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特許7376478リポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】リポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
G01N33/86
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020529063
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2019026804
(87)【国際公開番号】W WO2020009221
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018128794
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591122956
【氏名又は名称】株式会社LSIメディエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】門脇 淳
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0182225(US,A1)
【文献】特表2004-528534(JP,A)
【文献】特表2003-510610(JP,A)
【文献】米国特許第04529561(US,A)
【文献】特開2004-191320(JP,A)
【文献】特表昭61-502908(JP,A)
【文献】特開2017-181265(JP,A)
【文献】特表2003-516525(JP,A)
【文献】特表2008-530208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/86,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームを含有する液状血液凝固能測定用試薬であって、
該リポソームの351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満である、液状血液凝固能測定用試薬。
【請求項2】
前記試薬が、活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬、プロトロンビン時間測定試薬、複合因子測定試薬、特定因子活性測定試薬、又は血液凝固因子阻害剤測定試薬である、請求項1に記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の中で、血液凝固因子の活性に起因する病態を検査する血液凝固能の検査は一般に行われている検査である。それらの中で、リン脂質からなる二重層膜であるリポソームを含有する検査方法が利用されている。活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定、プロトロンビン時間(PT)測定、それを用いた凝固因子定量検査、複合因子測定、凝固阻害剤の定量検査などが挙げられる。
【0003】
リポソームは生体由来のリン脂質から構成される二重層膜である。リポソームは、医薬品用製剤、化粧品材料、体外診断薬材料、ドラッグデリバリーシステム等に応用されている。
【0004】
血液凝固反応は複数の凝固因子のカスケードによって達成されるが、その反応の大部分はリン脂質の膜表面上で進行する。リン脂質の親水基部分は凝固因子と結合する上でホスファチジルセリン(PS)又はホスファチジルグリセロー(PG)のような陰性荷電が重要である。一方、リン脂質の脂肪酸側鎖に起因するリン脂質膜の流動性も凝固反応に大きく影響することが知られている。流動性を大きくする不飽和脂肪酸を含むリポソームの方が、活性が高いことが知られている。
【0005】
生理的止血は、傷害部位に露呈される組織因子(TF)と活性化第VII因子の結合によって開始される外因系と、TF非依存的に開始される内因系凝固系があり、出血や病的血栓形成は外因系によると考えられている。APTTはこの反応を試験管内で再現するものであり、被験血漿に試薬を添加し各凝固因子の活性化により産生したトロンビンがフィブリノゲンをフィブリンに転化するまでの時間を測定する。APTTは内因系(第XII、XI、IX、VIII、X、V、II因子、フィブリノゲン)異常を検出する。APTT異常時の精密検査である内因系凝固因子活性定量、後天性血友病ならびにループスアンチコアグラントの検出、鑑別検査であるクロスミキシング試験、または、ヘパリン投与のモニタリングにも利用される。
【0006】
APTTに求められる性能として、血液凝固因子や、ヘパリンなどの抗凝固薬に対して感受性が高いことが挙げられるが、APTTは凝固時間の絶対値で診断することが必要な項目であるため、一般的な検量線を作成して診断用の値を求める項目に比べて、製造ロット差が現れやすいことから、とりわけ試薬の製造ロット間差が小さい試薬が、臨床上非常に好まれる性能である。
【0007】
APTTの製造ロット間差については、これまでも種々の検討が実施されている。従来のAPTT試薬では、大豆等、天然由来のリン脂質を抽出し、それを利用してAPTT試薬を調製してきたが、リン脂質を天然由来から合成品にすることによって、均一なリン脂質を得ることができ、製造ロット間差の低減に寄与してきた(非特許文献1)。しかし、製造ロット間差は完全になくなったわけではなく、臨床上の要望に応えるためには、未だ改善の余地があるといえる。
【0008】
例えば、特許文献1では、0.6μmのポリカーボネート製メンブレンで濾過しリポソームの粒子径を均一化させ、リポソーム含有液を得たとの記述がある。これは、組織因子の合成リポソームへの再構成を行う前の操作であり、さらには、凍結乾燥を行う前の操作であるため、最終製品に対してポリカーボネート膜で濾過して粒子径を均一化させた効果が現れているとは考えにくい。また特許文献1で示されている効果は、凍結乾燥前後のプロトロンビン時間の測定値の変動(差)を抑制するのに対してであって、製造ロット毎の凝固時間の絶対値はコントロールされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-181265公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】奥田昌弘、菊川紀弘、上村八尋、「合成リン脂質を用いた新しいAPTT試薬の開発」、日本検査血液学会雑誌、2002年02月28日、第3巻、第1号、p.124-131、別刷
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、製造ロット間差の小さい、リポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のような課題に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、従来の予想に反してリポソームの粒径に依存して、ロット間の変動係数が大きく変化するという意外な結果を見出した。本発明は、この知見をもとにリポソームの粒径を該リポソームの351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満に制御することで、製造ロット差の小さい、リポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬の製造に成功した。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1]リポソームを含有する液状血液凝固能測定用試薬であって、該リポソームの351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満である、液状血液凝固能測定用試薬、
[2]前記試薬が、活性化部分トロンボプラスチン時間、プロトロンビン時間測定試薬、複合因子測定試薬、特定因子活性測定試薬、又は血液凝固因子阻害剤測定試薬である、[1]の試薬、
[3](工程A):リン脂質を混合する工程;(工程B):混合されたリン脂質を水溶液に分散することによりリポソームを形成する工程;及び(工程C):該リポソームから、リポソーム粒径調整手段を用いて、リポソームの351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満である、均一なリポソームを調製する工程を含む、リポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬の製造方法、
[4]リポソームを含有する液状血液凝固能測定試薬の製造ロット間差の低減方法であって、該リポソームの351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満である、液状血液凝固能測定用試薬の製造ロット間差の低減方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、リン脂質を含有し、且つリン脂質がリポソームを形成している血液凝固能測定試薬において、製造ロット間差が低減することによって、精度が高い血液凝固能測定が可能となるという顕著な効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リポソーム1(実施例2)とリポソーム2(比較例1)の粒度分布を示すグラフである。
図2図1に示すリポソーム1(実施例2)の累積散乱強度分布を示すグラフである。
図3図1に示すリポソーム2(比較例1)の累積散乱強度分布を示すグラフである。
図4】APTT試薬《実施例2》とAPTT試薬《比較例1》を用いたATPP測定を行い、各ロットにおける変動係数(CV値)を算出した結果を示すグラフである。
図5】リポソーム3(実施例5)とリポソーム4(比較例2)の粒度分布を示すグラフである。
図6図5に示すリポソーム3(実施例5)の累積散乱強度分布を示すグラフである。
図7図5に示すリポソーム4(比較例2)の累積散乱強度分布を示すグラフである。
図8】APTT試薬《実施例5》とAPTT試薬《比較例2》を用いたATPP測定を行い、各ロットにおける変動係数(CV値)を算出した結果を示すグラフである。
図9】リポソーム5(比較例3)の粒度分布を示すグラフである。
図10図9に示すリポソーム5(比較例3)の累積散乱強度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(リポソーム)
本発明で使用可能なリポソームは、該リポソームの粒径を351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満に調製すること以外は、公知の方法に従って調製することができる。
リポソームの作製方法としては、例えば、
工程A:リン脂質を混合する工程、
工程B:混合されたリン脂質混合液を水溶液に分散することによりリポソームを形成する工程、
工程C:該リポソームを分散されたリン脂質混合液から、リポソーム粒径調整形成手段を用いて、均一なリポソームを調製する工程を含む。
【0017】
工程Aとしては、例えば、リン脂質を混合して作製することができ、好ましくは、リン脂質を混合してから脂溶性抗酸化剤を添加するか、あるいは、脂溶性抗酸化剤存在下で、リン脂質を混合して作製することができる(脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物)。リン脂質は、天然由来リン脂質であってもよく、合成リン脂質であってもよい。当業者であれば公知のリン脂質から適宜選択して使用することができるが、植物または動物由来のリン脂質の他、合成のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルグリセロール等の中から適宜選択組み合わせたものも用いることができる。また、これらリン脂質の脂肪酸側鎖は不飽和脂肪酸を含むものが好適である。該リン脂質混合物は公知の方法に従って作製することができる。
例えば、リン脂質をクロロホルム等の有機溶媒に溶解したものに、ブチルヒドロキシトルエン、α-トコフェロール等の脂溶性抗酸化剤を0.01~5.0%加えたものを調製したのち、有機溶媒を除去して混合されたリン脂質薄膜を形成することが挙げられる。
【0018】
工程Bとしては、前記リン脂質薄膜に水溶液を加えて分散させてリポソームを形成する方法が挙げられる。例えば、水溶液としては、緩衝液(HEPES、TRIS、PBS等)が挙げられ、適宜、タンパク質等高分子を含んでいても良い。
【0019】
工程Cとしては、公知のリポソーム粒径調整手段を適宜選択して、本発明で使用可能な均一なリポソームを調製することが挙げられる。リポソーム粒径調整手段としては、本発明で使用可能なリポソームの粒径にすることが出来ればどのような手段を用いても良いが、例えば、フィルターの透過処理、超音波処理等が挙げられる。素材、膜目の大きさ、強さ、時間、容量等は、目的の粒径に合わせて、当業者であれば、適宜選択して実施することができる。
フィルターの透過処理としては、ポリカーボネート膜、セルロースアセテート膜等を使用することが挙げられる。超音波処理としては、プローブ型超音波発生装置及び、バス型超音波発生装置等を使用することが挙げられる。フィルター処理の方が、簡便に調製することができるので好ましい。
【0020】
本発明で使用可能なリポソームの粒径は、該リポソームの351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満、好ましくは0%以上30%未満、更に好ましくは0%以上25%未満、更に好ましくは0%以上20%未満、特に好ましくは0%以上15%未満が挙げられる。
また、最小粒径は、足場としてリポソームが機能する大きさであれば制限はないが、当業者であれば、適宜選択して調製することができる。なお、好ましくは、53nmから該最小粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の0%以上54%未満、好ましくは0%以上50%未満、更に好ましくは0%以上40%未満、更に好ましくは0%以上30%未満、特に好ましくは0%以上20%未満が挙げられる。
また、好ましくは最大粒径が650nm以下であり、より好ましくは最大粒径が600nm以下であり、更に好ましくは最大粒径が50nm~600nm、更に好ましくは最大粒径が100~400nmが挙げられる。最小粒径が0nm以上であり、好ましくは最小粒径が10nm以上、より好ましくは最小粒径が20nm以上50nm以下、更に好ましくは、30nm以上66nm未満が挙げられる。
【0021】
本発明で実施可能な血液凝固能測定試薬の製造方法としては、リポソームの粒径を351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満に調製すること以外は、公知の血液凝固能測定試薬の製造方法に従って実施することができる。後述する実施例に示すように、リポソームの粒径を351nmから最大粒径値までの累積積算値が、該リポソーム全体の累積積算値の0%以上35%未満に調製することによって、製造ロット間差を低減することができるので好ましい。
なお、リポソームの粒径は、リポソームのみの粒径として測定されても良いし、他の添加物が付加された状態でのリポソームの粒径として測定されても良い。添加物の例として、APTTにおける活性化剤が挙げられる。
【0022】
(組織因子)
本発明で使用可能な組織因子は、当業者であれば公知の組織因子から適宜選択して使用することができる。天然型組織因子或いは組換え組織因子のいずれも適用されるが、組換え組織因子が好適である。組換え組織因子としては、ヒト又は動物の組織因子の遺伝子配列を組み込んだウイルスを感染させた昆虫細胞、遺伝子組換え大腸菌又は酵母等の宿主により産生させたものを用いることができる。組換え組織因子は公知の方法に従って作製することができるが、例えば、宿主内に発現した組織因子は膜貫通型タンパク質で単純な水溶媒には不溶であるため、界面活性剤を含んだ緩衝液で発現細胞を破壊抽出することによって分離し、更に、分離した組織因子は、クロマトグラフィー等の操作によって精製することができる。
【0023】
(リポ化トロンボプラスチン)
本発明で使用可能なリポ化トロンボプラスチンは、例えば、組織因子溶液とリポソームを含有する脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物で構成される(脂溶性抗酸化剤添加リポ化トロンボプラスチン)。該リポ化トロンボプラスチンは、当業者であれば公知のリポ化トロンボプラスチンの作製法から適宜選択して使用することができるが、例えば、組織因子溶液とリポソームを含有する脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物をモル比で約1:1000~1:500000の割合で混合し、均一な溶液とすることが挙げられる。該組織因子溶液は、組織因子とリポソームを含有する脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物を溶解させるに足る界面活性剤を含む緩衝液であり、その中に保護タンパク質として、血清アルブミン、グロブリン等を含ませることもできる。組織因子溶液とリポソームを含有する脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物を十分混和溶解後、界面活性剤を除去することによってリン脂質によるリポソームが形成される同時に、組織因子の膜貫通部分がリン脂質膜に取り込まれる結果、脂溶性抗酸化剤添加リポ化トロンボプラスチンが調製される。界面活性剤の除去方法は、公知の透析法や吸着樹脂を用いる方法が適用できる。
【0024】
(液状血液凝固能測定試薬及び測定方法)
本発明で使用可能な液状血液凝固能測定試薬としては、リポソームを含有する血液凝固能測定試薬を液状試薬として製造したものであれば良く、例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬、プロトロンビン時間測定試薬、複合因子測定試薬、特定因子活性測定試薬、又は血液凝固因子阻害剤測定試薬が挙げられる。当業者であれば、公知の情報を使用して、適宜該試薬を製造し、使用することができる。
【0025】
また、本発明の液状血液凝固能測定試薬及び測定方法の実施形態としては、1試薬系、あるいは2試薬系などの複数の試薬からなる製剤でも良い。具体的には、活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬として提供する場合には、試薬の反応主成分であるリポソーム及びコロイダルシリカやエラジン酸に代表される活性化剤及び凝固第IV因子であるカルシウムイオンを混合した1試薬系の製剤で提供できるのみならず、より長期の保存安定性を有する製剤として、リポソーム及び活性化剤とカルシウム化合物の水溶液を分離させた2試薬系の製剤としても提供することもできる。
【0026】
あるいは、PT測定試薬を液状試薬として提供する場合には、例えば、試薬の反応主成分であるリポ化トロンボプラスチン(凝固第III因子)及び凝固第IV因子であるカルシウムイオンを混合した1試薬系の製剤で提供できるのみならず、より長期の保存安定性を有する製剤として、リポ化トロンボプラスチンとカルシウム化合物の水溶液を分離させた2試薬系の製剤としても提供することもできる。
【0027】
本発明の液状血液凝固能測定試薬及び測定方法の第一の実施形態としては、活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬として用いることが挙げられる。具体的には、前記活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬は、リポソーム及びコロイダルシリカやエラジン酸に代表される活性化剤に、血液凝固活性を発現しうる濃度のカルシウムイオンを添加することによって提供される。その試薬には防腐剤、pH緩衝剤、PT測定に影響を及ぼす抗凝固作用物質の影響を回避するための添加剤等を加えることができる。
【0028】
本発明の液状血液凝固能測定試薬及び測定方法の第二の実施形態としては、PT測定試薬として用いることが挙げられる。具体的には、前記PT測定試薬は、リポ化トロンボプラスチンに、血液凝固活性を発現しうる濃度のカルシウムイオンを添加することによって提供される。その試薬には防腐剤、pH緩衝剤、PT測定に影響を及ぼす抗凝固作用物質の影響を回避するための添加剤等を加えることができる。
【0029】
本発明の液状血液凝固能測定試薬及び測定方法の第三の実施形態としては、前記PT測定試薬と同様に構成したものを、凝固因子(第II因子、第V因子、第VII因子、及び第X因子)の内、第V因子を除いた血漿(欠乏血漿:すなわち、凝固因子としては、第II因子、第VII因子、及び第X因子を含有)と混合して、第II因子、第VII因子、及び第X因子の活性を検査する複合因子測定試薬としても用いることが挙げられる。
【0030】
第三の液状血液凝固能測定試薬は、前記PT測定試薬と前記欠乏血漿を別々に用意した2試薬系として構成することもできるし、前記PT測定試薬と前記欠乏血漿を混合して用意した1試薬系として構成することもできる。2試薬系の例としては、第一試薬をPT測定試薬、第二試薬を欠乏血漿とし、検体を第一試薬と反応させ、次に欠乏血漿と反応させて測定することが挙げられる。1試薬系の例としては、PT測定試薬と欠乏血漿を混合した試薬を構成し、検体を反応させ測定することが挙げられる。当業者であれば、いずれの試薬構成をとるか、適宜選択して実施することができる。
【0031】
本発明の液状血液凝固能測定試薬及び測定方法の第四の実施形態としては、前記PT測定試薬と同様に構成したものを、凝固因子(第II因子、第V因子、第VII因子、及び第X因子)の内、いずれか一つの因子を欠乏させた因子欠乏血漿と組み合わせて、特定の因子活性を検査する特定因子活性測定試薬としても用いることが挙げられる。例えば、第VII因子の欠乏血漿(すなわち、凝固因子としては、第II因子、第V因子、及び第X因子を含有)とPT測定試薬を組み合わせて、被験検体の第VII因子の活性を測定することができる。また、第II因子の欠乏血漿(すなわち、凝固因子としては、第V因子、第VII因子、及び第X因子を含有)とPT測定試薬を組み合わせて、被験検体の第II因子の活性を測定することができる。また、第X因子の欠乏血漿(すなわち、凝固因子としては、第II因子、第V因子、及び第VII因子を含有)とPT測定試薬を組み合わせて、被験検体の第X因子の活性を測定することができる。
【0032】
第四の液状血液凝固能測定試薬は、前記PT測定試薬と前記欠乏血漿を別々に用意した2試薬系として構成することもできるし、前記PT測定試薬と前記欠乏血漿を混合して用意した1試薬系として構成することもできる。2試薬系の例としては、第一試薬を欠乏血漿、第二試薬をPT測定試薬とし、検体を第一試薬と反応させ、次に第二試薬と反応させて測定することが挙げられる。1試薬系の例としては、PT測定試薬と欠乏血漿を混合した試薬を構成し、検体を反応させ測定することが挙げられる。当業者であれば、いずれの試薬構成をとるか、適宜選択して実施することができる。
【0033】
本発明の液状血液凝固能測定試薬及び測定方法の第五の実施形態としては、対象となる検体が異なる以外は第三の実施形態と同様に実施することができる。前記PT測定試薬と同様に構成し、血漿中の血液凝固因子阻害剤の存在を検査する血液凝固因子阻害剤測定試薬としても用いることが挙げられる。
【0034】
第五の液状血液凝固能測定試薬は、前記PT測定試薬と前記欠乏血漿を別々に用意した2試薬系として構成することもできるし、前記PT測定試薬と前記欠乏血漿を混合して用意した1試薬系として構成することもできる。2試薬系の例としては、第一試薬をPT測定試薬、第二試薬を欠乏血漿とし、検体を第一試薬と反応させ、次に欠乏血漿と反応させて測定することが挙げられる。1試薬系の例としては、PT測定試薬と欠乏血漿を混合した試薬を構成し、検体を反応させ測定することが挙げられる。当業者であれば、いずれの試薬構成をとるか、適宜選択して実施することができる。
【0035】
前記の各因子の活性は、フィブリン形成(凝固)が観察されるまでの時間(凝固時間)を評価したり、標準血漿に対する時間(%)を評価したりすることで検査できる。当業者であれば、目的に応じて適宜評価方法を選択して実施することができる。
【0036】
(被験検体)
本発明に使用可能な被験検体としては、公知の情報に従い、例えば、血液、血液から得られた血漿などが挙げられる。例えば、被験者の血液から得られた血漿、対照血漿、それらの混合物などを用いることができる。対照血漿としては、正常血漿、精度管理用血漿などを用いることができる。正常血漿は、健常者の血液から得られた血漿であってもよく、市販の正常血漿であってもよい。
【実施例
【0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
《実施例1:リン脂質混合物の調製1》
ジオレイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、及びジオレイルホスファチジルセリン(いずれも日油から購入)を重量比で4:3:3となるように混合し、クロロホルムに溶解しリン脂質溶液とした。次に、脂溶性抗酸化剤ブチルヒドロキシトルエン(BHT:WAKOより購入)をリン脂質に対して重量比で0.05%となるように加え、その溶液をエバポレーターで溶媒を除去し乾固して、脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物とした。
【0039】
《実施例2:リポソーム1の調製》
実施例1で得られたリン脂質混合物に、緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム pH7.5)を加えて攪拌し、リン脂質混合物を緩衝液中に分散させた。
分散液を孔径200nmのポリカーボネート膜を10回通過させ、粒径をそろえた。この溶液を緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム、1% ポリエチレングリコール pH7.5)で50倍に希釈してリポソーム1を調製した。同様の操作を3回行い、3ロットを得た。
【0040】
《比較例1:リポソーム2の調製》
実施例1で得られたリン脂質混合物に、緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム pH7.5)を加えて攪拌し、リン脂質混合物を緩衝液中に分散させた。
この溶液を緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム、1% ポリエチレングリコール pH7.5)で50倍に希釈しリポソーム2を調製した。同様の操作を3回行い、3ロットを得た。
【0041】
《実施例3:リポソームの有用性検討1》
《粒度分布測定1》
実施例2及び比較例1で得られたリポソーム1とリポソーム2の粒度分布を、動的光散乱法(大塚電子 PHOTAL ELSZ)を用いて測定した。結果を図1に示した。リポソーム1は、187nmにピークを有し、81nm以上658nm以下のリポソームから構成されているのに対して、リポソーム2は、6580nmにピークを有し、152nm以上であって、少なくとも10000nmまでのリポソームから構成されていることがわかった。
また、図2にリポソーム1及び図3にリポソーム2の累積散乱強度分布を示した。
【0042】
《APTT試薬の調製1》
リポソーム1及びリポソーム2に、リン脂質濃度が100mg/mL、コロイダルシリカが0.05%となるように処方し、それぞれAPTT試薬《実施例2》、APTT試薬《比較例1》とした。
【0043】
《凝固時間測定1》
APTT試薬《実施例2》、APTT試薬《比較例1》を用いて測定を行った。正常域コントロール血漿として、サイトロール レベル1(SYSMEX社):正常1を、異常域コントロール血漿として、サイトロール レベル2:異常1、及びサイトロール レベル3:異常2(共にSYSMEX社)の計3種類を使用した。
測定には全臨床検査システムSTACIA(株式会社LSIメディエンス)を用いた。
測定パラメーターは、検体:50μL、APTT試薬:50μL、20mmol/L 塩化カルシウム水溶液:50μLとし、測定波長は660nmとした。測定は多重度=5で行い、その平均値をAPTTとして採用し、各ロットにおける変動係数(CV値)を算出した。
【0044】
図4に、結果を示した。APTT試薬《実施例2》は、APTT試薬《比較例1》に比べて正常域及び異常域のいずれであっても3ロット間の変動係数が小さいことがわかった。この結果から、粒径が大きいリポソームが含まれるAPTT試薬では、製造ロット差が大きいといえる。
【0045】
なお、リポソーム2は351nmから該最大粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の85%であり、リポソーム1の場合には351nmから該最大粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の15%であった。従って、リポソームの粒径は、351nmから該最大粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の15%以上85%未満が良いことがわかった。
【0046】
《実施例4:リン脂質混合物の調製2》
ジオレイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、及びジオレイルホスファチジルセリン(いずれも日油から購入)を重量比で6:2:2となるように混合し、クロロホルムに溶解しリン脂質溶液とした。そして、脂溶性抗酸化剤ブチルヒドロキシトルエン(BHT:WAKOより購入)をリン脂質に対して重量比で0.05%となるように加え、その溶液をエバポレーターで溶媒を除去し乾固して、脂溶性抗酸化剤添加リン脂質混合物2とした。
【0047】
《実施例5:リポソーム3の調製》
実施例4で得られたリン脂質混合物2に、緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム pH7.5)を加えて攪拌し、リン脂質混合物を緩衝液中に分散させた。
分散液を孔径200nmのポリカーボネート膜を10回通過させ、粒径をそろえた。この溶液を緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム、1% ポリエチレングリコール pH7.5)で50倍に希釈しリポソーム3を調製した。同様の操作を3回行い、3ロットを得た。
【0048】
《比較例2:リポソーム4の調製》
実施例4で得られたリン脂質混合物2に、緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム pH7.5)を加えて攪拌し、リン脂質混合物を緩衝液中に分散させた。
分散液を孔径200nmのセルロースアセテート膜を通過させた。この溶液を緩衝液(10mmol/L HEPES、20mmol/L 塩化ナトリウム、1% ポリエチレングリコール pH7.5)で50倍に希釈しリポソーム4を調製した。同様の操作を3回行い、3ロットを得た。
【0049】
《実施例6:リポソームの有用性検討2》
《粒度分布測定2》
リポソーム3とリポソーム4の粒度分布を、動的光散乱法(大塚電子 PHOTAL ELSZ)を用いて測定した。結果を図5に示した。リポソーム3は、187nmにピークを有した。一方、リポソーム4では、351nmにピークを有した。
また、図6にリポソーム3及び図7にリポソーム4の累積散乱強度分布を示した。累積散乱強度分布では、リポソーム3では、全リポソームが、66nm以上432nm以下であるのに対して、リポソーム4では、全リポソームが、66nm以上1232nm以下であった。
【0050】
《APTT試薬の調製2》
リポソーム3及びリポソーム4に、リン脂質濃度が100mg/mL、コロイダルシリカが0.05%となるようにそれぞれを処方し、APTT試薬《実施例5》、APTT試薬《比較例2》とした。
【0051】
《凝固時間測定2》
APTT試薬《実施例5》、APTT試薬《比較例2》を用いて、正常域2、及び異常域3、異常域4のAPTT測定を行った。正常域コントロール血漿として、ノーマルコントロール(アイエル社)、異常域コントロール血漿として、ローアブノーマルコントロール、及びハイアブノーマルコントロール(アイエル社)の計3種類のコントロール血漿のAPTT測定を行った。
測定には全臨床検査システムSTACIA(株式会社LSIメディエンス)を用いた。
測定パラメーターは、検体:50μL、APTT試薬:50μL、20mmol/L 塩化カルシウム水溶液:50μLとし、測定波長は660nmとした。測定は多重度=3で行い、その平均値をAPTTとして採用し、各ロットにおける変動係数(CV値)を算出した。
【0052】
図8に、結果を示した。APTT試薬《実施例5》は、APTT試薬《比較例2》に比べて正常域及び異常域のいずれであっても3ロット間の変動係数が小さいことがわかった。この結果から、粒径が大きいリポソームが含まれるAPTT試薬では、製造ロット差が大きいといえる。
【0053】
なお、リポソーム4は該ピーク値351nmから該最大粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の35%であり、リポソーム3の場合には351nmから該最大粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の0%であった。従って、351nmから該最大粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の0%以上35%未満が良いことがわかった。
【0054】
リポソームは、各凝固因子の反応場を提供しているが、反応自体関与するものでは無いことから、ある程度の大きさをもったリポソームであれば、その大きさによらず、一定の反応性を示すものと考えていた。しかし、リポソームの大きさ(粒径)に依存して、ロット間の変動係数が大きく変化することは驚くべき結果であった。
【0055】
《比較例3:リポソーム5の調製》
実施例4で得られたリン脂質混合物に、10mmol/L HEPES pH7.5の緩衝液を加えて攪拌し、リン脂質混合物を緩衝液中に分散させて得た溶液を、プローブ型超音波発生装置(BRANSON社 SONIFER450)にて超音波を照射した。その後、緩衝液で50倍に希釈してリポソーム5を得た。
【0056】
《粒度分布測定3》
リポソーム5の粒度分布を、動的光散乱法(大塚電子 PHOTAL ELSZ)を用いて測定した。結果を図9に示した。リポソーム5は、19nm以上187nm以下のリポソームから構成され、53nmにピークを有することがわかった。
また、図10にリポソーム5の累積散乱強度分布を示した。全リポソームの内、96%が123nm以下であった。
【0057】
《APTT試薬の調製3》
リポソーム5に、リン脂質濃度が100mg/mL、コロイダルシリカが0.05%となるようにそれぞれを処方し、APTT試薬《比較例3》とした。
【0058】
《凝固時間測定3》
APTT試薬《比較例3》を用いて、正常域2、及び異常域3、異常域4のAPTT測定を行った。正常域コントロール血漿として、ノーマルコントロール(アイエル社)、異常域コントロール血漿として、ローアブノーマルコントロール、及びハイアブノーマルコントロール(アイエル社)の計3種類のコントロール血漿のAPTT測定を行った。
測定には全臨床検査システムSTACIA(株式会社LSIメディエンス)を用いた。
測定パラメーターは、検体:50μL、APTT試薬:50μL、20mmol/L 塩化カルシウム水溶液:50μLとし、測定波長は660nmとした。測定は多重度=3で行い、その平均値をAPTTとして採用し、測定には全臨床検査システムSTACIA(株式会社LSIメディエンス)を用いた。
【0059】
表1に、凝固時間を示した。一般的にAPTT試薬では、正常域が25秒から35秒の凝固時間を示すが、比較例3では、正常域コントロールが40秒以上とAPTT試薬の正常域を超えてしまうことがわかった。以上の結果から、APTT試薬として用いることができるリポソームは、小さすぎることは好ましくないことがわかった。また、リポソームの粒径のピーク値の最小値は54nm以上であることがいえる。
【0060】
なお、リポソーム5は該ピーク値53nmから該最小粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の54%であった。従って、53nmから該最小粒径値までの累積積算値が、該全体の累積積算値の0%以上54%未満が良いことがわかった。
また、小さ過ぎることが好ましくない原因としては、以下の要因が考えられる。例えば、リポソームの粒径が小さいために、リポソームが各凝固因子の反応場として充分な場所を提供することができないため、凝固時間が延長する。あるいは、同一脂質濃度で測定しているため、リポソームの粒径が小さい場合、リポソームの粒子数は多くなる。そのため、凝固因子がひとつのリポソームに集積する確率が低下するため凝固時間が延長すること等が挙げられる。
【0061】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10