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特許7376417ガスシールドアーク溶接方法及び鋼管の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ガスシールドアーク溶接方法及び鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20231031BHJP
   B23K 37/00 20060101ALI20231031BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20231031BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20231031BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20231031BHJP
   E04G 21/18 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B23K9/00 501B
B23K37/00 301C
B23K9/095 505C
B23K9/00 330B
B23K9/173 Z
B23K9/095 501G
B23K9/12 331F
B23K9/12 C
E04G21/18 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020071284
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167012
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】八島 聖
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-328245(JP,A)
【文献】特開2018-053626(JP,A)
【文献】特開2019-155409(JP,A)
【文献】特開平09-234562(JP,A)
【文献】特開2004-330227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 37/00
B23K 9/095
B23K 9/173
B23K 9/12
E04G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管を多層盛溶接で溶接するガスシールドアーク溶接方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップと、
を備え、
単一の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
溶接開始点を任意の位置に設定し、
溶接終了点は前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定し、
次層以降の層では、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とし、
溶接終了点は前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項2】
鋼管を多層盛溶接で溶接するガスシールドアーク溶接方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップと、
を備え、
複数の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
溶接開始点を任意の位置に設定し、
一の前記溶接ロボットの溶接終了点は、隣接する他の前記溶接ロボットの前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定し、
次層以降の層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とし、
一の前記溶接ロボットの溶接終了点は、隣接する他の前記溶接ロボットの前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項3】
前記溶接開始点から10~30mmの溶接開始範囲において、溶接電流、溶接速度及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更するものであって、
前記溶接開始範囲における開始溶接電流は、本溶接の前記溶接電流に対して50~90%、
前記溶接開始範囲における開始溶接速度は、本溶接の前記溶接速度に対して110~140%、
前記溶接開始範囲におけるチップ‐母材間距離は、本溶接の前記チップ‐母材間距離に対して50~120%に設定される、ことを特徴とする請求項又はに記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項4】
前記重なり部の溶接において、溶接電流、溶接速度、アーク電圧及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更するものであって、
前記重なり部における終了溶接電流は、本溶接の前記溶接電流に対して50~90%、
前記重なり部における終了溶接速度は、本溶接の前記溶接速度に対して110~140%、
前記重なり部における終了アーク電圧は、本溶接の前記アーク電圧に対して50~90%、
前記重なり部における終了チップ‐母材間距離は、本溶接の前記チップ‐母材間距離に対して50~120%に設定される、
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項5】
鋼管を多層盛溶接で溶接するガスシールドアーク溶接方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップと、
を備え、
単一の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
溶接開始点と溶接終了点を同じ位置に設定し、
次層以降の層では、
前層の前記溶接終了点近傍を該次層の前記溶接開始点とする、又は、前層の前記溶接終了点から溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を該次層の前記溶接開始点とすることを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項6】
鋼管を多層盛溶接で溶接するガスシールドアーク溶接方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップと、
を備え、
複数の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
一の前記溶接ロボットの溶接開始点と、隣接する他の前記溶接ロボットの溶接終了点を同じ位置に設定し、
次層以降の層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とする、又は、前層の溶接終了点から溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を該次層の溶接開始点とすることを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項7】
前記重なり部を溶接する際、
溶接終了時に0.1~5秒間のクレータ処理のための期間を設ける、
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項8】
前記クレータ処理時の溶接電流であるクレータ電流は、本溶接の溶接電流に対して50~90%に設定され、
前記本溶接から前記クレータ処理までの間に、0.1~1秒間の移行期間を設ける、
ことを特徴とする請求項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項9】
ガスシールドアーク溶接を用いて接合される鋼管の製造方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップによって、
前記鋼管が溶接され
単一の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
溶接開始点を任意の位置に設定し、
溶接終了点は前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定し、
次層以降の層では、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とし、
溶接終了点は前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定することを特徴とする鋼管の製造方法。
【請求項10】
ガスシールドアーク溶接を用いて接合される鋼管の製造方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップによって、
前記鋼管が溶接され、
複数の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
溶接開始点を任意の位置に設定し、
一の前記溶接ロボットの溶接終了点は、隣接する他の前記溶接ロボットの前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定し、
次層以降の層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とし、
一の前記溶接ロボットの溶接終了点は、隣接する他の前記溶接ロボットの前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定することを特徴とする鋼管の製造方法。
【請求項11】
ガスシールドアーク溶接を用いて接合される鋼管の製造方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップによって、
前記鋼管が溶接され、
単一の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
溶接開始点と溶接終了点を同じ位置に設定し、
次層以降の層では、
前層の前記溶接終了点近傍を該次層の前記溶接開始点とする、又は、前層の前記溶接終了点から溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を該次層の前記溶接開始点とすることを特徴とする鋼管の製造方法。
【請求項12】
ガスシールドアーク溶接を用いて接合される鋼管の製造方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップによって、
前記鋼管が溶接され、
複数の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
一の前記溶接ロボットの溶接開始点と、隣接する他の前記溶接ロボットの溶接終了点を同じ位置に設定し、
次層以降の層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とする、又は、前層の溶接終了点から溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を該次層の溶接開始点とすることを特徴とする鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接方法及び鋼管の製造方法に関し、より詳細には、鋼管を多層盛溶接で溶接するガスシールドアーク溶接方法及び鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場における多角形角型鋼管や円形鋼管の継手溶接は、エレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着し、柱が垂直固定した状態で溶接が行われる。この多角形角型鋼管や円形鋼管の溶接は作業効率を向上させるため、近年、可搬型の小型溶接ロボットや自動機が適用されている。しかしながら、一般的に、1柱あたりに使用される鉄骨建方調整治具は4個以上であることが多く、この鉄骨建方調整治具は開先を遮ることになるため、連続的な溶接が困難となる。よって、可搬型の小型溶接ロボットや自動機を使用したとしても、半自動溶接に比べると作業効率が劣る場合もある。
【0003】
特許文献1には、接合部の4面に設けられた鉄骨建方調整治具で区切られた四半部のうち、対向する四半部を、溶接ロボットを用いて最初の数層分を溶接して溶接端部を研磨する。次いで、他の溶接ロボットを用いて残りの2つの四半部を、同様に最初の数層分を溶接した後、鉄骨建方調整治具を撤去し、次いで、2台の溶接ロボットを用いて、互いに半周を交互に、溶接端部を研磨しつつ、残りの数層分を溶接する建築用多角形角型鋼管柱の溶接方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-53626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている建築用多角形角型鋼管柱の溶接方法によると、最初の数層分の溶接では4箇所の継ぎ目が生じ、残りの数層分の溶接では、2箇所の継ぎ目が生じる。なお、多角形角型鋼管や円形鋼管の溶接においては、初層及び2層目の溶接は、難易度が高く、溶接欠陥が発生しやすい傾向がある。また、溶接ビードの継ぎ目(以降、単に「継ぎ目」又は「ビード継ぎ目」ともいう)においては、さらに欠陥が発生しやすい。このため、継ぎ目を少なくし、溶接欠陥を抑制できるとともに、作業効率の高い溶接方法が求められていた。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、欠陥が発生しやすい部分である継ぎ目の数が少なく、かつ溶接ロボットによる自動溶接を可能とし作業効率の高いガスシールドアーク溶接方法及び鋼管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、ガスシールドアーク溶接方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0008】
(1) 鋼管を多層盛溶接で溶接するガスシールドアーク溶接方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップと、
を備えることを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、欠陥が発生しやすい部分である継ぎ目の数が少なく、かつ溶接ロボットによる作業効率の高い自動溶接が可能なガスシールドアーク溶接方法を提供できる。
【0009】
また、ガスシールドアーク溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(9)に関する。
【0010】
(2) 単一の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
溶接開始点を任意の位置に設定し、
溶接終了点は前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定し、
次層以降の層では、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とし、
溶接終了点は前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定する
ことを特徴とする(1)に記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、溶接欠陥が発生しやすいビード継ぎ目において、溶接欠陥を抑制することができる。
(3) 複数の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
溶接開始点を任意の位置に設定し、
一の前記溶接ロボットの溶接終了点は、隣接する他の前記溶接ロボットの前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定し、
次層以降の層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とし、
一の前記溶接ロボットの溶接終了点は、隣接する他の前記溶接ロボットの前記溶接開始点を超えた位置に設定し、
前記溶接開始点から前記溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を10~20mmに設定する
ことを特徴とする(1)に記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、溶接欠陥が発生しやすいビード継ぎ目において、溶接欠陥を抑制することができる。
【0011】
(4) 前記溶接開始点から10~30mmの溶接開始範囲において、溶接電流、溶接速度及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更するものであって、
前記溶接開始範囲における開始溶接電流は、本溶接の前記溶接電流に対して50~90%、
前記溶接開始範囲における開始溶接速度は、本溶接の前記溶接速度に対して110~140%、
前記溶接開始範囲におけるチップ‐母材間距離は、本溶接の前記チップ‐母材間距離に対して50~120%に設定される、
ことを特徴とする(2)又は(3)に記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、溶接開始範囲での溶着量を抑制して、重なり部の膨れを抑制することができる。
【0012】
(5) 前記重なり部の溶接において、溶接電流、溶接速度、アーク電圧及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更するものであって、
前記重なり部における終了溶接電流は、本溶接の前記溶接電流に対して50~90%、
前記重なり部における終了溶接速度は、本溶接の前記溶接速度に対して110~140%、
前記重なり部における終了アーク電圧は、本溶接の前記アーク電圧に対して50~90%、
前記重なり部における終了チップ‐母材間距離は、本溶接の前記チップ‐母材間距離に対して50~120%に設定される、
ことを特徴とする(2)~(4)のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、本溶接後にクレータ処理を行って、溶接ビードの凹みを平らにして外観を改善することができる。
【0013】
(6) 単一の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
溶接開始点と溶接終了点を同じ位置に設定し、
次層以降の層では、
前層の前記溶接終了点近傍を該次層の前記溶接開始点とする、又は、前層の前記溶接終了点から溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を該次層の前記溶接開始点とする、
ことを特徴とする(1)に記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、ビード継ぎ目において、重なり部を有しないので、溶接開始点と溶接終了点の教示がしやすい。
【0014】
(7) 複数の前記溶接ロボットによって前記残りの層を溶接する際、
前記ビード継ぎ目において、
前記残りの層のうちの初層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
一の前記溶接ロボットの溶接開始点と、隣接する他の前記溶接ロボットの溶接終了点を同じ位置に設定し、
次層以降の層では、
複数の前記溶接ロボットそれぞれに対し、
前層の溶接終了点近傍を該次層の溶接開始点とする、又は、前層の溶接終了点から溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を該次層の溶接開始点とする、
ことを特徴とする(1)に記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、ビード継ぎ目において、重なり部を有しないので、溶接開始点と溶接終了点の教示がしやすい。
【0015】
(8) 前記重なり部を溶接する際、
溶接終了時に0.1~5秒間のクレータ処理のための期間を設ける、
ことを特徴とする(2)~(5)のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、クレータ処理を行って、溶接ビードの凹みを平らにして外観性能を向上させることができる。
【0016】
(9) 前記クレータ処理時の溶接電流であるクレータ電流は、本溶接の溶接電流に対して50~90%に設定され、
前記本溶接から前記クレータ処理までの間に、0.1~1秒間の移行期間を設ける、
ことを特徴とする(8)に記載のガスシールドアーク溶接方法。
この構成によれば、移行期間に続くクレータ処理が安定する。
【0017】
本発明の上記目的は、鋼管の製造方法に係る下記(10)の構成により達成される。
【0018】
(10) ガスシールドアーク溶接を用いて接合される鋼管の製造方法であって、
前記鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して前記鋼管の開先部を固定するステップと、
前記開先部に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、
前記最初の1層又は前記数層目までの溶接終了後に、前記鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、
溶接ロボットによって、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように残りの層を溶接するステップによって、
前記鋼管が溶接されることを特徴とする鋼管の製造方法。
この構成によれば、欠陥が発生しやすい部分である継ぎ目の数が少なく、かつ溶接ロボットによる作業効率の高い自動溶接が可能な鋼管の製造方法を提供できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、欠陥が発生しやすい部分である継ぎ目の数が少なく、かつ溶接ロボットによる自動溶接を可能とし作業効率の高いガスシールドアーク溶接方法及び鋼管の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法を適用するのに好適な可搬型溶接ロボットの概略側面図である。
図2図2は、図1に示す可搬型溶接ロボットの斜視図である。
図3図3は、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法の概略手順を示す工程図である。
図4図4は、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有する溶接による、該重なり部を示す概略図である。
図5図5は、多層盛溶接によるパスと各層との関係を示す断面概略図である。
図6図6は、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有する溶接部を開先部に対して直角方向から見た平面図である。
図7図7は、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有する溶接部を開先部に対して直角方向から見た平面図、及び開先部での断面図である。
図8図8は、溶接開始点及び溶接開始範囲を、開先部に対して直角方向から見た平面図である。
図9図9は、溶接開始点及び溶接開始範囲を開先部に対して直角方向から見た平面図、及び開先部での断面図である。
図10図10は、本溶接、クレータ処理、及び本溶接からクレータ処理までの移行期間の関係を示すグラフである。
図11図11は、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有しない溶接部を開先部に対して直角方向から見た平面図である。
図12図12は、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有しない溶接部を開先部に対して直角方向から見た平面図、及び開先部での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、鋼管に設けられたエレクションピースに鉄骨建方調整治具を装着して鋼管の開先部を固定するステップと、開先部に対して半自動溶接又は手動溶接により最初の1層又は数層目までを溶接するステップと、最初の1層又は数層目までの溶接終了後に鉄骨建方調整治具を撤去するステップと、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように、溶接ロボットによって、残りの層を溶接するステップとを備える、鋼管を多層盛溶接で溶接するための方法である。
【0023】
まず、上記ガスシールドアーク溶接方法を実施する際に好適な可搬型溶接ロボットについて説明する。なお、以下の説明においては、溶接ロボットとして可搬型溶接ロボットを例に説明するが、本発明における溶接ロボットは可搬型溶接ロボットに限定されず、例えば、垂直多関節ロボット等を適用することもできる。
【0024】
[可搬型溶接ロボット]
可搬型溶接ロボット100は、図1及び図2に示すように、ガイドレール120と、ガイドレール120上に設置され、該ガイドレール120に沿って移動するロボット本体110と、ロボット本体110に載置されたトーチ接続部130と、を備える。ロボット本体110は、主に、ガイドレール120上に設置される本体部112と、この本体部112に取り付けられた固定アーム部114と、この固定アーム部114に、矢印R方向に回転可能な状態で取り付けられた可動アーム部116と、から構成される。
【0025】
トーチ接続部130は、溶接トーチ200を、図1の矢印Xで示す溶接線方向に可動する可動部であるクランク170を介して、可動アーム部116に取り付けられている。トーチ接続部130は、溶接トーチ200を固定するトーチクランプ132,134を備えている。また、本体部112には、溶接トーチ200が装着される側とは反対側に、図示しない送給装置と、溶接トーチ200を繋ぐコンジットチューブ420を支えるケーブルクランプ150が設けられている。
【0026】
また、本実施形態においては、ワークWと溶接ワイヤ211間に電圧を印加し、溶接ワイヤ211がワークWに接触したときに生じる電圧降下現象を利用して、ワークW上の開先部10の表面等をセンシングする、タッチセンサを検知手段とする。検知手段は、本実施形態のタッチセンサに限られず、視覚センシングによる画像センサ、若しくはレーザーセンシングによるレーザーセンサ等、又はこれら検知手段の組み合わせを用いても良いが、装置構成の簡便性から本実施形態のタッチセンサを用いることが好ましい。
【0027】
ロボット本体110の本体部112は、図1の矢印Xで示すように、紙面に対して垂直方向、すなわち、ロボット本体110がガイドレール120に沿って移動するX方向に駆動するロボット駆動部を備える。また、本体部112は、X方向に対し垂直となる開先部10の深さ方向に移動するZ方向にも駆動可能である。また、固定アーム部114は、本体部112に対して、スライド支持部113を介して、X方向に対し垂直となる開先部10の幅方向であるY方向へ駆動可能である。
【0028】
さらに、溶接トーチ200が取りつけられたトーチ接続部130は、クランク170が図2の矢印Rに示すように回動することで、X方向において、溶接線方向である前後方向に首振り駆動可能である。また、可動アーム部116は、矢印Rに示すように、固定アーム部114に対して回転可能に取り付けられており、最適な角度に調整して固定することができる。
【0029】
以上のことから、ロボット本体110は、その先端部である溶接トーチ200を3つの自由度で駆動可能である。ただし、ロボット本体110は、これに限られるものでなく、用途に応じて、任意の数の自由度で駆動可能としてもよい。
【0030】
上記のように構成されていることで、トーチ接続部130に取り付けられた溶接トーチ200の先端部は、任意の方向に向けることができる。さらに、ロボット本体110は、ガイドレール120上を、図1においてX方向に駆動可能である。溶接トーチ200は、Y方向に往復移動しながら、ロボット本体110がX方向に移動することより、ウィービング溶接を行うことができる。また、クランク170による駆動により、例えば、前進角又は後退角を設ける等の施工状況に応じて、溶接トーチ200を傾けることができる。さらに、クランク170の駆動により溶接トーチ200をX方向に傾けることで、後述する多角形角型鋼管などのワークWの角部とガイドレール120の曲線部122の曲率が異なる場合などで生じる、トーチ角の変化、すなわち前進角又は後退角を補正することができる。
【0031】
なお、ガイドレール120の下方には、例えば磁石などの取付け部材140が設けられており、ガイドレール120は、取付け部材140によりワークWに対して着脱が容易に構成されている。可搬型溶接ロボット100をワークWにセットする場合、オペレータは可搬型溶接ロボット100の両側把手160を掴むことにより、可搬型溶接ロボット100をワークW上に容易にセットすることができる。
【0032】
[溶接方法]
上記の可搬型溶接ロボット100を用いた、ガスシールドアーク溶接方法による鋼管の溶接は、突合せ溶接で行うことが多く、図3に示す以下の手順で突合せ溶接が行われる。なお、以下の説明においては、鋼管として多角形角型鋼管を例に説明するが、本発明における鋼管は、多角形角型鋼管に限定されず、例えば、円形鋼管を適用することもできる。
【0033】
図3のStep1に示すように、まず、一対の多角形角型鋼管Wo1,Wo2のそれぞれの4辺11にエレクションピース12を溶接などにより固定した後、該エレクションピース12に鉄骨建方調整治具13を装着して、開先部10を固定する。
【0034】
次いで、Step2に示すように、固定された開先部10に対して、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までを溶接して、溶接ビード15を形成する。なお、鉄骨建方調整治具13が装着された部分は、鉄骨建方調整治具13が障害となるため、連続した溶接は困難である。
【0035】
一般的に、溶接初期段階においては、溶接部に溶接欠陥が発生しやすい傾向があるが、溶接初期段階を半自動溶接又は手動溶接することで、溶接欠陥の発生を最小限に抑制できる。なお、半自動溶接又は手動溶接による溶接初期段階は、1層又は数層目までに限定されず、該数層目以降も実施可能であるが、作業効率の観点から極力少ないことが好ましく、多くとも3層目以下までにとどめるのが好ましい。
【0036】
続いて、Step3に示すように、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までの溶接ビード15が形成された一対の多角形角型鋼管Wo1,Wo2から、鉄骨建方調整治具13を取り外す。
【0037】
さらに、Step4に示すように、多角形角型鋼管Wo1の外面に沿ってガイドレール120を取り付け、可搬型溶接ロボット100をガイドレール120上に溶接トーチ200を下方に向けた状態で取り付ける。そして、可搬型溶接ロボット100を用いて、ビード継ぎ目が2箇所以下となるように、残りの層を自動溶接することにより多層盛り溶接を行う。なお、可搬型溶接ロボット100による自動溶接は、溶接欠陥が発生しやすいビード継ぎ目を極力少なくするため、多くとも2台、好ましくは1台の可搬型溶接ロボット100で溶接することが好ましい。
【0038】
これらStep1~4のプロセスによって、自動溶接部分のビード継ぎ目を極力少なくできるため、溶接を途中で止めることなく、連続した溶接が自動で可能になり、大きく作業効率が向上する。この効果が大きく、半自動溶接又は手動溶接により、最初の1層又は数層目までの作業は多少作業効率が劣るが、作業全体で見ると、従来よりも作業効率が向上する。
【0039】
続いて、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有する溶接と、該重なり部を有さない溶接のそれぞれの場合について詳細に説明する。可搬型溶接ロボット100による残りの層における多層盛り溶接では、溶接開始点から溶接終了点までの溶接ビードの重なり部を有する溶接と、該重なり部を有さない溶接とがある。該重なり部を有する溶接では、溶接開始点を各層ごとにずらして溶接ビードを形成することで、ビード継ぎ目に発生しやすい溶接欠陥を抑制することができる。
【0040】
[重なり部を有する溶接]
まず、図4及び図5を参照し、該重なり部を有する溶接について説明する。なお、図4は、残りの層の各層における溶接開始点と溶接終了点との関係、すなわち重なり部を示している。図5は、多層盛溶接によるパスと各層との関係を示す断面概略図であり、図中の数字は、パス順を示している。図に示す例では、1層目は1パス、2層目は2パス及び3パス、3層目は4パス、5パス及び6パス、・・・で形成されることを示している。なお、Gapによっては、1層目が多パスになる場合もある。
【0041】
例えば、図5の1~2層目までを手溶接とした場合、可搬型溶接ロボット100により自動溶接される層である残りの層のうちの初層の溶接は、図5で示すと3層目となる。3層目は図5に示すように4パス目、5パス目及び6パス目で構成され、各パスのビード継ぎ目において、図4に示すように溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dが設定される。なお、重なり部Dは10~20mmの範囲内で設定されると良い。例えば、図4では10mmに設定されている。そして、次層、すなわち図5で示す4層目の溶接は、7パス目~10パス目で構成され、各パスのビード継ぎ目において、3層目の溶接終了点、すなわち図4で示すところの溶接終了点E近傍を、4層目の溶接開始点、すなわち図4で示すところの溶接開始点Sとし、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dが設定される。なお、重なり部Dは10~20mmの範囲内で設定されると良い。例えば、図4では10mmに設定されている。さらに、次層である5層目以降も前層の溶接終了点近傍を溶接開始点とし、重なり部を有するように溶接終了点まで溶接するプロセス行い、このプロセスを最終層まで繰り返す(図5では6層目まで行う)。
【0042】
なお、残りの層における多層盛り溶接は、単一の可搬型溶接ロボット100による溶接の場合と、複数の可搬型溶接ロボット100による溶接の場合が考えられる。
まず、単一の可搬型溶接ロボット100による溶接について説明する。
【0043】
図6及び図7に示すように、残りの層の各パスにおいて、溶接終了点Eが溶接開始点Sを超えた位置に設定して、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dを任意の長さに設定する。なお、溶接開始点Sとは、溶接開始時における溶接ワイヤ211の位置である。また、溶接終了点Eとは、溶接終了時における溶接ワイヤ211の位置のことである。そして、溶接開始時に開先部10に形成される開始溶接ビード15Sと、溶接終了時に開先部10に形成される終了溶接ビード15Eが、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの重なり部Dを形成する。
【0044】
なお、近傍とは、溶接終了点Eを中心として円半径5mm範囲内、すなわち、0~5mmを示す。溶接終了点Eと溶接開始点Sをずらすことによって、溶接終了位置に発生しやすいスラグを避け、通電性を確保して溶接開始を行うことができるため、アークスタート性が向上する。例えば、アークスタート性を得るために、あらかじめ溶接終了点Eをビード幅に対して中心から外れる位置に設定し、溶接開始点Sをビード幅に対する中心位置に設け、溶接終了後、溶接終了点Eから溶接開始点Sに移動し、次パスの溶接を始めても良い。
以後同様に、次層以降の層でも、前層の溶接終了点E近傍を次層の溶接開始点Sとし、次層の溶接終了点Eが次層の溶接開始点Sを超えた位置に設定して上記重なり部Dを形成する。なお、重なり部Dのより好ましい長さは、略15mmである。
【0045】
続いて、図8及び図9も参照して、各層の溶接開始点Sから10~30mmの溶接開始範囲Sにおいて、溶接電流、溶接速度及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件は、以下の範囲に制御されるのが好ましい。例えば、図4では溶接開始範囲Sが25mmに設定されている。すなわち、溶接開始範囲Sにおける開始溶接電流は、本溶接の溶接電流に対して50~90%に設定される。例えば、本溶接の溶接電流が200~300Aの場合、溶接開始範囲Sにおける開始溶接電流は150A~250Aの範囲となる。また、溶接開始範囲Sにおける開始溶接速度は、本溶接の溶接速度に対して110~140%に設定される。例えば、本溶接の溶接速度が10~60cm/minの場合、溶接開始範囲Sにおける開始溶接速度は11~84cm/minの範囲となる。また、溶接開始範囲Sにおける開始チップ‐母材間距離は、本溶接のチップ‐母材間距離に対して50~120%に設定される。例えば、本溶接のチップ‐母材間距離が20~30mmの場合、溶接開始範囲Sにおける開始チップ‐母材間距離は15~35mmの範囲となる。
【0046】
このように、上記溶接開始範囲Sにおいて、溶接電流、溶接速度及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更することにより、溶接開始範囲Sでの溶着量を抑制して、重なり部Dの膨れを抑制することができる。
【0047】
また、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dにおいて、溶接電流、溶接速度、アーク電圧及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件は、以下の範囲に制御されるのが好ましい。すなわち、重なり部Dにおける終了溶接電流は、本溶接の溶接電流に対して50~90%に設定され、重なり部Dにおける終了溶接速度は、本溶接の溶接速度に対して90~140%に設定され、重なり部Dにおける終了アーク電圧は、本溶接のアーク電圧に対して50~90%に設定され、重なり部Dにおける終了チップ‐母材間距離は、本溶接のチップ‐母材間距離に対して50~120%に設定される。例えば、重なり部Dにおける終了溶接電流は、本溶接の溶接電流が220~300Aの場合、150~250Aに設定され、重なり部Dにおける終了溶接速度は、本溶接の溶接速度が25~80cm/minの場合、30~90cm/minに設定され、重なり部Dにおける終了アーク電圧は、本溶接のアーク電圧が21~33Vの場合、15~28Vに設定され、重なり部Dにおける終了チップ‐母材間距離は、本溶接のチップ‐母材間距離が20~30mmの場合、15~35mmに設定される。
【0048】
このように、重なり部Dにおいて、溶接電流、溶接速度、アーク電圧及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更することにより、本溶接後にクレータ処理を行って、溶接ビード15の凹みを平らにして外観を改善することができる。
【0049】
以上の通り、各層の溶接開始点Sから10~30mmの溶接開始範囲Sにおいて溶接電流、溶接速度及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更し、又は、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dにおいて、溶接電流、溶接速度、アーク電圧及びチップ‐母材間距離のうち少なくとも1つの溶接条件を変更して、重なり部Dを形成することで、重なり部Dに溶接欠陥、膨れ、凹みのない溶接が可能となる。
【0050】
また、図10に示すように、溶接終了点Eにおける、クレータ処理時の溶接電流であるクレータ電流、すなわち終了溶接電流Ieを、本溶接の溶接電流Iに対して50~90%に設定し、クレータ処理のための期間CTを、例えば、0.1~5秒間設けることが好ましい。これにより、クレータ処理を行って、溶接ビード15の凹みを平らにして外観を改善することができる。
なお、クレータ処理は溶接電流、処理時間の他にも、アーク電圧、突出し長さ、溶接速度やガス流量、トーチ角度変更による前進角、後退角等の溶接条件の変更またはバックステップ等で位置変更する等をさせても良い。溶接条件の変更と位置変更を組み合わせるとなお好ましく、例えば、クレータ処理時に、一度突出しを短くし、溶接終了直後に、溶接開始点に移動し、動作終了する等が挙げられ、このプロセスにより、溶接ワイヤとビード間での融着を防止することができる。なお、ここで突出し変更は、溶接条件の変更を指し、溶接終了後の移動は、位置変更を指す。
【0051】
また、本溶接からクレータ処理までの間に、0.1~1秒間の移行期間TTを設けることが好ましい。これにより、移行期間TTに続くクレータ処理を安定して行って、溶接終了点Eにおける溶接欠陥を抑制するとともに、溶接ビード15の凹みを平らにして外観を改善することができる。
【0052】
次に、複数の可搬型溶接ロボット100による溶接について説明する。ここでは、2台の可搬型溶接ロボット100による溶接を例にとって、図4も参照しつつ説明する。
【0053】
まず、2台の溶接ロボット100の各溶接開始点Sを180°位相が異なる位置に設定し、2台の溶接ロボット100を同じ方向に移動させて溶接する。そして、一方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを、他方の溶接ロボット100の溶接開始点Sを超えた位置に設定し、かつ他方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを、一方の溶接ロボット100の溶接開始点Sを超えた位置に設定して、2台の溶接ロボット100それぞれに対し、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dを10~20mmに設定する。
【0054】
次層以降の層では、前層の溶接終了点E近傍を次層の溶接開始点Sとし、一方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを、他方の溶接ロボット100の溶接開始点Sを超えた位置に設定し、他方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを、一方の溶接ロボット100の溶接開始点Sを超えた位置に設定して、2台の溶接ロボット100それぞれに対し、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部Dを10~20mmとする。
【0055】
[重なり部を有さない溶接]
続いて、単一の可搬型溶接ロボット100による、溶接開始点Sから溶接終了点Eまでの溶接ビードの重なり部を有さない溶接について、図11及び図12に基づいて説明する。該重なり部を有さない溶接においても、図5に示す多層盛溶接によるパスと各層との関係は同様である。該重なり部を有さない溶接においては、ビード継ぎ目において、残りの層のうちの初層での各パスでは、溶接開始点Sと溶接終了点Eを同じ位置に設定し、次層以降の層での各パスでは、前層の溶接終了点E近傍を該次層の溶接開始点Sとして溶接する、又は、溶接終了点Eから溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を、該次層の溶接開始点Sとして溶接する。そして、溶接終了点Eを溶接開始点Sと同じ位置に設定する。
【0056】
なお、近傍とは、溶接終了点Eを中心として円半径5mm範囲内、すなわち、0~5mmを示す。溶接終了点Eと溶接開始点Sをずらすことによって、溶接終了位置に発生しやすいスラグを避けて溶接開始をすることができるため、アークスタート性が向上する。また、該重なり部を有さない溶接の場合は、溶接開始点Sと溶接終了点Eが教示しやすいという利点がある。
【0057】
また、複数の溶接ロボット100による溶接ビードの重なり部を有さない溶接においても、上記したのと同様に、残りの層のうちの初層では、一方の溶接ロボット100の溶接開始点Sと、他方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを同じ位置に設定し、次層以降の層では、複数の溶接ロボット100それぞれに対し、前層の溶接終了点E近傍を次層の溶接開始点Sとする、又は、前層の溶接終了点Eから溶接線方向に対し前後5~20mmの位置を次層の溶接開始点Sとして、一方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを、他方の溶接ロボット100の溶接開始点Sとし、他方の溶接ロボット100の溶接終了点Eを、一方の溶接ロボット100の溶接開始点Sとして、重なり部を有さない溶接を行う。
【0058】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 開先部
12 エレクションピース
13 鉄骨建方調整治具
15 溶接ビード
100 可搬型溶接ロボット(溶接ロボット)
CT クレータ処理期間
D,D,D 重なり部
E,E,E 溶接終了点
I 溶接電流
S,S,S 溶接開始点
溶接開始範囲
TT 移行期間
o,o1,Wo2 ワーク(多角形角型鋼管、鋼管)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12