(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】両軸受けリール、及びその制動ユニット
(51)【国際特許分類】
A01K 89/0155 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
A01K89/0155
(21)【出願番号】P 2020173654
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】沖島 渓
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-333810(JP,A)
【文献】特開2016-220547(JP,A)
【文献】実開平04-074968(JP,U)
【文献】特開2004-166608(JP,A)
【文献】実開平03-122669(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 - 89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体の側板間に回転可能に設けられたスプールと、
前記スプールと一体回転するスプール軸と、
前記リール本体の一方の側板に設けられ、前記スプール軸の回転を制動するスプール制動装置と、
を備えた両軸受けリールにおいて、
前記スプール制動装置は、
前記一方の側板の支持部に、回転操作で軸方向に移動可能に取着される連結部材と、
前記連結部材の外周部に、連結部材と一体回転且つ着脱可能に取着される第1の操作部材と、
前記連結部材に設けられ、回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸の回転に制動力を付与する第2の操作部材と、
を備えており、
前記連結部材に取着される前記第1の操作部材と前記第2の操作部材の夫々の回転操作で、前記スプール軸に対する制動力を調整可能と
し、
前記連結部材は、前記一方の側板の支持部の外周に螺合する内周螺合部と、前記第2の操作部材の内周に螺合する外周螺合部を備えていることを特徴とする両軸受けリール。
【請求項2】
前記内周螺合部と前記外周螺合部の各螺合ピッチは、異なるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の両軸受けリール。
【請求項3】
リール本体の側板間に回転可能に設けられたスプールと、
前記スプールと一体回転するスプール軸と、
前記リール本体の一方の側板に設けられ、前記スプール軸の回転を制動するスプール制動装置と、
を備えた両軸受けリールにおいて、
前記スプール制動装置は、
前記一方の側板の支持部に、回転操作で軸方向に移動可能に取着される連結部材と、
前記連結部材の外周部に、連結部材と一体回転且つ着脱可能に取着される第1の操作部材と、
前記連結部材に設けられ、回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸の回転に制動力を付与する第2の操作部材と、
を備えており、
前記連結部材に取着される前記第1の操作部材と前記第2の操作部材の夫々の回転操作で、前記スプール軸に対する制動力を調整可能とし、
前記連結部材と第1の操作部材は、軸方向に沿って着脱可能となるように、回り止め嵌合されており、
前記連結部材の外周面には、周方向沿って連続的に外周凹凸部が形成されており、前記第1の操作部材の内周面には、前記連結部材の外周面に形成された前記外周凹凸部と係合する内周凹凸部が形成されていることを特徴とする両軸受けリール。
【請求項4】
リール本体の側板間に回転可能に設けられたスプールと、
前記スプールと一体回転するスプール軸と、
前記リール本体の一方の側板に設けられ、前記スプール軸の回転を制動するスプール制動装置と、
を備えた両軸受けリールにおいて、
前記スプール制動装置は、
前記一方の側板の支持部に、回転操作で軸方向に移動可能に取着される連結部材と、
前記連結部材の外周部に、連結部材と一体回転且つ着脱可能に取着される第1の操作部材と、
前記連結部材に設けられ、回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸の回転に制動力を付与する第2の操作部材と、
を備えており、
前記連結部材に取着される前記第1の操作部材と前記第2の操作部材の夫々の回転操作で、前記スプール軸に対する制動力を調整可能とし、
前記第1の操作部材と前記第2の操作部材は、前記連結部材と共にユニット化されていることを特徴とする両軸受けリール。
【請求項5】
前記第1の操作部材、及び、前記第2の操作部材は、前記連結部材の径方向外側に配設されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の両軸受けリール。
【請求項6】
前記第1の操作部材はレバー形状に形成され、前記第2の操作部材はダイヤル形状に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の両軸受けリール。
【請求項7】
両軸受けリールのリール本体の側板間に回転可能に設けられたスプールと一体回転するスプール軸の回転に制動力を付与するプール制動装置を構成する制動ユニットであって、
前記リール本体の一方の側板に設けられた支持部に、回転操作で軸方向に移動可能に取着される連結部材と、
前記連結部材の外周部に、連結部材と一体回転且つ着脱可能に取着される第1の操作部材と、
前記連結部材に設けられ、回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸の回転に制動力を付与する第2の操作部材と、
を備えており、
前記連結部材には、前記第1の操作部材を回転操作した際、前記第2の操作部材を一体回転させて前記スプール軸に対して制動力を付与すると共に、前記第2の操作部材を回転操作した際、前記第1の操作部材を回転させることなく前記スプール軸に対して制動力を付与する連結手段が設けられており、
前記連結部材は、前記一方の側板の支持部の外周に螺合する内周螺合部と、前記第2の操作部材の内周に螺合する外周螺合部を備えていることを特徴とする制動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸放出時において、スプールのフリー回転に対して制動力を付与することが可能なスプール制動装置を備えた両軸受けリール、及びその制動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に両軸受けリールには、両側板間に回転自在に支持されたスプールと一体回転するスプール軸の端部を軸方向に押圧してスプールの左右のガタ付きを調整する調整機構を備えている。この調整機構は、側板に設けたダイヤル状の調整部材を前後方向に回転操作することでスプール軸端部の軸方向押圧力を調整し、スプールの回転に制動力を付与するキャストコントロール機構(スプール制動装置とも称する)としての機能を備えている。
【0003】
このようなキャストコントロール機構として、特許文献1には、ダイヤル状の調整部材の外周に、周方向の位置を調整可能にする操作レバーを着脱可能にする構成が開示されている。また、特許文献2には、制動力を調整する回動可能な制動レバーを揺動方向の何れか一方に付勢する付勢手段を設けてクラッチ機構に連動させ、キャスティング時に揺動レバーを押圧し、着水時にその手を離すことで制動状態を解除する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6649699号
【文献】特開2000-262194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に開示された構成は、制動力の調整を調整部材に一体的に取着された操作レバーの回転操作で行なうことになるが、操作レバーの前後方向の揺動範囲は限られている。このため、仕掛けの放出状況に変化(例えば、仕掛けを海中に繰り出す釣法に使用する場合は、魚種や魚層の水深、仕掛けの重さ、潮流、スプール軸端部の摩耗等)が生じると、調整部材の外周に取着した操作レバーを取り外し、再度、調整部材を回転操作してスプール軸端の押圧力を加減、調整してスプール制動の初期設定をし直してから、操作レバーを再度取着する必要があり、実釣時の調整作業が非常に煩わしい。更に、制動力の再設定作業を揺れる船上等で行なう場合は、特に不快であると共に、調整部材や操作レバーを落下、紛失してしまう可能性があり、実釣時に不具合が生じ易い。
【0006】
また、上記した特許文献2に開示された構成は、クラッチ機構に連動する制動レバーの押圧操作でスプール回転に制動力を付与する構成(仕掛けの着水時に、制動レバーから手を離すことで制動状態を解除する構成)であるので、制動タイミングが制約されて仕掛けの沈降具合等、釣り場の状況に適切に対応することができない。また、押圧部を一体的に形成した制動レバーを備える構造のために、リール本体の側板の支持部に装着する際、レバー形態で角度範囲が制約されてしまい、都合の良い制動力の初期状態に、容易且つ適切に取着することができない。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、スプール軸に対する制動力の調整及び初期設定が迅速かつ容易に行えるスプール制動装置を備えた両軸受けリール、及びその制動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、リール本体の側板間に回転可能に設けられたスプールと、前記スプールと一体回転するスプール軸と、前記リール本体の一方の側板に設けられ、前記スプール軸の回転を制動するスプール制動装置と、を備えた両軸受けリールにおいて、前記スプール制動装置は、前記一方の側板の支持部に、回転操作で軸方向に移動可能に取着される連結部材と、前記連結部材の外周部に、連結部材と一体回転且つ着脱可能に取着される第1の操作部材と、前記連結部材に設けられ、回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸の回転に制動力を付与する第2の操作部材と、を備えており、前記連結部材に取着される前記第1の操作部材と前記第2の操作部材の夫々の回転操作で、前記スプール軸に対する制動力を調整可能としたことを特徴とする。
【0009】
上記した構成の両軸受けリールのスプール制動装置は、軸方向に移動する連結部材に取着される第1の操作部材と第2の操作部材のそれぞれの回転操作で、スプール軸に対して制動力が付与されるようになっている。このため、第2の操作部材を回転操作することで、制動力の初期設定を適切に行なうことが可能となり、その初期設定の状態で、第1の操作部材を回転操作するか、或いは、第2の操作部材を回転操作することで、スプール軸に対する制動力を変更、調整することが可能となる。このため、仕掛けの放出状況に変化が生じた際、単に第2の操作部材を回転操作することで、初期の制動力を加減、調整し直すことができ、調整操作を迅速かつ容易に行えるようになる。また、第1の操作部材及び第2の操作部材を取り外す必要もないので、操作部材を落下したり、紛失するようなこともない。
【0010】
なお、上記したようなスプール制動装置は、前記連結部材、第1の操作部材、及び、第2の操作部材をユニット化(制動ユニット)することができ、このような構成要素がユニット化されることで、既存の各種の両軸受けリールに対して装着することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スプール軸に対する制動力の調整及び初期設定が迅速かつ容易に行えるスプール制動装置を備えた両軸受けリール、及びその制動ユニットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る両軸受けリールの一実施形態を後方から見た図。
【
図2】
図1の両軸受けリールをハンドル装着側から見た側面図。
【
図4】スプール制動装置を示す図であり、(a)は一部断面斜視図、(b)は連結部材の斜視図。
【
図8】スプール制動装置の第2の実施形態を示す図(
図3に示した構成のC-C線位置での断面図)。
【
図9】スプール制動装置の第3の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る両軸受けリールの実施形態について説明する。
図1から
図6は、本発明に係る両軸受けリール、及び、それに組み込まれるスプール制動装置の実施形態を示す図であり、
図1は後方から見た図、
図2はハンドル装着側から見た側面図、
図3は
図1のA-A線に沿った拡大断面図、
図4はスプール制動装置を示す図であり、(a)は一部断面斜視図、(b)は連結部材の斜視図、
図5は
図3のB-B線に沿った要部拡大断面図、そして、
図6はスプール制動装置の分解図である。
【0014】
本実施形態に係る両軸受けリール1は、左右のフレーム2a,2bを左右カバー3a,3bで覆った左右側板4A,4Bを備えたリール本体1Aを有している。前記左右の側板間には、軸受5a(右側板側のみ図示)を介してスプール軸5が回転可能に支持されており、スプール軸5には、釣糸が巻回されるスプール7が一体的に固定されている。
【0015】
前記スプール7は、釣糸が巻回される糸巻胴部7aと、その左右両側に一体形成されるフランジ部7bとを備えており、釣糸は、左右のフランジ部7bに規制されて糸巻胴部7aに巻回される。また、スプール軸5は、右側板4B内に突出しており、その突出部分には、以下の動力伝達機構、クラッチ機構及びスプール制動装置が配設されている。
【0016】
前記リール本体1Aには、スプール7を回転駆動するハンドル8が設けられている。本実施形態では、ハンドル8を右側板4B側に設置しており、右フレーム2bと右カバー3bとの間には、ハンドル8の回転駆動力をスプール軸5に伝達する動力伝達機構10が配設されている。動力伝達機構10は、公知のように、ハンドル8が取り付けられるハンドル軸8aに回転可能に装着されたドライブギア12と、ドライブギア12に噛合するピニオンギア13とを備えており、ピニオンギア13は、スプール軸5を囲繞した状態で、一対の軸受5bを介して回転可能、かつ、軸方向に沿って移動可能に支持されている。
なお、ドライブギア12には、公知のドラグ機構14が配設されており、ハンドル軸8aに設けられるドラグノブ14Aを回転操作することで、ハンドル軸8aとドライブギア12との間の摩擦係合力を調整し、スプール7の回転に対して所望のドラグ力を付与できるように構成されている。
【0017】
また、右フレーム2bと右カバー3bとの間には、スプール軸5を動力伝達状態と動力遮断状態に切り換える公知のクラッチ機構15が配設されている。このクラッチ機構は、スプール7の後方側の左右側板間に配設されたクラッチ切り換え操作部材20を押し下げ操作することで、クラッチON状態(動力伝達状態)からOFF状態(動力遮断状態;スプールフリー回転状態)に切り換えるように構成されている。
【0018】
前記クラッチ機構15は、公知のように、前記ピニオンギア13の一部に周方向に沿って形成された円周溝13aに係合するクラッチ部材16と、右フレーム2bに移動可能(スライド移動又は回動移動)に支持されたカム部材17と、左右フレーム2a,2b間でスプール後方に配置され、カム部材17に連結部材18を介して連結されるクラッチ操作部材20とを備えている。そして、前記クラッチ部材16は、付勢部材22の付勢力によって、常時、スプール側に付勢された状態(スプール軸5に設けられた係合ピン5cにピニオンギア13の端面が嵌合した状態;動力伝達状態)となっている。
【0019】
前記クラッチ部材16は、カム部材17に形成されたカム(図示せず)が係合可能となっており、前記クラッチ操作部材20の押し下げ操作(クラッチON状態からクラッチOFF状態への切換操作)によって連結部材18を介してカム部材17が移動すると、前記クラッチ部材16は、カム部材17のカム作用によって付勢部材22の付勢力に抗して、
図3中、右側に向けて駆動される。すなわち、クラッチ部材16と係合関係にあるピニオンギア13は、クラッチ操作部材20の押し下げ操作(クラッチOFF操作)によって、カム部材17を介してスプール軸5に沿って右側に移動され、前記係合ピン5cとの係合が外れて、クラッチOFF状態(スプールフリー回転状態)となる。
【0020】
なお、クラッチOFF状態からクラッチON状態への復帰は、公知の復帰機構を介してハンドル8を回転操作することで行うことが可能であり、また、前記クラッチ操作部材20の押し上げ操作でも行うことが可能となっている。
【0021】
また、ハンドル側の側板(右側板)4Bには、スプール軸5に当接して制動力を付与するスプール制動装置(キャストコントロール機構)30が配設されている。
以下、本実施形態におけるスプール制動装置30の構成について説明する。
【0022】
スプール制動装置30は、スプール軸5の軸線上に配設されており、右側板4Bの右カバー3bに突出形成された筒状の支持部(ボス)31に関連して設けられている。支持部31の基端側内面には、前記軸受5bが配設されて、前記ピニオンギア13を回転可能に支持しており、前記スプール軸5は、支持部31の中心部分に位置して軸方向に延在している。
【0023】
前記スプール制動装置30は、前記支持部31に、回転操作(回転駆動)で軸方向に移動可能に取着される連結部材33と、連結部材33の外周部に、連結部材と一体回転且つ着脱可能に取着される第1の操作部材35と、連結部材33に設けられ、回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸5の回転に制動力を付与する第2の操作部材37と、を備えている。
【0024】
前記連結部材33は、
図4(b)に示すように、略円筒形状に形成されており、前記支持部31に対して外嵌されるようになっている。具体的に、本実施形態では、前記支持部31の外周に雄螺子部31aが形成されると共に、前記連結部材33の内周に雌螺子部(内周螺合部)33aが形成されており、両者が螺合することで、連結部材33は支持部31に対して外嵌された状態で軸方向に移動可能に連結されている。
【0025】
前記第1の操作部材35は、連結部材33の径方向外側に、回り止めされた状態で連結部材33と共に一体回転可能となるように取着されている。本実施形態の第1の操作部材35は、
図5に示すように、レバー形状に形成されており、スプール軸5の軸心に対して径方向に突出する操作部35Aと、前記連結部材33に対して回り止め固定されるリング状の基部35Bとを備えている。基部35Bは、前記連結部材33の基端側の外面との間で断面非円形の嵌合構造にする等、回り止めされた状態で外嵌されていれば良いが、
図5に示すような回り止め構造になっていることが好ましい。すなわち、連結部材33の基端側の外周には、周方向沿って連続的に外周凹凸部33bが形成されており、第1の操作部材35の基部35Bの内周には、前記連結部材33の外周凹凸部33bと係合する内周凹凸部35bが形成されており、両者が凹凸係合するようになっている。この場合、第1の操作部材35は、連結部材33に対して、基部35Bを軸方向に沿って嵌め込むことで両凹凸部は係合できるようになっており、第1の操作部材35は、連結部材33に対して軸方向に着脱可能に回り止め嵌合される構成となっている。
【0026】
前記第2の操作部材37は、第1の操作部材35と併設されており、連結部材33の径方向外側に設けられ回転操作で軸方向に移動して前記スプール軸5の回転に制動力を付与するよう構成されている。本実施形態の第2の操作部材37は、周壁部37A及び天板部37Bを備えたキャップ状(ダイヤル形状)に形成されており、前記連結部材33に対して螺合結合されている。すなわち、周壁部37Aの内周には、雌螺子部37aが形成されると共に、連結部材33の外周には、雄螺子部(外周螺合部)33cが形成されており、両者が螺合することで、第2の操作部材37は連結部材33に対して外嵌された状態で軸方向に移動可能に連結されている。この場合、第2の操作部材37の天板部37Bの裏面には、スプール軸5の端面に対して摩擦係合する押圧部37Cが取着されており、第2の操作部材37が軸方向に移動してスプール軸5の端面に対する押圧力が変わることでスプール軸5に対する制動力が調整されるようになっている。また、周壁部37Aの外周に、周方向に連続する凹凸37eを形成する等、粗面化して回転操作時に滑らないようにすることが好ましい。
【0027】
前記連結部材33に取着される第1の操作部材35と第2の操作部材37は、夫々を回転操作することで、スプール軸5に押圧力を付与してスプール軸5(スプール7)に対する制動力を調整可能としている。具体的に、前記連結部材33には、第1の操作部材35を回転操作した際、第2の操作部材37を一体回転させてスプール軸5に対して制動力を付与(第2の操作部材37を連結部材33と共に軸方向に移動させる)し、かつ、第2の操作部材37を回転操作した際、第1の操作部材35を回転させることなく(連結部材33を軸方向に移動させない)、第2の操作部材37の軸方向移動でスプール軸5に対して制動力を付与する機能を備えた連結手段が設けられている。
【0028】
本実施形態の連結手段は、第1の操作部材35が設けられる部分において、支持部31と連結部材33との間に介在される第1の弾性材(弾性Oリング)40と、連結部材33と第2の操作部材37との間に介在される第2の弾性材(弾性Oリング)41とを備えて構成されている。前記第1の弾性材40は、支持部31の基端側の外周に形成された環状溝31dに嵌合、固定されており、前記第2の弾性材41は、連結部材33の基端側外周に形成された環状溝33dに嵌合、固定されている。
この場合、第1の弾性材40及び第2の弾性材41は、第1の操作部材35が回転操作された際、摩擦作用(一体回転する連結部材33と第2の操作部材37との間で生じる摩擦力)によって第2の操作部材37が一体回転するように設定され、かつ、第2の操作部材37が回転操作された際、第1の操作部材35、すなわち、連結部材33を連れ回さないように設定されている。
【0029】
これにより、第1の操作部材35を回転操作すると、連結部材33は、一体的に回転駆動されると共に、支持部31との螺合結合により支持部31に対して軸方向に移動する。この際、第2の操作部材37は、上記したように、第2の弾性材41によって連れ回りしながら軸方向に一体的に移動することから、スプール軸5の端面には、その移動量に応じた摩擦力(押圧部37Cによる摩擦力)が作用するようになる。一方、第2の操作部材37を回転操作すると、第2の弾性材41によって連結部材33に回転力が加わるが、前記第1の弾性材40及び第2の弾性材41による摩擦力は、連結部材33の回転(連れ回り)を阻止し、第2の操作部材37のみが回転するように設定されている。これにより、第2の操作部材37は、固定状態にある連結部材33に対して軸方向に移動するため、スプール軸5の端面には、その移動量に応じた摩擦力(押圧部37Cによる摩擦力)が作用するようになる。
【0030】
次に、
図6を参照して、上記したスプール制動装置30の装着方法の一例について説明する。
まず、右側板4Bの右カバー3bに突出形成された支持部31の外周に形成された雄螺子部31aに対して連結部材33の雌螺子部33aを適宜量螺合させる。次に、この状態で、第1の操作部材35を軸方向から挿入し、基部35Bの内周に形成された内周凹凸部35bを、連結部材33の基端側の外周に形成された外周凹凸部33bに回り止め係合させ、その後、軸方向外側から締結部材(ナット)45Aで抜け止め固定する。
【0031】
なお、本実施形態では、第1の操作部材35は、上記したように、レバー形状に形成されているため、内周凹凸部35bを外周凹凸部33bに回り止め係合する際、その操作部35Aの位置(初期設定位置)を、例えば、
図2の実線で示す位置にする等、周方向の所望に位置に微調整することが可能である。また、第1の操作部材35は、レバー形状に形成されているため、その操作範囲(操作角度)が大きすぎると他の部材(ハンドル軸が配設されるボス8A等)と干渉してしまうことから、
図2の実線及び点線で示すように、操作角度を一定範囲(例えば120°程度)になるように規制しても良い。例えば、支持部31及び連結部材33にストッパ等を設けておくことで、その第1操作部材35の操作角度(回転角度)を規制することが可能である。
【0032】
そして、前記第1の操作部材35を締結部材45Aで抜け止め固定した後、第2の操作部材37を軸方向から挿入し、その内周に形成された雌螺子部37aを連結部材33の外周に形成された雄螺子部33cに螺合することで、第2の操作部材37が装着される。
このように、スプール制動装置30の第1の操作部材35及び第2の操作部材37は、並設されると共に、連結部材の径方向外側に配設される構造であることから、側板(カバー部材)に突出形成された支持部31に対して容易に組み付けることが可能である。この場合、第1の操作部材35と第2の操作部材37は、連結部材33と共に制動ユニット50として、予めユニット化しておいても良い。すなわち、このような制動ユニット50にすることで、着脱操作が容易に行えると共に、既存の両軸受けリールにおけるスプール制動装置の調整部材(回転摘み)を取り外して交換することも可能となり、後付けユニット(交換パーツ)として、各種の両軸受けリールに上記したスプール制動装置30を組み込むことも可能となる。
【0033】
以上のように構成されたスプール制動装置30の動作(使用例)について説明する。
本実施形態では、円筒状の連結部材33に対して、第1の操作部材35及び第2の操作部材37を径方向外側に並設するように設けているため、相互の回転操作が容易に行えるようになる。
この場合、第1の操作部材35を回転操作すると、連結部材33は一体的に回転駆動されながら軸方向に移動するので、連結部材33に取着された第2の操作部材37の押圧部37Cを介してスプール軸5に所望の制動力を付与することができる。また、第2の操作部材37を回転操作すると、連結部材33を回転させることなく(連結部材33を軸方向に移動させることなく)、第2の操作部材37が軸方向に移動してスプール軸5に所望の制動力を付与することができる。このように、本実施形態では、前記連結部材33を、支持部31との間で、内周螺合部33aによる螺合結合によって軸方向に移動する構成としたので、スプール軸5に対して安定した制動力を作用させることができる。
【0034】
上記した構成によれば、制動力の調整範囲の変更は、第1の操作部材35と第2の操作部材37を夫々自在に操作することで、実釣条件に最適な制動力に迅速かつ容易に設定できる。特に、第1の操作部材35は、レバー形状になっているので、僅かな手の動きの範囲で制動力の設定操作ができ、操作性が良く、不要なトラブルも回避できる。また、側板に突出形成された支持部31に、連結部材33を介して第1の操作部材35と第2の操作部材37を取着できるので、レバー形状の操作部材であっても、都合の良い制動力の初期状態に容易かつ適切に取着することができる。
【0035】
さらに、前記第2の操作部材37を回転操作することで、第1の操作部材35の制動力の初期設定を適切に行なう(変更する)ことができ、その初期設定の状態からレバー形状の第1の操作部材35を回転操作することで瞬時に制動力を変更することが可能となる。この場合、連結部材33の内周螺合部33aと外周螺合部33cの各螺合ピッチを異なるように形成することが好ましい。すなわち、第1の操作部材35の回転操作量による連結部材33の軸方向移動量、及び、第2の操作部材37の回転操作量による軸方向移動量を変えることで、一方を粗調整、他方を微調整とすることができる。例えば、
図4に示すように、連結部材33の内周螺合部33aの螺合ピッチを大きくし、外周螺合部33cの螺合ピッチをそれよりも小さくすることで、第1の操作部材35は、粗調整用として制動力を変更することができ、第2の操作部材37は、微調整用として制動力を変更することができる。
【0036】
なお、制動力を粗調整する範囲は、第1の操作部材35の操作範囲に依存するが、仕掛けの放出状況に変化が生じて第1の操作部材35の初期設定位置における制動力を変えたい場合(第1の操作部材35の操作範囲における制動力を変えたい場合)、単に第2の操作部材37を回転操作することで、初期の制動力を加減、調整し直すことができ、調整操作を迅速かつ容易に行えるようになる。そして、この操作に際しては、第1の操作部材35及び第2の操作部材37を取り外す必要もないので、揺れる船上でも容易に調整操作が行なえると共に、操作部材を落下したり、紛失するようなこともない。
以上のように、本発明によれば、スプール軸5に対する制動力の調整及び初期設定が迅速かつ容易に行えるようになる。
【0037】
図7は、スプール制動装置30の変形例を示した分解図である。
この変形例では、連結部材33に第2の操作部材37を螺合一体化した状態(制動部をユニット化した状態)で、これを側板の支持部31に取着し、スプール軸5に対する制動力の初期設定を行なった後、第1の操作部材35を軸方向から挿入し、基部35Bの内周凹凸部35bを連結部材33の外周凹凸部33bに対して回り止め嵌合し、第1の操作部材35を締結部材45Aで抜け止め固定するようにしている。
このような構成は、第2の操作部材37の外径よりも、第1の操作部材35の基部35Bの内径(開口径)を大きく形成することで可能となる。
【0038】
このような構成によれば、第1の操作部材35の初期位置(操作部35Aの初期位置)を変更したい場合、第2の操作部材37を連結部材33から取り外す必要が無いので、初期位置の変更操作が容易に行えるようになる。
【0039】
図8は、スプール制動装置の第2の実施形態を示す図であり、要部を示す図(
図3に示した構成のC-C線位置での断面図)である。
上記した実施形態では、連結部材33に設けられる連結手段を、第1の弾性材(弾性Oリング)40、及び、第2の弾性材(弾性Oリング)41で構成したが、これ以外にも種々変形することが可能である。例えば、カム作用を利用した双方向クラッチによって構成することが可能である。
具体的には、連結部材33の第2の操作部材37の内周面と対向する外周面に、カム作用を奏する湾曲底面を備えた凹部33eを形成しておき、この凹部33eにボール60を収容することで構成することが可能である。この場合、ボール60と第2の操作部材37の内周面との間には、前記ボール60が微動可能な僅かな隙間が形成されている。
【0040】
このような構成では、第1の操作部材35と一体回転する連結部材33の両方向の回転で、ボール60が湾曲底面によって径方向外方に押し出され、第2の操作部材37を同方向に一体回転させることができる。一方、第2の操作部材37を回転操作しても、ボール60は押出作用を受けない(押出が弱い)ことから、第2の操作部材37は、単独の回転操作が許容される。このようなカム作用については、凹部33eの湾曲底面の勾配、ボール接触部位の摩擦係数等を考慮して最適な条件に設定すれば良い。
【0041】
図9は、スプール制動装置の第3の実施形態を示す図である。
本発明に係る両軸受けリールに組み込まれるスプール制動装置では、スプール軸5に対して制動力を作用させる方法については適宜、変形することが可能であり、上記した実施形態のように、スプール軸5の端面にスラスト方向の押圧力を作用させる以外にも、スプール軸5の表面部分に制動力を作用させる構成であっても良い。
例えば、
図9に示す制動方法は、スプール軸5の端部を、支持部31に当て付けた軸受5dで回転可能に支持すると共に、ストッパ71を介在してワンウェイクラッチ70を配設して制動力を発生するようにしている。
【0042】
このワンウェイクラッチ70の外輪には、軸方向外側から押圧部材75が当て付けられており、この押圧部材75には、第2の操作部材37が軸方向に移動した際、天板部37Bの裏面に配設された板バネ76を介してスラスト方向に押圧力が作用するようになっている。
このような構成では、第2の操作部材37の軸方向位置に応じて、ワンウェイクラッチの外輪に制動力が作用し、その制動力に応じて、スプール軸5の回転(釣糸繰り出し方向の回転)に対して制動力を発生させることができる。また、このようなワンウェイクラッチによる制動方法では、釣糸繰り出しに伴うスプール軸5の回転に制動力を付与し、ハンドルを回転操作してスプール軸5を巻き取り方向に回転駆動した際、スプール軸5に不要な制動力を作用させないことも可能となる。
【0043】
上記したスプール制動装置では、第1の操作部材35を回転操作したときに連結部材33を軸方向に移動させて第2の操作部材37を介してスプール軸5に対して制動力を作用させ、かつ、第2の操作部材37を回転操作したときに第1の操作部材35を回転させない(連結部材33を軸方向に移動させない)ように構成されていれば、連結部材33を軸方向に移動させる手段については適宜、変形することが可能である。
上記した実施形態では、連結部材33に内周螺合部33aを形成して、第1の操作部材35の回転操作によって連結部材を軸方向へ移動させていたが、回転力を軸方向移動に変換させる構成であれば良く、例えば、カム構造によって、同様な機能を発揮させる構造であっても良い。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
本発明に係る両軸受けリールは、スプール軸5に当接して制動力を付与するスプール制動装置30に特徴があり、両軸受けリールの構成については適宜変形することが可能である。また、スプール制動装置30の構成要素である連結部材33は、第1の操作部材35を回転操作した際、第2の操作部材37を一体回転させてスプール軸5に対して押圧力を付与すると共に、第2の操作部材37を回転操作した際、第1の操作部材35を回転させることなく、第2の操作部材37の軸方向移動でスプール軸5に対して押圧力を付与するように構成されていれば、上記した連結手段の構成についても適宜変形することが可能である。また、第1の操作部材35及び第2の操作部材37の構成、配置態様についても適宜変形することが可能である。例えば、第1の操作部材35は、第2の操作部材よりも大径のダイヤル形状にしても良い。さらに、スプール制動装置30は、反ハンドル側の側板に配設されていても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 両軸受けリール
1A リール本体
4A,4B 側板
5 スプール軸
7 スプール
30 スプール制動装置
31 支持部
33 連結部材
35 第1の操作部材
37 第2の操作部材
50 制動ユニット