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特許7376427エレベーター用調速機、及びエレベーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】エレベーター用調速機、及びエレベーター
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/04 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
B66B5/04 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020091432
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021187574
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今村 康平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友康
(72)【発明者】
【氏名】早野 富夫
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-126352(JP,A)
【文献】特開昭53-093549(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02617672(EP,A1)
【文献】中国実用新案第205855670(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に回転可能に支持されており、昇降体に接続されたガバナロープが巻回されているガバナプーリと、
前記ガバナプーリに回動可能に支持されており、前記ガバナプーリが回転すると遠心力により回動する振子と、
前記振子が回動して当接すると作動する速度検出スイッチと、
前記ガバナプーリから前記振子に伝達されるトルクが予め定めた設定値以上の場合に、前記ガバナプーリと前記振子の間のトルクの伝達を制限するトルクリミッターと、
前記振子に固定されており、前記ガバナプーリの回転により、前記ガバナプーリの前記回転軸の延伸方向と同じ方向に直線移動が可能な回転部材と、
前記回転部材の前記直線移動の経路上に、前記回転部材が当接可能であるように設けられたストッパー部と、
を備える、
ことを特徴とするエレベーター用調速機。
【請求項2】
前記振子に固定された部材である振子受を備え、
前記トルクリミッターは、前記ガバナプーリと前記振子受に接続されている、
請求項1に記載のエレベーター用調速機。
【請求項3】
前記回転部材は、前記ガバナプーリの前記回転軸の延伸方向と同じ方向に延在するねじ部の周りに回転して、前記ねじ部の延在方向に直線移動する、
請求項に記載のエレベーター用調速機。
【請求項4】
前記ガバナプーリは、前記ねじ部とともに回転し、
前記ストッパー部は、前記ガバナプーリに固定されており、
前記回転部材は、前記ストッパー部に当接すると、前記ガバナプーリの回転により、前記ねじ部と前記振子と同期して回転することで、前記ガバナプーリの回転と前記振子の回転を同期させる、
請求項に記載のエレベーター用調速機。
【請求項5】
昇降体と、
前記昇降体に接続されたガバナロープと、
前記ガバナロープが巻回されているガバナプーリを備える調速機と、
を備え、
前記調速機は、請求項1からのいずれか1項に記載のエレベーター用調速機である、
ことを特徴とするエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降体の昇降速度を監視するエレベーター用調速機、及びこの調速機を備えたエレベーターに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターは、昇降体である乗りかごと、釣合おもりと、乗りかごと釣合おもりとを連結する主索と、この主索が巻回された巻上機を備える。さらに、エレベーターは、乗りかごの昇降速度を常時監視して、所定以上の速度に達した乗りかごを非常停止させるための調速機を備える。
【0003】
調速機は、具体的には、乗りかごの昇降速度が定格速度を超えて第一過速度(通常は、定格速度の1.3倍の速度)に達すると、乗りかごを駆動する巻上機の電源とこの巻上機を制御する制御装置の電源を遮断する。また、調速機は、乗りかごの昇降速度が第一過速度を超えて第二過速度(通常は、定格速度の1.4倍の速度)に達すると、乗りかごに設けられた非常止め装置を作動させて、乗りかごを機械的に非常停止させる。
【0004】
この種の調速機の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された調速機は、ガバナロープにより回転するガバナプーリと、ガバナプーリの回転によって作用する遠心力によりガバナプーリの径方向外側へ拡がる振子(フライウエイト)を備え、乗りかごの速度が設定値を超えたときには、振子がガバナプーリの径方向外側へ拡がることで非常止め装置を作動させて、乗りかごの下降を止める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-26140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術等の従来の調速機では、乗りかごの速度が第一過速度を超えると、ガバナプーリの径方向外側へ拡がった振子が第一過速度検出スイッチをオフにして巻上機の駆動電源を遮断し、乗りかごの速度が第二過速度を超えると、振子が径方向外側へさらに拡がり第二過速度検出スイッチを作動させてガバナロープを把持する機構により乗りかごを非常停止させる。このような調速機では、乗りかごに過剰な振動が発生してガバナプーリに過剰な加速度が伝わると、乗りかごが第一過速度または第二過速度よりも遅い速度で昇降していても、振子が第一過速度検出スイッチまたは第二過速度検出スイッチをそれぞれ作動させるおそれがある。
【0007】
このため、従来の調速機には、乗りかごに過剰な振動が発生すると、第一過速度または第二過速度が誤って検出されて、乗りかごの速度が第一過速度または第二過速度に達する前に、乗りかごの昇降を停止させる機構が作動するおそれがある、という課題がある。
【0008】
本発明の目的は、乗りかごに過剰な振動が発生しても、乗りかごの過速度の誤検出を防止できるエレベーター用調速機と、この調速機を備えるエレベーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるエレベーター用調速機は、回転軸に回転可能に支持されており、昇降体に接続されたガバナロープが巻回されているガバナプーリと、前記ガバナプーリに回動可能に支持されており、前記ガバナプーリが回転すると遠心力により回動する振子と、前記振子が回動して当接すると作動する速度検出スイッチと、前記ガバナプーリから前記振子に伝達されるトルクが予め定めた設定値以上の場合に、前記ガバナプーリと前記振子の間のトルクの伝達を制限するトルクリミッターとを備える。
【0010】
本発明によるエレベーターは、昇降体と、前記昇降体に接続されたガバナロープと、前記ガバナロープが巻回されているガバナプーリを備える調速機とを備え、前記調速機は、上記の本発明によるエレベーター用調速機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、乗りかごに過剰な振動が発生しても、乗りかごの過速度の誤検出を防止できるエレベーター用調速機と、この調速機を備えるエレベーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例によるエレベーターの構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施例による調速機の正面図である。
図3】本発明の実施例による調速機の側面図である。
図4図3に示した調速機の軸受部、トルクリミッター、及びこれらの周囲の部材を示す部分拡大図である。
図5】本発明の実施例による調速機の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるエレベーター用調速機は、昇降体である乗りかごに過剰な振動が発生した場合に、ガバナプーリの回転が、ガバナプーリの回転によって回動して径方向外側に拡がる振子に伝達するのを抑制し、乗りかごの過剰な振動による加速度が振子に伝達するのを防ぐ。このため、本発明による調速機は、乗りかごに過剰な振動が発生しても、乗りかごの過速度の誤検出を防止でき、乗りかごの昇降を停止させる機構が誤作動するのを防止できる。
【0014】
以下、本発明の実施例によるエレベーター用調速機とエレベーターについて、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0015】
本実施例によるエレベーターの構成について、図1を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施例によるエレベーター25の構成例を示す概略図である。エレベーター25は、乗りかご1と、主索23と、釣合おもり24と、巻上機22と、ガバナロープ2と、調速機17と、マシンブレーキ15と、非常止め装置18と、ロープブレーキ16とを備える。
【0017】
乗りかご1は、人や荷物を載せる昇降体であり、かご側ガイドレール20に沿って昇降路内を昇降する。
【0018】
主索23は、乗りかご1と釣合おもり24とを連結する。
【0019】
巻上機22は、主索23が巻回されており、乗りかご1と釣合おもり24とを駆動してこれらを昇降させる。
【0020】
ガバナロープ2は、昇降路内に無端状に張られており、乗りかご1に接続され、調速機17のガバナプーリに巻き掛けられている。
【0021】
調速機17は、乗りかご1の昇降速度に基づいて乗りかご1を非常停止させる。
【0022】
調速機17は、乗りかご1の昇降速度が定格速度を超えて第一過速度(例えば、定格速度の1.3倍の速度)に達すると、制御部(図示せず)に停止信号を出力する。停止信号を受信した制御部は、乗りかご1を昇降させる巻上機22の電源及び巻上機22を制御する制御装置の電源を遮断する。これにより、マシンブレーキ15が作動し、乗りかご1の昇降動作が停止する。
【0023】
また、調速機17は、乗りかご1の昇降速度が第一過速度を超えて第二過速度(例えば、定格速度の1.4倍の速度)に達すると、作動レバー19を介して非常止め装置18のくさび部材を作動させて、非常止め装置18を作動させる。作動レバー19は、ガバナロープ2と非常止め装置18に連結されており、非常止め装置18を駆動する。
【0024】
非常止め装置18は、くさび部材を備え、乗りかご1に設けられている。非常止め装置18は、作動すると、くさび部材がかご側ガイドレール20を把持し、乗りかご1の昇降動作を機械的に停止させる。
【0025】
マシンブレーキ15は、作動すると、巻上機22の回転部を挟み込んで乗りかご1の昇降動作を停止させる。
【0026】
ロープブレーキ16は、戸開走行の検出時、乗りかご1の過速度の検出時、または停電時に作動し、主索23を把持して乗りかご1の昇降動作を停止させる。
【0027】
次に、本実施例による調速機17の構成について、図2図3、及び図4を参照して説明する。
【0028】
図2は、調速機17の正面図である。図3は、調速機17の側面図である。図4は、図3に示した調速機17の軸受部14、トルクリミッター10、及びこれらの周囲の部材を示す部分拡大図である。調速機17は、ガバナプーリ3と、振子5と、係合片6と、フック部8と、くさび部7と、軸受部14と、振子受9と、トルクリミッター10と、ねじ部21と、回転部材11と、ストッパー部12A、12Bを備える。
【0029】
ガバナプーリ3は、回転軸26に回転可能に支持されており、乗りかご1と連動して移動するガバナロープ2が巻回されている。ガバナプーリ3は、ガバナロープ2の移動により回転する。
【0030】
振子5は、爪部4を備え、ガバナプーリ3の側部にピンで回動可能に支持されている。振子5は、ガバナプーリ3が回転すると、遠心力によりピンを軸として回動し、爪部4がガバナプーリ3の径方向の外側に変位する。爪部4は、乗りかご1の速度が第一過速度に達すると係合片6に当接し、乗りかご1の速度が第二過速度に達するとフック部8に当接する。
【0031】
係合片6は、乗りかご1の速度が第一過速度未満では、接触子27と接触して第一過速度検出スイッチをオンにしており、乗りかご1の駆動装置に電源を供給させる。係合片6は、乗りかご1の速度が第一過速度に達して爪部4が当接すると回動し、第一過速度検出スイッチをオフにして、乗りかご1の駆動装置への電源を遮断する。係合片6と接触子27は、振子5が回動して当接すると作動する第一過速度検出スイッチを構成する。
【0032】
フック部8は、乗りかご1の速度が第二過速度未満では、くさび部7を支持している。フック部8は、乗りかご1の速度が第二過速度に達して爪部4が当接すると、くさび部7の支持を解除する。
【0033】
くさび部7は、フック部8による支持が解除されると自重により回動し、ガバナロープ2を挟んで対向する把持片13とでガバナロープ2を把持する。作動レバー19は、ガバナロープ2が把持されると引き上げられ、非常止め装置18を作動させる。
【0034】
フック部8とくさび部7は、振子5が回動して当接すると作動する第二過速度検出スイッチを構成する。第二過速度検出スイッチは、フック部8にくさび部7の支持を解除させ、非常止め装置18を作動させるスイッチである。
【0035】
軸受部14は、ガバナプーリ3の回転軸26の周りに位置し、ガバナプーリ3の回転軸26を支持する。軸受部14は、ガバナプーリ3に固定されており、ガバナプーリ3の回転とともに回転する。軸受部14には、トルクリミッター10が接続されている。
【0036】
振子受9は、振子5に固定された部材である。図2~4には、一例として、板状の振子受9を示している。振子受9は、振子5とトルクリミッター10を接続する。
【0037】
トルクリミッター10は、軸受部14と振子受9に接続され、ガバナプーリ3から振子5に伝達されるトルクが予め定めた設定値以上の場合に、ガバナプーリ3と振子5の間のトルクの伝達を制限する。すなわち、トルクリミッター10は、軸受部14から振子受9に伝達されるトルクが設定値以上になると作動し、軸受部14と振子受9の間のトルクの伝達を制限する。例えば、トルクリミッター10は、作動すると、軸受部14から振子受9に伝達されるトルクを減少させたり、軸受部14から振子受9へのトルクの伝達を遮断したりする。トルクリミッター10が作動すると、軸受部14の回転と振子受9の回転が不同期になる。
【0038】
トルクリミッター10は、既存のトルクリミッターで構成することができ、例えば、トルクリミッター10を構成する部材の摺動または分離によって、軸受部14と振子受9の間のトルク伝達を制限する。トルクリミッター10が作動するトルクの設定値は、予め任意に定めることができる。例えば、この設定値は、乗りかご1の自由落下時に軸受部14と振子受9との間に発生するトルクよりも大きい値で、調速機17が過速度を誤検出する可能性のある加速度が乗りかご1に生じた際の軸受部14と振子受9との間に発生するトルクよりも小さい値に設定することができる。
【0039】
ねじ部21は、軸受部14に設けられており、ガバナプーリ3の回転軸26の周りに位置して、ガバナプーリ3の回転軸26の延伸方向と同じ方向に延在する。例えば、ねじ部21は、軸受部14に設けられたねじ山(らせん状の突出部)である。ねじ部21は、ガバナプーリ3が回転すると、ガバナプーリ3と軸受部14とともに回転する。
【0040】
回転部材11は、ピンで振子5に固定されており、ガバナプーリ3の回転により、ガバナプーリ3の回転軸26の周りに回転し、回転軸26の延伸方向と同じ方向に直線移動が可能な部材である。例えば、回転部材11は、中央部にねじ部21が通っている板状の部材である。トルクリミッター10の作動時には、軸受部14の回転と振子受9の回転が不同期になり、ねじ部21の回転と回転部材11の回転も不同期になる。回転部材11は、ねじ部21の回転と回転部材11の回転が不同期になることで、ねじ部21の周りに回転して、ねじ部21の延在方向(すなわち、回転軸26の延伸方向)に直線移動する。
【0041】
ストッパー部12A、12Bは、回転部材11の直線移動の経路上に、回転部材11が当接可能であるように、ガバナプーリ3に固定されて設けられており、回転部材11の直線移動を停止させ、回転部材11の回転を拘束する停止部材である。例えば、ストッパー部12A、12Bは、軸受部14に設けられた板状部材(軸受部14に固定された板状部材や、軸受部14の一部である板状部材)で構成することができる。2つのストッパー部12A、12Bは、例えば、回転部材11の、ねじ部21の延在方向への移動経路上に設けられており、ねじ部21の延在方向において回転部材11を挟んで設けられている。すなわち、2つのストッパー部12A、12Bは、ねじ部21の延在方向に沿って回転部材11から互いに反対方向に位置する。
【0042】
回転部材11は、ねじ部21の周りに回転して直線移動してくと、やがてストッパー部12A、12Bの一方に当接する。ストッパー部12A、12Bに当接した回転部材11は、ストッパー部12A、12Bに拘束され、ねじ部21と、すなわち軸受部14と同期して回転する。さらに、ストッパー部12A、12Bに当接した回転部材11は、ピンで固定されている振子5とも同期して回転する。従って、回転部材11がストッパー部12A、12Bに当接すると、軸受部14の回転と振子5の回転が同期し、軸受部14の回転と振子5に固定された振子受9の回転が同期する。すなわち、回転部材11は、ストッパー部12A、12Bと当接すると、軸受部14の回転と振子受9の回転を同期させ、軸受部14と振子受9の間のトルク伝達を復帰させる。
【0043】
従って、回転部材11は、ストッパー部12A、12Bに当接すると、ガバナプーリ3の回転によってねじ部21と振子5と同期して回転することで、ガバナプーリ3の回転(すなわち、軸受部14の回転)と振子5の回転を同期させる。
【0044】
2つのストッパー部12A、12Bが回転部材11を挟んで設置されているので、回転部材11は、回転方向によらず(すなわち、直線移動の方向によらず)、ストッパー部12A、12Bに当接することができる。このため、ストッパー部12A、12Bは、回転部材11の回転方向によらず、軸受部14と振子受9の間のトルク伝達を復帰させることができる。
【0045】
次に、本実施例による調速機17の動作例を、図5を参照して説明する。
【0046】
図5は、本実施例による調速機17の動作例を示すフローチャートである。以下の説明では、トルクリミッター10が作動するトルクの設定値(トルクリミッター10の作動値)を、乗りかごに4Gの加速度が発生した際のトルクの値とする。1Gは、9.81m/sである。ストッパー部12A、12Bの位置は、回転部材11の初期位置から、ねじ部21の延在方向に沿ってねじ部21のねじ山が2つ分だけ離れた位置であるとする。なお、上記のトルクリミッター10の作動値とストッパー部12A、12Bの位置は、一例であり、任意に定めることができる。
【0047】
S1で、乗りかご1に昇降方向の振動が発生し、この振動により発生した加速度が、ガバナロープ2を介して調速機17に加わる。例えば、停電時にロープブレーキ16とマシンブレーキ15が同時に動作すると、乗りかご1の昇降方向に大きな振動が発生する。乗りかご1の振動により発生した加速度は、ガバナロープ2を介してガバナプーリ3を回転させ、ガバナプーリ3の軸受部14を回転させる。軸受部14に発生したトルクは、トルクリミッター10を介して軸受部14から振子受9に伝達される。
【0048】
S2とS3で、軸受部14から振子受9に伝達されるトルク(軸受部14に発生したトルク)が、トルクリミッター10の作動値以上の場合には、トルクリミッター10が作動する。
【0049】
S4で、トルクリミッター10は、作動すると、軸受部14から振子受9に伝達されるトルク量を制限する。例えば、トルクリミッター10は、軸受部14から振子受9に伝達されるトルクを減少させたり、軸受部14から振子受9へのトルクの伝達を遮断したりする。トルクリミッター10が作動すると、軸受部14の回転と振子受9の回転が不同期になり、軸受部14と振子受9との間で回転に位相差が生じる。
【0050】
軸受部14の回転と振子受9の回転が不同期になると、ねじ部21の回転と回転部材11の回転も不同期になり、回転部材11は、ねじ部21の周りに回転しながら、ねじ部21の延在方向に直線移動する。ストッパー部12A、12Bが、回転部材11からねじ部21のねじ山が2つ分だけ離れた位置にあるので、回転部材11は、軸受部14と振子受9との間の回転の位相差が2回転以上になると、ストッパー部12A、12Bの一方に当接する。
【0051】
S5で、軸受部14と振子受9との間の回転の位相差が、2回転未満であればS6に進み、2回転以上であればS7に進む。
【0052】
S6で、軸受部14から振子受9に伝達されるトルク(軸受部14に発生したトルク)が、トルクリミッター10の作動値未満である場合には、S9に進む。軸受部14から振子受9に伝達されるトルクが、トルクリミッター10の作動値以上の場合には、S5に戻る。
【0053】
S7で、軸受部14と振子受9との間の回転の位相差が2回転以上であるので、回転部材11は、ストッパー部12A、12Bの一方に当接する。ストッパー部12A、12Bが回転部材11を挟んで設置されているので、回転部材11は、回転方向によらず、回転の位相差が2回転以上になるとストッパー部12A、12Bの一方に当接する。
【0054】
S8で、回転部材11は、ストッパー部12A、12Bの一方に当接すると、軸受部14と同期して回転するとともに振子5と同期して回転し、軸受部14の回転と振子受9の回転を同期させる。これにより、制限されていた軸受部14と振子受9との間のトルクの伝達が復帰する。
【0055】
S8の処理は、軸受部14と振子受9の回転位相差が2回転以上の場合(S5)に実行される。この処理は、例えば、トルクリミッター10の作動中に主索23が切れた場合やトルクリミッター10が故障した場合等の、想定外の事態に対する安全策として、軸受部14と振子受9の回転位相差が大きい場合(例えば、回転位相差が2回転以上の場合)に、軸受部14の回転と振子受9の回転を強制的に同期させる処理でもある。
【0056】
S9で、トルクリミッター10は、作動していない状態に復帰し、伝達するトルク量を制限せずに軸受部14から振子受9へトルクを伝達する。軸受部14から振子受9に伝達されるトルクがトルクリミッター10の作動値未満になった場合(S6)では、トルクリミッター10は、自動的に復帰して、軸受部14から振子受9へトルクを通常通りに(すなわち、伝達するトルク量を制限せずに)伝達する。回転部材11がストッパー部12A、12Bの一方に当接した場合(S7)では、軸受部14の回転と振子受9の回転を強制的に同期させることで、軸受部14と振子受9との間のトルクの伝達が復帰し(S8)、トルクリミッター10が復帰する。
【0057】
S10で、トルクリミッター10が作動しない場合(S2)と、トルクリミッター10が復帰した場合(S9)には、トルクの伝達が制限されずに、ガバナプーリ3の回転が振子5に伝達され、調速機17は、通常の動作(トルクリミッター10が作動していない状態での動作)を行う。
【0058】
以上説明したように、本実施例による調速機17は、軸受部14と振子受9に接続されたトルクリミッター10を備え、乗りかご1に過剰な振動が発生した場合に、ガバナプーリ3の回転が振子5に伝達するのを抑制し、振子5の爪部4がガバナプーリ3の径方向外側に変位するのを抑制する。本実施例による調速機17は、乗りかご1に過剰な振動が発生しても、この振動による加速度が振子5に伝達するのを防ぎ、乗りかご1の過速度の誤検出を防止できる。
【0059】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…乗りかご、2…ガバナロープ、3…ガバナプーリ、4…爪部、5…振子、6…係合片、7…くさび部、8…フック部、9…振子受、10…トルクリミッター、11…回転部材、12A、12B…ストッパー部、13…把持片、14…軸受部、15…マシンブレーキ、16…ロープブレーキ、17…調速機、18…非常止め装置、19…作動レバー、20…かご側ガイドレール、21…ねじ部、22…巻上機、23…主索、24…釣合おもり、25…エレベーター、26…回転軸、27…接触子。
図1
図2
図3
図4
図5