置として、運転者による操舵を補助するためのアシスト力をモータによって付与する電動パワーステアリング装置(EPS)がある。また、車両用の操舵装置として、運転者により操舵される操舵ユニットと運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵ユニットとの間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ(SBW)式の操舵装置がある。こうした操舵装置を制御対象とする操舵制御装置では、操舵フィーリングの向上や転舵輪の転舵特性の向上等を図るべく、転舵輪の転舵角を目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御を行ってモータの作動を制御するものがある。
【0003】
ところで、近年、操舵装置にモータトルクを付与するための構成の冗長化が進められている。例えば特許文献1には、操舵装置にモータトルクを付与するモータとして、給電経路が分けられた2つのコイル群を有するモータを採用したものが開示されている。同文献の操舵制御装置は、2つのコイル群にそれぞれ対応するマイコン及び駆動回路の組を備えている。各マイコンは対応する駆動回路を制御することで、2つのコイル群に対する給電を個別に制御する。つまり、モータと操舵制御装置との間において、2つのコイル群で発生するトルクを個別に制御する2つの制御系統が構成されている。これにより、例えば2つの制御系統のいずれか1つに異常が発生しても、残りの制御系統を介して対応するコイル群へ給電することで、モータから操舵装置にモータトルクを継続して付与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-47875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の構成において、例えば2つの制御系統のいずれか1つに異常が発生した場合と、2つの制御系統が正常である場合とでは、モータの駆動方式が異なる。そのため、モータに対する電流指令値が同一であっても、当該モータの回転角は同一とはならない。つまり、モータに対する電流指令値を入力とし、モータの回転角を出力とするシステムのプラント特性、すなわち伝達関数がモータの駆動方式によって変化する。このようにプラント特性が変化すると、例えば転舵角の目標転舵角に対する追従性が変化する結果、操舵に応じた車両の挙動にも影響が及ぶおそれがある。
【0006】
なお、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶある要因としては、モータの駆動方式に限らず、例えばブレーキ操作の有無のように、操舵装置に加わる負荷状態を変化させるものも含まれる。
【0007】
本発明の目的は、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることのできる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する操舵制御装置は、モータを駆動源とするアクチュエータからモータトルクが付与される操舵装置を制御対象とし、前記モータの作動を制御するためのモータ制御信号を出力する制御部と、前記モータ制御信号に基づいて前記モータに駆動電力を供給する駆動回路とを備えるものにおいて、前記制御部は、前記モータの回転角に換算可能な換算可能角を目標角に調整する角度制御の実行に基づいて、前記モータトルクの目標値となるトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、前記トルク指令値に基づいて前記モータ制御信号を演算するモータ制御信号演算部とを備え、前記トルク指令値演算部は、操舵感に影響を及ぼす要因の変化に基づいて、前記角度制御に用いる制御ゲインを変更する。
【0009】
上記構成によれば、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因の変化に基づいて角度制御に用いる制御ゲインを変更するため、当該要因に応じて角度制御を最適化し、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることができる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記モータは、給電経路が分けられた複数のコイル群を有するものであり、前記複数のコイル群にそれぞれ対応する前記制御部及び前記駆動回路の組を該コイル群と同数備え、前記モータとの間において、前記複数のコイル群で発生するトルクを個別に制御する複数の制御系統が構成されるものであって、前記要因には、前記モータの駆動方式が含まれることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、駆動方式に基づいて制御ゲインが変更されるため、駆動方式の変更によって角度制御の実行による換算可能角の目標角への調整度合いが変化しても、角度制御を最適化し、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることができる。
【0012】
上記操舵制御装置において、前記駆動方式には、前記複数の制御系統の一の前記制御部が演算する前記トルク指令値に基づいて、前記各制御系統のコイル群で発生するトルクを制御する協調方式と、前記複数の制御系統の前記制御部がそれぞれ演算する前記トルク指令値に基づいて、対応する前記制御系統のコイル群で発生するトルクを制御する独立方式と、前記複数の制御系統のいずれか1つが異常である場合に、正常な制御系統の前記制御部が演算する前記トルク指令値に基づいて、対応する前記正常な制御系統のコイル群で発生するトルクを制御する残存方式とが含まれ、前記制御ゲインは、前記独立方式、前記協調方式、前記残存方式の順で大きくなるように変更されることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、独立方式、協調方式、残存方式の順で、大きなモータトルクが発生しにくくなる。そのため、この順番で制御ゲインを大きくすることで、モータの駆動方式に応じて最適な角度制御を実行できる。
【0014】
上記操舵制御装置において、前記要因には、車速が含まれ、前記制御ゲインは、前記車速の増大に基づいて、大きくなるように変更されることが好ましい。
車速が増大するほど、転舵輪の転舵に必要なトルクが大きくなる。したがって、車速の変化によって、角度制御の実行による換算可能角の目標角への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。この点、上記構成によれば、車速の増大に基づいて制御ゲインが大きくなるため、車速に応じて最適な角度制御を実行できる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記要因には、車両の加減速状態が含まれ、前記制御ゲインは、車両が減速状態である場合に、車両が非減速状態である場合に比べ、小さくなるように変更されることが好ましい。
【0016】
車両が減速状態にある場合には、車両の重心が前方に移動することで、前輪に作用する荷重と後輪に作用する荷重との差に基づく値であるスタビリティファクタが負の値となりやすく、オーバステア傾向となることがある。この点、上記構成によれば、車両が減速状態である場合に制御ゲインを小さくするため、オーバステア傾向となることを抑制して、操舵感の向上を図ることができる。
【0017】
上記操舵制御装置において、前記要因には、横加速度が含まれ、前記制御ゲインは、前記横加速度の絶対値の増大に基づいて、大きくなるように変更されることが好ましい。
横加速度が増大するほど、転舵輪の転舵に必要なトルクが大きくなる。したがって、横加速度の変化によって、角度制御の実行による換算可能角の目標角への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。この点、上記構成によれば、横加速度の絶対値の増大に基づいて制御ゲインが大きくなるため、横加速度に応じて最適な角度制御を実行できる。
【0018】
上記操舵制御装置において、前記要因には、前記モータの温度、前記制御部の温度、前記駆動回路の温度、前記操舵装置の温度、及び前記操舵装置の周辺温度の少なくとも1つの対象温度が含まれ、前記制御ゲインは、前記対象温度の低下に基づいて、大きくなるように変更されることが好ましい。
【0019】
モータの温度が低下するほど、例えば内部のグリースの粘性が高くなるため、モータを回転させるために大きなトルクを発生させる必要がある。このことは、モータの温度に限らず、他の温度でも同様の傾向がある。したがって、対象温度の変化によって角度制御の実行による換算可能角の目標角への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。この点、上記構成によれば、対象温度の低下に基づいて制御ゲインが大きくなるため、対象温度に応じて最適な角度制御を実行できる。
【0020】
上記操舵制御装置において、前記角度制御には、前記換算可能角を前記目標角に追従させるフィードバック制御が含まれ、前記制御ゲインには、前記フィードバック制御に用いられるフィードバックゲインが含まれることが好ましい。
【0021】
上記操舵制御装置において、前記角度制御には、前記目標角に基づくフィードフォワード制御が含まれ、前記制御ゲインには、前記フィードフォワード制御に用いられるフィードフォワードゲインが含まれることが好ましい。
【0022】
上記操舵制御装置において、前記角度制御には、前記目標角の変化量である目標角速度に基づくダンピング制御が含まれ、前記制御ゲインには、前記ダンピング制御に用いられるダンピングゲインが含まれることが好ましい。
【0023】
上記各構成によれば、換算可能角の目標角への調整を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】操舵装置の概略構成図。
図2】操舵制御装置、操舵側モータ及び転舵側モータのブロック図。
図3】操舵側マイコンのブロック図。
図4】目標反力トルク演算部のブロック図。
図5】第1転舵側マイコン及び第2転舵側マイコンのブロック図。
図6】優先目標転舵トルク演算部のブロック図。
図7】角度フィードバックトルク演算部のブロック図。
図8】比例ゲイン演算部のブロック図。
図9】角度フィードフォワードトルク演算部のブロック図。
図10】ダンピングトルク演算部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置2はステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵ユニット4と、運転者による操舵ユニット4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵ユニット6とを備えている。
【0027】
操舵ユニット4は、ステアリングホイール3が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール3に対して操舵反力を付与する操舵側アクチュエータ12とを備えている。操舵反力は、運転者の操舵に抗する力である。操舵側アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ13と、操舵側モータ13の回転を減速してステアリングシャフト11に伝達する操舵側減速機14とを備えている。つまり、操舵側モータ13は、そのモータトルクを操舵反力として付与する。なお、本実施形態の操舵側モータ13には、例えば三相の表面磁石同期モータ(SPMSM)が採用されている。
【0028】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵軸であるラック軸22と、ラック軸22を往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22を有するラックアンドピニオン機構24とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛合することにより構成されている。つまり、ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵角に換算可能な回転軸に相当する。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されている。各タイロッド26の先端は、左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0029】
また、転舵ユニット6は、ラック軸22に転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。そして、転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達し、変換機構34にてラック軸22の往復動に変換することで転舵ユニット6に転舵力を付与する。つまり、転舵側モータ32は、そのモータトルクを転舵力として付与する。なお、本実施形態の転舵側モータ32には、例えば表面磁石同期モータが採用され、伝達機構33には、例えばベルト機構が採用され、変換機構34には、例えばボールネジ機構が採用されている。
【0030】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22に転舵力が付与されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、操舵反力がステアリングホイール3に付与される。
【0031】
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32に接続されており、これらの作動を制御する。操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えている。そして、CPUがメモリに記憶されたプログラムを所定の演算周期ごとに実行することで、各種の制御が実行される。
【0032】
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の制御に際し、各種センサによって検出される状態量を参照する。
状態量には、トルクセンサ41によって検出される操舵トルクTh、及び車速センサ42によって検出される車速Vbが含まれる。なお、トルクセンサ41は、ステアリングシャフト11における操舵側減速機14との連結部分よりもステアリングホイール3側に設けられている。操舵トルクThは、運転者がステアリングホイール3を介して入力するトルクである。
【0033】
また、状態量には、操舵側回転角センサ43によって検出される操舵側モータ13の出力軸13aの回転角θs、転舵側回転角センサ44によって検出される転舵側モータ32の出力軸32aの回転角θt1、及び転舵側回転角センサ45によって検出される転舵側モータ32の出力軸32aの回転角θt2が含まれる。回転角θs,θt1,θt2は、それぞれ360°の範囲内の相対角で検出される。上記操舵トルクTh及び回転角θs,θt1,θt2は、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出される。回転角θt1,θt2は、転舵側回転角センサ44,45が正常であれば、基本的に同一の値である。
【0034】
さらに、状態量には、温度センサ46によって検出される対象温度Temp、横加速度センサ47によって検出される横加速度γ、及び図示しないブレーキが操作されているか否かを示すブレーキ操作フラグFbrが含まれる。対象温度Tempは、転舵側モータ32の温度である。ブレーキ操作フラグFbrは、ブレーキの作動を制御するブレーキ制御装置48から入力される。
【0035】
次に、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の構成について説明する。
図2に示すように、操舵側モータ13は、ロータ51と、図示しないステータに巻回されるコイル群52とを備えている。コイル群52は、U、V、Wの三相のコイルを有している。コイル群52の各相のコイルは、単一の給電経路を構成するように接続されているとともに、接続線53を介して操舵制御装置1に接続されている。
【0036】
転舵側モータ32は、ロータ54と、第1コイル群55と、第2コイル群56とを備えている。第1コイル群55及び第2コイル群56は、U、V、Wの三相のコイルをそれぞれ有している。第1コイル群55の各相のコイルと第2コイル群56の各相のコイルとは、互いに独立した給電経路を構成するように接続されている。第1コイル群55の各相のコイルは、第1接続線57を介して操舵制御装置1に接続されている。第2コイル群56の各相のコイルは、第2接続線58を介して操舵制御装置1に接続されている。
【0037】
次に、操舵制御装置1の構成について詳細に説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ制御信号Msを出力する操舵側マイコン61と、操舵側モータ制御信号Msに基づいてコイル群52に駆動電力を供給する操舵側駆動回路62とを備えている。操舵側マイコン61には、回転角θs、操舵トルクTh、車速Vbが入力される。また、操舵側マイコン61には、接続線53を流れる操舵側モータ13の各相電流値Ius,Ivs,Iwsを検出する電流センサ63が接続されている。なお、図2では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の電流センサ63をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0038】
また、操舵制御装置1は、第1転舵側モータ制御信号Mt1を出力する制御部である第1転舵側マイコン64と、第1転舵側モータ制御信号Mt1に基づいて第1コイル群55に駆動電力を供給する第1転舵側駆動回路65とを備えている。第1転舵側マイコン64には、回転角θt1、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Tempが入力される。また、第1転舵側マイコン64には、第1接続線57を流れる転舵側モータ32の各相電流値Iut1,Ivt1,Iwt1を検出する第1電流センサ66が接続されている。なお、図2では、説明の便宜上、各相の第1接続線57及び各相の第1電流センサ66をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0039】
さらに、操舵制御装置1は、第2転舵側モータ制御信号Mt2を出力する制御部である第2転舵側マイコン67と、第2転舵側モータ制御信号Mt2に基づいて第2コイル群56に駆動電力を供給する第2転舵側駆動回路68とを備えている。第2転舵側マイコン67には、回転角θt2、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Tempが入力される。また、第2転舵側マイコン67には、第2接続線58を流れる転舵側モータ32の各相電流値Iut2,Ivt2,Iwt2を検出する第2電流センサ69が接続されている。なお、図2では、説明の便宜上、各相の第2接続線58及び各相の第2電流センサ69をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0040】
つまり、操舵制御装置1は、第1コイル群55に対応する第1転舵側マイコン64及び第1転舵側駆動回路65の組と、第2コイル群56に対応する第2転舵側マイコン67及び第2転舵側駆動回路68の組とを備えている。第1転舵側マイコン64及び第1転舵側駆動回路65の組は、第1コイル群55への給電を制御する。第2転舵側マイコン67及び第2転舵側駆動回路68の組は、第2コイル群56への給電を制御する。
【0041】
操舵側マイコン61と第1転舵側マイコン64と第2転舵側マイコン67とは、互いに接続されている。これにより、操舵側マイコン61と第1転舵側マイコン64と第2転舵側マイコン67との間で、各種信号の授受が行われる。
【0042】
操舵側駆動回路62、第1転舵側駆動回路65及び第2転舵側駆動回路68には、例えばFET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータがそれぞれ採用されている。また、操舵側モータ制御信号Ms、第1転舵側モータ制御信号Mt1及び第2転舵側モータ制御信号Mt2は、それぞれ各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号となっている。
【0043】
そして、操舵側モータ制御信号Msが操舵側駆動回路62に出力されることにより、車載電源Bから操舵側モータ13に駆動電力が供給される。これにより、操舵制御装置1は、コイル群52への駆動電力の供給を通じて該コイル群52で発生するトルク、すなわち操舵側モータ13で発生するトルクを制御する。
【0044】
第1転舵側モータ制御信号Mt1が第1転舵側駆動回路65に出力されることにより、車載電源Bから第1コイル群55に駆動電力が供給される。また、第2転舵側モータ制御信号Mt2が第2転舵側駆動回路68に出力されることにより、車載電源Bから第2コイル群56に駆動電力が供給される。これにより、操舵制御装置1は、第1コイル群55への駆動電力の供給を通じて該第1コイル群55で発生するトルクを制御するとともに、第2コイル群56への駆動電力の供給を通じて該第2コイル群56で発生するトルクを制御する。すなわち、操舵制御装置1と転舵側モータ32の間において、第1コイル群55及び第2コイル群56で発生するトルクを個別に制御する第1制御系統及び第2制御系統が構成されている。そして、転舵側モータ32で発生するトルクは、第1コイル群55で発生するトルクと第2コイル群56で発生するトルクとの合計である。つまり、操舵制御装置1は、第1コイル群55への駆動電力の供給、及び第2コイル群56への駆動電力の供給を通じて、転舵側モータ32で発生するトルクを制御する。
【0045】
次に、操舵側マイコン61の構成について説明する。
図3に示すように、操舵側マイコン61は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することで、操舵側モータ制御信号Msを演算する。操舵側マイコン61には、上記操舵トルクTh、車速Vb、回転角θs、各相電流値Ius,Ivs,Iws、転舵側モータ32の駆動電流であるq軸電流値Iqt1,Iqt2及び第1転舵対応角θp1が入力される。そして、操舵側マイコン61は、これら各状態量に基づいて操舵側モータ制御信号Msを演算する。
【0046】
詳しくは、操舵側マイコン61は、回転角θsに基づいてステアリングホイール3の操舵角θhを演算する操舵角演算部71と、目標反力トルクTs*を演算する目標反力トルク演算部72と、操舵側モータ制御信号Msを演算する操舵側モータ制御信号演算部73とを備えている。目標反力トルクTs*は、操舵側モータ13が出力するモータトルクの目標値である。
【0047】
操舵角演算部71には、操舵側モータ13の回転角θsが入力される。操舵角演算部71は、回転角θsを、例えばステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む絶対角に換算して取得する。そして、操舵角演算部71は、絶対角に換算された回転角に第1換算係数を乗算することにより、操舵角θhを演算する。第1換算係数は、操舵側減速機14の回転速度比に基づいて予め設定されている。このように演算された操舵角θhは、第1転舵側マイコン64及び第2転舵側マイコン67に出力される。
【0048】
目標反力トルク演算部72には、操舵トルクTh、車速Vb、q軸電流値Iqt1,Iqt2及び第1転舵対応角θp1が入力される。目標反力トルク演算部72は、後述するようにこれらの状態量に基づいて目標反力トルクTs*を演算し、操舵側モータ制御信号演算部73に出力する。
【0049】
操舵側モータ制御信号演算部73には、目標反力トルクTs*に加え、回転角θs及び相電流値Ius,Ivs,Iwsが入力される。操舵側モータ制御信号演算部73は、目標反力トルクTs*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸電流指令値Ids*及びq軸上のq軸電流指令値Iqs*を演算する。電流指令値Ids*,Iqs*は、dq座標系におけるd軸上の電流指令値及びq軸上の電流指令値をそれぞれ示す。
【0050】
具体的には、操舵側モータ制御信号演算部73は、目標反力トルクTs*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸電流指令値Iqs*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸電流指令値Ids*は、基本的にゼロに設定される。そして、操舵側モータ制御信号演算部73は、dq座標系における電流フィードバック制御の実行に基づいて、操舵側モータ制御信号Msを演算する。なお、以下では、フィードバックという文言を「F/B」と記すことがある。
【0051】
より具体的には、操舵側モータ制御信号演算部73は、回転角θsに基づいて相電流値Ius,Ivs,Iwsをdq座標上に写像することにより、dq座標系における操舵側モータ13の実電流値であるd軸電流値Ids及びq軸電流値Iqsを演算する。続いて、操舵側モータ制御信号演算部73は、d軸電流値Idsをd軸電流指令値Ids*に追従させるべく、またq軸電流値Iqsをq軸電流指令値Iqs*に追従させるべく、d軸上の電流偏差及びq軸上の電流偏差に基づいて目標電圧値を演算する。そして、操舵側モータ制御信号演算部73は、目標電圧値に基づくデューティ比を有する操舵側モータ制御信号Msを演算する。
【0052】
このように演算された操舵側モータ制御信号Msは、操舵側駆動回路62に出力される。これにより、操舵側モータ13には、操舵側駆動回路62から操舵側モータ制御信号Msに応じた駆動電力が供給される。そして、目標反力トルクTs*に示されるモータトルクがコイル群52で発生し、操舵反力がステアリングホイール3に付与される。
【0053】
次に、目標反力トルク演算部72について説明する。
図4に示すように、目標反力トルク演算部72は、入力トルク基礎成分Tbを演算する入力トルク基礎成分演算部81と、反力成分Firを演算する反力成分演算部82を備えている。入力トルク基礎成分Tbは、運転者の操舵方向にステアリングホイール3を回転させる力である。反力成分Firは、運転者の操舵によるステアリングホイール3の回転に抗する力である。
【0054】
詳しくは、入力トルク基礎成分演算部81には、操舵トルクThが入力される。入力トルク基礎成分演算部81は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分Tbを演算する。このように演算された入力トルク基礎成分Tbは、減算器83に出力される。
【0055】
反力成分演算部82には、車速Vb、転舵側モータ32のq軸電流値Iqt1,Iqt2及び第1転舵対応角θp1が入力される。反力成分演算部82は、これらの状態量に基づいて、ラック軸22に作用する軸力に応じた反力成分Firを演算する。なお、反力成分Firは、ラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。
【0056】
詳しくは、反力成分演算部82は、角度軸力Fibを演算する角度軸力演算部85と、電流軸力Ferを演算する電流軸力演算部86とを備えている。なお、角度軸力Fib及び電流軸力Ferは、トルクの次元(N・m)で演算される。また、反力成分演算部82は、角度軸力Fibと電流軸力Ferとを個別に設定される所定配分比率で合算することにより、反力成分Firを演算する配分軸力演算部87を備えている。所定配分比率は、転舵輪5に対して路面から加えられる軸力、換言すると路面から伝達される路面情報が反力成分Firに反映されるように設定される。
【0057】
角度軸力演算部85には、第1転舵対応角θp1及び車速Vbが入力される。角度軸力演算部85、第1転舵対応角θp1及び車速Vbに基づいて、角度軸力Fibを演算する。なお、角度軸力Fibは、任意に設定されるモデルにおける軸力の理想値であって、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の路面情報を含まない軸力である。
【0058】
具体的には、角度軸力演算部85は、第1転舵対応角θp1の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部85は、車速Vbが大きくなるほど、より大きな絶対値を有する角度軸力Fibを演算する。このように演算された角度軸力Fibは、配分軸力演算部87に出力される。
【0059】
電流軸力演算部86には、転舵側モータ32のq軸電流値Iqt1,Iqt2が入力される。電流軸力演算部86は、q軸電流値Iqt1とq軸電流値Iqt2との和をq軸電流値Iqtとして演算する。そして、電流軸力演算部86は、転舵輪5に作用する軸力をq軸電流値Iqtに基づいて演算する。なお、電流軸力Ferは、転舵輪5に作用する軸力の推定値であって、路面情報を含む軸力である。
【0060】
具体的には、電流軸力演算部86は、q軸電流値Iqtの絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有する電流軸力Ferの絶対値を演算する。これは、転舵側モータ32によってラック軸22に加えられるトルクと、転舵輪5に対して路面から加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとの仮定に基づくものである。このように演算された電流軸力Ferは、配分軸力演算部87に出力される。
【0061】
配分軸力演算部87には、角度軸力Fib及び電流軸力Ferが入力される。配分軸力演算部87には、電流軸力Ferの配分比率を示す電流配分ゲイン、及び角度軸力Fibの配分比率を示す角度配分ゲインが、実験等により予め設定されている。そして、配分軸力演算部87は、角度軸力Fibに角度配分ゲインを乗算することにより得られる値と、電流軸力Ferに電流配分ゲインを乗算することにより得られる値とを加算することにより、反力成分Firを演算する。このように演算された反力成分Firは、減算器83に出力される。
【0062】
そして、目標反力トルク演算部72は、減算器83において入力トルク基礎成分Tbから反力成分Firを減算した値を目標反力トルクTs*として演算する。このように演算された目標反力トルクTs*は、操舵側モータ制御信号演算部73に出力される。つまり、目標反力トルク演算部72は、演算上の軸力である反力成分Firに基づいて目標反力トルクTs*を演算している。そのため、操舵側モータ13が付与する操舵反力は、基本的には運転者の操舵に抗する力であるが、演算上の軸力とラック軸22に作用する実際の軸力との偏差によっては、運転者の操舵を補助する力にもなり得るものである。
【0063】
次に、図5を参照して第1転舵側マイコン64及び第2転舵側マイコン67について説明する。
第1転舵側マイコン64及び第2転舵側マイコン67は、転舵側モータ32の駆動方式に応じて、第1転舵側モータ制御信号Mt1及び第2転舵側モータ制御信号Mt2の演算処理をそれぞれ変更する。
【0064】
ここで、本実施形態の転舵側モータ32の駆動方式には、協調方式、独立方式、残存方式の3つの方式がある。協調方式は、第1転舵側マイコン64が演算する優先目標転舵トルクTty*に基づいて、第1コイル群55及び第2コイル群56で発生するトルクを制御する駆動方式である。協調方式は、第1コイル群55で発生するトルクを制御する第1制御系統、及び第2コイル群56で発生するトルクを制御する第2制御系統の双方が正常であり、かつ第1転舵側マイコン64と第2転舵側マイコン67との間のマイコン間通信が正常である場合に実施される。優先目標転舵トルクTty*については、後述する。
【0065】
独立方式は、第1転舵側マイコン64が演算する優先目標転舵トルクTty*に基づいて、第1コイル群55で発生するトルクを制御し、第2転舵側マイコン67が演算する冗長目標転舵トルクTtj*に基づいて、第2コイル群56で発生するトルクを制御する駆動方式である。独立方式は、例えば第1制御系統及び第2制御系統の双方が正常であるものの、マイコン間通信が異常である場合に実施される。冗長目標転舵トルクTtj*については、後述する。
【0066】
残存方式は、第1制御系統及び第2制御系統のいずれか一方が異常である場合に実施される。残存方式は、第1制御系統が正常である場合には、優先目標転舵トルクTty*に基づいて、第1コイル群55で発生するトルクを制御する。第2制御系統が正常である場合には、冗長目標転舵トルクTtj*に基づいて、第2コイル群56で発生するトルクを制御する駆動方式である。
【0067】
まず、第1転舵側マイコン64の構成について説明する。
第1転舵側マイコン64は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することで、第1転舵側モータ制御信号Mt1を演算する。第1転舵側マイコン64には、上記回転角θt1、操舵角θh、操舵トルクTh、各相電流値Iut1,Ivt1,Iwt1、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ及び対象温度Tempが入力される。そして、第1転舵側マイコン64は、これら各状態量に基づいて第1転舵側モータ制御信号Mt1を演算して出力する。
【0068】
詳しくは、第1転舵側マイコン64は、回転角θt1に基づいて第1転舵対応角θp1を演算する第1転舵対応角演算部91と、操舵角θh及び操舵トルクThに基づいて第1目標転舵対応角θp1*を演算する第1目標転舵対応角演算部92と、第1制御系統の駆動方式を管理する第1状態管理部93とを備えている。第1目標転舵対応角θp1*は、転舵輪5の転舵角に換算可能な回転軸、すなわちピニオン軸21の回転角である第1転舵対応角θp1の目標値である。また、第1転舵側マイコン64は、優先目標転舵トルクTty*を演算する優先目標転舵トルク演算部94と、第1目標転舵トルクTt1*を演算する第1目標転舵トルク演算部95と、第1転舵側モータ制御信号Mt1を演算する第1転舵側モータ制御信号演算部96とを備えている。優先目標転舵トルクTty*は、転舵側モータ32が出力するモータトルクの目標値であり、トルク指令値に相当する。したがって、優先目標転舵トルク演算部94は、トルク指令値演算部に相当する。
【0069】
第1転舵対応角演算部91には、回転角θt1が入力される。第1転舵対応角演算部91は、入力される回転角θt1を、例えば車両が直進する中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、絶対角に換算して取得する。そして、第1転舵対応角演算部91は、絶対角に換算された回転角に第2換算係数を乗算することにより、第1転舵対応角θp1を演算する。第2換算係数は、伝達機構33の減速比、変換機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づいて予め設定されている。つまり、第1転舵対応角θp1は、転舵側モータ32の回転角θt1に換算可能な換算可能角に相当する。また、第1転舵対応角θp1は、ピニオン軸21がステアリングシャフト11に連結されていると仮定した場合におけるステアリングホイール3の操舵角θhと略一致する。このように演算された第1転舵対応角θp1は、優先目標転舵トルク演算部94及び目標反力トルク演算部72に出力される。
【0070】
第1目標転舵対応角演算部92には、操舵角θh及び操舵トルクThが入力される。第1目標転舵対応角演算部92は、これらの状態量に基づいて第1目標転舵対応角θp1*を演算する。第1目標転舵対応角演算部92は、操舵角θhと第1転舵対応角θp1との比である舵角比が基本的に1:1となるように、第1目標転舵対応角θp1*を演算する。
【0071】
具体的には、第1目標転舵対応角演算部92は、操舵角θhに対して操舵トルクThに基づく補償角を加算することにより得られる値を第1目標転舵対応角θp1*として演算する。補償角は、操舵トルクThの入力により生じるステアリングシャフト11の捩れを示す角度であり、操舵トルクThに予め設定された補償係数を乗算することにより得られる。このように演算された第1目標転舵対応角θp1*は、優先目標転舵トルク演算部94に出力される。
【0072】
第1状態管理部93には、回転角θt1,θt2、及び相電流値Iut1,Ivt1,Iwt1,Iut2,Ivt2,Iwt2を含む各種状態量が入力される。なお、説明の便宜上、第1状態管理部93に入力される状態量の図示を省略している。第1状態管理部93は、これらの状態量に基づいて、第1制御系統が正常であるか否かを判定する。第1状態管理部93は、例えば回転角θt1が取り得ない値となった場合や、前回値からの変化量が予め設定される閾値を超える場合等に、第1制御系統に異常が発生したと判定する。
【0073】
第1状態管理部93は、後述する第2転舵側マイコン67の第2状態管理部103と接続されている。第1状態管理部93は、第2状態管理部103との間で送受信する信号に基づいて、第1転舵側マイコン64と第2転舵側マイコン67との間のマイコン間通信が正常であるか否かを判定する。第1状態管理部93は、例えば第2状態管理部103からの信号が途絶えた場合や、第2転舵側マイコン67に異常が生じた旨の信号が入力される場合等に、マイコン間通信に異常が発生したと判定する。
【0074】
そして、第1状態管理部93は、これら異常判定の結果に基づいて、転舵側モータ32の駆動方式を示す第1状態信号S1を優先目標転舵トルク演算部94に出力する。具体的には、第1状態管理部93は、第1制御系統及び第2制御系統が正常であり、マイコン間通信が正常である場合には、協調方式で転舵側モータ32を駆動する旨の第1状態信号S1を出力する。第1状態管理部93は、例えば第1制御系統及び第2制御系統が正常であるものの、マイコン間通信が異常である場合には、独立方式で転舵側モータ32を駆動する旨の第1状態信号S1を出力する。第1状態管理部93は、第2制御系統が異常である場合には、残存方式で転舵側モータ32を駆動する旨の第1状態信号S1を出力する。
【0075】
優先目標転舵トルク演算部94には、第1目標転舵対応角θp1*、第1転舵対応角θp1、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。優先目標転舵トルク演算部94は、これらの状態量に基づいて、後述するように優先目標転舵トルクTty*を演算し、第1目標転舵トルク演算部95及び第2転舵側マイコン67に出力する。
【0076】
第1目標転舵トルク演算部95には、優先目標転舵トルクTty*が入力される。第1目標転舵トルク演算部95は、優先目標転舵トルクTty*に基づいて、第1目標転舵トルクTt1*を演算する。第1目標転舵トルクTt1*は、転舵側モータ32で優先目標転舵トルクTty*を発生させる上で第1コイル群55が発生すべきトルクである。本実施形態の第1目標転舵トルク演算部95は、優先目標転舵トルクTty*の半分(50%)の値を第1目標転舵トルクTt1*として演算する。
【0077】
第1転舵側モータ制御信号演算部96には、第1目標転舵トルクTt1*に加え、回転角θt1及び相電流値Iut1,Ivt1,Iwt1が入力される。第1転舵側モータ制御信号演算部96は、第1目標転舵トルクTt1*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸電流指令値Idt1*及びq軸上のq軸電流指令値Iqt1*を演算する。
【0078】
具体的には、第1転舵側モータ制御信号演算部96は、第1目標転舵トルクTt1*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸電流指令値Iqt1*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸電流指令値Idt1*は、基本的にゼロに設定される。そして、第1転舵側モータ制御信号演算部96は、操舵側モータ制御信号演算部73と同様に、dq座標系における電流F/B制御の実行に基づいて、第1転舵側モータ制御信号Mt1を演算する。なお、第1転舵側モータ制御信号Mt1を演算する過程で演算したq軸電流値Iqt1は、上記目標反力トルク演算部72に出力される。
【0079】
このように演算された第1転舵側モータ制御信号Mt1は、第1転舵側駆動回路65に出力される。これにより、転舵側モータ32には、第1転舵側駆動回路65から第1転舵側モータ制御信号Mt1に応じた駆動電力が供給される。そして、第1目標転舵トルクTt1*に示されるモータトルクが第1コイル群55で発生し、転舵力が転舵側モータ32から転舵輪5に付与される。
【0080】
次に、第2転舵側マイコン67の構成について説明する。
第2転舵側マイコン67は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することで、第2転舵側モータ制御信号Mt2を演算する。第2転舵側マイコン67には、上記回転角θt2、操舵角θh、操舵トルクTh、各相電流値Iut2,Ivt2,Iwt2及び、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ及び対象温度Tempが入力される。そして、第2転舵側マイコン67は、これら各状態量に基づいて第2転舵側モータ制御信号Mt2を演算して出力する。
【0081】
詳しくは、第2転舵側マイコン67は、基本的に第1転舵側マイコン64と同様に構成されている。すなわち、第2転舵側マイコン67は、第2転舵対応角θp2を演算する第2転舵対応角演算部101と、第2目標転舵対応角θp2*を演算する第2目標転舵対応角演算部102と、第2制御系統の駆動方式を管理する第2状態管理部103とを備えている。第2転舵対応角θp2は、転舵側モータ32の回転角θt2に換算可能な換算可能角に相当する。第2目標転舵対応角θp2*は、転舵輪5の転舵角に換算可能な回転軸、すなわちピニオン軸21の回転角である第2転舵対応角θp2の目標値である。また、第1転舵側マイコン64は、冗長目標転舵トルクTtj*を演算する冗長目標転舵トルク演算部104と、第2目標転舵トルクTt2*を演算する第2目標転舵トルク演算部105と、第2転舵側モータ制御信号Mt2を演算する第2転舵側モータ制御信号演算部106とを備えている。冗長目標転舵トルクTtj*は、転舵側モータ32が出力するモータトルクの目標値であり、トルク指令値に相当する。したがって、冗長目標転舵トルク演算部104は、トルク指令値演算部に相当する。
【0082】
第2転舵対応角演算部101は、回転角θt2に基づいて、第1転舵対応角演算部91と同様に、第2転舵対応角θp2を演算する。第2目標転舵対応角演算部102は、操舵角θh及び操舵トルクThに基づいて、第1目標転舵対応角演算部92と同様に、第2目標転舵対応角θp2*を演算する。
【0083】
第2状態管理部103には、回転角θt1,θt2、及び相電流値Iut1,Ivt1,Iwt1,Iut2,Ivt2,Iwt2を含む各種状態量が入力される。なお、説明の便宜上、第2状態管理部103に入力される状態量の図示を省略している。第2状態管理部103は、第1状態管理部93と同様に、第2状態信号S2を演算し、冗長目標転舵トルク演算部104及び第2目標転舵トルク演算部105に出力する。
【0084】
冗長目標転舵トルク演算部104には、第2転舵対応角θp2、第2目標転舵対応角θp2*、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第2状態信号S2が入力される。冗長目標転舵トルク演算部104は、後述するように優先目標転舵トルク演算部94と同様に、冗長目標転舵トルクTtj*を演算する。
【0085】
第2目標転舵トルク演算部105には、第2状態信号S2及び冗長目標転舵トルクTtj*に加え、マイコン間通信が正常である場合には、優先目標転舵トルクTty*が入力される。第2目標転舵トルク演算部105は、転舵側モータ32の駆動方式が協調方式である旨の第2状態信号S2が入力される場合には、優先目標転舵トルクTty*に基づいて、第2目標転舵トルクTt2*を演算する。一方、第2目標転舵トルク演算部105は、転舵側モータ32の駆動方式が独立方式である又は残存方式である旨の第2状態信号S2が入力される場合には、冗長目標転舵トルクTtj*に基づいて、第2目標転舵トルクTt2*を演算する。第2目標転舵トルクTt2*は、転舵側モータ32で優先目標転舵トルクTty*又は冗長目標転舵トルクTtj*を発生させる上で第2コイル群56が発生すべきトルクである。本実施形態の第2目標転舵トルク演算部105は、優先目標転舵トルクTty*又は冗長目標転舵トルクTtj*の半分(50%)の値を第2目標転舵トルクTt2*として演算する。
【0086】
第2転舵側モータ制御信号演算部106には、第2目標転舵トルクTt2*に加え、回転角θt2及び相電流値Iut2,Ivt2,Iwt2が入力される。第2転舵側モータ制御信号演算部106は、第2目標転舵トルクTt2*に基づいて、第1転舵側モータ制御信号演算部96と同様に、dq座標系におけるd軸上のd軸電流指令値Idt2*及びq軸上のq軸電流指令値Iqt2*を演算する。そして、第2転舵側モータ制御信号演算部106は、第1転舵側モータ制御信号演算部96と同様に、dq座標系における電流F/B制御の実行に基づいて、第2転舵側モータ制御信号Mt2を演算する。なお、第2転舵側モータ制御信号Mt2を演算する過程で演算したq軸電流値Iqt2は、上記目標反力トルク演算部72に出力される。
【0087】
このように演算された第2転舵側モータ制御信号Mt2は、第2転舵側駆動回路68に出力される。これにより、転舵側モータ32には、第2転舵側駆動回路68から第2転舵側モータ制御信号Mt2に応じた駆動電力が供給される。そして、第2目標転舵トルクTt2*に示されるモータトルクが第2コイル群56で発生し、転舵力が転舵側モータ32から転舵輪5に付与される。
【0088】
次に、優先目標転舵トルク演算部94の構成について説明する。
図6に示すように、優先目標転舵トルク演算部94は、第1転舵対応角θp1を第1目標転舵対応角θp1*に調整する角度制御の実行に基づいて、優先目標転舵トルクTty*を演算する。本実施形態の優先目標転舵トルク演算部94は、角度制御として、第1転舵対応角θp1を第1目標転舵対応角θp1*に追従させる角度F/B制御と、第1目標転舵対応角θp1*に基づくフィードフォワード制御と、第1転舵対応角θp1の変化量である第1転舵対応角速度ωp1に基づくダンピング制御とを実行する。そして、優先目標転舵トルク演算部94は、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1、すなわち転舵側モータ32の駆動方式に基づいて、角度制御の実行に用いられる制御ゲインを変更する。これにより、角度制御の最適化が図られる。なお、以下では、フィードフォワードという文言を「F/F」と記すことがある。
【0089】
ここで、車速Vbが増大するほど、転舵輪5の転舵に必要なトルクが大きくなる。したがって、車速Vbの変化によって、角度制御の実行による第1転舵対応角θp1の第1目標転舵対応角θp1*への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。
【0090】
また、車両が減速状態にある場合には、車両の重心が前方に移動することで、スタビリティファクタが負の値となりやすく、オーバステア傾向となることがある。すなわち、車両の加減速状態の変化によって、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。スタビリティファクタは、前輪に作用する荷重と後輪に作用する荷重との差に基づく値である。本実施形態の優先目標転舵トルク演算部94は、ブレーキが操作されている旨のブレーキ操作フラグFbrが入力される場合には減速状態であると判定し、ブレーキが操作されている旨のブレーキ操作フラグFbrが入力されない場合には、減速状態でないと判定する。
【0091】
また、横加速度γが増大するほど、転舵輪5の転舵に必要なトルクが大きくなる。したがって、横加速度γの変化によって、角度制御の実行による第1転舵対応角θp1の第1目標転舵対応角θp1*への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。
【0092】
また、対象温度Tempが低下するほど、例えば転舵側モータ32内部のグリースの粘性が高くなるため、転舵側モータ32を回転させるために大きなトルクを発生させる必要がある。したがって、対象温度Tempの変化によって角度制御の実行による第1転舵対応角θp1の第1目標転舵対応角θp1*への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動に影響が及ぶ。
【0093】
また、第1状態信号S1に示される転舵側モータ32の駆動方式が異なると、q軸電流指令値Iqt1*が同一であっても、転舵側モータ32の回転角θt1は同一とはならない。つまり、q軸電流指令値Iqt1*を入力とし、回転角θt1を出力とするシステムのプラント特性、すなわち伝達関数が転舵側モータ32の駆動方式によって変化する。本実施形態では、独立方式、協調方式、残存方式の順で大きなモータトルクが発生しにくくなる。このようにプラント特性が変化すると、例えば第1転舵対応角θp1の第1目標転舵対応角θp1*への調整度合いが変化し、操舵に応じた車両の挙動にも影響が及ぶおそれがある。
【0094】
すなわち、車両の加減速状態、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び転舵側モータ32の駆動方式は、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因に相当する。
詳しくは、優先目標転舵トルク演算部94は、角度F/BトルクTfbpを演算する角度F/Bトルク演算部111と、角度F/FトルクTffpを演算する角度F/Fトルク演算部112と、ダンピングトルクTdmpを演算するダンピングトルク演算部113とを備えている。そして、優先目標転舵トルク演算部94は、角度F/FトルクTffpと、角度F/BトルクTfbpと、ダンピングトルクTdmpとを加算することにより得られる値を優先目標転舵トルクTty*として演算する。
【0095】
角度F/Bトルク演算部111には、減算器114において第1目標転舵対応角θp1*から第1転舵対応角θp1を減算することにより得られる角度偏差Δθp1に加え、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。角度F/Bトルク演算部111は、これらの状態量に基づいて、後述するように角度F/B制御を実行することにより、角度F/BトルクTfbpを演算する。このように演算された角度F/BトルクTfbpは、加算器115に出力される。
【0096】
角度F/Fトルク演算部112には、第1目標転舵対応角θp1*に加え、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。角度F/Fトルク演算部112は、これらの状態量に基づいて、後述するように角度F/F制御を実行することにより、角度F/FトルクTffpを演算する。このように演算された角度F/FトルクTffpは、加算器115に出力される。
【0097】
ダンピングトルク演算部113には、第1転舵対応角θp1を微分することにより得られる第1転舵対応角速度ωp1に加え、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。ダンピングトルク演算部113は、これらの状態量に基づいて、後述するようにダンピング制御を実行することにより、ダンピングトルクTdmpを演算する。このように演算されたダンピングトルクTdmpは、加算器115に出力される。
【0098】
そして、優先目標転舵トルク演算部94は、加算器115において、角度F/FトルクTffpと、角度F/BトルクTfbpと、ダンピングトルクTdmpとを加算することにより、優先目標転舵トルクTty*を演算する。
【0099】
次に、角度F/Bトルク演算部111の構成について説明する。
図7に示すように、角度F/Bトルク演算部111は、角度F/B制御としてPID制御を実行することにより、角度F/BトルクTfbpを演算する。
【0100】
詳しくは、角度F/Bトルク演算部111は、比例成分Tpを演算する比例成分演算部121と、積分成分Tiを演算する積分成分演算部122と、微分成分Tdを演算する微分成分演算部123とを備えている。比例成分演算部121により演算される比例成分Tpは、加算器124に出力される。積分成分演算部122により演算される積分成分Tiは、加算器124に出力される。微分成分演算部123により演算される微分成分Tdは、加算器124に出力される。そして、角度F/Bトルク演算部111は、加算器124において、比例成分Tpと、積分成分Tiと、微分成分Tdとを加算することにより角度F/BトルクTfbpを演算する。以下、比例成分演算部121、積分成分演算部122、微分成分演算部123の順に説明する。
【0101】
(比例成分演算部121)
比例成分演算部121には、角度偏差Δθp1に加え、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。比例成分演算部121は、角度偏差Δθp1にブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1に応じた制御ゲイン及びF/Bゲインである比例ゲインKpを乗算することにより比例成分Tpを演算する。
【0102】
具体的には、比例成分演算部121は、比例ゲインKpを演算する比例ゲイン演算部131を備えている。比例ゲイン演算部131には、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。比例ゲイン演算部131は、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1に基づいて比例ゲインKpを演算し、乗算器132に出力する。乗算器132には、比例ゲインKpに加え、角度偏差Δθp1が入力される。そして、比例成分演算部121は、乗算器132において角度偏差Δθp1に比例ゲインKpを乗算することにより比例成分Tpを演算する。このように演算された比例成分Tpは、加算器124に出力される。
【0103】
ここで、図8に示すように、比例ゲイン演算部131は、通常時車速感応ゲインKvnを演算する通常時車速感応ゲイン演算部141と、減速時車速感応ゲインKvrを演算する減速時車速感応ゲイン演算部142と、出力切替部143とを備えている。また、比例ゲイン演算部131は、駆動方式感応ゲインKmoを演算する駆動方式感応ゲイン演算部144と、横加速度感応ゲインKγを演算する横加速度感応ゲイン演算部145と、対象温度感応ゲインKtempを演算する対象温度感応ゲイン演算部146とを備えている。そして、比例ゲイン演算部131は、比例基礎ゲインKpbに対して、通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとを乗算することにより、比例ゲインKpを演算する。
【0104】
通常時車速感応ゲイン演算部141には、車速Vbが入力される。通常時車速感応ゲイン演算部141は、車速Vbと通常時車速感応ゲインKvnとの関係を定めたマップを備えている。通常時車速感応ゲイン演算部141は、このマップを参照することにより車速Vbに応じた通常時車速感応ゲインKvnを演算する。このマップでは、車速Vbがゼロである場合に、通常時車速感応ゲインKvnがゼロよりも大きな値となるように設定されている。また、このマップでは、車速Vbの絶対値の増大に基づいて、通常時車速感応ゲインKvnが線形的に大きくなるように設定されている。このように演算された通常時車速感応ゲインKvnは、出力切替部143に出力される。
【0105】
減速時車速感応ゲイン演算部142には、車速Vbが入力される。減速時車速感応ゲイン演算部142は、車速Vbと減速時車速感応ゲインKvrとの関係を定めたマップを備えている。減速時車速感応ゲイン演算部142は、このマップを参照することにより車速Vbに応じた減速時車速感応ゲインKvrを演算する。このマップでは、車速Vbがゼロである場合に、減速時車速感応ゲインKvrがゼロよりも大きな値となるように設定されている。また、このマップでは、車速Vbの絶対値の増大に基づいて、減速時車速感応ゲインKvrが線形的に大きくなるように設定されている。減速時車速感応ゲインKvrは、任意の車速Vbで通常時車速感応ゲインKvnよりも小さくなるように設定されている。このように演算された減速時車速感応ゲインKvrは、出力切替部143に出力される。
【0106】
出力切替部143には、通常時車速感応ゲインKvn、減速時車速感応ゲインKvr及びブレーキ操作フラグFbrが入力される。出力切替部143は、ブレーキが操作されている旨のブレーキ操作フラグFbrが入力されない場合には、通常時車速感応ゲインKvnを乗算器147に出力する。一方、出力切替部143は、ブレーキが操作されている旨のブレーキ操作フラグFbrが入力される場合には、減速時車速感応ゲインKvrを乗算器147に出力する。つまり、比例ゲイン演算部131は、車両が減速状態である場合に、通常時車速感応ゲインKvnよりも小さな値となる減速時車速感応ゲインKvrを出力することで、比例ゲインKpを小さくする。
【0107】
駆動方式感応ゲイン演算部144には、第1状態信号S1が入力される。駆動方式感応ゲイン演算部144は、第1状態信号S1に示される駆動方式に応じた駆動方式感応ゲインKmoを演算する。駆動方式感応ゲイン演算部144には、駆動方式に応じた駆動方式感応ゲインKmoが予め設定されている。駆動方式感応ゲインKmoは、独立方式、協調方式、残存方式の順で大きな値となるように設定されている。このように演算された駆動方式感応ゲインKmoは、乗算器147に出力される。
【0108】
横加速度感応ゲイン演算部145には、横加速度γが入力される。横加速度感応ゲイン演算部145は、横加速度γと横加速度感応ゲインKγとの関係を定めたマップを備えている。横加速度感応ゲイン演算部145は、このマップを参照することにより横加速度γに応じた横加速度感応ゲインKγを演算する。このマップでは、横加速度γがゼロである場合に、横加速度感応ゲインKγがゼロよりも大きな値となるように設定されている。また、このマップでは、横加速度γの絶対値の増大に基づいて、横加速度感応ゲインKγが線形的に大きくなるように設定されている。このように演算された横加速度感応ゲインKγは、乗算器147に出力される。
【0109】
対象温度感応ゲイン演算部146には、対象温度Tempが入力される。対象温度感応ゲイン演算部146は、対象温度Tempと対象温度感応ゲインKtempとの関係を定めたマップを備えている。対象温度感応ゲイン演算部146は、このマップを参照することにより対象温度Tempに応じた対象温度感応ゲインKtempを演算する。このマップでは、対象温度Tempがゼロである場合に、対象温度感応ゲインKtempがゼロよりも大きな値となるように設定されている。また、このマップでは、対象温度Tempの減少に基づいて、対象温度感応ゲインKtempが線形的に大きくなるように設定されている。このように演算された対象温度感応ゲインKtempは、乗算器147に出力される。
【0110】
乗算器147には、通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとに加え、予め設定された定数である比例基礎ゲインKpbが入力される。比例ゲイン演算部131は、乗算器147において比例基礎ゲインKpbに、通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとを乗算することにより、比例ゲインKpを演算する。このように演算された比例ゲインKpは、図7に示す乗算器132に出力される。
【0111】
(積分成分演算部122)
図7に示すように、積分成分演算部122には、角度偏差Δθp1に加え、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。積分成分演算部122は、角度偏差Δθp1にブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1に応じた制御ゲイン及びF/Bゲインである積分ゲインKiを乗算することにより積分基礎成分Tibを演算する。そして、積分成分演算部122は、最新の演算周期で演算した積分基礎成分Tibに対して、前回の演算周期までに演算した積分基礎成分Tibを積算することにより得られる積算値を加算することで、積分成分Tiを演算する。
【0112】
具体的には、積分成分演算部122は、積分ゲインKiを演算する積分ゲイン演算部133を備えている。積分ゲイン演算部133には、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。積分ゲイン演算部133は、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1に基づいて積分ゲインKiを演算し、乗算器134に出力する。乗算器134には、積分ゲインKiに加え、角度偏差Δθp1が入力される。積分成分演算部122は、乗算器134において角度偏差Δθp1に積分ゲインKiを乗算することにより積分基礎成分Tibを演算する。このように演算された積分基礎成分Tibは、加算器135に出力される。加算器135には、積分基礎成分Tibに加え、前回の演算周期までに演算した積分基礎成分Tibを積算することにより得られる積算値が入力される。そして、積分成分演算部122は、加算器135において、積分基礎成分Tibと積算値とを加算することにより積分成分Tiを演算する。
【0113】
ここで、積分ゲイン演算部133は、上記比例ゲイン演算部131と同様に、積分ゲインKiを演算する。すなわち、積分ゲイン演算部133は、積分基礎ゲインKibに通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとを乗算することにより積分ゲインKiを演算する。なお、積分基礎ゲインKibに乗算する通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとは、比例基礎ゲインKpbに乗算する各ゲインと同じ値であっても、異なる値であってもよい。
【0114】
(微分成分演算部123)
微分成分演算部123には、角度偏差Δθp1に加え、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。微分成分演算部123は、角度偏差Δθp1を微分することにより得られる角速度偏差Δωp1に対して、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1に応じた制御ゲイン及びF/Bゲインである微分ゲインKdを乗算することにより微分成分Tdを演算する。
【0115】
具体的には、微分成分演算部123は、微分ゲインKdを演算する微分ゲイン演算部136を備えている。微分ゲイン演算部136には、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。微分ゲイン演算部136は、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1に基づいて微分ゲインKdを演算し、乗算器137に出力する。乗算器137には、微分ゲインKdに加え、角速度偏差Δωp1が入力される。そして、微分成分演算部123は、乗算器137において角速度偏差Δωp1に微分ゲインKdを乗算することにより微分成分Tdを演算する。
【0116】
ここで、微分ゲイン演算部136は、上記比例ゲイン演算部131と同様に、微分ゲインKdを演算する。すなわち、微分ゲイン演算部136は、微分基礎ゲインKdbに通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとを乗算することにより微分ゲインKdを演算する。なお、微分基礎ゲインKdbに乗算する通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとは、比例基礎ゲインKpbに乗算する各ゲインと同じ値であっても、異なる値であってもよい。このように演算された微分ゲインKdは、乗算器137に出力される。
【0117】
以上のように、角度F/Bトルク演算部111は、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因に応じて比例ゲインKp、積分ゲインKi、及び微分ゲインKdを変更しつつ、角度F/BトルクTfbpを演算する。
【0118】
次に、角度F/Fトルク演算部112の構成について説明する。
図9に示すように、角度F/Fトルク演算部112は、SAT成分Tsatを演算するSAT成分演算部151と、プラント成分Tpltを演算するプラント成分演算部152と、角度F/FゲインKffpを演算する角度F/Fゲイン演算部153とを備えている。SAT成分Tsatは、転舵輪5に作用するセルフアライニングトルクに相当する外乱を補償するためのトルクを示す。プラント成分Tpltは、転舵側モータ32に対するq軸電流指令値Iqt1*を入力とするとともに第1転舵対応角θp1を出力とするシステムのプラント特性に応じた外乱を補償するためのトルクを示す。そして、角度F/Fトルク演算部112は、SAT成分Tsatとプラント成分Tpltとを加算することにより得られる加算値に対して、角度F/FゲインKffpを乗算することで、角度F/FトルクTffpを演算する。
【0119】
詳しくは、SAT成分演算部151には、第1目標転舵対応角θp1*が入力される。SAT成分演算部151は、第1目標転舵対応角θp1*に予め設定されたSAT係数を乗算することにより、SAT成分Tsatを演算する。SAT係数は、転舵輪5に作用するセルフアライニングトルクと、第1転舵対応角θp1との関係を示す係数であり、予め設定されている。このように演算されたSAT成分Tsatは、加算器154に出力される。
【0120】
プラント成分演算部152には、第1目標転舵対応角θp1*が入力される。プラント成分演算部152は、上記システムのプラント特性を示す予め設定された伝達関数に対し、第1目標転舵対応角θp1*を入力した際に得られる出力をプラント成分Tpltとして演算する。このように演算されたプラント成分Tpltは、加算器154に出力される。
【0121】
角度F/Fゲイン演算部153には、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。角度F/Fゲイン演算部153は、上記比例ゲイン演算部131と同様に、角度F/FゲインKffpを演算する。すなわち、角度F/Fゲイン演算部153は、F/F基礎ゲインKffbpに通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとを乗算することにより角度F/FゲインKffpを演算する。なお、F/F基礎ゲインKffbpに乗算する通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとは、比例基礎ゲインKpbに乗算する各ゲインと同じ値であっても、異なる値であってもよい。このように演算された角度F/FゲインKffpは、乗算器155に出力される。
【0122】
角度F/Fトルク演算部112は、加算器154において、SAT成分Tsatとプラント成分Tpltとを加算することにより、加算値Affpを演算する。このように演算された加算値Affpは、乗算器155に出力される。そして、角度F/Fトルク演算部112は、乗算器155において、加算値Affpに角度F/FゲインKffpを乗算することにより、角度F/FトルクTffpを演算する。このように角度F/Fトルク演算部112は、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因に応じて角度F/FゲインKffpを変更しつつ、角度F/FトルクTffpを演算する。
【0123】
次に、ダンピングトルク演算部113の構成について説明する。
図10に示すように、ダンピングトルク演算部113は、ダンピング基本成分Tdmpbを演算するダンピング基本成分演算部161と、ダンピングゲインKdmpを演算するダンピングゲイン演算部162とを備えている。そして、ダンピングトルク演算部113は、ダンピング基本成分TdmpbにダンピングトルクTdmpを乗算することによりダンピングトルクTdmpを演算する。
【0124】
詳しくは、ダンピング基本成分演算部161には、第1転舵対応角速度ωp1が入力される。ダンピングゲイン演算部162は、第1転舵対応角速度ωp1とダンピング基本成分Tdmpbとの関係を定めたマップを備えている。ダンピング基本成分演算部161は、このマップを参照することにより第1転舵対応角速度ωp1に応じた絶対値を有するダンピング基本成分Tdmpbを演算する。なお、ダンピング基本成分演算部161は、ダンピング基本成分Tdmpbの符号を、第1転舵対応角速度ωp1の符号と同一にする。このマップでは、第1転舵対応角速度ωp1がゼロである場合に、ダンピング基本成分Tdmpbがゼロとなるように設定されている。また、このマップでは、第1転舵対応角速度ωp1の絶対値の増大に基づいて、ダンピング基本成分Tdmpbが大きくなるように設定されている。このように演算されたダンピング基本成分Tdmpbは、乗算器163に出力される。
【0125】
ダンピングゲイン演算部162には、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び第1状態信号S1が入力される。ダンピングゲイン演算部162は、上記比例ゲイン演算部131と同様に、ダンピングゲインKdmpを演算する。すなわち、ダンピングゲイン演算部162は、ダンピング基礎ゲインKdmpbに通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとを乗算することによりダンピングゲインKdmpを演算する。なお、ダンピング基礎ゲインKdmpbに乗算する通常時車速感応ゲインKvn及び減速時車速感応ゲインKvrのいずれか一方と、駆動方式感応ゲインKmoと、横加速度感応ゲインKγと、対象温度感応ゲインKtempとは、比例基礎ゲインKpbに乗算する各ゲインと同じ値であっても、異なる値であってもよい。このように演算されたダンピングゲインKdmpは、乗算器163に出力される。
【0126】
ダンピングトルク演算部113は、乗算器163において、ダンピング基本成分TdmpbにダンピングゲインKdmpを乗算することにより、ダンピングトルクTdmpを演算する。このようにダンピングトルク演算部113は、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因に応じてダンピングゲインKdmpを変更しつつ、ダンピングトルクTdmpを演算する。
【0127】
以上のように、優先目標転舵トルク演算部94は、制御ゲインの変更を通じて、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因に応じた角度F/BトルクTfbp、角度F/FトルクTffp及びダンピングトルクTdmpを演算し、これらに基づいて優先目標転舵トルクTty*を演算する。これにより、角度制御の最適化が図られる。
【0128】
冗長目標転舵トルク演算部104は、優先目標転舵トルク演算部94と同様に、冗長目標転舵トルクTtj*を演算する。これにより、角度制御の最適化が図られる。
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0129】
(1)優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104は、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び転舵側モータ32の駆動方式に基づいて、角度制御に用いる制御ゲインを変更する。そのため、操舵に応じた車両の挙動に影響を及ぼす要因に応じて角度制御を最適化し、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることができる。
【0130】
(2)優先目標転舵トルク演算部94は、転舵側モータ32の駆動方式に基づいて、制御ゲインを変更するため、駆動方式の変更によって角度制御の実行による第1転舵対応角θp1の第1目標転舵対応角θp1*への調整度合いが変化しても、角度制御を最適化し、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることができる。同様に、冗長目標転舵トルク演算部104は、転舵側モータ32の駆動方式に基づいて、制御ゲインを変更するため、角度制御を最適化し、操舵に応じた車両の挙動の最適化を図ることができる。
【0131】
(3)優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104は、独立方式、協調方式、残存方式の順で制御ゲインを大きくするため、転舵側モータ32の駆動方式に応じて最適な角度制御を実行できる。
【0132】
(4)優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104は、車速Vbの増大に基づいて制御ゲインを大きくするため、車速Vbに応じて最適な角度制御を実行できる。
【0133】
(5)優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104は、車両が減速状態である場合に、車両が非減速状態である場合に比べ、制御ゲインを小さくするため、オーバステア傾向となることを抑制して、操舵感の向上を図ることができる。
【0134】
(6)優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104は、横加速度γの絶対値の増大に基づいて制御ゲインを大きくするため、横加速度γに応じて最適な角度制御を実行できる。
【0135】
(7)優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104は、対象温度Tempの低下に基づいて、制御ゲインを大きくするため、対象温度Tempに応じて最適な角度制御を実行できる。
【0136】
(8)優先目標転舵トルク演算部94は、角度制御として、第1転舵対応角θp1を第1目標転舵対応角θp1*に追従させる角度F/B制御と、第1目標転舵対応角θp1*に基づく角度F/F制御と、第1転舵対応角θp1の変化量である第1転舵対応角速度ωp1に基づくダンピング制御とを実行する。そして、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び駆動方式に基づいて変更する制御ゲインには、比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKd、角度F/FゲインKffp及びダンピングゲインKdmpが含まれる。そのため、第1転舵対応角θp1の第1目標転舵対応角θp1*への調整を好適に行うことができる。同様に、冗長目標転舵トルク演算部104は、角度F/B制御と、角度F/F制御と、ダンピング制御とを実行するため、第2転舵対応角θp2の第2目標転舵対応角θp2*への調整を好適に行うことができる。
【0137】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、転舵側モータ32が第1コイル群55及び第2コイル群56を有する構成としたが、これに限らず、例えば転舵側アクチュエータ31が複数の転舵側モータを有する構成としてもよい。このように構成することは、操舵装置にモータトルクを付与するモータが、給電経路が分けられた複数のコイル群を有することと同義である。
【0138】
・上記実施形態において、転舵側モータ32が3つ以上の給電経路に分けられた複数のコイル群を有し、操舵制御装置1が転舵側マイコン及び転舵側駆動回路の組をコイル群と同数だけ有する構成としてもよい。また、転舵側モータ32が1つのコイル群のみを有する構成とし、操舵制御装置1が転舵側マイコン及び転舵側駆動回路の組を1つだけ有する構成としてもよい。つまり、転舵ユニット6にモータトルクを付与するための構成を冗長化しなくてもよい。
【0139】
・上記実施形態において、操舵側モータ13が2つ以上の給電経路に分けられた複数のコイル群を有し、操舵制御装置1が操舵側マイコン及び操舵側駆動回路の組をコイル群と同数だけ有する構成としてもよい。
【0140】
・上記実施形態において、角度軸力演算部85が第1転舵対応角θp1に代えて第2転舵対応角θp2を用いて角度軸力Fibを演算してもよい。
・上記実施形態において、転舵側モータ32の駆動方式として、協調方式、独立方式、残存方式以外の方式を採用してもよい。一例として、転舵側モータ32の温度が閾値以上となった場合に、転舵側モータ32の過熱を抑制するために、q軸電流指令値Iqt1*及びq軸電流指令値Iqt2*の絶対値を制限する駆動方式を採用してもよい。
【0141】
・上記実施形態では、温度センサ46により検出される転舵側モータ32の温度を対象温度Tempとしたが、これに限らず、例えばq軸電流値Iqtに基づいて推定される転舵側モータ32の推定温度を対象温度としてもよい。また、転舵側モータ32の温度に限らず、第1転舵側マイコン64の温度、第2転舵側マイコン67の温度、第1転舵側駆動回路65の温度、第2転舵側駆動回路68の温度、操舵装置2の温度、操舵装置2の周辺温度等の他の温度を対象温度としてもよい。
【0142】
・上記実施形態において、第1状態管理部93及び第2状態管理部103が行う異常検出の方法は、適宜変更可能である。
・上記実施形態では、車両が減速状態である場合に、通常時車速感応ゲインKvnよりも小さな値となる減速時車速感応ゲインKvrを出力することで、制御ゲインを小さくした。しかし、これに限らず、例えば車両が減速状態であるか否かに応じて異なる減速感応ゲインを乗算器147に出力することで、制御ゲインを小さくしてもよく、その演算態様は適宜変更可能である。
【0143】
・上記実施形態では、ブレーキ操作フラグFbrに基づいて車両が減速状態であるか否かを判定したが、これに限らず、例えば前後加速度を検出し、前後加速度が予め設定された閾値未満となる場合に、車両が減速状態であると判定してもよい。
【0144】
・上記実施形態において、入力トルク基礎成分演算部81が、例えば操舵トルクTh及び車速Vbに基づいて入力トルク基礎成分Tbを演算するようにしてもよい。この場合、例えば入力トルク基礎成分演算部81は、車速Vbが小さくなるほど、より大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分Tbを演算する。
【0145】
・上記実施形態において、角度制御の実行態様は適宜変更可能である。例えば、角度F/F制御及びダンピング制御の少なくとも一方を実行しなくてもよい。
・上記実施形態では、角度F/Bトルク演算部111が角度F/B制御としてPID制御を実行したが、これに限らず、例えばPI制御を実行してもよく、角度F/B制御の実行態様は適宜変更可能である。
【0146】
・上記実施形態において、角度F/Fトルク演算部112が、SAT成分Tsat及びプラント成分Tpltのいずれか一方のみに基づいて角度F/FトルクTffpを演算してもよい。
【0147】
・上記実施形態では、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び転舵側モータ32の駆動方式に基づいて比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKd、角度F/FゲインKffp及びダンピングゲインKdmpを変更した。しかし、これに限らず、これら制御ゲインのうちの少なくとも1つをブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び駆動方式に基づいて変更すれば、他の制御ゲインを変更しなくてもよい。
【0148】
・上記実施形態では、ブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び転舵側モータ32の駆動方式に基づいて比例ゲインKpを変更した。しかし、これらブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び駆動方式の全てに基づかなくてもよく、これらブレーキ操作フラグFbr、車速Vb、横加速度γ、対象温度Temp及び駆動方式の少なくとも1つに基づいて比例ゲインKpを変更してもよい。このことは、積分ゲインKi、微分ゲインKd、角度F/FゲインKffp及びダンピングゲインKdmpについても同様である。
【0149】
・上記実施形態において、目標反力トルク演算部72が操舵角θhを目標操舵角に調整する角度制御の実行に基づいて目標反力トルクTs*を演算してもよく、この角度制御に用いる制御ゲインを、優先目標転舵トルク演算部94及び冗長目標転舵トルク演算部104が実行する角度制御に用いる制御ゲインと同様に変更してもよい。
【0150】
・上記実施形態において、操舵側モータ13として埋込磁石同期モータ(IPMSM)を用いてもよい。また、転舵側モータ32として埋込磁石同期モータを用いてもよい。
・上記実施形態では、制御対象となる操舵装置2を、操舵ユニット4と転舵ユニット6との間の動力伝達が分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵ユニット4と転舵ユニット6との間の動力伝達を分離可能な構造の操舵装置を制御対象としてもよい。
【0151】
・上記実施形態では、制御対象となる操舵装置2をステアバイワイヤ式の操舵装置としたが、これに限らず、例えばモータトルクがアシスト力として付与される電動パワーステアリングとしてもよい。
【0152】
・上記実施形態において、操舵制御装置1としては、CPU及びメモリを備えてソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、転舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路(processing circuitry)によって実行されればよい。
【0153】
次に、上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記操舵装置は、操舵ユニットと、前記操舵ユニットに入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵ユニットとの間の動力伝達が分離した構造を有するものであり、前記モータは、前記転舵輪を転舵させる力である転舵力として前記モータトルクを付与する転舵側モータである操舵制御装置。
【符号の説明】
【0154】
1…操舵制御装置、2…操舵装置、3…ステアリングホイール、4…操舵ユニット、5…転舵輪、6…転舵ユニット、21…ピニオン軸、32…転舵側モータ、42…車速センサ、46…温度センサ、47…横加速度センサ、55…第1コイル群、56…第2コイル群、64…第1転舵側マイコン、65…第1転舵側駆動回路、67…第2転舵側マイコン、68…第2転舵側駆動回路、94…優先目標転舵トルク演算部、96…第1転舵側モータ制御信号演算部、104…冗長目標転舵トルク演算部、106…第2転舵側モータ制御信号演算部、131…比例ゲイン演算部、133…積分ゲイン演算部、136…微分ゲイン演算部、153…角度F/Fゲイン演算部、162…ダンピングゲイン演算部、Fbr…ブレーキ操作フラグ、Kd…微分ゲイン、Ki…積分ゲイン、Kp…比例ゲイン、Kdmp…ダンピングゲイン、Kffp…角度F/Fゲイン、Mt1…第1転舵側モータ制御信号、Mt2…第2転舵側モータ制御信号、S1…第1状態信号、S2…第2状態信号、Temp…対象温度、Tdmp…ダンピングトルク、Tfbp…角度F/Bトルク、Tffp…角度F/Fトルク、Ttj*…冗長目標転舵トルク、Tty*…優先目標転舵トルク、Vb…車速、γ…横加速度、θp1…第1転舵対応角、θp2…第2転舵対応角、θp1*…第1目標転舵対応角、θp2*…第2目標転舵対応角。
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