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特許7376409リチウムイオン電池、およびリチウムイオン電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池、およびリチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20231031BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20231031BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20231031BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231031BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231031BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/80 C
H01M10/0585
H01M50/414
H01M4/139
H01M10/052
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020058400
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021157989
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 美優
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-216510(JP,A)
【文献】特開2012-186134(JP,A)
【文献】特開2017-091673(JP,A)
【文献】特開2011-060539(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 10/058
H01M 50/409
H01M 4/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極および負極電極からなる電極間にセパレータを備えるリチウムイオン電池において、
前記電極の少なくとも一方に使用される集電体は、少なくとも活物質を充填した三次元多孔構造の集電体用基材をカットした部材であり、
前記三次元多孔構造の前記集電体のうち、前記セパレータに対向する対向部位の少なくとも端部は、前記セパレータから離間するセパレータ離間部に形成され
前記セパレータ離間部は、前記集電体のカット面の箇所を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記セパレータ離間部の空孔率は、前記集電体における前記セパレータ離間部の他の部位よりも低いことを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記セパレータ離間部の空孔率は50%以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記正極電極、前記負極電極および前記セパレータからなる電極群を積層して配置すると共に、隣接する電極群の間に他のセパレータを備え、
前記セパレータ離間部は、前記他のセパレータからも離間することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記セパレータは、空孔が三次元規則配列構造を有する多孔質樹脂膜であるポリイミドセパレータであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
正極電極および負極電極からなる電極間にセパレータを備えるリチウムイオン電池の製造方法において、
三次元多孔構造の集電体用基材に、活物質を含むスラリーを充填し、乾燥して前記セパレータに対向する対向部位を含む領域を活物質層で覆う充填・乾燥ステップと、
充填・乾燥ステップの前又は後に、前記集電体用基材を、前記電極のいずれかの集電体のサイズにサイジングするサイジングステップとを有し、
前記サイジングステップでカットされて端部となる箇所を、前記セパレータから離間するセパレータ離間部に加工する加工ステップを有することを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項7】
前記加工ステップでは、前記セパレータ離間部となる箇所をプレスすることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項8】
前記充填・乾燥ステップの前に、前記加工ステップを行って前記セパレータ離間部となる箇所の空孔率を50%以下にすることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、およびリチウムイオン電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池には、正極に三次元多孔構造の集電体を用いることによって、金属箔を用いた場合と比べて多量の活物質を充填可能にした構成が提案されている。例えば、特許文献1には、三次元多孔構造のアルミニウム集電体の製造方法、ならびに、そのアルミニウム集電体を用いた正極の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、空孔が三次元規則配列構造を有する多孔質樹脂膜のセパレータを用いることにより、リチウムデンドライトの析出を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5893410号公報
【文献】特開2014-22150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、三次元多孔構造の集電体を用いた場合、正極電極と負極電極との間に配置されたセパレータが損傷するおそれがある。損傷原因は、セルの作製時に、スラリーを充填した集電体からなる正極を切り出し、積層若しくは巻回する際に、切り出した部分に出来たバリがセパレータに接触するためである。
【0005】
そこで、本発明は、三次元多孔構造の集電体によってセパレータが損傷する事態を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、正極電極および負極電極からなる電極間にセパレータを備えるリチウムイオン電池において、前記電極の少なくとも一方に使用される集電体は、少なくとも活物質を充填した三次元多孔構造の集電体用基材をカットした部材であり、前記三次元多孔構造の前記集電体のうち、前記セパレータに対向する対向部位の少なくとも端部は、前記セパレータから離間するセパレータ離間部に形成され、前記セパレータ離間部は、前記集電体のカット面の箇所を含むことを特徴とする。
池の製造方法。
【0007】
上記構成において、前記セパレータ離間部の空孔率は、前記集電体における前記セパレータ離間部の他の部位よりも低くしてもよい。また、上記構成において、前記セパレータ離間部の空孔率は50%以下にしてもよい。
【0008】
また、上記構成において、前記正極電極、前記負極電極および前記セパレータからなる電極群を積層して配置すると共に、隣接する電極群の間に他のセパレータを備え、前記セパレータ離間部は、前記他のセパレータからも離間してもよい。また、上記構成において、前記セパレータは、空孔が三次元規則配列構造を有する多孔質樹脂膜であるポリイミドセパレータでもよい。
【0009】
また、正極電極および負極電極からなる電極間にセパレータを備えるリチウムイオン電池の製造方法において、三次元多孔構造の集電体用基材に、活物質を含むスラリーを充填し、乾燥して前記セパレータに対向する対向部位を含む領域を活物質層で覆う充填・乾燥ステップと、充填・乾燥ステップの前又は後に、前記集電体用基材を、前記電極のいずれかの集電体のサイズにサイジングするサイジングステップとを有し、前記サイジングステップでカットされて端部となる箇所を、前記セパレータから離間するセパレータ離間部に加工する加工ステップを有することを特徴とする。
【0010】
上記方法において、前記加工ステップでは、前記セパレータ離間部となる箇所をプレスしてもよい。また、上記方法において、前記充填・乾燥ステップの前に、前記加工ステップを行って前記セパレータ離間部となる箇所の空孔率を50%以下にしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、三次元多孔構造の集電体によってセパレータが損傷する事態を抑制し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係るリチウムイオン電池の電極群を模式的に示した図である。
図2】加工ステップを行う前後の正極板の断面構造を示した図である。
図3】プレス後の三次元多孔集電体をセパレータに対向する側から見た模式図である。
図4】リチウムイオン電池の組み立ての説明に供する図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るリチウムイオン電池の電極群を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態に係るリチウムイオン電池の電極群(発電素子とも称する)を模式的に示した図である。
このリチウムイオン電池10は、正極電極として機能する正極板11と、負極電極として機能する負極板13と、正極板11と負極板13との間に介挿されるセパレータ15とを備えている。正極板11は、三次元多孔構造を有する集電体11A(以下、「三次元多孔集電体11A」と表記する)に、正極活物質層11Bを構成する正極活物質および導電材を溶媒に分散してなるスラリー(以下、「正極スラリー」)を充填することによって、高充填量電極に形成されている。なお、スラリーに結着材又は各種の添加剤を含めてもよい。
【0014】
負極板13は、銅等の金属材を基材とする金属箔からなる集電体13Aの表面に、負極活物質層13Bを構成する負極活物質および導電材を溶媒に分散してなるスラリー(以下、「負極スラリー」)を充填等することによって形成されている。なお、負極板13には従来のリチウムイオン電池の負極板を広く適用可能である。
【0015】
正極板11の製造工程を時系列順に説明すると、三次元多孔集電体11Aの基材となる集電体用基材に、正極活物質層11Bを構成する正極スラリーを充填し、乾燥により溶媒を除去する充填・乾燥ステップと、集電体用基材を、三次元多孔集電体11Aのサイズに切り出す(切断、カット又はサイジングとも称する)サイジングステップと、切り出した三次元多孔集電体11Aの所定箇所をプレス加工する加工ステップとを有している。
【0016】
図2の符号Aは、加工ステップを行う前の正極板11の断面構造を模式的に示し、符号Bは、加工ステップ後の正極板11の断面構造を模式的に示している。図2中の符号M1は、セパレータ15に対向する対向部位を示し、符号M2はサイジングステップでカットされたカット面を示している。
図2の符号Aに示すように、三次元多孔集電体11Aの一部はカット面M2から外部に露出するおそれがある。なお、カット面M2から露出する可能性のある三次元多孔集電体11Aの箇所を、符号Zで示している。
【0017】
図2の符号Bに示すように、加工ステップでは、三次元多孔集電体11Aの両端部T1,T2をプレスすることによって、プレス後の両端部T1,T2を、セパレータ15に対向する他の対向部位M1A(対向部位M1から両端部T1,T2を除いた領域)よりもセパレータ15から離間する形状に形成する。これら端部T1,T2を「セパレータ離間部T1,T2」と適宜に表記する。
【0018】
セパレータ離間部T1,T2を設けることにより、三次元多孔集電体11Aの露出部分がセパレータ15に接触することを抑制でき、セパレータ15が損傷することを抑制できる。セパレータ15の損傷を抑制することで、正極板11と負極板13とが短絡する事態を抑制できる。また、プレスによってセパレータ離間部T1,T2を形成するので、三次元多孔集電体11Aの両端部T1,T2をセパレータ15から離間する形状に容易かつ短時間で成形でき、大量生産等に有利である。
【0019】
正極板11の構造および製法等を詳述する。
(正極板の三次元多孔構造)
三次元多孔集電体11Aには、例えば、アルミニウム合金を基材とする三次元多孔構造のアルミニウム集電体が用いられる。この三次元多孔集電体11Aは、所定の体積割合で混合したアルミニウム粉末(基材金属粉末に相当)と支持粉末の混合粉末をアルミニウム板(基材金属板に相当)と複合化して加圧成形した後に、その成形体を不活性雰囲気中で熱処理してアルミニウム粉末又はアルミニウム板から液相を生じさせ、アルミニウム粉末同士およびアルミニウム粉末とアルミニウム板とを接合し、最終的に支持粉末を除去することで得られる。これにより、三次元多孔集電体11Aは、支持粉末が除去された多数の空隙と、その空隙の周囲を形成する接合したアルミニウム粉末の結合金属粉末壁とからなる三次元多孔構造となる。また、結合金属粉末壁には多くの微細な孔が形成される。これにより、空隙同士がこれら微細孔によって連結したオープンセル型の構造となる。
【0020】
三次元多孔集電体11Aの空孔率は、80%以上、95%以下に設定され、好ましくは85%以上に設定される。この範囲に設定することにより、三次元多孔集電体11Aの孔内に多くの正極スラリーを充填でき、電池の高出力化、および高容量化に有利となる。
【0021】
支持粉末は、アルミニウム粉末の融点よりも高い融点を有し、最終的に除去できる材料が適用される。また、混合粉末をアルミニウム板と複合化する場合には、アルミニウム粉末とアルミニウム板の低い方の融点よりも高い融点を有する支持粉末が用いられる。このような支持粉末としては水溶性塩が好ましく、入手の容易性から塩化ナトリウムや塩化カリウムが好適に用いられる。支持粉末が除去されることで形成された空間が三次元多孔集電体11Aの孔になることから、支持粉末の粒径が孔径に反映される。支持粉末の粒径は、100~1000μmの範囲内が好ましい。支持粉末の粒径は、ふるいの目開きで規定する。従って、分級によって支持粉末の粒径を揃えることで、孔径の揃った三次元多孔集電体11Aが得られる。
【0022】
アルミニウム板には、金網、エキスパンドメタル、パンチングメタル等の網状体が用いられる。アルミニウム板が支持体となり三次元多孔集電体11Aの強度が向上し、更に導電性が向上する。三次元多孔集電体11Aの強度が高いほど、電極作製工程において三次元多孔構造のアルミニウムが欠落することはなく、十分な電池機能を発揮することができる。アルミニウム板の材質は、純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金としては、アルミニウム-チタン合金、アルミニウム-マンガン合金、アルミニウム-鉄合金、アルミニウム-ニッケル合金等が好適に用いられる。
【0023】
混合粉末とアルミニウム板との複合化とは、例えばアルミニウム板に金網を用いた場合には、網目の中に混合粉末を充填しつつ網全体を混合粉末で覆うような一体化状態をいう。アルミニウム板の両側に結合金属粉末壁を設けた三次元多孔構造のアルミニウムに正極活物質を充填する場合、アルミニウム板が多孔の網状体であればアルミニウム板で分けられる領域の片側からの充填であっても、もう一方の領域にまで充填することができる。従って、アルミニウム板は網状体であることが好ましい。ここで、多孔とは、網状体の網目部分、金属繊維の繊維と繊維との隙間部分を言う。
【0024】
(充填・乾燥ステップ)
三次元多孔集電体11Aには、正極活物質層11Bを構成する正極活物質および導電材等を溶媒に分散してなる正極スラリーが圧入法によって充填される。圧入法では、三次元多孔集電体11Aを隔膜として一方側に正極スラリーを配置し、他方側は正極スラリーの透過側とする。そして、他方側の透過側を減圧にして正極スラリーを透過させることによって、三次元多孔集電体11Aの孔に正極スラリーを充填する。正極スラリーにおいて、結着性が足りない場合は、適宜に結着材が用いられる。
【0025】
正極活物質は、非水電解質二次電池に使用できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等のリチウム金属酸化物を挙げることができる。導電材は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用できる。例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等を挙げることができる。
【0026】
結着材は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0027】
正極活物質および導電材等の配合割合は、所望の作用効果が得られるように適宜選択することが好ましい。また、これら各成分の正極スラリー中の濃度も限定されるものではない。正極スラリーの溶媒も特に限定されるものではないが、例えば、N‐メチル‐2‐ピロリドン、水等が好適に用いられる。結着材としてポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、N‐メチル‐2‐ピロリドンを溶媒に用いるのが好ましく、結着材としてポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等を用いる場合は、水を溶媒に用いることが好ましい。
【0028】
正極スラリーは、浸漬法等の公知の他の方法によって三次元多孔集電体11Aに充填されてもよい。浸漬法とは、正極活物質、導電材および結着材を溶媒に分散した正極スラリー中に三次元多孔集電体11Aを浸漬し、正極スラリー中の各成分を三次元多孔集電体11Aの孔に拡散させる方法である。三次元多孔集電体11Aの孔に正極スラリーを充填させた正極板11は、50~200℃内の温度で溶媒を飛散させて乾燥される。これにより、三次元多孔集電体11Aに正極活物質層11Bが形成される。
【0029】
(加工ステップ)
正極活物質層11Bが形成された三次元多孔集電体11Aを台形状に穴が開いた金属板で挟み、平板プレスによって三次元多孔集電体11Aの両端部T1,T2を含む周囲領域(図3の符号11Pで示す矩形枠の領域)をプレスする。
ここで、図3はプレス後の三次元多孔集電体11Aをセパレータ15に対向する側から見た模式図を示している。図3に示すように、三次元多孔集電体11Aの全周囲に渡って連続する領域11P(図1等に示すセパレータ離間部T1,T2を含む)がプレスされる。なお、平板プレスに限定されず、例えば、ロールプレスも適用可能であるが、ロールプレスの場合、正極板11が歪曲しないように配慮する必要がある。使用する金属板やロールは傷のつきにくい素材を用いることが好ましい。
【0030】
このプレス加工によって、三次元多孔集電体11Aによるセパレータ15の損傷が抑制され、かつ、活物質の電流密度が向上する。発明者等の検討によれば、正極板11の電極密度は、2.75g/cc、或いは、2.75g/cc近傍にすることが好ましかった。なお、未プレスの場合、正極板11の電極密度は2.0g/ccであった。但し、所望の特性が得られる範囲で各値は適宜に変更してもよい。
【0031】
次に、負極板13およびセパレータ15の構成例を説明する。
(負極板)
負極板13の集電体13Aには、銅箔等の金属箔が用いられる。集電体13Aには、負極活物質層13Bが設けられ、所定サイズにサイジングされる。上記したように、負極板13には従来のリチウムイオン電池の負極板を広く適用可能である。
【0032】
(セパレータ)
セパレータ15には、空孔が三次元規則配列構造(以下、「3DOM構造」と称する)を有する多孔質樹脂膜であるポリイミドセパレータが用いられる。3DOM構造は、球状の空孔が規則的に隣り合う形で連続した孔(連通孔)を形成している多孔体である。この3DOM構造による均一化された空間により、リチウムイオンの拡散が制御され、高いサイクル特性を有するとともにデンドライトによる正負極間の短絡のないリチウム系二次電池が得られる。また、リチウムイオンの電流分布を均一化する効果も得られる。3DOM構造は、六方最密充填構造の規則配列した空孔を持つ多孔体であり、非常に高い理論空孔率を有している。空孔率の大きい多孔質膜をセパレータ15に用いることにより、電解液を多く充填でき、3DOM構造ではない従来のセパレータと比較して、高いイオン導電性が得られる。しかも、セパレータ15がポリイミド製のため、ポリプロピレン製の一般的なセパレータに比べ耐熱性が高いセパレータが得られる。
【0033】
(電池の組立て)
図4に示すように、セパレータ15/正極板11/セパレータ15/負極板13/セパレータ15/正極板11/セパレータ15・・・の順であって、正極板11の充填面が負極板13を向くように積層し、かつ、正極板11および負極板13に設けた正極タブおよび負極タブが夫々対向するように電極群(図4中、符号10Sで示す)を積層して配置した。次いで、各電極群10Sの正極板11と負極板13に夫々取り付けられたタブに正極端子および負極端子をそれぞれ溶着し、電槽となるラミネートフィルムの絞り加工により形成した凹部に収納した。該凹部が形成されたアルミラミネートフィルムと同一寸法の平坦なアルミラミネートフィルムを重ね合わせ、各端子が通過する2辺と他の1辺とをヒートシールした。このとき、端子部には、各端子とアルミ基材との短絡を防ぐことを目的として、合成樹脂からなるシートフィルムを介してシールしてドライセルを作製した。
【0034】
本構成では、図2等に示すように、セパレータ離間部T1,T2が、セパレータ15に対向する対向部位M1側、およびその反対側の双方で、正極板11の他の部位よりも内側に凹んでいる。このため、図4に示す配置構造の場合に、三次元多孔集電体11Aの露出部分が、隣接する電極群10Sとの間に配置されるセパレータ15に接触することも抑制でき、隣接する電極群10S間の短絡も抑制し易くなる。
【0035】
電解液には、リチウムイオン電池に使用される公知の電解液を適用可能である。電解的には、例えば、重量混合比3:7のエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1.3mol/Lになるように溶解した電解液が用いられる。電解液は、上記ドライセルの開口する1辺から注入され、セル内を減圧した後、当該部分をヒートシールしてセルが封止される。セルが封止された後は、次の手順が実施される。
0.1CAの電流で満充電となるまで初充電を行い、所定時間保管する。その後、0.2CAの電流で、セル電圧が2.75Vになるまで放電し、活性化処理を行う。活性化処理の後、発生したガスを排出するため、注液時に封止した部分を開封し、セル内を減圧した後、最終封口のためにヒートシールしてセルを封止する。このようにしてリチウムイオン電池10が作製される。後段に、第1実施形態の実施例および試験結果を記載する。
【0036】
<第2実施形態>
図5は本発明の第2実施形態に係るリチウムイオン電池の電極群を模式的に示した図である。
第2実施形態では、正極スラリーを充填する充填・乾燥ステップの前に、セパレータ離間部T1,T2を形成する加工ステップを行う点が、第1実施形態と異なる。なお、集電体用基材を、三次元多孔集電体11Aのサイズに切り出すサイジングステップは、本実施形態ではプレスステップの前を想定しているが、サイジングステップのタイミングは任意に変更してもよい。例えば、プレスステップの後、又は、充填・乾燥ステップの後にサイジングステップを行うようにしてもよい。
【0037】
(加工ステップ)
加工ステップは、三次元多孔集電体11Aを、充填部位置(図3に示す周囲領域11Pの内側に相当する領域)に穴が開いた金属板で挟み、平板プレスによってプレスする工程である。プレス後の周囲領域11P(セパレータ離間部T1,T2に相当)は、表面が均一につぶれていれば良く、平板プレスに限定されず、例えば、ロールプレスも適用可能である。また、充填部位置に穴が開いた金属板は、板ではなくロールでも可能である。使用する金属板やロールは傷のつきにくい素材を用いることが好ましい。セパレータ離間部T1,T2の空孔率は、他の部位(図2に示す対向部位M1Aを含む)よりも低い値となる。本構成では、空孔率を50%以下にすることで、充填時にスラリーが染み込んで活物質量の管理が困難になる事態を回避している。
【0038】
これにより、セパレータ15に三次元多孔集電体11Aの露出部分が接触することを回避し、セパレータ15の損傷により正極板11と負極板13とが短絡する事態を抑制できる、等の第1実施形態の各種の効果に加え、活物質量の管理がし易くなるという効果も得られる。なお、活物質量の管理等に問題が生じない場合、プレス部分の空孔率が50%を超えてもよい。
【0039】
次いで、本発明の実施例、比較例および試験結果について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
正極板11の三次元多孔集電体11Aは、アルミニウム合金を基材とし、アルミニウム粉末および支持粉末の混合比を調整し、空孔率が85%となるよう作製した。正極活物質には、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMn)を使用した。組成は、正極活物質:導電材:結着材=90:5:5であり、混練機を用いてこれらの材料にN-メチル-2-ピロリドンを分散することにより、正極スラリーを作製した。そして、圧入法を用いて正極スラリーを三次元多孔集電体11Aに充填した。
【0040】
次に、三次元多孔集電体11Aを乾燥装置内に配置し、80℃で2時間乾燥させた。乾燥後の電極充填量は、1000g/平方mであった。続いて、三次元多孔集電体11Aを、台形状に穴が開いた金属板で挟み、平板プレス機により圧力0.50トン/平方cmで5秒間保持したプレス処理をし、少なくとも一辺に未充填部分が残るように所定サイズにサイジングし、サイジング後の電極の未充填部分に正極タブを溶着することにより、正極板11を得た。
【0041】
負極板13の集電体13Aに銅箔な用い、厚み0.05mmの金属リチウムを貼り付けた後、負極板13の一辺に未貼り付け部分が残るように所定サイズにサイジングし、未貼り付け部分に負極タブを溶着することにより、負極板13を得た。これらの正極板11および負極板13からなる複数枚の極板と、多孔質樹脂膜からなるセパレータ15とを用いて、実施例1のリチウムイオン電池10を作製した。
【0042】
(実施例2)
実施例2が実施例1と異なる点は、正極板11の三次元多孔集電体11Aの周囲領域11Pに対し、平板プレス機を用い、圧力0.50トン/平方cmを5秒間保持し、プレス前厚みの1mmから0.1mmにし、その後、正極スラリーを充填した点である。これにより、実施例2のセパレータ離間部T1,T2は、正極スラリーが未充填の未充填部となっている。その他の構成は、実施例1と同様にし、実施例2のリチウムイオン電池10を作製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1の多孔質樹脂膜からなるセパレータ15の代わりに、微多孔性フィルムからなる公知のセパレータを使用した。その他の条件は全て実施例1と同様にし、実施例3のリチウムイオン電池10を作製した。
【0044】
(実施例4)
実施例1の負極板13(活物質がLi)の代わりに、活物質にグラファイトを用いた負極板13を使用した。その他の条件は全て実施例1と同様とし、実施例4のリチウムイオン電池10を作製した。
【0045】
(実施例5)
実施例1の負極板13(活物質がLi)の代わりに、活物質にチタン酸リチウム、集電体に、三次元多孔集電体11Aと同様の三次元多孔集電体を用いた負極板13を使用した。その他の条件は全て実施例1と同様とし、実施例5のリチウムイオン電池を作製した。
【0046】
(実施例6)
実施例5の正極板11の代わりに、集電体にアルミニウム合金製の箔(Al箔)を用いた正極板11を使用した。その他の条件は全て実施例5と同様とし、実施例6のリチウムイオン電池10を作製した。
【0047】
(比較例1)
実施例2の三次元多孔集電体11Aの代わりに、セパレータ離間部T1,T2を形成していないアルミニウム合金基材からなる三次元多孔集電体を、正極板11として使用した。その他の条件は全て実施例2と同様とし、比較例1のリチウムイオン電池を作製した。
【0048】
(比較例2)
比較例1の多孔質樹脂膜からなるセパレータ15の代わりに、微多孔性フィルムからなる公知のセパレータを使用した。その他の条件は全て比較例1と同様とし、比較例2のリチウムイオン電池を作製した。
【0049】
(比較例3)
比較例1の負極板(活物質がLi)の代わりに、活物質にグラファイトを用いた負極板を使用した。その他の条件は全て比較例1と同様とし、比較例3のリチウムイオン電池を作製した。
【0050】
(比較例4)
比較例1の負極板(活物質がLi)の代わりに、活物質にチタン酸リチウム、集電体に三次元多孔集電体11Aを用いた負極板を使用した。その他の条件は全て比較例1と同様とし、比較例4のリチウムイオン電池を作製した。
【0051】
(比較例5)
比較例4の正極板11の代わりに、集電体にAl箔を用いた正極板を使用した。その他の条件は全て比較例4と同様とし、比較例5のリチウムイオン電池を作製した。
【0052】
(試験)
各実施例および比較例で作製した電池のサイクル試験を実施した。サイクル試験は、環境温度25℃、充電および放電の電流値は0.5C、電圧設定2.75-4.2Vで行い、各実施例と比較例の電池各10個における20サイクル後の動作率が60%以上の場合を短絡無、60%未満の場合を短絡有とした。表1にサイクル試験時における短絡の有無を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、実施例1から6において短絡は見られなかったが、比較例1から5においては短絡が見られた。比較例1から5では、正極板のカット面M2の部分にできた三次元多孔集電体11Aのバリがセパレータ15に接触し、セパレータ15の損傷により電池の短絡につながったものと推測される。
従って、実施例1から6の電池は、比較例1から5の電池と比べ、セパレータ15の損傷を抑制し、短絡防止に有利であることが判る。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のリチウムイオン電池10は、正極板11に三次元多孔集電体11Aを用いると共に、図2の符号Bに示したように、三次元多孔集電体11Aのうち、セパレータ15に対向する対向部位M1の少なくとも端部T1,T2を、この端部T1,T2を除く他の対向部位M1Aよりもセパレータ15から離間するセパレータ離間部に形成している。この構成により、三次元多孔集電体11Aによって極板11,13間のセパレータ15が損傷する事態を抑制でき、短絡を抑制し易くなる。
【0056】
また、セパレータ離間部T1,T2は、三次元多孔集電体11Aのカット面M2(図2参照)の箇所を含むので、カット面M2にできたバリがセパレータ15に接触する事態を効果的に防止できる。しかも、セパレータ離間部T1,T2は、プレスによって形成されるので、セパレータ離間部T1,T2を容易かつ短時間で形成できる。
【0057】
さらに、活物質層を形成するスラリーを三次元多孔集電体11Aに充填する前(充填・乾燥ステップの前に相当)に、プレスによってセパレータ離間部T1,T2に対応する領域を他の部位よりも低い空孔率にするので、セパレータ離間部T1,T2にスラリーを染み込み難くすることができる。この場合、セパレータ離間部T1,T2の空孔率を50%以下にすることによって、スラリーが染み込んで活物質の管理がし難くなる事態を効果的に避けることができる。
【0058】
図4に示したように、リチウムイオン電池10を、正極板11、負極板13およびセパレータ15からなる電極群10Sを積層して配置すると共に、隣接する電極群10Sの間に他のセパレータ15を配置した構成とした場合に、セパレータ離間部T1,T2が他のセパレータ15から離間するので、電極群10Sの間に位置するセパレータ15が三次元多孔集電体11Aによって損傷する事態も抑制できる。
【0059】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形、および変更が可能である。
例えば、三次元多孔集電体11Aの対向部位M1の両端部T1,T2をセパレータ15から離間する形状に形成する場合を説明したが、これに限定されない。三次元多孔集電体11Aをセパレータ15よりも大型の構成した場合、両端部T1,T2のうち、セパレータ15に対向する端部だけを、セパレータ15から離間する形状に形成してもよい。また、プレスによって、両端部T1,T2の少なくともいずれかをセパレータ15から離間する形状に形成する態様に限定されず、切断等の公知の他の加工方法を利用して、セパレータ15から離間する形状にしてもよい。さらに、カット面M2以外の箇所から三次元多孔集電体11Aの一部が露出し、セパレータ15を損傷する可能性がある場合、その箇所をセパレータ15から離間する形状にしてもよい。
【0060】
つまり、三次元多孔集電体11Aによってセパレータ15が損傷する事態を抑制可能な範囲であれば、セパレータ離間部の位置、形状、およびセパレータ離間部の形成方法を適宜に変更してもよい。
【0061】
また、上述の各実施形態では、正極板11に三次元多孔集電体を用いる場合を説明したが、負極板13に三次元多孔集電体を用いた場合に、その三次元多孔集電体のセパレータ15に対向する対向部位の少なくとも端部を、セパレータ15から離間するセパレータ離間部に形成してもよい。また、正極板11および負極板13の両方に三次元多孔集電体を用いた場合に、各三次元多孔集電体のセパレータ15に対向する対向部位の少なくとも端部を、セパレータ15から離間するセパレータ離間部に形成してもよい。つまり、本発明は、正極板11および負極板13の少なくともいずれかに三次元多孔集電体を用いたリチウムイオン電池10、および、そのリチウムイオン電池10の製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 リチウムイオン電池
11 正極板
11A 集電体(三次元多孔集電体)
11B 正極活物質層
11P プレス部分
13 負極板
13A 集電体
13B 負極活物質層
15 セパレータ
T1,T2 端部(セパレータ離間部)
M1 セパレータに対向する対向部位
M1A 他の対向部位
M2 カット面
図1
図2
図3
図4
図5