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特許7376419タワークレーン吊荷の自動角度制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】タワークレーン吊荷の自動角度制御システム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/08 20060101AFI20231031BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B66C13/08 J
B66C13/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020072362
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021169349
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市村 元
(72)【発明者】
【氏名】松岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 真之
(72)【発明者】
【氏名】山内 博史
(72)【発明者】
【氏名】稲井 慎介
(72)【発明者】
【氏名】中村 保則
(72)【発明者】
【氏名】石田 正法
(72)【発明者】
【氏名】米本 謙一
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-531201(JP,A)
【文献】登録実用新案第3215594(JP,U)
【文献】特開2001-063818(JP,A)
【文献】実公昭47-029329(JP,Y1)
【文献】特開2020-029335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0209156(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106946159(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワークレーンから自動角度制御装置を介して吊荷を吊り下げ、
前記自動角度制御装置の上部に設けられた複数の衛星測位アンテナが受信した、前記吊荷のリアルタイムで連続した三次元位置情報と、
前記自動角度制御装置の下部に設けられた複数の立体カメラが撮影した前記吊荷又は設置位置に関する三次元画像情報と、に基づき、
荷仰角及び吊荷方位角を設置位置仰角及び設置位置方位角にそれぞれ合わせ、前記吊荷を前記設置位置に取付け
前記自動角度制御装置は、底板と、前記吊荷を吊り下げる複数の鋼棒と、前記複数の鋼棒にそれぞれ設けられた複数の長さ調節器とを有し、
前記複数の鋼棒は、下にいくほど互いの間の間隔が広くなるよう配列され、
前記長さ調節器は、
特殊ワッシャにより前記底板に固定されたナットと、
前記鋼棒の上端に設けられ、前記鋼棒と同軸で前記ナットに螺合した雄ねじを回転させるコードレス電動ドライバーと
を有し、
前記コードレス電動ドライバーが前記雄ねじを回転させることにより、前記吊荷仰角を調整す
ことを特徴とするタワークレーン吊荷の自動角度制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のタワークレーン吊荷の自動角度制御システムであって、
前記自動角度制御装置は、内部に設けられた高速回転するフライホールを傾け、ジャイロ効果により前記吊荷方位角を前記設置位置方位角に自動角度制御する
ことを特徴とするタワークレーン吊荷の自動角度制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタワークレーン吊荷の自動角度制御システムであって、
前記自動角度制御装置は、前記吊荷が梁材の場合には、前記梁材の端部支持点及び中間支持点にり部材を設けて前記梁材の撓みによる端部の跳ね上がりを調整する
ことを特徴とするタワークレーン吊荷の自動角度制御システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のタワークレーン吊荷の自動角度制御システムであって、
前記自動角度制御装置は、前記吊荷が柱材の場合には、前記柱材の端部に4本の吊り部材を設けて前記柱材の縦方向の角度を調整する
ことを特徴とするタワークレーン吊荷の自動角度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タワークレーン吊荷の自動角度制御システム及び自動角度制御方法に係り、特に、タワークレーンにより吊り上げられた吊荷の方位角及び仰角を自動的に調整して設置位置に設置する自動角度制御システム及び自動角度制御方法に関する。なお、本明細書では、吊荷の方位角及び仰角とはタワークレーンにより吊り上げられた吊荷の向く角度を言う。方位角は水平面において北を0度として時計回りに振った角度であり、「北北西」等と磁石で方位を示す場合に用いられる。この方位角は、吊荷を旋回させて角度調整することから旋回角とも称する。一方、仰角は、水平面を基準として上方向又は下方向に向かう角度である。これらの方位角及び仰角を制御することで、空中にある吊荷の向きを吊荷の設置場所の向きに自動で調整して吊荷の設置位置に容易に設置することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、タワークレーンにより吊荷を吊上げて建物の所定の設置位置に設置するのには、タワークレーンの運転補助者をその吊荷の設置位置の近傍に配置させ、吊荷の位置及び設置角度を目視により確認してタワークレーンの運転者に指示して調整していた。
【0003】
しかし、建設現場においてタワークレーンによる吊荷の運搬を完全自動化させ、安全で効率的な運搬作業を実現させるには、このタワークレーン運転補助者の機能を代替するシステムの構築が不可欠となる。このタワークレーン運転補助者の作業を完全自動化することで、建設現場でのタワークレーン運転補助者の落下事故やタワークレーンとの衝突事故等、危険を伴う作業を完全自動化することができる。また、タワークレーン運転補助者が、作業中に強風に煽られる、夏期に熱中症になる等の災害や健康被害を予め防止できる。さらに、この作業を完全自動化することにより迅速な吊荷の設置作業が可能となり、建設現場の作業効率を上げることができる。
【0004】
特許文献1には、吊荷の位置を常時把握でき、自動運転化できるタワークレーン装置が開示されている。ここでは、フックブロックに備えられた全周プリズムをクレーン本体に備えたトータルステーションにより追尾し、フックブロックの三次元位置を把握し、制御装置はこの三次元位置をフィードバックしてフックブロックを所定の位置に運転することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、制御部材がコンパクトであり、取り扱い易く、かつ、吊荷を設置場所に降下させる作業効率を向上させた吊荷自動角度制御方法が開示されている。ここでは、強い風が吹いても所定の方向に吊荷を自動角度制御し、取り込みやすい位置で吊荷を受け取れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-080881号公報
【文献】特開2017-105627号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】カラートラッキング用いた能動制御システムの研究
【0008】
非特許文献1に示すカラートラッキング用いた能動制御システムとは、タワークレーンのジブトップのカメラ画像上で、部材設置場所の両端を指定する。部材の両端に設置した異なるカラーマーカ―(トラッキング対象)をカラートラッキングにより自動認識し、その両端の直交座標(X,Y,Z)を(x,y),(y,y)とすると、設置部材の角度Θは、Θ=cot((y-y)/(x-x))で表される。一方、部材設置場所の角度Θ´は、部材設置場所の両端の座標を(u,v),(u,v)とすると、Θ´=cot((v-v)/(u-u))で表される。この部材設置場所の角度Θ´と、設置部材の角度Θの差を算定し、誤差範囲内かどうか確認する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、建設現場においてタワークレーンを用いて柱材や梁材等の建設資材を吊上げて鉄骨フレームの設置位置に設置する場合、タワークレーン運転補助者が設置位置の近傍に配置し、吊荷の位置及び設置角度を目視により確認し、タワークレーン運転者に指示している。このタワークレーン運転補助者が果たす機能は、建設現場の作業を自動化する上で最も困難な作業の一つであり、種々の問題が存在する。
【0010】
ここで、図9を用いて吊荷7が鉄骨梁21の場合のタワークレーン2による設置手段を説明する。鉄骨梁21は、コンクリート造等の他の工法と比較して比較的製作精度や建方精度が高いが、鉄骨梁21や鉄骨柱22の製作誤差により現場での設置に手間取る場合がある。従って、工期短縮を図り、又は工期遅延を防止するために、タワークレーン2により吊荷7を吊上げて吊荷設置位置に設置するまでの作業効率を自動化する必要がある。なお、吊荷7は、タワークレーン2のブーム3から上部吊り部材12aを介して吊り下げられる自動角度制御装置4、及び、自動角度制御装置4から吊荷7を吊る下部吊り部材12bに設けられた右側長さ調節器11a,左側長さ調節器11bにより、吊荷仰角(α) (図4(a)参照)及び吊荷方位角(β)(図4(b)参照)が調整され、立体カメラ9等により確認されて吊荷設置位置に設置される。吊り部材12a,12bは、例えば、ワイヤーロープ等の線材又はPC鋼棒等の鋼材が用いられるが、これらの材料に限らない。
【0011】
また、風の影響やタワークレーン自体の動作に伴う慣性力により吊荷が旋回してしまう場合がある。この吊荷の旋回が発生すると吊荷の位置及び角度を維持することが難しい、という問題が発生する。このため、建設現場における安全上の問題が発生したり、吊荷に不要な回転が発生したり、回転を止めるため余分な作業が発生するという問題がある。
【0012】
本願の目的は、かかる課題を解決し、タワークレーンにより揚重された吊荷を簡便な方法により迅速に所望の仰角及び方位角に自動調整して設置位置に設置し、安全性を向上させて作業効率を改善するタワークレーン吊荷の自動角度制御システム及び自動角度制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るタワークレーン吊荷の自動角度制御システムはタワークレーンから自動角度制御装置を介して吊荷を吊り下げ、自動角度制御装置の上部に設けられた複数の衛星測位アンテナが受信した、吊荷のリアルタイムで連続した三次元位置情報と、自動角度制御装置の下部に設けられた複数の立体カメラが撮影した吊荷又は設置位置に関する三次元画像情報と、に基づき、吊荷仰角及び吊荷方位角を設置位置仰角及び設置位置方位角にそれぞれ合わせ、吊荷を設置位置に取付けることを特徴とする。
【0014】
上記構成により、本発明のタワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、吊荷仰角及び吊荷方位角をそれぞれ設置位置の設置位置仰角及び設置位置方位角に合致させることで吊上げられた吊荷を鉄骨造等の設置位置に迅速にかつ容易に設置させることが可能となる。この吊上げられた吊荷仰角及び吊荷方位角と、設置位置の設置位置仰角及び設置位置方位角とは、自動角度制御装置に設けられた複数の衛星測位アンテナが測位した三次元位置情報、又は、自動角度制御装置に設けられた複数の立体カメラが撮影した三次元画像情報のいずれか可能な情報、又は双方の情報が採用される。
【0015】
また、本発明のタワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、自動角度制御装置に設けられた複数の立体カメラにより撮影された吊荷の状況、例えば、梁材のように横長の部材か、或いは柱材のように縦長の部材か、吊荷の形状によりワイヤーロープ又は棒材を何本で吊れば良いか等の吊荷情報が容易に得ることができ、これらの吊荷情報により、どのように吊荷を吊れば良いかが決定される。
【0016】
タワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、衛星からの測位情報に基づき吊上げられた吊荷仰角及び吊荷方位角を検出している。従って、風等の外力によりタワークレーンのブームが動いても自動角度制御装置の位置及び方向を正確に把握できる。さらに、吊上げられた吊荷の方位角をリアルタイムで連続して計測するため、タワークレーンのブームの動きの影響を最小限に抑えることができる。
【0017】
また、本発明のタワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、自動角度制御装置が、内部に設けられた高速回転するフライホールを傾け、ジャイロ効果により吊荷方位角を設置位置方位角に自動角度制御することが好ましい。これにより、自動角度制御装置に吊り下げられた吊荷方位角を設置位置での設置位置方位角に容易に合わせることができる。
【0018】
また、タワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、自動角度制御装置が、吊荷を吊り下げられる複数のワイヤーロープに設けられた長さ調節器によりワイヤーロープの長さを伸縮させて吊荷仰角を調整することが好ましい。これにより、タワークレーンにより吊荷を吊上げた際に、吊荷仰角を複数本のワイヤに設けられた長さ調節器により調整することができる。そして、調整された仰角を維持しながらジャイロ効果により吊荷の方位角を設置位置での部材方位角に合わせることが可能になる。
【0019】
また、タワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、自動角度制御装置が、吊荷を吊り下げる複数の鋼棒に設けられた長さ調節器を回転させて鋼棒の長さを伸縮させて吊荷仰角を調整することが好ましい。これにより、自動角度制御装置から吊荷を吊り下げる複数本の鋼棒に取り付けた長さ調節器を回転させることで吊荷仰角が調整可能になる。
【0020】
また、タワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、自動角度制御装置が、吊荷が梁材の場合には、梁材の端部支持点及び中間支持点に吊り部材を設けて梁材の撓みによる端部の跳ね上がりを調整することが好ましい。これにより、長尺の梁材を吊上げた際に、梁材に撓みが発生し、その撓みにより梁材の端部の跳ね上がりを抑制し、吊材を設置位置に容易に合わせることができる。
【0021】
また、タワークレーン吊荷の自動角度制御システムは、自動角度制御装置が、吊材が柱材の場合には、柱材の端部に4本の吊り部材を設けて柱材の縦方向の角度を調整することが好ましい。これにより、吊荷が柱材の場合は、自動角度制御装置から柱材を吊り下げることで、柱材の自重により吊荷仰角が調整されるため、吊荷を設置位置の部材旋回角に合わせることができる。これにより、吊材は、梁材のように横に長い部材だけではなく、柱材のように、縦に長い部材についても吊材を設置位置に容易に合わせることができる。
【0022】
また、タワークレーン吊荷の自動角度制御方法は、タワークレーンから自動角度制御装置を介して吊荷を吊り下げるステップと、自動角度制御装置に設けられた複数の衛星測位アンテナから発信された吊荷のリアルタイムで連続した三次元位置情報を受信するステップと、自動角度制御装置に設けられた複数の立体カメラが撮影した吊荷又は設置位置に関する三次元画像情報を受信するステップと、吊荷仰角及び吊荷方位角をそれぞれ設置位置仰角又は設置位置方位角に合わせるステップと、吊荷を設置位置に取付けるステップと、を備えることが好ましい。
【0023】
上記構成により、本発明のワークレーン吊荷の自動角度制御システム及び自動角度制御方法は、吊荷仰角及び吊荷方位角をそれぞれ設置位置の設置位置仰角及び設置位置方位角に合致させることで吊上げられた吊荷を鉄骨造等の設置位置に迅速にかつ容易に設置させることが可能となる。この吊上げられた吊荷仰角及び吊荷方位角と、設置位置の設置位置仰角及び設置位置方位角とは、自動角度制御装置に設けられた複数の衛星測位アンテナが測位した三次元位置情報、又は、自動角度制御装置に設けられた複数の立体カメラが撮影した吊荷情報のいずれか可能な情報、又は、双方の情報のいずれかが採用される。なお、吊荷仰角を設置位置の設置位置仰角に合致させるのと、吊荷方位角を設置位置の設置位置方位角に合致させるのとは、先後関係はなく、どちらを先に合致させても良い。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係るタワークレーン吊荷の自動角度制御システム及び自動角度制御方法によれば、タワークレーンにより揚重された吊荷を簡便な方法により所望の吊荷仰角及び吊荷方位角に自動調整して取り付け、安全性を向上させて作業効率を改善するタワークレーン吊荷の自動角度制御システム及び自動角度制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るタワークレーン吊荷の自動角度制御システムの自動角度制御装置の一つの実施形態の概略構成を示す斜視図である。
図2】本自動角度制御システムを構成する自動角度制御装置の概略構成を示す断面図である。
図3】本自動角度制御システムの構成を示すブロック図である。
図4】例えば、鉄骨梁のように横方向に長い吊荷を吊上げる際の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)の説明図である。
図5】例えば、鉄骨柱のように縦方向に長い吊荷を吊上げる際の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)の説明図である。
図6】自動角度制御装置の底部に定着する吊り部材の長さ調節器を示す詳細図である。
図7】自動角度制御装置内部のフライホイールとシンバルとによる回転制御機構を示す説明図である。
図8】吊荷の自動角度制御方法を示すフロー図である。
図9】吊荷が鉄骨梁の場合のタワークレーンによる設置手段を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(吊荷の自動角度制御システムの構成)
以下に、図面を用いて本発明に係るタワークレーン吊荷の自動角度制御システム1につき、詳細に説明する。図1に、本発明に係るタワークレーン吊荷の自動角度制御システム1の自動角度制御装置4の一つの実施形態の概略構成を斜視図で示す。図2に、本自動角度制御システム1を構成する自動角度制御装置4の概略構成を断面図で示す。図3に、本自動角度制御システム1の構成をブロック図で示す。図4に、例えば、鉄骨梁21のように横方向に長い吊荷7を吊上げる際の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)を示す。図5に、例えば、鉄骨柱22のように縦方向に長い吊荷7を吊上げる際の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)を示す。図6に、吊り部材12a、12bの端部に設けられる長さ調節器11a,11bを詳細図で示す。図7に、吊荷7の自動角度制御装置4の内部のフライホイール17a、シンバル18a、及び、駆動用モータ19による回転制御機構を示す。図8に、吊荷7の自動角度制御方法をフロー図で示す。
【0027】
図1に示すように、タワークレーン2による吊荷7の自動角度制御システム1は、タワークレーン2のブーム3の先端のジブ10から自動角度制御装置4を介して吊荷7が吊り下げられる。自動角度制御装置4は、フック16に懸けられた上部吊り部材12aにより吊り下げられる。さらに、自動角度制御装置4から下部吊り部材12bを介して吊荷7が吊り下げられる。
【0028】
図2に示すように、自動角度制御装置4の上部に設けられた少なくとも2個の衛星測位アンテナ5が図2に示す衛星14から吊荷7のリアルタイムで連続した吊荷三次元位置情報27(図3参照)を受信する。また、自動角度制御装置4の下部に設けられた少なくとも2個(図2参照)の立体カメラ9が吊荷7及び吊荷設置位置6を撮影し、吊荷三次元画像情報26(図3参照)を受信する。そして、これら吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26に基づいて吊荷7を吊荷設置位置6に設置させる。
【0029】
本タワークレーン2による吊荷7の自動角度制御システム1では、吊荷7が鉄骨梁21又は鉄骨柱22の場合について説明する。図1では、タワークレーン2に吊上げられた鉄骨梁21を所定の鉄骨梁ブラケット28間に設置する場合を示す。鉄骨梁ブラケット28は、鉄骨加工工場にて鉄骨柱22に取り付けられ、工事現場にて鉄骨梁21を鉄骨柱22に取り付ける接続用の部材である。鉄骨梁21は、自動角度制御装置4から下部吊り部材12bにより吊り下げられる。そして、下部吊り部材12bの一端には、図4(b)に示すように、右側長さ調節器11a及び左側長さ調節器11bが設けられて下部吊り部材12bの長さが調節される。この右側長さ調節器11a及び左側長さ調節器11bは「右側」や「左側」に意味はなく下部吊り部材12bの長さを調節器可能な機構であれば良く、また、2本に限らず3本以上であっても良い。
【0030】
図3に示すように、自動角度制御装置4は、吊荷7の吊荷仰角(α)を自動的に制御する吊荷仰角駆動部24と、吊荷7の吊荷方位角(β)を自動的に制御する吊荷方位角駆動部25とから構成される。そして、自動角度制御装置4は、衛星14から送信された吊荷
7の位置データを衛星測位アンテナ5により受信して吊荷三次元位置情報27を取得する。また、立体カメラ9により撮影された吊荷7又は吊荷設置位置6の映像データを受信して吊荷三次元画像情報26を取得する。これら吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26に基づき吊荷7の吊荷仰角(α)、吊荷方位角(β)、吊荷設置位置仰角(α)、吊荷設置位置方位角(β)を算出する。これら吊荷仰角(α)、吊荷方位角(β)、吊荷設置位置仰角(α)、吊荷設置位置方位角(β)は、吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26の一方から算出しても良く、或いは、吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26の双方から算出しても良い。例えば、吊荷三次元位置情報27は,衛星14による測位が電波の反射等によりマルチパス等の影響で乱れてしまうことがある。その場合は、吊荷三次元画像情報26により補完する。一方、吊荷三次元画像情報26は、画像情報であるため死角となる角度については撮影できない。その場合は、吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26により補完する。
従って、吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26の双方の特徴を踏まえて最適な情報を選択する必要がある。
【0031】
自動角度制御装置4は、算出された吊荷7の吊荷仰角(α)、吊荷方位角(β)、吊荷設置位置仰角(α)、吊荷設置位置方位角(β)に基づき、仰角比較部23a及び方位角比較部23bに仰角角度差(Δα)又は方位角角度差(Δβ)を算出させる。この吊荷仰角(α)と吊荷設置位置仰角(α)との仰角角度差(Δα)、又は、吊荷方位角(β)と吊荷設置位置方位角(β)との方位角角度差(Δβ)が事前に設定された許容値Δα´,Δβ´以内の場合には、吊荷仰角駆動部24又は吊荷方位角駆動部25により吊荷仰角(α)又は吊荷方位角(β)が調整される。この吊荷仰角(α)と吊荷設置位置仰角(α)との角度差(仰角角度差(Δα)、又は、吊荷方位角(β)と吊荷設置位置方位角(β)との方位角度差(Δβ)のいずれかが事前に設定された(仰角の許容値Δα´,方位角の許容値Δβ´)を越える場合には、後述する吊荷仰角駆動部24又は吊荷方位角駆動部25により吊荷7の姿勢を調整する。
【0032】
(吊荷長さ調節器)
図4に、吊荷7の吊り部材12a、12bの端部に設けられる長さ調節器11a,11bによる吊荷仰角(α)の調整について説明する。図4(a)は、吊荷7を上面から見た平面図であり、図4(b)は、吊荷7の側面図である。図4(b)に示すように、自動角度制御装置4は、吊荷7を吊り下げられる複数のワイヤに設けられた長さ調節器11a,11bにより吊り部材12a、12bの長さを伸縮させ、吊荷仰角(α)を調節することで吊荷7を水平方向に保持する。これにより、まず、タワークレーン2により吊荷7を吊上げて吊荷設置位置6の上方に移動させる。吊荷仰角(α)を複数本の吊り部材12a、12bに設けられた長さ調節器11a,11bにより自動的に調整する。そして、調整された吊荷仰角(α)を保持しながらジャイロ効果により吊荷7の吊荷方位角(β)を吊荷設置位置方位角(β)に合わせることが可能になる。
【0033】
自動角度制御装置4の吊り部材12a、12bは、ワイヤーロープなどの線材に代えて、例えば、PC棒鋼等の棒材を用いて吊上げても良い。この場合は、長さ調節器11a,11bにより複数の棒材の一端をスライドさせて棒材と吊材7との成す角度を増減させて仰角を調整することができる。これにより、自動角度制御装置4から吊荷7を吊り下げる複数本の棒の設置位置をスライドさせることで吊荷7の仰角が調整可能になる。
【0034】
自動角度制御装置4は、吊材7が鉄骨梁21等の横型の場合には、鉄骨梁21の端部支持点及び中間支持点等の複数個所にワイヤーロープ等の吊り部材12a、12bを増設して鉄骨梁21の撓み量を低減させ、端部の跳ね上がりを調整する。これにより、長尺の梁材を吊上げた際に、鉄骨梁21に大きな撓みが発生した場合、その撓みにより鉄骨梁21の端部に生じる跳ね上がりを抑制し、吊荷7を吊荷設置位置6の吊荷仰角(α)又は吊荷方位角(β)に容易に合わせることができる。
【0035】
(横型部材の仰角調整機構)
図4に、吊荷7として横方向に長い鉄骨梁21を吊上げる際の吊荷方位角(β)及び吊荷仰角(α)を示す。ここで、他の回転角である吊荷7の断面の捩じれ角は、吊荷方位角(β)及び吊荷仰角(α)に比べて無視できるので本発明では取り扱わない。吊荷方位角(β)及び吊荷仰角(α)をそれぞれ設置位置の吊荷設置位置仰角(α)及び吊荷設置位置方位角(β)に合致させることで吊上げられた吊荷7を鉄骨造等の設置位置に迅速にかつ容易に設置させることが可能となる。この吊荷仰角(α)を設置位置の吊荷設置位置仰角(α)に合わせるには、図4(b)に示す右側長さ調節器11a又は左側長さ調節器11bの片方又は両方を用いて吊り部材12a、12bの長さを調節する。右側長さ調節器11a及び左側長さ調節器11bの内部には、長さ調節用のコードレス電動ドライバー29にナット30が組み込まれており(図6参照)、ナット30は自動角度制御装置4から送信された電波信号により自動で回転してその位置が変化する。吊り部材12a、12bの上端は自動角度制御装置4に固定され、吊り部材12a、12bの下端は吊荷7に固定されるため、吊り部材12a、12b自体の長さ及び設置角度は不変である。
【0036】
自動角度制御装置4は、長さ調節器11a,11bから吊荷7を吊り下げる複数の棒材の一端をスライドさせて棒材と吊材7との成す角度を増減させて仰角を調整しても良い。長さ調節器11a,11bは、吊り部材12a、12b以外の部材、例えば、PC鋼棒のように形状が変化しない棒材であっても良い。この棒材を用いる場合には、
【0037】
(縦型部材の吊上げ方法)
図5に、吊荷7として縦方向に長い鉄骨柱22等を吊上げる際の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)を示す。図5(a)は、上方から見た断面図を示し、図5(b)は、側面図を示す。ここで、他の回転角である吊荷7の断面の捩じれ角は、吊荷仰角(α1)及び吊荷方位角(β)に比べて無視できるので本発明では取り扱わない。吊荷の吊荷仰角(α1)及び吊荷方位角(β)をそれぞれ設置位置の吊荷設置位置仰角(α)及び吊荷設置位置方位角(β)に合致させることで吊上げられた吊荷7を鉄骨造等の設置位置に迅速にかつ容易に設置させることが可能となる。自動角度制御装置4は、吊材7が柱材の場合には、吊荷7が鉄骨柱22等の縦型の場合は、端部に4本のワイヤーロープ等の吊り部材12a、12bにより吊り上げ、柱材の縦方向の角度を調整する。なお、この縦方向に長い鉄骨柱22等を吊上げる際には、鉄骨柱22の自重により図5(b)に示す吊荷方位角(β)のついては制御する必要がない場合もある。しかし、鉄骨柱22の場合には、図5(b)に示すように、鉄骨梁21用の鉄骨梁ブラケット28が取り付けられて吊上げられるのが一般的であり、この場合、鉄骨梁ブラケット28が鉄骨柱22の中心に対して非対象に取り付けられ、吊荷方位角(β)が発生する。また、鉄骨梁21が縦方向に複数個連なって吊上げられ、鉄骨梁21が鉄骨柱22の中心に対して非対象に取り付けられることで吊荷方位角(β)が発生する場合がある。このように、鉄骨梁21が複数個連なって吊上げられる場合は、自動角度制御装置4に設けられた複数の立体カメラ9により、どのように吊荷7を吊れば良いかが判断される。
【0038】
図6に、吊り部材12a,12bの長さ調節機構である長さ調節器11a,11bの機構を示す。自動角度制御装置4の下方から吊り部材12a,12bにより吊荷7が吊り上げられる。この吊り部材12a、12bの上端には、それぞれコードレス電動ドライバー29が設けられている。コードレス電動ドライバー29は、雄ねじが切られてナット30と特殊ワッシャ31により自動角度制御装置4の底板32に係止される。そして、電動で回転してナット30に設けられた雌ねじがナット30の雄ねじに係合して吊り部材12a,12bの長さが増減する。この左右の長さ調節器11a,11bをそれぞれ独立して調節することで所望の吊荷仰角(α)が得られる。
【0039】
(吊荷方位角駆動機構)
図7に、吊荷7の自動角度制御装置4の内部に設けられるジャイロ機構について説明する。ジャイロ機構とは、一般的には、物体が高速で自転運動をするとその自転が高速なほど姿勢を乱されにくくなる現象を利用した機構である。図6に示すように、ジャイロ機構は、コマのようにX軸回りに高速回転するフライホイール17aと、このフライホイール17aをX軸回りに高速回転させるスピン駆動部17bと、Y軸回りで所望の方向に回転するシンバル18aと、このシンバル18aをY軸回りに回転させるシンバル駆動部18bと、フライホイール17aを回転させる駆動用モータ19と、角度検出用エンコーダ20から構成される。まず、シンバル駆動部18bにより、シンバル18aをY軸回りに回転させる。それにより、フライホイール17aが傾きプレセッション(軸旋回)応答によるジャイロモーメントが発生し、Z軸周りに回転する吊荷旋回角(γ)が生じる。この吊荷旋回角(γ)は自動角度制御装置4を介して吊荷7に伝達され、吊荷7の吊荷方位角(β)となる。これにより、自動角度制御装置4に吊り下げられた吊荷7の吊荷方位角(β)を吊荷設置位置6での吊荷設置位置方位角(β)に容易に合わせることができる。
【0040】
(自動角度制御方法)
図8に、吊荷7の自動角度制御方法をフロー図で示す。フロー図では、ステップ1からステップ12までをS1~S12で示す。まず、タワークレーン2から自動角度制御装置4を介して吊荷7を吊り下げる(S1)。次に、この自動角度制御装置4に設けられた複数の衛星測位アンテナ5が衛星14から送信された吊荷7のリアルタイムで連続した吊荷三次元位置情報27を取得する(S2)。そして、この吊荷三次元位置情報27に基づいて吊荷7を吊荷設置位置6の上部に移動させる(S3)。次に、自動角度制御装置4に取り付けられた立体カメラ9が撮影した吊荷三次元画像情報26を取得する(S4)。これらの吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26に基づき、片方の情報、又は両方の情報に基づき、吊荷7の形状、例えば、横型又は縦型等を把握する(S5)。そして、吊荷7の形状により最適な吊り降ろし方法を決定する(S6)。例えば、吊荷三次元位置情報27は,衛星14による測位が電波の反射等によりマルチパス等の影響で乱れてしまうことがある。その場合は、吊荷三次元画像情報26により補完する。一方、吊荷三次元画像情報26は、画像情報であるため死角となる角度については撮影できない。その場合は、吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26により補完する。従って、吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26の双方の特徴を踏まえて最適な情報を選択する必要がある。
【0041】
次に、自動角度制御装置4は、上述した吊荷7の吊荷三次元位置情報27及び吊荷三次元画像情報26に基づき、吊荷仰角(α)及び吊荷設置位置仰角(α)を算出する(S7)。そして、この仰角角度差Δα(α)が予め設定された許容範囲内か否かを判定する(S8)。許容範囲内であれば(Yesの場合は)S10に進む。許容範囲内でなければ(Noの場合は)吊荷仰角(α)を吊り部材12a、12bの一端に設けられた長さ調節器11a、11bにより調節し、吊荷仰角(α)を吊荷設置位置仰角(α)に合わせる(S9)。次に、吊荷方位角(β)及び吊荷設置位置方位角(β)を算出する(S10)。そして、この方位角角度差Δβ(β)が予め設定された許容範囲内か否かを判定する(S11)。許容範囲内であれば終了する(Yesの場合)。許容範囲内でなければ(Noの場合は)、歳差誤差によりジャイロモーメントを発生させ、吊荷方位角(β)を旋回させて吊荷設置位置方位角(β)に合わせる(S12)。
【0042】
上記吊荷7の自動角度制御方法により、本発明のワークレーン2による吊荷7の自動角度制御システム1は、吊荷7の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)をそれぞれ設置位置の吊荷設置位置仰角(α)及び吊荷設置位置方位角(β)に容易に合致させることができる。それにより、吊上げられた吊荷7を鉄骨造等の設置位置に迅速にかつ容易に設置させることが可能となる。この吊上げられた吊荷7の吊荷仰角(α)及び吊荷方位角(β)と、設置位置の吊荷設置位置仰角(α)及び吊荷設置位置方位角(β)とは、自動角度制御装置4に設けられた複数の衛星測位アンテナ5が測位した吊荷三次元位置情報27、又は、自動角度制御装置4に設けられた複数の立体カメラ9が撮影した吊荷三次元画像情報26のいずれか一方の情報により測定できるが、これらの情報の特徴を生かして併用しても良い。また、吊荷仰角(α)を吊荷設置位置仰角(α)に合わせるステップ(S7~S9)と、吊荷方位角(β)を旋回させて吊荷設置位置方位角(β)に合わせるステップ(S10~S12)とは、現場の状況により、どちらを先行しても良い。
【0043】
以上の実施形態で説明されたタワークレーン吊荷の自動角度制御システム及び自動角度制御方法の構成、形状、大きさ、及び配置関係については、本発明が理解、実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる
【符号の説明】
【0044】
1 (タワークレーン吊荷の)自動角度制御システム、2 タワークレーン、3 (タワークレーンの)ブーム、4 自動角度制御装置、5 衛星測位アンテナ、6 吊荷設置位置(又は設置位置)、7 (吊上げられた)吊荷、9 立体カメラ、10 (タワークレーンの)ジブ、11a 右側長さ調節器,11b 左側長さ調節器、12a 上部吊り部材,12b 下部吊り部材、14 衛星、16 フック、17a フライホイール,17b スピン駆動部、18a シンバル,18b シンバル駆動部、19 駆動用モータ、20 角度検出用エンコーダ、21 鉄骨梁、22 鉄骨柱、23a 仰角比較部,23b 方位角比較部、24 吊荷仰角駆動部、25 吊荷方位角駆動部、26 吊荷三次元画像情報(又は三次元画像情報)、27 吊荷三次元位置情報(又は三次元位置情報)、28 鉄骨梁ブラケット、29 コードレス電動ドライバー、30 ナット、31 特殊ワッシャ、32 底板、α 吊荷仰角,α 吊荷設置位置仰角(又は設置位置仰角)、β 吊荷方位角,β 吊荷設置位置方位角(又は設置位置方位角)、γ 吊荷旋回角、Δα 仰角角度差(α)、Δβ 方位角角度差(β)Δα´ 仰角の許容値、Δβ´ 方位角の許容値、X,Y,Z 直交座標。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9